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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】信号処理回路
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/26 20060101AFI20220526BHJP
【FI】
H04L27/26 200
H04L27/26 310
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017023445
(22)【出願日】2017-02-10
(65)【公開番号】P2017188874
(43)【公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-01-07
(31)【優先権主張番号】16163580.0
(32)【優先日】2016-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507219491
【氏名又は名称】エヌエックスピー ビー ヴィ
【氏名又は名称原語表記】NXP B.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 60, NL-5656 AG Eindhoven, Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100167623
【弁理士】
【氏名又は名称】塚中 哲雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【弁理士】
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】エンゲン ヌール
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーン アンドレー クーネン オードリー
【審査官】川口 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-162282(JP,A)
【文献】特開2007-251909(JP,A)
【文献】国際公開第2005/055479(WO,A1)
【文献】米国特許第04441199(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0234006(US,A1)
【文献】特表2010-504702(JP,A)
【文献】特開2008-029009(JP,A)
【文献】特開2011-182396(JP,A)
【文献】特開2014-093628(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0323857(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0161202(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0142218(US,A1)
【文献】日野 貴哉ほか,帯域外漏洩電力制約下でのOFDM信号のピーク振幅抑圧に関する検討,電子情報通信学会論文誌B,2014年,第J97-B巻,第6号,pp.454-464
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリップ生成ブロックと、
スケーリング・ブロックと、
加算器とを具えた信号処理回路であって、
前記クリップ生成ブロックは、
入力信号を受信し、
クリップ信号を決定するように構成され、
前記スケーリング・ブロックは、前記クリップ信号にスケーリング係数を適用して、スケーリングされたクリップ信号を発生するように構成され、前記スケーリング係数は1よりも大きく、
前記加算器は、前記スケーリングされたクリップ信号と前記入力信号との差である出力信号を提供するように構成され、
前記クリップ信号が、
前記入力信号がクリッピング閾値よりも小さい瞬時における0の値と、
前記入力信号が前記クリッピング閾値よりも大きい瞬時における0でない値とを含み、
前記0でない値が、前記入力信号と前記クリッピング閾値との差で構成され、
フィードバック・ブロックをさらに具え、該フィードバック・ブロックは、前記クリップ生成ブロック及び/または前記スケーリング・ブロックにフィードバックループを提供し、前記フィードバック・ブロックは、
前記出力信号のPAPR値及び/または歪み尺度を測定し、
前記クリップ生成ブロックに前記フィードバックループが提供される場合に、前記PAPR値及び/または前記歪み尺度に基づいて、前記クリップ生成ブロックフィードバック信号を提供し、前記スケーリング・ブロックに前記フィードバックループが提供される場合に、前記PAPR値及び/または前記歪み尺度に基づいて、前記スケーリング・ブロックにフィードバック信号を提供するように構成され、
前記クリップ生成ブロックが、前記フィードバック信号に基づいて、調整されたクリッピング閾値を前記入力信号に適用するように構成され
前記スケーリング・ブロックが、前記フィードバック信号に基づいて、調整されたスケーリング係数を前記クリップ信号に適用するように構成されている、信号処理回路。
【請求項2】
前記スケーリング係数が周波数領域のスケーリング係数を含み、該周波数領域のスケーリング係数は、周波数と共に変化する関数を定義する、請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項3】
前記周波数領域のスケーリング係数が、ランダムに発生した複数の値を含み、これらの値は最大値と最小値との間の値域に限定される、請求項2に記載の信号処理回路。
【請求項4】
前記スケーリング係数が、時間領域のスケーリング係数を含む、請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項5】
前記スケーリング・ブロックが、前記クリップ信号に前記スケーリング係数を乗算して、前記スケーリングされたクリップ信号を発生するように構成されている、請求項1~4のいずれかに記載の信号処理回路。
【請求項6】
フィルタをさらに具え、該フィルタは、
(i) 前記スケーリングされたクリップ信号中のあらゆる帯域外項、及び/または、
(ii) 前記スケーリングされたクリップ信号中のあらゆるパイロット・サブキャリアを減衰させて、スケーリングされフィルタ処理されたクリップ信号を提供するように構成され、
前記加算器が、前記スケーリングされフィルタ処理されたクリップ信号と前記入力信号との差に基づいて、前記クリップされた信号を提供するように構成されている、請求項1~5のいずれかに記載の信号処理回路。
【請求項7】
前記フィードバック・ブロックが、
前記クリップされた信号のPAPR値が目標値に達するまで、
前記クリップされた信号の歪み尺度が目標値に達するまで、あるいは、
前記フィードバックループの所定回数の反復を実行するまで、
異なるクリッピング閾値及び/または異なるスケーリング係数を適用すべく前記フィードバックループの追加的反復を生じさせるように構成されている、請求項1に記載の信号処理回路。
【請求項8】
前記フィードバック・ブロックが、前記フィードバックループの2回目及びその後の各回の反復について、
前記調整されたクリッピング閾値でクリップされた前記入力信号に基づく、前記クリップされた信号のPAPR値、
前記調整されたクリッピング閾値でクリップされた前記入力信号に基づく、前記クリップされた信号の歪み尺度、
前記フィードバックループの以前の反復における前回のクリッピング閾値でクリップされた前記入力信号に基づく、前回のPAPR値、及び、
前記フィードバックループの以前の反復における前回のクリッピング閾値でクリップされた前記入力信号に基づく、前回の歪み尺度、
のうちの1つ以上を測定するように構成されている、請求項1または7に記載の信号処理回路。
【請求項9】
前記フィードバック・ブロックが、
前記クリップされた信号のPAPR値と前記前回のPAPR値との差が目標値に低減されるまで、あるいは、
前記クリップされた信号の現在の歪み尺度と前記前回の歪み尺度との差が目標値に低減されるまで、
異なる前記クリッピング閾値を適用し、及び/または、異なる前記スケーリング係数を適用すべく、前記フィードバックループの追加的反復を生じさせるように構成されている、請求項8に記載の信号処理回路。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の信号処理回路を具えたOFDM送信機。
【請求項11】
入力信号を処理する方法であって、
クリップ信号を決定するステップと、
前記クリップ信号にスケーリング係数を適用して、スケーリングされたクリップ信号を発生するステップであって、前記スケーリング係数が1よりも大きいステップと、
前記スケーリングされたクリップ信号と前記入力信号との差である出力信号を提供するステップと
を含み、
前記クリップ信号が、
前記入力信号がクリッピング閾値よりも小さい瞬時における0の値と、
前記入力信号が前記クリッピング閾値よりも大きい瞬時における0でない値とを含み、
前記0でない値が、前記入力信号と前記クリッピング閾値との差で構成され、
前記出力信号のPAPR値及び/または歪み尺度を測定するステップと、
前記PAPR値及び/または前記歪み尺度に基づいてフィードバック信号を提供するステップと、
前記フィードバック信号に基づいて前記クリッピング閾値を調整するステップと
をさらに含む方法。
【請求項12】
コンピュータに請求項11に記載の方法を実行させるか、あるいは、該コンピュータを、請求項1に記載の信号処理回路が具える前記クリップ生成ブロック、前記スケーリング・ブロック、前記加算器、及び前記フィードバック・ブロックとして機能させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は信号処理回路に関するものであり、特に、必然的ではないが、直交周波数分割多重(OFDM:orthogonal frequency division multiplexing)送信機に関するものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0002】
本発明の第1の態様によれば、信号処理回路が提供され、この信号処理回路は:
クリップ生成ブロックと;
スケーリング・ブロックと;
加算器とを具え、
クリップ生成ブロックは:
入力信号を受信し;
クリッピング閾値を超える入力信号の値のみを含むクリップ信号を決定するように構成され、
スケーリング・ブロックは、クリップ信号にスケーリング(拡大縮小)係数を適用して、スケーリングされたクリップ信号を発生するように構成され、スケーリング係数は1よりも大きく、
加算器は、スケーリングされたクリップ信号と入力信号との差に基づいて、クリップされた信号を提供するように構成されている。
【0003】
こうした信号処理回路は、スケーリング係数を用いなかった場合よりも低いクリッピング閾値を用いることができるので、生じる誤差/歪みをより低くすることができる。また、所定レベルの誤差に対して、スケーリング・ブロックを含まない回路に比べると、低減されたPAPR(peak-to-average power ratio:ピーク対平均電力比)を達成することができる。
【0004】
1つ以上の好適例では、上記スケーリング係数が周波数領域のスケーリング係数を含み、この周波数領域のスケーリング係数は、周波数と共に変化する関数を定義することができる。この周波数領域のスケーリング係数は、ランダムに発生した複数の値を含むことができ、これらの値は最大値と最小値との間の値域に限定することができる。最大値は1よりも大きくすることができる。
【0005】
上記スケーリング係数は、時間領域のスケーリング係数を含むことができる。
【0006】
1つ以上の好適例では、上記クリップ信号が:入力信号がクリッピング閾値よりも小さい瞬時における0の値と;入力信号がクリッピング閾値よりも大きい瞬時における0でない値とを含む。0でない値は、入力信号とクリッピング閾値との差で構成することができる。
【0007】
1つ以上の好適例では、上記スケーリング・ブロックが、上記クリップ信号に上記スケーリング係数を乗算して、上記スケーリングされたクリップ信号を発生するように構成されている。
【0008】
1つ以上の好適例では、上記信号処理回路がフィルタをさらに具えている。このフィルタは、(i)上記スケーリングされたクリップ信号中のあらゆる帯域外項;及び/または(ii) 上記スケーリングされたクリップ信号中のあらゆるパイロット・サブキャリア(副搬送波)を減衰させて、スケーリングされフィルタ処理されたクリップ信号を提供するように構成することができる。上記加算器は、上記スケーリングされフィルタ処理されたクリップ信号と上記入力信号との差に基づいて、上記クリップされた信号を提供するように構成することができる。
【0009】
1つ以上の好適例では、上記信号処理回路がフィードバック・ブロックをさらに具え、このフィードバック・ブロックは、上記クリップ生成ブロック及び/または上記スケーリング・ブロックにフィードバックループを提供するように構成されている。このフィードバック・ブロックは:
上記クリップされた信号のPAPR値及び/または歪み尺度を測定し;これらのPAPR値及び/または歪み尺度に基づいて、上記クリップ生成ブロック及び/または上記スケーリング・ブロックにフィードバック信号を選択的に提供するように構成されている。
【0010】
1つ以上の好適例では、上記クリップ生成ブロックは、上記フィードバック信号に基づいて、調整されたクリッピング閾値を上記入力信号に適用するように構成することができる。上記スケーリング・ブロックは、上記フィードバック信号に基づいて、調整されたスケーリング係数を上記クリップ信号に適用するように構成することができる。
【0011】
1つ以上の好適例では、上記フィードバック・ブロックが:
上記クリップされた信号のPAPR値が目標値に達するまで;
上記クリップされた信号の歪み尺度が目標値に達するまで;あるいは、
上記フィードバックループの所定回数の反復を実行するまで、
異なるクリッピング閾値及び/または異なるスケーリング係数を適用すべく上記フィードバックループの追加的反復を生じさせるように構成されている。
【0012】
1つ以上の好適例では、上記フィードバック・ブロックが、上記フィードバックループの2回目及びその後の各回の反復について、次のうちの1つ以上を測定するように構成されている:
上記クリップされた信号のPAPR値、上記調整されたクリッピング閾値でクリップされた入力信号に基づく;
上記クリップされた信号の歪み尺度、上記調整されたクリッピング閾値でクリップされた入力信号に基づく;
前回のPAPR値、上記フィードバックループの以前の反復における前回のクリッピング閾値でクリップされた入力信号に基づく;及び、
前回の歪み尺度、上記フィードバックループの以前の反復における前回のクリッピング閾値でクリップされた入力信号に基づく。
【0013】
1つ以上の好適例では、上記フィードバック・ブロックが:
上記クリップされた信号のPAPR値と前回のPAPR値との差が目標値に低減されるまで;あるいは、
現在の歪み尺度と前回の歪み尺度との差が目標値に低減されるまで、
異なるクリッピング閾値を適用し、及び/または、異なるスケーリング係数を適用すべく上記フィードバックループの追加的反復を生じさせるように構成されている。
【0014】
上記クリップ信号は時間領域の信号を含み、上記信号処理回路が:
上記クリップ信号を周波数領域のクリップ信号に変換するように構成された時間領域-周波数領域の変換ブロックをさらに具え、上記スケーリング係数は周波数領域のスケーリング係数を含む。
【0015】
上記スケーリングされたクリップ信号は周波数領域の信号を含み、上記信号処理回路が:
上記クリップ信号を時間領域のクリップ信号に変換するように構成された周波数領域-時間領域の変換ブロックをさらに具え、
上記加算器は、時間領域の上記スケーリングされたクリップ信号と上記入力信号の時間領域表現との差に基づいて上記クリップされた信号を提供するように構成されている。
【0016】
上記スケーリングされたクリップ信号は周波数領域の信号を含み、上記加算器が、(i)上記スケーリングされたクリップ信号と(ii)上記入力信号の周波数領域表現との差に基づいて、上記クリップされた信号を提供するように構成されている。
【0017】
入力信号を処理する方法を提供することができ、この方法は:
クリッピング閾値を超える入力信号の値のみを含むクリップ信号を決定するステップと;
クリップ信号にスケーリング係数を適用して、スケーリングされたクリップ信号を発生するステップであって、スケーリング係数が1よりも大きいステップと;
スケーリングされたクリップ信号と入力信号との差に基づいて、クリップされた信号を提供するステップとを含む。
【0018】
本明細書に開示するあらゆる信号処理回路を具えたOFDM送信機を提供することができる。
【0019】
電子機器を提供することができ、この電子機器は、本明細書に開示するあらゆる信号処理回路を具えたOFDM送信機を含むことができる。
【0020】
集積回路を提供することができ、この集積回路は、本明細書に開示するあらゆる信号処理回路、または本明細書に開示するあらゆるOFDM送信機を具えている。
【0021】
コンピュータプログラムを提供することができ、このコンピュータプログラムは、コンピュータ上で実行されると、該コンピュータを、本明細書に開示する回路、送信機、システムまたは装置を含むあらゆる機器として機能させ、あるいは、該コンピュータに、本明細書に開示するあらゆる方法を実行させる。
【0022】
本発明は、種々の変形及び代案の形式に修正可能であるが、その詳細は、一例として図面中に示され、詳細に説明する。しかし、説明する特定実施形態を越えた他の実施形態も可能であることは明らかである。添付した特許請求の範囲の精神及び範囲内に入るすべての変形、等価物、及び代案の実施形態もカバーされる。
【0023】
以上の説明は、現在及び将来の特許請求の範囲内のすべての実施形態またはすべての実現を表現することを意図していない。以下に続く図面及び詳細な説明も、種々の実施形態を例示する。種々の実施形態は、添付した図面に関連する以下の詳細な説明を考慮すれば、より完全に理解することができる。
【0024】
以下、1つ以上の実施形態を、ほんの一例として、添付する図面を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】OFDM送受信システムのブロック図である。
図2】PAPR値の相補累積分布関数(CCDF)をグラフで示す図である。
図3】OFDM送信回路を示す図である。
図4】クリップ・アンド・フィルタ法のブロック図である。
図5】改良されたクリッピング方法を実行することができる信号処理回路の実施形態を示す図である。
図6】改良されたクリッピング方法を実行することができる信号処理回路の他の実施形態を示す図である。
図7】改良されたクリッピング方法を実行することができる信号処理回路のさらに他の実施形態を示す図である。
図8】種々の回路の性能をグラフで例示する図である。
図9】種々の回路の性能をグラフで例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
OFDM(直交周波数分割多重)は、単一キャリア(搬送波)の伝送とは異なり、直交して配置されたキャリア中でデータビットを伝送するデジタル伝送方法である。OFDMは、選択的フェージングチャネルの場合の容易かつ高性能な等化、エラー訂正符号と組み合わせた際のスペクトル効率及び全体性能といった重要な利点を有することができる。これらの利点の結果、OFDMは、無線通信及びネットワーク形成における多数の工業規格によって選定されてきた。代表例は、セルラ通信用のLTE(long term evolution)及びLTE-A(LTE-advanced)規格、無線ローカルエリア・ネットワーク用の802.11a/g/n/ac規格、車両ネットワークの新興領域用の802.11p規格、及びDVB(digital video broadcasting)、DAB(digital audio broadcasting)、CMMB(China mobile multimedia broadcasting)、DMB-T(digital multimedia broadcasting-terrestrial),ISDB-T(integrated services digital broadcasting-terrestrial)、等のような多数のビデオ/音声放送規格である。
【0027】
図1に、OFDM送受信システムのブロック図を示す。図1は、OFDM送信機102、OFDM受信機104、及びチャネル106を示す。OFDM送信機102及びOFDM受信機104の拡大図も示す。
【0028】
図1に示すように、OFDM送信機102は、受信した情報ビットをいわゆるOFDMサブキャリア(副搬送波)にマッピングするIFFT(inverse fast Fourier transform:逆高速フーリエ変換)ブロック108を含む。このようにして、元の情報を周波数領域内で受信することができ、送信されるデータは時間領域内である。OFDM送信機102は、OFDM信号を、送信アンテナ112により送信する前に増幅する送信パワーアンプ(電力増幅器)110も含む。
【0029】
OFDM受信機104の拡大図は、OFDM送信機102の逆処理に相当するブロックを示し、チャネル推定及び等化のような逆変換及び検波ステップを含む。
【0030】
OFDM変調におけるIFFTにより、OFDM送信機102によって送信される時間領域信号は高いピーク対平均電力比(PAPR)を有する。PAPRは、最大サブキャリアの電力を全サブキャリアの平均電力で除算した比率として、次式のようにdB単位で定義される:
【数1】
【0031】
理論的には、N点のIFFTによって生成されるOFDM信号は、(1つのピークしか存在せず、残りの時間領域サブキャリアは0である場合に基づく)10log10Nなる最悪の場合のPAPR値を有するが、現実の信号フレームについてのPAPRはずっと低いことが多い。
【0032】
図2に、64点のOFDM信号について、ランダムに発生したフレームについてのPAPR値の相補累積分布関数(CCDF:complementary cumulative distribute function)をグラフで示す。図2中の点(x,y)は、yが、信号のPAPR値がx(dB)を下回る確率であることを表す。
【0033】
高いPAPRが存在する場合、このPAPRはOFDM送信機の設計を複雑にし得る。このことは、OFDM信号全体が送信パワーアンプPAの線形領域内であるように、送信パワーアンプの最大出力電力レベルを低減するために、送信パワーアンプが大きなバックオフを必要とし得るからであり得る。このことは全体効率の低下を生じさせ得る。さらに、OFDM送信機内のデジタル-アナログ(D/A)変換器は、値の大きなダイナミックレンジのために高い精度を必要とし得る。従って、PAPR値が減少するようにOFDM送信信号を設計/修正することが有利であり得る。
【0034】
図3に、OFDM送信回路を示す。図1を参照して既に説明した図3の特徴には、対応する参照番号を300番台で与える。
【0035】
図3の回路は、PAPR低減ブロック314を含む。以下に説明するように、PAPR低減ブロック314は、時間領域のピークが低減され、これによりPAPR値が低減されるように、OFDM信号を修正することができる。このことは、IFFTブロック308による時間領域への変換中または変換後にOFDMフレームを処理することによって実現することができる。このようにして、送信パワーアンプ310に対する要求をある程度緩和することができる。
【0036】
一般に、PAPR低減ブロック314によって適用される技術は標準化することができ、あるいは既存の規格に準拠することができる(下位互換)。標準化する場合、特定の条項を(独自の)規格に含めて、例えばOFDMフレーム毎に計算することができる値を送信するための特定サブキャリアをフレーム内に確保して、結果的な時間領域信号のPAPRを減少させることによって、高PAPRのOFDMフレームが生成されることを防止することができる。この場合、受信機は、フレームの確保部分について知っており、これらの確保部分を相応に使用または放棄することができる。下位互換の場合、PAPR低減は、送信機の設計を修正するだけで、あらゆる既存の規格に適用することができる。この場合、受信機は、追加された機能について知らず、従ってフレーム構造は変更することができない。唯一の変更は、送信信号中のサンプル値に施すことができる。これらの変更は、送信信号の歪みを表すので、制限するべきである。特に、こうした変更は、これらの変更が受信の品質に大幅に影響しないレベルを下回るべきである。
【0037】
受信の品質は、1つ以上の歪み尺度によって表すことができる。歪み尺度の特に有益な例は誤差ベクトルの大きさ(EVM:error vector magnitude)である。802.11規格におけるEVMの定義を次式に表す(ErrorRMSは誤差の二乗平均平方根を表す):
【数2】
ここに、
pはパケットの長さであり;
fは測定用のフレームの数であり;
(I0(i,j,k),Q0(i,j,k))は、i番目のフレーム、このフレームのj番目のOFDMシンボル、このOFDMシンボルのk番目のサブキャリアの、複素平面内の理想的なシンボル点を表し、
(I(i,j,k),Q(i,j,k))は、i番目のフレーム、このフレームのj番目のOFDMシンボル、このOFDMシンボルのk番目のサブキャリアの、複素平面内に観測されるシンボル点を表し(図16~18参照)、
0は、コンスタレーションの平均電力である。
【0038】
式に示すように、EVMは、シンボルの一団にわたって二乗平均平方根(RMS:root-mean-square)形式で定義される。
【0039】
異なる歪み尺度を用いることもできる。例えば、受信機におけるビット/フレーム・エラーレート(誤り率)(EVMにリンクさせることができる)、あるいは帯域幅の拡張である。しかし、一部の例では、帯域幅の拡張をフィルタ処理(フィルタリング)によって低減/防止することができる。
【0040】
図4に、図3のIFFTブロック及びPAPR低減ブロックによって実行することができるクリップ・アンド・フィルタ法を実行することができる信号処理回路のブロック図を示す。クリップ・アンド・フィルタ法は、時間領域のOFDM信号を意図的に事前に歪ませて特定閾値よりも上に生じるピークを減少させる規格準拠の場合の例である。以下に説明するように、時間領域のOFDM信号中の最高のピークをクリップし、次に、クリップされた信号をローパス(低域通過)フィルタ処理して、より低いPAPRを有する送信OFDM信号を得る。
【0041】
図4にIFFTブロック408aを示し、IFFTブロック408aは、受信した周波数領域の入力信号(X(f))を時間領域の入力信号(x[n])に変換する。次に、クリップ生成ブロック416が、クリップされた信号(xclipped[n])を出力として提供する。
【0042】
クリップ生成ブロック416は、クリッピング閾値/限界(C)を時間領域の入力信号(x[n])に適用して、クリップ信号xc[n]を次式のように定める:
【数3】
ここに、x[n]=|x[n]|ejφnである。
【0043】
次に、クリップ生成ブロック416は、クリップ信号(xc[n])を時間領域の入力信号(x[n])から減算することによって、クリップされた信号を生成する。このようにして、時間領域の入力信号(x[n])中のクリッピング閾値(C)を越えたあらゆるピークが、クリッピング閾値に平準化/制限される。
【0044】
クリッピング後に、時間領域内または周波数領域内のいずれかでフィルタ処理を適用して、あらゆる帯域外(OOB:out-of-band)項を除去または低減することができる。このことは、時間領域内でのクリッピングによる信号の操作が、入力信号がクリップされる前には入力信号の周波数スペクトル外にあった周波数成分の「再生」を生じさせるので、有利である。
【0045】
図4の例では、周波数領域内で次のようにフィルタ処理を実行する。FFTブロック418は、クリップされた信号(xclipped[n])を周波数領域のクリップされた信号(Xclipped(f))に変換する。FFTブロック418のこの例は、クリップ済FFTブロックと称することができ、本明細書に記載した他のFFTブロックと同じ機能を有することができる。次に、フィルタ420が、周波数領域のクリップされた信号(Xclipped(f))をフィルタ処理して、周波数領域のクリップされフィルタ処理された信号(Xclipped,filtered(f))を提供する。次に、IFFTブロック422が、周波数領域のクリップされフィルタ処理された信号(Xclipped,filtered(f))を、時間領域に戻った、クリップされフィルタ処理された信号(xclipped, filtered[n])として変換する。IFFTブロック422のこの例は、クリップ済IFFTブロックと称することができ、本明細書に記載した他のIFFTブロックと同じ機能を有することができる。
【0046】
次に、クリップされフィルタ処理された信号(xclipped,filtered[n])に、巡回プレフィックス(CP:cyclic prefix)を、標準的なOFDMと同じ方法で付加する。従って、図4の回路は、低PAPRのOFDM信号を送信用に出力する。
【0047】
図4の処理は、図4中に点線で示すように反復様式で実行することもできる。このようにして、クリップ生成ブロック416によって適用されるクリッピング閾値のレベルを、後続する反復毎に変更して、クリップされフィルタ処理された信号(xclipped,filtered[n])のPAPR値をさらに改善することができる。例えば、クリッピング閾値(C)を低減して、追加的な反復がPAPR値の大幅な改善を生じさせなくなるまで、クリップされフィルタ処理された信号のPAPR値を再計算することができる。
【0048】
一般に、図4を参照して説明したクリップ・アンド・フィルタ法の適用可能性は制限され得る、というのは、システムがEVM(誤差ベクトルの大きさ)及び電力マスクのような標準的に課せられる制限に準拠したままであるように、クリップ・アンド・フィルタ法が導入する歪みを十分低く保たなければならないからである。この理由で、クリッピング閾値(C)は比較的高く保つ必要があり得る。従って、入力信号中のピークは大幅には低減されない。このことにより、図4のクリッピング及びフィルタ処理によって達成されるPAPR低減は比較的限定され得る。
【0049】
本明細書に開示するFFTブロックは、時間領域-周波数領域変換ブロックの例である。本明細書に開示するIFFTブロックは、周波数領域-時間領域変換ブロックの例である。
【0050】
図5に、改良されたクリッピング方法を実行することができる信号処理回路の実施形態を示す。この信号処理回路は、OFDM送信機内に含めるのに適しているので、OFDM送信回路と称することもできる。この信号処理回路は、クリップ生成ブロック532、スケーリング・ブロック534、及び加算器536を含む。以下に説明するように、これらのブロックは、図4の回路による場合よりも少ない歪みを生成しつつPAPRが低減される方法で、入力信号をクリップすることができる。
【0051】
図5の回路は、随意的なFFTブロック538、フィルタ540、及びIFFTブロック542を含んで、図4を参照して上述したのと同じ方法で、クリップされた信号から帯域外成分を除去することもできる。FFTブロック538のこの例は、クリップFFTブロックと称することができ、本明細書に記載した他のFFTブロックと同じ機能を有することができる。同様に、IFFTブロック542のこの例は、クリップIFFTブロックと称することができ、本明細書に記載した他のIFFTブロックと同じ機能を有することができる。
【0052】
この例では、上記回路が周波数領域の入力信号(X(f))を受信し、この入力信号はIFFTブロック530によって時間領域の入力信号(x[n])に変換される。IFFTブロック422のこの例は、入力IFFTブロックと称することができ、本明細書に記載した他のIFFTブロックと同じ機能を有することができる。
【0053】
クリップ生成ブロック532は、入力信号(x[n])を受信して、クリッピング閾値(C)を越える入力信号(x[n])の値のみを含むクリップ信号(xc[n])を決定する。上述したように、クリップ信号(xc[n])は次式のように定義することができる:
【数4】
【0054】
このようにして、クリップ信号は:入力信号がクリッピング閾値未満である瞬時における0の値;及び入力信号がクリッピング閾値よりも大きい瞬時における0でない値を含み、0でない値の大きさは、入力信号の大きさとクリッピング閾値の大きさとの差で構成される。
【0055】
スケーリング・ブロック534は、クリップ信号(xc[n])にスケーリング係数を適用して、スケーリングされたクリップ信号
(外1)
を生成する。この例では、クリップ信号(xc[n])にスケーリング係数を乗じる。スケーリング係数は1よりも大きく、これにより、0でない成分を有するクリップ信号(xc[n])の大きさが増加する。入力信号(x[n])中でクリッピング閾値(C)を越える部分に相当する領域では、クリップ信号(xc[n])が0でない成分のみを有することは明らかである。
【0056】
この例では、スケーリング・ブロック534は、時間領域のスケーリング係数を、時間領域内のクリップ信号(xc[n])に適用する。図6及び7を参照して以下に説明するように、スケーリング係数は周波数領域内で適用することもできる。
【0057】
次に、加算器536は、スケーリングされたクリップ信号
(外2)
と入力信号(x[n])との差に基づいて、クリップされた信号(xlowPAPR[n])を提供することができる。この例では、フィルタ540を用いてスケーリングされたクリップ信号
(外3)
をフィルタ処理すれば、クリップされた信号(xlowPAPR[n])は、スケーリングされたクリップ信号
(外4)
に間接的に基づくことができる。同様に、他の例では、加算器536が周波数領域の入力信号(X(f))を受信すれば、クリップされた信号(xlowPAPR[n])は入力信号(x[n])に間接的に基づくことができる。それにもかかわらず、加算器536は、スケーリングされたクリップ信号
(外5)
と入力信号(x[n])との差に基づいて、クリップされた信号(xlowPAPR[n])を提供すると言うことができる。
【0058】
所定のPAPR低減を達成するために、図5の回路は、図4の回路が必要とするよりも高いクリッピング閾値(C)を適用することができる。このことは、より少数のピークを操作しているので、より低い誤差/歪み(例えば、より低い誤差ベクトルの大きさ(EVM))を生じさせることが有利である。また、図4の回路に比べると、所定レベルの誤差に対して、低減されたPAPR値を達成することができる。これらの性能の改善は、図8及び9にグラフで例示し、以下でより詳細に説明する。
【0059】
図6に、改良されたクリッピング方法を実行することができる信号処理回路の他の実施形態を示す。図5のブロックと同様な図6のブロックには、600番台の対応する参照番号を与えており、ここでは必ずしも再度説明しない。図6では、クリップ信号のスケーリングは周波数領域内で実行する。
【0060】
クリップ生成ブロック632は、入力信号(x[n])を受信して、図5の対応するブロックと同じ方法でクリップ信号(xc[n])を決定する。この例では、FFTブロック638が、クリップ信号(xc[n])を周波数領域のクリップ信号(Xc(f))に変換する。FFTブロック638のこの例は、クリップFFTブロックと称することができ、本明細書に記載した他のFFTブロックと同じ機能を有することができる。
【0061】
次に、スケーリング・ブロック634は、周波数領域のスケーリング係数を周波数領域のクリップ信号(Xc(f))に適用して、スケーリングされたクリップ信号
(外6)
を生成する。この例では、周波数領域のスケーリング係数をスケーリング信号(S(f))と称し、スケーリングされたクリップ信号
(外7)
は周波数領域内である。
【0062】
スケーリング信号(S(f))は所定範囲内の値をとることができ、少なくとも一部の、随意的には全部の値が1よりも大きい。このようにして、クリップ信号(xc[n])中のピークはさらにクリップされるが、不要な小さいピークはクリップ信号(xc[n])中に導入されない。このことは、上述したように、より低いクリッピング閾値を用いて同じ性能改善を達成することができることにより、図6のクリップ信号は図4のクリップ信号よりも少数のピークを有するからである。クリップ信号をこのようにスケーリングすることによって、割り当てられた周波数帯域の外側の周波数帯域内の歪み並びに再生を制限することができる。
【0063】
スケーリング・ブロック634は、スケーリングされたクリップ信号
(外8)
を次式のように発生する:
【数5】
【0064】
なお、この例では、スケーリング信号(S(f))は実数であるのに対し、周波数領域のクリップ信号(Xc(f))及びスケーリングされたクリップ信号
(外9)
は複素数の値をとる。
【0065】
スケーリング信号(S(f))中の値は異なる方法で定めることができる。例えば、スケーリング信号(S(f))は定数値を含むことができる。定数値を用いる場合、スケーリングは図5を参照して上述した時間領域のスケーリングと等価であるものと考えることができる。その代わりに、スケーリング信号(S(f))は、ランダムに発生した値を含むことができる。これらのランダム値は、ある範囲の値、例えば最大値と最小値との間に限定することができる。最大値は1よりも大きくすることができ、最小値も1よりも大きくすることができる。ランダム値を用いる場合、特定割合のサブキャリアを他のサブキャリアよりも小さくクリップすることができる。
【0066】
一例では、802.11aと同様なベースバンドに基づいて、スケーリング信号(S(f))を、1.6~2の間でランダムに発生する値を含む関数として定義することができる。このことは、PAPR低減について特に良好な結果をもたらすことが判明している。
【0067】
スケーリング信号(S(f))は、周波数と共に変化する関数を定義することもできる。例えば、特定のサブキャリアを他のサブキャリアより大きく保つ要望が存在する場合、あるいは、特定のサブキャリアの重要性がより小さい場合、この関数は、サブキャリアのスケーリングに対して必要な重み付けを与えることができる。例えば、サブキャリアに対する重み付けは、既知または推定のチャネル関数を考慮に入れるために有用であり得る。
【0068】
次に、スケーリングされたクリップ信号
(外10)
をフィルタ640によって処理する。フィルタ640は、スケーリングされたクリップ信号
(外11)
中のあらゆる帯域外(OOB)項を除去するか減衰させることができる。この例では、フィルタ640は周波数領域のフィルタ処理を適用して、スケーリングされフィルタ処理されたクリップ信号
(外12)
を提供する。IFFTブロック642(クリップIFFTブロックと称することができる)は、(周波数領域の)スケーリングされフィルタ処理されたクリップ信号
(外13)
を時間領域の信号:時間領域のスケーリングされフィルタ処理されたクリップ信号
(外14)
に変換する。
【0069】
次に、加算器636は、時間領域のスケーリングされフィルタ処理されたクリップ信号
(外15)
を入力信号(x[n])から減算して、クリップ信号(xlowPAPR[n])を提供する。
【0070】
一部の通信規格では、OFDM変調がパイロット・サブキャリアの使用を含む。これらのサブキャリアは所定値を有することができ、送信機におけるOFDM信号は、所定のサブキャリアにおいてこれらの値を有するべきである。図6の回路を用いて、こうしたパイロット・サブキャリアでOFDM信号を処理する場合、フィルタ640(あるいは図示しない別個の処理ブロック)は、スケーリングされフィルタ処理されたクリップ信号
(外16)
中のパイロット・サブキャリアを、随意的に項を0に設定することによって減衰させることができる。こうしたパイロット・サブキャリアの減衰は、周波数領域の処理中の最終ステップで実行することができる。即ち、フィルタ640によってOOB項を減衰させるために実行されるフィルタ処理動作後に、かつIFFTブロック642(クリップIFFTブロック)の直前に実行する。このようにして、元の周波数領域の信号(X(f))中のパイロット値は、加算器636による最後の減算後には不変のままである。
【0071】
即ち、フィルタ640は、(i)スケーリングされたクリップ信号
(外17)
中のあらゆる帯域外項、及び/または(ii)スケーリングされたクリップ信号
(外18)
中のあらゆるパイロット・サブキャリアを減衰させて、スケーリングされフィルタ処理された信号
(外19)
を提供することができる。こうしたフィルタは、1つ以上のハードウェア処理ブロックによって、あるいは1つ以上のソフトウェア処理モジュールによって提供することができる。本明細書に開示する他の例におけるフィルタによっても同様な機能を提供することができることは明らかである。
【0072】
図6は随意的なフィードバック・ブロック644も示し、フィードバック・ブロック644はフィードバックループをクリップ生成ブロック632及び/またはスケーリング・ブロック634に提供する。フィードバック・ブロック644は、クリップされた信号(xlowPAPR[n])のPAPR値及び/または歪み尺度を測定することができ、そしてこれらのPAPR値及び/または歪み尺度に基づいて、フィードバック信号を、クリップ生成ブロック632及び/またはスケーリング・ブロック634に選択的に提供することができる。
【0073】
このフィードバック信号によれば、クリップ生成ブロック632は、調整されたクリッピング閾値を入力信号(x[n])に適用することができ、調整されたクリッピング閾値は前回のクリッピング閾値と異なる。前回のクリッピング閾値は、フィードバックループの以前の反復において、随意的にフィードバックループの直前の反復において適用した閾値レベルである。前回のクリッピング閾値は、フィードバックループの1回目の反復に続く(最初の)クリッピング閾値(C)である。
【0074】
同様に、フィードバック信号によれば、スケーリング・ブロック634は、調整されたスケーリング係数を周波数領域のクリップ信号(Xc(f))に適用することができ、調整されたスケーリング係数は前回のスケーリング係数と異なる。前回のスケーリング係数は、フィードバックループの以前の反復において、随意的にフィードバックループの直前の反復において適用したスケーリング係数である。
【0075】
フィードバックループの2回目及び後続する各回の反復については、フィードバック・ブロック644は、次のもののうち1つ以上を決定/記憶することができる:
クリップされた信号(xlowPAPR[n])のPAPR値、調整されたクリッピング閾値でクリップした入力信号に基づく;
クリップされた信号(xlowPAPR[n])の歪み尺度、調整されたクリッピング閾値でクリップした入力信号に基づく;
前回のPAPR値、前回のクリッピング閾値でクリップした入力信号に基づく;及び、
前回の歪み尺度、前回のクリッピング閾値でクリップした入力信号に基づく。
【0076】
フィードバック・ブロック644は、
クリップされた信号(xlowPAPR[n])のPAPR値が目標値に達するまで;
クリップされた信号(xlowPAPR[n])の歪み尺度が目標値に達するまで;
フィードバックループの所定回数の反復を実行するまで;
クリップされた信号の(調整されたクリッピング閾値でクリップした信号の)PAPR値と、前回の(前回のクリッピング閾値でクリップした信号の)PAPR値との差が目標値に低減されるまで;あるいは、
現在の(調整されたクリッピング閾値でクリップした信号の)歪み尺度と、前回の(前回のクリッピング閾値でクリップした信号の)歪み尺度との差が目標値に低減されるまで、
異なるクリッピング閾値が適用されるように、及び/または、異なるスケーリング係数が適用されるように、フィードバックループの追加的反復を生じさせ続けることができる。
【0077】
一部の例では、調整されたクリッピング閾値を、前回のクリッピング閾値よりも高くすることができる。この場合、フィードバック・ブロック644は:
クリップされた信号(xlowPAPR[n])のPAPR値が目標値を超えるまで;あるいは、
クリップされた信号(xlowPAPR[n])の歪み尺度が目標値よりも低くなるまで、
異なるクリッピング閾値を適用することができる。
【0078】
同様に、一部の例では、調整されたクリッピング閾値を、前回のクリッピング閾値よりも低くすることができる。この場合、フィードバック・ブロック644は:
クリップされた信号(xlowPAPR[n])のPAPR値が目標値よりも低くなるまで;あるいは、
クリップされた信号(xlowPAPR[n])の歪み尺度が目標値を超えるまで、
異なるクリッピング閾値を適用することができる。
【0079】
一部の例では、調整されたスケーリング係数を、前回のスケーリング係数よりも高くすることができる。この場合、フィードバック・ブロック644は:
クリップされた信号(xlowPAPR[n])のPAPR値が目標値よりも低くなるまで;あるいは、
クリップされた信号(xlowPAPR[n])の歪み尺度が目標値を超えるまで、
異なるスケーリング係数を適用することができる。
【0080】
同様に、調整されたスケーリング係数を、前回のスケーリング係数よりも低くすることができる。この場合、フィードバック・ブロック644は:
クリップされた信号(xlowPAPR[n])のPAPR値が目標値を超えるまで;あるいは、
クリップされた信号(xlowPAPR[n])の歪み尺度が目標値よりも低くなるまで、
異なるスケーリング係数を適用することができる。
【0081】
図5及び7の回路は、同様なフィードバック・ブロックを有することができることは明らかである。
【0082】
図7に、改良されたクリッピング方法を実行することができる信号処理回路の他の実施形態を示す。図6のブロックと同様な図7のブロックには、対応する参照番号を700番台で与えており、ここでは必ずしも再度説明しない。図7では、加算器736が、スケーリングされフィルタ処理されたクリップ信号
(外20)
を入力信号の周波数領域表現(X(f))から減算し、そして結果的な信号を、その後の送信のために時間領域に変換する。
【0083】
図7では、フィルタ740が、スケーリングされフィルタ処理されたクリップ信号
(外21)
を加算器736に(図6のようにクリップIFFTブロックを介する代わりに)直接供給する。加算器736は、入力信号の周波数領域表現(X(f))も受信する。この例では、入力信号の周波数領域表現(X(f))を、IFFTブロック730(入力IFFTブロックと称することができる)の入力端子から受信する。この例では、加算器736の出力は周波数領域のクリップされた信号(XlowPAPR(f))である。
【0084】
図7の回路はIFFTブロック743を含み、IFFTブロック743は、周波数領域のクリップされた信号(XlowPAPR(f))時間領域の信号:即ちクリップされた信号(xlowPAPR[n])に変換する。IFFTブロック743のこの例は、クリップされたIFFTブロックと称することができる。
【0085】
図5~7のいずれかの回路をOFDM送信機内に用いることは、対応するOFDM受信機の機能の変更を何ら必要としないことが有利である。
【0086】
図8及び9に:
図4のクリッピング及びフィルタ処理方法を実行する信号処理回路(スケーリングなし);
図5~7のうちの1つのクリッピング及びフィルタ処理方法を実行する信号処理回路(スケーリングあり);及び、
クリッピング及びフィルタ処理方法を全く実行しない信号処理回路;
の性能をグラフで例示する。
【0087】
図8は、これらの回路毎のPAPR値の相補累積分布関数(CCDF)を、図2のグラフと同様な方法でグラフで示す。
【0088】
図8では、
-13.2dBのEVM値を生じさせるクリッピング閾値を有する図4の回路の性能を、参照番号850で示し;
-13.2dBのEVM値を生じさせるクリッピング閾値を有する図5~7のうちの1つの回路(スケーリングあり)の性能を、参照番号852で示し;
クリッピング及びフィルタリングなしの回路の性能を、参照番号854で示す。
【0089】
図8は、所定のEVM値に対して、図5~7のうちの1つの回路が、図4の回路に比べると、そしてクリッピング及びフィルタ処理のない回路と比べても、より低い改善されたPAPR値を提供することを示している。
【0090】
図9では、縦軸がフレーム/ビット・エラーレート(誤り率)を表し、横軸は、チャネルによってOFDM信号に付加されるノイズのレベルを表す。このように、横軸は、ビット当たりのエネルギーとOFDM信号に付加されるノイズとの比率をdB単位で表す。さらに、図9では、チャネルがフェージングチャネルであり、AWGN(additive white Gaussian noise:付加ホワイト・ガウスノイズ(白色ガウス雑音))を有するだけのチャネルではない。
【0091】
図9では、
所定のPAPR値を生じさせるクリッピング閾値を有する図4の回路の性能を、参照番号960で示し;
同じPAPR値を生じさせるクリッピング閾値を有する図5~7のうちの1つの回路(スケーリングあり)の性能を、参照番号962で示し;
クリッピング及びフィルタ処理のない回路の性能を、参照番号964で示す。
【0092】
図9は、所定のPAPR値に対して、図5~7のうちの1つの回路が、図4の回路に比べると、より低い改善されたエラーレートを提供することを示している。また、図5~7のうちの1つの回路は、クリッピング及びフィルタ処理のない回路と比べると、わずかに悪化したエラーレートを有するに過ぎない。
【0093】
以下の表は、図5~7の回路によって実現することができる改善された性能の他の例示を提供する。10-4のCCDFにおけるPAPR値を、複数の信号処理回路について、送信機におけるEVM値と共に、異なるクリッピング閾値レベル/係数について示す。
【0094】
この表では、回路によって適用されるクリッピングの度合いをクリッピング比としてdB単位で示す。クリッピング比は次式のように定義される:
【数6】
ここに、Cはクリッピング閾値であり、Pavgは信号の平均電力である。
【0095】
【表1】
【0096】
上記の表では:
「低減なし」は、クリッピング及びフィルタ処理による低減を実行しない回路を表す;
「CF xdB」は、クリッピング及びフィルタ処理(CF:clipping and filtering)をxdBに設定されたクリッピング比で適用する図4の回路を表し、
「SCF xdB」は、クリッピング、フィルタ処理、及びスケーリング(SCF:scaling, clipping and filtering)をxdBに設定されたクリッピング比で適用する図5~7の回路を表す。
【0097】
この表中のデータは、図5~7の回路は、図4の回路に比べると、複数のクリッピング比について、同様なEVM値に対するPAPRの低減及び所定のPAPR値に対するEVMの低減の両方の意味で改善された性能を提供することを示す。
【0098】
特に、図4の回路(CF)と図5~7の回路(SCF)との比較は、図5~7の回路が次の点で優れていることを示す:
・同じPAPR低減において、SCFはEVMが4dB低い。
・FER(frame error rate:フレーム・エラーレート)は、高いCR(clipping ratio:クリッピング比)において大幅な差を示さない。
・低いCR(4.6dBのPAPR低減)では、図5~7の回路は、同じFERに対して約1.2dBのSNR(signal-to-noise ratio:S/N比、信号対雑音比)の低減を達成している。
・-13dBのEVM要求を満たすために、CFは2.9dBまでのPAPR低減を達成することができる。
・SCFは3.8dBのPAPR低減を達成することができる。
・SCFは、FERの大幅な増加なしに、4.6dBのPAPR低減及び-8.3dBのEVMを達成することができる。
【0099】
図5~7の回路は、図4の回路のクリッピング方策の変更であり、同様なPAPR低減を達成しつつEVM値を制限することができることは、以上の説明より明らかである。このようにして、PAPR低減のEVMに対する影響を最小化/低減する方法で、送信される信号をクリップすることができる。
【0100】
本明細書に開示する回路の1つ以上は、802.11a/g/n/ac/p、LTE、LTE-AのようなOFDMに基づくすべての通信及びネットワーク規格用に、ユーザ端末内に設けることができる。これらの回路/方法は、OFDMベースの独自規格にも適用することができる。
【0101】
以上の図面中の命令及び/またはフローチャート・ステップは、特定順序を明示的に記載していなくても、任意の順序で実行することができる。また、命令の集合/方法の一例を説明してきたが、本明細書中の題材は、種々の方法で組み合わせて他の例を生み出すことができ、そしてこの詳細な説明によって提供される事項の範囲内であるものと理解すべきことは、当業者の認める所である。
【0102】
一部の実施形態では、上述した命令の集合/方法のステップを、一組の実行可能な命令として具体化される機能的なソフトウェア命令として実現し、これらの実行可能な命令は、当該命令でプログラムされ当該命令によって制御されるコンピュータまたはマシン上で実行される。こうした命令は(1つ以上のCPUのような)プロセッサ上での実行用にロードされる。プロセッサとは、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、プロセッサモジュール、または(1つ以上のマイクロプロセッサまたはマイクロコントローラを含む)サブシステム、あるいは他の制御装置または計算装置を含む。プロセッサは、単一の構成要素または複数の構成要素を称することができる。
【0103】
他の例では、本明細書に例示する命令の集合/方法、及びそれに関連するデータ及び命令を、それぞれの記憶装置に記憶し、これらの記憶装置は、1つ以上の非一時的な、マシンまたはコンピュータ可読の、あるいはコンピュータで利用可能な記憶媒体として実現される。こうしたコンピュータ可読またはコンピュータで利用可能な記憶媒体は、品物(または製品)の一部分であるものと考えられる。品物または製品は、製造されたあらゆる単一構成要素または複数の構成要素を称することができる。本明細書に定義する非一時的なマシンまたはコンピュータで利用可能な媒体は、信号は除外するが、こうした媒体は、信号及び/または他の一時的媒体から情報を受信して処理する能力を有し得る。
【0104】
本明細書中で説明した実施形態は、全体的にせよ部分的にせよ、ネットワーク、コンピュータ、あるいはデータベース装置及び/またはサービスを通して実現することができる。これらは、クラウド、インターネット、イントラネット、モバイル、デスクトップ、プロセッサ、ルックアップ・テーブル(早見表)、マイクロコントローラ、コンシューマ(消費者向け)製品、インフラストラクチャ(社会基盤)、または他の実現装置及びサービスを含むことができる。本明細書及び特許請求の範囲中に用いることがあるような、以下の非排他的な定義を提供する。
【0105】
一例では、本明細書中で説明した1つ以上の命令またはステップを自動化する。自動化または自動的(及びその類語)は、人間の介入、監視、労力、及び/または決定を必要としない、コンピュータ及び/または機械的/電気的装置を用いた、装置、システム、及び/または工程の制御される動作を意味する。
【0106】
結合されると称するあらゆる構成要素は、直接的にも間接的にも、結合または接続することができることは明らかである。間接的な結合の場合には、追加的な構成要素を、結合されると称する2つの構成要素間に配置することができる。
【0107】
本明細書では、選択した細部の集合の観点から実施形態を提示してきた。しかし、これらの細部を異なるように選択した集合を含む他の実施形態を実施することができることは、当業者の理解する所である。以下の特許請求の範囲は、すべての可能な実施形態をカバーすることを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9