(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】マルチビーム衛星通信システム、ハンドオーバ制御装置、ハンドオーバ制御方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H04W 36/22 20090101AFI20220525BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20220525BHJP
H04W 84/06 20090101ALI20220525BHJP
H04B 7/155 20060101ALI20220525BHJP
H04B 7/185 20060101ALI20220525BHJP
【FI】
H04W36/22
H04W16/28
H04W84/06
H04B7/155
H04B7/185
(21)【出願番号】P 2021055739
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2021-03-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、総務省、「小型旅客機等に搭載可能な電子走査アレイアンテナによる周波数狭帯域化技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】591280197
【氏名又は名称】株式会社構造計画研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】関口 真理子
(72)【発明者】
【氏名】藤井 義巳
【審査官】石田 信行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0234281(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0244345(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0234166(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0150342(US,A1)
【文献】国際公開第2019/078348(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00 - 99/00
H04B 7/24 - 7/26
H04B 7/155
H04B 7/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向の異なる複数のビームを衛星から放射し、前記複数のビームの少なくともいずれかを用いて航空機内の端末と無線通信を行う中継装置と、
前記航空機内の端末との通信で使用する前記ビームの無線リソースを管理する基地局装置と、
を備えるマルチビーム衛星通信システムに備わるハンドオーバ制御装置であって、
前記ハンドオーバ制御装置は、
前記基地局装置から各ビームの無線リソースの使用状況を取得し、
前記航空機内の端末での各ビームの受信電力値に対し、混雑度の高いビームの受信電力値よりも混雑度の低いビームの受信電力値を相対的に増やした見せかけの受信電力値を算出し、
前記見せかけの受信電力値に基づいて、切り替え元のビームから切り替え先のビームに切り替えるか否かを決定する、
ハンドオーバ制御装置。
【請求項2】
方向の異なる複数のビームを衛星から放射し、前記複数のビームの少なくともいずれかを用いて航空機内の端末と無線通信を行う中継装置と、
前記航空機内の端末との通信で使用する前記ビームの無線リソースを管理する基地局装置と、
を備えるマルチビーム衛星通信システムに備わるハンドオーバ制御装置であって、
前記ハンドオーバ制御装置は、
前記基地局装置から各ビームの無線リソースの使用状況を取得し、
切り替え先のビームの使用帯域が設定された一定の割合を超えている混雑ビームである場合、切り替え先のビームの候補のなかから前記混雑ビームを除外し、
前記除外後の切り替え先のビームの候補のなかから、前記航空機内の端末が使用するビームを選択する、
ハンドオーバ制御装置。
【請求項3】
切り替え先のビームの前記航空機内の端末での受信電力値が設定された値よりも不足している場合、周波数帯域及び偏波の共通する複数のビームを、前記航空機内の端末が使用する切り替え先のビームに選択する、
請求項1又は2に記載のハンドオーバ制御装置。
【請求項4】
方向の異なる複数のビームを衛星から放射し、前記複数のビームの少なくともいずれかを用いて航空機内の端末と無線通信を行う中継装置と、
前記航空機内の端末との通信で使用する前記ビームの無線リソースを管理する基地局装置と、
前記航空機内の端末が使用するビームのハンドオーバを制御する、請求項1から3のいずれかに記載のハンドオーバ制御装置と、
を備えるマルチビーム衛星通信システム。
【請求項5】
方向の異なる複数のビームを衛星から放射し、前記複数のビームの少なくともいずれかを用いて航空機内の端末と無線通信を行う中継装置と、
前記航空機内の端末との通信で使用する前記ビームの無線リソースを管理する基地局装置と、
を備えるマルチビーム衛星通信システムに備わるハンドオーバ制御装置が実行するハンドオーバ制御方法であって、
前記ハンドオーバ制御装置は、
前記基地局装置から各ビームの無線リソースの使用状況を取得し、
前記航空機内の端末での各ビームの受信電力値に対し、混雑度の高いビームの受信電力値よりも混雑度の低いビームの受信電力値を相対的に増やした見せかけの受信電力値を算出し、
前記見せかけの受信電力値に基づいて、切り替え元のビームから切り替え先のビームに切り替えるか否かを決定する、
ハンドオーバ制御方法。
【請求項6】
方向の異なる複数のビームを衛星から放射し、前記複数のビームの少なくともいずれかを用いて航空機内の端末と無線通信を行う中継装置と、
前記航空機内の端末との通信で使用する前記ビームの無線リソースを管理する基地局装置と、
を備えるマルチビーム衛星通信システムに備わるハンドオーバ制御装置が実行するハンドオーバ制御方法であって、
前記ハンドオーバ制御装置は、
前記基地局装置から各ビームの無線リソースの使用状況を取得し、
切り替え先のビームの使用帯域が設定された一定の割合を超えている混雑ビームである場合、切り替え先のビームの候補のなかから前記混雑ビームを除外し、
前記除外後の切り替え先のビームの候補のなかから、前記航空機内の端末が使用するビームを選択する、
ハンドオーバ制御方法。
【請求項7】
請求項1から3のいずれかに記載のハンドオーバ制御装置に備わる各機能部としてコンピュータを実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチビーム搭載静止衛星を利用した航空機向けの通信サービス提供方式に関し、特にビーム間ハンドオーバ制御による混雑度の緩和に関する。
【背景技術】
【0002】
旅客航空機における搭乗者に対する無線LANインターネット接続サービス(以下無線LANサービス)が急速に普及するにつれ、現状の衛星回線では全てのトラフィック要求を充足させることができなくなってきている。そのような状況を打開するために、数十~100程度のビームを形成し、それぞれに別々の通信回線を収容可能なマルチビーム衛星通信システムの開発が進められている。マルチビーム衛星通信システムの利点は、単一ビームの衛星と比べてトータルの通信スループットを飛躍的に向上させることができる点にある。しかしながら、航空機の航路には偏りがあり、大都市近郊の空港間を結ぶ航路が交わる部分のビームなど、航空機が密集するビームと海上など航空機の密度が低いビームに大きな差が出てきてしまう。
【0003】
多くの航空機が密集して無線リソースに不足を生じてしまうビーム(「混雑ビーム」と呼ぶ)に対しては、チャネライザなどを使い優先的に多くの周波数帯域を割り当てるなどの研究が行われているが、動的なトラフィック要求の変化に応じて無線リソースの割当の変更を行うのには適していない。このため、現状では運行スケジュールから混雑ビームになると予想されるビームに予め広い周波数帯域を割り当てておくことで、ある程度の通信品質向上は可能であるものの、予想を超える通信トラフィックの増大には対応できない。また、混雑ビーム以外のビームは相対的に周波数帯域が狭くなるため、動的なトラフィック要求の増大時に品質が低下してしまうという懸念がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記にて示したとおり、固定的な無線リソースの割当では通信品質の向上に限界が生じてしまう。そこで、本開示は、混雑ビームを考慮してビーム間ハンドオーバを行うことで、通信品質を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、マルチビーム衛星通信システムにおいて、混雑ビームを考慮してビーム間ハンドオーバを行うハンドオーバ制御装置を備える。
【0006】
具体的には、本開示のマルチビーム衛星通信システムは、
方向の異なる複数のビームを衛星から放射し、前記複数のビームの少なくともいずれかを用いて航空機内の端末と無線通信を行う中継装置と、
前記航空機内の端末との通信で使用する前記ビームの無線リソースを管理する基地局装置と、
前記航空機内の端末が使用するビームを前記複数のビームなかから選択する、本開示のハンドオーバ制御装置と、
を備える。
【0007】
本開示のハンドオーバ制御装置及びハンドオーバ制御方法の一態様は、
前記基地局装置から各ビームの無線リソースの使用状況を取得し、
前記航空機内の端末での各ビームの受信電力値に対し、混雑度の高いビームの受信電力値よりも混雑度の低いビームの受信電力値を相対的に増やした見せかけの受信電力値を算出し、
前記見せかけの受信電力値に基づいて、切り替え元のビームから切り替え先のビームに切り替えるか否かを決定する。
【0008】
本開示のハンドオーバ制御装置及びハンドオーバ制御方法の一態様は、
前記基地局装置から各ビームの無線リソースの使用状況を取得し、
切り替え先のビームの使用帯域が設定された一定の割合を超えている混雑ビームである場合、切り替え先のビームの候補のなかから前記混雑ビームを除外し、
前記除外後の切り替え先のビームの候補のなかから、前記航空機内の端末が使用するビームを選択する。
【0009】
具体的には、本開示のプログラムは、本開示に係るハンドオーバ制御装置に備わる各機能部としてコンピュータを実現させるためのプログラムであり、本開示に係るハンドオーバ制御装置が実行するハンドオーバ制御方法に備わる各ステップをコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、混雑ビームを考慮してビーム間ハンドオーバを行うため、通信品質を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】マルチビーム衛星から放射されるビームの一例を示す。
【
図5】本開示のシミュレーション結果の一例を示す。
【
図6】本開示のシミュレーション結果の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0013】
(基本構成)
図1に、本実施形態のシステム構成の一例を示す。本実施形態のシステムは、マルチビーム衛星通信システムにおいて、ハンドオーバ制御方法を実行するハンドオーバ制御装置94を備える。ハンドオーバ制御装置94は、コンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。本開示においては、ハンドオーバを「HO:Handover」と表記する場合がある。
【0014】
マルチビーム衛星通信システムは、マルチビーム衛星92及び基地局装置93を備える。マルチビーム衛星92は、中継装置として機能し、方向の異なる複数のビームを放射し、複数のビームの放射領域内を通過する航空機内の端末と無線通信を行う。航空機内の端末91は、マルチビーム衛星92の放射するビームB91を介してマルチビーム衛星92と通信を行う。ここで、ビームB91は、マルチビーム衛星92の放射する複数のビームのうちの少なくともいずれかであり、1つのビームであってもよいし、2以上のビームであってもよい。地上の基地局装置93は、マルチビーム衛星92と無線通信を行い、航空機内の端末91との通信で使用するビームB91の無線リソースを管理する。
【0015】
図2に、マルチビーム衛星92から放射されるビームの一例を示す。通信を行う航空機内の端末91は、マルチビーム衛星92の放射するビームB1~B7の何れかに収容される。各ビームB1~B7は、航空機内の端末91と通信を行うための帯域幅が基地局装置93によって定められている。隣接するビーム同士は、干渉を避けるために、同じ周波数帯域、同じ偏波(右旋または左旋)にならないように配置されている。例えば、ビームB1の周波数帯域及び偏波は、隣接するビームB2、B3、B4と異なる。本実施形態では、周波数帯域及び偏波の一例として、ビームB1、B5、B6が同じ周波数帯域及び偏波を有し、ビームB2、B3、B7が同じ周波数帯域及び偏波を有する例について説明する。
【0016】
ビームに収容された航空機内の端末91はアップリンク、ダウンリンクそれぞれについて通信要求に応じた「リソースブロック(RB:Resource Block)」が割り当てられる。ここで、リソースブロックとは4G LTE(Long Term Evolution)および5Gにおいて、OFDMA(Orthogonal Frequency-Division Multiple Access)多重方式で時間方向と周波数方向の両方の無線リソースを割り当てる際の単位である。通常、例えば5Gでは周波数方向に12サブキャリア、時間軸方向には14シンボル(=1スロット)を一つのRBとしている。基地局装置93は、このRBをいくつ割り当てるかをスケジューラにより決定する。
【0017】
図3を参照しながら、航空機内の端末91がビームB1に収容されている場合の、端末91へのRBの割当制御の概略について説明する。端末91がリソース割当要求を基地局装置93に送信すると、基地局装置93がリソース割当要求に応じたビームB1のRBを端末91に割り当て、端末91に割り当てたビームB1のRBを含むリソース割当情報を送信する。端末91は、基地局装置93からのリソース割当情報に基づいて、アップリンクデータの送信及びダウンリンクデータの受信を行う。
【0018】
ハンドオーバ制御装置94は、基地局装置93から各ビームの無線リソースの使用状況を取得し、混雑の状況を常にリアルタイムで把握、評価することにより、ビームを越えて動的に無線リソースの割当が適正化されるよう、ハンドオーバ制御を行う。基地局装置93は、ハンドオーバ制御装置94によるハンドオーバ制御に従い、無線リソースの割当を行う。本実施形態では、地上系の無線アクセス方式で主流となっており、近い将来衛星通信においても採用が検討されている、4G/5Gのアクセス方式を前提とした無線リソースの割当を前提として説明する。
【0019】
例えば、ビームB1に収容されている端末91は、ビームB1を用いて、HO参照信号レポートを基地局装置93に送信する。HO参照信号レポートには、端末91の受信した各ビームの受信電力値が含まれる。基地局装置93は、HO参照信号レポートを受信する。ハンドオーバ制御装置94は、基地局装置93の受信したHO参照信号レポートに基づいて、端末91のハンドオーバ制御を行う。ハンドオーバ制御は、切り替え元のビームから切り替え先のビームに切り替えるか否か、切り替えのタイミング、及び切り替え先のビームの決定を含む。基地局装置93は、ハンドオーバ制御装置94の決定した切り替え先の情報を含むHO制御情報を、ビームB1を用いて端末91に送信する。端末91は、HO制御情報に従って、ビームB1から次のビーム、例えばビームB4に切り替える。
【0020】
ハンドオーバ制御装置94は、基地局装置93から各ビームの無線リソースの使用状況を取得し、ビームの使用帯域が設定された一定の割合を超えている場合、そのビームを「混雑ビーム」であると判定する。例えば、1つのビームに含まれる無線リソースをこのRBの単位で考えた時に、割り当て可能なRBの数に対して、航空機内の端末から要求されるRB数が設定されたある一定の割合を超えると、そのビームを「混雑ビーム」であると判定する。そして、ハンドオーバ制御装置94は、ハンドオーバ制御による混雑回避を行う。
【0021】
(第1の実施形態)
本実施形態では、ビームの混雑度に基づいて、ハンドオーバを行う閾値を動的に制御する。本開示では、この制御を「AJH」と称する。ハンドオーバ制御装置94は、個別のビームについて、実際の受信電力値に下駄をはかせた見せかけの受信電力値Pfakeを設定し、Pfake同士を比較して、切り替えるか否かを決定する。ビームB1の受信電力値PrがPfakeに大きくなっていることで、下駄をはかせた分だけ混雑ビームのビームB4に切り替える時間を遅らせることができるため、ビームB4のRBを時間軸上で減らすことができる。
【0022】
例えば、次式を用いて、端末91における見せかけの受信電力値Pfakeをビームごとに算出する。
(数1)
Pfake(t,n)=Pr(t,n)+Padj(t,n)
式中、Pfake(t,n)は、時刻tでの各端末におけるビームnの見せかけの受信電力値(dB)である。Pr(t,n)は、時刻tに、端末において受信されたビームnの受信電力値(dB)である。Padj(t,n)は、時刻tでのビームnに対する調整電力値(dB)である。t=0かつビームn=任意での調整電力値は、Padj(0,n)=0とすることができる。
【0023】
ハンドオーバ制御装置94は、見せかけの受信電力値Pfake同士を比較することで、端末91に割り当てるビームをビームB1からビームB4に切り替えるか否かを決定する。切り替えると決定した場合、基地局装置93は、切り替え先のビームB4のRBを端末91に割り当てる。
【0024】
ここで、調整電力値P
adjは、各ビームの混雑度に応じて定められる。例えば、ハンドオーバ制御装置94は、定期的に全ビームにおいて以下の計算を実行する。
【数2】
式中、P
adj(t,n)は時刻t-1でのビームnに対する調整電力値(dB)、N
RB(n)はビームnのリソースブロック数(固定)、RB
req(t-1,n)は時刻t-1におけるビームnの要求リソースブロック数、C1,C2は定数値である。
【0025】
ビームB4のような混雑ビームの場合、NRBに対してRBreqが大きいため、調整電力値は小さくなる。これに対し、ビームB1のような非混雑ビームの場合、NRBに対してRBreqが小さいため、調整電力値は大きくなる。このため、見せかけの受信電力値Pfakeは、ビームB4のよりもビームB1の方が大きくなり、ビームB4に切り替える時間を遅らせ、混雑ビームのRBを時間軸上で減らすことができる。
【0026】
ビームB4よりもビームB1の見せかけ上の大きさが大きくなる。このため、混雑ビームであるビームB4を使用している航空機内の端末95は、航路上に存在する混雑ビーム外の隣接するビームB1への切り替えを促される。また、混雑ビームのビームB4から航路上に存在する隣接するビームB1に切り替える時間を早めることができるため、ビームB4のRBを時間軸上で減らすことができる。
【0027】
なお、本実施形態では、見せかけの受信電力値Pfakeを算出する際、受信電力値Prに調整電力値Padjを加算したが、見せかけの受信電力値Pfakeの算出は、混雑度の高いビームの受信電力値よりも混雑度の低いビームの受信電力値を相対的に増やすことの可能な任意の演算を用いることができる。例えば、混雑度の高いビームの受信電力値を混雑度の低いビームの受信電力値に対して相対的に減らす任意の演算を用いることができる。
【0028】
(第2の実施形態)
本実施形態では、切り替え先のビームを選択する際に、混雑ビームへのハンドオーバを回避する。本開示では、この制御を「SKP」と称する。
【0029】
ビームB1を使用する端末91が航路に沿ってハンドオーバする場合、次のビームは混雑ビームのB4である。このように、航路に沿った切り替え先が混雑ビームである場合、ハンドオーバ制御装置94は、混雑ビームであるビームB4を切り替え先のビームの候補から除外する操作を行う。この場合、ハンドオーバ制御装置94は、除外後の切り替え先のビームの候補のなかから切り替え先のビームを選択する。例えば、航路上でビームB4の次に位置するビームB7を選択する。これにより、航路に沿って混雑ビームに侵入する航空機の端末91は、航路上で混雑ビームの次に位置するビームB7に、ビームB1から直接切り替える。
【0030】
なお、次のビームB7も混雑ビームである場合、ハンドオーバ制御装置94はこの処理は行わなくてもよい。
【0031】
(第3の実施形態)
前述のAJHやSKPなどの混雑ビーム回避アルゴリズムを用いた場合、切り替え先のビームの受信電力値が低くなる可能性がある。そこで、本実施形態では、周辺の複数ビームを協調させる。本開示では、この制御を「CMP」と称する。周辺の複数のビームによる協調動作については、地上無線ネットワークのCoMP(Coordinated Multi-Point)と同様の方法を用いることができる。ただし、本開示では、以下の点が異なる。
【0032】
例えば、ハンドオーバ制御装置94は、ビームB4の次のビームを選択する際、端末91の航空機の航路上に位置するビームB5、B6、B7の端末91での受信電力値を、端末91からのHO参照信号レポートを用いて取得する。
【0033】
ビームB5及びB6の周波数帯域及び偏波は共通する。そこで、ハンドオーバ制御装置94は、ビームB7の端末91での受信電力値が設定された値よりも不足している場合、同じ周波数帯域及び偏波のビームB5及びB6の両方の端末91での受信電力値と、ビームB7の端末91での受信電力値と、を比較する。そして、ビームB5及びB6の両方での受信電力値の方がビームB7よりも高い場合、ビームB5及びB6の両方を切り替え先のビームに選択する。
【0034】
ビームB5及びB6の両方の端末91での受信電力値を選択した場合、基地局装置93は、ビームB5及びB6の両方の無線リソースを端末91に割り当てる。マルチビーム衛星92は、基地局装置93の割り当てに従い、コヒーレントなビームB5及びB6を合成し、合成したビームを用いて端末91と無線通信を行う。
【0035】
したがって、本実施形態は、合成ビーム利得が得られるため、端末91でのS/Nが改善し、結果として端末91のトラフィック要求の充足率を向上させることができる。なお、本実施形態で受信電力値に基づいてCMPを行うか否かを判定したが、本開示はこれに限定されない。例えば、変調の多値度が上がる、符号化率が改善する、スループットが向上するなどの、任意の基準に基づいて判定することができる。
【0036】
(第4の実施形態)
第1の実施形態で説明したAJHを採用した場合、ハンドオーバのしきい値が変動することにより、一度ハンドオーバした先からすぐに切り替え元に戻ってくる、いわゆるピンポン現象が発生してしまう可能性がある。そこで、本実施形態のハンドオーバ制御装置94は、ピンポン現象による通信の品質の低下を防ぐため、ハンドオーバ履歴を記録する。
【0037】
例えば、ビームB1からビームB4にハンドオーバした場合、ハンドオーバ制御装置94は、ビームB4の前に収容されていたビームB1を記録する。そして、ハンドオーバ制御装置94は、ビームB4の切り替え先を選択する際に、切り替え先の候補にビームB1が含まれないように、切り替え先の候補からビームB1を除外する操作を行う。そして、ハンドオーバ制御装置94は、除外後の切り替え先のビームの候補のなかから切り替え先のビームを選択する。これにより、本実施形態は、ピンポン現象を回避することができる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態は、ハンドオーバ制御に加えて周辺の複数のビームによる協調動作を行い、混雑ビームとその周辺ビームにおける通信品質の低下を補償することができる。
【0039】
本開示は、実施形態で説明した、以下の技術を組み合わせることができる。
(1)切り替え先及び切り替え元のビームの混雑度に基づいて、ハンドオーバを行う閾値を動的に制御する。(AJH)
(2)切り替え先のビームを選択する際に、混雑ビームへのハンドオーバを回避する。(SKP)
(3)複数のビームを用いた協調動作を行う。(CMP)
(4)ハンドオーバの履歴を用いて、ピンポン現象を回避する。
【0040】
(シミュレーション結果)
またこれら個別の方式を組合わせた場合に、特定の組合せについては単独で適応する場合と比べて明らかな改善が得られることを計算機シミュレーションにより検証した。今回実施したシミュレーションの諸元を
図4に示す。
図5及び
図6に、本開示のシミュレーション結果の一例を示す。
【0041】
図5は航空機内の端末の通信要求の充足度をグラフ化したものである。グラフ化に際しては、CDF(Cumulative Distribution Function)を用いた。CMPについては、スループットが向上する場合にビームを合成する制御を行った。何もしなかった場合(NON)には、10%の航空機の通信要求充足度が85%以下、更に5%の航空機の通信要求充足度が80%以下である。これに対して、提案方式は、いずれも10%の航空機の通信要求充足度が95%を超え、更に90%以上の航空機で通信要求充足度が95%を超えており、通信要求充足度は大幅に向上していることが読み取れる。
【0042】
図6は、総スループット、ハンドオーバ回数、通信要求充足度のCDF(下位5%)を示す。
図6に示す計算機シミュレーション結果からもわかるように、本開示の効果は総スループットの向上率という点で言えば僅かに10%に過ぎない。しかしながら、通信要求充足度のCDF(下位5%)を比較すると、何も制御を行わない場合(NON)の0.795755と比べて最上位のSKP+AJH+CMPは0.96786と約17%の改善が見られている。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
91、95:端末
92:マルチビーム衛星
93:基地局装置
94:ハンドオーバ制御装置
【要約】
【課題】本開示は、混雑ビームを考慮してビーム間ハンドオーバを行うことで、通信品質を向上することを目的とする。
【解決手段】本開示は、マルチビーム衛星通信システムに備わるハンドオーバ制御装置であって、前記基地局装置から各ビームの無線リソースの使用状況を取得し、切り替え先のビームの使用帯域が設定された一定の割合を超えている混雑ビームである場合、切り替え先のビームの候補のなかから前記混雑ビームを除外し、前記除外後の切り替え先のビームの候補のなかから、前記航空機内の端末が使用するビームを選択する。
【選択図】
図1