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特許7079580オーディオ回路、スピーカユニット、自動車
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】オーディオ回路、スピーカユニット、自動車
(51)【国際特許分類】
   H04R 3/00 20060101AFI20220526BHJP
【FI】
H04R3/00 310
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017167042
(22)【出願日】2017-08-31
(65)【公開番号】P2019047256
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】盛一 憲一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 光章
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/081179(WO,A1)
【文献】特開2010-239249(JP,A)
【文献】特開平03-222600(JP,A)
【文献】特開2013-126781(JP,A)
【文献】特開2001-028797(JP,A)
【文献】特開昭57-184397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 3/00-3/12
H04S 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスピーカを備える複数チャンネルのオーディオシステムで使用され、オーディオ信号にもとづいて、前記複数のスピーカのうち対応するスピーカを駆動するオーディオ回路であって、
前記対応するスピーカの温度を検出する温度センサと、
前記対応するスピーカの状態に応じて、前記オーディオ信号を補正する信号処理部と、
補正後のオーディオ信号に応じて前記対応するスピーカを駆動するアンプと、
前記対応するスピーカの磁場を検出する磁気センサと、
を備え、
前記信号処理部は、前記対応するスピーカの温度が、他のスピーカの温度よりも、しきい値以上、高くなった場合に、前記オーディオ信号に、20Hz以下の周波数を有する補正成分を重畳し、
前記信号処理部は、前記複数のスピーカの磁場のばらつきの影響を抑制するように、前記オーディオ信号を補正することを特徴とするオーディオ回路。
【請求項2】
前記対応するスピーカの振動を検出する振動センサをさらに備え、
前記信号処理部は、前記振動センサが検出した前記振動と逆位相の成分を、前記オーディオ信号に重畳することを特徴とする請求項1に記載のオーディオ回路。
【請求項3】
前記対応するスピーカに流れる電流を測定する検出回路をさらに備え、
前記信号処理部は、前記対応するスピーカの電流に応じて、前記オーディオ信号を補正することを特徴とする請求項1または2に記載のオーディオ回路。
【請求項4】
前記スピーカと、
前記スピーカを駆動する請求項1からのいずれかに記載のオーディオ回路と、
を備え、一体化されることを特徴とするスピーカユニット。
【請求項5】
所定の音声データを格納する不揮発メモリをさらに備え、
前記信号処理部は、前記音声データを再生可能であることを特徴とする請求項に記載のスピーカユニット。
【請求項6】
請求項またはに記載のスピーカユニットを備えることを特徴とする自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーディオ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
車載オーディオ(カーオーディオ)やホームオーディオは、異なる箇所に配置された複数のスピーカを備える。高音質なオーディオ再生のためには、複数のチャンネルの特性が揃っていることが好ましい。
【0003】
近年のデジタル信号処理技術の進歩によって、複数のチャンネルの特性を揃える補正処理が可能となっている。具体的には、既知のオーディオ信号(リファレンス信号)を再生し、それをマイクで取り込み、信号処理によって解析することにより、複数のチャンネルの周波数特性が揃うように、各チャンネルのオーディオ信号が補正される(イコライジング)。
【0004】
また、タイムアライメント処理では、チャンネルごとに異なる遅延を与えることにより視聴位置から複数のスピーカまでの距離の違いをキャンセルする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-112400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の補正処理は、スピーカの設置位置やスピーカの種類など、静的な要因に起因する特性ばらつきを補正することは可能であった。しかしながら、スピーカが受ける振動や、温度変動、スピーカの経年劣化などの、動的な要因を補正することは難しかった。
【0007】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的のひとつは、音質を改善可能なオーディオ回路の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、スピーカを駆動するオーディオ回路に関する。オーディオ回路は、スピーカの状態に応じて、オーディオ信号を補正する信号処理部と、補正後のオーディオ信号に応じてスピーカを駆動するアンプと、を備える。
【0009】
この態様によると、時々刻々と変化するスピーカの状態を監視し、監視結果にもとづいて再生特性を動的、適応的に補正することができ、ひいては音質を改善できる。
【0010】
オーディオ回路は、スピーカの状態を検出する少なくともひとつのセンサをさらに備えてもよい。スピーカの状態は、スピーカの筐体の振動、温度、磁場、インピーダンスであってもよい。
【0011】
少なくともひとつのセンサのひとつは、スピーカの振動を検出する振動センサであり、信号処理部は、振動と逆位相の成分をオーディオ信号に重畳してもよい。
スピーカの筐体自体が、振動板の面と垂直に振動(外乱振動という)していると、あたかも振動板が外乱振動によって駆動されているのと等価となり、音質を劣化させる。この態様によれば、外乱振動と逆位相で振動板を振動させることにより、外乱振動の影響をキャンセルでき、音質を改善できる。
【0012】
少なくともひとつのセンサのひとつは、スピーカの磁場を検出する磁気センサであってもよい。スピーカのマグネットの磁場にはばらつきがあり、また経年劣化の影響を受ける。複数チャンネルのオーディオシステムにおいて、スピーカの磁場の強さのばらつきは、複数のスピーカの出力のばらつきとして現れ、音質の劣化の要因となる。そこで磁場に応じて、各チャンネルのオーディオ信号を補正することにより、チャンネル間のばらつきを抑制でき、音質を改善できる。
【0013】
少なくともひとつのセンサのひとつは、スピーカの温度を検出する温度センサであってもよい。複数チャンネルのオーディオシステムにおいて、スピーカの温度のばらつきは、複数のスピーカの出力のばらつきとして現れ、音質の劣化の要因となる。そこで温度に応じて、各チャンネルのオーディオ信号を補正することにより、チャンネル間のばらつきを抑制でき、音質を改善できる。
【0014】
信号処理部は、温度が高いとき、可聴帯域外の低周波成分をオーディオ信号に重畳してもよい。これにより空力作用によってスピーカを冷却できる。
【0015】
オーディオ回路は、スピーカに流れる電流を測定する検出回路を備えてもよい。スピーカは、そのインピーダンスに応じて、同じ駆動電圧で駆動したときの音圧が変化する。そこで、スピーカに流れる電流からインピーダンスを計算することで、音圧を補正できる。
【0016】
複数のスピーカと複数のオーディオ回路は、セットで使用されてもよい。複数のスピーカの出力の特性が揃うように、各オーディオ回路における補正が制御されてもよい。
【0017】
本発明の別の態様は、スピーカユニットに関する。スピーカユニットは、スピーカと、スピーカを駆動する上述のオーディオ回路と、を備え、一体化される。
【0018】
スピーカユニットは、所定の音声データを格納する不揮発メモリをさらに備えてもよい。信号処理部は、音声データを再生可能であってもよい。
【0019】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るオーディオ回路によれば、音質を改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態に係るオーディオシステムのブロック図である。
図2】スピーカの構成を示すブロック図である。
図3】一実施例に係るオーディオシステムのブロック図である。
図4図4(a)、(b)は、実施の形態に係るスピーカユニットを示す図である。
図5】スピーカユニットを備える自動車を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0023】
本明細書において、「部材Aが、部材Bと接続された状態」とは、部材Aと部材Bが物理的に直接的に接続される場合のほか、部材Aと部材Bが、電気的な接続状態に影響を及ぼさず、あるいは機能を阻害しない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0024】
同様に、「部材Cが、部材Aと部材Bの間に設けられた状態」とは、部材Aと部材C、あるいは部材Bと部材Cが直接的に接続される場合のほか、電気的な接続状態に影響を及ぼさず、あるいは機能を阻害しない他の部材を介して間接的に接続される場合も含む。
【0025】
図1は、実施の形態に係るオーディオシステム100のブロック図である。オーディオシステム100は、複数チャンネルで構成される。本実施例では説明の簡潔化のため2チャンネルについて説明するが、チャンネル数は限定されず、4チャンネルであってもよいし、3.1チャンネル、5.1チャンネル、7.1チャンネルなどであってもよい。
【0026】
オーディオシステム100は、音源102と、複数のスピーカ110と、複数のオーディオ回路200と、を備える。スピーカ110およびオーディオ回路200は、チャンネルごとに設けられる。
【0027】
音源102は、オーディオ信号を再生する。車載オーディオにおいて音源102はヘッドユニットとも称される。各チャンネルのオーディオ信号S1L,S1Rは、対応するオーディオ回路200L,200Rに入力される。オーディオ信号S1は、デジタルであってもよいしアナログであってもよい。
【0028】
各オーディオ回路200は、対応するオーディオ信号S1を受け、対応するスピーカ110を駆動する。以上がオーディオシステム100の全体構成である。続いてオーディオ回路200について説明する。各チャンネルのオーディオ回路200は同様に構成されるため、チャンネルを区別する添え字L,Rは省略する。
【0029】
オーディオ回路200は、DSP(デジタル信号処理部)202およびアンプ204を備える。DSP202は、オーディオ信号S1にさまざまな信号処理を施す。たとえばDSP202には、デジタルボリューム、マルチバンドイコライザ、パラメトリックイコライザ、ラウドネス回路などの機能が実装される。
【0030】
DSP202は、音源102との通信インタフェースを備え、オーディオ信号S1とは別に、制御データを受信可能となっている。制御データは、ボリュームやイコライザの設定値などが例示されるがその限りでない。
【0031】
DSP202には、対応するスピーカ110の状態を示す検出信号S2が入力される。DSP202は、検出信号S2が示すスピーカ110の状態に応じて、オーディオ信号S1を補正する。監視する状態と補正については、後述する。
【0032】
アンプ204は、補正後のオーディオ信号S3に応じてスピーカ110を駆動する。アンプ204は、D級アンプ(デジタルアンプ)であってもよいし、A級あるいはAB級のアナログアンプ(リニアアンプ)であってもよい。アナログアンプの場合、DSP202とアンプ204の間にはD/Aコンバータが設けられる。デジタルアンプの場合、アンプ204と図示しないアナログフィルタの組み合わせがD/Aコンバータとして機能する。
【0033】
オーディオ回路200は、スピーカ110の状態を検出する少なくともひとつのセンサ206を備えてもよい。
【0034】
以上がオーディオシステム100の構成である。続いてその利点を説明する。
複数のスピーカ110L、104Rの状態は時々刻々と変化し、それにともなって再生特性も変化する。複数のチャンネルの再生特性に差が生ずると、音質が劣化する。図1のオーディオシステム100によれば、オーディオ回路200において、スピーカ110の状態を監視し、監視した結果にもとづいて、再生特性を動的、適応的に補正することができる。
【0035】
補正は、複数チャンネル間で相対的に行ってもよい。この場合、全チャンネルの複数のスピーカの状態を示すデータを、全チャンネルを統合的に制御するヘッドユニット(音源102)に集約し、ヘッドユニットにおいて各チャンネルの補正値を決定してもよい。各チャンネルのDSP202は、ヘッドユニットから受信した補正値にもとづいて、補正を行ってもよい。
【0036】
補正は、各チャンネルで独立して絶対的に行ってもよい。絶対的な補正は、全チャンネルで共通の基準値を定めておき、各チャンネルごとにDSP202が、基準値にもとづいて補正を行ってもよい。
【0037】
続いて、図2を参照して、監視すべきスピーカ110の状態および補正について具体的に説明する。図2は、スピーカ110の構成を示すブロック図である。なおスピーカ110の構成は例示であり、公知の別の構成のスピーカにも本発明は適用可能である。スピーカ110は、筐体112、振動板114、コイル116、マグネット118を備える。コイル116の両端から引き出された端子(+,-)には、アンプからの駆動電圧が供給される。コイル116に交流の駆動電圧VDRVが印加されると、振動板114と垂直方向にコイル磁場HCOILが発生し、コイル磁場HCOILが、マグネット118の発生磁場HMAGNETと作用することにより、振動板114が振動し、電気信号が音響信号に変換される。
【0038】
(スピーカの振動)
監視すべきスピーカ110の状態のひとつは、スピーカ110の振動である。
スピーカ110の筐体112は、図示しないキャビネットに固定される。車載オーディオでは、ドアがキャビネットとして機能する。キャビネットが振動すると、その振動が筐体112を介して振動板114に伝わる。スピーカ110全体が、振動板114の面と垂直方向に振動(外乱振動)していると、あたかも振動板114が外乱振動120によって駆動されているのと等価となり、音質を劣化させる。
【0039】
そこで一実施例においては、センサ206によって外乱振動120を検出し、この外乱振動120の影響が相殺されるような補正信号を、コイル116に印加する駆動電圧VDRVに重畳すればよい。具体的には、振動板114に、外乱振動120と逆位相(逆極性)の補正振動122が誘起されるように、補正信号を生成すればよい。この補正は、オーディオ信号の再生中に行うことができる。
【0040】
(スピーカの磁場)
スピーカ110のマグネット118が発生する磁場HMAGNETの強さにはばらつきがあり、また経年劣化の影響を受ける。複数チャンネルのオーディオシステムにおいて、スピーカ110の磁場HMAGNETの強さのばらつきは、複数のスピーカの出力のばらつきとして現れ、音質の劣化の要因となる。そこでマグネット118の磁場HMAGNETの強さを測定し、磁場HMAGNETの強さのばらつきを相殺するように、コイル磁場HCOILの強さを補正することにより、言い換えれば、駆動電圧VDRVを補正することにより、チャンネル間のばらつきを抑制でき、音質を改善できる。具体的には、オーディオ信号に、磁場HMAGNETのばらつきにもとづく補正係数(ゲイン)を乗算することにより、駆動電圧VDRVの振幅を変化させてもよい。
【0041】
(スピーカの温度)
スピーカ110の再生特性は、温度Tの影響を受ける。温度Tの影響は、コイル116のインダクタンスに影響を及ぼし、あるいは振動板114の機械的特性(剛性など)に影響を及ぼしうる。したがって複数チャンネルのオーディオシステムにおいて、スピーカ110の温度Tのばらつきは、複数のスピーカ110の音響出力のばらつきとして現れ、音質の劣化の要因となる。そこで温度Tに応じて、各チャンネルのオーディオ信号を補正することにより、チャンネル間のばらつきを抑制でき、音質を改善できる。
【0042】
スピーカ110をオーディオ帯域外の低周波(20Hz以下)で駆動することにより、空力効果によってスピーカ110を冷却し、温度のばらつき自体を解消してもよい。具体的には、温度Tがあるしきい値を超えた場合に、あるいは各チャンネルの温度の差分があるしきい値を超えた場合に、温度が高いチャンネルのオーディオ信号に、20Hz以下の周波数を有する冷却用の補正成分を重畳してもよい。
【0043】
(スピーカのインピーダンス)
スピーカ110の再生特性は、それ自体のインピーダンスZを測定することにより推定できる。そこでスピーカ110のインピーダンスZを測定し、インピーダンスZに応じて駆動電圧VDRVの振幅や周波数特性を補正してもよい。インピーダンスZは、直流インピーダンスを用いてもよいし、少なくともひとつの周波数の交流インピーダンスを用いてもよい。
【0044】
続いてオーディオシステム100の具体的な構成例を説明する。
図3は、一実施例に係るオーディオシステム100のブロック図である。図2には、1チャンネル分の構成のみが示される。オーディオシステム100は、図1のセンサ206として、振動センサ210、磁気センサ212、温度センサ214を備える。
【0045】
またDSP202は、オーディオ処理部242、振動補正部244、磁気補正部246、温度補正部248、インピーダンス補正部250を含む。これらのブロックは、ソフトウェアによって実装してもよいし、ハードウェアで実装してもよい。オーディオ処理部242は、デジタルボリューム処理、イコライジング処理、ラウドネス処理など、オーディオ再生に関連する処理を行う。振動補正部244~インピーダンス補正部250は、オーディオ処理部242の処理後のオーディオ信号(あるいは処理前の信号)を、スピーカの状態にもとづいて補正する。なお、スピーカの状態にもとづいてオーディオ信号S3の振幅を補正する場合には、オーディオ処理部242のデジタルボリューム回路の機能を利用してもよい。またオーディオ信号S3の周波数特性を補正する場合には、オーディオ処理部242のデジタルフィルタ(マルチバンドイコライザ)の機能を利用してもよい。
【0046】
(振動の補正)
振動センサ210は、スピーカ110の筐体112の外乱振動120を検出し、検出信号S2Aを生成する。DSP202の振動補正部244は、振動センサ210からの検出信号S2Aにもとづいて、外乱振動120を検出し、外乱振動120と逆位相の補正信号を生成する。そしてこの補正信号を、オーディオ信号S3に重畳することにより、外乱振動の影響をキャンセルする。これにより音質を改善できる。
【0047】
振動センサ210としては加速度センサを用いることができる。この場合、DSP202は検出信号S2Aを2回積分して変位情報に変換し、変位情報に応じた補正信号を生成してもよい。振動の補正は、各チャンネルで独立に行うことができる。
【0048】
(磁場の補正)
磁気センサ212は、スピーカ110のマグネット118の発生磁場HMAGNETの強さを検出し、磁場HMAGNETを示す検出信号S2Bを生成する。DSP202の磁気補正部246は、オーディオ信号の非再生状態(ミュート状態)において生成された検出信号S2Bにもとづいて、補正ゲインを決定する。
【0049】
たとえば測定された磁場HMAGETが小さい場合、コイル116の磁場HCOILが強くなるように、オーディオ信号S3の振幅を大きくすればよい。反対に測定された磁場HMAGETが大きい場合、コイル116の磁場HCOILを弱めるように、オーディオ信号S3の振幅を大きくすればよい。
【0050】
磁場の補正は、複数のチャンネルで相対的に行ってもよい。補正は、磁場が最も小さいチャンネルを基準としてもよいし、最も大きいチャンネルを基準としてもよい。上述したように相対的な補正のためのパラメータ(補正ゲインの決定)は、図1の音源102において行ってもよい。
【0051】
あるいは磁場の補正は、各チャンネルごとに独立して、共通の基準値に対して行ってもよい。
【0052】
(温度の補正)
温度センサ214は、スピーカ110の温度を測定する。DSP202の温度補正部248は、温度を示す検出信号S2Cにもとづいて、オーディオ信号S3の振幅あるいは周波数特性を補正する。たとえば測定された温度Tが高い場合、DSP202の温度補正部248は、コイル116の磁場HCOILが強くなるように、オーディオ信号S3の振幅を大きくすればよい。
【0053】
反対に温度Tが低い場合、DSP202は、コイル116の磁場HCOILを弱めるように、オーディオ信号S3の振幅を小さくすればよい。温度Tの上昇がある特定の周波数成分のみに影響を及ぼす場合、DSP202はその周波数成分のゲインを補正すればよい。
【0054】
温度の補正は、磁場の補正と同様に、複数のチャンネルで相対的に行ってもよいし、各チャンネルごとに絶対的に行ってもよい。
【0055】
またDSP202は、温度Tが高い場合、オーディオ信号S3に、オーディオ帯域外の低周波(20Hz以下)の冷却用の補正信号を重畳し、空力効果によってスピーカ110を冷却してもよい。この冷却は、オーディオ信号の再生中に行うことができる。
【0056】
(インピーダンスの補正)
検出回路216は、スピーカ110のインピーダンスを補正するために、スピーカ110に流れる電流IOUTを検出する。DSP202のインピーダンス補正部250は、電流IOUTと駆動電圧VDRVにもとづくインピーダンスZに応じて、ゲイン補正を行う。駆動電圧VDRVについては、実測値を用いてもよいし、理論値を用いてもよい。実測値を用いる場合、検出回路216を、駆動電圧VDRVを検出可能に構成すればよい。理論値を用いる場合、駆動電圧VDRVの指令値に相当するオーディオ信号S3の値を用いることができる。
【0057】
インピーダンスZの測定には、直流の駆動電圧(リファレンス信号)VDRVを印加して直流インピーダンスを測定してもよい。あるいは所定の周波数の交流の駆動電圧VDRVを印加して交流インピーダンスを測定してもよい。
【0058】
DSP202は、測定されたインピーダンスにもとづいて、オーディオ信号S3のゲイン(あるいは周波数特性)を補正する。
【0059】
以上がオーディオシステム100の構成例である。図4(a)、(b)は、実施の形態に係るスピーカユニット300を示す図である。このスピーカユニット300は、主として車載オーディオシステムに利用される。図4(a)にはスピーカユニット300の構成が示される。スピーカユニット300は、スピーカ110と、駆動モジュール310を備え、それらが一体化されてなる。駆動モジュール310は、プリント基板上に、DSP202、アンプ204、センサ206等を実装したものである。駆動モジュール310は、スピーカ110に取り付けられる。
【0060】
図4(b)は、駆動モジュール310のブロック図である。駆動モジュール310は、DSP202、アンプ204、振動センサ210、磁気センサ212、温度センサ214、不揮発性メモリ312、電源314を備える。駆動モジュール310はスピーカ110と一体化されるため、振動センサ210は、駆動モジュール310上に実装することで、スピーカ110の振動を検出できる。磁気センサ212は、スピーカ110のマグネット118の磁界HMAGNETを検出可能な位置に配置される。
【0061】
温度センサ214は、スピーカ110の温度を検出可能な位置に配置される。スピーカ110と駆動モジュール310の間の熱抵抗が高く、それらの温度差が大きい場合、温度センサ214のセンシングの部分(たとえば熱電対の電極あるいはサーミスタ)は、駆動モジュール310上ではなく、スピーカ110に直接取り付けることが好ましい。
【0062】
アンプ204は、D級アンプであり、その電源電圧VDDは、外部の電源(たとえば車載バッテリ)から供給される。電源314は、外部電源からの電源電圧VDDを適切な電圧レベルに安定化し、DSP202やセンサ206に供給する。
【0063】
DSP202は、図示しない音源(ヘッドユニット)と通信するためのインタフェースを備える。具体的にはDSP202は、デジタルオーディオ信号S1を受信するためのインタフェースを備え、たとえばS/PDIF(Sony Philips Digital InterFace)などが利用できる。
【0064】
またDSP202は、音源から、制御データS4を受信するためのインタフェースを備える。制御データS4には、デジタルボリュームやイコライザの設定値や、上述の補正処理に関するデータ(補正ゲイン)などが含まれうる。このインタフェースには、IC(Inter IC)インタフェースやSPI(Serial Peripheral Interface)を用いることができる。車載用途では、CAN(Controller Area Network)やLIN(Local Interconnect Network)を用いてもよい。このインタフェースを利用して、スピーカユニット300において取得したスピーカ110の状態を示すデータを、音源に送信してもよい。
【0065】
不揮発性メモリ312には、デジタルの音声データが格納される。音声データは、警告音やアラーム音、音声メッセージなどを含めることができる。DSP202は、ヘッドユニットから、制御データである再生指令を受信すると、対応する音声データを不揮発性メモリ312から読出し、それを再生する。
【0066】
以上がスピーカユニット300の構成である。続いてスピーカユニット300の用途を説明する。図5は、スピーカユニット300を備える自動車400を示す図である。自動車400は、音源に相当するヘッドユニット402と、複数のスピーカユニット300を備える。図5には6個のスピーカユニット300が示されるが、その個数やレイアウトは特に限定されない。
【0067】
スピーカユニット300のひとつ(300E)は、自動車400の外部に対して警報などを発するように設置されてもよい。電気自動車やハイブリッド自動車では、エンジン音を模擬した音声信号を、歩行者等に向けて発することが義務づけられている。この音声信号を、スピーカユニット300Eの不揮発性メモリ312に格納しておくことで、簡易にこの機能を実現できる。そのほか、不揮発性メモリ312には、クラクションの音声などを格納してもよい。
【0068】
室内に設けられたスピーカユニット300Iに関しては、ウィンカー音、後退時の報知音、シートベルトの警告音、居眠りの警報音、などの音声を格納しておいてもよい。
【0069】
本開示には、以下の技術思想が含まれる。複数のスピーカ110の状態(磁気、温度、インピーダンス)に差が生ずると、それらの能率、ひいては音圧に差が生じうる。そこで一態様に係るオーディオ回路200において、DSP202は、スピーカの音圧が均一化されるようにオーディオ信号を補正してもよい。
【0070】
また、複数のスピーカ110の状態(磁気、温度、インピーダンス)に差が生ずると、それらの周波数特性に差が生じうる。そこで一態様に係るオーディオ回路200において、DSP202は、周波数特性が均一化されるようにオーディオ信号を補正してもよい。
【0071】
スピーカユニット300の用途は車載には限定されず、ホームオーディオ、特にチャンネル数が多い、5.1チャンネルや7.1チャンネルなどのホームシアター用のオーディオシステムにも利用可能である。
【0072】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0073】
100…オーディオシステム、102…音源、110…スピーカ、112…筐体、114…振動板、116…コイル、118…マグネット、120…外乱振動、200…オーディオ回路、202…DSP、204…アンプ、206…センサ、210…振動センサ、212…磁気センサ、214…温度センサ、216…検出回路、242…オーディオ処理部、244…振動補正部、246…磁気補正部、248…温度補正部、250…インピーダンス補正部、300…スピーカユニット、310…駆動モジュール、312…不揮発性メモリ、314…電源、400…自動車、402…ヘッドユニット、S1…オーディオ信号、S2…検出信号、S3…オーディオ信号、S4…制御データ。
図1
図2
図3
図4
図5