(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】粉体塗料用添加剤、粉体塗料組成物および塗膜
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20220526BHJP
C09D 5/03 20060101ALI20220526BHJP
C09D 7/62 20180101ALI20220526BHJP
C09C 3/10 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/03
C09D7/62
C09C3/10
(21)【出願番号】P 2018181370
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-06-22
(31)【優先権主張番号】P 2017194683
(32)【優先日】2017-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】湯本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】古田 雄也
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆史
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-126511(JP,A)
【文献】特開2000-178472(JP,A)
【文献】特開2003-041237(JP,A)
【文献】特開2001-064569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 5/03
C09D 7/62
C09C 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子と、
前記無機粒子に担持されたシリケート化合物と、
前記無機粒子に担持された(メタ)アクリル系共重合体とを含み、
前記(メタ)アクリル系共重合体は、水酸基およびアミド基を有する(メタ)アクリル系モノマー(M1)に由来するモノマー単位(U1)を、該(メタ)アクリル系共重合体の質量に対して、30質量%以上含む、粉体塗料用添加剤。
【請求項2】
前記無機粒子が、無機顔料である請求項1記載の粉体塗料用添加剤。
【請求項3】
前記モノマー(M1)が、下記一般式(1)で表されるものである請求項1または2記載の粉体塗料用添加剤。
【化1】
前記一般式(1)において、R1は、水素原子またはメチル基を示し、R2は、アルキレン基を示し、R3は、水素原子、または置換されていてもよいアルキル基を示す。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル系共重合体は、前記モノマー単位(U1)と、前記モノマー(M1)と別の(メタ)アクリル系モノマー(M2)に由来する別のモノマー単位(U2)とを含み、
前記モノマー(M2)が、下記一般式(2)で表されるものである請求項1~3の何れか一項に記載の粉体塗料用添加剤。
【化2】
前記一般式(2)において、R1は、水素原子またはメチル基を示し、R4は、炭化水素基を示す。
【請求項5】
前記モノマー(M2)は、該モノマー(M2)の単独重合体のガラス転移温度が前記モノマー(M1)の単独重合体のガラス転移温度より低いものである請求項4記載の粉体塗料用添加剤。
【請求項6】
前記シリケート化合物および前記(メタ)アクリル系共重合体を合わせた質量と、前記無機粒子の質量との比の値が、以下の式1に示す関係にある請求項1~5の何れか一項に記載の粉体塗料用添加剤。
(シリケート化合物+(メタ)アクリル系共重合体)/無機粒子≦2.5 ・・・(式1)
【請求項7】
前記無機粒子は、シリカ粒子である請求項1~6の何れか一項に記載の粉体塗料用添加剤。
【請求項8】
前記無機粒子は、炭酸カルシウム粒子および硫酸バリウム粒子からなる群より選ばれる少なくともいずれかである請求項1~6の何れか一項に記載の粉体塗料用添加剤。
【請求項9】
前記シリケート化合物は、重合度が1~4の範囲にあるオリゴマーである請求項1~8の何れか一項に記載の粉体塗料用添加剤。
【請求項10】
請求項1~9の何れか一項に記載の粉体塗料用添加剤と、粉体塗料とを含む、粉体塗料組成物。
【請求項11】
請求項10記載の粉体塗料組成物で形成された、塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体塗料用添加剤、該粉体塗料用添加剤を含む粉体塗料組成物および該粉体塗料組成物から得られる塗膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
粉体塗料から得られる塗膜の耐汚染性を改善する添加剤としては、シリケート化合物が知られている。しかし、シリケート化合物は、液状であるので、粉体塗料に加えるとブロッキングが生じてしまう難点がある。そこで、無機や有機の微粒子にシリケート化合物を混合することで得られるシリケート担持粒子を、粉体塗料に添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粉体塗料に添加されたシリケート化合物は、加水分解することで、塗膜表面を親水化し、これにより塗膜表面に汚染物質が付着することを防止していると考えられる。しかし、シリケート化合物の加水分解は、一般に1ヶ月~3ヶ月程度の時間がかかり、シリケート化合物が親水化する前の初期段階では、塗膜表面への汚染物質の付着を防止できない。そして、初期段階で塗膜表面に汚染物質が一旦付着すると、塗膜表面が親水化しても汚染物質がさらに重なって付着するので、十分な耐汚染性が得られない。
【0005】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、塗膜の耐汚染性を向上し得る粉体塗料用添加剤、該粉体塗料用添加剤を含む粉体塗料組成物および該粉体塗料組成物から得られる塗膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明は、
無機粒子と、
前記無機粒子に担持されたシリケート化合物と、
前記無機粒子に担持された(メタ)アクリル系共重合体とを含み、
前記(メタ)アクリル系共重合体は、水酸基およびアミド基を有する(メタ)アクリル系モノマー(M1)に由来するモノマー単位(U1)を、該(メタ)アクリル系共重合体の質量に対して、30質量%以上含む、粉体塗料用添加剤、該粉体塗料用添加剤を含む粉体塗料組成物および該粉体塗料組成物から得られる塗膜であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る粉体塗料用添加剤によれば、粉体塗料に配合することで、粉体塗料組成物から得られる塗膜の耐汚染性を向上させることができる。
本発明に係る粉体塗料組成物によれば、得られる塗膜の耐汚染性が良好である。
本発明に係る塗膜によれば、耐汚染性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示に係る粉体塗料用添加剤は、無機粒子と、無機粒子に担持されたシリケート化合物と、無機粒子に担持された特定の(メタ)アクリル系共重合体(モノマー単位(U1)を一定量以上含む)とを含んでいる。
【0009】
前述のように、従来技術において、シリケート化合物の加水分解は、一般に1ヶ月~3ヶ月程度の時間がかかり、シリケート化合物が親水化する前の初期段階では、塗膜表面への汚染物質の付着を防止できない。一方、本開示に係る粉体塗料用添加剤においては、無機粒子に担持された特定の(メタ)アクリル系共重合体が、水酸基およびアミド基(親水的な基)を有するため、シリケート化合物の加水分解前においても塗膜表面が親水化され、汚染物質の付着が抑えられるものと推定される(なお、この推定はあくまで推定であり、発明の範囲を限定するものではない)。
【0010】
以下に、粉体塗料用添加剤の各要素について順に説明する。
【0011】
(無機粒子)
前記無機粒子は、粉体塗料用添加剤においてシリケート化合物および(メタ)アクリル系共重合体を担持する基材である。使用可能な無機粒子は特に限定されない。例えば、無機顔料として知られている無機粒子を挙げることができる。より具体的には、白色無機顔料または体質顔料が、塗料の色目に大きな影響を与えにくい等の点で好ましい。白色無機顔料の具体例としては、二酸化チタン(チタン白、チタニア)、亜鉛華、鉛白、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトポン、硫化亜鉛、アンチモン白などを挙げることができる。体質顔料としては、バリタ粉、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、珪藻土、タルク、炭酸マグネシウム、含水珪酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、マイカ粉等を挙げることができる。
【0012】
なかでも、無機粒子としては、コストや各種性能バランスの点から、シリカ粒子、炭酸カルシウム粒子および硫酸バリウム粒子が好ましい。本発明者らの知見によれば、シリカ粒子には比較的多量のシリケート化合物や(メタ)アクリル系共重合体を担持させやすく(比表面積が比較的大きいためと考えられる)、粉体塗料に比較的少量添加するだけでも十分な耐汚染性効果を得ることができる。また、炭酸カルシウム粒子や硫酸バリウム粒子は、担持可能なシリケート化合物や(メタ)アクリル系共重合体の量は比較的少ない(比表面積が比較的小さいためと考えられる)が、粉体塗料中の成分を意図せず吸収または吸着することが少なく、この点で塗膜の外観をより良好にできるというメリットがある。
【0013】
前記シリカ粒子は、二酸化ケイ素(SiO2)によって構成された粒子である。シリカ粒子としては、合成非晶質シリカを用いることが好ましい。合成非晶質シリカの中でも湿式法シリカと乾式法シリカとがあるが、それらの中でも湿式法シリカが好ましい。なお、乾式法シリカの一種である気相法(フェームド)シリカを用いることも可能である。湿式法シリカの中でも、細孔を有する沈降法シリカを用いることが、シリケート化合物および(メタ)アクリル系共重合体を担持させる基材として好ましい。シリカ粒子は、その表面状態が、水酸基等の極性官能基による親水性の状態、または、高温処理等により極性官能基を無くした疎水性の状態の、何れの状態であってもよい。シリカ粒子は、その表面状態が親水性の状態であると、粉体塗料用添加剤を含む粉体塗料組成物から得られる塗膜の表面にブツ等の不良が生じ難く、仕上がり性が良好になる傾向がある。
【0014】
前記炭酸カルシウム粒子としては、例えば、塗料分野等の体質顔料として公知のものを使用することができる。炭酸カルシウム粒子は合成品であっても天然品であってもよい。また、シリケート化合物や(メタ)アクリル系共重合体を担持可能である限り、表面処理されたものであってもよい。
【0015】
前記硫酸バリウム粒子としては、例えば、塗料分野等の体質顔料として公知のものを使用することができる。硫酸バリウム粒子は合成品であっても天然品であってもよい。また、シリケート化合物や(メタ)アクリル系共重合体を担持可能である限り、表面処理されたものであってもよい。
【0016】
前記無機粒子の粒径は、特に限定されないが、例えば、平均粒径が1nm~10μmの範囲にあるものが用いられる。無機粒子の平均粒径は、好ましくは1μm~5μm、より好ましくは1μm~3μm更に好ましくは1μm~2μmの範囲である。平均粒径が当該範囲にあると、表面積が比較的小さくなることで、粉体塗料用添加剤を含む粉体塗料組成物から得られる塗膜の仕上がり性が良好になる傾向がある。また、粉体塗料用添加剤を含む粉体塗料組成物から得られる塗膜の表面から、無機粒子が突出することを抑制して、仕上がり性を良好にできる。なお、平均粒径は、コールターカウンター式によって測定したものである。
【0017】
(シリケート化合物)
前記シリケート化合物は、1個または数個のケイ素原子を中心とし、電気的に陰性な配位子がケイ素原子を取り囲んだ構造を有するアニオンを含む化合物である。シリケート化合物は、粉体塗料用添加剤を含む粉体塗料組成物から得られる塗膜において加水分解して親水化することで、塗膜に耐汚染性を付与する。シリケート化合物としては、例えば、アルコキシシランおよびアルコキシシランの縮合物、並びに該縮合物を変性したものを用いることができる。具体的には、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラヘキシルオキシシラン、テトラオクチルオキシシランなどのテトラアルコキシシランが挙げられ、これらの縮合物、並びに該縮合物を変性したものを用いることができる。また、例えば、メチルトリメトキシシランやメチルトリエトキシシラン等のメチルトリアルコキシシラン、イソブチルメトキシシランやイソブチルトリエトキシシラン等のイソブチルアルコキシシラン、オクチルトリメトキシシランやオクチルトリエトキシシラン等のオクチルトリアルコキシシランなどが挙げられ、これらの縮合物、並びに該縮合物を変性したものを用いることができる。なお、シリケート化合物は、1種類を用いても、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記シリケート化合物は、低分子量のオリゴマーであることが好ましく、重合度が1~4の範囲であることが特に好ましい。低分子量のシリケート化合物を用いることで、粉体塗料用添加剤を含む粉体塗料組成物から得られる塗膜の仕上がり性を良好にすることができ、重合度が5以上のオリゴマーであると、仕上がり性が低下するおそれがある。
【0019】
((メタ)アクリル系共重合体)
前記(メタ)アクリル系共重合体は、主としてアクリル酸またはメタクリル酸およびこれらの誘導体、例えばアクリルアミドなどの重合体を包含する高分子化合物であり、2種類以上の(メタ)アクリル系モノマーを重合して得られる。なお、「(メタ)アクリル」は、アクリルまたはメタクリルを意味する。(メタ)アクリレート等の他の類似の表現においても同様である。
【0020】
前記(メタ)アクリル系共重合体は、水酸基およびアミド基を有する(メタ)アクリル系モノマー単位(以下、第1モノマー単位(U1)という。)を含んでいる。第1モノマー単位(U1)は、水酸基およびアミド基を有する(メタ)アクリル系モノマー(以下、第1モノマー(M1)という。)に由来する。また、(メタ)アクリル系共重合体は、第1モノマー単位(U1)に加えて、前記第1モノマー(M1)と別の(メタ)アクリル系モノマー(以下、第2モノマー(M2)という。)に由来する(メタ)アクリル系モノマー単位(以下、第2モノマー単位(U2)という。)を含んでいてもよい。更に、(メタ)アクリル系共重合体は、第1モノマー単位(U1)に加えて、該第1モノマー単位(U1)および第2モノマー単位(U2)とは異なる(メタ)アクリル系モノマー単位(以下、第3モノマー単位(U3)という。)を含んでいてもよい。第3モノマー単位(U3)は、第1モノマー(M1)および第2モノマー(M2)と異なる(メタ)アクリル系モノマー(以下、第3モノマー(M3)という。)に由来する。
【0021】
前記(メタ)アクリル系共重合体は、第1モノマー(M1)、第2モノマー(M2)および第3モノマー(M3)に由来するモノマー単位と別に、第1モノマー(M1)、第2モノマー(M2)および第3モノマー(M3)と異なるその他の(メタ)アクリル系モノマー(以下、第4モノマー(M4)という。)に由来するモノマー単位(以下、第4モノマー単位(U4)という。)を含んでいてもよい。第4モノマー(M4)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸(MAA)などを用いることができる。第1モノマー(M1)、第2モノマー(M2)、第3モノマー(M3)および第4モノマー(M4)のそれぞれは、1種類のモノマーであっても、複数種類のモノマーを組み合わせて用いてもよい。また、第1モノマー(M1)、第2モノマー(M2)、第3モノマー(M3)および第4モノマー(M4)は、イソプロピルアルコール(IPA)などの溶媒に溶けるものであることが望ましい。(メタ)アクリル系共重合体は、例えばSP値を8~12の範囲にするなど、適用する粉体塗料等の条件に合わせて、第1モノマー(M1)、第2モノマー(M2)、第3モノマー(M3)および第4モノマー(M4)の割合が設定される。なお、本開示のSP値は、「Polymer Engineering and Science」14(2),147(1974)に記載の計算方法によって算出したものであり、単位は(cal/cm3)1/2である。
【0022】
前記(メタ)アクリル系共重合体は、ランダム共重合体またはブロック共重合体の何れであってもよい。例えば、(メタ)アクリル系共重合体としては、第2モノマー単位(U2)、第3モノマー単位(U3)および第4モノマー単位(U4)のうちの全部または一部と、第1モノマー単位(U1)とからなる配列に秩序がないランダム共重合体を用いることができる。また、(メタ)アクリル系共重合体は、第1モノマー単位(U1)を含む第1の重合体ブロックと、第2モノマー単位(U2)を含む第2の重合体ブロックとを有するブロック共重合体であってもよい。ブロック共重合体である(メタ)アクリル系共重合体は、第1の重合体ブロックが、連続して並ぶ第1モノマー単位(U1)を主体として構成される。また、第2の重合体ブロックは、第2モノマー単位(U2)と第3モノマー単位(U3)および/または第4モノマー単位(U4)とが秩序なく並ぶように構成したり、連続して並ぶ第2モノマー単位(U2)を主体として構成することができる。ブロック共重合体である(メタ)アクリル系共重合体は、同種のモノマー単位がある程度まとまって存在しているので、ランダム共重合体と比べて、第1モノマー単位(U1)および第2モノマー単位(U2)の性質を、それぞれ強く発現させることができる利点がある。
【0023】
(第1モノマー(M1))
前記第1モノマー(M1)は、例えば、下記の一般式(1)に示す水酸基を有する(メタ)アクリルアミド系モノマーを用いることが好ましい。第1モノマー(M1)は、親水性官能基である水酸基およびアミド基に由来して、極性を有すると共に親水性である。
【0024】
【化1】
前記一般式(1)において、R1は、水素原子またはメチル基を示し、R2は、アルキレン基を示し、R3は、水素原子、または置換されていてもよいアルキル基を示す。
【0025】
具体的には、第1モノマー(M1)として、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)や、ヒドロキシメチルアクリルアミドなどのヒドロキシアルキルアクリルアミドなどが挙げられる。また、ヒドロキシエチルメタクリルアミドや、ヒドロキシメチルメタクリルアミドなどのヒドロキシアルキルメタクリルアミドなどが挙げられる。特に、ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)は、第3モノマー(M3)として例示する後述のジメチルアクリルアミド(DMAA、表面張力37mN/m)などと比べて、表面張力が47mN/mで比較的高く、親水性および極性が比較的高く、溶媒としてのアルコールに溶けるので適当である。
【0026】
前記(メタ)アクリル系共重合体は、第1モノマー単位(U1)を、該(メタ)アクリル系共重合体の質量に対して、30質量%以上含んでいるとよい。第1モノマー単位(U1)の割合は、(メタ)アクリル系共重合体の質量に対して、30質量%~90質量%の範囲にすることが好ましく、40質量%~80質量%の範囲にすることがより好ましい。なお、モノマー単位の含有量は、共重合体を合成する際の各モノマーの配合比(質量%)から求めることができる。換言すると、第1モノマー(M1)は、(メタ)アクリル系共重合体となるモノマー組成物の総量に対して、30質量%以上配合され、好ましくは30質量%~90質量%の範囲で、より好ましくは40質量%~80質量%の範囲で配合するとよい。このように、第1モノマー単位(U1)を30質量%以上とすることで、粉体塗料用添加剤が含まれる粉体塗料組成物から得られる塗膜の耐汚染性を良好にできる。また、第1モノマー単位(U1)が30質量%より少ないと、粉体塗料用添加剤が含まれる粉体塗料組成物から得られる塗膜について、狙った耐汚染性が得られないおそれがある。第1モノマー単位(U1)を90質量%以下にして、第2モノマー(M2)等の他の(メタ)アクリル系モノマーを配合することで、得られる(メタ)アクリル系共重合体のガラス転移温度(Tg)や塗膜での表面配向性などの性状を調整することができる。なお、本開示でいうTgは、フォックス(Fox)の式に基づいて算出したものである(フォックスの式の詳細については後掲の実施例も参照されたい)。
【0027】
(第2モノマー(M2))
前記第2モノマー(M2)としては、例えば、下記の一般式(2)に表される(メタ)アクリル系モノマーを用いることができる。一般式(2)に示す第2モノマー(M2)は、水酸基およびアミド基を有していない点が第1モノマー(M1)と異なっており、第1モノマー(M1)よりも極性が小さいものが好ましい。(メタ)アクリル系共重合体は、第1モノマー単位(U1)と異なる第2モノマー単位(U2)を含むことで、例えばTgや塗膜での表面配向性などの性状が適当になるように調整している。
【0028】
【化2】
前記一般式(2)において、R1は、水素原子またはメチル基を示し、R4は、炭化水素基を示す。
【0029】
前記一般式(2)において、R4としては、例えば、直鎖または分岐鎖のアルキル基などの脂肪族や、フェニル基などの芳香族の炭化水素基を選択することができる。第2モノマー(M2)としては、長鎖のアルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマーが好適である。なお、長鎖のアルキル基は、炭素数が4以上であることが好ましく、4~20以下であることがより好ましい。ここで、直鎖のアルキル基を有する第2モノマー(M2)としては、例えば、アクリル酸ブチル(BA)、メタクリル酸ブチル(BMA)、メタクリル酸ラウリル(LMA)などが挙げられる。分岐鎖のアルキル基を有する第2モノマー(M2)としては、例えば、アクリル酸-2-エチルヘキシル(2-EHA)、メタクリル酸イソステアリル(ISTA)などが挙げられる。第2モノマー(M2)として分岐鎖のアルキル基を有するものを用いると、直鎖のアルキル基を有するものと比べて、得られる(メタ)アクリル系共重合体が塗膜において表面に配向し易くなるので、これにより塗膜の耐汚染性を向上できる。
【0030】
前記第2モノマー(M2)は、該第2モノマー(M2)の単独重合体のTgが第1モノマー(M1)の単独重合体のTgよりも低いものを用いるとよい。また、第2モノマー(M2)は、疎水性のものが好ましい。第1モノマー(M1)だけでも(メタ)アクリル系共重合体を重合可能であるが、第1モノマー(M1)だけであると、得られる(メタ)アクリル系共重合体のTgが比較的高くなる。(メタ)アクリル系共重合体のTgを下げるために、単独重合体のTgが比較的低い第2モノマー(M2)を加えることが望ましい。また、疎水性の第2モノマー単位(U2)を含むことで、(メタ)アクリル系共重合体を配合した粉体塗料用添加剤が、塗膜において表面に配向し易くなり、これにより(メタ)アクリル系共重合体の親水性に由来する塗膜の耐汚染性を向上させることができる。
【0031】
前記第2モノマー(M2)は、(メタ)アクリル系共重合体となるモノマー組成物の総量に対して、60質量%以下にすることが好ましい。なお、モノマー組成物の総量から第1モノマー(M1)と第2モノマー(M2)とを差し引いた残分を第3モノマー(M3)および/または第4モノマー(M4)で補えばよい。換言すると、(メタ)アクリル系共重合体は、第2モノマー(M2)に由来する第2モノマー単位(U2)の割合を、該(メタ)アクリル系共重合体の質量に対して、60質量%以下にすることが好ましい。第2モノマー単位(U2)の割合の下限値は特にないが、第2モノマー単位(U2)による効果を十分に得る観点からは、(メタ)アクリル系共重合体の質量に対して、例えば5質量%以上、好ましくは10質量%以上、特に好ましくは30質量%以上である。
【0032】
(第3モノマー(M3))
前記第3モノマー(M3)としては、例えば、第1モノマー(M1)が有する水酸基およびアミド基の一方を炭化水素基等の非極性官能基に置き換えた(メタ)アクリル系モノマーを用いることができる。換言すると、第3モノマー(M3)は、第1モノマー(M1)よりも化学構造的に極性官能基が少ないものであり、例えば、下記の一般式(3)に示すヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや下記の一般式(4)および(5)に示す(メタ)アクリルアミド系モノマー、あるいはこれらの塩が挙げられる。なお、第3モノマー(M3)は、極性を有すると共に親水性であるものが用いられる。第3モノマー(M3)としては、例えば、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシモノマー、ジメチルアクリルアミド(DMAA)やジエチルアクリルアミド(DEAA)やジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA)やジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩(DMAPAA-Q)等のアミド系モノマーなどの親水性モノマーを用いることができる。
【0033】
【化3】
前記一般式(3)において、R1は、水素原子またはメチル基を示し、R5は、アルキレン基を示す。
【化4】
前記一般式(4)において、R1は、水素原子またはメチル基を示し、R6およびR7は、同一または異なるアルキル基を示す。
【化5】
前記一般式(5)において、R1は、水素原子またはメチル基を示し、R8は、水素原子またはアルキル基を示し、R9は、アルキレン基を示し、R10およびR11は、同一または異なるアルキル基を示す。
【0034】
前記第3モノマー(M3)を使用する場合、その量は、(メタ)アクリル系共重合体となるモノマー組成物の総量に対して、例えば1質量%~30質量%以下、好ましくは3質量%~20質量%である。換言すると、(メタ)アクリル系共重合体が第3モノマー(M3)に由来する第3モノマー単位(U3)を含む場合、その割合は、該(メタ)アクリル系共重合体の質量に対して、例えば1質量%~30質量%、好ましくは3質量%~20質量%である。
【0035】
(第4モノマー(M4))
前記第4モノマー(M4)としては、前述のように、アクリル酸やメタクリル酸が挙げられる。第4モノマー(M4)の量は、(メタ)アクリル系共重合体となるモノマー組成物の総量に対して、例えば10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。第4モノマー(M4)の使用は任意であるため、使用量の下限は0である。ただし、第4モノマー(M4)による効果を十分に得る観点では、下限は好ましくは1質量%以上である。
換言すると、(メタ)アクリル系共重合体が第4モノマー(M4)に由来する第4モノマー単位(U4)を含む場合、その割合は、該(メタ)アクリル系共重合体の質量に対して、例えば10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。
【0036】
((メタ)アクリル系共重合体の合成)
前記(メタ)アクリル系共重合体は、例えば以下のような方法で得ることができる。第1モノマー(M1)および重合開始剤と、必要に応じて加えられる第2モノマー(M2)、第3モノマー(M3)および第4モノマー(M4)とを混合した混合物を、窒素等の不活性ガス雰囲気下で所定温度に加熱したイソプロピルアルコール(IPA)等の溶媒中に加える。混合したモノマーからなるモノマー組成物を重合することで、(メタ)アクリル系共重合体を含む樹脂組成物を得ることができる。この製造方法によれば、第2モノマー単位(U2)、第3モノマー単位(U3)および第4モノマー単位(U4)のうちの全部または一部と、第1モノマー単位(U1)とからなる配列に秩序がないランダム共重合体である(メタ)アクリル系共重合体を得ることができる。
【0037】
(重合開始剤)
前記重合開始剤は、例えば、1,1’-アゾビス-(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)や2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)や2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系重合開始剤や、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどの過酸化物系重合開始剤などを用いることができる。なお、アゾ系重合開始剤は、モノマーの側鎖など、モノマーにおける狙いと別の箇所と反応し難いので、過酸化物系重合開始剤よりも好ましい。
【0038】
前記重合開始剤は、モノマー組成物100質量部に対して、1質量部~7質量部の範囲で配合することが好ましく、より好ましくは6質量部~7質量部の範囲である。前記範囲で重合開始剤を配合することで、得られる(メタ)アクリル系共重合体の分子量を適切な範囲に調節することができる。重合開始剤の配合量を前記範囲にすると、モノマーの重合を十分に進めることができ、得られる(メタ)アクリル系共重合体を含む塗膜の仕上がり性を良好にすることができる。
【0039】
(粉体塗料用添加剤の製造)
得られた(メタ)アクリル系共重合体を含む樹脂組成物と、シリケート化合物と、無機粒子とを混合し、乾燥させ、更に篩い等で分級することで、粉体塗料用添加剤を得ることができる。粉体塗料用添加剤は、微細な粉状であり、用いられる無機粒子の平均粒径に由来して平均粒径が規定される。
【0040】
(粉体塗料用添加剤)
前記粉体塗料用添加剤は、シリケート化合物および(メタ)アクリル系共重合体を合わせた質量と、無機粒子の質量との比の値を、以下の式1に示すように、2.5以下に設定することが好ましい。
(シリケート化合物+(メタ)アクリル系共重合体)/無機粒子≦2.5 ・・・(式1)
粉体塗料用添加剤は、無機粒子の質量を1とした場合に対する、シリケート化合物および(メタ)アクリル系共重合体を合わせた質量の比の値を2.5以下に設定すると、添加した粉体塗料組成物のブロッキングを防止して良好な貯蔵安定性が得られる。また、粉体塗料用添加剤は、シリケート化合物および(メタ)アクリル系共重合体を合わせた質量と、無機粒子の質量との比の値を、以下の式2に示すように、0.6以上に設定することが好ましい。
0.6≦(シリケート化合物+(メタ)アクリル系共重合体)/無機粒子≦2.5 ・・・(式2)
粉体塗料用添加剤は、無機粒子の質量を1とした場合に対する、シリケート化合物および(メタ)アクリル系共重合体を合わせた質量の比の値を0.6以上に設定すると、シリケート化合物および(メタ)アクリル系共重合体に由来する耐汚染性がより好適に発現される。なお、粉体塗料用添加剤は、無機粒子、(メタ)アクリル系共重合体およびシリケート化合物の組成割合(混合時の質量比)が、1:1:1程度にすることがより好ましい。
【0041】
前記粉体塗料用添加剤は、(メタ)アクリル系共重合体の質量と無機粒子の質量との比の値が、以下の式3に示すように、0.3~1.5の範囲になるように設定することが好ましく、より好ましくは0.5~1.0の範囲にするとよい。
0.3≦(メタ)アクリル系共重合体/無機粒子≦1.5 ・・・(式3)
無機粒子の質量を1とした場合に対する(メタ)アクリル系共重合体の質量を前記値とすることで、(メタ)アクリル系共重合体に由来する初期の耐汚染性が好適に発現される。また、液状の(メタ)アクリル系共重合体による粉体塗料用添加剤のべたつきを防いで、粉体塗料組成物のブロッキング等を防止できる。
【0042】
前記粉体塗料用添加剤は、シリケート化合物の質量と無機粒子の質量との比の値が、以下の式4に示すように、0.3~2.0の範囲になるように設定することが好ましく、より好ましくは0.5~1.5の範囲にするとよい。
0.3≦シリケート化合物/無機粒子≦2.0 ・・・(式4)
シリケート化合物の質量を1とした場合に対する(メタ)アクリル系共重合体の質量を前記値とすることで、シリケート化合物に由来する長期に亘る耐汚染性が好適に発現される。また、液状のシリケート化合物による粉体塗料用添加剤のべたつきを防いで、粉体塗料組成物のブロッキング等を防止できる。
【0043】
(粉体塗料組成物)
本開示に係る粉体塗料組成物は、粉体塗料と、前述した粉体塗料用添加剤とを含んでいる。粉体塗料は、樹脂成分および硬化剤を基本的に含み、必要に応じて、顔料、硬化触媒、他の成分などの添加成分を含んでいてもよい。粉体塗料は、樹脂成分および硬化剤と、必要に応じた添加成分とを溶融混練し、これを微細に粉砕することで得られる粉状である。粉体塗料組成物は、粉状の粉体塗料に対して、粉状の粉体塗料用添加剤を混ぜることで得られる。
【0044】
前記樹脂成分としては、例えば、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂などがあり、その硬化系としては、イソシアネート硬化系やプリミド硬化系やTGIC硬化系を利用することができる。これらの中でも、(メタ)アクリル系共重合体と相溶性が低いポリエステル系樹脂を含む粉体塗料に前記粉体塗料用添加剤を配合することで、(メタ)アクリル系共重合体とポリエステル系樹脂との極性の差を利用して、(メタ)アクリル系共重合体を塗膜の表面に配向させることができる。従って、ポリエステル系樹脂と粉体塗料用添加剤とを組み合わせることで、(メタ)アクリル系共重合体に由来する耐汚染性が初期段階から好適に発現されるので好ましい。
【0045】
前記粉体塗料用添加剤の添加量は、一例として、粉体塗料100質量部に対して、例えば0.5質量部~30質量部、好ましくは0.8質量部~25質量部である。添加剤の添加量を適量とすることで、他の性能を大きく損なうことなく、塗膜の耐汚染性を十分に高めることができる。
【0046】
より詳細には、当該添加剤を粉体塗料に対してどのように添加するかにより、当該添加剤の添加量を調整することが好ましい。例えば、既に溶融混練され造粒された粉体塗料に対して当該添加剤を添加する場合、その添加量は、粉体塗料100質量部に対して、0.5質量部~1.5質量部の範囲で配合することが好ましく、より好ましくは0.8質量部~1.5質量部の範囲である。前述した範囲で粉体塗料用添加剤が配合された粉体塗料組成物は、得られる塗膜の耐汚染性および仕上がり性(外観)、並びに粉体塗料組成物自体の貯蔵安定性が何れも良好である。
【0047】
本発明者らの知見として、既に溶融混練され造粒された粉体塗料に対して添加剤を添加する場合、添加剤は、シリカ粒子にシリケート化合物や(メタ)アクリル系重合体が担持されたものであることが好ましい。この理由については、シリカ粒子は比較的大きな比表面積を有するため、シリケート化合物や(メタ)アクリル系共重合体を比較的多く担持しやすく、上記数値範囲のような比較的少量の添加であっても十二分な量のシリケート成分や(メタ)アクリル共重合体成分を粉体塗料中に含められるためと考えられる。
【0048】
また、粉体塗料の製造時(樹脂成分、硬化剤を基本的に含み、顔料、硬化触媒などを溶融混練する際)に当該添加剤を添加する場合、その添加量は、粉体塗料100質量部に対して、例えば2質量部~30質量部、好ましくは3質量部~25質量部である。比較的多量の添加剤を加える(溶融混練時に、比較的多量の添加剤を練り込む)ことで、塗膜としたときの耐汚染性の持続性をより高めることができる。また、塗膜の外観をより良好にできる傾向にある。
【0049】
本発明者らの知見として、粉体塗料の製造時に添加剤を添加する場合、添加剤は、炭酸カルシウムおよび/または硫酸バリウムに、シリケート化合物や(メタ)アクリル系重合体が担持されたものであることが好ましい。これにより、とりわけ、塗膜の外観を良好にできる傾向にある。この理由については、炭酸カルシウムや硫酸バリウム等の無機粒子の比表面積は比較的小さく、粉体塗料中の原料成分を吸着または吸収することが少ないためと考えられる(無機粒子が粉体塗料中の原料成分を過度に吸着または吸収してしまうと、良好な外観を形成するために必要な成分が減少し、塗膜の外観が悪化する可能性がある)。
【0050】
(塗膜)
本開示に係る塗膜は、粉体塗料用添加剤を含む粉体塗料組成物を、例えば、静電粉体スプレーまたは摩擦帯電塗装などの吹き付け法や、流動浸漬塗装などの浸漬法により塗装し、所定条件で焼き付けすることで形成される。塗膜は、例えば、20μm~300μmの範囲の膜厚で形成される。塗膜は、従来から使用されている基材に、本開示に係る粉体塗料用添加剤を含む粉体塗料組成物を塗装することで得ることができ、基材としては、例えば、鉄鋼、亜鉛、アルミニウム、銅、及びスズ等の金属素材、これらの金属に表面処理を施したもの、並びにこれらの金属素材に必要に応じてプライマーや中塗り塗装を施した下地塗装膜等が挙げられる。また、適用可能な分野としては、例えば、車両関係、家電関係、建築関係、道路関係、及び事務用機器等に適用することができる。
【0051】
前述した粉体塗料用添加剤によれば、当該粉体塗料用添加剤を含む粉体塗料組成物から得られる塗膜において、(メタ)アクリル系共重合体に由来する親水性が、塗膜を形成した初期段階から発現される。従って、塗膜において、粉体塗料用添加剤に含まれるシリケート化合物が加水分解して親水化する前の初期段階で、(メタ)アクリル系共重合体による塗膜表面の親水化により、塗膜表面の耐汚染性が得られる。このように、塗膜を形成した初期段階から耐汚染性が発揮されるので、塗膜表面に汚染物質をより付きにくくすることができる。また、粉体塗料用添加剤に含まれるシリケート化合物が加水分解して親水化することで、長期に亘る耐汚染性を確保することができる。しかも、粉体塗料用添加剤は、液状である(メタ)アクリル系共重合体およびシリケート化合物をシリカ粒子に担持してあるので、粉体塗料と混ぜ易く、粉体塗料用添加剤に起因する粉体塗料組成物のブロッキングなどの不具合の発生を防止できる。
【0052】
次に、本開示に係る粉体塗料用添加剤、粉体塗料組成物および塗膜につき、好適な実施例を挙げて、以下に説明する。
【実施例】
【0053】
(1)(メタ)アクリル系共重合体の合成
(合成例A-1)
フラスコにイソプロピルアルコール(IPA)を90質量部仕込み、窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。表1に示すように、第1モノマー(M1)としてヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)50質量部、第2モノマー(M2)としてアクリル酸ブチル(BA)30質量部およびメタクリル酸ラウリル(LMA)10質量部、モノマー(M3)としてメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)10質量部、重合開始剤として1,1’-アゾビス-(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)6質量部、IPA15質量部を混合した組成物を、100分かけて前記フラスコへ滴下した。組成物を全量投入した後、そのまま80℃で3時間反応させて、合成例A-1の(メタ)アクリル系共重合体を含む樹脂組成物(固形分50%)を得た。
【0054】
(合成例A-2~A-16)
合成例A-1と同様に、表1~3に示す配合割合で、仕込み溶媒、モノマー組成物、重合開始剤および溶媒を混合して、合成例A-2~A-16の(メタ)アクリル系共重合体を含む樹脂組成物(固形分50%)を得た。なお、各モノマー単位の含有量は、共重合体を合成する際の各モノマーの配合比(質量%)から求めることができる。
【0055】
(ガラス転移温度)
表1~3に示す(メタ)アクリル系共重合体におけるTgは、当該共重合体の原料として用いられるモノマーからなる単独重合体のガラス転移温度とモノマーの質量分率から、以下のフォックス(Fox)の式に基づいて求めた。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・+Wn/Tgn
式中、Tgは、求めようとしている(メタ)アクリル系共重合体のTg(K)、W1、W2、W3・・・Wnは、各モノマーの質量分率、Tg1、Tg2、Tg3・・・Tgnは、各モノマーの質量分率に対応するモノマーからなる単独重合体のガラス転移温度(K)を示している。本開示においては、(メタ)アクリル系共重合体のTgは、モノマー組成物で使用している各種モノマーから、前記式に基づいて求められたガラス転移温度を意味する。
【0056】
(SP値)
SP値は、R.F.Fedorsにより著された「Polymer Engineering and Science」14(2),147(1974)に記載の計算方法により算出している。具体的には、以下に示す数式(1)を用いて算出している。
【数1】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
表1~3で使用しているモノマーおよび重合開始剤の詳細については以下の通りである。
以下で「Tg」は、各モノマーの単独重合体のTg(ガラス転移温度)を示す。また、SP値の単位は前述のとおり(cal/cm3)1/2である。
【0061】
[第1モノマー(M1)]
・ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA、Tg:98℃、SP値:13.8、分子量:115)
[第2モノマー(M2)]
・アクリル酸ブチル(BA、Tg:-54℃、SP値:9.77、分子量:128)
・メタクリル酸ブチル(BMA、Tg:20℃、SP値:9.45、分子量:142)
・メタクリル酸ラウリル(LMA、Tg:-65℃、SP値:9.02、分子量:254)
・アクリル酸-2-エチルヘキシル(2-EHA、Tg:-85℃、SP値:9.2、分子量:184)
[第3モノマー(M3)]
・メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA、Tg:55℃、SP値:13.47、分子量:130)
・ジメチルアクリルアミド(DMAA、Tg:119℃、SP値:10.4、分子量:99)
・ジエチルアクリルアミド(DEAA、Tg:81℃、SP値:10、分子量:127)
・ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMAPAA、Tg:134℃、SP値:10.6、分子量:156)
・ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩(DMAPAA-Q、Tg:不明、SP値:9.9、分子量:206.5)
[第4モノマー(M4)]
・メタクリル酸(MAA、Tg:228℃、SP値:12.54、分子量:86)
【0062】
[重合開始剤]
・アゾ系重合開始剤D1:1,1’-アゾビス-(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、和光純薬工業株式会社製(商品名:V-40)
・アゾ系重合開始剤D2:2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、日本ファインケム株式会社製(商品名:ABN-E)
・アゾ系重合開始剤D3:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、日本ファインケム株式会社製(商品名:ABN-V)
・過酸化物系重合開始剤D4:t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、日油株式会社製(商品名:パーブチルO)
【0063】
(2)粉体塗料の製造
後述する粉体塗料用添加剤の製造に先立ち、以下の2種類の粉体塗料を製造した。
[プリミド硬化粉体塗料の製造]
ポリエステル樹脂(ダイセル・オルネクス社製、商品名:CRYLCOAT4659-0)600質量部、β-ヒドロキシアルキルアミド硬化剤(EMS-PRIMD社製、商品名:プリミドXL552、水酸基価600~725mgKOH/g)30質量部、ベンゾイン6質量部、二酸化チタン(石原産業株式会社製、商品名:CR-95)350質量部をヘンシェルミキサーで混合した。作製した混合物を混練機(Buss AG社製、商品名:ブスコニーダーPR46)に投入して120℃で溶融混練を行った。得られた混練物を50℃以下に冷却後、ハンマー式衝撃粉砕機で微粉砕し、150メッシュのふるいで分級してプリミド硬化粉体塗料を得た。
【0064】
[ウレタン硬化粉体塗料の製造]
B-NCO硬化型ポリエステル樹脂(DIC株式会社製、商品名:ファインディック(登録商標)M-8250)550質量部、ε-カプロラクタムブロックのポリイソシアネート(エボニック社製、商品名:VESTAGON(登録商標)B1530)80質量部、ベンゾイン10質量部、および、二酸化チタン(石原産業株式会社製、商品名:CR-95)350質量部をヘンシェルミキサーで混合した。作製した混合物を混練機(Buss AG社製、商品名:ブスコニーダーPR46)に投入して100℃で溶融混練を行った。得られた混練物を50℃以下に冷却後、ハンマー式衝撃粉砕機で微粉砕し、150メッシュのふるいで分級してウレタン硬化粉体塗料を得た。
【0065】
(3)粉体塗料用添加剤、および、粉体塗料組成物の製造
<実施例1>
合成例A-1の(メタ)アクリル系共重合体を含む樹脂組成物480質量部(固形分としては240質量部)、シリカ粒子(シリカ粒子B1)260質量部、およびシリケート化合物としてテトラエトキシシラン(シリケート化合物C1)260質量部を混合した。得られた混合物を振動乾燥機(中央化工機株式会社製:商品名VU-35)において、50Torrのもとで物温75℃となるまで乾燥させ、その後、300メッシュのふるいにかけて、実施例1の粉体塗料用添加剤を得た。得られた粉体塗料用添加剤1質量部を、前記(2)で製造したプリミド硬化粉体塗料100質量部に添加し、よく振り混ぜることにより、粉体塗料組成物を得た。
【0066】
<実施例2~24および比較例1~7>
表4~10に示す配合割合にしたがって、実施例1と同様にして、実施例2~24および比較例1~7の粉体塗料用添加剤を得た。得られた各添加剤は、同じく表4~10に示す配合で、プリミド硬化粉体塗料またはウレタン硬化粉体塗料に添加し、よく振り混ぜることにより、各粉体塗料組成物を得た。
【0067】
なお、比較例1の粉体塗料用添加剤は、シリカ粒子およびシリケート化合物からなるもので、(メタ)アクリル系共重合体を含んでいない。比較例2(表9)の粉体塗料用添加剤は、第1モノマー(M1)としてのHEAAが20質量%である合成例A-6(表1)の(メタ)アクリル系共重合体を用いている。同様に、比較例3の粉体塗料用添加剤は、HEAAが20質量%である合成例A-7(表1)の(メタ)アクリル系共重合体を用いている。比較例4~7(表9)の粉体塗料用添加剤は、第1モノマー(M1)としてのHEAAを含んでいない(メタ)アクリル系共重合体(合成例A-8~A-11:表2)を配合したものである。また、表4に記載の参考1および参考2の粉体塗料組成物は、粉体塗料用添加剤を含まず、粉体塗料をそのまま用いているということである。
【0068】
(4)塗膜の形成
板厚1.5mmのクロム酸クロメート処理アルミニウム板を垂直方向に吊り下げ、コロナ帯電式静電粉体塗装機(旭サナック株式会社製、商品名:PG-1型)を用いて、当該アルミニウム板上に実施例および比較例で作製した粉体塗料組成物を静電塗装(塗装電圧:-60kV)した。次いで、塗装したアルミニウム板を電気炉にて180℃で20分間焼き付けを行い、その後、室温になるまで放冷して膜厚70μmの塗膜を備えた試験板を得た。
【0069】
(5)評価
[耐汚染性]
実施例および比較例の粉体塗料組成物から得られる塗膜の耐汚染性を調べた。前記(4)で作製した試験板を用いて3ヶ月間屋外で暴露試験を行った。色彩色差計(コニカミノルタ株式会社製、商品名:CR-200)を使用して暴露試験前後の各試験板のL*を測定し、次式によりΔL*を算出した。
ΔL*=L*(暴露後の値)-L*(暴露前の値)
得られたΔL*を耐汚染性の指標とした。ΔL*が0に近いほど、汚染物質の付着が少ないことを示しており、降雨等により、試験板に付着した汚染物質が落ちていることを表している。(メタ)アクリル系共重合体を含んでいない粉体塗料用添加剤を含有する比較例1の耐汚染性(ΔL*=-2.5)を基準として、以下のように評価した。
◎:ΔL*≧-1.0となる場合
○:-2.5<ΔL*<-1.0となる場合
×:ΔL*≦-2.5となる場合
【0070】
[仕上がり性]
実施例および比較例の粉体塗料組成物から得られる塗膜の仕上がり性を調べた。前記(4)で作製した各試験板について、光沢計(BYK株式会社社製、商品名:Micro-TRI-gross、入反射角60゜)を使用して60°鏡面光沢値(表中では「G60」と表記)の測定を行い、以下の評価基準で評価した。60°鏡面光沢値が大きいほど、塗膜が平滑で高い光沢を呈する良好な仕上がりであることを示す。
○:G60≧80
×:G60<80
【0071】
[貯蔵安定性]
実施例および比較例の粉体塗料組成物の貯蔵安定性を調べた。実施例及び比較例で作製した各粉体塗料組成物を40℃で保存し、1か月経過後の組成物の状態を観察して、以下の評価基準で評価した。
○:ブロッキングがない。
×:ブロッキングが発生している。
【0072】
[総合評価]
上記各評価に加え、以下の評価基準によって総合評価も行った。
◎:耐汚染性の評価が「◎」、仕上がり性の評価が「○」、貯蔵安定性の評価が「○」の場合
○:耐汚染性の評価が「◎」または「○」で、仕上がり性および/または貯蔵安定性の評価が「×」の場合と、仕上がり性、貯蔵安定性、および耐汚染性の全ての評価が「○」の場合
×:耐汚染性が「×」の場合(仕上がり性、貯蔵安定性の評価にかかわらず)
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
表4~10で使用しているシリカ粒子およびシリケート化合物の詳細は、以下の通りである。
【0081】
[無機粒子]
・シリカ粒子B1:未処理シリカ(平均粒径1.5μm、比表面積150m2/g、吸油量230cc/100g)、東ソー・シリカ株式会社製(商品名:ニップシールE-220A)
・シリカ粒子B2:表面処理シリカ(平均粒径1.5μm、比表面積150m2/g、吸油量230cc/100g)、東ソー・シリカ株式会社製(商品名:ニップシールE-1011)
・シリカ粒子B3:疎水性フュームドシリカ(平均粒径16nm、吸油量260cc/100g(メーカー参考値))、日本アエロジル株式会社製(商品名:アエロジルR972)
・シリカ粒子B4:粉砕シリカ(平均粒径2.3μm、比表面積200m2/g、吸油量255cc/100g)、DSL.ジャパン株式会社製(商品名:カープレックスFPS-1)
シリカ粒子B1、シリカ粒子B2およびシリカ粒子B4は、沈降法シリカである。また、シリカ粒子B1およびシリカ粒子B4は、シリカ粒子B2およびシリカ粒子B3よりも、表面の親水性が高い。
【0082】
[シリケート化合物]
・シリケート化合物C1:テトラエトキシシラン(重合度:1)、多摩化学工業株式会社製(商品名:正珪酸エチル)
・シリケート化合物C2:テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物(シリカ残存比率40%、重合度:5)、多摩化学工業株式会社製(商品名:シリケート40)
・シリケート化合物C3:テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(重合度:10)、三菱化学株式会社製(商品名:MKCシリケートMS56)
・シリケート化合物C4:メチルトリエトキシシラン(重合度:1)、エボニック・ジャパン株式会社製(商品名:Dynasilan MTES)
・シリケート化合物C5:テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(重合度:4)、三菱化学株式会社製(商品名:MKCシリケートMS51)
【0083】
表4~8および10に示すように、(メタ)アクリル系共重合体を含む粉体塗料用添加剤を含有する粉体塗料組成物は、(メタ)アクリル系共重合体を含まない比較例1の粉体塗料用添加剤を含有したものよりも、耐汚染性が向上していることが判る。なお、表6の実施例11に示すように、(メタ)アクリル系共重合体が第3モノマー単位(U3)を含んでいなくても、好適な耐汚染性を発現することが判る。
【0084】
表4の実施例1および2に示すように、粉体塗料組成物への粉体塗料用添加剤の配合量が1質量部であっても、高い耐汚染性を示して総合評価が高く、粉体塗料用添加剤の配合量が比較的少なくても、耐汚染性を向上できることが確認できる。このように、粉体塗料用添加剤の配合量が少なくても耐汚染性を確保できるので、粉体塗料用添加剤の過多に起因するブロッキングの発生を防止できる。表4の実施例3および4に示すように、粉体塗料組成物への粉体塗料用添加剤の配合量を増やしていくと、耐汚染性が向上する傾向を示すが、粉体塗料組成物への粉体塗料用添加剤の配合量が2質量部を超えると、貯蔵安定性が低下してしまうことが判る。
【0085】
表4の実施例1~4に示すように、表面処理していない沈降法シリカであるシリカ粒子B1であっても、表6および7の実施例9~17に示すように、表面処理されてシリカ粒子B1よりも疎水傾向にあるシリカ粒子B2であっても、得られる塗膜の耐汚染性が向上することを確認できる。また、表5の実施例5に示すように、シリカ粒子として、比表面積の大きいフュームドシリカ(シリカ粒子B3)を用いると、比表面積が大きいために樹脂成分がシリカ粒子に吸われて、得られる塗膜の表面が縮むことで、仕上がり性が悪化すると考えられる。また、表5の実施例6に示すように、粉体塗料組成物において(メタ)アクリル系共重合体およびシリケート化合物を担持するシリカ粒子の平均粒径がある程度大きくなると、得られる塗膜の仕上がり性が悪化することが判る。
【0086】
表7に示すように、粉体塗料用添加剤に含まれるシリケート化合物の重合度が4以下であると、得られる塗膜の仕上がり性が良好であることが判る。これに対して、粉体塗料用添加剤に含まれるシリケート化合物の重合度が5より大きくなると、得られる塗膜の仕上り性が悪化することが判る。
【0087】
表8の実施例1、18および19に示すように、水酸基およびアミド基を有する(メタ)アクリル系モノマー単位(第1モノマー単位(U1))を含む(メタ)アクリル系共重合体を用いることで、塗膜の耐汚染性を向上し得ることが確認できる。これに対して、表9の比較例4~7に示すように、第1モノマー単位(U1)を含んでいない(メタ)アクリル系共重合体を用いると、塗膜の耐汚染性が低くなる。(メタ)アクリル系共重合体は、モノマー組成物に対する第1モノマー(M1)の配合量が少なくなると、得られる粉体塗料用添加剤が発現する耐汚染性が低くなる(比較例2および3)。実施例1、18および19に示すように、モノマー組成物に対する第1モノマー(M1)を30質量%以上、好ましくは40質量%以上とすることが耐汚染性の観点から好ましい。
【0088】
表10の実施例20に示すように、(メタ)アクリル系共重合体をなすモノマー組成物に対する重合開始剤の配合量が6質量部であると、高い耐汚染性を示して総合評価が高い。表10の実施例21および22に示すように、(メタ)アクリル系共重合体をなすモノマー組成物に対する重合開始剤の配合量が3質量部以下であると、耐汚染性の向上を示すものの、仕上がり性が悪化することが判る。また、表10の実施例23に示すように、重合開始剤として過酸化物系開始剤D4を用いると、アゾ系開始剤D1~D3と比べて、耐汚染性および仕上がり性が低下してしまうことが確認できる。
【0089】
表1および表3に示すように、第2モノマー単位(U2)として分岐鎖のアルキル基を有するもの(合成例A-16)を用いることで、直鎖のアルキル基を有する第2モノマー単位(U2)を含む(メタ)アクリル系共重合体(合成例A-1)と比べて、Tgを低く設定できることが判る。表10の実施例24に示すように、第2モノマー単位(U2)として分岐鎖のアルキル基を有するもの(合成例A-16)を用いることで、直鎖のアルキル基を有する第2モノマー単位(U2)を含む(メタ)アクリル系共重合体(合成例A-12)を用いた実施例20と比べて、塗膜の耐汚染性が向上することが判る。
【0090】
<追加例>
上記以外の様々なバリエーションの粉体塗料用添加剤および粉体塗料組成物においても、良好な性能が得られることを、追加の実施例で示す。
【0091】
(1)(メタ)アクリル系共重合体の合成
(合成例A’-1)
フラスコにイソプロピルアルコール(IPA)を90質量部仕込み、窒素雰囲気下で80℃まで加熱した。
ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)50質量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)10質量部、アクリル酸ブチル(BA)10質量部、メタクリル酸イソステアリル(ISTA)30質量部、重合開始剤として1,1’-アゾビス-(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)(和光純薬工業製V-40)6質量部、及びIPA15質量部を混合したモノマー組成物を、100分かけて前記フラスコへ滴下した。全量投入後、そのまま80℃で3時間反応させて(メタ)アクリル系共重合体(A’-1)を含む樹脂組成物(固形分50%)を得た。
【0092】
(合成例A’-2)
表11記載の配合に従い、共重合体(A’-1)と同様にして、(メタ)アクリル系共重合体(A’-2)を含む樹脂組成物(固形分50%)を得た。
【0093】
Tg、SP値などについては、上記と同様にして求めた。
【0094】
【0095】
上表中、メタクリル酸イソステアリル(ISTA)のTgは-18℃、SP値は8.9、分子量は324である。
その他については、表1~3と同様である。
【0096】
(2)粉体塗料用添加剤の製造、および、粉体塗料組成物の製造
(追加実験例1)
合成例A’-1の(メタ)アクリル系共重合体を含む樹脂組成物480質量部(固形分としては240質量部)、シリカ粒子(東ソー・シリカ株式会社製、ニップシールE-220A)260質量部、およびシリケート化合物(三菱化学株式会社製、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物、MKCシリケートMS51)260質量部を混合した。得られた混合物を、振動乾燥機(中央化工機株式会社製:商品名VU-35)において、50Torrのもとで物温75℃となるまで乾燥させ、その後、300メッシュのふるいにかけて、粉体塗料用添加剤を得た。
【0097】
続いて、B-NCO硬化型ポリエステル樹脂(DIC株式会社製、商品名:ファインディック(登録商標)M-8023)55質量部、ε-カプロラクタムブロックのポリイソシアネート(エボニック社製、商品名:VESTAGON(登録商標)B1530)8質量部、ベンゾイン1質量部、アクロナール4F(BASF社製、表面調整剤)1質量部、および二酸化チタン(石原産業株式会社製、商品名:CR-95)35質量部と、上記で作製した粉体塗料用添加剤10質量部をヘンシェルミキサーで混合した。
【0098】
得られた混合物を混練機(Buss AG社製、商品名:ブスコニーダーPR46)に投入して、100℃で溶融混練を行った。得られた混練物を50℃以下に冷却し、その後、ハンマー式衝撃粉砕機で微粉砕し、150メッシュのふるいで分級した。以上により粉体塗料組成物を得た。
【0099】
(追加実験例2~6、および参考例)
表12記載の配合に従い、追加実験例1と同様にして、いくつかの粉体塗料組成物を得た。なお、参考例では、粉体塗料用添加剤を使用せずに、通常の粉体塗料組成物を製造した。
参考のため、前述の実施例2についても、後掲の表12に記載している。
【0100】
(3)塗膜の形成
実施例1と同様にして、膜厚70μmの塗膜を備えた試験板を得た。
【0101】
(4)評価
耐汚染性、仕上がり性および貯蔵安定性について、実施例1と同様に評価した。なお、耐汚染性の評価については、3ヶ月だけでなく、6ヵ月間屋外で暴露試験を行なった後のΔL*(追加評価)についても算出した。
【0102】
[目視による塗膜外観評価]
形成した塗膜の外観を目視にて観察し、以下の評価基準にて評価した。
◎:近景、遠景ともにはっきりと映り込むほどに塗膜表面の平滑性、反射性が良好である。
○:近景ははっきりと映り込むが、遠景がややぼやける。
×:近景がぼやける。
【0103】
【0104】
上表中、粉体塗料組成物の成分(ポリエステル樹脂や硬化剤など)については既に述べたとおりである。
炭酸カルシウムおよび硫酸バリウムについての詳細情報は以下である。
・炭酸カルシウムB5:日東粉化工業株式会社製、NS#100(平粒粒径2.1μm)
・硫酸バリウムB6:冨士タルク工業株式会社製、バライトパウダーFBA(平均粒径8μm)
その他については、表4~10と同様である。
【0105】
追加実施例2~6が示すように、無機粒子が炭酸カルシウムや硫酸バリウムの場合も、良好な耐汚染性が得られていることが確認できる。また、特に、目視による塗膜外観評価について、無機粒子が炭酸カルシウムや硫酸バリウムの場合のほうが、無機粒子がシリカである場合よりも性能良好な傾向が見られた。
また、実施例2と追加実施例1~6との対比から、追加実施例1~6の、6ヵ月間屋外で暴露試験を行なった後のΔL*(追加評価)が非常に良好であることが確認できる。追加実施例1~6では実施例2よりも多くの粉体塗料用添加剤が用いられており、その結果として耐汚染性がより長く持続すると考えられる。
【0106】
本開示には、以下の発明が含まれている。
【0107】
(発明A)
発明Aの粉体塗料用添加剤は、無機粒子と、
前記無機粒子に担持されたシリケート化合物と、
前記無機粒子に担持された(メタ)アクリル系共重合体とを含み、
前記(メタ)アクリル系共重合体は、水酸基およびアミド基を有する(メタ)アクリル系モノマー(M1)に由来するモノマー単位(U1)を、該(メタ)アクリル系共重合体の質量に対して、30質量%以上含む。
発明Aによれば、塗膜においてシリケート化合物よりも親水性を早い段階で発揮する(メタ)アクリル系共重合体の存在によって、塗膜の耐汚染性をより向上できる。
なお、無機粒子としては、無機顔料が好ましく、シリカ粒子(より具体的には沈降法シリカ粒子)、炭酸カルシウム粒子または硫酸バリウム粒子がより好ましい。
【0108】
(発明B)
発明Bの粉体塗料用添加剤は、発明Aにおいて、前記モノマー(M1)が、下記一般式(1)で表されるものである。
【化6】
前記式(1)において、R1は、水素原子またはメチル基を示し、R2は、アルキレン基を示し、R3は、水素原子、または置換されていてもよいアルキル基を示す。
発明Bによれば、塗膜においてシリケート化合物よりも親水性を早い段階で発揮する(メタ)アクリル系共重合体の存在によって、塗膜の耐汚染性をより向上できる。
【0109】
(発明C)
発明Cの粉体塗料用添加剤は、発明AおよびBにおいて、前記(メタ)アクリル系共重合体は、前記モノマー単位(U1)と、前記モノマー(M1)と別の(メタ)アクリル系モノマー(M2)に由来する別のモノマー単位(U2)とを含み、
前記モノマー(M2)が、下記一般式(2)で表されるものである。
【化7】
前記一般式(2)において、R1は、水素原子またはメチル基を示し、R4は、炭化水素基を示す。
発明Cによれば、別のモノマー単位(U2)を含むことで、(メタ)アクリル系共重合体の性状を適当に調整できる。
【0110】
(発明D)
発明Dの粉体塗料用添加剤は、発明Cにおいて、前記モノマー(M2)は、該モノマー(M2)の単独重合体のガラス転移温度が前記モノマー(M1)の単独重合体のガラス転移温度より低いものである。
発明Dによれば、別のモノマー(M2)を含むことで、(メタ)アクリル系共重合体のガラス転移温度を適度に調整することができる。
【0111】
(発明E)
発明Eの粉体塗料用添加剤は、発明A~Dの何れか1つにおいて、前記シリケート化合物および前記(メタ)アクリル系共重合体を合わせた質量と、前記無機粒子の質量との比の値が、以下の式1に示す関係にある。
(シリケート化合物+(メタ)アクリル系共重合体)/無機粒子≦2.5 ・・・(式1)
発明Eによれば、粉体塗料用添加剤を粉体塗料組成物に配合した際に、粉体塗料組成物のブロッキングの発生を防止して、適当な貯蔵安定性を確保できる。
【0112】
(発明F)
発明Fの粉体塗料用添加剤は、発明A~Eの何れか1つにおいて、前記無機粒子は、シリカ(より具体的には沈降法シリカ等)である。
発明Fによれば、粉体塗料用添加剤を配合した粉体塗料組成物から得られる塗膜の仕上がり性を向上できる。
【0113】
(発明G)
発明Gの粉体塗料用添加剤は、発明A~Fの何れか1つにおいて、前記シリケート化合物は、重合度が1~4の範囲にあるオリゴマーである。
発明Gによれば、粉体塗料用添加剤を配合した粉体塗料組成物から得られる塗膜の仕上がり性を向上できる。
【0114】
(発明H)
発明Hは、発明A~Gの何れか1つに記載の粉体塗料用添加剤と、粉体塗料用添加剤と、粉体塗料とを含む、粉体塗料組成物である。
発明Hによれば、得られる塗膜の耐汚染性が良好である。
【0115】
(発明I)
発明Iは、発明H記載の粉体塗料組成物で形成された、塗膜である。
発明Iによれば、塗膜の耐汚染性が良好である。
【符号の説明】
【0116】
M1 第1モノマー((水酸基およびアミド基を有する)(メタ)アクリル系モノマー)
M2 第2モノマー(別の(メタ)アクリル系モノマー)
U1 第1モノマー単位(モノマー単位)
U2 第2モノマー単位(別のモノマー単位)