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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】状態監視装置
(51)【国際特許分類】
   B61K 13/00 20060101AFI20220526BHJP
   B61F 5/24 20060101ALI20220526BHJP
   G01M 17/08 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
B61K13/00 Z
B61F5/24 Z
G01M17/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018068555
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019177781
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】大山 寛人
(72)【発明者】
【氏名】河田 直樹
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-188272(JP,A)
【文献】特開2004-117253(JP,A)
【文献】特開昭59-183372(JP,A)
【文献】実開平05-066568(JP,U)
【文献】特開2001-341644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61K 13/00
B61F 5/24
G01M 17/00
B61L 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両に設けられた加速度センサと、
前記加速度センサからの検出信号データをフーリエ変換し、周波数毎の加速度に関する特性データを算出する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段によって算出された前記特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する第2の算出手段と、
前記マハラノビスの距離を予め設定された閾値と比較する比較手段と、
前記比較手段における比較結果に応じて、前記鉄道車両の乗り心地レベルを判定する判定手段と、を備え
前記単位データは、正常な鉄道車両が正常な線路を走行した際の特性データであり、異なる時間又は異なる走行区間で前記加速度センサから出力された複数の前記検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した周波数毎の加速度に関するデータを含む、状態監視装置。
【請求項2】
前記第1の算出手段は、異なる時間に前記加速度センサから出力された複数の前記検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した後に平均することで、前記特性データを算出する、請求項1に記載の状態監視装置。
【請求項3】
前記加速度センサから出力された複数の前記検出信号データは、前記異なる時間に重複する走行区間で出力された前記検出信号データを含む、請求項1又は2に記載の状態監視装置。
【請求項4】
前記異なる走行区間のうち少なくとも2つの間には、少なくとも1つの停車駅が位置する、請求項1~3のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項5】
前記異なる走行区間は、互いに隣り合う停車駅の間に位置する異なる走行区間を含む、請求項のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項6】
前記鉄道車両の車両種別及び当該鉄道車両が走行する走行区間の種別の少なくとも1つを取得する取得手段を更に備え、
前記比較手段は、前記取得手段によって取得された情報に応じた前記閾値と、前記第2の算出手段によって算出された前記マハラノビスの距離とを比較する、請求項1~のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項7】
前記鉄道車両の車両種別及び当該鉄道車両が走行する走行区間の種別の少なくとも1つを取得する取得手段を更に備え、
前記第2の算出手段は、前記取得手段によって取得された情報に応じた前記単位データに基づいて、前記マハラノビスの距離を算出する、請求項1~のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項8】
前記加速度センサは、前記鉄道車両の心皿の直上に配置されている、請求項1~のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項9】
外部の車両基地と通信を行う通信手段を更に備え、
前記通信手段は、前記比較手段が前記第2の算出手段によって算出された前記マハラノビスの距離が前記閾値以上であると判定した場合に、前記車両基地に通知を行う、請求項1~のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【請求項10】
前記第2の算出手段は、前記鉄道車両の上下方向の前記検出信号データから算出された前記特性データ、前記鉄道車両の左右方向の前記検出信号データから算出された前記特性データ、及び前記鉄道車両の前後方向の前記検出信号データから算出された前記特性データのそれぞれに基づいて、前記マハラノビスの距離を算出する、請求項1~のいずれか一項に記載の状態監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に用いられる状態監視装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行時の安全性などを確保するため、車体或いは走行装置にセンサを設置し、走行状態の異常の有無や台車部品などの劣化を監視する装置が開発されている(例えば、特許文献1)。例えば特許文献1に記載の装置は、鉄道車両に設置された加速度センサを備えており、加速度センサで検出された加速度の特定周波数帯の信号を所定時間毎に積分することで、得られた積分値と所定時間前の積分値との差に基づいて鉄道車両の状態を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-211400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄道車両の乗り心地まで考慮した鉄道車両及び線路の検査は、鉄道車両における部品及び線路の劣化スピードと作業効率とを考慮して、一般的には、例えば月に1回程度の頻度で行われている。しかし、様々な原因によって部品及び線路の劣化が早まることで、所望の乗り心地を得られない鉄道車両が走行している場合がある。このため、乗り心地の判定における作業効率の向上が求められている。また、鉄道車両の振動には、乗客が心地よいと感じる周波数と不快と感じる周波数とが含まれている。すなわち、周波数によって乗り心地に対する寄与度が異なる。このため、単なる振動の強弱だけではなく、鉄道車両に生じる振動の周波数成分の違いを考慮した乗り心地の判定が必要であると考えられる。
【0005】
本発明は、作業負担が少なく、かつ鉄道車両の乗り心地を精度良く判定できる状態監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る状態監視装置は、鉄道車両に設けられた加速度センサと、加速度センサからの検出信号データをフーリエ変換し、周波数毎の加速度に関する特性データを算出する第1の算出手段と、第1の算出手段によって算出された特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する第2の算出手段と、マハラノビスの距離を予め設定された閾値と比較する比較手段と、比較手段における比較結果に応じて、鉄道車両の乗り心地レベルを判定する判定手段と、を備える。
【0007】
この状態監視装置では、第1の算出手段によって算出された周波数毎の加速度に関する特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離が算出される。算出されたマハラノビスの距離は、所望の周波数範囲について単位データとの周波数毎の違いを考慮した単一のデータである。状態監視装置では、このようにして算出されたマハラノビス距離と閾値とが比較されることで鉄道車両の乗り心地レベルが判定されている。このため、上記状態監視装置は、鉄道車両が走行している状態で、周波数毎の乗り心地に対する寄与度の違いを考慮した乗り心地レベルの判定を容易かつ適確に実行できる。すなわち、上記状態監視装置は、作業負担が少なく、かつ鉄道車両の乗り心地を精度良く判定できる。
【0008】
第1の算出手段は、異なる時間に加速度センサから出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した後に平均することで、特性データを算出してもよい。この場合、加速度センサによる誤検出の影響を低減することができる。
【0009】
単位データは、正常な鉄道車両が正常な線路を走行した際の特性データであり、異なる時間又は異なる走行区間で加速度センサから出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した周波数毎の加速度に関するデータを含んでいてもよい。この場合、鉄道車両と線路との双方の劣化、及び、時間の違い又は走行区間の違いによる加速度センサの検出結果のばらつきを考慮して、乗り心地レベルを判定することができる。
【0010】
加速度センサから出力された複数の検出信号データは、異なる時間に重複する走行区間で出力された検出信号データを含んでいてもよい。この場合、同一走行区間を走行した場合における加速度センサの検出結果のばらつきを考慮して、乗り心地レベルを判定することができる。
【0011】
異なる走行区間のうち少なくとも2つの間には、少なくとも1つの停車駅が位置していてもよい。この場合、少なくとも1つの停車駅を挟んだ異なる走行区間における加速度センサの検出結果のばらつきを考慮して、乗り心地レベルを判定することができる。
【0012】
異なる走行区間は、互いに隣り合う停車駅の間に位置する異なる走行区間を含んでいてもよい。この場合、対応する停車駅間に適した単位データによって、乗り心地レベルを判定することができる。
【0013】
状態監視装置は、鉄道車両の車両種別及び当該鉄道車両が走行する走行区間の種別の少なくとも1つを取得する取得手段を更に備えてもよく、比較手段は、取得手段によって取得された情報に応じた閾値と、第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離とを比較してもよい。この場合、鉄道車両の車両種別及び鉄道車両が走行する走行区間の種別によって、乗り心地レベルの判定基準を変更することができる。
【0014】
状態監視装置は、鉄道車両の車両種別及び当該鉄道車両が走行する走行区間の種別の少なくとも1つを取得する取得手段を更に備えてもよく、第2の算出手段は、取得手段によって取得された情報に応じた単位データに基づいて、マハラノビスの距離を算出してもよい。この場合、鉄道車両の車両種別及び鉄道車両が走行する走行区間の種別によって、乗り心地レベルの判定基準を変更することができる。
【0015】
加速度センサは、鉄道車両の心皿の直上に配置されていてもよい。この場合、加速度センサによって、鉄道車両に生じる振動の正確性を向上することができる。
【0016】
状態監視装置は、外部の車両基地と通信を行う通信手段を更に備えてもよく、通信手段は、比較手段が第2の算出手段によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上であると判定した場合に、車両基地に通知を行ってもよい。この場合、車両基地との通信量を低減することができる。
【0017】
第2の算出手段は、鉄道車両の上下方向の検出信号データから算出された特性データ、鉄道車両の左右方向の検出信号データから算出された特性データ、及び鉄道車両の前後方向の検出信号データから算出された特性データのそれぞれに基づいて、マハラノビスの距離を算出してもよい。上下方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、空気バネのパンク又は軸ダンパの故障が考えられる。左右方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、左右動ダンパ又はヨーダンパの故障が考えられる。前後方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、連結器周りの異常、ヨーダンパ又は車体間ダンパの故障が考えられる。したがって、第2の算出手段が上述した特性データのそれぞれに基づいてマハラノビスの距離を算出することで、線路における軌道狂い、及び、鉄道車両における各部位の故障の発生を容易に検知することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、作業負担が少なく、かつ鉄道車両の乗り心地を精度良く判定できる状態監視装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る状態監視装置の全体構成を説明するための図である。
図2図1に示した状態監視装置の一部のブロック図である。
図3図1に示した状態監視装置の一部のブロック図である。
図4】加速度センサからの検出信号データのうち上下方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
図5】加速度センサからの検出信号データのうち上下方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
図6】周波数毎の上下方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
図7】周波数毎の上下方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
図8】加速度センサからの検出信号データのうち左右方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
図9】加速度センサからの検出信号データのうち左右方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
図10】周波数毎の左右方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
図11】周波数毎の左右方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
図12】加速度センサからの検出信号データのうち前後方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
図13】加速度センサからの検出信号データのうち前後方向の振動に関するデータの一例を示す図である。
図14】周波数毎の前後方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
図15】周波数毎の前後方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
図16】乗り心地レベルの判定の比較例を説明するための図である。
図17】乗り心地レベルの判定の比較例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0021】
まず、図1を参照して、状態監視装置の物理的構成について説明する。図1は、状態監視装置の全体構成を説明するための図である。状態監視装置1は、鉄道車両2に配置された各種機器を有している。鉄道車両2は、図1に示されているように、複数の車両20によって構成されている。状態監視装置1は、各車両20で発生する振動を解析することで鉄道車両2の乗り心地レベルを判定する。
【0022】
鉄道車両2は、各車両20に、台車21と、空気バネ22と、加速度センサ23と、演算ユニット24と、中継ユニット25と、統括ユニット26とを有する。空気バネ22は、車両20の車体と台車21との間に設けられており、車両20の振動を抑制する。
【0023】
加速度センサ23は、各車両20の振動を検出する部分である。演算ユニット24は、主として車両20の乗り心地レベルを判定する部分である。ここで、「乗り心地レベル」とは、乗り心地の良し悪しを示す度合いである。中継ユニット25は、各演算ユニット24の判定結果を中継して、統括ユニット26に向けて送信する部分である。統括ユニット26は、各演算ユニット24から受信した判定結果の報知や記録を行う部分である。
【0024】
加速度センサ23は、図1に示されているように、鉄道車両2の台車21の直上に配置されている。本実施形態では、加速度センサ23は、心皿の直上(車両20の床上、床中、又は床下における台車21の回転中心に対応する位置)に配置されている。加速度センサ23は、車両20の妻部27,28(車両20の長手方向の端部を構成する妻構体によって構成される部分)に配置されていてもよいし、妻近傍の側壁(例えば側構体)又は、妻近傍の天井(例えば屋根構体)に配置されていてもよい。
【0025】
演算ユニット24は、車両20の一方の妻部27に配置されている。演算ユニット24は、運転台などを有する乗務員室を備えた車両20の少なくとも1つ(例えば、先頭車両20及び後尾車両20)のみに設けられていてもよい。中継ユニット25は、例えば車両20の他方の妻部28に配置されている。統括ユニット26は、例えば鉄道車両2の先頭車両20及び後尾車両20にそれぞれ配置されている。統括ユニット26は、運転台などを有する乗務員室を備えた車両20の少なくとも1つのみに設けられていてもよい。演算ユニット24、中継ユニット25、及び統括ユニット26は、車内と車外のいずれに配置されてもよい。
【0026】
次に、図2を参照して、加速度センサ23、演算ユニット24、及び中継ユニット25の機能的構成について説明する。図2は、状態監視装置1の一部である加速度センサ23、演算ユニット24及び中継ユニット25を示している。
【0027】
加速度センサ23は、車両20の振動に応じて生ずる車両20の上下方向、左右方向及び前後方向の加速度をそれぞれ検出する。加速度センサ23で検出された加速度は、逐次、演算ユニット24へ送信される。
【0028】
演算ユニット24は、図2に示されているように、受信部31と、状態演算部32と、単位空間データベース33と、通信部34とを有している。受信部31は、同一車両20に設けられた少なくとも1つの加速度センサ23からの検出信号データを受信する。受信部31は、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0029】
状態演算部32は、受信部31で受信された加速度センサ23からの検出信号データに基づいて、車両20の状態を判定する。本実施形態では、状態演算部32は、MTS(Mahalanobis-Taguchi System)によって、車両20の乗り心地レベルを判定する。具体的には、状態演算部32は、単位空間データベース33を参照してマハラノビスの距離を算出し、算出されたマハラノビスの距離と閾値とを比較することで車両20の乗り心地レベルを判定する。状態演算部32は、乗り心地レベルの判定結果を通信部34へ出力する。
【0030】
単位空間データベース33は、MTSに用いられる予め取得された単位データ(単位空間データ)を格納している。単位データは、正常な鉄道車両2が正常な線路を走行した際の特性データである。単位データは、加速度センサ23から出力されたn個の検出信号データのそれぞれを高速フーリエ変換したものであり、周波数毎の加速度に関するn個のデータである。換言すれば、単位データは、加速度に関する情報を周波数毎に示す特性データである(加速度に関する情報の周波数スペクトル)。
【0031】
加速度センサ23から出力された上記n個の検出信号データは、異なる時間又は異なる走行区間で加速度センサ23から出力された検出信号データを含む。本実施形態において、上記n個の検出信号データは、異なる時間に重複する走行区間で出力された検出信号データを含んでいる。例えば、上記n個の検出信号データは、鉄道車両2が同じ走行区間を複数回走行した場合に加速度センサ23から出力された検出信号データを含んでいてもよい。
【0032】
本実施形態において、上記n個の検出信号データは、重複する時間に異なる走行区間で出力された検出信号データを含んでいる。例えば、上記n個の検出信号データは、重複する時間に複数の正常な鉄道車両が正常な線路の異なる走行区間を走行した際に、加速度センサから出力された複数の検出信号データを含んでいてもよい。
【0033】
本実施形態において、上記異なる走行区間のうち少なくとも2つの間には、少なくとも1つの停車駅が位置している。換言すれば、本実施形態における単位データは、少なくとも1つの停車駅を挟んだ異なる走行区間で、加速度センサから出力された複数の検出信号データのそれぞれを高速フーリエ変換した周波数毎の加速度に関するデータを含んでいる。本実施形態において、上記異なる走行区間は、互いに隣り合う停車駅の間に位置する異なる走行区間を含んでいる。換言すれば、本実施形態における単位データは、互いに隣り合う停車駅の間に位置する異なる走行区間で、加速度センサから出力された複数の検出信号データのそれぞれを高速フーリエ変換した周波数毎の加速度に関するデータを含んでいる。
【0034】
単位データは、例えば、m個の鉄道車両IDと単位データとが走行区間ID毎及び時刻毎に予め格納されている。ここで、鉄道車両ID及び走行区間IDは、それぞれ、鉄道車両の車両種別と鉄道車両が走行する走行区間の種別を示す。物理的に同一の鉄道車両2が異なる時間に別の用途で使われる場合があるため、このような場合を考慮して、異なる鉄道車両IDが物理的に同一の鉄道車両2に付されてもよい。例えば、朝は特急快速として利用されていた鉄道車両2が昼は普通列車として利用される場合や乗客を乗せていた鉄道車両2が回送列車として走行する場合がある。鉄道車両IDは、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの鉄道車両2の走行形態を示すものであってもよいし、普通車及びグリーン車などの各車両20の等級を示すものであってもよい。
【0035】
本実施形態では、単位データは、周波数毎の加速度を示すデータ、すなわち、加速度の周波数特性(加速度の周波数スペクトル)を示すデータである。単位データは、加速度に関する情報を示すデータであればこれに限定されない。単位データは、例えば、周波数毎のPSD(Power Spectral Density、パワースペクトル密度関数)を示すデータ、すなわち、PSDの周波数特性(PSDの周波数スペクトル)であってもよい。
【0036】
通信部34(取得手段)は、隣接する中継ユニット25との間で、状態演算部32で判定された車両20の状態に関する情報(乗り心地レベルの判定結果及び当該判定に用いた各種情報(例えば、特性データ))などの情報について送受信を行う部分である。通信部34は、隣接する車両20及び同一車両20に配置されている中継ユニット25と、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0037】
通信部34は、隣接する中継ユニット25を介して統括ユニット26から鉄道車両ID及び走行区間IDの少なくとも1つを受信(取得)した場合には、受信した鉄道車両ID及び走行区間IDの少なくとも1つを状態演算部32に出力する。通信部34で受信される走行区間IDは、鉄道車両2が現在走行している走行区間のIDであってもよいし、今後走行する予定の走行区間のIDであってもよい。
【0038】
中継ユニット25は、機能的な構成要素として、例えば通信部41を有している。通信部41は、隣接する演算ユニット24、又は統括ユニット26との間の送受信を中継する部分である。通信部41は、隣接する車両20及び同一車両20に配置されている演算ユニット24又は統括ユニット26と、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0039】
次に、図3を参照して、統括ユニット26の機能的構成について詳細に説明する。図3は、状態監視装置1の一部である統括ユニット26を示している。
【0040】
統括ユニット26は、通信部51と、報知部52と、判定結果格納部53とを有している。通信部51は、外部の車両基地70及び隣接する中継ユニット25との間で情報の送受信(通信)を行う部分である。通信部51は、車両20に配置された中継ユニット25に対して、例えばBluetoothなどの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0041】
通信部51は、例えば判定結果受信部54と、ID受信部55とを含んでいる。判定結果受信部54は、隣接する中継ユニット25から受け取った判定結果を報知部52と判定結果格納部53とにそれぞれ出力する。また、ID受信部55は、鉄道車両ID及び走行区間IDの少なくとも1つを車両基地70から受信し、中継ユニット25を介して各演算ユニット24にそれぞれ送信する。鉄道車両ID及び走行区間IDの少なくとも1つを送信する車両基地70は、例えば駅構内や各電車区内に位置している。車両基地70から送信される走行区間IDは、鉄道車両2が現在走行している走行区間のIDであってもよいし、今後走行する予定の走行区間のIDであってもよい。
【0042】
報知部52は、通信部51から受け取った判定結果を報知する部分である。報知部52は、例えばディスプレイを備え、鉄道車両2の走行時に車両20毎の判定結果を表示する。判定結果格納部53は、判定結果を格納する部分である。判定結果格納部53には、例えば通信部51が判定結果を受け取った時刻と判定結果とが関連付けられて格納される。
【0043】
次に、演算ユニット24における鉄道車両2の状態を判定する手法について詳細に説明する。状態演算部32は、図2に示されているように、第1の算出部36(第1の算出手段)と、第2の算出部37(第2の算出手段)と、比較部38(比較手段)と、判定部39(判定手段)とを有する。
【0044】
第1の算出部36は、受信部31で受信された加速度センサ23からの検出信号データを高速フーリエ変換することで、周波数毎の加速度に関する特性データを算出する。本実施形態では、第1の算出部36は、加速度センサ23によって異なる時間に(異なる走行区間で)加速度センサ23から出力された複数の検出信号データをそれぞれ高速フーリエ変換した後に平均することで上記特性データを算出する。
【0045】
例えば、第1の算出部36は、8つの異なる走行区間毎に加速度センサ23から8つの検出信号データを取得し、8つの検出信号データをそれぞれ高速フーリエ変換する。第1の算出部36は、高速フーリエ変換された8つのデータを平均することで特性データを算出する。第1の算出部36は、加速度センサから出力された、上下方向、左右方向、及び前後方向の検出信号データから、それぞれ上記特性データを算出する。
【0046】
本実施形態では、第1の算出部36は、周波数毎の加速度を示す特性データ、すなわち、加速度の周波数特性(加速度の周波数スペクトル)を示すデータを算出する。第1の算出部36によって算出される特性データは、加速度に関する情報を示すデータであればこれに限定されない。例えば、第1の算出部36は、単位空間データベース33に格納されている単位データが周波数毎のPSDのデータである場合に、周波数毎のPSDを示す特性データ、すなわち、PSDの周波数特性(PSDの周波数スペクトル)を示すデータを算出してもよい。
【0047】
図4及び図5は、加速度センサ23からの検出信号データのうち上下方向の振動に関するデータの一例を示している。縦軸は加速度を示しており、横軸は時間を示している。図6及び図7は、第1の算出部36によって算出された、周波数毎の上下方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。縦軸は加速度を対数で示しており、横軸は周波数を対数で示している。図4及び図6は、乗り心地が正常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。図5及び図7は、乗り心地が異常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
【0048】
図8及び図9は、加速度センサ23からの検出信号データのうち左右方向の振動に関するデータの一例を示している。縦軸は加速度を示しており、横軸は時間を示している。図10及び図11は、第1の算出部36によって算出された、周波数毎の左右方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。縦軸は加速度を対数で示しており、横軸は周波数を対数で示している。図8及び図10は、乗り心地が正常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。図9及び図11は、乗り心地が異常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
【0049】
図12及び図13は、加速度センサ23からの検出信号データのうち前後方向の振動に関するデータの一例を示している。縦軸は加速度を示しており、横軸は時間を示している。図14及び図15は、第1の算出部36によって算出された、周波数毎の前後方向の加速度に関する特性データの一例を示す図である。縦軸は加速度を対数で示しており、横軸は周波数を対数で示している。図12及び図14は、乗り心地が正常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。図13及び図15は、乗り心地が異常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
【0050】
第2の算出部37は、第1の算出部36によって算出された特性データと単位空間データベース33に格納されている単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する。本実施形態では、第1の算出部36が、上下方向、左右方向、及び前後方向の検出信号データからそれぞれ特性データを算出している。このため、第2の算出部37は、上下方向、左右方向、及び前後方向の特性データに基づいて、それぞれマハラノビスの距離を算出する。
【0051】
本実施形態では、第2の算出部37は、演算ユニット24が設けられている鉄道車両2の鉄道車両ID及び当該鉄道車両2が走行区間IDの少なくとも1つを取得し、これらに基づいて、単位空間データベース33から、マハラノビスの距離を算出するための単位データを抽出する。本実施形態では、第2の算出部37は、通信部34から鉄道車両2の鉄道車両ID及び当該鉄道車両2が走行する走行区間IDの少なくとも1つを取得する。この場合、第2の算出部37は、抽出された単位データと、第1の算出部36によって算出された特性データとを用いてマハラノビスの距離を算出する。すなわち、第2の算出部37は、通信部34で取得された情報に応じた単位データに基づいてマハラノビスの距離を算出する。第2の算出部37によって抽出される単位データは、ユーザによって設定されていてもよい。マハラノビスの距離は、各車両20に設けられた演算ユニット24の第2の算出部37によって車両20毎に算出されてもよいし、1つの第2の算出部37によって、先頭車両20から後尾車両20までの全ての車両20についてまとめて算出されてもよい。
【0052】
第2の算出部37は、例えば、鉄道車両IDから普通車両かグリーン車両かを判定する。第2の算出部37は、普通車両であると判定した場合には、普通車両に対応する単位データを単位空間データベース33から抽出し、普通車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離を算出する。第2の算出部37は、グリーン車両であると判定した場合には、グリーン車両に対応する単位データを単位空間データベース33から抽出し、グリーン車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離を算出する。第2の算出部37は、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの走行形態に応じて、異なる単位データを抽出して、走行形態に応じたマハラノビスの距離を算出してもよい。
【0053】
比較部38は、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離を、予め設定された閾値と比較する。具体的には、比較部38は、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上であるか否か判定する。本実施形態では、比較部38は、上下方向、左右方向、及び前後方向のマハラノビスの距離について、それぞれ比較を行う。
【0054】
本実施形態では、比較部38が用いる閾値は「4」であり、比較部38は、算出されたマハラノビスの距離が「4」以上であるか否かを判定する。判定部39は、比較部38における比較結果に応じて車両20の乗り心地レベルを判定する。本実施形態では、比較部38は、演算ユニット24が設けられている鉄道車両2の鉄道車両ID及び当該鉄道車両2が走行する走行区間IDの少なくとも1つを取得し、これらに基づいて上記閾値を決定する。本実施形態では、比較部38は、通信部34から鉄道車両2の鉄道車両ID及び当該鉄道車両2が走行する走行区間IDの少なくとも1つを取得する。すなわち、比較部38は、通信部34で取得された情報に応じて閾値を決定する。上記閾値は、ユーザによって設定されてもよい。
【0055】
例えば、比較部38は、鉄道車両IDから普通車両かグリーン車両かを判定する。比較部38は、普通車両であると判定した場合には、普通車両に対応する閾値とマハラノビスの距離を比較する。比較部38は、グリーン車両であると判定した場合には、グリーン車両に対応する閾値とマハラノビスの距離を比較する。比較部38は、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの走行形態に応じて、異なる閾値を用いて上記比較を行ってもよい。
【0056】
判定部39は、比較部38における比較結果に応じて、鉄道車両2の乗り心地レベルを判定する。本実施形態では、判定部39は、上下方向、左右方向、及び前後方向についてそれぞれ乗り心地レベルを判定する。判定部39は、例えば、比較部38においてマハラノビスの距離が「4」以上であると判定された場合に、乗り心地レベルが不良であると判定する。例えば、図6図10、及び図14に示した特性データでは、第2の算出部37によって、「4」未満のマハラノビスの距離が導出される。この場合、判定部39は、乗り心地レベルは良好であると判定する。図7図11、及び図15に示した特性データでは、第2の算出部37によって、「4」以上のマハラノビスの距離が導出される。この場合、判定部39は、乗り心地レベルが不良であると判定する。鉄道車両2の乗り心地レベルの判定は、各車両20に設けられた演算ユニット24の判定部39によって車両20毎に算出されてもよいし、1つの判定部39によって、先頭車両20から後尾車両20までの全ての車両20についてまとめて判定されてもよい。
【0057】
通信部34は、判定部39で乗り心地レベルが不良と判定された場合(比較部38が第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上であると判定した場合)に、その判定結果と第1の算出部36で算出された特性データとを、隣接する中継ユニット25を介して統括ユニット26に送信する。この場合、統括ユニット26の通信部51(通信手段)は、外部の車両基地70に判定部39で乗り心地レベルが不良であると判定されたことを示すデータを送信(通知)する。通信部34は、直接、統括ユニット26との間、又は、外部の車両基地70との間で情報の送受信を行ってもよい。例えば、通信部34は、判定部39で乗り心地レベルが不良と判定された場合に、その判定結果と第1の算出部36で算出された特性データとを、直接、統括ユニット26又は外部の車両基地70に送信してもよい。
【0058】
次に、状態監視装置1の作用効果について説明する。加速度センサ23は、鉄道車両2の走行時に発生する振動を、上下方向、左右方向、及び前後方向の加速度として検出し、検出信号データを出力する。状態演算部32は、加速度センサ23から出力された検出信号データに基づいて、鉄道車両2の乗り心地レベルを判定する。
【0059】
鉄道車両の振動には、乗客が心地よいと感じる周波数と不快と感じる周波数とが含まれている。すなわち、周波数によって乗り心地に対する寄与度が異なる。このため、例えば、図16及び図17で示されているように、鉄道車両に生じる振動の周波数成分の違いを考慮した乗り心地の基準線と特性データとを比較して、乗り心地レベルを判定することが考えられる。図16及び図17は、特性データの一例として、周波数毎の上下方向の加速度に関する特性データを示している。
【0060】
図16は、乗り心地の基準線(a),(b),(c),(d)と乗り心地が正常な状態の特性データ(e)とを示している。図17は、乗り心地の基準線(a),(b),(c),(d)と乗り心地が異常な状態の特性データ(f)とを示している。基準線(a),(b),(c),(d)は、(a),(b),(c),(d)の順で、より良い乗り心地に対応している。例えば、基準線(a)は普通車両の乗り心地の基準を示す基準線であり、基準線(b)はグリーン車両の乗り心地の基準を示す基準線である。
【0061】
特性データが上述した基準線を上回るほど、当該特性データが得られた車両20の乗り心地が悪いことを示している。例えば、図16において、特性データ(e)は、乗り心地が正常な状態(乗り心地が良好な状態)の特性データであるため、基準線(a),(b),(c),(d)のいずれよりも下に位置している。一方、図17において、特性データ(f)の一部が(b)及び(c)の基準線よりも上に位置している。このため、特性データ(f)が取得された鉄道車両2は、特性データ(e)が取得された鉄道車両2よりも乗り心地が悪いことが分かる。しかしながら、この手法では、特性データがどの位置でどの程度だけ基準線を上回った場合に乗り心地が不良と判定するのが適切かを判断し難い。
【0062】
状態監視装置1では、第1の算出部36によって算出された周波数毎の加速度に関する特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離が算出される。算出されたマハラノビスの距離は、所望の周波数範囲について単位データとの周波数毎の違いを考慮した単一のデータである。状態監視装置1では、このようにして算出されたマハラノビス距離と閾値とが比較されることで鉄道車両の乗り心地レベルが判定されている。このため、状態監視装置1では、マハラノビスの距離を用いて判定が行われることにより、鉄道車両2が走行している状態で、周波数毎の乗り心地に対する寄与度の違いを考慮した乗り心地レベルの判定を容易かつ適確に実行できる。すなわち、状態監視装置1は、作業負担が少なく、かつ鉄道車両の乗り心地を精度良く判定できる。
【0063】
第1の算出部36は、異なる時間に加速度センサ23から出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した後に平均することで、特性データを算出する。このため、加速度センサ23による誤検出の影響を低減することができる。
【0064】
単位データは、正常な鉄道車両2が正常な線路を走行した際の特性データであり、異なる時間又は異なる走行区間で加速度センサ23から出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した周波数毎の加速度に関するデータを含んでいる。このため、鉄道車両2と線路との双方の劣化、及び、時間の違い又は走行区間の違いによる加速度センサ23の検出結果のばらつきを考慮して、乗り心地レベルを判定することができる。
【0065】
加速度センサ23から出力された複数の検出信号データは、異なる時間に重複する走行区間で出力された検出信号データを含んでいる。このため、同一走行区間を走行した場合における加速度センサ23の検出結果のばらつきを考慮して、乗り心地レベルを判定することができる。
【0066】
異なる走行区間のうち少なくとも2つの間には、少なくとも1つの停車駅が位置している。このため、少なくとも1つの停車駅を挟んだ異なる走行区間における加速度センサ23の検出結果のばらつきを考慮して、乗り心地レベルを判定することができる。
【0067】
異なる走行区間は、互いに隣り合う停車駅の間に位置する異なる走行区間を含んでいる。このため、対応する停車駅間に適した単位データによって、乗り心地レベルを判定することができる。
【0068】
通信部34は、鉄道車両2の車両種別(鉄道車両ID)及び当該鉄道車両2が走行する走行区間の種別(走行区間ID)の少なくとも1つを取得する。比較部38は、通信部34によって取得された上記情報に応じた閾値と、第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離とを比較する。このため、鉄道車両2の車両種別及び鉄道車両2が走行する走行区間の種別によって、乗り心地レベルの判定基準を変更することができる。
【0069】
例えば、比較部38は、鉄道車両IDから車両20が普通車両であると判定した場合には、普通車両に対応する閾値とマハラノビスの距離を比較する。比較部38は、鉄道車両IDから車両20がグリーン車両であると判定した場合には、グリーン車両に対応する閾値とマハラノビスの距離を比較する。比較部38は、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの走行形態に応じて異なる閾値を用いて上記比較を行ってもよい。これによれば、各車両20の用途、又は、鉄道車両2の走行形態に応じて、適切に乗り心地レベルを判定することができる。
【0070】
第2の算出部37は、通信部34によって取得された上記情報に応じた単位データに基づいて、マハラノビスの距離を算出する。このため、鉄道車両2の車両種別及び鉄道車両2が走行する走行区間の種別によって、乗り心地レベルの判定基準を変更することができる。
【0071】
例えば、第2の算出部37は、鉄道車両IDから車両20が普通車両であると判定した場合には、普通車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離を算出する。第2の算出部37は、鉄道車両IDから車両20がグリーン車両であると判定した場合には、グリーン車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離を算出する。第2の算出部37は、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの走行形態に応じて異なる単位データを用いて上記比較を行ってもよい。これによれば、各車両20の用途、又は、鉄道車両2の走行形態に応じて、適切に乗り心地レベルを判定することができる。
【0072】
加速度センサ23は、鉄道車両2の心皿の直上に配置されている。このため、加速度センサ23によって、鉄道車両2に生じる振動の正確性を向上することができる。
【0073】
通信部51は、比較部38において第2の算出部37によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上であると判定された場合に外部の車両基地70に通知を行う。このため、車両基地70との通信量を低減することができる。
【0074】
第2の算出部37は、鉄道車両2の上下方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離を算出する。上下方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、空気バネのパンク又は軸ダンパの故障が考えられる。したがって、第2の算出部37が上下方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離を算出することで、線路における軌道狂い、及び、空気バネのパンク又は軸ダンパの故障の発生を容易に検知することができる。
【0075】
なお、判定部39が上下方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると間欠的に判定した場合には、線路に、高低狂い、平面性狂い、及び水準狂いの少なくとも1つが発生している可能性が高い。判定部39が上下方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると連続的に判定した場合には、空気バネのパンク又は軸ダンパの故障が発生している可能性が高い。
【0076】
第2の算出部37は、鉄道車両2の左右方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離を算出する。左右方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、左右動ダンパ又はヨーダンパの故障が考えられる。したがって、第2の算出部37が左右方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離を算出することで、線路における軌道狂い、及び、左右動ダンパ又はヨーダンパの故障の発生を容易に検知することができる。
【0077】
なお、判定部39が左右方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると間欠的に判定した場合には、線路に、通り狂い、平面性狂い、及び水準狂いの少なくとも1つが発生している可能性が高い。判定部39が左右方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると連続的に判定した場合には、左右動ダンパ又はヨーダンパの故障が発生している可能性が高い。
【0078】
第2の算出部37は、鉄道車両2の前後方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離を算出する。前後方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると判定された場合、乗り心地が悪化した要因として、線路における軌道狂い、及び、連結器周りの異常、ヨーダンパ又は車体間ダンパの故障が考えられる。したがって、第2の算出部37が前後方向の検出信号データから算出された特性データに基づいてマハラノビスの距離を算出することで、線路における軌道狂い、及び、連結器周りの異常、ヨーダンパ又は車体間ダンパの故障の発生を容易に検知することができる。
【0079】
なお、判定部39が前後方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると間欠的に判定した場合には、線路に、高低狂い及び通り狂いの少なくとも1つが発生している可能性が高い。判定部39が前後方向の検出信号データに基づいて乗り心地が不良であると連続的に判定した場合には、連結器周りの異常、ヨーダンパ又は車体間ダンパの故障が発生している可能性が高い。
【0080】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0081】
例えば、状態演算部32と、単位空間データベース33とを中継ユニット25にも配置し、車両20の状態に異常があるか否かの判定に関する処理を演算ユニット24と中継ユニット25とで分担させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…状態監視装置、2…鉄道車両、23…加速度センサ、34,51…通信部、36…第1の算出部、37…第2の算出部、38…比較部、39…判定部。
図1
図2
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