(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】電気自動車用の筒形モータマウント
(51)【国際特許分類】
F16F 1/38 20060101AFI20220526BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20220526BHJP
B60K 1/00 20060101ALN20220526BHJP
【FI】
F16F1/38 Z
F16F15/08 K
B60K1/00
(21)【出願番号】P 2019538276
(86)(22)【出願日】2018-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2018011529
(87)【国際公開番号】W WO2019180896
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸山 豊士
【審査官】後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-242289(JP,A)
【文献】特開平11-002289(JP,A)
【文献】特開2016-136038(JP,A)
【文献】特開2009-008118(JP,A)
【文献】特開2007-139099(JP,A)
【文献】実開昭58-172138(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/38- 1/393
F16F 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された電気自動車用の筒形モータマウントにおいて、
前記本体ゴム弾性体が前記アウタ筒部材の内周面に固着されていると共に、該本体ゴム弾性体が該アウタ筒部材から内周へ向けて突出する複数の突起部を備えており、該突起部が突出先端に向けて周方向で幅狭となる先細形状を有していると共に、該インナ軸部材が該本体ゴム弾性体の内周に非固着で差し入れられて該複数の突起部の突出先端が前記インナ軸部材における円形断面の筒状外周面に押し付けられた状態で該インナ軸部材が該本体ゴム弾性体によって弾性支持されており、該インナ軸部材が電気自動車のモータ側へ取り付けられるとともに該アウタ筒部材が電気自動車の車両ボデー側へ取り付けられることを特徴とする電気自動車用の筒形モータマウント。
【請求項2】
前記インナ軸部材の前記筒状外周面が真円形断面を有している請求項1に記載の電気自動車用の筒形モータマウント。
【請求項3】
前記インナ軸部材の前記筒状外周面が楕円形断面を有している請求項1に記載の電気自動車用の筒形モータマウント。
【請求項4】
前記突起部の突出先端には軸方向に延びる凹部が形成されており、該凹部の内面に前記インナ軸部材の外周面が当接している請求項1~3の何れか一項に記載の電気自動車用の筒形モータマウント。
【請求項5】
前記インナ軸部材が前記筒状外周面に開口する位置決め凹部を備えていると共に、前記突起部が突出先端から内周へ突出する位置決め凸部を備えており、該位置決め凸部が該位置決め凹部に差し入れられて該インナ軸部材が該突起部に対して位置決めされている請求項1~4の何れか一項に記載の電気自動車用の筒形モータマウント。
【請求項6】
前記突起部の突出方向の弾性主軸が前記インナ軸部材の径方向に延びている請求項1~5の何れか一項に記載の電気自動車用の筒形モータマウント。
【請求項7】
径方向の共振周波数が800Hz以上に設定されている請求項1~6の何れか一項に記載の電気自動車用の筒形モータマウント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車において電気モータを車両ボデーに防振連結する電気自動車用の筒形モータマウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンと車両ボデーを防振連結するエンジンマウントとして、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって径方向で相互に弾性連結された構造を有する筒形防振装置が採用されている。例えば、特開2000-304080号公報(特許文献1)に開示されているのが、それである。
【0003】
ところで、昨今では、環境問題や化石燃料の枯渇などへの配慮から、従来のエンジンを原動機とする自動車から電気モータを原動機とする電気自動車への転換が検討されている。電気自動車では、エンジンに変えて電気モータを採用することで原動機において生じる振動が減少すると考えられており、電気モータと車両ボデーを防振連結するモータマウントは、エンジンマウントと同様の筒形防振装置を採用可能であると考えられていた。
【0004】
しかしながら、電気モータにおいて発生する振動の特性がエンジンにおいて発生する振動の特性と大きく異なることによって、電気自動車用のモータマウントは、従来のエンジンマウントでは問題になり難かった高周波数域の振動に対しても、低動ばねによる振動絶縁効果が要求される場合がある。その場合には、反共振による高動ばね化を防ぐために、電気モータ側に取り付けられるインナ軸部材側をマスとするマス-バネ系の共振周波数が、従来のエンジンマウントよりも高周波に設定されることが求められる。このマス-バネ系では、インナ軸部材側のマス質量を小さくすることによって共振周波数を高周波にチューニングできることから、本体ゴム弾性体の径方向長さを短くして、インナ軸部材側のマス質量に寄与する本体ゴム弾性体のゴムボリュームを小さくすることで、共振周波数を高周波にチューニングすることが考えられる。
【0005】
ところが、本体ゴム弾性体の径方向の自由長を短くすると、本体ゴム弾性体の耐久性が低下することから、電気自動車用のモータマウントにおいて求められる高周波に共振周波数をチューニングしようとすると、本体ゴム弾性体の耐久性を十分に確保することが難しい場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、電気自動車において要求される高周波域での低動ばね特性を実現しながら、十分な耐久性も実現することができる、新規な構造の筒形モータマウントを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0010】
すなわち、本発明の第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された電気自動車用の筒形モータマウントにおいて、前記本体ゴム弾性体が前記アウタ筒部材の内周面に固着されていると共に、該本体ゴム弾性体が該アウタ筒部材から内周へ向けて突出する複数の突起部を備えており、該突起部が突出先端に向けて周方向で幅狭となる先細形状を有していると共に、該インナ軸部材が該本体ゴム弾性体の内周に非固着で差し入れられて該複数の突起部の突出先端が前記インナ軸部材における円形断面の筒状外周面に押し付けられた状態で該インナ軸部材が該本体ゴム弾性体によって弾性支持されており、該インナ軸部材が電気自動車のモータ側へ取り付けられるとともに該アウタ筒部材が電気自動車の車両ボデー側へ取り付けられることを、特徴とする。
【0011】
このような第一の態様に従う構造とされた電気自動車用の筒形モータマウントによれば、インナ軸部材が本体ゴム弾性体に対して非固着で差し入れられて弾性支持されていることにより、インナ軸部材とアウタ筒部材の間に軸直角方向の振動が入力されても、本体ゴム弾性体に引張荷重が作用しない。これによって、本体ゴム弾性体の自由長を短く設定しながら、本体ゴム弾性体の耐久性を確保できることから、インナ軸部材側のマス質量に寄与する本体ゴム弾性体のゴムボリュームを小さくすることができる。その結果、インナ軸部材側の実質的なマス質量が小さくすることができて、モータを防振支持する筒形モータマウントの共振周波数をより高周波に設定することが可能となることから、本体ゴム弾性体の十分な耐久性と、電気自動車の実用上で要求される高周波領域での低ばね特性とを、両立して実現することができる。
【0012】
また、本体ゴム弾性体がアウタ筒部材からインナ軸部材へ向けて突出する複数の突起部を備えており、突起部がインナ軸部材側に向けて先細とされていることにより、インナ軸部材に押し付けられる突起部の先端部分のゴムボリュームが小さくなって、本体ゴム弾性体においてインナ軸部材側のマス質量に寄与する部分の質量が小さくなる。それ故、筒形モータマウントにおいて、共振周波数を電気自動車の実用上で必要とされる高周波にチューニングすることが可能となる。
【0013】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された電気自動車用の筒形モータマウントにおいて、前記インナ軸部材の前記筒状外周面が真円形断面を有しているものである。
【0014】
第二の態様によれば、各突起部が真円筒状とされる筒状外周面に当接することから、軸直角方向の振動が作用する向きに関わらず、インナ軸部材が本体ゴム弾性体によって安定して支持される。また、インナ軸部材の外周面に突起部が押し付けられた状態において、当接力がインナ軸部材にバランスよく及ぼされることから、インナ軸部材が本体ゴム弾性体に対して位置決めされ易くなる。
【0015】
本発明の第三の態様は、第一の態様に記載された電気自動車用の筒形モータマウントにおいて、前記インナ軸部材の前記筒状外周面が楕円形断面を有しているものである。
【0016】
第三の態様によれば、アウタ筒部材を加工や製造が容易な真円形断面としながら、インナ軸部材の長軸方向と短軸方向で本体ゴム弾性体の自由長を相互に異ならせることが可能となって、長軸方向と短軸方向のばね比を容易に設定することができる。
【0017】
本発明の第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された電気自動車用の筒形モータマウントにおいて、前記突起部の突出先端には軸方向に延びる凹部が形成されており、該凹部の内面に前記インナ軸部材の外周面が当接しているものである。
【0018】
第四の態様によれば、インナ軸部材の筒状外周面が突起部の凹部によって受けられることで、突起部の先端部分がインナ軸部材に対して周方向で位置決めされ易くなって、インナ軸部材が本体ゴム弾性体によって安定して弾性支持されると共に、スティックスリップによる異音の発生なども防止され得る。
【0019】
本発明の第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された電気自動車用の筒形モータマウントにおいて、前記インナ軸部材が前記筒状外周面に開口する位置決め凹部を備えていると共に、前記突起部が突出先端から内周へ突出する位置決め凸部を備えており、該位置決め凸部が該位置決め凹部に差し入れられて該インナ軸部材が該突起部に対して位置決めされているものである。
【0020】
第五の態様によれば、突起部の位置決め凸部がインナ軸部材の位置決め凹部に差し入れられることによって、突起部とインナ軸部材の相対的な位置が容易に規定される。また、例えば、位置決め凸部が位置決め凹部の内面に軸方向で係止されるようにすれば、インナ軸部材が本体ゴム弾性体に対して軸方向へ抜けるのを防ぐこともできる。
【0021】
本発明の第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された電気自動車用の筒形モータマウントにおいて、前記突起部の突出方向の弾性主軸が前記インナ軸部材の径方向に延びているものである。
【0022】
第六の態様によれば、複数の突起部の当接力がインナ軸部材の径方向に作用することで、インナ軸部材にねじり方向のモーメントが作用し難く、インナ軸部材を複数の突起部の間で安定して支持することができる。
【0023】
本発明の第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された電気自動車用の筒形モータマウントにおいて、径方向の共振周波数が800Hz以上に設定されているものである。
【0024】
第七の態様によれば、反共振による高動ばね化が電気自動車において実用上で問題となる振動の周波数域よりも高周波において生じるように特性がチューニングされることで、電気自動車の実用周波数域において優れた低動ばね特性を実現することができる。
【0025】
【0026】
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、インナ軸部材が本体ゴム弾性体によって非固着で弾性支持されていることにより、軸直角方向の振動入力に対して本体ゴム弾性体に引張荷重が作用せず、本体ゴム弾性体の自由長を短く設定しながら耐久性を十分に確保することが可能となることから、本体ゴム弾性体を含んで構成されるインナ軸部材側の実質的なマス質量が小さくなる。しかも、本体ゴム弾性体の突起部がインナ軸部材側に向けて先細とされていることによっても、本体ゴム弾性体においてインナ軸部材側のマス質量に寄与する部分のゴムボリュームが小さくなる。その結果、本体ゴム弾性体の耐久性を十分に確保しながら、筒形モータマウントの共振周波数をより高周波に設定し易くなって、電気自動車の実用周波数域において、反共振による著しい高動ばね化を防いで、低動ばね特性による防振性能を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第一の実施形態としての電気自動車用の筒形モータマウントの正面図。
【
図3】
図1に示す筒形モータマウントを構成する一体加硫成形品の正面図。
【
図5】
図3に示す一体加硫成形品の内周へインナ軸部材を差し入れた状態を示す正面図。
【
図6】本発明の第二の実施形態としての電気自動車用の筒形モータマウントの正面図。
【
図7】
図6に示す筒形モータマウントを構成する一体加硫成形品の正面図。
【
図8】本発明の第三の実施形態としての電気自動車用の筒形モータマウントの正面図。
【
図10】
図8に示す筒形モータマウントを構成する一体加硫成形品の正面図。
【
図11】
図10に示す一体加硫成形品の内周へインナ軸部材を差し入れた状態を示す正面図。
【
図13】本発明の第四の実施形態としての電気自動車用の筒形モータマウントの正面図。
【
図14】
図13に示す筒形モータマウントを構成する一体加硫成形品の内周へインナ軸部材を差し入れた状態を示す正面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図1,2には、本発明の第一の実施形態として、電気自動車用の筒形モータマウント10を示す。筒形モータマウント10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が、本体ゴム弾性体16によって相互に弾性連結された構造を有している。以下の説明では、原則として、上下方向とは
図1中の上下方向を、左右方向とは
図1中の左右方向を、前後方向とは
図1中の紙面直交方向を、それぞれいう。
【0031】
より詳細には、インナ軸部材12は、金属などで形成された高剛性の部材であって、厚肉小径の略円筒形状を有している。また、インナ軸部材12の筒状外周面18は、横断面において略真円形とされており、略一定の断面形状で前後方向に直線的に延びる真円筒状とされている。なお、本実施形態では、インナ軸部材12の内周面も横断面において略真円形とされている。
【0032】
アウタ筒部材14は、金属などで形成された高剛性の部材であって、薄肉大径の略円筒形状を有している。本実施形態のアウタ筒部材14は、内周面が横断面において略真円形とされており、略一定の断面形状で前後方向に直線的に延びている。また、アウタ筒部材14の外周面は、軸方向中央部分が略真円形の横断面形状で前後方向に直線的に延びていると共に、軸方向両端部分が軸方向外側に向けて次第に小径となるテーパ面とされている。なお、アウタ筒部材14は、インナ軸部材12よりも軸方向寸法が小さくされている。
【0033】
アウタ筒部材14は、好適には外径寸法が75mm以下とされている。更に、好適には、アウタ筒部材14の内径寸法とインナ軸部材12の外径寸法との差が45mm以下とされていると共に、アウタ筒部材14の内径寸法のインナ軸部材12の外径寸法に対する比が4以下とされている。本実施形態では、例えば、アウタ筒部材14の外径寸法が60mm、アウタ筒部材14の内径寸法とインナ軸部材12の外径寸法との差が35mmとされている。
【0034】
また、
図3,4に示すように、アウタ筒部材14の内周面には、本体ゴム弾性体16が加硫接着されている。本体ゴム弾性体16は、アウタ筒部材14の内周面に被着形成された外周ゴム層20と、外周ゴム層20から内周へ向けて突出する4つの突起部22,22,22,22とを、備えている。本実施形態では、本体ゴム弾性体16がアウタ筒部材14を備える一体加硫成形品24として形成されている。
【0035】
外周ゴム層20は、薄肉筒状とされて、アウタ筒部材14の内周面を全周に亘って覆っている。また、外周ゴム層20の軸方向寸法は、アウタ筒部材14の軸方向寸法よりも小さくされていると共に、突起部22の軸方向寸法よりも大きくされており、外周ゴム層20は、好適には1mm以上の厚さを有している。
【0036】
突起部22は、上下左右の4か所にそれぞれ設けられており、それぞれアウタ筒部材14から内周へ向けて突出していると共に、突出先端26に向けて周方向で狭幅となる先細形状を有して、突出方向と直交する平面上での断面積が基端から突出先端26に向けて小さくなっている。本実施形態の4つの突起部22,22,22,22は、互いに略同一形状とされている。
【0037】
本実施形態の突起部22は、
図3に示すように、周方向外側に向けて凹形状となる基端湾曲面28と、周方向外側に向けて凸形状となる先端湾曲面30とを、連続的に設けることで周方向側面が構成されており、基端湾曲面28の両端が外周ゴム層20の内周面と先端湾曲面30との各一方に滑らかに連続している。このように突起部22の周方向側面が基端湾曲面28と先端湾曲面30によって構成されていることで、突起部22は、基端部分において断面積が突出先端26に向けて大きな変化量で小さくなっていると共に、先端部分において突出先端26に向けて漸変的に断面積の変化量が大きくなっている。更に、突起部22の突出方向の中間部分では、断面積の変化量が小さくなっている。なお、先端湾曲面30,30を備える半円状断面の先端部分は、突起部22の突出寸法の1/4以上、より好適には1/3以上の部分を占めるようにされており、筒形モータマウント10における共振周波数の高周波化や低動ばね化が図られている。
【0038】
さらに、突起部22は、
図4に示すように、略一定の軸方向寸法で径方向に延びていると共に、外周ゴム層20に比して軸方向寸法が小さくされている。なお、突起部22の軸方向端面は、外周端部において内周へ向けて軸方向内側へ傾斜する凹状湾曲面とされていると共に、内周端部において内周へ向けて軸方向内側へ傾斜する凸状湾曲面とされており、外周端部が外周ゴム層20の内周面に滑らかに連続していると共に、内周端部が突起部22の先端面に滑らかに連続している。
【0039】
更にまた、各突起部22の突出方向の弾性主軸は、何れもアウタ筒部材14の径方向に延びている。本実施形態では、2つの突起部22,22の弾性主軸が上下方向に延びていると共に、2つの突起部22,22の弾性主軸が左右方向に延びている。
【0040】
本実施形態では、周方向で隣り合って配された2つの突起部22,22は、全体が周方向で相互に離れており、例えば、基端部において周方向に5mm以上、より好適には10mm以上離れている。また、突起部22の突出寸法は、外周ゴム層20の内径寸法の半分よりも小さくされており、本実施形態では外周ゴム層20の内径寸法の1/3程度とされている。これにより、前後両側の突起部22,22および左右両側の突起部22,22は、それぞれ径方向で相互に離れて向き合うように配置されている。
【0041】
4つの突起部22,22,22,22は、外周ゴム層20を介してアウタ筒部材14に固着されており、突起部22,22,22,22が大きな固着面積でアウタ筒部材14に固着されている。更に、突起部22の基端部は、全周囲に向かって滑らかな湾曲状に広がっており、アウタ筒部材14の内周面を略全面に亘って一定の厚さ寸法で覆う外周ゴム層20に対して一体化されている。また、突起部22の軸方向寸法と周方向寸法が小さくされており、それらの寸法は突起部22の応力や変形が他の突起部22や外周ゴム層20に実質的に伝達されない大きさとされている。
【0042】
そして、アウタ筒部材14の内周面に固着された本体ゴム弾性体16の内周に、インナ軸部材12が挿通された状態で、本体ゴム弾性体16の4つの突起部22,22,22,22の各突出先端26がインナ軸部材12の筒状外周面18に非固着で押し付けられることにより、インナ軸部材12が本体ゴム弾性体16によって弾性支持されている。これにより、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16によって弾性連結された筒形モータマウント10が構成されている。
【0043】
インナ軸部材12の筒状外周面18が円形断面を有していると共に、突起部22が突出先端26に向けて周方向で狭幅となる先細形状とされていることから、突起部22の突出先端26におけるインナ軸部材12に対する当接面積は、静置状態において非常に小さくされている。具体的には、例えば、突起部22の基端部分における突出方向と直交する平面上での断面積に対して1/10以下とされている。
【0044】
これにより、本実施形態に係る筒形モータマウント10は、インナ軸部材12側をマス、本体ゴム弾性体16をばねとするマス-バネ系の径方向の共振周波数が、800Hz以上の高周波に設定されている。これにより、筒形モータマウント10は、マス-バネ系の反共振に起因する高動ばね化が800Hzよりも高周波において生じるようになっている。
【0045】
なお、筒形モータマウント10は、好適には、例えば、以下の如き製造方法によって製造され得る。
【0046】
先ず、予め準備したアウタ筒部材14を本体ゴム弾性体16の成形用金型にセットして、外周ゴム層20と複数の突起部22とを備える本体ゴム弾性体16を、アウタ筒部材14の内周面に固着された状態で加硫成形する。これにより、アウタ筒部材14の内周面を本体ゴム弾性体16の外周ゴム層20で覆うと共に、複数の突起部22をアウタ筒部材14から内周へ突出するように形成する。
【0047】
次に、
図5に示すように、予め準備したインナ軸部材12をアウタ筒部材14に固着された本体ゴム弾性体16の内周へ差し入れる。本実施形態では、前後方向又は左右方向で向かい合わせに配置された突起部22,22の突出先端26,26間の距離が、インナ軸部材12の外径寸法よりも大きくされており、インナ軸部材12が突起部22,22の間で締め込まれることなく隙間をもって差し入れられる。なお、本体ゴム弾性体16の一体加硫成形品24とインナ軸部材12は、例えば後述する縮径加工用の治具にそれぞれセットされることにより、相互に位置決めされた状態で保持される。
【0048】
また次に、インナ軸部材12が本体ゴム弾性体16に内挿された状態で、アウタ筒部材14に八方絞りなどの縮径加工を施す。そして、アウタ筒部材14の内周面に固着された本体ゴム弾性体16をアウタ筒部材14とともに縮径して、本体ゴム弾性体16の突起部22の突出先端26をインナ軸部材12の筒状外周面18に押し付ける。これにより、インナ軸部材12を複数の突起部22によって弾性支持して、インナ軸部材12とアウタ筒部材14を本体ゴム弾性体16によって弾性連結し、筒形モータマウント10を得る。
【0049】
なお、筒形モータマウント10において、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が同軸的に配されていることから、各突起部22の突出方向の弾性主軸は、インナ軸部材12の径方向に延びており、各突起部22は、突出先端26がインナ軸部材12の筒状外周面18に押し付けられることで突出方向に圧縮されている。本実施形態では、4つの突起部22,22,22,22がインナ軸部材12に対して上下両側と左右両側から径方向で押し付けられていることから、インナ軸部材12に作用する当接力が相殺されており、インナ軸部材12が当接力によって径方向でずれるのが防止されている。
【0050】
かくの如き構造とされた筒形モータマウント10は、
図2に示すように、インナ軸部材12が図示しないボルトなどによってモータ32に取り付けられると共に、アウタ筒部材14がサブフレームに圧入固定されるなどして車両ボデー34に取り付けられる。これにより、モータ32が車両ボデー34に対して筒形モータマウント10を介して防振連結されるようになっている。
【0051】
なお、図中では、インナ軸部材12がモータ32に直接的に取り付けられた構造が示されているが、例えば、インナ軸部材12とモータ32が図示しないブラケットを介して相互に取り付けられるようにしても良い。
【0052】
このような本実施形態に従う構造とされた筒形モータマウント10によれば、振動が入力されて、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が径方向で相対的に変位しても、インナ軸部材12と本体ゴム弾性体16が固着されておらず、本体ゴム弾性体16に対して引張応力が作用することがない。それ故、本体ゴム弾性体16に亀裂などの損傷などが生じ難く、本体ゴム弾性体16の耐久性の向上が図られる。
【0053】
また、インナ軸部材12と本体ゴム弾性体16が非固着とされることで本体ゴム弾性体16の耐久性が確保されることから、本体ゴム弾性体16の径方向の自由長を短く設定することができる。それ故、インナ軸部材12側のマス質量に寄与する本体ゴム弾性体16のゴムボリュームを小さくすることができて、インナ軸部材12側の実質的なマス質量が軽減されることによって、筒形モータマウント10の共振周波数をより高周波にチューニングすることが可能となる。
【0054】
さらに、本体ゴム弾性体16のインナ軸部材12に対する当接部分が、複数の突起部22とされており、インナ軸部材12側となる本体ゴム弾性体16の内周部分のゴムボリュームが小さくされていることから、本体ゴム弾性体16の寄与によるインナ軸部材12側のマス質量の増大が抑えられて、筒形モータマウント10の共振周波数を高周波に設定し易い。
【0055】
しかも、突起部22が突出先端26に向けて先細とされて、インナ軸部材12に押し付けられる突起部22の先端部分のゴムボリュームが一層小さくされていることから、本体ゴム弾性体16の寄与によるインナ軸部材12側のマス質量の増大が更に抑えられており、筒形モータマウント10の共振周波数を高周波に設定し易くなっている。
【0056】
加えて、本実施形態では、インナ軸部材12の筒状外周面18が外周に向けて凸となる湾曲形状とされていると共に、突起部22の突出先端26が内周に向けて凸となる湾曲形状とされていることから、インナ軸部材12の筒状外周面18に対する突起部22の当接面積が小さくされている。これにより、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の相対変位量が小さい状態において柔らかいばね特性が実現されると共に、突起部22の先端部分がインナ軸部材12側のマス質量に寄与し難くなっており、筒形モータマウント10の共振周波数を高周波に設定し易くなっている。
【0057】
これらにより、筒形モータマウント10は、共振現象(反共振)による高動ばね化が生じる周波数域をより高周波に設定することが可能とされており、電気自動車において高周波域まで低動ばね特性を要求される場合にも対応することができる。特に本実施形態では、筒形モータマウント10の径方向の共振周波数が800Hz以上の高周波にチューニングされており、反共振による高動ばね化が電気自動車の実用上で問題となり難いほどの高周波域において生じるようになっていることから、電気自動車において問題となる振動の周波数域では低動ばねによる防振性能を有効に得ることができる。
【0058】
また、本実施形態では、突起部22の基端部分が基端側に向けて周方向で幅広となっていることから、突起部22の変形安定性や耐久性の確保が実現されている。更に、突起部22は、突出方向において軸方向寸法が略一定とされているとともに周方向寸法が変化していることから、こじり方向の支持ばねを確保しつつ、軸直角方向の共振周波数の高周波化が図られている。また、突起部22が外周ゴム層20と一体形成されており、外周ゴム層20を介してアウタ筒部材14に固着されていることにより、突起部22のアウタ筒部材14に対する固着強度を大きく得ることができる。更にまた、外周ゴム層20の厚さ寸法が1mm以上とされていることにより、突起部22の基端部における応力分散も図られている。
【0059】
さらに、筒形モータマウント10は、反共振による高動ばね化が生じる周波数域がより高周波に設定されていることにより、例えば加減速などによって予め入力される荷重が変化しても、振動に対して低動ばね特性に基づいた防振性能が安定して発揮される。即ち、一般的に、停車時や略一定速度での安定走行時のように予め入力される荷重が比較的に小さい状態では、本体ゴム弾性体16の弾性変形量が比較的に小さいことから、振動入力に対する低動ばね特性が有効に発揮される一方、加減速などによって大きな荷重が入力されると、本体ゴム弾性体16が予め大きく弾性変形せしめられることから、その状態で振動が入力されると、荷重が小さい場合に比して硬いばね特性(高動ばね特性)が発揮され易い。ここにおいて、本実施形態の筒形モータマウント10では、反共振による高動ばね化が電気自動車において問題となる振動の周波数域よりも高周波において生じることから、ばね特性が比較的に硬くなる大きな予荷重が入力された状態においても、低動ばね特性による防振効果が有効に発揮される。具体的には、例えば、筒形モータマウント10を採用することにより、800Hz以下の周波数域において、予荷重の変化に関わらず1500N/mm以下の動的ばね定数を維持させることも可能となる。
【0060】
また、インナ軸部材12の筒状外周面18の断面形状が略真円形とされていることから、アウタ筒部材14を全周に亘って縮径加工して、4つの突起部22,22,22,22をインナ軸部材12の筒状外周面18に押し付ける際に、インナ軸部材12の位置ずれが生じ難い。
【0061】
さらに、インナ軸部材12の筒状外周面18が略真円形断面を有していると共に、4つの突起部22,22,22,22が周方向でバランスよく配されていることによって、筒形モータマウント10に対する径方向の振動入力時にインナ軸部材12が安定して弾性支持される。
【0062】
更にまた、4つの突起部22,22,22,22がインナ軸部材12の筒状外周面18に上下両側および左右両側から押し付けられており、各突起部22の弾性主軸がインナ軸部材12の径方向に延びている。それ故、4つの突起部22,22,22,22がインナ軸部材12の筒状外周面18に押し付けられる際に、インナ軸部材12の位置ずれが生じ難く、インナ軸部材12が安定して弾性支持されると共に、振動入力時にもインナ軸部材12が安定した弾性支持状態に保持される。
【0063】
図6には、本発明の第二の実施形態としての電気自動車用の筒形モータマウント40を示す。筒形モータマウント40は、インナ軸部材12が本体ゴム弾性体42の一体加硫成形品44に非固着で取り付けられて、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体42によって弾性連結された構造を有している。以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部位および部材には、図中に同一の符号を付すことにより、説明を省略する。
【0064】
より詳細には、本体ゴム弾性体42は、アウタ筒部材14の内周面に固着されており、外周ゴム層20から内周へ向けて突出する4つの突起部46,46,46,46を備えている。
【0065】
突起部46は、突出先端26に向けて周方向で狭幅となる先細形状を有していると共に、突出先端26には凹部48が形成されている。凹部48は、突起部46の突出先端26に開口しており、本実施形態では軸方向の略全長に亘って直線的に連続する溝状とされている。更に、本実施形態の凹部48の内面は、インナ軸部材12の筒状外周面18と略対応する曲率で周方向に広がる湾曲面とされている。尤も、凹部48の具体的な形状は特に限定されず、必ずしもインナ軸部材12の筒状外周面18に対応する凹状湾曲面で構成された内面を有していなくて良い。
【0066】
そして、
図7に示すように、インナ軸部材12が本体ゴム弾性体42の内周へ挿入された状態でアウタ筒部材14が縮径されることにより、
図6に示すように、突起部46の突出先端26がインナ軸部材12の筒状外周面18に押し付けられている。
【0067】
ここにおいて、本実施形態では、インナ軸部材12の筒状外周面18が、突起部46の突出先端26に設けられた凹部48に入り込んで、凹部48の内面に当接しており、突起部46の突出先端26がインナ軸部材12に対して凹部48によって周方向で位置決めされ易くなっている。それ故、突起部46の突出先端26がインナ軸部材12の筒状外周面18に押し付けられることで、突起部46が突出方向で所定の量だけ圧縮されて、インナ軸部材12が複数の突起部46の間で安定して弾性支持される。
【0068】
特に本実施形態では、凹部48の内面がインナ軸部材12の筒状外周面18に対応する湾曲凹面とされていることから、突起部46のインナ軸部材12に対する周方向での位置決めがより効果的に実現される。
【0069】
図8,9には、本発明の第三の実施形態として、電気自動車用の筒形モータマウント50を示す。筒形モータマウント50は、インナ軸部材51が本体ゴム弾性体52の一体加硫成形品54に非固着で取り付けられて、インナ軸部材51とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体52によって弾性連結された構造を有している。
【0070】
本実施形態のインナ軸部材51は、
図9に示すように、外周面に開口する位置決め凹部56を備えている。位置決め凹部56は、略半円形の断面形状で周方向に延びる環状の凹溝とされており、インナ軸部材51の軸方向中央部分に形成されている。
【0071】
また、本体ゴム弾性体52は、複数の突起部57を備えている。突起部57は、
図9,10に示すように、突出先端26に位置決め凸部58が一体形成されている。位置決め凸部58は、小径の略半球形状であることによって先端側に向けて小径となる先細形状を有しており、突起部57の周方向および軸方向の略中央において突起部57の突出先端26から内周へ突出している。
【0072】
そして、インナ軸部材51は、
図11,12に示すように、アウタ筒部材14に固着された本体ゴム弾性体52の内周へ差し入れられる。本実施形態では、径方向に対向する突起部57,57の位置決め凸部58,58間の距離は、インナ軸部材51における位置決め凹部56を外れた部分の外径寸法よりも大きくされており、インナ軸部材51を複数の突起部57の突出先端26間へ差し入れる際に、位置決め凸部58,58がインナ軸部材51に押し付けられることがないようになっている。尤も、位置決め凸部58,58間の距離がインナ軸部材51における位置決め凹部56を外れた部分の外径寸法よりも小さくされて、インナ軸部材51が位置決め凸部58を弾性変形させながら複数の突起部57の内周側へ差し入れられるようにしても良い。
【0073】
このようにインナ軸部材51が本体ゴム弾性体52の内周へ差し入れられた状態で、アウタ筒部材14が縮径されることにより、本体ゴム弾性体52の突起部57がインナ軸部材51の筒状外周面18に押し付けられて、インナ軸部材51が本体ゴム弾性体52によって弾性支持される。ここにおいて、突起部57の位置決め凸部58がインナ軸部材51の位置決め凹部56に差し入れられており、突起部57とインナ軸部材51が位置決め凸部58と位置決め凹部56によって軸方向で相対的に位置決めされている。これにより、インナ軸部材51が本体ゴム弾性体52に対して軸方向に抜け難くなっており、インナ軸部材51と本体ゴム弾性体52の一体加硫成形品54が軸方向で安定して位置決め保持される。しかも、各突起部57のインナ軸部材51に対する軸方向での位置が、位置決め凸部58と位置決め凹部56によって保持されることから、インナ軸部材51が複数の突起部57の間で安定して弾性支持される。
【0074】
本実施形態の位置決め凹部56と位置決め凸部58は、互いに対応する軸方向位置に形成されていると共に、縦断面において互いに略対応する形状とされていることで、位置決め凸部58を位置決め凹部56に差し入れることが可能とされている。
【0075】
なお、本実施形態では、位置決め凹部56が周方向に延びる凹溝とされていることから、インナ軸部材51と本体ゴム弾性体52が位置決め凸部58と位置決め凹部56によって軸方向で位置決めされるようになっていたが、例えば、位置決め凹部が位置決め凸部58に対応する円形の凹所とされていれば、インナ軸部材51と本体ゴム弾性体52を位置決め凸部58と位置決め凹部によって軸方向と周方向の両方で位置決めすることも可能となる。更に、位置決め凹部が軸方向に延びる凹溝とされて、位置決め凹部と位置決め凸部58によってインナ軸部材51と本体ゴム弾性体52が周方向で位置決めされるようにもできる。
【0076】
図13には、本発明の第四の実施形態として、電気自動車用の筒形モータマウント60を示す。筒形モータマウント60は、インナ軸部材62が本体ゴム弾性体64の一体加硫成形品66に非固着で取り付けられて、インナ軸部材62とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体64によって弾性連結された構造を有している。
【0077】
本実施形態のインナ軸部材62は、略楕円形断面を有する筒状外周面68を備えており、上下方向が短軸とされているとともに左右方向が長軸とされている。なお、インナ軸部材62の内周面は、略円形断面とされており、インナ軸部材62の周壁の上下厚さ寸法が左右厚さ寸法よりも小さくされている。
【0078】
また、本体ゴム弾性体64は、上下の突起部70,70と左右の突起部72,72を備えている。上下の突起部70,70と左右の突起部72,72は、何れも各突出先端26に向けて周方向で幅狭となる先細形状を有していると共に、上下の突起部70,70の突出方向の寸法が左右の突起部72,72の突出方向の寸法よりも大きくされている。これにより、上下の突起部70,70間の径方向距離が、左右の突起部72,72間の径方向距離よりも小さくされているが、内周面を楕円形断面として上下厚さ寸法と左右厚さ寸法を略同じにすることも可能である。
【0079】
そして、インナ軸部材62は、
図14に示すように、アウタ筒部材14に固着された本体ゴム弾性体64の内周へ差し入れられる。本実施形態では、上下の突起部70,70の上下方向の距離が、インナ軸部材62の短軸方向の外径寸法よりも大きくされていると共に、左右の突起部72,72の左右方向の距離が、インナ軸部材62の長軸方向の外径寸法よりも大きくされている。これにより、インナ軸部材62を上下の突起部70,70および左右の突起部72,72の内周側へ差し入れる際に、上下の突起部70,70および左右の突起部72,72の各突出先端26が、インナ軸部材62に押し付けられないようになっている。本実施形態では、上下の突起部70,70の突出寸法が左右の突起部72,72の突出寸法よりも大きくされていることから、上下の突起部70,70の径方向間の距離とインナ軸部材62の短軸方向の外径寸法との差と、左右の突起部72,72の径方向間の距離とインナ軸部材62の長軸方向の外径寸法との差とが、略同じとされている。
【0080】
このように、インナ軸部材62が本体ゴム弾性体64の内周へ差し入れられた状態で、アウタ筒部材14が縮径されることにより、本体ゴム弾性体64の上下の突起部70,70がインナ軸部材62の筒状外周面18に短軸方向で押し付けられていると共に、左右の突起部72,72がインナ軸部材62の筒状外周面18に長軸方向で押し付けられており、インナ軸部材62が本体ゴム弾性体64によって弾性支持される。本実施形態では、上下の突起部70,70の突出寸法が左右の突起部72,72の突出寸法よりも大きくされていることにより、それら突起部70,70,72,72のインナ軸部材62への当接力が略同じとされている。
【0081】
このような本実施形態に従う構造とされた筒形モータマウント60によれば、上下方向と左右方向で異なるばね特性を設定し易くなる。即ち、インナ軸部材62の筒状外周面18が楕円形断面を有しているとともにアウタ筒部材14の内周面が円形断面を有していることから、インナ軸部材62とアウタ筒部材14の径方向間のスペースが、インナ軸部材62の短軸方向において長軸方向よりも大きくなる。従って、上下の突起部70,70と左右の突起部72,72の径方向の突出寸法を互いに異ならせることが容易となって、上下方向と左右方向のばね比を調節し易くなる。なお、本実施形態では、上下の突起部70,70の上下寸法が左右の突起部72,72の左右寸法よりも大きくされており、上下方向のばねが左右方向のばねよりも柔らかく設定されている。
【0082】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、突起部の形状は、突出先端に向けて周方向で幅狭となる先細形状とされていれば、特に限定されるものではなく、例えば、周方向両面が平面で構成された形状なども採用され得る。
【0083】
さらに、複数の突起部は、互いに異なる形状とされていても良い。具体的には、例えば、モータの分担支持荷重が特定の径方向に静荷重として及ぼされる場合には、特定の突起部が分担支持荷重によって圧縮されることを考慮して、当該特定の突起部を他の突起部とは異なる形状とすることもできる。
【0084】
また、突起部の数は、複数であれば、前記実施形態で示した4つに限定されるものではなく、例えば、3つであっても良いし、5つ以上であっても良い。
【0085】
また、突起部は、突出方向の弾性主軸がインナ軸部材の径方向に延びていることが望ましいが、突起部の弾性主軸の方向は、必ずしもインナ軸部材の径方向と一致していなくても良い。
【0086】
また、インナ軸部材は、本体ゴム弾性体の内周へ差し入れられる際に、締め代をもって圧入状態で差し入れられるようにもできる。この場合には、インナ軸部材を本体ゴム弾性体の内周へ差し入れた後でアウタ筒部材に縮径加工を施しても良いし、差し入れられることで本体ゴム弾性体の突起部がインナ軸部材の筒状外周面に十分に押し付けられるようにしても良い。
【0087】
また、インナ軸部材は、必ずしもストレートな筒状に限定されず、例えば、軸方向の中央部分が部分的に拡径されていても良いし、軸方向の中央部分に環状乃至は筒状の別部材が外挿状態で固定されていても良い。更に、インナ軸部材は中実であっても良く、例えば、中実ロッド状とされていると共に、軸方向端部に板状の取付部が設けられており、取付部に貫通されたボルト孔に挿通されるボルトによって、インナ軸部材がモータに取り付けられる構造も採用可能である。
【0088】
また、アウタ筒部材は、縮径加工の容易さから略真円形断面の円筒形状であることが望ましいが、例えば、楕円筒形状などであっても良い。
【0089】
本明細書に記載の発明は、以下に記載の方法の態様を含む。
すなわち、本明細書に開示する方法の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって弾性連結された電気自動車用の筒形モータマウントの製造方法であって、(i)前記本体ゴム弾性体を成形して前記アウタ筒部材の内周面に固着し、該アウタ筒部材から内周へ向けて突出する複数の突起部を該本体ゴム弾性体に形成する工程と、(ii)予め準備された前記インナ軸部材を該アウタ筒部材に固着された該本体ゴム弾性体の内周へ差し入れた後、該アウタ筒部材を縮径加工して、該本体ゴム弾性体の該複数の突起部の突出先端を該インナ軸部材の外周面に押し付ける工程とを、含むことを特徴とする。
このような方法の態様に従う電気自動車用の筒形モータマウントの製造方法によれば、複数の突起部の内周にインナ軸部材を圧入する場合に比して、インナ軸部材を複数の突起部に対して適切な位置に配置し易い。しかも、複数の突起部がインナ軸部材の筒状外周面に摺接して曲がるように変形することがなく、例えば複数の突起部の突出先端をインナ軸部材の筒状外周面に突き当て易くなることから、インナ軸部材が複数の突起部によって適当な態様で安定して弾性支持される。
【符号の説明】
【0090】
10,40,50,60:筒形モータマウント、12,51,62:インナ軸部材、14:アウタ筒部材、16,42,52,64:本体ゴム弾性体、18,68:筒状外周面、22,46,57,70,72:突起部、26:突出先端、32:モータ、34:車両ボデー、48:凹部、56:位置決め凹部、58:位置決め凸部