IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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<図1>
  • -中間軸受装置 図1
  • -中間軸受装置 図2
  • -中間軸受装置 図3
  • -中間軸受装置 図4
  • -中間軸受装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】中間軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20220526BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20220526BHJP
   F16J 15/447 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/06
F16J15/447
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018127600
(22)【出願日】2018-07-04
(65)【公開番号】P2020008042
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 隆
(72)【発明者】
【氏名】近藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】井筒 智善
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-161020(JP,A)
【文献】実開昭60-014321(JP,U)
【文献】特開平10-230752(JP,A)
【文献】特表2015-508879(JP,A)
【文献】特開2006-188175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/30-33/66
F16C 33/72-33/82
F16C 19/00-19/56
F16J 15/447
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸(S)に装着される内輪(2)と、ハウジング(20)に固定される外輪(3)と、前記内輪(2)と前記外輪(3)との間に配置されるボール(4)とを有する玉軸受(1)と、
前記車軸(S)に取り付けられ前記ハウジング(20)との間にラビリンス隙間(25)を形成して前記玉軸受(1)の内部への異物の侵入を防止するスリンガ(6)と、
を備え、
前記ハウジング(20)は、前記ラビリンス隙間(25)の外径側縁(26)よりも径方向外側に位置する異物滞留スペース(21)を備え、
前記異物滞留スペース(21)は、前記ハウジング(20)に設けられ、前記ラビリンス隙間(25)の外径側縁(26)から径方向外側へ伸びる側壁部(22)と、前記側壁部(22)の外径側端部から径方向外側へ向かうにつれて軸方向外側へ傾斜するテーパ部(23)によって形成されており、
前記スリンガ(6)は、前記車軸(S)の外周に取り付けられる円筒状の基部(6a)と、前記基部(6a)の前記玉軸受(1)側の端部から径方向外側へ伸びる立上り部(6b)を備え、前記側壁部(22)は、前記立上り部(6b)の軸方向外側の側面(6d)と面一である中間軸受装置。
【請求項2】
前記ラビリンス隙間(25)の外径側縁(26)は、前記ハウジング(20)の内周に設けた突条(7)の内面である請求項1に記載の中間軸受装置。
【請求項3】
前記異物滞留スペース(21)は、前記ハウジング(20)に設けられ、前記ラビリンス隙間(25)の外径側縁(26)から径方向外側へ向かうにつれて軸方向外側へ傾斜するテーパ部(23)によって形成されている請求項1又は2に記載の中間軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の回転する車軸を車体に支持するための中間軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エンジンを搭載する自動車において、エンジンの駆動力を各車輪へと伝達するために、各種の駆動軸が配置される。これらの駆動軸は、その設置部位により、例えば、プロペラシャフト又はドライブシャフト等の種別に大別される。このうち、特に、プロペラシャフトは、フロントエンジン・リア駆動車(FR車)又は、四輪駆動車(4WD車)において使用される。
【0003】
プロペラシャフトは、エンジンに接続された変速機から、左右の車輪間に配置されたデファレンシャル等の終減速機へとエンジンの駆動力を伝達する回転軸である。また、ドライブシャフトは、変速機又は終減速機から車輪へと駆動力を伝達する回転軸である。ここで、自動車の走行に伴って、変速機と終減速機との相対位置や、変速機又は終減速機と車輪との相対位置が変化する。この相対位置の変化により、変速機の出力軸とプロペラシャフトとの接続部や、プロペラシャフトと終減速機の入力軸との接続部、あるいは、変速機又は終減速機の出力軸とドライブシャフトとの接続部、ドライブシャフトと車輪との接続部等における軸交差角が変化する。このため、これらの接続部に、接続される部材同士の軸交差角が変化しても常に回転を伝達することができる等速ジョイントと、接続される部材同士の軸方向への伸縮を許容するスプライン結合部等を配置している。
【0004】
一般に、プロペラシャフト又はドライブシャフト等の車軸は、中間軸受装置によって車体に対して回転自在に支持されている。例えば、図5に示すように、中間軸受装置10は、車体側に固定されるハウジング20と、ハウジング20と車軸Sとの間に配置される玉軸受1とを備えている。
【0005】
ここで、玉軸受1として、軸受の内部へ通じる軸方向端部の開口部に二重のシール構造を設けることにより、周辺に泥水が飛散するような過酷な環境下でも、玉軸受1のシール性を十分に確保できるようにしたものがある(特許文献1参照)。また、さらなる泥水の浸入防止対策として、例えば、図5に示すように、玉軸受1の軸方向端部に、シール9とスリンガ(じゃま板)6を設置した中間軸受装置10もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開平2-93571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図5の中間軸受装置10では、スリンガ6は車軸Sに固定され、スリンガ6の外径側端部とハウジング20との間に、ラビリンスシール構造を構成するラビリンス隙間25が設定されている。このラビリンスシール構造によって、軸受の内部への泥水の浸入が防止されている。
【0008】
しかし、ラビリンス隙間25が小さいと、泥水がラビリンス隙間25周辺に保持されることにより、玉軸受1の内部への泥水の浸入を助長させる場合がある。また、逆に、ラビリンス隙間25が大きいと、シール効果が減少するという問題があるので、隙間を拡大するには限界がある。このため、ラビリンス隙間25周辺には、泥水が保持されないようにすることが望ましい。
【0009】
そこで、この発明は、車軸を車体に支持するための中間軸受装置において、周辺に異物が保持されるのを防止し、軸受の内部への泥水等の異物の侵入を更に防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明は、車軸に装着される内輪と、ハウジングに固定される外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置されるボールとを有する玉軸受と、前記車軸に取り付けられ前記ハウジングとの間にラビリンス隙間を形成して前記玉軸受の内部への異物の侵入を防止するスリンガと、を備え、前記ハウジングは、前記ラビリンス隙間の外径側縁よりも径方向外側に位置する異物滞留スペースを備える中間軸受装置を採用した。
【0011】
ここで、前記ラビリンス隙間の外径側縁は、前記ハウジングの内周に設けた突条の内面である構成を採用することができる。
【0012】
これらの各態様において、前記異物滞留スペースは、前記ハウジングに設けられ、前記ラビリンス隙間の外径側縁から径方向外側へ向かうにつれて軸方向外側へ傾斜するテーパ部によって形成されている構成を採用することができる。
【0013】
また、前記異物滞留スペースは、前記ハウジングに設けられ、前記ラビリンス隙間の外径側縁から径方向外側へ伸びる側壁部と、前記側壁部の外径側端部から径方向外側へ向かうにつれて軸方向外側へ傾斜するテーパ部によって形成されている構成を採用することができる。
【0014】
このとき、前記側壁部は、前記スリンガの軸方向外側の側面と面一である構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、車軸を車体に支持するための中間軸受装置において、周辺に泥水等の異物が保持されるのを防止し、軸受の内部への泥水等の異物の侵入を更に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明に係る中間軸受装置の使用例を示す縦断面図
図2図1の側面図
図3図1の要部拡大図
図4】中間軸受装置によって車軸を支持した車両の全体斜視図
図5】従来の中間軸受装置の使用例を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態は、車軸Sを回転自在に支持する玉軸受1を備えた中間軸受装置10である。この実施形態では、中間軸受装置10が支持する車軸Sを、自動車のプロペラシャフト33及びドライブシャフトとしている。
【0018】
プロペラシャフト33は、図4に示すように、自動車のエンジン30に接続された変速機31から、左右の後輪37間に配置されたデファレンシャル32へと、エンジン30の駆動力を伝達する等速ジョイント軸である。このプロペラシャフト33を、振動等を許容しつつ、自動車の車体35側に回転自在に支持する手段として中間軸受装置10が用いられている。中間軸受装置10は、プロペラシャフト33の軸方向中央に設けられる場合もあるし、プロペラシャフト33の軸方向端部に近い部分に設けられる場合もある。
【0019】
ドライブシャフトには、リアドライブシャフト34aとフロントドライブシャフト34b、及び、フロントドライブシャフト34bに接続して用いられる中間ドライブシャフト34c等がある。ドライブシャフトは、変速機31又はデファレンシャル32から車輪37、39へ駆動力を伝達する等速ジョイント軸である。中間軸受装置10は、フロントドライブシャフト34bに連結される中間ドライブシャフト34cを車体35に回転自在に支持している。
【0020】
この実施形態では、中間軸受装置10によって支持する車軸Sをプロペラシャフト33、及び、フロントドライブシャフト34bに接続される中間ドライブシャフト34cとしているが、中間軸受装置10が支持する車軸Sは、例えば、フロントドライブシャフト34bやリアドライブシャフト34a、あるいは、それ以外の回転軸であってもよい。
【0021】
上記のように、変速機31又はデファレンシャル32の出力軸と車軸Sとの接続部や、車軸Sとデファレンシャル32の入力軸との接続部、あるいは、車軸Sと車輪37、39との接続部には、その接続部で接続される部材同士の軸交差角が変化しても常に回転を伝達することができる固定型等速ジョイント、摺動型等速ジョイント等の各種の等速ジョイントや、接続される部材同士の軸方向への伸縮を許容するスプライン結合部等が配置されている。このため、車軸Sは、中間軸受装置10によって車体35に対して回転自在に支持されつつ、自動車の走行等に伴って、車軸Sと車体35とは随時相対移動を繰り返している状態である。
【0022】
中間軸受装置10が備える玉軸受1は、図1及び図2に示すように、車軸Sに装着される内輪2と、車体35側に設けられるハウジング20に固定される外輪3と、内輪2と外輪3との間に配置される複数のボール4と、そのボール4を保持する保持器5を備えたものである。また、玉軸受1は、内輪2と外輪3との間の開口部を閉じるシール9を、軸方向両端にそれぞれ備えている。この実施形態の玉軸受1は深溝玉軸受であり、等速ジョイント軸の車体35への支持部に用いられるCVJ(Constant Velocity Universal Joints)サポート軸受である。
【0023】
玉軸受1の内輪2は、その外周面に内輪軌道面2aを有し、外輪3はその内周面に内輪軌道面2aに対向する外輪軌道面3aを有している。また、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間にボール4が配置される。
【0024】
外輪3は、車体35のフレームに支持されるハウジング20の内径面に圧入されて、そのハウジング20に対して相対回転不能に固定されている。内輪2は、車軸Sの外周に圧入されて、その車軸Sに対して相対回転不能に固定されている。
【0025】
内輪2と外輪3との間には潤滑剤としてグリースが封入され、そのグリースは、軸方向両側のシール9によって玉軸受1の内部に封止されている。また、玉軸受1の軸方向両側(シール9の軸方向外側)には、一対のスリンガ6が設けられている。
【0026】
スリンガ6は略L字状の部材であり、車軸Sの外周に取り付けられる円筒状の基部6aと、その基部6aのうち玉軸受1側の端部から径方向外側へ伸びる立上り部6bとを備える。この実施形態では、基部6aは車軸Sの外周に圧入されているが、スリンガ6と車軸Sとが周方向及び軸方向へ相対移動不能とするものであれば、他の固定構造を採用してもよい。
【0027】
立上り部6bの外径端部6cは、図3に示すように、ハウジング20の内面との間に、微小な隙間w1であるラビリンス隙間25を形成して、玉軸受1の内部への異物の侵入を防止するラビリンスシール構造を構成している。
【0028】
また、スリンガ6の立上り部6bの軸方向内側の側面6eと、内輪2又は外輪3の端面との間には隙間が存在する。この実施形態でのラビリンスシール構造は、玉軸受1の外部から内部へと通じる空間の形態として、玉軸受1の外部からスリンガ6の外径端部6c付近のラビリンス隙間25を通って玉軸受1の内部側へ直進した後、外輪3の端面に突き当たって径方向内側へ屈曲する空間の形態となっている。
【0029】
この実施形態では、スリンガ6は、金属製である。なお、スリンガ6の材質はこれに限らず、ゴム成形体、あるいは、ゴム成形体と金属板、プラスチック板、セラミック板等との複合体等であってもよい。
【0030】
ハウジング20は、スリンガ6よりも軸方向外側(玉軸受1の外部へ向く側)、すなわち、立上り部6bの軸方向外側の側面6dよりも軸方向外側の領域において、ラビリンス隙間25の外径側縁26よりも径方向外側に位置する異物滞留スペース21を備えている。
【0031】
異物滞留スペース21は、図3に示すように、ラビリンス隙間25の外径側縁26よりも径方向外側の領域において、高さw2の範囲に亘る空間で構成されている。
【0032】
異物滞留スペース21を構成する空間は、ハウジング20に設けられ、ラビリンス隙間25の外径側縁26から径方向外側へ伸びる側壁部22と、側壁部22の外径側端部から径方向外側へ向かうにつれて軸方向外側へ傾斜するテーパ部23によって、その領域が形成されている。また、異物滞留スペース21を構成する空間は、ハウジング20の軸方向端面側において外部に開放されている。
【0033】
このため、車軸S又は中間軸受装置10付近に付着した泥水等は、スリンガ6の回転に伴う遠心力や重力によってラビリンス隙間25の方へ移動するが、そのラビリンス隙間25の外径側縁26よりも径方向外側に、異物滞留スペース21が存在することによって、ラビリンス隙間25周辺への泥水等の滞留を防ぎ、泥水等はラビリンス隙間25付近を通過してそのまま異物滞留スペース21に至ることができる。これにより、ラビリンス隙間25から玉軸受1の内部への泥水等の異物の侵入を防止できる。
【0034】
異物滞留スペース21の外径寄りの部分がテーパ部23によって仕切られているので、泥水等は、特に、中間軸受装置10の下部領域、すなわち、車軸Sよりも下方に位置する領域において、テーパ部23の下り勾配に沿って速やかに異物滞留スペース21外に案内される。
【0035】
また、ラビリンス隙間25の外径側縁26とテーパ部23との間に側壁部22を介在させているので、車軸Sからスリンガ6に伝い流れた泥水を、その側壁部22に沿って速やかに径方向外側へ移動させ、早期にラビリンス隙間25から遠ざけることができる。
【0036】
さらに、この実施形態では、側壁部22の面方向は、スリンガ6の立上り部6bの軸方向外側の側面6dの面方向と一致しており、両者が面一であるので、泥水の径方向外側への移動がよりスムーズである。
【0037】
ここで、図3に示すように、軸方向両側に位置するラビリンス隙間25のうち、図中左側のラビリンス隙間25の外径側縁26は、ハウジング20の内周に設けた突条7の円筒面状の内面となっている。また、図中右側のラビリンス隙間25の外径側縁26は、ハウジング20の内径端部8の内面となっている。
【0038】
ラビリンス隙間25の外径側縁26を、ハウジング20の内周に設けた突条7の内面とすることにより、その突条7の軸方向外側の端面を、異物滞留スペース21の側壁部22として利用できる。このため、側壁部22をより高く設定しやすく、異物滞留スペース21を構成する空間の容積を大きく確保しやすい。
【0039】
なお、この実施形態では、軸受の内部へと通じる軸方向両側の開口部のうち、一方の開口部では、ラビリンス隙間25に臨む突条7を設け、他方の開口部では、ラビリンス隙間25に臨む突条7を設けていないが、この態様以外にも、例えば、両方の開口部において、ラビリンス隙間25に臨む突条7を設けたり、あるいは、逆に、いずれの側の開口部にも突条7を設けない態様も採用可能である。
【0040】
また、泥水等の円滑な移動が確保できる場合は、異物滞留スペース21の側壁部22を省略してもよい。すなわち、異物滞留スペース21を構成する空間が、ラビリンス隙間25の外径側縁26から径方向外側へ向かうにつれて軸方向外側へ傾斜するテーパ部23によって、その領域が形成されている態様を採用することもできる。
【0041】
上記の実施形態では、スリンガ6を、玉軸受1の軸方向両側に配置しているが、スリンガ6を玉軸受1の軸方向一方にのみ備えた態様においても、そのスリンガ6を設けた側のラビリンス隙間25に対応して、この発明の異物滞留スペース21の構成を適用できる。
【符号の説明】
【0042】
1 玉軸受
2 内輪
3 外輪
4 ボール
6 スリンガ
6d 側面
7 突条
10 中間軸受装置
20 ハウジング
21 異物滞留スペース
22 側壁部
23 テーパ部
25 ラビリンス隙間
26 外径側縁
S 車軸
図1
図2
図3
図4
図5