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特許7079603フッ化ビニリデンポリマーおよび吸着性炭素材料を含む組成物
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  • 特許-フッ化ビニリデンポリマーおよび吸着性炭素材料を含む組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデンポリマーおよび吸着性炭素材料を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/20 20060101AFI20220526BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20220526BHJP
   B01D 53/047 20060101ALI20220526BHJP
   B01D 53/08 20060101ALI20220526BHJP
   B01D 53/62 20060101ALI20220526BHJP
   B01D 53/82 20060101ALI20220526BHJP
   B01D 53/83 20060101ALI20220526BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220526BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20220526BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20220526BHJP
   C01B 32/30 20170101ALI20220526BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20220526BHJP
   C08K 7/22 20060101ALI20220526BHJP
   C08K 9/00 20060101ALI20220526BHJP
   C08L 27/16 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
B01J20/20 E ZAB
B01D53/04 220
B01D53/047
B01D53/08
B01D53/62
B01D53/82
B01D53/83
B01J20/28 Z
B01J20/30
B01J20/34 D
C01B32/30
C01B32/50
C08K7/22
C08K9/00
C08L27/16
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017534207
(86)(22)【出願日】2015-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-03-15
(86)【国際出願番号】 EP2015080709
(87)【国際公開番号】W WO2016102418
(87)【国際公開日】2016-06-30
【審査請求日】2018-11-21
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-09
(31)【優先権主張番号】14307180.1
(32)【優先日】2014-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】デュボワ, エリク
(72)【発明者】
【氏名】ゴファン, アンヌ-リーズ
(72)【発明者】
【氏名】ジョリ, ジュリアン
【合議体】
【審判長】蔵野 雅昭
【審判官】木村 敏康
【審判官】瀬下 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-525124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)フッ化ビニリデン(VDF)モノマーと、カルボキシル基、エステル基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1個の官能基を有する少なくとも1つのモノマーとに由来する繰り返し単位を含むポリマーと、
)900~1300/gの比表面積(BET)、0.~0.55ml/gの範囲の細孔容積を有するマイクロ孔性の吸着性炭素材料であって、前記細孔容積の少なくとも99%が、2nm以下の細孔半径を有するマイクロ孔によって形成されている、マイクロ孔性の吸着性炭素材料と
を含む、二酸化炭素を吸着するための組成物。
【請求項2】
前記ポリマーが、カルボキシル基、エステル基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1個の官能基を有する前記モノマーに由来する0.02~20モル%の繰り返し単位を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
官能基を有するモノマーのシーケンス(前記シーケンスは、VDFモノマーに由来する2つの繰り返し単位間に含まれている)の平均数と、カルボキシル基、エステル基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1個の官能基を有する前記モノマーの繰り返し単位の総平均数との間のパーセント比が、少なくとも40モル%である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
少なくとも1個の官能基を有する前記モノマーが、式1
(式中、同じまたは異なるものであってよいR、R、およびRのそれぞれが、独立して、水素原子またはC~C炭化水素基を表し、およびRが、水素または少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部分である)
の(メタ)アクリル酸モノマーから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記マイクロ孔性の吸着性炭素材料が塩化ビニリデンポリマーの熱分解物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物を含むスラリーまたは液体分散系。
【請求項7】
水性溶媒もしくは有機溶媒またはそれらの混合物を含む、請求項6に記載のスラリーまたは分散系。
【請求項8】
請求項6または7に記載のスラリーまたは分散系を含むキャスティング組成物。
【請求項9】
表面コーティングを含む基材材料を含む吸着システムを製造するための方法であって、請求項8に記載のキャスティング組成物を前記基材材料の表面上へキャストすることおよびその後の溶媒の除去を含む、方法。
【請求項10】
流体混合物の成分を吸着するための方法での、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物または請求項6もしくは7に記載のスラリーもしくは分散系の使用。
【請求項11】
分離される前記成分が二酸化炭素である、請求項10に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年12月24日出願の欧州特許出願公開第14307180.1号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、フッ素化ポリマーと吸着性炭素材料とを含む組成物、およびガス分離用途向けのそのような組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
吸着法によるガス分離は、当技術分野において、多成分流体混合物および特にガス混合物での使用で知られている。
【0004】
吸着によるガス分離は、基本的には、流体混合物の一成分の、流体混合物の残りの成分からこの成分を分離するための不溶性材料上への選択的吸着と、吸着した成分を解放し、それによって吸着材の再使用を可能にするための吸着材のその後の再生とに依拠している。
【0005】
近年、エネルギー応用などの異なる分野のためのまたは環境目的のための流体貯蔵システムの開発に対する関心がまた高まってきている。これらの流体貯蔵応用について提案されてきた技術の1つは、高い吸着能を有する多孔質材料の使用である。分離される流体は、流体分子と吸着材との間に確立されている引力によりこれらの材料の空隙に蓄積される。
【0006】
幾つかのタイプの吸着材が開発および試験されてきており、最良の候補は、流体分子が吸着されて細孔内へ入ることを可能にするのに好適なサイズの細孔が高度に成長した材料である。
【0007】
満足できる程度の吸着および全体セットアップの安定性を達成するために、分離または貯蔵される流体を含有する流体媒体がそれを通って流れる支持体上に吸着材が提供され、それによって吸着材が流体流れから流体を吸着し、それが分離または貯蔵される流体の激減した吸着材を残す場合に有利である。したがって、好適な担体上への吸着材の付着または固定を可能にする好適なバインダーの開発にも関心がもたれている。
【0008】
温室効果ガス排出および大気中の二酸化炭素濃度の加速された増加による気候変動に対する社会的懸念は、流体またはガス流れから二酸化炭素を回収するための効率的な技術のさらなる必要性をもたらした。特定の化石燃料焚き発電所は、かなりの量の二酸化炭素を運転中に排出し、燃料ガス流れからの二酸化炭素回収にも特に関心がもたれている。
【0009】
フッ素化ポリマーは、とりわけ膜の製造のための電池でのバインダーとしてなど、様々な目的のために多種多様な文献に記載されている。この関連で、フッ素化ポリマーの特性を改質するための親水性または官能性モノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ素化ポリマーまたはコポリマーが、例えば、金属へのこれらの材料の接着性を向上させるために開発されている。
【0010】
国際公開第2008/129,041号パンフレットは、フッ化ビニリデンモノマーと親水性(メタ)アクリルモノマーとを共重合させることによって得られるある種のフッ化ビニリデンコポリマーに関する。
【0011】
米国特許第4,861,851号明細書は、アルキルアクリレートおよびアルコキシ置換アルキルアクリレートから選択される少なくとも1つの単位を含む実質的にランダムのフッ化ビニリデンアクリル酸エステルコポリマーを開示している。
【0012】
国際公開第01/57,095号パンフレットは、フルオロカーボン繰り返し単位と炭化水素繰り返し単位とを含む線状フッ素化ポリマーであって、フルオロカーボン単位がテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニルまたはフッ化ビニリデンに由来し、炭化水素単位が酢酸ビニル、ビニルアルコール、(メタ)アクリル酸、アクリレートまたはメタクリレートに由来する、線状フッ素化ポリマーを開示している。
【0013】
いわゆる活性炭が、吸着法によるガスの分離または流体流れの精製のための好適な吸着材として文献に記載されている。前記それぞれの材料は、特定の意図される用途に採用されるために、空隙率、細孔サイズおよび細孔サイズ分布の観点から設計することができる。
【0014】
国際公開第2012/126,018号パンフレットは、二酸化炭素回収に対する有用性を有する炭素系吸着材を開示している。
【0015】
米国特許出願公開第2013/152,787号明細書は、吸着ガス分離の方法であって、少なくとも2つの異なる流体成分を含む流体混合物を分離するためにいわゆる温度スイング吸着法が提供される方法を開示している。この方法は、流体混合物または供給混合物を収容して、吸着材が提供されているチャンネルに入り、それによって流体混合物の成分の1つの吸着材上への吸着を可能にする最初の工程を含む。吸着された物質を再び解放するために、温度上昇が用いられ、それは温度スイング吸着法と命名されている。温度上昇の代わりに、吸着された物質を解放するためにシステムの圧力変化を用いる公知の方法がまた存在し、それぞれの方法はいわゆる圧力スイング吸着法として知られている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に従った組成物でコーティングされた基材を含有する実施例5に用いられるようなデバイスを示す。実施例5に記載されるような組成物でコーティングされた基材2を含む管状容器1は、それを通って流体(ガス)流れが容器1へ導入される入口ライン3を備えている。それぞれ、2つの三方バルブ4、5を通して、それぞれの量の窒素および二酸化炭素が入口ライン3へ供給される。流体流れは、吸着性基材2を通過し、出口ライン6を通って容器1を出て分析のために必要な好適な分析機器に入る。
【0017】
[発明が解決しようとする課題]
本発明の第1の目的は、フッ素化ポリマーと、前記フッ素化ポリマーのマトリックス中に埋め込まれた炭素材料とを含むある種の組成物であって、吸着法によるガス分離またはガス精製のために使用されてもよい組成物を提供することである。
【0018】
本発明の別の目的は、吸着法によるガス分離またはガス精製に使用するための、フッ素化ポリマーと、前記フッ素化ポリマーのマトリックス中に埋め込まれた炭素材料とを含む組成物の使用である。
【0019】
本発明のさらなる実施形態は、表面または基材上のコーティング組成物として有用である、フッ素化ポリマーと吸着性炭素材料とを含むスラリーまたは分散系に関する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の前述の目的は、請求項1に特許請求されるような組成物により、請求項7に従ったスラリーまたは分散系により、および請求項11に従った組成物の使用により達成された。
【0021】
本発明の好ましい実施形態は、本明細書で以下の従属請求項においておよび本明細書においてより詳細に説明される。
【0022】
本発明に従った組成物は、成分a)としてフッ化ビニリデンモノマー(本明細書では以下、VDFモノマー)と、カルボキシル基、エステル基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1個の官能基を有する少なくとも1つのモノマーとに由来する繰り返し単位を含むポリマーを含む。
【0023】
少なくとも1個の官能基を有するモノマーに由来する繰り返し単位の量は、ポリマー中の繰り返し単位の総量を基準として、好ましくは0.02~20モル%の範囲、より好ましくは0.5~10モル%の範囲にある。とりわけ好ましくはその量は、最大で7.5モル%、より好ましくは最大で5モル%である。
【0024】
好ましい実施形態に従って、カルボキシル基、エステル基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1個の官能基を有するモノマーに由来する繰り返し単位の少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、さらにより好ましくは少なくとも50%、60%または70%の分率は、ポリマー鎖の全体にわたってランダムに分布している。
【0025】
表現「ランダムに分布する単位の分率」は、官能基を有するモノマーのシーケンス(前記シーケンスは、VDFモノマーに由来する2つの繰り返し単位間に含まれている)の平均数と、官能基を有する前記モノマーの繰り返し単位の総平均数との間のパーセント比を意味することを意図する。官能基を有するモノマーの各繰り返し単位が孤立している、すなわち、VDFモノマーの2つの繰り返し単位間に置かれている場合、官能基を有する前記モノマーのシーケンスの平均数は、官能基を有するモノマーの繰り返し単位の平均総数に等しく、ランダムに分布した単位の分率は100%である。これは、完全交互構造(ランダム分布)を表す。単位の総数に対して孤立した単位の数が大きいほど、ランダムに分布した単位の分率のパーセント値はより高くなるであろう。
【0026】
本発明による組成物中のポリマーa)における官能基を有するモノマーの単位の総平均数の測定は、当業者に公知の任意の好適な方法によって行うことができる。酸-塩基滴定法、脂肪族水素原子を側鎖に含むそれぞれのモノマーの定量に特に適したNMR法、およびポリマー製造中の総供給モノマーと未反応残留モノマーとに基づく重量バランスを挙げることができる。
【0027】
官能基を有するモノマーのシーケンスの平均数は、当業者に公知の方法を用いる19F-NMRによって測定されてもよい。
【0028】
さらに別の好ましい実施形態に従って、本発明に従った組成物中のポリマーa)は半結晶性である。この関連での用語半結晶性は、検出できる融点を有するポリマーを意味することを意図する。半結晶性ポリマーが、有利には少なくとも0.4J/g、より好ましくは1J/g超のASTM D3418に従って測定される融解熱を有することは一般に理解される。そのようなポリマーは、多くの場合、非晶質ポリマーよりもある種の利点、特に、追加の架橋が必要であることなしに改善された機械的特性を提供する。
【0029】
30J/g~60J/g、好ましくは35~55J/g、さらにより好ましくは40~50J/gの融解熱を有するポリマーa)が、ある種の用途において特に有利であると分かっている。
【0030】
好ましくは、ポリマーa)は、良好な耐熱性を有し、350℃超、好ましくは360℃超、さらにより好ましくは380℃超の温度で、ISO 11358に従って熱重量分析(TGA)によって測定される1重量%の減量を受ける。
【0031】
線状コポリマー、すなわち、モノマーの繰り返し単位の実質的に線状のシーケンスでできた高分子からなるポリマーが、主鎖上へモノマーがグラフトしているグラフトコポリマーまたは櫛様ポリマーよりも好ましい。
【0032】
ポリマーa)は、好ましくは、0.1dl/gよりも上、最大で20dl/g、好ましくは0.2~15dl/gの範囲、より好ましくは0.5~10.0dl/gの範囲の固有粘度を有する。
【0033】
用語VDFモノマーは、本明細書で用いるところでは、フッ化ビニリデンそれ自体に加えて、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフルオロアルキルビニルエーテルなど、フッ化ビニリデンとの共重合のために通常使用されるモノマーを含む。しかしながら、VDFモノマーの全体量を基準とするフッ化ビニリデンのモル量は、特に耐化学薬品性および耐熱性に関して、ポリマーの望ましい特性スペクトルを保証するために少なくとも60モル%、好ましくは少なくとも70モル%、とりわけ好ましくは少なくとも80モル%であることが一般に好ましい。
【0034】
カルボキシル基、エステル基およびヒドロキシル基から選択される少なくとも1個の官能基を有するモノマーは、重合性二重結合と、必要とされるような官能基とを含む任意の好適な化合物から主に選択することができる。
【0035】
好ましいモノマーb)は、一般式I
(式中、同じまたは異なるものであってよいR~Rが、独立して、水素原子またはC~C、好ましくはC~Cアルキル基であり、およびRが、水素原子または少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部分である)
の親水性モノマーである。
【0036】
官能基を有する好ましいモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート ヒドロキシエチルアクリレートおよびヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0037】
本発明の組成物中の前述の好ましいポリマーa)は、それぞれの生成物の合成をより詳細にまた記載している、国際公開第2008/129041号パンフレットにより詳細に記載されている。
【0038】
この方法は、反応容器中でVDFモノマーと官能基を含むモノマーとをラジカル開始剤の存在下において水性媒体中で重合させる工程であって、官能基を有するモノマーを含む水溶液が連続的に供給され、反応容器の圧力がVDFモノマーの臨界圧を超える値に保たれる工程を含む。全体重合の過程で圧力をVDFモノマーまたはVDFモノマー混合物の臨界圧よりも上に保つことが好ましく、それは、一般に、反応が通常5MPaよりも上、好ましくは7.5MPaよりも上、さらにより好ましくは10MPaよりも上の圧力で実施されることを意味する。官能基を有するモノマーの供給を、重合の全体継続時間にわたり続行することがまた好ましい。
【0039】
これらの2つの条件を組み合わせることにより、官能基を有するモノマーのランダムに分布した単位の分率を最大限にすることができ、理想的には官能基を有するモノマーのほぼ統計的な分布が得られ得る。
【0040】
本発明の組成物中の成分aとして好適なフッ化ビニリデンポリマーの別の群は、国際公開第01/57095号パンフレットに記載されており、その範囲でそれに記載されているポリマーは、好ましくは少なくとも50%の量で上に記載されたようなVDFモノマーを含む。
【0041】
この参考文献は、とりわけ、上に定義されたようなVDFモノマーから選択されるフルオロカーボン繰り返し単位と、酢酸ビニル、ビニルアルコール、アクリル酸、アクリレートおよびメタクリレートからなる群から選択される炭化水素繰り返し単位とを含む線状コポリマーを概略的に記載している。
【0042】
好ましい製造方法はまた、この参考文献に記載されており、ここで、モノマーと開始剤とは、液体または超臨界二酸化炭素を含む重合媒体中で混合される。そのような方法の結果として、国際公開第2008/129041号パンフレットに従った生成物と比べてより塊状の構造体が得られる。さらなる詳細については、国際公開第01/57095号パンフレットが言及される。
【0043】
本発明の組成物に使用するのに好適な成分a)は、一連の供給業者から商業的に入手可能である。Solvay SAから入手可能なSolef(登録商標)銘柄が一例としてここで挙げられてもよい。
【0044】
本発明に従った組成物は、成分b)として、少なくとも700m/gの比表面積(BET)、0.1~0.7ml/gの範囲の細孔容積を有するマイクロ孔性の吸着性炭素材料であって、前記細孔容積の少なくとも60%が、2nm以下の細孔半径を有するマイクロ孔で形成されている、マイクロ孔性の吸着性炭素材料を含む。
【0045】
原則として、上に与えられた仕様を満たす任意の吸着性炭素材料を、本発明に従った組成物に使用することができ、当業者は、その専門的知識および特定の状況の要件に基づいて最適な材料を選択するであろう。
【0046】
非黒鉛化炭素材料が、本発明に従った組成物中の成分b)として好ましい。非黒鉛化炭素は、3000℃超、さらには炭素の融点(約3400℃)近くの高温での熱処理後、黒鉛構造の著しい成長を全く示さない。これらの材料の非黒鉛化特質は、炭素層のランダム配向によって特徴付けられる、それらのナノテクスチャによってもたらされると考えられる。基本的な構造特性は異方性の六角形炭素層であり、そのランダム配向は、極めて小さい細孔の形成をもたらし、それは、高度の平面配向および緻密質ナノテクスチャを有する高配向黒鉛と著しい対照にある。
【0047】
手短に言えば、非黒鉛化炭素材料は、それらがsp混成炭素であるという点において黒鉛に類似しているが、黒鉛と異なって長距離秩序が全くなく、本材料は非晶質または無秩序と考えられる。
【0048】
非黒鉛化炭素は、通常、糖またはポリマー樹脂などの好適な前駆体の熱分解によって得られる。前駆体材料の適切な選択および熱分解条件の制御により、非黒鉛化炭素材料の細孔構造を仕立てかつ調整することができ、当業者は、本発明に従った組成物に必要とされるように比表面積、細孔容積および細孔半径を調整するためのそれぞれの方法を知っている。それぞれの材料、例えば、商品名Brightblack(登録商標)でATMI Inc.から入手可能な様々な銘柄の炭素材料も商業的に入手可能である。
【0049】
本発明に従った組成物中の吸着性炭素材料b)の製造に好適な好ましい前駆体材料は、塩素化ビニルポリマーである。
【0050】
用語「塩素化ビニルポリマー」は、1つの塩素化ビニルモノマーのホモポリマー、2つ以上の塩素化ビニルモノマーが1つの別のものと形成するコポリマー、または1つもしくは複数の塩素化ビニルモノマーが、塩素化ビニルモノマー以外のハロゲン化ビニルモノマー、オレフィン、アクリルエステル、メタクリルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、ならびに(酢酸ビニルなどの)ビニルエステルなどの塩素化ビニルモノマー以外の1つもしくは複数のエチレン性不飽和モノマーと形成するコポリマーを意味すると理解される。
【0051】
用語「塩素化ビニルモノマー」は、1個または複数個の塩素原子を含み、塩素原子以外のヘテロ原子を含まないエチレン性不飽和モノマーを意味すると理解される。塩素化ビニルモノマーの例として、塩化ビニル、塩化ビニリデン、トリクロロエチレンおよびクロロプレンが挙げられてもよい。塩素化ビニルモノマーの中で、塩化ビニル、塩化ビニリデンおよびそれらの混合物が好ましい。
【0052】
用語「ハロゲン化ビニルモノマー」は、1つまたは複数の同一のまたは異なるハロゲン原子を含み、ハロゲン原子以外のヘテロ原子を含まないエチレン性不飽和モノマーを意味すると理解される。塩素化ビニルモノマー以外のハロゲン化ビニルモノマーの例として、(トリクロロフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、およびフッ化ビニリデンのようなフッ素化ビニルモノマーなどの)フッ素を含むモノマー、ならびに(ジクロロジブロモエチレン、および臭化ビニルおよび臭化ビニリデンなどの臭素化ビニルモノマーなどの)臭素を含むモノマーが挙げられてもよい。
【0053】
本発明に有用な塩素化ビニルポリマーは、有利には50モル%超、好ましくは80モル%超、さらにより好ましくは90モル%超の1つまたは複数の塩素化ビニルモノマーに由来する繰り返し単位を含む。
【0054】
本発明に従った組成物中の成分b)の前駆体として使用されるポリマーは、好ましくは、塩化ビニルポリマー、塩化ビニリデンポリマーおよびそれらの混合物から選択される。
【0055】
用語「塩化ビニルポリマー」は、塩化ビニルのホモポリマー、または(塩化ビニリデンのような)塩化ビニル以外の塩素化モノマー、(1個もしくは複数個の1個もしくは複数個のフッ素原子および/または1個もしくは複数個の臭素原子などの)塩素以外の1個もしくは複数個のハロゲン原子を含む塩素を含むハロゲン化ビニルモノマー、(フッ化ビニリデンなどの)塩素を含まないハロゲン化ビニルモノマー、オレフィン、アクリルエステル、メタクリルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、ならびに(酢酸ビニルなどの)ビニルエステルなどの1つもしくは複数の他のエチレン性不飽和モノマーと塩化ビニルが形成するコポリマーを意味すると理解される。
【0056】
本発明の組成物の前駆体として有用な塩化ビニルポリマーは、有利には、少なくとも50モル%、好ましくは80モル%超、さらにより好ましくは90モル%超の塩化ビニルに由来する繰り返し単位を含む。
【0057】
好適な塩化ビニルポリマーは、当業者に公知の任意の方法によって製造することができる。ある種の好ましい実施形態では、この製造方法は、水性乳化重合工程、引き続く噴霧乾燥工程を含み、前記噴霧乾燥工程の次に、任意選択的に粉砕および/または分級工程(例えば流動床を用いる)が続く。別の好ましい実施形態では、この製造方法は、水性懸濁重合工程、引き続くスピニング加工工程を含む。
【0058】
成分b)の前駆体として使用されるポリマーは、より好ましくは、塩化ビニリデンポリマーである。
【0059】
用語「塩化ビニリデンポリマー」は、塩化ビニリデンのホモポリマー、または(塩化ビニルのような)塩化ビニリデン以外の塩素化モノマー、塩素以外の1個もしくは複数個のハロゲン原子を含む塩素を含むハロゲン化ビニルモノマー(特に、トリクロロフルオロエチレン、ジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンのような塩素およびフッ素含有ハロゲン化ビニルモノマー)、(フッ化ビニリデンなどの)塩素を含まないハロゲン化ビニルモノマー、オレフィン、アクリルエステル、メタクリルエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドおよびメタクリルアミド、ならびに(酢酸ビニルなどの)ビニルエステルなどの1つもしくは複数の他のエチレン性不飽和モノマーと塩化ビニリデンとが形成するコポリマーを意味すると理解される。
【0060】
本発明の組成物中の成分b)の前駆体として有用な塩化ビニリデンポリマーは、有利には、50モル%超、好ましくは80モル%超、さらにより好ましくは90モル%超の塩化ビニリデンに由来する繰り返し単位を含む。
【0061】
好適な塩化ビニリデンポリマーは、当業者に公知の任意の方法によって製造することができる。この製造方法は、好ましくは、水性懸濁重合工程、引き続くスピニング加工工程を含む。
【0062】
塩化ビニリデンポリマーは、しばしば一般にSaranポリマーと言われ、これらのポリマーの熱分解によって得られる炭素材料は、しばしばSaran炭素と言われる。他の塩素化ビニルポリマーの熱分解のための条件は、Saranポリマーに対して用いられる条件に類似しており、当業者は好適な方法を知っている。
【0063】
塩化ビニリデンポリマーは、不活性雰囲気中で少なくとも700℃の温度まで加熱することにより、熱分解または炭化することができる。不活性雰囲気は、熱分解の条件の間にわたり熱分解されるポリマーと反応しないガス中で熱分解を実施することによって得られ得る。当業者は、その目的のための好適なガスを知っており、その専門的知識に基づいて最適なガスを選択するであろう。単に例として、窒素、二酸化炭素またはHe、Ar、KrもしくはXeのような希ガスが好適なガスとしてここで挙げられてもよい。
【0064】
この場合での熱誘導される脱塩化水素反応は、加熱速度が低い場合に炭素およびガス状塩化水素の定量的収率を与える。結果として生じる炭素は、微量の塩素を除いて全ての不純物を含まない。これは、不純物の程度がより高い、セルロース誘導体などのような他の有機材料からの熱分解生成物と比べて優れた点である。
【0065】
塩素化ビニルポリマーの好ましい炭化方法に従って、ポリマーは第1工程においてその融点よりも低い温度で分解して不溶融性チャーになり、それは次に、脱塩化水素を完了させるために高温にさらに加熱される。この方法は、結果として生じる炭素の表面積および細孔サイズの良好な制御を与える。
【0066】
別の方法は、脱塩化水素が完了する温度に達するまで、かなり高い速度で加熱する工程を伴う。この場合、ポリマーは、いかなる有意の分解も起こる前に溶融する。HClガスが発生し始めると直ちに、それは、溶融体に発泡させる。一般に、この方法は、以前に記載された方法よりも大きい細孔をもたらし、したがって本発明に従った組成物中の成分b)に対して要求される小さい細孔を達成するために慎重な制御が必要である。
【0067】
代表例としての塩化ビニリデンポリマーの熱分解は、少なくとも4つの基本的な反応を含む。
【0068】
第1反応は、ポリクロロアセチレンへの第一の脱塩化水素である。
【0069】
この反応は、160~190℃の範囲の温度で固体状態で行われ、およそ半分の塩化水素がこの反応において失われる。下に描かれる反応2および3はまた、この温度範囲の上端で一定の程度まで起こり得るが、温度がさらに上昇しない場合、脱塩化水素速度はゼロに落ちる。脱離する総量は、温度に依存するが、通常、190℃で60%以下である。
【0070】
反応2および3は、共役シーケンス間のディールス-アルダー縮合およびディールス-アルダー縮合生成物のその後の芳香族化である。
【0071】
ディールス-アルダー反応は、通常、250℃~350℃の範囲の温度で高い速度で進行する。(上のスキームにおいて第1反応として示される)反応2の最初の環形成に、直ちに反応3が続く。これらの温度で芳香族化する傾向はかなり強い。約3分の1の塩化水素が反応3において失われ、6分の1が、反応3に続く最終工程において失われる。
【0072】
最終工程は、sp混成炭素原子の炭素を形成するための脱塩化水素の完了(すなわち、反応3の生成物からのもう1モルのHClの脱離)である。これを達成するために、反応は、600~700℃にさらに上げられなければならない。
【0073】
上に言及された第1プロセスにおいて、遅い加熱速度を使って最初の反応は実施され、基本的には芳香族化反応前に完了する。速い加熱は、他方では、最初の脱塩化水素および芳香族化が同時に起こることを可能にする。
【0074】
起こる様々な反応は、誘導期および異なる活性化エネルギーを有し、したがって生成物のモルフォロジは、加熱速度および一定温度での滞留時間の適切な選択によって制御することができる。
【0075】
幾つかの場合、構造およびモルフォロジを凍結させるためには190℃よりも10~20%低い範囲で脱塩化水素を達成することが十分であることが示された。低温でこのレベルに達すると直ちに、チャーは、第1工程において得られたモルフォロジを変えることなく最終温度まで急速加熱することができる。
【0076】
幾つかの場合、熱分解について以下の温度プロフィールが最良の結果をもたらすことが判明した:
5~20℃/分(例えば10℃/分)の昇温速度で室温から160~190℃の範囲の温度(例えば175℃)まで加熱し、および6~48時間(例えば約16時間)にわたりこの温度に保持し、その後、5~20℃/分(例えば10℃/分)の昇温速度で175℃から600℃まで加熱し、および約30分~6時間(例えば1時間)にわたり600℃に保持すること。
【0077】
その後の冷却について、特定の温度制御は、通常、全く必要ではない。
【0078】
塩素化ビニルポリマーの炭化のための化学的方法も文献に記載されている。このように、脱塩化水素を達成するための液体アンモニア中のカリウムアミドの使用は、さらなる詳細についてそれに言及される米国特許第3,516,791号明細書に記載されている。
【0079】
Bartonet al,Org.Coatings Plastics Preprints 31,786(1971)は、アルコール性水酸化カリウムを使用した。しかしながら、普通はそれによって得られるポリマーは、意図される使用にとってある悪影響を及ぼし得るかなりの量の酸素を含有する。
【0080】
したがって、熱分解法が一般に化学的方法よりも好ましい。
【0081】
熱分解後の炭素材料は、必要に応じて、より小さい粒子を得るためにミルにかけられてもよい。好適なミリング方法およびデバイスは当業者に公知である。
【0082】
成分b)として好適な材料は、ある程度まで商業的に入手可能であり、例えばある種のBrightblack(登録商標)炭素タイプがATMIから入手可能である。
【0083】
さらに、好適な炭素熱分解物吸着材は、さらなる詳細についてそれに言及される国際公開第2012/106218号パンフレットにおよび国際公開第2014/059392号パンフレットに開示されている。
【0084】
これらの材料は、それ自体使用することができ、または粒度を下げるために使用前にミリングもしくはすり潰しプロセスにかけられてもよい。
【0085】
熱分解直後に得られる生成物の平均粒子径は、通常、50~500μmの範囲、好ましくは100~300μmの範囲にあり、粒度を下げるためのミリングまたは他の適切な処理後、1~30μm、好ましくは2~20μmの範囲の重量平均粒子径が得られる。
【0086】
実システムは、事実上常に、集合体中の粒子が異なるサイズを有することを意味する多分散系である。粒度分布の表記法は、この多分散性を反映している。
【0087】
用語平均粒子径は、本明細書で用いる場合、いわゆるContinデータ反転アルゴリズムによって得られるような強度重み付け粒度分布に基づいて算出されるD50中央径を意味する。一般的に言えば、D50は、強度重み付けサイズ分布を2つの等しい部分(D50よりも小さいサイズのものおよびD50よりも大きいサイズのもの)に分ける。
【0088】
一般に、上で定義されたような平均粒子径は、以下の手順に従って測定される。最初に、必要に応じて、粒子は、それらがその中に含有されていてもよい媒体から単離される(そのような粒子の様々な製造方法があるため、製品は、様々な形態、例えば、形の整った乾燥粒子としてまたは好適な分散媒中の懸濁液として入手可能であり得る)。形の整った粒子が次に、好ましくは動的光散乱法による粒度分布の測定のために使用される。この関連で、ISO Norm“Particles size analysis-Dynamic Light Scattering(DLS)”,ISO 22412:2008(E)に記載されているような方法に従うことが推奨される。この標準は、とりわけ、計器位置(セクション8.1.)、システム適格性(セクション10)、試料要件(セクション8.2.)、測定手順(セクション9.1~5および7)ならびに再現性(セクション11)に関する指示事項を規定している。測定温度は通常25℃であり、使用される各分散媒の屈折率および粘度係数は、少なくとも0.1%の精度で既知であるべきである。適切な温度平衡後、セル位置は、システムソフトウエアに従い最適な散乱光シグナルのために調節されるべきである。時間自己相関関数の収集を開始する前に、試料によって散乱された時間平均強度が5回記録される。測定体積を通って偶発的に移動するダスト粒子の可能性がある信号を排除するために、平均散乱強度の5つの測定値の平均の1.10倍の強度閾値が設定されてもよい。主要レーザ源減衰器は、システムソフトウエアによって正常に調節され、約10,000cpsの範囲で好ましくは調節される。上記のように設定された平均強度閾値がその間に超えられる時間自己相関関数のその後の測定値は、無視されるべきである。
【0089】
通常、測定は、それぞれ数秒の典型的な継続時間、および上に説明された閾値判定基準に従ってシステムによって許容される自己相関関数の好適な数の収集(例えば、200収集のセット)からなる。データ解析が次に、普通は装置製造業者のソフトウエアパッケージに含まれている、ソフトウエアパッケージとして入手可能なContinアルゴリズムの使用によって時間自動相関関数の全体セットの記録に関して実施される。
【0090】
本発明による組成物中のマイクロ孔性の吸着性炭素材料b)は、少なくとも700m/g、好ましくは少なくとも800m/g、さらにより好ましくは900m/g以上のBETによる比表面積を有する。さらに、本吸着材は、1800m/g以下、好ましくは1600m/g以下、さらにより好ましくは1300m/g以下の最大比表面積を有してもよい。したがって、比表面積についての好ましい範囲は、700~1800m/g、好ましくは800~1600m/g、さらにより好ましくは900~1300m/gである。
【0091】
BET比表面積は、例えば、MicromeriticsのASAS2020装置でガス吸着によって測定される。分析前、試料は、16時間にわたり110℃で真空下において前処理され、測定は、ISO 9277:2010(Determination of the specific surface area of solids by gas adsorption-BET method)に従い、容積法によって77Kの温度で吸着ガスとして窒素を使用して行われる。ISO 9277:2010標準のAnnex(付属書)Cは、BET理論がマイクロ孔性試料の比表面積へ適用可能である圧力の相対範囲を定義することを可能にする方法を記載している。この方法は、na(1-P/P)(ここで、naは特定吸着量(specific adsorbed quantity)であり、P/Pは相対圧力である)のグラフを描くことを必要とする。
【0092】
この方法は、窒素の単分子層で固体の外面およびアクセスできる細孔内面を覆うために必要な窒素の吸着量または使用量の測定に基づいている。このいわゆる単分子層容量は、BET式を用いる吸着等温線na=f(P/P)を用いて計算される。
【0093】
吸着等温線を求めるために、窒素が段階的に、一定温度に保持される(真空下で加熱することによって脱ガスされた)試料に添加される。吸着窒素の(モル/g単位での)特定量naは、各投与ステップにおける投与圧力と平衡圧力との間のそれぞれの差を用い、相対圧力P/Pに対してこの値をプロットして計算される。
【0094】
多点測定法は、na(1-P/P)との直線関係が満たされている最大P/P値に等しいかまたはそれよりも低い5つの点を用いる。
【0095】
この場合におけるようなマイクロ孔性材料について相対圧力P/Pの範囲は、na(1-P/P)が、増加するP/Pと共に連続的に増加する値を示すような、すなわち、範囲の上限がna(1-P/P)の最大値から取ることができるような方法で選択されなければならない。この範囲で、近似直線BETグラフは、BETパラメータCBETについて正の値を得るために正の縦座標値を有さなければならない。最後に、特定単分子層容量に割り当てられる相対圧力値は、先に定義されたような範囲P/P内になければならない。
【0096】
ISO標準によれば、この範囲の下限値は、通常、約P/P=0.001であり、上限値は、通常、最大でP/P=0.3である。
【0097】
本吸着材の細孔容積は、0.1~0.7ml/gの範囲、好ましくは0.15~0.6ml/gの範囲、さらにより好ましくは0.2~0.55ml/gの範囲にある。
【0098】
本発明の組成物中の成分b)の細孔容積は、1に近いP/Pまたは液体凝縮前に(プラトーで)吸着された窒素の量から計算される。
【0099】
本吸着材の総細孔容積の少なくとも60%は、2nm以下の半径を有するマイクロ孔で形成される。好ましくは、総細孔容積の少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%は、2nm以下の半径を有するマイクロ孔で形成される。
【0100】
細孔サイズ分布は、ISO 15901-3:2007(Pore size distribution and porosity of solid materials by mercury porosimetry and gas adsorption-Part 3:analysis of micropores by gas adsorptionに従って測定される。
【0101】
水銀ポロシメトリーは、総容積および細孔サイズ分布を測定するための広く受け入れられた方法である。この方法は、非湿潤性液体が、それが半径rの細孔に入るのを可能にするために正の静水圧がかけられることを必要とするという事実に基づいている。静水圧は、細孔半径rに反比例して変わる。多孔質試料における非湿潤性液体の挙動は、通常、Washburn式で表され、この式は、水銀がポロシメトリー測定に好適である少ない液体の1つであるため、水銀を使って直接適用できる。水銀は、ほとんどの多孔質材料を湿らさず、毛管作用によって細孔に浸透しないであろう。液体水銀は、高い表面張力、すなわち、その表面膜での分子力を有し、その容積を縮小させて(球形である)最小表面積の形態になる傾向がある。その結果として、細孔への水銀の侵入は、開口部サイズに反比例して圧力をかけることを必要とする。
【0102】
細孔容積または細孔サイズ分布を測定するために、量り分けられた試料が頑丈なボンベ(硬度計)に入れられ、細孔から空気を除去するために排気される。水銀が次にセルを満たすために入れられ、試料を取り囲み、油圧でかけられる漸増する圧力にさらされる。各圧力Pで、セル中に含有される水銀の対応する容積が測定される。
【0103】
圧力が増加するにつれて、水銀は、サイズの減少する順に細孔に入ることを前提とされる。したがって、ΔVがPとP+ΔPとの間に侵入した容積である場合、それは、rがWashburn式
r=2σcosθ/P
に従って計算されるrとr-Δrとの間の半径を有する細孔の容積に等しいであろう。
【0104】
σは、純水銀についての値、484mN/mであると仮定され、接触角θは、分析前に測定されなければならない。接触角の値が既知でない場合、(活性炭にとって普通である)140°の値が仮定される。
【0105】
圧力は、仮定される接触角で、およそ225μmとおよそ1.7nmとの間の細孔半径に対応する3.44kPa~4.13MPaの範囲で変えられる。
【0106】
半径rは、文字通りの細孔寸法としてではなく、むしろ所与の圧力で満たされるであろう均等な円筒形細孔のサイズと見なされるべきである。これは、細孔が、しばしば該当する異なる非円形の円筒形の幾何学的形状を有する場合、この方法によって得られる細孔データが均等な円筒形寸法として理解されなければならないことを意味する。
【0107】
本発明に従った組成物中の成分a)対成分b)の重量比は、特に決定的に重要であるわけでなく、例えば、2:98~98:2の範囲、好ましくは5:96~95:5の範囲にあってもよい。
【0108】
本発明の好ましい実施形態に従って、成分b)の重量百分率は、成分a)およびb)の総合重量を基準として、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60、70、80、90、95、96、97、98または99%である。
【0109】
本発明の別の実施形態は、本明細書で前に記載された組成物を含むスラリーまたは液体分散系に関する。前記スラリーまたは分散系は、本明細書で前に記載された組成物に加えて、水性溶媒もしくは有機溶媒またはそれらの混合物を含む。
【0110】
溶媒は特に決定的に重要であるわけでなく、具体的な意図される用途のニーズに従って当業者によって選択されるであろう。
【0111】
多くの場合、水性溶媒、特に水が使用されてもよい。
【0112】
好ましい実施形態に従って、本発明の組成物を含むコーティング可能なスラリーは、成分a)のラテックスを水で希釈して0.5~5重量%の範囲の濃度に達し、および成分b)を機械撹拌下で添加することによって得ることができる。このようにして得られたスラリーは、表面のコーティングのために直接使用されてもよく、またはコーティングされる表面上にキャストされてもよいキャスティング組成物を調製するために使用されてもよい。
【0113】
したがって、本発明に従ったスラリーまたは分散系は、キャスティング組成物、すなわち、キャスティング液がキャストされる表面上に本発明の組成物のコーティングを得るために表面上へキャストすることができる組成物の製造のために使用されてもよい。
【0114】
本発明のスラリーまたは分散系に加えて、キャスティング組成物は、表面のコーティングが達成されるキャスティングプロセスに通常使用される他の助剤を含有してもよい。当業者は、その専門的知識および具体的な意図される用途に基づき適切な添加剤を選択するであろう。
【0115】
本発明の別の態様は、表面コーティングを含む基材材料を含む吸着システムであって、表面コーティングが、キャスティング組成物を基材材料の表面上へキャストし、およびその後、溶媒を除去することによって得られる、吸着システムに関する。再び、基材の選択は、決定的に重要なものであるわけではなく、当業者により、その専門的知識および意図される用途に基づいて行われるであろう。
【0116】
本発明に従った組成物、スラリー、分散系またはキャスティング組成物は、好ましくは、流体混合物の成分の前記流体混合物中の他の成分からの分離方法に使用されてもよい。
【0117】
用語流体は、本明細書で用いるところでは、液体およびガスを包含し、一般に、制限された粘度、すなわち、剪断力下で流れる可能性を示す物質を意味する。
【0118】
本発明の組成物またはそのような組成物を含むスラリーまたは分散系は、ガス分離のために使用される任意の基材上に堆積されるインクとして使用されてもよい。吸着性炭素材料は、ガス分離目的のために使用され、フッ素化ポリマーは、活性炭を基材に固定するためのバインダーとしての役割を果たす。それぞれの結合は、苛酷な条件下で安定しており、熱/保湿サイクル下で弾力的である。
【0119】
特に好ましくは、本発明に従った組成物、スラリー、分散系またはキャスティング組成物は、流体混合物からの二酸化炭素の分離または吸着のために使用することができる。
【0120】
本発明の組成物中のフッ素化ポリマーと吸着性炭素材料との組み合わせでコーティングされた基材は、温度スイング吸着法および圧力スイング吸着法に使用することができる。そのような方法は両方とも、好適なガス分離法として当業者に知られている。
【0121】
圧力スイング吸着(PSA)において、ガス種は、比較的高い圧力で(吸着性炭素材料を含む、それから本質的になる、またはそれからなる)吸着剤上へ吸着され、それによってそのガス種を流体流れから除去する。再生式圧力スイング吸着法において、ロードされた吸着材床への絶対圧力を下げると(例えば真空を適用すると)、または床を通してより低い濃度のパージガスを掃引することによって気相中の吸着種の分圧を下げると、吸着剤が再生される。
【0122】
温度スイング吸着法(TSA)において、化学種は、ローディング能力が比較的高い低温で吸着され、その後、再生工程においてより高い温度で脱着され、こうしてその後の追加の分離サイクルのための吸着能を回復する。
【0123】
本発明による組成物中の吸着性炭素材料は、しばしば電気伝導性を示し、その特性は、有利には、材料を加熱するために抵抗損、容量損失または誘導電流損失など、電熱再生工程を含む温度スイングガス分離技術に用いられてもよい。
【0124】
本発明のさらなる実施形態は、したがって、流体混合物の1つまたは複数の成分を流体混合物から分離する方法であって、温度Tでの流体混合物の少なくとも1つの成分の吸着と、Tよりも高い温度T(その温度で吸着成分が再び脱着されて再使用を可能にする)での再生工程とを含み、TからTへの加熱が抵抗損、容量損失または誘導電流損失により、すなわち、電力の適用によって達成され、表面コーティングを含む基材材料を含む吸着システムであって、表面コーティングが、本発明の組成物を含むスラリーまたは分散系を含むキャスティング組成物を基材の表面上へキャストし、およびその後、溶媒を除去することによって得られる、吸着システムが使用される、方法である。
【0125】
ガスの分離のための他の公知の吸着法は、真空スイング吸着システムまたは移動床接触システムである。
【0126】
それぞれの方法およびシステムは当業者に公知であり、そのため、さらなる詳細はここで示される必要が全くない。
【0127】
圧力スイング、温度スイング、真空スイングシステムまたは移動床接触システムを含む二酸化炭素回収システムは、本発明のさらなる実施形態を構成する。
【0128】
それぞれの方法は当業者に公知であり、したがってさらなる詳細はここで示される必要が全くない。
【0129】
本発明の組成物は、ガス分離目的のために使用される場合、特に基材上への組成物のコーティング後に良好な程度のCO吸着を示す。
【0130】
実施例1 - 吸着性炭素材料
実施例に使用される活性炭材料は、200ミクロンの粒度を有する手を加えていない材料を7ミクロンの粒度へすり潰すことによって得られたATMIによって供給されるBrightblack(登録商標)炭素であった。生成物は、1050m/gのBET比表面積、0.40ml/gの細孔容積を有し、細孔容積は、2nm以下の半径を有する細孔から定量的に(99%超)なった。
【0131】
元素分析は、以下の結果:
C 888g/kg
H 8g/kg
N 5g/kg未満
O 30g/kg
をもたらした。
【0132】
実施例2 - 前に記載された活性炭と、バインダーとしてのPVDFラテックスとをベースとするスラリー
アクリレート基を含む、および国際公開第2008/129041号パンフレットの実施例1に記載されているように得られたフッ化ビニリデンポリマーの10gの5重量%溶液に、実施例1に記載された4.5gの吸着性炭素材料を室温で磁気攪拌下において添加した。2mlのNMPを、粘度を調整するために添加した。フッ化ビニリデンポリマーと吸着性炭素材料とを10:90の重量比で含む、キャスティングのための良好な粘度を有するスラリーが得られた。
【0133】
実施例3
実施例2を繰り返したが、20:80のフッ化ビニリデンポリマー対吸着性炭素材料の重量比で繰り返した、すなわち、吸着性炭素材料の量は、4.5gの代わりに2gであった。
【0134】
実施例4
得られたスラリーを、250マイクロメートルのギャップ開口部のドクターブレードを用いて(SGL Carbonから入手した)Sigracet(登録商標)GDL25BC支持体の灰色側上にキャストした。結果として生じるフィルムを一晩110℃で乾燥させてNMPを蒸発させた。20:80重量比のスラリーは、10:90重量比のスラリーよりも良好な接着性を示し、さらなる性能研究のために使用された。
【0135】
コーティングされたGDL25BCの抵抗率を、van der Pauw法を用いて測定し、0.0197Ω*cmと決定した(コーティングなしのGDL25BC支持体は、同じ条件下で0.0216Ω*cmの抵抗率を有した)。
【0136】
コーティングの厚さは、およそ20μmであると測定され、吸着性炭素材料の量は、1つのコーティング工程後に11g/mであり、2つのコーティング工程後に20.5g/mであった。
【0137】
実施例5 - 二酸化炭素吸着
基材キャラクタリゼーション用のプロトタイプは、基材がその中に平行に組み立てられている透明セルを使って製造した(図1に示されるアセンブリ)。ガス循環のために用いられる2つの基材間のスペースは、透明セルにおける層流条件を前提とするように適合させた。
【0138】
窒素に希釈された3つの異なる濃度(15、50および100%)の二酸化炭素を使用した。濃度は、マスフローコントローラによって正確に制御した。61、122および245ml/分の3つの異なるガス流量を用い、緩衝ガスの役割を果たすアルゴンフロー(5ml/分)をガス混合物に添加した。Ar、NおよびCOにそれぞれ対応するm/z=40、28および44のシグナルを質量分析(Agilent MSD5975、走査速度=12.7Hz)によって連続的に記録した。
【0139】
吸着プロセスの分析のための手順は、次の通りであった:
フローを、活性炭粒子上に以前に吸着された分子を潜在的に脱着させるために60秒間基材層を含有するセル中へ注入した。
【0140】
三方バルブを、Labviewプログラムを用いて自動的に切り替えて二酸化炭素およびArを2秒間注入した。その後、窒素フローを、非吸着二酸化炭素量を測定するために300秒間維持した。最後に、二酸化炭素を、検討される各流量および濃度について二酸化炭素シグナルの時間検出を正確に見積もるために注入した。
【0141】
各実験について、コーティングされた基材の存在をシミュレートするための、しかしCO吸着特性を全く有さないガラスマイクロビーズを含有する透明セルを使ってブランクを行った。このブランクの関心は、注入されたCOの量を質量分析によって検出される強度と関連付けることであった。
フル要因計画を、18の実験(コーティングされた基材の9つの実験およびガラスマイクロビーズを含有するブランクの9つの実験)の実現をもたらす3つのレベルのCO濃度および3つのレベルのガス流量で作成した。各実験について、COピーク強度とArピーク強度との間の比を計算した。ブランクに対応するCO/Ar強度比と、試料に対応するCO/Ar強度比との間の差は、吸着されたCOの量に関連している。流量値、ガス入口におけるCOの百分率および2秒の注入時間を考えて、本発明者らは吸着されたCOの全量を計算することができ、最終的に、吸着能(%)を各実験について見積もることができた(表1)。
【0142】
【0143】
結果は、流量に著しく依存する吸着能を示し、一方、流れ中の二酸化炭素の濃度の影響は、はるかにより小さかった。
【0144】
本明細書に引用されるすべての特許、特許出願および刊行物は、参照により本明細書に援用される。しかしながら、そのような特許、特許出願および刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
図1