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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】化合物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0784 20100101AFI20220526BHJP
   A61K 31/409 20060101ALI20220526BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220526BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20220526BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20220526BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220526BHJP
   A61K 41/00 20200101ALI20220526BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220526BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220526BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20220526BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220526BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220526BHJP
   C07D 487/22 20060101ALI20220526BHJP
   C07K 14/535 20060101ALI20220526BHJP
   C08B 37/08 20060101ALI20220526BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20220526BHJP
   C12N 5/0786 20100101ALI20220526BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20220526BHJP
【FI】
C12N5/0784 ZNA
A61K31/409
A61K35/12
A61K35/15 Z
A61K38/19
A61K39/00 H
A61K41/00
A61K45/00
A61K47/36
A61K47/61
A61P35/00
A61P37/04
C07D487/22
C07K14/535
C08B37/08 A
C12N5/078
C12N5/0786
C12N5/09
【請求項の数】 31
(21)【出願番号】P 2020123157
(22)【出願日】2020-07-17
(62)【分割の表示】P 2017511702の分割
【原出願日】2015-08-28
(65)【公開番号】P2020182486
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2020-08-14
(31)【優先権主張番号】1415247.4
(32)【優先日】2014-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(31)【優先権主張番号】1420773.2
(32)【優先日】2014-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512038148
【氏名又は名称】ピーシーアイ バイオテック エイエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ホッグセット、アンダース
(72)【発明者】
【氏名】ヨハンセン、パル
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/097976(WO,A1)
【文献】特表2011-522837(JP,A)
【文献】特表2004-520823(JP,A)
【文献】国際公開第2013/189663(WO,A1)
【文献】特表2007-510759(JP,A)
【文献】Journal of Controlled Release, 2014, Vo.174, p.143-150
【文献】European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 2013, Vol.85, p.34-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/0784
A61K 31/409
A61K 35/12
A61K 35/15
A61K 38/19
A61K 39/00
A61K 41/00
A61K 45/00
A61K 47/36
A61K 47/61
A61P 35/00
A61P 37/04
C07D 487/22
C07K 14/535
C08B 37/08
C12N 5/078
C12N 5/0786
C12N 5/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原提示細胞の表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現させる、インビトロまたはエキソビボで行われる方法であって、
前記細胞を抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカインと接触させること、並びに、光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を細胞に照射すること、を含み、
前記抗原分子は、前記細胞のサイトゾルに放出され、その後、前記抗原分子または前記抗原分子の一部が、細胞の表面に提示され、
前記サイトカインはGM-CSFであり、
前記光感作性薬剤は、スルホン化アルミニウムフタロシアニン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、スルホン化テトラフェニルクロリン、又は、スルホン化テトラフェニルバクテリオクロリンである、方法。
【請求項2】
前記抗原分子は、免疫応答を刺激することができる分子である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抗原分子は、ワクチン抗原またはワクチン成分である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記抗原提示によって免疫応答が刺激される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記光感作性薬剤は、TPCS2a、AlPcS2a、TPPS4、およびTPBS2aから選択され、または光増感剤と式(I)で定義されるキトサンとの抱合体である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【化1】
ここで、nは3以上の整数であり、
RはRn基を与えるために前記化合物においてn回現れ、
抱合体は、
抱合体17: B:25%、A:75%
【化2】

抱合体19: B:25%、A:75%
【化3】

抱合体33: B:10%、A:90%
【化4】

抱合体37: B:10%、A:90%
【化5】
とから選択される。
【請求項6】
前記光感作性薬剤は、TPCS2aである、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記抗原分子は、ペプチドである、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記細胞は、リンパ球、樹状細胞、マクロファージ、または癌細胞である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
抗原分子および光感作性薬剤がそれぞれ同じ細胞内に取り込まれるように、前記細胞を、前記抗原分子、前記光感作性薬剤、および前記サイトカインと、同時に、別々に、または順次に接触させる、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
抗原分子光感作性薬剤およびサイトカインがそれぞれ同じ細胞内に取り込まれるように、前記細胞を、前記抗原分子、前記光感作性薬剤、および前記サイトカインと、同時に、別々に、または順次に接触させる、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
抗原分子と、光感作性薬剤と、サイトカインと、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤とを含み、
前記サイトカインがGM-CSFであり、
前記光感作性薬剤は、スルホン化アルミニウムフタロシアニン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、スルホン化テトラフェニルクロリン、又は、スルホン化テトラフェニルバクテリオクロリンである、医薬組成物。
【請求項12】
a)前記抗原分子は、
i)免疫反応を刺激することができる分子、
ii)ワクチン抗原又はワクチン成分、及び/又は
iii)ペプチドであり、
及び/又は、
b)前記光感作性薬剤は、TPCS2a、AlPcS2a、TPPS4、及びTPBS2aから選択される、あるいは、下記抱合体17、19、33又は37である、
請求項11に記載の医薬組成物。
抱合体17: B:25%、A:75%
【化6】
抱合体19: B:25%、A:75%
【化7】
抱合体33: B:10%、A:90%
【化8】
抱合体37: B:10%、A:90%
【化9】
【請求項13】
被験体の予防または治療に用いる抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカインであって、
前記サイトカインがGM-CSFであり、
前記光感作性薬剤は、スルホン化アルミニウムフタロシアニン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、スルホン化テトラフェニルクロリン、又は、スルホン化テトラフェニルバクテリオクロリンである
抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカイン。
【請求項14】
a)前記抗原分子は、
i)免疫反応を刺激することができる分子、
ii)ワクチン抗原又はワクチン成分、及び/又は
iii)ペプチドであり、
及び/又は、
b)前記光感作性薬剤は、TPCS2a、AlPcS2a、TPPS4、及びTPBS2aから選択される、あるいは、下記抱合体17、19、33又は37である、
請求項13に記載の抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカイン。
抱合体17: B:25%、A:75%
【化10】
抱合体19: B:25%、A:75%
【化11】
抱合体33: B:10%、A:90%
【化12】
抱合体37: B:10%、A:90%
【化13】
【請求項15】
被験体の免疫応答を刺激するのに用いられる、請求項13又は14に記載の抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカイン。
【請求項16】
免疫応答を引き起こす抗原提示細胞の表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現させるために被験体の抗原提示細胞に対して行われる請求項1から10のいずれか1項に記載の方法で使用される、請求項15に記載の抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカイン。
【請求項17】
細胞集団を調製するために請求項1から10のいずれか1項に記載の方法で使用され、
前記サイトカインはGM-CSFであり、
前記光感作性薬剤は、スルホン化アルミニウムフタロシアニン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、スルホン化テトラフェニルクロリン、又は、スルホン化テトラフェニルバクテリオクロリンである
請求項13から16のいずれかに記載の抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカイン。
【請求項18】
前記細胞集団は、前記被験体に投与されるものである、請求項17に記載の抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカイン。
【請求項19】
被験体の免疫応答を刺激するための薬物の製造における抗原分子、および/または光感作性薬剤、および/またはサイトカインの使用であって、
前記免疫応答は、免疫応答を引き起こす抗原提示細胞の表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現させるために被験体の抗原提示細胞に対して行われる請求項1から10に記載の方法で刺激され、
前記サイトカインがGM-CSFであり、
前記光感作性薬剤は、スルホン化アルミニウムフタロシアニン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、スルホン化テトラフェニルクロリン、又は、スルホン化テトラフェニルバクテリオクロリンである、使用。
【請求項20】
a)前記抗原分子は、
i)免疫反応を刺激することができる分子、
ii)ワクチン抗原又はワクチン成分、及び/又は
iii)ペプチドであり、
及び/又は、
b)前記光感作性薬剤は、TPCS2a、AlPcS2a、TPPS4、及びTPBS2aから選択される、あるいは、下記抱合体17、19、33又は37である、
請求項19に記載の使用。
抱合体17: B:25%、A:75%
【化14】
抱合体19: B:25%、A:75%
【化15】
抱合体33: B:10%、A:90%
【化16】
抱合体37: B:10%、A:90%
【化17】
【請求項21】
前記薬物は、抗原分子または抗原分子の一部を細胞表面に発現する細胞集団であって、前記被験体に投与するために請求項1から10のいずれか1項に記載の方法によって得ることができる細胞集団を含む、請求項19又は20に記載の使用。
【請求項22】
請求項1から10のいずれか1項に記載の方法において、前記抗原分子、および/または前記光感作性薬剤、および/または前記サイトカインを用いて、前記薬物の製造のための前記細胞集団を得る、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
被験体の免疫応答を刺激するのに同時に、別々に、または順次に用いるための、あるいは、免疫応答を引き起こす抗原提示細胞の表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現させるために被験体の抗原提示細胞に対して行われる請求項1から10のいずれか1項に記載の方法において、細胞表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現させるための、組み合わせ製剤として、抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカインを含む、医薬品であって、
前記抗原分子および光感作性薬剤がそれぞれ同じ細胞に取り込まれ、
前記サイトカインはGM-CSFであり、
前記光感作性薬剤は、スルホン化アルミニウムフタロシアニン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、スルホン化テトラフェニルクロリン、又は、スルホン化テトラフェニルバクテリオクロリンである、医薬品。
【請求項24】
被験体の免疫応答を刺激するのに同時に、別々に、または順次に用いるための、あるいは、免疫応答を引き起こす抗原提示細胞の表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現させるために被験体の抗原提示細胞に対して行われる請求項1から10のいずれか1項に記載の方法において、細胞表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現させるための、組み合わせ製剤として、抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカインを含む、医薬品であって、
前記抗原分子光感作性薬剤およびサイトカインがそれぞれ同じ細胞に取り込まれ、
前記サイトカインはGM-CSFであり、
前記光感作性薬剤は、スルホン化アルミニウムフタロシアニン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、スルホン化テトラフェニルクロリン、又は、スルホン化テトラフェニルバクテリオクロリンである、医薬品。
【請求項25】
a)前記抗原分子は、
i)免疫反応を刺激することができる分子、
ii)ワクチン抗原又はワクチン成分、及び/又は
iii)ペプチドであり、
及び/又は、
b)前記光感作性薬剤は、TPCS2a、AlPcS2a、TPPS4、及びTPBS2aから選択される、あるいは、下記抱合体17、19、33又は37である、
請求項23又は24に記載の医薬品。
抱合体17: B:25%、A:75%
【化18】
抱合体19: B:25%、A:75%
【化19】
抱合体33: B:10%、A:90%
【化20】
抱合体37: B:10%、A:90%
【化21】
【請求項26】
被験体の免疫応答を刺激するのに用いるための、あるいは、免疫応答を引き起こす抗原提示細胞の表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現させるために被験体の抗原提示細胞に対して行われる請求項1から10のいずれか1項に記載の方法において、細胞表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現させるための、キットであって、
光感作性薬剤を含む第1の容器と、
抗原分子を含む第2の容器と、
GM-CSFであるサイトカインを含む第3の容器と、を含み、
前記光感作性薬剤は、スルホン化アルミニウムフタロシアニン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、スルホン化テトラフェニルクロリン、又は、スルホン化テトラフェニルバクテリオクロリンである
キット。
【請求項27】
a)前記抗原分子は、
i)免疫反応を刺激することができる分子、
ii)ワクチン抗原又はワクチン成分、及び/又は
iii)ペプチドであり、
及び/又は、
b)前記光感作性薬剤は、TPCS2a、AlPcS2a、TPPS4、及びTPBS2aから選択される、あるいは、下記抱合体17、19、33又は37である、
請求項26に記載のキット。
抱合体17: B:25%、A:75%
【化22】
抱合体19: B:25%、A:75%
【化23】
抱合体33: B:10%、A:90%
【化24】
抱合体37: B:10%、A:90%
【化25】
【請求項28】
a)被験体の疾患、障害または感染を治療または予防するための、及び/又は、b)予防接種および/または癌を治療または予防するための、請求項19から22のいずれかに記載の使用であって、
c)前記被験体がヒトである、使用。
【請求項29】
a)被験体の疾患、障害または感染を治療または予防するための、及び/又は、b)予防接種および/または癌を治療または予防するための、請求項13から18のいずれかに記載の抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカインであって、
c)前記被験体がヒトである、抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカイン。
【請求項30】
a)被験体の疾患、障害または感染を治療または予防するための、及び/又は、b)予防接種および/または癌を治療または予防するための、請求項23から25のいずれかに記載の医薬品であって、
c)前記被験体がヒトである、医薬品。
【請求項31】
a)被験体の疾患、障害または感染を治療または予防するための、及び/又は、b)予防接種および/または癌を治療または予防するための、請求項26または27に記載のキットであって、
c)前記被験体がヒトである、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光感作性薬剤と、ワクチン成分などの抗原分子と、本明細書で定義されるサイトカインであって、光化学的内在化(PCI)媒介性予防接種の効果を増強する薬剤とを用い、光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を照射する、予防接種方法または免疫化方法に関する。本発明は、また、このような方法に有用なワクチン組成物などの抗原組成物に関する。本発明は、また、例えば予防接種のために、免疫応答を起こすのに用いられ得る抗原提示細胞を産生する方法であって、上述したものと同じ成分を用いてワクチン成分などの抗原分子を細胞に導入し抗原提示を達成する方法、およびこのような方法に有用な抗原組成物を提供する。本発明は、また、このような方法によってインビトロで産生された細胞の使用であって、例えば予防接種を達成するなど、免疫応答を誘起させるためにインビボで患者に投与するための細胞の使用を提供する。抗原分子を細胞内に内在化する方法も提供される。
【背景技術】
【0002】
予防接種は、免疫系を刺激して病原体に対する適応免疫の獲得を促進するために、抗原分子を投与することを含む。ワクチンは、感染による罹患状態を予防または改善することができる。予防接種は、感染症を予防する最も有効な方法であり、予防接種による免疫の普及が、天然痘の世界的な根絶並びにポリオ、はしか、および破傷風などの疾患を世界の多くの地域で制限することに大いに貢献している。
【0003】
ワクチンの作用剤は、原因となる病原体の完全だが不活化された(感染しない)または弱められた(感染性が減じられた)形態であってもよく、免疫性であることが見出されている病原体の精製成分(例えば、ウイルスの外被タンパク質など)であってもよい。毒素による疾患に対する免疫化のために、例えば毒性作用は除くが免疫原性作用は保持するようにした破傷風のテタノスパスミン毒素の改変体などの、トキソイドが生産される。
【0004】
たいていのワクチンは、エンドサイトーシスにより抗原提示細胞に取り込まれ、MHCクラスII経路を介した抗原の切断および提示のために、エンドソームを介してリソソームに輸送されるので、予防接種によって、主にCD4 Tヘルパー細胞およびB細胞が活
性化される。癌などの障害または疾患、さらには細胞内感染と闘うためには、細胞障害性CD8 T細胞応答を刺激することが重要である。しかしながら、サイトゾルおよび抗原
提示のMHCクラスI経路に抗原を送達することが困難であるために、通常、細胞障害性CD8 T細胞は誘導されない。光化学的内在化(PCI)によってサイトゾルへの分子
の送達が改善されるため、PCIを採用する予防接種方法が知られている。PCIは、光感作性薬剤を、該薬剤を活性化する照射工程と組み合わせて用いる技術であり、細胞に同時投与された分子を該細胞のサイトゾルへ放出させることが知られている。この技術により、細胞によってエンドソームなどの細胞小器官に取り込まれた分子が、照射後に、これら細胞小器官からサイトゾルへ放出される。PCIは、広範な細胞の破壊または細胞死を招かない様式で、本来膜不透過性(または、難透過性)の分子を細胞のサイトゾルに導入する機構を提供する。
【0005】
光化学的内在化(PCI)の基本的方法は、国際公開第96/07432号および国際公開第00/54802号に記述されており、これらは参照により本明細書に援用される。このような方法においては、内在化される分子(本発明においては、抗原分子)および光感作性薬剤を、細胞と接触させる。光感作性薬剤および内在化される分子は、細胞内の細胞膜結合性サブコンパートメントに取り込まれる、すなわち、細胞内小胞(例えば、リソソームまたはエンドソーム)にエンドサイトーシスされる。細胞を適切な波長の光に曝
露すると、細胞内小胞の膜を破壊する反応性種を直接的または間接的に生成する光感作性薬剤が活性化される。これによって、内在化された分子がサイトゾルに放出される。
【0006】
このような方法においては、たいていの細胞は、機能性または生存率に有害な影響を受けないということが見出された。したがって、「光化学的内在化」と名付けられたこのような方法の有用性が、治療薬を含む様々な異なる分子の、サイトゾル、すなわち細胞の内部への輸送に対して提案された。
【0007】
国際公開第00/54802号では、このような一般的な方法を利用して、細胞表面に輸送分子を提示または発現している。したがって、細胞のサイトゾルへ分子が輸送され放出された後、その分子(または分子の一部)は、細胞の表面へ輸送され、そこで細胞の外側、すなわち細胞表面に提示されてもよい。このような方法は、予防接種の分野において特に有用であり、免疫応答を誘導、促進、または増強させるために、ワクチン成分、すなわち抗原または免疫原が細胞に導入され、細胞の表面で提示されてもよい。
【発明の概要】
【0008】
予防接種は、いくつかの注目すべき成功をおさめてきているが、改善された別の予防接種方法がいまだ必要とされている。本発明は、この必要性に応えるものである。
【0009】
驚くべきことに、本発明者らは、光感作性薬剤と、ワクチン成分などの抗原分子と、本明細書で定義されるサイトカインである薬剤とを用い、光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を照射する方法によって、有利に予防接種が改善される、または免疫応答が改善されることを見出した。
【0010】
下記実施例においてより詳細に述べるように、本発明の方法によって、抗原特異的T細胞の産生量が増加するなど、改善された予防接種、または改善された免疫応答が提供される。相乗効果が得られることも期待される。
【0011】
理論に拘束されることを望むものではないが、本発明の方法によって、MHCクラスI分子に対する抗原提示が増大して、CD8+ T細胞応答が増大し、これによって予防接
種方法が改善されると考えられる。実施例で述べる通り、MHCクラスI提示を評価するために、OT-1細胞を利用するモデル系を用いることができる(例えば、Delamarreら、J. Exp. Med. 198:111~122、2003を参照)。この
モデル系においては、抗原エピトープSIINFEKLのMHCクラスI提示によってOT-1 T細胞が活性化され、抗原特異的T細胞の増殖、あるいはIFNγまたはIL-
2の産生量の増大における増加量として、この活性化を測定することができる。
【0012】
したがって、本発明は、第一の態様において、細胞の表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現させる方法を提供する。該方法は、細胞を抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカインである薬剤と接触させること、並びに、光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を細胞に照射すること、を含み、前記抗原分子は、細胞のサイトゾルに放出され、その後、前記抗原分子または抗原分子の一部が、細胞の表面に提示される。
【0013】
好ましくは、本方法(および続いて述べる方法)は、該方法において、上述した3つの有効成分(薬剤)のみを用い、該薬剤は、本方法の効能に影響を及ぼす(すなわち、PCI予防接種/抗原提示/免疫応答刺激を増強するのに能動的な役割を果たす)ように、本方法において適切なレベル(例えば、以下で述べる最小レベル)で存在する。したがって、薬剤は、好ましくは、他の有効成分を含まないバッファー中に存在する。
【0014】
このような方法においては、上記抗原分子および上記光感作性薬剤、および必要に応じ
て本明細書で定義されるサイトカインである上記薬剤は、それぞれ細胞内小胞に取り込まれ、細胞に照射を行うと、細胞内小胞の膜が破壊されて、抗原分子が細胞のサイトゾルに放出される。
【0015】
種々の薬剤は、同一の細胞内小胞に取り込まれてもよいし、互いに異なる細胞内小胞に取り込まれてもよい。光増感剤によって産生される活性種が、それらが包含されている小胞を越えて広がり得ること、および/または破壊された小胞と一体化することで小胞が内容物を放出することができるように、小胞が一体化し得ることが見出されている。本明細書で言及される「取り込まれる」とは、取り込まれた分子が小胞内に完全に包含されていることを意味する。細胞内小胞は、膜によって区切られており、例えばエンドソームまたはリソソームなどの、エンドサイトーシス後に生じる小胞であればどのようなものでもよい。
【0016】
本明細書で用いられる「破壊された」区画とは、その区画の膜の完全性が、永久にまたは一時的に、その区画に包含されている抗原分子を放出できるほど十分に壊されていることを意味する。
【0017】
本明細書で言及される「光感作性薬剤」は、該薬剤が適切な波長および強度の照射で活性化して活性種を生成する際に、吸収した光エネルギーを化学反応へ転換することができる化合物である。このプロセスにおける高反応性最終生成物は、細胞毒性および血管毒性を生じ得る。このような光感作性薬剤は、好都合には、細胞内区画、特にエンドソームまたはリソソームに局在するものであってもよい。
【0018】
光増感剤は、様々な機構により、直接的または間接的に、その効果を発揮してもよい。したがって、例えば、ある光増感剤は、光によって活性化された際に直接的な毒性を有し、別の光増感剤は、細胞材料並びに脂質、タンパク質、および核酸などの生体分子にとって極めて有害な、一重項酸素または他の活性酸素種のような酸化剤などの毒性種を生成する。
【0019】
このような光感作性薬剤として様々なものが当該技術分野において知られており、参照により本明細書に援用される国際公開第96/07432号などの文献中で述べられている。本発明の方法において、このような薬剤を用いてもよい。ポルフィリン、フタロシアニン、プルプリン、クロリン、ベンゾポルフィリン、リソソーム作用性弱塩基、ナフタロシアニン、カチオン系染料、およびテトラサイクリン、またはこれらの誘導体を含む、多くの光感作性薬剤が知られている(Bergら、(1997)、 J. Photochemistry and Photobiology、65、403~409)。他の光感作性薬剤として、テキサフィリン、フェオホルビド、ポルフィセン、バクテリオクロリン、ケトクロリン、ヘマトポルフィリン誘導体、および5-アミノレブリン酸およびその誘導体によって誘導される内因性光増感剤、フォトフリン、光増感剤の二量体またはその他の抱合体などが挙げられる。
【0020】
ポルフィリンは、最も広く研究されている光感作性薬剤である。その分子構造は、メチン架橋を介して連結されたピロール環を4つ含む。ポルフィリンは、金属錯体を形成可能であることが多い、天然化合物である。例えば、酸素輸送タンパク質であるヘモグロビンの場合、ヘムBのポルフィリン中心に鉄原子が導入される。
【0021】
クロリンは、中心が4つのメチン結合によって連結した3つのピロールと1つのピロリンからなる、大きな芳香族複素環である。したがって、クロリンは、ポルフィリンとは異なり、おおむね芳香族性であるが、環の外周全体でみると芳香族性をもたない。
【0022】
当業者は、どの光増感剤が本発明での使用に適しているかを理解するであろう。特に、細胞のエンドソームまたはリソソームに位置する光感作性薬剤が好ましい。したがって、光感作性薬剤は、好ましくはリソソームまたはエンドソームの内部区画に取り込まれる薬剤である。光感作性薬剤は、好ましくは、エンドサイトーシスによって細胞内区画に取り込まれる。好ましい光増感剤は、ジスルホン化アルミニウムフタロシアニンおよびテトラスルホン化アルミニウムフタロシアニン(例えば、AlPcS2a)、スルホン化テトラフェニルポルフィン(TPPSn)、スルホン化テトラフェニルバクテリオクロリン(例え
ば、TPBS2a)、ナイルブルー、クロリンe6誘導体、ウロポルフィリンI、フィロエ
リスリン、ヘマトポルフィリン、およびメチレンブルーである。本発明での使用に適したさらなる光増感剤は、参照として本明細書に援用される国際公開第03/020309号において述べられており、すなわち、スルホン化メソ-テトラフェニルクロリンであり、好ましくはTPCS2aである。好ましい光感作性薬剤は、両親媒性のフタロシアニン、ポルフィリン、クロリン、および/またはバクテリオクロリンなどの両親媒性光増感剤(例えば、ジスルホン化光増感剤)であり、特に、TPPS2a(ジスルホン酸テトラフェニルポルフィン)、AlPcS2a(ジスルホン酸アルミニウムフタロシアニン)、TPCS2a(ジスルホン酸テトラフェニルクロリン)、およびTPBS2a(ジスルホン酸テトラフェニルバクテリオクロリン)、またはこれらの薬学的に許容される塩が挙げられる。また、例えば、TPPS4(テトラスルホン酸メソ-テトラフェニルポルフィン)などの親水性
光感作性薬剤も好ましい。特に好ましい光感作性薬剤は、スルホン化アルミニウムフタロシアニン、スルホン化テトラフェニルポルフィン、スルホン化テトラフェニルクロリン、およびスルホン化テトラフェニルバクテリオクロリンであり、好ましくはTPCS2a、AlPcS2a、TPPS4、およびTPBS2aである。本発明の特に好ましい実施形態にお
いて、光感作性薬剤は、クロリンTPCS2a(例えば、アンフィネックス(Amphinex)(登録商標)などのジスルホン化テトラフェニルクロリン)である。
【0023】
光増感剤を担体と結合させて、光感作性薬剤を提供してもよい。したがって、本発明の本実施形態の好ましい態様において、光感作性薬剤は、光増感剤と式(I)で定義されるキトサンとの抱合体である。:
【化1】
ここで、nは3以上の整数であり、
Rは該化合物においてn回現れ、
前記総Rn基の0.1%~99.9%(好ましくは0.5%~99.5%)において、各Rは、
【化2】
[式中、各R1は、同一であっても異なっていてもよいが、H、CH3、および-(CH2
b-CH3から選択され、aは1、2、3、4、または5であり、bは0、1、2、3、4、または5であって(対イオンは、例えば、Cl-であってもよい)、好ましくは、R1はCH3でありbは1である。]

【化3】
[式中、YはO、S、SO2、-NCH3、または-N(CH2dCH3であり、cは1、
2、3、4、または5であり、dは1、2、3、4、または5であって、好ましくは、YはNCH3でありcは1である。]
と、から選択されるA基であり、
各R基は同一であっても異なっていてもよく、
前記総Rn基の0.1%~99.9%(好ましくは0.5%~99.5%)において、各Rは
【化4】

【化5】
[式中、eは0、1、2、3、4、または5であり、fは1、2、3、4、または5であって、好ましくはeおよびfは1であり、
2
【化6】

【化7】

【化8】
(式中、WはO、S、NH、またはN(CH3)から選択される基であり、好ましく
はNHである。)
と、から選択される基であり、
3
【化9】

【化10】

【化11】
(式中、VはCO、SO2、PO、PO2H、またはCH2から選択される基であり、
好ましくはCOである。)
と、から選択される基であり、
4は、同一であっても異なっていてもよいが、H、-OH、-OCH3、-CH3
-COCH3、C(CH34、-NH2、-NHCH3、-N(CH32、および-NCO
CH3から選択される基(o位、m位、またはp位が置換されている)であり、好ましく
はHである。]
と、から選択されるB基であり、
各R基は同一であっても異なっていてもよい。
【0024】
キトサンポリマーは、構成単位を少なくとも3つ有する(n=3)。しかしながら、nは、好ましくは、少なくとも10、20、50、100、500、1000であり、例えば10~100または10~50である。
【0025】
好ましい実施形態において、R2は、
【化12】

【化13】

【化14】
とから選択される。
【0026】
さらに好ましい実施形態において、R3は、
【化15】

【化16】

【化17】
とから選択される。
【0027】
2またはR3は、好ましくは、TPPa、TPCa1、またはTPCc1である。
【0028】
A基は、総Rn基の70~95%であってもよく、B基は、総Rn基の5~30%であってもよい。
【0029】
最も好ましい実施形態において、光増感剤およびキトサンの抱合体は、
17: B:25%、A:75%
【化18】

19: B:25%、A:75%
【化19】

33: B:10%、A:90%
【化20】

37: B:10%、A:90%
【化21】
とから選択される(図4のスキーム1~5Bにおける番号を参照)。
【0030】
上記の構造において、与えられているA/B%の値は、A基またはB基であるRn基の割合を示す。アステリスクは、キトサンポリマーの残部を表す。
【0031】
これらの化合物は、当該技術分野において標準的な手順を利用する、当業者によく知られているであろう合成法によって合成されてもよい。例として、後述する好ましい抱合体である17番、19番、33番、および37番の合成を図1の反応スキーム1~5Bに示す(図1の説明文も参照)。
【0032】
本明細書で言及される「抗原」分子は、適切に免疫系または免疫細胞に提示された際に、それ自身、またはその一部が免疫応答を刺激することができる分子である。したがって、抗原分子は、有利には、ポリペプチド包含体などのワクチン抗原またはワクチン成分とされる。
【0033】
当該技術分野において、このような抗原または抗原ワクチン成分が多く知られており、あらゆる種類の細菌性抗原またはウイルス抗原、あるいは、実際には、原生動物または高等生物を含むあらゆる病原種の抗原または抗原成分が含まれる。従来は、ワクチンの抗原成分は、生物全体(生物は生きているか、死んでいるか、あるいは弱毒化されている)を含む、すなわち全細胞ワクチンであったが、それに加えて、サブユニットワクチン、すなわちタンパク質またはペプチド、さらには炭水化物などの生物の特定の抗原成分に基づくワクチンが広く研究され、文献にて報告されてきている。本発明の抗原分子としては、どのような「サブユニット」系ワクチン成分を用いてもよい。
【0034】
しかしながら、本発明は、ペプチドワクチンの分野において特に有用である。したがって、本発明に係る好ましい抗原分子は、ペプチドである(本明細書において、ペプチドとは、短鎖ペプチドおよび長鎖ペプチドの両方、すなわちペプチド、オリゴペプチド、またはポリペプチド、およびタンパク質分子またはその断片も含むものであると定義され、例えば、15~75または8~25アミノ酸のような10~250アミノ酸からなるペプチドなどの5~500アミノ酸からなるペプチドである)。本発明の好ましい態様を形成する抗原分子として、例えばオボアルブミンを用いて本発明を説明しているが、実施例で用いているような、オボアルブミンではない抗原分子が特に好ましい。
【0035】
例えば、AIDS/HIV感染、またはインフルエンザ、イヌパルボウイルス、ウシ白血病ウイルス、肝炎などのウイルス性疾患およびウイルス感染の治療において、膨大な数のペプチドワクチンの候補が文献にて提案されている(例えば、Phanuphakら、Asian Pac. J. Allergy. Immunol.、1997、15(1)、41~8;Naruse、北海道医学雑誌、1994、69(4)、811~20;Casalら、J. Virol.、1995、69(11)、7274~7;Belya
kovら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1998、95(4)、1709~14;Naruseら、Proc. Natl. Sci. USA、199
4、91(20)、9588~92;Kabeyaら、Vaccine、1996、14(12)、1118~22;Itohら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1986、83(23)、9174~8を参照)。同様に、細菌ペプチドを用いてもよく、また実際は、他の生物または種由来のペプチド抗原を用いてもよい。
【0036】
病原生物由来の抗原に加えて、癌または多発性硬化症などの疾患に対するワクチンとして、ペプチドを用いることが提案されている。例えば、変異型癌遺伝子ペプチドは、細胞障害性Tリンパ球を刺激する際に抗原として作用する癌ワクチンとして大いに有望である(Schirrmacher、Journal of Cancer Research and Clinical Oncology、1995、121、443~451;Curtis、Cancer Chemotherapy and Biological Response Modifiers、1997、17、316~327)。したがって、黒
色腫抗原を、本発明の抗原分子として用いてもよい。別の実施形態において、黒色腫抗原ではない抗原分子を用いてもよい。本明細書で言及される「黒色腫抗原」は、適切に免疫系または免疫細胞に提示された際に、それ自身、またはその一部が免疫応答を刺激することができる、黒色腫細胞由来の分子である。黒色腫「由来の」分子は、黒色腫細胞に出現し得る分子、または、黒色腫中の天然型分子が、例えば、改変分子を与える切断、発現後修飾、および/または配列の改変などによって改変された分子であって、天然型分子を認識する免疫応答を改変型分子によって引き起こすことを可能にする天然型分子のエピトープを1つ以上維持する分子である。黒色腫抗原は、被験者の黒色腫などの適切な供給源から単離することで得てもよいし、例えば、化学合成またはペプチド/タンパク質発現によって合成してもよい。
【0037】
また、合成ペプチドワクチンも、転移性黒色腫の治療において検討されている(Ros
enbergら、Nat. Med.、1998、4(3)、321~7)。多発性硬化
症治療用のT細胞受容体ペプチドワクチンについては、Wilsonら、J. Neur
oimmunol.、1997、76(1~2)、15~28で述べられている。本発明の抗原分子としては、どのようなペプチドワクチン成分を用いてもよく、また実際は、文献にてペプチドワクチンとして述べられている、または提案されているいずれのペプチドを用いてもよい。したがって、ペプチドは、合成したものであっても、生物から単離または抽出したものであってもよい。好ましいペプチドとしては、実施例で用いられるもの、例えば、配列がQAEPDRAHYNIVTFCCKCDSTLRLCVQSTHVDIRであるHPV長鎖ペプチドなどのHPVペプチドが挙げられる。
【0038】
一実施形態において、本発明の方法では、アジュバントも用いられる。例えば、アジュバントは、トール様受容体(TLR)3リガンドなどのTLRリガンドから選択されてもよく、例えば、ポリ(IC)(例えば、高分子量ポリ(IC)(例えば、平均サイズが1.5~8kb)や低分子量ポリ(IC)(例えば、平均サイズが0.2~1kb)など)である。ポリ(IC)の投与量は、5μg~200μg、例えば10μg~100μgであってもよく、好ましくはマウスに対して10μgまたは50μgであり、他の動物の治療では、必要であれば適切に調整してもよい。本発明の製品、方法、または使用は、好ましくは、ポリ(IC)を含むか、またはポリ(IC)を用いる。
【0039】
抗原分子は、光化学的内在化プロセスによって一旦細胞のサイトゾルに放出されると、細胞の抗原処理機構によって処理されてもよい。したがって、細胞の表面に発現または提示された抗原分子は、内在化された(エンドサイトーシスされた)抗原分子の一部または断片であってもよい。提示または発現された抗原分子の「一部」は、好ましくは、細胞内部の抗原処理機構によって生成された一部を含む。しかしながら、一部は、適切な抗原設計(例えば、pH感受性結合)によって達成されてもよい他の手段、または他の細胞処理手段によって生成されてもよい。このような一部は、好都合には、例えば、ペプチドの大きさが、10アミノ酸または20アミノ酸よりも大きいなど、5アミノ酸よりも大きい場合に、免疫応答を起こすのに十分な大きさを有する。
【0040】
本明細書で論ずるように、PCI媒介性予防接種を増強する薬剤は、サイトカインである。「サイトカイン」なる用語は、様々な胎生由来の細胞により全身に亘って産生される広く多様な調整物質のファミリーを包含する。サイトカインは、小さな細胞シグナル伝達分子であり、タンパク質、ペプチド、または糖タンパク質であり得る。サイトカインとしては、インターロイキン(IL)やインターフェロン(IFN)などの免疫調整剤が挙げられ、また、コロニー刺激因子、腫瘍壊死因子(TNF)、および他の調節分子も挙げられる。サイトカインは、機能、分泌細胞、または作用の対象に基づいて、リンフォカイン、インターロイキン、およびケモカインに分類されている。サイトカインには、それぞれ、適合した細胞表面受容体があり、細胞機能を変化させる細胞内シグナル伝達カスケードを開始する。サイトカインは、当該技術分野において周知のものであり、本発明に係る使用のために、このようなサイトカインがすべて包含される。好ましいファミリーは、本明細書で述べるとおりである。
【0041】
サイトカインは、構造および/または機能に基づいて様々に分類されており、様々なファミリーが同定されている。サイトカインは、それらが結合する受容体に基づいて分類され得る。受容体(またそのリガンド)は、1型サイトカイン(ヘモポイエチン)受容体、II型サイトカイン受容体、TNF受容体、免疫グロブリンスーパーファミリー受容体、および7回膜貫通型α-ヘリックス受容体に分類され得る。
【0042】
顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)は、C-CSF、M-CSF、IL-3、およびIL-5と共に、上述した造血サイトカイン受容体に対するリガン
ドであるサイトカインのファミリーに属する。GM-CSF受容体ファミリーは、共通β鎖を有するこの受容体ファミリーに属する。GM-CSFは、様々な細胞種によって、保存されたジスルフィド結合を有する128アミノ酸からなる1本鎖糖タンパク質として分泌される。GM-CSFの機能は、GM-CSF受容体によって媒介され、この受容体は、GM-CSF特異的α鎖と、ヒトの細胞においては、IL-3受容体およびIL-5受容体が共有しているβ鎖とを含む。α鎖は、単量体として細胞表面に発現され、高い親和性でGM-CSFと結合する。このような結合に続き、β鎖が複合体にリクルートされて、シグナル伝達および機能的応答を活性化する。さらに、α鎖は、可溶性外部分子(選択的スプライシングによって生じる)として存在することができる。この受容体は、サイトカインが結合する膜結合性の同等物と競合するが、拮抗的なシグナル伝達には関与しない。GM-CSFは、白血球成長因子として機能する。GM-CSFは、幹細胞を刺激して、顆粒球(好中球、好酸球、および好塩基球)および単球を産生する。したがって、GM-CSFは、感染と戦う際に重要である。
【0043】
IL-2受容体ファミリーもまた、I型サイトカイン受容体ファミリーに属する。このファミリーのメンバーは、共通γ鎖を有する。このファミリーの受容体としては、IL-2受容体、IL-4受容体、IL-7受容体、IL-9受容体、IL-15受容体、およびIL-21受容体が挙げられる。インターロイキンの大多数は、ヘルパーCD4 Tリ
ンパ球によるだけでなく、単球、マクロファージ、および内皮細胞を通じても合成される。これらは、T細胞、B細胞、および造血細胞の成長および分化を促進する。
【0044】
IL-7は、インターロイキン-7受容体αおよび共通γ鎖受容体からなるヘテロダイマーであるIL-7受容体と結合する。IL-7は、B細胞およびT細胞のどちらの成長にも重要である。このサイトカインおよび肝細胞成長因子(HGF)は、プレプロB細胞成長刺激因子として機能するヘテロダイマーを形成する。IL-7はまた、T細胞成長の初期におけるT細胞受容体ベータ(TCRβ)のV(D)J再構成の補足因子でもある。IL-7は、腸上皮細胞および上皮杯細胞によって局所的に産生され得るが、リンパ球自身によっては産生されず、血清IL-7濃度は、リンパ球数と反比例する。サイトカインがその受容体と結合することによって、胸腺およびその残存物並びにその周囲のどちらにおいても、T細胞の成長に重要なシグナル伝達が引き起こされる。IL-7は、多分化能(多能性)造血幹細胞のリンパ球前駆細胞への分化を刺激する(IL-3によって分化が刺激される骨髄系前駆細胞とは対照的である)。IL-7はまた、リンパ系(B細胞、T細胞、およびNK細胞)のすべての細胞の増殖を刺激する。IL-7は、B細胞の成熟や、T細胞およびNK細胞の生存、成長、ホメオスタシスのある段階における増殖に重要である。
【0045】
上述した通り、IL-2、IL-15、およびIL-21は、いわゆるサイトカインのガンマ(c)ファミリーに属している、すなわち、共通γ鎖を有する受容体と結合するという点で、IL-7と関連している。これらのサイトカインは、すべて、共通のサイトカインγ鎖を用いてシグナル伝達を行い、T細胞およびNK細胞に対して強い影響を及ぼす。
【0046】
IL-2は、主にTヘルパー細胞によって産生され、先天性免疫系および適応免疫系の様々な免疫細胞に作用する。IL-2は、応答性T細胞の増殖を誘導するリンフォカインである。さらに、成長因子および抗体産生刺激剤として、受容体特異的な結合を介してB細胞に作用する。IL-2は、単一の糖修飾ポリペプチドとして分泌され、活性化にはシグナル配列の切断を必要とする。溶液NMRによって、IL-2の構造は、4本のヘリックス(A~Dと呼ぶ)を含み、両側に2本の短いヘリックスおよび境界が明確でない数本のループが隣接していることが示唆されている。ヘリックスAの残基およびヘリックスAとヘリックスBとの間のループ領域の残基は、受容体の結合に重要である。二次構造解析
によって、IL-4およびGM-CSFとの類似性が示唆されている。
【0047】
IL-15は、様々な細胞種および組織によって恒常的に発現されるが、主に膜と結合している。IL-15およびIL-2は、同様の免疫効果を奏し、IL-2受容体サブユニットであるIL-2RβおよびIL-2Rγ(c)を共有しているが、これらのサイトカインは、それぞれ別のα受容体を有する。IL-15は、細胞性免疫応答の刺激および維持を含む、様々な生物学的機能を有する。IL-15は、Tリンパ球の増殖を刺激する。
【0048】
IL-21は、IL-15と相同であるが、その受容体は、IL-21Rαと呼ばれる固有のサブユニットとIL-2Rγ(c)とからなる。IL-21は、活性化CD4+
ヘルパー細胞およびNK T細胞によって産生される。リンパ球および樹状細胞は、すべ
て、IL-21受容体を有する。サイトカインが結合することによって受容体が刺激されると、CD8+ T細胞の同時刺激、活性化、および増殖、NK細胞毒性の増強、CD4
0によるB細胞の増殖、分化、およびアイソタイプスイッチング、並びにTh17細胞の分化促進が引き起こされる。
【0049】
インターフェロン(IFN)は、II型サイトカイン受容体と結合するサイトカインの例である。インターフェロンは、ウイルス、細菌、寄生虫、または腫瘍細胞などの病原体の存在に応答して、宿主細胞が産生し、放出するタンパク質である。これらは、細胞間の情報伝達を可能にして、病原体や腫瘍を除去する免疫系の防御防衛を誘発する。インターフェロンは、ナチュラルキラー細胞やマクロファージなどの免疫細胞を活性化することができ、非感染宿主の能力を増大してウイルスの新たな感染を阻止する。
【0050】
哺乳類では、およそ10種の異なるIFNが同定されている(ヒトでは7種)。IFNには、分類が3つあり、これらはシグナル伝達を行う受容体の種類に基づいて表されている。I型IFNは、すべて、IFNAR1鎖およびIFNAR2鎖からなるIFN-α受容体(IFNAR)として知られている特定の細胞表面受容体複合体と結合する。ヒトのI型インターフェロンは、IFN-α、IFN-β、およびIFN-ωである。II型IFNは、IFNGR1鎖およびIFNGR2鎖からなるIFNGRと結合する。ヒトにおいては、IFN-γである。III型インターフェロンは、IL10R2およびIFNLR1からなる受容体複合体を通じてシグナル伝達を行う。
【0051】
IFN-αタンパク質は、白血球によって産生され、主に、ウイルス感染に対する先天性免疫応答に関与する。IFNA1、IFNA2、IFNA4、IFNA5、IFNA6、IFNA7、IFNA8、IFNA10、IFNA13、IFNA14、IFNA16、IFNA17、およびIFNA21の、13種のサブタイプが存在する。これらのIFN-α分子の遺伝子は、9番染色体上の遺伝子群において共に見出される。
【0052】
本発明にしたがえば、薬剤はどのサイトカインであってもよい。機能的に同等な変異体、誘導体、および断片を含む、上述したサイトカインの公知の形態は、すべて、本発明において用いることができる。したがって、本明細書で用いる「サイトカイン」なる用語は、公知のサイトカインポリペプチドのアミノ酸配列変異体およびサイトカインポリペプチドの断片、またはそれらの誘導体が、活性であるかまたは「機能的」である、すなわち、該当するサイトカインの機能または活性(例えば、生物学的活性)のうち少なくとも1つを維持している限りにおいて、このような断片、変異体、または誘導体を含む。サイトカインは、組換え型ポリペプチドであっても、合成ポリペプチドであってもよく、天然源から単離したものであってもよい。サイトカインは、市販品で当業者に知られているものが適切であり、例えば、ヒトサイトカインは、ジェンスクリプト社(GenScript)(ピスカ
タウェイ、NJ、USA)から入手可能である。
【0053】
サイトカインは、どのような種から(より好ましくは、どのような脊椎動物種から)得たものであってもよいが、好ましくは哺乳類のサイトカイン、より好ましくはヒトのサイトカインである。
【0054】
サイトカインの変異体としては、天然に見られる異なる対立遺伝子変異体、例えば、他の種に出現しているものや地理的な相違などに起因するものなどが挙げられ得る。また、機能的に同等な変異体としては、公知の配列に対して1つ以上のアミノ酸の置換あるいは内部配列もしくは末端の欠失または付加が行われたポリペプチドが挙げられ得る。
【0055】
機能的に同等な変異体は、アミノ酸配列の化学修飾を含み得、例えば、化学的に置換されたまたは修飾されたアミノ酸残基を含むもの、あるいはPEG化されたサイトカインが挙げられる。
【0056】
誘導体は、サイトカインポリペプチドのペプチド模倣体である分子であってもよい。言い換えると、誘導体は、ポリペプチドと機能的に同等であるかまたは類似したものであり、ポリペプチド同等物と類似の立体構造を採用することができるが、ペプチド結合によって連結したアミノ酸のみからなるものではない分子であってもよい。したがって、ペプチド模倣体は、構造的、機能的にアミノ酸に類似しているがアミノ酸ではないサブユニットからなるものであってもよい。サブユニットの骨格部は、標準的なアミノ酸とは異なっていてもよく、例えば、1つ以上の炭素原子に代えて1つ以上の窒素原子を含んでいてもよい。好ましいペプチド模倣体の種類は、ペプトイド、すなわち、N-置換グリシンである。ペプトイドは、そのペプチド同等物の近縁であるが、分子の骨格に沿って、アミノ酸中のα炭素ではなく窒素原子に側鎖が付加されている点で、化学的に異なっている。
【0057】
該当するサイトカインの活性を維持し、本発明に係る光化学的内在化を増強する場合、例えば、実施例で述べる方法論によって評価されるPCI媒介性予防接種を増強する場合は、このような変異体および誘導体が、すべて含まれる。
【0058】
当該技術分野において、活性を維持しながら、タンパク質またはペプチドの配列を改変することが知られており、この改変は、ランダム突然変異または部位特異的突然変異、核酸の開裂および連結、ペプチドの化学合成などの当該技術分野において標準的な技術を用いて達成し得る。
【0059】
アミノ酸の変化は、好ましくは軽度であり、すなわち、タンパク質の折り畳みおよび/または活性に大きく影響しない保存的アミノ酸置換;典型的には1~30アミノ酸の、小さな欠失;アミノ末端またはカルボキシル末端の小さな伸長;約20~25残基以下の小さなリンカーペプチドの付加;あるいは、ポリヒスチジン配列、抗原エピトープ、または結合ドメインなどの、実効電荷を変化させるかまたは別の機能によって精製を容易にする小さな伸長、である。したがって、タンパク質またはペプチドのN末端および/またはC末端の伸長は、本定義に含まれる。伸長された誘導体の長さは、それぞれ異なっていてもよく、例えば、誘導体は、50、30、20、10、または5以下のアミノ酸の分だけ、伸長されていてもよい。
【0060】
保存的置換としては、例えば、塩基性アミノ酸(例えば、アルギニン、リシン、およびヒスチジン)、酸性アミノ酸(例えば、グルタミンおよびアスパラギン)、疎水性アミノ酸(例えば、ロイシン、イソロイシン、およびバリン)、芳香族アミノ酸(例えば、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシン)、および小さいアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、スレオニン、およびメチオニン)の各グループ内における置換が挙げられる。サイトカインは、本明細書で述べるサイトカインの公知のアミノ酸配列に対して
、好ましくは、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性または配列類似性を有する。例えば、好ましい公知のサイトカインのアミノ酸配列を、以下の表に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
2つの核酸配列間、および2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、GCGプログラムパッケージ(NeedlemanおよびWunsch、1970、Journal of Molecular Biology 48:443~453)に含まれるGAPなどの、当該技術分野において公知のコンピュータプログラムによって決定し得る。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度を決定する目的で、GAP作成ペナルティが3.0、GAP伸長ペナルティが0.1の設定でGAPを用いることができる。アミノ酸類似性は、ウィスコンシン大学のGCGバージョン10ソフトウェアパッケージのベストフィット(Best Fit)プログラムを用いて測定し得る。このプログラムは、初期値として、ギャップ作成ペナルティを8、ギャップ伸長ペナルティを2、平均一致を2.912、平均不一致を2.03としたSmithおよびWatermanの局所相同性アルゴリズムを用いている。
【0063】
本発明に係る使用のためのサイトカインは、好ましくは、I型サイトカイン受容体またはII型サイトカイン受容体のリガンドであるサイトカインである。サイトカインは、特に好ましくは、IL-2受容体ファミリーメンバーのリガンド、またはGM-CSF受容体ファミリーメンバーのリガンドであるか、あるいはサイトカインは、インターフェロンであり、好ましくはI型IFNである。本発明の特に好ましい実施形態において、サイトカインは、GM-CSF、IL-7、IFN-α、IL-2、IL-15、またはIL-21、あるいはこれらの相同体または誘導体から選択され、さらに好ましくは、サイトカインは、GM-CSF、IL-7、またはIFN-αから選択される。サイトカインは、最も好ましくは、GM-CSFであるが、本発明は、GM-CSFでないサイトカインの使用にも及ぶものである。サイトカインは、好ましくは、ヒト由来である。
【0064】
本明細書で定義される「リガンド」とは、受容体と結合し、その受容体を通じてシグナル伝達を開始することができるか、あるいはその受容体を通じた固有のリガンドによるシグナル伝達と拮抗する分子またはそのシグナル伝達を作動させる分子である。
【0065】
本明細書で用いられる「発現する」または「提示する」は、抗原分子の少なくとも一部が細胞の周囲の環境に露出し、接触可能なように、好ましくは、提示された細胞またはその一部に対して免疫応答を起こしてもよいように、抗原分子またはその一部が細胞表面に存在することをいう。発現される分子が細胞膜および/またはその膜に存在してもよい、
または存在するようにされてもよい膜成分と接触する「表面」で、発現が成されてもよい。
【0066】
本明細書で用いられる「細胞」なる語は、全ての真核細胞(昆虫細胞および真菌細胞を含む)を含んでいる。したがって、代表的な「細胞」は、全ての種類の哺乳動物細胞および非哺乳動物細胞(例えば、魚類の細胞)、植物細胞、昆虫細胞、真菌細胞、および原生動物を含む。しかしながら、細胞は、好ましくは哺乳動物細胞であり、例えば、ネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット由来の細胞であるが、最も好ましいのはヒト由来の細胞である。本発明の方法、使用などに供される細胞は、そのサイトゾルに投与または輸送される分子を、表面に発現または提示することができるものであれば、どのような細胞でもよい。
【0067】
細胞は、好都合には、免疫細胞、すなわち免疫応答に関わる細胞である。しかしながら、他の細胞も、免疫系に対して抗原を提示する場合があり、このような細胞も、本発明の範囲に含まれる。したがって、本発明に係る細胞は、有利には、以下に述べる抗原提示細胞である。抗原提示細胞は、本明細書で定義される免疫応答のどのような態様または「武器」に関わっていてもよい。
【0068】
細胞障害性細胞の刺激には、抗原提示細胞によって、例えばMHCクラスI提示などの特定の様式で、刺激される細胞に対して抗原が提示されることが必要である(例えば、CD8+細胞障害性T細胞の活性化にはMHC-I抗原提示が必要である)。抗体産生細胞
は、抗原提示細胞による抗原提示によって刺激されてもよい。
【0069】
抗原は、エンドサイトーシスによって抗原提示細胞に取り込まれ、エンドサイトーシス小胞内でペプチドまで分解されてもよい。これらのペプチドは、エンドソームにおいてMHCクラスII分子と結合して細胞表面に輸送され、そこで、ペプチド-MHCクラスII複合体が、CD4+ Tヘルパー細胞によって認識され、免疫応答を誘導してもよい。
あるいは、サイトゾルのタンパク質が、例えばプロテアソームによって分解されてTAP(抗原提示に関するトランスポーター)によって小胞体へ輸送され、そこで、ペプチドがMHCクラスI分子と結合して細胞表面に輸送されてもよい(YewdellおよびBennink、1992、Adv. Immunol. 52:1~123)。ペプチドが外部抗原由来である場合、ペプチド-MHCクラスI複合体は、CD8+細胞障害性T細胞(CTL)によって認識される。CTLは、ペプチド-MHC(HLA)クラスI複合体と結合し、それによって活性化され、増殖を開始し、CTLのクローンを形成する。標的細胞、および細胞表面に同じペプチド-MHCクラスI複合体を有する他の標的細胞は、CTLクローンによって殺され得る。十分量の抗原をサイトゾルに導入することができた場合に、外部抗原に対する免疫が確立され得る(上記YewdellおよびBennink、1992;Rock、1996、Immunology Today 17:131~137)。これが、とりわけ癌ワクチン開発の基礎となっている。実用上最大の問題の1つは、サイトゾルに十分量の抗原(または抗原の一部)を導入することである。この問題は、本発明によって解決され得る。
【0070】
上記したように、抗原分子は、光科学的内在化プロセスによって一旦細胞のサイトゾルに放出されると、細胞の抗原処理機構によって処理され、適切な様式で、例えばクラスI
MHCによって、細胞表面に提示され得る。この処理は、抗原の分解、例えば、タンパ
ク質抗原またはポリペプチド抗原のペプチドへの分解を含んでもよく、ペプチドはその後、提示のためのMHC分子と複合体を形成する。したがって、本発明に係る細胞の表面に発現または提示される抗原分子は、内在化(エンドサイトーシス)された抗原分子の一部または断片であってもよい。
【0071】
例えばリンパ球(T細胞およびB細胞の両方)、樹状細胞、マクロファージなどを含む、種類の異なる様々な細胞が、その表面に抗原を提示することができる。他には、例えば黒色腫細胞などの癌細胞がある。これらの細胞を、本明細書において、「抗原提示細胞」という。当該技術分野において、主として免疫系のエフェクター細胞への抗原提示に関わる免疫系の細胞である「プロフェッショナル抗原提示細胞」が知られていて、文献にも記載されており、この細胞は、Bリンパ球、樹状細胞、およびマクロファージを含む。細胞は、好ましくは、プロフェッショナル抗原提示細胞である。
【0072】
抗原提示細胞による、細胞障害性T細胞(CTL)に対する抗原提示には、抗原分子が抗原提示細胞のサイトゾルに入ることが必要である(Germain、Cell、1994、76、287~299)。
【0073】
例えば、インビトロまたはエキソビボの方法に関わる、あるいはインビボの方法に関わる本発明の実施形態において、細胞は樹状細胞である。樹状細胞は、哺乳類の免疫系の一部を形成する免疫細胞である。その主な機能は、抗原性物質を処理し、表面において、それを免疫系の他の細胞に対して提示することである。樹状細胞は、一旦活性化されると、リンパ節に移動し、そこで、T細胞およびB細胞と相互作用して適応免疫応答を引き起こす。
【0074】
樹状細胞は、造血性骨髄前駆細胞由来である。これら前駆細胞は、初めは、高い細胞障害活性および低いT細胞活性化能が特徴の未成熟樹状細胞に変化する。一旦、提示可能な抗原と接触すると、成熟樹状細胞へと活性化し、リンパ節への移動を開始する。未成熟樹状細胞は、病原体を貪食してそのタンパク質を小片へと分解し、成熟化すると、MHC分子を用いてその断片を細胞表面に提示する。
【0075】
樹状細胞は、樹状細胞の適切な供給源であればどのような由来であってもよく、例えば、皮膚、鼻の内層、肺、胃、および腸または血液由来であってもよい。本発明の特に好ましい実施形態において、樹状細胞は骨髄由来である。
【0076】
樹状細胞は、天然源から単離されて本発明のインビトロの方法で用いられてもよいし、インビトロで産生されてもよい。樹状細胞は、単球、すなわち、体内を循環し、適切なシグナルに応じて、樹状細胞またはマクロファージに分化することができる白血球から生じる。単球は、ひいては、骨髄の幹細胞から形成される。単球由来の樹状細胞は、インビトロにおいて、末梢血単核球(PBMC)から産生させることができる。組織培養フラスコにPBMCを平板培養することで、単球が付着する。これら単球をインターロイキン4(IL-4)および顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)で処理することにより、約1週間で未成熟樹状細胞(iDC)へ分化する。続いて、腫瘍壊死因子(TNF)で処理することにより、iDCは成熟樹状細胞へとさらに分化する。
【0077】
本明細書で用いられる「接触する」は、例えば25~39℃の適切な栄養培地中において、または体温、すなわち36~38℃のインビボにおいて、例えば好ましくは37℃で、細胞への内在化に適切な条件下、細胞並びに光感作性薬剤、および/または抗原分子、および/または本明細書で定義されるサイトカインを互いに物理的に接触させることをいう。
【0078】
細胞は、光感作性薬剤、および抗原分子、および本明細書で定義されるサイトカインと、順次接触させてもよいし、同時に接触させてもよい。これらの成分は、好ましくは、また好都合には、細胞に同時に接触させる。光感作性薬剤および抗原分子(並びに、必要に応じてサイトカイン)は、細胞によって、同じ細胞内区画に取り込まれてもよいし、異なる細胞内区画に取り込まれてもよい(例えば、共転移してもよい)。
【0079】
次に、細胞を適切な波長の光に露光させて光感作性化合物を活性化し、その結果、細胞内区画の膜を破壊する。
【0080】
国際公開第02/44396号(参照により本明細書に援用される)には、例えば、内在化される分子(この場合は抗原分子)を細胞と接触させる前に、光感作性薬剤を細胞と接触させ、照射によって活性化させるように、工程を順序立てた方法が記載されている。この方法は、内在化される分子が、照射時に、光感作性薬剤と同じ細胞サブコンパートメントに存在する必要はないということを利用している。
【0081】
したがって、一実施形態において、上記光感作性薬剤および/または上記抗原分子および/または本明細書で定義されるサイトカインは、一緒に、または相互に独立して、細胞に与えられる。次いで、少なくとも抗原分子および光感作性薬剤が同じ細胞内区画に現れた時に、照射を行う。これを、「後照射」法という。
【0082】
別の実施形態において、上記方法は、上記細胞をまず光感作性薬剤に接触させ、次いで抗原分子および/または本明細書で定義されるサイトカインと接触させることで行うことができ、照射は、光感作性薬剤が細胞内区画に取り込まれた後、抗原分子(および、必要に応じてサイトカイン)が細胞によって該光感作性薬剤を含む細胞内区画に取り込まれる前(例えば、露光時に異なる細胞内区画に存在していてもよい)、好ましくは細胞によっていずれかの細胞内区画に取り込まれる前、例えばいずれかの細胞による取り込みの前に行われる。したがって、例えば、光感作性薬剤を投与した後に照射を行い、その後残りの薬剤を投与してもよい。これが、いわゆる「前照射」法である。
【0083】
本明細書で用いられる「内在化」は、細胞内、例えばサイトゾルへの分子の送達をいう。この場合、「内在化」は、細胞内区画/膜結合区画から、細胞のサイトゾルへ分子を放出する工程を含んでいてもよい。
【0084】
本明細書で用いられる「細胞による取り込み」または「転移」は、細胞膜外にある分子が、例えば小胞体、ゴルジ体、リソソーム、エンドソームなどの細胞内の膜制限区画への、またはこれら細胞内の膜制限区画に結合する、エンドサイトーシスまたは他の適切な取り込み機構によって、周辺の細胞膜よりも内側に見出されるように細胞に取り込まれる内在化の工程の1つをいう。
【0085】
細胞を各種薬剤に接触させる工程は、都合のよい方法で行われても、所望の方法で行われてもよい。したがって、接触工程がインビトロで行われる場合、細胞は、好都合には、例えば適切な細胞培養培地などの水性媒体中に維持されてもよく、適切な時点において、適切な条件下、例えば適切な濃度で適切な期間、各種薬剤を媒体に容易に加えることができる。例えば、細胞は、血清を含まない培地の存在下で薬剤と接触させてもよいし、血清を含む培地とともに薬剤と接触させてもよい。
【0086】
以下のコメントでは、各種薬剤を細胞に別々に与えることを論じている。しかしながら、上述したように、これらの薬剤は、細胞に一緒に与えられてもよいし、別々に与えられてもよいし、同時に与えられてもよいし、順次与えられてもよい。本明細書で言及されるように、本発明の方法で用いられる各種薬剤は、インビトロで細胞に与えられてもよいし、インビボで与えられてもよい。後者の場合、以下でより詳細に述べるように、直接投与(すなわち、局所的投与)によって与えられてもよいし、間接投与(すなわち、全身投与または非局所的投与)によって与えられてもよい。
【0087】
用いられる特定の光感作性薬剤並びに標的細胞の種類および位置などの要因に依存し、
常用の技術を用いて当業者が容易に決定することができる適切な濃度および適切な期間、光感作性薬剤を細胞に接触させる。光感作性薬剤の濃度は、好都合には、光感作性薬剤が、例えば1つ以上の細胞内区画に取り込まれるか、またはこれら細胞内区画に結合するなどにより、細胞に一旦取り込まれ、照射によって活性化した際に、例えば1つ以上の細胞内区画が溶解されるかまたは破壊されるなどにより、1つ以上の細胞構造が破壊されるような濃度である。例えば、本明細書で述べる光感作性薬剤は、例えば10~50μg/mlの濃度で用いられてもよい。インビトロでの使用では、その範囲はより広く、例えば0.0005~500μg/mlである。インビボでのヒトの治療では、光感作性薬剤は、全身投与の場合、0.05~20mg/kg体重の範囲で用いられてもよい。あるいは、全身投与では、0.005~20mg/kg体重の範囲で用いられてもよい。例えば、皮内投与、皮下投与、または腫瘍内投与など、局所的に投与される場合には、用量は、1~5000μgの範囲、例えば、10~2500μg、25~1000μg、50~500μg、10~300μg、または100~300μgであってもよい。用量は、好ましくは、100μg、150μg、200μg、および250μgから選択される。用量は、好ましくは、75~125μgであり、例えば100μgである。与えられた用量は、ヒトの平均体重(すなわち70kg)あたりのものである。皮内注射では、1回の用量の光増感剤は、100μl~1mlに溶解されてもよく、すなわち、その濃度は、1~50000μg/mlの範囲であってもよい。より小型の動物では、局所的に投与する場合に、異なる動物に対して投与を変化させる必要はほとんどないが、濃度範囲は異なっていてもよく、それなりに調節することができる。
【0088】
用いられる抗原の濃度は、用いられる抗原に依存する。好都合には、インビトロでは、濃度が0.001~500μg/ml(例えば、20~500μg/ml、20~300μg/ml、20~100μg/ml、20~50μg/ml、10~50μg/ml、5~50μg/ml、1~50μg/ml、0.01~50μg/ml、または0.001~50 μg/ml)の抗原を用いてもよい。ペプチド抗原では、例えば、0.001
~500μg/mlなどのより低い濃度、例えば0.001~1μg/ml、5μg/ml、25μg/ml、50μg/ml、または100μg/mlの濃度を用いてもよい。タンパク質抗原では、0.5~500μg/mlなどのより高い濃度を用いてもよい。インビボでの使用では、タンパク質抗原の用量は、0.5~500μg、例えば10~100μgまたは10~200μgの範囲であってもよい。ペプチド抗原では、インビボでの用量は、0.1~4000μgが用いられてもよく、例えば0.1~2000μg、0.1~1000μg、または0.1~500μg、例えば0.1~100μgが用いられてもよい。このような用量は、局所的投与に適している。件の薬剤の件の細胞への取り込み効率、および細胞内で達成されることが望まれる終濃度に応じて、適切な濃度を決定することができる。
【0089】
本明細書で定義されるサイトカインの濃度も、用いられる特定の分子に依存する。インビトロにおいては、好都合には、下記の表に示される濃度が用いられてもよい。局所的投与などのインビボでの用量として、GM-CSFについては、5~500μg、例えば50~250μgが用いられてもよく、IFN-αについては、500,000~50,000,000IUが用いられてもよい。インビボでの濃度として、IL-2については500,000~10,000,000IU/kg(またはIU/m2)が用いられてもよ
く、IL-7については1~500μg/kg、例えば20~50μg/kgが用いられてもよく、IL-15およびIL-21については1~100μg/kg、例えば10~50μg/kgが用いられてもよい。
【0090】
【表2】
【0091】
たいていの場合、光感作性薬剤、抗原分子、および本明細書で定義されるサイトカインは、一緒に投与されるが、そうでなくてもよい。したがって、投与(または細胞との接触)の時間、または形態、または部位が異なっていることが、異なる成分それぞれに対して意図され、このような方法は、本発明の範囲に包含される。
【0092】
一実施形態において、本明細書で定義されるサイトカインは、例えば別処方において、抗原とは別に投与されるか、または経口投与などによって、抗原とは別に全身投与される。したがって、一実施形態において、サイトカインは、抗原および/または光増感剤の投与よりも先に、例えば24時間前に、投与されてもよい。
【0093】
サイトカインは、例えば照射の約2時間前に、他の薬剤とは別に投与されてもよい。別の実施形態において、薬剤は、抗原と一緒に、または抗原と同じ時間に、すなわち同時に、投与されてもよい。
【0094】
細胞と光感作性薬剤、および/または抗原分子、および/または本明細書で定義されるサイトカインとの接触は、好都合には、15分~24時間行われ、例えば30分~4時間、好ましくは1.5~2.5時間行われる。あるいは、時間範囲は、約1時間~約48時間であってもよく、例えば12時間~30時間、16時間~20時間などの約2時間~約40時間または約6時間~約36時間であってもよく、例えば18時間または約18時間であってもよい。
【0095】
好ましい実施形態において、細胞は、初めに、光感作性薬剤とともにインキュベートされる。一実施形態において、光感作性薬剤の投与と抗原分子および/またはサイトカインの投与との間の時間は、数時間である。例えば、光感作性薬剤は、照射の16~20時間前、例えば18時間前に与えられてもよく、抗原分子および/またはサイトカインは、照射の1~3時間前、例えば2時間前に与えられてもよい。したがって、光感作性薬剤の投与と抗原分子および/またはサイトカインの投与との間の時間は、15~23時間の範囲であってもよい。
【0096】
したがって、細胞は、光増感剤とインキュベートされた後、続いて抗原および/または本明細書で定義されるサイトカインとともにインキュベートされる。好都合には、光増感剤/抗原との接触後、照射までの間、光増感剤および抗原分子およびサイトカインとのインキュベートのタイミングに応じて、例えば1.5時間~2.5時間などの30分~4時間、細胞を光増感剤/抗原非含有媒体に入れてもよい。
【0097】
インビボにおいて、各種薬剤を標的細胞と接触させる適切な方法およびインキュベート時間は、用いられる薬剤の投与形態および種類などの要因に依存する。例えば、治療/照
射される腫瘍、組織、または器官に、薬剤を注射する場合、注射地点付近の細胞は、注射地点から遠く離れた細胞よりも速く、薬剤と接触してこれを取り込む傾向があり、これら注射地点から離れた細胞は、より遅い時点で低濃度の薬剤と接触することになる。時間としては、好都合には、6~24時間が用いられる。
【0098】
さらに、静脈注射によって投与された薬剤、または経口投与された薬剤は、標的細胞に到達するまでに時間がかかる場合があり、したがって、十分な量、または最適な量の薬剤が標的細胞または標的組織に蓄積するためには、投与後長く、例えば数日、かかる場合がある。したがって、インビボにおいて個々の細胞に必要な投与時間は、これらのパラメータおよび他のパラメータに応じて変化しやすい。
【0099】
しかしながら、インビボでの状況は、インビトロよりも複雑ではあるが、本発明の基本的概念は、なお同じである。すなわち、分子が標的細胞と接触する時間は、照射が行われる前に、適切な量の光感作性薬剤が標的細胞によって取り込まれ、かつ(i)照射前または照射中に、細胞内、例えば光感作性薬剤と同じ細胞内区画または異なる細胞内区画に、抗原分子(および、必要に応じてサイトカイン)がすでに取り込まれているか、または標的細胞と十分に接触してから取り込まれる、あるいは(ii)照射後に、抗原分子(および、必要に応じてサイトカイン)が細胞に取り込まれるのに十分な期間、細胞と接触する、ような時間でなければならない。
【0100】
本明細書で述べる薬剤のインビボでの投与では、当該技術分野において一般的な投与形態または標準的な投与形態であれば、例えば、体内面および体外面両方への、注射、点滴、局所的投与、経皮投与など、どのような形態を用いてもよい。インビボでの使用では、本発明は、光感作性薬剤を含む化合物または内在化される分子が局在化する細胞を含む組織であれば、体液部および固形組織など、どのような組織に対しても用いることができる。標的細胞によって光増感剤が取り込まれ、かつ光を適切に届けることができる限り、全ての組織を治療することができる。好ましい投与形態は、皮内投与または皮内注射、皮下投与または皮下注射、局所的投与または局所的注射、あるいは腫瘍内投与または腫瘍内注射である。投与は、好ましくは、皮内注射によって行われる。
【0101】
抗原提示、免疫応答の発生、または予防接種など、所望の結果を達成するために、本方法またはその一部が繰り返されてもよく、例えば、「再接種」が行われてもよい。したがって、適切な間隔を空けた後、本方法の全体をそのまま複数回(例えば、2回、3回、またはそれ以上)行ってもよいし、例えば本明細書で定義されるサイトカインをさらに投与する、または照射工程を追加するなど、本方法の一部を繰り返してもよい。例えば、本方法または本方法の一部を、最初に行ってから、数日後、例えば7~20日後などの5~60日後(7日後、14日後、15日後、21日後、22日後、42日後、または51日後など)、好ましくは14日後に再び行ってもよいし、数週間後、例えば1~5週間後(1週間後、2週間後、3週間後、または4週間後など)に、再び行ってもよい。適切な間隔を空けて、例えば2週間毎、つまり14日毎に、本方法の全てまたは一部を複数回繰り返してもよい。好ましい実施形態において、本方法は、少なくとも1回繰り返される。別の実施形態において、本方法は2回繰り返される。
【0102】
一実施形態において、2回目またはその次に本方法を実施する際に、抗原分子が、光増感剤とともに投与されて照射を受ける。すなわち、2回目またはその次に本方法を実施する際には、サイトカインは投与されない。
【0103】
アジュバント(例えば、ポリ(I:C))が用いられる本方法の実施形態において、2回目またはその次に本方法を実施する際に、抗原分子が、光増感剤とともに投与されて照射を受けてもよい。すなわち、2回目またはその次に本方法を実施する際には、アジュバ
ントは投与されない。この場合、サイトカインは、2回目またはその次に本方法を実施する際に、存在していてもよいし、存在していなくてもよい。
【0104】
別の実施形態において、本発明の方法が実施される前に、本発明の方法の一部を実施してもよい。例えば、本発明の方法を実施する前に、サイトカイン非存在下で、本方法を1回以上、例えば2回、実施してもよい。あるいは、本発明の方法を実施する前に、光増感剤非存在下で照射を行わずに、本方法を1回以上、例えば2回、実施してもよい。本発明の方法を実施する数日前、例えば7日前または14日前に、本方法の一部を実施してもよいし、数週間前、例えば1週間、3週間、または4週間前に、実施してもよい。本発明の方法が実施される前に、このような間隔を空けて、1回以上本方法の一部を繰り返してもよい。したがって、好ましい態様において、抗原分子は、(例えば、上述した間隔を空けて)2回以上(例えば、被験体に)投与され、少なくとも該抗原分子の投与は、本発明の方法にしたがって行われる。
【0105】
光感作性薬剤を活性化する「照射」とは、以下に述べるように直接的または間接的に光をあてることをいう。したがって、被験体または細胞は、例えば、直接的に(例えばインビトロで細胞それぞれに)光源から照射を受けてもよいし、細胞が皮膚の表面下にある場合、または全ての細胞が直接的に照射されるわけではない、すなわち全ての細胞が他の細胞に遮蔽されているわけではない細胞層の形態である場合に、例えばインビボにおいて、間接的に光源から照射を受けてもよい。細胞または被験体の照射は、光感作性薬剤、抗原分子、および本明細書で定義されるサイトカインが投与されてから、約18~24時間後に行われてもよい。
【0106】
光感作性薬剤を活性化する光照射工程は、当該技術分野において周知である技術および手順にしたがって行われてもよい。用いられる光の波長は、用いられる光感作性薬剤に応じて選択される。当該技術分野において、適切な人工光源がよく知られており、例えば青色波長光(400~475nm)または赤色波長光(620~750nm)を用いる。例えば、TPCS2aでは、400~500nmの波長、より好ましくは430~440nmなどの400~450nmの波長、さらに好ましくは約435nmの波長または435nmの波長が用いられてもよい。適切である場合は、ポルフィリンまたはクロリンなどの光増感剤は、緑色光によって活性化されてもよく、例えば、キラーレッド(KillerRed)(
エブロゲン社(Evrogen)、モスクワ、ロシア)光増感剤は、緑色光で活性化されてもよ
い。
【0107】
当該技術分野において適切な光源がよく知られており、例えば、PCIバイオテクAS社(PCI Biotech AS)のルミソース(LumiSource)(登録商標)ランプが挙げられる。あるいは、60mW以下の調節可能な出力電源を有し、発光スペクトルが430~435nmであるLED系照明装置を用いてもよい。赤色光では、適切な光源は、PCIバイオテクAS社(PCI Biotech AS)の652nmレーザーシステム SN576003ダイオー
ドレーザーであるが、適切な赤色光源であればどのようなものを用いてもよい。
【0108】
本発明の方法において、細胞に光をあてる時間は、様々であってよい。そこを超えると細胞障害、ひいては細胞死が増加する最大限までは、光をあてる時間を増加させるにつれて、分子のサイトゾルへの内在化の効率は上昇する。
【0109】
照射工程の好ましい時間は、標的、光増感剤、標的細胞または標的組織に蓄積される光増感剤の量、および光増感剤の吸収スペクトルと光源の発光スペクトルとの重なりなどの要因に依存する。一般的には、照射工程の時間は、秒から分のオーダー、または数時間以下(さらには12時間以下)であり、例えば、好ましくは60分以下であり、例えば0.25分~30分または1分~30分であり、例えば0.5~3分または1~5分または1
~10分であり、例えば3~7分であり、好ましくは約3分であり、例えば2.5~3.5分である。より短い照射時間が用いられてもよく、例えば1~60秒であり、10~50秒、20~40秒、または25~35秒などである。
【0110】
当業者であれば、適切な光照射量を選択することができ、あらためて、光照射量は、用いられる光増感剤、および標的細胞または標的組織に蓄積される光増感剤の量に依存している。可視スペクトルの吸光係数(用いられる光増感剤に応じて、例えば、赤色領域における吸光係数、または青色光を用いる場合は青色領域における吸光係数)の高い光増感剤を用いる場合は、光照射量は通常低い。例えば、60mW以下の調節可能な出力電源を有し、発光スペクトルが430~435nmであるLED系照明装置を用いる場合、フルエンスが0.05~20mW/cm2の範囲、例えば2.0mW/cm2で、0.24~7.2J/cm2の範囲の光照射量が用いられてもよい。あるいは、例えばルミソース(LumiSource)(登録商標)ランプを用いる場合、フルエンスが0.1~20mW/cm2(例えば、ルミソース(LumiSource)(登録商標)では13mW/cm2)の範囲で、0.1~
6J/cm2の範囲の光照射量が適切である。赤色光では、フルエンスが0.5~5mW
/cm2の範囲、例えば0.81mW/cm2で、0.03~1J/cm2の範囲、例えば
0.3J/cm2の光照射量が用いられてもよい。
【0111】
さらに、細胞の生存率を維持しようとする場合は、過剰なレベルの毒性種の生成は避けられるべきであり、関連するパラメータがそれに応じて調整されてもよい。
【0112】
本発明の方法は、光化学的処理によって、すなわち、光感作性薬剤が活性化する際に毒性種が生成することによる光力学的な治療効果によって、不可避的にいくらかの細胞障害を引き起こす場合がある。提案された使用によっては、この細胞死は重大ではないかもしれず、ある用途(例えば、癌の治療)においては、実際のところ有利であるかもしれない。しかしながら、たいていの実施形態において、提示細胞に免疫応答を起こさせるために、細胞死は回避される。本発明の方法は、光感作性薬剤の濃度に対応して光照射量を選択することによって、生存細胞の割合または比率が調節されるように変更されてもよい。あらためて、当該技術分野において、このような技術は知られている。
【0113】
好ましくは、実質的に全ての細胞、またはかなり大多数の細胞(例えば、少なくとも75%の細胞、より好ましくは、少なくとも80%、85%、90%、または95%の細胞)が殺されない。インビトロでは、MTS試験などの、当該技術分野において公知の標準的な技術によって、PCI処理後の細胞の生存率を測定することができる。インビボでは、1種類以上の細胞の細胞死を、投与地点の半径1cm以内で(または組織のある深さにおいて)、例えば検鏡によって評価してもよい。細胞死は、直ちには起こらない場合があるので、%細胞死は、照射後数時間以内(例えば照射後4時間以内)に生存している細胞の割合をいうが、好ましくは照射から4時間以上経過後の%生存細胞をいう。
【0114】
本方法は、インビボ、インビトロ、またはエキソビボで行われてもよい。本方法は、好ましくは、インビボでの投与のための細胞を産生するためにインビトロまたはエキソビボで用いられるか、または本方法はインビボで用いられる。したがって、好ましい特徴において、本方法を用いて、被験体の免疫応答を起こしてもよい。
【0115】
したがって、さらなる態様において、本発明は、被験体の免疫応答を起こす方法を提供する。該方法は、抗原分子、光感作性薬剤、および上記定義されるサイトカインを被験体に投与すること、並びに、光感作性薬剤を活性化させるのに有効な波長の光を被験体に照射すること、を含み、免疫応答が引き起こされる方法である。
【0116】
引き起こされ得る「免疫応答」は、体液性免疫および細胞媒介性免疫であってもよく、
例えば、抗体産生の刺激や、あるいは表面に「外部」抗原を発現する細胞を認識し破壊(そうでなければ排除)し得る細胞障害性細胞またはキラー細胞の刺激であってもよい。したがって、「免疫応答を刺激する」なる用語は、全ての種類の免疫応答、および免疫応答を刺激する全ての種類の機構を含み、本発明の好ましい態様を形成するCTLを刺激することを包含する。刺激される免疫応答は、好ましくは、細胞障害性CD8 T細胞である
。免疫応答の程度は、免疫応答のマーカー、例えば、IL-2またはIFNγなどの分泌された分子によって、または抗原特異的T細胞の産生によって、評価されてもよい(例えば、実施例で述べるように評価されてもよい)。
【0117】
細胞障害性細胞または抗体産生細胞の刺激には、抗原提示細胞によって、例えばMHCクラスI提示などの特定の様式で、刺激される細胞に対して抗原が提示されることが必要である(例えば、CD8+細胞障害性T細胞の活性化にはMHC-I抗原提示が必要であ
る)。免疫応答は、好ましくは、MHC-I提示を介して刺激される。
【0118】
免疫応答を用いて、好ましくは、癌などの疾患、障害、または感染を治療または予防する。本明細書で述べる方法および使用において、癌は、黒色腫であってもよい。別の実施形態において、癌は、黒色腫ではない癌であってもよい。
【0119】
本方法は、好ましくは、予防接種に用いられる。本明細書で言及される「予防接種」は、疾患、障害、または感染の発症(またはさらなる進展)に対して予防効果または治療効果を有する免疫応答を誘起するための抗原(または抗原を含有する分子)の使用であり、その疾患、障害、または感染は、その抗原の異常な発現または異常な存在と関連している。好ましくは、疾患は癌である(予防接種は治療用)か、または、免疫応答が感染によって引き起こされる(予防接種は予防用)。
【0120】
本発明の好ましい実施形態において、本方法、例えば予防接種の被験体は非哺乳動物(例えば、魚類)または哺乳類であり、好ましくは、ネコ、イヌ、ウマ、ロバ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、マウス、ラット、ウサギ、またはモルモットであるが、最も好ましくは、被験体はヒトである。
【0121】
本明細書で述べる方法は、好ましくは、相乗効果を達成する。すなわち、(i)サイトカイン非存在下で抗原分子を用いて本方法を行うことによって観察される増強と、(ii)光感作性薬剤非存在下で照射工程を行わずに抗原分子を用いて本方法を行うことによって観察される増強と、を合わせた分よりも、細胞表面における提示または引き起こされた免疫応答の程度が増強される、つまり、本方法の間で相乗効果が観察される。細胞表面における提示または引き起こされた免疫応答のレベルは、適切な手段、例えば、抗原特異的CD8+細胞の数、またはIFNγまたはIL-2などの免疫応答活性化マーカーのレベルによって、評価されてもよい。
【0122】
本明細書で用いられる「相乗効果」とは、単なる相加効果を越える量的な改善をいう。
【0123】
本発明の方法で用いられる各種薬剤は、被験体に対して、別々に投与されてもよいし、順次投与されてもよいし、同時に投与されてもよい。
【0124】
抗原分子または抗原分子の一部を細胞表面に発現する本発明の方法に関する上述した態様および特徴は、適切である場合は、上記の免疫応答を起こす方法にも適用することができる。
【0125】
本発明は、細胞のサイトゾルに抗原分子を導入する方法を提供する。該方法は、導入される抗原分子、光感作性薬剤、および本明細書で定義されるサイトカインと細胞を接触さ
せること、並びに、光感作性薬剤を活性化するのに有効な波長の光を細胞に照射すること、を含む。一旦活性化されると、前記化合物を含む細胞内の細胞内区画は、これら区画に含まれる分子をサイトゾルへ放出する。
【0126】
例えば、インサイチュ(in situ)での治療またはエキソビボでの治療のいずれかを行
うために、上記本発明の方法をインビトロまたはインビボで用いた後に、処理後の細胞を体内に投与してもよい。
【0127】
本発明は、さらに、表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現する細胞、またはその細胞群を提供する。ここで、細胞は、本明細書で定義される方法のいずれかによって得ることができるもの(または得られたもの)である。また、以下で述べる予防または治療に用いる細胞または細胞集団も提供される。
【0128】
細胞集団は、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤を他に含む医薬組成物に提供されてもよい。
【0129】
本発明は、抗原分子、光感作性薬剤、および本明細書で定義されるサイトカイン、並びに1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤を含む医薬組成物も提供する。
【0130】
これらの組成物(および本発明の製品)は、薬学分野において公知の技術および手順にしたがう簡便な様式であればどのような様式で処方されてもよく、例えば、1つ以上の薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤が用いられる。本明細書で言及される「薬学的に許容される」とは、組成物(または製品)の他の成分と共存し、さらに受容者に生理学的に許容される成分をいう。組成物および担体または賦形剤材料の性質、用量などは、投与の選択肢およびその所望の経路、治療目的などにしたがって、常用の様式で選択されてもよい。用量は、同様に、常用の様式で決定されてもよいし、分子(あるいは、組成物または製品の成分)の性質、治療目的、患者の年齢、投与形態などに応じて決定されてもよい。光感作性薬剤に関しては、照射時に膜を破壊する効力/能力も考慮されるべきである。
【0131】
例えば抗原提示細胞などの細胞は、インビトロで調製されてもよい。治療法において、これらの細胞は、該細胞が、例えば予防目的または治療目的で、免疫応答を刺激し得るように、インビボで体内に投与されてもよいし、エキソビボで体組織に投与されてもよい。
【0132】
したがって、本発明は、予防または治療に用いるための、または例えば予防接種の目的で、免疫応答を刺激するのに用いるための、例えば、被験体のCTLを刺激する、好ましくは被験体の疾患、障害、または感染を治療または予防する、特に癌を治療または予防する、本明細書で定義される細胞集団(またはこれを含む組成物)、または抗原分子、光感作性薬剤、および本明細書で定義されるサイトカインをさらに提供する。別の定義では、本発明は、被験体の免疫応答を刺激する(例えばCTLを刺激する)のに用いられる薬物を調製するための、好ましくは被験体の疾患、障害、または感染を治療または予防するための、また好ましくは予防接種のため、かつ/または癌を治療または予防するための、(i)細胞集団、(ii)本明細書で定義される組成物、または(iii)抗原分子および/または光感作性薬剤および/またはサイトカイン、の使用を提供し、前記免疫応答は、好ましくは、本明細書で定義される方法によって刺激される。
【0133】
前記刺激、前記治療、または前記予防は、好ましくは、前記薬物を前記被験体に投与することを含む。
【0134】
抗原分子、光感作性薬剤、およびサイトカインは、一体にして組成物に提供されてもよい。別の表現では、本発明は、免疫応答を刺激する(例えば、被験体のCTLを刺激する)、好ましくは被験体の疾患、障害、感染を治療または予防する、特に予防接種を目的とする、薬物の製造における、抗原分子および/または光感作性薬剤および/または本明細書で定義されるサイトカインの使用を提供する。前記薬物は、被験体への投与のために、細胞表面に抗原分子または抗原分子の一部を発現する、本明細書で定義される方法によって得ることができる細胞の集団を含む。細胞集団は、好ましくは、このような方法で得られる。細胞集団は、被験体へ投与するためのものである。
【0135】
別の実施形態において、本発明は、被験体の免疫応答を刺激する(例えば、CTLを刺激する)ために、好ましくは被験体の疾患、障害、または感染を治療または予防するために、抗原分子または抗原分子の一部を細胞表面に発現するのに用いる、抗原分子、光感作性薬剤、および本明細書で定義されるサイトカインを提供する。前記使用は、好ましくは樹状細胞などの細胞の集団を調製するための、本明細書で定義される方法を含む。これらの細胞は、その後、被験体に投与されてもよい。
【0136】
本発明は、さらに、抗原分子、光感作性薬剤、および本明細書で定義されるサイトカインを含む製品を、本明細書で定義される方法において、被験体の免疫応答を刺激する(つまり、抗原分子または抗原分子の一部を細胞表面に発現させる、または抗原分子を細胞のサイトゾルへ内在化させる)のに、同時に、別々に、または順次用いるための、好ましくは被験体の疾患、障害、または感染を治療または予防するための、複合製剤として提供する。
【0137】
本発明は、また、被験体の免疫応答を刺激するのに用いるための、好ましくは被験体の疾患、障害、または感染を治療または予防するためのキットであって、例えば、本明細書で定義される方法において、予防接種または免疫化に用いるための、あるいは抗原分子または抗原分子の一部を細胞表面に発現させるか、または抗原分子を細胞のサイトゾルへ内在化させるためのキットも提供する。該キットは、本明細書で定義される光感作性薬剤を含む第1の容器と、本明細書で定義される上記抗原分子を含む第2の容器と、本明細書で定義されるサイトカインを含む第3の容器と、を含む。
【0138】
本発明の製品およびキットを用いて、本明細書で定義される細胞表面提示(または治療法)が達成されてもよい。
【0139】
またさらなる実施形態において、本発明は、被験体の免疫応答を起こす(例えばCTLを刺激する)ための、好ましくは被験体の疾患、障害、または感染を治療または予防するための方法を提供する。該方法は、本明細書で定義される方法にしたがって細胞集団を調製すること、および、それに続いて細胞を被験体に投与すること、を含む。
【0140】
本発明によって達成される抗原提示は、有利には、処理された細胞がインビボで投与される場合に、免疫応答の刺激をもたらしてもよい。好ましくは、抗原分子または抗原分子の一部の含有体または包含体による次の攻撃に対する防御を付与する免疫応答が引き起こされ、その結果、本発明は、予防接種の方法としての特別な有用性が見出される。
【0141】
疾患、障害、または感染は、免疫応答が引き起こされること、例えば、正常細胞からの区別(および除去)を可能にする抗原(またはその発現レベル)に基づいて認識され得る異常細胞または外部細胞を除去することによって、治療または予防され得る疾患、障害、または感染である。用いられる抗原分子の選択によって、治療される疾患、障害、または感染が決定される。上述した抗原分子に基づいて、本明細書で述べる方法、使用、組成物、製品、キットなどを用いて、例えば、感染(上述したウイルス感染または細菌感染など
)、癌、または多発性硬化症などを治療または予防してもよい。このような疾患、障害、または感染の予防が、予防接種を構成してもよい。
【0142】
本明細書で定義される「治療」とは、治療中の疾患、障害、または感染の1つ以上の症状を、治療前の症状に比べて、低減、緩和、または除去することをいう。「予防」(または、予防法)とは、疾患、障害、感染の発症を遅らせる、または防止することをいう。予防は、絶対的(疾患が全く発症しない)であってもよいし、一部の個人に対してのみ、または限られた期間においてのみ、有効なものであってもよい。
【0143】
インビボでの細胞の投与では、当該技術分野において一般的であるかまたは標準的である細胞集団の投与形態であれば、どのような形態を用いてもよく、例えば、注射または点滴が適切な経路で用いられる。細胞は、好都合には、リンパ内注射によって投与される。好ましくは、被検体1kgあたり、1×104~1×108個の細胞が投与される(例えば、ヒトでは1kgあたり1.4×104~2.8×106個)。したがって、例えば、ヒトでは、1回の服用で、すなわち、例えば予防接種1回の服用量として1回あたり、0.1×107~20×107個の用量の細胞を投与してもよい。必要であれば、この用量を後で繰り返すこともできる。
【0144】
次に、本発明を、以下の限定されない実施例において、以下の図面を参照してより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0145】
図1-1】図1は、スキーム1:化合物5を合成するための合成経路を示す。試薬および条件:(a)プロピオン酸、還流、1時間(20%);(b)NaNO2(1.8eq)、TFA、室温(rt)、3分(67%);(c)SnCl2.2H2O、濃縮HCl、60℃、1時間(88%);(d)ブロモアセチルブロミド、Et3N、CH2Cl2、室温、1時間(64%);(e)ピペラジン、CH2Cl2、室温、1時間(94%)。
図1-2】スキーム2は、N改変キトサン誘導体(TPP-CS-TMAおよびTPP-CS-MP)の合成を示す。ここで、Aは第1バッチの化合物を表し、Bは第2バッチの化合物を表す。試薬および条件:(a)MeSO3H/H2O、10℃~室温、1時間、(90%);(b)TBDMSCl、イミダゾール、DMSO、室温、24時間(96%);(c)ブロモアセチルブロミド、Et3N、CH2Cl2、-20℃、1時間(92%);(d)化合物5すなわちTPP-NH-Pip(0.1eqまたは0.25eq)、Et3N、CHCl3、室温、2時間(92~90%);(e)NMe3または1-メチルピペラジン、CHCl3、室温、24時間;(f)TBAF、NMP、55℃、24時間または濃縮HCl/MeOH、室温、24時間。
図1-3】スキーム3は、化合物1、3、20および21の合成スキームを示す。反応および条件:(a)プロピオン酸、還流、1時間、(20%);(b)NaNO2(1.8eq)、TFA、室温、3分;(c)SnCl2.2H2O、conc.HCl、60℃、1時間、(54%);(d1)p-トルエンスルホニルヒドラジド、K2CO3、ピリジン、還流、24時間;(d2)o-クロラニル、CH2Cl2、室温、(80%);(e)クロロアセチルクロリド、Et3N、CH2Cl2、室温、2時間、in situ;(f)ピペラジン、CH2Cl2、室温、12時間、(61%)。化合物20および21の誘導体は全て、TPCa1およびTPCa2の異性体を含む。しかしながら、スキームおよび構造図には、TPCa1の構造のみを示している。
図1-4】スキーム4は、化合物22~28の合成スキームを示す。反応および条件:(a)塩化アセチル、MeOH、還流、24時間、(87%);(b)BF3.Et2O、CHCl3、室温、p-クロラニル、48時間(14%);(c)2N KOH(MeOH中)、THF:ピリジン(10:1)、還流、24時間(71%);(d1)p-トルエンスルホニルヒドラジド、K2CO3、ピリジン、還流、24時間(d2)o-クロラニル、CH2Cl2:MeOH(75:25)、室温(70%);(e)EDCI.HCl、HOBT、Et3N、N-Boc-ピペラジン5、DMF、室温、24時間(54%);(f)TFA、CH2Cl2、室温、1時間(89%)。化合物26~28の誘導体は全て、TPCc1およびTPCc2の異性体を含む。しかしながら、スキームおよび構造図には、TPCc1の構造のみを示している。
図1-5】スキーム5Aおよび5B。試薬および条件(6A):(a)化合物21すなわちTPC-NH-Pip(0.1eq)、Et3N、CHCl3、室温、2時間(78%);(b)NMe3または1-メチルピペラジン、CHCl3、室温、24時間。試薬および条件(6b):(a)化合物28すなわちTPC-CO-Pip(0.1eq)、Et3N、NMP、75℃、12時間(89%);(b)NMe3または1-メチルピペラジン、CHCl3、室温、24時間。
図2図2は、アジュバント(adjuvant)としてのGM-CSFの効果を示す。マウスを、10μgのOVA;10μgのOVAおよび10μgのGM-CSF;10μgのOVAおよび150μgのTPCS2a;または10μgのOVA、10μgのGM-CSF、および150μgのTPCS2a、を用いて免疫化するか、または未処理のままとした。TPCS2aを与えたマウスには、照射を行った。7日目にマウスから採血し、フローサイトメトリーによって、OVA特異的CD8 T細胞の度数を解析した。(A)は、フローサイトメトリー解析の代表的なドットプロットを示す。まず、細胞を、CD8の発現についてゲーティングし、SIINFEKLペンタマー結合(y軸)およびCD44の発現(x軸)について、CD8+集団を解析した。したがって、楕円内の集団は、CD8+、ペンタマー+、CD44+である細胞を表し、これは、抗原特異的(ペンタマー結合性)かつ活性化された(CD44の発現)CD8+細胞である。(B)は実験群の平均値(全CD8+細胞に対する抗原特異的CD44+細胞の%)を示す(各群5匹、エラーバーは平均値の標準誤差)。
図3図3は、HPV 16 E7ペプチド抗原を用いたマウスの予防接種に対するGM-CSFの効果を示す。マウスは、PCIの有無は問わず、HPVのみまたはHPVとGM-CSFを用いて免疫化した。図は、全CD8細胞のうちHPVペンタマーを発現したものの%を示す。
図4図4は、必要に応じてポリ(IC)を用いた場合の、HPV 16 E7ペプチド抗原を用いたマウスの予防接種に対するGM-CSFの効果を示す。マウスは、図に示すように、PCIの有無は問わず、HPV、ポリ(IC)、および/またはGM-CSFを用いて免疫化した。図中最後の棒グラフ2つで示す結果では、免疫化を2回行った。図は、全CD8細胞のうちHPVペンタマーを発現したものの%を示す。
【実施例
【0146】
実施例
実施例1:インビボでのOVAの接種に対するサイトカインの効果
材料および方法
マウス
C57BL/6マウスを、ハーラン社(Harlan)(ホルスト、オランダ)から購入する。オボアルブミン(OVA)のMHCクラスI制限エピトープOVA257-264を認識する
T細胞受容体についてトランスジェニックであるOT-Iマウスを、チューリッヒ大学の施設内で飼育する(もともとは、タコニック・ヨーロッパ(Taconic Europe)(リュー、デンマーク)から購入)。全てのマウスは、特定病原体を除去した(SPF)条件下で飼育し、行った手順は、スイス家畜当局によって承認されている。OT-1マウスにおいて、T細胞受容体の遺伝子は、これらのマウスのCD8+ T細胞(OT-1細胞と呼ぶ)
のほぼ全てが、オボアルブミン(OVA)抗原の特定のペプチドエピトープ(SIINFEKL)を特異的に認識するように設計される。
【0147】
免疫化のプロトコール
0日目に、雌のC57BL/6マウスの尾静脈に、Rag2/OT-1マウスの脾細胞1.5×106個を静脈注射する。このように、接種されたマウスは、OVAのSIIN
FEKLエピトープが、抗原提示細胞のMHCクラスIで適切に提示された場合に限り、OVAのSIINFEKLエピトープに応答することができるCD8 T細胞の「バック
グラウンド」を有する。したがって、OT-1細胞を移植することによって、接種されたマウスにおける検出システムが「増強」され、抗原特異的CD8+ T細胞並びにIFN
-γおよびIL-2の産生を測定することによって、インビボでの接種の効果を容易に分析することが可能になる。
4時間後に、動物の腹腔に皮内接種を行う(以下に明示される成分を含む溶液を2×50 μl)。4匹ずつの14群に対し、以下の全用量を与える。
1群:250μg TPCS2a(アンフィネックス(Amphinex))+10μg オボアルブミン(OVA、グレードV、シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich))
2群:250μg TPCS2a+10μg オボアルブミン+10μg GM-CSF
3群:250μg TPCS2a+10μg オボアルブミン+500000IU IL
-2
4群:250μg TPCS2a+10μg オボアルブミン+10μg IL-7
5群:250μg TPCS2a+10μg オボアルブミン+10μg IL-15
6群:250μg TPCS2a+10μg オボアルブミン+10μg IL-21
7群:250μg TPCS2a+10μg オボアルブミン+3,000,000IU
IFNα
8群:10μg オボアルブミン
9群:10μg オボアルブミン+25μg GM-CSF
10群:10μg オボアルブミン+500,000IU IL-2
11群:10μg オボアルブミン+10μg IL-7
12群:10μg オボアルブミン+10μg IL-15
13群:10μg オボアルブミン+10μg IL-21
14群:10μg オボアルブミン+3,000,000IU IFNα
1日目に、1~7群の動物に麻酔をかけ、ルミソース(LumiSource)ランプ(PCIバイオテクAS社(PCI Biotech AS))を用いて、青色光を6分間照射する。抗原溶液を注射してから約18時間後に動物に照射を行う。照射のフルエンス率は、約13mW/cm2である。7日目に、マウスの尾静脈から採血し、フローサイトメトリー解析(下記プロ
トコール参照)のために、血液細胞をSIINFEKLペンタマー(プロイミューン社(ProImmune))、CD8抗体、およびCD44抗体で染色する。14日目に、マウスを安
楽死させ、脾臓を採取する。脾細胞の一定分量をSIINFEKLペプチド(EMCマイクロコレクション社(EMC microcollections)、テュービンゲン、ドイツ)で再刺激し、細胞内IFN-γの発現を見るために染色し、フローサイトメトリー解析によって解析する(以下参照)。脾細胞の別の一定分量を細胞培養液に再懸濁し、再刺激を行わずにこの培地中で一晩(単に、実施上の理由のため)おき、上述のようにSIINFEKLペンタマーで染色して、フローサイトメトリーによって解析する(下記プロトコール参照)。
【0148】
脾臓細胞のSIINFEKLペンタマー染色
細胞培地に再懸濁し、再刺激を行わずにこの培地中で一晩(単に、実施上の理由のため)おいた細胞に対して、脾臓細胞に対するSIINFEKLペンタマー染色およびフローサイトメトリーを行う。
【0149】
SIINFEKLペンタマー染色およびフローサイトメトリー
尾から、全血を5~10滴採取し、赤血球溶解溶液(シグマ社(Sigma))を0.5m
l加える。5~6分後、細胞を遠沈させ、0.5mlのPBSで2回洗浄する。細胞ペレットをFACSバッファー(0.01% アジ化ナトリウムを含む2% FCS/PBS)に再懸濁し、U型の96穴プレートに移し、氷上で10分間、FcR阻止抗体(1.0μ
l 抗CD16/CD32、ファーミンジェン社(Pharmingen))とインキュベートする
(1μl+49μl FACSバッファー)。洗浄せずに、SIINFEKLペンタマー
-PE(プロイミューン社(ProImmune);1試料あたり5μl)を加え、混合し、37
℃で15分間インキュベートする。洗浄せずに、蛍光ラベルしたCD8またはCD44を終濃度が1:100となるように加え、氷上で25~45分間インキュベートする。細胞を100μlのFACSバッファーで洗浄し、100μlのFACSバッファーに懸濁する。細胞を、FACSカント(FACSCanto)を用いて解析する。
【0150】
エキソビボでの脾細胞の再刺激
溶解バッファー(シグマ社(Sigma))中で1~2分攪拌後、2% FCS/PBSで洗浄することによって、脾臓を破砕し、2% FCS/PBS中で細胞を分離することで、
細胞内染色のために脾細胞を単離、調製する。完全培地の細胞懸濁液を24穴プレート1ウェルあたり1ml(500,000細胞/ml)加え、各ウェルに5μg/mlのSIINFEKL を加え、37℃で一晩インキュベートする。ブレフェルディンA(Brefeldin A)(1~2μg/ml)を各ウェルに加え、37℃で4時間インキュベートする。細胞をU型の96穴プレートに移し、2% FCS/PBSで洗浄し、FcR阻止抗体(1
.0μl 抗CD16/CD32、ファーミンジェン社(Pharmingen))を加えたFAC
Sバッファー50μlに再懸濁し、氷上で10分間インキュベートする。洗浄せずに、細胞を、表面抗体CD8またはCD44と氷上(暗所)で20~45分間インキュベートし、FACSバッファーで洗浄し、氷上で10~20分間、100μlのパラホルムアルデヒド(PFA)(PBS中1%)に再懸濁することで固定する。細胞をFACSバッファーで洗浄し、100μlのNP40(PBS中0.1%)に再懸濁し、氷上で3分間インキュベートする。FACSバッファーで洗浄した後、蛍光ラベルしたインターフェロンγ抗体を加え、氷上、暗所で35分間インキュベートする。FACSバッファーで洗浄し、再懸濁した後、FlowJo8.5.2ソフトウェア(ツリー・スター社(Tree Star, Inc.)、アシュランド、OR)を用いたFACSカント(FACSCanto)によって、細胞を解析する。
【0151】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリー(FACSカント(FACSCanto)、BDバイオサイエンス社(BD Biosciences)、サンノゼ、USA)によって、OVA特異的T細胞の度数を求める。フ
ローサイトメトリーを行う前に、各抗体で別々に染色したビーズを用いて補正を行う。抗体染色の前に、赤血球溶解溶液(シグマ社(Sigma))を用いて、赤血球を溶解する。各
試料につき10000のCD8+のイベントを記録し、SIINFEKLペンタマー陽性
細胞の割合を、ツリー・スター社(Tree Star, Inc.)(アシュランド、OR;http://www.flowjo.com/)のFlowJo8.5.2ソフトウェアを用いて算出する。
【0152】
ELISA
当該分子用のレディ・セット・ゴー!(Ready-set Go!)キット(eバイオサイエンス
社(eBioscience))を用い、製造元の説明書にしたがってELISAを行う。
上述した免疫化のプロトコールによって、マウスにインビボで接種を行う。7日後に血液を、14日後に脾臓を単離する。血液に関しては、抗原特異的CD8+ T細胞につい
ての解析を行い、脾臓細胞に関しては、抗原特異的CD8+ T細胞についての直接的な
解析か、インビトロで再刺激した後のIFN-γまたはIL-2の産生についての解析のいずれかを行う。
【0153】
血液または脾臓における抗原特異的T細胞レベル
抗原特異的T細胞レベルを、抗原特異的T細胞に特異的に結合する蛍光ラベルした抗原特異的「ペンタマー」を用いて、フローサイトメトリーによって測定する。動物における全CD8+ T細胞に対する抗原特異的CD8+T細胞数の%を求める(免疫化のプロト
コールで述べた染色およびフローサイトメトリー解析、並びにSIINFEKL染色の詳細を参照)。
T細胞に対する一般的な刺激効果は、抗原特異的な細胞の%を増加させない内因性T細胞にも影響を及ぼすので、内因性T細胞は、この効果の抗原特異性に対する内部標準として役立つ。典型的には、OT-1細胞の%を、接種前、および接種後の(複数の)時点において測定する。抗原のみの効果(「従来の接種」)を、抗原+PCIの効果と比較する。
【0154】
エキソビボでの抗原による刺激後の脾臓細胞におけるIFN-γ産生レベル(フローサイトメトリー)
接種から14日後に採取した脾臓を、脾細胞単離に供し、SIINFEKL抗原ペプチドによる再刺激、および上記プロトコールで述べたフローサイトメトリーによるCD8+
T細胞の解析のためのIFN-γ産生の細胞内染色を行う。
【0155】
エキソビボでの抗原による刺激後の脾臓細胞におけるIFN-γおよびIL-2産生レベル(ELISA)
接種から14日後に採取した脾臓を、脾細胞単離に供し、SIINFEKL抗原ペプチドによる再刺激、および上記プロトコールで述べたELISAによるIFN-γおよびIL-2産生の解析を行う。
【0156】
実施例2:インビボでのOVAの接種に対するGM-CSFの効果
材料および方法
動物
C57BL/6マウスを、ハーラン社(Harlan)(ホルスト、オランダ)から購入した。CD8 T細胞受容体トランスジェニックOT-Iマウス(B6.129S6-Rag
2tm1Fwa Tg(TcraTcrb)1100Mjb)を、タコニック・ヨーロッ
パ(Taconic Europe)(リュー、デンマーク)またはジャクソン・ラボラトリー(Jackson Laboratories)(バー・ハーバー、メイン州)から購入した。OT-I CD8 T細胞は、オボアルブミンのH-2Kb制限エピトープSIINFEKL(OVA、aa257
~264)を認識する。マウスは全てSPF条件下で飼育され、行った手順は、スイスおよびノルウェーの家畜当局によって承認された。
【0157】
材料および細胞
ニワトリOVAをシグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich)(ブフス、スイス)から
、SIINFEKLペプチドをEMCマイクロコレクション社(EMC microcollections)(テュービンゲン、ドイツ)から、GM-CSFをプレプロテック社(Preprotech)(ウィーン)から購入した。光増感剤であるジスルホン酸テトラフェニルクロリン(TPCS2a)を、PCIバイオテク社(PCI Biotech)(ライサカー、ノルウェー)から入手した
。OVA、TPCS2a、および、目的に適合する場合は、GM-CSFをPBS中で混合し、遮光した状態を維持し、調製してから60分以内にマウスに投与した。ルミソース(LumiSource)(商標)(PCIバイオテク社(PCI Biotech))を用いた照射によって、
TPCS2aを活性化した。
【0158】
マウスの皮内光増感および免疫化
免疫化の1日前に、雌のOT-1マウスから脾臓およびリンパ節を単離し、溶血(赤血球溶解バッファー ハイブリ・マックス(Hybri-Max)、シグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich))によって、均質化した細胞懸濁液から赤血球を除去した。残った細胞をPB
Sで洗浄し、70ミクロンのナイロン濾過器を通して濾過し、2×106個のOT-1細
胞を、静脈注射によって、受容者である雌のC57BL/6マウスに投与した。SIINFEKL特異的CD8 T細胞の養子免疫伝達によって、フローサイトメトリーによる免
疫応答の測定が容易となる。1日後または8時間後、マウスの尾から採血を行い、OVA特異的CD8 T細胞の基準度数解析のために、ヘパリンが入った試験管に血液を集めた

次に、マウスの腹部領域の毛を剃り、OVAからなる、あるいはOVA、TPCS2a、およびGM-CSF(10μg)の異なる混合物からなるワクチンを、29G注射針を付けたシリンジを用いて皮内注射した。ワクチンは、遮光した状態を維持し、調製してから60分以内に用いられた。ワクチンは、腹部の正中線の左側および右側に、50μlずつ2回注射して与えられた。OVAは、10μgまたは100μgの用量で用いられ、TPCS2aの用量は150μgであった。ワクチンを注射してから18時間後、ケタミン(25mg/kg体重)およびキシラジン(4mg/kg)の混合物を腹腔内注射することによって、マウスに麻酔をかけ、ルミソース(LumiSource)光源上に置いた(照射および光増感剤TPCS2aの活性化のため)。照射時間は、6分であった。
その後7日目に、マウスの尾から採血を行い、赤血球を溶血によって除去してから、フローサイトメトリーによって、抗原特異的CD8 T細胞を解析した。実験の最後に、マ
ウスを安楽死させた。
【0159】
免疫応答の解析
抗CD8抗体およびH-2Kb/SIINFEKLプロ5ペンタマー(プロイミューン
社(Proimmune)、オックスフォード、UK)を用いてフローサイトメトリー解析用に細
胞を染色することで、血液中のOVA特異的CD8 T細胞の度数を測定した。フローサ
イトメトリーによってCD44の発現を調べることで、細胞の活性化の状況をさらに解析した。細胞の解析は、FACSカント(FACSCanto)(BDバイオサイエンス社(BD Biosciences)、サンノゼ、USA)を用いて行い、またFlowJo8.5.2ソフトウェ
ア(ツリー・スター社(Tree Star, Inc.)、アシュランド、OR)を用いた。
【0160】
GM-CSF実験
材料および方法で述べたように実験を行い、接種から7日後のマウス血液試料を、上述したように、フローサイトメトリーによって解析した。マウスは全て、上述したようにOT-1細胞を投与された。
以下の実験群が含まれる。
1.未処理:マウスは、OT-1細胞を投与されているが、接種または照射は行わなかった。
2.OVA:10μgのOVAをマウスに接種した。照射は行わなかった。
3.OVA+GM-CSF:10μg OVA+10μg GM-CSFの混合物をマウスに接種した。照射は行わなかった。
4.OVA PCI:10μg OVA+150μg TPCS2aの混合物をマウスに
接種した。上述のように照射を行った。
5.OVA+gm-CSF PCI:10μg OVA+10μg gm-CSF+1
50μg TPCS2aの混合物をマウスに接種した。上述のように照射を行った。
図2Aは、フローサイトメトリー解析の代表的なドットプロットを示す。したがって、楕円内の集団は、CD8+、ペンタマー+、CD44+である細胞を表し、これは、抗原特
異的(ペンタマー結合性)かつ活性化された(CD44の発現)CD8+細胞である。O
VA+GM-CSF群およびOVA PCI群において、この集団中の細胞数が増加して
おり(OVA群との比較)、OVA+GM-CSF PCI群において、この効果がさら
に顕著に増強されていることがわかる。
図2Bは、実験群の平均値(全CD8+細胞に対する抗原特異的CD44+細胞の%)を示し、その他すべての群よりもOVA+GM-CSF PCI群において実質的に増加し
ていることが、あらためて示されている。
【0161】
実施例3:インビボでのHPVの接種に対するGM-CSFの効果
材料および方法
動物
C57BL/6マウスを、ハーラン社(Harlan)(ホルスト、オランダ)から購入した。マウスは全てSPF条件下で飼育され、行った手順は、ノルウェーの家畜当局によって承認された。
【0162】
材料および細胞
HPV 16 E7ペプチド抗原(配列はQAEPDRAHYNIVTFCCKCDSTLRLCVQSTHVDIR、CD8エピトープを下線で示す)を、ユナイテッド・ペプチド社(United Peptides)(ハーンドン、VA)から入手した。高分子量ポリ(IC)
をインビボジェン社(InvivoGen)(サンディエゴ、USA)から入手した。GM-CS
F(ネズミ組み換え体)をペプロテック社(PeproTech Inc.)(ロッキーヒル、USA)から購入した(カタログ番号:315-03)。光増感剤であるジスルホン酸テトラフェニルクロリン(TPCS2a)をPCIバイオテク社(PCI Biotech)(ライサカー、ノル
ウェー)から、HPVペンタマーをプロイミューン社(Proimmune)(オックスフォード
、UK)から入手した(プロイミューンのペプチドコード:502H)。
【0163】
マウスの皮内光増感および免疫化
マウスの腹部領域の毛を剃り、50μg HPV長鎖ペプチド抗原、100μg TPCS2a、および10μg GM-CSF、および/またはポリ(IC)からなるワクチン(
以下に明示する通り)を、29G注射針を付けたシリンジを用いて皮内注射した。ワクチンは、遮光した状態を維持し、調製してから60分以内に用いられた。ワクチンは、腹部の正中線の左側および右側に、50μlずつ2回注射して与えられた。免疫化してから18時間後、ケタミン(25mg/kg体重)およびキシラジン(4mg/kg)の混合物を腹腔内注射することによって、マウスに麻酔をかけ、以下に述べるように照射を行った。
免疫化後7日目に、マウスの尾から採血を行い、赤血球を溶血によって除去してから、フローサイトメトリーによって、抗原特異的CD8 T細胞を解析した。
【0164】
免疫化したマウスに対する照射
ルミソース(LumiSource)(商標)(PCIバイオテク社(PCI Biotech))を用いた
照射によってTPCS2aを活性化した。ルミソースによる照射は、免疫化してから18時間後に6分間行った。
【0165】
ペンタマー染色による免疫応答の解析
抗CD8抗体、抗CD44抗体、および用いられたHPV抗原に応じたペンタマーを用いて細胞を染色した後、血液中の抗原特異的CD8 T細胞の度数を、フローサイトメト
リーによって測定した。フローサイトメトリーによってCD44の発現を調べることで、細胞の活性化の状況を解析した。細胞の解析は、FACSカント(FACSCanto)(BDバ
イオサイエンス社(BD Biosciences)、サンノゼ、USA)を用いて行い、またFlowJo8.5.2ソフトウェア(ツリー・スター社(Tree Star, Inc.)、アシュランド、
OR)を用いた。
【0166】
実施例3a:HPV長鎖ペプチド抗原およびGM-CSFを用いたPCIの効果
材料および方法で述べたように実験を行った。0日目および14日目に、以下に明示されるワクチン混合物を用いて動物を免疫化した。免疫化してから18時間後に、ルミソース(LumiSource)照明装置を用いて6分間の照射を行った。各免疫化後6日目の血液試料を、HPVペンタマー、CD8抗体、およびCD44抗体で染色し、上述したように、フローサイトメトリーによって解析した。以下の実験群が含まれる。
2×HPV:50μg HPV長鎖ペプチドを用いて、マウスを2回免疫化した。マ
ウスに対して照射は行わなかった。
2×HPV+GM-CSF:50μg HPV長鎖ペプチドおよび10μg GM-CSFを用いて、マウスを2回免疫化した。マウスに対して照射は行わなかった。
2×HPV+GM-CSF+PCI:50μg HPV長鎖ペプチド、100μg TPCS2a、および10μg GM-CSFを用いて、マウスを2回免疫化した。いずれの
免疫化後も、マウスに対して照射を行った。
【0167】
結果
図3からわかるように、抗原+GM-CSFを用いて免疫化を2回行っても、免疫学的なCD8細胞応答は、抗原のみの場合に観察される応答より上昇することはなかった。しかしながら、GM-CSFをPCIと組み合わせると、CD8細胞応答は実質的に上昇した。
【0168】
実施例3b:HPV長鎖ペプチド抗原、GM-CSF、およびポリ(IC)を用いたPCIの効果
材料および方法で述べたように実験を行った。0日目および14日目に、以下に明示されるワクチン混合物を用いて動物を免疫化した。免疫化してから18時間後に、ルミソース(LumiSource)照明装置を用いて6分間の照射を行った。各免疫化後6日目の血液試料を、HPVペンタマー、CD8抗体、およびCD44抗体で染色し、上述したように、フローサイトメトリーによって解析した。以下の実験群が含まれる。
2×HPV:50μg HPV長鎖ペプチドを用いて、マウスを2回免疫化した。マ
ウスに対して照射は行わなかった。
2×HPV+ポリ(IC):50μg HPV長鎖ペプチドおよび10μg ポリ(IC)を用いて、マウスを2回免疫化した。マウスに対して照射は行わなかった。
1回目:HPV+p(IC)+PCI;2回目:HPV+PCI:50μg HPV
長鎖ペプチド、10μg ポリ(IC)、および100μg TPCS2aの混合物(1回目の免疫化)、並びに50μg HPV長鎖ペプチドおよび100μg TPCS2a(2回目の免疫化)を用いて、マウスを免疫化した。いずれの免疫化後も、マウスに対して照射を行った。
1回目:HPV+p(IC)+GM-CSF+PCI;2回目:HPV+GM-CSF+PCI:50μg HPV長鎖ペプチド、10μg ポリ(IC)、10μg GM-
CSF、および100μg TPCS2aの混合物(1回目の免疫化)、並びに50μg HPV長鎖ペプチド、10μg GM-CSF、および100μg TPCS2a(2回目の免疫化)を用いて、マウスを免疫化した。いずれの免疫化後も、マウスに対して照射を行った。
【0169】
結果
本実験では、1回目の免疫化を、HPV抗原のみ、抗原+ポリ(IC)の組み合わせ、あるいは抗原+ポリ(IC)+PCI、または抗原+ポリ(IC)+GM-CSF+PCIの組み合わせ、を用いて行った。2回目の免疫化は、同じ組み合わせを用いて行ったが、PCI処理を行う試料についてはポリ(IC)を用いなかった。図4から、PCI+ポリ(IC)を用いた処理方法のみが免疫応答に好影響を与えたが、同じ処理方法にGM-CSFを加えることで、その応答が実質的に高まったことがわかる。抗原+GM-CSF+PCIを用いて免疫化を行うと、免疫学的なCD8細胞応答は、抗原のみの場合(図3)に観察される応答よりも顕著に上昇したが、その応答の規模は、GM-CSF、ポリ(IC)、およびPCIの組み合わせ(図4)の場合に観察される応答よりも実質的に小さかった。ポリ(IC)を用いても、PCIを行わなければ、抗原のみを用いた場合に達成される免疫応答よりも免疫応答が上昇することはないという観察結果と合わせると、本実験は、GM-CSFおよびポリ(IC)を用いてPCIを行う場合、PCIが相乗効果的に作用してペプチド抗原に対するCD8の応答を増強するということを示している。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図2
図3
図4
【配列表】
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