(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】対物光学系および内視鏡
(51)【国際特許分類】
G02B 13/00 20060101AFI20220525BHJP
G02B 23/26 20060101ALI20220525BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
G02B13/00
G02B23/26 C
A61B1/00 731
(21)【出願番号】P 2020528642
(86)(22)【出願日】2018-07-06
(86)【国際出願番号】 JP2018025647
(87)【国際公開番号】W WO2020008613
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2020-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】三木 健寛
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓一朗
(72)【発明者】
【氏名】雙木 満
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開昭56-149009(JP,A)
【文献】特開昭57-035808(JP,A)
【文献】特表2007-515211(JP,A)
【文献】特開2009-276502(JP,A)
【文献】特開2010-236870(JP,A)
【文献】特開昭63-023118(JP,A)
【文献】特表2005-528182(JP,A)
【文献】特開2013-210543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00-17/08
G02B 21/02-21/04
G02B 25/00-25/04
G02B 23/26
A61B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に配列された第1の球レンズおよび第2の球レンズと、
第1の光学媒体および第2の光学媒体のうち少なくとも一方とを備え、
前記第1の光学媒体が、前記第1の球レンズの前記物体側に配置された固体または液体であり、前記第1の球レンズの前記物体側の面上の光路の全域に密着し、
前記第2の光学媒体が、前記第2の球レンズの前記物体とは反対側に配置された固体または液体であり、前記第2の球レンズの前記物体とは反対側の面上の光路の全域に密着し
、
前記第1の球レンズと前記第2の球レンズとの間の光路が、空気で満たされている対物光学系。
【請求項2】
後側焦点が、前記第2の球レンズの前記物体側の面の前記物体とは反対側に位置している請求項1に記載の対物光学系。
【請求項3】
前記第2の球レンズの前記物体とは反対側に配置された像伝送系を備え、前記後側焦点が、前記第2の球レンズの内部に位置する請求項2に記載の対物光学系。
【請求項4】
前記第1の球レンズおよび前記第2の球レンズが、相互に同一の半径を有し、相互に同一の材料から形成され、
前記第1の光学媒体の前記物体側の面が、光軸に垂直な平坦面であり、
下記条件式(1)を満たす請求項3に記載の対物光学系。
0≦{n
1(2n
3-n
1)-n
1LN}/{2n
3-(n
1-3n
3)(n
1-2)-(n
1-1)LN}≦2 …(1)
ただし、
n
1は、前記第1の球レンズおよび前記第2の球レンズの屈折率、
R
1は、前記第1の球レンズおよび前記第2の球レンズの半径、
n
3は、前記第1の光学媒体の屈折率、
Lは、前記第1の球レンズの前記物体とは反対側の面と前記第2の球レンズの前記物体側の面との間の光軸上の間隔
であり、
N=(n
1n
3+n
1-2n
3)/R
1
である。
【請求項5】
前記第2の光学媒体の前記反対側の面が、光軸に垂直な平坦面であり、
下記条件式(2)を満たす請求項3に記載の対物光学系。
1≦(R
1+R
2)*[{1/cos(2θ
2-θ
1)}-1]/L …(2)
ただし、
R
1は、前記第1の球レンズの半径、
R
2は、前記第2の球レンズの半径、
Lは、前記第1の球レンズの前記物体とは反対側の面と前記第2の球レンズの前記物体側の面との間の光軸上の間隔、
n
2は、前記第2の球レンズの屈折率、
n
4は、前記第2の光学媒体の屈折率
であり、
θ
1=sin
-1(1/n
4)、θ
2=sin
-1(1/n
2)
である。
【請求項6】
明るさ絞りをさらに備え、
該明るさ絞りが、前記第2の球レンズの前記物体とは反対側に配置されている請求項1に記載の対物光学系。
【請求項7】
請求項1に記載の対物光学系を含む内視鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物光学系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、球レンズを備える対物光学系が知られている(例えば、特許文献1参照。)。球レンズは、形状が単純であるため、製造、組み立ておよび微小化が容易である。したがって、球レンズは、細径な内視鏡の対物光学系に好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、球レンズが発生させる収差は大きい。したがって、収差の少ない画像を得るためには、球レンズが発生させた収差を補正するための平凸レンズのような補正用光学部品が必要になるという不都合がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、球レンズによる収差の発生を抑制し、収差の少ない物体像を球レンズによって形成することができる対物光学系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、物体側から順に配列された第1の球レンズおよび第2の球レンズと、第1の光学媒体および第2の光学媒体のうち少なくとも一方とを備え、前記第1の光学媒体が、前記第1の球レンズの前記物体側に配置された固体または液体であり、前記第1の球レンズの前記物体側の面上の光路の全域にわたって密着し、前記第2の光学媒体が、前記第2の球レンズの前記物体とは反対側に配置された固体または液体であり、前記第2の球レンズの前記物体とは反対側の面上の光路の全域にわたって密着し、前記第1の球レンズと前記第2の球レンズとの間の光路が、空気で満たされている対物光学系である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、球レンズによる収差の発生を抑制し、収差の少ない物体像を球レンズによって形成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態に係る対物光学系の全体構成図である。
【
図2A】
図1の対物光学系の変形例の全体構成図である。
【
図2B】
図1の対物光学系の他の変形例の全体構成図である。
【
図3】
図1の対物光学系の他の変形例の全体構成図である。
【
図4A】第2群の射出面において主光線が外向きである軸外光を示す図である。
【
図4B】第2群の射出面において主光線がテレセントリックである軸外光を示す図である。
【
図4C】第2群の射出面において主光線が内向きである軸外光を示す図である。
【
図5】光学シミュレーションによって得られた主光線傾角と収差との関係を示すグラフである。
【
図6】条件式(1)の導出方法を説明する図である。
【
図7】条件式(2)の導出方法を説明する図である。
【
図8】実施例1に係る対物光学系の全体構成図である。
【
図10】実施例2に係る対物光学系の全体構成図である。
【
図12】実施例3に係る対物光学系の全体構成図である。
【
図14】実施例4に係る対物光学系の全体構成図である。
【
図16】実施例5に係る対物光学系の全体構成図である。
【
図17】実施例6に係る対物光学系の全体構成図である。
【
図18】実施例7に係る対物光学系の全体構成図である。
【
図20】比較例1に係る対物光学系の全体構成図である。
【
図22】比較例2に係る対物光学系の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の一実施形態に係る対物光学系について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る対物光学系10は、
図1に示されるように、物体O側から順に光軸A上に配列された第1群G1および第2群G2を備えている。対物光学系10は、カバーガラスおよびフィルタのような、実質的に屈折力を有しない光学素子をさらに備えていてもよい。
【0009】
第1群G1は、第1の球レンズ1および第1の光学媒体3を備えている。
第1の球レンズ1は、物体O側のレンズ面1aと、物体Oとは反対側のレンズ面1bと、を有している。レンズ面1aおよびレンズ面1bは、相互に同一の曲率半径を有するとともに共通の曲率中心を有する球面である。
第1の光学媒体3は、第1の球レンズ1の物体O側に配置されている。第1の光学媒体3は、物体Oからの光が通過するレンズ面1a上の光路全域において、レンズ面1aと密着している。第1の光学媒体3の物体O側の面(物体側面)3aは、平坦面または任意の曲率を有する球面である。
【0010】
第2群G2は、第2の球レンズ2および第2の光学媒体4を備えている。
第2の球レンズ2は、物体O側のレンズ面2aと、物体Oとは反対側のレンズ面2bと、を有している。レンズ面2aおよびレンズ面2bは、相互に同一の曲率半径を有するとともに共通の曲率中心を有する球面である。
第2の光学媒体4は、第2の球レンズ2の物体Oとは反対側に配置されている。第2の光学媒体4は、物体Oからの光が通過するレンズ面2b上の光路全域において、レンズ面2bと密着している。第2の光学媒体4の物体Oとは反対側の面(像側面)4bは、平坦面または任意の曲率を有する球面である。
【0011】
レンズ面1bとレンズ面2aとの間の光路は、空気で満たされている。レンズ面1bとレンズ面2aは、光軸A上で1点で相互に接触していてもよく、相互に離間していてもよい。
物体Oからの光は、第1の光学媒体3、第1の球レンズ1、第2の球レンズ2および第2の光学媒体4を透過することによって結像される。このときの結像位置は、第2の球レンズ2または第2の光学媒体4の内部になる場合もある。その場合には、結像後の光束が第2の球レンズ2および第2の光学媒体4、または第2の光学媒体4を透過することになる。対物光学系10の後側焦点(第1群G1および第2群G2全体の後側焦点)は、レンズ面2aの物体Oとは反対側に位置している。後側焦点は、レンズ系に平行光束が入射したときの結像位置である。
【0012】
第1の光学媒体3および第2の光学媒体4は、光学的に透明な液体、または、光学的に透明な固体である。液体は、例えば、水または油である。固体は、例えば、プラスチック、ガラスまたはコーティング材である。光学媒体3,4は、空気の屈折率よりも大きな屈折率を有する。第1群G1および第2群G2の各々の製造の容易性の観点から、光学媒体3,4は、光学接着剤または樹脂であることが好ましい。例えば、光学媒体3,4は、汎用の光学接着剤をレンズ面1a,2b上で硬化させることによって形成される。
【0013】
次に、このように構成された対物光学系10の作用について説明する。
第1の球レンズ1および第2の球レンズ2は、正の屈折力をそれぞれ有する。したがって、物体Oから対物光学系10に入射した光を、第1の球レンズ1および第2の球レンズ2によって集光させ、物体Oの像Iを形成することができる。
【0014】
この場合に、球レンズ1,2の製造にはベアリング用鋼球の製造技術を応用することができるため、球レンズ1,2は、製造および微小化が容易である。また、球レンズ1,2は、球体であるため組み立てが容易である。したがって、例えば細径の内視鏡の先端部への搭載に好適な、小型の対物光学系10を容易に製造することができるという利点がある。
また、レンズ面1aに密着した第1の光学媒体3によって、レンズ面1aでの光線の屈折角が、第1の光学媒体3が存在しない場合と比較して低減される。同様に、レンズ面2bに密着した第2の光学媒体4によって、レンズ面2bでの光線の屈折角が、第2の光学媒体4が存在しない場合と比較して低減される。これにより、球レンズ1,2による収差の発生量を抑制し、収差の少ない高品質な像Iを球レンズ1,2によって形成することができるという利点がある。
【0015】
また、光学媒体3が設けられていることによって、第1群G1の正の屈折力は、球レンズ1単体の正の屈折力と比較して弱まる。同様に、光学媒体4が設けられていることによって、第2群G2の正の屈折力は、球レンズ2単体の正の屈折力と比較して弱まる。本実施形態によれば、2つの球レンズ1,2を用いることによって、光学媒体3,4に因る屈折力の弱まりを補い、単体の球レンズ1または2の正の屈折力と同等以上の正の屈折力を実現することができる。
【0016】
また、2つの球レンズ1,2が設けられていることによって、単一の球レンズからなる対物光学系の画角と同等以上の画角を確保することができるという利点がある。例えば、球レンズ2および光学媒体4のみからなる対物光学系の画角は、球レンズ2のみからなる対物光学系の画角に比べて小さくなる。このような光学媒体3,4に因る画角の減少を、2つの球レンズ1,2によって補うことができる。
【0017】
なお、本明細書において、「球レンズ」とは、物体側のレンズ面および物体とは反対側のレンズ面が、相互に同一の曲率半径を有するとともに共通の曲率中心を有する球面であるレンズである。したがって、「球レンズ」は、物体側および物体とは反対側の2つのレンズ面以外の面が球面以外の形状であるレンズを含む。
【0018】
本実施形態においては、第1の光学媒体3および第2の光学媒体4の両方が設けられていることとしたが、これに代えて、
図2Aおよび
図2Bに示されるように、第1の光学媒体3および第2の光学媒体4のいずれか一方のみが設けられていてもよい。
光学媒体3,4のうちいずれか一方を省いた構成においても、レンズ面1aまたはレンズ面2bでの光線の屈折角の低減効果を得られる。したがって、2つの球レンズ1,2および1つの光学媒体3または4によって、大きな屈折力および画角と、収差の発生の抑制とを両立することができる。
【0019】
本実施形態において、
図3に示されるように、第2の球レンズ2の物体Oとは反対側に配置され、第1および第2の球レンズ1,2によって形成された像Iを伝送する像伝送系5をさらに備えていてもよい。
像伝送系5は、複数のレンズの組み合わせ、または、屈折率分布型(GRIN)レンズである。像伝送系5を設けることによって、第1群G1および第2群G2によって形成された像Iを所望の位置の像面IMGに再結像させることができる。
【0020】
像伝送系5を備える対物光学系11において、後側焦点Fは、
図3に示されるように、第2の球レンズ2の内部に位置していることが好ましい。後側焦点Fが第2の球レンズ2内に位置する設計において、後側焦点Fが第2の球レンズ2の物体Oとは反対側に位置する設計と比較して、物体側面3aおよびレンズ面1aの負の屈折力は小さくなり、各光束のマージナル光線の最大光線高さが低くなる。したがって、球面収差および色収差をさらに低減することができる。また、後側焦点が球レンズ1,2または光学媒体3,4の光学面1a,1b,2a,2b,3a,4bに一致している場合、第1および第2の球レンズ1,2によって形成される無限遠の物体像に光学面上の塵等が影響を与え、無限遠の物体像の品質の低下を招く。後側焦点Fが第2の球レンズ2内に位置することによって、光路中の光学面1a,1b,2a,2b,3a,4b上のゴミ等に焦点が合うことがなく、ゴミ等の影響による無限遠の物体像の品質の低下を防ぐことができる。
【0021】
第1の球レンズ1および第2の球レンズ2が、相互に同一の半径を有するとともに相互に同一の材料から形成され、第1の光学媒体3の物体側面3aが光軸Aに垂直な平坦面である場合、対物光学系11は、下記条件式(1)を満たす。
0≦{n1(2n3-n1)-n1LN}/{2n3-(n1-3n3)(n1-2)-(n1-1)LN}≦2 …(1)
ここで、n1は、第1および第2の球レンズ1,2の屈折率、R1は、第1および第2の球レンズ1,2の半径、n3は、第1の光学媒体3の屈折率、Lは、レンズ面1bとレンズ面2aとの間の光軸A上の間隔である。N=(n1n3+n1-2n3)/R1である。
【0022】
条件式(1)は、後側焦点Fが第2の球レンズ2の内部に位置する条件を規定している。すなわち、条件式(1)を満たすように設計することによって、後側焦点Fが第2の球レンズ2内に位置する対物光学系11を製造することができる。
レンズ面1bとレンズ面2aが光軸A上で相互に接している(すなわち、L=0)場合、条件式(1)は、下記条件式(1’)のように書き替えられる。
0≦{n1(2n3-n1)}/{2n3-(n1-3n3)(n1-2)}≦2 …(1’)
【0023】
後側焦点Fが第2の球レンズ2内に位置し像側面4bが光軸Aに垂直な平坦面である場合、対物光学系11は、下記条件式(2)を満たしていてもよい。
1≦(R1+R2)*[{1/cos(2θ2-θ1)}―1]/L …(2)
ここで、R1は、第1の球レンズ1の半径、R2は、第2の球レンズ2の半径、Lは、レンズ面1bとレンズ面2aとの間の光軸A上の間隔、n2は、第2の球レンズ2の屈折率、n4は、第2の光学媒体4の屈折率である。θ1=sin-1(1/n4)、θ2=sin-1(1/n2)である。
【0024】
条件式(2)は、最大像高における光軸Aに平行な光線が、蹴られることなく第1群G1および第2群G2を通過する条件を規定している。すなわち、条件式(2)を満たすことによって、第1群G1および第2群G2におけるケラレの発生を防ぎ、視野を最大限確保することができる。
【0025】
本実施形態においては、対物光学系10,11が、光路中の任意の位置に明るさ絞り6をさらに備えていてもよい。明るさ絞り6によって、物体像Iの明るさを適切に制御することができる。
明るさ絞り6は、第2群G2の物体Oとは反対側に配置されていることが好ましく、例えば、
図3に示されるように、像伝送系5内に配置される。
【0026】
収差の発生量は、第2の球レンズ2のレンズ面2bにおける最軸外光の主光線の光軸に対する傾角に依存する。この傾角は、対物光学系10,11内における明るさ絞り6の位置によって制御される。明るさ絞り6は、
図4Aおよび
図4Bに示されるように、第2群G2の光線の射出面(レンズ面2bまたは像側面4b)での軸外光の主光線が外向き、テレセントリックまたは略テレセントリックになる位置に配置される。
具体的には、明るさ絞り6は、主光線傾角θが5°以下になる位置に配置される。主光線傾角θは、最軸外光の主光線の光軸Aに対する傾角である。正の主光線傾角θは、最軸外光の主光線が外向き(
図4A参照。)であることを意味し、負の主光線傾角θは、最軸外光の主光線が内向き(
図4C参照。)であることを意味する。
【0027】
図5は、後述する実施例5の対物光学系について、主光線傾角θと収差との関係を光学シミュレーションによって解析した結果を示している。θ≦5°の範囲では、波面収差はほとんど発生しない。一方、θ>5°の範囲では、主光線傾角θが大きい程、波面収差が大きくなる。
このように、第2群G2の物体Oとは反対側に配置された明るさ絞り6の位置によって主光線傾角θを5°以下に制御することで、収差の発生をさらに抑制することができる。
【0028】
明るさ絞り6を備える対物光学系10,11は、撮像素子と好適に組み合わせることができる。撮像素子は、例えば、像伝送系5の物体Oとは反対側に配置される。明るさ絞り6によって、撮像素子によって撮影される像Iの明るさを適切に調整することができる。撮像素子に代えて、レンズ、絞り、鏡枠等の任意の素子が、像伝送系5の物体Oとは反対側に配置されてもよい。
【0029】
次に、条件式(1)および(2)の導出方法について、
図6および
図7を参照して説明する。
条件式(1)は、以下のようにして導かれる。
図6に示されるように、近軸光線追跡を実行する。後側焦点Fは、光軸Aと平行に入射した近軸光線iが光軸Aと交わる位置である。後側焦点Fが第2の球レンズ2の内部に位置するということは、第2の球レンズ2のレンズ面2aにおいて屈折した近軸光線jがレンズ面2bに到達する前に光軸Aと交わること、すなわち、レンズ面2aと後側焦点Fとの間の距離Xが、下式(a)を満たすことと等価である。
0≦X≦2×R
1 …(a)
各面3a,1a,1b,2aでの屈折マトリクスR
1,R
2,R
3,R
4および伝達マトリクスT
1,T
2,T
3は、以下の通りである。
【0030】
【0031】
物体側面3aに入射した近軸光線i(h1,0)が、レンズ面2aにおける屈折によって光線j(h4,α4)になる場合、下式(b)が成り立つ。
【0032】
【0033】
式(b)からα4,h4を求めると、X=h4/(α4/h1)が得られる。Xと式(a)から、条件式(1)が導かれる。
【0034】
条件式(2)は、以下のように導かれる。
まず、
図7に示されるように、像Iから物体Oへ向かう光線kがレンズ面2aを通過する条件から、h
maxを求める。
図7において、符号C1は、第1の球レンズ1の中心を示し、符号C2は、第2の球レンズ2の中心を示している。
【0035】
光線kがレンズ面2aを通過するためには、スネルの法則に基づき、下式を満たす必要がある。
n2sinθ2≦1 …(c)
また、レンズ面2bでのスネルの法則から下式(d)が成立する。
n4sinθ1=n2sinθ2 …(d)
ここで、sinθ1=h/R2…(e)である。式(c),(d),(e)から、1≦R2/hn4が得られ、これから、hmax=R2/h4と算出される。
【0036】
次に、レンズ面2aの縁を通過した光線が第1の球レンズ1と交わる条件について考える。この条件は、レンズ面2aの縁を通過した光線が、第1の球レンズ1および屈折率n
3の物質を通過する条件と略等価である。
上記条件において、
図7のDは、D≦R
1…(f)を満たす。
図7の幾何学的な関係から、Dは、下式(g)の通り表される。
【0037】
【0038】
式(f)および式(g)から、条件式(2)が導かれる。ただし、レンズ面2aおよびレンズ面2bにおけるスネルの法則から、下式を満たす。
θ1=sin-1(hmax/R2)=sin-1(1/n4)
θ2=sin-1(1/n2)
【実施例】
【0039】
次に、本実施形態に係る対物光学系10,11の実施例について説明する。
各実施例のレンズデータにおいて、rは曲率半径(mm)、dは面間隔(mm)、Ndはd線に対する屈折率、νdはd線に対するアッべ数、OBJは物体面、IMGは像面、Sは明るさ絞りを示している。各実施例に係る対物光学系の収差図は、第1群および第2群によって形成される像の収差を示している。
【0040】
(実施例1)
本発明の実施例1に係る対物光学系の構成を
図8に示す。本実施例に係る対物光学系は、第1の球レンズ、第2の球レンズ、第1の光学媒体、第2の光学媒体、および明るさ絞りから構成されている。
図8において、明るさ絞りの図示は省略されている。
本実施例の対物光学系の収差図を
図9に示す。
【0041】
レンズデータ
面番号 r d Nd νd
OBJ ∞ 10
1 ∞ 0.0
2 ∞ 0.0
3 -0.41242 0.05 1.561 35.4683
4 0.5 1.0 1.48749 70.4058
5 -0.5 0.0
6 ∞ 0.1
7 0.5 1.0 1.510158 58.9349
8 -0.5 0.05 1.561 35.4683
9 -0.50945 0.0
10 ∞ 0.2
11 ∞ 1000
12S ∞ -1000
13 ∞ -0.1
IMG ∞ 0.0
【0042】
各種データ
像側開口数 0.1
焦点距離 0.35mm
倍率 -0.034
半画角 40.0°
像高 0.18mm
【0043】
図20に、比較例1に係る対物光学系を示す。比較例1の対物光学系は、単一の球レンズおよび明るさ絞りから構成されている。
図20において、明るさ絞りの図示は省略されている。比較例1のレンズデータおよび各種データは、以下の通りである。比較例1の対物光学系の収差図を
図21に示す。
図9と
図21との比較から分かるように、本発明の実施例1の対物光学系の収差、特に球面収差、色収差および像面湾曲は、比較例1の収差と比較して大幅に低減されている。
【0044】
レンズデータ
面番号 r d Nd νd
OBJ ∞ 10
1 0.5 1.0 1.5168 64.1673
2 -0.5 0.0
3 ∞ 0.0
4 ∞ 1000
5S ∞ -1000
6 ∞ 0.2889
IMG ∞ 0.0
【0045】
各種データ
像側開口数 0.1
焦点距離 0.73mm
倍率 -0.075
半画角 40.0°
像高 0.38mm
【0046】
図22に、比較例2に係る対物光学系を示す。比較例2の対物光学系は、単一の球レンズ、平凸レンズおよび明るさ絞りから構成されている。平凸レンズは、球レンズが発生させた収差を補正する役割を担う。
図22において、明るさ絞りの図示は省略されている。比較例2のレンズデータは、以下の通りであり、物体側開口数は0.018である。比較例2の対物光学系の収差図を
図23に示す。
図9と
図23との比較から分かるように、本発明の実施例1の対物光学系の収差、特に球面収差、色収差および像面湾曲は、比較例2の対物光学系の収差と比較して大幅に低減されている。すなわち、第1および第2の光学媒体による球レンズの収差の抑制効果は、平凸レンズによる球レンズの収差の補正効果よりも大きい。
【0047】
レンズデータ
面番号 r d Nd νd
OBJ ∞ 10
1S ∞ 0.0
2 1.5 3.0 1.561 35.4683
3 -1.5 0.0
4 ∞ 3.2907
5 5.168 2.0 1.561 35.4683
6 ∞ 0.0
7 ∞ 100
8 19.7838 2.0 1.4927 69.82
9 ∞ 63.3977
IMG ∞ 0.0
【0048】
(実施例2)
本発明の実施例2に係る対物光学系の構成を
図10に示す。本実施例に係る対物光学系は、第1の球レンズ、第2の球レンズ、第1の光学媒体、第2の光学媒体、および明るさ絞りから構成されている。
図10において、明るさ絞りの図示は省略されている。
第1の球レンズおよび第2の球レンズは、同一の半径を有するとともに同一の材質から形成されている。後側焦点Fは、第2の球レンズ内に位置する。後側焦点Fと、第2の球レンズの物体とは反対側のレンズ面と、の間の距離は、0.244mmである。
本実施例の対物光学系の収差図を
図11に示す。実施例1と比較して、本実施例の対物光学系の球面収差および色収差はさらに低減されている。
【0049】
レンズデータ
面番号 r d Nd νd
OBJ ∞ 10
1 -7.61988 0.1 1.561 35.4683
2 0.5 1.0 1.5168 64.1673
3 -0.5 0.0
4 ∞ 0.1
5 0.5 1.0 1.5168 64.1673
6 -0.5 0.1 1.561 35.4683
7 ∞ 1000
8S ∞ -1000
9 ∞ -0.2
IMG ∞ 0.0
【0050】
各種データ
像側開口数 0.1
焦点距離 0.48mm
倍率 -0.047
半画角 40.0°
像高 0.28mm
【0051】
(実施例3)
本発明の実施例3に係る対物光学系の構成を
図12に示す。本実施例に係る対物光学系は、第1の球レンズ、第2の球レンズ、第1の光学媒体、第2の光学媒体、および明るさ絞りから構成されている。
図12において、明るさ絞りの図示は省略されている。
第1の球レンズおよび第2の球レンズは、同一の半径を有するとともに同一の材質から形成されている。第1の光学媒体の物体側面は、光軸に垂直な平坦面である。後側焦点Fは、第2の球レンズ内に位置する。具体的には、条件式(1)の不等式の中辺の値は、1.456であり、本実施例の対物光学系は条件式(1)を満たす。後側焦点Fと、第2の球レンズの物体とは反対側のレンズ面と、の間の距離は、0.268mmである。
本実施例の対物光学系の収差図を
図13に示す。
【0052】
レンズデータ
面番号 r d Nd νd
OBJ ∞ 10
1 ∞ 0.1 1.561 35.4683
2 0.5 1.0 1.5168 64.1673
3 -0.5 0.0
4 ∞ 0.1
5 0.5 1.0 1.5168 64.1673
6 -0.5 0.1 1.561 35.4683
7 ∞ 1000
8S ∞ -1000
9 ∞ -0.2168
IMG ∞ 0.0
【0053】
各種データ
像側開口数 0.1
焦点距離 0.49mm
倍率 -0.048
半画角 40.0°
像高 0.28mm
【0054】
(実施例4)
本発明の実施例4に係る対物光学系の構成を
図14に示す。本実施例に係る対物光学系は、第1の球レンズ、第2の球レンズ、第1の光学媒体、第2の光学媒体、および明るさ絞りから構成されている。
図14において、明るさ絞りの図示は省略されている。
第1の球レンズおよび第2の球レンズは、同一の半径を有するとともに同一の材質から形成されている。第1の球レンズおよび第2の球レンズは、光軸上の一点において相互に接触している。第1の光学媒体の物体側面は、光軸に垂直な平坦面である。後側焦点Fは、第2の球レンズ内に位置する。具体的には、条件式(1’)の不等式の中辺の値は、1.52であり、本実施例の対物光学系は条件式(1’)を満たす。後側焦点Fと、第2の球レンズの物体とは反対側のレンズ面と、の間の距離は、0.336mmである。
本実施例の対物光学系の収差図を
図15に示す。
【0055】
レンズデータ
面番号 r d Nd νd
OBJ ∞ 10
1 ∞ 0.1 1.561 35.4683
2 0.5 1.0 1.58913 61.13
3 -0.5 0.0
4 ∞ 0.0
5 0.5 1.0 1.58913 61.13
6 -0.5 0.1 1.561 35.4683
7 ∞ 1000
8S ∞ -1000
9 ∞ -0.2635
IMG ∞ 0.0
【0056】
各種データ
像側開口数 0.1
焦点距離 0.43mm
倍率 -0.042
半画角 52.5°
像高 0.3025mm
【0057】
(実施例5)
本発明の実施例5に係る対物光学系の構成を
図16に示す。本実施例に係る対物光学系は、実施例4の対物光学系に、複数のレンズの組み合わせからなる像伝送系を組み合わせた例である。明るさ絞りは、像伝送系内に配置されている。
【0058】
レンズデータ
面番号 r d Nd νd
OBJ ∞ 10
1 ∞ 0.2 1.561 35.4683
2 1.0 2.0 1.58913 61.13
3 -1.0 0.0
4 ∞ 0.1
5 1.0 2.0 1.58913 61.13
6 -1.0 0.2 1.561 35.4683
7 ∞ 0.56
8 1.8288 1.1653 1.9020 25.1014
9 1.1556 1.4021
10 1.6464 0.7648 1.84139 24.5591
11 0.9995 2.8012 1.5588 62.5585
12 -1.0476 0.5968 1.647689 33.8482
13 6.9284 1.1787
14 -115.428 2.07 1.71736 29.6201
15 -4.1677 0.1718
16S ∞ 0.1718
17 4.1677 2.07 1.71736 29.6201
18 115.4278 1.1787
19 -6.9284 0.5968 1.647689 33.8482
20 1.0476 2.8012 1.5588 62.5585
21 -0.9995 0.7648 1.84139 24.5591
22 -1.6464 1.4021
23 -1.1556 1.1653 1.902 25.1014
24 -1.8288 1.8521
25 ∞ 0.9392
IMG ∞ 0.0
【0059】
各種データ
像側開口数 0.1
焦点距離 0.45mm
倍率 0.092
半画角 40.0°
像高 0.5562mm
【0060】
(実施例6)
本発明の実施例6に係る対物光学系の構成を
図17に示す。本実施例に係る対物光学系は、実施例2の対物光学系に、GRINレンズからなる像伝送系を組み合わせた例である。明るさ絞りは、像伝送系内に配置されている。
【0061】
レンズデータ
面番号 r d Nd νd
OBJ ∞ 10
1 -7.61988 0.1 1.561 35.4683
2 0.5 1.0 1.5168 64.1673
3 -0.5 0.0
4 ∞ 0.1
5 0.5 1.0 1.5168 64.1673
6 -0.5 0.1 1.561 35.4683
7 ∞ 3.5736
8S ∞ 3.87
9 ∞ 0.0
IMG ∞ 0.0
【0062】
各種データ
像側開口数 0.1
焦点距離 0.48mm
倍率 0.047
半画角 40.0°
像高 0.28mm
【0063】
(実施例7)
本発明の実施例7に係る対物光学系の構成を
図18に示す。本実施例に係る対物光学系は、第1の球レンズ、第2の球レンズ、第1の光学媒体、第2の光学媒体、および明るさ絞りから構成されている。第2の光学媒体の物体とは反対側に像伝送系がさらに設けられていてもよい。第2の光学媒体の像側面は、光軸に垂直な平坦面である。本実施例に係る対物光学系は、L=0であるので、条件式(2)を満たす。
本実施例の対物光学系の収差図を
図19に示す。
【0064】
レンズデータ
面番号 r d Nd νd
OBJ ∞ 10.0
1 ∞ 0.1 1.561 35.4683
2 0.5 1.0 1.58913 61.13
3 -0.5 0.0
4 ∞ 0.0
5 0.5 1.0 1.58913 61.13
6 -0.5 0.1 1.561 35.4683
7 ∞ 1000
8S ∞ -1000
9 ∞ -0.2635
IMG ∞ 0.0
【0065】
各種データ
像側開口数 0.1
焦点距離 0.43mm
倍率 -0.042
半画角 52.5°
像高 0.3025mm
【符号の説明】
【0066】
10,11 対物光学系
1 第1の球レンズ
2 第2の球レンズ
3 第1の光学媒体
4 第2の光学媒体
5 像伝送系
6 明るさ絞り
G1 第1群
G2 第2群
A 光軸
F 後側焦点
I 像
O 物体