(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-25
(45)【発行日】2022-06-02
(54)【発明の名称】延伸フィルムの製造方法および光学積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/04 20060101AFI20220526BHJP
B29C 55/16 20060101ALI20220526BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20220526BHJP
B32B 7/035 20190101ALN20220526BHJP
B32B 27/36 20060101ALN20220526BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20220526BHJP
B29K 69/00 20060101ALN20220526BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20220526BHJP
【FI】
B29C55/04
B29C55/16
G02B5/30
B32B7/035
B32B27/36 102
B29K67:00
B29K69:00
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2021156907
(22)【出願日】2021-09-27
【審査請求日】2022-01-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150212
【氏名又は名称】上野山 温子
(72)【発明者】
【氏名】中原 歩夢
(72)【発明者】
【氏名】北岸 一志
(72)【発明者】
【氏名】清水 享
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-037772(JP,A)
【文献】特開2005-262677(JP,A)
【文献】特開2014-104639(JP,A)
【文献】特開2004-155138(JP,A)
【文献】特開2016-107494(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156278(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00 - 55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状のフィルムの幅方向の左右端部をそれぞれ、縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップによって把持すること(把持工程)、
該フィルムを予熱すること(予熱工程)、
該左右のクリップを少なくとも一方のクリップのクリップピッチを変化させながら走行移動させて、該フィルムを斜め延伸すること(斜め延伸工程)、
該フィルムを熱固定すること(熱固定工程)、および、
該フィルムを該左右のクリップから開放すること(開放工程)、を含み、
該フィルムを該左右のクリップで把持してから熱固定が終了するまでの間に、該クリップピッチを変化させるリンク機構に定速回転スプロケットを係合させることによって該クリップの移動速度を所定の速度に制限し、
該定速回転スプロケットの回転の位相をモニタリングし、該モニタリング結果に基づいて設定通りの位相に近づくように該回転の位相を調整する、延伸フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記予熱工程、前記斜め延伸工程および前記熱固定工程から選択される少なくとも1つの工程において、前記クリップの移動速度を所定の速度に制限する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記定速回転スプロケットの回転の位相差を-1mm~+1mmに調整する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記斜め延伸が、(i)前記左右のクリップのうちの一方のクリップのクリップピッチをP
1からP
2まで増大させつつ、他方のクリップのクリップピッチをP
1からP
3まで減少させること、および、(ii)該減少したクリップピッチと該増大したクリップピッチとが所定の等しいピッチとなるように、それぞれのクリップのクリップピッチを変化させることを含む、請求項1から3のいずれかに記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項5】
P
2/P
1が1.25~1.75であり、P
3/P
1が0.50以上1未満である、請求項4に記載の延伸フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の製造方法によって長尺状の延伸フィルムを得ること、および、
長尺状の光学フィルムと該長尺状の延伸フィルムとを搬送しながら、その長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせることを含む、光学積層体の製造方法。
【請求項7】
前記光学フィルムが、偏光板であり、
前記延伸フィルムが、λ/4板またはλ/2板である、請求項6に記載の光学積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸フィルムの製造方法および光学積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(OLED)等の画像表示装置において、表示特性の向上や反射防止を目的として円偏光板が用いられている。円偏光板は、代表的には、偏光子と位相差フィルム(代表的にはλ/4板)とが、偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とが45°の角度をなすようにして積層されている。従来、位相差フィルムは、代表的には、縦方向および/または横方向に一軸延伸または二軸延伸することにより作製されているので、その遅相軸は、多くの場合、長尺状のフィルム原反の横方向(幅方向)または縦方向(長尺方向)に発現する。結果として、円偏光板を作製するには、位相差フィルムを幅方向または長尺方向に対して45°の角度をなすように裁断し、1枚ずつ貼り合わせる必要があった。
【0003】
また、円偏光板の広帯域性を確保するために、λ/4板とλ/2板の二枚の位相差フィルムを積層させる場合もある。その場合はλ/2板は偏光子の吸収軸に対して75°の角度をなすように積層し、λ/4板は偏光子の吸収軸に対して15°の角度をなすように積層する必要がある。この場合でも、円偏光板を作製する際には、位相差フィルムを幅方向または長尺方向に対して15°および75°の角度をなすように裁断し、1枚ずつ貼り合わせる必要があった。
【0004】
さらに別の実施形態においては、ノートPCからの光が、キーボード等に映り込むのを回避するために、偏光板からでた直線偏光の向きを90°回転させる目的で、偏光板の視認側にλ/2板を用いることがある。この場合でも、位相差フィルムを幅方向または長尺方向に対して45°の角度をなすように裁断し、1枚ずつ貼り合わせる必要があった。
【0005】
このような問題を解決するために、長尺状のフィルムの幅方向の左右端部をそれぞれ、縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップによって把持し、該左右のクリップの少なくとも一方のクリップピッチを変化させて、長尺方向に対して斜め方向に延伸(以下、「斜め延伸」とも称する)することにより、位相差フィルムの遅相軸を斜め方向に発現させる技術が提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、このような技術によって斜め延伸フィルムを連続生産すると、経時的に、遅相軸の方向が設定値からずれる場合がある。これに対し、クリップピッチを変化させるリンク機構に負荷をかけてクリップの移動速度を所定の速度に制限することにより、遅相軸の方向を制御する技術が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4845619号公報
【文献】特開2015-206994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の技術によれば、長尺状の斜め延伸フィルムの連続生産において経時的に生じ得る配向角(遅相軸の方向)のずれ、例えば幅方向中央における配向角のずれを抑制することができるが、幅方向における面内位相差のバラツキに関しては、さらなる改善の余地がある。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、長尺状の斜め延伸フィルムの連続生産において経時的に生じ得る配向角のずれおよび面内位相差のバラツキを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの局面によれば、長尺状のフィルムの幅方向の左右端部をそれぞれ、縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップによって把持すること(把持工程)、該フィルムを予熱すること(予熱工程)、該左右のクリップを少なくとも一方のクリップのクリップピッチを変化させながら走行移動させて、該フィルムを斜め延伸すること(斜め延伸工程)、該フィルムを熱固定すること(熱固定工程)、および、該フィルムを該左右のクリップから開放すること(開放工程)、を含み、該フィルムを該左右のクリップで把持してから熱固定が終了するまでの間に、該クリップピッチを変化させるリンク機構に定速回転スプロケットを係合させることによって該クリップの移動速度を所定の速度に制限し、該定速回転スプロケットの回転の位相をモニタリングし、該モニタリング結果に基づいて設定通りの位相に近づくように該回転の位相を調整する、延伸フィルムの製造方法が提供される。
1つの実施形態において、上記予熱工程、上記斜め延伸工程および上記熱固定工程から選択される少なくとも1つの工程において、上記クリップの移動速度を所定の速度に制限する。
1つの実施形態において、上記定速回転スプロケットの回転の位相差を-1mm~+1mmに調整する。
1つの実施形態において、上記斜め延伸が、(i)上記左右のクリップのうちの一方のクリップのクリップピッチをP1からP2まで増大させつつ、他方のクリップのクリップピッチをP1からP3まで減少させること、および、(ii)該減少したクリップピッチと該増大したクリップピッチとが所定の等しいピッチとなるように、それぞれのクリップのクリップピッチを変化させることを含む。
1つの実施形態において、P2/P1が1.25~1.75であり、P3/P1が0.50以上1未満である。
本発明の別の局面によれば、上記製造方法によって長尺状の延伸フィルムを得ること、および、長尺状の光学フィルムと該長尺状の延伸フィルムとを搬送しながら、その長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせることを含む、光学積層体の製造方法が提供される。
1つの実施形態において、上記光学フィルムが、偏光板であり、上記延伸フィルムが、λ/4板またはλ/2板である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態による延伸フィルムの製造方法によれば、長尺状の斜め延伸フィルムの連続生産において経時的に生じ得る配向角のずれおよび面内位相差のバラツキを抑制することができる。このような効果が奏される理由としては、本発明を何ら制限するものではないが、以下のように推測される。すなわち、従来の延伸フィルムの製造方法においては、定速回転スプロケットがクリップピッチを変化させるリンク機構との係合を繰り返すことで、回転の位相が徐々にずれていき、左右の定速回転スプロケットの回転の位相がずれる結果、左右のクリップの相対的な位置関係が当初の位置関係からずれてしまい、配向角のずれや面内位相差のバラツキにつながる。これに対し、本願発明によれば、定速回転スプロケットの回転の位相をモニタリングし、該回転の位相が設定通りの位相に近づくように調整することにより、左右のクリップの相対的な位置関係を維持しつつ、その移動速度を所定の速度に制限することができ、結果として、得られる延伸フィルムの配向角の経時的なずれおよび面内位相差のバラツキを好適に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の延伸フィルムの製造方法に用いられ得る延伸装置の一例の全体構成を説明する概略平面図である。
【
図2】
図1の延伸装置においてクリップピッチを変化させるリンク機構を説明するための要部概略平面図である。
【
図3】
図1の延伸装置においてクリップピッチを変化させるリンク機構を説明するための要部概略平面図である。
【
図4A】斜め延伸の1つの実施形態におけるクリップピッチのプロファイルを示す概略図である。
【
図4B】斜め延伸の1つの実施形態におけるクリップピッチのプロファイルを示す概略図である。
【
図5】本発明の製造方法により得られる位相差フィルムを用いた円偏光板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。なお、本明細書において、「縦方向のクリップピッチ」とは、縦方向に隣接するクリップの走行方向における中心間距離を意味する。また、長尺状のフィルムの幅方向の左右関係は、特段の記載がない限り、該フィルムの搬送方向に向かっての左右関係を意味する。
【0013】
A.延伸フィルムの製造方法
本発明の実施形態による延伸フィルムの製造方法は、
長尺状のフィルムの幅方向の左右端部をそれぞれ、縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップによって把持すること(把持工程)、
該フィルムを予熱すること(予熱工程)、
該左右のクリップを少なくとも一方のクリップのクリップピッチを変化させながら走行移動させて、該フィルムを斜め延伸すること(斜め延伸工程)、
該フィルムを熱固定すること(熱固定工程)、および、
該フィルムを該左右のクリップから開放すること(開放工程)、を含み、
該フィルムを該左右のクリップで把持してから熱固定が終了するまでの間に、該クリップピッチを変化させるリンク機構に定速回転スプロケットを係合させることによって該クリップの移動速度を所定の速度に制限し、
該定速回転スプロケットの回転の位相をモニタリングし、該モニタリング結果に基づいて設定通りの位相に近づくように該回転の位相を調整する。
【0014】
A-1.延伸装置
本発明の実施形態による延伸フィルムの製造方法は、例えば、延伸対象のフィルムの左右端部を把持して予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱固定ゾーンをこの順に通過するとともに、各々、走行移動に伴って縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップを有し、該延伸ゾーンにおいて、該左右のクリップを少なくとも一方のクリップのクリップピッチを変化させながら走行移動させて、該フィルムを斜め延伸するように構成されており、該フィルムを把持するゾーンから該熱固定ゾーンまでの間において、該左右のクリップの移動速度を所定の速度に制限する定速回転スプロケットと、該定速回転スプロケットの回転の位相をモニタリングするモニタリング装置と、モニタリング結果に基づいて該定速回転スプロケットの回転の位相を補正する補正装置と、を備えるフィルム延伸装置を用いて行われ得る。
【0015】
上記延伸装置としては、例えば、予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱固定ゾーンをこの順に通過する無端状の左右の基準レールと、該左右の基準レールの内周側に設けられた左右のピッチ設定レールと、該左右の基準レールに案内されて走行移動する複数の左右のクリップ担持部材と、該左右のクリップ担持部材に担持され、延伸対象の長尺状のフィルムの左右端部をそれぞれ把持する左右のクリップと、該クリップ担持部材に走行力を与える駆動手段と、該基準レールと該ピッチ設定レールとの離間距離によって該クリップ担持部材間のピッチを調整可能に構成されたリンク機構と、を有し、該リンク機構と係合して該左右のクリップの移動速度を所定の速度に制限する定速回転スプロケットと、該定速回転スプロケットの回転の位相をモニタリングするモニタリング装置と、モニタリング結果に基づいて該定速回転スプロケットの回転の位相を補正する補正装置と、をさらに備える、フィルム延伸装置が挙げられる。
【0016】
図1は、本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置の一例の全体構成を説明する概略平面図である。延伸装置100においては、フィルムの入口側から出口側へ向けて、把持ゾーンA、予熱ゾーンB、延伸ゾーンC、熱固定ゾーンDおよび開放ゾーンEがこの順に設けられている。これらのそれぞれのゾーンは、延伸対象となるフィルムが実質的に把持、予熱、斜め延伸、熱固定および開放されるゾーンを意味し、機械的、構造的に独立した区画を意味するものではない。また、
図1の延伸装置におけるそれぞれのゾーンの長さの比率は、実際の長さの比率と異なることに留意されたい。
【0017】
図1では、図示されていないが、延伸ゾーンCと熱固定ゾーンDとの間には、必要に応じて任意の適切な処理をするためのゾーンが設けられてもよい。このような処理としては、横収縮処理等が挙げられる。また、同様に図示されていないが、上記延伸装置は、代表的には、予熱ゾーンBから熱固定ゾーンDまたは開放ゾーンEまでを加熱環境とするための加熱装置(例えば、熱風式、近赤外式、遠赤外式等の各種オーブン)を備えている。
【0018】
延伸装置100は、平面視で、左右両側に、無端状の左右の基準レール10L、10Rを左右対称に有する。延伸装置100は、さらに、左右の基準レール10L、10Rの内周側に設けられたピッチ設定レール20L、20Rと、クリップ40を担持し、左右の基準レール10L、10Rに案内されて走行移動する複数の左右のクリップ担持部材30L、30Rと、左右のクリップ担持部材30L、30Rに走行力を与える駆動手段(図示例では、駆動用スプロケット)50L、50Rと、をさらに有する。なお、本明細書においては、フィルムの入口側から見て左側の基準レールを左側の基準レール10L、右側の基準レールを右側の基準レール10Rと称する。クリップ40を担持するクリップ担持部材30L、30Rは、基準レール10L、10Rに案内されてループ状に巡回移動する。具体的には、左の基準レール10Lに案内されるクリップ担持部材30L(結果として、該クリップ担持部材に担持されるクリップ(左クリップ)40)は反時計廻り方向に巡回移動し、右の基準レール10Rに案内されるクリップ担持部材30R(結果として、該クリップ担持部材に担持されるクリップ(右クリップ)40)は時計廻り方向に巡回移動する。
【0019】
上記延伸装置100の把持ゾーンAおよび予熱ゾーンBでは、左右の基準レール10L、10Rは、延伸対象となるフィルムの初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。延伸ゾーンCでは、予熱ゾーンBの側から熱固定ゾーンDに向かうに従って左右の基準レール10L、10Rの離間距離が上記フィルムの延伸後の幅に対応するまで徐々に拡大する構成とされている。熱固定ゾーンDおよび開放ゾーンEでは、左右の基準レール10L、10Rは、上記フィルムの延伸後の幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。ただし、左右の基準レール10L、10Rの構成は上記図示例に限定されない。例えば、左右の基準レール10L、10Rは、把持ゾーンAから開放ゾーンEまで延伸対象となるフィルムの初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されていてもよい。
【0020】
左クリップ40および右クリップ40は、それぞれ独立して巡回移動し得るように構成されている。具体的には、クリップ担持部材30L、30Rに、駆動用スプロケット50L、50Rと選択的に係合可能な駆動ローラ39を設け、駆動ローラ39を電動モータ60L、60Rによって回転駆動される駆動用スプロケット50L、50Rと選択的に係合させることにより、クリップ担持部材30L、30Rに走行力が与えられる。よって、左の基準レール10L用の駆動用スプロケット50Lを反時計廻り方向に回転駆動し、右の基準レール10R用の駆動用スプロケット50Rを時計廻り方向に回転駆動することにより、左クリップは反時計廻り方向に巡回移動し、右クリップは時計廻り方向に巡回移動する。電動モータの出力を調整して駆動用スプロケットからクリップ担持部材に伝達する走行力を変化させることにより、左右のクリップ担持部材の走行速度(結果として、左右のクリップの走行速度)を、それぞれ独立して任意の値に制御することができる。また、フィルム入口側にはクリップによるフィルム把持のタイミングを左右同時にするためのクリップ位置調整用スプロケット52L、52Rが配置されており、それぞれ電動モータ62L、62Rによって回転駆動されているが、これらのスプロケットは、クリップの走行速度に影響を与えない。なお、図示例とは異なり、フィルム入口側に駆動用スプロケットを配置してもよい。
【0021】
さらに、左のクリップ担持部材(結果として、左クリップ)および右のクリップ担持部材(結果として、右クリップ)は、それぞれ可変ピッチ型である。すなわち、左右のクリップ担持部材(結果として、左右のクリップ)は、それぞれ独立して、移動に伴って縦方向のクリップピッチが変化し得る。可変ピッチ型の構成は、基準レールとピッチ設定レールとの離間距離によってクリップ担持部材間のピッチを調整可能に構成されたリンク機構を採用することにより実現され得る。以下、リンク機構(パンタグラフ機構)の一例について説明する。
【0022】
図2および
図3はそれぞれ、
図1の延伸装置においてクリップピッチを変化させるリンク機構を説明するための要部概略平面図であり、
図2はクリップピッチが最小の状態を示し、
図3はクリップピッチが最大の状態を示す。
【0023】
図2および
図3に図示されるように、クリップ担持部材30は、平面視横方向に細長矩形状に設けられ、長手方向の一端部にクリップ40を個々に担持している。図示しないが、クリップ担持部材30は、上梁、下梁、前壁(クリップ側の壁)、および後壁(クリップと反対側の壁)により閉じ断面の強固なフレーム構造に形成されている。クリップ担持部材30は、その両端の走行輪38により走行路面81、82上を転動するよう設けられている。なお、
図2および
図3では、前壁側の走行輪(走行路面81上を転動する走行輪)は図示されない。走行路面81、82は、全域に亘って基準レール10に並行している。クリップ担持部材30の上梁と下梁の後側(クリップ側の反対側(以下、反クリップ側))には、クリップ担持部材の長手方向に沿って長孔31が形成され、スライダ32が長孔31の長手方向にスライド可能に係合している。クリップ担持部材30のクリップ40側端部の近傍には、上梁および下梁を貫通して一本の第1の軸部材33が垂直に設けられている。図示しないが、第1の軸部材33の下端には、案内ローラが回転可能に設けられており、案内ローラは基準レール10に設けられている凹溝に係合している。また、第1の軸部材33の上端には、駆動ローラ39が回転可能に設けられている。一方、クリップ担持部材30のスライダ32には一本の第2の軸部材34が垂直に貫通して設けられている。図示しないが、第2の軸部材34の下端には、ピッチ設定ローラが回転可能に設けられており、ピッチ設定ローラはピッチ設定レール20に設けられている凹溝に係合している。各クリップ担持部材30の第1の軸部材33には主リンク部材35の一端が枢動連結されている。主リンク部材35は、他端を隣接するクリップ担持部材30の第2の軸部材34に枢動連結されている。各クリップ担持部材30の第1の軸部材33には、主リンク部材35に加えて、副リンク部材36の一端が枢動連結されている。副リンク部材36は、他端を主リンク部材35の中間部に枢軸37によって枢動連結されている。主リンク部材35、副リンク部材36によるリンク機構により、
図2に示すように、スライダ32がクリップ担持部材30の後側(反クリップ側)に移動しているほど、クリップ担持部材30同士の縦方向のピッチ(結果として、クリップピッチ)が小さくなり、
図3に示すように、スライダ32がクリップ担持部材30の前側(クリップ側)に移動しているほど、クリップ担持部材30同士の縦方向のピッチ(結果として、クリップピッチ)が大きくなる。スライダ32の位置決めは、ピッチ設定レール20により行われる。
図2および
図3に示すように、基準レール10とピッチ設定レール20との離間距離が小さいほどクリップピッチが大きくなる。
【0024】
延伸装置100はさらに、予熱ゾーンBの搬送方向の同位置に配置された左右の定速回転スプロケット54L、54Rと、定速回転スプロケット54L、54Rの回転の位相をモニタリングするモニタリング装置70L、70Rと、モニタリング結果に基づいて該定速回転スプロケットの回転の位相を補正する補正装置80L、80Rと、を有する。
【0025】
左右の定速回転スプロケット54L、54Rはそれぞれ、電動モータ64L、64Rによって定速回転駆動されている。所定の回転速度で回転する左右の定速回転スプロケット54L、54Rを、クリップピッチを変化させるリンク機構(より具体的には、クリップ担持部材)と係合させることにより、クリップの走行速度を所定の速度に制限することができる。また、定速回転スプロケットの回転の位相は、補正装置80L、80Rからの入力に応じて電動モータの出力パターンを変化させることによって、任意に調整され得る。定速回転スプロケットの回転の位相を任意に調整可能な電動モータとしては、例えば、ステッピングモータを用いることができる。
【0026】
図示例とは異なり、左右の定速回転スプロケットは、互いに搬送方向の異なる位置に配置されてもよい。また、左右の定速回転スプロケットのいずれか一方のみが設けられていてもよい。
【0027】
定速回転スプロケットが設けられる場所は、予熱ゾーンに限定されない。定速回転スプロケットは、把持ゾーン(ただし、フィルムをクリップで把持した後)、予熱ゾーン、延伸ゾーンおよび熱固定ゾーンから選択される少なくとも1つのゾーンに設けられ、好ましくは予熱ゾーンおよび延伸ゾーンから選択される少なくとも1つのゾーンに設けられ得る。本発明の効果が得られる限りにおいて、1つのゾーンに2つ以上の定速回転スプロケットが設けられてもよく、2つ以上のゾーンにそれぞれ1つ以上の定速回転スプロケットが設けられてもよい。
【0028】
モニタリング装置70L、70Rは、定速回転スプロケット54L、54Rの回転の位相をモニタリングする。モニタリング方法は限定されない。例えば、変位量を測定する変位センサや反射光を測定する光学センサをモニタリング装置として用いて定速回転スプロケットの歯の通過を検出することによって回転の位相をモニタリングすることができる。
【0029】
補正装置80L、80Rは、モニタリング装置から入力される定速回転スプロケットの回転の位相と所望される回転の位相(すなわち、設定値としての回転の位相)とのずれを特定し、当該ずれを相殺(キャンセル)して定速回転スプロケットの回転の位相を設定通りの回転の位相に近づけるような信号を電動モータの制御部に出力する。なお、本発明の効果が得られる限りにおいて、補正装置を設けることなく、作業者がモニタリング結果に基づいて設定通りの回転の位相に近づけるための補正量(位相ずれ量)を算出し、電動モータの制御部に補正量を入力してもよい。
【0030】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0031】
A―2.把持工程
把持ゾーンA(延伸装置100のフィルム取り込みの入り口)においては、代表的には、左右の無端ループ10L、10Rのクリップ40によって、延伸対象となるフィルムの左右端部を所定のクリップピッチで位相を揃えて、すなわち、互いに等しい一定のクリップピッチで同時に把持する。このとき、左右のクリップの中心を結んだ線は、代表的には、フィルムの搬送方向に対して略直交(例えば90°±3°、好ましくは90°±1°、より好ましくは90°±0.5°、さらにより好ましくは90°)となる。把持時の左右のクリップのクリップピッチは、例えば100mm~200mm、好ましくは125mm~175mm、より好ましくは140mm~160mmである。
【0032】
左右のクリップの移動(実質的には、左右の基準レール10L、10Rに案内された各クリップ担持部材の移動)により、当該フィルムが予熱ゾーンBに送られる。
【0033】
A-3.予熱工程
予熱ゾーンBにおいては、左右の基準レール10L、10Rは、上記のとおり延伸対象となるフィルムの初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されているので、基本的には横延伸も縦延伸も行わず、フィルムが加熱される。ただし、予熱によりフィルムのたわみが起こり、オーブン内のノズルに接触するなどの不具合を回避するために、わずかに左右クリップ間の距離(幅方向の距離)を広げてもよい。
【0034】
予熱工程においては、フィルムを温度T1(℃)まで加熱する。温度T1は、フィルムのガラス転移温度(Tg)以上であることが好ましく、より好ましくはTg+2℃以上、さらに好ましくはTg+5℃以上である。一方、加熱温度T1は、好ましくはTg+40℃以下、より好ましくはTg+30℃以下である。用いるフィルムにより異なるが、温度T1は、例えば70℃~190℃であり、好ましくは80℃~180℃である。
【0035】
上記温度T1までの昇温時間および温度T1での保持時間は、フィルムの構成材料や製造条件(例えば、フィルムの搬送速度)に応じて適切に設定され得る。これらの昇温時間および保持時間は、クリップ40の移動速度、予熱ゾーンの長さ、予熱ゾーンの温度等を調整することにより制御され得る。
【0036】
A-4.斜め延伸工程
延伸ゾーンCにおいては、左右のクリップ40を、その少なくとも一方のクリップの縦方向のクリップピッチを変化させながら走行移動させて、フィルムを斜め延伸する。より具体的には、左右のクリップを、それぞれ異なる位置でクリップピッチを増大または縮小させながら走行移動させること、それぞれ異なる変化速度でクリップピッチを変化(増大および/または縮小)させながら走行移動させること等によって、フィルムを斜め延伸する。このようにクリップピッチを変化させながら左右のクリップを走行移動させる結果、延伸ゾーンに同時に移行した一対の左右のクリップの内、一方のクリップが他方のクリップに先行して延伸ゾーンの終端に到達する。このような斜め延伸によれば、当該先行するクリップ側の端部が後行するクリップ側の端部よりも高い延伸倍率で延伸されることになり、その結果として、長尺フィルムの所望の方向(例えば、長手方向に対して45°の方向)に遅相軸を発現させることができる。
【0037】
斜め延伸は、横延伸を含んでもよい。この場合、斜め延伸は、例えば
図1に示す構成のように、左右のクリップ間の距離(幅方向の距離)を拡大させながら行われ得る。あるいは、
図1に示す構成とは異なり、左右のクリップ間の距離を維持したまま行われ得る。
【0038】
斜め延伸が横延伸を含む場合、横方向(TD)の延伸倍率(フィルムの初期幅Winitialに対する斜め延伸後のフィルムの幅Wfinalの比(Wfinal/Winitial))は、好ましくは1.05~6.00であり、より好ましくは1.10~5.00である。
【0039】
1つの実施形態において、斜め延伸は、上記左右のクリップのうちの一方のクリップのクリップピッチが増大または減少し始める位置と他方のクリップのクリップピッチが増大または減少し始める位置とを縦方向における異なる位置とした状態で、それぞれのクリップのクリップピッチを所定のピッチまで増大または減少することによって行われ得る。当該実施形態の斜め延伸については、例えば、特許文献1、特開2014-238524号公報等の記載を参照することができる。
【0040】
別の実施形態において、斜め延伸は、上記左右のクリップのうちの一方のクリップのクリップピッチを固定したまま、他方のクリップのクリップピッチを所定のピッチまで増大または減少させた後、当初のクリップピッチまで戻すことによって行われ得る。当該実施形態の斜め延伸については、例えば、特開2013-54338号公報、特開2014-194482号公報等の記載を参照することができる。
【0041】
さらに別の実施形態において、斜め延伸は、(i)上記左右のクリップのうちの一方のクリップのクリップピッチをP1からP2まで増大させつつ、他方のクリップのクリップピッチをP1からP3まで減少させること、および、(ii)該減少したクリップピッチと該増大したクリップピッチとが所定の等しいピッチとなるように、それぞれのクリップのクリップピッチを変化させることによって行われ得る。当該実施形態の斜め延伸については、例えば、特開2014-194484号公報等の記載を参照することができる。当該実施形態の斜め延伸は、左右のクリップ間の距離を拡大させながら、一方のクリップのクリップピッチをP1からP2まで増大させつつ、他方のクリップのクリップピッチをP1からP3まで減少させて、フィルムを斜め延伸すること(第1の斜め延伸)、および、左右のクリップ間の距離を拡大させながら、左右のクリップのクリップピッチが等しくなるように該一方のクリップのクリップピッチをP2で維持またはP4まで減少させ、かつ、該他方のクリップのクリップピッチをP2またはP4まで増大させて、フィルムを斜め延伸すること(第2の斜め延伸)を含み得る。
【0042】
上記第1の斜め延伸においては、フィルムの一方の端部を長尺方向に伸長させつつ、他方の端部を長尺方向に収縮させながら斜め延伸を行うことにより、所望の方向(例えば、長尺方向に対して45°の方向)に高い一軸性および面内配向性で遅相軸を発現させることができる。また、第2の斜め延伸においては、左右のクリップピッチの差を縮小しながら斜め延伸を行うことにより、余分な応力を緩和しつつ、斜め方向に十分に延伸することができる。
【0043】
上記3つの実施形態の斜め延伸において、左右のクリップの移動速度が等しくなった状態でフィルムをクリップから開放することができるので、左右のクリップの開放時にフィルムの搬送速度等のバラツキが生じ難く、その後のフィルムの巻き取りが好適に行われ得る。
【0044】
図4Aおよび
図4Bはそれぞれ、上記第1の斜め延伸および第2の斜め延伸を含む斜め延伸におけるクリップピッチのプロファイルの一例を示す概略図である。以下、これらの図を参照しながら、第1の斜め延伸を具体的に説明する。なお、
図4Aおよび
図4Bにおいて、横軸はクリップの走行距離に対応する。第1の斜め延伸開始時においては、左右のクリップピッチはともにP
1とされている。P
1は、代表的には、フィルムを把持した際のクリップピッチである。第1の斜め延伸が開始されると同時に、一方のクリップ(以下、第1のクリップと称する場合がある)のクリップピッチの増大を開始し、かつ、他方のクリップ(以下、第2のクリップと称する場合がある)のクリップピッチの減少を開始する。第1の斜め延伸においては、第1のクリップのクリップピッチをP
2まで増大させ、第2のクリップのクリップピッチをP
3まで減少させる。したがって、第1の斜め延伸の終了時(第2の斜め延伸の開始時)において、第2のクリップはクリップピッチP
3で移動し、第1のクリップはクリップピッチP
2で移動することとされている。なお、クリップピッチの比はクリップの移動速度の比に概ね対応し得る。
【0045】
図4Aおよび
図4Bでは、第1のクリップのクリップピッチを増大させ始めるタイミングおよび第2のクリップのクリップピッチを減少させ始めるタイミングをともに第1の斜め延伸の開始時としているが、図示例とは異なり、第1のクリップのクリップピッチを増大させ始めた後に第2のクリップのクリップピッチを減少させ始めてもよく、第2のクリップのクリップピッチを減少させ始めた後に第1のクリップのクリップピッチを増大させ始めてもよい。1つの好ましい実施形態においては、第1のクリップのクリップピッチを増大させ始めた後に第2のクリップのクリップピッチを減少させ始める。このような実施形態によれば、既にフィルムが幅方向に一定程度(好ましくは1.2倍~2.0倍程度)延伸されていることから第2のクリップのクリップピッチを大きく減少させてもシワが発生しにくい。よって、より鋭角な斜め延伸が可能となり、一軸性および面内配向性の高い位相差フィルムが好適に得られ得る。
【0046】
同様に、
図4Aおよび
図4Bでは、第1の斜め延伸の終了時(第2の斜め延伸の開始時)まで第1のクリップのクリップピッチの増大および第2のクリップのクリップピッチの減少が続いているが、図示例とは異なり、クリップピッチの増大または減少のいずれか一方が他方よりも早く終了し、他方が終了するまで(第1の斜め延伸の終了時まで)そのクリップピッチがそのまま維持されてもよい。
【0047】
第1のクリップのクリップピッチの変化率(P2/P1)は、好ましくは1.25~1.75、より好ましくは1.30~1.70、さらに好ましくは1.35~1.65である。また、第2のクリップのクリップピッチの変化率(P3/P1)は、例えば0.50以上1未満、好ましくは0.50~0.95、より好ましくは0.55~0.90、さらに好ましくは0.55~0.85である。クリップピッチの変化率がこのような範囲内であれば、フィルムの長手方向に対して概ね45度の方向に高い一軸性および面内配向性で遅相軸を発現させることができる。
【0048】
クリップピッチは、上記のとおり、延伸装置のピッチ設定レールと基準レールとの離間距離を調整してスライダを位置決めすることにより、調整され得る。
【0049】
第1の斜め延伸におけるフィルムの幅方向の延伸倍率(第1の斜め延伸終了時のフィルム幅/第1の斜め延伸前のフィルム幅)は、好ましくは1.1倍~3.0倍、より好ましくは1.2倍~2.5倍、さらに好ましくは1.25倍~2.0倍である。当該延伸倍率が1.1倍未満であると、収縮させた側の端部にトタン状のシワが生じる場合がある。また、当該延伸倍率が3.0倍を超えると、得られる位相差フィルムの二軸性が高くなってしまい、円偏光板等に適用した場合に視野角特性が低下する場合がある。
【0050】
1つの実施形態において、第1の斜め延伸は、第1のクリップのクリップピッチの変化率と第2のクリップのクリップピッチの変化率との積が、好ましくは0.7~1.5、より好ましくは0.8~1.45、さらに好ましくは0.85~1.40となるように行われる。変化率の積がこのような範囲内であれば、一軸性および面内配向性の高い位相差フィルムが得られ得る。
【0051】
次に、第2の斜め延伸の1つの実施形態を、
図4Aを参照しながら具体的に説明する。本実施形態の第2の斜め延伸においては、第2のクリップのクリップピッチをP
3からP
2まで増大させる。一方、第1のクリップのクリップピッチは、第2の斜め延伸の間、P
2のまま維持される。したがって、第2の斜め延伸の終了時において、左右のクリップはともに、クリップピッチP
2で移動することとされている。
【0052】
図4Aに示す実施形態の第2の斜め延伸における第2のクリップのクリップピッチの変化率(P
2/P
3)は、本発明の効果を損なわない限りにおいて制限はない。該変化率(P
2/P
3)は、例えば1.3~4.0、好ましくは1.5~3.0である。
【0053】
第2の斜め延伸の別の実施形態を、
図4Bを参照しながら具体的に説明する。本実施形態の第2の斜め延伸においては、第1のクリップのクリップピッチを減少させるとともに、第2のクリップのクリップピッチを増大させる。具体的には、第1のクリップのクリップピッチをP
2からP
4まで減少させ、第2のクリップのクリップピッチをP
3からP
4まで増大させる。したがって、第2の斜め延伸の終了時において、左右のクリップはともにクリップピッチP
4で移動することとされている。なお、図示例では、第2の斜め延伸の開始と同時に、第1のクリップのクリップピッチの減少および第2のクリップのクリップピッチの増大を開始しているが、これらは異なるタイミングで開始され得る。また、同様に、第1のクリップのクリップピッチの減少および第2のクリップのクリップピッチの増大は、異なるタイミングで終了してもよい。
【0054】
図4Bに示す実施形態の第2の斜め延伸における第1のクリップのクリップピッチの変化率(P
4/P
2)および第2のクリップのクリップピッチの変化率(P
4/P
3)は、本発明の効果を損なわない限りにおいて制限はない。変化率(P
4/P
2)は、例えば0.4以上1.0未満、好ましくは0.6~0.95である。また、変化率(P
4/P
3)は、例えば1.0を超え2.0以下、好ましくは1.2~1.8である。好ましくは、P
4はP
1以上である。P
4<P
1であると、端部にシワが生じる、二軸性が高くなる等の問題が生じる場合がある。
【0055】
第2の斜め延伸におけるフィルムの幅方向の延伸倍率(第2の斜め延伸終了時のフィルム幅/第1の斜め延伸終了時のフィルム幅)は、好ましくは1.1倍~3.0倍、より好ましくは1.2倍~2.5倍、さらに好ましくは1.25倍~2.0倍である。当該延伸倍率が1.1倍未満であると、収縮させた側の端部にトタン状のシワが生じる場合がある。また、当該延伸倍率が3.0倍を超えると、得られる位相差フィルムの二軸性が高くなってしまい、円偏光板等に適用した場合に視野角特性が低下する場合がある。また、第1の斜め延伸および第2の斜め延伸における幅方向の延伸倍率(第2の斜め延伸終了時のフィルム幅/第1の斜め延伸前のフィルム幅)は、上記と同様の観点から、好ましくは1.2倍~4.0倍であり、より好ましくは1.4倍~3.0倍である。
【0056】
斜め延伸は、代表的には、温度T2で行われ得る。温度T2は、フィルムのガラス転移温度(Tg)に対し、Tg-20℃~Tg+30℃であることが好ましく、さらに好ましくはTg-10℃~Tg+20℃、特に好ましくはTg程度である。用いるフィルムにより異なるが、温度T2は、例えば70℃~180℃であり、好ましくは80℃~170℃である。上記温度T1と温度T2との差(T1-T2)は、好ましくは±2℃以上であり、より好ましくは±5℃以上である。1つの実施形態においては、T1>T2であり、したがって、予熱ゾーンで温度T1まで加熱されたフィルムは温度T2まで冷却され得る。
【0057】
上述の通り、斜め延伸後に横収縮処理が行われてもよい。斜め延伸後の当該処理については、特開2014-194483号公報の0029~0032段落を参照することができる。
【0058】
A-5.熱固定工程
熱固定ゾーンDでは、斜め延伸されたフィルムを熱処理する。熱固定ゾーンDにおいては、通常、横延伸も縦延伸も行われないが、必要に応じて、縦方向のクリップピッチを減少させ、これにより、応力を緩和してもよい。
【0059】
熱処理は、代表的には、温度T3で行われ得る。温度T3は、延伸されるフィルムによって異なり、T2≧T3の場合も、T2<T3の場合もあり得る。一般的に、フィルムが非晶性材料である場合はT2≧T3であり、結晶性材料である場合はT2<T3にすることで結晶化処理を行う場合もある。T2≧T3の場合、温度T2とT3の差(T2-T3)は好ましくは0℃~50℃である。熱処理時間は、代表的には10秒~10分である。熱処理時間は、熱固定ゾーンの長さおよび/またはフィルムの搬送速度を調整することにより制御され得る。
【0060】
A-6.開放工程
開放ゾーンEの任意の位置において、上記フィルムが、クリップから開放される。開放ゾーンEにおいては、通常、熱固定後のフィルムに対して横延伸も縦延伸も行うことなく、所望の温度までフィルムを冷却し、次いで、フィルムをクリップから開放する。クリップから開放される際のフィルム温度は、例えば150℃以下であり、好ましくは70℃~140℃、より好ましくは80℃~130℃である。
【0061】
A-7.定速回転スプロケットによるクリップの移動速度の制限および回転の位相の調整
本発明の実施形態による延伸フィルムの製造方法においては、フィルムを左右のクリップで把持してから熱固定が終了するまでの間に、クリップピッチを変化させるリンク機構に定速回転スプロケットを係合させることによってクリップの移動速度を所定の速度に制限する。これにより、斜め延伸において、得られる延伸フィルムの配向角(長尺方向に対する角度)、例えば幅方向中央における配向角が初期から所定の期間にわたって設定値から経時的にずれていくことを防止できる。より詳細には、定速回転スプロケットとの係合によりクリップの移動速度を精密に制御することによって、斜め延伸によってフィルムに生じる斜め方向の力ならびにクリップを支持するベアリングとレールとの間の遊びに起因するクリップの所望でない移動を防止する。これにより、クリップの移動速度が設定速度に修正される結果、得られる延伸フィルムの配向角の経時的なずれを防止することができる。
【0062】
クリップの移動速度の制限は、フィルムを左右のクリップで把持してから熱固定が終了するまでの間に行われ、好ましくは予熱および斜め延伸の間に行われる。
【0063】
さらに、本発明の実施形態による延伸フィルムの製造方法においては、定速回転スプロケットの回転の位相をモニタリングし、設定通りの位相に近づくように当該回転の位相を調整する。上記クリップの移動速度の制限においては、クリップピッチを変化させるリンク機構との係合を繰り返すことによって、定速回転スプロケットの回転の位相が徐々にずれてしまい、左右のクリップの相対的な位置関係が変化する結果、得られる延伸フィルムの幅方向において面内位相差にバラツキが生じ得る。これに対し、定速回転スプロケットの回転の位相を設定通りの位相になるように調整することにより、左右のクリップの相対的な位置関係を維持しつつ、その移動速度を所定の速度に制限することができる。その結果、得られる延伸フィルムの配向角の経時的なずれおよび幅方向における面内位相差のバラツキを好適に防止することができる。
【0064】
回転の位相のモニタリングは、上述の通り、変位量を測定する変位センサや反射光を測定する光学センサをモニタリング装置として用いて、定速回転スプロケットの歯の通過を検出すること等によって行われ得る。
【0065】
回転の位相の調整は、モニタリング装置で観測される回転の位相と所望される回転の位相(すなわち、設定値としての回転の位相)とのずれに基づいて、当該ずれを相殺して設定通りの位相に近づけるために必要な補正量(位相ずれ量)を決定し、定速回転スプロケットを回転駆動する電動モータ(例えば、ステッピングモータ)の制御部に当該補正量を入力することによって行われ得る。例えば、設定された位相から所定量遅れた回転の位相がモニタリングされた場合、回転の位相を当該所定量早めるように制御する。なお、回転の位相の調整は、左右の定速回転スプロケットに関して、それぞれ独立して行われ得る。
【0066】
1つの実施形態において、定速回転スプロケットの回転の位相差(モニタリングされる回転の位相(すなわち、回転の位相の実測値)と回転の位相の設定値との差)が-1mm~+1mmの範囲内となるように、上記回転の位相の調整を行う。回転の位相差が当該範囲内であれば、面内位相差および配向角のバラツキを好適に抑制できる。
【0067】
B.延伸対象のフィルム
本発明の製造方法においては、任意の適切なフィルムを用いることができる。例えば、位相差フィルムとして適用可能な樹脂フィルムが挙げられる。このようなフィルムを構成する材料としては、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロースエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。好ましくは、ポリカーボネート系樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂、シクロオレフィン系樹脂である。これらの樹脂であれば、いわゆる逆分散の波長依存性を示す位相差フィルムが得られ得るからである。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、所望の特性に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0068】
上記ポリカーボネート系樹脂としては、任意の適切なポリカーボネート系樹脂が用いられる。例えば、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート系樹脂が好ましい。ジヒドロキシ化合物の具体例としては、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-エチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-n-プロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-n-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-sec-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等が挙げられる。ポリカーボネート樹脂は、上記ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の他に、イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、スピログリコール、ジオキサングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TEG)、ポリエチレングリコール(PEG)、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、トリシクロデカンジメタノール(TCDDM)、ビスフェノール類などのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0069】
上記のようなポリカーボネート系樹脂の詳細は、例えば特開2012-67300号公報および特許第3325560号に記載されている。当該特許文献の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0070】
ポリカーボネート系樹脂のガラス転移温度は、110℃以上250℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以上230℃以下である。ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こす可能性がある。ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時の成形安定性が悪くなる場合があり、また、フィルムの透明性を損なう場合がある。なお、ガラス転移温度は、JIS K 7121(1987)に準じて求められる。
【0071】
上記ポリビニルアセタール系樹脂としては、任意の適切なポリビニルアセタール系樹脂を用いることができる。代表的には、ポリビニルアセタール系樹脂は、少なくとも2種類のアルデヒド化合物及び/又はケトン化合物と、ポリビニルアルコール系樹脂とを縮合反応させて得ることができる。ポリビニルアセタール系樹脂の具体例および詳細な製造方法は、例えば、特開2007-161994号公報に記載されている。当該記載は、本明細書に参考として援用される。
【0072】
上記延伸対象のフィルムを延伸して得られる延伸フィルム(位相差フィルム)は、好ましくは、屈折率特性がnx>nyの関係を示す。1つの実施形態において、位相差フィルムは、好ましくはλ/4板として機能し得る。本実施形態において、位相差フィルム(λ/4板)の面内位相差Re(550)は、好ましくは100nm~180nm、より好ましくは135nm~155nmである。別の実施形態において、位相差フィルムは、好ましくはλ/2板として機能し得る。本実施形態において、位相差フィルム(λ/2板)の面内位相差Re(550)は、好ましくは230nm~310nm、より好ましくは250nm~290nmである。なお、本明細書において、Re(λ)は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの面内位相差である。したがって、Re(550)は、23℃における波長550nmの光で測定したフィルムの面内位相差である。Re(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。ここで、nxは面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、nyは面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率である。
【0073】
位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、斜め延伸条件を適切に設定することにより所望の範囲とすることができる。例えば、斜め延伸によって100nm~180nmの面内位相差Re(550)を有する位相差フィルムを製造する方法は、特開2013-54338号公報、特開2014-194482号公報、特開2014-238524号公報、特開2014-194484号公報等に詳細に開示されている。よって、当業者は、当該開示に基づいて適切な斜め延伸条件を設定することができる。
【0074】
1枚の位相差フィルムを用いて円偏光板を作製する場合、または、1枚の位相差フィルムを用いて直線偏光の向きを90°回転させる場合、用いられる位相差フィルムの遅相軸方向は、当該フィルムの長尺方向に対して好ましくは30°~60°または120°~150°、より好ましくは38°~52°または128°~142°、さらに好ましくは43°~47°または133°~137°、特に好ましくは45°または135°程度である。
【0075】
また、2枚の位相差フィルム(具体的には、λ/2板とλ/4板)を用いて円偏光板を作製する場合、用いられる位相差フィルム(λ/2板)の遅相軸方向は、当該フィルムの長尺方向に対して好ましくは60°~90°、より好ましくは65°~85°、特に好ましくは75°程度である。また、位相差フィルム(λ/4板)の遅相軸方向は、当該フィルムの長尺方向に対して好ましくは0°~30°、より好ましくは5°~25°、特に好ましくは15°程度である。
【0076】
位相差フィルムは、好ましくは、いわゆる逆分散の波長依存性を示す。具体的には、その面内位相差は、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たす。Re(450)/Re(550)は、好ましくは0.8以上1.0未満であり、より好ましくは0.8~0.95である。Re(550)/Re(650)は、好ましくは0.8以上1.0未満であり、より好ましくは0.8~0.97である。
【0077】
位相差フィルムは、その光弾性係数の絶対値が、好ましくは2×10-12(m2/N)~100×10-12(m2/N)であり、より好ましくは5×10-12(m2/N)~50×10-12(m2/N)である。
【0078】
C.光学積層体および該光学積層体の製造方法
本発明の製造方法により得られた延伸フィルムは、別の光学フィルムと貼り合わせられて光学積層体として用いられ得る。例えば、本発明の製造方法によって得られた位相差フィルムは、偏光板と貼り合わせられて、円偏光板として好適に用いられ得る。
【0079】
図5は、そのような円偏光板の一例の概略断面図である。図示例の円偏光板500は、偏光子510と、偏光子510の片側に配置された第1の保護フィルム520と、偏光子510のもう片側に配置された第2の保護フィルム530と、第2の保護フィルム530の外側に配置された位相差フィルム540と、を有する。位相差フィルム540は、A項に記載の製造方法により得られた延伸フィルム(例えば、λ/4板)である。第2の保護フィルム530は省略されてもよい。その場合、位相差フィルム540が偏光子の保護フィルムとして機能し得る。偏光子510の吸収軸と位相差フィルム540の遅相軸とのなす角度は、好ましくは30°~60°、より好ましくは38°~52°、さらに好ましくは43°~47°、特に好ましくは45°程度である。
【0080】
本発明の製造方法により得られた位相差フィルムは、長尺状であり、かつ、斜め方向(長尺方向に対して例えば45°の方向)に遅相軸を有する。また、多くの場合、長尺状の偏光子は長尺方向または幅方向に吸収軸を有する。よって、本発明の製造方法により得られた位相差フィルムを用いれば、いわゆるロールトゥロールを利用することができ、きわめて優れた製造効率で円偏光板を作製することができる。なお、ロールトゥロールとは、長尺状のフィルム同士をロール搬送しながら、その長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせる方法をいう。
【0081】
1つの実施形態において、本発明の光学積層体の製造方法は、A項に記載の延伸フィルムの製造方法によって長尺状の延伸フィルムを得ること、および、長尺状の光学フィルムと該長尺状の延伸フィルムとを搬送しながら、その長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせることを含む。
【実施例】
【0082】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における測定および評価方法は下記のとおりである。
【0083】
(1)厚み
ダイヤルゲージ(PEACOCK社製、製品名「DG-205 type pds-2」)を用いて測定した。
(2)位相差値
位相差計(王子計測機器社製、KOBRAシリーズ)を用いて、波長550nmにおける面内位相差Re(550)を測定した。インラインで測定する場合はインライン位相差計を用いて0.5秒間隔で測定を行った。
(3)配向角(遅相軸の発現方向)
位相差計(王子計測機器社製、KOBRAシリーズ)を用いて、波長550nmにおける配向角θを測定した。インラインで測定する場合はインライン位相差計を用いて0.5秒間隔で測定を行った。
(4)ガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に準じて測定した。
【0084】
<実施例1>
(ポリエステルカーボネート樹脂フィルムの作製)
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。ビス[9-(2-フェノキシカルボニルエチル)フルオレン-9-イル]メタン 29.60質量部(0.046mol)、ISB 29.21質量部(0.200mol)、SPG 42.28質量部(0.139mol)、DPC 63.77質量部(0.298mol)及び触媒として酢酸カルシウム1水和物1.19×10-2質量部(6.78×10-5mol)を仕込んだ。反応器内を減圧窒素置換した後、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、生成したポリエステルカーボネートを水中に押し出し、ストランドをカッティングしてペレットを得た。得られたポリエステルカーボネート樹脂のTgは、140℃であった。
【0085】
得られたポリエステルカーボネート樹脂を80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー設定温度:250℃)、Tダイ(幅1500mm、設定温度:250℃)、チルロール(設定温度:120~130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み135μmの樹脂フィルムを作製した。
【0086】
(延伸フィルムの作製)
上記のようにして得られたポリエステルカーボネート樹脂フィルムを、
図1~3に示すようなフィルム延伸装置、具体的には、予熱ゾーンBの搬送方向の同位置に配置された一対の左右の定速回転スプロケットと、該定速回転スプロケットの回転の位相をモニタリングするモニタリング装置と、モニタリング結果に基づいて該定速回転スプロケットの回転の位相を補正する補正装置と、を備えるフィルム延伸装置、を用いて、長尺方向に対して45°方向に遅相軸が発現するように(すなわち、目的とする配向角を長尺方向に対して45°方向に設定して)、斜め延伸して位相差フィルムを得た。
具体的には、ポリエステルカーボネート樹脂フィルムの左右端部を延伸装置の入り口で左右のクリップによって把持し、予熱ゾーンBで145℃に予熱した。予熱ゾーンにおいては、左右のクリップのクリップピッチ(P
1)は125mmであった。
次に、フィルムが延伸ゾーンCに入ると同時に、右側クリップのクリップピッチの増大および左側クリップのクリップピッチの減少を開始し、右側クリップのクリップピッチをP
2まで増大させるとともに左側クリップのクリップピッチをP
3まで減少させた(第1の斜め延伸)。このとき、右側クリップのクリップピッチ変化率(P
2/P
1)は、1.42であり、左側クリップのクリップピッチ変化率(P
3/P
1)は0.78であり、フィルムの原幅に対する横延伸倍率は1.45倍であった。次いで、右側クリップのクリップピッチをP
2に維持したままで、左側クリップのクリップピッチの増大を開始し、P
3からP
2まで増大させた(第2の斜め延伸)。この間の左側クリップのクリップピッチの変化率(P
2/P
3)は1.82であり、フィルムの原幅に対する横延伸倍率は1.9倍であった。なお、延伸ゾーンCはTg+3.2℃(143.2℃)に設定した。
次いで、熱固定ゾーンDにおいて、125℃で60秒間フィルムを保持して熱固定を行った。熱固定されたフィルムを、開放ゾーンEにおいて100℃まで冷却後、左右のクリップを開放した。
なお、上記延伸フィルムの作製開始時点において、左右の定速回転スプロケットの回転の位相を同期すると共に、同じ回転速度(クリップを設定通りの速度で走行させる回転速度)で回転するように設定した。また、左右の定速回転スプロケットの各々に関してモニタリング装置で回転の位相をモニタリングし、モニタリングされた回転の位相と回転の位相の設定値との差を相殺して設定通りの回転の位相に近づけるための信号を駆動モータの制御部に出力するように補正装置を設定した。
【0087】
<比較例1>
左右の定速回転スプロケット、モニタリング装置および補正装置が設けられていないこと以外は実施例1で用いたフィルム延伸装置と同じフィルム延伸装置を用いて、実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
【0088】
<比較例2>
モニタリング結果に基づく定速回転スプロケットの回転の位相の調整を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして延伸フィルムを得た。
【0089】
[配向角および面内位相差の測定]
実施例1で得られた延伸フィルムに関して後述の通り有効幅を特定した。当該有効幅内において、フィルムの幅方向中央および左右端部から各々25mm内方の計3箇所において、配向角(長尺方向に対する角度)および面内位相差(Re(550))をインラインで測定した。延伸フィルムの作製開始から60分後および24時間後に測定された幅方向中央の配向角および面内位相差ならびに面内位相差のバラツキ(3箇所で測定されたRe(550)の最大値と最小値との差)を表1に示す。
【0090】
[有効幅]
延伸フィルムの幅方向における複数個所で面内位相差を測定し、その平均面内位相差値に対して±4nmの面内位相差を示す幅を有効幅とし、作製開始から24時間後に得られた延伸フィルムの全幅に対する有効幅の割合(%)を評価した。結果を表1に示す。
【0091】
[外観および取り扱い性評価]
実施例および比較例で得られた延伸フィルムに関して、外観および取り扱い性を目視によって以下の基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
〇:ロール搬送時の延伸フィルムにシワおよび弛みが確認されない
×:ロール搬送時の延伸フィルムにシワおよび/または弛みが確認される
【表1】
【0092】
表1に示されるとおり、長尺状の斜め延伸フィルムの連続生産において、定速回転スプロケットを用いてクリップの移動速度を所定の速度に制限すると共に、その回転の位相を設定通りの位相に維持することにより、得られる延伸フィルムの配向角の経時的なずれおよび面内位相差のバラツキを好適に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の延伸フィルムの製造方法は、位相差フィルムの製造に好適に用いられ、結果として、液晶表示装置(LCD)、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(OLED)等の画像表示装置の製造に寄与し得る。
【符号の説明】
【0094】
10 基準レール
20 ピッチ設定レール
30 クリップ担持部材
40 クリップ
54 定速回転スプロケット
70 モニタリング装置
80 補正装置
100 延伸装置
500 円偏光板
【要約】 (修正有)
【課題】長尺状の斜め延伸フィルムの連続生産において経時的に生じ得る配向角のずれおよび面内位相差のバラツキを抑制する、製造方法を提供する。
【解決手段】長尺フィルムの幅方向の左右端部を縦方向クリップピッチが変化する可変ピッチ型クリップ40により把持する、フィルムを予熱する、左右のクリップを少なくとも一方のクリップのクリップピッチを変化させながら走行移動させ、フィルムを斜め延伸する、フィルムを熱固定する、およびフィルムを左右のクリップから開放することを含み、フィルムを左右のクリップで把持してから熱固定が終了するまでの間に、クリップピッチを変化させるリンク機構に定速回転スプロケット54L、54Rを係合させ、クリップの移動速度を所定の速度に制限し、スプロケットの回転の位相をモニタリングし、モニタリング結果に基づき設定通りの位相に近づくよう回転の位相を調整する、延伸フィルムの製造方法。
【選択図】
図1