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特許7079341バスシステム用の送受信機および伝導エミッションを低減する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】バスシステム用の送受信機および伝導エミッションを低減する方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 25/02 20060101AFI20220525BHJP
【FI】
H04L25/02 S
H04L25/02 R
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020548754
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-24
(86)【国際出願番号】 EP2019055362
(87)【国際公開番号】W WO2019174957
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-10-20
(31)【優先権主張番号】102018203672.1
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100161908
【弁理士】
【氏名又は名称】藤木 依子
(72)【発明者】
【氏名】パンビッツ,アクセル
(72)【発明者】
【氏名】バルカー,シュテッフェン
(72)【発明者】
【氏名】シュテゲマン,ゼーバスティアン
【審査官】北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-537881(JP,A)
【文献】特表2020-528236(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0078113(US,A1)
【文献】国際公開第2010/041212(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 25/02
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バスシステム(1)用の送受信機(12)であって、
第1および第2の送信ブロック(125、126)を有する送信段であって、前記第1の送信ブロック(125)は、前記バスシステム(1)のバス(40)の第1のバスワイヤ(41)に送信信号(TxD)を送信するように構成され、そのバスシステム(1)では、前記バスシステム(1)の前記バス(40)への加入者局(10、20、30)の排他的で衝突のないアクセスが少なくとも一時的に保証され、前記第2の送信ブロック(126)は、前記バス(40)の第2のバスワイヤ(42)に送信信号(TxD)を送信するように構成されている送信段と、
前記第1のバスワイヤおよび前記第2のバスワイヤ(41、42)に伝送されたバス信号(CAN_H、CAN_L)を受信するための受信段(120)と、
前記送受信機(12)の伝導エミッションを低減するために、前記第2の送信ブロック(126)に並列である容量ユニット(154)を制御接続するためのエミッション低減ユニット(15)と、を含む送受信機(12)。
【請求項2】
前記容量ユニット(154)は基本コンデンサおよび複数の追加コンデンサを有し、
前記エミッション低減ユニット(15)は、前記複数の追加コンデンサの各々が他の追加コンデンサとは独立して前記第2の送信ブロック(126)に並列に接続可能であるように構成されており、これにより、前記容量ユニット(154)は、前記第2の送信ブロック(126)に少なくとも部分的に並列に接続可能である、請求項1に記載の送受信機(12)。
【請求項3】
前記エミッション低減ユニット(15)は、前記送信信号(TxD)のドミナント状態(111)が発生するか否かに応じて、前記容量ユニット(154)を前記第2の送信ブロックに少なくとも部分的に並列に接続するように構成されている、請求項1または2に記載の送受信機(12)。
【請求項4】
前記エミッション低減ユニット(15)は、前記送受信機(12)がレセッシブ状態(110)にある場合に、前記容量ユニット(154)を前記第2の送信段に少なくとも部分的に並列に接続するように構成されている、請求項1から3のいずれか一項に記載の送受信機(12)。
【請求項5】
前記第2の送信ブロック(126)に、前記第1の送信ブロック(125)に設けられたスタンドオフ装置(1252)よりも小さいスタンドオフ装置(1262)が設けられている、請求項3または4に記載の送受信機(12)。
【請求項6】
記スタンドオフ装置(1262)は、Nチャネルスタンドオフトランジスタ(1262)である、請求項5に記載の送受信機(12)。
【請求項7】
前記エミッション低減ユニット(15)は、
前記送信信号(TxD)と、前記バス(40)から受信した信号(CAN_H、CAN_L)とを評価するための論理ブロック(151)と、
前記論理ブロック(151)の評価結果に基づいて、前記容量ユニット(154)の追加コンデンサをオンまたはオフにするために設けられたNチャネルスイッチ(153)に対する経路をオンにするためのPチャネル高電圧スイッチ(152)と、を有する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の送受信機(12)。
【請求項8】
前記送受信機(12)はCAN FD送受信機(12)である、請求項1から7のいずれか一項に記載の送受信機(12)。
【請求項9】
バス(40)と、
前記バス(40)を介して互いに通信できるように相互に接続された少なくとも2つの加入者局(10、20、30)と、を有するバスシステム(1)であって、前記少なくとも2つの加入者局(10;20;30)の少なくとも1つは、請求項1から8のいずれか一項に記載の送受信機(12)を有するバスシステム(1)。
【請求項10】
伝導エミッションを低減する方法であって、前記方法は、バスシステム(1)のバス(40)への加入者局(10、20、30)の排他的で衝突のないアクセスが少なくとも一時的に保証される前記バスシステム(1)の送受信機(12)によって実施され、前記送受信機(12)は、第1および第2の送信ブロック(125、126)を有する送信段と、受信段(120)と、エミッション低減ユニット(15)とを有し、前記方法は、
前記第1の送信ブロック(125)で前記バス(40)の第1のバスワイヤ(41)への送信信号(TxD)を送信するステップと、
前記第2の送信ブロック(126)で前記バス(40)の第2のバスワイヤへの送信信号(TxD)を送信するステップと、
前記第1のバスワイヤおよび前記第2のバスワイヤ(41、42)で伝送されたバス信号(CAN_H、CAN_L)を前記受信段(120)で受信するステップと、
前記送受信機(12)の伝導エミッションを低減するために、容量ユニット(154)を前記第2の送信ブロック(126)に並列に接続することを、前記エミッション低減ユニット(15)で制御するステップと、を有する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バスシステム用の送受信機と、伝導エミッションを低減する方法に関する。バスシステムは、特にCANおよび/またはCAN FDバスシステムである。送受信機は、特にCANまたはCAN FDバスシステムで使用可能であり、送信段、より正確にはその送信ブロックで接続され、必要に応じてCAN_Lの端子で追加容量が接続されて、伝導エミッションの低減をもたらす。
【背景技術】
【0002】
CANバスシステムでは、CANおよび/またはCAN FDプロトコルを使用してメッセージを伝送する。CANバスシステムは、特に車両や技術生産システムなどのセンサと制御装置間の通信に使用される。CAN FDバスシステムでは、例えば、2Mbit/秒、5Mbit/秒、または1Mbit/秒より大きいその他の任意のデータ伝送速度など、毎秒1MBit(1Mbps)より大きいデータ伝送速度が可能である。加えて、毎秒500kbit(500kbps)までのデータ伝送速度が可能であるCANHSバスシステム(HS=高速=Highspeed)も知られている。
【0003】
CANバスシステムでのデータ伝送については、CAN FDを使用したCANプロトコル仕様としての今日のCAN物理層ISO11898-2:2016では、所定のパラメータを遵守する必要がある。機能パラメータの遵守に加えて、放射(エミッション)、耐干渉性(Direct Pin Injection-DPI)、および静電気放電(ESD=electrostatic discharge)に対する保護も考慮される。
【0004】
問題となるのは、2Mbit/秒と5Mbit/秒のCAN FDでは、ビットレートが500kbit/秒の従来のCANに比べて4~10倍に上昇することだが、CAN FDではCANと同じエミッション制限を遵守することが設定されている。これは、伝導エミッションのパラメータを遵守するための要件を満たすための大きな課題である。
【0005】
CANもしくはCAN FDトランシーバまたはCANもしくはCAN FD送受信機の伝導エミッションは、150オーム法(IEC61967-4、Integrated circuits、Measurement of electromagnetic emissions、150kHz to 1GHz-Part4:Measurement of conducted emissions-1/150 direct coupling method)に応じて、また、IEC62228(EMC evaluation of CAN Transceivers)により測定される。エミッション測定では、2つのバスライン(CAN_H、CAN_L)で分割された交流電圧信号を評価する。
【0006】
「IEC TS 62228 Integrated circuits -EMC evaluation of CAN transceivers」という文書では、EMC測定での構造が規定されている。そこでは、3台の送受信機が、共通の60オーム終端抵抗とデカップリングネットワークとを有する同じCANバス上で動作する。送受信機の一方が送信信号を送信し、他方の送受信機が同じ動作モードにありながらドミナントビットやドミナント信号状態を送信しないため、これらの他方の送受信機の送信信号はハイ=レセッシブとなる。
【0007】
しかし、確認された放射の大幅な悪化は、影響変数が中心にあることによっては解決できない。
【発明の概要】
【0008】
したがって、本発明の課題は、前述の問題を解決する、CANバスシステム用の送受信機、および伝導エミッションを低減する方法を提供することである。
この課題は、請求項1の特徴を有するCANバスシステム用の送受信機によって解決される。送受信機は、第1および第2の送信ブロックを有する送信段であって、第1の送信ブロックは、バスシステムのバスの第1のバスワイヤに送信信号を送信するように構成され、そのバスシステムでは、バスシステムのバスへの加入者局の排他的で衝突のないアクセスが少なくとも一時的に保証され、第2の送信ブロックは、バスの第2のバスワイヤに送信信号を送信するように構成されている送信段と、バスワイヤに伝送されたバス信号を受信するための受信段と、送受信機の伝導エミッションを低減するために、第2の送信段に並列である容量ユニットを制御接続するためのエミッション低減ユニットと、を含む。
【0009】
記載した送受信機によって、放射、特に干渉放射が、特に数dBμV程度に大幅に減少する。これにより、伝導エミッションが低減され、送受信機の電磁適合性(EMC)が向上する。本発明は、CAN FDビットレートでの送受信機のエミッションを低減することに役立ち、制限値の遵守する方法に大きく寄与する。
【0010】
また、2つのバスワイヤのインピーダンスに関する対称性を高めることができる。
記載された送受信機の他の利点は、バスに対するバス線のバスワイヤに追加の容量がもたらされないことである。それに代えて、送受信機は小信号について容量を減少させることさえある。
【0011】
送受信機のこの作用は、従来の送受信機では特に過度に高い放射レベルが生じるため、通常はインダクタンス値が100μHであるコモンモードチョークを使用する場合に特に有利である。
【0012】
送受信機の有利なさらなる形態は、従属請求項に記載されている。
場合によって、容量ユニットは基本コンデンサおよび少なくとも1つの追加コンデンサを有し、エミッション低減ユニットは、各追加コンデンサが他の追加コンデンサとは独立して第2の送信段に並列に接続可能であるように構成されており、これにより、容量ユニットは、第2の送信段に少なくとも部分的に並列に接続することができる。
【0013】
エミッション低減ユニットは、送信信号のドミナント状態が発生するか否かに応じて、容量ユニットを第2の送信段に少なくとも部分的に並列に接続するように構成されていることが考えられる。
【0014】
一実施態様によれば、エミッション低減ユニットは、送受信機がレセッシブ状態にある場合に、容量ユニットを第2の送信段に少なくとも部分的に並列に接続するように構成されている。
【0015】
ここで、第1の送信ブロックに設けられたスタンドオフ装置よりも小さいスタンドオフ装置を第2の送信ブロックに設けてもよい。この時、第2のスタンドオフ装置は、Nチャネルスタンドオフトランジスタであってもよい。
【0016】
他の実施態様によれば、エミッション低減ユニットは、送信信号と、バスから受信した信号とを評価するための論理ブロックと、論理ブロックの評価結果に基づいて、容量ユニットの追加コンデンサをオンまたはオフにするために設けられたNチャネルスイッチに対する経路をオンにするためのPチャネル高電圧スイッチと、を有する。
【0017】
場合によって、送受信機はCAN FD送受信機である。
前述の送受信機は、バスと、バスを介して互いに通信できるように相互に接続された少なくとも2つの加入者局と、を有するバスシステムの一部であってよい。ここで、少なくとも2つの加入者局の少なくとも1つは、前述の送受信機を有する。
【0018】
上記の課題は、請求項10の特徴を備えた伝導エミッションを低減する方法によっても解決される。この方法は、バスシステムのバスへの加入者局の排他的で衝突のないアクセスが少なくとも一時的に保証されるバスシステムの送受信機によって実施される。ここで、送受信機は、第1および第2の送信ブロックを有する送信段と、受信段と、エミッション低減ユニットとを有し、方法は、第1の送信ブロックでバスの第1のバスワイヤへの送信信号を送信するステップと、第2の送信ブロックでバスの第2のバスワイヤへの送信信号を送信するステップと、バスワイヤで伝送されたバス信号を受信段で受信するステップと、送受信機の伝導エミッションを低減するために、容量ユニットを第2の送信段に並列に接続することを、エミッション低減ユニットで制御するステップと、を有する。
【0019】
この方法は、送受信機に関して前述したのと同じ利点を提供する。
本発明のさらなる可能な実装形態はまた、上記または下記に実施例について記載されている特徴、または実施形態の、明示的に言及されていない組み合わせを含む。ここで、当業者は、また、本発明のそれぞれの基本形態に、改善または追加として個々の態様を追加するであろう。
【0020】
以下に、添付の図面を参照し、実施例を使用して本発明を詳述する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施例にかかるバスシステムの簡略ブロック回路図である。
図2】第1の実施例にかかるバスシステムの送受信機の送信段の回路図である。
図3】第1の実施例にかかるバスシステムにおける送受信機のエミッション測定のためのデカップリングネットワークの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図では、特に明記しない限り、同一または機能的に同一の要素には同じ参照番号が付けられている。
図1は、例えば少なくとも区間的にCANバスシステム、CAN FDバスシステム等であってもよいバスシステム1を示す。ごく一般的に、バスシステム1は、バス状態、特に送信信号のドミナントレベルが能動的に駆動されるシリアルバスシステムである。バスシステム1は、車両、特に自動車、航空機等、または病院等で使用することができる。
【0023】
図1において、バスシステム1は、多数の加入者局10、20、30を有し、各加入者局10、20、30は、第1のバスワイヤ41および第2のバスワイヤ42でバス40に接続されている。バスワイヤ41、42は、CANバスシステムでCAN_HおよびCAN_Lの信号に使用され、送信状態におけるドミナントレベルを結合するために機能する。バス40を介して、メッセージ45、46、47が個々の加入者局10、20、30間で、前述した信号の形態で伝送可能である。加入者局10、20、30は、例えば自動車の制御装置や表示装置であってもよい。
【0024】
図1に示すように、加入者局10、30は、それぞれ通信制御装置11および送受信機12を有する。送受信機12は、それぞれエミッション低減ユニット15を含む。これに対し、加入者局20は、通信制御装置11および送受信機13を有する。加入者局10、30の送受信機12および加入者局20の送受信機13は、図1に示されていないが、それぞれバス40に直接接続されている。
【0025】
通信制御装置11は、それぞれの加入者局10、20、30の、バス40に接続された加入者局10、20、30の別の加入者局とのバス40を介した通信を制御するために機能する。送受信機12は、信号の形態でメッセージ45、47を送受信するために機能し、ここで、後により詳細に説明されるように、エミッション低減ユニット15を使用する。通信制御装置11は、特に、従来のCAN FDコントローラおよび/またはCANコントローラのように実施することができる。または、送受信機12は、特に、従来のCANトランシーバおよび/またはCAN FDトランシーバのように実施することができる。送受信機13は、信号の形態でメッセージ46を送受信するために機能する。または、送受信機13は従来のCANトランシーバのように実施することができる。
【0026】
図2は、エミッション低減ユニット15を備えた送受信機12の基本構造を示す。送受信機12は、端子121、122でバス40に、より正確には、CAN_H用のバス40の第1のバスワイヤ41およびCAN_L用のバス40の第2のバスワイヤ42に接続されている。バス40上では、バス信号CAN_H、CAN_Lの結果として差動バス信号VDIFF=CAN_H-CAN_Lが生じる。バスワイヤ41、42は、図2に大幅に模式的にして示されているように、その端部が終端抵抗48で終端している。送受信機12では、第1および第2のバスワイヤ41、42への電圧供給、特にCAN供給は、少なくとも1つの端子123を介して行われる。送受信機12のアースまたはCAN_GNDとの接続は、端子124を介して実現される。
【0027】
第1および第2のバスワイヤ41、42は、送受信機12において、トランスミッタとも呼ばれ、送信ブロック125、126を有する送信段に接続されている。また、第1および第2のバスワイヤ41、42は、レシーバとも呼ばれる受信段120に接続されている。図2では、送信段の要素のみがより詳細に示されているが、これに対して受信コンパレータ1200を有する受信段120は、その正確な構造が既に知られており、本実施例の説明には不要であるため、単に大幅に模式的にして示されている。
【0028】
送信ブロック125、126、ひいては送信段には、通信制御装置11によって生成され、送受信機12に出力される送信信号TxDを駆動するためのドライバ回路127が接続されている。送信信号TxDは、TxD信号とも呼ばれる。送信信号TxDは、伝送されるべき情報に応じて異なる電圧状態、特にレセッシブ状態110またはドミナント状態111を有することができる。
【0029】
図2によれば、送信段は、第1のバスワイヤ41の信号CAN_H用の第1の送信ブロック125と、第2のバスワイヤ42の信号CAN_L用の第2の送信ブロック126とを有する。また、送信段は、電圧供給用端子123と第1の送信ブロック125との間に逆極性保護ダイオード128を有する。第2のバスワイヤ42の端子122と第2の送信ブロック126との間には、逆極性保護ダイオード129が接続されている。
【0030】
第1の送信ブロック125は、低電圧PMOSトランジスタ1251(PMOS=P伝導性金属酸化物半導体)と、Pチャネル高電圧スタンドオフトランジスタ1252とを有し、これらは直列に接続されている。Pチャネル高耐圧スタンドオフトランジスタ1252のゲートおよびドレインの間には寄生容量1253が形成される。容量1253は、Pチャネル高電圧スタンドオフトランジスタ1252のゲートドレイン容量とも呼ばれる。したがって、トランジスタ1252のゲートと第1のバスワイヤ41の端子121との間には、容量1253が形成される。
【0031】
第2の送信ブロック126は、低電圧NMOSトランジスタ1261(NMOS=N伝導性金属酸化物半導体)と、Nチャネル高電圧スタンドオフトランジスタ1262とを有し、これらは直列に接続されている。Nチャネル高電圧スタンドオフトランジスタ1252のゲートおよびドレインの間には寄生容量1263が形成される。容量1263は、Nチャネル高電圧スタンドオフトランジスタ1262のゲートドレイン容量とも呼ばれる。したがって、トランジスタ1262のゲートと、第2のバスワイヤ41の端子122用に設けられた逆極性保護ダイオード129のカソードとの間には、容量1263が形成される。
【0032】
加入者局20、30の1つがバス40に送信信号TxDを送信すると、送信した加入者局20、30からの信号の動態によって、加入者局10の受信した送受信機12のバス端子121、122への電流l_CAN_Hおよびl_CAN_Lが発生する。ここで、電流l_CAN_H、l_CAN_Lは、主に信号CAN_HおよびCAN_L用の端子121、122において、付随するスタンドオフトランジスタ1252、1262の寄生ゲートドレインコンデンサ1253、1263を介して流れる。エミッション低減ユニット15の動作がなければ、信号CAN_H用のバスワイヤ41のための端子121に流れる電流l_CAN_Hは、信号CAN_L用のバスワイヤ42のための端子122に流れる電流l_CAN_Lよりもスイッチング動作中に著しく大きくなり、ここでスイッチング動作は、送信信号TxDの異なる状態111、110間の変化の結果として生じる。これにより、図3にかかるデカップリングネットワーク内に異なる電流が流れ、その結果、EMC認証の放射レベルが過度に上昇する。
【0033】
これを回避するために、図2によれば、一方ではバス信号CAN_L用端子122と逆極性保護ダイオード129のアノードとの間に接続部、他方では低電圧NMOSトランジスタ1261とCAN_GND用端子124との間の接続部に接続されているエミッション低減ユニット15が設けられている。エミッション低減ユニット15は、トランジスタの形態のPチャネル高電圧スイッチ152をオンまたはオフにするための論理ブロック151を有する。さらに、論理ブロック151は、Nチャネルトランジスタの形態のNチャネルスイッチ153をオンまたはオフにするために機能する。さらに、エミッション低減ユニット15は、所定の第1の容量を有する常時存在する基本コンデンサと、好ましくは、所定の第2の容量を有する少なくとも1つの接続可能な追加コンデンサとから構成される容量ユニット154を有する。所定の第1の容量と所定の第2の容量とは、同じ値を有してもよいし、異なる値を有してもよい。所定の第2の容量は、少なくとも2つの接続可能な追加コンデンサに対して異なっていてもよい。
【0034】
エミッション低減ユニット15は、送受信機12の伝導エミッションを低減するために、容量ユニット154の接続を実現する。ここで、論理ブロック151の設定に応じて、後述するように、Pチャネル高電圧スイッチ152および必要に応じて追加的にNチャネルスイッチ153がオンされる。Pチャネル高電圧スイッチ152は、バスシステム1に必要なこと、つまりバス信号CAN_Lの端子122を<=-27Vに沈めることを可能にする。
【0035】
最も少ないエミッションに関する設定が、予め実験室での試験で、またはシリーズ照合によって算出される、静電容量ユニット154の最適な設定に応じて、Nチャネルスイッチ153によって、導電性に切り替えられているPチャネル高圧スイッチ152において、少なくとも1つの追加コンデンサをオンまたはオフにすることができる。したがって、論理ブロック151の出力は、実験室での試験またはシリーズ照合後に固定的にパラメータ化され、これにより、常時存在する基本コンデンサと、場合によって容量ユニット154の少なくとも1つの接続可能な追加コンデンサとがオンになる。換言すると、Pチャネル高電圧スイッチ152がオンされ、同様に、Nチャネルスイッチ153が、容量ユニット154の少なくとも1つの接続可能な追加コンデンサを接続するために必要に応じて切り替えられる。
【0036】
その結果、バス信号CAN_H用の端子121への電流l_CAN_Hは、バス40のバス信号の切替動作時に大きく減少する。これにより、バス信号CAN_H用の端子121への電流l_CAN_Hは、バス信号CAN_L用の端子122への電流l_CAN_Lに適合される。
【0037】
このようにして、送受信機12は、異なる電流l_CAN_H、l_CAN_Lが補償されることをもたらす。この異なる電流l_CAN_H、l_CAN_Lは、バスワイヤ42の端子122におけるNチャネルスタンドオフ装置であるトランジスタ1262と比較して、バスワイヤ41の端子121におけるPチャネルスタンドオフ装置であるトランジスタ1252が著しく大きいことに起因する。Pチャネルスタンドオフ装置は、Nチャネルスタンドオフ装置よりも著しく大きく選択されており、したがって、両装置はスイッチオンの状態で同じ抵抗Rdsonを有する。ここで、これらの装置1252、1262による、また、最大定格-27VのCAN仕様の要件のために送信段のCANL経路に介在接続される必要がある逆極性ダイオード129による寄生ゲートドレイン容量1253、1263の作用が補償される。
【0038】
バス40の2つのバスワイヤ41、42に図3にかかるデカップリングネットワーク50を設けることにより、送受信機12、13に対するエミッションを測定することができる。デカップリングネットワーク50は、第1のコンデンサ51と第1の抵抗器52とからなる第1の直列回路を有する。抵抗器52は、その他端がバス信号CAN_H用の第1のバスワイヤ41に接続されている。また、デカップリングネットワーク50は、第2のコンデンサ53と第2の抵抗器54とからなる第2の直列回路を有する。その抵抗器54はその他端がバス信号CAN_L用の第2のバスワイヤ42に接続されている。第1および第2のコンデンサ51、53は、アースにその他端で接続された抵抗器55に、それぞれその他端で接続されている。抵抗器55には電圧計58が並列接続されている。
【0039】
図3に示すように、バス40は、2つのバスワイヤ41、42の間に抵抗48で終端している。端子60から送受信機12、13用の電圧V_CAN_Suppplyが供給される。
【0040】
加入者局10、30の送受信機12は、それぞれ端子121においてバスワイヤ41に接続されている。また、送受信機12は、それぞれ端子122においてバスワイヤ42に接続されている。送受信機12の端子123、124は、図2を参照して前述したように確保されている。
【0041】
同様に、加入者局20の送受信機13は、端子131においてバスワイヤ41に接続されている。また、送受信機13は、端子132においてバスワイヤ42に接続されている。端子133では、送受信機13のための電圧V_CAN_Spupplyが給電される。端子134では、送受信機12はバスシステム1のアース、特にCAN_GNDに接続されている。
【0042】
図3に示した前述の構造は、EMC測定の際の文書「IEC TS 62228 Integrated circuits -EMC evaluation of CAN transceivers」で規定されている構造に対応する。したがって、3つの送受信機12、13は、60オームの抵抗値を有する共通の終端抵抗48とデカップリングネットワーク50とで、同じCANバス40上で動作する。送受信機12の一方は、送信信号TxDlを介して制御されてドミナントビットや信号状態を送信するが、他方の送受信機12、13は同じ動作モードにありながら、ドミナントビットや信号状態を送信しないため、それぞれの送信信号TxD2、TxD3がhigh=recessiveとなる。図3はこの特殊な例を示している。
【0043】
送受信機12のそれぞれのエミッション低減ユニット15は、送受信機12に関連して前述したように、2つの送受信機12、13のバスピンまたは端子121、122、131、132で、より小さい電流l_CAN_Lに適合する低減された電流l_CAN_Hを引き起こす。
【0044】
結果として、エミッション低減ユニット15を有していない送受信機13と比較して、送受信機12の放射レベルが大幅に改善されている。したがって、EMC認証時およびその後の送受信機12についての動作においても、送受信機13で測定可能である過度に高い放射レベルにはならない。
【0045】
したがって、送受信機12によって、エミッション低減ユニット15を用いて伝導エミッションを低減する方法が実施される。
第2の実施例によれば、追加容量ユニット154は、送受信機12がレセッシブ状態にあるときにのみ接続される。この場合、送受信機12は、受信段120における受信コンパレータ1200の出力と、送信信号TxDの両方において、レセッシブレベルまたはレセッシブ状態110を検出する。論理ブロック151は、このような場合には、スイッチ152をオンにできるように評価する。
【0046】
したがって、受信する加入者局としての加入者局10または30の送受信機12は、放出スペクトルへの寄与が少ない。
第3の実施例によれば、バスシステム1の送受信機12は、加入者局10に対して送信する加入者局を実現する。また、送信信号TxDのドミナント状態111により、バス40をドミナントバス状態に向けて駆動しなければならない場合も考えられる。この場合、追加容量ユニット154は、バス信号のスイッチング時間特性に悪影響を及ぼす。そのため、論理ブロック151は、このような送信指令があった場合には、追加容量ユニット154を接続しないことを決定する。したがって、スイッチ152はオフになるか、またはオフのままである。
【0047】
送信信号TxDのレセッシブ状態110によりバス40が駆動しない場合、論理ブロック151は、追加容量ユニット154を接続することを決定する。したがって、スイッチ152はオンになるか、またはオンのままである。
【0048】
このようにして、送受信機12とそのエミッション低減ユニット15とで、伝導エミッションを低減する方法が実施される。
送受信機12、加入者局10、30、バスシステム1、および第1および第2の実施例によってそこで実施される方法のエミッション低減ユニット15の前述した全ての構成は、個別に、または全ての可能な組み合わせで使用することができる。追加的に、特に以下のような変形形態が考えられる。
【0049】
前述した容量ユニット154の接続は、実施例の変形形態によれば、第1の実施例に関連して説明したように、原則として基本コンデンサが接続され、第2または第3の実施例に関連して説明したように、送信信号または送受信機12の状態に応じて、少なくとも1つの追加コンデンサのみが接続されることを含む。このために、さらなる回路ブロックを使用でき、この回路ブロックは、動作中の放射評価を検出する。このことから、容量ユニット154のそのつど必要な追加コンデンサの容量値を算出できる。
【0050】
実施例にかかる前述のバスシステム1は、CANプロトコルに基づくバスシステムを使用して説明される。しかし、第1および/または第2の実施例にかかるバスシステム1は、他の種類の通信ネットワークであってもよい。バスシステム1は、少なくとも一定期間、バスワイヤ40またはバスワイヤ40の共通チャネルへの加入者局10、20、30の排他的で衝突のないアクセスを保証することが有利であるが、必然ではない。
【0051】
実施例およびその変形例にかかるバスシステム1は、特にCANネットワークまたはCAN-HSネットワークまたはCAN FDネットワークまたはFlexRayネットワークである。しかしながら、バスシステム1は他のシリアル通信ネットワークであってもよい。
【0052】
実施例およびそれらの変形例にかかるバスシステム1における加入者局10、20、30の数および配置は任意である。特に、第1または第2の実施例のバスシステム1には、加入者局10または加入者局20または加入者局30のみが存在してもよい。これとは無関係に、前述の様々な構成変形例のうち1つにより構成されたエミッション低減ユニット15のみが存在してもよい。
【0053】
上記の実施例の機能は、トランシーバまたは送受信機12、13、またはトランシーバまたはCANトランシーバまたはトランシーバチップセットまたはCANトランシーバチップセットなどに実装される。追加的にまたは代替的に、既存の製品に統合してもよい。特に、検討中の機能をトランシーバに個別の電子コンポーネント(チップ)として実現するか、または1つの電子コンポーネント(チップ)のみが存在する統合型の全体ソリューションに組み込むことができる。
図1
図2
図3