(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
B61F 5/24 20060101AFI20220526BHJP
B61C 17/12 20060101ALI20220526BHJP
B61F 5/12 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
B61F5/24 Z
B61C17/12 Z
B61F5/12
(21)【出願番号】P 2018068571
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148013
【氏名又は名称】中山 浩光
(72)【発明者】
【氏名】大山 寛人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】河田 直樹
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-276601(JP,A)
【文献】特開2005-343294(JP,A)
【文献】特開2015-188272(JP,A)
【文献】特開2004-117253(JP,A)
【文献】特開昭59-183372(JP,A)
【文献】実開平05-066568(JP,U)
【文献】特開2015-120419(JP,A)
【文献】特開2018-017266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61F 5/24
B61C 17/12
B61F 5/12
B61G 11/12
B60G 17/015
F16F 15/02
G01M 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体と台車枠との間、及び、前記台車枠と車輪との間の少なくとも一方に設けられ、印加される電圧に応じて粘性が変化する粘性ダンパと、
前記粘性ダンパに印加する電圧を制御する制御手段と、
前記車両の走行形態及び前記車両の等級の少なくとも一方を示す車両種別を取得する取得手段と、を備え、
前記制御手段は、前記取得手段によって取得された前記車両種別に応じて前記粘性ダンパで異なる減衰力が発生するように、前記粘性ダンパに印加する電圧を制御する、鉄道車両。
【請求項2】
前記粘性ダンパは、磁気粘性流体を用いたダンパ又は電気粘性流体を用いたダンパである、請求項1に記載の鉄道車両。
【請求項3】
前記車体の重さを検出する重量検出手段を更に備え、
前記制御手段は、前記重量検出手段によって検出される前記車体の重さの増加量に基づいて、前記粘性ダンパに印加する電圧を制御する、請求項1又は2に記載の鉄道車両。
【請求項4】
前記取得手段は、前
記車両が走行する走行区間の種
別を取得
し、
前記制御手段は、前記取得手段によって取得された前記車両種別
及び前記走行区間の種別に応じて前記粘性ダンパで異なる減衰力が発生するように、前記粘性ダンパに印加する電圧を制御する、請求項1~3のいずれか一項に記載の鉄道車両。
【請求項5】
前記車両に設けられた加速度センサを更に備え、
前記制御手段は、前記車両に設けられた前記加速度センサからの検出信号データに基づいて、当該車両に設けられた前記粘性ダンパに印加する電圧を制御する、請求項1~4のいずれか一項に記載の鉄道車両。
【請求項6】
前記加速度センサは、前記車両の心皿の直上に配置されている、請求項5に記載の鉄道車両。
【請求項7】
前記粘性ダンパ及び前記加速度センサは、複数の前記車両において台車毎に設けられており、
前記制御手段は、前記複数の車両に設けられた前記加速度センサからの検出信号データに基づいて、各前記台車に設けられた前記粘性ダンパに印加する電圧を制御する、請求項5又は6に記載の鉄道車両。
【請求項8】
前記加速度センサからの検出信号データをフーリエ変換し、周波数毎の加速度に関する特性データを算出する第1の算出手段と、
前記第1の算出手段によって算出された前記特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する第2の算出手段と、
前記マハラノビスの距離を予め設定された閾値と比較する比較手段と、
前記比較手段における比較結果に応じて、前記車両の乗り心地レベルを判定する判定手段と、を備え、
前記制御手段は、前記判定手段によって判定された前記乗り心地レベルに基づいて、前記粘性ダンパに印加する電圧を制御する、請求項5~7のいずれか一項に記載の鉄道車両。
【請求項9】
前記単位データは、正常な鉄道車両が正常な線路を走行した際の特性データであり、異なる時間又は異なる走行区間で前記加速度センサから出力された複数の前記検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した周波数毎の加速度に関するデータを含む、請求項8に記載の鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の走行時の安全性などを確保するため、車体或いは走行装置にセンサを設置し、走行状態の異常の有無や台車部品などの劣化を監視する装置が開発されている(例えば、特許文献1)。例えば特許文献1に記載の装置は、鉄道車両に設置された加速度センサを備えており、加速度センサで検出される加速度の特定周波数帯の信号を所定時間毎に積分することで、得られた積分値と所定時間前の積分値との差に基づいて車両の状態を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置は、加速度センサによって鉄道車両に生じた振動を検出している。このように、加速度センサによって振動を検出することで、加速度センサからの検出信号データから各車両の乗り心地を判定する手法が考えられる。しかしながら、このような手法によって、鉄道車両に生じた振動に基づく乗り心地の悪化が検知できたとしても、悪化した乗り心地を改善するのは容易ではない。また、鉄道車両の乗り心地は、部品の経年劣化及び車体に乗車した乗客の状況など様々な原因によって刻々と変化する。また、鉄道車両の乗り心地の要求レベルは、車両の走行形態によっても異なってくる。
【0005】
本発明は、様々な状況に応じて所望の乗り心地を提供できる鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る鉄道車両は、車両の車体と台車枠との間、及び、台車枠と車輪との間の少なくとも一方に設けられ、印加される電圧に応じて粘性が変化する粘性ダンパと、粘性ダンパに印加する電圧を制御する制御手段と、を備える。
【0007】
この鉄道車両では、印加される電圧に応じて粘性が変化する粘性ダンパが設けられており、制御手段によって当該粘性ダンパに印加する電圧が制御される。このため、部品の経年劣化、乗客の増減、及び鉄道車両の走行形態の変更といった状況に応じて、ダンパ特性を制御することができる。したがって、この鉄道車両では、様々な状況に応じて所望の乗り心地を提供できる。
【0008】
粘性ダンパは、磁気粘性流体を用いたダンパ又は電気粘性流体を用いたダンパであってもよい。磁気粘性流体又は電気粘性流体を用いた粘性ダンパは、電界又は磁界が印加された場合に粒子鎖が形成されるという特有の性質を利用して減衰力を発生させる。このため、磁気粘性流体又は電気粘性流体を用いた粘性ダンパは、一般的なダンパに比べて寿命が長い。したがって、当該鉄道車両は、長期間に渡って所望の乗り心地を提供できる。
【0009】
車体の重さを検出する重量検出手段を更に備えていてもよく、制御手段は、重量検出手段によって検出される車体の重さの増加量に基づいて、粘性ダンパに印加する電圧を制御してもよい。車両の振動は車体の重さによって変化する。このため、例えば、乗客が多い場合と少ない場合とで、車両に生じる振動が異なるおそれがある。上記鉄道車両は、重量検出手段によって検出された検出結果によって粘性ダンパに印加する電圧を制御するため、車体の重さによらずに、所望の乗り心地を提供できる。
【0010】
車両の車両種別又は当該車両が走行する走行区間の種別の少なくとも1つを取得する取得手段を更に備えてもよく、制御手段は、車両種別又は走行区間の種別に応じて粘性ダンパで異なる減衰力が発生するように、粘性ダンパに印加する電圧を制御してもよい。この場合、上記鉄道車両は、車両種別又は走行区間の種別に応じて、粘性ダンパに適確な減衰力を発生させることができる。
【0011】
車両に設けられた加速度センサを更に備えてもよく、制御手段は、車両に設けられた加速度センサからの検出信号データに基づいて、当該車両に設けられた粘性ダンパに印加する電圧を制御してもよい。この場合、上記鉄道車両は、加速度センサによって検出された鉄道車両の振動に応じて粘性ダンパに適確な減衰力を発生させて、乗り心地を改善することができる。
【0012】
加速度センサは、車両の心皿の直上に配置されていてもよい。この場合、加速度センサによって、鉄道車両に生じる振動の正確性を向上することができる。
【0013】
粘性ダンパ及び加速度センサは、複数の車両において台車毎に設けられており、制御手段は、複数の車両に設けられた加速度センサからの検出信号データに基づいて、各台車に設けられた粘性ダンパに印加する電圧を制御してもよい。この場合、上記鉄道車両は、複数の車両の各々において、他の車両で生じる振動を考慮して所望の乗り心地を提供することができる。例えば、複数の車両の乗り心地レベルを均一にすることができる。
【0014】
加速度センサからの検出信号データをフーリエ変換し、周波数毎の加速度に関する特性データを算出する第1の算出手段と、第1の算出手段によって算出された特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する第2の算出手段と、マハラノビスの距離を予め設定された閾値と比較する比較手段と、比較手段における比較結果に応じて、車両の乗り心地レベルを判定する判定手段と、を更に備えてもよい。制御手段は、判定手段によって判定された乗り心地レベルに基づいて、粘性ダンパに印加する電圧を制御してもよい。鉄道車両の振動には、乗客が心地よいと感じる周波数と不快と感じる周波数とが含まれている。上記鉄道車両では、鉄道車両が走行している状態で、周波数毎の乗り心地に対する寄与度の違いを考慮した乗り心地レベルの判定が容易かつ適確に実行され得る。このため、上記鉄道車両は、部品の経年劣化などによって乗り心地レベルが悪化した場合にも、容易かつ適確に所望の乗り心地を確保できる。
【0015】
単位データは、正常な鉄道車両が正常な線路を走行した際の特性データであり、異なる時間又は異なる走行区間で加速度センサから出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した周波数毎の加速度に関するデータを含んでもよい。この場合、鉄道車両と線路との双方の劣化、及び、時間の違い又は走行区間の違いによる加速度センサの検出結果のばらつきを考慮して、乗り心地レベルを判定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、様々な状況に応じて所望の乗り心地を提供できる鉄道車両を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る鉄道車両の全体構成を説明するための図である。
【
図2】
図1に示した台車の周辺部分の構造を説明するための図である。
【
図3】
図1に示した鉄道車両の一部のブロック図である。
【
図4】
図1に示した鉄道車両の一部のブロック図である。
【
図5】加速度センサからの検出信号データの一例を示す図である。
【
図6】加速度センサからの検出信号データの一例を示す図である。
【
図7】周波数毎の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
【
図8】周波数毎の加速度に関する特性データの一例を示す図である。
【
図9】
図1に示した鉄道車両の一部のブロック図である。
【
図10】乗り心地レベルの判定の比較例を説明するための図である。
【
図11】乗り心地レベルの判定の比較例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0019】
まず、
図1を参照して、鉄道車両の物理的構成について説明する。
図1は、鉄道車両の全体構成を説明するための図である。鉄道車両1は、
図1に示されているように、複数の車両20によって構成されている。鉄道車両1は、車両20に設けられた各種機器によって、各車両20に加わる振動を検出し、乗り心地を制御する。鉄道車両1は、各車両20に、台車21と、加速度センサ23と、演算ユニット24と、中継ユニット25と、統括ユニット26とを有する。
【0020】
加速度センサ23は、各車両20の振動を検出する部分である。演算ユニット24は、主として車両20の乗り心地レベルを判定する部分である。ここで、「乗り心地レベル」とは、乗り心地の良し悪しを示す度合いである。中継ユニット25は、各演算ユニット24の判定結果を中継して、統括ユニット26に向けて送信する部分である。統括ユニット26は、各演算ユニット24から受信した判定結果の報知や記録を行う部分である。
【0021】
台車21は、各車両20に2つ配置されている。各台車21は、車両20の車体31に設けられており、台車枠32と4つの車輪33を有している。1つの台車枠32に、左右対称に2つずつ車輪33が設けられている。
【0022】
加速度センサ23は、
図1に示されているように、鉄道車両1の台車21の直上に配置されている。本実施形態では、加速度センサ23は、複数の車両20において台車21毎に設けられている。具体的には、加速度センサ23は、心皿の直上(車両20の床上、床中、又は床下における台車21の回転中心に対応する位置)に配置されている。加速度センサ23は、車両20の妻部27,28(車両20の長手方向の端部を構成する妻構体によって構成される部分)に配置されていてもよいし、妻近傍の側壁(例えば側構体)又は、妻近傍の天井(例えば屋根構体)に配置されていてもよい。
【0023】
演算ユニット24は、車両20の一方の妻部27に配置されている。演算ユニット24は、運転台などを有する乗務員室を備えた車両20の少なくとも1つ(例えば、先頭車両20及び後尾車両20)のみに設けられていてもよい。中継ユニット25は、例えば車両20の他方の妻部28に配置されている。統括ユニット26は、例えば鉄道車両1の先頭車両20及び後尾車両20にそれぞれ配置されている。統括ユニット26は、運転台などを有する乗務員室を備えた車両20の少なくとも1つのみに設けられていてもよい。演算ユニット24、中継ユニット25、及び統括ユニット26は、車内と車外のいずれに配置されてもよい。
【0024】
次に、
図2を参照して、台車21の周辺部分の構造について説明する。各台車21は、振動抑制機構35,36と、振動抑制機構35,36を制御する制御手段37とを有している。
【0025】
図2では、振動抑制機構35が車輪33と台車枠32との間に設けられており、振動抑制機構36が車体31と台車枠32との間に設けられている。振動抑制機構35は、1つの車輪33と台車枠32とを連結しており、車輪33から台車枠32に伝達される振動を抑制する。振動抑制機構36は、台車枠32と車体31とを連結しており、台車枠32から車体31に伝達される振動を抑制する。制御手段37は、車体31の床下に設けられており、振動抑制機構35,36と電気的に接続されている。制御手段37は、演算ユニット24又は中継ユニット25と共に、各車両20毎に妻部27,28に設けられていてもよいし、統括ユニット26と共に先頭車両20及び後尾車両20に設けられていてもよい。
【0026】
図2には、振動抑制機構35及び振動抑制機構36のモデルが示されている。振動抑制機構35は、1つのバネ41(軸バネ)と1つの粘性ダンパ42(軸ダンパ)とを有している。バネ41と粘性ダンパ42とは、互いに並列に構成されている。すなわち、バネ41及び粘性ダンパ42は、それぞれ車輪33と台車枠32とに接続されている。
【0027】
振動抑制機構36は、空気バネであり、3つのバネ43,44,45と1つの粘性ダンパ46とを有している。バネ43と粘性ダンパ46とは、互いに並列に構成されており、いずれもバネ44に直列に接続されている。バネ43と,粘性ダンパ46と,バネ44とは、バネ45に対して並列に構成されている。すなわち、バネ43及び粘性ダンパ46は、台車枠32及びバネ44に接続されている。バネ44は、バネ43、粘性ダンパ46、及び車体31に接続されている。バネ45は、台車枠32と車体31に接続されている。
【0028】
このように、振動抑制機構35,36は、バネと粘性ダンパとを直列又は並列に接続することで構成されている。これにより、振動抑制機構35,36は鉄道車両1に外力が加わった際に所望の減衰振動を行う。この結果、乗り心地を損なうことなく、車体31に生じる振動が抑制される。
【0029】
粘性ダンパ42,46は、いずれも電気粘性流体(ER流体)を用いた粘性ダンパ、所謂、ERダンパである。電気粘性流体は、電界が印加されると粒子鎖を形成し、粘性が増加する。ERダンパは、この電気粘性流体の作用によって、印加される電圧が増加するほど減衰力が増加し、印加される電圧が減少するほど減衰力が減少する。換言すれば、粘性ダンパ42,46は、印加される電圧に応じて粘性が変化する。本実施形態では、粘性ダンパ42及び粘性ダンパ46は、それぞれ制御手段37に電気的に接続されている。制御手段37は、粘性ダンパ42及び粘性ダンパ46に印加する電圧を制御する。
【0030】
粘性ダンパ42,46は、磁気粘性流体(MR流体)を用いた粘性ダンパ、所謂、MRダンパであってもよい。MR流体は、磁界が印加されると粘性が増加する。MRダンパも、ERダンパと同様に、印加される電圧が増加するほど減衰力が増加し、印加される電圧が減少するほど減衰力が減少する。
【0031】
本実施形態では、粘性ダンパ42,46は、複数の車両20において台車21毎に設けられている。粘性ダンパ42,46は、振動抑制機構35,36のいずれか一方に設けられていてもよい。すなわち、電気粘性流体又は磁気粘性流体を用いた粘性ダンパ42,46は、車体31と台車枠32との間、及び、台車枠32と車輪33との間の少なくとも一方に設けられていればよい。
【0032】
次に、
図3を参照して、加速度センサ23、演算ユニット24、及び中継ユニット25の機能的構成について説明する。
図3は、鉄道車両1の一部である加速度センサ23、演算ユニット24及び中継ユニット25を示している。
【0033】
加速度センサ23は、車両20の振動に応じて生ずる車両20の上下方向、左右方向及び前後方向の加速度をそれぞれ検出する。加速度センサ23で検出された加速度は、逐次、演算ユニット24へ送信される。
【0034】
演算ユニット24は、
図3に示されているように、受信部51と、状態演算部52と、単位空間データベース53と、通信部54とを有している。受信部51は、同一車両20に設けられた少なくとも1つの加速度センサ23からの検出信号データを受信する。受信部51は、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0035】
状態演算部52は、受信部51で受信された加速度センサ23からの検出信号データに基づいて、車両20の状態を判定する。本実施形態では、状態演算部52は、MTS(Mahalanobis-Taguchi System)によって、車両20の乗り心地レベルを判定する。具体的には、状態演算部52は、単位空間データベース53を参照してマハラノビスの距離を算出し、算出されたマハラノビスの距離と閾値とを比較することで車両20の乗り心地レベルを判定する。状態演算部52は、乗り心地レベルの判定結果を通信部54へ出力する。
【0036】
単位空間データベース53は、MTSに用いられる予め取得された単位データ(単位空間データ)を格納している。単位データは、正常な鉄道車両1が正常な線路を走行した際の特性データである。単位データは、加速度センサ23から出力されたn個の検出信号データのそれぞれを高速フーリエ変換したものであり、周波数毎の加速度に関するn個のデータである。換言すれば、単位データは、加速度に関する情報を周波数毎に示すデータである。
【0037】
単位データは、例えば、m個の鉄道車両IDと単位データとが路線ID毎及び時刻毎に予め格納されている。ここで、鉄道車両ID及び路線IDは、それぞれ、鉄道車両の車両種別と路線の種別を示す。物理的に同一の鉄道車両1が異なる時間に別の用途で使われる場合があるため、このような場合を考慮して、異なる鉄道車両IDが物理的に同一の鉄道車両1に付されてもよい。例えば、朝は特急快速として利用されていた鉄道車両1が昼は普通列車として利用される場合や乗客を乗せていた鉄道車両1が回送列車として走行する場合がある。鉄道車両IDは、回送列車、普通列車、快速列車、及び特急列車などの鉄道車両1の走行形態を示すものであってもよいし、普通車及びグリーン車などの各車両20の等級を示すものであってもよい。
【0038】
本実施形態では、単位データは、周波数毎の加速度を示すデータ、すなわち、加速度の周波数特性(加速度の周波数スペクトル)を示すデータである。単位データは、加速度に関する情報を示すデータであればこれに限定されない。単位データは、例えば、周波数毎のPSD(Power Spectral Density、パワースペクトル密度関数)を示すデータ、すなわち、PSDの周波数特性(PSDの周波数スペクトル)であってもよい。
【0039】
通信部54は、隣接する中継ユニット25との間で、状態演算部52で判定された車両20の状態(乗り心地レベルの判定結果)などの情報について送受信を行う部分である。通信部54は、隣接する車両20及び同一車両20に配置されている中継ユニット25と、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。通信部54は、隣接する中継ユニット25を介して統括ユニット26から鉄道車両ID及び路線IDの少なくとも1つを受信(取得)した場合には、受信した鉄道車両ID及び路線IDの少なくとも1つを状態演算部52に出力する。通信部54で受信される路線IDは、鉄道車両1が現在走行している路線のIDであってもよいし、今後走行する予定の路線のIDであってもよい。
【0040】
中継ユニット25は、機能的な構成要素として、例えば通信部61を有している。通信部61は、隣接する演算ユニット24、又は統括ユニット26との間の送受信を中継する部分である。通信部61は、隣接する車両20及び同一車両20に配置されている演算ユニット24又は統括ユニット26と、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0041】
次に、
図4を参照して、統括ユニット26の機能的構成について詳細に説明する。
図4は、鉄道車両1の一部である統括ユニット26を示している。
【0042】
統括ユニット26は、通信部71と、報知部72と、判定結果格納部73とを有している。通信部71は、鉄道車両1の外部に位置する車両基地3及び隣接する中継ユニット25との間で情報の送受信(通信)を行う部分である。通信部71は、車両20に配置された中継ユニット25に対して、例えばBluetoothなどの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。
【0043】
通信部71は、例えば判定結果受信部74と、ID受信部75とを含んでいる。判定結果受信部74は、隣接する中継ユニット25から受け取った判定結果を報知部72と判定結果格納部73とにそれぞれ出力する。また、ID受信部75は、鉄道車両ID及び路線IDの少なくとも1つを車両基地3から受信し、中継ユニット25を介して各演算ユニット24にそれぞれ送信する。鉄道車両ID及び路線IDの少なくとも1つを送信する車両基地3は、例えば駅構内や各電車区内に位置している。車両基地3から送信される路線IDは、現在走行している路線のIDであってもよいし、今後走行する予定の路線のIDであってもよい。
【0044】
報知部72は、通信部71から受け取った判定結果を報知する部分である。報知部72は、例えばディスプレイを備え、鉄道車両1の走行時に車両20毎の判定結果を表示する。判定結果格納部73は、判定結果を格納する部分である。判定結果格納部73には、例えば通信部71が判定結果を受け取った時刻と判定結果とが関連付けられて格納される。
【0045】
次に、演算ユニット24における鉄道車両1の状態を判定する手法について詳細に説明する。状態演算部52は、
図3に示されているように、第1の算出部56(第1の算出手段)と、第2の算出部57(第2の算出手段)と、比較部58(比較手段)と、判定部59(判定手段)とを有する。
【0046】
第1の算出部56は、受信部51で受信された加速度センサ23からの検出信号データを高速フーリエ変換することで、周波数毎の加速度に関する特性データを算出する。本実施形態では、第1の算出部56は、加速度センサ23によって異なる時間に(異なる走行区間で)加速度センサ23から出力された複数の検出信号データをそれぞれ高速フーリエ変換した後に平均することで上記特性データを算出する。
【0047】
例えば、第1の算出部56は、8つの異なる走行区間毎に加速度センサ23から8つの検出信号データを取得し、8つの検出信号データをそれぞれ高速フーリエ変換する。第1の算出部56は、高速フーリエ変換された8つのデータを平均することで特性データを算出する。第1の算出部56は、加速度センサから出力された、上下方向、左右方向、及び前後方向の検出信号データから、それぞれ上記特性データを算出する。
【0048】
本実施形態では、第1の算出部56は、周波数毎の加速度を示す特性データ、すなわち、加速度の周波数特性を算出する。第1の算出部56によって算出される特性データは、加速度に関する情報を示すデータであればこれに限定されない。例えば、第1の算出部56は、単位空間データベース53に格納されている単位データが周波数毎のPSDのデータである場合に、周波数毎のPSDを示す特性データ、すなわち、PSDの周波数特性を算出してもよい。
【0049】
図5及び
図6は、加速度センサ23からの検出信号データの一例として、上下方向の加速度の時間特性を示している。縦軸は加速度を示しており、横軸は時間を示している。
図7及び
図8は、第1の算出部56によって算出された特性データの一例として、上下方向の加速度に関する特性データを示している。縦軸は加速度を対数で示しており、横軸は周波数を対数で示している。
図5及び
図7は、乗り心地が正常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
図6及び
図8は、乗り心地が異常な状態の検出信号データ、及び当該検出信号データに基づいて算出された特性データを示している。
【0050】
第2の算出部57は、第1の算出部56によって算出された特性データと単位空間データベース53に格納されている単位データとの間のマハラノビスの距離を算出する。本実施形態では、第1の算出部56が、上下方向、左右方向、及び前後方向の検出信号データからそれぞれ特性データを算出している。このため、第2の算出部57は、上下方向、左右方向、及び前後方向の特性データに基づいて、それぞれマハラノビスの距離を算出する。
【0051】
本実施形態では、第2の算出部57は、演算ユニット24が設けられている鉄道車両1の鉄道車両ID、及び当該鉄道車両1が走行する路線IDの少なくとも1つを取得し、これらに基づいて、単位空間データベース53から、マハラノビスの距離を算出するための単位データを抽出する。第2の算出部57は、通信部54から鉄道車両1の鉄道車両ID及び当該鉄道車両1が走行する路線IDの少なくとも1つを取得する。この場合、第2の算出部57は、抽出された単位データと、第1の算出部56によって算出された特性データとを用いてマハラノビスの距離を算出する。すなわち、第2の算出部57は、通信部54で取得された情報に応じた単位データに基づいてマハラノビスの距離を算出する。第2の算出部57によって抽出される単位データは、ユーザによって設定されていてもよい。マハラノビスの距離は、各車両20に設けられた演算ユニット24の第2の算出部57によって車両20毎に算出されてもよいし、1つの第2の算出部57によって、先頭車両20から後尾車両20までの全ての車両20についてまとめて算出されてもよい。
【0052】
第2の算出部57は、例えば、鉄道車両IDから普通車両かグリーン車両かを判定する。第2の算出部57は、普通車両であると判定した場合には、普通車両に対応する単位データを単位空間データベース53から抽出し、普通車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離を算出する。第2の算出部57は、グリーン車両であると判定した場合には、グリーン車両に対応する単位データを単位空間データベース53から抽出し、グリーン車両に対応する単位データを用いてマハラノビスの距離を算出する。第2の算出部57は、普通列車、快速列車、及び特急列車などの走行形態に応じて、異なる単位データを抽出して、走行形態に応じたマハラノビスの距離を算出してもよい。
【0053】
比較部58は、第2の算出部57によって算出されたマハラノビスの距離を、予め設定された閾値と比較する。具体的には、比較部58は、第2の算出部57によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上であるか否か判定する。本実施形態では、比較部58は、上下方向、左右方向、及び前後方向のマハラノビスの距離について、それぞれ比較を行う。
【0054】
本実施形態では、比較部58が用いる閾値は「4」であり、比較部58は、算出されたマハラノビスの距離が「4」以上であるか否かを判定する。判定部59は、比較部58における比較結果に応じて車両20の乗り心地レベルを判定する。本実施形態では、比較部58は、演算ユニット24が設けられている鉄道車両1の鉄道車両ID及び当該鉄道車両1が走行する路線IDの少なくとも1つを取得し、これらに基づいて上記閾値を決定する。比較部58は、通信部54から鉄道車両1の鉄道車両ID及び当該鉄道車両1の路線IDの少なくとも1つを取得する。すなわち、比較部58は、通信部54で取得された情報に応じて閾値を決定する。上記閾値は、ユーザによって設定されてもよい。
【0055】
判定部59は、比較部58における比較結果に応じて、鉄道車両1の乗り心地レベルを判定する。本実施形態では、判定部59は、上下方向、左右方向、及び前後方向についてそれぞれ乗り心地レベルを判定する。判定部59は、例えば、比較部58においてマハラノビスの距離が「4」以上であると判定された場合に、乗り心地レベルが不良であると判定する。例えば、
図7に示した特性データでは、第2の算出部57によって、「4」未満のマハラノビスの距離が導出される。この場合、判定部59は、乗り心地レベルは良好であると判定する。
図8に示した特性データでは、第2の算出部57によって、「4」以上のマハラノビスの距離が導出される。この場合、判定部59は、乗り心地レベルが不良であると判定する。鉄道車両1の乗り心地レベルの判定は、各車両20に設けられた演算ユニット24の判定部59によって車両20毎に算出されてもよいし、1つの判定部59によって、先頭車両20から後尾車両20までの全ての車両20についてまとめて判定されてもよい。
【0056】
通信部54は、判定部59で乗り心地レベルが不良と判定された場合(比較部58が第2の算出部57によって算出されたマハラノビスの距離が閾値以上であると判断した場合)に、その判定結果と第1の算出部56で算出された特性データとを、隣接する中継ユニット25を介して統括ユニット26に送信する。この場合、統括ユニット26の通信部71は、鉄道車両1の外部に位置する車両基地3に判定部59で乗り心地レベルが不良であることを示すデータを送信(通知)する。通信部54は、直接、統括ユニット26との間、又は、車両基地3との間で情報の送受信を行ってもよい。例えば、通信部54は、判定部59で乗り心地レベルが不良と判定された場合に、その判定結果と第1の算出部56で算出された特性データとを、直接、統括ユニット26又は車両基地3に送信してもよい。
【0057】
次に、
図9を参照して、振動抑制機構35,36を制御する制御手段37について詳細に説明する。制御手段37は、機能的な構成要素として、例えば、通信部81(取得手段)と、重量検出部82(重量検出手段)と、電圧演算部83とを有している。
【0058】
通信部81は、演算ユニット24の通信部54との間で情報の送受信を行う部分である。通信部81は、同一車両20に配置されている演算ユニット24と、例えばBluetooth(登録商標)などの近距離無線通信によって互いに情報通信可能に接続されている。当該接続は、無線に限らず、有線であってもよい。通信部81は、直接、統括ユニット26又は車両基地3との間で情報の送受信を行ってもよい。
【0059】
通信部81は、演算ユニット24から各種情報、例えば、鉄道車両ID、路線ID、及び、判定部59で判定された乗り心地レベルの判定結果などを受信(取得)する。通信部81は、受信した各種情報を電圧演算部83に出力する。
【0060】
重量検出部82は、車体31の重さを検出する部分である。例えば、重量検出部82は、バネ41,43,44,45及び粘性ダンパ42,46が車体31から受けている力を振動抑制機構35,36から取得して、車体31の重さを算出する。重量検出部82は、検出された車体31の重さを電圧演算部83に出力する。
【0061】
電圧演算部83は、重量検出部82で検出された車体31の重さの増加量、通信部81から取得された車両種別(鉄道車両ID)、走行区間の種別(路線ID)、及び乗り心地レベルの判定結果に基づいて、粘性ダンパ42,46の各々に印加する電圧を演算する。制御手段37は、電圧演算部83で演算された電圧を粘性ダンパ42,46の各々に印加する。電圧演算部83は、車体31の重さの増加量、車両種別、走行区間の種別、及び、乗り心地レベルの判定結果などの情報のうちいずれか1つから粘性ダンパ42,46に印加する電圧を演算してもよいし、それらの複数の情報を考慮して粘性ダンパ42,46に印加する電圧を演算してもよい。
【0062】
電圧演算部83は、重量検出部82から車体31の重さを取得すると、車体31の重さの増加量を算出する。例えば、電圧演算部83は、取得された車体31の重さと予め設定された車体31の基準重量との差分を算出することで、車体31の重さの増加量を算出する。電圧演算部83は、車体31の重さの増加量に応じて粘性ダンパ42,46で異なる減衰力が発生するように、粘性ダンパ42,46の各々に印加する電圧を演算する。例えば、電圧演算部83は、車体31の重さが増加したと判定した場合、粘性ダンパ42,46による減衰力が増加するように、粘性ダンパ42,46に印加する電圧を演算する。
【0063】
電圧演算部83は、通信部81から車両種別(鉄道車両ID)及び走行区間の種別(路線ID)を取得すると、取得された車両種別又は走行区間の種別に応じて粘性ダンパ42,46で異なる減衰力が発生するように、粘性ダンパ42,46の各々に印加する電圧を演算する。例えば、電圧演算部83は、鉄道車両IDから回送列車か乗客が乗車する列車か否かを判定する。電圧演算部83は、乗客が乗車する列車であると判定された場合には、回送列車であると判定された場合よりも粘性ダンパ42,46による減衰力が増加するように、粘性ダンパ42,46に印加する電圧を演算する。電圧演算部83は、鉄道車両IDに基づいて、各車両20毎の粘性ダンパ42,46で異なる減衰力が生じるように、粘性ダンパ42,46に印加する電圧を演算してもよい。
【0064】
電圧演算部83は、通信部81から乗り心地レベルの判定結果を取得すると、取得された乗り心地レベルに応じて粘性ダンパ42,46で異なる減衰力が発生するように、粘性ダンパ42,46の各々に印加する電圧を演算する。すなわち、電圧演算部83は、車両20に設けられた加速度センサ23からの検出信号データに基づいて、粘性ダンパ42,46に印加する電圧を演算する。例えば、電圧演算部83は、複数の車両20に設けられた加速度センサ23からの検出信号データから判定された各車両20の乗り心地レベルに基づいて、当該複数の車両20の乗り心地レベルが均一になるように、各台車21に設けられた粘性ダンパ42,46に印加する電圧を演算する。
【0065】
次に、鉄道車両1の作用効果について説明する。鉄道車両1では、制御手段37が電圧演算部83で演算された電圧を粘性ダンパ42,46に印加する。粘性ダンパ42,46は、印加される電圧に応じて粘性が変化する。このため、鉄道車両1は、乗客の増減、及び鉄道車両の走行形態の変更といった状況に応じて、ダンパ特性を制御することができる。例えば、部品が経年劣化していること又は乗客が少ないことなどが判定された場合、車体31が安定せずに車両20の振動が増加するおそれがある。この場合、制御手段37は、粘性ダンパ42,46による減衰力が増加するように、粘性ダンパ42,46に印加する電圧を制御することができる。したがって、鉄道車両1では、様々な状況に応じて所望の乗り心地を提供できる。
【0066】
粘性ダンパ42,46は、磁気粘性流体を用いたダンパ又は電気粘性流体を用いたダンパである。磁気粘性流体又は電気粘性流体を用いた粘性ダンパは、電界又は磁界が印加された場合に粒子鎖が形成されるという特有の性質を利用して減衰力を発生させる。このため、磁気粘性流体又は電気粘性流体を用いた粘性ダンパは、一般的なダンパに比べて寿命が長い。したがって、当該鉄道車両1は、長期間に渡って所望の乗り心地を提供できる。
【0067】
車体31の重さを検出する重量検出部82を備えている。制御手段37は、重量検出部82によって検出される車体31の重さの増加量に基づいて、粘性ダンパ42,46に印加する電圧を制御する。車両20の振動は車体の重さによって変化する。このため、例えば、乗客が多い場合と少ない場合とで、車両20に生じる振動が異なるおそれがある。鉄道車両1は、重量検出部82によって検出された検出結果によって粘性ダンパ42,46に印加する電圧を制御するため、車体31の重さによらずに、所望の乗り心地を提供できる。
【0068】
車両20の車両種別又は当該車両20が走行する走行区間の種別の少なくとも1つを取得する通信部81を備えている。制御手段37は、車両種別又は走行区間の種別に応じて粘性ダンパ42,46で異なる減衰力が発生するように、粘性ダンパ42,46に印加する電圧を制御する。この場合、上記鉄道車両1は、車両種別又は走行区間の種別に応じて、粘性ダンパ42,46に適確な減衰力を発生させることができる。例えば、回送列車であると判定された場合よりも乗客が乗車する車両であると判定された場合の方が粘性ダンパ42,46による減衰力が増加するように、粘性ダンパ42,46に印加する電圧を制御することができる。
【0069】
車両20に設けられた加速度センサ23を備えている。制御手段37は、車両20に設けられた加速度センサ23からの検出信号データに基づいて、当該車両20に設けられた粘性ダンパ42,46に印加する電圧を制御する。このため、鉄道車両1は、加速度センサ23によって検出された鉄道車両1の振動に応じて粘性ダンパ42,46に適確な減衰力を発生させて、乗り心地を改善することができる。
【0070】
加速度センサ23は、車両20の心皿の直上に配置されている。このため、加速度センサ23によって、鉄道車両1に生じる振動の正確性を向上することができる。
【0071】
粘性ダンパ42,46及び加速度センサ23は、複数の車両20に設けられており、制御手段37は、複数の車両20に設けられた加速度センサ23からの検出信号データに基づいて、各車両20に設けられた粘性ダンパ42,46に印加する電圧を制御する。このため、鉄道車両1は、複数の車両20の各々において、他の車両20で生じる振動を考慮して所望の乗り心地を提供することができる。例えば、複数の車両20の乗り心地レベルを均一にすることができる。
【0072】
鉄道車両の振動には、乗客が心地よいと感じる周波数と不快と感じる周波数とが含まれている。すなわち、周波数によって乗り心地に対する寄与度が異なる。このため、例えば、
図10及び
図11で示されているように、鉄道車両に生じる振動の周波数成分の違いを考慮した乗り心地の基準線と特性データとを比較して、乗り心地レベルを判定することが考えられる。
図10は、乗り心地の基準線(a),(b),(c),(d)と乗り心地が正常な状態の特性データ(e)とを示している。
図11は、乗り心地の基準線(a),(b),(c),(d)と乗り心地が異常な状態の特性データ(f)とを示している。基準線(a),(b),(c),(d)は、(a),(b),(c),(d)の順で、より良い乗り心地に対応している。例えば、基準線(a)は普通車両の乗り心地の基準を示す基準線であり、基準線(b)はグリーン車両の乗り心地の基準を示す基準線である。
【0073】
特性データが上述した基準線を上回るほど、当該特性データが得られた車両20の乗り心地が悪いことを示している。例えば、
図10において、特性データ(e)は、乗り心地が正常な状態(乗り心地が良好な状態)の特性データであるため、基準線(a),(b),(c),(d)のいずれよりも下に位置している。一方、
図11において、特性データ(f)の一部が(b)及び(c)の基準線よりも上に位置している。このため、特性データ(f)が取得された鉄道車両1は、特性データ(e)が取得された鉄道車両1よりも乗り心地が悪いことが分かる。しかしながら、この手法では、特性データがどの位置でどの程度だけ基準線を上回った場合に乗り心地が不良と判定するのが適切かを判断し難い。
【0074】
本実施形態に係る鉄道車両1では、第1の算出部56によって算出された周波数毎の加速度に関する特性データと予め取得された単位データとの間のマハラノビスの距離が算出される。算出されたマハラノビスの距離は、所望の周波数範囲について単位データとの周波数毎の違いを考慮した単一のデータである。鉄道車両1では、このようにして算出されたマハラノビス距離と閾値とが比較されることで鉄道車両の乗り心地レベルが判定されている。このように、鉄道車両1では、マハラノビスの距離を用いて判定が行われることにより、鉄道車両1が走行している状態で、周波数毎の乗り心地に対する寄与度の違いを考慮した乗り心地レベルの判定を容易かつ適確に実行できる。
【0075】
制御手段37は、判定された乗り心地レベルに基づいて、粘性ダンパ42,46に印加する電圧を制御する。このため、部品の経年劣化などによって乗り心地レベルが悪化した場合にも、容易かつ適確に所望の乗り心地を確保できる。
【0076】
第1の算出部56は、異なる時間に加速度センサ23から出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した後に平均することで、特性データを算出する。このため、加速度センサ23による誤検出の影響を低減することができる。
【0077】
単位データは、正常な鉄道車両1が正常な線路を走行した際の特性データであり、異なる時間又は異なる走行区間で加速度センサ23から出力された複数の検出信号データのそれぞれをフーリエ変換した周波数毎の加速度に関するデータを含んでいる。このため、鉄道車両1と線路との双方の劣化、及び、時間の違い又は走行区間の違いによる加速度センサ23の検出結果のばらつきを考慮して、乗り心地レベルを判定することができる。
【0078】
以上、本発明の好適な実施形態について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0079】
例えば、状態演算部52と、単位空間データベース53とを中継ユニット25にも配置し、車両20の状態に異常があるか否かの判定に関する処理を演算ユニット24と中継ユニット25とで分担させるようにしてもよい。
【0080】
本実施形態では、鉄道車両1に設けられた各種機器によって乗り心地レベルを判定したが、鉄道車両1の外部、例えば車両基地3において乗り心地レベルの判定を行ってもよい。この場合、各車両20に設けられた加速度センサ23からの検出信号データが鉄道車両1の外部へ送信される。
【0081】
本実施形態では、電圧演算部83は、ユーザが入力した情報に基づいて、粘性ダンパ42,46に印加する電圧を演算してもよい。例えば、電圧演算部83は、通信部81から取得された車両種別(鉄道車両ID)及び走行区間の種別(路線ID)を取得したが、ユーザが電圧演算部83に、直接、車両種別又は走行区間の種別を入力してもよい。
【符号の説明】
【0082】
1…鉄道車両、20…車両、23…加速度センサ、31…車体、32…台車枠、33…車輪、37…制御手段、42,46…粘性ダンパ、56…第1の算出部、57…第2の算出部、58…比較部、59…判定部、81…通信部、82…重量検出部。