(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-24
(45)【発行日】2022-06-01
(54)【発明の名称】トレッド摩耗監視システム及び方法
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20220525BHJP
G01M 17/02 20060101ALI20220525BHJP
B60C 11/24 20060101ALI20220525BHJP
G16Y 20/10 20200101ALI20220525BHJP
【FI】
B60C19/00 H
G01M17/02
B60C11/24 Z
G16Y20/10
(21)【出願番号】P 2021506466
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 IB2019056488
(87)【国際公開番号】W WO2020031022
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-03-30
(31)【優先権主張番号】102018000007884
(32)【優先日】2018-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
【住所又は居所原語表記】Kleine Kloosterstraat 10, B-1932 Zaventem (BE)
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(72)【発明者】
【氏名】ビンチェンツォ シアラヴォラ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ アンドレア マジ
(72)【発明者】
【氏名】アルフレード コロラーロ
(72)【発明者】
【氏名】ロレンツォ アレバ
(72)【発明者】
【氏名】アレッサンドロ ボルドリーニ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァレリオ ボルトロット
(72)【発明者】
【氏名】ルフィーニ フラヴィア
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-156295(JP,A)
【文献】国際公開第2017/149954(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106515318(CN,A)
【文献】特開2001-287516(JP,A)
【文献】特開2004-067009(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0057877(US,A1)
【文献】特表2005-516836(JP,A)
【文献】国際公開第2017/156213(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
G01M 17/02
B60C 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備ステップ(6)及びトレッド摩耗監視ステップ(7)を含むトレッド摩耗監視方法であって、
前記
予備ステップ(6)は:
・1つ又は複数のタイヤに対してトレッド摩耗試験を実行するステップと;
・トレッド摩耗関連量と第1摩擦エネルギー関連量とを測定するステップであって、前記トレッド摩耗関連量は、前記実行されたトレッド摩耗試験から得られたトレッド摩耗を示し、前記第1摩擦エネルギー関連量は、前記実行されたトレッド摩耗試験中に試験されたタイヤに生じる摩擦エネルギーに関連する、ステップと;
・前記測定されたトレッド摩耗関連及び第1摩擦エネルギー関連量に基づいて、較正済みトレッド摩耗モデルを決定するステップと;
を含み、
前記トレッド摩耗監視ステップ(7)は:
・それぞれにタイヤが取り付けられた2つ以上のホイールを備えた自動車(4)の車両バス(40)から、前記自動車(4)の走行に関連する走行関連量を取得するステップと;
・前記取得された走行関連量と前記自動車(4)に関連する所定車両ダイナミクスモデルとに基づいて、走行中に前記自動車(4)の少なくとも1つのタイヤに生じる摩擦エネルギーに関連する第2摩擦エネルギー関連量を計算するステップと;
・前記第2摩擦エネルギー関連量及び前記較正済みトレッド摩耗モデルに基づいて、走行中に前記自動車(4)の前記少なくとも1つのタイヤに生じるトレッド摩耗を推定するステップと;
・前記推定されたトレッド摩耗に基づいて、前記自動車(4)の前記少なくとも1つのタイヤの現在の平均残存トレッド材料量を推定するステップと;
を含み、
・前記予備ステップ(6)は、さらに、
―1つ又は複数の前記測定されたトレッド摩耗関連量に基づいて、タイヤの特徴に起因する不規則なトレッド摩耗に関連する第1補正係数を決定するステップと、
―タイヤの使用に起因する不規則なトレッド摩耗に関連する第2補正係数を提供するために人工ニューラルネットワークを訓練するステップと;
を含み、
・前記トレッド摩耗監視ステップ(7)は、さらに、
―1つ又は複数の前記取得された走行関連量に基づいて、訓練済み人工ニューラルネットワークにより第2補正係数を提供するステップと、
―前記現在の平均残存トレッド材料量に基づいて、補正済み残存トレッド材料量を計算するステップであって、前記第1補正係数及び前記第2補正係数は、前記1つ又は複数の取得された走行関連量に基づいて前記訓練済み人工ニューラルネットワークによって提供される、ステップと、
を含む、トレッド摩耗監視方法。
【請求項2】
前記第1補正係数は、タイヤの特徴に起因する不規則なトレッド摩耗についての平均残存トレッド材料に対する最も摩耗したトレッド点での残存トレッド材料の第1比率を示し、
各第2補正係数は、タイヤの使用に起因する不規則なトレッド摩耗についての平均残存トレッド材料に対する最も摩耗したトレッド点での残存トレッド材料のそれぞれの第2比率を示している、請求項1に記載のトレッド摩耗監視方法。
【請求項3】
トレッド摩耗試験を実行するステップは:
・シミュレートされる試験走行経路を定義するステップと;
・前記試験走行経路をシミュレートするタイヤ試験システム/装置/機械により、所与のタイヤに対してトレッド摩耗試験を実行するステップと;
を含み、
トレッド摩耗関連量を測定するステップは、トレッド深さ測定ツールにより、前記所与のタイヤのトレッド深さプロファイルを測定するステップを含み、前記トレッド深さプロファイルは、前記シミュレートされる試験走行経路から得られ;
前記第1補正係数を決定するステップは:
・前記測定されたトレッド深さプロファイルに基づいて、前記所与のタイヤの最も摩耗したトレッド点での第1最悪点残存トレッド材料量と前記所与のタイヤのトレッドプロファイルにわたる第1平均残存トレッド材料量とを決定するステップと;
・前記第1補正係数を、前記第1平均残存トレッド材料量に対する前記第1最悪点残存トレッド材料量の比率として計算するステップと、
を含む、請求項1又は2に記載のトレッド摩耗監視方法。
【請求項4】
前記人工ニューラルネットワークは、タイヤ使用関連統計データと対応する残存トレッド材料関連統計データとを含む所与のデータベースに基づいて訓練される、請求項1~3のいずれか一項に記載のトレッド摩耗監視方法。
【請求項5】
前記タイヤ使用関連統計データは、使用済みタイヤに関連する、記録されたタイヤ使用関連量を示すとともに、前記使用済みタイヤの不規則なトレッド摩耗から得られ、
前記対応する残存トレッド材料関連統計データは、前記使用済みタイヤについて決定される残存トレッド材料量の対を示し、
残存トレッド材料量の各対は:
・それぞれの使用済みタイヤに関連するとともに、それぞれの前記使用済みタイヤに関連するそれぞれの記録されたタイヤ使用関連量に対応し;
・前記それぞれの使用済みタイヤの最も摩耗したトレッド点でのそれぞれの第2最悪点残存トレッド材料量と、前記それぞれの使用済みタイヤのトレッドプロファイルにわたるそれぞれの第2平均残存トレッド材料量と、を含み、
前記人工ニューラルネットワークを訓練するステップは:
・使用済みタイヤごとに、それぞれの第2補正係数を、それぞれの第2平均残存トレッド材料量に対するそれぞれの第2最悪点残存トレッド材料量の比率として、計算するステップと;
・教師あり学習手法を実行することにより前記人工ニューラルネットワークを訓練するステップであって、前記教師あり学習手法は、使用済みタイヤごとに、入力としての前記使用済みタイヤに関連する前記記録されたタイヤ使用関連量と、出力としての前記それぞれの第2補正係数と、を前記人工ニューラルネットワークへ適用するステップを含む、ステップと、
を含む、請求項4に記載のトレッド摩耗監視方法。
【請求項6】
・前記記録されたタイヤ使用関連量は、前記使用済みタイヤに関連する横方向及び縦方向加速度、タイヤの空気圧、トー、キャンバー、並びに荷重を示しており;
・前記取得された走行関連量は、前記自動車(4)の横方向及び縦方向加速度を示す加速度関連量を含み;
前記訓練済み人工ニューラルネットワークによって第2補正係数を提供するステップは:
・前記加速度関連量に基づいて、前記自動車(4)の平均横方向及び縦方向加速度を示す平均加速度関連量を計算するステップと;
・前記訓練済み人工ニューラルネットワークに、前記平均加速度関連量と、少なくとも、前記自動車(4)の前記少なくとも1つのタイヤに関連するタイヤ空気圧を示す圧力関連量と、前記少なくとも1つのタイヤ及び前記自動車(4)に関連するトー、キャンバー及び荷重に関連する量と、を入力するステップと、
を含む、請求項5に記載のトレッド摩耗監視方法。
【請求項7】
前記圧力関連量は、前記取得された走行関連量に含まれるか、又は、所定圧力関連量であり、
トー、キャンバー及び荷重に関連する前記量は、所定量である、請求項6に記載のトレッド摩耗監視方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載のトレッド摩耗監視方法のトレッド摩耗監視ステップ(7)を実行するように設計されたトレッド摩耗監視システム(3、3A、3B、3C)であって、
前記トレッド摩耗監視システム(3、3A、3B、3C)は、取得装置(31)と、処理装置/システム(32、32A、32B)と、通知装置(33、33A、33B)と、を含み、
前記取得装置(31)は:
・それぞれにタイヤが取り付けられた2つ以上のホイールを備えた自動車(4)に搭載され;
・自動車(4)の車両バス(40)に結合され、それにより、前記走行関連量を取得するようにされ;
前記処理装置/システム(32、32A、32B)は:
・前記取得装置(31)に接続され、前記取得装置(31)から前記走行関連量を受け取るようにされ;
・前記第1補正係数を格納するように構成され;
・前記訓練済み人工ニューラルネットワークを含み;
・以下のようにプログラムされ、すなわち、
―前記第2摩擦エネルギー関連量を計算し、
―前記トレッド摩耗と前記現在の平均残存トレッド材料量とを推定し、
―前記補正された残存トレッド材料量を計算する;
ようにプログラムされ、
前記通知装置(33、33A、33B)は、前記自動車(4)に関連するユーザ(5)に、処理装置/システム(32、32A、32B)によって計算された前記補正された残存トレッド材料量を通知するように構成される、トレッド摩耗監視システム。
【請求項9】
前記処理装置/システム(32)は、前記取得装置(31)に無線及び遠隔で接続されたクラウドコンピューティングシステム(32A)であり、
前記通知装置(33)は、ユーザ(5)に関連付けられ、1つ又は複数の有線及び/又は無線ネットワークを介して前記クラウドコンピューティングシステム(32A)に遠隔で接続された、電子通信装置(33A)である、請求項8に記載のトレッド摩耗監視システム。
【請求項10】
前記処理装置/システム(32)は、前記取得装置(31)に無線及び遠隔で接続されたクラウドコンピューティングシステム(32A)であり、
前記通知装置(33)は、前記自動車(4)に搭載され、1つ又は複数の無線ネットワークを介して前記クラウドコンピューティングシステム(32A)に遠隔で接続される、ヒューマンマシンインターフェース(33B)である、請求項8に記載のトレッド摩耗監視システム。
【請求項11】
前記処理装置/システム(32)は、前記自動車(4)に搭載された電子制御ユニット(32B)であり、
前記通知装置は(33) は、前記自動車(4)に搭載されたヒューマンマシンインターフェース(33B)である、請求項8に記載のトレッド摩耗監視システム。
【請求項12】
自動車(4)の走行に関連する走行関連量を受け取るように設計され、請求項8~10のいずれか一項に記載のトレッド摩耗監視システム(3、3A、3C)の前記処理装置/システム(32)としてプログラムされた、クラウドコンピューティングシステム(32A)。
【請求項13】
自動車(4)に搭載されるとともに、前記自動車(4)の走行に関連する走行関連量を受け取るように、設計され、請求項8又は11に記載の摩耗監視システム(3、3B)の前記処理装置/システム(32)としてプログラムされた、電子制御ユニット(32B)。
【請求項14】
1つ又は複数のソフトウェア及び/又はファームウェアコード部分を備えたコンピュータプログラム製品であって、前記1つ又は複数のソフトウェア及び/又はファームウェアコード部分は:
・自動車(4)の走行に関連する走行関連量を受け取るように設計された処理装置/システム(32、32A、32B)にロード可能であり;
・ロードされると、前記処理装置/システム(32、32A、32B)を、請求項8~11のいずれか一項に記載のトレッド摩耗監視システム(3、3A、3B、3C)の前記処理装置/システム(32、32A、32B)としてプログラムされるようにする、コンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車(例えば、内燃機関を搭載した車両、ハイブリッド車、電気自動車等)のタイヤのトレッド摩耗及び残存トレッド材料(RTM:Remaining Tread Material)を推定する能力を備えたトレッド摩耗監視のための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
広く知られているように、自動車のタイヤは、使用に伴い、劣化するおそれがある;特に、タイヤのトレッドは、時間の経過とともに、摩耗し、それにより、トレッド深さが減少するおそれがある。トレッド深さが特定の寿命末期トレッド深さに達したとき、運転の安全性を損なわないようにするために、タイヤは交換されるべきである。
【0003】
残念ながら、多くのドライバーは、自動車のタイヤのトレッド深さを定期的にチェックしておらず、その結果、1つ又は複数のタイヤのトレッド深さが寿命末期トレッド深さに達した(又は、さらに悪いことに、それより低くなった)場合でも運転を続けるリスクがあり、それにより、安全性の深刻なリスクを負い続ける。実際、通常、一般的なドライバーは、トレッド深さ測定ツールを所有しておらず、自分の自動車のタイヤをタイヤショップで定期的にチェックすることを忘れる可能性がある。
【0004】
そのため、自動車分野では、RTMを推定できる技術の必要性が顕著に感じられる。
【0005】
例えば、この種の既知の解決策は、WO2017/156213A1(特許文献1)及びWO2017/156216A1(特許文献2)で提供されており、これらは、それぞれ、車両統合予想トレッド寿命インジケータシステム及び運転コンパニオントレッド寿命インジケータシステムに関連している。特に、これらの両方の国際出願は、タイヤのトレッド寿命を監視するためのコンピュータ実装型の方法を開示しており、その方法は以下を含む:
・1つ又は複数のプロセッサによって、1つ又は複数のトレッド深さ測定値に関連するデータを受信するステップであって、1つ又は複数のトレッド深さ測定値は、車両の外部の測定装置によって作成され、1つ又は複数のトレッド深さ測定値は、車両の少なくとも1つのタイヤの少なくとも1つのトレッドでのトレッド深さを記述するものである、ステップ;
・1つ又は複数のプロセッサによって、それぞれの時間値又は距離値を1つ又は複数のトレッド深度測定値のそれぞれに関連付けるステップ;
・1つ又は複数のプロセッサによって、1つ又は複数のトレッド深さ測定値を予測されたトレッド深さに相関させるモデルにアクセスするステップ;
・1つ又は複数のプロセッサによって、予測されたトレッド深さが、少なくとも部分的にモデルに基づいてトレッド深さ閾値に等しいか又はそれを超えると予想される推定時間又は推定距離を決定するステップ;及び
・1つ又は複数のプロセッサによって、通知システムに推定時間又は推定距離を提供するステップ。
【0006】
前記通知システムは:
・WO2017/156213A1(特許文献1)によれば、車両に統合され、一方、
・WO2017/156216A1(特許文献2)によれば、ユーザーコンピューティング装置(例えば、スマートフォン又はタブレット)に統合される。
【0007】
また、出願人は、自動車(例えば、内燃機関を搭載した車両、ハイブリッド車、電気自動車等)のタイヤのトレッド摩耗及びRTMを推定するための技術を開発する必要性を感じ
ている。この点に関して、2018年6月14日に出願された出願人のイタリア特許出願第102018000006322号(特許文献3)は、以下を含むトレッド摩耗監視方法を開示している:
・
図1に概略的に示されているトレッド摩耗モデル較正ステップ(全体として1で示されている);及び
・
図2に概略的に示されているトレッド摩耗監視ステップ(全体として2で示されている)。
【0008】
特に、
図1に示すように、トレッド摩耗モデル較正ステップ1は次のものを含む:
・好ましくは1つ又は複数の屋内摩耗試験機等の1つ又は複数のタイヤ試験システム/装置/機械を使用することにより、1つ又は複数のタイヤ(ブロック11)に対してトレッド摩耗試験を実行するステップ;
・実行されたトレッド摩耗試験から生じるトレッド摩耗を示すトレッド摩耗関連量と実行されたトレッド摩耗試験中に試験されたタイヤが受ける摩擦エネルギーに関連する第1摩擦エネルギー関連量とを測定するステップ (ブロック12);及び
・測定されたトレッド摩耗関連量と第1摩擦エネルギー関連量とに基づいて、較正済みトレッド摩耗モデル(TWM: Tread Wear Model)を決定するステップ(ブロック13)。
【0009】
便利には、トレッド摩耗関連量は、実行されたトレッド摩耗試験に起因するトレッド深さの減少を示している。
【0010】
好ましくは、較正済みTWM(ブロック13)を決定するステップは、以下を含む:
・所定基準TWMを提供するステップであって、所定基準TWMは、
―(一般的な)走行経路に沿って(一般的な)タイヤに生じる摩擦エネルギーを、
―上記摩擦エネルギーによって引き起こされるトレッド摩耗に、
―所与のパラメータを介して;
数学的に関連付ける、ステップ、
・所定基準TWMと測定されたトレッド摩耗関連量及び第1摩擦エネルギー関連量とに基づいて(便利には、測定されたトレッド摩耗関連量及び第1摩擦エネルギー関連量を所定基準TWMに適用し、それにより、所与のパラメータの較正値を計算することによって)、所与のパラメータの較正値を計算するステップ、及び
・所定基準TWMと計算された較正値とに基づいて(便利には、計算された較正値を所定基準TWMに適用することによって)、較正済みTWMを決定するステップ。
【0011】
所定基準TWMは、タイヤ摩耗物理学の所定数学的定式化に便利に基づいており、そのパラメータは、トレッド摩耗試験中におけるトレッド摩耗の測定値及び摩擦エネルギーの測定値に基づいて計算することができる。特に、所定数学的定式化は、タイヤのトレッドが、走行経路に沿ってタイヤに生じる摩擦エネルギーとタイヤが摩耗に耐える固有の能力とに比例する量で摩耗する、という観察に基づいている。例えば、所定基準TWMは、数学用語で次のように表すことができる:
WT= fn,k,...(EFR) (1)
ここで、
・EFRは、(一般的な)走行経路に沿って(一般的な)タイヤに生じる摩擦エネルギーを示し、
・WTは、摩擦エネルギーEFRによるトレッド摩耗(例えば、平均トレッドスキッド損失、すなわち、トレッド幅全体にわたる平均トレッド深さの減少で表される)を示し、
・fn,k,...(EFR)は、摩擦エネルギーEFRの所定数学関数を示す。この所定数学関数は、所与のパラメータn,k,...の組によって特徴付けられ、摩擦エネルギーEFRに基づいて、前記摩擦エネルギーEFRによるトレッド摩耗WTの計算を可能にする。
【0012】
好ましくは、所定基準TWM、ひいては、式(1)は、以下の数式に従って有利に表現さ
れ得る:
WT = k・(EFR)n, (2)
ここで、
・nは、タイヤの完全な摩耗への耐性(摩耗性)に関連しており、
・kは、外的要因(例えば、表面)による摩耗に対するタイヤの感度に関連している。
【0013】
特に、パラメータn及びkは、各タイヤモデル(パターン、配合、構造)に固有の関数「摩耗vs摩擦エネルギー」の形状を規定する。
【0014】
次に、摩擦エネルギーEFRは、式(1)及び(2)のいずれかにおいて、次のように表すことができる:
EFR = g(Q1,Q2,Q3,...) (3)
ここで、
・Q1,Q2,Q3,...は、通常、走行経路に沿って変化する摩擦エネルギー関連量を示す(ここで、摩擦エネルギー関連量Q1,Q2,Q3,...は、次量の1つ又は複数量を便利に含み得る:コーナリング力と縦方向力との合計、滑り力、スリップ角、スリップ率、コーナリング剛性、ブレーキ/トラクション剛性等)、及び
・g(Q1,Q2,Q3,...)は、摩擦エネルギー関連量Q1,Q2,Q3,...の所定関数を示す。この所定数学関数は、前記走行経路にわたる摩擦エネルギー関連量Q1,Q2,Q3,...に基づいた、走行経路にわたって(一般的な)タイヤに生じる全体的な摩擦エネルギーEFRの計算を可能にする。
【0015】
上記を考慮すると、実行されたトレッド摩耗試験(
図1のブロック11)中に第1摩擦エネルギー関連量(
図1のブロック12)を測定することにより、式(3)に基づいて、試験対象のタイヤに生じる全体的な摩擦エネルギーE
FRを計算(
図1のブロック13)できることは明らかである。次に、式(1)に基づいて、所与のパラメータn,k,...の組と、式(3)に基づいて計算される全体的な摩擦エネルギーE
FRと、トレッド摩耗試験のために測定されたトレッド摩耗関連量(
図1のブロック12)と、を計算する(
図1のブロック13)ことができる。それ以外の場合は、式(2)に基づいた所与のパラメータn及びkと、式(3)に基づいて計算される全体的な摩擦エネルギーE
FRと、トレッド摩耗試験のために測定されたトレッド摩耗関連量(
図1のブロック12)と、を計算する(
図1のブロック13)ことができる。
【0016】
便利には、トレッド摩耗試験(
図1のブロック11)に関しては、シミュレートされる走行経路を定義し、その後、例えば1つ又は複数の屋内摩耗試験機等の1つ又は複数のタイヤ試験システム/装置/機械によって前記走行経路をシミュレートすることができる。1つ又は複数の屋内摩耗試験機は、実施されるトレッド摩耗試験中に、第1摩擦エネルギー関連量(例えば、コーナリング力と縦方向力との合計、スリップ角、スリップ率、コーナリング剛性等)の測定値を提供する。代わりに、トレッド摩耗関連量は、トレッド深さ測定ツールにより、シミュレートされる各走行経路の後に便利に測定され得る。
【0017】
前述のことから、トレッド摩耗モデル較正ステップ1が、タイヤのタイプ/モデルごとに、それぞれ特別に較正されたTWMを取得することを可能にすることは、明らかである。便利には、トレッド摩耗モデル較正ステップ1は、タイヤのタイプ/モデルごとに、例えば、前輪に取り付けられたタイヤのための第1の較正済みTWM、及び、後輪に取り付けられたタイヤのための第2の較正済みTWM、又は、4輪自動車の場合、右前輪に取り付けられたタイヤのための第1の較正済みTWM、左前輪に取り付けられたタイヤのための第2の較正済みTWM、右後輪に取り付けられたタイヤのための第3の較正済みTWM、及び、左後輪に取り付けられたタイヤのための第4の較正済みTWM等の、複数のそれぞれの特別に較正済みTWMを、自動車へのタイヤの取り付け位置に応じて取得するために、実行され得る。
【0018】
さらに、
図2に示すように、トレッド摩耗監視ステップ2は、次のものを含む:
・それぞれにタイヤが取り付けられた2つ以上のホイールを備えた自動車(例えば、スクーター、バイク、車、バン、トラック等)の車両バスから、自動車の走行に関連する走行関連量(例えば、縦方向及び横方向の加速度、速度、操舵角、ヨーレート、車両の横滑り、ホイールの角速度等)を取得するステップ(ブロック21);
・取得した走行関連量と自動車に関連する所定車両ダイナミクスモデルとに基づいて、走行中に自動車のタイヤに生じる摩擦エネルギーに関連する第2摩擦エネルギー関連量を計算するステップ(ブロック22);
・推定するステップ(ブロック23)であって、
―第2摩擦エネルギー関連量と較正済みTWMとに基づいた、走行中に自動車のタイヤに生じるトレッド摩耗と、
―推定されたトレッド摩耗に基づいた自動車のタイヤのRTMと、
を推定するステップ。
【0019】
好ましくは、第2摩擦エネルギー関連量(ブロック22)を計算するステップは、以下を含む:
・所定車両ダイナミクスモデルを提供するステップであって、所定車両ダイナミクスモデルは、自動車に関連し、また、
―走行中に自動車の車両バスから取得される走行関連量(例えば、縦方向及び横方向の加速度、速度、操舵角、ヨーレート、車両の横滑り、ホイール角速度等)を、
―走行中に自動車のタイヤに生じる摩擦エネルギーに関連する第2摩擦エネルギー関連量に、
数学的に関連付ける、ステップ;及び
・所定車両ダイナミクスモデルと取得された走行関連量とに基づいて(便利には、前記取得された走行関連量を所定車両ダイナミクスモデルに入力することによって)、前記第2摩擦エネルギー関連量を計算するステップ。
【0020】
所定車両ダイナミクスモデルは、自動車のダイナミクスの所定数学的定式化に便利に基づいている。所定数学的定式化は、車両上で実行される測定(すなわち、走行関連量を生成する測定)に基づいた、走行中にタイヤに生じる力及び滑りの計算を可能にする。例えば、所定車両ダイナミクスモデルは、数学的用語により、次のように表し得る:
Q1,Q2,Q3,... = h(P1,P2,P3,...) (4)
ここで、
・P1,P2,P3,...は、取得された走行関連量(走行関連量は、前述のように、縦方向及び横方向の加速度、速度、操舵角、ヨーレート、車両の横滑り、ホイール角速度等を含み得る)を示し、
・Q1,Q2,Q3,...は、この場合、第2摩擦エネルギー関連量(例えば、コーナリング力と縦方向力との合計、スリップ角、スリップ率、コーナリング剛性等)を示し、
・h(P1,P2,P3,...)は、取得された走行関連量P1,P2,P3,...の所定数学関数を示す。所定数学関数は、前記取得された走行関連量P1,P2,P3,...に基づいた第2摩擦エネルギー関連量Q1,Q2,Q3,...の計算を可能にする。
【0021】
したがって、第2摩擦エネルギー関連量Q
1,Q
2,Q
3,...が取得された走行関連量P
1,P
2,P
3,...と式(4)とに基づいて計算されると、第2摩擦エネルギー関連量Q
1,Q
2,Q
3,...を較正済みTWM(
図2のブロック23)に入力することにより、すなわち、第2摩擦エネルギー関連量Q
1,Q
2,Q
3,...を、トレッド摩耗モデル較正ステップ1で計算された所与のパラメータの較正値によって特徴付けられる所定基準TWMに入力することにより、走行中に自動車のタイヤに生じるトレッド摩耗を推定することができる。
【0022】
極端な組み立てにおいては、トレッド摩耗モデル較正ステップ1において、トレッド摩耗関連量(すなわち、式(1)及び(2)のWT)と第1摩擦エネルギー関連量(すなわち、式(3)のQ1,Q2,Q3,...)とは「既知」であり、一方、所与のパラメータ(すなわち、式(1)のn,k,...、及び、式(2)のn及びk)は、「未知」であるが、式(1)及び(3)、又は、式(2)及び(3)を使用することにより計算され得る。
【0023】
代わりに、トレッド摩耗監視ステップ2において、所与のパラメータ(すなわち、式(1)のn,k,...、及び、式(2)のn及びk)は、トレッド摩耗モデル較正ステップ1から既知であり、走行関連量(すなわち、式(4)のP1,P2,P3,...)も、車両上の測定値から「既知」である。したがって、トレッド摩耗(すなわち、式(1)及び(2)のWT)は、式(1)、(3)及び(4)、又は、式(2)、(3)及び(4)を使用することにより、推定され得る。
【0024】
便利には、自動車のタイプ/モデルごとに、それぞれの所定車両ダイナミクスモデルがトレッド摩耗監視ステップ2で使用され、それにより、第2摩擦エネルギー関連量が計算される(
図2のブロック22)。より便利には、自動車のタイプ/モデルごとに、複数のそれぞれの所定車両ダイナミクスモデルが使用され、それにより、自動車へのタイヤの異なる取り付け位置(すなわち、前後ホイール、又は、前左右ホイール及び後左右ホイール)が考慮されてもよい。
【0025】
好ましくは、トレッド摩耗を推定するステップ(
図2のブロック23)は、第2摩擦エネルギー関連量と較正済みTWMとに基づいて、自動車の走行距離によるトレッド深さの減少を示すトレッド摩耗値を計算するステップを含み、RTMを推定するステップ(再び
図2のブロック23)は、トレッド摩耗値と初期トレッド深さとに基づいて、残りのトレッド深さを計算するステップを含む。便利には、残りのトレッド深さは、初期のトレッド深さに対する残りのトレッド深さのパーセンテージで表される。
【0026】
さらに、RTMを推定するステップ(
図2のブロック23)は、残りのトレッド深さが所定閾値に達した場合(例えば、残りのトレッド深さのパーセンテージが初期のトレッド深さの20%に達した又はこれを下回った場合)に、自動車のタイヤの寿命末期に近づいた状態を検知するステップを、便利に含む。
【0027】
好ましくは、トレッド摩耗及びRTMの推定(
図2のブロック23)は、自動車によって走行されるNキロメートル/マイルごとに実行される。ここで、Nは、所定の正の整数(例えば、Nは、キロメートル/マイルにおいて、5000又は10000に等しくてもよいし、あるいは、これより小さな数でもよい)を示す。
【0028】
トレッド摩耗及びRTMの推定(
図2のブロック23)の精度及び信頼性は、トレッド摩耗監視がされている自動車のドライバー/所有者がタイヤショップに行って自身の自動車のタイヤのトレッド深さを測定すると、便利に向上され得る。実際、推定されたトレッド摩耗及びRTMは、トレッド深さ測定ツールによって実行されるトレッド深さ測定に基づいて有利に修正され得る(なぜなら、前記測定は、推定誤差を一掃し、ひいては、トレッド摩耗及びRTMの推定をリセットすることを、可能にするからである)。
【0029】
さらに、IT102018000006322(特許文献3)は、
図3(全体として3で示されている)に概略的に示されているトレッド監視システムも開示している。トレッド監視システムは、次を含む:
・取得装置31であって、
―それぞれにタイヤが取り付けられた2つ以上のホイールを備えた自動車(
図3には図示せず―例えば、スクーター、バイク、車、バン、トラック等)に搭載され、
―走行関連量(
図2のブロック21)を取得するために、(例えば、コントローラエリアネットワーク(CAN: Controller Area Network)のバス標準に基づいて)前記自動車の車両バス40に結合されている;
取得装置31、
・処理装置/システム32であって、有線又は無線方式で取得装置31に接続され、それにより、取得装置31から走行関連量を受信するようにされ、
―第2摩擦エネルギー関連量(
図2のブロック22)を計算し、
―トレッド摩耗及びRTMを推定する(
図2のブロック23);
ようにプログラムされている、処理装置/システム32、及び
・自動車に関連するユーザ(例えば、そのドライバー及び/又はその所有者)に、処理装置/システム32によって推定されたタイヤのRTMを通知するように構成された、通知装置33。
【0030】
便利には、通知装置33は、自動車のタイヤについて処理装置/システム32によって検出された寿命末期に近づいた状態に対して、自動車に関連するユーザに警告するように構成される。
【0031】
さらに、
図4及び5は、IT102018000006322(特許文献3)によるトレッド摩耗監視システム3の2つの特定の好ましい実施形態を概略的に示している。
【0032】
特に、
図4を参照すると、トレッド摩耗監視システム3の第1の特定の好ましい実施形態(全体として3Aで示される)において:
・処理装置/システム32は、取得装置31に無線及び遠隔で(例えば、GSM、GPRS、EDGE、HSPA、UMTS、LTE、LTE Advanced及び/又は将来の第5世代(又はそれ以降)の無線通信システム等の1つ又は複数の移動通信技術を介して)接続されたクラウドコンピューティングシステム32Aによって実装/実行され;
・通知装置33は、電子通信装置33A(例えば、スマートフォン、タブレット、ラップトップ、デスクトップコンピュータ、スマートTV、スマートウォッチ等)によって実装/実行される。電子通信装置33Aは、自動車(
図4では4で示される)に関連付けられたユーザ(
図4では5で示される)に関連付けられ(例えば、所有され及び/又は使用され)、クラウドコンピューティングシステム32Aに1つ又は複数の有線及び/又は無線ネットワークリモートを介して遠隔に接続されている。
【0033】
好ましくは、クラウドコンピューティングシステム32Aは、RTM通知を電子通信装置33Aに送信するようにプログラムされ、次に、電子通信装置33Aは、ユーザ5に前記RTM通知を提供する。例えば、電子通信装置33Aは、便利には、ソフトウェアアプリケーション(すなわち、いわゆるアプリ)がインストールされたスマートフォン又はタブレットであり得る。そのアプリは、クラウドコンピューティングシステム32Aから、タイヤの推定されたRTMを示すプッシュ通知を受信するように構成される。例えば、SMSメッセージ、電子メールメッセージ、又は、より一般的には、テキスト及び/又はオーディオ及び/又は画像及び/又はビデオ及び/又はマルチメディアタイプのメッセージ等、他のタイプのRTM通知も使用され得る。
【0034】
クラウドコンピューティングシステム32Aは、多くの自動車4、ひいては、多くのユーザ5に、トレッド摩耗監視サービスを提供するために有利に使用され得ることは、注目に値する。
【0035】
代わりに、
図5を参照すると、トレッド摩耗監視システム3の第2の特定の好ましい実施形態(全体として3Bで示される)において:
・処理装置/システム32は、自動車4に搭載された(自動車)電子制御ユニット(EC
U: Electronic Control Unit)32Bによって実装/実行され;
・通知装置33は、自動車4に搭載されたヒューマンマシンインターフェース(HMI: Human―Machine Interface)33Bによって実装/実行される。
【0036】
第2の特定の好ましい実施形態3Bでは、ECU32Bは、HMI33Bによって表示される画像メッセージを介して(HMI33Bは、したがって、画面及び/又は画像インジケータを便利に備え得る)、タイヤの推定されたRTMを自動車4のドライバーに便利に通知し得る。
【0037】
ECU32Bは、便利には、トレッド摩耗監視専用のECU、又は、トレッド摩耗監視を含むいくつかのタスク専用のECUであり得る。
【0038】
同様に、HMI33Bは、便利には、トレッド摩耗監視専用のHMI、又は、トレッド摩耗監視も含むいくつかのタスク専用のHMI(例えば、車載インフォテレマティクス及び/又は走行支援システムのHMI)であり得る。
【0039】
上記を考慮すると、IT102018000006322(特許文献3)に従ったトレッド摩耗監視方法及びシステムが、タイヤ摩耗物理学、車両ダイナミクス及び走行スタイルを考慮に入れることにより、ドライバーがトレッド深さ測定ツールを所有したりタイヤショップに行って自身の自動車のタイヤのトレッド深さを測定したりする必要無しに、タイヤトレッド摩耗及びRTMを非常に効率的かつ信頼できる方法で自動的に推定することを可能にすることは、明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0040】
【文献】国際公開第2017/156213号パンフレット
【文献】国際公開第2017/156216号パンフレット
【文献】イタリア特許出願第201800006322号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0041】
IT102018000006322(特許文献3)に従ったトレッド摩耗監視方法は、トレッドプロファイルに沿った平均材料消費量としてトレッド摩耗を推定することを可能にする。これにより、完全に規則的なトレッド摩耗が暗黙的に想定される(すなわち、全てのトレッドリブが実質的に同じ速度で摩耗すると想定される)。
【0042】
しかし、出願人は、多くの場合、タイヤの設計及び使用により、タイヤのトレッドが不規則に摩耗し、1つ又は複数のリブがかなり早く摩耗することに気づいた。
【0043】
したがって、本発明の目的は、不規則なトレッド摩耗を考慮することにより、より高い精度で残存トレッド材料(RTM)を推定することができる、改良型のトレッド摩耗監視方法及び改良型のトレッド摩耗監視システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0044】
この目的は、本発明が添付の請求項で定義されるトレッド摩耗監視方法及びトレッド摩耗監視システムに関連するという点で、本発明によって達成される。
【0045】
本発明をよりよく理解するために、以下では、純粋に非限定的な例として意図されている好ましい実施形態を、添付の図面(全て縮尺どおりではない)を参照しつつ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】出願人のイタリア特許出願第201800006322号(特許文献3)によるトレッド摩耗監視方法のトレッド摩耗モデル較正ステップを概略的に示している。
【
図2】出願人のイタリア特許出願第201800006322号(特許文献3)によるトレッド摩耗監視方法のトレッド摩耗監視ステップを概略的に示している。
【
図3】
図2のトレッド摩耗監視ステップを実行するためのIT201800006322(特許文献3)によるトレッド摩耗監視システムを概略的に示している。
【
図4】IT201800006322(特許文献3)による
図3のトレッド摩耗監視システムの特定の好ましい実施形態を概略的に示している。
【
図5】IT201800006322(特許文献3)による
図3のトレッド摩耗監視システムの特定の好ましい実施形態を概略的に示している。
【
図6】本発明の好ましい実施形態による、改良型のトレッド摩耗監視方法の予備ステップを概略的に示している。
【
図7】本発明の好ましい実施形態による、改良型のトレッド摩耗監視方法の改良型のトレッド摩耗監視ステップを概略的に示している。
【
図8】
図7の改良型のトレッド摩耗監視ステップを実行するための、改良型のトレッド摩耗監視システムの非限定的な例を概略的に示している。
【発明を実行するための形態】
【0047】
以下の議論は、当業者が本発明を作成及び使用することを可能にするために提示される。実施形態への様々な修正は、請求項に規定された本発明の範囲から逸脱することなく、当業者には容易に明らかであろう。したがって、本発明は、示される及び説明される実施形態に限定されることが意図されておらず、本明細書に開示され、かつ、添付の請求項で定義される原理及び特徴と一貫性のある最も広い範囲の保護を与えられるべきである。
【0048】
本発明は、(特に、出願人のイタリア特許出願第201800006322号(特許文献3)による解決策に対して改良された)改良型のトレッド摩耗監視方法に関するものであり、改良型のトレッド摩耗監視方法は、予備ステップと改良型のトレッド摩耗監視ステップとを含む。
【0049】
これに関連して、
図6は、本発明の好ましい実施形態による予備ステップ(全体として6で示される)を概略的に示している。特に、予備ステップ6は、IT201800006322(特許文献3)によるトレッド摩耗監視方法のトレッド摩耗モデル較正ステップ1を実行し、それにより、較正済みトレッド摩耗モデル(TWM: Tread Wear Model)を決定するステップを含む。この点に関して、トレッド摩耗モデル較正ステップ1の前述の詳細な説明を考慮し、以下では、トレッド摩耗モデル較正ステップ1は再び説明されず、以下に代わりに明示的に説明される関連の相違点/変更を除いて、前述に記載されているとおりに有効なままであるという事実に注意を引く価値がある。
【0050】
さらに、予備ステップ6は、さらに以下を含む:
・1つ又は複数の測定されたトレッド摩耗関連量(
図1のブロック12で測定され、
図1のブロック11で実行されるトレッド摩耗試験から得られたトレッド摩耗を示す)に基づいて、タイヤの特徴(例えば、パターン、構造等)に起因する不規則なトレッド摩耗に関連する第1補正係数を決定するステップ―
図6のブロック61;及び
・タイヤの使用に起因する(例えば、走行スタイル、走行経路、車両の特徴等に起因する)不規則なトレッド摩耗に関連する第2補正係数を提供するように、人工ニューラルネットワーク(ANN: Artificial Neural Network)を訓練するステップ―
図6のブロック62。
【0051】
好ましくは、第1補正係数は、タイヤの特徴に起因する不規則なトレッド摩耗の平均RT
Mに対する、最も摩耗したトレッド点での残存トレッド材料(RTM)の、第1比率を示し、各第2補正係数は、タイヤの使用に起因する不規則なトレッド摩耗の平均RTMに対する、最も摩耗したトレッド点でのRTMの、対応する第2比率を示す。
【0052】
詳細には、本発明の特定の非限定的な好ましい実施形態においては:
・トレッド摩耗試験(
図1のブロック11)を実行するステップは、
―シミュレートされる試験走行経路を定義するステップ、及び
―試験走行経路をシミュレートするタイヤ試験システム/装置/機械(例えば屋内摩耗試験機等)により、所与のタイヤに対してトレッド摩耗試験を実行するステップ;
を含み、
・トレッド摩耗関連量を測定するステップ(
図1のブロック12)は、トレッド深さ測定ツールにより、所与のタイヤのトレッド深さプロファイルを測定するステップを含み、トレッド深さプロファイルは、シミュレートされた試験走行経路から得られ;
・第1補正係数を決定するステップ(
図6のブロック61)は、
―測定されたトレッド深さプロファイルに基づいて、所与のタイヤの最も摩耗したトレッド点での(例えば、最も摩耗したトレッドリブでの)第1最悪点RTM量RTM
1,WPと前記所与のタイヤのトレッドプロファイルにわたる第1平均RTM量RTM
1,AVとを決定するステップ、及び
―第1補正係数CF
1を、第1平均RTM量RTM
1,AVに対する第1最悪点RTM量RTM
1,WPの比率(すなわち、CF
1 = RTM
1,WP/RTM
1,AV)として計算するステップ
を含む。
【0053】
便利には、トレッド摩耗試験を実行するステップ(
図1のブロック11)は:
・1つ又は複数の車両モデルと1つ又は複数のタイヤモデルとを選択するステップ;
・シミュレートされる1つ又は複数の試験走行経路を定義するステップ;及び
・所与のタイヤが装着された、選択された車両モデルの1つ又は複数の自動車によって走行される試験走行経路をシミュレートする、1つ又は複数のタイヤ試験システム/装置/機械(例えば1つ又は複数の屋内摩耗試験機等)により、選択されたタイヤモデルの1つ又は複数の所与のタイヤに対して1つ又は複数のトレッド摩耗試験を実行するステップをも含む。
【0054】
このようにして、様々な車両モデル、様々なタイヤモデル、及び様々な試験走行経路に対して、様々な第1補正係数を定義する(
図6のブロック61)ことができる。
【0055】
好ましくは、ANNは、タイヤ使用関連統計データと対応するRTM関連統計データとを含む所与のデータベース(例えば、摩耗フリートデータベース)に基づいて訓練される(
図6のブロック62)。
【0056】
より好ましくは、タイヤ使用関連統計データは、使用済みタイヤに関連するとともに前記使用済みタイヤの不規則なトレッド摩耗をもたらした、記録されたタイヤ使用関連量(例えば、横方向及び縦方向加速度のルート平均二乗(RMS: Root Mean Square)として表される経路重大度、車両ホイール配置、及びタイヤ空気圧等、通常、不規則なトレッド摩耗を引き起こす車両及び経路パラメータ)を示し、一方、対応するRTM関連統計データは、使用済みタイヤについて決定されたRTM量の対を示す。ここで、各RTM量の対は:
・それぞれの使用済みタイヤに関連し、前記それぞれの使用済みタイヤに関連するそれぞれの記録されたタイヤ使用関連量に対応し;
・それぞれの使用済みタイヤの最も摩耗したトレッド点でのそれぞれの第2最悪点RTM量RTM2,WPと、それぞれの使用済みタイヤのトレッドプロファイルにわたるそれぞれの第2平均RTM量RTM2,AVと、を含む。
【0057】
さらに、ANNを訓練するステップ(
図6のブロック62)は、好ましくは、以下を含む:
・使用済みタイヤごとに、それぞれの第2補正係数CF
2を、それぞれの第2平均RTM量RTM
2,AVに対するそれぞれの第2最悪点RTM量RTM
2,WPの比率(すなわち、CF
2 = RTM
2,WP/RTM
2,AV)として計算するステップ;及び
・教師あり学習手法を実行することによりANNを訓練するステップであって、教師あり学習手法は、使用済みタイヤごとに、入力としての前記使用済みタイヤに関連する記録されたタイヤ使用関連量と、出力としてのそれぞれの第2補正係数CF
2と、をANNへ適用するステップを含み、これにより、ANNは、入力タイヤ使用関連量に基づいて、対応する第2補正係数CF
2を出力するように訓練される、ステップ。
【0058】
第1及び第2補正係数CF1及びCF2は、通常、不規則なトレッド摩耗に起因して1よりも小さく(これに対して、これらは、完全に規則的なトレッド摩耗の場合は1に等しくなる)、一方、(例えば、非常に不規則なトレッド摩耗に起因して)第1/ 第2平均RTM量RTM1,AV、RTM2,AVに対して第1及び第2最悪点RTM量RTM1,WP、RTM2,WPが小さいほど、第1/第2補正係数CF1、CF2が小さくなることに、注目すべきである。
【0059】
したがって、第1及び第2補正係数CF1及びCF2は、IT102018000006322(特許文献3)(これのRTM推定は、前述のとおり、トレッドプロファイルにわたる平均トレッド摩耗推定に基づいており、不規則なトレッド摩耗は無視される)に従って前述のトレッド摩耗監視ステップ2を実行することによってRTM推定を改良するために、改良型のトレッド摩耗監視ステップで有利に利用されることができる。このようにして、不規則なトレッド摩耗も考慮に入れた、より正確なRTM推定(すなわち、より正確なタイヤの残存耐用年数(RUL: Remaining Useful Life)推定)を得ることが可能である。数学的用語を用いると、このRTM推定の改良は、次のように便利に表すことができる:
RTMrefined= RTMaverage・CF1・CF2 (5)
ここで
・RTMaverageは、IT102018000006322(特許文献3)に従って前述のトレッド摩耗監視ステップ2を実装することによって推定された第3平均RTM量を示す。
・RTMrefinedは、(CF1を介した)タイヤの特徴及び(CF2を介した)タイヤの使用に起因した不規則なトレッド摩耗を考慮した、補正済みRTM量を示す。
【0060】
これに関連して、
図7は、本発明の好ましい実施形態による、改良型のトレッド摩耗監視ステップ(全体として7で示される)を概略的に示す。特に、改良型のトレッド摩耗監視ステップ7は、以下を含む:
・IT102018000006322(特許文献3)によるトレッド摩耗監視方法のトレッド摩耗監視ステップ2を実行し、それによって第3平均RTM量RTM
averageを取得する、ステップ;及び
・第1及び第2補正係数CF
1及びCF
2に基づいて(便利には式(5)を使用することにより)、RTM推定改良(ブロック71)を実行し、それにより、タイヤの特徴及びタイヤの使用に起因する不規則なトレッド摩耗を考慮して、補正済みRTM量RTM
refinedを取得する、ステップ。
【0061】
この点に関して、トレッド摩耗監視ステップ2の前述の詳細な説明を考慮し、以下では、トレッド摩耗監視ステップ2は再び説明されず、以下に代わりに明示的に説明される関連の相違点/変更を除いて、前述に記載されているとおりに有効なままであるという事実に注意を引く価値がある。
【0062】
より詳細には、RTM推定改良を実行するステップ(
図7のブロック71)は、以下を含む:
・(
図2のブロック21で取得された)1つ又は複数の取得された走行関連量に基づいて、訓練済みANNにより、第2補正係数CF
2を提供するステップ;及び
・第1の補正係数CF
1に基づいて第3平均RTM量RTM
averageを補正し、1つ又は複数の取得された走行関連量に基づいて、訓練済みANNによって提供された、第2補正係数CF
2を補正する、ステップ。
【0063】
好ましくは、取得された走行関連量は、トレッド摩耗監視下にある車両の横方向及び縦方向加速度を示す加速度関連量を含み、訓練済みANNにより第2補正係数CF2を提供するステップは、以下を含む:
・加速度関連量に基づいて、トレッド摩耗監視下にある車両の平均横方向及び縦方向加速度(例えば、横方向及び縦方向加速度のRMS等)を示す平均加速度関連量を計算する、ステップ;及び
・訓練済みANNに、平均加速度関連量と、少なくとも、トレッド摩耗監視下にあるタイヤに関連するタイヤの空気圧を示す圧力関連量と、トレッド摩耗監視下にあるタイヤ及び車両に関連するトー、キャンバー、及び荷重に関連する量と、を入力し、それにより、訓練済みANNが、対応する補正係数CF2を出力する、ステップ。
【0064】
便利には、圧力関連量は、取得された走行関連量に含まれてもよく、又は、メモリに格納された所定圧力関連量であってもよく、一方、トー、キャンバー、及び荷重に関連する量は、メモリに格納された所定量である。
【0065】
上記のことを別の観点から見ると、タイヤ使用関連統計データとRTM関連統計データとに基づいて予備ステップ6で実行されるANN訓練(
図6のブロック62)において、ANNは、(特に、RTM推定改良で使用される第2補正係数CF
2を決定するために―
図7のブロック71)改良型のトレッド摩耗監視ステップ7で使用される次の関数を学習するように訓練される:
CF
2 = r(RMS
Ay,RMS
Ax,P
ressure,T
oe,C
amber,L
oad) (6)
ここで、
・RMS
Ay及びRMS
Axは、それぞれ、トレッド摩耗監視下にある車両の平均横方向及び縦方向加速度(特に、横方向及び縦方向加速度のRMS)を示す平均加速度関連量を示し;
・P
ressureは、圧力関連量を示し;
・T
oe、C
amber、及びL
oadは、それぞれ、トー、キャンバー、及び荷重に関連する量を示し;
・CF
2は、前述したように、RTM
2,WP/RTM
2,AVに等しい。
【0066】
前述のことから、予備ステップ6のANN訓練(
図6のブロック62)は、異なるタイヤモデル及び/又は異なる車両モデルのために特別に訓練された異なるANNを得るために便利に実行され得ることがすぐに明らかである。
【0067】
本発明はまた、アーキテクチャの観点から、
図3に示され、以前に詳細に説明された、IT201800006322(特許文献3)によるトレッド摩耗監視システム3と同じアーキテクチャを有する、改良型のトレッド摩耗監視システムにも関する。処理装置/システム32は、本発明によれば、第1の補正係数CF
1を内部メモリに格納し、訓練済みANNを含み、IT201800006322(特許文献3)によるトレッド摩耗監視ステップ2を実行することによって、かつ、RTM推定改良を実行することによって(
図7のブロック71)、改良型のトレッド摩耗監視ステップ7を実行するようにプログラムされる。
【0068】
明らかに、
図4及び5に示され、以前に詳細に説明された、トレッド摩耗監視システム3の2つの特定の好ましい実施形態は、本発明による改良型のトレッド摩耗監視システムも実行するために、便利に利用されてもよい。
【0069】
これに関連して、ハイブリッドアーキテクチャ(
図8に示され、全体として3Cで示される)もまた、本発明による改良型のトレッド摩耗監視システムを実行するために便利に利用され得ることは、注目に値する。ここで、クラウドコンピューティングシステム32Aは、HMI33B(HMI33Bは、自動車4に搭載され、1つ又は複数の無線ネットワークを介してクラウドコンピューティングシステム32Aに遠隔に接続されている)と共に使用される。
【0070】
前述のことから、本発明の技術的利点及び革新的な特徴は、当業者にはすぐに明らかである。
【0071】
特に、本発明は、タイヤの特徴及びタイヤの使用に関連する不規則なトレッド摩耗を考慮に入れることによって、非常に高い精度で(特に、IT201800006322(特許文献3)による解決策に対して高められた精度で)RTMを推定できる、ということが重要である。。
【0072】
結論として、添付の請求項で定義されるように、本発明に対して多数の修正及び変形を行うことができ、それらのすべてが本発明の範囲内にあることは明らかである。