(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】緩み止めワッシャ
(51)【国際特許分類】
F16B 43/00 20060101AFI20220527BHJP
F16B 39/24 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
F16B43/00 A
F16B39/24 Z
(21)【出願番号】P 2019022370
(22)【出願日】2019-02-12
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】515272084
【氏名又は名称】佐藤 安男
(74)【代理人】
【識別番号】100111224
【氏名又は名称】田代 攻治
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 安男
【審査官】土田 嘉一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6198196(JP,B2)
【文献】実開昭52-016470(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 43/00
F16B 39/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結材と被締結材との間に介在し、締結後の締結材の緩みを防止するための緩み止めワッシャにおいて、
締結用の部材が貫通する円形の内径部と、外縁に円形もしくは非円形の外周部と、前記内径部と外周部との間に介在する平坦部とを備えた板状ばね材からなり、
前記内径部と外周部との間で前記平坦部から前記内径部の中心軸を対象軸として該中心軸の一方の方向に一定長さで円弧状に膨出して該中心軸に直交する方向に一定幅で延びる一定高さの複数のブリッジ部と、
前記各ブリッジ部の頂部に沿って、該ブリッジ部とは逆となる前記中心軸の他方の方向に一定長さで円弧状に凹入する一定深さの溝部と、
前記平坦部から前記一方の方向に一定高さで突出するストッパとが形成され、
前記ブリッジ部の幅方向両脇の少なくともいずれか一方と前記内径部もしくは外周部の間、又は前記ブリッジ部自身の幅方向の中間のいずれかに、前記ブリッジ部が前記平坦部から起ち上がる脚部間を前記ブリッジ部の長さ方向に相互に結ぶ平坦な連結帯が前記平坦部と一体に形成されていることを特徴とする緩み止めワッシャ。
【請求項2】
前記ブリッジ部の一定長さW、前記溝部の一定長さwとしたとき、W/wが3.3から6.0の範囲にある、請求項1に記載の緩み止めワッシャ。
【請求項3】
前記平坦部の表面の内、前記ブリッジ部が膨出する側の面を表面、他方の側の面を裏面としたとき、緩み止めワッシャが無負荷の状態で前記平坦部の裏面から前記ブリッジ部の表面側までの高さHと、前記平坦部の裏面から前記溝部の裏面側までの高さhと、前記平坦部の裏面から前記ストッパの表面側までの高さhsとの間に、hs=H-hの関係がある、請求項1に記載の緩み止めワッシャ。
【請求項4】
前記緩み止めワッシャが内径部および円形もしくは非円形の外周部を有する板材からなり、前記ブリッジ部が前記内径部の中心軸に対して対称に配置された一対のブリッジ部からなる、請求項1から請求項3のいずれか一に記載の緩み止めワッシャ。
【請求項5】
前記ストッパが、前記一対のブリッジ部の間の平坦部から前記一方の方向へ突出するよう形成された一対のストッパ、もしくは前記内径部が前記一方の方向に突出して形成されたストッパのいずれかである、請求項4に記載の緩み止めワッシャ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩み止めワッシャに関するものであり、特にはボルト、ナット等締結材の締結時に、締め付けによって相手部材との間で圧縮、挟持され、これによって自身の弾性反発力を発揮することで締結材の緩みを防止するために使用される緩み止めワッシャに関する。
【背景技術】
【0002】
ボルト、ナット(以下、これらをまとめて「締結材」という。)を締結した後に、振動や温度変化等に起因する締結後の緩みを阻止するためにスプリングワッシャが広く使用されている。中でも良く知られているのはスプリング材を使用した平坦な環状部材の一箇所が分断され、その分断部位の位相を軸方向に相互にずらせて形成したものである(例えば、特許文献1参照。)。その他にも各種形式のものが見られるが(例えば、特許文献2、3参照)、いずれも締結材締結時の押圧力によって圧縮されたワッシャが元の状態に戻ろうとする際に発生する弾性力を利用することを基本とし、締結材と相手部材との間の摩擦力を高めて緩みを防止するよう構成されている。
【0003】
一般に「ばね性」という場合、作用する力とそれによって変位する量、およびこれに伴う弾性反発力とが線形(リニア)の比例関係となるいわゆる「フックの法則」に従う範囲を言う。従来知られたスプリングワッシャも、締結材の締め付け力とそれによるスプリングワッシャの軸方向圧縮量、これに伴う弾性反発力は基本的に比例関係にある(締結後のさらなるボルトねじ込みによる抗力増大などの要因を除く。)。また、従来のスプリングワッシャは、締め付けは容易であるが締結後に一旦僅かでも緩みがあると締め付け力が持続せず、急激に緩んでしまう傾向にあると言われる。このため、かかる比例関係にある締め付け力と変位量との関係を必ずしも線形ではなく、締め付けるに従って弾性反発力が非線形に増大するような変化を持たせることにより、かかる従来のスプリングワッシャの弱点を克服できることが想定される。
【0004】
本願出願人らは上述した状況に鑑み、締め付けるに従って非線形に弾性反発力が増大して変化するような特性を持たせた緩み止めワッシャを開示していた(特許文献4参照。)。
図5(a)は特許文献4に開示された緩み止めワッシャ1の概要を示す斜視図を、
図5(b)は
図5(a)のA-A線で切断した側面断面図をそれぞれ示している。両図において緩み止めワッシャ1は、平坦な環状部材の中心を対称軸Cとした平坦部13に一定幅、一定高さで円弧状に軸方向に膨出するブリッジ部14を形成し、かつ、該ブリッジ部14の頂部で前記軸方向とは逆の方向に凹入する溝部16を形成し、また平坦部13には一対のストッパ17が対称軸Cに対して対称位置にブリッジ部14の膨出方向に突出するように設けられている。
【0005】
図6は、
図5に示す緩み止めワッシャ1を対称軸C方向に締結部材(例えばボルト)で締め付けた際のたわみ量(締め付け量)と荷重(弾性反発力)との関係を複数のテストピースを用いてテストした時の結果を表すグラフである(試験:東京都江東区、都立産業技術研究センター)。この時のテストピースは、ブリッジ部14が一定幅ではなく、中心軸Cを中心に放射状に広がる形状のブリッジ部とし、溝部16は一定幅としているが、
図5に示す緩み止めワッシャ1についても同一傾向を示すことが推定できる。ちなみにテストピースの諸元は、
図5(b)に表示の各寸法で外径D=20mm、内径d=10mm、板厚=0.2mm、ブリッジ部14の高さH=4.7mm、ブリッジ部14の平均アーム長=5.0mm、溝部16の高さh=2.0mmであった。
【0006】
図6に示すテスト結果によれば、当該テストピースでは、従来技術のスプリングワッシャにあるような荷重とたわみ量が線形に推移していないことが明らかであり、さらにはたわみ量が大きくなるに伴って荷重が2段階に亘って顕著な屈曲点を示して増大していることが分かる。具体的に、たわみ量が約1.6mm、荷重約12Nと、たわみ量約2.2mmで荷重約50Nの2つの位置でグラフに変化が生じ、最終的にたわみ量2.5mmに至っている。このような荷重-たわみ曲線から、当該テストピースを緩み止めワッシャとして使用した場合に、特には締結時のたわみ量が大きくなるにしたがって荷重が屈曲点を設けて増大することを意味し、この時の荷重はすなわち締結力と考えられることから、締結後により大きな緩み止め効果が維持できることを意味している。
【0007】
図5(a)に示す緩み止めワッシャ1の締結時における動作を要約すれば、締結材の回転により生じた締め付け力を受けた円弧状のブリッジ部14が沈み始め、溝部16も含めた弾性変形の増大に伴い、当初は一定の割合で線形に増加する抗力を示す。その間、膨出したブリッジ部14の中央に締結部材の締め付け力が加わるためにブリッジ部14につながる平坦部13が両端側で上方に起き上がるが、いずれかの段階でストッパ17の頂部がボルト30のボルトヘッド裏面に当接して平坦部13の起き上がりが阻止され、さらなる締め付けによって平坦部13とブリッジ部14との間の成す角度を開く方向に押し戻される。その結果、締め付けに対する抗力が第1の屈曲点を設けて増大するものと推察される。さらにその後のいずれかの段階で溝部16の底面が被締付材の表面に接するところまで沈み込み、これによる抗力がさらなる第2の屈曲点を設けて増大し、ピークに至るものと推察される。その状態で緩み止めワッシャ1は弾性復元力を確保しつつ締結状態を保持する緩み止め効果を発揮するものになると想定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】平9-242736号公報
【文献】特開平6-300028号公報
【文献】特開平10-73120号公報
【文献】特許第6198196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、特許文献4に開示された本願と同一の出願人にかかる従来技術の緩み止めワッシャ1の改善に関する。
図5(a)、(b)に示す緩み止めワッシャ1において、締結部材が上から締め付けられるとブリッジ部14の中央にある溝部16の真上から荷重が掛かるためブリッジ部14は圧縮され、変形することで弾性反発力を生ずる。この際、
図5(b)からも明らかなように、平坦部13から膨出したブリッジ部14の湾曲部は、何ら拘束する障害もなく同図の垂直方向にトンネル状に突き抜けているため、圧縮変形する際に当該ブリッジ部14の湾曲部のカーブは平均的に曲率を変化させつつ緩やかに平坦に近付く方向に変形する。この際、ブリッジ部14には図の左右方向に広げようとする力が発生し、僅かではあっても下側に位置する非締結材とブリッジ部14の脚部裏面との間で滑りを生じさせて緩み止めワッシャ1全体を左右に広げるものとなる。
【0010】
ブリッジ部14が平坦に近付く方向に変形することで弾性抗力が生じるが、上述した緩み止めワッシャ14全体が左右に広がることを想定すると、これによってブリッジ部14の弾性抗力は必ずしも十分に発揮されない事態が考えられる。もしこのブリッジ部14の左右への拡大傾向が阻止されていれば、ブリッジ部14の弾性抗力をより増大させる可能性があることは容易に想像できることである。
【0011】
したがって本発明は、従来技術にある上述した課題を解消し、緩み止めワッシャ1の改善を図って弾性抗力をより高め、緩み止め効果をより増大させることができるワッシャ構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、従来技術に示す緩み止めワッシャの平坦部にブリッジ部の両脚部間を結ぶ連結帯を設けて緩み止めワッシャ全体の左右への拡大を阻止し、ブリッジ部の変形による弾性抗力をより高めることにより上述した課題を解消するもので、具体的には以下の内容を含む。
【0013】
すなわち、本発明に係る一つの態様は、締結材と被締結材との間に介在し、締結後の締結材の緩みを防止するための緩み止めワッシャであって、締結用の部材が貫通する円形の内径部と、外縁に円形もしくは非円形の外周部と、内径部と外周部との間に介在する平坦部とを備えた板状ばね材からなり、内径部と外周部との間で前記平坦部から内径部の中心軸を対象軸として該中心軸の一方の方向に一定長さで円弧状に膨出して該中心軸に直交する方向に一定幅で延びる一定高さの複数のブリッジ部と、各ブリッジ部の頂部に沿って、該ブリッジ部とは逆となる前記中心軸の他方の方向に一定長さで円弧状に凹入する一定深さの溝部と、平坦部から前記一方の方向に一定高さで突出するストッパとが形成されており、ブリッジ部の幅方向両脇の少なくともいずれか一方と内径部もしくは外周部の間、又はブリッジ部自身の幅方向の中間のいずれかに、ブリッジ部が平坦部から起ち上がる脚部間をブリッジ部の長さ方向に相互に結ぶ平坦な連結帯が平坦部と一体に形成されていることを特徴とする緩み止めワッシャに関する。
【0014】
ブリッジ部の一定長さW、溝部の一定長さwとしたとき、W/wは3.3から6.0の範囲とすること望ましい。また、平坦部の表面の内、ブリッジ部が膨出する側の面を表面、他方の側の面を裏面としたとき、緩み止めワッシャが無負荷の状態で平坦部の裏面からブリッジ部の表面側までの高さHと、平坦部の裏面から溝部の裏面側までの高さhと、平坦部の裏面からストッパの表面側までの高さhsとの間は、hs=H-hの関係とすることができる。
【0015】
前記緩み止めワッシャが内径部および円形もしくは非円形の外周部を有する板材からなり、前記ブリッジ部は前記内径部の中心軸に対して対称に配置された一対のブリッジ部とすることができる。その際、前記ストッパは、前記一対のブリッジ部の間の平坦部から前記一方の方向へ突出するよう形成された一対のストッパか、もしくは前記内径部が前記一方の方向に突出して形成されたストッパのいずれかとすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の実施により、先行文献4によって得られた従来技術のスプリングワッシャに対する緩み止め効果を改善してこれをより一層高めることになる、効果的な緩み止め作用を発揮するワッシャを提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る緩み止めワッシャの概要を示す斜視図(a)、および側面断面図(b)である。
【
図2】
図1に示す緩み止めワッシャの締結時の状態を示す側面断面図である。
【
図3】
図1に示す緩み止めワッシャの変形対応を示す平面図である。
【
図4】本発明の他の実施の形態に係る緩み止めワッシャの全体像を示す斜視図である。
【
図5】特許文献4に示す従来技術に係る緩み止めワッシャの概要を示す斜視図(a)及び側面断面図(b)である。
【
図6】
図5に示す緩み止めワッシャに準じた複数のテストピースを使用して荷重とたわみ量との関係を測定した実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第1の実施の形態に係る緩み止めワッシャについて、図面を参照して説明する。
図1(a)は、本実施の形態に係る緩み止めワッシャ1Aの概要を示す斜視図であり、
図5(a)を参照して説明した従来技術に係る緩み止めワッシャ1に対応するもので、同一要素には同一符号を付している。
図1(a)において本実施の形態に係る緩み止めワッシャ1Aは、実質的に平坦な板状環状部材からなり、具体的には、締結材が貫通する円形の内径部11と、外縁を区切る円形の外周部12と、両者11、12の間を占める環状の平坦部13とからなる板状ばね材である。緩み止めワッシャ1Aには、平坦部13から、緩み止めワッシャ1Aの中心軸Cに対して軸対称に配置されて中心軸Cの一方向に膨出する一対のブリッジ部14と、各ブリッジ部14の頂部で中心軸Cの逆方向に凹入する溝部16と、一対のブリッジ部14の中間位置において平坦部13からブリッジ部14と同じ方向に突出する一対のストッパ17とが形成されている。以上の構成は
図5(a)に示す緩み止めワッシャ1Aと同様である。
【0019】
本実施の形態に係る緩み止めワッシャ1Aでは、各ブリッジ14の幅方向(緩み止めワッシャ1Aの半径方向)両側で内径部11と外周部12の夫々に沿った一定幅が平坦部13と連続してブリッジ14の長さ方向(緩み止めワッシャ1Aの円周方向)に平坦のまま残された連結帯18が形成されていることを特徴としている。換言すれば、ブリッジ部14は、従来技術にあるように環状の平坦部13の半径方向全幅に亘って何の障害もなくトンネル状に突き抜けるようには形成されてはおらず、内径部11と外周部12の間の一部のみで膨出しており、これにより平坦部13側に残された連結帯18は、平坦部13からのブリッジ部14の起ち上がる部位である両脚部間を結ぶよう形成されている。
図1(b)は
図1(a)のA-A線で切断したときの緩み止めワッシャ1Aの側面断面図を示しており、同図は従来技術の
図5(b)に対応している。両図を比較すれば、本実施の形態の緩み止めワッシャ1Aでは新たに設けられた連結帯18がブリッジ部14の両脚部をつないでいる様子が明りょうである。
【0020】
諸元的には、
図1(b)において、ブリッジ部14は平坦部13の裏面13bからブリッジ部14の表面側までの高さがH、長さ(図の左右方向となるブリッジ部14の有効スパン)がWである。次に溝部16は、平坦部13の裏面13bから溝部16の裏面側までの高さがh、長さ(同様に図の左右方向の有効スパン)がwとなるよう形成されている。この高さHおよびhは、特記ない限り無負荷の状態での高さを示すもので、後述する締結材の締結時においはブリッジ部14の弾性変形によって高さhは0となる。
【0021】
溝部16の長さwは、ブリッジ部14の長さWとの関係で締結時の弾性変形による反力が最大化するような幅に設定される。各種検討結果から、具体的にはW=3.3w~6wの関係にあることが好ましく、本実施の形態ではW=5wとしている。ストッパ17は、平坦部13の裏面13bからストッパ17の表面側までの高さhsが、後述するように締結材による締結時にブリッジ部14の弾性変形によって溝部16の高さhが0になることを許容する高さに形成される。この時の関係式はhs=H-hとなる。また、平坦部13の半径方向におけるストッパ17の配置幅dsは、好ましくは平坦部13の内径部11と外周部12の中間点(ds=(D+d)/2)もしくはその近傍となるよう配置される。これらの諸元は、
図5(b)に示す従来技術の緩み止めワッシャ1Aと同様である。
【0022】
図2は、以上のように構成された本実施の形態に係る緩み止めワッシャ1Aを使用し、締結材により非締結材を最大限に締め付けられた状態を示している。ここでは、締結材としてボルト30、被締結材として板材40が使用され、本実施の形態に係る緩み止めワッシャ1Aを介して被締結材40を相手側部材50に締結する例を示している。
図1(b)と比較して分かるように、ボルト30の締め付けによって緩み止めワッシャ1Aは板厚方向(図の上下方向)に圧縮されて弾性変形し、緩み止めワッシャ1Aを介在してボルト30が板材40を相手側部材50に締結する。ボルト30を最大限にねじ込んだ図示の状態において、ボルト30のボルトヘッドの裏面がブリッジ部14の頂部に当接したまま溝部16の底が被締結材40の表面に突き当たり、同じくボルト30のボルトヘッドの裏面がストッパ17の頂部に当接してこの両者をボルトヘッドが被締結部材40に向けて押し付けることにより締結が完了する。この際の締め付けトルクは、ボルト径、緩み止めワッシャ1Aの板厚等の要因によって変化するが、締め付け動作の間で溝部16の底の被締結材40への突き当りと、ストッパ17の頂部のボルトヘッド裏面への当接とによって、締め付け量と締め付け力(締め付けに対する抗力)とが
図6に示すように非線形に増大するため、マニュアルによる締め付けにおいてもインパクトレンチを使用する締め付けにおいても締結動作の完了を容易に感知することができる。
【0023】
ここで、締結時における動作において、ブリッジ部14の弾性変形は従来技術によるものとは大きく変化する。従来技術に係るブリッジ部14では、その脚部の長さ方向(図の左右方向)の広がりが拘束されていないため、その変形は
図5(b)の側面図における湾曲部の曲線(好ましくはカテナリ曲線(懸垂曲線)もしくは円弧)が単に緩やかにフラットに近付くだけのいわば単純な変形であった。この変形によってもブリッジ部14には弾性抗力が発生するものの、ブリッジ部14の長さ方向の拡大によってその増大にはそれなりの限界があった。これに対して本実施の形態における緩み止めワッシャ1Aのブリッジ部14では、
図2に示すように連結帯18の存在によってブリッジ部14の脚部の長さ方向への広がりが阻止されるため、ブリッジ部14の曲線は圧縮に伴う変形時の逃げ場を失って
図2に示すような歪(いびつ)な変形となる。具体的には、ブリッジ部14の中央部分がボルト30の押圧力を受けて沈み、その歪が左右に押し出されるが、脚部が拘束されているためにブリッジ部14の曲面が単純な曲率の緩やかな変化ではなく、逃げ場を失って局部的に曲率が極端に増大する部分が生じる。これによってボルト30の締め付けに対する弾性抗力が増大する結果、緩み止め力を増大させる作用、効果を生むものとなる。
【0024】
締結時には同時にブリッジ部14の中央位置では溝16が左右から圧迫されることになり、溝16ではこれに対抗して押し広げようとする弾性抗力も生ずるため、これも緩み止め力を高める効果として作用する。板厚等の寸法諸元により左右されるが、これらの弾性抗力を総合すると、
図5に示す従来技術の緩み止めワッシャ10に対して約5%から約15%の緩み止め効果(弾性抗力)の増大が期待されるものとなる。
【0025】
図1、
図2に示す本実施の形態に係る緩み止めワッシャ1Aの構造には各種の変形例が考えられる。
図3(a)-(d)はその例を示すもので、各図はワッシャ1Aの平面図を示しており、ブリッジ部14の中央には溝部16が、そしてブリッジ部16に沿って円周方向には平坦部13に連なる連結帯18が表示されている。まず
図3(a)は、
図1、
図2に示す緩み止めワッシャ1Aそのものを示しており、ここでは各ブリッジ14の幅方向両側となる内径部11、外周部11にそれぞれ沿って2本の連結帯18が形成されている。
図3(b)では連結帯18は外周部12に沿って1本のみ形成され、
図3(c)では内径部11に沿って1本のみ形成されている。
図3(d)ではブリッジ部14の幅方向中間に1本の連結帯18が形成される例を示しているが、要求に応じてこの連結帯18を複数本とすることでもよい。あるいは
図3(d)の連結帯18を
図3(a)-(c)のいずれかの例と組み合わせることでもよい。要はブリッジ部14が緩み止めワッシャ1Aの全幅を貫くよう形成されることなく、少なくとも1つの連結帯18がそれを遮り、ブリッジ部14の長さ方向でその両脚部を結んで拘束する連結帯18が存在することが求められる。
【0026】
また、
図1に示す例では、ブリッジ部14は内径部11の中心軸Cを対称軸として一対が設けられているが、ブリッジ部14の数は他の数とすることでもよい。例えば平坦部13の中心軸Cを回転対称軸としてその周囲に3つ、もしくは可能であればそれ以上の数のブリッジ部14を配置することもできる。その際、ストッパ17は各ブリッジ部14の中間位置に設けることが好ましい。
図1ではストッパ17を一対の凸状部で表示しているが、例えば半球乳頭状のものとしてもよく、あるいは平坦部13に開口を設けてこれをバーリング等により円筒状に立ち上げたものとしてもよい。その数もブリッジ14の中間位置に各1つに限定されず、中心軸Cに対して対称となる位置に複数個配置することでもよい。
【0027】
さらに
図1-
図3では、内径部11と外周部12とが同芯の円形で表示しているが、外周部12は必要に応じて楕円、長円とすることでもよい。
【0028】
本実施の形態に係る緩み止めワッシャ1Aの特徴的効果は、特許文献4に示す内容と基本的に同様であり、特許文献4以前の従来技術に係る緩み止めワッシャと比較した場合、以下の様な優位点が認められる。
1.締め付けに伴う抗力は途中から非線形となって締め付けるほど抗力がより高い割合で増加し、特には締結後であっても大きな緩み止め効果が維持できる。
2.ばね鋼のプレス成形が可能であり、製造が容易である。
3.従来のスプリングワッシャと異なって平坦部を自在に設けることができ、別部品となるワッシャを必ずしも必要としない。
4.平坦部の外周形状は自在であり、この観点から設計自由度を高める。
5.適用範囲について特段の制限はなく、汎用性を有する。
6.表面にエッジが立っていないので、締結部材、被締結部材を傷つけることがない。
【0029】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る緩み止めワッシャについて、図面を参照して説明する。
図4は、本実施の形態に係る緩み止めワッシャ10を示しており、
図1(a)に示す緩み止めワッシャ1Aの全体形状が環状であるのに対し、本実施の形態に係る緩み止めワッシャ10の全体形状は外縁を区画する外周部12が矩形形状であることを特徴としている。
図1(a)に示すものと同一要素に対しては同一符号を付している。
図4において本実施の形態に係る緩み止めワッシャ10は、実質的に平坦な板状部材を基礎にして、外周部12が矩形状の平坦部13の中央に締結部材が貫通する開口部が設けられ、図示の例では当該開口部がバーリング等により立ち上げられて内径部11が形成される。内径部11の起ち上がった頂部周囲は、ストッパ17として機能する。
【0030】
内径部11の周囲で中心軸Cに対して対称となる位置に、一対のブリッジ部14がその長さ方向で近接する外周部12と平行になるよう平坦部13から膨出している。ブリッジ部14の形状、構造は先の実施の形態で示すものと基本的に同様であり、頂部には溝部16が凹入している。各ブリッジ部14と外周部12との間には連結帯18が形成され、連結帯18は各ブリッジ部14の脚部を長さ方向につないで平坦部13と一体に形成されている。図面には符号表示をしていないが、各ブリッジ14と内径部11との間にも実質的に連結帯が形成されており、これも各ブリッジ14の脚部を長さ方向につなぐ機能を果たしている。
【0031】
以上のように構成された本実施の形態に係る緩み止めワッシャ10の締結時の動作は、基本的に先の実施の形態に係る緩み止めワッシャ1Aと同様である。すなわち、
図4の上方からボルト等の締結部材が締結されて押圧力が作用すると、ブリッジ部14の湾曲が平坦に近付くよう変形するが、連結帯18が存在することによってブリッジ部14の長さ方向への拡大が拘束されているため歪(いびつ)に変形することによる弾性抗力が高まり、これによって緩み止め効果を増大させる。先の実施の形態の
図1(a)を参照して説明したように、ブリッジ部14の高さ(H)と溝部6の凹入部の高さ(h)、ストッパ17の高さ(hs)との間では好ましくは溝部6が非締結材表面との当接と同時にストッパ17が締結材に当接するよう設定されている(hs=H-hの関係)。これら当接の際に緩み止めワッシャ10への締め付け力が最大となり、緩み止め効果を奏する弾性抗力は最大化される。ブリッジ部14の長さWと溝部の長さwとがW=3.3w~6wの関係にあることも先の実施の形態と同様であり、本実施の形態ではW=5wとしている。
【0032】
本実施の形態に係る緩み止めワッシャ10の作用、効果も基本的に先の実施の形態に係るワッシャ1Aで述べたものが踏襲されるが、これに加えてさらなる改善効果を生む。先の実施の形態に係る平面形状環状の緩み止めワッシャ1Aでは、
図3に示す平面図からも明らかなように連結帯18が円弧状に形成されており、したがって締結時のブリッジ部14の長さ方向(同図の左右方向)への広がりはこの円弧状の連結帯18で拘束することになる。この際の連結帯18には僅かであっても円弧状が直線状に伸ばされる方向に弾性変形することが想定され、これが弾性抗力を幾分でも減退されることにつながる。これに対して本実施の形態に係る緩み止めワッシャ10Aでは
図4からも明らかなように連結帯18が直線状に形成されているためかかる現象が生ずることなく、より確実な拘束力を発揮し、弾性抗力の減退を排除するという効果を生む。
【0033】
本実施の形態に係る緩み止めワッシャ10にも各種の変形例が考えられる。まず、ストッパ17を、
図4では内径部11に設けているが、これを先の実施の形態と同様両ブリッジ部14の中間で平坦部13から突出するよう形成してもよい。逆に先の実施の形態では、平坦部13から突出するストッパ17を廃し、
図4に示すものと同様に締結材の貫通する内径部11をバーリング等により起ち上げ、その頂部をストッパ17として利用することでもよい。
【0034】
また、
図4では外周部12を矩形状としているが、これを他の多角形状、例えば三角形、五画形、六角形とし、複数のブリッジ部14を近接する外周部と長さ方向が平行となるよう配置することもできる。この場合、複数のブリッジ部14は中心線Cに対して軸対称となるよう配置され、その時の数は必ずしも外周部12の辺の数と一致させる必要はない。例えば外周部12を六角形状とし、ブリッジ部14は3つとすることでもよい。
【0035】
さらに、連結帯18は
図4に示すようにブリッジ部14の幅方向両側に設けることに限定されず、
図3に示す例と同様に、ブリッジ部14のいずれか一方の側のみ、あるいはブリッジ部14自身の幅方向中間に設けることでも、さらにはこれらを組み合わせたものとすることも自由である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る緩み止めワッシャは、ワッシャの製造、販売を行う技術分野、さらに締結材を使用して締結作業を含む機械組み立て作業を行う産業分野等において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1A、10.緩み止めワッシャ、 11.内径部、 12.外周部、 13.平坦部、 13a.表面、 13b.裏面、 14.ブリッジ部、 16.溝部、 17.ストッパ、 18.連結帯、 30.ボルト(締結材)、 40.板材(被締結材)、 50.相手側部材。