(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】過給機付圧縮着火式エンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 33/00 20060101AFI20220526BHJP
F02D 41/02 20060101ALI20220526BHJP
F02B 1/12 20060101ALI20220526BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20220526BHJP
F02B 1/02 20060101ALI20220526BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20220526BHJP
F02B 39/04 20060101ALI20220526BHJP
F02B 39/10 20060101ALI20220526BHJP
F02B 29/04 20060101ALI20220526BHJP
F01P 11/10 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
F02B33/00 E
F02D41/02
F02B1/12
F02D45/00
F02B1/02
F02D23/00 A
F02B39/04
F02B39/10
F02B29/04 R
F01P11/10 C
(21)【出願番号】P 2018240706
(22)【出願日】2018-12-25
【審査請求日】2021-01-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100166327
【氏名又は名称】舟瀬 芳孝
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】引谷 晋一
(72)【発明者】
【氏名】梅原 基
(72)【発明者】
【氏名】荒木 啓二
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/096746(WO,A1)
【文献】特開2005-194895(JP,A)
【文献】特開2003-083181(JP,A)
【文献】特許第3564989(JP,B2)
【文献】特開2002-180864(JP,A)
【文献】特開2014-173531(JP,A)
【文献】特開2005-307759(JP,A)
【文献】米国特許第06363721(US,B1)
【文献】特開2017-190671(JP,A)
【文献】特開2014-173526(JP,A)
【文献】特開2012-144231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 33/00 , 37/16
F02D 13/00 - 45/00
F02B 23/10
F01P 7/00 - 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気通路が、過給機が配設された主吸気通路と、該過給機をバイパスするバイパス通路とを有し、
前記バイパス通路の吸気流通状態を制御する制御弁が設けられ、
あらかじめ設定されたエンジンの所定低負荷域での燃焼モードが、少なくとも燃焼途上で燃焼室内の未燃混合気が一気に自着火して燃焼する圧縮着火の燃焼モードとされ、
前記圧縮着火の燃焼モードで燃焼が行われる前記所定低負荷域において、エンジンの目標冷却水温度が、あらかじめ設定されたエンジンの所定高回転域では所定低回転域に比して低くなるように設定され、
前記圧縮着火の燃焼モードで燃焼が行われる前記所定低負荷域において、エンジンの目標冷却水温度が低く設定された前記所定高回転域では、前記過給機が駆動されると共に、該過給機で過給された吸気が前記バイパス通路を介して再び該過給機に循環されるように前記制御弁が制御され、
エンジン冷却水用のラジエタへの走行風の導入量を変更するグリルシャッターを備え、
前記所定低負荷域における前記所定高回転域では前記所定低回転域に比して、前記グリルシャッターの開度が大きくされて前記ラジエタへの走行風の導入量が多くされる、
ことを特徴とする過給機付圧縮着火式エンジン。
【請求項2】
請求項1において、
前記所定低負荷域における前記所定高回転域でのエンジンの目標冷却水温度と、該所定低負荷域よりも高負荷となるエンジン高負荷域でのエンジンの目標冷却水温度とが同一温度とされている、ことを特徴とする過給機付圧縮着火式エンジン。
【請求項3】
請求項2において、
前記過給機で過給された吸気を冷却するためのインタークーラを備え、
前記所定低負荷域のうち前記所定高回転域で前記過給機が駆動されるときは、前記エンジン高負荷域において該過給機が駆動されるときに比して、前記インタークーラを冷却するための冷媒の流通量が少なくされる、
ことを特徴とする過給機付圧縮着火式エンジン。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記過給機が、エンジンにより機械式に駆動される機械式、または電動モータにより駆動される電動式とされている、ことを特徴とする過給機付圧縮着火式エンジン。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
エンジンの暖機が完了されていることを条件として、前記所定低負荷域において前記圧縮着火の燃焼モードが実行され、
エンジンの暖機が完了されていないときは、前記所定低負荷域での燃焼モードが、点火プラグによる着火によって生成された火炎が広がって燃焼が行われる拡散燃焼の燃焼モードとされる、
ことを特徴とする過給機付圧縮着火式エンジン。
【請求項6】
吸気通路が、過給機が配設された主吸気通路と、該過給機をバイパスするバイパス通路とを有し、
前記バイパス通路の吸気流通状態を制御する制御弁が設けられ、
あらかじめ設定されたエンジンの所定低負荷域での燃焼モードが、少なくとも燃焼途上で燃焼室内の未燃混合気が一気に自着火して燃焼する圧縮着火の燃焼モードとされ、
前記圧縮着火の燃焼モードで燃焼が行われる前記所定低負荷域において、エンジンの目標冷却水温度が、あらかじめ設定されたエンジンの所定高回転域では所定低回転域に比して低くなるように設定され、
前記圧縮着火の燃焼モードで燃焼が行われる前記所定低負荷域において、エンジンの目標冷却水温度が低く設定された前記所定高回転域では、前記過給機が駆動されると共に、該過給機で過給された吸気が前記バイパス通路を介して再び該過給機に循環されるように前記制御弁が制御され、
前記所定低負荷域における前記所定高回転域では前記所定低回転域に比して、エンジン冷却水用のラジエタファンの風量が大きくされる、
ことを特徴とする過給機付圧縮着火式エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給機付圧縮着火式エンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンにあっては、過給機を備えたものが多くなっており、特許文献1にはエンジンの低回転・低負荷域では過給機の駆動を停止するものが開示されている。
【0003】
また、ガソリンを燃料とするエンジンにおいて、燃費向上やエンジン出力向上のために圧縮着火を行うものがある。この圧縮着火としては、未燃混合気を自己着火させるHCCIや、特許文献2や特許文献3に示すように、火花点火制御圧縮着火を行うSPCCIがある。このSPCCIは、点火プラグにより着火を行うと共に、燃焼途上において燃焼室内の未燃混合気を圧縮着火させるものである。このSPCCIでは、点火プラグにより着火タイミングを選択できることから、広い運転領域に渡って圧縮着火を行うことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3564989号公報
【文献】特許第4082292号公報
【文献】特許第5447435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧縮着火を行うエンジンにおいて、エンジン負荷があらかじめ設定された設定負荷よりも低負荷となる所定低負荷域において、圧縮着火を行うことが考えられている。この所定低負荷域において、エンジン温度が低くなるエンジン低回転域では、圧縮着火を行うためにエンジンの目標冷却水温度を高く設定(例えば105℃に設定)する一方、単位時間あたりの発熱量が大きくなるエンジン高回転域では、エンジン保護の観点から、エンジンの目標冷却水温度を低く設定(例えば90℃に設定)する必要がある。
【0006】
上記所定の低負荷域のうちエンジン高回転域において圧縮着火を行おうとしたとき、目標冷却水温度が低く設定されることから圧縮着火しずらいことになり、圧縮着火を確実に行うために何らかの対策が望まれるものである。なお、所定の低負荷域のうちエンジン高回転域においては、圧縮着火の燃焼に代えて拡散燃焼を行うことも考えられるが、この場合は圧縮着火を行う運転領域が狭くなってしまうことになる。
【0007】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、エンジンの所定低負荷域のうちエンジン高回転域において、エンジン低回転域に比して目標冷却水温度が低く設定された場合でも、圧縮着火を確実に行えるようにした過給機付圧縮着火式エンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような基本的な解決手法を採択してある。すなわち、
吸気通路が、過給機が配設された主吸気通路と、該過給機をバイパスするバイパス通路とを有し、
前記バイパス通路の吸気流通状態を制御する制御弁が設けられ、
あらかじめ設定されたエンジンの所定低負荷域での燃焼モードが、少なくとも燃焼途上で燃焼室内の未燃混合気が一気に自着火して燃焼する圧縮着火の燃焼モードとされ、
前記圧縮着火の燃焼モードで燃焼が行われる前記所定低負荷域において、エンジンの目標冷却水温度が、あらかじめ設定されたエンジンの所定高回転域では所定低回転域に比して低くなるように設定され、
前記圧縮着火の燃焼モードで燃焼が行われる前記所定低負荷域において、エンジンの目標冷却水温度が低く設定された前記所定高回転域では、前記過給機が駆動されると共に、該過給機で過給された吸気が前記バイパス通路を介して再び該過給機に循環されるように前記制御弁が制御される、
ようにしてある。
本発明にあっては、上記基本的な解決手法に加えて、さらに次のような第1の解決手法あるいは第2の解決手法を選択的に有するものとしてある。
上記第1の解決手法にあっては、エンジン冷却水用のラジエタへの走行風の導入量を変更するグリルシャッターを備えて、前記所定低負荷域における前記所定高回転域では前記所定低回転域に比して、前記グリルシャッターの開度が大きくされて前記ラジエタへの走行風の導入量が多くされる、ようにしてある(請求項1対応)。
上記第2の解決手法にあっては、前記所定低負荷域における前記所定高回転域では前記所定低回転域に比して、エンジン冷却水用のラジエタファンの風量が大きくされる、ようにしてある(請求項6対応)。
【0009】
上記基本的な解決手法によれば、エンジンの冷却水温度が低くされて圧縮着火されにくくなる所定低負荷域での所定高回転域では、過給機の駆動を利用した吸気のリサーキュレーションによる吸気温度上昇を行うことにより、エンジンに供給される吸気温度を高めて、圧縮着火を確実に行わせることができる。勿論、所定低負荷域のうち単位時間あたりの発熱量が大きくなるためにエンジン保護が重視される所定高回転域では、エンジンの冷却水温度を低くするので、エンジン保護という点でもなんら問題のないものとなる。
前記第1の解決手法を有する場合あるいは前記第2の解決手法を有する場合は、所定低負荷域における所定高回転域において、過給機を利用したリサーキュレーションによって吸気温度を上昇させて圧縮着火を確実に行えるようにしつつ、ラジエタでの冷却機能を高めることによりエンジンを十分に冷却してエンジン保護を図ることが可能となる。
【0010】
上記第1の解決手法を前提とした好ましい態様は、次のとおりである。すなわち、
前記所定低負荷域における前記所定高回転域でのエンジンの目標冷却水温度と、該所定低負荷域よりも高負荷となるエンジン高負荷域でのエンジンの目標冷却水温度とが同一温度とされている、ようにしてある(請求項2対応)。この場合、目標冷却水温度を変更する頻度を低減する上で好ましいものとなる。また、所定低負荷域でも高回転域での目標冷却水温度を、高負荷域での目標冷却水温度と同じに設定することにより、エンジン保護を十分に行うという点でも好ましいものとなる。
【0011】
前記過給機で過給された吸気を冷却するためのインタークーラを備え、
前記所定低負荷域のうち前記所定高回転域で前記過給機が駆動されるときは、前記エンジン高負荷域において該過給機が駆動されるときに比して、前記インタークーラを冷却するための冷媒の流通量が少なくされる、
ようにしてある(請求項3対応)。この場合、インタークーラによる冷却能力の調整によって、高負荷域でのエンジンの過度の温度上昇防止と、所定低負荷域のうち所定高回転域での圧縮着火を確実に行えるようにするための吸気温度上昇と、を共に満足させることができる。
【0012】
前記過給機が、エンジンにより機械式に駆動される機械式、または電動モータにより駆動される電動式とされている、ようにしてある(請求項4対応)。この場合、吸気温度上昇のための吸気リサーキュレーションを、簡単かつ精度よく行う上で好ましいものとなる。
【0013】
エンジンの暖機が完了されていることを条件として、前記所定低負荷域において前記圧縮着火の燃焼モードが実行され、
エンジンの暖機が完了されていないときは、前記所定低負荷域での燃焼モードが、点火プラグによる着火によって生成された火炎が広がって燃焼が行われる拡散燃焼の燃焼モードとされる、
ようにしてある(請求項5対応)。この場合、エンジンの暖機完了前と後とでそれぞれに適した燃焼を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エンジンの所定低負荷域のうちエンジン高回転域において、エンジン低回転域に比して目標冷却水温度が低く設定された場合でも、圧縮着火を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態を示すエンジンの全体系統図。
【
図2】
図1に示すエンジンの吸気系と冷却水系統の詳細を示す系統図。
【
図3】複数に区画された運転領域での燃焼形態等を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1において、1はエンジン(エンジン本体)である。エンジン1は、実施形態では、ガソリンを燃料とする直列4気筒の自動車用エンジンとされている。エンジン1の吸気通路が符号10で示され、排気通路が符号20で示される。
【0017】
吸気通路10は、その途中部分に、互いに並列な第1通路11と第2通路12とが構成されている。第1通路11は、主吸気通路となるもので、過給機30が配設されると共にその下流側においてインタークーラ31が配設されている。第2通路12は、第1通路11(つまり過給機30とインタークーラ31)をバイパスするバイパス通路となるもので、吸気の流通状態を制御する電磁式の制御弁32が配設されている。
【0018】
過給機30は、実施形態では、エンジン1により機械式に駆動される機械式とされている(コンプレッサのみを有するスーパチャージャ)。すなわち、過給機30は、チェーン、ベルト、歯車等の連動機構33を介してエンジン1(のクランク軸)と連結されており、この連動機構33には、電磁式のクラッチ34が介在されている。
【0019】
吸気通路10には、第1通路11と第2通路12との下流側合流部よりも下流側において、サージタンク13が配設されている。吸気は、サージタンク13を介して、エンジン1の各気筒に分配供給される。なお、サージタンク13は、図示を略す吸気マニホールドのうち大きな容積を有する合流部でもって構成することもできる。
【0020】
吸気通路10には、第1通路11と第2通路12との上流側合流部よりも上流側において、エアフィルタ14が配設されると共に、エアフィルタ14の下流側においてスロットル弁15が配設されている。
【0021】
吸気通路10のうち、吸気導入部位は、第1導入通路16と第2導入通路17とに分岐されている。第1導入通路16は、後述するが、エンジンルーム内に開口されて、暖かい空気の導入用となっている。第2導入通路17は、車外に開口されて、冷たい外気の導入用となっている。第1導入通路16には第1開閉弁18が配設される一方、第2導入通路17には第2開閉弁19が配設されている。各開閉弁18、19が吸気導入の切換弁を構成するもので、第1開閉弁18を開、第2開閉弁19を閉とすることにより、暖かい空気が吸気通路10に導入される。逆に、第1開閉弁18を閉、第2開閉弁19を開とすることにより、冷たい空気が吸気通路10に導入される。
【0022】
排気通路20には、上流側から下流側へ順次、三元触媒21、GPF(Gasoline Particulate Filter)22、三元触媒23が配設されている。この排気通路20と吸気通路10とが、EGR通路24によって接続されている。EGR通路24の排気通路20に対する接続部が、GPF22と下流側の三元触媒23との間とされている。また、EGR通路24の吸気通路10に対する接続部が、第1通路11と第2通路22との上流側合流部付近とされている。そして、EGR通路24には、排気通路20側から吸気通路10側へ順次、インタークーラ25、EGR弁26が配設されている。
【0023】
図2は、エンジン1の吸気系部分と冷却水経路部分を示すものである。この
図2において、40はラジエタである。ラジエタ40は、エンジンルームの前部に配設されて、走行風が導入可能とされている。ラジエタ40の直前方位置には、電磁式のグリルシャッター41が配設されている。グリルシャッター41の開度を調整することにより、ラジエタ40に対する走行風の導入量が変更される。
【0024】
ラジエタ40は、冷却水との熱交換部位として、第1熱交換部40Aと、第2熱交換部40Bとを有する。第1熱交換部40Aの直後方には、第1ラジエタファン42が配設されている。第2熱交換部40Bの直後方には、第2ラジエタファン43が配設されている。
【0025】
エンジン1の冷却水通路が符号50で示される。この冷却水通路50は、排出側通路50Aと、供給側通路50Bとを有する。排出側通路50Aは、エンジン1を冷却した後の冷却水を、ラジエタ40(の第1熱交換部40A)へ向けて流すものである。また、供給側通路50Bは、第1熱交換部40Bで冷却された冷却水を、エンジン1へ供給するものである。供給側通路50Bには、電動サーモスタット51が配設されると共に、その下流側(エンジン1側)においてウオータポンプ52が配設されている。ウオータポンプ52は、実施形態ではエンジン1により機械式に駆動されるものとしてあるが、電動式とすることもできる。
【0026】
ラジエタ40(の第2熱交換部40B)に対しては、インタークーラ31用の冷却水通路60が接続されている。すなわち、冷却水通路60は、排出側通路60Aと、供給側通路60Bとを有する。排出側通路50Aは、インタークーラ31を通過した冷却水を、第2熱交換部40Bへ向けて流すものである。また、供給側通路60Bは、第2熱交換部40Bで冷却された冷却水を、インタークーラ31へ供給するものである。供給側通路60Bには、電動式のウオータポンプ61が配設されている。なお、EGR通路24に配設されたインタークーラ25用の冷却水通路については、図示を略してある。
【0027】
ここで、エンジン1は、あらかじめ設定された所定の運転領域で、圧縮着火、より具体的にはSPCCI(火花点火制御圧縮着火)を行うようになっている。このため、
図2に示すように、エンジン1の各気筒1Aにはそれぞれ、燃料噴射弁2と点火プラグ3とが配設されている。SPCCI燃焼は、あらかじめ燃焼室に燃料噴射された状態で、所定のタイミングで点火プラグ3が点火されることにより点火プラグ3付近の混合気が着火され、この着火により燃焼室内の圧力が急激に高まることにより、燃焼室内の未燃混合気が自着火される圧縮着火が行われる。また、SPCCI燃焼を行わない運転領域では、一般的なガソリンエンジンで行われているように、点火プラグ3の点火により生成された火炎が燃焼室全体に亘って伝播されて燃焼される拡散燃焼が行われる。
【0028】
次に、エンジン1で行われる燃焼モード等について、
図3を参照しつつ説明する。この
図3において、横軸にエンジン回転数、縦軸にエンジン負荷(例えばアクセル開度)をパラメータとしたマップにおいて、複数の運転領域A1~A4が区画されている。
【0029】
各運転領域を切り分ける境界線が、符号α1~α3で示される。境界線α1は、回転数の切り分けを行うもので、アイドル領域とそれ以外の領域とを分けるものとなっている(α1は、例えば1000rpm程度の回転数として設定)。同様に、境界線α2は、回転数の切り分けを行うもので、α1よりも大きい回転数域において、低回転域と高回転域とを分けるものとなっている(α2は、例えば3000rpm程度の回転数として設定)。境界線α3は、エンジン負荷域を切り分けるもので、境界線α1よりも高回転域において、低負荷域と高負荷域とを分けるものとなっている(α3は、例えば全負荷の半分程度のエンジン負荷として設定)。
【0030】
領域A1は、境界線α1とα2とα3とで区画された運転領域で、所定低負荷域でかつ所定低回転域となっている。領域A2は、境界線α2とα3とで区画された運転領域で、所定低負荷域でかつ所定高回転域となっている。領域A3は、境界線α1とα3で区画された領域で、所定高負荷域となっている。領域A4は、境界線α1よりも低回転となるアイドル領域とされている。
【0031】
次に、各領域A1~A4での燃焼モード等について、説明する。まず、エンジン1の暖機完了前(例えばエンジン冷却水温度が70℃未満)のときは、全ての領域A1~A4において、点火プラグ3での点火に基づく拡散燃焼(SI燃焼)が行われる。このときの空燃比は、理論空燃比(空気過剰率λ=1)またはそれよりもリッチな空燃比とされる。
【0032】
エンジン1の暖機完了後は、各領域での燃焼モード等は、次のように設定される。
【0033】
(1)領域A1:領域A1では、燃焼モードとしては、SPCCIでの圧縮着火とされる。空燃比は理論空燃比よりも十分にリーンとされる(λ>1で、例えば空燃比30~38)。領域A1では、低負荷域でかつ低回転域であることから、単位時間あたりのエンジン1の発熱量が小さくなるので、圧縮着火を確実に行えるように、エンジン1の冷却水目標温度が例えば105℃というように、極めて高く設定される。また、目標吸気温度は例えば80℃に高く設定される。そして、低負荷域であることから、大量の吸気は不要であるということで、過給機30の駆動は停止される(クラッチ34が切断で、制御弁32は開)。
【0034】
なお、電動式のサーモスタット51は閉とされ、ラジエタファン42、43での風量は小とされ、グリルシャッター41の開度は小とされて、エンジン1が高い温度を維持するようにされる。なお、吸気導入は、吸気温度上昇のために第1導入通路16から行うようにしてあるが、第2導入通路17からの導入とすることもできる。
【0035】
(2)領域A2:領域A2では、燃焼モードとしては、SPCCIでの圧縮着火とされる。空燃比は理論空燃比とされる(λ=1)。領域A2では、低負荷域であるが高回転域であることから、単位時間あたりのエンジン1の発熱量が大きくなることから、エンジン1の冷却水目標温度が例えば90℃というように領域A1での目標冷却水温度に比して低い温度に設定される。また、目標吸気温度は例えば80℃という高い温度状態に設定される。
【0036】
領域A2では、目標吸気温度を確保するために、過給機30の駆動を利用した吸気温度上昇の制御が実行される(クラッチ34が接続)。すなわち、過給機30が駆動されると共に、制御弁32が開弁される。これにより、過給機30で過給された吸気は、その一部がサージタンク13(つまりエンジン1)へ供給される一方、残りの吸気が第2通路12を経由して再び過給機30に導入されることになる。このように、過給機30で吸気が循環(リサーキュレーション)されることにより、サージタンク13側へは過給機30によって加温された吸気が供給されて、エンジン1に供給される吸気温度を、目標吸気温度まで十分に高めることが可能となる。これにより、エンジン1の保護のために目標冷却水温度が低くされても、吸気温度が高い状態を確実に確保して、圧縮着火が確実に行われることになる。
【0037】
領域A2では、領域A1の場合に比して、第1ラジエタファン42の風量が大、グリルシャッター41の開度が大、サーモスタット51の開度が大とされて、エンジン1が十分に冷却されるような設定とされる。また、過給機30を利用した吸気温度上昇のために、インタークーラ31の冷却機能は低下された状態とされる(電動ウオータポンプ61の駆動停止あるいは駆動回転数小、第2ラジエタファン43の駆動停止あるいは駆動回転数小)。吸気導入は、吸気温度上昇のために、第1導入通路16から行うのが好ましい。同様に、EGR26を開弁させることによりEGRガスを導入させて、吸気温度上昇をさらに促進させることもできる。
【0038】
(3)領域A3:領域A3では、燃焼モードとしては、SPCCIでの圧縮着火とされる。空燃比は理論空燃比とされる(λ=1)。領域A3では、大きなエンジン出力(エンジントルク)が要求される高負荷域であることから、過給機30が駆動されると共に、制御弁32が閉弁されて、過給された吸気の全量がそのままサージタンク13に供給される(吸気のリサーキュレーションなし)。なお、領域A3では、過給機30と制御弁32との制御が領域A2の場合と相違する以外は、領域A2と同様な制御が行われる。
【0039】
領域A3では、過給機30を駆動することによる吸気温度上昇を抑制するために、インタークーラ31を通過する冷却水量が、領域A2で過給機30を駆動する場合に比して大きくされる。換言すれば、インタークーラ31での冷却水流通量が、領域A2では領域A3に比して少なくされる。
【0040】
(4)領域A4:領域A4は、アイドル領域であることから、圧縮着火ではなく、点火プラグ3での点火による拡散燃焼が行われる。空燃比は理論空燃比とされる。目標冷却水温度や目標吸気温度は、領域A1での運転に備えて、領域A1の場合と同様に設定されるが、領域A1特有の設定とすることもできる。
【0041】
図4は、上述した領域A1での運転状態から領域A2での運転状態へ移行する場合において、目標冷却水温度、目標吸気温度の変化、これに関連した主たる機器類の制御状態の変化を示すものである。なお、
図4中、ラジエタファン風量は、第1ラジエタファン42についてのものである。
【0042】
図5は、領域A1~A4に応じて前述した制御を行うための制御系統例が示される。図中Uは、マイクロコンピュータを利用して構成されたコントローラ(制御ユニット)である。このコントローラUには、各種センサS1~S4からの信号が入力される。センサS1は、エンジン負荷としてのアクセル開度を検出するものである。センサS2は、エンジン回転数を検出するものである。センサS3は、エンジン1の冷却水温度を検出するもので、実施形態では、エンジン1からの冷却水出口付近での温度を検出するものとなっている(
図2参照)。センサS4は、吸気温度センサで、サージタンク13部分での吸気温度を検出するものとなっている(
図2参照)。
【0043】
コントローラUは、前記した領域A1~A4に応じた制御を行うために、
図5に示す各種機器類を制御する。このコントローラUによる制御内容を、
図6に示すフローチャートを参照しつつ説明する。なお、以下の説明でQはステップを示す。
【0044】
まず、Q1において、各種センサS1~S4からの信号が読み込まれる。この後、Q2において、温度センサS3で検出される冷却水温度に基づいて、暖機が完了しているか否かが判別される。このQ2の判別でNOのときは、Q3に移行される。Q3では、段階完了前の制御が行われる(拡散燃焼で、空燃比は理論空燃比またはそれよりもリッチな空燃比)。
【0045】
上記Q2の判別でYESのときは、Q4において、現在領域A3であるか否かが判別される。このQ4の判別でYESのときは、Q5において、領域A3に応じた制御が実行される。すなわち、SPCCIでの圧縮着火が行われ、空燃比が理論空燃比とされ、目標冷却水温度が90℃に設定され、目標吸気温度が40~60℃に設定され、過給機30が駆動される(過給によるエンジン出力増大)。なお、
図6では示されないが、上記以外の機器類の制御についても、既述のように行われる。
【0046】
上記Q4の判別でNOのときは、Q6において、現在領域A2であるか否かが判別される。このQ6の判別でYESのときは、Q7において、領域A2に応じた制御が実行される。すなわち、SPCCIでの圧縮着火が行われ、空燃比が理論空燃比とされ、目標冷却水温度が90℃に設定され、目標吸気温度が80℃に設定され、過給機30を駆動しつつ吸気温度上昇のためのリサーキュレーションが行われる(制御弁32が開)。なお、
図6では示されないが、上記以外の機器類の制御についても、既述のように行われる。
【0047】
上記Q6の判別でNOのときは、Q8において、現在領域A1であるか否かが判別される。このQ8の判別でYESのときは、Q9において、領域A1に応じた制御が実行される。すなわち、SPCCIでの圧縮着火が行われ、空燃比が理論空燃比よりも十分にリーンとされ、目標冷却水温度が105℃に設定され、目標吸気温度が80℃に設定され、過給機30の駆動が停止される(制御弁32は開)。なお、
図6では示されないが、上記以外の機器類の制御についても、既述のように行われる。
【0048】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。圧縮着火の燃焼態様としては、SPCCIに代えてHCCIを行うようにしてもよく、また圧縮着火する複数の領域の間でSPCCIを行う領域とHCCIを行う領域とを設定するようにしてもよい。領域A2(特に領域A2のうちあらかじめ設定される高回転域)での目標冷却水温度を、領域A3での目標冷却水温度よりも低く設定してもよい。エンジン1の気筒数は問わないものであり、またエンジン1の形式も直列式に限らずV型や水平対向等であってもよい。過給機30としては、排気ターボ過給機を用いることもできる。フローチャートに示す各ステップあるいはステップ群は、コントローラUの有する機能を示すもので、この機能を示す名称に手段の文字を付して、コントローラUの有する構成要件として把握することができる。勿論、本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、例えば自動車用エンジンに適用して好適である。
【符号の説明】
【0050】
1:エンジン
1A:気筒
2:燃料噴射弁
3:点火プラグ
10:吸気通路
11:第1通路(主吸気通路)
12:第2通路(バイパス通路)
16:第1導入路
17:第2導入路
18:開閉弁
19:開閉弁
20:排気通路
24:EGR通路
26:EGR弁
30:過給機
31:インタークーラ
32:制御弁
33:連動機構
34:クラッチ
40:ラジエタ
41:グリルシャッター
50:冷却水通路(エンジン用)
51:電動サーモスタット
52:ウオータポンプ
60:冷却水通路(インタークーラ用)
61:電動ウオータポンプ