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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/231 20110101AFI20220526BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20220526BHJP
   B60N 2/42 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
B60R21/231
B60R21/207
B60N2/42
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018061871
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019172034
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鐘ヶ江 将太
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-220714(JP,A)
【文献】特開2007-091083(JP,A)
【文献】特開2013-010398(JP,A)
【文献】特開2002-145003(JP,A)
【文献】特開2017-065557(JP,A)
【文献】特開2005-239129(JP,A)
【文献】特開2012-012015(JP,A)
【文献】特開2009-154747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16-21/33
B60N 2/42-2/433
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定位置にそれぞれ展開されるものであり、複数の連結部によってそれぞれ連結された複数のエアバッグと、
前記エアバッグにガスを供給するインフレータと、
前記インフレータと前記連結部とを個別に連結する複数の導風路と、
車両の衝突検知および衝突方向を検知する衝突検知装置と、
前記衝突方向に基づいて、乗員の移動方向を予測する移動方向予測部と、
予測された前記乗員の移動方向に基づいて、展開させる前記エアバッグを決定し、所定の前記導風路を選択して前記インフレータのガスを供給させる展開制御部と、
を備え、
前記エアバッグは、前記展開制御部の制御により、前記インフレータのガスが前記導風路および前記連結部を介して直接供給されて展開する一次展開エアバッグと、前記一次展開エアバッグへの前記乗員の移動により、前記一次展開エアバッグ内のガスが前記連結部を介して移動されることにより展開する二次展開エアバッグと、を有する、
ことを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記乗員の移動方向に基づいて、前記一次展開エアバッグから前記二次展開エアバッグに移動させる前記連結部のガスの流通を制御するガス移動制御部と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
衝突等から乗員を保護するため、自動車などの車両では、シートベルト装置やエアバッグ装置が用いられている。
このようなエアバッグ装置として、車両の前方からの衝突(いわゆる前突)や、車両の側方からの衝突(いわゆる側突)等、多くの衝突形態に対応できるように、乗員の前方から側方まで覆うようにエアバッグを膨張させ、様々な角度からの衝突に対して、乗員を保護する乗員保護装置が提案されている。
【0003】
例えば、インフレータと、ガス供給パイプと、バッグと、を備えた自動車のエアバッグ装置が提案されている。この自動車のエアバッグ装置は、座席のシートバックにガス供給パイプが固定されている。また、このガス供給パイプは、シートバックの幅方向各端部から上方に突出し、着座した乗員の頭部よりも上方まで延び、乗員の上方において、その乗員の各側方をそれぞれ延び、さらに、乗員の上方において、乗員の前方を横切るように水平に延びて、乗員の上方で乗員を取り囲むように設置されている。そして、このガス供給パイプのまわりに1つの可撓性のバッグが巻き付けられて格納されている。このため、インフレータからガス供給パイプにガスが送り込まれ、ガス供給パイプからバッグにガスが供給されると、座席に着座した乗員の前方と両側方を取り囲むように、バッグが膨張し、乗員の上半身全体を取り囲んで、保護するようになっている(特許文献1参照)。
【0004】
また、上記自動車のエアバッグ装置では、ガス供給パイプが突出して設けられているため、見栄えが悪く、邪魔であるため、多方位エアバッグの内部にガスを供給し金属管からなるディフューザ管を配置し、ディフューザ管をヘッドレストの内部に位置する収納位置から、乗員の頭部の上方となる作動位置に、移動させる乗員保護装置が提案されている。この乗員保護装置では、通常時は、エアバッグが折り畳まれた状態で車両用シートの上部に収納されており、車両の衝突が不可避であると判断された際には、ディフューザ管をヘッドレスト(車両用シート)の上部から上方かつ前方へ移動させて、乗員の頭部の前方および左右両側方を含む領域に多方位エアバッグを展開させることにより、見栄えもよく、乗員保護機能を確保するようになっている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-344044号公報
【文献】特開2017-094767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような多くの衝突形態に対応するため、乗員の前方や側方等の多くの領域を保護するものは、エアバッグの容量が大きくなり、このエアバッグを膨らませるための大きなインフレータが必要となってしまう。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされたもので、多くの衝突形態に対応しつつ、インフレータの大型化を抑制することができる乗員保護装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る乗員保護装置は、所定位置にそれぞれ展開されるものであり、連結部によって連結された複数のエアバッグと、前記エアバッグにガスを供給するインフレータと、前記インフレータと前記連結部とを個別に連結する導風路と、車両の衝突検知および衝突方向を検知する衝突検知装置と、前記衝突方向に基づいて、乗員の移動方向を予測する移動方向予測部と、予測された前記乗員の移動方向に基づいて、展開させる前記エアバッグを決定し、所定の前記導風路を選択して前記インフレータのガスを供給させる展開制御部と、を備え、前記エアバッグは、前記展開制御部の制御により、前記インフレータのガスが前記導風路および前記連結部を介して直接供給されて展開する一次展開エアバッグと、前記一次展開エアバッグへの前記乗員の移動により、前記一次展開エアバッグ内のガスが前記連結部を介して移動されることにより展開する二次展開エアバッグと、を有する、ことを特徴とする。
【0009】
また、前記乗員の移動方向に基づいて、前記一次展開エアバッグから前記二次展開エアバッグに移動させる前記連結部のガスの流通を制御するガス移動制御部と、を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多くの衝突形態に対応しつつ、インフレータの大型化を抑制することができる乗員保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態における乗員保護装置が展開するエアバッグの概略を示す平面図である。
図2】本実施の形態における乗員保護装置の機能ブロック図である。
図3】3つのエアバッグの全てが展開したと仮定した場合のエアバッグの展開状態を示す図である。
図4】車両の左斜め前から衝突物が衝突した際のエアバッグの展開を示す平面図である。
図5】5つのエアバッグの全てが展開したと仮定した場合の乗員保護装置の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施の形態における乗員保護装置が展開するエアバッグの概略を示す平面図であり、図2は、本実施の形態における乗員保護装置の機能ブロック図である。なお、図1(a)は、エアバッグが展開された際の展開位置を示す平面図であり、図1(b)は、インフレータと後述する各連結部同士の繋がりを示した概略模式図である。
また、本実施の形態では、エアバッグが3つの場合を例に、説明する。
【0013】
(乗員保護装置1の構成)
図1図2に示すように、乗員保護装置1は、インフレータ10と、エアバッグ21と、連結部31と、導風路41と、切替バルブ50と、衝突検知装置60と、ECU100と、を備えている。なお、衝突検知装置60は、ECU100に含まれるものであってもよい。
【0014】
また、エアバッグ21は、エアバッグ21aと、エアバッグ21bと、エアバッグ21cと、を有している。また、連結部31は、連結部31abと、連結部31acと、連結部31bcと、を有している。また、導風路41は、導風路41abと、導風路41acと、導風路41bcと、を有している。
また、ECU100は、移動方向予測部110と、展開制御部120と、ガス移動制御部130と、を備えている。
【0015】
(インフレータ10)
インフレータ10は、車両に対する衝突予測や衝突検知などにより異常が発生すると衝突検知装置60から送られた信号に基づいて、火薬に点火し、燃焼による化学反応でガスを発生させ、エアバッグ21にガスを供給するものである。
【0016】
(エアバッグ21)
エアバッグ21は、インフレータ10によってガスが圧入される袋体であって、非作動時は小さく折り畳まれている。また、エアバッグ21は、インフレータ10によってガスが供給されると、車両前方から後方に向かって膨張し、展開する。エアバッグ21は、膨張展開時に乗員Pを受け止めるものである。
【0017】
また、上記のように、エアバッグ21は、エアバッグ21aと、エアバッグ21bと、エアバッグ21cと、を有しており、所定位置にそれぞれ展開されるものである。
エアバッグ21aは、座席シートSに着座する乗員Pの前面に展開可能に設けられている。また、エアバッグ21bは、乗員Pの左側側面に展開可能に設けられている。また、エアバッグ21cは、乗員Pの右側側面に展開可能に設けられている。
【0018】
なお、本実施の形態においては、乗員保護装置1を車両の前方(例えば、ステアリングのセンタパッドまたはインパネ等)に設けて、エアバッグ21が車両の後方に向かって展開するものとしたが、これに限らず、乗員保護装置1を座席シートSや、車両の上部等に設けてもよい。
図3は、乗員保護装置1を座席シートSに設け、3つのエアバッグ21a、エアバッグ21b、および、エアバッグ21cの全てが展開したと仮定した場合のエアバッグ21の展開状態を示す図である。
【0019】
(連結部31)
連結部31は、それぞれのエアバッグ21a~21cを連結するものであり、内部にガスを流通させる流路が設けられている。そして、連結部31は、導風路41を介して供給されたガスをそれぞれのエアバッグ21a~21cに供給させるものである。また、連結部31は、ガス移動制御部130に制御されて、それぞれのエアバッグ21a~21c間のガスの移動を可能とするものである。
【0020】
また、上記のように、連結部31は、連結部31abと、連結部31acと、連結部31bcと、を有しており、エアバッグ21a~21cのそれぞれを個別に連結するものである。
なお、本実施の形態においては、連結部31を介して、各エアバッグ21a~21c間でのガスの流通は、ガス移動制御部130により制御するようにしているが、これに限らず、最初に展開されたエアバッグ21a~21c(後述する一次展開エアバッグ)に、乗員Pが当接した勢いのみで、所定の次のエアバッグ21a~21c(後述する二次展開エアバッグ)にガスが移動するようにしてもよい。
【0021】
連結部31abは、導風路41abを介して供給されたガスをエアバッグ21aおよびエアバッグ21bに供給させるものである。また、連結部31abは、エアバッグ21aとエアバッグ21bとを連結するものであり、内部の流路を通して、エアバッグ21a内のガスをエアバッグ21bに移動、または、エアバッグ21b内のガスをエアバッグ21aに移動させることができるようになっている。また、連結部31abは、ガス移動制御部130により、ガスを流通させるか否かが制御される。例えば、連結部31ab内に弁が設けられ、ガス移動制御部130によりこの弁の開閉が制御される。
【0022】
ここで、エアバッグ21aが膨張、展開されている際に、連結部31abがガス移動制御部130により開放されると、エアバッグ21a内のガスがエアバッグ21bに移動し、エアバッグ21bが膨張、展開されることとなる。また、逆に、エアバッグ21bが膨張、展開されている際に、連結部31abがガス移動制御部130により開放されると、エアバッグ21b内のガスがエアバッグ21aに移動し、エアバッグ21aが膨張、展開されることとなる。
【0023】
連結部31acは、導風路41acを介して供給されたガスをエアバッグ21aおよびエアバッグ21cに供給させるものである。また、連結部31acは、エアバッグ21aとエアバッグ21cとを連結するものであり、内部の流路を通して、エアバッグ21a内のガスをエアバッグ21cに移動、または、エアバッグ21c内のガスをエアバッグ21aに移動させることができるようになっている。また、連結部31acは、連結部31abと同様に、ガス移動制御部130により、ガスを流通させるか否かが制御される。
【0024】
また、上記と同様に、エアバッグ21aが膨張、展開されている際に、連結部31acが開放されると、エアバッグ21cが膨張、展開されることとなり、逆に、エアバッグ21cが膨張、展開されている際に、連結部31acが開放されると、エアバッグ21aが膨張、展開されることとなる。
【0025】
連結部31bcは、導風路41bcを介して供給されたガスをエアバッグ21bおよびエアバッグ21bに供給させるものである。また、連結部31bcは、エアバッグ21bとエアバッグ21cとを連結するものであり、内部の流路を通して、エアバッグ21b内のガスをエアバッグ21cに移動、または、エアバッグ21c内のガスをエアバッグ21bに移動させることができるようになっている。また、連結部31bcは、連結部31ab、連結部31acと同様に、ガス移動制御部130により、ガスを流通させるか否かが制御される。
【0026】
また、上記と同様に、エアバッグ21bが膨張、展開されている際に、連結部31bcが開放されると、エアバッグ21cが膨張、展開されることとなり、逆に、エアバッグ21cが膨張、展開されている際に、連結部31bcが開放されると、エアバッグ21bが膨張、展開されることとなる。
なお、それぞれの連結部31ab、連結部31ac、および、連結部31bcは、1つに限らず、複数設けてもよい。それぞれの連結部31ab、連結部31ac、連結部31bcを複数設けることにより、ガスの流通を容易にすることができる。また、連結部31ab、連結部31ac、連結部31bcごとに、設ける数を変えてもよい。例えば、ガスの流通がし難い場所や、流通量を増やしたい場所だけ、数を増やすことにより、特定箇所だけ、ガスの流通を容易にすることができる。
【0027】
(導風路41)
導風路41は、切替バルブ50と連結部31とを連結するものであり、インフレータ10から出力されたガスを連結部31に出力することにより、エアバッグ21に供給させるものである。
【0028】
また、上記のように、導風路41は、導風路41abと、導風路41acと、導風路41bcと、を有しており、切替バルブ50を介して、インフレータ10とそれぞれの連結部31ab、連結部31ac、連結部31bcを個々に連結するものである。
導風路41abは、切替バルブ50と連結部31abとを連結するものであり、インフレータ10から出力されたガスを、連結部31abを介してエアバッグ21aおよびエアバッグ21bに供給させるものである。
また、導風路41acは、切替バルブ50と連結部31acとを連結するものであり、インフレータ10から出力されたガスを、連結部31acを介してエアバッグ21aおよびエアバッグ21cに供給させるものである。また、導風路41bcは、切替バルブ50と連結部31bcとを連結するものであり、インフレータ10から出力されたガスを、連結部31bcを介してエアバッグ21bおよびエアバッグ21cに供給させるものである。
【0029】
(切替バルブ50)
切替バルブ50は、インフレータ10から供給されたガスの出力先を切り替えるものであり、展開制御部120により指定された情報(後述する一次展開エアバッグ21a~21cの情報)に基づいて、インフレータ10から供給されたガスを、指定のエアバッグ21に接続された連結部31および導風路41に切り替えて出力させるものである。
【0030】
具体的には、切替バルブ50は、衝突検知装置60による衝突検知信号によりインフレータ10からガスが出力されると、展開制御部120から送られた展開させるべきエアバッグ21a~21cの指定に基づいて、出力先の導風路41ab、41ac、41bcを切り替えて、所定のエアバッグ21a~21cに対してガスを供給させるものである。
なお、切替バルブ50は、導風路41ab、41ac、41bcのいずれか一つに対してガスを供給させるものに限らず、複数の導風路41ab、41ac、41bcに対してガスを供給させるようにしてもよい。
【0031】
(衝突検知装置60)
衝突検知装置60は、車両に対する対象物の衝突の予測や、衝突の検知を行うものである。また、衝突検知装置60は、衝突の予測、または、衝突の検知を行った場合には、衝突方向の予測、または、衝突方向の検知も行うものである。衝突検知装置60は、衝突の予測や検知が行われた場合、インフレータ10に、衝突検知信号を送るとともに、ECU100(移動方向予測部110)に対して、衝突検知信号および衝突方向の情報を送る。なお、ECU100(移動方向予測部110)に対しては、衝突検知信号を送らずに、衝突方向の情報を送ることにより、衝突検知信号の送信も兼ねてもよい。
ここで、衝突検知装置60による衝突の予測とは、例えば、車両に対して接近してくる対象物の移動方向や、対象物との相対加速度等に応じて、対象物が車両に接触するか否かを判定することにより、衝突の予測を行うことができる。また、衝突検知装置60は、加速度センサの検出信号等により、車両に対する衝突を検知する。
【0032】
なお、本実施の形態においては、衝突検知装置60が、車両に対する衝突の予測と、衝突の検知と、の双方を行うようにしているが、これに限らず、衝突検知装置60が、車両に対する衝突の予測のみを行うものであっても、車両に対する衝突の検知のみを行うものであってもよい。
【0033】
(ECU100)
ECU100は、車両全体を制御するためものである。また、ECU100は、中央演算処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)、CPUにより実行される制御プログラム、データテーブル、各コマンドやデータ等の記憶を行うROM(Read Only Memory)、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)、書き換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)および入出力インターフェース回路を備え、車両の制御を統括するようになっている。
【0034】
また、ECU100は、衝突検知装置60により検出または予測された衝突方向の情報に基づいて、切替バルブ50によるガスの出力先の切り替えを制御するものである。また、ECU100は、上記衝突方向の情報に基づいて、連結部31の開閉を制御するものである。
【0035】
(移動方向予測部110)
移動方向予測部110は、衝突検知装置60から送られた、衝突検知信号および衝突方向の情報(あるいは、衝突検知信号も兼ねた衝突方向の情報のみ)に基づいて、乗員Pの移動方向(以下、一次移動方向という)を予測するものである。そして、移動方向予測部110は、予測した一次移動方向の情報を、展開制御部120に送るものである。
【0036】
また、移動方向予測部110は、衝突により乗員Pが一次移動方向に移動し、所定のエアバッグ21a~21cに当接して、その反動により、次に移動する移動方向(以下、二次移動方向という)も予測する。そして、移動方向予測部110は、予測した二次移動方向の情報を、ガス移動制御部130に送る。ここで、移動方向予測部110は、乗員Pの一次移動によりどのエアバッグ21a~21cに当接するのか(以下、一次展開エアバッグ21a~21cという)の情報を、展開制御部120から受け取る。
【0037】
なお、移動方向予測部110は、一次展開エアバッグ21a~21cの情報を、移動方向予測部110自体が算出するものであってもよい。この場合、展開制御部120を用いずに、一次展開エアバッグ21a~21cの情報を、移動方向予測部110から切替バルブ50に直接、送信するようにしてもよい。また、移動方向予測部110は、予測した二次移動方向に基づいて、乗員Pの二次移動により、どのエアバッグ21a~21cに当接するのか(以下、二次展開エアバッグ21a~21cという)の情報も、算出するようにしてもよい。
【0038】
(展開制御部120)
展開制御部120は、移動方向予測部110から送られた、乗員Pの一次移動方向の情報に基づいて、乗員Pがどのエアバッグ21a~21cに当接するかを算出し、最初に展開させるエアバッグ21a~21c(一次展開エアバッグ21a~21c)を決定するものである。そして、展開制御部120は、決定した一次展開エアバッグ21a~21cの情報を、切替バルブ50に送信するものである。また、展開制御部120は、一次展開エアバッグ21a~21cの情報を、移動方向予測部110およびガス移動制御部130にも送る。すなわち、展開制御部120は、予測された乗員Pの移動方向に基づいて、展開させるエアバッグ21a~21cを決定し、インフレータ10のガスの供給先を制御するものである。
【0039】
(ガス移動制御部130)
ガス移動制御部130は、展開制御部120から送信された一次展開エアバッグ21a~21cの情報と、移動方向予測部110から送信された二次移動方向の情報と、に基づいて、二次展開エアバッグ21a~21cを決定するものである。そして、ガス移動制御部130は、一次展開エアバッグ21a~21cの情報と、二次展開エアバッグ21a~21cの情報と、に基づいて、開放する連結部31ab、31ac、31bcを決定し、決定した連結部31ab、31ac、31bcを、一次展開エアバッグ21a~21cの展開後に、開放させるものである。
【0040】
なお、ガス移動制御部130は、所定の連結部31ab、31ac、31bcを開放させる方法として、直接、対象の連結部31ab、31ac、31bcを開放させるようにしてもよいし、一次展開エアバッグ21a~21cに連結されている対象外の連結部31ab、31ac、31bcを開放し難くすることにより、間接的に対象の連結部31ab、31ac、31bcを開放させるようにしてもよい。例えば、一次展開エアバッグ21a~21cに連結されている対象外の連結部31ab、31ac、31bcに対して圧力をかけ、高圧とすることにより、対象外の連結部31ab、31ac、31bcが開放しないようにし、対象の連結部31ab、31ac、31bcに圧力がかかり開放させるようにしてもよい。
【0041】
したがって、ガス移動制御部130により、対象の連結部31ab、31ac、31bcが開放されることにより、一次展開エアバッグ21a~21c内のガスが、対象の連結部31ab、31ac、31bcを介して、二次展開エアバッグ21a~21cに移動し、二次展開エアバッグ21a~21cを膨張させ、展開させることができる。
なお、ガス移動制御部130の機能をオフとすることによっても、前述した一次展開エアバッグ21a~21cに乗員Pが当接した勢いのみで(展開先を指定せずに)、所定の二次展開エアバッグ21a~21cにガスを移動させるようにすることもできる。
【0042】
(乗員保護装置1の動作)
次に、車両の左斜め前から衝突物が衝突する際の乗員保護装置1の動作について、説明する。
図4は、車両の左斜め前から衝突物が衝突した際のエアバッグの展開を示す平面図である。なお、図4(a)は、一次展開エアバッグとして乗員Pの前面のエアバッグ21aと、左側側面のエアバッグ21bが展開された際の平面図であり、図4(b)は、二次展開エアバッグとして乗員Pの前面のエアバッグ21aと、右側側面のエアバッグ21cが展開された際の平面図である。
【0043】
乗員保護装置1は、車両に対して接近する対象物が存在すると、衝突検知装置60が衝突の予測を行う。
衝突検知装置60は、左前方から車両に対して接近してくる対象物の移動方向や、対象物との相対加速度等に応じて、対象物が車両に接触するか否かを判定する。ここで、衝突検知装置60は、対象物との衝突が回避できないと判定した場合には、衝突予測(車両が衝突するとの予測)を行うとともに、衝突方向の予測を行う。衝突方向の予測としては、例えば、左前方からの斜突、(車両進行方向に対して)角度「30°」といった情報を予測する。そして、衝突検知装置60は、インフレータ10に、衝突検知信号を送るとともに、ECU100(移動方向予測部110)に対して、衝突検知信号および衝突方向の情報を送る。
【0044】
ECU100では、衝突検知装置60から送られた衝突検知信号および衝突方向の情報を移動方向予測部110が受信する。
移動方向予測部110は、衝突検知信号および衝突方向の情報を受信すると、乗員Pの一次移動方向および二次移動方向の予測を行う。ここで、移動方向予測部110は、乗員Pの一次移動方向として、車両進行方向に対して(以下、同じ)左「30°」と予測し、乗員Pの二次移動方向として、右「95°」と予測する。
【0045】
そして、移動方向予測部110は、予測した一次移動方向の情報を、展開制御部120に送り、予測した二次移動方向の情報を、ガス移動制御部130に送る。なお、移動方向予測部110は、乗員Pの二次移動方向の予測の際に、一次展開エアバッグの情報が必要であれば、一次移動方向の情報を展開制御部120に送り、展開制御部120から一次展開エアバッグの情報を受け取ってから、乗員Pの二次移動方向の予測を行う。
【0046】
展開制御部120は、移動方向予測部110から送られた、乗員Pの一次移動方向の情報(左「30°」)に基づいて、乗員Pがエアバッグ21aとエアバッグ21bに当接することを算出し、一次展開エアバッグとして、エアバッグ21aとエアバッグ21bを決定する。次いで、展開制御部120は、決定した一次展開エアバッグ21a、21bの情報からガスを供給する連結部31として、連結部31abを求め、切替バルブ50の切り替え先として、連結部31abに接続されている導風路41abを決定する。そして、展開制御部120は、切替バルブ50に対して、決定した導風路41abの情報を、切り替え先の情報として送信する。
なお、展開制御部120は、決定した一次展開エアバッグ21a、21bの情報を、切替バルブ50に送信するようにしてもよい。この場合、切替バルブ50が、受信した一次展開エアバッグ21a、21bの情報から、切り替え先として導風路41abを算出し、インフレータ10から供給されたガスの出力先を、導風路41abに切り替える。また、展開制御部120は、一次展開エアバッグ21a、21bの情報を、移動方向予測部110およびガス移動制御部130にも送る。
【0047】
ガス移動制御部130は、展開制御部120から送信された一次展開エアバッグ21a、21bの情報と、移動方向予測部110から送信された二次移動方向の情報(右「95°」)と、に基づいて、二次展開エアバッグ21a、21cを決定する。そして、ガス移動制御部130は、一次展開エアバッグ21a、21bと、二次展開エアバッグ21a、21cと、に基づいて、開放する連結部31bcを決定し、決定した連結部31bcを、一次展開エアバッグ21a、21bの展開後に、開放させる。
【0048】
一方、インフレータ10は、衝突検知装置60から衝突検知信号を受信すると、受信した衝突検知信号に基づいて、火薬に点火し、燃焼による化学反応でガスを発生させ、切替バルブ50に対して、ガスを供給する。
【0049】
切替バルブ50は、展開制御部120から受信した切り替え先の情報(導風路41ab)に基づいて、インフレータ10から供給されたガスの出力先を、導風路41abに切り替えて出力する。
なお、切替バルブ50は、指定されない他の導風路41acおよび導風路41bcに対しては、ガスを出力させないようにする。また、切替バルブ50は、展開制御部120から一次展開エアバッグ21a、21bの情報を受信する場合には、この情報に基づいて、切り替え先として、導風路41abを求めて、インフレータ10から供給されたガスの出力先を、導風路41abに切り替えて、エアバッグ21a、21bにガスを供給させる。
【0050】
導風路41abは、切替バルブ50から出力されたガスを、連結部31abに供給させる。連結部31abは、導風路41abからガスが供給されると、そのガスをエアバッグ21aおよびエアバッグ21bに供給させる。こうして、インフレータ10から出力されたガスは、切替バルブ50、導風路41ab、連結部31abを介して、エアバッグ21aおよびエアバッグ21bに供給される。
これにより、図4(a)に示すように、エアバッグ21aおよびエアバッグ21bを一次展開エアバッグとして展開させることができ、乗員Pに対する車両の衝突の衝撃を和らげることができる。
【0051】
次いで、上記のように、ガス移動制御部130により、一次展開エアバッグ21a、21bの展開後に、連結部31acが開放される。
連結部31acが開放されると、展開されたエアバッグ21b内のガスが、連結部31acを介して、エアバッグ21cに流出する。なお、このとき、連結部31abにおけるガスの流通を停止させるようにしてもよい。このようにすることにより、エアバッグ21a内のガスが、エアバッグ21bに流出することを防止できる。
【0052】
これにより、図4(b)に示すように、エアバッグ21aは、膨張、展開したまま、エアバッグ21cには、ガスが供給され、二次展開エアバッグ21a、21cとして展開する。したがって、衝突の衝撃により一次移動する乗員Pを一次展開エアバッグ21a、21bで受け止め、さらに、二次移動する乗員Pを二次展開エアバッグ21a、21cで受け止めるので、乗員Pの保護機能を高めることができる。また、二次展開エアバッグ21cを、一次展開エアバッグ21bに供給したガスを利用して展開させることができるので、多くの衝突形態に対応しつつも、小型のインフレータを使用することができ、インフレータの大型化を抑制することができる。
【0053】
なお、本実施の形態においては、一次展開エアバッグ21a~21cがインフレータ10のガス圧で所定の位置に展開され、二次展開エアバッグ21a~21cが一次展開エアバッグ21a~21cから出力されるガス圧で所定の位置に展開されるようにしているが、これに限らず、それぞれのエアバッグ21a~21cが所定の位置に展開されるように、ガイド機構を設けてもよい。特に、二次展開エアバッグ21a~21cに対しては、ガス圧が低くなりがちであるため、ガイド機構が有効である。これにより、エアバッグ21a~21cを確実に所望した位置に展開させることができる。
【0054】
(5つのエアバッグを有する乗員保護装置2の構成)
次に、5つのエアバッグを有する乗員保護装置について、説明する。
なお、図5は、5つのエアバッグの全てが展開したと仮定した場合の乗員保護装置の平面図である。
【0055】
図5に示すように、乗員保護装置2は、エアバッグ22と、連結部32と、図示しない導風路と、上記実施の形態と同様の、インフレータ10と、切替バルブ50と、衝突検知装置60と、ECU100と、を備えている。なお、切替バルブ50や、ECU100は、5つのエアバッグに対応したものとなっている。
また、上記実施の形態と同様の構成については、説明を省略する。また、乗員保護装置2は、上記実施の形態と同様に、車両の前方に設けられていてもよいが、座席シートSの上部等に設けられていることが好ましい。
【0056】
また、エアバッグ22は、エアバッグ22aと、エアバッグ22bと、エアバッグ22cと、エアバッグ22dと、エアバッグ22eと、を有している。また、連結部32は、連結部32abと、連結部32acと、連結部32bdと、連結部32cd等と、を有している。また、導風路は、上記連結部32ab、連結部32ac、連結部32bd、連結部32cd等に、それぞれ対応した導風路を有しており、切替バルブ50と各連結部32ab等とをそれぞれ接続している。
また、ECU100は、上記実施の形態と同様で、5つのエアバッグ22に対応した移動方向予測部110と、展開制御部120と、ガス移動制御部130と、を備えている。
【0057】
(エアバッグ22)
上記のように、エアバッグ22は、エアバッグ22aと、エアバッグ22bと、エアバッグ22cと、エアバッグ22dと、エアバッグ22eと、を有している。
エアバッグ22aは、座席シートSに着座する乗員Pの前面に展開可能に設けられている。また、エアバッグ22bは、乗員Pの左側側面に展開可能に設けられている。また、エアバッグ22cは、乗員Pの右側側面に展開可能に設けられている。また、エアバッグ22dは、乗員Pの背面に展開可能に設けられている。また、エアバッグ22eは、乗員Pの上部に展開可能に設けられている。
【0058】
(連結部32)
上記のように、連結部32は、連結部32abと、連結部32acと、連結部32bdと、連結部32cd等、を有している。
連結部32abは、導風路を介して供給されたガスをエアバッグ22aおよびエアバッグ22bに供給させるものである。また、連結部32abは、エアバッグ22aとエアバッグ22bとを連結するものであり、内部の流路を通して、エアバッグ22a内のガスをエアバッグ22bに移動、または、エアバッグ22b内のガスをエアバッグ22aに移動させることができるようになっている。また、連結部32abは、ガス移動制御部130により、ガスを流通させるか否かが制御される。
【0059】
同様に、連結部32acは、導風路を介して供給されたガスをエアバッグ22aおよびエアバッグ22cに供給させるものであり、また、エアバッグ22aとエアバッグ22cとを連結するものである。連結部32bdは、導風路を介して供給されたガスをエアバッグ22bおよびエアバッグ22dに供給させるものであり、また、エアバッグ22bとエアバッグ22dとを連結するものである。
【0060】
連結部32cdは、導風路を介して供給されたガスをエアバッグ22cおよびエアバッグ22dに供給させるものであり、また、エアバッグ22cとエアバッグ22dとを連結するものである。また、他のエアバッグ22同士も、同様に連結部32で連結されている。
そして、それぞれの連結部32は、ガス移動制御部130により、ガスを流通させるか否かが制御されるようになっている。
【0061】
また、例えば、連結部32abを例にとると、エアバッグ22aが膨張、展開されている際に、連結部32abがガス移動制御部130により開放されると、エアバッグ22a内のガスがエアバッグ22bに移動し、エアバッグ22bが膨張、展開されることとなる。また、逆に、エアバッグ22bが膨張、展開されている際に、連結部32abがガス移動制御部130により開放されると、エアバッグ22b内のガスがエアバッグ22aに移動し、エアバッグ22aが膨張、展開されることとなる。
【0062】
このような構成により、乗員保護装置2は、車両の衝突の際に、乗員Pの一次移動に対して適切な一次展開エアバッグ22a~22eを選択して展開させ、乗員Pの二次移動に対しても所望の連結部32ab~32cd等を開放して、一次展開エアバッグ22a~22e内のガスを移動させて、適切な二次展開エアバッグ22a~22eを展開させることができる。
【0063】
したがって、乗員Pの一次移動、二次移動に対して、適切にエアバッグ22a~22eで受け止めることができ、乗員Pの保護機能を高めることができる。また、一次展開エアバッグ22a~22e内のガスを利用して、二次展開エアバッグ22a~22eを展開させるので、インフレータ10の大型化を抑制することができる。さらに、乗員Pの前後左右および上部にエアバッグ22a~22eを備えたので、様々な衝突形態、例えば、前突や、側突、斜突、あるいは、ロールオーバーといった形態に対しても確実に乗員Pを保護することができる。
【0064】
以上のように、本実施の形態における乗員保護装置1、2は、複数のエアバッグ21a~21c、22a~22eを備えながら、車両の衝突時に、移動方向予測部110が乗員Pの移動方向を予測して、所望のエアバッグ21a~21c、22a~22eのみを展開させるので、エアバッグ21a~21c、22a~22eの全てを展開させるだけのガスを必要としないため、インフレータ10の容量を抑えることができ、多くの衝突形態に対応しつつ、インフレータ10の大型化を抑制することができる。
【0065】
また、本実施の形態における乗員保護装置1、2は、移動方向予測部110が乗員Pの二次移動方向を予測して、一次展開したエアバッグ21b、22b等に供給したガスを、二次展開するエアバッグ21c、22a等に移動させて展開するので、多くの衝突形態に対応しつつ、インフレータ10の大型化を抑制することができる。
【0066】
さらに、乗員保護装置1、2は、ガイド機構を備えることにより、所望のエアバッグ21a~21c、22a~22eを所望の位置に展開させることができる。特に、二次展開においてガイド機構を使用することにより、エアバッグ21a~21c,22a~22eを、適切な場所に確実に展開させることができ、インフレータ10の容量を抑えつつ、乗員Pの保護機能を高めることができる。
【0067】
なお、本実施の形態においては、エアバッグ21a~21c、22a~22eとして、3つのエアバッグ21a~21c、または、5つのエアバッグ22a~22eを備えたものとしたが、これに限らず、エアバッグは、4つあるいは6つ以上であってもよい。
【符号の説明】
【0068】
1,2 乗員保護装置、10 インフレータ、21a~21c,22a~22e エアバッグ、31ab,31ac,31bc,32ab,32ac,32bd,32cd 連結部、41ab,41ac,41bc 導風路、50 切替バルブ、60 衝突検知装置、100 ECU、110 移動方向予測部、120 展開制御部、130 ガス移動制御部
図1
図2
図3
図4
図5