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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】塗料組成物、塗膜および物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 133/00 20060101AFI20220526BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20220526BHJP
   C09D 7/41 20180101ALI20220526BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220526BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20220526BHJP
【FI】
C09D133/00
C09D7/62
C09D7/41
C09D7/61
C09D7/20
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020156973
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022050830
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2021-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】山本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】原田 征
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-124501(JP,A)
【文献】国際公開第2018/008221(WO,A1)
【文献】特開2019-065281(JP,A)
【文献】特開2002-105386(JP,A)
【文献】特開2015-212355(JP,A)
【文献】特開平11-148049(JP,A)
【文献】特開2018-104669(JP,A)
【文献】特開2011-114037(JP,A)
【文献】特開2017-88712(JP,A)
【文献】特開2012-160314(JP,A)
【文献】特開平7-292298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記表面修飾無機粒子は、表面SP値が20~23.3(cal/cm0.5である表面修飾無機粒子を含む塗料組成物。
【請求項2】
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数3以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記表面修飾無機粒子の真比重をγ1とし、前記顔料粒子の真比重をγ2としたとき、γ1/γ2は0.3~1.5である塗料組成物。
【請求項3】
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数3以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記表面修飾無機粒子は、直鎖または分岐の炭素数8以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子を含む塗料組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数3以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記表面修飾無機粒子は、シリカ粒子が、直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で表面修飾されたものを含む塗料組成物。
【請求項5】
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数3以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記表面修飾無機粒子は、表面SP値が20~23.3(cal/cm 0.5 である表面修飾無機粒子を含む塗料組成物。
【請求項6】
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数3以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記有機溶剤は、少なくとも、沸点が100℃以上であり、かつ、水/オクタノール分配係数の対数値(logP)が2.0以下の有機溶剤を含む塗料組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の塗料組成物であって、
前記表面修飾無機粒子の真比重をγ1とし、前記顔料粒子の真比重をγ2としたとき、γ1/γ2は0.3~1.5である塗料組成物。
【請求項8】
請求項1または2に記載の塗料組成物であって、
前記表面修飾無機粒子は、直鎖または分岐の炭素数8以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子を含む塗料組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の塗料組成物であって、
前記表面修飾無機粒子は、シリカ粒子が、直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で表面修飾されたものを含む塗料組成物。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の塗料組成物であって、
前記顔料粒子は、酸化チタン粒子を含む塗料組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の塗料組成物であって、
前記有機溶剤は、少なくとも、沸点が100℃以上であり、かつ、水/オクタノール分配係数の対数値(logP)が2.0以下の有機溶剤を含む塗料組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の塗料組成物により形成された塗膜。
【請求項13】
請求項12に記載の塗膜を備える物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、塗膜および物品に関する。より具体的には、塗料組成物、その塗料組成物により形成された塗膜、および、その塗膜を備える物品に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料組成物の多くは、意匠性のため、またはその他の目的のため、顔料粒子や、種々の粒子を含む。顔料粒子や種々の粒子については、2種以上が併用されることもある。
【0003】
例えば、特許文献1には、水酸基含有フッ素含有樹脂、ポリイソシアネート化合物およびシリケート化合物、ならびに、シリカ粒子および樹脂粒子を含む耐汚染性つや消し塗料組成物が記載されている。この塗料組成物において、シリカ粒子および樹脂粒子の合計量は、塗料固形分に対して0.1~200重量%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-049111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
塗料組成物に用いられる粒子には、大きく分けて、以下の2種がある。
(a)塗膜の表面または表面近傍に存在することで所望の機能を発現する粒子
(b)塗膜中に実質的に分布する粒子-例えば顔料粒子などの、塗膜に色を付ける粒子
【0006】
塗料組成物の設計として、上記(a)と(b)の2種の粒子を併用することが考えられる。
しかし、本発明者らの知見によれば、(a)と(b)の2種の粒子を併用した場合、塗料組成物に求められる種々の性能のバランスをとることが難しい場合があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、種々の性能バランスが良好な塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0009】
本発明によれば、以下のI.~VI.の塗料組成物が提供される。
I.
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記表面修飾無機粒子は、表面SP値が20~23.3(cal/cm0.5である表面修飾無機粒子を含む塗料組成物。
II.
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数3以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記表面修飾無機粒子の真比重をγ1とし、前記顔料粒子の真比重をγ2としたとき、γ1/γ2は0.3~1.5である塗料組成物。
III.
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数3以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記表面修飾無機粒子は、直鎖または分岐の炭素数8以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子を含む塗料組成物。
IV.
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数3以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記表面修飾無機粒子は、シリカ粒子が、直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で表面修飾されたものを含む塗料組成物。
V.
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数3以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記表面修飾無機粒子は、表面SP値が20~23.3(cal/cm 0.5 である表面修飾無機粒子を含む塗料組成物。
VI.
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数3以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8であり、
前記有機溶剤は、少なくとも、沸点が100℃以上であり、かつ、水/オクタノール分配係数の対数値(logP)が2.0以下の有機溶剤を含む塗料組成物。
【0010】
また、本発明によれば、
上記の塗料組成物により形成された塗膜
が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、
上記の塗膜を備える物品
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、種々の性能バランスが良好な塗料組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0014】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0015】
<塗料組成物>
本実施形態の塗料組成物は、
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で表面修飾された表面修飾無機粒子(以下、単に「表面修飾無機粒子」とも記載する)と、
上記の表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子(以下、単に「顔料粒子」とも記載する)と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物である。
本実施形態の塗料組成物の全不揮発成分中の表面修飾無機粒子の割合をP1とし、本実施形態の塗料組成物の全不揮発成分中の顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8である。
【0016】
表面修飾無機粒子は、直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基を有することにより、塗膜形成時に塗膜表面に偏在する傾向がある。
一方、表面修飾無機粒子とは異なる(上記の基で表面修飾されていない)顔料粒子は、表面修飾無機粒子ほど塗膜表面に偏在することはなく、塗膜中では比較的均一に分布する。
【0017】
本発明者らの知見によれば、表面修飾無機粒子と顔料粒子とを併用した塗料組成物で塗膜を形成した場合、種々の効果のバランスをとることが難しく、思ったほど良好な性能を得づらい場合があった。
「種々の効果のバランス」として具体的には、塗膜の基本物性(可撓性など、塗膜全体としての特性)と、表面修飾無機粒子により発現する効果との両立が挙げられる。
【0018】
本実施形態においては、全不揮発成分中の表面修飾無機粒子の割合P1を5質量%以上とする、すなわち、ある程度多めの表面修飾無機粒子を使用することにより、十分な量の表面修飾無機粒子が表面に偏在して、表面修飾無機粒子による効果が十分に得られるようにした。
また、本実施形態においては、全不揮発成分中の表面修飾無機粒子の割合P1を25質量%以下とすることにより、表面修飾無機粒子が表面に偏在しすぎて塗膜の基本物性を低下させることがないようにした。
さらに、本実施形態においては、P1/P2を0.1~0.8とする、すなわち、顔料粒子に比べて表面修飾無機粒子を少なめに用いることで、塗膜の基本物性と、表面修飾無機粒子による効果との両方を十分に得られるようにした。
【0019】
ちなみに、本実施形態の塗料組成物の主剤成分や、(メタ)アクリル系樹脂および硬化剤である。詳細は不明であるが、(メタ)アクリル系樹脂の適度な極性により、(メタ)アクリル系樹脂は、表面修飾無機粒子と「適度に相互作用しつつ、適度に反発する」ため、塗料組成物としての均一性と、表面修飾無機粒子の偏在性とが両立されると推測される。また、(メタ)アクリル系樹脂は、一般的な顔料粒子との相溶性が良好であるため、塗膜中で顔料粒子が実質上均一に分散することができ、このことが良好な塗膜基本物性につながっているとも推測される。
加えて、(メタ)アクリル系樹脂は、例えば特許文献1に記載されているようなフッ素含有樹脂に比べて汎用的であり、様々な用途に容易に適用可能であるなどのメリットもある。
【0020】
本実施形態の塗料組成物に関する説明を続ける。
【0021】
((メタ)アクリル系樹脂)
本実施形態の塗料組成物は、(メタ)アクリル系樹脂を含む。
(メタ)アクリル系樹脂は、典型的には、共重合体である。
(メタ)アクリル系樹脂は、硬化剤との反応などのため、好ましくは、側鎖にヒドロキシ基を有する(メタ)アクリレート構造単位を含む。この構造単位としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに由来する構造単位を挙げることができる。ヒドロキシ基は、例えばイソシアネート系硬化剤と反応して架橋構造を形成する。
【0022】
(メタ)アクリル系樹脂は、側鎖にアミノ基を有してもよい。アミノ基は、例えばエポキシ系硬化剤と反応することで架橋構造を形成する。この構造単位としては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジ-t-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどのアミノアルキル(メタ)アクリレート類、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどのアミノアルキル( 炭素数1~6、直鎖又は分岐鎖)(メタ)アクリルアミド類等に由来する構造単位を挙げることができる。
(メタ)アクリル系樹脂は、側鎖にエポキシ基を有してもよい。エポキシ基は、例えばアミン系硬化剤と反応することで架橋構造を形成する。この構造単位としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ) アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル( メタ) アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート等に由来する構造単位を挙げることができる。
(メタ)アクリル系樹脂は、側鎖に加水分解性シリル基(アルコキシシリル基など)を有してもよい。加水分解性シリル基が自己架橋することにより塗料が硬化する。この構造単位としては、例えば、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルジメチルエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、トリメトキシシリルスチレン、ジメトキシメチルシリルスチレン、トリエトキシシリルスチレン、ジエトキシメチルシリルスチレン等に由来する構造単位を挙げることができる。
【0023】
これら、硬化剤との架橋反応(または自己架橋反応)に関与する構造単位の量は、(メタ)アクリル系樹脂全体に対して、例えば1~50質量%、より好ましくは2~30質量%、さらに好ましくは3~25質量%である。
【0024】
(メタ)アクリル系樹脂は、好ましくは、一般式CH=CR-COO-R''で表されるモノマー(Rは水素原子またはメチル基、R''はアルキル基、単環または多環のシクロアルキル基、アリール基、またはアラルキル基)に由来する構造単位を含む。
この構造単位としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のモノマーに由来する構造単位を挙げることができる。
この構造単位の量は、(メタ)アクリル系樹脂全体に対して、例えば1~90質量%、より好ましくは10~85質量%、さらに好ましくは20~80質量%である。
【0025】
(メタ)アクリル系樹脂は、好ましくは、アクリル酸またはメタクリル酸に由来する構造単位を含む。
この構造単位の量は、(メタ)アクリル系樹脂全体に対して、例えば0.1~30質量%、より好ましくは0.2~20質量%、さらに好ましくは0.5~10質量%である。
【0026】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル系モノマーと共重合可能な、(メタ)アクリル系モノマーではないモノマーに由来する構造単位を含んでもよい。例えば、スチレン、α-メチルスチレン等のスチレン系モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系モノマー、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸モノマーなどに由来する構造単位を含んでもよい。
ただし、柔軟性、他成分との相溶性、溶剤溶解性などの観点から、(メタ)アクリル系樹脂中の(メタ)アクリル系モノマーではないモノマーに由来する構造単位の量は、好ましくは(メタ)アクリル系樹脂全体の50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、特に好ましくは0である。
【0027】
(メタ)アクリル系樹脂は、アミド基を有する構造単位を含んでもよい。
アミド基を有する構造単位としては、例えば、(メタ)アクリル酸アミド、より具体的には、(メタ)アクリルアミド、N,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド等のモノマーに由来する構造単位が挙げられる。
【0028】
(メタ)アクリル系樹脂は、公知の重合方法(例えばラジカル重合法)により得ることができる。具体的な重合方法については例えば後掲の実施例を参照されたい。
また、(メタ)アクリル系樹脂としては市販品を用いてもよい。市販品としては、例えばDIC株式会社の「アクリディック」シリーズを挙げることができる。
【0029】
塗料組成物は、(メタ)アクリル系樹脂を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
塗料組成物中の(メタ)アクリル系樹脂の量は、組成物中の不揮発成分全体を基準(100質量%)として、例えば10~60質量%、好ましくは15~50質量%、より好ましくは20~40質量%である。
【0030】
(硬化剤)
本実施形態の塗料組成物は、硬化剤を含む。硬化剤は、組成物を加熱したときに、例えば樹脂と反応するなどして、膜を硬化させるものである限り、任意のものを用いることができる。換言すると、塗料組成物が硬化剤を含む場合、塗料組成物は、通常は熱硬化性となる。
【0031】
硬化剤としては、塗料分野で公知のものを適宜用いることができる。樹脂が有する官能基などを考慮して、適切な硬化剤を選択すればよい。
好ましい硬化剤の一例として、メラミン樹脂を挙げることができる。メラミン樹脂としては、塗料組成物やその他のコーティング剤の分野で公知のものを特に制限なく挙げることができる。
具体的には、以下一般式(M)で表される、ヒドロキシメチル基および/またはアルコキシメチル基を有する化合物に由来する構成単位を含む樹脂が挙げられる。
【0032】
【化1】
【0033】
一般式(M)中、R~Rはそれぞれ独立に、水素原子、ヒドロキシメチル基またはアルコキシメチル基を表す。ただし、通常、R~Rの少なくとも1つはヒドロキシメチル基またはアルコキシメチル基であり、好ましくはR~Rのうち2以上はヒドロキシメチル基またはアルコキシメチル基である。R~Rの全てがヒドロキシメチル基またはアルコキシメチル基であってもよい。
~Rのアルコキシメチル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、n-ブトキシメチル基、イソブトキシメチル基などが挙げられる。
【0034】
メラミン樹脂の市販品としては、例えば、サイメル300、サイメル301、サイメル303LF、サイメル350、サイメル370N、サイメル771、サイメル325、サイメル327、サイメル703、サイメル712、サイメル701、サイメル266、サイメル267、サイメル285、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル272、サイメル212、サイメル253、サイメル254、サイメル202、サイメル207、マイコート506(以上、オルネクスジャパン社製)、ニカラックMW-30M、ニカラックMW-30、ニカラックMW-30HM、ニカラックMW-390、ニカラックMW-100LM、ニカラックMX-750LM、ニカラックMW-22、ニカラックMS-21、ニカラックMS-11、ニカラックMW-24X、ニカラックMS-001、ニカラックMX-002、ニカラックMX-730、ニカラックMX-750、ニカラックMX-708、ニカラックMX-706、ニカラックMX-042、ニカラックMX-035、ニカラックMX-45、ニカラックMX-43、ニカラックMX-417、ニカラックMX-410(以上、三和ケミカル社製)、ユーバン20SB、ユーバン20SE60、ユーバン21R、ユーバン22R、ユーバン122、ユーバン125、ユーバン220、ユーバン225、ユーバン228、ユーバン2020(以上、三井化学社製)、アミディアJ-820-60、アミディアL-109-65、アミディアL-117-60、アミディアL-127-60、アミディア13-548、アミディアG-821-60、アミディアL-110-60、アミディアL-125-60、アミディアL-166-60B(以上、DIC社製)等が挙げられる。
【0035】
好ましい硬化剤の別の一例として、エポキシ化合物を挙げることができる。エポキシ化合物としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものが好ましい。
エポキシ化合物の具体例としては、公知のエポキシ樹脂を挙げることができる。具体的には、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、複素環式エポキシ樹脂、スピロ環含有エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0036】
硬化剤としては、イソシアネート化合物(ブロックイソシアネート化合物を含む)も挙げることができる。イソシアネート化合物は、特に、樹脂がヒドロキシ基を有する場合に硬化性が良好である。保存安定性の点では、ブロックイソシアネート化合物がより好ましい。
イソシアネート化合物は、好ましくは多官能イソシアネートである。多官能イソシアネートは、好ましくは2~6官能(つまり、1分子あたり2~6個の反応性イソシアネート基を有する)、より好ましくは2~4官能である。
【0037】
本実施形態の塗料組成物は、硬化剤を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。例えばメラミン樹脂とエポキシ化合物とを併用することで、塗膜の基本物性を一層高めることができる。
塗料組成物中の硬化剤の含有量は、組成物の不揮発成分全体を基準(100質量%)として、好ましくは3~40質量%、より好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは5~20質量%である。
【0038】
(表面修飾無機粒子)
本実施形態の塗料組成物は、直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で表面修飾された表面修飾無機粒子(表面修飾無機粒子)を含む。
表面修飾無機粒子は、直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で表面修飾された無機粒子である限り、特に限定されない。表面修飾無機粒子は、表面に特定の基を有することにより、塗料組成物を基材上に塗布して塗膜としたときに塗膜表面に偏在する傾向を有する。
【0039】
表面偏在性をさらに高める観点から、表面修飾無機粒子は、直鎖または分岐の炭素数8以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子を含むことが好ましい。
一方、合成容易性、他成分との適度な相溶性、無機粒子本体の特性を活かすなどの観点から、表面修飾無機粒子が有するアルキル基の炭素数は、例えば20以下、好ましくは16以下、さらに好ましくは12以下である。
【0040】
表面修飾無機粒子における「無機粒子」は任意である。所望する性能に応じて適切な無機粒子を選択すればよい。
一例として、表面修飾無機粒子は、シリカ粒子が上記基のいずれかで表面修飾されたもの(表面修飾シリカ粒子)を含むことができる。表面修飾シリカ粒子を用いることで、塗膜に遮熱性を付与できたり、アンチブロッキング性を付与できたりする。
遮熱性を高める観点からは、シリカ粒子は実質的に球状であることが好ましい。また、同様の観点で、シリカ粒子の比表面積は30m/g以下が好ましく、20m/g以下がより好ましい。
シリカ粒子の市販品としては、例えば、堺化学工業株式会社の「Sciqas(登録商標)」シリーズ、株式会社日本触媒の「シーホスター(登録商標)」シリーズ、東亞合成株式会社の「HPS」シリーズ、デンカ株式会社の「FB」シリーズおよび「FBX」シリーズ、株式会社アドマテックス製の「アドマファイン」シリーズなどが挙げられる。
【0041】
別の例として、表面修飾無機粒子は、銀含有粒子が上記基のいずれかで表面修飾されたもの(表面修飾銀含有粒子)を含むことができる。表面修飾銀含有粒子を用いることで、塗膜に抗菌性を付与することができる。
銀含有粒子は、銀原子を含む限り特に限定されない。銀含有粒子が含む銀成分としては、例えば、金属銀(Ag);無機化合物(例えば、AgCl,AgF,AgFなどのハロゲン化銀、AgO、AgOなどの酸化銀、AgSなどの硫化銀、AgSO、AgCrO、AgPO4、AgCO、AgSiOなどの酸素酸塩など)等が挙げられる。
銀含有粒子は、銀成分の他に担体を含んでいてもよい。つまり、銀含有粒子は、銀成分が担体に担持された銀担持体であってもよい。担体としては、例えば、活性炭、活性アルミナ、シリカゲル、活性白土等の無機系吸着剤、ゼオライト、水酸化アパタイト、リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム、リン酸チタン、チタン酸カリウム、含水酸化ビスマス、含水酸化ジルコニウム、ハイドロタルサイト等の無機イオン交換体等の無機化合物が挙げられる。
銀含有粒子の市販品としては、例えば、「ノバロンAG-300」(東亜合成化学製、銀イオン担持リン酸ジルコニウム)、「抗菌セラミックス」(新東Vセラミックス社製、銀イオン担持アパタイト)、「ゼオミックAJ-10D」(シナネンニューセラミック製、銀イオン担持ゼオライト)等を挙げることができる。
【0042】
さらに別の例として、表面修飾無機粒子は、アルミナ粒子が上記基のいずれかで表面修飾されたもの(表面修飾アルミナ粒子)を含むことができる。表面修飾アルミナ粒子を用いることで、塗膜に耐摩耗性を付与することができる。
アルミナ粒子は、例えばデンカ社から購入可能である。
【0043】
表面修飾無機粒子の大きさ(粒径等)は特に限定されない。大きさは、各種の目的に応じて適宜設定すればよい。一例として、表面修飾無機粒子が略球状である場合、平均粒子径は、好ましくは20~5000nm、より好ましくは30~4000nmである。特に、種々の性能バランスの点で、平均粒子径は、好ましくは200~2000nmである。
表面修飾無機粒子の大きさ(粒径等)については、カタログ値がある場合はその値を採用することができる。または、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)などにより、個々の粒子/フィラーの画像の寸法計測により得られた個数分布からの平均値を採用してもよい。計測は、原則として一次粒子(凝集していない粒子)の大きさを測定する。計測の際の測定粒子数は、精度上、少なくとも100個であることが好ましい。粒子径の測定を効率化するため、ソフトウェアを活用してもよい。
【0044】
表面修飾無機粒子の大きさを適宜調整することは、表面修飾無機粒子による十分な機能(例えばシリカ粒子であれば遮熱性)を得ることと、塗料組成物の調製のしやすさや保存安定性(沈降のしにくさ)などとの両立の点で好ましい。
【0045】
表面修飾無機粒子の真比重γ1が一定の数値範囲内であることで、表面修飾無機粒子が一層適度に塗膜表面に偏在しやすくなる場合がある。γ1は、好ましくは1.5~4.5、より好ましくは2.0~4.0、さらに好ましくは2.0~2.5である。
【0046】
表面修飾無機粒子の「被覆率」は大きいほうが好ましい。すなわち、表面修飾無機粒子は、できるだけ多くの、直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で修飾されていることが好ましい。具体的には、被覆率は、好ましくは50%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。
被覆率は、後掲の実施例に記載した方法により求めることができる。
【0047】
表面修飾無機粒子として、その「表面」のSP値(表面SP値)が一定の数値範囲内にあるものを用いることにより、塗膜の基本物性と、表面修飾無機粒子により発現する効果とを一層高いレベルで両立させやすい。表面SP値が一定の値である表面修飾無機粒子は、他成分との相溶性や、塗膜としたときの表面偏在性などが特に優れていると考えられる。
具体的には、表面修飾無機粒子は、表面SP値が20~23.3(cal/cm0.5である表面修飾無機粒子を含むことが好ましい。
【0048】
表面SP値について補足しておく。
例えば、水(SP値δ、体積V)面上に、測定対象となる少量の粒子を浮かべ、マグネチックスーラーでゆっくりと攪拌しながら、アセトンを滴下していく。粒子はその表面状態によって徐々に水中に分散するため、粒子全体が水中に懸濁したときのアセトン滴下量(δ、V)をもとに、粒子表面のSP値を次の数式から求める。なお、水、アセトン以外の溶媒を用いた場合は、それぞれのSP値を用いて算出するものとする。
【0049】
【数1】
【0050】
ここでの各種溶媒のSP値(δ、δ等)については、以下に示されるハンセン(Hansen)の数式を用いて算出された値を用いることができる。Hansenの溶解度パラメータは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメータを、分散項δd、極性項δpおよび水素結合項δhの3成分に分割し、3次元空間に表したものである。ここでのSP値[(cal/cm0.5]は、下記数式を用いて算出される値である。
SP値[(cal/cm0.5]=(δ +δ +δ 0.5
【0051】
上記の分散項δ、極性項δおよび水素結合項δは、ハンセンやその研究後継者らによって多く求められている。例えば、Hansen Solubility Parameters:A user's handbook(Second edition)のp.347~483や、Polymer Handbook(fourth edition)のVII-698~711に掲載されている。また、多くの溶剤や樹脂に関するHansenの溶解度パラメータが調べられている。例えば、Industrial Solvents Handbook(Wesley L. Archer著)にも溶解度パラメータが記載されている。
【0052】
表面修飾無機粒子は、例えば、無機粒子と、シラン化合物とを反応させることで得ることができる。
シラン化合物としては、例えば、R-Si(OR')で表される化合物を挙げることができる。この化合物において、Rは直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基であり、3つのR'はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基(メチル基、エチル基など)である。
無機粒子とシラン化合物との反応においては、適当な触媒を用いてもよい。。触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレートなどの有機スズ系触媒などを挙げることができる。その他、加水分解性シリル基の反応を促進させることが知られている任意の触媒(反応促進剤)を用いることができる。
反応の条件は特に限定されない。反応条件の一例は後掲の実施例を参照されたい。
【0053】
塗料組成物は、1のみの表面修飾無機粒子を含んでもよいし、2以上の表面修飾無機粒子を含んでもよい。
塗料組成物の全不揮発成分中の表面修飾無機粒子の割合P1は、前述のように5~25質量%であればよい。P1は、好ましくは10~20質量%である。
【0054】
(顔料粒子)
本実施形態の塗料組成物は、顔料粒子を含む。この顔料粒子は、上述の表面修飾無機粒子とは異なる粒子である。つまり、この顔料粒子は、鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で表面修飾された表面修飾無機粒子には該当しない。
【0055】
顔料粒子としては、公知の無機顔料や有機顔料などの着色顔料を挙げることができる。具体的には、酸化チタン(チタン白)、酸化亜鉛(亜鉛華)、鉛白、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトポン、硫化亜鉛、アンチモン白などの白色顔料;カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、黒鉛、鉄黒(黒色酸化鉄)、アニリンブラックなどの黒色顔料;ナフトールエローS、ハンザエロー、ピグメントエローL、ベンジジンエロー、パーマネントエロー、黄鉄(黄色酸化鉄)などの黄色顔料;クロムオレンジ、クロムバーミリオン、パーマネントオレンジなどの橙色顔料;酸化鉄、アンバーなどの褐色顔料;ベンガラ(赤色酸化鉄)、鉛丹、パーマネントレッド、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール系赤顔料などの赤色顔料;コバルト紫、ファストバイオレット、メチルバイオレットレーキなどの紫色顔料、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、インジゴなどの青色顔料;クロムグリーン、ピグメントグリーンB、フタロシアニングリーンなどの緑色顔料などが挙げられる。もちろん、使用可能な顔料粒子は、これらのみに限定されない。
【0056】
顔料粒子は、体質顔料を含んでいてもよい。使用可能な体質顔料は特に限定されない。例えば、バリタ粉、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、石膏、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、珪藻土、タルク、炭酸マグネシウム、含水珪酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、マイカ粉等を挙げることができる。
【0057】
白色度の高さ、(メタ)アクリル系樹脂との相性、塗膜基本物性の一層の向上などの観点で、顔料粒子は酸化チタン粒子を含むことが好ましい。
【0058】
顔料粒子の大きさ(粒径等)は特に限定されない。大きさは、各種の目的に応じて適宜設定すればよい。顔料粒子の平均粒子径は、好ましくは0.1~10μm、より好ましくは0.1~7μmである。
顔料粒子の平均粒子径については、カタログ値がある場合はその値を採用することができる。または、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)などにより、個々の平均粒子径の画像の寸法計測により得られた個数分布からの平均値を採用してもよい。計測は、原則として一次粒子(凝集していない粒子)の大きさを測定する。計測の際の測定粒子数は、精度上、少なくとも100個であることが好ましい。粒子径の測定を効率化するため、ソフトウェアを活用してもよい。
【0059】
塗料組成物は、1のみの顔料粒子を含んでもよいし、2以上の顔料粒子を含んでもよい。
塗料組成物の全不揮発成分中の顔料粒子の割合P2は、好ましくは10~70質量%、より好ましくは30~65質量%である。
【0060】
前述のように、P1/P2は0.1~0.8であればよい。P1/P2は好ましくは0.1~0.7、より好ましくは0.2~0.7、さらに好ましくは0.2~0.6である。
また、P1+P2、すなわち、塗料組成物の全不揮発成分中の、表面修飾無機粒子と顔料粒子との合計比率は、好ましくは70質量%以下である。P1+P2が大きすぎないことにより、塗料組成物が(メタ)アクリル系樹脂および硬化剤を十分に含むことができ、種々の性能バランスの一層の向上や、塗膜の密着性の向上などを図ることができる。P1+P2の下限は特に無いが、表面修飾無機粒子や顔料粒子を用いることによる効果を十分に得る観点から、下限は例えば10質量%、具体的には20質量%、より具体的には30質量%である。
【0061】
表面修飾無機粒子の真比重をγ1、顔料粒子の真比重をγ2としたとき、本実施形態においては、γ1が小さめで、γ2が大きめであることが好ましい。これにより、塗膜の基本物性と、表面修飾無機粒子により発現する効果とを一層高いレベルで両立させやすい(表面修飾無機粒子と顔料粒子との適度な比重の差により、塗膜の膜厚方向における2種の粒子の分布が特に適切に制御されると推測される)。
具体的には、γ1/γ2は、好ましくは0.3~1.5より好ましくは0.3~1.2、さらに好ましくは0.3~1.0、特に好ましくは0.35~0.85である。
ちなみに、γ1そのものの値は、例えば1.8~4.5、好ましくは2.0~4.0である。また、γ2そのものの値は、例えば2.5~7.0、好ましくは2.5~6.0である。
【0062】
(その他成分)
本実施形態の塗料組成物は、上記以外の任意成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。任意成分としては、硬化促進剤(硬化触媒等)、界面活性剤、レベリング剤、チキソトロピック調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、分散剤などを挙げることができる。
【0063】
(有機溶剤)
本実施形態の塗料組成物は、有機溶剤を含む。
有機溶剤は、上記の各成分を溶解または分散させることが可能であり、かつ、適度な揮発性を有するもの(塗膜形成時に、常温または加熱により揮発するもの)である限り、任意の有機溶剤であることができる。
【0064】
有機溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール(2-メチル-2-プロパノール)、tert-アミルアルコール、ダイアセトンアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤等を挙げることができる。
【0065】
本実施形態においては、好ましい有機溶剤の選定の基準として、沸点と、水/オクタノール分配係数の対数値(logP)と、を挙げることができる。これらについて以下に説明する。
【0066】
・沸点
本実施形態の塗料組成物は、沸点がある程度高い有機溶剤を含むことが好ましい。沸点がある程度高い、すなわち、比較的揮発しにくい有機溶剤を用いることにより、表面修飾無機粒子が十分に表面に偏在するための時間をとることができると考えられる。
具体的には、本実施形態の塗料組成物は、沸点が100℃以上の有機溶剤を含むことが好ましく、沸点が110℃以上の有機溶剤を含むことがより好ましい。
有機溶剤の沸点の上限は、塗膜形成の作業性(乾燥スピード)、表面修飾無機粒子の「偏在しすぎ」を抑える、顔料粒子の沈降を抑える、などの観点から、例えば250℃以下である。
ちなみに、市販の溶剤が混合溶剤であるなどして沸点に幅がある場合は、その「幅」が、100~250℃の範囲内に収まっていることが好ましい。
【0067】
・logP
Pは分配係数と呼ばれるもので、n-オクタノールと水からなる二相溶媒系の各相へのある物質の分配濃度の比の値で、logPは、その分配係数Pの常用対数で化合物の疎水性を表す指標である。logP値は、オクタノール/水系において、これら2層に溶質がどのような割合で分配されるかを示す。つまり、溶質(本実施形態においては有機溶剤、以下同様)のlogPの値が大きいほど、疎水性が高く、オクタノール相によく溶ける。逆に、溶質のlogPの値が小さいほど、親水性が高く、水相によく溶ける。
logP値は、例えば、溶質と2種類の溶媒を実際にフラスコに入れ、よく振り混ぜて行うフラスコ振盪法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いたHPLC法や、既知の論文に記載の計算方法(Crippen's fragmentation法)により求めることができる。
本実施形態において、logPは、Journal of Chemical Information and Computer Sciences,1987,27(1),p21-35の論文(Crippen's fragmentation法)に基づいて算出された値を意味する。この方法によるlogPは、例えば、Perkin Elmer社のChemDraw Professional 17 Suiteのプログラムを用いて算出することが可能である。
【0068】
本発明者らの知見によれば、有機溶剤のlogPは、表面修飾無機粒子の表面偏在性やその他の性能に関係している。具体的には、本実施形態の塗料組成物は、好ましくはlogPが2.0以下の有機溶剤を含み、より好ましくはlogPが1.85以下の有機溶剤を含む。logPの下限は、例えば-0.2、好ましくは0である。
詳細は不明だが、有機溶剤のlogPが2.0以下と比較的小さいということは、有機溶剤がある程度「親水的」ということであり、そのような有機溶剤は、表面修飾無機粒子の表面に存在する基(基本的には疎水的な基である)とそれほど強く相互作用しないと考えられる。このことが、表面修飾無機粒子の表面偏在性が一層高まることにつながっていると考えられる。
一方、logPが2.0以下であり比較的「親水的」である有機溶剤は、表面修飾無機粒子よりも親水的と考えられる顔料粒子(例えば酸化チタン粒子などの無機酸化物粒子)とは比較的強く相互作用すると考えられる。その結果、顔料粒子がより一層、均一・均質に分散することになると考えられる。
【0069】
沸点が100℃以上である、かつ/または、logPが2.0以下である有機溶剤は、塗料組成物が含む全有機溶剤中、50質量%以上存在することが好ましく、75質量%以上存在することがより好ましく、90質量%以上存在することが特に好ましい。主たる有機溶剤の沸点が100℃以上である、かつ/または、logPが2.0以下である有機溶剤であることで、有機溶剤の選択による効果をより確実に得ることができる。
【0070】
本実施形態の塗料組成物は、後述のように、2液型や濃縮型であることができる。表面修飾無機粒子が塗膜表面に偏在するメカニズムなどを考慮すると、使用直前の塗料組成物(2液型においては2液混合後、濃縮型においては希釈溶剤で希釈後の塗料組成物)が、上記のような溶剤を上記のような割合で含むことが好ましい。
【0071】
(塗料組成物の形態)
一例として、本実施形態の塗料組成物は、1液型、すなわち、有機溶剤以外の全成分が、有機溶剤に実質的に均一溶解または分散された状態であることができる。
【0072】
別の例として、本実施形態の塗料組成物は、2液型であってもよい。2液型にすることで、塗料組成物の保存性をより高めることができる。具体的には、本実施形態の塗料組成物は、(1)(メタ)アクリル系樹脂を含み、硬化剤を含まないA液と、(2)硬化剤を含み、(メタ)アクリル系樹脂を含まないB液と、から構成されていてもよい。この場合、A液とB液は別々の容器で保存され、使用(塗工)直前にA液とB液を混合して用いることができる。この場合、表面修飾無機粒子および顔料粒子は、A液に含まれていても、B液に含まれていても、あるいはその他の容器で準備されていてもよい。
【0073】
別の例として、本実施形態の塗料組成物は、濃縮型であってもよい。すなわち、本実施形態の塗料組成物は、流通時においては有機溶剤を含まないか少しだけ含み、高濃度・高粘度であるが、使用時には塗布・塗装に適した濃度・粘度となるように有機溶剤で希釈して用いられる塗料組成物であってもよい。
【0074】
<塗膜、塗膜を備える物品>
本実施形態の塗料組成物を用いて、基材に塗膜を形成することで、塗膜(機能性膜)を備える物品を製造することができる。ここで、機能性膜の「機能」とは、主として、表面修飾無機粒子が塗膜表面に存在することにより発現する機能のことを指す。
【0075】
典型的には、塗料組成物を基材に塗布し、溶剤を乾燥させ、そして熱硬化させるなどして、塗膜を備える物品を製造することができる。
塗布方法は特に限定されず、スプレー、刷毛、ローラーなどであることができる。塗布に際してコーティング装置や印刷装置を用いてもよい。
熱硬化の温度や時間は、基材の変形などが無い範囲で適宜設定すればよい。温度は例えば40~120℃、時間は例えば10分~24時間である。熱硬化の方法としては、熱風や、コーティングマシンに備え付けの乾燥炉(ドライヤー)を用いる等の方法を挙げることができる。
塗料組成物の塗布量については、塗膜の厚みが例えば30~1000μmとなるように適宜調整すればよい。
【0076】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
(メタ)アクリル系樹脂と、
硬化剤と、
直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で表面修飾された表面修飾無機粒子と、
前記表面修飾無機粒子とは異なる顔料粒子と、
有機溶剤と、
を含む塗料組成物であって、
当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記表面修飾無機粒子の割合をP1とし、当該塗料組成物の全不揮発成分中の前記顔料粒子の割合をP2としたとき、P1は5~25質量%であり、P1/P2は0.1~0.8である塗料組成物。
2.
1.に記載の塗料組成物であって、
前記表面修飾無機粒子の真比重をγ1とし、前記顔料粒子の真比重をγ2としたとき、γ1/γ2は0.3~1.5である塗料組成物。
3.
1.または2.に記載の塗料組成物であって、
前記表面修飾無機粒子は、直鎖または分岐の炭素数8以上のアルキル基を含む基で表面修飾された表面修飾無機粒子を含む塗料組成物。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の塗料組成物であって、
前記表面修飾無機粒子は、シリカ粒子が、直鎖または分岐の炭素数4以上のアルキル基を含む基、ケイ素原子含有基およびフッ素原子含有基からなる群より選ばれる少なくともいずれかの基で表面修飾されたものを含む塗料組成物。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の塗料組成物であって、
前記表面修飾無機粒子は、表面SP値が20~23.3(cal/cm 0.5 である表面修飾無機粒子を含む塗料組成物。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載の塗料組成物であって、
前記顔料粒子は、酸化チタン粒子を含む塗料組成物。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の塗料組成物であって、
前記有機溶剤は、少なくとも、沸点が100℃以上であり、かつ、水/オクタノール分配係数の対数値(logP)が2.0以下の有機溶剤を含む塗料組成物。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の塗料組成物により形成された塗膜。
9.
8.に記載の塗膜を備える物品。
【実施例
【0077】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0078】
<素材の準備>
素材としては以下を準備して用いた。
【0079】
((メタ)アクリル樹脂)
・アクリディックWMG-521:DIC株式会社製、焼付用アクリル樹脂溶液(固形分60質量%、酸価5.5~7.5mgKOH/g、溶剤:酢酸ブチル、ブタノール)
・合成アクリル樹脂:以下の製造方法により製造したアクリル樹脂
撹拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えたフラスコに、酢酸ブチルを100質量部仕込み、還流温度まで昇温させた。
次いで、フラスコ中の酢酸ブチルをスターラーで攪拌しながら、メタクリル酸メチル40質量部、アクリル酸ブチル29.5質量部、スチレン20質量部、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル8質量部、アクリル酸0.5質量部、および1,1-アゾビス-1-シクロヘキサンカルボニトリル(和光純薬工業株式会社製、V-40)2質量部からなる混合液を2時間かけて滴下した。
滴下終了後、さらに130℃で4時間撹拌し、残留するモノマーを反応させた。その後、加熱を止めて室温まで冷却し、(メタ)アクリル系の樹脂を含む樹脂組成物(固形分比率50質量%)を得た。
得られた樹脂の数平均分子量は6,000、重量平均分子量は15,000だった。また、Foxの式(例えば特許第6364604号公報の段落0065に説明あり)に基づき、使用したモノマーの配合比から理論計算した(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度は34℃であった。さらに、水酸基価は35mgKOH/gであった。
上記数平均分子量と重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定、算出した。用いた装置、条件等は以下の通りである。
・使用機器:HLC8220GPC(株式会社東ソー製)
・使用カラム:TSKgelSuperHZM-M、TSKgelGMHXL-H、TSKgelG2500HXL、TSKgelG5000HXL(株式会社東ソー製)
・カラム温度:40℃
・標準物質:TSKgel標準ポリスチレンA1000、A2500、A5000、F1、F2、F4、F10(株式会社東ソー製)
・検出器:RI(示差屈折)検出器
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:1ml/min
【0080】
(顔料粒子)
・酸化チタン:石原産業株式会社製、塩素法酸化チタン(ルチル型)、平均粒子径0.25μm、吸油量20mL/100g、真比重4.2g/cm
・炭酸カルシウム:株式会社カルファイン製、重質炭酸カルシウムKS-800、平均粒子径7.8μm、真比重2.7g/cm
・タルク:日本タルク株式会社製、微粉タルクP-3、平均粒子径5.0μm、真比重2.8g/cm
・硫酸バリウム:日本化学工業株式会社製、AD硫酸バリウム、平均粒子径1.4μm、真比重4.5g/cm
・酸化亜鉛:本庄ケミカル株式会社製、酸化亜鉛3種、平均粒子径0.5μm、真比重5.6g/cm
【0081】
(表面修飾に供される無機粒子)
・ノバロンAG:東亞合成株式会社製、銀系無機粒子(銀イオン担持リン酸ジルコニウム)平均粒子径1μm、比表面積4.0m/g
・Sciqas:堺化学工業株式会社製、球状シリカ
平均粒子径については後掲の表に記載の通り
比表面積については以下の通り
57.1m/g(平均粒子径0.05μmのもの)
21.5m/g(平均粒子径0.1μmのもの)
7.4m/g(平均粒子径0.4μmのもの)
4.3m/g(平均粒子径0.7μmのもの)
・HPS-1000:東亞合成株式会社製、球状シリカ、平均粒子径1.0μm、比表面積3.5m/g
・HPS-3500:東亞合成株式会社製、球状シリカ、平均粒子径3.5μm、比表面積0.8m/g
・ASFP-20:デンカ株式会社製、球状アルミナ、平均粒子径0.3μm、比表面積12.5m/g
【0082】
(無機粒子の表面処理剤)
・KBM-3033:信越化学工業株式会社製、n-プロピルトリメトキシシラン(C単官能シラン)、分子量164.28、最小被覆面積476.38m/g
・KBM-3063:信越化学工業株式会社製、ヘキシルトリメトキシシラン(C単官能シラン)、分子量206.36、最小被覆面積379.24m/g
・KBM-3083:信越化学工業株式会社製、オクチルトリエトキシシラン(C単官能シラン)、分子量276.49、最小被覆面積283.05m/g
・KBM-3103C:信越化学工業株式会社製、デシルトリメトキシシラン(C10単官能シラン)、分子量262.47、最小被覆面積298.17m/g
・D3383:東京化成工業株式会社製、ドデシルトリメトキシシラン(C12単官能シラン)、分子量290.52、最小被覆面積269.38m/g
・LS-6970:信越化学工業株式会社製、オクタデシルトリエトキシシラン(C18単官能シラン)、分子量416.8、最小被覆面積187.76m/g
【0083】
(硬化剤)
・アミディアL-166-60B:DIC株式会社製、イソブチル化メラミン樹脂溶液(固形分60質量%、溶剤:イソブタノール、メタノール)
・EPICLON 1050-60BB:DIC株式会社製、エポキシ樹脂溶液(固形分60質量%、溶剤:酢酸ブチル30質量%、ブチルセロソルブ10質量%)
・TKA-100:旭化成株式会社製、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(有効成分100%)、製品名「デュラネートTKA-100」
【0084】
(添加剤)
・表面調整剤:楠本化成株式会社製、ディスパロンLHP-91(ビニル系重合物、非極性シリコーン)、固形分50質量%
【0085】
(シンナー(有機溶剤))
・メチルエチルケトン:沸点80℃、logP:0.30
・トルエン:沸点111℃、logP:2.73
・n-ブタノール:沸点117℃、logP:0.88
・イソ酢酸ブチル:沸点117℃、logP:1.60
・メチルイソブチルケトン、沸点118℃、logP:1.31
・n-酢酸ブチル:沸点126℃、logP:1.82
・キシレン:沸点140℃。logP:3.1
・PGMAC(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート):沸点146℃、logP:0.36
・LAWS:シェルケミカルズジャパン株式会社製、ミネラルスピリット(芳香族成分の少ないもの、Low Aromatic White Spirit)、沸点155~210℃、logP:3.7~6.7
・シクロヘキサノン:沸点156℃、logP:0.81
・ブチルセロソルブ:沸点168℃、logP:0.83
・ダイアセトンアルコール:沸点168℃、logP:-0.14
・メトキシブチルアセテート:沸点171℃、logP:1.14
・SS-150:JXTGエネルギー株式会社製、芳香族系炭化水素溶剤(重質芳香族系石油ソルベントナフサ(炭素数10~11の芳香族化合物が主成分))、沸点180~210℃、logP:2.9
・DBE:三協化学株式会社製、No.23エステル(DBE)(物質名:二塩基酸エステル・・・グルタル酸ジメチル55~65%、コハク酸ジメチル15~25%、アジピン酸ジメチル10~25%)、沸点196~225℃、logP:0.19
【0086】
<無機粒子の表面修飾例>
実施例1~21で使用した表面修飾無機粒子(銀系無機粒子を表面修飾したもの)については、以下のようにして得た。
【0087】
銀含有粒子(東亞合成株式会社製、ノバロンAG300、比表面積4.0m/g)100質量部と、シラン化合物(信越化学工業株式会社製のデシルトリメトキシシラン、KBM-3103C、分子量262.47、最小被表面積298.17m/g)1.34質量部と、ジブチル錫ジラウレート(堺化学工業株式会社製、TN-12)0.05質量部と、を200質量部のヘプタンに投入して攪拌混合することで、混合溶液を得た。
ここで、シラン化合物の「最小被表面積」とは、下記の式(1)により算出される値である。式(1)における「13×10-20」は、トリアルコキシシリル構造が加水分解して生成されるSi(O)構造1つ当たりの被覆面積を表す値(m)である。具体的には、Si原子:半径2.10Å、O原子:半径1.52Å、Si-Oの結合距離:1.51Å、四面体角:109.5°でモデル化したSi(O)構造中の3個のO原子全てが粒子と結合すると仮定して、3個のO原子が被覆することができる粒子表面の面積である。
また、銀系無機粒子に対するシラン化合物の添加量については、式(1)により算出した「最小被表面積」の値を下記の式(2)に代入することにより、シラン化合物の添加量を決定した(計算式上では、銀系無機粒子表面への被覆率は100%となる)。
【0088】
【数2】
【0089】
【数3】
【0090】
得られた混合溶液を80℃で加熱しながら1時間撹拌し、溶液中に含まれる銀系無機粒子とシラン化合物とを反応させた。その後、混合溶液を室温まで冷却し、濾過と洗浄を行い、80℃で乾燥処理した。これにより、シラン化合物で表面が処理された、銀系の表面修飾無機粒子(表面にデシル基を有する)を得た。
ちなみに、反応後の混合溶液中に未反応のシラン化合物がほとんど存在しなかったことから、シラン化合物はほとんど完全に銀系無機粒子と反応したと判断した。
【0091】
実施例1~21以外で使用した表面修飾無機粒子についても、同様に、無機粒子とシラン化合物とを反応させることで得た。後掲の各表には、反応に用いたシラン化合物の種類や表面被覆率を記載している。表中の表面被覆率(%)の記載は、前述の式(2)の右辺に、それぞれ目標とする数値(例えば、表面被覆率が75%であれば、0.75を乗じる)を乗じて算出されるシラン化合物添加量(質量部)を、それぞれ対象となる粒子100質量部に対して添加し、表面処理を行ったことを意味している。
後掲の表中、反応に用いたシラン化合物の種類の明記が無いものについては、シラン化合物として実施例1~21と同じものを用いた。また、後掲の表中、表面被覆率の明記が無いものについては、表面被覆率100%を目標としてシラン化合物を反応させた。
【0092】
表面修飾無機粒子の平均粒子径について補足しておく。
いくつかの無機粒子について、シラン化合物による表面処理の前後での平均粒子径の変化を確認した。その結果、表面処理の前後で平均粒子径の変化は無視できるレベルであった。つまり、各表面修飾無機粒子の平均粒子径は、原料粒子の平均粒子径と同程度であるということができる。
【0093】
<表面修飾無機粒子の表面SP値>
前述の滴定法により測定した。ただし、測定には、水(SP値δ:23.37(cal/cm0.5)と、ブチルセロソルブ(SP値δ:10.18(cal/cm0.5)を用いた。具体的には以下の通りとした。
200mLビーカーに水30mLを入れ、各表面修飾無機粒子0.2mgを水面に浮かべた。その後、ビーカーにブチルセロソルブを滴下していき、水面に浮かんだ表面修飾無機粒子がすべて液中に懸濁したときの滴定量を測定した。
後掲の表中に記載の表面SP値の単位は(cal/cm0.5である。
【0094】
<真比重について>
JIS K 5101-11-1におけるA法に準じて、表面修飾無機粒子および顔料粒子の真比重を測定した。具体的には、20℃の恒温室で、次のようにして真比重の測定を行った。
内容量50mLのワードン形ピクノメータに、エタノールを完全に満たし、このときの内容物を含めたピクノメータの質量を秤量し、この値をA(g)とした。次に、ピクノメータ中のエタノールを捨てて空にした後、試料(表面修飾無機粒子または顔料粒子)約3gをピクノメータの中に移し入れ、移した試料の質量を秤量し、この値をB(g)とした。ピクノメータの中にさらにエタノールを加えて試料及びエタノールでピクノメータを完全に満たした。このときの内容物を含めたピクノメータの質量をC(g)とし、下記算出式により、試料の真比重を算出した。
[算出式]
真比重(g/cm)=B×0.7950/(A-C+B)
【0095】
<塗料組成物の製造>
以下のようにして、実施例1の塗料組成物を製造した。
【0096】
(主剤溶液の調製)
まず、以下を混合して混合液を得た。
・メラミン焼付用アクリル樹脂組成物(DIC株式会社製、アクリディックWMG-521、固形分60%、溶剤として酢酸ブチル/ブタノールの混合物を含む) 83.4質量部(アクリル樹脂としては50質量%含む)
・酸化チタン(石原産業株式会社製、タイペークCR-90-2) 120質量部
・先に作製した表面修飾無機粒子 15質量部
【0097】
作製した混合液をチタニアビーズとともにポリエチレン製容器に封入し、ペイントシェイカー(浅田鉄工株式会社製)を用いて2時間分散処理を行った。その後、濾過してチアニアビーズを除去した。このようにして得られた混合溶液を主剤溶液とした。
【0098】
(塗料組成物の製造)
得られた主剤溶液に、以下を添加し、混合することで、塗料組成物を製造した。
・ブチル化メラミン樹脂(DIC株式会社製、アミディアL-166-60B、固形分60%、溶剤としてイソブタノール/メタノールの混合物を含む) 20質量部(樹脂としては12質量部)
・エポキシ化合物含有溶液(DIC株式会社製、EPICRON 1050-60BB、固形分60%、溶剤として酢酸ブチル30%ブチルセロソルブ10%を含む) 15質量部(エポキシ化合物としては9質量部含む)
・シリコン系表面調整剤(楠本化成株式会社製、LHP-91、固形分50%) 0.5質量部
【0099】
実施例2~の塗料組成物についても、用いた原料の種類および量が異なる以外は、実施例1と同様にして製造した。
【0100】
<試験板の作製>
作製した塗料組成物に対し、表に記載の配合でシンナー(有機溶剤)を添加して希釈した。
希釈により得られた塗料組成物(シンナー希釈物)を、基材として市販の冷延鋼板(日本テストパネル社製、SPCC-SD:幅75mm×長さ150mm×厚み0.8mm)に、乾燥膜厚が約40μmとなるようにエアスプレーで塗装し、次いで140℃で20分乾燥した。このようにして、塗装された試験板を作製した。
得られた試験板を使い、各種試験を行った。
【0101】
<塗膜基本物性の評価>
(可撓性)
デュポン式落下衝撃試験機(安田精機製作所製)を使用し、各試験板の塗膜面に対し、以下に記載した条件で衝撃試験を行い、塗膜の割れが見られない最大の高さを測定した。
・室温 23℃
・落錘重量 500g
・撃芯の尖端 直径1/2インチ
・落下高さ 10~100cm(5cm刻み)
【0102】
(光沢性)
光沢計(BYK-Gardner GmbH製)を用いて60°光沢値を測定した。この光沢値が高いほど、塗膜外観が良好であることを示す。
【0103】
(鉛筆硬度)
表面性測定器(新東科学株式会社製、トライボギア14FW)および鉛筆硬度測定用鉛筆(三菱鉛筆株式会社製の三菱Uni)を用い、各試験板の塗膜面に対し、JIS K 5600-5-4(1999)「塗膜の機械的性質-引っかき硬度(鉛筆法)」に準拠した試験を行った。測定荷重は750g、測定の速度は30mm/min、測定距離は5mmとした。測定は5回行い、合格数が4回/5回を超えた鉛筆硬度を評価結果とした。
【0104】
<表面修飾無機粒子により発現する効果の評価>
(抗菌性:銀含有粒子使用の場合)
JIS Z 2801:2010(抗菌加工製品-抗菌性試験方法・抗菌効果)に準じ、供試菌として大腸菌(Escherichia coli NBRC 3972)を使用し、以下の手順で抗菌活性値Rを算出した。
【0105】
まず、培養器中で供試菌を温度35℃で18時間培養した。これをさらに斜面培地に移植して温度35℃で18時間前培養したものを1/500NB培地により適宜調整し、菌数2.5×10~10×10/mLの試験菌液を準備した。
【0106】
5cm角の正方形に切り出した試験板を滅菌済シャーレに置き、先に用意した試験菌液を0.4mL接種する。接種した試験菌液の上から40mm角のポリエチレンフイルムを被せ、試験菌液を均等に接種させた後、温度35℃・相対湿度95%の環境下で24時間静置した。24時間経過後、SCDLP培地10mLを加え、試験菌液を洗い出した。洗い出し液を適宜希釈し、標準寒天培地と混合して生菌数測定用シャーレを作成し、温度35℃で48時間培養した後、コロニー数を測定した。
そして、得られた各種値を用い、以下の式1及び式2にそれぞれ代入することにより、抗菌活性値Rを算出した。
【0107】
N=C×D×V・・・式1
N:生菌数
C:コロニー数
D:希釈倍率
V:洗い出しに用いたSCDLP培地の液量(mL)
【0108】
R=U-A・・・式2
R:抗菌活性値
:評価対象の試験板における24時間後の生菌数Nの対数値の平均値(n=5)
:比較例1の試験板の24時間後の生菌数Nの対数値の平均値(n=5)
【0109】
(アンチブロッキング性:シリカ粒子使用の場合)
試験板の塗膜表面に厚さ100μmのPETフィルムを乗せ、その上に1kgのおもり(5cm角)を乗せた。その状態で50℃のオーブンに24時間静置し、その後、試験板を取り出しPETフィルムを剥離した。PETフィルムを剥離した際の試験板の状態を目視により観察し、下記の基準にしたがってアンチブロッキング性を評価した。
5:フィルム剥離の際にタック性がなく、跡残りも見られない。
4:フィルム剥離の際にタック性があるが、跡残りは見られない。
3:フィルム剥離の際にタック性があり、わずかに跡残りが見られる。
2:フィルム剥離の際にタック性があり、跡残りが見られる。
1:フィルム剥離の際にタック性があり、大きなあと残りが見られる。
【0110】
(遮熱性:シリカ粒子使用の場合)
赤外線ランプとして、アイR形赤外線電球(岩崎電気株式会社製、形式IR100/110V125WRH)と、試験板の裏面の中心に熱電対(K型、クラス2)を貼り付けたものをそれぞれ用意した。
下端が試験板の塗膜表面から25cm上方で、その中心軸が試験板中央に位置するように赤外線ランプを設置した。そして、赤外線の照射を開始した。赤外線照から15分後の到達温度を、熱電対に接続した温度計により測定した。
測定は、室温23℃、湿度50%RHで、無風状態の場所にて行った。
【0111】
(耐摩耗性:アルミナ粒子使用の場合)
JIS K 5600-5-9に基づき、テーバー摩耗試験機(株式会社東洋精機製作所製のROTARY ABRASION TESTER)を使用し、摩耗輪CS-10、荷重250g、200回転/minで1分間、の条件で摩耗量を測定した。
【0112】
塗料組成物の組成や評価結果などの各種情報をまとめて下表に示す。
各成分の使用量(添加量)の単位は、質量部である。
各表において、有機溶剤およびシンナー以外の各成分の量は、有効成分(不揮発成分、固形分)としての使用量を表している。主剤成分((メタ)アクリル系樹脂、顔料粒子および表面修飾無機粒子)、硬化剤成分および添加剤成分の各原料に由来する有機溶剤成分については、各表中の「塗料組成物」「有機溶剤」の欄に記載した。一方、希釈用に用いた有機溶剤については「シンナー(有機溶剤)」の欄に記載した。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
【表4】
【0117】
【表5】
【0118】
【表6】
【0119】
【表7】
【0120】
【表8】
【0121】
【表9】
【0122】
【表10】
【0123】
【表11】
【0124】
各表に示されるとおり、P1が5~25質量%であり、P1/P2が0.1~0.8である塗料組成物は、塗膜基本物性の評価と、表面修飾無機粒子により発現する効果の評価の両方で、良好な結果を示した。
【0125】
一方、表面修飾無機粒子を含まない、または、表面修飾無機粒子を含むとしてもP1/P2が0.1~0.8の範囲外である各比較例の塗料組成物は、塗膜基本物性の評価と、表面修飾無機粒子により発現する効果の評価の少なくとも一方で、悪い結果を示した。
【0126】
また、実施例を詳細に分析することにより、以下事項が理解される。
・シンナー(有機溶剤)として、沸点が100℃以上であり、かつ、logPが2.0以下の有機溶剤を用いた実施例は、そのような有機溶剤を用いなかった実施例に比べて、表面修飾無機粒子により発現する効果の評価結果がより良好であった(特に、表2および3からこの傾向が読み取れる)。
・表面修飾無機粒子の被覆率が大きいほど、表面修飾無機粒子により発現する効果の評価結果は良好であった(実施例31~34の比較)。
・表面修飾無機粒子が表面に有するアルキル基の炭素数が大きいほど、表面修飾無機粒子により発現する効果の評価結果は良好であった。一方、表面修飾無機粒子が表面に有するアルキル基の炭素数が18であった場合、若干ではあるが塗膜基本物性が低下した(実施例35~39の比較)。
・顔料粒子として酸化亜鉛(真比重:5.6)を用いた場合、他の実施例に比べると可撓性の評価結果が悪かった。酸化亜鉛と表面修飾無機粒子の大きな比重差のために、塗膜の膜厚方向における2種の粒子の分布が他の実施例と異なった可能性がある(表7および8)。
・表面修飾無機粒子の平均粒子径が大きすぎず小さすぎないことにより、種々の性能バランスが特に良化した(表10)。