(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】光線調整部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/36 20140101AFI20220526BHJP
B23K 26/382 20140101ALI20220526BHJP
【FI】
B23K26/36
B23K26/382
(21)【出願番号】P 2019006180
(22)【出願日】2019-01-17
【審査請求日】2021-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 和明
(72)【発明者】
【氏名】山原 有未
(72)【発明者】
【氏名】日高 猛
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-114726(JP,A)
【文献】特開2018-1205(JP,A)
【文献】特開2012-196689(JP,A)
【文献】特表2010-525951(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0304386(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線が通過する、傾斜した周縁部の開口部を有する光線調整部品の製造方法において、
板状の母材の一方の照射面から該照射面の裏面に向かって開口の大きさが漸次縮小して傾斜状に前記母材の一部を除去して形成された前記開口部の端縁傾斜部と、前記母材の端縁傾斜部で囲まれる内側の領域に未加工の前記母材が残存して形成される未加工部と、前記端縁傾斜部および前記未加工部に亘って前記母材を貫通しない有底状に除去して形成される準備部とを形成し、
レーザ光のビーム径以下の範囲で前記裏面の開口の形状を縮小した軌跡に倣って前記レーザ光を前記準備部に対して走査することによって、前記準備部を前記裏面に到達するまで除去して前記周縁部の末端部を形成し、前記未加工部を脱去して前記開口部を貫通する
光線調整部品の製造方法。
【請求項2】
前記裏面の開口の形状を前記レーザ光のビーム径以下の範囲で縮小した走査開始軌跡に倣って前記レーザ光を走査した後、前記走査開始軌跡から前記ビーム径以下の間隔で走査軌跡を複数回拡大しながら前記レーザ光を走査する処理を、深さごとに実施して前記端縁傾斜部、前記未加工部および前記準備部を形成する
請求項1に記載の光線調整部品の製造方法。
【請求項3】
板厚方向の高さが、前記未加工部の板厚方向の高さよりも低い前記準備部を形成する
請求項1に記載の光線調整部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通過させる光線の向きや量を調整する光線調整部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内視鏡の先端部には、光学系に組み込まれ、通過させる光線の向きや量を調整する光線調整部品が設けられている(例えば、特許文献1を参照)。光線調整部品を通過した光線は、撮像素子に入射する。
【0003】
光線調整部品は、矩形や円をなす外形を有する、厚さが数十μmの板状の部品である。光線調整部品には、板厚方向に貫通し、光学系によって導光される光線が通過する貫通孔が形成される。この貫通孔は、撮像素子によって撮像された画像においてフレアやゴーストの発生を抑制するため、内周面が撮像素子側に拡径する態様で傾斜している。貫通孔の形成方法としては、電鋳法、ウェットエッチング、ドライエッチング、レーザ加工が挙げられる。特許文献1では、レーザ加工によって貫通孔が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、貫通孔は、光線入射側の開口部が鋭利な形状となっていることが、上述したフレアやゴーストの発生を抑制する点で好ましい。
しかしながら、電鋳法を用いて貫通孔を形成する場合、数十μmの薄い部品を原型から剥離する工程において、開口端が損傷するおそれがある。また、ウェットエッチングによって貫通孔を形成する場合、板厚に依存して板厚と直交する方向のエッチング量が変化する。電鋳法およびウェットエッチングでは、安定して貫通孔を形成できないおそれがあった。
また、ドライエッチングを用いて貫通孔を形成する場合、エッチング速度が遅く、形成工程も複雑である。
【0006】
図20は、従来の光線調整部品の構成および製造方法を説明するための図である。
図21は、従来の光線調整部品の使用時の一例を説明する図である。従来の光線調整部品500は、例えば、外縁が矩形をなす板状の本体部501を有する。本体部501には、中央部に設けられ、板厚方向に貫通する貫通孔502が形成される。
【0007】
特許文献1等においてレーザ加工によって貫通孔を形成する場合、貫通孔の外縁から最も離れた一点を走査開始点(ここでは走査開始点510)とし、レーザ光によって部材を取り除いて貫通孔502を形成する。例えば、
図20に示す軌跡S
101~S
104に倣ってレーザ光を走査することによって、傾斜面503を有する貫通孔502が形成される。しかしながら、上述したレーザ走査の場合、レーザ光の走査を繰り返すうちに、貫通孔の開口形成位置付近にレーザ光の熱がたまり、開口端部に傾斜面が形成されずに、板厚と平行な面504、およびダレ面が形成される。この面504は、貫通孔502に入射する光線Q
11を反射し、反射された光線Q
12が撮像素子600に入射する(
図21参照)。光線Q
12に基づく像は、画像においてフレアやゴーストとして表現される。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、鋭利な開口端を形成する光線調整部品を簡易に作製することができる光線調整部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る光線調整部品の製造方法は、光線が通過する、傾斜した周縁部の開口部を有する光線調整部品の製造方法において、板状の母材の一方の照射面から該照射面の裏面に向かって開口の大きさが漸次縮小して傾斜状に前記母材の一部を除去して形成された前記開口部の端縁傾斜部と、前記母材の端縁傾斜部で囲まれる内側の領域に未加工の前記母材が残存して形成される未加工部と、前記端縁傾斜部および前記未加工部に亘って前記母材を貫通しない有底状に除去して形成される準備部とを形成し、レーザ光のビーム径以下の範囲で前記裏面の開口の形状を縮小した軌跡に倣って前記レーザ光を前記準備部に対して走査することによって、前記準備部を前記裏面に到達するまで除去して前記周縁部の末端部を形成し、前記未加工部を脱去して前記開口部を貫通することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る光線調整部品の製造方法は、上記発明において、前記裏面の開口の形状を前記レーザ光のビーム径以下の範囲で縮小した走査開始軌跡に倣って前記レーザ光を走査した後、前記走査開始軌跡から前記ビーム径以下の間隔で走査軌跡を複数回拡大しながら前記レーザ光を走査する処理を、深さごとに実施して前記端縁傾斜部、前記未加工部および前記準備部を形成することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る光線調整部品の製造方法は、上記発明において、板厚方向の高さが、前記未加工部の板厚方向の高さよりも低い前記準備部を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、鋭利な開口端を形成する光線調整部品を簡易に作製することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の構成を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法について説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法について説明する図ある。
【
図5】
図5は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法について説明する図であって、母材におけるレーザ走査位置を説明する図である。
【
図7A】
図7Aは、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法について説明する図であって、レーザ走査について説明する図(その1)である。
【
図7B】
図7Bは、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法について説明する図であって、レーザ走査について説明する図(その2)である。
【
図7C】
図7Cは、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法について説明する図であって、レーザ走査について説明する図(その3)である。
【
図7D】
図7Dは、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法について説明する図であって、レーザ走査について説明する図(その4)である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法における端縁傾斜部形成工程ついて説明する図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法における端縁傾斜部形成工程について説明する図(その1)である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法における端縁傾斜部形成工程のレーザ走査について説明する図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法における端縁傾斜部形成工程について説明する図(その2)である。
【
図12】
図12は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法における端縁傾斜部形成工程のレーザ走査について説明する図である。
【
図13】
図13は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法における端縁傾斜部形成工程後の形状を示す断面図である。
【
図14】
図14は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法における末端部形成工程のレーザ走査について説明する図である。
【
図15】
図15は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法におけるレーザ光について説明する図である。
【
図16】
図16は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法における末端部成工程後の貫通孔の一部を示す図である。
【
図17】
図17は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の使用時の一例を示す図である。
【
図18】
図18は、本発明の実施の形態の変形例1に係る光線調整部品の製造方法における端縁傾斜部形成工程後の形状を示す断面図である。
【
図19】
図19は、本発明の実施の形態の変形例2に係る光線調整部品の製造法における端縁傾斜部形成工程後の形状を示す断面図である。
【
図20】
図20は、従来の光線調整部品の構成および製造方法を説明するための図である。
【
図21】
図21は、従来の光線調整部品の使用時の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面は模式的なものであり、各部の寸法の関係や比率は、現実と異なる。また、図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる。
【0015】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の構成を示す斜視図である。
図2は、
図1に示すA-A線断面図である。光線調整部品1は、例えば内視鏡の先端部に形成される光学系に組み込まれ、後段に配置される撮像素子に入射させる光線の向きや量を調整する部品である。光線調整部品1は、矩形をなす外形を有する、厚さが数十μmの板状の本体部10を備える。光線調整部品1は、金属箔、例えばリン青銅箔を用いて形成される。
【0016】
また、光線調整部品1には、板厚方向に貫通し、光学系によって導光される光線が通過する開口部20が形成される。開口部20は、開口部20の周縁を形成し、貫通方向に対して傾斜した周縁部21を有する。周縁部21は、開口部20の貫通方向の一端から他端に向けて拡径した内周面を形成する。また、周縁部21は、縮径側の開口端に、鋭利な開口端を形成する末端部22を有する。
【0017】
次に、上述した光線調整部品の製造方法について、
図3~
図15を参照して説明する。
図3は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法について説明するフローチャートである。
図4は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法について説明する図ある。
【0018】
まず、金属箔の母材100を用意して、加工ステージ200に設置する(ステップS101)。ステップS101では、図示しない治具を用いて母材100を加工ステージ200に固定する。
【0019】
その後、開口部20の周縁部21の一部を形成する(ステップS102、S103)。ステップS102では、開口部20における拡径側の周縁部21の一部をなす端縁傾斜部を形成する(端縁傾斜部形成工程)。その後、上述した末端部22を含む縮径側の周縁部21を形成する(末端部形成工程)。末端部22を有する周縁部21からなる開口部20を形成後、本体部10の外形に応じて母材100を切断することによって、光線調整部品1を作製する(ステップS104:外形形成工程)。以下、各工程におけるレーザ光の走査について説明する。
【0020】
図5は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の製造方法について説明する図であって、母材におけるレーザ走査位置を説明する図である。
図6は、
図5に示すB-B線断面図である。端縁傾斜部形成工程および末端部形成工程では、レーザ光を用いて母材100を加工し、開口部20を形成する。母材100に対して設計される加工線R
20と加工線R
21とに応じてレーザ加工を施して、加工線R
22を表面とする傾斜面を形成することによって開口部20を形成する(端縁傾斜部形成工程および末端部形成工程)。加工線R
20は、開口部20の拡径側の開口縁端に対応する。また、加工線R
21は、開口部20の縮径側(後述する裏面P
2)の開口縁端(末端部22)に対応する。
その後、加工線R
10に倣ってレーザ加工を施して、加工線R
11を表面とする外縁を形成することによって本体部10を形成する(外形形成工程)。
【0021】
ここで、加工に用いるレーザ光は、発振周期をピコ秒から数秒単位で制御可能である。レーザ光は、加工位置や加工深さ(加工領域)を制御するという観点で、ファイバレーザなど、照射領域を制御可能な装置を用いて生成されることが好ましい。
【0022】
図7Aは、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法について説明する図であって、レーザ走査について説明する図(その1)である。
図7Bは、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法について説明する図であって、レーザ走査について説明する図(その2)である。
図7Cは、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法について説明する図であって、レーザ走査について説明する図(その3)である。
図7Dは、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法について説明する図であって、レーザ走査について説明する図(その4)である。
【0023】
端縁傾斜部形成工程(ステップS102)では、加工線R
20(または加工線R
21)の中心を通過し、板厚方向に延びる軸N
1のまわりにレーザ光を走査して、母材100の一部を切除する。具体的に、軸N
1側から外周側にレーザ光の走査位置を移動させながら、加工線R
20と加工線R
21(
図5参照)とに応じてレーザ加工を施す。例えば、
図7Aに示すレーザ光L
1、L
2、L
3、・・・L
mの順に走査し、この走査を深さごとに実施する。深さは、レーザ加工面(ここでは母材100のレーザ照射側の面)からの板厚方向の長さであり、レーザ光の強度やビームの径(以下、ビーム径ともいう)に基づいて予め設定されるレーザ光の光軸方向の照射深度に相当する。端縁傾斜部形成工程によって、傾斜面を有する端縁傾斜部111が形成されるとともに、開口部20の形成位置の中央に形成される未加工部112と、末端部22を形成するための準備部113とが形成される(
図7B参照)。
端縁傾斜部111は、母材100のレーザ光Lの照射面P
1から該照射面の裏面P
2に向かって開口の大きさが漸次縮小して傾斜状に母材10の一部を除去して形成される。端縁傾斜部111は、開口部20の周縁部21の一部をなす。
未加工部112は、端縁傾斜部111によって囲まれる内側の領域R
Lにおいて、レーザ加工が施されずに残存する母材100からなる。
準備部113は、端縁傾斜部111および未加工部112に亘って母材100を貫通しない有底状に除去して形成され、端縁傾斜部111と未加工部112とを接続している。
端縁傾斜部111と、未加工部112および準備部113とによって、環状の加工溝110が形成される。
【0024】
末端部形成工程(ステップS103)では、加工線R
21に倣って軸N
1のまわりにレーザ光Lを準備部113に対して走査して、準備部113を裏面P
2に到達するまで除去することによって該準備部113を切除する(
図7B参照)。末端部形成工程によって、未加工部112が脱去され、周縁部21および末端部22が形成されて板厚方向に貫通し、これによって開口部20が形成される(
図7C参照)。
【0025】
外形形成工程(ステップS104)では、加工線R
10に倣って軸N
1のまわりにレーザ光Lを走査して、母材100から本体部10を型抜きする(
図7C参照)。外形形成工程によって、本体部10が形成され、これによって光線調整部品1が作製される(
図7D参照)。
【0026】
続いて、端縁傾斜部形成工程(ステップS102)における加工溝110の形成について、
図8~
図13を参照して説明する。
図8は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法における端縁傾斜部形成工程ついて説明する図である。加工溝110は、段階的にレーザ加工を施すことによって形成される。具体的には、母材100の表面側から、領域120-1、120-2、・・・、120-nの順で母材100の一部を切除することによって加工溝110を形成する。ここでは、n回、レーザ光の照射深度を変えてレーザ加工することによって、加工溝110が形成される。
【0027】
ここで、一回目のレーザ加工について、
図9および
図10を参照して説明する。
図9は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法における端縁傾斜部形成工程について説明する図(その1)である。
図10は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法における端縁傾斜部形成工程のレーザ走査について説明する図である。
【0028】
一回目のレーザ加工によって、
図9に示す領域120-1を切除する。このレーザ加工によって、傾斜面121と、底面122と、未加工部112の外周面の一部をなす壁面123とからなる加工溝が形成される。この際、レーザ光は、走査軌跡S
1、S
2、・・・、S
mに倣って走査される(
図10参照)。走査軌跡S
1、S
2、・・・、S
mには、レーザ光Lの光軸がそれぞれ通過する。走査を開始する位置は、走査軌跡上であれば、任意の箇所に設定できる。走査軌跡S
1、S
2、・・・、S
mは、例えば、それぞれ加工線R
20(または加工線R
21)と相似であり、順次大きさが大きくなる。また、隣り合う軌跡間の間隔は、レーザ光のビーム径以下である。
走査軌跡S
1は、末端部22のなす開口の大きさ(加工線R
21)に対して、予め設定されている値だけ縮小した形状である。ここで、予め設定されている値とは、レーザ光のビーム径以下の範囲で設定される値である。このため、走査軌跡S
1によって囲まれる領域の大きさは、末端部22のなす開口の大きさ(加工線R
21)よりも小さい。
【0029】
続いて、二回目のレーザ加工について、
図11および
図12を参照して説明する。
図11は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法における端縁傾斜部形成工程について説明する図(その2)である。
図12は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法における端縁傾斜部形成工程のレーザ走査について説明する図である。
【0030】
二回目のレーザ加工によって、
図11に示す領域120-2を切除する。このレーザ加工によって、傾斜面121に連なる傾斜面124と、底面125と、壁面123に連なる壁面126とからなる加工溝が形成される。この際、レーザ光は、傾斜面121および底面122の境界(
図9参照)と、壁面123(加工線R
21)との間において、内部(壁面123)側から、走査軌跡S
1、S
2、・・・、S
k(k<m)に倣って走査される(
図12参照)。ここで、kは、貫通孔21の傾斜面の角度に基づいて設定され、例えばm-1である。
【0031】
上述したレーザ加工を深さごとに実施するによって領域120-1~120-nを段階的に除去する。例えば、深さが深くなるにつれて、走査軌跡の数も少なくなる。この場合、m、kは、ともにnよりも大きい値である。
【0032】
図13は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法における端縁傾斜部形成工程後の形状を示す断面図である。領域120-1~120-nまでの切除が終了すると、傾斜部111、未加工部112および準備部113によって加工溝110が形成される。これら傾斜面121、壁面123等からなる傾斜部は、端縁傾斜部形成工程において形成される端縁傾斜部111に相当する。また、走査軌跡S
1から、未加工部112の外周のなす大きさは、末端部22(加工線R
21)の縁端のなす大きさよりも小さい。
【0033】
続いて、末端部形成工程(ステップS103)における傾斜面21および末端部22の形成について、
図14を参照して説明する。
図14は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法における末端部形成工程のレーザ走査について説明する図である。周縁部21および末端部22は、未加工部112および準備部113を、レーザ光を用いて除去することによって形成される。具体的には、準備部113にレーザ光を照射して未加工部112および準備部113を除去する。この際、レーザ光は、軌跡S
11に倣って走査される。軌跡S
11は、例えば、加工線R
21と相似である。軌跡S
11は、末端部22のなす開口の大きさ(加工線R
21)に対して、予め設定されている値だけ縮小した形状である。ここで、予め設定されている値とは、レーザ光のビームB
Lの径r
1以下の範囲で設定される値である。予め設定する値は、端縁傾斜部形成工程と同じ値に設定してもよいし、異なる値に設定してもよい。軌跡S
11に倣って走査されるレーザ光によって、未加工部112および準備部113を除去することで、周縁部21および末端部22を有する開口部20が形成される(
図7C参照)。
【0034】
その後、加工線R
10に倣ってレーザ加工を施して、加工線R
11を表面とする外縁を形成することによって本体部10が形成される(
図6、
図7D参照)。
【0035】
また、本実施の形態においては、未加工部112を形成することによって、未加工部112を形成しない場合と比して、部材が有する熱容量を大きくしている。
レーザ加工では、アブレーション加工と熱加工とが部材の加工にかかわっている。アブレーション加工が起こった後に、伝播した熱によってレーザ光の照射位置外部でも微小な熱加工が施される。また、熱加工では、同じフルエンスのレーザ光を照射した場合、拡散し難い部分の方が蓄熱しやすく、この部分における熱が部材を加工する加工量が、他の部分と比して大きくなる。特に、末端部22を形成する本実施の形態では、加工面(照射面P1)や準備部113等に熱を蓄積しないことが、末端部22を高精度に形成する点で重要である。
【0036】
ここで、末端部形成工程(ステップS103)において用いられるレーザ光について、
図15を参照して説明する。
図15は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の作製方法におけるレーザ光について説明する図である。レーザ光の強度分布としては、レーザ光の中心(ビーム中心)から外側に向かってエネルギが小さくなる、ガウシアン分布であることが、傾斜面や鋭利な開口端を形成する点で好ましい。例えば、末端部22の形成目標位置がレーザ光のビーム径内に入る軌跡S
11を設定する。レーザ加工時、レーザ光のエネルギの一部が熱となり、母材100内で熱の拡散が起こる。この際、熱は、未加工部112にも拡散するため、末端部22の形成目標位置において熱が蓄積することを抑制できる。蓄熱が抑制されると、上述したガウシアン分布に倣った形状に加工されるため、鋭利な開口端(末端部22)を形成することができる。
【0037】
図16は、上述した作製方法によって作製された貫通孔を有する光線調整部品の断面を撮像した画像を示している。
図16から、本体部301に傾斜面302が形成され、開口端には、鋭利な形状をなす末端部303が形成されていることがわかる。
【0038】
図17は、本発明の一実施の形態に係る光線調整部品の使用時の一例を示す図である。上述した作製方法によって作製された開口部20を有する光線調整部品1は、末端部22が鋭利な形状をなしているため、この末端部22において開口部20に入射する光線Q
1が反射することない。このため、不要な光線が撮像素子400に入射することが抑制され、フレアやゴーストのない鮮明な画像を得ることができる。
【0039】
以上説明した本発明の一実施の形態では、未加工部112を残しつつ開口部20の内周面の一部をなす端縁傾斜部111(例えば傾斜面121、123)を形成し、その後、加工溝110を形成する未加工部112および準備部113を除去することによって、鋭利な形状をなす末端部22を有する開口部20を形成する。本実施の形態によれば、レーザ加工時、未加工部112が熱の拡散部として機能するため、加工部分(ここでは末端部22の形成位置)への蓄熱が抑制され、鋭利な開口端を形成する光線調整部品1を簡易に作製することができる。
【0040】
なお、上述した実施の形態に係る未加工部112は、
図7Bに示す例に限らない。以下、変形例1、2では、未加工部の変形例の一例を説明する。
【0041】
(実施の形態の変形例1)
図18は、本発明の実施の形態の変形例1に係る光線調整部品の作製方法における端縁傾斜部形成工程後の形状を示す断面図である。上述した実施の形態では、未加工部112の高さが、母材100の板厚と同じである例を説明したが、変形例1は、母材100の板厚よりも小さい未加工部114である。
【0042】
本変形例1では、端縁傾斜部形成工程(ステップS102)における加工溝110の形成時、例えば、領域120-1や領域120-2を加工する際に、未加工部を形成せずに、加工線R20の内部全体を削除する。
【0043】
本変形例1によれば、母材100の板厚よりも小さい未加工部114であっても、レーザ加工時、未加工部114が熱の拡散部として機能するため、加工部分(末端部22の形成位置)への蓄熱が抑制され、鋭利な開口端を形成する光線調整部品を簡易に作製することができる。
【0044】
なお、未加工部が熱の拡散部として機能すれば、未加工部と準備部との板厚方向の高さは、上述した実施の形態や変形例1の関係には限らない。さらに、準備部にも熱の拡散部として機能させれば、未加工部と準備部との板厚方向の高さは同じ、または高さの関係が逆であってもよいが、末端部22を形成するうえでは準備部の高さが低く(板厚が薄く)、未加工部の高さを準備部よりも高くすることが好ましい。
【0045】
(実施の形態の変形例2)
図19は、本発明の実施の形態の変形例2に係る光線調整部品の作製方法における端縁傾斜部形成工程後の形状を示す断面図である。上述した実施の形態では、準備部113が円板状をなす例を説明したが、変形例2は、準備部115が傾斜面をなして未加工部112の先端に連なっている。
【0046】
本変形例2では、端縁傾斜部形成工程(ステップS102)における加工溝110の形成時、例えば、準備部115の表面を傾斜面として形成する。本変形例における加工溝は、V字状の溝形状をなす。このため、未加工部112と準備部115とによって、錐台状をなす突起部が形成される。
【0047】
本変形例2によれば、錐台をなす準備部115であっても、レーザ加工時、未加工部112および準備部115が熱の拡散部として機能するため、加工部分(末端部22の形成位置)への蓄熱が抑制され、鋭利な開口端を形成する光線調整部品を簡易に作製することができる。
【0048】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。例えば、上述した実施の形態では、光線調整部品の構成を例に説明したが、貫通孔によって、該貫通孔を通過する媒体の量を調整する部品であれば適用可能である。
【0049】
また、上述した実施の形態では、走査軌跡S1が末端部22のなす開口の大きさ(加工線R21)に対して、予め設定されている値だけ縮小した形状である例を説明したが、加工面形成工程において末端部22の形成が可能であれば、走査軌跡S1が末端部22のなす開口の大きさ(加工線R21)と同じに設定してもよいし、大きく設定してもよい。
【0050】
また、上述した実施の形態および変形例では、レーザ加工を行うものとして説明したが、加工方法はこれに限らない。例えば、電子ビーム等の公知の加工技術を用いることも可能である。
【0051】
このように、本発明は、特許請求の範囲に記載した技術的思想を逸脱しない範囲内において、様々な実施の形態を含みうるものである。
【符号の説明】
【0052】
1 光線調整部品
10 本体部
20 開口部
21 周縁部
22 末端部
111 端縁傾斜部
112、114 未加工部
113、115 準備部
S1、S2、・・・、Sk、Sm 走査軌跡
S11 軌跡