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特許7079304脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 41/03 20060101AFI20220525BHJP
   C07C 43/11 20060101ALI20220525BHJP
   C07C 41/36 20060101ALI20220525BHJP
   C08G 65/12 20060101ALI20220525BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220525BHJP
【FI】
C07C41/03
C07C43/11
C07C41/36
C08G65/12
C07B61/00 300
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020171519
(22)【出願日】2020-10-09
(65)【公開番号】P2021066729
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2019190932
(32)【優先日】2019-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】嘉村 光真
(72)【発明者】
【氏名】山下 聖二
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-516017(JP,A)
【文献】特開2007-284586(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト原子を含む二重金属シアン化物錯体の存在下で炭素数8~24の脂肪族モノアルコール(a)と前記脂肪族モノアルコール(a)1モルに対してエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイド2~20モルとを用いて付加反応を行う反応工程(1)と、
前記の反応工程(1)で得られた反応混合物を60℃以下の温度で濾過する濾過工程(2)とを含む脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法。
【請求項2】
濾過工程(2)が、濾紙、濾布、ガラス繊維膜、樹脂膜、濾過板、焼結膜及び綿栓からなる群より選ばれる1種以上の濾材を用いて濾過を行う工程である請求項1に記載の脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法。
【請求項3】
脂肪族モノアルコール(a)の炭素数が10~16である請求項1又は2に記載の脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法。
【請求項4】
反応工程(1)が脂肪族モノアルコール(a)1モルに対して2~11モルのエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイドを用いて付加反応を行う反応工程である請求項1~3いずれかに記載の脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法。






【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族モノアルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪族アルコールのエチレンオキサイド付加物は、例えば、化粧品用途に使用されている。分子量分布が狭いエチレンオキサイド付加物を得る方法として、脂肪族モノアルコール類にコバルト原子及び亜鉛原子等を含む複合金属シアン化物錯体触媒の存在下でエチレンオキサイドを付加重合させる方法が知られている(例えば特許文献1)。
しかし、コバルト原子を含む複合金属シアン化物錯体触媒に含まれるシアンには急性毒性が、コバルトには発がん性などの長期毒性のおそれがあるため、コバルト原子を含む複合金属シアン化物錯体触媒を用いてエチレンオキサイドを付加した化合物は、直接人の肌に触れる洗浄剤や香粧品の用途、農薬用展着剤や農薬などの環境に排出される用途、及び機械金属加工用の洗浄剤、加工液や水系塗料などの使用後に排水処理を必要とする用途には使えないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-284586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、触媒として用いた複合金属シアン化物錯体触媒に由来するコバルト原子の含有量が少ない脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、コバルト原子を含む二重金属シアン化物錯体の存在下で炭素数8~24の脂肪族モノアルコール(a)と前記脂肪族モノアルコール(a)1モルに対してエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイド2~20モルとを用いて付加反応を行う反応工程(1)と、
前記の反応工程(1)で得られた反応混合物を60℃以下の温度で濾過する濾過工程(2)とを含む脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法で得られた脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物、脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物は、臭気が少なく、外観に濁りがない脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物を得ることができる。
また、触媒として用いた複合金属シアン化物錯体触媒に由来するコバルト原子の含有量が少ないため、本発明の製造方法で得られる脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物を直接人の肌に触れる洗浄剤や香粧品の用途、農薬などの環境に排出される用途、金属加工液や水系塗料などの使用後に排水処理を必要とする用途等に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<コバルト原子を含む二重金属シアン化物錯体>
本発明における二重金属シアン化物錯体は、複合金属シアン化物錯体触媒やDMC触媒とも呼ばれる化合物であり、二重金属シアン化物錯体及びこの二重金属シアン化物錯体と錯体を形成する有機錯体配位子からなる。
本発明の製造方法で用いるコバルト原子を含む二重金属シアン化物錯体としては、公知の複合金属シアン化物錯体触媒及びDMC触媒からコバルト原子を含むものを選択して使用することが出来る。
【0008】
本発明におけるコバルト原子を含む二重金属シアン化物錯体として好ましいものとしては、ヘキサシアノコバルト酸亜鉛、ヘキサシアノイリジウム酸亜鉛、ヘキサシアノ鉄酸亜鉛およびヘキサシアノコバルト酸コバルト等を複金属シアン化物化合物とするものが挙げられ、反応性の観点から、更に好ましくは、ヘキサシアノコバルト酸亜鉛を複金属シアン化物化合物とするものである。
本発明における二重金属シアン化物錯体が有する有機錯体配位子としては、二重金属シアン化物錯体と錯体を形成することができるヘテロ原子(例えば酸素、窒素、リンまたは硫黄)を有する水溶性有機化合物を含み、これに限定されない。
好ましい有機錯体配位子としては、アルコール、アルデヒド、ケトン、エーテル、エステル、アミド、尿素、ニトリル、スルフィドおよびこれらの混合物が挙げられ、水溶性脂肪族アルコール、例えばエタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノールおよびt-ブタノールが好ましく、t-ブタノールが最も好ましい。
【0009】
<炭素数8~24の脂肪族モノアルコール(a)>
本発明における炭素数8~24の脂肪族モノアルコール(a)は、炭素数が8~24(好ましくは10~16)のモノアルコールであり、天然アルコールでも合成アルコール(チーグラーアルコール、オキソアルコールなど)でもよい。
炭素数が7以下では、得られた脂肪族アルコールアルキレンオキシサイド付加物を用いても十分な乳化力、可溶化力、洗浄力が得られず、炭素数が25以上では脂肪族アルコールアルキレンオキシサイド付加物の流動点が上がりハンドリング性の面で好ましくない。
【0010】
脂肪族モノアルコール(a)としては、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、オクタデシルアルコール、ノナデシルアルコールなどの飽和脂肪族アルコール;オクテニルアルコール、デセニルアルコール、ドデセニルアルコール、トリデセニルアルコール、ペンタデセニルアルコール、オレイルアルコール、ガドレイルアルコール、リノレイルアルコールなどの不飽和脂肪族アルコール;エチルシクロヘキシルアルコール、プロピルシクロヘキシルアルコール、オクチルシクロヘキシルアルコール、ノニルシクロヘキシルアルコール、アダマンチルアルコールなどの環状脂肪族アルコールが挙げられる。
【0011】
脂肪族モノアルコール(a)としては1級アルコールまたは2級アルコールが好ましく、さらに好ましくは1級アルコールであり、脂肪族モノアルコール(a)が有する飽和炭化水素及び不飽和炭化水素基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。
脂肪族モノアルコール(a)として好ましくはイソデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール及びオクタデシルアルコールである。
【0012】
<エチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイド>
本発明におけるエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイド(AO、アルキレンの炭素数2~3)としては、例えば、エチレンオキサイド(EO)、1,2-プロピレンオキサイド(PO)が挙げられる。
上記アルキレンオキサイドのうち、好ましいのはEO、EOとPOとの併用、さらに好ましいのはEOである。
EOとPOとの併用である場合、EOとPOとのモル比[EO/PO]は、好ましくは75/25~99/1、さらに好ましくは80/20~95/5である。
【0013】
<脂肪族アルキレンオキサイド付加物(B)の製造方法>
本発明の脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法は、脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法であり、以下の反応工程(1)及び濾過工程(2)を必須の工程として含む。
反応工程(1):コバルト原子を含む二重金属シアン化物錯体の存在下で、炭素数8~24の脂肪族モノアルコール(a)と前記脂肪族モノアルコール(a)1モルに対して2~20モルのエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイドとを用いて付加反応を行う工程;
濾過工程(2):前記付加反応工程(1)で得られた反応混合物を60℃以下の温度で濾過する工程
なお、本発明においてアルキレンオキサイド付加物とは単一の化合物ではなく、アルキレンオキサイドと活性水素原子を有する官能基を持つ化合物との反応を行うことによって得られるアルキレンオキシサイドの付加モル数の異なる化合物の混合物であっても良い。
【0014】
以下に、反応工程(1)及び濾過工程(2)を説明する。
【0015】
反応工程(1)はコバルト原子を含む二重金属シアン化物錯体の存在下で、炭素数8~24の脂肪族モノアルコールと前記脂肪族モノアルコール(a)1モルに対して2~20モルのエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイドとを用いて付加反応を行う工程である。
すなわち、脂肪族モノアルコールの水酸基に対する上記アルキレンオキサイドの付加反応を行う工程である。
反応工程(1)を行うことで、脂肪族モノアルコール(a)1モルに2~20モルのエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイドが付加したアルキレンオキサイド付加物と未反応の原料と反応に用いた触媒を含む反応混合物が得られる。
【0016】
反応工程(1)の付加反応に用いるエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイドは、脂肪族モノアルコール(a)1モルに対して2~20モルであり、好ましくは2~11モルである。
2モル未満では本発明の製造方法で得られる脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物中の未反応の脂肪族アルコール含有量が多くなり、臭気の原因となることがある。付加モル数が20を超えると、反応工程(1)で得られる反応混合物の流動点が上がり、濾過温度を高くしないと濾過工程(2)を行うことができない。
【0017】
反応工程(1)はコバルト原子を含む前記の二重金属シアン化物錯体等を触媒として用いること以外は、公知の方法を用いて公知の条件で脂肪族モノアルコール(a)とエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイドとを反応することで行うことが出来る。
反応工程(1)に用いる二重金属シアン化物錯体の使用量は脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物に基づいて0.001~0.030重量%であることが好ましく、0.001~0.025重量%が更に好ましく、0.002~0.020重量%が特に好ましい。
【0018】
濾過工程(2)は反応工程(1)で得られた反応混合物を60℃以下の温度で濾過する工程である。
【0019】
濾過工程(2)における濾過方法としては、自然濾過、減圧濾過、加圧濾過、及び遠心濾過等の公知の方法を用いることができ、好ましくは減圧濾過、加圧濾過、遠心濾過を用いることである。
【0020】
本発明における濾過工程(2)では、濾材を使用することが好ましい。
【0021】
本発明における濾過工程(2)で使用する濾材は、例えば、濾紙、濾布、ガラス繊維膜、樹脂膜、濾過板、焼結膜及び綿栓を単独で、又は組み合わせて使用することが好ましい。
本発明における濾過工程(2)では、濾材、濾過助剤及び吸着材を単独又は組み合わせて使用してもよく、濾材と濾過助剤の併用、及び濾材、濾過助剤並びに吸着材の併用が好ましい。本発明で使用する濾過助剤は特に限定されないが、珪藻土、パーライト、微細化セルロースなどを単独で、又は組み合わせて使用してよい。好ましくは、珪藻土又は微細化セルロースの単独使用、又は珪藻土と微細化セルロースの併用である。
【0022】
本発明における濾過工程(2)で使用する吸着材は特に限定されず、公知の吸着剤を使用でき、ケイ酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、活性アルミナ、ケイ酸アルミニウム、合成ハイドロタルサイト、焼成ハイドロタルサイト、ゼオライト、又は焼成ゼオライトといった無機系吸着剤又は活性炭、又は合成吸着材などの有機系吸着剤などを単独で、又は組み合わせて使用してよい。
【0023】
本発明における濾過工程(2)における濾過温度は60℃以下であり、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは45℃以下である。
コバルト原子を含む二重金属シアン化物錯体を触媒に用いて脂肪族アルコールに対してエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイドを付加すると、50℃付近に融点を有する白色不純物が副生する。濾過温度を60℃以下とすることで白色不純物を除去できる。さらに60℃以下で濾過することによって、濾過後の反応混合物に含まれるコバルト原子の含有量を1ppm以下にすることが出来る。
なお、白色不純物の除去とコバルト原子の低減とが両立できる理由は定かではないが、副生した白色不純物中にコバルト原子が局在しているためと推測される。なお、濾過温度が60℃を超えると白色不純物を濾過出来ないため、反応物の外観が白濁するだけでなく、コバルト原子が残留してしまうため好ましくない。
【0024】
本発明の製造方法は、前記反応工程(1)及び前記濾過工程(2)以外に、公知の方法で未反応のエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイドを除去する工程等を行っても良い。
【0025】
本発明の製造方法は、脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物に含まれるコバルト原子の含有量が1ppm以下である脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造に用いることが好ましく、更に好ましいコバルト原子の含有量は0.5ppm以下であり、特に好ましい含有量は0.25ppm以下である。濾過工程(2)の濾過温度を選択することでコバルト原子の含有量を変えることができ、60℃以下で濾過することでコバルト原子の含有量を1ppm以下にする事ができる。コバルト含有量は、ICP発光分析法により定量することができる。
【0026】
本発明の製造方法は、脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物中の未反応の脂肪族モノアルコール含有量が、0.3重量%以下である脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造に用いることが好ましく、さらに好ましい含有量は0.1重量%以下であり、最も好ましい含有量は0.05重量%以下である。この範囲にある脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物には臭気及びハンドリング性の観点等で好ましく用いることができる。
反応工程(1)におけるコバルト原子を含む二重金属シアン化物錯体の使用量、及び濾過工程(2)の濾過温度を選択することで未反応の脂肪族アルコール含有量をこの範囲にすることができる。未反応の脂肪族モノアルコールの含有量はガスクロマトグラフィー等の公知の方法で定量することが出来る。
【0027】
本発明の製造方法は、25℃における脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の濁度が100以下である脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造に用いることが好ましく、さらに好ましい濁度は50以下であり、最も好ましい濁度は10以下である。濾過工程(2)の濾過温度を選択することで濁度を変えることができ、60℃以下で濾過することで濁度をこの範囲にすることができる。濁度は、JIS K0801-1986に記載の濁度自動計測器により測定される。
【0028】
本発明の製造方法で得られる脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物は、後述する条件で測定した高速液体クロマトグラフ(以下、HPLCと略記する)の測定結果が下記関係式(1)を満たす脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物であることが好ましい。
(S+Sn-1+Sn+1)/Stot≧0.40 (1)
反応工程(1)におけるコバルト原子を含む二重金属シアン化物錯体の使用量等を好ましい範囲にすること等で関係式(1)を満たす脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物を得ることが出来る。
【0029】
但し、関係式(1)中のSはHPLCで測定して得られたピークのうちで最もピーク面積が大きいピークPのピーク面積;
n-1は上記ピークPの右側隣のピークPn-1の面積;
n+1は上記ピークPの左側隣のピークPn+1の面積;
totはHPLCで測定して得られたすべてのピークの総面積を表す。
【0030】
脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物についてHPLCによる測定を行い、得られたチャートから、関係式(1)の左辺の値を算出する。
HPLCの測定条件は次のとおりである。
<HPLCの測定条件>
・機種:HPLC高圧グラジエントPDAシステム(島津製作所製)
・検出器:荷電化粒子検出器(CORONA)(ESA社製)
・カラム:ASAHIPAK GF-310HQ(昭和電工製)
・ガードカラム:ASAHIPAK GF-1G 7B(昭和電工製)
・キャリア:メタノール/水(メタノール/水=50/50でスタートし、45分間後に90/10となるようにグラジエントをかけた。)
・試料:0.1%メタノール溶液
・注入量:10μl
【0031】
<脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物>
本発明の脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物は、炭素数8~24の脂肪族モノアルコール(a)1モルに対してエチレンオキサイドを含むアルキレンオキサイド2~20モルを付加した脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物であって、該脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物が下記関係式(1)を満たし、コバルト原子の含有量が1ppm未満である脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物である。

(S+Sn-1+Sn+1)/Stot≧0.40 (1)

[関係式(1)中のSはHPLCで測定して得られたピークのうちで最もピーク面積が大きいピークPのピーク面積;Sn-1は上記ピークPの右側隣のピークPn-1の面積;Sn+1は上記ピークPの左側隣のピークPn+1の面積;StotはHPLCで測定して得られたすべてのピークの総面積を表す。]
【0032】
該脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物は、好ましくは、前述した脂肪族アルキレンオキサイド付加物(B)の製造方法で得られる。また、原料、製造条件についても、前述の好ましい範囲と同様である。
なお、該脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物は、好ましくは濁度が100以下であり、好ましくはコバルト原子の含有量が1ppm以下である。
【0033】
本発明の製造方法で得られた脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物、脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物は、洗浄剤、香粧品、金属加工液、農薬用展着剤、農薬に用いられる。
本発明の製造方法で得られる脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物は、臭気が少なく、外観が優れているため界面活性剤として好適に用いることができる。特にコバルト原子の含有量が少ないという特徴を有することから、人の肌に触れる用途及び環境に排出される用途に好ましく用いることができ、洗浄剤、香粧品、金属加工液、農薬用展着剤及び農薬に含まれる界面活性剤として特に好ましく用いることができる。前記の脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物は、公知の方法で他の成分と混合することで洗浄剤、香粧品、金属加工液、農薬用展着剤及び農薬を製造することができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、部は重量部を示す。
【0035】
<実施例1>
・付加反応工程(1)
撹拌、温度調節機能および装置下部からアルキレンオキサイドを導入できる管の付いたステンレス製オートクレーブに、脂肪族アルコール(a-1)(KHネオケム株式会社製「デカノール」;炭素数10)158部(1モル)、DMC触媒(DMC CATALYST;Huaian Bud Polyurethane Science & Technology Co.Ltd製)0.075部を投入し、混合系内を窒素で置換した後、減圧下、120℃にて1時間脱水を行った。次いでEO220部(5モル)を130℃にて、ゲージ圧が-0.08~0.15MPaとなるように導入し、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A-1)を得た。
・濾過工程(2)
さらに、濾紙を敷いた上に珪藻土(ラヂオライト#600;昭和化学工業株式会社製)を敷き詰めた漏斗を用いて、前記の(A-1)を32℃にて濾過し、本発明の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B-1)を得た。
【0036】
<実施例2>
・付加反応工程(1)
実施例1の付加反応工程におけるDMC触媒を0.030部に、EO導入量を441部(10モル)に変更した以外は、実施例1の付加反応工程と同様にして、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A-2)を得た。
・濾過工程(2)
さらに、濾紙を敷いた上に珪藻土を敷き詰め、さらに上に微細化セルロース(KCフロック;日本製紙株式会社製)を敷き詰めた漏斗を用いて、前記の(A-2)を35℃にて濾過し、本発明の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B-2)を得た。
【0037】
<実施例3>
・付加反応工程(1)
実施例1の付加反応工程における脂肪族アルコール(a-1)に代えて脂肪族アルコール(a-2)(花王株式会社製「カルコール2098」;炭素数12)186部(1モル)を用い、DMC触媒を0.018部に、EO導入量を441部(10モル)に変更した以外は、実施例1の付加反応工程と同様にして、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A-3)を得た。
・濾過工程(2)
さらに、実施例1の濾過工程における温度を31℃とした以外は、実施例1の濾過工程と同様にして前記の(A-3)を濾過し、本発明の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B-3)を得た。
【0038】
<実施例4>
・付加反応工程(1)
実施例3の付加反応工程におけるDMC触媒を0.011部に、EO導入量を529部(12モル)に変更した以外は、実施例3の付加反応工程と同様にして、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A-4)を得た。
・濾過工程(2)
さらに、実施例2の濾過工程における微細化セルロースの代わりに吸着剤の合成ハイドロタルサイト(キョーワード500;協和化学工業株式会社製)用い、温度を45℃とした以外は、実施例2の濾過工程と同様にして前記の(A-4)を濾過し、本発明の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B-4)を得た。
【0039】
<実施例5>
・付加反応工程(1)
実施例1の付加反応工程における脂肪族アルコール(a-1)に代えて脂肪族アルコール(a-3)(花王株式会社製「カルコール6098」;炭素数16)242部(1モル)を用い、DMC触媒を0.012部に、EO導入量部308部(7モル)に変更した以外は、実施例1の付加反応工程と同様にして、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A-5)を得た。
・濾過工程(2)
さらに、実施例1の濾過工程における濾過温度を28℃とした以外は、実施例1の濾過工程と同様にして前記の(A-5)を濾過し、本発明の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B-5)を得た。
【0040】
<実施例6>
・付加反応工程(1)
実施例5の付加反応工程におけるEO導入量を441部(10モル)に変更した以外は、実施例1の付加反応工程と同様にして、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A-6)を得た。
・濾過工程(2)
さらに、実施例2の濾過工程における微細化セルロースに代えて吸着剤のケイ酸マグネシウム(キョーワード600;協和化学工業株式会社製)を用い、濾過温度を20℃とした以外は、実施例2の濾過工程と同様にして前記の(A-6)を濾過し、本発明の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B-6)を得た。
【0041】
<実施例7>
・付加反応工程(1)
実施例1の付加反応工程におけるDMC触媒を0.045部に、EO導入量を573部(13モル)とPO導入量を174部(3モル)に変更した以外は、実施例1の付加反応工程と同様にして、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A-7)を得た。
・濾過工程(2)
さらに、濾紙を敷いた上に珪藻土(ラヂオライト#600;昭和化学工業株式会社製)を敷き詰めた漏斗を用いて、前記の(A-7)を36℃にて濾過し、本発明の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B-7)を得た。
【0042】
<比較例1>
濾過する前の実施例1の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A-1)をそのまま、比較用の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B’-1)とした。
【0043】
<比較例2>
濾過する前の実施例2の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A-2)を用い、実施例2の濾過工程における温度を62℃とした以外は、実施例2の濾過工程(2)と同様にして、比較用の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B’-2)を得た。
【0044】
<比較例3>
・付加反応工程(1)
実施例4の付加反応工程におけるDMC触媒を0.019部に、EO導入量を969部(22モル)に変更した以外は、実施例4の付加反応工程と同様にして、脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A’-1)を得た。
・濾過工程(2)
しかし、前記の(A’-1)を実施例4の濾過工程と同様に40℃で濾過しようとしたところ、(A’-1)は40℃でも固状であるために、濾過できなかった。濾過していない脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A’-1)をそのまま比較用の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B’-3)とした。
【0045】
<比較例4>
・濾過工程(2)
比較例3で得られた脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(A’-1)を用い、実施例4の濾過工程における温度を40℃ではなく90℃とした以外は、実施例4の濾過工程と同様にして、比較用の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B’-4)を得た。
【0046】
上記で得られた各脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)について、25℃における外観、コバルト原子の含有量、未反応の脂肪族アルコール含量、臭気、濁度を以下の方法で測定、評価した。また、関係式(1)の左辺の値を計算した。その結果を表1に示す。
【0047】
<25℃における外観(表1中では外観(25℃)と略記する>
サンプル30mlを50mlの蓋付きガラス製容器に入れ、25℃で3日間静置した後、外観を評価した。
【0048】
<コバルト原子の含有量>
サンプルをDMFで希釈して、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法で分析し、コバルト原子の含有量を定量した。
サンプルをDMFで500倍に希釈した試料をICP発光分析装置(VARIAN社製、Varian730-ES)を用いて、測定波長は、238.892nmで定量した。この時、コバルトをDMFで、1、3 、10、30、100ppbに希釈したものを検量線として用いた。
なお、この測定条件での500倍に希釈した試料中のコバルト原子は0.5ppb未満は検出できず、表1ではN.D.(検出限界以下)と表記した。それ以外は500倍希釈前のサンプルの含有量(換算値)を表記した。
【0049】
<未反応の脂肪族アルコールの含有量>
ガスクロマトグラフィー(以下GCと略記)により未反応の脂肪族アルコール含量を測定した。GCの測定条件は次のとおりである。
<GCの測定条件>
・機種:ガスクロマトグラフ GC-2014S(島津製作所製)
・検出器:FID
・カラム:100% ジメチルポリシロキサンカラム(内径0.25mm、膜厚0.25mm、長さ30m)(DB-1、Agilent J&W社製)
・カラム温度:90℃から280℃まで昇温。昇温速度=4℃/分
・スプリット比:100
・キャリアガス:ヘリウム
・試料:10%アセトン溶液
・注入量:1μl
n-オクチルアルコールを内部標準物質として用いて定量した。
【0050】
<臭気>
サンプルの臭気を、下記の評価基準に基づいて評価した。
○:臭気がほとんどない
×:不快な臭気がある
【0051】
<濁度>
JIS K 0101:1998の「9.4 積分球濁度 (3.2)ホルマジン標準駅を用いる場合」の測定方法に基づき、サンプルの25℃ における濁度を測定した。25℃で固状のものは、一度70℃まで加熱し、溶融させた後セルに入れ、25℃まで冷却して測定した。
○:濁度の値が100以下
×:濁度の値が100を超える
【0052】
【表1】
【0053】
本発明の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物(B)は、比較のものと比べて、外観(濁度が100以下で均一透明液状)に優れ、コバルト原子が検出されず、さらには、未反応の脂肪族アルコールの含量が少なく、不快な臭気がなかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物は、透明液状で外観が良好で、かつ未反応の脂肪族アルコール由来の不快な臭気がないため、各種界面活性剤、溶剤、化学品中間体として好適に使用できる。さらに、有毒であるコバルト原子を含まないため、洗浄剤や香粧品等の直接人の肌に触れる用途、農薬用展着剤や農薬などの環境に排出される用途、機械金属加工用の洗浄剤、加工液や水系塗料などの使用後に排水処理を必要とする用途において好適に用いることができる。