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特許7079396表面性状解析方法、表面性状比較評価方法、及び表面形状測定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】表面性状解析方法、表面性状比較評価方法、及び表面形状測定システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 21/30 20060101AFI20220526BHJP
   G01B 5/28 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
G01B21/30 102
G01B5/28 102
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018095328
(22)【出願日】2018-05-17
(65)【公開番号】P2019200155
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-04-16
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsde/advpub/0/advpub_2017/2760/_pdf/-char/ja
(73)【特許権者】
【識別番号】502340996
【氏名又は名称】学校法人法政大学
(73)【特許権者】
【識別番号】501292142
【氏名又は名称】株式会社小坂研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100083895
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100175983
【弁理士】
【氏名又は名称】海老 裕介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 一朗
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-176078(JP,A)
【文献】特開2013-083322(JP,A)
【文献】特開2006-122084(JP,A)
【文献】特開平05-252516(JP,A)
【文献】特開2004-310292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00-21/32
G01B 5/00- 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定表面の表面形状プロファイルの負荷曲線データに対してラドン変換を行うステップと、
該ラドン変換によって得られる投影像データのr-θ平面におけるデータ集中点を特定するステップと、
を含む、表面性状解析方法。
【請求項2】
特定した該データ集中点の該r-θ平面上での位置に基づいて、該負荷曲線データ上の直線的特徴領域に当てはまる直線のパラメータを演算するステップをさらに含む、請求項1に記載の表面性状解析方法。
【請求項3】
該直線のパラメータに基づいて該測定表面の表面性状を評価するステップをさらに含む、請求項2に記載の表面性状解析方法。
【請求項4】
該表面性状を評価するステップが、該直線のパラメータのうちの傾きパラメータから該直線的特徴領域の粗さパラメータを演算するステップを含む、請求項3に記載の表面性状解析方法。
【請求項5】
該測定表面がプラトー領域と谷領域を含むプラトー構造表面であり、該負荷曲線データが正規確率紙上の負荷曲線データとされ、
該直線のパラメータを演算するステップが、該負荷曲線データ上で該谷領域に対応する第1の直線的特徴領域に当てはまる谷領域直線のパラメータを演算するステップと、該負荷曲線データ上で該プラトー領域に対応する第2の直線的特徴領域に当てはまるプラトー領域直線のパラメータを演算するステップと、を含む、請求項2乃至4のいずれか一項に記載の表面性状解析方法。
【請求項6】
該谷領域直線のパラメータのうちの傾きパラメータから該谷領域の粗さパラメータ(Rvq)を演算し、該プラトー領域直線のパラメータのうちの傾きパラメータから該プラトー領域の粗さパラメータ(Rpq)を演算するステップを含む、請求項5に記載の表面性状解析方法。
【請求項7】
該正規確率紙上での該谷領域直線と該プラトー領域直線との交点を演算して該谷領域と該プラトー領域との境界(Rmq)を求めるステップをさらに含む、請求項5又は6に記載の表面性状解析方法。
【請求項8】
該データ集中点を特定するステップが、
該投影像データを第1階級幅を有する第1ヒストグラムとしたときにピークを示す階級を求めるステップと、
該投影像データのうちの該階級内に含まれるデータを該第1階級幅よりも狭い第2階級幅を有する第2ヒストグラムとしたときの該第2ヒストグラムの分布に基づいて、該r-θ平面上での該データ集中点の位置を決定するステップと、
を含む、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の表面性状解析方法。
【請求項9】
基準測定表面の表面形状プロファイルの負荷曲線データに対してラドン変換を行ない、基準投影像データを取得するステップと、
比較測定表面の表面形状プロファイルの負荷曲線データに対してラドン変換を行ない、比較投影像データを取得するステップと、
該基準投影像データと該比較投影像データとに基づいて、該基準測定表面の表面性状と該比較測定表面の表面性状との相違を評価するステップと、
を含む、表面性状比較評価方法。
【請求項10】
該相違を評価するステップが、
該基準投影像データのr-θ平面におけるデータ集中点を特定するステップと、
該比較投影像データのr-θ平面におけるデータ集中点を特定するステップと、
該r-θ平面における該基準測定表面の該データ集中点の位置と該比較測定表面の該データ集中点の位置とを比較するステップと、
を含む、請求項9に記載の表面性状比較評価方法。
【請求項11】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の表面性状解析方法をコンピュータに実行させるための表面性状解析プログラム。
【請求項12】
請求項9又は10に記載の表面性状比較評価方法をコンピュータに実行させるための表面性状比較評価プログラム。
【請求項13】
測定表面の表面形状プロファイルを測定する表面形状測定手段と、
該表面形状測定手段によって測定された表面形状プロファイルを負荷曲線データに変換するデータ変換部と、
請求項11に記載の表面性状解析プログラムと請求項12に記載の表面性状比較評価プログラムとのうちの少なくとも一方を実行する演算部と、
を備える、表面形状測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定表面の表面性状を解析及び評価する方法、並びに該方法を実行する機能を有する表面形状測定システムに関し、より詳細には、測定表面の表面形状プロファイルの負荷曲線データに対してラドン変換を行なうことにより得られる投影像データに基づいて該測定表面の表面性状の解析及び評価を行なう方法、並びに該方法を実行する機能を有する表面形状測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
測定表面の表面形状を測定するための装置として、触針式のものや(特許文献1)、レーザー光を利用した非接触式のもの(特許文献2)、触針式のセンサと非接触式のセンサをともに備えるもの(特許文献3)など、種々のものが開発されている。これらの表面形状測定装置には、触針や光センサを用いて測定した微細な表面形状のプロファイルに基づいて表面性状の解析や評価をする機能を有するものがある。代表的な解析・評価パラメータとして、算術平均粗さRa、最大高さRz、二乗平均平方根高さRqなどの表面粗さがよく利用されている。
【0003】
しかしながら、上述のような表面粗さでは表面性状の特性を十分に表わすことができない場合がある。例えば、自動車のエンジンや工作機械の摺動面は、摩擦特性や摩耗特性の向上させるために、プラトーホーニング加工や研削加工などを用いて、図1に示すような平滑な部分(プラトー領域)と粗い部分(谷領域)を混在させた、いわゆるプラトー構造表面とすることがある。このようなプラトー構造表面は、プラトー領域と谷領域とで表面粗さが大きく異なっているため、プラトー構造表面全体の術平均粗さRa、最大高さRz、二乗平均平方根高さRqなどを求めても、その特性を適切に評価することは難しい。そのため、JIS/ISO(非特許文献1、2、3)においては、正規確率紙上の負荷曲線を用いることにより特性の異なる二つの領域を分離して評価するようにしている。ここで負荷曲線とは、平面凹凸を測定したプロファイルの高さ方向に対する実態部分と空隙部分の比率を示した曲線であり、実体部分の断面長さの確率分布関数である。また正規確率紙とは、負荷曲線の横軸の百分率%を等間隔の標準偏差σに変換して表現したものであり、プロットしたデータの傾きを求めることによってその部分の標準偏差を近似的に求めることができるという特徴を有する。図1のプラトー構造表面の表面形状プロファイルを正規確率紙上の負荷曲線に変換してプロットすると図2のようになる。プラトー構造表面は統計的性質の異なるプラトー領域と谷領域とを有するが、正規確率紙上の負荷曲線ではこれら二つの領域が分離した二つの直線的特徴領域R1、R2として現れる。正規確率紙上の負荷曲線の傾きから二乗平均平方根高さRqに相当する粗さパラメータを求められるため、各直線的特徴領域の傾きを求めることによりプラトー領域の粗さパラメータRpqと谷領域の粗さパラメータRvqを分離して求めることができる。
【0004】
JIS/ISO(非特許文献3)は、プラトー構造表面の具体的評価方法として、負荷曲線に対して双曲線の当てはめを行なう手法を提案している。この手法の手順は以下の通りである。第一に、正規確率紙上の負荷曲線に対して第1回目の双曲線の当てはめ演算を実行する。第二に、当てはめた双曲線の漸近線の二等分線を求め、二等分線と負荷曲線との交点を求める。この交点は、プラトー領域から谷領域への仮の変位点となる。第三に、変位点の負荷長さ率を起点とし、プラトー領域と谷領域の負荷曲線の各点で二次導関数を逐次計算する。得られた二次導関数の値を、二次導関数の値の標準偏差で正規化し、その絶対値をとる。この値が6より大きくなった位置をそれぞれプラトー領域の上限値UPL、谷領域の下限値LVLとする。第四に、UPLとLVLの範囲内の領域が正方形となるように負荷曲線の縦軸を拡大・縮小して正規化する。第五に、正規化された負荷曲線に対し、再び双曲線の当てはめ演算を実行し、得られた双曲線の漸近線を求める。第六に、漸近線に対して二等分線を三回求め、両端の二つの二等分線と負荷曲線との交点を求める。二つの交点をそれぞれ、プラトー領域の下限値LPL、谷領域の上限値UVLとする。第七に、第四及び第六で得られたプラトー領域の範囲(UPL-LPL)と谷領域の範囲(UVL-LVL)に対し最小二乗直線の当てはめを実行する。当てはめた二本の直線の傾きからプラトー領域の粗さパラメータRpqと谷領域の粗さパラメータRvqを導出し、二本の直線の交点からプラトー領域と谷領域の境界の指標となる負荷長さ率Rmqを導出する。
【0005】
上記手法は非常に煩雑であるため、これを緩和するために双曲線を当てはめるアルゴリズム等を工夫する試みもなされている(非特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-97691号公報
【文献】特開2012-2573号公報
【文献】特開2016-200399号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】JIS B 0671-1
【文献】JIS B 0671-2
【文献】JIS B 0671-3
【文献】二層構造表面性状の評価(第1報,負荷曲線の双曲線近似),設計工学会誌,44,5(2009),301-308
【文献】二層構造表面性状の評価(第2報,パラメータの導出),設計工学会誌,44,11(2009),624-629
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、負荷曲線に対して双曲線を当てはめる手法は、双曲線の当てはめ演算のための前処理が煩雑であり、また該手法には複雑な計算が必要であるため、該手法をコンピュータで実行するためには難解なアルゴリズムの実装が必要となる。非特許文献4及び5に示された手法によって演算の煩雑さはある程度は軽減されることが期待されるが、依然として双曲線の当てはめ演算を含んでおり複雑なアルゴリズムの実装が必要となる。
【0009】
そこで本発明は、従来の双曲線の当てはめ手法のような煩雑な前処理や難解なアルゴリズムの実装を必要としない表面性状の解析方法、比較評価方法、及びそれら方法を実行する表面形状測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、
測定表面の表面形状プロファイルの負荷曲線データに対してラドン変換を行うステップと、
該ラドン変換によって得られる投影像データのr-θ平面におけるデータ集中点を特定するステップと、
を含む、表面性状解析方法を提供する。
【0011】
後に詳述するように、ラドン変換によって得られる投影像データのr-θ平面におけるデータ集中点は、表面形状プロファイルの負荷曲線データの直線的特徴領域に関連して現れるため、該データ集中点を特定することにより該直線的特徴領域の解析を行なうことが可能となる。また、プラトー構造表面のように互いに表面粗さが異なる二つ以上の領域を有する表面の場合には、各領域に対応したデータ集中点がそれぞれ分離して現れるため、各データ集中点に基づいて表面粗さの異なる各領域を分離して解析することも可能となる。すなわちラドン変換を利用した当該表面性状解析方法においては、プラトー構造表面のように互いに表面粗さが異なる二つ以上の領域を有する表面の場合であっても、表面形状の解析を適切に行なうことが可能となる。また、負荷曲線に対する双曲線の当てはめ演算を含まないため、従来手法のような煩雑な前処理や難解なアルゴリズムの実装が必要ないようにすることが可能となる。なお、本発明は、プラトー構造表面の解析において特に有効ではあるが、対象とする測定表面はプラトー構造表面に限られない。
【0012】
好ましくは、特定した該データ集中点の該r-θ平面上での位置に基づいて、該負荷曲線データ上の直線的特徴領域に当てはまる直線のパラメータを演算するステップをさらに含むようにすることができる。また、該直線のパラメータに基づいて該測定表面の表面性状を評価するステップをさらに含むようにできる。さらには、該表面性状を評価するステップが、該直線のパラメータのうちの傾きパラメータから該直線的特徴領域の粗さパラメータを演算するステップを含むようにすることができる。
【0013】
具体的には、該測定表面がプラトー領域と谷領域を含むプラトー構造表面であり、該負荷曲線データが正規確率紙上の負荷曲線データとされ、
該直線のパラメータを演算するステップが、該負荷曲線データ上で該谷領域に対応する第1の直線的特徴領域に当てはまる谷領域直線のパラメータを演算するステップと、該負荷曲線データ上で該プラトー領域に対応する第2の直線的特徴領域に当てはまるプラトー領域直線のパラメータを演算するステップと、を含むようにすることができる。
【0014】
好ましくは、該谷領域直線のパラメータのうちの傾きパラメータから該谷領域の粗さパラメータ(Rvq)を演算し、該プラトー領域直線のパラメータのうちの傾きパラメータから該プラトー領域の粗さパラメータ(Rpq)を演算するステップを含むようにすることができる。また、正規確率紙上での該谷領域直線と該プラトー領域直線との交点を演算して該谷領域と該プラトー領域との境界(Rmq)を求めるステップをさらに含むようにすることができる。
【0015】
具体的には、
該データ集中点を特定するステップが、
該投影像データを第1階級幅を有する第1ヒストグラムとしたときにピークを示す階級を求めるステップと、
該投影像データのうちの該階級内に含まれるデータを該第1階級幅よりも狭い第2階級幅を有する第2ヒストグラムとしたときの該第2ヒストグラムの分布に基づいて、該r-θ平面上での該データ集中点の位置を決定するステップと、
を含むようにすることができる。
【0016】
また本発明は、
基準測定表面の表面形状プロファイルの負荷曲線データに対してラドン変換を行ない、基準投影像データを取得するステップと、
比較測定表面の表面形状プロファイルの負荷曲線データに対してラドン変換を行ない、比較投影像データを取得するステップと、
該基準投影像データと該比較投影像データとに基づいて、該基準測定表面の表面性状と該比較測定表面の表面性状との相違を評価するステップと、
を含む、表面性状比較評価方法を提供する。
【0017】
当該表面性状比較評価方法においても、上述の表面性状解析方法と同様に、従来の双曲線の当てはめ手法のような煩雑な前処理や難解なアルゴリズムの実装を必要としないようにすることが可能となる。
【0018】
好ましくは、
該相違を評価するステップが、
該基準投影像データのr-θ平面におけるデータ集中点を特定するステップと、
該比較投影像データのr-θ平面におけるデータ集中点を特定するステップと、
該r-θ平面における該基準測定表面の該データ集中点の位置と該比較測定表面の該データ集中点の位置とを比較するステップと、
を含むようにすることができる。
【0019】
本願発明はさらに、上述の表面性状解析方法をコンピュータに実行させるための表面性状解析プログラム、及び上述の表面性状比較評価方法をコンピュータに実行させるための表面性状比較評価プログラムを提供する。
【0020】
本願発明はさらに、
測定表面の表面形状プロファイルを測定する表面形状測定手段と、
該表面形状測定手段によって測定された表面形状プロファイルを負荷曲線データに変換するデータ変換部と、
上記表面性状解析プログラムと上記表面性状比較評価プログラムとのうちの少なくとも一方を実行する演算部と、
を備える、表面形状測定システムを提供する。
【0021】
以下、本発明に係る表面性状解析方法、表面性状比較評価方法、及び表面形状測定システムの実施形態を添付図面に基づき説明する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】プラトー構造表面の表面形状プロファイルを示す図である。
図2図1の表面形状プロファイルの正規確率紙上の負荷曲線を示す図である。
図3】負荷曲線データに対するラドン変換を説明するための概念図である。
図4図2の負荷曲線データに対してラドン変換を行なうことによって得られた投影像データを示す図である。
図5】本願発明の一実施形態に係る表面形状測定システムを示す模式図である。
図6図5の表面形状測定システムにおける表面性状解析プログラムの動作を示す第1の図である。
図7図5の表面形状測定システムにおける表面性状解析プログラムの動作を示す第2の図である。
図8図2の負荷曲線と、演算により求められたプラトー領域直線および谷領域直線との関係を示す図である。
図9図5の表面形状測定システムにおける表面性状比較評価プログラムの動作を示す図である。
図10】別のプラトー構造表面の表面形状プロファイルの負荷曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の一実施形態に係る表面性状解析方法は、測定表面の表面形状プロファイルの負荷曲線データに対してラドン変換を行なうことにより負荷曲線の投影像データを取得し、投影像データに基づいて測定表面の表面性状の解析および評価を行なうものである。
【0024】
ここでラドン変換とは、一般にX線CTにおいて投影像を得る場合によく利用される積分変換であり、具体的には、x-y直交座標上に存在する対象物f(x,y)に対してx-y直交座標系に対し角度θ[rad]回転させたr-s座標系で対象物f(x,y)の投影を行なうことである。物体の投影は、投影面に垂直な直線上における物体の線積分値と定義できる。X軸からθ[rad]だけ回転した座標は、
【数1】
である。したがって、対象物f(x,y)の投影像p(r,θ)は、
【数2】
の積分変換によって求めることができる。この積分変換がラドン変換である。
【0025】
負荷曲線データに対してラドン変換を行なうということは、概念的には負荷曲線を物体として捉えて、図3に示すように、所定の角度範囲内において投影角度を変えながら各投影角度において投影面に投影される負荷曲線の投影像を得ることを意味する。
【0026】
プラトー構造表面(図1)の正規確率紙上の負荷曲線データ(図2)に対して0[rad]からπ[rad]の投影角度θの範囲でラドン変換を行なうことによって得られる投影像データを、横軸を投影面上での位置rとし縦軸を投影角度θとしたr-θ平面上にプロットすると図4のようになる。横軸に平行な断面を取ると、図3の各投影角度における投影像p(r)になる。図4から分かるように、r-θ平面上の投影像データには二つのデータ集中点D、Eが現れる。r-θ平面上でデータが集中するということは、投影角度θのときの投影面における位置rから投影角度θの方向で負荷曲線を見たときに、多くの負荷曲線データが直線的に見えるということである。データ集中点Dは投影角度θが約π/4の位置に現れるが、これは図3のAの位置での投影像に対応する。したがって、データ集中点Dは谷領域に対応する直線的特徴領域R1を示している。同様にデータ集中点Eは、図3のBの位置で現れ、プラトー領域に対応する直線的特徴領域R2を示している。一方で、何れの直線的特徴領域にも向きが合っていない図3のCのような位置での投影像には、データ集中点は現れない。すなわち、負荷曲線の直線的特徴領域の数だけr-θ平面における投影像データにデータ集中点が表れることになる。
【0027】
投影面データ上でのデータ集中点D,Eの位置が特定されると、それに基づいて負荷曲線データ上の直線的特徴領域R1,R2に当てはまる直線のパラメータを演算して下記の直線の方程式を決定することができる。
【数3】
正規確率紙上の負荷曲線では、プラトー領域および谷領域にそれぞれ対応する直線的特徴領域R1,R2の傾きにから二乗平均平方根高さRqに相当するプラトー領域の粗さパラメータRpq及び谷領域の粗さパラメータRvqを求めることができる。プラトー領域に対応するデータ集中点Eのr-θ平面上での位置を(r、θ)とし、谷領域に対応するデータ集中点Dのr-θ平面上での位置を(r、θ)とすると、
【数4】
となる。なお、負荷曲線は単調減少であり、粗さパラメータRpq、Rvqは正の値で扱うため、粗さパラメータRpq、Rvqの符号は正としている。プラトー領域と谷領域の境界Rmqは、プラトー領域直線と谷領域直線の交点のx軸の座標から求めることができる。プラトー領域直線と谷領域直線の交点のx軸の座標tを極座標表現すると、
【数5】
となる。ここで、正規確率紙のx軸は標準偏差であるが、プラトー領域と谷領域の境界Rmqは100分率であるため、標準正規分布関数に数式5を代入し、100分率にするためにそれを100倍すると、境界Rmqは以下のようになる。
【数6】
【0028】
このようにして負荷曲線データに対してラドン変換を行ないr-θ平面における投影像データのデータ集中点を特定することにより、プラトー構造表面におけるプラトー領域と谷領域とを分離して解析し、それぞれの粗さパラメータRpq、Rvqを求めることができる。また、プラトー領域と谷領域の境界Rmqを求めることもできる。これらのパラメータによりプラトー構造表面の表面性状を適切に解析及び評価することが可能となる。この表面性状解析方法は、従来方法で必要であった双曲線を当てはめる演算が不要であり、比較的に簡易なアルゴリズムで実行可能である。
【0029】
本発明の一実施形態に係る表面形状測定システム1は、図5に示すように、表面形状測定を行うための表面形状測定装置10と、表面形状測定装置10に通信接続されたコンピュータ演算装置50とを備える。コンピュータ演算装置50には、上述の表面性状解析方法を実行するための表面性状解析プログラムが実装されている。
【0030】
表面形状測定装置10は、装置フレーム12に固定された垂直移動機構14に取り付けられている触針式のセンサユニット(表面形状測定手段)16を備える。当該表面形状測定装置10は、センサユニット16の触針18を被測定物Wの測定表面Sに接触させた状態で被測定物Wを水平面移動機構20によって水平方向に移動させ、そのときに測定表面Sの凹凸に沿って上下動する触針18の変位量を検出するようになっている。検出された変位量は水平面移動機構20の位置情報とともにコンピュータ演算装置50に送信され、コンピュータ演算装置50はそれらを表面形状プロファイルとしてメモリ52に保存する。メモリ52には上述の表面性状解析プログラムも保存されている。コンピュータ演算装置50は、データ変換部54と演算部56とをさらに備え、これらデータ変換部54と演算部56によって表面性状解析プログラムを実行する。
【0031】
図1に示すプラトー構造表面を測定表面とした場合を例として、当該表面形状測定システムの動作を図6及び7に基づいて以下に説明する。
【0032】
表面形状測定装置10によって上述のようにして被測定物Wの測定表面Sの表面形状を測定し、コンピュータ演算装置50のメモリ52に表面形状プロファイルを保存する(S10)。次に、コンピュータ演算装置50のデータ変換部54において、メモリ52に記憶されている表面形状プロファイルを正規確率紙上の負荷曲線データに変換する(S20)。図2は、図1のプラトー構造表面の8001点の表面形状プロファイルデータから得られた負荷曲線データを、正規確率紙上にプロットして表示したものである。
【0033】
次にコンピュータ演算装置50の演算部56が、負荷曲線データに対して上記数式2に基づいてラドン変換を行なう(S30)。ラドン変換によって得られた投影像データ(図4)はメモリ52に保存される。次に、投影像データのr-θ平面におけるデータ集中点D,Eを特定する(S40)。データ集中点D,Eのr-θ平面での位置は、ヒストグラムを用いて特定される。具体的には、各投影角度θで得られた投影像データをそれぞれ位置rの階級数が400となるように第1階級幅を設定した第1ヒストグラムに変換する(S41)。次に第1ヒストグラムにおいてピークを示す投影角度θ及び位置rの階級を特定する(S42)。さらに投影像データのうちのピークを示す階級内に含まれるデータを、位置rの階級数が20となるように第2階級幅を設定した第2ヒストグラムに変換する(S43)。第2階級幅は必然的に第1階級幅よりも狭くなる。この第2ヒストグラムの分布に基づいてデータ集中点の位置rを決定する(S44)。本実施形態においては、第2ヒストグラムの中央値を位置rの値として採用するようにしているが、ピーク値や平均値などの他の値を採用することもできる。なお、本実施形態においては、第1ヒストグラムは階級数を400に固定しているがこの階級数は任意に変更可能である。ただし、階級数が少なすぎたり多すぎたりすると適切にピークを検出できなくなる場合がある。または、第1階級幅を所定の値に固定して階級数がデータ範囲の大きさに応じて変動するようにしてもよい。これらは第2ヒストグラムにおいても同様である。
【0034】
各データ集中点D,Eのr-θ平面における位置が特定されたら、次にデータ集中点D,Eの位置に基づいて負荷曲線データ上での谷領域に対応する直線的特徴領域R1に当てはまる谷領域直線Lvのパラメータ、及びプラトー領域に対応する直線的特徴領域R2に当てはまるプラトー領域直線Lpのパラメータの演算を上記数式3~5に基づいて実行する(S50)。この演算によって求められた谷領域直線Lvおよびプラトー領域直線Lpは、図8に示すように、各直線的特徴領域R1,R2によく一致する。最後に直線のパラメータに基づいて測定表面Sの表面性状を評価する(S60)。ここで直線のパラメータとは具体的には上記数式3の傾きa及び切片bであるが、上述のように傾きaは二乗平均平方根高さRqに相当する粗さパラメータであるため、傾きaを求めることはすなわち粗さパラメータを求めることを意味する(数式4)。また傾きaに加えて切片bを求めることにより二つの直線Lv,Lpの交点を求めることができ、交点のx軸の座標t(数式5)からプラトー領域と谷領域の境界Rmq(数式6)を求めることができる。当該実施形態においては、プラトー領域の粗さパラメータRpq、谷領域の粗さパラメータRvq、及びプラトー領域と谷領域の境界Rmqを求めることにより表面性状の解析および評価を行なっている。
【0035】
当該表面形状測定システム1には、以下に説明する表面性状比較評価方法を実行する表面性状比較評価プログラムも実装されている。
【0036】
当該表面性状比較評価方法は、上述の表面性状解析方法を利用したものである。具体的には、図9に示すように、まず基準となる基準測定表面の表面形状プロファイルを測定し(S110)、表面形状プロファイルを正規確率紙上の負荷曲線データに変換し(S120)、次いで負荷曲線データに対してラドン変換を行なって基準投影像データを取得する(S130)。次に比較対象となる比較測定表面についても同様にして比較投影像データを取得する(S140-S160)。これらの処理は、図6のS10-S30における処理と同様である。次に、基準投影像データと比較投影像データとに基づいて、基準測定表面の表面性状と比較測定表面の表面性状との相違を評価する(170)。当該実施形態においては、相違を評価する際に、S40-S60として先に説明した処理を実行してデータ集中点を特定し、基準測定表面と比較測定表面における各パラメータRpq、Rvq、及びRmqを求めておき、比較測定表面における各パラメータを基準測定表面における各パラメータと比較する。なお、相違の評価(S170)においては、必ずしも上記パラメータ同士を比較する必要はない。例えば、基準投影像データのr-θ平面におけるデータ集中点の位置と、比較投影像データのr-θ平面におけるデータ集中点の位置を直接比較して測定性状の相違を評価することもできる。また、プラトー構造表面の表面形状プロファイルを正規確率紙上の負荷曲線とすると図2に示すように通常は2つの直線的特徴領域が現れるが、場合によっては図10に示すように第3の直線的特徴領域R3が現れることがある。このような第3の直線的特徴領域R3は表面に深い傷やクラックなどが生じている場合に現れる場合が多い。上述のように、負荷曲線における直線的特徴領域の数はr-θ平面におけるデータ集中点の数により特定することができる。したがって、データ集中点の数、すなわち投影像データをヒストグラムに変換したときのピークの数を比較することにより表面性状の相違を評価することもできる。また、粗さパラメータやピークの数などの特定の値を比較するのではなく、基準測定表面の負荷曲線と比較測定表面の負荷曲線の形状を比較して表面性状の相違を評価するようにしてもよい。さらには、ピークの数や負荷曲線の形状から、測定表面を所定の基準に基づいて分類するようにすることもできる。
【0037】
当該表面性状評価方法は、例えば生産現場における品質管理において有効である。具体的には、事前に基準品の表面形状プロファイルの投影像データや粗さパラメータなどを取得しておく。そして、順次生産される製品の表面形状プロファイルを測定して投影像データや粗さパラメータなどを求めていき、上述のようにして基準品の表面性状と生産品の表面性状を比較評価していく。これにより品質のバラツキを管理することができる。また生産品の表面性状が基準品の表面性状に対して所定の範囲内にあるか否かを判断するなどして、生産品の合否を判定することもできる。
【0038】
当該表面形状測定システム1においては、補助的機能として、手動での操作により負荷曲線データの直線的特徴部分に当てはまる直線を求めることもできるようにもなっている。この方法では、測定された表面性状プロファイルの負荷曲線データがモニタ58上に表示され、作業者が負荷曲線の形状から判断してプラトー領域に対応すると思われる直線的特徴領域の範囲を手動で指定する。演算部56は、手動で指定された範囲に含まれるデータに対して最小時二乗法による直線当てはめ演算を行ない、直線的特徴領域に当てはまる直線のパラメータを求める。演算部56はさらに直線のパラメータに基づいて、粗さパラメータRpqを求める。谷領域についても同様にして手動で直線的特徴領域の範囲を指定して粗さパラメータRvqが求められる。この後さらに境界Rmqも演算される。求められた各パラメータはモニタ58上に表示される。
【0039】
以上に本発明の実施形態について説明をしたが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、正規確率紙上の負荷曲線に対してラドン変換を行なっているが線形の負荷曲線に対してラドン変換をして解析及び評価をするようにすることもできる。本発明が対象とする測定表面はプラトー構造表面に限らず、如何なる測定表面に対しても適用可能である。上記実施形態においては、表面形状測定装置とコンピュータ演算装置は互いに通信接続された別体の装置となっているが、一体の装置として構成してもよい。また、上記表面性状解析プログラム及び表面性状比較評価プログラムは、表面形状測定装置に対応した専用のコンピュータで実行される必要はなく、通常のパーソナルコンピュータにインストロールして実行可能とすることもできる。
【符号の説明】
【0040】
1 表面形状測定システム
10 表面形状測定装置
12 装置フレーム
14 垂直移動機構
16 センサユニット(表面形状測定手段)
18 触針
20 水平面移動機構
50 コンピュータ演算装置
52 メモリ
54 データ変換部
56 演算部
58 モニタ
W 被測定物
S 測定表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10