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特許7079488発泡樹脂成型金型、及び発泡樹脂成型方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】発泡樹脂成型金型、及び発泡樹脂成型方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 44/58 20060101AFI20220526BHJP
   B29C 33/40 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
B29C44/58
B29C33/40
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018154008
(22)【出願日】2018-08-20
(65)【公開番号】P2020028986
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】395010635
【氏名又は名称】有限会社三宝金型製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【弁理士】
【氏名又は名称】楠本 高義
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】中村 裕一
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-051595(JP,A)
【文献】特開2012-051182(JP,A)
【文献】実開昭56-074716(JP,U)
【文献】特開2013-223996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 44/00-44/60
B29C 33/00-33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹面を有する第1構成型と、
前記第1構成型の前記凹面を覆う第2構成型と、
前記第1構成型と前記第2構成型との間に生じる空間よって形成される成型室と、を備え、
前記第1構成型は、前記成型室とは反対側の面と、該成型室と、の間で流体が通過可能であり、該第1構成型の板厚方向に対する垂直方向を長手方向とする複数の第1スリットを有し、
前記第2構成型は、前記成型室とは反対側の面と、前記成型室と、の間で流体が通過可能であり、該第2構成型の板厚方向に対する垂直方向を長手方向とする複数の第2スリットを有し、
前記第1構成型の前記成型室側は、前記第1スリットに連続し、水が溜まる複数の第1水溜部が設けられ、
前記第2構成型の前記成型室側は、前記第2スリットに連続し、水が溜まる複数の第2水溜部が設けられた発泡樹脂成型金型。
【請求項2】
前記第1水溜部は、前記第1構成型に当てられる水の一部が前記第1スリットを通過して溜まるように構成され、
前記第2水溜部は、前記第2構成型に当てられる水の一部が前記第1スリットを通過して溜まるように構成された
請求項1に記載する発泡樹脂成型金型。
【請求項3】
前記第1構成型に当てられる水が、前記第1構成型の板厚方向に放水され、前記第2構成型に当てられる水が、前記第2構成型の板厚方向に放水されるように構成された請求項1又は2に記載する発泡樹脂成型金型。
【請求項4】
前記第1水溜部及び前記第2水溜部が、前記成型室側を開口部とする凹部形状である請求項1~3のいずれかに記載する発泡樹脂成型金型。
【請求項5】
前記第1構成型は、前記成型室とは反対側の面に、前記第1スリットに連続する第1貫通孔を有する第1突出部を備え、
前記第2構成型は、前記成型室とは反対側の面に、前記第2スリットに連続する第2貫通孔を有する第2突出部を備えた請求項1~4のいずれかに記載する発泡樹脂成型金型。
【請求項6】
前記第1構成型に対して前記成型室とは反対側に設けられた第1流体室と、
前記第2構成型に対して前記成型室とは反対側に設けられた第2流体室と、
発泡ビーズを前記成型室へ導入する発泡ビーズ経路と、
を備え、
前記第1流体室及び前記第2流体室は、
前記成型室へ蒸気を送るための蒸気流入経路と、
前記成型室へ送った前記蒸気を流出させる蒸気流出経路と、
水が流入する水流入経路と、
流入した前記水を流出させる水流出経路と、
空気が吸引される真空吸引経路と、
を備えた請求項1~5のいずれかに記載する発泡樹脂成型金型。
【請求項7】
前記請求項1~6のいずれかに記載する発泡樹脂成型金型を使用した発泡樹脂成型方法であり、
前記成型室に発泡ビーズを充填するステップと、
前記第1構成型及び前記第2構成型に蒸気を当てるステップと、
前記発泡樹脂成型金型の前記第1構成型及び前記第2構成型に水を当てるステップと、を含む発泡樹脂成型方法。
【請求項8】
前記第1水溜部は、前記第1構成型に当てられる水の一部が前記第1スリットを通過して溜まり、
前記第2水溜部は、前記第2構成型に当てられる水の一部が前記第2スリットを通過して溜まる請求項7に記載する発泡樹脂成型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、予備発泡後の発泡ビーズを充填して一定形状に成型する発泡樹脂成型金型、及び発泡樹脂成型方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、発泡樹脂の重合工程、予備発泡工程、及び、成型工程を経て発泡樹脂製品を製造することが行われている。発泡樹脂材料としては、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。以下、発泡樹脂材料として、ポリスチレンを使用する場合について説明する。重合工程においては、ポリスチレンモノマー(石油から精製されたポリスチレンの原材料)を重合し、発泡剤を加えて直径約0.3~1.0mmの原料ビーズを形成する。予備発泡工程においては、原料ビーズに約100°Cの蒸気を当てて原料ビーズを予備発泡させて膨張させ、直径約2.0~5.0mmの発泡ビーズを形成する。以下、「発泡ビーズ」と言うときは、予備発泡後のビーズを言う。
【0003】
成型工程による成型体の形成は、凹面を有する第1構成型と、第1構成型の凹面を覆う第2構成型と、第1構成型と第2構成型との間に生じる空間よって形成される成型室とを備える発泡樹脂成型金型により行われる。発泡樹脂成型金型による成型工程は、発泡ビーズを成型室に充填する充填工程、第1構成型又は第2構成型に加熱蒸気(過熱蒸気)を当てる片面加熱工程、第1構成型及び第2構成型に加熱蒸気を当てる両面加熱工程、第1構成型等を冷却水によって冷却する水冷工程、成型室等を真空吸引して冷却する真空吸引工程、及び、成型体を成型室から取り出す離型工程から成る。
【0004】
成型工程において発泡樹脂製品を製造する従来の発泡樹脂成型金型の一例として、発泡樹脂成型金型100を、図13に示す。発泡樹脂成型金型100は、凹面102を有する凹型(第1構成型)104と、凹型104の凹面102を覆う凸型(第2構成型)106と、凹型104と凸型106との間に生じる空間によって形成される成型室108と、凹型104に対して成型室108と反対側に設けられた第1流体室110と、凸型106に対して成型室108と反対側に設けられた第2流体室112と、発泡ビーズを成型室108へ導入する発泡ビーズ経路114と、を備えている。凹型104及び凸型106は、成型室108に加熱蒸気を送るため等の理由から、複数のスリット122が設けられている。発泡樹脂成型金型10は、成型工程の中の片面加熱工程及び両面加熱工程において、開閉弁129を開いた蒸気流入経路128から第1流体室110又は第2流体室112に加熱蒸気を送り、加熱蒸気をスリット122を介して成型室108に送る。両面加熱工程により、成型室108内の発泡ビーズ群は膨張し融着し成型体120(図14に示す)に変化する。片面加熱工程及び両面加熱工程における加熱蒸気の温度は、約150~160°Cである。
【0005】
両面加熱工程の次の水冷工程において、図14(a)に示すように、約60°Cの冷却水を、開閉弁117を開いた冷却水流入経路116から第1流体室110及び第2流体室112に流入させて凹型104及び凸型106に当て、開閉弁119を開いた冷却水流出弁118から流出させることにより、片面加熱工程及び両面加熱工程で加熱された凹型104、凸型106及び成型体120を冷却する。図14において、各弁の中心に記載する「-」は、弁を閉じた状態を示す。成型工程の中の真空吸引工程においては、図14(b)に示すように、開閉弁125を開いた真空吸引経路124から第1流体室110及び第2流体室112の空気を吸引し、第1流体室110内及び第2流体室112内等を略真空状態にすることにより、凹型104、凸型106及び成型体120を冷却する。水冷工程及び真空吸引工程により、凹型104の温度は、約120°Cから約65°Cに冷却される。
【0006】
しかし、水冷工程において、図14(a)に示すように、成型体120は冷却されることにより収縮し、成型体120と、凹型104及び凸型106と、の間に隙間が生じ、隙間には、両面加熱工程及び水冷工程において成型体120から生じている蒸気が入り込み、隙間に入り込んだ蒸気は、冷却された凹型104及び凸型106によって温度降下し、ドレン水(凝縮水、蒸気が温度降下により液化した水)のドレン境膜126が生じる。ドレン境膜126の温度は約90°Cであり、凹型104、凸型106及び成型体120を約65°Cに冷却していく過程において、ドレン境膜126の潜熱の分だけ、長時間冷却する必要があった。このため、凹型104、凸型106及び成型体120の冷却の迅速化を図ることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、凹型、凸型及び成型体の冷却の迅速化を図ることのできる発泡樹脂成型金型及び発泡樹脂成型方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明の発泡樹脂成型金型は、
凹面を有する第1構成型と、
前記第1構成型の前記凹面を覆う第2構成型と、
前記第1構成型と前記第2構成型との間に生じる空間よって形成される成型室と、を備え、
前記第1構成型は、前記成型室とは反対側の面と、前記成型室と、の間で流体が通過可能であり、該第1構成型の板厚方向に対する垂直方向を長手方向とする複数の第1スリットを有し、
前記第2構成型は、前記成型室とは反対側の面と、前記成型室と、の間で流体が通過可能であり、該第2構成型の板厚方向に対する垂直方向を長手方向とする複数の第2スリットを有し、
前記第1構成型の前記成型室側は、前記第1スリットに連続し、水が溜まる複数の第1水溜部が設けられ、
前記第2構成型の前記成型室側は、前記第2スリットに連続し、水が溜まる複数の第2水溜部が設けられたことを特徴とする。
【0010】
本願発明の発泡樹脂成型金型は、前記発泡樹脂成型金型において、
前記第1水溜部は、前記第1構成型に当てられる水の一部が前記第1スリットを通過して溜まるように構成され、
前記第2水溜部は、前記第2構成型に当てられる水の一部が前記第1スリットを通過して溜まるように構成されたことを特徴とする。
【0011】
本願発明の発泡樹脂成型金型は、前記発泡樹脂成型金型において、
前記第1構成型に当てられる水が、前記第1構成型の板厚方向に放水され、前記第2構成型に当てられる水が、前記第2構成型の板厚方向に放水されるように構成されたことを特徴とする。
【0012】
本願発明の発泡樹脂成型金型は、前記発泡樹脂成型金型において、
前記第1水溜部及び前記第2水溜部が、前記成型室側を開口部とする凹部形状であることを特徴とする。
【0013】
本願発明の発泡樹脂成型金型は、前記発泡樹脂成型金型において、
前記第1構成型は、前記成型室とは反対側の面に、前記第1スリットに連続する第1貫通孔を有する第1突出部を備え、
前記第2構成型は、前記成型室とは反対側の面に、前記第2スリットに連続する第2貫通孔を有する第2突出部を備えたことを特徴とする。
【0014】
本願発明の発泡樹脂成型金型は、前記発泡樹脂成型金型において、
前記第1構成型に対して前記成型室とは反対側に設けられた第1流体室と、
前記第2構成型に対して前記成型室とは反対側に設けられた第2流体室と、
発泡ビーズを前記成型室へ導入する発泡ビーズ経路と、
を備え、
前記第1流体室及び前記第2流体室は、
前記成型室内へ蒸気を送るための蒸気流入経路と、
前記成型室へ送った前記蒸気を流出させる蒸気流出経路と、
水が流入する水流入経路と、
流入した前記水を流出させる水流出経路と、
空気が吸引される真空吸引経路と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
本願発明の発泡樹脂成型方法は、
前記請求項1~6のいずれかに記載する発泡樹脂成型金型を使用した発泡樹脂成型方法であり、
前記成型室に発泡ビーズを充填するステップと、
前記第1構成型及び前記第2構成型に蒸気を当てるステップと、
前記発泡樹脂成型金型の前記第1構成型及び前記第2構成型に水を当てるステップと、を含むことを特徴とする。
【0016】
本願発明の発泡樹脂成型方法は、前記発泡樹脂成型方法において、
前記第1水溜部は、前記第1構成型に当てられる水の一部が前記第1スリットを通過して溜まり、
前記第2水溜部は、前記第2構成型に当てられる水の一部が前記第1スリットを通過して溜まることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の発泡樹脂成型金型によれば、第1構成型及び第2構成型に水が当てられる水冷工程において成型室内の成型体のまわりに生じるドレン境膜の熱が、真空吸引して成型室を冷却する真空吸引工程において、第1水溜部又は第2水溜部に溜まっている水へ移動する。このため、ドレン境膜に接する成型体の冷却を促進することができる。また、真空吸引工程において、第1水溜部及び第2水溜部に溜まっている水が蒸気化することにより、第1構成型及び第2構成型等の熱は気化熱に使用され、第1構成型及び第2構成型等の冷却を促進することができる。本願発明の発泡樹脂成型金型によれば、ドレン境膜から第1水溜部等に溜まっている水への熱移動と、第1構成型等の熱が気化熱に使用されることとの相乗効果により、第1構成型等の冷却をより促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本願発明の発泡樹脂成型金型を示す図であり、同図(a)は正面断面図であり、同図(b)は一部拡大正面断面図であり、同図(c)はA-A線切断部断面図である。
図2図1に示す発泡樹脂成型金型の充填工程における使用状態を示す正面断面図である。
図3図1に示す発泡樹脂成型金型の片面加熱工程における使用状態を示す正面断面図である。
図4図1に示す発泡樹脂成型金型の両面加熱工程における使用状態を示す断正面断面図である。
図5図1に示す発泡樹脂成型金型の水冷工程における使用状態を示す図であり、同図(a)は正面断面図であり、同図(b)は一部拡大正面断面図である。
図6図1に示す発泡樹脂成型金型の真空吸引工程における使用状態を示す断正面断面図である。
図7】本願発明の発泡樹脂成型金型の他の実施形態を示す一部拡大正面断面図である。
図8】同図(a)及び(b)は、本願発明の発泡樹脂成型金型の更に他の実施形態を示す一部拡大正面断面図である。
図9】同図(a)及び(b)は、本願発明の発泡樹脂成型金型の更に他の実施形態を示す一部拡大正面断面図である。
図10】本願発明の発泡樹脂成型金型の更に他の実施形態を示す図であり、同図(a)は一部拡大正面断面図であり、同図(b)はA-A線切断部断面図である。
図11】本願発明の発泡樹脂成型金型の更に他の実施形態を示す図であり、同図(a)は正面図であり、同図(b)は一部拡大正面断面図である。
図12図11の発泡樹脂成型金型の第1構成型を示す斜視図である。
図13】従来の発泡樹脂成型金型を示す図であり、同図(a)は正面断面図であり、同図(b)は一部拡大正面断面図である。
図14図13に示す発泡樹脂成型金型の使用状態を示す図であり、同図(a)は水冷工程における使用状態を示す断正面断面図であり、同図(b)は真空吸引工程における使用状態を示す断正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本願発明の実施形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図1において、符号10は、本願発明の発泡樹脂成型金型を示す。
【0020】
(発泡樹脂成型金型10の構成)
発泡樹脂成型金型10は、図1(a)に示すように、凹面12を有する凹型(第1構成型)14と、凸面13を有し、凸面13が凹型14の凹面12内に配置された状態で凹面12を覆う凸型(第2構成型)16と、凹面12と凸面13との間に生じる空間によって形成される成型室18と、凹型14に対して成型室18と反対側に設けられた第1流体室201と、凸型16に対して成型室18と反対側に設けられた第2流体室202と、発泡ビーズを成型室18へ導入する発泡ビーズ経路24と、を備えている。発泡樹脂成型金型10は、図1(a)に示す状態に対してX軸まわりに90°回転させた状態でも使用され得る。
【0021】
発泡樹脂成型金型10の成型室18によって形成する製品は、略コの字断面を有する発泡樹脂容器である。このため、図1(a)に示すように、成型室18は、略コの字断面を有する。また、形成する発泡樹脂容器の板厚は略一定である。このため、成型室18の厚みW1が略一定となるように、凹型14の凹面12と凸型16の凸面13とは略平行になるように構成されている。
【0022】
凹型14は、第1流体室201と成型室18との間で流体(蒸気又は水)が通過可能であり、凹型14の板厚W2(図1(b)に示す)方向に対する垂直方向を長手方向とする複数の第1スリット261を有している。凹型14の成型室18側は、第1流体室201と成型室18との間で流体が通過可能であり、第1スリット261に連続する複数の第1水溜部281が設けられている。第1水溜部281は、図1(c)に示すように、長方形断面を有する。第1水溜部281は、成型室18側を開口部とする凹部形状である。第1水溜部281の幅W3は、直径約2.0~5.0mmの発泡ビーズが入り込まないように、直径約2.0mm未満である。第1水溜部281の幅W3は、第1スリット261の幅W4よりも大きく構成されている。第1スリット261の幅W4は、0.2~1.5mmであり、蒸気又は水が通過できればよいため狭くてもよい一方で、第1水溜部281の幅W3は、約2.0mm未満の範囲で極力大きくし、より多量の水が付着し溜まりやすくなるように構成されている。
【0023】
凸型16は、第2流体室202と成型室18との間で流体(蒸気又は水)が通過可能であり、凸型16の凸面13と平行な方向(凸型16の板厚W5(図1(b)に示す)方向に対する垂直方向)を長手方向とする複数の第2スリット262を有している。凸型16の成型室18側は、第2流体室202と成型室18との間で流体が通過可能であり、第2スリット262に連続する複数の第2水溜部282が設けられている。第2スリット262の形状及び寸法は、第1スリット261と同一である。第2水溜部282の形状及び寸法は、第1水溜部281と同一である。
【0024】
第1流体室201及び第2流体室202は、図1(a)に示すように、発泡ビーズ経路24から成型室18内へ発泡ビーズを送る時に成型室18等の空気を抜くための空気流出経路46と、成型室18内の発泡ビーズ群へ加熱蒸気(蒸気)をボイラ(図示しない)から送る蒸気流入経路26と、成型室18内の発泡ビーズへ送った加熱蒸気を流出させる蒸気流出経路28と、第1流体室201及び第2流体室202に60°Cの冷却水(水)を給水器(図示しない)から送る冷却水流入経路(水流入経路)30と、第1流体室201等に送った冷却水を流出させる冷却水流出経路(水流出経路)32と、第1流体室201及び第2流体室202から真空ポンプ(図示しない)へ空気を吸引する真空吸引経路34と、を備えている。空気流出経路46は、開閉弁48を、蒸気流入経路26は、開閉弁36を、蒸気流出経路28は、開閉弁38を、冷却水流入経路30は、開閉弁40を、冷却水流出経路32は、開閉弁42を、真空吸引経路34は、開閉弁44を、各々備えている。第1流体室201及び第2流体室202内には、冷却水流入経路30に接続され、凹型14又は凸型16に向かって凹型14又は凸型16の板厚W2又はW5方向に放水するスプレーノズル(図示しない)が備えられている。
【0025】
(作用及び効果)
本願発明の発泡樹脂成型金型10は、原料ビーズを形成する重合工程、発泡ビーズを形成する予備発泡工程、及び、発泡樹脂製品を成型する成型工程の中の、成型工程において使用される。成型工程は、発泡ビーズを成型室18に充填する充填工程、成型室18内の発泡ビーズ群の片面に加熱蒸気(過熱蒸気、蒸気)を当てる片面加熱工程、成型室18内の発泡ビーズ群の両面に加熱蒸気を当てる両面加熱工程、冷却水によって凹型14又は凸型16等を冷却する水冷工程、第1流体室201及び第2流体室202から空気を吸引して凹型14等を冷却する真空吸引工程、及び、成型体を成型室から取り出す離型工程から成る。
【0026】
(充填工程)
発泡ビーズ経路24から成型室18内へ、ポリスチレンの複数個の発泡ビーズ(以下、「発泡ビーズ」と言うときは、特に断らない限り複数個の発泡ビーズを言う)が送られる。フィーダー23から発泡ビーズ経路24に送られた発泡ビーズに、空気供給機25から圧縮空気が供給されることにより、図2に示すように、成型室18内に発泡ビーズが充填される。この時、開閉弁48が開かれ、成型室18内の空気が、第1スリット261、第2スリット262、第1流体室201及び第2流体室202等を介して、空気流出経路46から抜かれる。各図において、各開閉弁の中心に記載する「-」は、弁を閉じた状態を示す。
【0027】
(片面加熱工程)
約150~160°Cの加熱蒸気(過熱蒸気)により、成型室18内の発泡ビーズ群50が加熱される。ボイラ(図示しない)から送られた加熱蒸気が、図3に示すように、第1流体室201側の蒸気流入経路26から第1流体室201に送られる。第1流体室201に送られた加熱蒸気は、凹型14の第1スリット261及び第1水溜部281を通って、成型室18内へ送られ、成型室18内の発泡ビーズ群50の一方面に当たり、発泡ビーズ群50同士の隙間を通って、凸型16の第2水溜部282及び第2スリット262を通って、第2流体室202に送られ、第2流体室202側の蒸気流出経路28から流出し、成型室18内の発泡ビーズ群50が加熱される。この時、第1流体室201側の開閉弁36及び第2流体室202側の開閉弁38が開かれる。
【0028】
次に、図示しないが、成型室18内の発泡ビーズ群50の他方面からの加熱が行われる。すなわち、加熱蒸気が、第2流体室202側の蒸気流入経路26から第2流体室202に送られ、凸型16の第2スリット262及び第2水溜部282を通って、成型室18内へ送られ、成型室18内の発泡ビーズ同士の隙間を通り、凹型14の第1水溜部281及び第1スリット261を通って、第1流体室202に送られ、第1流体室201側の蒸気流出経路28から流出する。この時、第2流体室202側の開閉弁36及び第1流体室201側の開閉弁38が開かれる。これらの片面加熱工程により、成型室18内の発泡ビーズは湿った状態となる。これらの片面加熱工程においては、加熱蒸気の一部は、凹型14の裏面58(成型室18と反対側の面)又は凸型16の裏面60(成型室18と反対側の面)に当たり、温度降下し、約90°Cのドレン水(凝縮水、蒸気が温度降下により液化した水)となり、凹型14の裏面58等に沿って流れ落ちる。また、加熱蒸気の一部は、凹型14の第1スリット261及び第1水溜部281又は凹型14の第1スリット261及び第1水溜部281を通って発泡ビーズ群50に当たり、温度降下し、ドレン水となって発泡ビーズ群50同士の隙間に滞留する。
【0029】
(両面加熱工程)
図4に示すように、2箇所の開閉弁36が開かれ、2箇所の蒸気流入経路26から、150°C~160°Cの加熱蒸気が、第1流体室201及び第2流体室202に送られる。これにより、凹型14及び凸型16はビーズ融着温度(ポリスチレンの場合、約120°C)まで昇温する。加熱蒸気は、凹型14の第1スリット261及び第1水溜部281、又は凸型16の第2スリット262及び第2水溜部282を通って、成型室18内に入る。成型室18内においては、発泡ビーズ群50同士の隙間に滞留するドレン水が沸騰し蒸発しながら発泡ビーズが膨らみ融着する。ドレン水が蒸発して生じた蒸気は、第1水溜部281及び第1スリット261等を通過して第1流体室201等へ排気される。成型室18内の発泡ビーズが膨らみ融着し固化することにより、図4に示すように、成型体52が形成される。なお、成型体52の形成後も、成型体52から蒸気が生じている。両面加熱工程における成型室18内の圧力は、約1.6~2kg/cmである。
【0030】
(水冷工程)
図5(a)に示すように、2箇所の開閉弁40及び2箇所の開閉弁42が開かれ、給水器から約60°Cの冷却水が、2箇所の冷却水流入経路30から第1流体室201及び第2流体室202へ送られ、2箇所の冷却水流出経路32から流出される。第1流体室201及び第2流体室202内においては、冷却水流入経路30に接続されているスプレーノズル(図示しない)から凹型14等に向かって凹型14等の板厚方向(図5(a)において第1流体室201及び第2流体室202内に実線矢印で示す方向、X軸又はZ軸方向)に放水される。第1流体室201で放水された水の一部は、第1スリット261を通って第1水溜部281に入り込み、表面張力又は毛細管現象により第1水溜部281に付着し溜まる。第2流体室202で放水された水の一部は、第2スリット262を通って第2水溜部282に入り込み、表面張力により第2水溜部282に付着し溜まる。
【0031】
凹型14及び凸型16は温度降下し、成型室18内の成型体52が温度降下し、成型体52は、図5に示すように、収縮する。成型体52が収縮することにより、成型体52と凹型14及び凸型16との間に隙間54が生じる。隙間54には、成型体52から生じている蒸気が入り込み、隙間54に入り込んだ蒸気は、冷却された凹型14及び凸型16に当たって温度降下し、約90°Cのドレン水のドレン境膜56となる。ドレン境膜56の熱は、低温側である第1水溜部281の水及び第2水溜部282の水へ移動する。このため、ドレン境膜56に接する成型体52の冷却を促進することができる。
【0032】
(真空吸引工程)
図6に示すように、2箇所の開閉弁44が開かれ、第1流体室201及び第2流体室202の空気が、真空吸引経路34から真空ポンプ(図示しない)へ吸引される。第1流体室201及び第2流体室202の空気が吸引されることにより、成型室18、第1スリット261及び第1水溜部281等の空気が吸引される。成型室18等の空気が吸引されることにより、成型室18等の圧力は降下し、成型室18等に残存している水は蒸気化し(水の相変化を示す図示しないp-T線図に基づく)、蒸気が真空吸引経路34から吸引排出される。また、成型室18、第1スリット261及び第1水溜部281等の空気が吸引されることにより、成型室18等の中の蒸気は断熱膨張し、成型室18等の圧力が降下し、成型室18等は温度降下する。
【0033】
真空吸引工程において、第1水溜部281及び第2水溜部282に溜まっている水へ、ドレン境膜56の熱が移動する。このため、ドレン境膜56に接する凹型14、凸型16、及び成型体52等の冷却を促進することができる。また、第1水溜部281及び第2水溜部282に水が溜まっていることにより、第1水溜部281及び第2水溜部282に溜まっている水が蒸気化する。一方、ドレン水であるドレン境膜56が蒸気化する。凹型14、凸型16及び成型室18等の熱は、第1水溜部281等の水及びドレン境膜56の気化熱に使用される。発泡樹脂成型金型10は、第1水溜部281及び第2水溜部282を備えるため、第1水溜部281及び第2水溜部282に溜まった水の分だけ、従来の発泡樹脂成型金型に比して、気化熱に使用される熱量が多くなる。これにより、凹型14等の冷却を促進することができる。発泡樹脂成型金型10によれば、ドレン境膜56から第1水溜部281等に溜まっている水への熱移動と、凹型14等の熱が気化熱に使用されることとの相乗効果により、凹型14等の冷却をより促進することができる。
【0034】
(離型工程)
凸型16が凹型14に対して、シリンダ機構等(図示しない)によって離隔され、成形室18から成型体52が取り出される。成型体52が取り出された時、凹型14及び凸型16の温度は、約65°Cである。
【0035】
以上、本願発明の一実施形態について説明したが、本願発明は上述の実施形態に限定されない。例えば、上述の発泡樹脂成型金型10において、図7に示すように、凹型(第1構成型)14の裏面58に、第1スリット261に連続する第1貫通孔61を有する第1突出部71を備え、凸型(第2構成型)16の裏面60に、第2スリット262に連続する第2貫通孔62を有する第2突出部72を備えてもよい。片面加熱工程においては、図1に示す発泡樹脂成型金型10に関する片面加熱工程の説明で上述したように、加熱蒸気の一部は、凹型14の裏面58又は凸型16の裏面60に当たり、温度降下し、約90°Cのドレン水となり、凹型14の裏面58等に沿って流れ落ちる。第1突出部71及び第2突出部72を備えることにより、流れ落ちるドレン水は、第1突出部71等に当たり、第1スリット261等を回避し、ドレン水が第1スリット261等に侵入して付着するのを防止できる。このため、蒸気が第1スリット261等を通過して成型室18に送られることが確保される。
【0036】
なお、水冷工程において、スプレーノズル(図示しない)から凹型14等に向かって、凹型14又は凸型16の板厚方向に、放水されるため、冷却水は、第1貫通孔61を介して第1スリット261から第1水溜部281に十分に送られ、第2貫通孔62を介して第2スリット262から第2水溜部282に十分に送られる。このため、第1水溜部281及び第2水溜部282の上述の効果は維持される。
【0037】
また、本願発明の発泡樹脂成型金型10が備える第1水溜部281及び第2水溜部282の形状及び寸法は特に限定されない。例えば、図8(a)又は図8(b)に示す第1水溜部281及び第2水溜部282を備えた発泡樹脂成型金型10であってもよい。図8(a)又は(b)に示す第1水溜部281及び第2水溜部282は、第1スリット261及び第2スリット262よりも下方にのみ設けられている。表面張力により水が第1スリット261及び第2スリット262に付着して溜まるのに十分と考えられるからである。第1水溜部281の幅W3及び第2水溜部282の幅W6は、直径約2.0~5.0mmの発泡ビーズが入り込まないように、直径約2.0mm未満である。
【0038】
また、図9(a)又は(b)に示す第1水溜部281及び第2水溜部282を備えた発泡樹脂成型金型10であってもよい。図9(a)又は(b)に示す第1水溜部281及び第2水溜部282は、凹面12又は凸面13側が広がっている。ドレン境膜56に接触する部分を広くして、ドレン境膜56から第1水溜部281又は第2水溜部282への熱移動の迅速化を図り、ドレン境膜56に接する成型体52等の冷却を促進することができる。第1水溜部281の最大幅W3及び第2水溜部282の最大幅W6は、直径約2.0~5.0mmの発泡ビーズが入り込まないように、直径約2.0mm未満である。
【0039】
また、図10(a)及び(b)に示す第1水溜部281及び第2水溜部282を備えた発泡樹脂成型金型10であってもよい。図10(a)及び(b)に示す第1水溜部281及び第2水溜部282は、1個の第1水溜部281が2個の第1スリット261に連続し、1個の第2水溜部282が2個の第2スリット262に連続している。第1水溜部281及び第2水溜部282の体積を大きくして、第1水溜部281等に溜める水の量を多くすることができる。この場合、図10(b)に示すように、第2水溜部282は、第2スリット262の長手方向に対して垂直方向(Z軸方向)が長手方向であり、第2水溜部282の幅W6は、直径約2.0~5.0mmの発泡ビーズが入り込まないように、直径約2.0mm未満である。第1水溜部281は第2水溜部282と形状及び寸法は同一である。また、1個の第1水溜部281が3個以上の第1スリット261に連続し、1個の第2水溜部282が3個以上の第2スリット262に連続するように構成してもよい。
【0040】
また、発泡樹脂成型金型10において、第1構成型は図1に示す凹型14に限定されず、第2構成型は図1に示す凸型16に限定されない。例えば、図11(a)に示すように、半円形断面を有する第1構成型314及び第2構成型316であってもよい。第1構成型314は、図12に示すように、表面(成型室18と反対側の面)358に複数の凹部271が設けられ、各凹部271の底面に複数のスリット261が設けられている。第1構成型314の成型室18側には、図11(b)に示すように、スリット261に連続する水溜部281が設けられている。第1構成型314と第2構成型316とは、発泡ビーズ経路24が第1構成型314に設けられ第2構成型316に設けられないこと以外、形状及び寸法が同一である。成型室18は、第1構成型314と第2構成型316との間に生じる空間よって形成される。半円形断面を有する第1構成型314と半円形断面を有する第2構成型316とを備える発泡樹脂成型金型10によって、円柱形状のフロート(浮き体)を形成することができる。
【0041】
以上、本願発明の発泡樹脂成型金型について、図面に基づいて説明したが、図示したものに限定されない。例えば、第1水溜部及び第2水溜部の形状及び寸法を互いに異ならせてもよい。また、第1構成型が、凹面を有し、第2構成型が、第1構成型の凹面を覆う平板状であってもよい。
【符号の説明】
【0042】
10:発泡樹脂成型金型
12:凹面
13:凸面
14:凹型(第1構成型)
16:凸型(第2構成型)
18:成型室
24:発泡ビーズ経路
26:蒸気流入経路
28:蒸気流出経路
30:冷却水流入経路(水流入経路)
32:冷却水流出経路(水流出経路)
32:冷却水流出経路
34:真空吸引経路
46:空気流出経路
50:発泡ビーズ群
52:成型体
54:隙間
56:ドレン境膜
261:第1スリット
262:第2スリット
281:第1水溜部
282:第2水溜部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14