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特許7079932水素発生方法、水素発生システムおよび燃料電池システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】水素発生方法、水素発生システムおよび燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/04 20060101AFI20220527BHJP
   H01M 8/065 20160101ALI20220527BHJP
   C01B 6/00 20060101ALN20220527BHJP
【FI】
C01B3/04 Z
H01M8/065
C01B6/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018118560
(22)【出願日】2018-06-22
(65)【公開番号】P2019218251
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-02-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、東工大元素戦略拠点(TIES)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】宮内 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】河村 玲哉
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛弘
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/074518(WO,A1)
【文献】藤野朝日ら,日本化学会第97春季年会予稿集DVD,2017年03月03日,2 G1-41 A
【文献】Nishino H et al,Formation and Characterization of Hydrogen Borides Sheets Derived from MgB2 by Cation Exchange,Journal of the American Chemical Society,139,米国,2017年06月13日,pp13761-13769
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00
C01B 6/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(BH)(n≧4)からなる二次元水素化ホウ素シートおよびその誘導体の少なくとも一方を含む水素化ホウ素含有物に紫外または/および可視光を照射することにより水素を発生させる、水素発生方法。
【請求項2】
前記水素化ホウ素含有物は粉体であり、当該粉体が、
(i)分散媒に分散されている、
(ii)担持体に担持されている、および
(iii)バインダー中に分散されている
のいずれかである請求項1に記載の水素発生方法。
【請求項3】
(BH)(n≧4)からなる二次元水素化ホウ素シートおよびその誘導体の少なくとも一方を含む水素化ホウ素含有物に光を照射して水素を発生させる水素発生部と、
前記水素発生部に前記光を照射する光照射制御部とを備え
前記光は、紫外光または/および可視光である水素発生システム。
【請求項4】
前記水素化ホウ素含有物は粉体であり、当該粉体が、
(i)分散媒に分散されている、
(ii)担持体に担持されている、および
(iii)バインダー中に分散されている
のいずれかである請求項3に記載の水素発生システム。
【請求項5】
請求項3または4に記載の水素発生システム、および前記水素発生システムから水素が供給される燃料電池を備える燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生方法および水素発生システムに関する。また、前記水素発生システムを搭載した燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
水素は、燃焼又は反応により排出される物質が水であるため、クリーンエネルギーとして注目されている。例えば、水素を燃料電池の負極活物質として用い、自動車や電源設備の燃料とする技術開発が精力的にすすめられている。
【0003】
水素供給源として高圧水素を供給するシステム(特許文献1)や、水素吸蔵合金(特許文献2)が注目され、種々の提案がなされている。また、150~1200℃に加熱することにより水素を放出する二次元水素化ホウ素シートが提案されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-124730号公報
【文献】特開2005-063703号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nishino, H. et al. Formation and Characterization of Hydrogen Boride Sheets Derived from MgB 2 by Cation Exchange. J. Am. Chem. Soc. 139, 13761-13769 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水素は反応性が高く爆発性があるため、高圧水素を用いる方法は、水素の充填・貯蔵等も含めて安全性に課題がある。また、水素貯蔵合金や二次元水素化ホウ素シートによる水素供給は加熱プロセスが必要であり、簡便性に課題がある。このため、市場においては、高圧タンクを用いずに、常温でも簡便に水素を供給できるシステムが求められている。
【0007】
本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、高圧タンクを用いずに、常温でも水素を簡便に発生させることが可能な水素発生方法、水素発生システムおよび燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本発明の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]: (BH)(n≧4)からなる二次元水素化ホウ素シートおよびその誘導体の少なくとも一方を含む水素化ホウ素含有物に光を照射することにより水素を発生させる、水素発生方法。
[2]: 前記水素化ホウ素含有物は粉体であり、当該粉体が、
(i)分散媒に分散されている、
(ii)担持体に担持されている、および
(iii)バインダー中に分散されている
のいずれかである[1]に記載の水素発生方法。
[3]: (BH)(n≧4)からなる二次元水素化ホウ素シートおよびその誘導体の少なくとも一方を含む水素化ホウ素含有物に光を照射して水素を発生させる水素発生部と、
前記水素発生部に光を照射する光照射制御部とを備える水素発生システム。
[4]: 前記水素化ホウ素含有物は粉体であり、当該粉体が、
(i)分散媒に分散されている、
(ii)担持体に担持されている、および
(iii)バインダー中に分散されている
のいずれかである[3]に記載の水素発生システム。
[5]: [3]または[4]に記載の水素発生システム、および前記水素発生システムから水素が供給される燃料電池を備える燃料電池システム。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高圧タンクを用いずに、常温でも水素を簡便に発生させることが可能な水素発生方法、水素発生システムおよび燃料電池システムを提供できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る二次元水素化ホウ素シートの局所構造を示す模式図。
図2】第1実施形態に係る水素発生システムの要部の一例を示す模式図。
図3】第2実施形態に係る水素発生システムの要部の一例を示す模式図。
図4】第3実施形態に係る水素発生システムの要部の一例を示す模式図。
図5】第4実施形態に係る水素発生システムの要部の一例を示す模式図。
図6】第5実施形態に係る水素発生システムに用いるフィルムの一例を示す模式図。
図7】実験例1の水素化ホウ素含有物のTEM像。
図8】実験例1の水素化ホウ素含有物のTEM像。
図9】実験例1の水素化ホウ素含有物のEELSプロファイルを示す図。
図10】実験例1の水素化ホウ素含有物のXPSプロファイルを示す図。
図11】実験例1の水素化ホウ素含有物のFT-IRスペクトル。
図12】実験例1の水素化ホウ素含有物の吸収スペクトル。
図13図12の吸収スペクトルのタウツプロット図。
図14】実験例1の水素化ホウ素含有物の3次元蛍光スペクトル。
図15】実験例4の水素ガス放出量をプロットした図。
図16】実験例5の水素ガス放出量(60分間)をプロットした図。
図17】実験例5の水素ガス放出量(24時間)をプロットした図。
図18】実験例6の水素ガス放出量をプロットした図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれる。また、以降の図における各部材のサイズや比率は、説明の便宜上のものであり、これに限定されるものではない。
【0012】
本実施形態の水素発生方法は、(BH)(n≧4)からなる二次元水素化ホウ素シート(以下、「二次元水素化ホウ素シート」ともいう)およびその誘導体の少なくとも一方を含む水素化ホウ素含有物(以下、「水素化ホウ素含有物」ともいう)に、光を照射して水素を発生させる工程を有する。
【0013】
光の照射条件(波長、強度、時間、照射領域等)は、下記化学式1の反応を誘起して水素を発生できる条件であればよく限定されない。
<化学式1> 2HB→H↑+2B
照射条件により所望の水素発生量に設計することが可能である。取り扱い性の観点から、照射帯域は、紫外光(240~400nm)または/および可視光(400nm越え、750nm以下)であることが好ましい。本実施形態は、常温・常圧で光照射により水素を発生できるものであるが、加熱プロセスを併用することを排除するものではない。
【0014】
本実施形態の二次元水素化ホウ素シートは、ホウ素原子(B)と水素原子(H)がモル比で1:1の割合で形成される二次元ネットワークを有するシート状物質である(非特許文献1参照)。図1に、二次元水素化ホウ素シートの局所構造の模式図を示す。ホウ素原子が蜂の巣状のシート状の六角形格子構造を取り、シート状の上方および下方それぞれにおいて、1つの水素原子が六角形格子構造のホウ素原子のうちの隣接する2つのホウ素原子に対してブリッジ状に結合している。また、シート状の六角形格子構造を介して、その上方および下方で2つの水素原子が互いに対向する配置を有している。なお、水素化ホウ素中の水素の配置は、長距離秩序性は有していなくてもよい。
【0015】
(BH)(n≧4)からなる二次元水素化ホウ素シートおよびその誘導体の少なくとも一方を含む水素化ホウ素含有物とは、(BH)(n≧4)からなる二次元水素化ホウ素シートおよびその誘導体の少なくとも一方、或いはこの水素化ホウ素およびその誘導体の少なくとも一方にドーパント等の添加剤を加えた組成物をいう。ここで、「その誘導体」とは、(BH)(n≧4)からなる二次元水素化ホウ素シートを出発物質として他の元素を導入した化合物の他、二次元水素化ホウ素シートを出発物質とするか否かに関わらず、(BH)(n≧4)からなる二次元水素化ホウ素シートを主骨格とする化合物(例えば、末端が酸化物により封止されている化合物)を含む。ここで主骨格とは、当該化合物中の二次元水素化ホウ素シートが含有される割合が80%以上である物質をいう。該水素化ホウ素含有物として、二次元水素化ホウ素シートが複数枚重なった構造でも構わない。
【0016】
化学式1を誘起する光の帯域は、水素化ホウ素含有物により異なる。水素化ホウ素含有物として二次元水素化ホウ素シートのみを用いる場合は紫外光が好ましい。二次元水素化ホウ素シートの誘導体を用いたり、二次元水素化ホウ素シートおよびその誘導体の少なくとも一方にドーパントを入れたりすることにより、水素が発生する帯域を長波長側または短波長側にシフトさせることができる。太陽光や室内光を効率的に利用する観点からは可視光により分解する水素化ホウ素含有物が好ましい。
【0017】
前記ドーパントとして、例えば、炭素、窒素、酸素、フッ素、リン、硫黄、塩素、ヒ素、セレン、臭素、アンチモン、テルル、ヨウ素などの元素や、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、インジウム、スズ、イットリウム、ニオブ、モリブデンタングステン、タンタル、鉛などの金属元素、また、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、金、イリジウム、白金などの貴金属元素からなる群より選択される少なくとも一つの元素からなるドーパントを用いることができる。
【0018】
水素化ホウ素含有物の製造方法は限定されないが、例えば、二ホウ化金属とイオン交換樹脂を極性有機溶媒中で混合する工程を経て得ることができる(非特許文献1参照)。二ホウ化金属はMB型構造であり、MはAl,Mg,Ta,Zr,Re,Cr,TiおよびVからなる群から選択される少なくとも一種である。イオン交換樹脂には、用いる二ホウ化金属の金属イオンとイオン交換可能な官能基(イオン)が配位されているものを用いる。例えば、スルホ基、カルボキシ基等の官能基を有する、スチレンの重合体、ジビニルベンゼンの重合体およびスチレンとジビニルベンゼン等の共重合体が挙げられる。
【0019】
二ホウ化金属としては、二ホウ化アルミニウム、二ホウ化マグネシウム、二ホウ化タンタル、二ホウ化ジルコニウム、二ホウ化レニウム、二ホウ化クロム、二ホウ化チタン、二ホウ化バナジウムが挙げられる。これらの中でも、極性有機溶媒中でイオン交換樹脂とのイオン交換容易性の観点から、二ホウ化マグネシウムが特に好ましい。極性有機溶媒は限定されないが、アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミドが例示できる。
【0020】
例えば、二ホウ化マグネシウムとスルホ基を有するイオン交換樹脂を用いる場合、極性有機溶媒中で、二ホウ化マグネシウムのマグネシウムイオンと、イオン交換樹脂のスルホ基の水素イオンとが置換することにより、水素とホウ素の組成比が1:1のシート状物質である二次元水素化ホウ素シートが得られる。この反応は、常温・常圧で進行する。
【0021】
水素発生効率を高める観点から、本実施形態に係る水素化ホウ素含有物は粉体として用いることが好ましい。水素化ホウ素含有物の粉体は、(i)気体、液体等の分散媒に分散させる、(ii)担持体に担持させる、(iii)樹脂等のバインダー中に分散させる、のいずれかとすることが好ましい。このようにすることにより、水素化ホウ素含有物の光照射効率を顕著に高め、水素発生量を増加させることができる。(iii)のバインダーに分散させる場合には、シート等の成形体を形成したり、多孔質体を形成したりすることができる。担持体やバインダー等は、光透過性であることが好ましい。粉体の形状は問わないが、単層または多層からなるシート状であることが好ましく、単層又は2~3層のシート状であることがより好ましい。
【0022】
本実施形態の水素発生方法によれば、高圧タンクを用いずに、常温でも水素を簡便に発生させることができる。また、水素貯蔵合金を用いる場合に比べて、格段に軽量化できる。
【0023】
[水素発生システム]
本実施形態に係る水素発生システムは、上述した水素発生方法を利用したものであり、(BH)n(n≧4)からなる二次元水素化ホウ素シートおよびその誘導体の少なくとも一方を含む水素化ホウ素含有物に光を照射して、水素を発生させる水素発生部と、この水素発生部に光を照射する光照射制御部とを有する。この水素発生システムは、光照射によって水素を発生させたい用途全般に適用できる。以下、水素発生システムの具体的な実施形態の一例について説明する。各実施形態は好適に組み合わせられる。
【0024】
(第1実施形態)
図2に、第1実施形態に係る水素発生システムの模式的説明図を示す。水素発生システム1は、水素発生部10、光照射制御部20を有する。水素発生部10には、粉体供給タンク11,溶媒供給路12,ガス回収路13、排出路14が接続されており、溶媒32に分散した水素化ホウ素含有物31を収容する容器およびこの分散液30を撹拌する撹拌部15を有する。水素発生部10には、所望のタイミングで、粉体供給タンク11から水素化ホウ素含有物31が、溶媒供給路12から溶媒32が供給されるように構成されている。
【0025】
光照射制御部20は、水素発生部10内の溶媒32に分散された水素化ホウ素含有物31に光を所望のタイミングで照射する役割を担う。水素化ホウ素含有物31を溶媒32に分散させることにより、光照射される水素化ホウ素含有物31の面積を大きくし、水素発生効率を高めることができる。光照射制御部20は、光源と、この光源の照射制御機能を有する。光照射制御部20に光源を内蔵させず、太陽光等の外光を用いてもよい。この場合、光照射制御部20は外光の透過・遮光を制御する機能を有する。
【0026】
水素発生部10において発生した水素は、ガス回収路13を介して捕集されるようになっている。第1実施形態に係る水素発生システム1によれば、光照射条件(照射強度、照射波長、照射時間等)や水素化ホウ素含有物の条件(量、形状等)を制御することにより、常温・常圧で発生する水素量を容易に調整できる。このため、予め貯蔵タンクに水素ガスを貯めておかずに、光照射によって水素を供給することが可能となる。無論、ガス回収路13を介して水素貯蔵タンクに水素を貯蔵する構成とすることを排除するものではない。このような水素貯蔵タンクを設けた場合には、瞬時に水素を所望の量取り出すことができるという利点がある。
【0027】
光照射に伴って、下記化学式1の反応が進行し、水素ガスが発生すると共に水素化ホウ素含有物から水素が脱離して副生成物が残留する。
<化学式1> 2HB→H↑+2B
反応に伴って経時的に水素発生量が低減することを防止するため、適切なタイミングで分散液30を入れ替える必要がある。排出された分散液30は、濾過や遠心分離により副生成物であるホウ素含有物を回収し、溶媒は再び溶媒供給路12に誘導して再利用できる。
【0028】
第1実施形態に係る水素発生システムは種々の変形が可能である。例えば、水素発生部10に分散液30を収容する容器および撹拌部15を設けず、流路(不図示)を設けて、分散液30をこの流路に所望の流速で流し、これに光を照射させることにより水素を発生させる構成としてもよい。
【0029】
第1実施形態に係る水素発生システムによれば、高圧タンクが不要であり、常温・常圧で簡便に水素を発生させることができる。しかも、光照射により水素発生を制御できるので、加熱方式に比して水素発生のオンオフ制御を瞬時に且つ簡便に行うことができる。また、水素貯蔵合金に比べて質量を大幅に低減できる。
【0030】
(第2実施形態)
次に第1実施形態とは異なる水素発生システムの例について説明する。第2実施形態に係る水素発生システムは、分散媒として気体を用いる点において、溶媒を用いた第1実施形態と相違する。なお、以降の図において前出と同様の機能を有する要素部材は同一符号を付す。また、第1実施形態と重複する記載は適宜省略する。
【0031】
図3に、第2実施形態に係る水素発生システムの模式的説明図を示す。水素発生システム2は、水素発生部10、光照射制御部20を有する。水素発生部10には、粉体供給タンク11,ガス回収路13、排出路14、ガス供給路16等が接続されている。また、水素発生部10は、ガス中で水素化ホウ素を舞わせて拡散させるための気流発生部17を有する。
【0032】
水素発生部10には、粉体供給タンク11を介して水素化ホウ素含有物31が、ガス供給路16を介して窒素ガスや不活性ガスが所望のタイミングに供給されるように構成されている。気流発生部17は、分散媒であるガスに分散された水素化ホウ素含有物31を水素発生部10内で舞わせる役割を担う。
【0033】
光照射制御部20は、気流中で分散された水素化ホウ素含有物31に光を所望のタイミングで照射する役割を担う。構成は第1実施形態と同様にすることができる。
【0034】
水素発生部10において発生した水素は、ガス回収路13を介して捕集されるようになっている。上方置換により水素ガスを多く含むガスを回収するように構成されている。第2実施形態に係る水素発生システムによれば、光照射条件(照射強度、照射波長、照射時間等)や水素化ホウ素含有物の条件(量、形状等)を制御することにより、常温・常圧で発生する水素量を調整できる。
【0035】
光照射に伴う化学式1の反応の進行により、水素ガスが発生すると共に水素化ホウ素含有物から水素が脱離して副生成物が得られる。このため、水素発生量が低減することを防止するため、排出路14より適切なタイミングで残留物含有ガスを排出する。回収された残留物は、フィルターによりガスと残留物に分離して、それぞれ再利用することが可能である。
【0036】
第2実施形態に係る水素発生システムによれば、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、ガスを用いる方式を採用しているので、第1実施形態よりも更に軽量化を実現できる。
【0037】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る水素発生システムは、水素発生部10が薄型容器からなり、光照射制御部20の光源が水素発生部10内に内蔵された薄型容器を用いる点において、前述までの実施形態と相違する。
【0038】
図4に、第3実施形態に係る水素発生システムの要部の模式的説明図を示す。水素発生部10は、薄型容器18を複数有する。この薄型容器18内には、光照射制御部20のLED光源21が内蔵されている。水素発生部10には、水素化ホウ素含有物が分散した分散媒を供給する供給路(不図示),ガス回収路(不図示)、分散媒の排出路(不図示)等が接続されている。分散媒は液体でも気体でもよい。
【0039】
薄型容器18には、所望のタイミングで、供給路から水素化ホウ素含有物を分散した分散媒が供給されるように構成されている。水素発生部10内で分散された水素化ホウ素含有物31に対し、水素を発生させたいタイミングでLED光源21から光を照射する。
【0040】
薄型容器18において発生した水素は、ガス回収路を介して捕集される。第3実施形態に係る水素発生システムによれば、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、複数の薄型容器18を併用することにより、ニーズに応じた水素ガスを発生させることができる。なお、用途によっては、ガス回収路のみを設け、供給路や排出路は設けずにディスポーザブルや交換可能なカートリッジとして用いることもできる。
【0041】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る水素発生システムは、担持体に水素化ホウ素含有物の粉体を担持させている点において、前述までの実施形態と相違する。
【0042】
図5に、第4実施形態に係る水素発生システムの要部の模式的説明図の一例を示す。水素発生システム4は、照射する光に対して透過性を有するビーズ41に粉体状の水素化ホウ素含有物31が担持されている。水素化ホウ素含有物31をビーズ41に担持させた担持ビーズ40を用いることにより、水素化ホウ素含有粉体の光照射可能な面積を増やし、光照射効率を高めることができる。
【0043】
水素発生部10には、担持ビーズ40を所望の速度で移送する搬送ベルト19があり、搬送ベルト19に供給された担持ビーズ40に対して所望のタイミングで光照射制御部20を用いて光照射されるようになっている。そして、水素発生部10において発生した水素は、ガス回収路13を介して捕集される。搬送ベルト19上の担持ビーズ40は、水素発生量が低減しないよう、光照射条件と搬送ベルト19の移送速度および担持ビーズ40の移送量が調整されている。
【0044】
第4実施形態に係る水素発生システムによれば、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、装置の小型化を実現できる。なお、担持体としてビーズに代えて、粘着性シート、多孔質体、フィルム等を用いてもよい。
【0045】
(第5実施形態)
第5実施形態に係る水素発生システムは、水素化ホウ素含有物の粉体をバインダー中に分散させている点において、前述までの実施形態と相違する。
【0046】
図6に、第5実施形態に係る水素発生システムに用いるフィルムの模式的説明図を示す。フィルム50は、バインダー51中に水素化ホウ素含有物31の粉体が分散された成形体よりなる。係る成形体は、支持体上に形成されていてもよい。水素化ホウ素含有物31をバインダー51に分散させることにより、所望の形状に成形することが容易になる。バインダー51は、水素発生を妨げないよう、発泡性樹脂や多孔質体であることが好ましい。また、バインダーは光照射効率を低下させないように、照射する光に対して透過性の高い材料とすることが好ましい。
【0047】
第5実施形態に係る水素発生システムによれば、第1実施形態と同様の効果が得られる。また、水素発生部に搭載する水素化ホウ素含有物を所望の形状に成形することが可能となる。
【0048】
[燃料電池システム]
本実施形態に係る燃料電池システムは、公知の燃料電池に対し、水素供給源として上述した水素発生システムを搭載したものである。本実施形態に係る燃料電池によれば、高圧タンクを用いずに、常温でも簡便に燃料電池に水素を供給することができる。
【実施例
【0049】
実験例1:合成
非特許文献1に基づき、(BH)(n≧4)からなる二次元水素化ホウ素シート (二次元水素化ホウ素シート)の合成を行った。具体的には、アセトニトリル中で、二ホウ化マグネシウム(シグマ・アルドリッチ社製)500mgと陽イオン交換樹脂(オルガノ社製)30mLを室温のもと3日間撹拌を行った。この溶液を孔径0.2μmのフィルターで濾過し、濾液を80℃下で減圧乾燥させることにより、黄色に呈した生成物を得た。
【0050】
実験例2:キャラクタリゼーション
(TEM)
図7図8に、実験例1で得た生成物の透過電子顕微鏡(JEOL社製)による形状観察結果を示す。これらの図より、実験例1で得た生成物は二次元シート状の構造を有していることを確認した。
【0051】
(EELS)
図9に、実験例1で得た生成物の電子エネルギー損失分光を行った結果を示す。同図に示すように、炭素(C)、窒素(N)および酸素(O)に起因するピークは観測されず、sp結合を有するホウ素(B)のみが観測されることを確認した。
【0052】
(XPS)
図10に、実験例1で得た生成物および原料として用いた二ホウ化マグネシウム(MgB)のX線光電子分光分析(分析装置:JEOL社製)を行った結果を示す。同図に示すように、二ホウ化マグネシウム中のホウ化物であることを示すB1sのピークは合成後も存在している。一方で原料にて観測されたマグネシウムのMg2pのピークは、生成物から確認されなかった。この結果は、イオン交換樹脂によってマグネシウムイオンが水素イオンと交換されたことを示唆するものである。
【0053】
(FT-IR)
図11に、実験例1で得た生成物についてフーリエ変換赤外分光分析(分析装置:日本分光株式会社製)による結合の観測を行った結果を示す。同図より、ホウ素と水素の結合が確認された。また、生成物は、陽イオンとしての水素イオンがホウ素と結合してホウ化物となっていることが分かった。
【0054】
実験例3:光学特性
<UV-Vis>
図12に、実験例1で得た生成物について紫外可視分光分析(分析装置:日本分光株式会社製)による吸光スペクトルの観測を行った結果を示す。測定には拡散反射法を用いた。図12の結果より、生成物は500nm近傍から短波長の光を吸収していることが分かった。この吸収スペクトルから、物質のバンドギャップを算出するためにタウツプロットを施した結果を図13に示す。その結果、生成物はおよそ2.8eVのバンドギャップを有することが分かった。
【0055】
<蛍光スペクトル測定>
図14に、実験例1で得た生成物について、3次元蛍光スペクトル分光分析(分析装置:日立ハイテクサイエンス社製、型番:F-7000)を行った結果を示す。同図より、生成物は、励起光340nmで特異的に生じる430nmの狭い蛍光と、330nm~480nmの幅広い励起光で生じる480nm~550nmの広い蛍光の、二種類の蛍光を呈することが分かった。
【0056】
実験例4:光照射による水素放出(乾式・流通系)
実験例1で得た生成物粉末に対して、水銀キセノンランプ(林時計工業株式会社製)の光源を用いて照射した。
そして、光照射による水素ガスの分析を行った。ベースガスはアルゴンガスを用いて、流量はマスフローコントローラ―で10mL/minとした。ガスの分析にはマイクロGC(アジレント・テクノロジー株式会社製、490MicroGC)を用いた。図15に、発生した水素ガスの結果を示す。同図より、水素ガスが放出されることを確認した。
【0057】
実験例5:光照射による水素放出(乾式・閉鎖系)
実験例1で得た生成物粉末に対して、上述した水銀キセノンランプからの光を照射し、放出された水素ガスを閉鎖型ガラスセルで捕捉した。閉鎖型ガラスセル中のベースガスは窒素ガスとし、ガス組成は実験例5と同様マイクロGCを用いて分析した。閉鎖型ガラスセル(幕張理化学硝子製作所製)は容積が500mLのものを用いた。光照射開始後60分間の結果を図16に、24時間の結果を図17に示す。図16の結果より、照射開始15分間程度は非常に速い速度で水素が放出されたことが分かった。また、図17の結果より12~16時間程度で飽和放出量に達したことが分かった。
【0058】
実験例6:光照射による水素放出(アセトニトリル中・閉鎖系)
実験例1で得た生成物30mgをアセトニトリル30mL中に分散させた分散液に、実験例5と同様に水銀キセノンランプを照射して放出された水素ガスの量を測定した結果を、図18に示す。光照射の間、分散液は常に撹拌状態とした。図18の結果より、分散状態の生成物からは、およそ一定の速さで水素が放出されることが分かった。
【符号の説明】
【0059】
1~5 水素発生システム
10 水素発生部
11 粉体供給タンク
12 溶媒供給路
13 ガス回収路
14 排出路
15 撹拌部
16 ガス供給路
17 気流発生部
18 薄型容器
19 搬送ベルト
20 光照射制御部
21 LED光源
30 分散液
31 水素化ホウ素含有物
32 溶媒
40 担持ビーズ
41 ビーズ
50 フィルム
51 バインダー
図1
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図5
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