(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】無機物質粉末充填樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 23/14 20060101AFI20220526BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220526BHJP
B29C 48/00 20190101ALI20220526BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20220526BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20220526BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220526BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220526BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20220526BHJP
【FI】
C08L23/14
C08K3/013
B29C48/00
B29C64/314
B29C64/118
B33Y80/00
B33Y70/00
C08K3/105
(21)【出願番号】P 2021190737
(22)【出願日】2021-11-25
【審査請求日】2021-11-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】服部 祐介
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/060278(WO,A1)
【文献】特開昭56-122847(JP,A)
【文献】特開2018-183917(JP,A)
【文献】特開2016-169249(JP,A)
【文献】特開2014-003025(JP,A)
【文献】特開2021-161197(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112341714(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第110894323(CN,A)
【文献】国際公開第2016/133012(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-2178514(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/02
C08K 3/013
C08L 53/00
B29C 48/00
B29C 64/314
B29C 64/118
B33Y 80/00
B33Y 70/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する無機物質粉末充填樹脂組成物であって、
前記熱可塑性樹脂は第1の樹脂と第2の樹脂とを含有し、
前記第1の樹脂はプロピレン-α-オレフィン共重合体であり、
前記第2の樹脂は前記第1の樹脂とは異なるポリオレフィン系樹脂であり、
かつ、プロピレンホモポリマー、及びブロックポリプロピレンからなる群から選択される1以上であり、
前記第1の樹脂の含有量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して80質量部以上95質量部以下であ
り、
前記無機物質粉末は炭酸カルシウムである、
無機物質粉末充填樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する熱溶解積層法3Dプリンタフィラメント用の無機物質粉末充填樹脂組成物であって、
前記熱可塑性樹脂は第1の樹脂と第2の樹脂とを含有し、
前記第1の樹脂はプロピレン-α-オレフィン共重合体であり、
前記第2の樹脂は前記第1の樹脂とは異なるポリオレフィン系樹脂であり、
かつ、プロピレンホモポリマー、及びブロックポリプロピレンからなる群から選択される1以上であり、
前記第1の樹脂の含有量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して80質量部以上95質量部以下であ
り、
前記無機物質粉末は炭酸カルシウムである、
熱溶解積層法3Dプリンタフィラメント用の無機物質粉末充填樹脂組成物。
【請求項3】
前記第1の樹脂が、エチレン-プロピレンコポリマーであってプロピレン繰り返し単位とランダムなエチレン分布とを有し、プロピレン由来の構成単位が80質量%以上、エチレン由来の構成単位が20質量%以下である、請求項1
又は2に記載の無機物質粉末充填樹脂組成物。
【請求項4】
前記炭酸カルシウムが、表面処理された重質炭酸カルシウムである、請求項
1から3の何れかに記載の無機物質粉末充填樹脂組成物。
【請求項5】
前記炭酸カルシウムのJIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が、0.7μm以上6.0μm以下である、請求項
1から4の何れかに記載の無機物質粉末充填樹脂組成物。
【請求項6】
請求項
1から5の何れかに記載の無機物質粉末充填樹脂組成物からなる成形品。
【請求項7】
前記成形品が押出成形品である請求項
6に記載の成形品。
【請求項8】
前記成形品が、熱溶解積層法3Dプリンタフィラメントである、請求項
7に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機物質粉末充填樹脂組成物及び成形品に関する。詳しく述べると、本発明は、良好な形状保持性を示し、造形精度に優れ、かつ高い耐衝撃性を有する、3Dプリンター用フィラメント材料として好適な無機物質粉末充填樹脂組成物、及びこれを用いた3Dフィラメント材料を始めとする成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
3次元プリンター(3Dプリンター)においては、簡便さから熱溶解積層法(FDM法)が使用されることが多い。FDM法では、一般的には原料を熱可塑性樹脂からなるフィラメントとして押出ヘッドへ挿入し、加熱溶融しながら押出ヘッドに備えたノズル部位からチャンバー内のX-Y平面基盤上に連続的に押し出し、押し出した樹脂を既に堆積している樹脂積層体上に堆積させると共に融着させ、それを冷却させ固化する、という工程がとられる。
【0003】
FDM法の原料としては、一般的にABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂)やポリ乳酸(PLA)、ポリオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂が、加工性や流動性の観点から好適に用いられている。例えば特許文献1には、特定のメルトマスフローレートを有するポリプロピレン樹脂、オレフィン系共重合ゴム、及び軟化剤からなるFDM用フィラメントが開示されている。特許文献2には、特定のプロピレン共重合体を含むFDM用フィラメントが記載されている。また、特許文献3には、特定の過酸化物で分岐させたポリプロピレンを含むFDM用フィラメントが開示されている。
【0004】
FDM用フィラメント用樹脂組成物に、無機物質粉末等のフィラーを配合することも、検討されている。例えば特許文献4には、特定のポリプロピレンと炭酸カルシウムとを、20:80~50:50の質量比で含有するFDM用フィラメントが開示されている。このフィラメントは、3Dプリンター造形における再現性が高く、後加工も容易という利点を有する。特許文献5には、カーボンナノチューブやナノクレイ等の機能性ナノフィラーを含んだFDM造形用フィラメントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-144308号公報
【文献】特開2018-158451号公報
【文献】特表2019-531947号公報
【文献】特開2018-183917号公報
【文献】特開2016-28887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
3Dプリンターを使用した3次元造形では、一旦出力したものを、さらにやすりがけ等により形状を微調整する後加工が通常行われる。しかしながらPLAは、プリンターによる再現性が高い反面、硬く、後加工し辛く、また力を入れすぎるといきなり割れてしまう等、靱性に劣っていた。一方ABS樹脂は、柔らかく後加工は容易であったが、もともと再現性に劣ることから、反りが発生しやすく、必ずしも要求を満足するものではなかった。また、PLAやABSには、造形時に刺激臭が発生する問題もあった。特許文献1~3記載の3Dプリンター造形用フィラメントでは、ポリオレフィン系樹脂組成物を用いることによって、加工性や臭気の問題に対処している。これら文献記載のフィラメントは、熱可塑性エラストマーのような軟質ポリオレフィン系樹脂をベースとしているため、靭性の点でも優れている。
【0007】
しかしながらポリオレフィン系樹脂をベースとするフィラメントでは、造形時の熱収縮が無視できず、特に軟質ポリオレフィン系樹脂をベースとするフィラメントには形状保持性に劣る欠点がある。熱収縮はフィラーの配合によって抑制することができ、形状保持性はポリエチレンやポリプロピレン(ホモポリマー)の配合によって改善することが可能である。しかし、ポリエチレンやポリプロピレンのホモポリマーにフィラーを多量配合すると、得られるフィラメントは硬く、かつ脆いものとなりがちである。特に、特許文献5に記載されたような機能性ナノフィラーは、樹脂成分との相互作用が強いため、配合量を数質量%程度に抑制しないと、フィラメントが硬く、加工し難いものとなってしまう。一方でフィラーの配合量が少量だと、造形時の熱収縮や反りの問題が解決できない。
【0008】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、造形時の熱収縮や反りが抑制されて良好な形状保持性を示し、柔軟で後加工が容易であって造形精度に優れ、かつ高い耐衝撃性を有する、FDM用フィラメント材料として好適な無機物質粉末充填樹脂組成物、及びこれを用いた3Dフィラメント材料等の成形品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決する上で鋭意検討を行った結果、熱可塑性樹脂として特性の異なる2種のポリオレフィン系樹脂を使用し、無機物質粉末を多量充填することによって、熱収縮等が抑制され、かつ柔軟で耐衝撃性にも優れる、FDM用フィラメント材料として好適な無機物質粉末充填樹脂組成物が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する無機物質粉末充填樹脂組成物であって、
前記熱可塑性樹脂は第1の樹脂と第2の樹脂とを含有し、
前記第1の樹脂はプロピレン-α-オレフィン共重合体であり、
前記第2の樹脂は前記第1の樹脂とは異なるポリオレフィン系樹脂であり、かつ
前記第1の樹脂の含有量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して80質量部以上95質量部以下であることを特徴とする、無機物質粉末充填樹脂組成物である。
【0011】
本発明はまた、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する熱溶解積層法3Dプリンタフィラメント用の無機物質粉末充填樹脂組成物であって、
前記熱可塑性樹脂は第1の樹脂と第2の樹脂とを含有し、
前記第1の樹脂はプロピレン-α-オレフィン共重合体であり、
前記第2の樹脂は前記第1の樹脂とは異なるポリオレフィン系樹脂であり、かつ
前記第1の樹脂の含有量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して80質量部以上95質量部以下であることを特徴とする、熱溶解積層法3Dプリンタフィラメント用の無機物質粉末充填樹脂組成物である。
【0012】
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の一態様においては、前記第2の樹脂が、プロピレンホモポリマー及び/又はブロックポリプロピレンである、無機物質粉末充填樹脂組成物が示される。
【0013】
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の一態様においては、前記第1の樹脂が、エチレン-プロピレンコポリマーであってプロピレン繰り返し単位とランダムなエチレン分布とを有し、プロピレン由来の構成単位が80質量%以上、エチレン由来の構成単位が20質量%以下である、無機物質粉末充填樹脂組成物が示される。
【0014】
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の一態様においては、前記無機物質粉末が、炭酸カルシウムである、無機物質粉末充填樹脂組成物が示される。
【0015】
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の一態様においては、前記炭酸カルシウムが、表面処理された重質炭酸カルシウムである、無機物質粉末充填樹脂組成物が示される。
【0016】
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物の一態様においては、前記炭酸カルシウムのJIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径が、0.7μm以上6.0μm以下である、無機物質粉末充填樹脂組成物が示される。
【0017】
上記課題を解決する本発明はまた、上記の無機物質粉末充填樹脂組成物からなる成形品である。
【0018】
本発明に係る成形品の一態様においては、成形品が押出成形品である。
【0019】
本発明に係る成形品の一態様においては、成形品が、熱溶解積層法3Dプリンタフィラメントである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、造形時の熱収縮や反りが抑制されて良好な形状保持性を示し、柔軟で後加工が容易であって造形精度に優れ、かつ高い耐衝撃性を有する無機物質粉末充填樹脂組成物及び熱溶解積層法3Dプリンタフィラメント用の無機物質粉末充填樹脂組成物が提供される。本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、FDM用フィラメント以外の材料としても有用であり、各種押出成形品を始めとする種々の成形品に成形することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0022】
≪無機物質粉末充填樹脂組成物≫
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物、及び本発明の熱溶解積層法3Dプリンタフィラメント用の無機物質粉末充填樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する無機物質粉末充填樹脂組成物であって、該熱可塑性樹脂は第1の樹脂と第2の樹脂とを含有し、該第1の樹脂はプロピレン-α-オレフィン共重合体であり、該第2の樹脂は前記第1の樹脂とは異なるポリオレフィン系樹脂であり、かつ第1の樹脂の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して80質量部以上95質量部以下であることを特徴とする。
【0023】
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、熱可塑性樹脂として特性の異なる2種のポリオレフィン系樹脂をバランス良く含有するため、形状保持性と柔軟性の双方に優れた物性を示す。そのため、後加工が容易で、成形品は良好な耐衝撃性を示す。また、無機物質粉末が多量に充填されているため、造形時の熱収縮や反りが抑制される。その結果として、極めて良好な形状保持性を示し、後加工も容易で、かつ耐衝撃性に優れる無機物質粉末充填樹脂組成物となる。本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物はそのため、FDM用フィラメント材料等の用途に好適である。以下、本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物(以下で「樹脂組成物」と略す場合がある。)を構成する各成分につき、それぞれ詳細に説明する。
【0024】
<熱可塑性樹脂>
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物においては、熱可塑性樹脂として2種類のポリオレフィン系樹脂を少なくとも含有する。それら熱可塑性樹脂の内の第1の樹脂は、プロピレン-α-オレフィン共重合体であり、第2の樹脂は、第1の樹脂とは構造の異なるポリオレフィン系樹脂である。これらポリオレフィン系樹脂について、次に具体的に説明する。
【0025】
<第1の樹脂:プロピレン-α-オレフィン共重合体>
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物において、第1の樹脂として含有されるプロピレン-α-オレフィン共重合体(以下で「共重合体」と略す場合がある。)自体は公知であり、種々の共重合体が市販されている。本発明で使用し得る共重合体としては、特に限定されるものではなく、樹脂組成物の用途、機能等に応じて、各種のものを用いることができる。2種以上の共重合体を併用することも可能である。プロピレンとの共重合モノマーにも特に制限はなく、例えばエチレン及び炭素数4~10のα-オレフィンから選択される1種又は2種以上のモノマー成分であってもよい。例としてエチレンや、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられるが、これらに限定されない。これらの中でも、エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ヘキセン、及び/又は1-オクテン、特にエチレンとの共重合体が好ましい。
【0026】
共重合の形態にも制限はなく、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、さらにはグラフト共重合体等、種々の形態の共重合体を使用することができる。無機物質粉末を多量充填しても加工性と柔軟性とが保たれる点から、プロピレン繰り返し単位とランダムなα-オレフィン成分の分布、例えばランダムなエチレン分布を有するコポリマー(共重合体)が好ましい。より好ましくは、アイソタクチックプロピレン繰り返し単位とランダムなエチレン分布とを有するエチレン-プロピレンコポリマーを、第1の樹脂とする。こうしたコポリマーでは、アイソタクチックプロピレン繰り返し単位が結晶領域を形成し得るため、強靭さと形状安定性が発現し易い。また、ランダムなエチレン分布によって柔軟性が付されるため、耐衝撃性に優れた樹脂組成物を与える。本発明で使用し得るプロピレン-α-オレフィン共重合体はまた、3つのプロピレン単位のトリアド(triad)タクチシティを有していてもよい。トリアドタクチシティは、例えば13C-核磁気共鳴(NMR)によって測定することができ、典型的には50~99%、特に75~99%程度の値となり得る。
【0027】
共重合比についても特に制限はないが、共重合モノマーであるα-オレフィン由来の構成単位が好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、特に好ましくは8質量%以上の共重合体、また、同構成単位が好ましくは35質量%以下、より好ましくは25質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、特に好ましくは18質量%以下等の共重合体を使用する。例えば、プロピレン由来の構成単位が80質量%以上、エチレン由来の構成単位が20質量%以下のコポリマー;特にプロピレン由来の構成単位が82~92質量%、エチレン由来の構成単位が8~18質量%のコポリマー;中でも、プロピレン由来の構成単位が84~90質量%、エチレン由来の構成単位が10~16質量%のコポリマーを使用する。こうした共重合比のプロピレン-α-オレフィン共重合体は柔軟性に富み、後記する第2の樹脂である他のポリオレフィン系樹脂との相溶性も優れているので、本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物に配合された際に、特に優れた柔軟性、加工性を発現し得る。
【0028】
本発明で使用し得るプロピレン-α-オレフィン共重合体はまた、ジエンやカルボン酸(エステル)変性オレフィン等の第三成分由来の構成単位を含んでいてもよい。ジエン成分としては、1,4-ヘキサジエン、1,6-オクタジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、ジシクロペンタジエン(DCPD)、エチリデンノルボルネン(ENB)、ノルボルナジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン等が;カルボン酸(エステル)変性オレフィンとしては、カルボキシル基含有オレフィン、カルボン酸エステル基含有オレフィンの類、例えば無水マレイン酸変性オレフィン、(メタ)アクリル酸メチル等が、それぞれ挙げられるが、これらに限定されない。これら第三成分由来の構成単位を、例えば0.1~10質量%、特に0.5~8質量%、中でも1~5質量%含む共重合体は、第三成分不含のプロピレン-α-オレフィン共重合体とは異なった溶融挙動や相溶性を示すことがあり、その配合によって本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物の物性や加工性を制御することも可能である。ジエン由来の構成単位は架橋サイトにもなり得るので、過酸化物等の架橋剤と共に他の成分と混合することによって、プロピレン-α-オレフィン共重合体を部分的に架橋させ、加工性を改変することもできる。また、カルボン酸基等の官能基を有するプロピレン-α-オレフィン共重合体の使用により、無機物質粉末との混和性が高められ、物性や成形性が改善される場合もある。
【0029】
上記のようなプロピレン-α-オレフィン共重合体は、概して柔軟で、例えばJIS K6253-3:2012に基づくショアA硬さが10~90、典型的には20~80となる。本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、これら共重合体が配合されているため、柔軟性や耐衝撃性に優れたものとなる。プロピレン-α-オレフィン共重合体の特性は多岐に亘り、例えば質量平均分子量が20,000~5,000,000、典型的には50,000~1,000,000、特に70,000~400,000程度の範囲に;密度が0.84~0.92g/cm3、典型的には0.85~0.91g/cm3程度の範囲に;結晶化度が0.5~40%、典型的には5~25%程度の範囲に;メルトフローレート(ASTM D1238に従う2.16kg、230℃でのMFR)が0.1~90g/10分、典型的には0.5~30g/10分程度の範囲に;融解温度が40~180℃、典型的には80~160℃、特に100~140℃程度の範囲に、それぞれ亘り得るが、これらに限定されず、本発明ではどのような特性のプロピレン-α-オレフィン共重合体をも使用することができる。
【0030】
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物においては、第1の樹脂である上記プロピレン-α-オレフィン共重合体の含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して80質量部以上95質量部以下である。プロピレン-α-オレフィン共重合体の含有量が、熱可塑性樹脂全体の80質量%以上であれば、無機物質粉末が高充填されても樹脂組成物の加工性や柔軟性は殆ど損なわれない。また、共重合体の含有量が95質量部以下であれば、造形時の収縮が抑制された、形状保持性や造形精度に優れた樹脂組成物(またはフィラメント)が提供される。熱可塑性樹脂100質量部に対する第1の樹脂の含有量は、好ましくは85質量部以上93質量部以下、より好ましくは87質量部以上92質量部以下である。
【0031】
<第2の樹脂:ポリオレフィン系樹脂>
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物における第2の樹脂は、上記の第1の樹脂と異なるポリオレフィン系樹脂であればどのようなものであっても良く、目的に応じて各種の樹脂を使用することができる。ここで、ポリオレフィン系樹脂とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂であり、具体的にはポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂、その他、ポリメチル-1-ペンテン、環状オレフィンポリマー、エチレン-環状オレフィン共重合体など、さらにそれらの2種以上の混合物などが挙げられる。なお、上記「主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上含まれることを意味し、その含有量は好ましくは75質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。特に、ポリオレフィンの単独重合体(ホモポリマー)が好ましい。なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、酸素、過酸化物等のラジカル開始剤等を用いる方法等の何れによって得られたものであっても良い。
【0032】
本発明における第2の樹脂として好ましい樹脂は、ポリエチレン系樹脂及び/又はポリプロピレン系樹脂である。ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂としては、エチレン単位又はプロピレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられる。テトラフロロエチレンや酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸(エステル)等との共重合体であっても良い。例えばポリエチレン系樹脂として、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等の他、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体等を使用することもできる。プロピレンと少量の他のモノマーとの共重合体を使用しても良い。
【0033】
その中でも、本発明における第2の樹脂は、より好ましくはプロピレンホモポリマー及び/又はブロックポリプロピレンである。これらポリプロピレン系樹脂は、機械的強度と耐熱性とのバランスに優れ、無機物質粉末充填樹脂組成物中に配合されると優れた形状保持性を与える。
【0034】
(プロピレンホモポリマー)
プロピレンホモポリマー(以下、「PP」と略す場合がある。)は、実質的にプロピレンのみを重合したポリマーであり、剛性や耐熱性に優れている。様々な製品が市販されており、例として日本ポリプロ株式会社のウィンテック(登録商標)及びノバテック(登録商標)、住友化学株式会社のノーブレン(登録商標)、株式会社プライムポリマーのプライムポリプロ(登録商標)、東レ株式会社のトレカ(登録商標)、SABICペトロケミカルズのSABIC(登録商標)PP、並びにサンアロマー株式会社のサンアロマー(登録商標)等が挙げられるが、本発明においてはこれらに限定されず、どのようなPPが含まれていても良い。複数種のPPを併用することもできる。本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、プロピレンホモポリマーを第2の樹脂として含有することにより、さらに形状保持性に優れた樹脂組成物となる。
【0035】
プロピレンホモポリマーは、立体規則性の違いにより、アイソタクチックPP、シンジオタクチックPP、アタクチックPP、ヘミアイソタクチックPP等に分類される。本発明の樹脂組成物はこれらのいずれを含んでいても良く、これらを複数種併用することもできる。また、ホモポリマー中に、重合時に副生する微量成分を含んだものや、分岐構造を有するものであっても良い。例えば、重合の結果としてヘキセン等のα-オレフィンが共重合したかのような構造が5質量%以下、特に1質量%以下程度含まれる場合があるが、本発明においてはそうした重合体をも、広くプロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)として包含する。
【0036】
プロピレンホモポリマーの分子量にも特に制限はない。しかしながら本発明においては、PPとして質量平均分子量が50,000以上500,000以下程度、特に100,000以上400,000以下程度のものを使用するのが好ましい。一般に分子量が高いほど強度等の機械特性に優れ、分子量が低いほど成形性に優れる。質量平均分子量が50,000以上200,000未満程度のものと200,000以上500,000以下程度のものとを、併用することもできる。異なる分子量のPPを併用することにより、成形性を改善し、成形品の外観不良を低減させることも可能となる。
【0037】
(ブロックポリプロピレン)
ブロックポリプロピレンとは、PP中にポリエチレン等が分散した海島構造を有するポリマーであり、広義のプロピレンブロックコポリマーの一種である。例えばPP海相中にポリエチレン成分及び/又はエチレン-プロピレン共重合体成分の島相を10~50質量%程度含有するポリマーであり、異相共重合体とも呼ばれる。狭義のエチレン-プロピレンブロックコポリマー等とは異なり、ホモポリプロピレン連鎖とポリエチレン連鎖又はエチレン-プロピレン共重合体連鎖とが、必ずしも化学結合していない。この点で、第1の樹脂であるプロピレン-α-オレフィン共重合体とは、明確に区別される。一般的なブロックポリプロピレンでは、ポリエチレン島相がエチレン-プロピレン共重合体で覆われた状態でポリプロピレン海相中に分散しているので、本発明の樹脂組成物に配合されても、第1の樹脂(共重合体)と第2の樹脂との質量比を殆ど変化させない。
【0038】
上記のような異相共重合体は例えば、先ずプロピレンホモポリマーを重合させ、次いでエチレン等を共重合させることによって製造することができる。ここで、エチレン成分の比率や連鎖数、PPの分子量を調整することにより、海島構造の制御が可能である。様々な製品が市販されており、本発明においてはどのような種類のブロックポリプロピレンを使用することもできる。一般にブロックポリプロピレンは柔軟性や耐衝撃性に優れるので、本発明における第2の樹脂として使用すると、より柔軟な無機物質粉末充填樹脂組成物とすることが可能である。
【0039】
<他の熱可塑性樹脂>
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物において、熱可塑性樹脂は上記のようなプロピレン-α-オレフィン共重合体とその他のポリオレフィン系樹脂とを含むが、さらにこれら以外の樹脂成分を含んでもよい。例としてポリ(メタ)アクリル酸(エステル)、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリビニルアルコール、石油炭化水素樹脂、クマロンインデン樹脂等の熱可塑性樹脂;さらにはスチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体、スチレン-ブタジエン-エチレン共重合体、スチレン-イソプレン-エチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、フッ素系エラストマー等のエラストマーが挙げられるが、これらに限定されない。これら樹脂成分の配合により、無機物質粉末充填樹脂組成物中で各成分がより均一に分散し、物性や加工性が改善する場合がある。しかしながら各種樹脂成分の相溶性等を考慮すると、本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物における熱可塑性樹脂は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは97質量%以上、特に好ましくは実質的に全量が、上記のプロピレン-α-オレフィン共重合体及びポリオレフィン系樹脂から成る。プロピレン-α-オレフィン共重合体及びポリオレフィン系樹脂以外の樹脂成分を実質的に不含の無機物質粉末充填樹脂組成物であれば、原材料や組成、加工条件の選定が特に容易となる。
【0040】
[熱可塑性樹脂の組成]
上記のように、本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、熱可塑性樹脂成分として、プロピレン-α-オレフィン共重合体である第1の樹脂と、それとは異なるポリオレフィン系樹脂である第2の樹脂との、少なくとも2種を含有する。好ましくはそれら2種の樹脂を、特定の質量比で含有する。それによって、本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は形状保持性と柔軟性の双方に優れた物性を示し、後加工が容易で、耐衝撃性に優れた成形品へと成形することが可能となる。本発明においては、好ましくは第1の樹脂と第2の樹脂とを80~95質量部:20~5質量部の量で、より好ましくは85~93質量部:15~7質量部の量で、特に好ましくは87~92質量部:13~8質量部の量で含有する。第1の樹脂と第2の樹脂との質量比が上記範囲内であれば、形状保持性と柔軟性がバランス良く優れた無機物質粉末充填樹脂組成物とすることができる。その結果、本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、FDM用フィラメント材料としてさらに好適なものとなる。
【0041】
<無機物質粉末>
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、上記の熱可塑性樹脂と共に、無機物質粉末を含有する。無機物質粉末としては、特に限定されず、例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、若しくはこれらの水和物の粉末状のものが挙げられ、具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、タルクやカオリン等のクレー、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、ウォラストナイト、ドロマイト、黒鉛等が挙げられる。これらは合成のものであっても天然鉱物由来のものであっても良く、また、これらは単独又は2種類以上併用して含有されても良い。
【0042】
さらに、無機物質粉末の形状としても、特に限定されるわけではなく、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。また、粒子状としても、一般的に合成法により得られるような球形のものであっても、あるいは、採集した天然鉱物を粉砕にかけることにより得られるような不定形状のものであっても良い。
【0043】
これらの無機物質粉末として、好ましくは炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレー、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等であり、特に炭酸カルシウムを含むものが好ましい。さらに炭酸カルシウムとしては、合成法により調製されたもの、いわゆる軽質炭酸カルシウムと、石灰石等CaCO3を主成分とする天然原料を機械的に粉砕分級して得られる、いわゆる重質炭酸カルシウムの何れであっても良く、これらを組合わせたものであっても良い。
【0044】
しかしながら本発明においては、重質炭酸カルシウムを含む無機物質粉末を使用するのが好ましい。ここで、重質炭酸カルシウムとは、天然の石灰石等を機械的に粉砕・加工して得られるものであって、化学的沈殿反応等によって製造される合成炭酸カルシウムとは明確に区別される。なお、粉砕方法には乾式法と湿式法とがあるが、乾式法によるものが好ましい。
【0045】
重質炭酸カルシウム粒子は、例えば、合成法による軽質炭酸カルシウムとは異なり、粒子形成が粉砕処理によって行われたことに起因する、表面の不定形性、比表面積の大きさに特徴を有する。重質炭酸カルシウム粒子がこの様に不定形性、比表面積の大きさを有するため、熱可塑性樹脂中に配合した場合に重質炭酸カルシウム粒子は、熱可塑性樹脂に対してより多くの接触界面を有し、均一分散に効果がある。
【0046】
特に限定されるわけではないが、重質炭酸カルシウム粒子の比表面積としては、その平均粒子径によっても左右されるが、3,000cm2/g以上35,000cm2/g以下程度であることが望まれる。ここでいう比表面積は空気透過法によるものである。比表面積がこの範囲内にあると、得られる成形品の加工性低下が抑制される傾向がある。
【0047】
また、重質炭酸カルシウム粒子の不定形性は、粒子形状の球形化の度合いが低いことで表わすことが出来、特に限定されるわけではないが、具体的には、真円度が0.50以上0.95以下、より好ましくは0.55以上0.93以下、さらに好ましくは0.60以上0.90以下である。重質炭酸カルシウム粒子の真円度がこの範囲内にあると、成形品の強度や成形加工性も適度なものとなる。なお、ここで、真円度とは、(粒子の投影面積)/(粒子の投影周囲長と同一周囲長を持つ円の面積)で表せるものである。真円度の測定方法は特に限定されず、例えば顕微鏡写真から粒子の投影面積と粒子の投影周囲長とを測定しても良く、一般に商用されている画像解析ソフトを用いても良い。
【0048】
また、無機物質粉末の分散性又は反応性を高めるために、表面が常法に従い表面改質されていても良い。例えば、表面処理された重質炭酸カルシウムを、好ましく使用することができる。表面改質法としては、プラズマ処理等の物理的な方法や、カップリング剤や界面活性剤で表面を化学的に表面処理するもの等が例示できる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤やチタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の何れのものであっても良く、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。これらとは逆に、表面処理のされていない無機物質粉末が含有されていても構わない。
【0049】
炭酸カルシウム粒子等の無機物質粉末としては、特に限定される訳ではないが、その平均粒子径が、0.5μm以上9.0μm以下が好ましく、0.7μm以上6.0μm以下がより好ましく、さらに好ましくは、1.0μm以上4.0μm以下である。なお、本明細書において述べる無機物質粉末の平均粒子径は、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値をいう。測定機器としては、例えば、島津製作所製の比表面積測定装置SS-100型を好ましく用いることができる。平均粒子径が9.0μmよりも大きくなると、例えばシート状の成形品を形成した場合に、その成形品の層厚にもよるが、成形品表面より無機物質粉末が突出して、当該粉末が脱落したり、表面性状や機械強度等を損なうおそれがある。特に、その粒径分布において、粒子径45μm以上の粒子を含有しないことが好ましい。他方、粒子が細かくなり過ぎると、前述した樹脂と混練した際に粘度が著しく上昇し、成形品の製造が困難になる虞れがある。そうした問題は、無機物質粉末の平均粒子径を0.5μm以上、特に0.7μm以上6.0μm以下とすることによって、防ぐことが可能となる。
【0050】
上記のように、本発明においては無機物質粉末として炭酸カルシウムを使用することが好ましい。より好ましくは、該炭酸カルシウムが、JIS M-8511による空気透過法により測定した平均粒子径が0.5μm以上2.0μm未満、特に0.7μm以上2.0μm未満である第1の炭酸カルシウムと、JIS M-8511による空気透過法により測定した平均粒子径が2.0μm以上9.0μm未満、特に2.0μm以上6.0μm未満である第2の炭酸カルシウムとを含有する。このことによって、成形品の表面性状や、印刷性、ブロッキング性等の物性を改善することができる。また、炭酸カルシウムの偏在が抑制され、外観及び、破断伸び等の機械的特性が良好な成形品を得ることができ、樹脂組成物成形品からの炭酸カルシウムの脱落を低減することも可能となる。特に限定されるわけではないが、第1の炭酸カルシウムの平均粒子径をaとし、第2の炭酸カルシウムの平均粒子径をbとした場合に、a/b比率が0.85以下、より好ましくは0.10~0.70、さらに好ましくは0.10~0.50程度となるように大別できるものであることが望ましい。このようなある程度明確な平均粒子径の差をもったものを併用することで、特に優れた効果が期待できるためである。また、第1の炭酸カルシウムと第2の炭酸カルシウムのそれぞれは、その粒子径(μm)の分布の変動係数(Cv)が0.01~0.10程度であることが望ましく、特に0.03~0.08程度であることが望ましい。変動係数(Cv)で規定される粒子径のばらつきがこの程度であれば、各粉末群がより相補的に効果を与え得ると考えられる。第1の炭酸カルシウムと第2の炭酸カルシウムとの質量比は、90:10~98:2、特に92:8~95:5程度とすることが好ましい。平均粒子径分布が異なる炭酸カルシウム群として、3つ以上のものを使用してもよい。また、前記第1の炭酸カルシウム及び前記第2の炭酸カルシウムが、何れも表面処理された重質炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0051】
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物においては、上記した熱可塑性樹脂と無機物質粉末とが、50:50~10:90の質量比で含有される。無機物質粉末の含有量が少ないと、造形時の収縮率や反りが改善されない場合があり、多すぎると混練や成形加工が困難となり、柔軟性も不十分となるためである。熱可塑性樹脂と無機物質粉末との合計質量に占める無機物質粉末の比率は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは75質量%以上である。同比率の上限値に関しては、好ましくは87質量%以下、より好ましくは85質量%以下、特に好ましくは82質量%以下とする。それと共に、熱可塑性樹脂100質量部に対する第1の樹脂の含有量を80質量部以上95質量部以下とする、例えば無機物質粉末充填樹脂組成物全体に対する第1の樹脂の含有量を8~47質量%、特に15~40質量%程度とすることにより、形状保持性や柔軟性等の物性を、さらにバランス良く改善することができる。その結果、本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、FDM用フィラメント材料としてさらに好適なものとなる。
【0052】
<その他の添加剤>
本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物には、必要に応じて、補助剤としてその他の添加剤を配合することも可能である。その他の添加剤としては、例えば、色剤、滑剤、カップリング剤、流動性改良材(流動性調整剤)、架橋剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤等を配合しても良い。これらの添加剤は、単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。また、これらは、後述の混練工程において配合しても良く、混練工程の前にあらかじめ原料成分中に配合していても良い。本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物において、これらのその他の添加剤の添加量は、所望の物性及び加工性を阻害しない限り特に限定されるものではないが、例えば、無機物質粉末充填樹脂組成物全体の質量を100%とした場合に、これらその他の添加剤はそれぞれ0~10質量%程度、特に0.04~5質量%程度の割合で、かつ当該その他の添加剤全体で10質量%以下となる割合で配合されることが望まれる。
【0053】
以下に、これらのうち、重要と考えられるものについて例を挙げて説明するが、これらに限られるものではない。
【0054】
可塑剤としては、例えば、クエン酸トリエチル、クエン酸アセチル・トリエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアリール、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジ-2-メトキシエチル、酒石酸ジブチル、o-ベンゾイル安息香酸エステル、ジアセチン、エポキシ化大豆油等が挙げられる。これら可塑剤は通常、熱可塑性樹脂に対して数質量%程度配合されるが、その量はこれら範囲に限定されず、成形品の目的によってはエポキシ化大豆油等を20~50質量部程度配合することも可能である。本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物においては、その配合量は熱可塑性樹脂100質量部に対し0.5~10質量部、特に1~5質量部程度とするのが好ましい。
【0055】
色剤としては、公知の有機顔料又は無機顔料あるいは染料の何れをも用いることができる。具体的には、アゾ系、アンスラキノン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、イソインドリノン系、ジオオサジン系、ペリノン系、キノフタロン系、ペリレン系顔料などの有機顔料や群青、酸化チタン、チタンイエロー、酸化鉄(弁柄)、酸化クロム、亜鉛華、カーボンブラックなどの無機顔料が挙げられる。
【0056】
滑剤としては、例えば、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、複合型ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸系滑剤;脂肪族アルコール系滑剤;ステアロアミド、オキシステアロアミド、オレイルアミド、エルシルアミド、リシノールアミド、ベヘンアミド、メチロールアミド、メチレンビスステアロアミド、メチレンビスステアロベヘンアミド、高級脂肪酸のビスアミド酸、複合型アミド等の脂肪族アマイド系滑剤;ステアリン酸-n-ブチル、ヒドロキシステアリン酸メチル、多価アルコール脂肪酸エステル、飽和脂肪酸エステル、エステル系ワックス等の脂肪族エステル系滑剤;脂肪酸金属石鹸系滑剤、例えばジンクステアレート等を挙げることができる。
【0057】
酸化防止剤としては、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ペンタエリスリトール系酸化防止剤が使用できる。リン系、より具体的には亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系酸化防止安定剤が好ましく用いられる。亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等が挙げられる。
【0058】
リン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2-エチルフェニルジフェニルホスフェート等が挙げられる。これらリン系酸化防止剤は単独で用いても良く、二種以上を組み合わせて用いても良い。
【0059】
フェノール系の酸化防止剤としては、α-トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン、シナピルアルコール、ビタミンE、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネイト、2-t-ブチル-6-(3'-t-ブチル-5'-メチル-2'-ヒドロキシベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2,6-ジ-t-ブチル-4-(N,N-ジメチルアミノメチル)フェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネイトジエチルエステル、及びテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン等が例示され、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。
【0060】
難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、ハロゲン系難燃剤や、あるいはリン系難燃剤や金属水和物などの非リン系ハロゲン系難燃剤を用いることができる。ハロゲン系難燃剤としては、具体的には例えば、ハロゲン化ビスフェニルアルカン、ハロゲン化ビスフェニルエーテル、ハロゲン化ビスフェニルチオエーテル、ハロゲン化ビスフェニルスルフォンなどのハロゲン化ビスフェノール系化合物、臭素化ビスフェノールA、臭素化ビスフェノールS、塩素化ビスフェノールA、塩素化ビスフェノールSなどのビスフェノール-ビス(アルキルエーテル)系化合物等が、またリン系難燃剤としては、トリス(ジエチルホスフィン酸)アルミニウム、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、リン酸トリアリールイソプロピル化物、クレジルジ2、6-キシレニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステル等が、金属水和物としては、例えば、アルミニウム三水和物、二水酸化マグネシウム又はこれらの組み合わせ等がそれぞれ例示でき、これらは単独で又は2種以上を組合せて使用することができる。難燃助剤として働き、より効果的に難燃効果を向上させることが可能となる。さらに、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化モリブデン、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等を難燃助剤として併用することも可能である。
【0061】
発泡剤は、溶融混練機内で溶融状態にされている原料である無機物質粉末充填樹脂組成物に混合、又は圧入し、固体から気体、液体から気体に相変化するもの、又は気体そのものであり、主として発泡シートの発泡倍率(発泡密度)を制御するために使用される。発泡剤は、常温で液体のものは樹脂温度によって気体に相変化して溶融樹脂に溶解し、常温で気体のものは相変化せずそのまま溶融樹脂に溶解する。溶融樹脂に分散溶解した発泡剤は、溶融樹脂を押出ダイからシート状に押出した際に、圧力が開放されるのでシート内部で膨張し、シート内に多数の微細な独立気泡を形成して発泡シートが得られる。発泡剤は、副次的に原料樹脂組成物の溶融粘度を下げる可塑剤として作用し、原料樹脂組成物を可塑化状態にするための温度を低くする。
【0062】
発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;クロロジフルオロメタン、ジフロオロメタン、トリフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロメタン、ジクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、クロロメタン、クロロエタン、ジクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロエタン、テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、トリフルオロエタン、ジクロロテトラフルオロエタン、トリクロロトリフルオロエタン、テトラクロロジフルオロエタン、パーフルオロシクロブタンなどのハロゲン化炭化水素類;二酸化炭素、チッ素、空気などの無機ガス;水などが挙げられる。
【0063】
発泡剤としては、さらに、例えば、キャリアレジンに発泡剤の有効成分が含まれるものを好ましく用いる事ができる。キャリアレジンとしては、結晶性オレフィン樹脂等が挙げられる。これらのうち、結晶性ポリプロピレン樹脂が好ましい。また、有効成分としては、炭酸水素塩等が挙げられる。これらのうち、炭酸水素塩が好ましい。結晶性ポリプロピレン樹脂をキャリアレジンとし、炭酸水素塩を熱分解型発泡剤として含む発泡剤コンセントレートであることが好ましい。
【0064】
成形工程において発泡剤に含まれる発泡剤の含有量はポリオレフィン系樹脂、プロピレン-α-オレフィン共重合体、及び無機物質粉末の量等に応じて、適宜設定することができ、無機物質粉末充填樹脂組成物の全質量に対して0.04~5.00質量%の範囲とすることが好ましい。
【0065】
流動性調整剤としても、種々の慣用のものを使用することができる。例としてジアルキルパーオキサイド等の過酸化物、例えば1,4-ビス[(t-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン等が挙げられるが、これらに限定されない。使用する熱可塑性樹脂の種類によっては、これら過酸化物は架橋剤としても作用する。特に上記プロピレン-α-オレフィン共重合体がジエン由来の構成単位を有する場合、上記過酸化物の作用で共重合体の一部が架橋し、樹脂組成物の物性や加工性を制御する上での一助となり得る。過酸化物の添加量に特に制限はないが、無機物質粉末充填樹脂組成物の全質量に対して0.04~2.00質量%、特に0.05~0.50質量%程度の範囲とすることが好ましい。
【0066】
帯電防止剤としては、例えばラウリルジエタノールアミド、ステアリルジエタノールアミド等の脂肪酸ジエタノールアミド、アルコールアミン系化合物を始めとする水酸基含有化合物等を用いることが可能である。特に、アルコールアミン類、例えばモノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が好ましい。2種以上の帯電防止剤を併用することもできる。これら帯電防止剤は、ケイ酸カルシウムや炭酸カルシウム等に担持されていても良い。なお、脂肪酸ジエタノールアミドのアシル基の炭素数の範囲としては8~22程度が、十分な帯電防止効果を発揮し得る上から望ましい。このような帯電防止剤の配合量としては、無機物質粉末配合熱可塑性樹脂組成物全体の質量を100質量%とした場合に、0.01~8.00質量%程度、より好ましくは0.02~4.00質量%、さらに好ましくは0.05~3.00質量%、特に0.10~1.50質量%程度となる割合で配合されることが望まれる。この範囲内で用いることにより、十分な帯電防止効果が得られることに加え、樹脂表面がべとついたり樹脂物性への悪影響が生じる虞れも少ない。
【0067】
≪FDM用フィラメント用無機物質粉末充填樹脂組成物≫
本発明はまた、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する熱溶解積層法3Dプリンタフィラメント用の無機物質粉末充填樹脂組成物であって、熱可塑性樹脂は第1の樹脂と第2の樹脂とを含有し、第1の樹脂はプロピレン-α-オレフィン共重合体であり、第2の樹脂は前記第1の樹脂とは異なるポリオレフィン系樹脂であり、かつ第1の樹脂の含有量が、熱可塑性樹脂100質量部に対して80質量部以上95質量部以下であることを特徴とする、熱溶解積層法3Dプリンタフィラメント用の無機物質粉末充填樹脂組成物である。こうした樹脂組成物は、上記のように良好な形状保持性を示し、柔軟で後加工も容易なので、FDM用フィラメント材料として好適である。
【0068】
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物は、目的とする造形品に応じてどのような物性を有していても良いが、造形精度を高める観点からは、密度が1.40~2.2g/cm3(JISK7112)、メルトフローレイトが0.5~4.0g/10min(230℃、2,16kgJISK7210)、引張降伏応力が10~2.2MPa(JISK7161)、引張弾性率が2500~5000MPa(JISK7161)程度であることが好ましい。こうした物性の樹脂組成物であれば、成形加工が容易で、かつ十分な強度を呈する。
【0069】
≪無機物質粉末充填樹脂組成物の製造方法≫
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物の製造方法としては、通常の方法を使用することができ、成形方法(押出成形、射出成形、真空成形等)に応じて適宜設定して良く、例えば、成形機にホッパーから投入する前に第1の樹脂、第2の樹脂と無機物質粉末とを混練溶融しても良く、成形機と一体で成形と同時に第1の樹脂、第2の樹脂と無機物質粉末とを混練溶融しても良い。溶融混練は、各成分を均一に分散させる傍ら、高い剪断応力を作用させて混練することが好ましい。混合装置としても、一般的な押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等種々のものを用いることができるが、例えば二軸混練機で混練することが好ましい。
【0070】
本発明の製造方法において、第1の樹脂、第2の樹脂、及び無機物質粉末の混練順序に特に制限はない。例えばこれら3者を同時に混練することもでき、第1の樹脂と第2の樹脂とを一旦混練した後、その熱可塑性樹脂混合物と無機物質粉末とを混練することも可能である。第1の樹脂と第2の樹脂のそれぞれに無機物質粉末を混練し、2種の熱可塑性樹脂の溶融粘度を揃えてから両者を混練してもよい。第1の樹脂と無機物質粉末とを一旦混練し、その後、第2の樹脂を混練することも可能である。
【0071】
本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物の製造方法において、無機物質粉末充填樹脂組成物はペレットの形態であっても良く、ペレットの形態でなくても良いが、ペレットの形態である場合、ペレットの形状は特に限定されず、例えば、円柱、球形、楕円球状等のペレットを成形しても良い。
【0072】
ペレットのサイズは、形状に応じて適宜設定すれば良いが、例えば、球形ペレットの場合、直径1~10mmであって良い。楕円球状のペレットの場合、縦横比0.1~1.0の楕円状とし、縦横1~10mmであって良い。円柱ペレットの場合は、直径1~10mmの範囲内、長さ1~10mmの範囲内であって良い。これらの形状は、後述する混練工程後のペレットに対して成形させて良い。ペレットの形状は、常法に従って成形させて良い。
【0073】
≪成形品≫
本発明に係る成形品は、上記した無機物質粉末充填樹脂組成物からなる成形品である。本発明に係る成形品の形状等においては特に限定されるものではなく、各種の形態のものであって良い。例えば、肉厚40μm~20mm、特に50μm~1,000μm程度のシートや、各種形状の容器体、筐体、日用品等、各種の押出成形品や射出成形品とすることができる。
【0074】
本発明の成形品の製造方法としては、所望の形状に成形できるものであれば特に限定されず、従来公知の押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、カレンダー成形等の何れの方法によっても成形加工可能である。さらにまた、本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物が発泡剤を含有し、発泡体である態様の成形品を得る場合においても、所望の形状に成形できるものであれば発泡体の成形方法として従来公知の、例えば、射出発泡,押出発泡,発泡ブロー等の液相発泡法、あるいは、例えば、ビーズ発泡,バッチ発泡,プレス発泡,常圧二次発泡等の固相発泡法の何れを用いることも可能である。前記した、結晶性ポリプロピレンをキャリアレジンとし、炭酸水素塩を熱分解型発泡剤として含む熱可塑性組成物の一態様においては、射出発泡法及び押出発泡法が望ましく用いられ得る。
【0075】
<押出成形品の製造方法>
本発明の成形品は、好ましくは押出成形品である。例としてシート、ロッド、パイプ、チューブ、ストランド等の種々の形状の物品が挙げられるが、これらに限定されない。押出成形方法に特に制限はなく、汎用の一軸押出、二軸押出等の手法を用いることができる。また、各成分を混練する工程と、シート等に成形する工程とを連続的に行う直接法を用いても良く、例えば、Tダイ方式の二軸押出し成形機を使用する方法を用いても良い。
【0076】
シート状に成形する場合においては、その成形時あるいはその成形後に一軸方向又は二軸方向に、ないしは、多軸方向(チューブラー法による延伸等)に延伸することが可能である。二軸延伸の場合には、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸であっても良い。成形後のシートに対し、延伸(例えば、縦及び/又は横延伸)を行うと、シート内に微小な空隙が生じる。シート内に微小な空隙が生じることにより、シートの白色度が良好なものとなる。
【0077】
なお、射出成形、押出成形等における成形温度としては、その成形方法や使用するポリプロピレン系樹脂の種類等によってもある程度異なるため、一概には規定できるものではないが、例えば、180~260℃、より好ましくは190~230℃の温度であれば、本発明に係る無機物質粉末充填樹脂組成物が、良好なドローダウン特性、延展性を持って、かつ組成物が局部的にも変性を生じることなく所定形状に成形できる。
【0078】
≪FDM用フィラメント≫
本発明の成形品は、特に好ましくは熱溶解積層法3Dプリンタフィラメントである。本発明のFDM用フィラメントは、造形時の熱収縮や反りが抑制されて良好な形状保持性を示し、柔軟で後加工が容易であって造形精度に優れ、かつ耐衝撃性が高い利点を有する。
【0079】
<フィラメント>
本発明のFDM用フィラメントの直径は、熱溶解積層法による樹脂成形体の成形に使用する製造装置の能力に応じて任意に設定することができる。直径の下限値は、好ましくは0.5mm以上、より好ましくは1.0mm以上、特に好ましくは1.5mm以上であり、一方で上限値は、好ましくは5.0mm以下、より好ましくは4.0mm以下、さらに好ましくは3.5mm以下、特に好ましくは3.0mm以下である。本発明の樹脂組成物は、概して比重が高いため、細いFDM用フィラメントを成形することができる。
【0080】
さらにFDM用フィラメント径の精度は、フィラメントの任意の測定点に対して±5%以内の誤差に納めることが、原料供給の安定性の観点から好ましい。特に、本発明のFDM用フィラメントは、径の標準偏差が0.07mm以下、特に0.06mm以下であることが好ましい。標準偏差は、フィラメントを3cm間隔にて10点、ノギスにて長径と短径を計測して求めることができる。
【0081】
また、本発明のFDM用フィラメントは、真円度が0.93以上、特に0.95以上であることが好ましい。真円度の上限は1.0である。真円度は、例えばフィラメントを3cm間隔にて10点、ノギスにて長径と短径を計測し、それぞれの測定点における短径/長径の比率を求め、測定した10点における短径/長径の比率の平均を真円度とすることができる。
【0082】
また、本発明のFDM用フィラメントについて、切断時伸びは30%以上であることが好ましく、100%以上であることがフィラメントの靱性を向上し、フィラメントを取り込む際にフィラメントが折れることを抑制できる観点から好ましい。この破断ひずみの上限は特に設定されないが、通常1000%程度である。
【0083】
本発明のFDM用フィラメントの製造方法は特に制限されないが、本発明の無機物質粉末充填樹脂組成物を、例えば押出成形等の公知の成形方法により成形する方法や、樹脂組成物の製造時にそのままフィラメントとする方法等によって得ることができる。例えば上記したような押出条件で樹脂組成物を混練すると同時にフィラメント状に成形し、本発明のFDM用フィラメントとすることも可能である。
【0084】
<フィラメントの巻回体及びカートリッジ>
本発明のFDM用フィラメントを用いて3次元プリンターにより樹脂成形体を製造するにあたり、通常はボビンに巻きとった巻回体として密閉包装されるか、又は、巻回体がカートリッジに収納されていることが、長期保存、安定した繰り出し、湿気等の環境要因からの保護、捩れ防止等の観点から好ましい。カートリッジとしては、ボビンに巻き取った巻回体の他、内部に防湿材または吸湿材を使用し、少なくともフィラメントを繰り出すオリフィス部以外が密閉されている構造のものが挙げられる。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0086】
[実施例1]
下記の原材料を用いて無機物質粉末充填樹脂組成物のペレットを作製し、該ペレットからフィラメント等の試験片を成形して、各種評価試験に付した。
・R1-1(第1の樹脂):vistamaxx(登録商標)6502、エクソンモービルコーポレーション製のエチレン-プロピレンコポリマー(密度0.865g/cm3)
・R2-1(第2の樹脂):株式会社プライムポリマー製のプロピレンホモポリマー(MFR:0.5g/10min)
・CC1:備北粉化工業株式会社製の重質炭酸カルシウム(表面処理なし) 平均粒子径:2.2μm、BET比表面積:1.0m2/g、真円度:0.85
・滑剤:マグネシウムステアレート
【0087】
HTM50型異方向回転式二軸押出機((株)シーティーシー製)にR1-1を24質量部、R1-2を6質量部、CC1を70質量部、滑剤を1質量部投入し、混練して原料ペレットを調製した。
【0088】
上記ペレットを、スクリュー径15mmの二軸混練押出機に導入し、フィラメントを製造した。二軸混練押出機は、設定温度200℃、吐出量1.0kg/hrとした上で、ダイス径3mmから樹脂組成物を押出し、40℃の水槽を経て引取り装置で5m/minで引取った。得られたフィラメントの断面の直径は1.65mmから1.90mmの範囲であった。
【0089】
上記で得られたフィラメントを、ホットプロシード社製の熱溶解積層法3Dプリンター「BLADE-1」に導入し、上方に開口部を有するカップ形状の成形体1(3次元造形物)の成形を行った。製造条件は、スタンダードモード、プリント速度150mm/秒とし、また、基盤温度を60℃として吐出温度は200℃で行った。溶融樹脂は、押出ヘッドから直径0.1mmのストランド状に吐出された。
【0090】
得られた成形体を目視観察し、造形における再現性及び後加工性を、以下の基準で評価した。
(再現性)
・○:ほぼ成形体1と同じ形態が再現されている。
・△:反りの発生とまではいえないが、いびつさが感じられる。
・×:部分的に反りの発生がみられる。
(後加工性)
23℃55%RHの環境下、やすり300番と800番を使用して後加工を行い、後加工性を官能評価した。
・○:いずれのやすりでも容易に切削することができる。
・△:切削するのにし辛さを感じる。
・×:切削するのに明らかに時間がかかる。
【0091】
上記ペレットから、80mm×10mm×1mmの試験片を射出成形し、試験片の外観を観察して熱収縮の大小を評価した。また、同試験片を用いて、下記の可撓性(柔軟性)試験を行った。
(熱収縮性)
・〇:試験片の表面が、ほぼ平滑であった。
・△:試験片中央部が、僅かに凹んだ形状となっていた。
・×:試験片中央部が著しく収縮し、明らかに凹状となっていた。
(可撓性)
上記の試験片を手で折り曲げ、以下の基準に従って柔軟性を評価した。
・◎:試験片を160°前後まで5回折り曲げたが、破断しなかった。
・〇:試験片を160°前後まで2~3回折り曲げない限り、破断しなかった。
・△:試験片を120°程度以上折り曲げると、1回で破断してしまった。
・×:試験片を90~120°程度折り曲げると、1回で破断してしまった。
各評価結果を、樹脂組成物の配合と共に、後記する表1に示す。
【0092】
[実施例2~3、比較例1~3]
原材料の配合量を、表1に示すように変化させ、実施例1と同様の操作を行った。評価結果を、後記する表1に示す。
【0093】
[比較例4]
R1-1を4質量部、R2-1を1質量部、CC1を95質量部、滑剤を1質量部使用し、実施例1と同様の操作を試みたが、混練時の粘度上昇が著しく、試料調製自体ができなかった。
【0094】
[比較例5~6]
市販のポリ乳酸(PLA)、ABS樹脂を使用して実施例1と同様の操作を行った。評価結果を、各試料の配合と共に、後記する表1に示す。
【0095】
【0096】
本発明に従い、熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有し、第1の樹脂としてのプロピレン-α-オレフィン共重合体と第2の樹脂としてのポリプロピレンとを含み、かつ第1の樹脂の含有量が熱可塑性樹脂100質量部に対して80質量部以上95質量部以下である実施例1~3の試料は、いずれも良好な再現性、後加工性、及び熱収縮性を示し、FDM用フィラメント材料として好適であることが判明した。本発明に従う無機物質粉末充填樹脂組成物はまた、高い可撓性を示し、柔軟性に優れる材料であることが明らかとなった。一方、第1の樹脂の含有量が本発明で規定する範囲外の比較例1では、樹脂組成物は硬くなり、後加工性や可撓性が低下した。反対に第2の樹脂を含まない比較例2の樹脂組成物は、可撓性は良好だが、再現性や熱収縮性の点で、FDM用フィラメント材料としては不適切であった。無機物質粉末含有量の少ない比較例3の樹脂組成物でも、比較例2と同様の結果となった。また、ポリ乳酸やABS樹脂を配合した樹脂組成物は、それぞれ可撓性や再現性等が劣っていた。
【0097】
[実施例4~7、比較例7~10]
下記の原材料を用い、表2に示す配合の試料を、実施例1と同様にして作製した。
・R1-2(第1の樹脂):vistamaxx(登録商標)6102、エクソンモービルコーポレーション製のエチレン-プロピレンブロックコポリマー(エチレン含有率16%、密度0.862g/cm3)
・R2-2(第2の樹脂):株式会社プライムポリマー製のプロピレンホモポリマー(MFR:2.0g/10min)
・R2-3(第2の樹脂):株式会社プライムポリマー製のブロックポリプロピレン(MFR:55g/10min)
・CC2:丸尾カルシウム株式会社製の重質炭酸カルシウム(表面処理品)MCコートS-20 平均粒子径:2.3μm、BET比表面積:20000m2/g
・CC3:軽質炭酸カルシウム(表面処理なし) 平均粒子径:1.5μm、BET比表面積:0.1m2/g、真円度:1.00
【0098】
得られた各試料について、実施例1と同様に成形して試験・評価した。また、下記の方法により、メルトフローレート(MFR)とシャルピー衝撃強度を測定した。各試料の配合及び試験・評価結果を、表2に示す。
(MFR)
230℃-2.16kgの条件で測定した。
(シャルピー衝撃強度)
80mm×10mm×1mmの試験片を用い、ISO179/1eAに従い測定した。
【0099】
【0100】
本発明に従い、第1の樹脂としてのプロピレン-α-オレフィン共重合体と第2の樹脂としてのポリプロピレンとを含有し、かつ第1の樹脂の含有量が熱可塑性樹脂100質量部に対して80質量部以上95質量部以下である実施例4~7の試料は、いずれも良好な再現性、後加工性、及び熱収縮性を示した。MFRも適度な値を示し、加工性に優れ、FDM用フィラメント材料として好適な材料であることが判明した。本発明に従う実施例4~7の無機物質粉末充填樹脂組成物はまた、柔軟性に優れ、高い可撓性及びシャルピー衝撃強度を示した。
【要約】
【課題】熱収縮等が抑制され、かつ柔軟で耐衝撃性にも優れる、FDM用フィラメント材料として好適な無機物質粉末充填樹脂組成物、熱溶解積層法3Dプリンタフィラメント用無機物質粉末充填樹脂組成物、及び熱溶解積層法3Dプリンタフィラメントを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含有する無機物質粉末充填樹脂組成物であって、前記熱可塑性樹脂は第1の樹脂と第2の樹脂とを含有し、前記第1の樹脂はプロピレン-α-オレフィン共重合体であり、前記第2の樹脂は前記第1の樹脂とは異なるポリオレフィン系樹脂であり、かつ前記第1の樹脂の含有量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対して80質量部以上95質量部以下であることを特徴とする、無機物質粉末充填樹脂組成物。
【選択図】なし