(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】肝内胆汁うっ滞性疾患の処置
(51)【国際特許分類】
A61K 31/192 20060101AFI20220526BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220526BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20220526BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220526BHJP
【FI】
A61K31/192 ZMD
A61K9/20
A61K9/48
A61P1/16
(21)【出願番号】P 2018562567
(86)(22)【出願日】2017-04-26
(86)【国際出願番号】 US2017029620
(87)【国際公開番号】W WO2017209865
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-04-09
(32)【優先日】2016-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514114611
【氏名又は名称】サイマベイ・セラピューティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CymaBay Therapeutics,Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【氏名又は名称】森本 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ポル・ブーズ
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・エイ・マックウェーター
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/143178(WO,A1)
【文献】特表2009-514797(JP,A)
【文献】日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 統計・DM 部会,臨床試験の用量選択に関わる諸問題と展望,医薬出版センター,2009年,pp.1-3
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原発性胆汁性胆管炎の処置
のための、経口投与用の医薬であって、セラデルパル(Seladelpar)またはその塩である化合物を、5mg/日または10mg/日のセラデルパルに相当する量で含む、医薬。
【請求項2】
前記化合物が、セラデルパルのL-リシン塩である、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
前記化合物が、セラデルパルL-リシン二水和物である、請求項2に記載の医薬。
【請求項4】
1日1回投与である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬。
【請求項5】
前記化合物の量が、5mg/日のセラデルパルに相当する量である、請求項4に記載の医薬。
【請求項6】
前記化合物の量が、10mg/日のセラデルパルに相当する量である、請求項4に記載の医薬。
【請求項7】
錠剤またはカプセル剤である、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肝内胆汁うっ滞性疾患の処置に関する。
【背景技術】
【0002】
肝内胆汁うっ滞性疾患
胆汁うっ滞は、肝臓から十二指腸までの胆汁の流れが遅くなるかまたは遮断される状態である。胆汁うっ滞は、便宜上2つのタイプに分けられ得る:胆汁形成が様々な疾患、長期静脈栄養などの状態により、または特定の薬物(例えば一部の抗生物質)の副作用として妨げられる、肝臓内部のものである、肝内胆汁うっ滞;および典型的に胆汁の流れが胆管の機械的な一部もしくは完全な閉鎖、例えば胆管腫瘍、包嚢、胆管結石、狭窄または胆管への圧力により妨げられる、肝臓外部で生じる、肝外胆汁うっ滞;ただし、原発性硬化性胆管炎(PSC)は肝内または肝外であり得る。胆汁うっ滞の一般的症状は、疲労感、掻痒(かゆみ)、黄疸および黄色腫(コレステロールの豊富な物質の皮膚下の沈着)を含む。胆汁うっ滞の影響は、深刻で広範囲であり、全身疾患、肝不全および肝移植の必要性を伴う肝疾患の悪化につながる。
【0003】
肝内胆汁うっ滞性疾患には、頻度の低い順に、原発性胆汁性胆管炎(PBC、以前は原発性胆汁性肝硬変として知られていた)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、進行性家族性肝内胆汁うっ滞(PFIC)およびアラジール症候群(AS)が含まれる。
【0004】
PBCは、肝臓の小胆管のゆっくりとした進行性の破壊により特徴付けられる肝臓の自己免疫疾患であり、小葉内管が該疾患で初期に影響を受ける。これらの管が損傷されると、胆汁が肝臓で蓄積し(胆汁うっ滞)、時間と共に組織が損傷し、これが瘢痕化、線維症および硬変を引き起し得る。最近の研究では、少なくとも9:1の男性対女性の性比で最大3,000~4,000人に1人が罹患し得ることが示されている。PBCに対する治療法はなく、肝移植がしばしば必要になる;しかし、胆汁うっ滞を軽減し、肝機能を改善するウルソデオキシコール酸(UDCA、ウルソジオール)、胆汁酸を吸収するコレスチラミン、疲労についてのモダフィニル、および脂溶性ビタミン(ビタミンA、D、EおよびK、胆汁の流れの減少はこれらのビタミンが吸収されるのを困難にするため)などの医薬は、進行を遅らせ、正常な寿命およびクオリティ・オブ・ライフを可能にし得る。UDCAは、PBCを処置するために米国で承認されている唯一の薬である。日本の研究者らは、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体-α(PPARα)およびプレグナンX受容体アゴニストであるベザフィブラートをUDCAに追加することが、UDCA単剤治療に抵抗性である患者を処置し、血清胆汁酵素、コレステロール(C)およびトリグリセリド(TG)を改善するのに役立つことを報告している。
【0005】
PSCは、肝臓内部または外部の胆管炎症および線維症により特徴付けられる慢性胆汁うっ滞性肝疾患であり、最終的に硬変を引き起こす。炎症の根本的原因は、自己免疫であると考えられており;PBC患者の約3/4は、炎症性腸疾患(通常、潰瘍性大腸炎)を有するが、これは、罹患率(一般的に約10,000人に1人と報告されている)および性比(一般的に男性が優勢と報告されている)と同様に、国によって異なると報告されている。標準的処置は、PSC患者において増加した肝酵素数を低下させることが示されているが、肝生存率および全生存率は向上させない、UDCAを含み;鎮痒薬、コレスチラミン、脂溶性ビタミン、および感染症(細菌性胆管炎)を処置する抗生物質もまた含む。2009年に報告された研究では、長期高用量UDCA治療は、PSCにおける血清肝検査の改善を伴うが、生存率は向上されず、重篤な有害事象をより高い割合で伴った。肝移植が、唯一の立証された長期処置である。
【0006】
PFICは、肝内胆汁うっ滞に関連する小児期の3種類の常染色体性劣性障害の一群:家族性肝内胆汁うっ滞の欠乏1(PFIC-1)、胆汁酸塩排出ポンプの欠乏(PFIC-2)および多剤耐性タンパク質の欠乏3(PFIC-3)を指す。合計発症率は50,000~100,000人に1人である。疾患の発現は、通常2歳より前であり、PFIC-3は通常最も早期に現れるが、患者は思春期となってもPFICと診断される。患者は、通常胆汁うっ滞、黄疸および成長障害を示し;強い掻痒を特徴とする。脂肪吸収不良症および脂溶性ビタミン欠乏症が現れ得る。生化学マーカーは、PFIC-1およびPFIC-2では正常なγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)を含むが、PFIC-3ではGGTの著しい増加を含む;一方血清胆汁酸レベルが極めて増加する;しかし、該疾患が胆汁細胞の解剖学的な問題とは対照的にトランスポーターによるため、通常胆汁うっ滞で見られるように、血清コレステロールレベルは典型的には増加しない。疾患は、典型的に肝移植なしでは進行性であり、小児期で肝不全および死亡に至り;肝細胞癌は、極めて若い年齢でPFIC-2において発症し得る。UDCAでの薬物治療が一般的であり;PFIC-1では脂溶性ビタミン、コレスチラミンおよび膵酵素が補われる。
【0007】
ASは、アラジール-ワトソン症候群、症候群性胆管不足および動脈性肝異形成症としても知られ、肝臓、心臓、眼および骨格異常、ならびに特有の顔面特徴を伴う常染色体優性障害であり;発症率は約100,000人に1人である。肝臓の異常は、肝臓内の狭く奇形した胆管であり;これらは胆汁の流れを妨げ、肝硬変(瘢痕化)を引き起こす。ASは、主に染色体20上に位置するJagged1遺伝子の変化によって引き起こされる。症例の3~5%において、遺伝子全体が染色体20の1コピーから欠失(喪失)しており;残りにおいては、Jagged1 DNA配列に変化または変異がある。1%未満の極めて少数の症例において、別の遺伝子であるNotch2の変化がASを生じる。症例の約1/3において、変異は遺伝性であり;約2/3では、変異はその症例で新しい。ASの治療法はないが、肝疾患の重症度は、典型的に3~5歳でピークに達し、多くの場合7~8歳で消散する。一部の患者では、肝疾患は、末期肝疾患まで進行し、肝移植を必要とすることがあり;AS患者の約15%が肝移植を必要とする。多くの種々の医薬(例えばUDCA)が胆汁の流れを改善し、痒みを軽減するために用いられており、多くの患者に高用量の脂溶性ビタミンが投与されている。
【0008】
アルカリホスファターゼ(ALP)およびGGTは、胆汁うっ滞の重要なマーカーである。それらのうちの1つのみの増加は、胆汁うっ滞を示すものではなく、他のパラメーターが確認のために必要とされるが、ALPおよびGGT両方の増加は、胆汁うっ滞を示すものであり;両方の減少は、胆汁うっ滞の改善を示す。したがって、ALPおよびGGTレベルは、肝内胆汁うっ滞性疾患に認められる胆管病態生理の存在についての生化学マーカーとして働き、ALPレベルは、PBCなどの肝内疾患の臨床試験(オベチコール酸のFDA承認に至る試験を含む)における主要アウトカムマーカーとして用いられている。
【0009】
肝内胆汁うっ滞性疾患の処置
上述のように、UDCAは、胆汁うっ滞を軽減し、肝機能を改善する作用のため、肝内胆汁うっ滞性疾患の一般的処置である。しかしながら、2012年のPBCにおけるUDCAのコクランレビューでは、UDCAは、肝臓病理、黄疸および腹水のバイオマーカーの減少を示したが、死亡率または肝移植に対するUDCAのベネフィットについて医学文献にエビデンスはなく、一方その使用は体重増加およびコストを伴ったことが見出された。
【0010】
オベチコール酸(6α-エチルケノデオキシコール酸、Intercept PharmaceuticalsのOCALIVA)は、極めて強力なファルネソイドX受容体アゴニストである半合成胆汁酸アナログであり、PBCの処置について米国FDAにより最近承認された。しかしながら、肝内胆汁うっ滞性疾患の多くの患者に対する唯一の長期処置は、肝移植である。
【0011】
肝内胆汁うっ滞性疾患のための薬理学的処置を開発することが望まれている。
【0012】
セラデルパル(Seladelpar)
セラデルパル(推奨INN)は、式
【化1】
で示される化合物である。セラデルパルは、化学名(R)-2-(4-((2-エトキシ-3-(4-(トリフルオロメチル)フェノキシ)プロピル)チオ)-2-メチルフェノキシ)酢酸[CHEMDRAW ULTRA 12.0によって生成されたIUPAC名]、およびコード番号MBX-8025を有する。セラデルパルならびにその合成、製剤および使用は、例えば米国特許第7301050号(表1および実施例Mにおける化合物15、請求項49)、米国特許第7635718号(表1および実施例Mにおける化合物15)、および米国特許第8106095号(表1および実施例Mにおける化合物15、請求項14)に開示されている。セラデルパルのリシン(L-リシン)塩および関連化合物は、米国特許第7709682号(実施例全体にわたってセラデルパルL-リシン塩、請求項に記載の結晶形態)に開示されている。
【0013】
セラデルパルは、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体-δ(PPARδ)の経口で活性かつ強力な(2 nM)アゴニストである。それは特異的である(PPARαおよびペルオキシソーム増殖剤活性化受容体-γ受容体と比較して>600倍および>2500倍)。PPARδ活性化は、脂肪酸の酸化および利用を刺激し、血漿脂質およびリポタンパク質の代謝、グルコースの利用ならびにミトコンドリアの呼吸を改善し、そして幹細胞ホメオスタシスを維持する。米国特許第7301050号によれば、セラデルパルなどのPPARδアゴニストは、「糖尿病、心血管疾患、代謝性症候群X、高コレステロール血症、低-高密度リポタンパク質(HDL)-コレステロール血症、高-低密度タンパク質(LDL)-コレステロール血症、脂質異常症、アテローム性動脈硬化症および肥満」を含み、ここで脂質異常症は高トリグリセリド血症および混合型高脂血症を含むと言われる、PPARδ介在性病態を処置することが示唆される。
【0014】
混合型脂質異常症におけるセラデルパルL-リシン二水和物塩の第2相試験(6群、30名の対象体/群:1日1回経口でプラセボ、アトルバスタチン(ATV)20 mgまたはセラデルパルL-リシン二水和物塩50もしくは100 mg(遊離酸として計算)のカプセル剤単独もしくはATV 20 mgとの組合せ、8週間)が、Bays et al., "MBX-8025, A Novel Peroxisome Proliferator Receptor-δ Agonist: Lipid and Other Metabolic Effects in Dyslipidemic Overweight Patients Treated with and without Atorvastatin"、J. Clin. Endocrin. Metab., 96(9), 2889-2897 (2011)およびChoi et al., "Effects of the PPAR-δ agonist MBX-8025 on atherogenic dyslipidemia", Atherosclerosis, 220, 470-476 (2012)により報告されている。プラセボと比較して、セラデルパル単独およびATVとの組合せは、有意に(P<0.05)アポリポタンパク質B-100を20~38%、LDLを18~43%、トリグリセリド(TG)を26~30%、非HDL-Cを18~41%、遊離脂肪酸を16~28%、および高感度C反応性タンパク質を43~72%減少させ;HDL-Cを1~12%増加させ、そして代謝性症候群の患者数および大半の小型LDL粒子を減少させた。セラデルパルは小型/極小型LDL粒子を40~48%減少させ、これに対してATVでは25%の減少であり;セラデルパルは大型LDLを34~44%増加させ、これに対してATVでは30%の減少であった。セラデルパルは顕著にALPを32~43%減少させ、これに対して対照群では4%およびATV群では6%のみの減少であり;顕著にGGTを24~28%減少させ、これに対して対照群では3%およびATV群では2%のみの減少であった。したがって、セラデルパルは、混合型脂質異常症における3つすべての脂質異常(TGおよびLDLの減少ならびにHDLの増加)を是正し、選択的に低密度LDL粒子を激減させ(92%)、心血管炎症を軽減し、血清アミノトランスフェラーゼの減少を含む他の代謝パラメーターを改善させ、インスリン感受性を増加させ(ホメオスタシスのモデル評価(インスリン抵抗性、空腹時血漿グルコースおよびインスリン)を低下させ)、GGTおよびALPを低下させ、代謝性症候群の基準を満たす対象体の割合を著しく(>2倍)低下させ、そして腹囲の減少および除脂肪体重の増加の傾向とさせる。セラデルパルは、安全で、一般的に良好な忍容性を示し、そして肝酵素レベルを低下させる。米国特許出願第2010-0152295号に説明されるように、セラデルパルは、LDL粒子径パターンI(25.75 nm~26.34 nmが優勢なLDL粒子径)をパターンA(26.34 nm超が優勢なLDL粒子径)に;およびパターンB(25.75 nm未満が優勢なLDL粒子径)からパターンIまたはAに変換するものであって、ここで該LDL粒子径は、勾配ゲル電気泳動で測定される。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、セラデルパルまたはその塩の投与を含む肝内胆汁うっ滞性疾患の処置方法である。
【0016】
セラデルパルが、肝内胆汁うっ滞性疾患で増加するアルカリホスファターゼおよびγ-グルタミルトランスペプチダーゼを減少させるため、その使用は、胆汁うっ滞の軽減をもたらし、これらの疾患の有効な処置を提供する(脂質異常患者でALPおよびGGTもまた減少させるフィブラートなどの他の薬物は、肝内胆汁うっ滞性疾患において胆汁うっ滞を軽減することが知られている)。
【0017】
本発明の好ましい実施態様は、出願時の本願の明細書および請求項1~10に記載の特徴により特徴付けられる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
定義
「肝内胆汁うっ滞性疾患」およびその処置は、[背景技術]の「肝内胆汁うっ滞性疾患」および「肝内胆汁うっ滞性疾患の処置」と題したサブセクションに記載される。
【0019】
ヒトにおいて肝内胆汁うっ滞性疾患を「処置する」または「処置」は、下記の1つ以上を含む:
(1)肝内胆汁うっ滞性疾患を発症する危険性を防止するかまたは減少させること、すなわち、肝内胆汁うっ滞性疾患に罹患しやすいかもしれないが、肝内胆汁うっ滞性疾患の症状をまだ経験していないかまたは呈していない対象体において肝内胆汁うっ滞性疾患の臨床症状を発症しないようにすること(すなわち予防);
(2)肝内胆汁うっ滞性疾患を抑制すること、すなわち、肝内胆汁うっ滞性疾患またはその臨床症状の発症を妨げるかまたは軽減すること;ならびに
(3)肝内胆汁うっ滞性疾患を緩和すること、すなわち、肝内胆汁うっ滞性疾患の退行、回復または改善を引き起こすか、またはその臨床症状の数、頻度、持続もしくは重症度を減少させること。
【0020】
セラデルパルまたはセラデルパル塩の「治療上有効量」は、肝内胆汁うっ滞性疾患を処置するためにヒトに投与されるとき、肝内胆汁うっ滞性疾患の処置をもたらすのに十分である量を意味する。特定の対象体についての治療上有効量は、処置される対象体の年齢、健康状態および身体状態、肝内胆汁うっ滞性疾患およびその程度、医療状況の評価ならびに他の関連因子に応じて変化する。治療上有効量は、日常的な試験によって決定することができる比較的広い範囲に入ると予想される。
【0021】
「セラデルパル」は、[背景技術]の「セラデルパル」と題したサブセクションに記載される。
【0022】
セラデルパルの塩(例えば医薬的に許容される塩)は、本発明に含まれ、本願に記載の方法に有用である。これらの塩は、好ましくは医薬的に許容される酸と形成される。医薬的な塩、その選択、製造および使用の広範囲な説明については、例えば"Handbook of Pharmaceutically Acceptable Salts", StahlおよびWermuth編, Verlag Helvetica Chimica Acta, Zurich, Switzerland参照。文脈上別段の解釈が必要でない限り、セラデルパルへの言及は、化合物およびその塩両方への言及である。
【0023】
セラデルパルがカルボキシル基を含有するため、存在する酸性プロトンが無機または有機塩基と反応するとき、塩を形成し得る。典型的にセラデルパルは、適当なカチオンを含有する、過剰なアルカリ剤、例えば水酸化物、炭酸塩またはアルコキシドで処理される。Na+、K+、Ca2+、Mg2+およびNH4
+などのカチオンは、医薬的に許容される塩に存在するカチオンの例である。したがって、適切な無機塩基としては、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムが挙げられる。塩はまた、有機塩基を用いて製造され得て、例えば第1級、第2級および第3級アミン、天然置換アミンを含む置換アミン、ならびに環状アミンなどの塩であり、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、トロメタミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、N-アルキルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N-エチルピペリジンなどの塩が挙げられる。「セラデルパル」のサブセクションで述べたように、セラデルパルは、現在そのL-リシン二水和物塩として製剤化され;セラデルパルはまた、そのカルシウム塩として臨床試験で試験されている。
【0024】
「を含む(comprising)」または「を含有する(containing)」およびそれらの文法上の変形は、包含の用語であって、限定するものではなく、記載される構成要素、群、工程などの存在を特定するものであるが、他の構成要素、群、工程などの存在または付加を排除するものではないことを意味する。したがって、「を含む(comprising)」は、「からなる(consisting of)」、「から実質的になる(consisting substantially of)」または「のみからなる(consisting only of)」を意味するものではなく;例えば、化合物「を含む(comprising)」製剤は、その化合物を含有しなければならないが、他の活性成分および/または添加剤を含有してもよい。
【0025】
製剤および投与
セラデルパルは、処置される対象体および対象体の状態の性質に適する任意の経路によって投与され得る。投与経路は、静脈内、腹腔内、筋肉内および皮下注射を含む注射による投与、経粘膜または経皮送達による投与、局所適用、経鼻スプレー、坐剤などによる投与を含み、あるいは経口投与されてもよい。製剤は、所望により、リポソーム製剤、エマルジョン、粘膜を介して薬物を投与するよう設計された製剤、または経皮製剤であり得る。これらの投与方法各々に適する製剤は、例えば"Remington: The Science and Practice of Pharmacy", 20版, Gennaro編, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, Pa., U.S.A.で見出すことができる。セラデルパルが経口的に利用可能であるため、典型的な製剤は経口であり、典型的な剤形は、経口投与用の錠剤またはカプセル剤になる。「セラデルパル」のサブセクションで述べたように、セラデルパルは、臨床試験のためにカプセル剤に製剤化されている。
【0026】
所期の投与様式に応じて、医薬組成物は、固形、半固形または液体の剤形の形態、好ましくは正確な用量の単回投与に適する単位用量形態であり得る。有効量のセラデルパルに加えて、組成物は、医薬的に用いられ得る製剤への活性化合物の処理を容易にするアジュバントを含む、適切な医薬的に許容される添加剤を含有し得る。「医薬的に許容される添加剤」は、活性化合物の生物学的活性の有効性に干渉せず、それが投与される対象体に対して毒性がないかまたはその他で望ましくないものではない添加剤または添加剤の混合物を指す。
【0027】
固形組成物について、従来の添加剤としては、例えば、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。液体の薬理学的に投与可能な組成物は、例えば、本明細書に記載の活性化合物および所望により医薬アジュバントを水または水性添加剤、例えば水、生理食塩水、デキストロース水溶液などに溶解、分散させるなどにより製造されて、液剤または懸濁剤を形成し得る。必要に応じて、投与される医薬組成物はまた、少量の無毒性の補助添加剤、例えば湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンナトリウムアセテート、トリエタノールアミンオレエートなどを含み得る。
【0028】
経口投与について、組成物は、一般的に錠剤またはカプセル剤の形態を取り;または、特に小児用については、水性もしくは非水性液剤、懸濁剤またはシロップ剤であり得る。錠剤およびカプセル剤は、好ましい経口投与形態である。経口用の錠剤およびカプセル剤は、1つ以上の一般的に用いられる添加剤、例えばラクトースおよびコーンスターチを一般的に含む。滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウムもまた、典型的に加えられる。液体の懸濁剤が用いられるとき、活性剤は、乳化および懸濁させる添加剤と組み合せられ得る。必要に応じて、香料、着色剤および/または甘味剤もまた加えられ得る。経口製剤に組み込むための他の任意の添加剤としては、防腐剤、懸濁化剤、増粘剤などが挙げられる。
【0029】
典型的には、セラデルパルの医薬組成物またはセラデルパルの組成物を含むキットは、肝内胆汁うっ滞性疾患の処置における医薬組成物またはキットの使用を示すラベルもしくは説明書またはその両方を有する容器に包装される。
【0030】
経口投与に適するセラデルパルまたはその塩の量は、セラデルパルとして計算されるとき、疾患、疾患段階ならびに肝機能および腎機能などの因子に応じて、肝内胆汁うっ滞性疾患の成人対象体に対して5~50 mg/日、好ましくは10~35 mg/日であると予想される。すなわち、PSCおよびPBCなどの疾患における成人に対する経口投与に適するセラデルパルの量は、以前の臨床試験で用いた量の下限以下であるが、実施例2に記載の試験の範囲内である。外側範囲を超える下限へ用量を適切に減少させることは、年齢および体重などの更なる要因に応じて、ASおよびPFICなどの疾患における子供の対象体になされる。
【0031】
肝内胆汁うっ滞性疾患の処置の分野における当業者は、特定の疾患、疾患段階および患者についてセラデルパルまたはセラデルパル塩の治療上有効量を確認して、過度の実験をすることなく個人の知識および本願の開示に基づいて治療上有効量に達することできる。
【実施例】
【0032】
実施例1
試験対象体は、下記の3つの基準のうち少なくとも2つによりPBCと診断された男性または女性の成人である:(a)少なくとも6ヵ月間、アルカリホスファターゼ(ALP)が正常値上限(ULN)を超える既往歴、(b)免疫蛍光法において陽性抗ミトコンドリア抗体価>1/40、または酵素結合免疫吸着法によりM2陽性、または陽性PBC特異的抗核抗体、ならびに(c)PBCに一致する肝生検の結果、過去12ヵ月間の安定かつ推奨される用量のUDCAおよびALP≧1.67×ULN。除外基準には、ASTまたはALT≧3×ULN、総ビリルビン(TBIL)≧2×ULN、自己免疫性肝炎または慢性ウイルス性肝炎の既往歴、PSC、フィブラートまたはシンバスタチンの現在の使用、コルヒチン、メトトレキサート、アザチオプリンまたは合成ステロイドの過去2ヶ月における使用、PBCに対する実験的処置の使用、および実験的または未承認の免疫抑制剤の使用が含まれる。主要な試験評価項目は、ALPの減少であり、副次評価項目は、ALP<1.67×ULNおよび正常範囲内の総ビリルビンを達成する対象体のレスポンダー割合、およびALPの>15%減少であった。更なる副次評価項目は、GGT、TBILおよび5'-ヌクレオチダーゼの変化であり、これは胆汁うっ滞の他の認識されている生化学マーカーである。対象体は、プラセボ、50 mg/日または200 mg/日のセラデルパルいずれかが12週間経口投与されるよう無作為に割付けられた。試験中に、トランスアミナーゼの無症候性の増加が3例観察された(200 mg群において2例および50 mg群において1例)。3例すべて処置中断で可逆的であり、TBILの増加を伴わなかった。試験が明らかな有効性シグナルをすでに示していたので、試験を中止した。試験を非盲検化した後、試験に登録され少なくとも2週間の処置を完了した26名の対象体(プラセボ群で10名、50 mg/日セラデルパル群で9名、200 mg/日セラデルパル群で7名)の利用可能なデータを用いて、主要評価項目ALPの変化を分析した。当初の統計計画に従って、last observation carried forward(LOCF)を用いてALPの変化を計算した。ALPのベースラインからの平均減少は、50 mg/日および200 mg/日投与群についてはそれぞれ57%および62%であり、これに対してプラセボでは0.37%であった(両方についてp<0.0001)。プラセボ、50 mg/日および200 mg/日群のレスポンダー割合は、ベースラインALPレベルが239、313および280 U/Lで異なるにもかかわらず、それぞれ10%、67%および100%であった。50 mg/日および200 mg/日群のレスポンダー割合をプラセボと比較するp値は、それぞれ0.020および0.0004(フィッシャーの正確確率検定)であった。したがって、セラデルパルは、PBCの対象体において急速で強力な胆汁うっ滞抑制作用を示した。用量反応がないことは、低用量でも同様に有効であることを示唆する。セラデルパルでの最近完了した前臨床試験では、該薬物の主な排泄経路は胆汁によるものであり、薬物は胆汁中に濃縮されることが示され、またPBCの対象体は胆汁の流れが障害されているため、PBCの対象体における肝臓への薬物の曝露は、正常な肝機能を有する対象体における以前の臨床試験におけるものより高くなり得て、これは、より強力な胆汁うっ滞抑制作用およびトランスアミナーゼ作用の両方を説明する。セラデルパルを投与される対象体はまた、投与2週間後、プラセボの0.8%に対して50 mg/日および200 mg/日投与群ではそれぞれ16%および26%のLDL-Cの減少を含む代謝パラメーターの改善を示した。強力な胆汁うっ滞抑制作用にもかかわらず、掻痒の有害事象が処置において報告されなかったこともまた注目すべきである。
【0033】
実施例2
PBCなどの肝内胆汁うっ滞性疾患を有する成人対象体を、5、10、25または50 mg/日のセラデルパルの経口投与で処置する。対象体は、UDCAを含む通常の他の医薬が許される。試験前、試験中一定間隔、例えば試験中4週間ごと、およびセラデルパル治療の最後の投与の4週間後に、安全性および薬力学的評価のために、対象体を評価する。各来院時に、12時間絶食後、血液および尿を採取し;標準的な代謝パネル、全血球計算および標準的な尿検査を実施する。血液を、TC、HDL-C、TG、VLDL-C、LDL-Cおよびアポリポタンパク質Bについて、肝機能マーカー、例えば総および骨特異的アルカリホスファターゼについて、γ-グルタミルトランスペプチダーゼについて、ならびに総および抱合型ビリルビンについて分析する。対象体はまた健康日記を継続し、これは各来院時にレビューされる。対象体は、例えばALPおよびGGTの減少によって示されるように、疾患の改善を示す。
【0034】
本発明を特定の実施態様および実施例と併せて説明してきたが、その技術および本開示に関して具体的に記載される物質および方法の均等物も本発明に適用可能であることは当業者に明らかである;またこのような均等物は特許請求の範囲内に含まれることが意図される。