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特許7079395伝熱促進用3次元立体素子および該素子を伝熱管内部に挿入した熱交換器。
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  • 特許-伝熱促進用3次元立体素子および該素子を伝熱管内部に挿入した熱交換器。 図1
  • 特許-伝熱促進用3次元立体素子および該素子を伝熱管内部に挿入した熱交換器。 図2
  • 特許-伝熱促進用3次元立体素子および該素子を伝熱管内部に挿入した熱交換器。 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】伝熱促進用3次元立体素子および該素子を伝熱管内部に挿入した熱交換器。
(51)【国際特許分類】
   F28F 1/40 20060101AFI20220526BHJP
   F28F 21/06 20060101ALI20220526BHJP
   F28F 13/12 20060101ALI20220526BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
F28F1/40 P
F28F21/06
F28F13/12 C
F28F21/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019017535
(22)【出願日】2019-02-02
(65)【公開番号】P2020125864
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-12-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】714007193
【氏名又は名称】酒井 昭二
(72)【発明者】
【氏名】酒井 昭二
【審査官】長尾 裕貴
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第203719506(CN,U)
【文献】中国実用新案第203824400(CN,U)
【文献】実開昭51-135855(JP,U)
【文献】特開平07-253287(JP,A)
【文献】特開2002-130975(JP,A)
【文献】特開昭59-185995(JP,A)
【文献】特開2007-064514(JP,A)
【文献】特開2016-217540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 1/40
F28F 21/06
F28F 13/12
F28F 21/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径が26mmφ以下の伝熱管の内部に配置される伝熱促進用3次元立体素子であって、直径が0.1~1.0mmで、ループ直径が3~15mmに成型されたテグスからなるプラスチック製スパイラルループの内部に通された金属製芯ワイヤーが2つ折りにされ、さらに捩じられることによって、前記プラスチック製スパイラルループが前記芯ワイヤーに固定されていることを特徴とする伝熱促進用3次元立体素子。
【請求項2】
前記テグスの材質がナイロン糸、フロロカーボン糸、ポリエステル糸、ポリプロピレン糸、ポリフェニレンサルファイド糸である請求項1に記載の伝熱促進用3次元立体素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の前記伝熱促進用3次元立体素子が、前記伝熱管内に挿入されている熱交換器。
【請求項4】
直径が0.1~1.0mmで、ループ直径が3~15mmに成型したテグスから作成したプラスチック製スパイラルループの内部に金属製芯ワイヤーを通し、該金属製ワイヤーを2つ折りにし、さらに捩じることにより、前記プラスチック製スパイラルループを前記金属芯ワイヤーに固定することを特徴とする伝熱促進用3次元立体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改良された伝熱性能を有する熱交換器の管側伝熱促進3次元立体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
いわゆるシェルアンドチューブ(胴&管:多管円筒式)型熱交換器は、工業的分野の熱回収に非常に役立っており、その伝熱効率を上げるための工夫が幾つか提案されている。
【0003】
熱交換器の総括伝熱係数を大きくする方法は、管側と胴側の境膜伝熱係数を上げるために流速を大きくすることすなわちレイノルズ数を大きくすることが必要で、胴側はバッフルによるクロスパスを大きくする、管側はパス数を大きくするなどの設計の最適化がなされている。
【0004】
管側の流速を上げることなく管側伝熱促進を達成する手段のひとつとして、金属ワイヤー製3次元立体素子(商品名:ハイトラン)が提案され、産業用に広く用いられている。
【0005】
そしてこの金属ワイヤー製3次元立体素子は伝熱管の内径に応じて個別に提供され、最小径は6mmΦであり、かつ伝熱管に挿入するためには、あらかじめ冶具を用いて、該素子の直径の絞り込みをする必要がある。
【0006】
3次元立体素子の伝熱促進の原理は、円管内壁に滞留する液体膜を壁面と接するループ金属ワイヤーで破壊し、疑似乱流を形成するためと考えられており、ループ状ワイヤーが、壁面と接触していることが重要である。
【0007】
そのために、3次元立体素子のループワイヤーの外径は、使用される伝熱管の内径よりも若干大きめに製造され、挿入時に絞り込まれたのち、金属ワイヤーの復元力によって伝熱管内壁に密着している。
【0008】
実際のハイトランのループワイヤーは一方向に絞り込まれるように芯ワイヤーに傾斜して固定されており、伝熱管に挿入された3次元立体素子は、この傾斜を絞り込むような方向には比較的容易に引き抜けるが、逆方向にはその構造を破壊することなく、引き抜くことが出来ない。
【0009】
すなわち金属製3次元立体素子が伝熱促進効果を発揮するためには、伝熱管の内径より数パーセント大き目の外径を持つループワイヤーである必要があり、そのパーセントは伝熱管の内径が小さい程、少なくしないと、挿入時の摩擦抵抗が大きくなるため、挿入の作業性が悪くなる。
【0010】
たとえば、呼び径25Aの伝熱管に用いる金属製3次元立体素子のループ外径は、内径より10%程度大きいループワイヤーを持たせ、挿入時にあらかじめ伝熱管内径以下の冶具を用いてループワイヤーの外径を絞り込み、挿入後の該ワイヤーの復元力によって管壁に密着できる。
【0011】
しかし伝熱管のサイズが小さくなるにしたがって、ループ外径の加工精度は高いことが要求され、実際に供給されている最小の金属製3次元立体素子は、内径6mmΦの伝熱管用までであり、これ以下のものは入手できない。
【0012】
さらに、金属製のループワイヤーの復元力には限度があるため、内径に応じた金属製3次元立体素子を作成する必要があり、たとえば内径6mmφ用の素子を内径8mmφの伝熱管に挿入したとしても、管内壁の接触が無いため、その伝熱促進効果は限定的となる。
【0013】
また同じ胴径の場合、伝熱管の内径は小さい程、伝熱面積が大きくとれるが、頭部の加工が困難となり、発明者は既に管板に変えて、エポキシ樹脂等によって両端を固めて管/胴の流体を分離する小型熱交換器の提案を実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2018-151104号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】渡部、酒井、「熱交換器の伝達を促進する管側3次元ワイヤー素子“hiTRAN”の活用(その5)」、化学装置、(株)工業通信、2016年6月、第58巻第6号、p64-69。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、管内壁と接触するループワイヤーにテグスを用いた小口径伝熱管に挿入容易な伝熱促進用3次元立体素子の構造とその製造方法を提供することにより、該素子を装着した高効率小型多管円筒式熱交換器の構成を達成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の3次元立体伝熱促進素子のループワイヤーはしなやかなテグスであるため、内径が10mmφ以下の伝熱管に挿入する場合に、金属ループワイヤーのそれよりも少ない力で挿入が可能であり、ハイトランのように挿入前のループ部分の絞り込みは不要で、且つ挿入の方向に関係なく抜き差しが可能である。
【0018】
具体的には本発明のループワイヤーの外側直径が8mmである立体素子は、伝熱管の内径7mmφに用いられるが、同時に内径5mmφの伝熱管にも容易に挿入可能であるため、従来の金属ループワイヤーを持つ立体素子よりも適用可能な伝熱管内径の範囲は広いが、これはループワイヤーの変形応力と摩擦抵抗が小さいためと考えられる。
【0019】
本発明に用いるループ状のテグスは1.5号(0.205mmφ)から10号(0.520mmφ)が用いられ、内径4~7mmの伝熱管には、3号(0.285mmφ)または4号(0.330mmφ)が好ましい。テグスの材質はナイロン糸、フロロカーボン糸、ポリエステル糸、ポリプロピレン糸、ポリフェニレンサルファイド糸、フッ素糸であることが好ましい。
【0020】
ループ状のテグスを捩じって固定するための金属製芯ワイヤーは、例えばSUS304の#20~#22(0.9~.66mmφ)が適当である。
【0021】
スパイラルループ状テグスを金属芯ワイヤーに固定する前に、テグスをスパイラルループ状に固定しなければならないが、本発明のその方法は、作りたいスパイラル直径以下のロッドにテグスを巻き付けたのち、テグスの軟化温度より低い温度でアニーリングして、スパイラルループを形成するものである。
【0022】
このテグスのスパイラルループに金属芯ワイヤーを通して、2つ折りにしたのち、芯ワイヤーを捩って本発明の伝熱促進3次元立体素子を製造する。
【0023】
該素子を伝熱管に挿入した熱交換器を試作し、熱交換能力を比較した結果、伝熱促進効果はハイトランと同等であった。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】スパイラルループ状に固定されたテグスと金属芯ワイヤーが通されて、捩られる前の模式図。
図2】芯ワイヤーの捩り回数と形態の変化の写真。
図3】伝熱促進性能を評価した熱交換器の胴部分の写真。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明の形態を示し、実施例によってその効果を説明する。
【実施例1】
【0026】
直径3mmΦのアルミ管の周囲にナイロン製3号(0.285mmφ)テグスの両端を固定して、一重に巻き付けた30cmのスパイラルループテグス作成用ロッドを作成した。
【0027】
この時巻き付けたテグスの全長は8mで、巻き数は850回巻きで、理論最密巻き数の80%であった。
【0028】
このロッドに巻きついたテグスのアニーリングのため、沸騰水に5分間浸漬した。
【0029】
冷却したのち、捩るための#20SUSの芯ワイヤーを端部に取り付けたのち、ロッドに巻かれたテグスの両端を開放すると、スパイラル直径が約5mmとなって図1に示したような芯ワイヤーが通されたテグスのスパイラルループが得られた。
【0030】
SUSの芯ワイヤーは2つ折りしたのち開放末端を固定し、その反対側の折り曲げ部を回転紐より機のフックに引っかけ、捩じることによって、スパイラルループテグスを芯ワイヤーに固定した。
【0031】
図2は芯ワイヤーの都有段階の捩り回数とスパイラルループテグスの固定状態を示した写真であって、本発明では最終的にスパイラルループテグスが、しっかりと芯ワイヤーに固定されるまで捩ることである。
【0032】
また図1のスパイラルループテグスは芯ワイヤーの片側に装着されているが、折り返した側にテグスが配置され、捩られても差し支えない。
【0033】
このようにして製作した本発明の伝熱促進用3次元立体素子の伝熱性能を確認するため、小型の熱交換器2種を製作し、伝熱促進性能を測定した。
【0034】
小型熱交換器は胴内径が52mmφの塩ビ製パイプに、内径5mmφ厚み0.5mmのアルミパイプ30本を装着した全長320mmの熱交換器で、胴側の対向ノズル間長さは25mm、管および胴の流体パス数は向流1パスである。
【0035】
アルミ伝熱管の外側はバッフルとなるものが何も存在しないプレーン、そして胴側の旋回流を期待して、2本撚りした1mmアルミワイヤーをらせん状に10回巻き付けたツイストワイヤーの2種を用意した。
【0036】
図3は両端を封止し伝熱促進体を挿入した写真であり、左側はプレーン、右側はツイストワイヤーで、これに管用頭部を装着して、熱交換器を完成した。
【0037】
本発明の伝熱促進用3次元立体素子の効果を確認するために、該素子を挿入した熱交換器と挿入していない場合(エンプティ)の熱交換性能を測定した。
【0038】
熱交換する流体は20℃と38℃の水で、その流量は低温側6L/min、高温側10L/minの条件で、出入口温度を測定して、出入口温度差と流量から熱交換能力を求めた。
【0039】
その結果、胴側がプレーンの場合は、エンプティが2.1kWであるのに対して、本発明の素子を挿入した場合は3.3kWと160%の熱交換性能の増加が観察された。
【0040】
また胴側にツイストワイヤーを装着した熱交換器の場合は、エンプティが3.0kWであるのに対し、本発明の素子を挿入した場合は4.3kWと143%の増加が観察された。
【0041】
以上のように本発明のテグスをループワイヤーとする伝熱促進用3次元立体素子は、管側の伝熱抵抗を小さくし、伝熱性能を50%程度向上させることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0042】
地球温暖化防止に向けて省エネルギー技術の開発が望まれているが、低温排水からの高効率熱回収技術が望まれており、本発明の伝熱促進用3次元立体素子を装着した熱交換器は、多大の寄与をするものと期待される。
図1
図2
図3