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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】生体情報の推定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/026 20060101AFI20220526BHJP
   A61B 5/029 20060101ALI20220526BHJP
   A61B 5/0507 20210101ALI20220526BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
A61B5/026 140
A61B5/029
A61B5/0507
A61B5/00 N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020152117
(22)【出願日】2020-09-10
(62)【分割の表示】P 2019513666の分割
【原出願日】2018-04-18
(65)【公開番号】P2021003567
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2017083177
(32)【優先日】2017-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 哲
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特許第6764022(JP,B2)
【文献】特開平03-001838(JP,A)
【文献】特表2010-512208(JP,A)
【文献】特開2013-043026(JP,A)
【文献】特開2015-116473(JP,A)
【文献】特開2016-202516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00、5/02-5/03、5/05-5/0538、10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の組織を透過した電波、又は組織で反射した電波の振幅又は位相、及び組織の比吸収率に基づいて組織に含まれる液体の容量を推定する推定手段を備える
ことを特徴とする生体情報の推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の生体情報の推定装置において、
前記推定手段は、組織に含まれる液体の容量を次式により演算する
ことを特徴とする生体情報の推定装置。
【数1】
V:組織に含まれる液体の容量、M:組織の質量、σ:組織の導電率、E:前記電波の振幅、SAR:組織の比吸収率
【請求項3】
請求項1に記載の生体情報の推定装置において、
前記推定手段は、前記電波の振幅又は位相、及び組織の比吸収率に基づいて組織に含まれる液体の容量の変化量を推定する
ことを特徴とする生体情報の推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の生体情報の推定装置において、
前記推定手段は、組織に含まれる液体の容量の変化量を次式により演算する
ことを特徴とする生体情報の推定装置。
【数2】
ΔV:組織に含まれる液体の容量の変化量、M:組織の質量、σ:組織の導電率、Emax、Emin:前記電波の振幅の最大値、最小値、SAR:組織の比吸収率
【請求項5】
請求項3に記載の生体情報の推定装置において、
前記推定手段は、前記電波の振幅に含まれるドリフト成分の増加又は減少に基づいて組織に含まれる液体の容量の変化量を推定し、前記振幅からドリフト成分を除いた直流成分に基づいて組織に含まれる液体の容量を推定する
ことを特徴とする生体情報の推定装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の生体情報の推定装置において、
前記組織は心臓又は血管であり、前記組織に含まれる液体は血液である
ことを特徴とする生体情報の推定装置。
【請求項7】
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の生体情報の推定装置において、
前記組織は肺であり、前記組織に含まれる液体は水である
ことを特徴とする生体情報の推定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の生体情報の推定装置において、
前記組織は膀胱であり、前記組織に含まれる液体は尿である
ことを特徴とする生体情報の推定装置。
【請求項9】
請求項1から請求項5の何れか一項に記載の生体情報の推定装置において、
前記組織は手又は足であり、前記組織に含まれる液体は水である
ことを特徴とする生体情報の推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触かつ非拘束で、臓器や手足など、生体組織に関する情報を推定することができる生体情報の推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、心不全の診断、予後における治療効果又は投薬効果を確認するために、一回拍出量及び心拍出量を計測することが行われている。具体的な計測方法としては、Fick法、色素希釈法、スワンガンツカテーテルによる熱希釈法などに代表される観血式が挙げられる。非観血式の計測方法は、キュビチェクの四電極法や超音波エコーによる診断が提案されている。しかし、これらの計測方法は、測定対象者を拘束する必要があったり、十分な精度がでないなどの問題があり、現在では使用されていない。
【0003】
一方、本発明者は、心臓を透過したマイクロ波は、心臓の収縮、拡張の動きに応じて振幅や位相が変化することを発見し、このような発見に基づいて、心臓を透過したマイクロ波を解析することで心拍を得ることができる心拍検知装置を提案した(特許文献1参照)。また、本発明者は、非接触かつ非拘束で測定対象者の心容積及び心拍出量の時系列変化を検出することができる心容積及び心拍出量の推定装置を提案した(特許文献2参照)。
【0004】
特許文献2では、心容積の推定にあたり、心臓が球形であることを仮定していた。このため、心臓以外の臓器等に適用することが難しかった。例えば、血管の容積を計測し、それに基づいて血流の状態を推定することができなかった。
【0005】
また、心拍出量等に限らず、浮腫によって手足に溜まる水分の量、肺うっ血によって肺に溜まる水分の量、膀胱の容積や膀胱内の尿の変化量を計測する技術が種々提案されている(特許文献3~5参照)。しかしながら、これらの計測方法についても、測定対象者に何らかの装置を装着し、又は測定対象者を拘束する必要があるなどの問題がある。このように、従来技術では、測定対象者(生体)の組織(心臓、血管、肺、膀胱、手足など)に含まれる血液等の液体の容量やその変化量(以下、生体の組織中の液体の容量及びその変化量を生体情報という)を非接触かつ非拘束で推定することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-153783号公報
【文献】特開2016-202516号公報
【文献】特開平5-237119号公報
【文献】特表2010-532208号公報
【文献】特開2005-087543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、非接触又は非拘束で組織に含まれる液体の容量やその変化量を推定することができる生体情報の推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1の態様は、生体の組織を透過した電波、又は組織で反射した電波の振幅又は位相、及び組織の比吸収率に基づいて組織に含まれる液体の容量を推定する推定手段を備えることを特徴とする生体情報の推定装置にある。
【0009】
第1の態様では、組織の比吸収率及び上記電波の振幅又は位相に基づいて、心臓を含む多種多様な臓器に含まれる液体の容量を推定することができる。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の生体情報の推定装置において、前記推定手段は、組織に含まれる液体の容量を次式により演算することを特徴とする生体情報の推定装置にある。
【0011】
【数1】
【0012】
V:組織に含まれる液体の容量、M:組織の質量、σ:組織の導電率、E:前記電波の振幅、SAR:組織の比吸収率
【0013】
第2の態様では、組織が球形であるなどの仮定を行わない上記推定式を用いる。これにより、組織の形状に依存せずに多種多様な組織に含まれる液体の容量を推定することができる。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1の態様に記載の生体情報の推定装置において、前記推定手段は、前記電波の振幅又は位相、及び組織の比吸収率に基づいて組織に含まれる液体の容量の変化量を推定することを特徴とする生体情報の推定装置にある。
【0015】
第3の態様では、組織の比吸収率及び上記電波の振幅又は位相の変化量に基づいて、組織に含まれる液体の容量の変化量を推定することができる。
【0016】
本発明の第4の態様は、第3の態様に記載の生体情報の推定装置において、前記推定手段は、組織に含まれる液体の容量の変化量を次式により演算することを特徴とする生体情報の推定装置にある。
【0017】
【数2】
【0018】
ΔV:組織に含まれる液体の容量の変化量、M:組織の質量、σ:組織の導電率、Emax、Emin:前記電波の振幅の最大値、最小値、SAR:組織の比吸収率
【0019】
第4の態様では、組織が球形であるなどの仮定を行わない上記推定式を用いる。これにより、組織の形状に依存せずに多種多様な組織に含まれる液体の容量の変化量を推定することができる。
【0020】
本発明の第5の態様は、第3の態様に記載の生体情報の推定装置において、前記推定手段は、前記電波の振幅に含まれるドリフト成分の増加又は減少に基づいて組織に含まれる液体の容量の変化量を推定し、前記振幅からドリフト成分を除いた直流成分に基づいて組織に含まれる液体の容量を推定することを特徴とする生体情報の推定装置にある。
【0021】
第5の態様では、組織にそもそも含まれている水の容量、組織に含まれる水の長期的な変化量を得ることができ、それらの水の容量や変化量を対象者の診断に利用することができる。
【0022】
本発明の第6の態様は、第1から第5の何れか一つの態様に記載の生体情報の推定装置において、前記組織は心臓又は血管であり、前記組織に含まれる液体は血液であることを特徴とする生体情報の推定装置にある。
【0023】
第6の態様では、心臓に含まれる血液の容量やその変化量(一回拍出量)、さらには心容積を推定することができる。
【0024】
本発明の第7の態様は、第1から第5の何れか一つの態様に記載の生体情報の推定装置において、前記組織は肺であり、前記組織に含まれる液体は水であることを特徴とする生体情報の推定装置にある。
【0025】
第7の態様では、肺内部の水分の変化量を推定することができる。
【0026】
本発明の第8の態様は、第1から第5の何れか一つの態様に記載の生体情報の推定装置において、前記組織は膀胱であり、前記組織に含まれる液体は尿であることを特徴とする生体情報の推定装置にある。
【0027】
第8の態様では、膀胱内部の尿の変化量を推定することができる。
【0028】
本発明の第9の態様は、第1から第5の何れか一つの態様に記載の生体情報の推定装置において、前記組織は手又は足であり、前記組織に含まれる液体は水であることを特徴とする生体情報の推定装置にある。
【0029】
第9の態様では、浮腫により手足に溜まる水分の変化量を推定することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、非接触又は非拘束で組織に含まれる液体の容量やその変化量を推定することができる生体情報の推定装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施形態1に係る生体情報の推定装置の概略構成図である。
図2】心臓に対するアンテナの配置を示す概略図である。
図3】サンプリング部が出力した電界強度を示す図である。
図4】サンプリング部が出力した電界強度を示す図である。
図5】血管を流通する血液量を推定する機序を説明するための概略図である。
図6】血管を流通する血液量を推定する機序を説明するための概略図である。
図7】血管を流通する血液量を推定する機序を説明するための概略図である。
図8】肺に対するアンテナの配置を示す概略図である。
図9】サンプリング部が出力した電界強度を示す図である。
図10】パルス波形のマイクロ波を用いた場合において、サンプリング部が出力した電界強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
〈実施形態1〉
本発明の生体情報の推定装置(以下、単に推定装置と称する)は、生体の組織を対象とし、非接触かつ非拘束で生体情報を推定する装置である。生体情報とは、生体の組織に含まれる液体の容量、又は当該容量の変化量をいう。生体の組織としては、心臓、血管、肺、手足、膀胱などが挙げられるがこれらに限定されず、比吸収率が既知の組織であれば本発明を適用できる。また、組織に含まれる液体としては、心臓及び血管の場合は血液であり、肺や手足の場合は水であり、膀胱の場合は尿である。
【0033】
本実施形態では、生体の組織として人体の心臓を対象とし、心臓に含まれる血液の容量を計測する推定装置について説明する。図1は、本実施形態に係る生体情報の推定装置の概略構成図であり、図2は、心臓に対するアンテナの配置を示す概略図である。図2の符号110は収縮期の心臓を表し、符号120は拡張期の心臓を表している。
【0034】
図1に示すように、推定装置10は、推定手段として推定部11と、電波送信手段として送信部12及び送信アンテナ13と、電波受信手段として受信部15及び受信アンテナ14と、検波部16と、サンプリング部17と、記憶部18とを備えている。
【0035】
送信部12は、高周波、好ましくはマイクロ波を人体に対して送信するための装置である。マイクロ波は、人体の心臓を透過し、又は心臓で反射することができれば、どのような周波数帯が用いられてもよい。本実施形態では、例えば、サブギガ帯を含む1GHz前後の周波数を用いている。送信出力は、受信側にて十分な電力が検出できる程度でよい。本実施形態では、数mW~数十mWとした。また、マイクロ波は、連続波、パルス波、又は相変調若しくは周波数変調を施した電磁波でもよい。送信部12は、図示しないマイクロ波発振器によって生成された高周波信号を送信アンテナ13へ供給する。
【0036】
送信アンテナ13は、送信部12によって送信されたマイクロ波を人体100の心臓へ向けて照射する機器である。受信アンテナ14は、送信アンテナ13から放射されたマイクロ波を受信するための機器である。
【0037】
図2(a)に示すように、送信アンテナ13及び受信アンテナ14は、人体100の心臓110をマイクロ波が透過するように対向して設置されている。偏波については水平偏波、垂直偏波のどちらを使用してもよい。または、図2(b)に示すように、送信アンテナ13は、心臓110へ向けてマイクロ波を出力するように配置し、受信アンテナ14は、心臓110で反射したマイクロ波を受信するように配置してもよい。マイクロ波が人体を透過又は人体の様々な場所で反射することで、マイクロ波の振幅や位相が変化して受信アンテナ14に受信される。
【0038】
なお、図2(a)の例では、送信アンテナ13は人体100の前面、受信アンテナ14は人体100の背面に設置したが逆でもよいし、人体100の側面にそれぞれ配置するなどしてもよい。いずれにしても、マイクロ波が人体100を透過し、そのマイクロ波を受信できる配置であればよい。図2(b)の例では、送信アンテナ13及び受信アンテナ14は、人体100の前面側に配置されているが、特に配置に限定はない。また、送信アンテナ13及び受信アンテナ14はダイポールアンテナを用いたが、アンテナの形式は特に限定はない。偏波については水平偏波、垂直偏波のどちらを使用してもよい。
【0039】
図1に示すように、受信部15は、受信アンテナ14によって送信されたマイクロ波を受信した信号を、検波部16が必要とする信号へ変換する手段である。検波部16は、受信部15によって受信したマイクロ波の検波を行う手段である。検波部16は、包絡線検波(振幅検波)もしくは位相検波によってマイクロ波の復調を行う。また、検波部16は、周波数解析によって特定の周波数成分を取り出してマイクロ波の復調を行ってもよい。
【0040】
サンプリング部17は、検波信号を既定の周波数によってサンプリングし、電界強度をデジタル信号に変換する手段である。具体的には、公知のA/D変換器やソフトウェアによる処理によりサンプリングが行われる。
【0041】
記憶部18は、推定部11で行われる各種演算に必要な記憶領域として機能するメモリやハードディスクなどの装置である。記憶部18には、後述する推定式や心臓の比吸収率、導電率、質量など各種パラメータが記憶されている。
【0042】
推定部11は、送信部12に対してマイクロ波の出力を指示したのち、サンプリング部17から受信したデジタル信号として表された電波の振幅や位相を解析し、心臓に含まれる血液の容量を演算するための手段である。このようにして演算された血液の容量を、人体100の心臓に含まれる血液の容量として推定する。
【0043】
なお、本実施形態では、推定部11は、一般的なパーソナルコンピュータなどの情報処理装置により実行されるプログラムの機能として実装されている。また、送信部12、受信部15、検波部16及びサンプリング部17は電子回路(ハードウェア)として実装され、推定部11により制御が可能となっている。もちろん、推定部11、送信部12、受信部15、検波部16及びサンプリング部17のそれぞれはプログラムで実装されてもよいし、電子回路で実装されていてもよい。
【0044】
図3は、サンプリング部17が出力した電波を示す図である。図3の横軸は時間を表し、縦軸は電界強度(振幅)を示している。
【0045】
図中の符号E0は、送信アンテナ13により放射されるマイクロ波の電界強度を示しており、一定である。符号Eは、受信アンテナ14より受信し、検波部16で検波され、サンプリング部17でデジタル化された電界強度Eを示している。また、心臓が収縮期にあるときの時刻をt1、心臓が拡張期にあるときの時刻をt2とする。電界強度Eのうち、時刻t1における電界強度をEmax、時刻t2における電界強度をEminとする。
【0046】
心臓を透過又は反射したマイクロ波の電界強度Eは、主として心臓内の血液量により強度が変化(減衰)する。例えば、血液量が少ないとき、すなわち心臓の収縮期(時刻t1)においては電界強度の減衰量Δ1は相対的に小さい。一方、血液量が多いとき、すなわち心臓の拡張期(時刻t2)においては電界強度の減衰量Δ2は相対的に大きい。
【0047】
このように、電界強度Eは、心臓の収縮・拡張に合わせて振幅が変化したものとなる。電界強度Eの変化は、心臓の収縮・拡張に密接に関連した情報であると考えられる。したがって、この電界強度を解析することで、心臓に含まれる血液の容量を推定することができる。ここでいう心臓に含まれる血液とは、心室・心房中の血液をいう。心室・心房中の血液の容量は、心房・心室の容積(心容積)と略等しいので、心臓に含まれる血液の容量を推定するということは、心容積の推定と同義である。
【0048】
心臓に含まれる血液の容量は、上述のようにして得られた電界強度Eと、心臓の比吸収率と、推定式を用いて演算する。比吸収率(SAR)とは、式1に示すように、人体の単位質量の組織に単位時間に吸収されるエネルギー量のことをいい、単位は[W/kg]である。
【0049】
【数3】
【0050】
σは心臓の導電率[S/m]であり、ρは心臓の密度[kg/m]である。比吸収率は式1のように求められるが、心臓の比吸収率は公知となっており、これを予め記憶部18に記憶させておく。
【0051】
式1の密度ρは、式2のように定義される。Vは心臓の体積[m]であり、Mは心臓の質量[kg]である。
【0052】
【数4】
【0053】
式1に式2を代入し、Vについて変形することで式3が得られる。この式3が上述した推定式である。
【0054】
【数5】
【0055】
心臓の質量M、導電率σ、比吸収率SARは、公知のものを用い、予め記憶部18に記憶させておく。推定部11は、質量M、導電率σ及び比吸収率SARを記憶部18から読みだし、サンプリング部17から得られた電界強度Eを上記式3の推定式に代入して得られたVを心臓に含まれる血液の容量、すなわち心容積とみなす。
【0056】
以上に説明したように、推定装置10によれば、人体を透過又は反射したマイクロ波を用いるので、人体に対して非接触であり、かつ人体を非拘束で、心臓中の血液の容量及び心容積を推定することができる。また、推定装置10は、心臓の導電率及び比吸収率を用いるが、心臓の形状について仮定を行わない。このため、例えば心臓の形状が球形であるといった仮定を行う場合よりも精度よく、心臓に含まれる血液の容量及び心容積を推定することができる。また、心臓が球形であるといった形状の仮定を行わないので、心臓以外の組織に対しても、組織に含まれる液体の容量を推定することができる。
【0057】
〈実施形態2〉
実施形態1の推定装置10は、心臓に含まれる血液の容量及び心容積を推定したが、これに限定されない。例えば、血液の容量及び心容積の変化量を推定してもよい。本実施形態では、当該変化量を推定する推定装置10について説明する。なお、本実施形態の推定装置10は、実施形態1の推定装置10と構成は同様であるので図示は省略する。
【0058】
図3で示したように、電界強度Eは、心臓の収縮・拡張によって変化している。したがって、任意の2つのタイミングにおける電界強度の差は、心臓中の血液の容量の差に相関する量であると推定することができる。2つのタイミングとして、心臓の収縮期と拡張期を選択する。これにより、収縮期と拡張期のそれぞれにおける血液の容量の変化量を推定することができる。この血液の容量の変化量は、一回拍出量に該当すると考えられる。一回拍出量とは、心室が1回で拍出する血液量のことである。
【0059】
このような機序に基づき、本実施形態の推定部11は、心臓内における血液の容量の変化量を、電界強度Eの振幅の変化及び比吸収率から演算する。具体的には、推定部11は、収縮期の電界強度Emaxと拡張期の電界強度Eminのそれぞれを特定する。例えば、心臓の一回の拍出に掛る周期内において、最大の電界強度を検出し、これを収縮期の電界強度Emaxとする。同様に、最小の電界強度を検出し、これを拡張期の電界強度Eminとする。
【0060】
これらの電界強度Emax、Eminを上記推定式(式3)に適用し、収縮期の心臓に含まれる血液の容量(心容積)V及び拡張期の心臓に含まれる血液の容量(心容積)Vを求める。そして、式4に示すように、心容積Vと心容積Vの差分を演算する。
【0061】
【数6】
【0062】
心容積Vと心容積Vの差分である心容積の変化量ΔVは、心臓が一回の拍出によって動脈へ拍出する血液の量[mL]である一回拍出量を表す。このように、電界強度Eの変化量、及び心臓の比吸収率を推定式に適用することで、心容積の変化量ΔV、及び心臓に含まれる血液の変化量である一回拍出量を得ることができる。
【0063】
図3に示した例では、受信した電界強度の差、つまり振幅の差に基づいて心容積の変化量を求めたが、このような態様に限定されず、位相の差に基づいて心容積の変化量を求めてもよい。
【0064】
図4は、サンプリング部が出力した電界強度を示す図である。図4の横軸は時間を表し、縦軸は電界強度(振幅)を示している。パルス波形のマイクロ波を人体に反射させ、その反射波をサンプリング部17で検出したものが図示されている。マイクロ波は、パルス波の位相がずれて観測される。図示するように、例えば、時刻t1と時刻t2との時間差だけ位相がずれた位相差が観測される。このような電波の位相差は、心臓の収縮・拡張によって生じていると考えられる。
【0065】
したがって、電波の位相差は、心臓中の血液の容量の差に相関する量であると推定することができる。したがって、推定部11は、得られた電波の位相差を演算し、これに所定の演算をすることで、血液の容量の変化量を推定することができる。
【0066】
〈実施形態3〉
本実施形態の推定装置10は、組織に含まれる液体として、血管を流通する血液を対象とする。本実施形態の推定装置10は、実施形態1の推定装置10と構成は同様であるので図示は省略する。図5は、血管を流通する血液の流量(以下、血液量)を推定する機序を説明するための概略図である。
【0067】
皮膚130の内側には血管140があり、皮膚130の表面側に、マイクロ波の送信アンテナ13及び受信アンテナ14が一体化されたものが配置されている。送信アンテナ13は、所定の照射角度θで皮膚130に向けてマイクロ波を出力する。受信アンテナ14は、血管140で反射したマイクロ波を受信する。
【0068】
このような血管140を対象とした場合、心臓と同様に、マイクロ波は血管140内を透過し、血液によって吸収されると考えられる。ここで、血管140は脈動して径が変動するので、血液量も変動する。したがって、血液量が変動すると、マイクロ波の吸収量も変動するので、受信アンテナ14で受信した電界強度の変化を血液量の変化として捉えることができる。
【0069】
具体的な推定方法について説明する。推定対象の一本の血管140の所定範囲における長さをlとすると、長さl[m]は式5で定義される。
【0070】
【数7】
【0071】
xは皮膚130の表面から血管140までの距離であり、θはマイクロ波の照射角度である。次に、一本の血管140の血管径をrとすると、血管径rは式6で定義される。
【0072】
【数8】
【0073】
Eは受信アンテナ14で得られた電界の実効値[V/m ]、SARは基準位置P0における血管の比吸収率、SARは基準位置P0から生体内側へ向けて血管径rだけ進んだ位置における血管の比吸収率、fはマイクロ波の周波数[Hz]、μは血管の透磁率[H/m]、σは血管の導電率[S/m]、Vは受信アンテナ14の誘起電圧[V]、Vは送信アンテナ13から出力される電圧[V]である。
【0074】
推定対象の一本の血管140の所定範囲における体積をQとすると、体積Qは式7で定義される。なお、血管140の体積(容積)Qは、その内部を流通する血液の容量(血液量)と同義である。
【0075】
【数9】
【0076】
この式7の長さlと血管径rのそれぞれに式5、式6を代入して、式8を得ることができる。
【0077】
記憶部18には、血管の密度ρ、比吸収率SAR、比吸収率SAR、血管の透磁率μ、血管の導電率σを予め記憶させておく。そして、推定部11は、記憶部18から読み取った各値、受信アンテナ14から得られた電波の誘起電圧V、送信アンテナ13から出力した電圧V、マイクロ波の照射角θ及び周波数fを式6,式8に代入して体積Qを演算する。
【0078】
以上に説明したように、推定装置10によれば、人体の血管を反射したマイクロ波を用いるので、人体に対して非拘束で、血管中の血液量を推定することができる。
【0079】
〈実施形態4〉
実施形態3では、計測対象が一本の血管を想定したが、このような態様に限定されず、別のモデルであっても本発明を適用できる。本実施形態の推定装置10は、実施形態3の推定装置10と構成は同様であるので図示は省略する。図6は、血管を流通する血液量を推定する機序を説明するための概略図である。なお、本実施形態で再定義しない限り、実施形態3と同じ意味の変量については、同一の変数名を用いている。
【0080】
送信アンテナ13及び受信アンテナ14の配置等については、実施形態3と同様である。送信アンテナ13の指向性や送信電界強度を変化させることで、生体の電波の吸収状態が異なることが想定できる。そこで、本実施形態では、電波の放射範囲が円柱状であると仮定し、その円柱内にある組織全体での血液量を推定する。
【0081】
具体的な推定方法について説明する。計測対象の血管層の皮膚側の面に仮想的な円を想定する。この円の面積Sは式9のように定義される。rは、仮想的な円の半径である。
【0082】
【数10】
【0083】
円柱の高さをlとする。この円柱の高さlは、マイクロ波を照射して計測できる深さを表している。この高さlは式10のように定義される。なお、式10は、式6と同様に導くことができる。
【0084】
【数11】
【0085】
推定対象の円柱状の体積を有する組織全体の体積をQとすると、体積Qは式11に式9、式10を代入して導かれた式12により定義される。なお、円柱状の体積(容積)Qは、その内部を流通する血液の容量(血液量)と同義である。
【0086】
【数12】
【0087】
記憶部18には、血管の密度ρ、比吸収率SAR、比吸収率SAR、血管の透磁率μ、血管の導電率σを予め記憶させておく。そして、推定部11は、記憶部18から読み取った各値、受信アンテナ14から得られた電波の誘起電圧V、送信アンテナ13から出力した電圧V、マイクロ波の照射角θ及び周波数fを式12に代入して体積Qを演算する。この体積Qは、マイクロ波の放射範囲である円柱状の領域に流通する血液の容量を意味する。
【0088】
以上に説明したように、推定装置10によれば、人体の血管を反射したマイクロ波を用いるので、人体に対して非拘束で、血管中の血液量を推定することができる。特に、実施形態3のように一本の血管を想定したモデルではなく、マイクロ波の放射範囲を円柱として捉えている。これにより、送信アンテナ13の指向性によって計測範囲が拡散した場合に、特に精度良く血液量を推定することができる。
【0089】
〈実施形態5〉
実施形態4では、計測対象が円柱状の範囲に血液が流通していることを想定したが、このような態様に限定されず、別のモデルであっても本発明を適用できる。本実施形態の推定装置10は、実施形態3の推定装置10と構成は同様であるので図示は省略する。図7は、血管を流通する血液量を推定する機序を説明するための概略図である。なお、本実施形態で再定義しない限り、実施形態4と同じ意味の変量については、同一の変数名を用いている。
【0090】
送信アンテナ13及び受信アンテナ14の配置等については、実施形態4と同様である。送信アンテナ13の指向性や送信電界強度を変化させることで、生体の電波の吸収状態が異なることが想定できる。本実施形態では、電波の放射範囲が円錐状であると仮定し、その円錐内にある組織全体での血流量を推定する。
【0091】
具体的な推定方法について説明する。送信アンテナ13のマイクロ波を照射する部分を頂点とし、皮膚130の内側に広がる円錐を想定する。この円錐の底面の円の半径をr、高さ(皮膚130からの深さ)をlとすると、円錐の底面の面積Sは、式13のように定義される。rは、仮想的な円の半径である。
【0092】
【数13】
【0093】
この円錐の高さlは式14のように定義される。なお、式14は、式6と同様に導くことができる。
【0094】
【数14】
【0095】
推定対象の円錐状の体積を有する組織全体の体積をQとすると、体積Qは式15に式13、式14を代入して導かれた式16により定義される。なお、円錐状の体積(容積)Qは、その内部を流通する血液の容量(血液量)と同義である。
【0096】
【数15】
【0097】
記憶部18には、血管の密度ρ、比吸収率SAR、比吸収率SAR、血管の透磁率μ、血管の導電率σを予め記憶させておく。そして、推定部11は、記憶部18から読み取った各値、受信アンテナ14から得られた電波の誘起電圧V、送信アンテナ13から出力した電圧V、マイクロ波の照射角θ及び周波数fを式16に代入して体積Qを演算する。この体積Qは、マイクロ波の放射範囲である円錐状の領域に流通する血液の容量を意味する。
【0098】
以上に説明したように、推定装置10によれば、人体の血管を反射したマイクロ波を用いるので、人体に対して非拘束で、血管中の血液量を推定することができる。特に、皮膚130の表面に十分近い位置にある血管層を対象とするので、皮膚130から血管層までの距離を無視できるような場合に、有用である。
【0099】
〈実施形態6〉
実施形態1及び実施形態2で説明した推定装置10は、心臓や血管を対象としたものであるが、これに限定されない。本発明は、液体により電界強度が減衰することを利用したものであるので、組織の形状変化によらず、組織内で液体の量そのものの容量が変化した場合に対しても適用できる。推定装置10は、例えば、肺うっ血により肺に溜まった水分の変化量を計測することができる。本実施形態の推定装置10は、実施形態1の推定装置10と構成は同様であるので図示は省略する。
【0100】
図8は、肺に対するアンテナの配置を示す概略図である。図8(a)は肺内の水分Wが少ない状態を示し、図8(b)は肺内の水分Wが多い状態を示している。同図に示すように、肺へ向けてマイクロ波を照射し、肺を透過したマイクロ波を受信するように送信アンテナ13及び受信アンテナ14を配置する。なお、図示しないが、図2に示したように、マイクロ波を肺で反射させ、これを受信するように送信アンテナ13及び受信アンテナ14を配置してもよい。
【0101】
図9はサンプリング部17が出力した電界強度を示す図である。図9の横軸は時間を表し、縦軸は電界強度を示している。図中の符号E0は、送信アンテナ13により放射されるマイクロ波の電界強度を示しており、一定である。符号Eは、受信アンテナ14より受信し、検波部16で検波され、サンプリング部17でデジタル化された電界強度Eを示している。符号E1は、電界強度Eの最も高い電界強度を通り、E0と平行な直線である。図8(a)に示すような水が少ないときを時刻t1とし、図8(b)に示すような水が多い時を時刻t2とする。
【0102】
肺を透過又は反射したマイクロ波の電界強度Eは肺内の水分により減衰する。このマイクロ波の電界強度Eは、肺の拡張及び縮小に伴い、周期的に変化している。また、長期的に見ると、図8(a)に示したような水が少ないとき(時刻t1)では、マイクロ波が水に吸収される量は少ないので、電界強度Eとしては相対的に高く観測される。一方、図8(b)に示したような水が多いとき(時刻t2)では、電界強度Eとしては相対的に低く観測される。
【0103】
マイクロ波は、電界強度E0から電界強度Eまで減衰しているが、この減衰量は、ドリフト成分Aと直流成分Bとからなる。ドリフト成分Aは、減衰量のうち電界強度Eと電界強度E1との差の部分であり、直流成分Bは、電界強度E0と電界強度E1との差の部分である。
【0104】
マイクロ波のドリフト成分Aからは、長期的な水分の増加又は減少を推定することができる。例えば、電界強度Et1及び電界強度Et2が同位相となるように時刻t1、時刻t2を選び、その2つの電界強度Et1、Et2を結んだ直線Lは、ドリフト成分Aの傾向を表している。
【0105】
このような直線Lの傾きが負である、すなわち、ドリフト成分Aが経時的に減少していれば肺の水分は増加している。逆に直線Lの傾きが正である、すなわち、ドリフト成分Aが経時的に増加していれば肺の水分は減少している。したがって、ドリフト成分Aの増加又は減少に基づいて、肺に含まれる水の容量の長期的な変化量を推定することができる。
【0106】
一方、直流成分Bは、マイクロ波が肺に含まれる水のうち変化しない分によって減衰した分であると考えられる。換言すれば、マイクロ波は、肺にそもそも含まれている水によって減衰するが、その減衰量は直流成分Bに相当する。したがって、マイクロ波のうち直流成分に基づいて肺にそもそも含まれている水分の容量を推定することができる。
【0107】
このように、マイクロ波からは、直流成分Bに基づいて肺にそもそも含まれている水の容量、一周期のマイクロ波の振幅(又は位相)の変化量に基づいて肺に含まれる水の短期的な変化量、及び、ドリフト成分Aの変化量に基づいて肺に含まれる水の長期的な変化量を得ることができる。
【0108】
なお、実施形態1で説明したように、任意の一周期におけるマイクロ波の強度Emax、Eminの差に基づいて、肺に含まれる水の短期的な変化量を推定することもできる。
【0109】
このような機序に基づき、推定装置10は、次のようにして肺に含まれる水の容量、その変化量を推定する。記憶部18には、予め、肺の質量M、導電率σ、比吸収率SARを記憶させておく。そして、推定部11では、サンプリング部17から得た電界強度E、及び記憶部18から読み出した質量M、導電率σ、及び比吸収率SARを上記式3の推定式に代入することで、肺の容積Vを求めることができる。この肺の容積Vを肺内に含まれる水の量と推定する。
【0110】
推定部11は、例えば、肺の呼吸の周期ごとに、電界強度Eの最小値であるEmin、最大値であるEmaxを用いて式4から肺の容積の変化量ΔVを算出する。この変化量ΔVを肺内に含まれる水分の変化量ΔVと推定する。
【0111】
また、推定部11は、十分に時間を空けて任意の二つの時刻t1、時刻t2におけるドリフト成分Aを求める。そして、ドリフト成分Aが経時的に減少しているならば、肺に含まれる水分が増加していると推定し、ドリフト成分Aが経時的に増加しているならば、肺に含まれる水分が減少していると推定する。
【0112】
さらに、推定部11は、マイクロ波の直流成分Bを演算し、この直流成分Bに基づいて肺にそもそも含まれている水の容量を推定する。例えば、直流成分Bに所定の係数を乗じるなどして当該水の容量を推定する。
【0113】
上述した例では、肺内の水分の増加又は減少の速度は緩やかであるため、数時間に亘り長期的に計測する必要がある。このような場合では、連続的にマイクロ波を照射するよりも、パルス波形のマイクロ波を用いることが好ましい。
【0114】
図10は、パルス波形のマイクロ波を用いた場合において、サンプリング部が出力したマイクロ波の電界強度を示す図である。
【0115】
具体的には、送信アンテナ13は、任意の周期でパルス波形としてマイクロ波を生体の臓器等に照射する。受信アンテナ14は、臓器を透過し、又は反射したマイクロ波を受信する。このようにして得られた電界強度Eは、パルス波形として得られる。
【0116】
図8(a)に示したような水が少ないとき(時刻t1)では、マイクロ波が水に吸収される量は少ないので、電界強度Et1としては相対的に高く観測される。一方、図8(b)に示したような水が多いとき(時刻t2)では、電界強度Et2としては相対的に低く観測される。つまり、肺内の水が次第に増加する場合では、電界強度が長期的には下がる傾向にある。特に図示しないが、肺内の水が次第に減少する場合では、電界強度が長期的には上がる傾向にある。
【0117】
このように、パルス波形を用いた場合であっても、肺の容積Vやその変化量ΔVを求めることができる。また、生体に対してマイクロ波を常時照射する必要がないので、生体に与えるマイクロ波の影響を抑制することができるとともに、消費電力を低減することができる。
【0118】
なお、本実施形態の推定装置10は、肺うっ血による肺内の水分の変化量を推定したがこれに限定されない。例えば、膀胱内に溜まる尿量の変化量についても同様に推定することができる。つまり、膀胱に対して照射して得られたマイクロ波の振幅の変化量が、図9と同様に減少傾向にあるならば、膀胱に溜まる尿が増加していると推定することができる。
【0119】
さらには、浮腫によって手足に溜まる水分の容量の変化量についても、本実施形態と同様に推定することができる。つまり、手足に対して照射して得られたマイクロ波の振幅の変化量が、図9と同様に減少傾向にあるならば、手足に溜まる水分が増加していると推定することができる。なお、このようなパルス波形のマイクロ波は、肺を対象とした場合に限らず、心臓や血管、膀胱、手足などその他の組織についても適用することができる。
【0120】
以上に説明したように、本実施形態に係る推定装置10は、肺、膀胱、手足などの各組織について、マイクロ波を照射し、その反射波又は透過波を受信して各組織に含まれる水の容量又はその変化量を推定することができる。具体的には、組織にそもそも含まれている水の容量、組織に含まれる水の長期的及び短期的な変化量を得ることができ、それらの水の容量や変化量を対象者の診断に利用することができる。
【符号の説明】
【0121】
10 生体情報の推定装置
11 推定部(推定手段)
12 送信部(電波送信手段)
13 送信アンテナ(電波送信手段)
14 受信アンテナ(電波受信手段)
15 受信部(電波受信手段)
16 検波部
17 サンプリング部
18 記憶部(記憶手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10