(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子、その製造方法、分散体および樹脂複合体
(51)【国際特許分類】
C01G 25/02 20060101AFI20220526BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220526BHJP
C08K 9/04 20060101ALI20220526BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
C01G25/02
C08L101/00
C08K9/04
C08K3/08
(21)【出願番号】P 2017197667
(22)【出願日】2017-10-11
【審査請求日】2020-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000219912
【氏名又は名称】東京インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】戸田 明宏
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 雅規
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-154927(JP,A)
【文献】特開2016-028998(JP,A)
【文献】特開2008-044835(JP,A)
【文献】特開2009-298995(JP,A)
【文献】特開2015-196721(JP,A)
【文献】特開2017-066021(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/02
C08L 101/00
C08K 9/04
C08K 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム-アミン錯体に、
水と、
アルミニウム、マグネシウム、チタンおよび希土類元素の塩またはアルコキシドから選ばれた少なくとも1種の安定化元素と
水酸基含有脂肪族カルボン酸、アリール基含有カルボン酸および脂肪族カルボン酸を含む表面処理剤と、
を添加する工程、
および、その得られた混合物を水熱反応に供する工程、
を含むことを特徴とする正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記水酸基含有脂肪族カルボン酸の炭素数が3以上22以下、前記アリール基含有カルボン酸の炭素数が7以上20以下、および前記脂肪族カルボン酸の炭素数が3以上22以下であることを特徴とする請求項1記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記安定化元素と前記ジルコニウム-アミン錯体中のジルコニウム元素との原子数比が1/99以上1/10以下であることを特徴とする請求項1または2記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記安定化元素がイットリウムであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の製造方法により得られた正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子を、有機溶媒、モノマーおよび重合性オリゴマーから選ばれた少なくとも一つを含有する分散媒中に分散
する工程を含むことを特徴とする正方晶酸化ジルコニウム分散体
の製造方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の製造方法により得られた正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子を、樹脂中に分散
する工程を含むことを特徴とする樹脂複合体
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子、その製造方法、正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子分散体および正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子が均一分散した樹脂複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属酸化物のナノ粒子は、光学材料、電子部品材料、磁気記録材料、触媒材料、紫外線や近赤外吸収材料など様々な材料の高機能化や高性能化に寄与するものとして非常に注目されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂に無機酸化物微粒子を混合分散させて高屈折率で低分散の光学材料を製造する技術が開示されている。 無機酸化物微粒子の一つであり、屈折率が高い酸化ジルコニウムナノ粒子をこのような技術に適用することにより高屈折率の光学材料を開発することが可能となる。
【0004】
従来、酸化ジルコニウム粉末は、工業的には、ジルコニウム塩水溶液を加水分解し、次いで、得られた水和ジルコニアを分離した後、仮焼する加水分解法(特許文献2)や、水和ジルコニア微粒子の懸濁液に、アンモニアを添加して固形物を沈殿させ、次いで、得られた水和ジルコニウムを分離し、仮焼する加水分解中和法( 特許文献3) によって製造されている。
【0005】
また、ハロゲン化ジルコニウムを気化させ、この蒸気を、火炎中で反応させた後、酸化ジルコニウムに付着しているハロゲニドを熱処理により除去する方法(特許文献4)、ジルコニウム化合物の水溶液を、100~220℃ で水熱処理した後、乾燥及び熱処理することにより、0.1~0.8μm の単分散球状超微粉粒子を製造する方法(特許文献5) 、水酸化ジルコニウムの仮焼物を、ジルコニア製のボールを備えた粉砕機により湿式粉砕して、平均粒径1μm以下に粉砕する方法(特許文献6)等が報告されている。
【0006】
さらに、特許文献7には、ジルコニウム化合物を、亜臨界ないし超臨界状態の水を媒体として水熱反応させることにより、短時間での反応で、結晶構造を制御したナノサイズの酸化ジルコニウム結晶粒子の製造方法が開示されている。
【0007】
ところで、酸化ジルコニウムには、立方晶、単斜晶および正方晶の3種の結晶形が知られているが、正方晶の屈折率が高いため高屈折率光学材料用途には正方晶がより好ましい。
【0008】
そこで、 特許文献8では、カルボン酸のジルコニウム複合体を水熱反応させ、その反応後の上澄み液のpHを6~8とすることによって、単斜晶を含まない正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子が製造できるとしている。
【0009】
また、特許文献9には、ジルコニア(酸化ジルコニウム)0.98~0.9モルに対して希土類金属酸化物0.02~0.1モルを含有する安定化ジルコニア微粒子が開示され、その結晶化構造は正方晶であると記載されている。
【0010】
さらに、特許文献10には、分散粒径が1nm以上かつ20nm以下の正方晶ジルコニア粒子を含有してなるジルコニア透明分散液が開示され、その分散体を利用して屈折率が高く、透明性に優れ、しかも機械的特性が向上した透明複合体を得ることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2003-73563号公報
【文献】特開昭58-217430 号公報
【文献】特開昭63-129017号公報
【文献】特開平8-225325号公報
【文献】特開平6-321541号公報
【文献】特開平6-305731号公報
【文献】特開2005-255540号公報
【文献】特開2009-215087号公報
【文献】特開2008-184339号公報
【文献】特開2007-99931号公報
【文献】特開2016-28998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献8で得られる正方晶酸化ジルコニウムは、カルボン酸に被覆されベンゼン、シクロヘキサン等の非極性溶媒には分散するとされているが、その分散状態の記載がなく、主として正方晶であると記載されていることから正方晶以外の結晶を含まないわけではない。また、比較的極性の高い溶媒やモノマーに分散させる場合は、さらに他の被覆剤で被覆する必要があるといった問題がある。
【0013】
特許文献9の安定化ジルコニア微粒子は正方晶のみからなるが、その製造にあたっては特殊な条件、すなわち亜臨界ないし超臨界状態の水を媒体として用いるため反応温度を300~400℃、反応圧力を20~40MPaといった特殊な条件にする必要がある。 また、特許文献10の正方晶ジルコニアは、実施例によると、オキシ塩化ジルコニウムの水溶液を希アンモニア水で処理してジルコニア前駆体スラリーとし、このスラリーに硫酸ナトリウム水溶液を加え、この混合物を130℃で乾燥、さらに500℃で焼成して得られた混合物に水を加えてスラリーとし、それを遠心分離することによって精製、次いで乾燥させる、といった複雑で、大量のエネルギーを必要とする工程によって製造されるばかりでなく、その分散液は、多量の分散剤を使用して分散させる必要がある(例えば、その実施例1によるとジルコニア粒子10gに対して3gの分散剤を加えている。)ため、ジルコニア粒子をモノマーに分散して重合させる場合など、その得られた樹脂複合体の物性への分散剤の影響が無視できないといった問題がある。
【0014】
さらに、特許文献11の正方晶ジルコニアナノ粒子は、有機溶媒、モノマー、重合性オリゴマー、樹脂等への分散性に優れてはいるが、フェニル基等のアリール基を含むものには分散性が優れているとはいえない場合があったり、モノマーや重合性オリゴマー中に分散させた場合に重合時に相分離し、結果として得られた重合物が白濁するといった問題があった。 さらに、表面処理剤による屈折率低下も問題とされた。
【0015】
従って、本発明は、アリール基を含む有機溶媒、モノマー、重合性オリゴマー、樹脂等に対しても分散性に優れるばかりでなく、モノマーおよび重合性オリゴマー中においては重合時の相分離もなく、屈折率低下も少ない正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子、その製造方法、その分散体および樹脂複合体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、鋭意検討した結果、特許文献11の表面処理剤として水酸基含有脂肪族カルボン酸とアリール基含有カルボン酸とを用いることにより、アリール基を含む有機溶媒、モノマー、重合性オリゴマー、樹脂等に対しても分散性に優れ、モノマーおよび重合性オリゴマー中においては重合時の相分離もなく、屈折率低下も少ない正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
すなわち、本発明は、
(1)ジルコニウム-アミン錯体に、
水と、
アルミニウム、マグネシウム、チタンおよび希土類元素の塩またはアルコキシドから選ばれた少なくとも1種の安定化元素と
水酸基含有脂肪族カルボン酸、アリール基含有カルボン酸および脂肪族カルボン酸を含む表面処理剤と、
を添加する工程、
および、その得られた混合物を水熱反応に供する工程、
を含むことを特徴とする正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法、
(2)前記水酸基含有脂肪族カルボン酸の炭素数が3以上22以下、前記アリール基含有カルボン酸の炭素数が7以上20以下、および前記脂肪族カルボン酸の炭素数が3以上22以下であることを特徴とする(1)記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法、
(3)前記安定化元素と前記ジルコニウム-アミン錯体中のジルコニウム元素との原子数比が1/99以上1/10以下であることを特徴とする(1)または(2)記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法、
(4)前記安定化元素がイットリウムであることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法、
(5)(1)から(4)のいずれかに記載の製造方法により得られた正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子を、有機溶媒、モノマーおよび重合性オリゴマーから選ばれた少なくとも一つを含有する分散媒中に分散する工程を含むことを特徴とする正方晶酸化ジルコニウム分散体の製造方法、
(6)(1)から(4)のいずれかに記載の製造方法により得られた正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子を、樹脂中に分散する工程を含むことを特徴とする樹脂複合体の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の表面処理された正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子は分散剤を用いなくても、多種多様な有機溶媒、モノマー、重合性オリゴマー、樹脂等に対して分散性に優れるばかりでなく、モノマーおよび重合性オリゴマー中においては重合時の相分離もなく、屈折率低下も少ない。 従って、この正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子をモノマーや重合性オリゴマーに分散させて重合させることによって、高屈折率で透明な材料を得ることが可能となるため、高屈折率レンズ材料、高屈折率ハードコート材料などへの適用性に優れる。 また、樹脂中に分散させてそれらの樹脂に機能を付加したり、光学的または機械的物性を改良したりする場合においても多種多様な樹脂へ適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明における実施例1と比較例1のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更実施の形態が可能である。
【0021】
本発明の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子は、アルミニウム、マグネシウム、チタンおよび希土類元素から選ばれる少なくとも1種の安定化元素を含有し、水酸基含有脂肪族カルボン酸およびアリール基含有カルボン酸を含む表面処理剤で表面処理されていることを特徴とする。
【0022】
前記安定化元素の含有量はその添加量に従って、ジルコニウム元素との原子数比で1/99以上1/10以下が好ましい。 1/99未満では安定化元素の効果が不十分なため正方晶以外の結晶が生成するといった問題があり、1/10を超えるとその効果が飽和するため無駄になるばかりでなく屈折率低下の要因となるため好ましくない。
【0023】
前記水酸基含有脂肪族カルボン酸は炭素数が3から22が好ましく、有機溶媒、モノマー等への分散性を考慮するとその炭素数は6~22が特に好ましい。 また、枝分かれがあってもよく、二重結合を含んでいてもよい。 例示すれば、3-ヒドロキシプロピオン酸、リシノール酸、3-ヒドロキシオクタン酸、10-ヒドロキシデカン酸、9-ヒドロキシデセン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、7-ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられる。 なお、水酸基含有脂肪族カルボン酸の水酸基は、特に分散媒がカルボニル基を有する有機溶媒、モノマーまたは重合性オリゴマーである場合に、そのカルボニル基との水素結合により分散体の安定性に寄与するものと考えられるが、モノマーまたは重合性オリゴマーがカルボキシル基を有する場合は、エステル結合形成によっても分散安定性向上に寄与するものと考えられる。
【0024】
前記アリール基含有カルボン酸は、酸化ジルコニウムナノ粒子表面に疎水性を与え、特に、アリール基を含んだ有機溶媒等中での分散安定性に寄与すると考えられるが、炭素数7から20が好ましく用いられる。 また、アリール基としてはフェニル基、ナフチル基等の炭環式のものが好ましく、炭素原子に結合したアリール基の他に、酸素原子に結合したアリールオキシ基、硫黄原子に結合したアリールチオ基等を含む。 例示すれば、安息香酸、フェニル酢酸、フェノキシ酢酸、フェニルチオ酢酸、2-フェニルプロピオン酸、3-フェニルプロピオン酸、3-フェノキシプロピオン酸、2-フェニルチオプロピオン酸、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸、1-ナフタレン酢酸、2-ナフチル酢酸、2-フェニル安息香酸、4-フェニル安息香酸、4-ビフェニル酢酸、ジフェニル酢酸、メフェナム酸、サリチル酸、等が挙げられる。
【0025】
本発明の表面処理剤として脂肪族カルボン酸等の他の表面処理剤を含んでもよい。 前記脂肪族カルボン酸としては、飽和、不飽和を問わず、炭素数が3から22が好ましく、枝分かれがあってもよい。
【0026】
また、水酸基含有脂肪族カルボン酸、アリール基含有カルボン酸等の表面処理剤による表面処理量は、得られた正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子に対して5質量%以上30質量%以下である。 5質量%未満では有機溶媒、モノマー等への分散性が不十分で、30質量%を超えると屈折率低下が著しくなるため好ましくない。 ここで、これらカルボン酸の表面処理量は、窒素雰囲気下40℃/分の速度で900℃まで昇温したときの質量減少率とした。
【0027】
本発明の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法は、ジルコニウム-アミン錯体に、水と、アルミニウム、マグネシウム、チタンおよび希土類元素の塩またはアルコキシドから選ばれた少なくとも1種と、水酸基含有脂肪族カルボン酸およびアリール基含有カルボン酸を含む表面処理剤とを添加する工程、およびその得られた混合物を水熱反応に供する工程を含むことを特徴とする。
【0028】
本発明のジルコニウム-アミン錯体は、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウム、テトラアルコキシジルコニウム、テトラアルコキシジルコニウムの部分加水分解縮合物等のジルコニウム化合物とアミン化合物とから製造される。
【0029】
本発明で用いるテトラアルコキシジルコニウムのアルコキシ基は、同一または異なっていてもよく、また枝分かれしていてもよい炭素数1から5のアルコキシ基が好ましく、n-プロポキシ基またはn-ブトキシ基が適度の反応性を有し、入手しやすいことから特に好ましい。
【0030】
テトラアルコキシジルコニウムの部分加水分解縮合物は、テトラアルコキシジルコニウムを部分加水分解して得られる、Zr-O-Zr結合を介して連なった2量体、3量体、4量体等のオリゴマーを形成した化合物であるが、このようなオリゴマーもテトラアルコキシジルコニウムと同様に用いることができる。 また、このようなオリゴマーは、場合によってはテトラアルコキシジルコニウム中にも含まれていることがある。
【0031】
本発明で用いるアミン化合物としては、非芳香族アミンが用いられる。 非芳香族アミンとしては、脂肪族アミンがあげられる。 例えば、プロピルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン等の1級アミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジオクチルアミン等の2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミンが例示できる。
【0032】
また、アミノ基を2個以上もつもの、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、N,N‘-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、テトラエチレンペンタミン等や、水酸基を持つもの、例えば、エタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン等のアルカノールアミンも好適に使用できる。
【0033】
さらに、アミノカルボン酸化合物、例えば、グリシン、アラニン、アスパラギン酸、リシン等のα-アミノ酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン-N,N’,N‘-三酢酸、トリエチレンテトラミン-N,N,N’,N‘’,N‘’’,N‘’‘-六酢酸、1,3-プロパンジアミン-N,N,N’,N‘-四酢酸等が使用できる。
【0034】
前記記載のアミン化合物の中では、水溶性で反応性が高いものが好ましく、脂肪族の総炭素数が2~12の1級、2級または3級のアルキルアミン、総炭素数が2~12のアルキレンジアミン、または総炭素数が2~12のアルカノールアミンが特に好ましく用いられる。
【0035】
好ましいアルカノールアミンの具体例として、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン等の一種単独または二種以上の組み合わせが挙げられる。 これらのアルカノールアミンのうち、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンおよびこれらの混合物が金属錯体の保存安定性をより高めることができるため、特に好ましい。
【0036】
本発明で用いるアミン化合物の使用量は、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ酢酸ジルコニウム、オキシ炭酸ジルコニウムおよびテトラアルコキシジルコニウム等のジルコニウム化合物に対し1~4倍モルである。 1倍モル未満では錯体の生成が不十分となり、4倍モル超では反応しないアミン化合物が残存する。
【0037】
次いで、得られたジルコニウム-アミン錯体に、水と、アルミニウム、マグネシウム、チタンおよび希土類元素の塩またはアルコキシドから選ばれた少なくとも1種と、水酸基含有脂肪族カルボン酸と、アリール基含有カルボン酸等の表面処理剤とを加える。 その添加順序は特に定められるものではないが、混合の操作性を考慮すると、上記記載のとおりの順序が好ましい。
【0038】
前記したアルミニウム、マグネシウム、チタンおよび希土類元素から選ばれた少なくとも1種は、安定化元素として作用する。 すなわち、得られた正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の安定化に寄与するものと考えられる。 これらは塩またはアルコキシドとして添加され、塩化物や硝酸塩等の水溶性塩または低級アルコキシドが好ましく用いられる。 例えば、安定化元素がアルミニウムであるときは、アルミニウムイソプロポキシドが、安定化元素がイットリウムであるときは、塩化イットリウムまたは酢酸イットリウムが好ましく用いられる。 これらの安定化元素は、通常、ジルコニウム元素に対して、原子数比で1/99以上1/10以下の範囲で用いられる。
【0039】
次いで、この得られた混合物を、水熱反応に供する。 前記水熱反応は、密閉容器中で140~300℃、好ましくは200~300℃で行われる。 200℃未満では反応が遅いため(反応時間が24時間を超える場合がある)実際的ではなく、300℃を超えると装置が大掛かりなものとなる。
【0040】
水熱反応後、定法により精製して本発明の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子を得ることができる。 例えば、反応液の上澄み液除去、濾過と溶媒洗浄、または溶媒中での超音波洗浄と遠心分離により精製し、乾燥することによって、白色粉末として本発明の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子を得ることができる。
【0041】
上記では、正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の製造方法を、ジルコニウム-アミン錯体の製造、得られたジルコニウム-アミン錯体への安定化元素含有化合物および表面処理剤であるカルボン酸の添加、水熱反応、そして精製といった工程で逐次的に説明してきたが、後記実施例1のように、一度にこれらの化合物を混合し、水熱反応、次いで精製といった工程でも製造可能である。
【0042】
このようにして得られた正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子は、正方晶のみで粒子径が数nm~数10nmの単分散したものとなるが、その平均粒子径は1~20nmが好ましく、分散体の透明性を考慮すると1~10nmがより好ましい。
なお、本発明において、平均粒子径は、粉末X 線回折データから結晶子サイズをScherrer式により求め、その値と同等であるとした。 本発明の先行技術文献である特許文献11によると、透過電子顕微鏡の観察から求めた正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子の平均粒子径は前記結晶子サイズとほぼ同等の値が得られている。
【0043】
本発明の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子は、その表面がアリール基を含むカルボン酸で疎水化され、凝集しにくいため、有機溶媒、モノマー、樹脂等への分散性に優れている。 従って、例えば超音波ホモジナイザーを用いることにより、多種多様な有機溶媒、モノマー、重合性オリゴマーおよび樹脂中に、特にこれらがアリール基を含有するものであっても容易に均一分散させることができるばかりでなく、モノマーおよび重合性オリゴマーでは重合反応中で相分離が起こりにくいため透明性に優れた、高屈折率の樹脂複合体を得ることができる。 なお、本発明の正方晶酸化ジルコニウム分散体および樹脂複合体には、その目的に応じて酸化防止剤、離型剤、重合開始剤、染顔料、分散剤等を含有してもよい。
【0044】
前記の有機溶媒としては、例えば、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、オクタノール、シクロヘキサノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン等のエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、プソイドクメン、フェニルキシリルエタン、エチルベンゼン、等の芳香族炭化水素、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド類が好適に用いられ、これらの溶媒のうち1 種または2 種以上を用いることができる。
【0045】
前記のモノマーおよび重合性オリゴマーとしては、ラジカル重合性、縮重合性、開環重合性等のいずれであっても使用できる。 例えば、ラジカル重合性のモノマーとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル系モノマー、グリシジル基、イソシアネート基、ビニルエーテル基等の反応性官能基を持つ(メタ)アクリル系モノマー、スチレン等のビニル系モノマー等、縮重合性のモノマーとしてはポリアミドやポリエステルを形成するモノマー、ポリイソシアネートとポリオールおよびポリチオールとの組み合わせ等、開環重合性のモノマーとしてはエポキシ系モノマー等が好適に使用できる。 また、重合性オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、アクリレート系オリゴマー等が好適に使用できる。
この中で、アリール基を有するモノマーとしては、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-アクリロイロキシエチルフタル酸、2-メタクリロイロキシエチルフタル酸、2-アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチルフタル酸、エチレングリコールモノフェニルエーテルアクリラート、エトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート、3-フェノキシベンジルアクリレート等が例示できる。
【0046】
本発明の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子を、モノマーまたは重合性オリゴマーに分散させてから重合させたり、樹脂中に分散させることによって樹脂複合体を得ることができる。 本発明の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子は、分散性に優れるため高屈折率で透明性を要求される用途、機械的物性を向上させる用途等に好適に用いられる。
ここで、本発明の正方晶酸化ジルコニウムナノ粒子を分散させる樹脂としては、熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリ(メタ)アクリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリウレタン、ポリスチレン、環状ポリオレフィン、ポリカーボネートなどから選ばれた1種または2種以上が好ましく用いられる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 なお、実施例および比較例中の部は質量部を、% は質量%を意味する。
【0048】
本発明において酸化ジルコニウムナノ粒子の結晶構造は、X線回折装置(PANalytical社製、X’Pert PRO MRD)を用い、測定条件を、X線管電圧45kV、X線管電電流40mA、走査範囲2 θは10.0-65.0°とし、X 線回折測定の2θ=28.2 付近の(11-1) 面の単斜晶による回折強度と、30.2付近の(111) 面の正方晶による回折強度を比較することによって単斜晶と正方晶の生成比率とした。
【0049】
正方晶酸化ジルコニウム粒子の平均粒子径は、前記の結晶構造測定結果を用い、2θが30.2付近の(111) 面の正方晶による解析強度からその半価幅βを求め、下記数式1のScherrer式において、Scherrer定数Kを0.9、X線管球の波長λを1.54056として結晶子サイズDを求め、その値とした。
【0050】
(数1)
D=K ・λ/(β・cosθ)
【0051】
また、有機溶媒またはモノマー中での分散性は、合成した酸化ジルコニウム粒子に10%濃度になるように種々の有機溶媒またはモノマーを添加し、超音波洗浄器(アズワン株式会社製超音波洗浄器 MCS-6)による処理後、目視により、透明なものを○、白濁または沈降するものを×として評価した。
【0052】
(実施例1)
ジエタノールアミン11.6g、オクタン酸6.0g、リシノール酸3.0gおよび3-フェニルプロピオン酸4.0g、48%水酸化カリウム水溶液15.0gを含有する混合液に、オキシ塩化ジルコニウム8水和物18.0g、硝酸イットリウム1.0gおよび純水14.7gの混合溶液を添加し、得られた混合物をオートクレーブ中で210℃、8時間の水熱処理を行った。 水熱処理後、上澄み液を除去し、白色沈殿物をアセトンおよび純水で洗浄、ポアサイズ3μmフィルタで濾過し、得られた白色物を60℃で一昼夜真空乾燥を行い、8.12gの白色粉末を得た。 PANalytical社製蛍光X線分析装置Epsilon5を用いて測定したところ、イットリウムの含有量は、全金属量に対し4.489%であった。 カルボン酸の表面処理量は、PerkinElmer社製の熱質量測定装置Pylis1TGAにより、窒素雰囲気下40℃/分の速度で900℃まで昇温した質量減少率から22.31%であった。
【0053】
(実施例2)
ジエタノールアミン11.6g、オクタン酸6.0g、リシノール酸3.0g、フェニルチオ酢酸4.0gおよび48%水酸化カリウム水溶液15.0gの混合液に、オキシ塩化ジルコニウム8水和物18.0g、硝酸イットリウム1.0gおよび純水14.7gの混合溶液を添加し、得られた混合物をオートクレーブ中で210℃、8時間の水熱処理を行った。 水熱処理後、上澄み液を除去し、実施例1と同様の洗浄、乾燥工程により8.69gの白色粉末を得た。 実施例1と同様に金属含量分析および質量減少率を測定したところ、イットリウムの含有量は4.486%、カルボン酸の表面処理量は23.20%であった。
【0054】
(比較例1)
トリエタノールアミン7.4g、85%テトラ-n-ブトキシジルコニウム10.9gおよび純水24.0gの混合物に、純水24.0gおよびラウリン酸2.4gをさらに添加し、この混合液をオートクレーブで290℃、2時間の水熱処理を行った。 水熱処理後、上澄み液を除去し、実施例1と同様の洗浄、乾燥工程により、3.32gの白色粉末を得た。 カルボン酸の表面処理量は17.74%であった。
【0055】
(比較例2)
トリエタノールアミン7.4g、85%テトラ-n-ブトキシジルコニウム10.9g、純水24.0gおよび塩化イットリウム6水和物0.36gを含有する混合液に、純水24.0gおよびラウリン酸3.0gを添加し、得られた混合物をオートクレーブで290℃、2時間の水熱処理を行った。 水熱処理後、上澄み液を除去し、実施例1と同様の洗浄、乾燥工程により、3.58gの白色粉末を得た。 実施例1と同様に金属含量分析および質量減少率を測定したところ、イットリウムの含有量は4.01%、カルボン酸の表面処理量は17.13%であった。
【0056】
(比較例3)
トリエタノールアミン7.4g、オクタン酸2.8gおよび12-ヒドロキシステアリン酸2.2gを含有する溶液に、オキシ塩化ジルコニウム8水和物7.6g、酢酸イットリウム4水和物0.36gおよび純水48.0gの混合溶液を添加し、次いで、28wt%アンモニア水溶液を6mL添加した。 得られた混合物をオートクレーブ中で290℃、2時間の水熱処理を行った。 水熱処理後、上澄み液を除去し、実施例1と同様の洗浄、乾燥工程により3.58gの白色粉末を得た。 実施例2と同様に金属含量分析および質量減少率を測定したところ、イットリウムの含有量は4.04%、カルボン酸の表面処理量は20.74%であった。
【0057】
実施例1~2および比較例1~3で得られた酸化ジルコニウム粒子について、有機溶媒またはモノマー中での酸化ジルコニウム粒子分散液の分散性および透明性、ならびにX線回折測定から算出される正方晶率と結晶子径および熱質量測定から概算される酸化ジルコニウムへの表面処理剤の被覆量を表1に記載した。
【0058】
【0059】
表1から実施例の酸化ジルコニウム粒子は正方晶のみで有機溶媒等への分散性に優れていることが分かる。 また、
図1の実施例1および比較例1のX線回折図に示したとおり、2θ=28.2 付近の回折強度(単斜晶)と、30.2付近の回折強度(正方晶)とを比較することにより、実施例1の正方晶率が100%で、比較例1には単斜晶が混在していることが確認できた。
【0060】
(実施例3)
2-アクリロイルオキシエチルサクシネート(屈折率=1.463)1部およびエトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート(屈折率=1.577)4部に、実施例1の表面処理酸化ジルコニウムナノ粒子を5部加えて超音波分散させた後、光重合開始剤の存在下、ガラス基板にスピンコートし、次いで紫外線照射により光重合させることで膜厚1μmの透明な硬化膜を得た。 膜厚モニター(大塚電子社製:FE-300UV)を用いた589nmにおける硬化膜の屈折率は1.642であった。
さらに、硬化膜について透過値およびヘイズ値を測定したところ、透過値は89.2、ヘイズ値は0.08となり、透明性が確認できた。
【0061】
(比較例4)
実施例3で表面処理酸化ジルコニウムナノ粒子を除いた場合、硬化膜の膜厚1μmの屈折率は1.581、透過値は90.0、ヘイズ値は0.06であった。
【0062】
(比較例5)
2-アクリロイルオキシエチルサクシネート(屈折率=1.463)1部およびエトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート(屈折率=1.577)4部に、比較例3の表面処理酸化ジルコニウムナノ粒子を5部加え、さらにトルエン20部を加えて超音波分散させることによって透明分散液を得た(トルエンを加えない場合は加温しないと透明分散液とはならなかった。)。
この分散液を光重合開始剤の存在下、ガラス基板にスピンコートし、次いで紫外線照射により光重合させることで膜厚1μmのやや白濁した硬化膜を得た。 膜厚モニター(大塚電子社製:FE-300UV)を用いた589nmにおける硬化膜の屈折率は1.584であった。 また、透過値は89.5、ヘイズ値は4.50であった。