(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】セサミノールとシクロデキストリンとの包接複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 37/16 20060101AFI20220527BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20220527BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20220527BHJP
A61K 31/36 20060101ALI20220527BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20220527BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20220527BHJP
C07D 493/04 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
C08B37/16
A23L33/105
A23L33/125
A61K31/36
A61K47/69
A61P39/06
C07D493/04 101C
(21)【出願番号】P 2018091707
(22)【出願日】2018-05-10
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】502167821
【氏名又は名称】亀井 淳三
(73)【特許権者】
【識別番号】518165475
【氏名又は名称】久住 高章
(73)【特許権者】
【識別番号】592075884
【氏名又は名称】清本鐵工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】亀井 淳三
(72)【発明者】
【氏名】久住 高章
(72)【発明者】
【氏名】清本 邦夫
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-317775(JP,A)
【文献】特表2006-516642(JP,A)
【文献】特開昭63-027440(JP,A)
【文献】特開昭62-281855(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106831806(CN,A)
【文献】国際公開第2013/187391(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/044550(WO,A1)
【文献】特開2010-150209(JP,A)
【文献】国際公開第2006/106926(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0249857(US,A1)
【文献】特開平03-053866(JP,A)
【文献】特開2010-024240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 37/16
C07D 493/04
A61K 31/36 - 47/69
A61P 39/06
A23L 33/105 - 33/125
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セサミノール類
であるセサミノールと、該セサミノール類を包接し
た化学修飾型CD
であるメチル化β-CD(M-β-CD)又は2-ヒドロキシプロピル-β-CD(HP-β-CD)とからなる包接複合体
。
【請求項2】
請求項
1に記載の包接複合体を含有する食品、医薬品又は医薬部外品。
【請求項3】
セサミノール類
であるセサミノールを溶解させた
エタノール/水の比率(容量比)が50/50~95/5であるエタノール水溶液と化学修飾型CD
であるメチル化β-CD(M-β-CD)又は2-ヒドロキシプロピル-β-CD(HP-β-CD)とを混合して攪拌する工程、及び得られた混合溶液中の溶媒を留去し乾燥する工程を含んでいることを特徴とする、セサミノール類と、該セサミノール類を包接した化学修飾型CDとからなる包接複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難水溶性リグナン類であるセサミノール類がシクロデキストリン類で包接されている包接複合体及びその製造方法に関する。更に詳しくは、セサミノール類がシクロデキストリン類で包接された水溶性の改善された包接複合体及びその製造方法に関する。また、本発明は、前記包接複合体を含有する食品、医薬品又は医薬部外品に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴマに含まれるリグナンの一種であるセサミノール(SML、CAS No.: 74061-79-3)は、様々な生理活性(抗酸化活性、抗動脈硬化作用、抗がん作用など)を有すること、また、既に健康促進成分として市販されているセサミン(CAS No.: 607-80-7)より強い抗酸化作用を示すことが知られており(非特許文献1)、その効果が非常に期待されている物質である。
【0003】
セサミノールは、ゴマ種子中では三つのグルコースがフェノール性水酸基に結合したセサミノールトリグルコシド(2,6-O-di(β-D-グルコピラノシル)-β-D-グルコピラノシルセサミノール、STG、CAS No.: 157469-83-5)という配糖体として存在し、ゴマ油の製造の過程で排出される搾りかすの中に多量に含まれている。セサミノールの活性は配糖体の状態では発揮されず、アグリコンであるセサミノールに加水分解される必要があるが、この糖鎖は難分解性であり、これまでその作用を持つ酵素は見出されていなかった。しかし、東北大学の中山らはSTGを加水分解する酵素(Paenibacillus sp由来のSTG加水分解β-グルコシダーゼ、PSTG)を発見し(特許文献1、非特許文献2)、セサミノールの供給に関しては大きな進展があった。
【0004】
前記酵素はSTGの糖鎖末端のグルコース単位が一つ外れたセサミノールジグルコシド(2-O-(β-D-グルコピラノシル)-β-D-グルコピラノシルセサミノール、2-SDG、CAS No.: 157469-82-4及び6-O-(β-D-グルコピラノシル)-β-D-グルコピラノシルセサミノール、6-SDG、CAS No.: 474431-66-8)や糖鎖末端のグルコース単位が二つ外れたセサミノールモノグルコシド(β-D-グルコピラノシルセサミノール、SMG、CAS No.: 153512-13-1)を経由し、最終的にセサミノールを生成する。STG、2-及び6-SDGはある程度水への溶解性を持っているが、糖鎖が短くなるにしたがい、急速にその溶解性は低下し、pH7、25℃におけるセサミノールの溶解度は1.7μmol/L(0.63μg/mL)と予想されている(Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) Software V11.02 ((c)1994-2016 ACD/Labs)を用いて算出)。この値はセサミンの溶解度の予想値1.2μmol/L(0.43μg/mL、Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) Software V11.02 ((c) 1994-2016 ACD/Labs)を用いて算出)を少し上回るが、難水溶性であることには変わりない。このように、セサミノールの医薬品や機能性食品としての活用を考える際に、難水溶性であることは、消化管からの低い吸収性を示す可能性が高い。また、不用意に何かしらの方法で溶解性を高め、分子分散状態にすると、セサミノールの活性の一つが抗酸化作用に基づくことから、酸化を受けやすくなり製剤としての寿命が短縮する可能性がある。
【0005】
また、保存時、更には低温時において、わずかに溶けたセサミノールが、沈殿、凝集する不安定さがあり、ましてや、それらを高濃度に水に溶解させようとしても、低い飽和溶解度のため、沈殿、凝集としての外観的性状を示す傾向がある。
また、水溶性タイプの製品として、医薬品、化粧材、各種加工食品、飲料として、単体又は他のものと混合するとき、無色透明な水性液体製剤としての性状が、外観上強く望まれる。
【0006】
以上のように、産業的利用という観点では、セサミノールの大量工業的抽出技術は、既に機能製品として広く流通しているセサミンに比べ遅れているため、水への溶解度向上に関しては、あまり注目されてこなかった。
【0007】
例えば、セサミン類が有する生理活性を顕著に高めた物質として、セサミン類と、該セサミン類を包接するシクロデキストリンなどのホスト化合物とからなる包接複合体が知られている(特許文献2)。シクロデキストリン(以下、CDともいう)は、6個以上のグルコピラノース単位がα-1,4結合により環状に結合した底の抜けたバケツ状の分子であり、グルコピラノース単位が6、7、8個からなるα-CD(CAS No.: 10016-20-3)、β-CD(CAS No.: 7585-39-9)、γ-CD(CAS No.: 17465-86-0)及びこれらの修飾体が知られている。しかしながら、特許文献2には、水への溶解性の性状に関しては触れられていない。
また、エマルションを利用したセサミノールの製剤化が報告されている(非特許文献3)。これらの方法では油状の液体にセサミノールを溶解させているが、油状液体の粘性や酸化などの点で、油状の液体に特有の問題があり、その取り扱いは煩雑である。また、セサミノールを乳化する場合、その調製には特殊な装置が必要となる。
このように、先行技術において、セサミノール類の水性液体製剤への含有においては、種々の工夫がなされているものの、水性液体製剤への溶解性の向上は十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2008-167712号公報
【文献】特表平10-500937号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】J. Agric. Food Chem., 57(21), 10429-10434, 2009
【文献】A. Nair et al., Purification, Gene Cloning, and Biochemical Characterization of a β-Glucosidase Capable of Hydrolyzing Sesaminol Triglucoside from Paenibacillussp. KB0549, PLoS ONE, 8(4), e60538, 2013
【文献】日本薬剤学会第30年会(長崎)、2015年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、難水溶性のセサミノール類の水溶性を顕著に改善したセサミノール類含有包接複合体及びその製造方法を提供することである。また、本発明の他の課題は、前記セサミノール類含有包接複合体を含む食品、医薬品又は医薬部外品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
セサミノールに関しては、セサミノール配糖体からの、工業的生産技術が、確立されておらず、機能性食品素材としても、高価で、しかも入手が難しいこともあり、難水溶性セサミノールの生理的活用などの産業的利用の観点での、水への溶解度の向上の検討及びCDによる包接の試みはこれまでところほとんど知られていない。
そこで、本発明者らは、上記課題を解決するために、難水溶性リグナン類とCD類による包接複合体を形成し、定性的かつ定量的な基礎的評価検討を行った。
まず、包接複合体であることを1H-NMR解析にて検証し、次に水への溶解性の評価を、凝集・沈殿の有無、無色・透明度の観点から網羅的に評価することにより、セサミノール類と分岐型β-CD又は化学修飾型β-CDとからなる包接複合体がα-、β-及びγ-CDとの包接複合体と比べてより顕著な水溶性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1]セサミノール類であるセサミノールと、該セサミノール類を包接した化学修飾型CDであるメチル化β-CD(M-β-CD)又は2-ヒドロキシプロピル-β-CD(HP-β-CD)とからなる包接複合体、
[2]前記[1]に記載の包接複合体を含有する食品、医薬品又は医薬部外品、
[3]セサミノール類であるセサミノールを溶解させたエタノール/水の比率(容量比)が50/50~95/5であるエタノール水溶液と化学修飾型CDであるメチル化β-CD(M-β-CD)又は2-ヒドロキシプロピル-β-CD(HP-β-CD)とを混合して攪拌する工程、及び得られた混合溶液中の溶媒を留去し乾燥する工程を含んでいることを特徴とする、セサミノール類と、該セサミノール類を包接した化学修飾型CDとからなる包接複合体の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の包接複合体は、セサミノール類の水溶性が顕著に改善された包接複合体であるため、水難溶性であったセサミノール類の用途を飛躍的に拡大することができる。例えば、本発明の包接複合体を無色で澄明な水性液体製剤としての活用が可能となり、また粉体化することにより、錠剤や顆粒剤などの調製の際に使用が容易な製剤原体としての供給が可能となる。
以上のように、本発明の包接複合体を用いることで、難溶性であるためこれまで開発が進んでいないかったセサミノール類を含有する食品、医薬品、医薬部外品などを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、重水(1.5mL)中におけるCD無添加、α-、β-及びγ-CD添加試料中のSTG及び6-SDGの溶解状態を示した写真像を示す。(STG及び6-SDG含量:9.38mg)
【
図2】
図2は、重水(1.5mL)中におけるCD無添加、α-、β-及びγ-CD添加試料中の2-SDG及びセサミノール(SML)の溶解状態を示した写真像を示す。(2-SDG及びSML含量:9.38mg)
【
図3】
図3は、α-CD、STG/α-CD系、6-SDG/α-CD系、2-SDG/α-CD系及びSML/α-CD系の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図4】
図4は、β-CD、STG/β-CD系、6-SDG/β-CD系、2-SDG/β-CD系及びSML/β-CD系の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図5】
図5は、γ-CD、STG/γ-CD系、6-SDG/γ-CD系、2-SDG/γ-CD系及びSML/γ-CD系の
1H-NMRスペクトルを示す。
【
図6】
図6は、精製水(1mL)中における分岐型β-CD(G1-β-CD及びG2-β-CD)添加試料中のSMLの溶解状態を示した写真像を示す。(SML含量:5.4μmol、CD含量:15μmol)
【
図7】
図7は、精製水(1mL)中における化学修飾型β-CD(M-β-CD及びHP-β-CD)添加試料中のSMLの溶解状態を示した写真像を示す。(SML含量:5.4μmol、CD含量:15μmol)
【
図8】
図8は、溶解助剤としてエタノールを使用して調製した化学修飾型β-CD(M-β-CD及びHP-β-CD)添加及びCD無添加試料中のSMLの溶解状態を示した写真像を示す。(SML含量:5.4μmol、CD含量:15μmol)
【
図9】
図9は、SML/M-β-CD及びSML/HP-β-CDの凍結乾燥品の写真像を示す。(SML含量:10.8μmol、CD含量:30μmol)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
1.包接複合体
本発明の包接複合体は、セサミノール類と、該セサミノール類を包接した分岐型CD又は化学修飾型CDとからなることを特徴とする。
【0017】
〔セサミノール類〕
本発明で使用するセサミノール類とは、水への溶解性が低い難水溶性リグナン類の一種であり、例えば、セサミノール、セサミノールモノグルコシド、セサミノールジグルコシドなどが挙げられる。
セサミノールは、以下の化学構造:
【0018】
【0019】
を有する化合物である。
セサミノールモノグルコシドは、β-D-グルコシルセサミノールともいわれ、セサミノールの水酸基部分にグルコース1個がグリコシド結合した配糖体である。
セサミノールジグルコシドは、2-O-(β-D-D-グルコシル)-β-D-グルコシルセサミノールともいわれ、セサミノールの水酸基部分にグルコース2個がグリコシド結合した配糖体である。
本発明の包接複合体において、セサミノール、セサミノールモノグルコシド及びセサミノールジグルコシドは、それぞれ単独で、又は混合して使用することができる。また、セサミノール類としては、例えば、ゴマ油から、公知の方法で、工業的に抽出されたものであってもよく、その形態や製造方法など何ら制限されるものではない。
【0020】
〔分岐型CD又は化学修飾型CD〕
本発明で用いる分岐型CD及び化学修飾型CDは、CDを基本骨格とする化合物である。
【0021】
シクロデキストリン(CD)とは、6個以上のグルコース単位がα-1,4結合により環状に結合した非還元性の環状オリゴ糖であり、6個のグルコース単位からなるα-CD、7個のグルコース単位からなるβ-CD、8個のグルコース単位からなるγ-CD、9個以上のグルコース単位からなる大環状CD類が挙げられる。これらのCDはいずれも、複数のグルコース単位で構成された環状の中心部に空洞部を有する構造を備えた化合物である。
また、前記α-CD、β-CD及びγ-CDは、天然型CDともよばれており、デンプンなどのα-グルカンをシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.19)などにより処理した際に、鎖状糖とともに生成される環状のオリゴ糖である。
9個以上のグルコース単位からなる大環状CD類については、トウモロコシや馬鈴薯などから得られるデンプンを、Paenibacillus maceransなどの細菌類が生産するシクロデキストリン合成酵素(Cyclodextrin glucanotransferase、CGTase)により処理して生産される市販のCD粉飴から単離・精製することにより得ることができる。また、高重合度の酵素合成アミロースを、CGTase、馬鈴薯由来のD-酵素、Thermus aquaticus由来アミロマルターゼ(Amylomaltase)及びその変異酵素、グリコーゲン脱分枝酵素(Glycogen debranching enzyme)などにより処理して得られるCD類の混合物(CGTaseを用いた場合は6個以上のグルコース単位、D-酵素を用いた場合は16個以上のグルコース単位、アミロマルターゼを用いた場合は22個以上のグルコース単位、グリコーゲン脱分枝酵素を用いた場合は11個以上のグルコース単位からなるCD類の混合物)から単離・精製することにより得ることができる。さらに、22~50個のグルコース単位からなる大環状CD類の混合物は、江崎グリコ株式会社が生産し、和光純薬工業株式会社が販売する「シクロアミロース」から単離・精製することも可能である。
【0022】
分岐型CDは、天然型CD又は大環状CD類に対して、グルコースなどの糖分子が、直接α-1,6結合した構造を有する。
修飾に使用される糖分子の種類としては、1グルコース単位からなるグルコース、2グルコース単位からなるマルトース、3グルコース単位からなるマルトトリオースやパノースが挙げられる。またグルコース単位以外の糖を含むマンノースやガラクトースなども分岐鎖に使用される。さらにこれらの糖がCD分子の1個のグルコース単位に導入されたモノ置換体のみならず、2個以上のグルコース単位に導入された多置換体も存在する。
中でも、セサミノール類の水溶性を改善する観点から、天然型CDに対して分岐化したものが好ましく、β-CDに対してグルコシル化(グルコシル-β-CD(G1-β-CD))及びマルトシル化(マルトシル-β-CD(G2-β-CD))されたものがより好ましい。
前記分岐型CDとしては、例えば、市販品を使用することができる。また、市販されていない分岐型CDに関しては、目的とする分岐型CDの構成要素であるCDと鎖状糖の高濃度試料を、α-1,6結合の切断酵素であるプルラナーゼなどで処理することにより調製し、これを単離・精製することにより得ることができる。
また、後述のように、本発明の包接複合体を食品、医薬品又は医薬部外品に使用する場合には、本発明の包接複合体を構成する分岐型CDの種類は、1種であってもよいし、2種以上を混合したものでもよい。
中でも、溶解性に優れる観点から、分岐型CDとしては、G1-β-CDとG2-β-CDが好ましい。
【0023】
化学修飾型CDは、天然型CD又は大環状CD類の水酸基が有機基により一部置換された誘導体である。
置換されるCDの位置及び数については、特に限定はない。
前記有機基としては、メチル基(メチル化)、プロピル基(プロピル化)などが挙げられる。
化学修飾型CDとしては、例えば、メチル化β-CD(M-β-CD)、2-ヒドロキシプロピル-β-CD(HP-β-CD)などが挙げられるが、セサミノール類の水溶性を改善する観点から、M-β-CD、HP-β-CDが好ましい。
前記化学修飾型CDとしては、例えば、市販品を使用することができる。
また、後述のように、本発明の包接複合体を食品、医薬品又は医薬部外品に使用する場合には、本発明の包接複合体を構成する化学修飾型CDは、1種であってもよいし、2種以上を混合したものでもよい。
【0024】
〔包接複合体〕
本発明において、「包接複合体」とは、前記セサミノール類(ゲスト分子)が、CD(ホスト分子)の空洞中に少なくとも部分的にそれ自体挿入されて、いわゆる包接された状態となっている複合体を意味する。前記包接複合体におけるセサミノール類の状態については、ゲスト分子単体、CD単体並びに包接複合体のNMRの化学シフトの比較により判別することができる。
【0025】
本発明において、水溶性の評価は、非常に高い難水溶性を示すセサミノール類に関しては、セサミノール類含有水溶液中への、CD類の添加による外観目視評価により行うことができる。すなわち、水中にセサミノール類とCD類とが共存したとき、懸濁液の形成、澄明な溶液と沈殿物のへの分離、更には、完全に溶解した澄明な溶液状態になることにより、確認することができる。
【0026】
2.包接複合体の製造方法
本発明の包接複合体は、セサミノール類とCD類とを相互作用させ、包接複合体を形成させることにより調製する。
例えば、セサミノール類およびCD類に対して可溶性のある溶媒(例えば、重水)中においてセサミノール類およびCD類を混合して撹拌することで両者を相互作用させ、包接複合体を形成させることができる。
中でも、化学修飾型CDを用いた包接複合体の場合、効率よく製造する観点から、高濃度のエタノール水溶液と化学修飾型CDとを混合して攪拌することで包接複合体を製造することもできる。
【0027】
前記混合において混合されるセサミノール類とCD類との量比についても、特に限定はないが、セサミノール類/CD類の比率(モル比)が1/1~1/50であればよい。
前記セサミノール類については、セサミノール、セサミノールモノグルコシド及びセサミノールジグルコシドのいずれか単独であってもよいし、2種を混合したものでもよい。
CD類である分岐型CDや化学修飾型CDの種類は、1種であってもよいし、2種以上を混合したものでもよい。
【0028】
また、前記混合において使用する前記高濃度のエタノール水溶液とは、仕込み量のセサミノール類を完全に溶解させるのに必要なエタノール濃度をいう。前記濃度は、セサミノール類と化学修飾型CDとを効率よく溶解させる観点から、50%以上が好ましく、85%~95%がより好ましい。
前記エタノール水溶液中のエタノールと水との比率については、特に限定はないが、セサミノール類と化学修飾型CDとを効率よく溶解させる観点から、エタノール/水の比率(容量比)が50/50~95/5が好ましく、85/15~95/5がより好ましい。
【0029】
なお、前記混合における温度は、特に限定はなく、常温の範囲であればよい。
前記混合における撹拌の速度についても特に限定はない。
また、前記混合は、撹拌している混合溶液の状態が澄明になった時点で終了すればよい。なお、澄明とは、混合溶液を入れている容器の内側表面が、目視にて、にごりなく見える状態をいう。
【0030】
前記のようにして得られた混合溶液中には、包接複合体が形成されているため、混合溶液をそのまま水性液体製剤として用いることができる。
【0031】
また、前記混合溶液を乾燥処理することで、固体状の包接複合体としてもよい。
例えば、前記混合溶液中の溶媒を留去し乾燥する工程(乾燥工程)を経て固形状の包接複合体を製造することができる。
【0032】
前記乾燥工程において、得られた混合溶液中に含まれるエタノール、重水、水などの溶媒を留去する手段としては、減圧乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥(スプレードライ)などが挙げられるが、特に限定はない。
例えば、留去手段として噴霧乾燥(スプレードライ)を用いた場合、その乾燥条件としては、水-エタノール系溶媒の共沸点である78.15℃以上などに調整していればよい。
【0033】
以上のようにして得られた固体状の包接複合体は、粉砕処理に供することで、粉末状にしたり、さらには、固形状の包接複合体を再度水又はエタノール水溶液に溶解して水性液剤として用いることもできる。
【0034】
以上のようにして得られる本発明の包接複合体は、水溶性に優れたものであるため、食品、医薬品及び医薬部外品に配合して使用することができる。このような食品、医薬品及び医薬部外品は、セサミノール類に由来する機能性作用を有する食品、医薬品又は医薬部外品となる。
【0035】
前記食品としては、例えば、飲料、アルコール飲料、ゼリー、菓子等、どのような形態でもよく、菓子類の中でも、その容量等から保存や携帯性に優れた、ハードキャンディ、ソフトキャンディ、グミキャンディ、タブレット等にすることができる。なお、食品には、機能性食品、健康食品、健康志向食品等も含まれる。
【0036】
また、前記食品には、ヒトが食べる食品だけでなく、例えば、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類等の治療剤又は飼料に配合してもよい。飼料としては、例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、イヌ、ネコ、小鳥、リス等に用いるペットフードが挙げられる。
【0037】
前記医薬品としては、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤等の固形製剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、ゲル剤等が挙げられる。錠剤、丸剤、顆粒剤、顆粒を含有するカプセル剤等の顆粒は、必要により、ショ糖等の糖類、マルチトール等の糖アルコールで糖衣を施したり、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等でコーティングを施したりしてもよいし、胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。また、製剤の溶解性を向上させるために、前記の製剤に公知の可溶化処理を施すこともできる。常法に基づいて、前記液剤を注射剤又は点滴剤に配合して使用してもよい。
【0038】
医薬部外品としては、口腔に用いられる医薬部外品、例えば、歯磨き、マウスウォッシュ、マウスリンス、ドリンク剤が挙げられる。
【0039】
本発明の包接複合体を用いて食品、医薬品又は医薬部外品を調製する場合、本発明の効果が損なわれない範囲内で食品、医薬品又は医薬部外品に通常用いられる成分を適宜任意に配合することができる。
例えば、食品の場合には、水、アルコール、澱粉質、蛋白質、繊維質、糖質、脂質、ビタミン、ミネラル、着香料、着色料、甘味料、調味料、安定剤、防腐剤のような食品に通常配合される原料又は素材と組み合わせることができる。
医薬品や医薬部外品の場合には、主剤、基材、界面活性剤、起泡剤、湿潤剤、増粘剤、透明剤、着香料、着色料、安定剤、防腐剤、殺菌剤等に組み合わせ、常法に基づいて、液状などの最終形態等にすることができる。
【0040】
また、本発明の包接複合体を食品に添加する場合には、セサミノールの1日当たりの必要摂取量や最大許容量の範囲内になるように添加することが好ましい。
【0041】
本発明の包接複合体を医薬用途で使用する場合、例えば、その摂取量は、所望の改善、治療又は予防効果が得られるような量であれば特に制限されず、通常、薬剤の態様、患者の年齢、性別、体質その他の条件、疾患の種類並びにその程度等に応じて適宜選択される。1日当たり約0.1mg~1,000mg程度とするのがよく、これを1日に1~4回に分けて摂取することができる。
【0042】
本発明の新規化合物を医薬部外品に添加する場合には、該医薬部外品中に、セサミノールの1日当たりの必要摂取量や最大許容量の範囲内になるように添加するのが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実験例1:重水中におけるセサミノール及びその配糖体とα-、β-、γ-CD間の相互作用)
α-、β-及びγ-CDでは、包接複合体を形成すると、空洞内に位置するグルコース単位の3及び5位のプロトンの化学シフト値が高磁場シフトすることが一般的に知られている。又3位のプロトンは空洞の広い口側(2級水酸基側)に、5位のプロトンは狭い口側(1級水酸基側)に存在するため、その高磁場シフトの大きさから、ゲストの空洞内の存在位置をおおまかに推定することができる。そこで、セサミノールとその配糖体(STG、2-SDG及び6-SDG)とα-、β-及びγ-CD間の相互作用を1H-NMRを用いて確認し、最適なCDの探索を行った。
【0045】
セサミノール及びその配糖体が9.38mgとなるようにエタノール水溶液を秤取し、溶媒を留去した。この残渣(SML:16.9mmol、2-及び6-SDG:9.0mmol、STG:7.3mmol)に等モル量のα-、β-及びγ-CDを添加し、1.5mLの重水を加え、超音波処理後、25℃の恒温振とう槽で一晩撹拌した。この調製した試料を目視で観察後、遠心分離し、上清を0.45μmのメンブランフィルターで濾過した溶液を1H-NMRに供した。(測定装置:JNM-ECA-600II、テトラメチルシラン(Tetramethylsilane)を使用した外部標準法、測定温度30℃)
【0046】
[溶解状態]
図1左側にSTGのCD無添加、α-、β-及びγ-CD添加試料、
図1右側に6-SDGのCD無添加、α-、β-及びγ-CD添加試料を示した。この写真像で分かるように、STG及び6-SDGは、9.38mg/1.5mL(6.25mg/mL)の濃度ではCD無添加試料においても澄明な溶液となった。又これにCDを共存させても澄明なままであった。一方、
図2左側に2-SDGのCD無添加、α-、β-及びγ-CD添加試料を示した。CD無添加試料では沈降性のある白色固体が沈殿した。これにα-CDを添加すると、白色の懸濁液となった。β-CD添加系では沈降性の白色固体が生成したが、その体積はCD無添加と比較して減少していた。γ-CD添加系では澄明な溶液が得られた。
図2右側にSMLのCD無添加、α-、β-及びγ-CD添加試料を示した。CD無添加試料では器壁に付着したままSMLが存在した。これにα-CDを添加しても変化はほとんど見られなかった。β-及びγ-CD添加系では、白濁液が形成され、白色の固体が沈殿した。
【0047】
「
1H-NMR」
図3に上段からα-CDのみ、α-CD/STG系、α-CD/6-SDG系、α-CD/2-SDG系、α-CD/SML系の
1H-NMRスペクトルを示した。α-CD添加系では、3.77ppm付近に観測される3位のプロトンに由来するトリプレットシグナル及び3.7付近に観測される5位のプロトンに由来するシグナルがSTGと6-SDGでは高磁場シフトしているが、2-SDGとSMLでは化学シフトの変化が認められない。又4.84ppm付近に観測される1位のプロトンに由来するダブレットシグナルは3位のシフト変化よりも小さい。この結果から、α-CDはSMLと相互作用することは可能であるが、その強さは低いものと考えられる。そのため、α-CDの環構造に変化は起きにくく、1位のプロトンのシフトが小さかったものと考えられる。
【0048】
図4に上段からβ-CDのみ、β-CD/STG系、β-CD/6-SDG系、β-CD/2-SDG系、β-CD/SML系の
1H-NMRスペクトルを示した。β-CD添加系では、3、5及び1位のプロトンが大きくシフトしており、かなり強固な包接複合体を形成していると考えられる。又、α-及びγ-CD添加系ではSML由来のシグナルが観測できず、測定試料中のSML濃度が
1H-NMRの検出感度より低い状態であったが、β-CD添加系では弱いながらもシグナルが観測可能であったことから、SMLの溶解度の改善にはβ-CDが最も寄与することが確認された。
【0049】
図5に上段からγ-CDのみ、γ-CD/STG系、γ-CD/6-SDG系、γ-CD/2-SDG系、γ-CD/SML系の
1H-NMRスペクトルを示した。γ-CD添加系では、STG、2-及び6-SDGでは3、5及び1位のプロトンが大きくシフトしており、強く相互作用していると考えられる。しかし、SMLではCD由来の化学シフトに変化は認められず、またSML由来のシグナルが観測できなかったことから、γ-CDはSMLとは相互作用が非常に低い可能性が示唆された。
【0050】
(実施例1:水溶性β-CD類を使用したSMLの可溶化)
実験例1の結果から、α-、β-及びγ-CDのうち、β-CDが最も強くSMLと包接複合体を形成していると考えられ、又SMLの水溶性を改善可能であることが明らかになった。
しかし、β-CDは使用した3種のCD類の中で一番溶解度が低く(25℃における溶解度(mg/mL):α-CD;145、β-CD;18.5、γ-CD;232)、得られる包接複合体が飽和溶解度を持つため、結晶性の固体を生成することがしばしばある(溶解度相図においてBS型をとなる系)。SML/β-CDでは実験例1で調製した試料において、白色の固体が沈殿していることから、β-CDはSMLの溶解度を改善できるが限界があること、又飽和溶解度の包接複合体水溶液を冷却した場合、結晶性の沈殿が生じる可能性高い。このため、β-CDの水溶性を高めた誘導体を用いたSMLの可溶化を検討した。
【0051】
使用したβ-CD誘導体は、糖転移酵素によりβ-CDの1個のグルコース単位の6位の水酸基にα-1,6結合を介してグルコース又はマルトースを結合させたグルコシル(Glucosyl)-β-CD(G1-β-CD、CAS No.: 92517-02-7)とマルトシル(Maltosyl)-β-CD(G2-β-CD、CAS No.: 104723-60-6)の2種の分岐CD類、及び化学反応により7個存在するグルコース単位の2、3及び6位の水酸基をランダムにメチル化又は2-ヒドロキシプロピル化したメチル(Methyl)-β-CD(M-β-CD)と2-ヒドロキシプロピル(Hydroxypropyl)-β-CD(HP-β-CD)の2種の化学修飾型CD類、計4種類のβ-CD誘導体である。
SMLが約2mg(5.4μmol)となるように試験管にエタノール水溶液を秤取し、溶媒を留去した。この残渣に15mMのCD水溶液(軽水)1mLを加え、撹拌と超音波処理後、25℃の恒温振とう槽で一晩撹拌し、溶解の状況を目視で確認した。
【0052】
[溶解状態]
図6に、分岐型β-CD(左側:G1-β-CD、右側:G2-β-CD)の振とう後のSMLの溶解状態を示した。両試料とも試験管の底に白色のSMLが残留しており、SMLに対して約3倍量の分岐型CDを共存させてもSMLの溶解はできなかった。一方、
図7に示した化学修飾型CD(左側:M-β-CD、右側:HP-β-CD)では、両試料とも澄明な水溶液を与え、SMLを完全に溶解させることができた。
【0053】
(実施例2:エタノールを溶解助剤とした化学修飾型β-CD類を使用した水溶性SML/β-CD包接複合体の調製)
α-、β-、γ-CD及び分岐型CDは高濃度のエタノール水溶液では、その溶解性が純水にくらべ低下する。一方、M-β-CDやHP-β-CDは95%エタノール水溶液中でも15mMの溶液は容易に作製可能である。一般に、包接複合体の形成は、ゲスト分子とホスト分子の両者が分子分散状態にある系ではその平衡は非常に速やかに完結する。もしこのような方法で包接複合体を調製できれば、固体のSMLからSML分子をCD類が引き剥がす(可溶化)ために必要な振とう時間(平衡到達時間)を省略することができ、調製作業の簡略化につながる。このため、SML(2mg)を溶解した95%エタノール水溶液1mLに、M-β-CD又はHP-β-CD(約20mg)を添加した溶液(物質量比は実施例1と同じ)をボルテックスミキサーによる簡単な混合後、溶媒を留去した際に残る残渣(包接複合体)の精製水への溶解性を確認した。
【0054】
図8は、残渣に1mLの精製水を加え、室温でのボルテックスミキサーによる混合後の溶解状態を示しており、左からM-β-CD添加系、HP-β-CD添加系、CD無添加系の試料である。CD無添加系ではSMLが器壁に固着して溶解しなかったが、M-β-CD及びHP-β-CD添加系では2mg/mLのSML水溶液を容易に調製可能であり、エタノール水溶液のようなSMLと化学修飾型CDの両者が溶解する溶液中で包接複合体を形成させることは、水溶性SMLの調製にとって非常に有用であることが明らかとなった。
【0055】
実施例1及び2の結果から、Advanced Chemistry Development (ACD/Labs) Softwareで予測されたSMLの水への溶解度(6.3×10-4mg/mL)をもとに考えると、M-β-CDやHP-β-CDとの包接複合体形成により、SMLの溶解度は約3,000倍向上することがわかった。
【0056】
(実施例3:SML/CD包接複合体の高水溶性固体の調製)
高い水溶性を持つSML/CD包接複合体の水溶液の調製は成功したが、水中では一般的に分解などの化学反応が起きやすいため、長期のSML/CD包接複合体の保存を考えると、高い水溶性を維持したままの固体の包接複合体を調製することは重要性がある。又、錠剤や散剤などの固形製剤への配合を考えるとき、固体の包接複合体は製剤原体として、有用である。そこで、高い水溶性を持つSML/M-β-CD添加系及びSML/HP-β-CD添加系の粉体化を試みた。
【0057】
調製方法は実施例2と同じで、仕込み量を2倍にした系、すなわちSML(4mg)を溶解した95%エタノール水溶液2mLに、M-β-CD又はHP-β-CD(約40mg)を添加した溶液(物質量比は実施例1と同じ)をボルテックスミキサーによる簡単な混合後、溶媒を留去した際に残る残渣(包接複合体)を精製水へ溶解し、これを凍結乾燥により固体化した。
【0058】
図9に凍結乾燥処理により得られたSML/M-β-CD及びSML/HP-β-CDの凍結乾燥品を示した。この凍結乾燥品は開封状態で室内に保存していても吸湿による潮解は認められなかった。一方、2mLの精製水を添加し、ボルテックスミキサーによる撹拌を行うだけで、容易に澄明な水溶液となった。包接複合体の固体化は凍結乾燥法だけではなく、噴霧乾燥法でも実施可能である。本法に寄れば、溶解補助剤であるエタノール水溶液にSMLとM-β-CD又はHP-β-CDを溶解し、混合した試料について噴霧乾燥処理を施すだけで包接複合体の固体が調製可能であり、さらに有効であることがわかる。
【0059】
(実施例4:低温下におけるSML/M-β-CD及びSML/HP-β-CDの溶解性)
室温において溶解度に近い濃度を持つ水溶液を、冷蔵庫などの低温条件下に保存すると、固体の析出が観測される場合がある。そこで、1mLの精製水中にSMLを2mg含む種々の配合比のSML/M-β-CD系及びSML/HP-β-CD系の水系試料を調製し、低温下での析出及びその可逆性並びに安定に存在するための各CDの必要量を確認した。
表1は、M-β-CD及びHP-β-CDの4種の配合比における、室温(RT)及び冷蔵庫中(約4℃)における溶解状態を示したものである。○は澄明な溶液となったことを示しており、×は油状あるいは固体が析出したことを示している。又4℃で保存した試料をRTに保存した際の状態変化を矢印右側に示した。
【0060】
【0061】
表1は、RT及び4℃において、SMLを可溶化するために必要なM-β-CD及びHP-β-CDの物質量比と析出物の温度による溶解性を示したものである。
【0062】
SML/M-β-CD系では、SMLに対して2倍量のM-β-CDが存在する系ではRTでも4℃でも澄明な溶液が作製できた。一方、SML/HP-β-CD系では、RTではSML/M-β-CD系と同様に澄明な溶液が作製できたが、4℃においてはSMLに対して2倍量のHP-β-CDが存在する系では析出が認められた。しかし、この析出はRTに保管することにより消失し、澄明な溶液に戻ることから、この析出は可逆的であると考えられた。3倍量のHP-β-CDが存在する系ではRTでも4℃でも澄明な溶液が作製できた。
【0063】
以上のように、分岐型CD又は化学修飾型CDを用いた本発明の包接複合体は、セサミノール類単独に比べて溶解性が顕著に高くなることから、難溶性のセサミノール類をそのまま経口で摂取した場合と比べると、体内吸収性は顕著に高くなると予測される。