IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マフテック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図1
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図2
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図3
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図4
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図5
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図6
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図7
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図8
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図9
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図10
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図11
  • 特許-バインダー含有無機繊維成形体 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】バインダー含有無機繊維成形体
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/488 20120101AFI20220526BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20220526BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
D04H1/488
D04H1/4209
F01N3/28 311P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018065303
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019173242
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】522123566
【氏名又は名称】マフテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】森田 寛一
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-085359(JP,A)
【文献】特開平01-156562(JP,A)
【文献】特開2007-162583(JP,A)
【文献】特開平05-270936(JP,A)
【文献】特開2001-226866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
F01N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する第1面および第2面を有し、複数の凹部が形成された無機繊維成形体にバインダーが含有されてなる、バインダー含有無機繊維成形体であって、
前記バインダー含有無機繊維成形体は、バインダー濃度が相対的に高い複数の高濃度バインダー領域と、前記高濃度バインダー領域以外の前記バインダー濃度が相対的に低い低濃度バインダー領域とを有し、
前記複数の高濃度バインダー領域は、前記第1面と前記第2面と交差する方向に延在し、且つ少なくとも前記第1面において散在しており、
前記複数の高濃度バインダー領域に対する前記低濃度バインダー領域の体積比が1.5以上6.0以下であり、
前記高濃度バインダー領域の前記バインダー濃度が5%超25%以下であり、
前記低濃度バインダー領域の前記バインダー濃度が0%以上5%以下であることを特徴とする、バインダー含有無機繊維成形体。
【請求項2】
前記凹部がニードル痕であることを特徴とする、請求項に記載のバインダー含有無機繊維成形体。
【請求項3】
前記複数の高濃度バインダー領域の少なくとも一部に前記凹部が位置することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のバインダー含有無機繊維成形体。
【請求項4】
前記バインダーが有機バインダーを含む、請求項1から請求項までのいずれかの請求項に記載のバインダー含有無機繊維成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維成形体にバインダーが含有されてなるバインダー含有無機繊維成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックファイバーに代表される無機繊維をマット状にした無機繊維成形体は、工業用断熱材、耐火材、パッキン材等の高温状態に暴露される用途に用いられている。近年では、上記無機繊維成形体は、自動車の排ガス浄化装置用のクッション材(シール部材)、すなわち、触媒担持体や粒子フィルタ等の排ガス処理体を金属製のケーシングに収容する際に排ガス処理体に巻回され、排ガス処理体とケーシングとの間に介装される排ガス浄化装置用保持材としても用いられている(特許文献1)。
【0003】
排ガス処理体に排ガス浄化装置用の保持材を巻回した巻付体は、例えば、圧入方式(スタッフィング方式)、サイジング方式(スウェージング方式)、クラムシェル方式等の公知の方法によりケーシングに収容されるが、ケーシングへの収容の際に、上記巻付体における上記保持材が、ケーシングとの間で生じる摩擦力により層間剥離する場合がある。中でも圧入方式を用いる場合、上記巻付体がケーシングに圧入されるため、上記保持材において上述した不具合が生じやすい傾向にある。
【0004】
このような不具合の発生を防ぐために、従来、無機繊維成形体に対してニードリング処理を施すことが知られている。ニードリング処理とは、ニードル等の繊維交絡手段を、無機繊維成形体の対向する2つの表面と交差方向に抜き差しする処理であり、上記処理により数本~数十本の無機繊維が上記交差方向(縦方向)に配向して3次元的に交絡した無機繊維束となることでニードル痕が形成される。無機繊維成形体は、このようなニードル痕が形成されることで、剪断力が高くなり層間剥離が生じにくくなる。
【0005】
しかし、ニードリング処理がされた無機繊維成形体は、ニードル痕の数が少ないと、所望の剪断力が得られにくく、一方、ニードル痕の数が多すぎると反発力(弾性)が低下してしまい、排ガス浄化装置用保持材として用いた際に、ケーシング収容後の排ガス処理体の保持性が得られにくくなるという問題がある。
【0006】
そこで反発力の低下を抑えつつ高い剪断力を得るために、無機繊維成形体に対してニードリング処理をすると共に、無機繊維成形体全域で均一な濃度となるようにバインダーを含有させて、上記バインダーで無機繊維を結着させる技術が用いられている。この技術によれば、無機繊維成形体内において無機繊維の交絡点がバインダーで結着されるため、ニードル痕の数を減らしても高剪断力を示すことができる。また、無機繊維がランダムに配向した状態で無機繊維間の交絡点がバインダーで結着されるため、高剪断力を有しつつ、反発力の低下を抑制することができる。なお、バインダーを含有した無機繊維成形体のことを、バインダー含有無機繊維成形体と称する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-162583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、ニードル痕を有するバインダー含有無機繊維成形体において、バインダー濃度を高くすると、剪断力の向上は図れるが、バインダー含有量の増加に伴い無機繊維成形体の表面全体での摩擦力が大きくなる。このため、例えば排ガス浄化装置用保持材として用いる際に、ケーシングとの間で生じる摩擦力が大きくなりキャニング性に劣る場合がある。また、ケーシングとの間で生じる摩擦力と上記バインダー含有無機繊維成形体の剪断力との大小関係によっては、ケーシングへ圧入する際に、上記バインダー含有無機繊維成形体に層間剥離が生じやすくなる場合がある。さらにバインダー含有無機繊維成形体は、バインダー濃度を高くすると面圧が小さくなり、排ガス浄化装置用保持材として用いた際に、ケーシング収容後の排ガス処理体の保持性が十分に得られない場合がある。
【0009】
一方、バインダー含有無機繊維成形体は、バインダー濃度を低くすると表面全体での摩擦力が小さくなり、かつ面圧が大きくなるが、無機繊維間の結着箇所の減少に伴い剪断力が低くなり、層間剥離が生じやすくなる。このため、例えば排ガス浄化装置用保持材として用いる際に、ケーシングとの間で生じる摩擦力が小さくても、該摩擦力を受けてバインダー含有無機繊維成形体に層間剥離が生じやすくなる場合がある。
【0010】
なお、特許文献1では、触媒コンバータ用のシール部材について、排気ガス流れ方向の上流側端部及び下流側端部のうち少なくとも一方の端部に対し、その他の領域に比べて有機系バインダーやニードルパンチング処理により補強の度合いを高くすることが開示されている。特許文献1では、シール部材を上記構造とすることで、上記端部でケーシング内部への挿入時の挿入抵抗等によって生じるずれを回避しつつ、上記その他の領域でシール部材の弾性を維持しその反発力によりシール部材の保持力を高く維持できるようにしている。しかし、特許文献1に開示される構造では、シール部材の表面全体で、表面摩擦力の低減と剪断力および面圧の向上との両立を図ることが困難であると推量される。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、表面全体での摩擦力が小さく、剪断力および面圧が高いバインダー含有無機繊維成形体を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、対向する第1面および第2面を有し、複数の凹部が形成された無機繊維成形体にバインダーが含有されてなる、バインダー含有無機繊維成形体であって、上記バインダー含有無機繊維成形体は、バインダー濃度が相対的に高い複数の高濃度バインダー領域と、上記高濃度バインダー領域以外の上記バインダー濃度が相対的に低い低濃度バインダー領域とを有し、上記複数の高濃度バインダー領域は、上記第1面と上記第2面と交差する方向に延在し、且つ少なくとも上記第1面において散在しており、上記複数の高濃度バインダー領域に対する上記低濃度バインダー領域の体積比が1.5以上6.0以下であることを特徴とする、バインダー含有無機繊維成形体を提供する。
【0013】
本発明によれば、バインダー濃度の異なる2つの領域を有し、上記2つの領域のうち、複数の高濃度バインダー領域よりも低濃度バインダー領域が占める体積割合が大きいため、バインダー含有無機繊維成形体の表面全体での摩擦力を小さくし、面圧を高くすることができる。一方、上記高濃度バインダー領域では、無機繊維や無機繊維束がバインダーにより強固に結着されている。このような上記高濃度バインダー領域が、上記第1面と上記第2面と交差する方向に延在することで、無機繊維成形体内において上記高濃度バインダー領域が柱状に存在することになり、且つ、柱状の高濃度バインダー領域が散在していることで、バインダー含有無機繊維成形体全体で高剪断力を有することができる。これにより、本発明のバインダー含有無機繊維成形体は、層間剥離が生じにくくなり、例えば排ガス浄化装置用保持材として用いる場合のキャニング性を良好とすることができる。
【0014】
本発明においては、上記高濃度バインダー領域の上記バインダー濃度が5%超25%以下であり、上記低濃度バインダー領域の上記バインダー濃度が0%以上5%以下であることが好ましい。低濃度バインダー領域によるバインダー含有無機繊維成形体の表面全体での摩擦力の低減効果および面圧の向上効果と、複数の高濃度バインダー領域による剪断力の向上効果とのバランスを良好にとることができるからである。
【0015】
本発明においては、上記凹部がニードル痕であることが好ましい。ニードル痕では、複数本の無機繊維が縦方向に配向して3次元的に交絡した無機繊維束が形成され、上記無機繊維束において無機繊維が拘束されるため、より高い剪断力を有することができるからである。
【0016】
本発明においては、上記複数の高濃度バインダー領域の少なくとも一部に上記凹部が位置することが好ましい。凹部の箇所にバインダー液を塗布しやすく、凹部にバインダー液を塗布することで、ケーシングと接するバインダー添着領域を減少させることができ、結果として摩擦を低減できると推量されるからである。また、上記凹部がニードル痕である場合、上記ニードル痕を形成する無機繊維束にバインダー液が浸透しやすく、上記ニードル痕の位置に合わせて高濃度バインダー領域を容易に散在配置することができるからである。さらに、上記の場合、ニードル痕において上記無機繊維束にバインダーが高濃度で存在することで、ニードル痕の周辺繊維および無機繊維束がバインダーにより強固に結着されるため、より高い剪断力を有することが可能であると推量されるからである。
【0017】
本発明においては、上記バインダーが有機バインダーを含むことが好ましい。有機バインダーは、無機繊維成形体へ容易に含浸させることができ、十分な厚み拘束力を発揮することができるため、柔軟で強度に優れたバインダー含有無機繊維成形体とすることができるからである。また、本発明のバインダー含有無機繊維成形体の使用温度条件下で、有機バインダーを容易に熱分解又は焼失させることができるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明においては、表面全体での摩擦力が小さく、剪断力および面圧が高いバインダー含有無機繊維成形体を得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明のバインダー含有無機繊維成形体の一例を示す概略平面図である。
図2】本発明のバインダー含有無機繊維成形体の一例を示す概略断面図である。
図3】本発明のバインダー含有無機繊維成形体の一例を示す概略断面図である。
図4】本発明のバインダー含有無機繊維成形体の他の例を示す概略平面図である。
図5】本発明のバインダー含有無機繊維成形体の他の例を示す概略断面図である。
図6】本発明のバインダー含有無機繊維成形体の他の例を示す概略断面図である。
図7】集合部における高濃度バインダー領域の配置態様を示す説明図である。
図8】集合部における高濃度バインダー領域の配置態様を示す説明図である。
図9】ニードル痕の形状を示す模式図である。
図10】ニードル痕の直径の測定方法を示す説明図である。
図11】実施例1~2のバインダー含有無機繊維成形体の概略平面図である。
図12】摩擦力の測定装置を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のバインダー含有無機繊維成形体について詳細に説明する。本発明のバインダー含有無機繊維成形体は、対向する第1面および第2面を有し、複数の凹部が形成された無機繊維成形体にバインダーが含有されてなるものである。上記バインダー含有無機繊維成形体は、バインダー濃度が相対的に高い複数の高濃度バインダー領域と、上記高濃度バインダー領域以外の上記バインダー濃度が相対的に低い低濃度バインダー領域とを有し、上記複数の高濃度バインダー領域は、上記第1面と上記第2面と交差する方向に延在し、且つ少なくとも上記第1面において散在しており、上記複数の高濃度バインダー領域に対する上記低濃度バインダー領域の体積比が所定の範囲である。
【0021】
図1は、本発明のバインダー含有無機繊維成形体の一例を示す概略平面図であり、図2および図3は、それぞれ図1のX1-X1線断面図およびY1-Y1線断面図である。図1図3で例示するバインダー含有無機繊維成形体10は、対向する第1面10aおよび第2面10bを有し、凹部2として貫通孔であるニードル痕が複数形成された無機繊維成形体1にバインダーが含有されてなる。バインダー含有無機繊維成形体10は、バインダー濃度が相対的に高い複数の高濃度バインダー領域Aと、高濃度バインダー領域A以外の領域である、バインダー濃度が相対的に低い低濃度バインダー領域Bとを有する。複数の高濃度バインダー領域Aは、第1面10aおよび第2面10bと交差する方向(図2および図3においてZ方向)に延在しており、且つ少なくとも第1面10aにおいて散在している。図1図3では、複数の高濃度バインダー領域Aが、第1面10aおよび第2面10bにおいて散在している。また、バインダー含有無機繊維成形体10は、複数の高濃度バインダー領域Aに対する低濃度バインダー領域Bの体積比が所定の範囲にある。なお、図1図3においては、高濃度バインダー領域Aの100%に、凹部(ニードル痕)2が位置している。すなわち、全ての高濃度バインダー領域Aに凹部(ニードル痕)2が位置している。
【0022】
図4は、本発明のバインダー含有無機繊維成形体の他の例を示す概略平面図であり、図5および図6は、それぞれ図4のX2-X2線断面図およびY2-Y2線断面図である。図4図6においては、凹部2として非貫通孔であるニードル痕が複数形成されており、高濃度バインダー領域Aの50%に、凹部(ニードル痕)2が位置している例を示している。
【0023】
本発明のバインダー含有無機繊維成形体によれば、バインダー濃度の異なる2つの領域を有し、上記2つの領域のうち、複数の高濃度バインダー領域よりも低濃度バインダー領域が占める体積割合が大きいため、バインダー含有無機繊維成形体の表面全体で摩擦力を小さくすることができる。詳しくは、低濃度バインダー領域は、バインダー含有量が少ないため表面摩擦力が小さいが、高濃度バインダー領域は、バインダー含有量が多いため表面摩擦力が大きくなる。本発明のバインダー含有無機繊維成形体によれば、表面の一部に表面摩擦力が大きい高濃度バインダー領域が存在するが、バインダー含有無機繊維成形体において低濃度バインダー領域が占める割合が大きく、且つ高濃度バインダー領域は散在しているため、表面摩擦力の高低が表面全体で均一化され、その結果バインダー含有無機繊維成形体の表面全体での摩擦力を小さくすることができる。
また、本発明のバインダー含有無機繊維成形体によれば、複数の高濃度バインダー領域よりも低濃度バインダー領域が占める体積割合が大きいため、バインダー含有無機繊維成形体の表面全体で面圧を高くすることができる。
さらに、本発明のバインダー含有無機繊維成形体によれば、上記高濃度バインダー領域では、無機繊維や無機繊維束がバインダーにより強固に結着されている。このような上記高濃度バインダー領域が、上記第1面と上記第2面と交差する方向に延在することで、無機繊維成形体内において上記高濃度バインダー領域が柱状に存在することになり、且つ、柱状の高濃度バインダー領域が散在していることで、バインダー含有無機繊維成形体全体で高剪断力を有することができる。
このように、本発明のバインダー含有無機繊維成形体は、表面全体での摩擦力が小さく、剪断力および面圧が高いことから、層間剥離が生じにくくなり、例えば排ガス浄化装置用保持材として用いる場合のキャニング性を良好とすることができる。
【0024】
本発明においては、複数の高濃度バインダー領域が、バインダー含有無機繊維成形体の少なくとも第1面において散在している。すなわち、本発明のバインダー含有無機繊維成形体は、複数の高濃度バインダー領域が、無機繊維成形体の少なくとも第1面の面内方向に散在していることになる。
【0025】
複数の高濃度バインダー領域が「第1面において散在」するとは、バインダー含有無機繊維成形体の第1面において、複数の高濃度バインダー領域が個々に所望の間隔を空けて散らばって設けられており、第1面に基準領域Rを設定したときに、基準領域Rを設定した面のいかなる位置においても、基準領域R内に複数の高濃度バインダー領域が所定の個数範囲で含まれることをいう。ここで、基準領域Rとは、仮想的に規定された領域であり、5cm四方の正方形とする。例えば、図1図4において示される基準領域Rを、図1図4に示すバインダー含有無機繊維成形体10の第1面10aの面内位置からあらゆる方向に移動させたとしても、基準領域R内には、複数の高濃度バインダー領域が所定の個数範囲で含まれる。基準領域Rは、バインダー含有無機繊維成形体の第1面において、所望の位置に設定することができる。
【0026】
ここで、複数の高濃度バインダー領域が「第1面において散在」するとは、具体的には、バインダー含有無機繊維成形体の第1面に基準領域Rを設定したときに、上記基準領域Rに含まれる高濃度バインダー領域の個数が所定の個数、具体的には12個以上125個以下であることをいう。中でも基準領域R(5cm×5cm=25cm)に含まれる高濃度バインダー領域の個数が20個以上100個以下であることが好ましく、特に25個以上75個以下であることが好ましい。基準領域に1個の高濃度バインダー領域の一部が含まれる場合、その高濃度バインダー領域の平面視の面積の50%以上が基準領域Rに含まれていれば、1個としてカウントすることができる。基準領域Rに含まれる高濃度バインダー領域の個数は、任意の方法で数えることができ、その方法は特に限定されない。例えばバインダー含有無機繊維成形体に含まれるバインダーが有機バインダーであれば、バインダー含有無機繊維成形体を電気炉内において約400℃で60秒間熱して有機バインダーを変色させた後、5cm四方のサンプルを切り出して、該サンプルの第1面に発現される黒色の変色部の数を、基準領域Rに含まれる高濃度バインダー領域の個数とすることができる。変色部が高濃度バインダー領域であることを示し、非変色部が低濃度バインダー領域であることを示す。なお、平面視とは、バインダー含有無機繊維成形体の第1面側から見ることをいう。
【0027】
第1面において基準領域Rを占める複数の高濃度バインダー領域の総面積の割合は、上記基準領域Rに含まれる高濃度バインダー領域の個数が、上述した所定の個数範囲にあれば特に限定されないが、例えば10%以上50%以下であることが好ましく、中でも20%以上40%以下であることが好ましい。
【0028】
以下、本発明のバインダー含有無機繊維成形体について構成ごとに説明する。
【0029】
1.高濃度バインダー領域および低濃度バインダー領域
本発明における高濃度バインダー領域は、バインダー濃度が相対的に高い領域であり、バインダー含有無機繊維成形体の上記第1面と上記第2面と交差する方向に延在し、且つバインダー含有無機繊維成形体の少なくとも第1面において散在している。また、低濃度バインダー領域は、上記高濃度バインダー領域以外のバインダー濃度が相対的に低い領域である。
【0030】
本発明においては、高濃度バインダー領域が散在していることから、高濃度バインダー領域および低濃度バインダー領域は、バインダー含有無機繊維成形体の少なくとも第1面において、複数の高濃度バインダー領域を島領域、低濃度バインダー領域を海領域として、海島状に存在することができる。
【0031】
なお、バインダー濃度とは、無機繊維の質量あたりのバインダーの質量の割合をいい、高濃度バインダー領域のバインダー濃度であれば、上記高濃度バインダー領域に含まれる無機繊維の質量あたりの上記高濃度バインダー領域に含まれるバインダーの質量の割合(%)をいう。
【0032】
本発明のバインダー含有無機繊維成形体においては、低濃度バインダー領域の体積が、複数の高濃度バインダー領域の体積よりも大きい。これにより、バインダー含有無機繊維成形体の表面において、表面摩擦力が低い低濃度バインダー領域が占める割合が大きくなるため、バインダー含有無機繊維成形体の表面全体で摩擦力を低減し、面圧を高くすることができる。
【0033】
本発明においては、上記複数の高濃度バインダー領域の体積に対する上記低濃度バインダー領域の体積比が1.5以上6.0以下であればよく、中でも1.7以上5.0以下であることが好ましく、特に2.0以上4.0以下であることが好ましい。上記体積比を上記の範囲とすることで、上記低濃度バインダー領域によりバインダー含有無機繊維成形体の表面全体での摩擦力が小さくなりかつ面圧が高くなり、一方で上記高濃度バインダー領域によりバインダー含有無機繊維成形体全体での剪断力を高くなるため、両方の物性のバランスを良好にとることができる。なお、上記体積比が上記範囲を超えると、バインダー含有無機繊維成形体に占める高濃度バインダー領域の割合が小さすぎて、上記高濃度バインダー領域による剪断力の向上効果が十分に得られない場合がある。一方、上記体積比が上記範囲を満たないと、バインダー含有無機繊維成形体の表面を占める低濃度バインダー領域の割合が小さくなり、上記低濃度バインダー領域による表面全体での摩擦力の低減効果や面圧向上効果が十分に得られない場合がある。
【0034】
複数の高濃度バインダー領域に対する低濃度バインダー領域の体積比は、任意の方法で算出することができ、その方法は特に限定されないが、例えばバインダー含有無機繊維成形体に含まれるバインダーが有機バインダーであれば、以下の手順で算出することができる。すなわち、バインダー含有無機繊維成形体を電気炉内において約400℃で60秒間熱して有機バインダーを変色させた後、5cm四方のサンプルを切り出して、該サンプルの第1面に発現される複数の変色部についてそれぞれ、変色部の面積に該サンプルの厚み方向の縦断面における該変色部の高さ(すなわち高濃度バインダー領域の高さ)を乗し、該サンプルに含まれる複数の高濃度バインダー領域の体積の総和を算出する。また、非変色部の面積に該サンプルの厚みを乗することで低濃度バインダー領域の体積を算出する。そして、低濃度バインダー領域の体積を複数の高濃度バインダー領域の体積の総和で除することで、上記体積比を算出することができる。
【0035】
また、本発明のバインダー含有無機繊維成形体においては、少なくとも第1面において、複数の高濃度バインダー領域の総面積に対する低濃度バインダー領域の面積比が2以上6以下であることが好ましく、中でも2以上5以下であることが好ましく、特に2以上4以下であることが好ましい。上記面積比を上記の範囲とすることで、上記低濃度バインダー領域によりバインダー含有無機繊維成形体の表面全体での摩擦力を小さくして面圧を高くすることができ、上記高濃度バインダー領域によりバインダー含有無機繊維成形体全体での剪断力を高くすることができ、両方の物性のバランスを良好にとることができる。
【0036】
複数の高濃度バインダー領域の総面積に対する低濃度バインダー領域の面積比は、任意の方法で算出することができ、その方法は特に限定されない。例えばバインダー含有無機繊維成形体に含まれるバインダーが有機バインダーであれば、以下の手順で算出することができる。すなわち、バインダー含有無機繊維成形体を電気炉内において約400℃で60秒間熱して有機バインダーを変色させた後、5cm四方のサンプルを切り出して、該サンプルの第1面に発現される複数の変色部の面積の総和、および上記第1面において変色部以外の領域である非変色部の面積をそれぞれ算出する。非変色部の面積を複数の変色部の面積の総和で除することで、上記面積比を算出することができる。
【0037】
(1)高濃度バインダー領域
上記高濃度バインダー領域のバインダー濃度は、上記低濃度バインダー領域のバインダー濃度よりも高ければよく、例えば5%超25%以下であることが好ましく、中でも7%以上20%以下であることが好ましく、特に9%以上18%以下であることが好ましい。上記高濃度バインダー領域のバインダー濃度を上記の範囲とすることで、上記高濃度バインダー領域において無機繊維や無機繊維束の結着力を高めることができ、上記高濃度バインダー領域を介して周囲の低濃度バインダー領域が連結されて、バインダー含有無機繊維成形体が高剪断力を有することができる。また、複数の高濃度バインダー領域による剪断力の向上効果と、低濃度バインダー領域による表面摩擦力の低減効果および面圧の向上効果とのバランスを良好にとることができる。なお、上記高濃度バインダー領域のバインダー濃度が上記範囲を超えると、バインダー含有無機繊維成形体の表面がバインダーによりベタついて、バインダー含有無機繊維成形体の表面全体での摩擦力の低減効果や面圧の向上効果が得られにくくなる場合がある。また、有機バインダーであれば、熱分解しにくい、熱分解により生じるガスで作業環境が悪化する、クッション性が損なわれる等の不具合が想定される。一方、上記高濃度バインダー領域のバインダー濃度が上記範囲を満たないと、高濃度バインダー領域を設けることによる剪断力の向上効果が得られにくい場合がある。
【0038】
高濃度バインダー領域のバインダー濃度の求め方は、特に限定されないが、例えばバインダーが有機バインダーであれば、以下の方法により算出することができる。すなわち、バインダー含有無機繊維成形体を電気炉内において約400℃で60秒間熱して有機バインダーを変色させた後、5cm四方のサンプルを切り出す。次に、該サンプルから変色部を切り出して該変色部の質量(バインダー焼失処理前の変色部の質量)を測定する。続いて該変色部に対して800℃で1時間加熱するバインダー焼失処理を行い、該変色部中の有機バインダーを焼失し、バインダー焼失処理後の該変色部の質量を測定する。バインダー焼失処理後の該変色部の質量を、高濃度バインダー領域における無機繊維の質量とし、バインダー焼失処理前後での質量差を、該変色部に含まれるバインダーの質量として、高濃度バインダー領域の1つあたりのバインダー濃度(%)を求めることができる。
【0039】
上記高濃度バインダー領域の平面視形状としては、特に限定されず、例えば、正円形、楕円等の円形、正方形や長方形等の四角形、多角形、星形状等が挙げられる。中でも円形が好ましく、正円であることがより好ましい。
【0040】
上記高濃度バインダー領域の直径は、特に限定されないが、例えば、1.0mm以上7.0mm以下とすることができ、中でも2.0mm以上6.0mm以下であることが好ましく、特に2.0mm以上5.0mm以下であることが好ましい。上記高濃度バインダー領域の平面視形状が正円以外である場合の高濃度バインダー領域の直径とは、平面視における高濃度バインダー領域の面積の円相当径とする。高濃度バインダー領域の直径とは、図1図6においてφ1に示す部分をいう。
【0041】
また、平面視において、上記高濃度バインダー領域の面積は、特に限定されないが、例えば0.5mm以上40.0mm以下とすることができ、中でも3.0mm以上30.0mm以下とすることができ、特に3.0mm以上25.0mm以下とすることができる。
【0042】
上記高濃度バインダー領域の直径や面積が上記範囲を超えると、高摩擦力・低面圧の高濃度バインダー領域がバインダー含有無機繊維成形体の表面に局所的に存在することになり、低濃度バインダー領域による表面摩擦力の低減効果や面圧の向上効果が得られにくくなる場合がある。一方、上記高濃度バインダー領域の直径や面積が上記範囲を満たないと、高濃度バインダー領域の形成が困難な場合や、高濃度バインダー領域による剪断力の向上効果が十分に得られない場合がある。
【0043】
上記高濃度バインダー領域は、バインダー含有無機繊維成形体の上記第1面と上記第2面と交差する方向に延在する。これにより、上記高濃度バインダー領域は、無機繊維成形体内で柱状に存在することができる。上記高濃度バインダー領域の延在方向は、上記第1面および第2面に対して直交していてもよく、斜交していてもよい。上記高濃度バインダー領域の高さは、高いほど好ましく、例えば、バインダー含有無機繊維成形体の平均厚みの50%以上とすることができ、中でも80%以上であることが好ましく、特に100%、すなわち、上記高濃度バインダー領域がバインダー含有無機繊維成形体の厚み方向を貫通することが好ましい。バインダー含有無機繊維成形体の平均厚みに対する高濃度バインダー領域の高さを上記の範囲とすることで、剪断力を高くすることができるからである。なお、上記高濃度バインダー領域の高さが上記範囲よりも小さいと、バインダー含有無機繊維成形体の厚み方向において、バインダーにより無機繊維や無機繊維束が結着されていない領域が増えるため、上記高濃度バインダー領域による剪断力の向上効果が十分に得られない場合がある。なお、高濃度バインダー領域の高さとは、高濃度バインダー領域の延在方向によらず、バインダー含有無機繊維成形体の上記第1面および上記第2面と直交する方向における長さの平均値をいい、図2~3および図5~6においてHで示す長さとする。高濃度バインダー領域の高さは、バインダー含有無機繊維成形体を電気炉内において約400℃で60秒間熱して有機バインダーを変色させた後、所望のサイズにサンプルを切り出して、該サンプルの縦断面(切断面)に発現される変色部の高さから特定することができる。
【0044】
上記複数の高濃度バインダー領域は、バインダー含有無機繊維成形体の少なくとも第1面において散在するが、中でも上記高濃度バインダー領域が上記バインダー含有無機繊維成形体の厚み方向を貫通し、上記第1面および上記第2面の両面において散在していることが好ましい。周囲の低濃度バインダー領域との接触面が増え、上記高濃度バインダー領域を介して周囲の低濃度バインダー領域が連結されることで、バインダー含有無機繊維成形体が高剪断力を有することができるからである。なお、高濃度バインダー領域が「第2面において散在」するとは、第1面と同様に定義することができる。
【0045】
図2図3では、高濃度バインダー領域Aがバインダー含有無機繊維成形体10の厚み方向(Z方向)を貫通し、バインダー含有無機繊維成形体10の第1面10aおよび第2面10bにおいて散在している例を示している。また、図5図6では、高濃度バインダー領域Aがバインダー含有無機繊維成形体10の厚み方向(Z方向)を貫通せず、バインダー含有無機繊維成形体10の第1面10aにおいて散在している例を示している。
【0046】
後述するように、高濃度バインダー領域は、バインダー含有無機繊維成形体が有する貫通孔または非貫通孔である凹部に位置していてもよく、上記凹部以外の領域に位置していてもよい。図2および図3で例示するように、貫通孔である凹部2に位置する高濃度バインダー領域Aは、バインダー含有無機繊維成形体10の厚み方向(Z方向)を貫通して第1面10aおよび第2面10bの両面において散在していてもよく、図示しないが、バインダー含有無機繊維成形体10の厚み方向(Z方向)を貫通せずに第1面10aのみにおいて散在していてもよい。同様に、図5で例示するように、非貫通孔である凹部2に位置する高濃度バインダー領域Aは、バインダー含有無機繊維成形体10の厚み方向(Z方向)を貫通せずに第1面10aのみにおいて散在していてもよく、図示しないが、バインダー含有無機繊維成形体10の厚み方向(Z方向)を貫通して第1面10aおよび第2面10bの両面において散在していてもよい。さらに、図6で例示するように、凹部2以外の領域に位置する高濃度バインダー領域Aは、バインダー含有無機繊維成形体10の厚み方向(Z方向)を貫通せずに第1面10aのみにおいて散在していてもよく、図示しないが、バインダー含有無機繊維成形体の厚み方向(Z方向)を貫通して第1面10aおよび第2面10bの両面において散在していてもよい。
【0047】
上記複数の高濃度バインダー領域は、近接する2つの高濃度バインダー領域間の間隔が、いずれも同じであってもよく、異なってもよい。近接する2つの高濃度バインダー領域間の平均間隔としては、特に限定されないが、例えば3mm以上10mm以下とすることができ、中でも4mm以上9mm以下であることが好ましく、特に5mm以上9mm以下であることが好ましい。近接する2つの高濃度バインダー領域間の間隔とは、例えば図1図4においてd1、d2で示す部分の長さをいう。
【0048】
上記複数の高濃度バインダー領域は、規則性を持って散在していてもよく、不規則に散在していてもよい。例えば図1図4では、複数の高濃度バインダー領域Aが規則性を持って散在している。具体的には、図1図4では、高濃度バインダー領域Aが、バインダー含有無機繊維成形体10の第1面10aおよび第2面10bの面内の第1の方向(図1図4におけるX方向)に間隔d1で等間隔離間して配置されており、上記第1の方向と直交する第2の方向(図1図4におけるY方向)に間隔d2で等間隔離間して配置されている。図1では、間隔d1と間隔d2とが同じであり、一方、図4では、間隔d1と間隔d2とが異なる。
【0049】
上記複数の高濃度バインダー領域が、第1の方向および第2の方向に間隔d1および間隔d2で離間して配置される場合、間隔d1と間隔d2とは同じであってもよく、異なってもよい。また、第1の方向の列ごとに、間隔d1が同じであってもよく異なってもよく、第2の方向の列ごとに、間隔d2が同じであってもよく異なってもよい。
【0050】
上記複数の高濃度バインダー領域が、第1の方向および第2の方向に間隔d1および間隔d2で離間して配置される場合、上記第1の方向および第2の方向の高濃度バインダー領域の数は、適宜設定することができる。第1の方向の列ごとまたは第2の方向の列ごとに、高濃度バインダー領域の数が同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0051】
上記複数の高濃度バインダー領域は、集合部を形成していてもよい。ここで、集合部とは、少なくとも2.5cm四方の領域内に高濃度バインダー領域が15個以上含まれている領域をいい、中でも20個以上含まれていることが好ましい。また、上記集合部における高濃度バインダー領域の個数の上限は特に限定されないが、例えば30個とすることができる。
【0052】
上記集合部において、複数の高濃度バインダー領域は散在しており、集合部内の高濃度バインダー領域以外の領域は、低濃度バインダー領域となる。上記集合部内において、複数の高濃度バインダー領域は規則性を持って散在していてもよく、不規則に散在していてもよい。上記集合部において、近接する高濃度バインダー領域間の平均間隔は、離間されていれば特に限定されない。
【0053】
上記集合部内における複数の高濃度バインダー領域の配置態様としては、特に限定されないが、例えば、複数の高濃度バインダー領域が、バインダー含有無機繊維成形体の面内において設定した第1の方向および上記第1の方向と直交する第2の方向の少なくとも一方向に、所望の間隔を空けて1列または2列以上のライン状に配置された態様(第1の態様)とすることができる。また、他の配置態様として、例えば複数の高濃度バインダー領域が所望の間隔を空けて四角環状に配置されている態様(第2の態様)、複数の高濃度バインダー領域が円周方向に所望の間隔を空けて1重または2重以上の円環列状に配置されている態様(第3の態様)、複数の高濃度バインダー領域が所望の間隔を空けて楕円環状や多角形環状に配置されている態様(第4の態様)、複数の高濃度バインダー領域が所望の間隔を空けて星形形状のように凹多角形環状に配置されている態様(第5の態様)等が挙げられる。
【0054】
図7(a)で例示する集合部Gは、複数の高濃度バインダー領域Aが第1の態様で配置されている。すなわち、第1の方向(図7(a)におけるX方向)に、3つの高濃度バインダー領域Aが間隔d3で等間隔離間してライン状に配置されており、第1の方向と直交する第2の方向(図7(a)におけるY方向)に、3つの高濃度バインダー領域Aが間隔d4で等間隔離間してライン状に配置された、3列×3列の配置態様を有する。図7(a)において、近接する2つの集合部Gは、第1の方向(X方向)に間隔d5で離間し、第2の方向(Y方向)に間隔d6で離間して配置されている。
【0055】
上記第1の態様においては、図7(a)で例示した3列×3列の配列態様の他に、例えば図7(b)に例示する1列×5列の配列態様や、その他配列態様が挙げられる。配列態様については特に限定されない。上記第1の態様においては、第1の方向および第2の方向の各列の高濃度バインダー領域の数は同一であってもよく異なってもよい。
【0056】
図8(a)で例示する集合部Gは、複数の高濃度バインダー領域Aが第2の態様で配置されており、隣接する高濃度バインダー領域Aは間隔d7で離間して配置されている。また、図8(b)で例示する集合部Gは、複数の高濃度バインダー領域Aが第3の態様で配置されており、隣接する高濃度バインダー領域Aは間隔d8で離間して配置されている。
【0057】
集合部を構成する高濃度バインダー領域の数は、特に限定されない。また、上記集合部の平面視形状、上記集合部1つあたりの大きさ等は、集合部を構成する高濃度バインダー領域の大きさや数に応じて適宜設定することができる。
【0058】
上記集合部は、バインダー含有無機繊維成形体の少なくとも第1面において散在していることが好ましく、第1面および第2面の両面において散在していてもよい。上記集合部の散在態様は特に限定されず、規則性を持って設けられていてもよく、不規則に設けられていてもよい。近接する集合部間の離間間隔は特に限定されず、集合部の大きさ、散在態様等に応じて適宜設定することができる。
【0059】
上記集合部は、例えば図8(a)、(b)で例示するように、1つの集合部Gに含まれる複数の高濃度バインダー領域Aの少なくとも一部が、無機繊維成形体が有する凹部2に位置していてもよく、図示しないが、1つの集合部に含まれる複数の高濃度バインダー領域のすべてが上記凹部に位置していなくてもよい。
【0060】
(2)低濃度バインダー領域
上記低濃度バインダー領域のバインダー濃度は、上記高濃度バインダー領域のバインダー濃度よりも低ければよく、具体的には0%以上5.0%以下であることが好ましく、中でも0%以上4.5%以下であることが好ましく、特に0%以上4.0%以下であることが好ましい。なお、バインダー濃度が0%であるとは、無機繊維成形体にバインダーが含有されていないことを意味する。上記低濃度バインダー領域のバインダー濃度が上記範囲よりも大きいと、上記低濃度バインダー領域での表面摩擦力が大きくなり、上記低濃度バインダー領域によるバインダー含有無機繊維成形体の表面全体での摩擦力の低減効果を得られにくい場合や、面圧が低くなる場合がある。
【0061】
低濃度バインダー領域のバインダー濃度の求め方は、特に限定されないが、例えばバインダーが有機バインダーであれば、以下の方法により算出することができる。すなわち、バインダー含有無機繊維成形体を電気炉内において約400℃で60秒間熱して有機バインダーを変色させた後、5cm四方のサンプルを切り出す。次に、該サンプルの変色部以外の領域(非変色領域)を分離して非変色領域の質量(バインダー焼失処理前の非変色部の質量)を測定する。続いて該非変色領域に対して800℃で1時間加熱するバインダー焼失処理を行い、該非変色領域中の有機バインダーを焼失し、バインダー焼失処理後の該非変色部の質量を測定する。バインダー焼失処理後の該非変色領域の質量を、低濃度バインダー領域における無機繊維の質量とし、バインダー焼失処理前後での質量差を、該非変色領域に含まれるバインダーの質量として、低濃度バインダー領域のバインダー濃度を求めることができる。
【0062】
(3)バインダー
本発明におけるバインダーは、無機繊維成形体に含まれ、無機繊維や無機繊維束を結着する。上記バインダーとしては、有機バインダーおよび無機バインダーのいずれも用いることができる。
【0063】
上記有機バインダーとしては、各種のゴム、水溶性高分子化合物、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。具体的には、アクリルゴム、ニトリルゴム等の合成ゴム;カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子化合物;またはアクリル樹脂が挙げられる。有機バインダーは、1種単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。中でもアクリルゴム、ニトリルゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリルゴムに含まれないアクリル樹脂が好ましい。これらのバインダーは、有機バインダー液の調製等が容易であり、後述する有機バインダーによる効果を発揮しやすいからである。
【0064】
一方、上記無機バインダーとしては、例えば無機酸化物が挙げられる。具体的にはアルミナ、スピネル、ジルコニア、マグネシア、チタニア、カルシア、および上記無機繊維と同質の組成を有する材料が挙げられる。無機バインダーは、1種単独で用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。無機酸化物の平均粒径は、特に限定されないが、例えば1μm以下とすることができる。
【0065】
上記無機繊維成形体に含まれる上記バインダーは、有機バインダーを含むことが好ましい。この場合、上記バインダーは有機バインダーのみであってもよく、有機バインダーおよび無機バインダーの両方を含んでいてもよい。有機バインダーは、無機繊維成形体へ容易に含浸させることができ、比較的低含有量であっても十分な厚み拘束力を発揮することができる。このため、柔軟で強度に優れたバインダー含有無機繊維成形体とすることができるからである。また、バインダー含有無機繊維成形体の使用温度条件下で、有機バインダーを容易に熱分解又は焼失させることができるからである。
【0066】
ここで、有機バインダーを用いる場合、無機繊維成形体の面方向に対しバインダー濃度が均一かつ高濃度となるように、無機繊維成形体がバインダーを含有すると、有機バインダーの熱分解等により生じるガス量が増加し、作業環境の悪化を招くおそれがある。これに対し、本発明のバインダー含有無機繊維成形体では、高濃度バインダー領域が散在しており、且つ高濃度バインダー領域よりも低濃度バインダー領域の占める割合が大きいため、バインダー含有無機繊維成形体全体でのバインダー濃度の上昇を抑えることができる。これにより、有機バインダーを用いる場合であっても、有機バインダーの熱分解等によるガス発生量を抑えつつ、剪断力を向上させることができる。
【0067】
また、上記無機繊維成形体に含まれる上記バインダーは、無機バインダーを含むことが好ましい。この場合、上記バインダーが無機バインダーのみであってもよく、有機バインダーおよび無機バインダーの両方を含んでいてもよい。
【0068】
上記バインダーが有機バインダーと無機バインダーとの両方である場合、無機バインダーと有機バインダーとの配合比は、特に限定されないが、例えば質量比で無機バインダー:有機バインダー=1:99~90:10の範囲内とすることができる。
【0069】
上記無機繊維成形体の全体に含まれるバインダー量(バインダー全量)は、上述した高濃度バインダー領域および低濃度バインダー領域を有し、上記高濃度バインダー領域が散在可能となる量であれば特に限定されず、例えば、固形分換算で上記無機繊維成形体中の無機繊維100質量部に対して0.5質量部以上15.0質量部以下とすることができる。バインダー全量が少なすぎると、バインダー含有無機繊維成形体の厚みが得られない場合がある。一方、バインダー全量が多いと、有機バインダーであれば、熱によりバインダーが分解等されにくくなる、有機バインダーの分解によって生じるガスにより作業環境が悪化する等の不具合が想定され、一方、無機バインダーであれば、クッション性が損なわれる場合がある。また、バインダー含有無機繊維成形体の表面全体での摩擦力が大きくなり、面圧が小さくなるため、ケーシングに圧入する際に不具合が生じやすくなる。さらに、コスト高になる場合がある。無機繊維あたりのバインダーの質量の割合(無機繊維成形体全体に対するバインダー濃度)としては、例えば0.5質量%以上15.0質量%以下とすることができる。無機繊維成形体全体に対するバインダー濃度は、例えばバインダーが有機バインダーであれば、所望のサイズのバインダー含有無機繊維成形体の試験片に対し、電気炉内において800℃で1時間加熱するバインダー焼失処理を行い、試験片中の有機バインダーを焼失し、バインダー焼失処理前後の試験片の質量差を該試験片に含まれるバインダーの質量とし、該バインダーの質量、ならびに無機繊維成形体の坪量および試験片のサイズから算出することができる。
【0070】
上記バインダーは、着色されていてもよい。高濃度バインダー領域および低濃度バインダー領域を目視で容易に視認することができるからである。着色バインダーは、特に限定されないが、例えば、上述した有機バインダーに顔料等の公知の色材が添加されたものが挙げられる。
【0071】
上記バインダーは、例えば、バインダーを溶媒に分散させたバインダー液を無機繊維成形体に塗布等して無機繊維成形体に含浸させることで、無機繊維成形体の内部に含ませることができる。バインダー液は、調製してもよく、例えば有機バインダー液として市販される水溶液、水分散型のエマルジョン、ラテックス、有機溶媒溶液等をそのまま又は水等で希釈して用いることができる。
【0072】
(4)その他
本発明のバインダー含有無機繊維形成体において、上記高濃度バインダー領域の位置の特定方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。例えば、バインダー含有無機繊維成形体の第1面の面内において、第1の方向(例えばバインダー含有無機繊維成形体の原反の幅方向)と、第1の方向と直交する第2の方向(例えばバインダー含有無機繊維成形体の原反の長さ方向)とを規定し、各方向において離間せずにまたは所望の間隔で離間して複数のサンプルを切り出し、各サンプルの燃焼前後の質量の変化量と各サンプルの切り出し位置から、高濃度バインダー領域の位置を特定することができる。また、バインダーが有機バインダーであれば、バインダー含有無機繊維成形体を電気炉内において約400℃で60秒間熱することで発現される変色部の位置から高濃度バインダー領域の位置を特定することができる。
【0073】
2.無機繊維成形体
本発明における無機繊維成形体は、無機繊維の集合体であり、例えばマット、ブランケットまたはブロック等と称される。上記無機繊維成形体は、対向する第1面および第2面を有し、複数の凹部が形成されている。すなわちバインダー含有無機繊維成形体における第1面および第2面は、上記無機繊維成形体における上記第1面および上記第2面に相当する。なお、無機繊維成形体の第1面および第2面のことを、マット面と称する場合がある。
【0074】
(1)凹部
上記無機繊維成形体における上記凹部は、上記無機繊維成形体の少なくとも第1面に形成され、上記第1面の面内において周囲よりも他方の面側に向かって窪んでいる部分である。すなわち、上記バインダー含有無機繊維形成体は、少なくとも第1面が凹凸面であり、上記凹部は少なくとも第1面に開口する。
【0075】
上記凹部は、無機繊維成形体における第1面と第2面と交差する方向に延在する。上記凹部の延在方向は、上記第1面および第2面に対して直交していてもよく、斜交していてもよい。また、上記凹部は、無機繊維成形体における第1面と第2面と交差する方向に貫通する貫通孔であってもよく、貫通していない非貫通孔であってもよい。上記凹部が貫通孔である場合、上記凹部は第1面および第2面の両面に開口する。
【0076】
上記凹部としては、例えば、ニードル痕、圧縮凹部、溝切り凹部等が挙げられる。圧縮凹部とは、平滑な成形板をマットの一面にあてがい且つ溝に相当する凸条を備えた成形板をマットの他の面にあてがって圧縮することにより形成される凹部である。また、溝切り凹部とは、無機繊維成形体に溝切り加工を施すことにより形成される凹部である。中でも上記凹部は、ニードル痕であることが好ましい。ニードル痕では、複数本の無機繊維が縦方向に配向して3次元的に交絡した無機繊維束が形成され、上記無機繊維束において無機繊維が拘束されるため、より高い剪断力を有することができるからである。特に、低濃度バインダー領域にニードル痕が位置する場合、上記低濃度バインダー領域において、バインダーが含有されていなくても比較的高い剪断力を有することができるからである。
【0077】
図9(a)、(b)は、ニードル痕の形状を説明するための模式図である。ニードル痕2は、図9(a)に例示するように、バインダー含有無機繊維成形体10の第1面10aおよび第2面10bに開口する貫通孔であってもよく、図9(b)に例示するように、バインダー含有無機繊維成形体10の第1面10aにのみ開口する非貫通孔であってもよい。図9(a)、(b)においてニードル痕2は、第1面10aおよび第2面10bに対して直交方向に延在している。
【0078】
上記凹部の深さは、特に限定されず、凹部の種類や形状、凹部の形成方法等に応じて適宜設定することができる。例えば、上記凹部がニードル痕であれば、上記ニードル痕の深さとしては、バインダー含有無機繊維成形体(または無機繊維成形体)の平均厚みの50%以上であることが好ましく、中でも80%以上であることが好ましい。また、上記ニードル痕の深さが、バインダー含有無機繊維成形体(または無機繊維成形体)の平均厚みの100%、すなわちニードル痕がバインダー含有無機繊維成形体の厚み方向を貫通していてもよい。
【0079】
上記凹部の平面視形状は、特に限定されず、凹部の種類や形状、凹部の形成方法等に応じて適宜設定することができる。例えば、正円形、楕円等の円形、正方形や長方形等の四角形、多角形、星形状等が挙げられる。上記凹部がニードル痕であれば、上記ニードル痕の平面視形状は、通常、円形であり、好ましくは正円形である。
【0080】
上記凹部の大きさは、特に限定されず、凹部の種類や形状、凹部の形成方法等に応じて適宜設定することができる。上記凹部がニードル痕である場合、上記ニードル痕の直径は、例えば450μm以上700μm以下であることが好ましく、中でも490μm以上600μm以下であることが好ましい。ニードル痕の直径は、バインダー含有無機繊維成形体(または無機繊維成形体)の一方の面に可視光を当てたときに、他方の面に投影される黒点の、直径方向に測定した明度分布(ピーク)の半値幅で規定され、図10においてφ2で示される長さをいう。なお、上記黒点は、ニードル痕が貫通孔であっても非貫通孔であっても確認することができる。
【0081】
また、バインダー含有無機繊維成形体(または無機繊維成形体)の単位面積当りの凹部の数(凹部密度とする。)は、特に限定されず、凹部の種類や形状、凹部の形成方法等に応じて適宜設定することができる。上記凹部がニードル痕である場合、バインダー含有無機繊維成形体(または無機繊維成形体)の単位面積当りのニードル痕の数(以下、ニードル痕密度とする。)は、大きいほど剪断力は高くなるが面圧が低下し、小さいほど面圧は大きくなるが剪断力が低くなる。よって、上記ニードル痕密度は、剪断力と面圧とのバランスを良好にとることが可能な大きさであることが好ましい。上記ニードル痕密度としては、例えば1.0個/cm以上50.0個/cm以下であることが好ましく、中でも15.0個/cm以上40.0個/cm以下であることが好ましく、特に20.0個/cm以上35.0個/cm以下あることが好ましい。ニードル痕の数は、バインダー含有無機繊維成形体または無機繊維成形体の一方の面に可視光を当てたときに他方の面に投影される黒点の数とすることができる。なお、上記黒点は、ニードル痕が貫通孔であっても非貫通孔であっても確認することができる。
【0082】
上記凹部は、平面視において等間隔に形成されていてもよく、ランダムに設けられてもよい。上記凹部がニードル痕である場合、近接する2つのニードル痕間の平均距離としては、例えば0.1cm~4cmの範囲内とすることができ、好ましくは0.1cm~3cmの範囲内とすることができ、より好ましくは0.1cm~2cmの範囲内とすることができる。
【0083】
また、上記凹部がニードル痕である場合、複数のニードル痕が集合してニードル痕集合部を形成していてもよい。このときニードル痕集合部は散在していることが好ましい。ニードル痕集合部におけるニードル痕の配置態様については、特に限定されず、例えば上述した高濃度バインダー領域の集合部における高濃度バインダー領域の配置態様と同様とすることができる。
【0084】
上記凹部は、高濃度バインダー領域に位置していてもよく、低濃度バインダー領域に位置していてもよく、高濃度バインダー領域および低濃度バインダー領域の両方に位置していてもよい。ここで、高濃度バインダー領域に凹部が位置するとは、バインダー含有無機繊維成形体の平面視において、凹部が高濃度バインダー領域に包含されることをいう。具体的には、バインダー含有無機繊維成形体の少なくとも第1面において、凹部を包含するように5cm四方の基準領域を設定したときに、上記基準領域内に含まれる上記凹部の、中心から半径4mmの範囲内のバインダー濃度が、上述した高濃度バインダー領域のバインダー濃度の範囲にあることをいう。凹部が高濃度バインダー領域に位置していれば、図1図6で例示するように、平面視において高濃度バインダー領域Aが凹部(ニードル痕2)よりも大きくてもよく、図示しないが、平面視において高濃度バインダー領域と凹部とが同等の大きさであってもよい。
【0085】
また、低濃度バインダー領域に凹部が位置するとは、バインダー含有無機繊維成形体の平面視において、凹部が低濃度バインダー領域に包含されることをいう。具体的には、バインダー含有無機繊維成形体の少なくとも第1面において、凹部を包含するように5cm四方の基準領域を設定したときに、上記基準領域内に含まれる上記凹部の、中心から半径4mmの範囲内のバインダー濃度が、上述した低濃度バインダー領域のバインダー濃度の範囲にあることをいう。
【0086】
本発明においては、上記高濃度バインダー領域の少なくとも一部に上記凹部が位置することが好ましく、上記高濃度バインダー領域の少なくとも一部にニードル痕が位置することがより好ましい。具体的には、バインダー含有無機繊維成形体の少なくとも第1面において、5cm四方の基準領域を設定したときに、上記基準領域内に含まれる高濃度バインダー領域の全個数の25%以上に凹部が位置することが好ましく、中でも50%以上に凹部が位置することが好ましく、特に80%以上に凹部が位置することが好ましい。また、上記高濃度バインダー領域の100%、すなわち全ての高濃度バインダー領域に凹部が位置していてもよい。上記高濃度バインダー領域に上記凹部が位置することで、凹部の箇所にバインダー液を塗布しやすいからである。また、上記凹部がニードル痕である場合、上記ニードル痕を形成する無機繊維束にバインダー液が浸透しやすく、上記ニードル痕の位置に合わせて高濃度バインダー領域を容易に散在配置することができるからである。さらに、上記ニードル痕において上記無機繊維束にバインダーが高濃度で存在することで、上記無機繊維束の無機繊維を強固に結着することができるため、より高い剪断力を有することが可能であると推量されるからである。
【0087】
(2)無機繊維成形体
上記無機繊維成形体を構成する上記無機繊維としては、例えばシリカ、アルミナ/シリカ、これらを含むジルコニア、スピネル、チタニア等の単独繊維または複合繊維が挙げられる。中でも上記無機繊維は、アルミナ/シリカ繊維が好ましく、特に結晶質アルミナ/シリカ繊維が好ましい。アルミナ/シリカ繊維は、アルミナおよびシリカを主成分とするセラミック繊維であり、単に「アルミナ繊維」と称される。上記無機繊維がアルミナ/シリカ繊維(アルミナ繊維)である場合、アルミナ/シリカの組成比(質量比)は、60~98/40~2の範囲内であることが好ましく、中でも70~74/30~26の範囲内であることが好ましい。
【0088】
上記無機繊維は、短繊維であることが好ましい。上記無機繊維成形体の厚みを損なわず、靭性を高めることができるからである。上記無機繊維が短繊維であるとは、具体的には、無機繊維の平均繊維長が210μm~1000μmの範囲内であることをいう。
【0089】
上記無機繊維の平均繊維径は、特に限定されないが、例えば3μm以上10μm以下であることが好ましく、中でも5μm以上8μm以下であることが好ましい。無機繊維の反発力や靭性が向上し、繊維の強度を高めることができるからである。なお、上記無機繊維の平均繊維径が大きすぎると、無機繊維成形体の常温圧縮サイクル特性(コールドコンプレッション)が失われ、一方、上記平均繊維径が小さすぎると空気中に浮遊する発塵量が多くなるおそれがある。
【0090】
3.その他
本発明のバインダー含有無機繊維成形体の平均厚みは、特に限定されず、用途等に応じて適宜設定することができる。上記平均厚みは、例えば2mm~50mm程度とすることができる。
【0091】
4.製造方法
本発明のバインダー含有無機繊維成形体の製造方法としては、高濃度バインダー領域が散在するように形成可能な方法であれば特に限定されない。凹部がニードル痕であるバインダー含有無機繊維成形体であれば、例えば、無機繊維を紡糸して無機繊維成形体を形成する無機繊維成形体形成工程と、無機繊維成形体の第1面からニードル針を通してニードル痕を形成するニードリング処理工程と、上記ニードル痕が形成された無機繊維成形体の上記第1面にバインダー液をスポット塗布し、上記第1面に対向する第2面側から脱液して高濃度バインダー領域および低濃度バインダー領域を形成するバインダー液塗布工程と、バインダー液が塗布された後の無機繊維成形体を乾燥する乾燥工程と、を経て製造することができる。
【0092】
上記無機繊維成形体形成工程による無機繊維成形体の形成方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、国際公開第2016/152795号に開示される紡糸工程によるアルミナ/シリカ繊維前駆体のマット状集合体の形成方法と同様とすることができる。また、ニードリング処理工程によるニードル痕の形成方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、国際公開第2016/152795号に開示されるニードリング処理工程によるニードル痕の形成方法と同様とすることができる。
【0093】
上記バインダー液塗布工程において、バインダー液をスポット塗布する方法としては、特に限定されないが、例えば、上記ニードル痕が形成された無機繊維成形体の第1面から、スポイト等を用いてバインダー液を注入し、第2面側から脱液する方法を用いることができる。この方法によれば、バインダー液の注入領域は、バインダー液が塗布されるため高濃度バインダー領域となり、上記注入領域以外の領域は、バインダー液が塗布されないため低濃度バインダー領域となる。また、他の方法としては、例えば、上記ニードル痕が形成された無機繊維成形体の第1面に、複数の開口が形成されたマスクを配置し、上記マスクの上記無機繊維成形体とは反対側の面からバインダー液を全面塗布し、上記無機繊維成形体の第2面側から脱液する方法が挙げられる。この方法によれば、上記無機繊維成形体の上記マスクの開口と重なる領域は、バインダー液が塗布されるため高濃度バインダー領域とすることができ、一方、上記無機繊維成形体の上記マスクの開口と重ならない領域は、バインダー液が塗布されないため低濃度バインダー領域とすることができる。脱液方法は、特に限定されず、例えば吸引、加圧、圧縮等の各種脱液方法を用いることができる。
【0094】
上記乾燥工程による乾燥方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば国際公開第2016/080388号に開示される乾燥方法を適用することができる。
【0095】
5.用途
本発明のバインダー含有無機繊維成形体は、例えば断熱材、耐火材、クッション材(保持材)、シール材等に適用することができる。中でも、ケーシングに圧入する際に摩擦による層間剥離が発生しにくく、また、排ガス処理体の保持性が良好となることから、排ガス浄化装置用保持材として好適である。
【0096】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0097】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。
【0098】
[実施例1]
第1面に複数のニードル痕を有するアルミナ繊維成形体原反ロール(商品名:マフテック(登録商標)、三菱ケミカル株式会社製、坪量1500g/m)から200mm×300mmの試験片を切り出した。上記試験片において、凹部はニードル痕であり、ニードル痕は貫通孔であった。また、ニードル痕密度は2個/cm、ニードル痕の平均直径は654μm、ニードル痕の平均深さは無機繊維成形体の平均厚みの100%(約8.0mm)、近接する2個のニードル痕間の平均距離は1.0cmであった。
【0099】
コンベア上に上記試験片の第1面を上にして置き、第2面側で吸引ブロワを50Hzの出力で作動しながら、図11(a)で示すように、試験片Sが有するニードル痕(凹部)2の全個数の100%に対し、1箇所あたりの滴下量を0.05gとして、バインダー液を第1面にスポット滴下し、第1面側から第2面側へバインダー液を浸透させた。バインダー液の滴下領域が高濃度バインダー領域Aであり、それ以外の領域が低濃度バインダー領域Bである。バインダー液は、有機バインダー液(アクリレート系ラテックス、商品名:Nipol(登録商標)、日本ゼオン製、濃度15質量%)を用い、2mLシリンジを用いてスポット滴下した。その後、治具により所定の厚みまで拘束した状態で140℃、15分間乾燥してバインダー含有無機繊維成形体を得た。得られたバインダー含有無機繊維成形体を、電気炉内において約400℃で60秒間熱し、有機バインダーを変色させて変色部を発現させたところ、高濃度バインダー領域の全個数のうち100%がニードル痕に位置していることが確認された。また、変色部から特定される高濃度バインダー領域は、平面視で円形であり、平均直径が4.2mm、平均面積が13.8mm、平均高さが約8.0mm、バインダー濃度(平均)が15質量%であった。一方、変色部以外の領域である低濃度バインダー領域のバインダー濃度(平均)は、0質量%であった。また、複数の高濃度バインダー領域に対する上記低濃度バインダー領域の体積比は2.2であった。さらに、加熱後のバインダー含有無機繊維成形体の第1面において、一辺が5cm四方の正方形(25cm平米)の基準領域Rを1つ設定したところ、基準領域Rに含まれる高濃度バインダー領域の個数は56個であり、第1面において高濃度バインダー領域が散在していることが確認された。なお、実施例1のバインダー含有無機繊維成形体は、無機繊維あたりのバインダーの質量の割合(無機繊維成形体全体に対するバインダー濃度)が、5.13質量%であった。
【0100】
[実施例2]
実施例1で用いたものと同じアルミナ繊維成形体原反ロールから200mm×300mmの試験片を切り出した。上記試験片におけるニードル痕の詳細については、実施例1と同様であった。コンベア上に上記試験片の第1面を上にして置き、第2面側で吸引ブロワを50Hzの出力で作動しながら、2mLシリンジを用いて、図11(b)に示すように、試験片Sが有するニードル痕(凹部)2の全個数のうち50%に対し、1箇所あたりの滴下量を0.05gとして、バインダー液(アクリレート系ラテックス、商品名:Nipol(登録商標)、日本ゼオン製、濃度15質量%)を第1面にスポット滴下し、第1面側から第2面側へバインダー液を浸透させた。また、近接する2つのバインダー液が滴下されていないニードル痕2間に1箇所ずつ、1箇所あたりの滴下量を0.05gとしてバインダー液を第1面にスポット滴下し、第1面側から第2面側へバインダー液を浸透させた。その後、治具により所定の厚みまで拘束した状態で140℃、15分間乾燥してバインダー含有無機繊維成形体を得た。得られたバインダー含有無機繊維成形体を、電気炉内において約400℃で60秒間熱し、有機バインダーを変色させて変色部を発現させたところ、高濃度バインダー領域の全個数のうち50%がニードル痕に位置し、50%がニードル痕以外の領域に位置していることが確認された。また、変色部から特定される高濃度バインダー領域は、平面視で円形であり、平均直径が3.6mm、平均面積が10.2mm、平均高さが約8.0mm、バインダー濃度(平均)が15質量%であった。一方、変色部以外の領域である低濃度バインダー領域のバインダー濃度(平均)は0質量%であった。また、複数の高濃度バインダー領域に対する上記低濃度バインダー領域の体積比は3.4であった。さらに、加熱後のバインダー含有無機繊維成形体の第1面において、一辺が5cmの25cm平米の正方形の基準領域Rを1つ設定したところ、基準領域Rに含まれる高濃度バインダー領域の個数は56個であり、第1面において高濃度バインダー領域が散在していることが確認された。なお、実施例2のバインダー含有無機繊維成形体は、無機繊維あたりのバインダーの質量の割合(無機繊維成形体全体に対するバインダー濃度)が、5.74質量%であった。
【0101】
[比較例]
実施例1で用いたものと同じアルミナ繊維成形体原反ロールから200mm×300mmの試験片を切り出し、第1面の面内においてバインダー濃度が均一化するように、バインダー液(アクリレート系ラテックス、商品名:Nipol(登録商標)、日本ゼオン製、濃度15質量%)を第1面全域に均一に塗布したこと以外は、実施例1と同様にしてバインダー含有無機繊維成形体を得た。すなわち、比較例のバインダー含有無機繊維成形体は、第1面において高濃度バインダー領域が散在していないものであった。比較例のバインダー含有無機繊維成形体は、無機繊維あたりのバインダーの質量の割合(無機繊維成形体全体に対するバインダー濃度)が、4.71質量%であった。
【0102】
[評価]
実施例1~2および比較例のバインダー含有無機繊維成形体について、以下の方法で摩擦力、剪断力、面圧を測定した。評価結果を下記表1に示す。
【0103】
(摩擦力)
図12は、摩擦力の測定装置を模式的に示す側面図である。まず、作製したバインダー含有無機繊維成形体から40mm×40mmの試験片を型抜きし、摩擦力測定用サンプル(31)2つを作製した。次に、一対のステンレス鋼板(32)にそれぞれ、摩擦力測定用サンプル(31)を粘着テープ(33)(ニチバン社製、ナイスタックNW-40(普通))により接着させた。その後、引張試験用ステンレスシート(34)(EN 1.4509 表面処理2B仕上げ)を摩擦力測定用サンプル(31)同士で挟みこむように、ステンレス鋼板(32)を設置した。摩擦力測定用サンプル(31)の無機繊維の嵩密度(GBD)が0.3g/cmとなるように適宜ステンレス鋼板の幅を幅調整留め具(35)により調節した。その後、室温(25℃)にて引張試験用ステンレスシート(34)を測定装置(Technograph社、TG)に接続し、1000mm/minの速度で引っ張り、そのピーク荷重F(摩擦力、N)を測定した。
【0104】
(剪断力)
図12に示す摩擦力の測定装置において、さらに摩擦力測定用サンプル(31)と引張試験用ステンレスシート(34)とを粘着テープ(33)により接着した以外は、摩擦力の測定方法と同様に測定した。その際に、得られたピーク荷重S(剪断力、N)を測定した。
【0105】
(面圧)
作製したバインダー含有無機繊維成形体から40mm×40mmの試験片を型抜きし、面圧測定用サンプルを3つ作製した。3つの面圧測定用サンプルをそれぞれ、嵩密度(GBD)が0.25g/cm、0.30g/cm、0.35g/cmになるまで圧縮した後、5分保持後の反発力(5分後緩和面圧)を測定した。
【0106】
【表1】
【0107】
上記表1より、実施例1~2のバインダー含有無機繊維成形体は、高濃度バインダー領域と低濃度バインダー領域を有し、少なくとも第1面において上記高濃度バインダー領域が散在しているため、バインダー濃度が均一化された比較例のバインダー含有無機繊維成形体よりも表面全体での摩擦力が小さく且つ剪断力が高いことが示された。また、5分後緩和面圧についても、嵩密度の大きさによらず、実施例1~2のバインダー含有無機繊維成形体は、比較例のバインダー含有無機繊維成形体よりも高い値を示した。
【符号の説明】
【0108】
1 … 無機繊維成形体
2 … 凹部、ニードル痕
10 … バインダー含有無機繊維成形体
10a … 第1面
10b … 第2面
A … 高濃度バインダー領域
B … 低濃度バインダー領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12