IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太平電業株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人金井学園の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】除染剤
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/28 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
G21F9/28 525B
G21F9/28 525A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020062967
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162430
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2021-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000204000
【氏名又は名称】太平電業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390013815
【氏名又は名称】学校法人金井学園
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】特許業務法人 インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】五嶋 智久
(72)【発明者】
【氏名】佐山 和宏
(72)【発明者】
【氏名】砂川 武義
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-15658(JP,A)
【文献】特開2019-15659(JP,A)
【文献】特開平11-290623(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被除染表面に付着した放射性物質を除去するためのゲル状の除染剤であって、
グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つと、
ホウ砂と、
還元性単糖・少糖と、を含み、さらに、
塩化コバルト(II)を含むことを特徴とする除染剤。
【請求項2】
前記塩化コバルト(II)の含有量が、除染剤全体の質量に対して0.01~1質量%であることを特徴とする請求項1に記載の除染剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、除染剤に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の原子力関連施設においては、放射性物質の除染等の作業等によって、たとえば、周辺の構造物の表面が、コバルト、マンガン等の放射性物質によって汚染される事態が起こる可能性がある。
【0003】
構造物の表面に付着した放射性物質は、放射線を出し続けるので、作業従業者等が放射線被曝する。したがって、放射性物質により汚染された構造物は、早期に除染する必要がある。
【0004】
このような状況にあって、本願発明者らは、放射性物質が付着した構造物を除染するための除染剤を鋭意検討している(たとえば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6560304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、さらに使い勝手のよい除染剤を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、被除染表面に付着した放射性物質を除去するためのゲル状の除染剤であって、グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つと、ホウ砂と、還元性単糖・少糖と、を含み、さらに、塩化コバルト(II)を含むことを特徴とする。
【0008】
上記発明にあっては、前記塩化コバルト(II)の含有量が、除染剤全体の質量に対して0.01~1質量%であってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の除染剤によれば、被除染表面に1回、塗布または散布するだけで除染することができるので、除染に手間と労力を要さない。また、本発明の除染剤を使用すれば、放射性物質を内包したゲル状の使用済みの除染剤を液状化し、この後、液状化した使用済みの除染剤から放射性物質を分離、除去し、この後、液状化した使用済みの除染剤を、再度、ゲル化することによって、使用済みの除染剤の再使用が可能となる。この結果、除染コストの低減を図ることができる。また、本発明の除染剤によれば、生分解性であり、処理が面倒な薬品等が使用されていないので、後処理が容易に行える。
【0010】
そしてさらに、本発明の除染剤によれば、塩化コバルト(II)を含有していることから、除染剤を長期保存してもカビが繁殖することを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施形態にかかる除染剤について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態にかかる除染剤は、被除染表面に付着した放射性物質を除去するためのゲル状の除染剤であって、以下の成分を含有している。
(a)グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つ
(b)ホウ砂
(c)還元性単糖・少糖
(d)塩化コバルト(II)
【0013】
(a)グアガム、タラガム、コンニャク粉の少なくとも1つ
グアガム、タラガム、およびコンニャク粉については特に限定されることはなく、従来公知のものを適宜選択して用いることができる。また、本実施形態にかかる除染剤にあっては、グアガム、タラガム、およびコンニャク粉の少なくとも1つを含有していればよく、これらの2つまたは3つを含有してもよい。これらの含有量については特に限定されることはないが、たとえばグアガムを含有する場合、当該グアガムの含有量は、除染剤全体の質量に対して1~2質量%であることが好ましい。
【0014】
(b)ホウ砂
ホウ砂は、グアガム、タラガム、およびコンニャク粉それぞれの分子間を繋ぐ架橋反応を促進させて、ゲル状の除染剤の剛性を高める作用を有している。たとえば、グアガムにホウ砂を加えると、ゲル状除染剤の剛性は高くなり、その反面、流動性は低下する。ホウ砂の含有量については特に限定されることはないが、たとえば、除染剤全体の質量に対して0.5~1.5質量%であることが好ましい。
【0015】
(c)還元性単糖・少糖
還元性の単糖または少糖は、ゲル状除染剤の剛性および流動性の両方を向上させる作用を有している。つまり、還元性単糖・少糖の含有量を変えることで、除染剤の粘度を調整することができる。なお、少糖とは主に二糖類を意味するが、これに限定はされない。還元性の単糖または少糖の含有量についても特に限定されることはなく、糖の種類や前記ホウ砂の含有量などに応じて適宜設計可能である。具体的には、たとえば、ホウ砂の含有量が除染剤全体の質量に対して1質量%である場合であって、D-フルクトース(果糖)を用いる場合にあっては、その含有量は1.4質量%が好ましい。一方で、ホウ砂の含有量が除染剤全体の質量に対して1質量%である場合であって、D-マンノースやD-グルコース(ブドウ糖)を用いる場合にあっては、その含有量は3質量%が好ましい。
【0016】
(d)塩化コバルト(II)
本実施形態にかかる除染剤は、上記(a)~(c)に加え、さらに、塩化コバルト(II)を含むことに特徴を有している。
【0017】
上記のとおり植物由来の多糖類であるグアガムやタラガムなどを含んでいるため、長期保存した場合には、これらの成分に起因してカビが繁殖する虞があるところ、本実施形態にかかる除染剤は、塩化コバルト(II)(CoCl)の効果によりカビの繁殖を抑制することができる。また、塩化コバルト(II)は、カビの繁殖を抑制するのみならず、ゲル状の除染剤の軟化を防止することもできる。塩化コバルト(II)の含有量については、特に限定されることはないが、上記の効果を効率よく発揮するためには、除染剤全体の質量に対して0.01~1質量%であることが好ましい。
【0018】
塩化コバルト(II)を添加するタイミングについては、特に限定されない。具体的には、たとえば、グアガムとホウ砂糖液からなるゲル状の除染剤を作製した後に粉末状の塩化コバルト六水和物を添加しても、均一に混ざることを見出している。なお、デヒドロ酢酸ナトリウムの場合、上記のようにゲル状の除染剤を作製した後に粉末状のデヒドロ酢酸ナトリウムを均一に混ぜ込む事は困難である。また、塩化コバルト(II)六水和物は、水にグアガムを加え撹拌し膨潤させた水溶液に添加してゲル状の除染剤を作製してもよい。塩化コバルト(II)六水和物は、ホウ砂糖液の中に添加してゲル状の除染剤を作製してもよい。
【0019】
本実施形態にかかる除染剤にあっては、上記(a)~(d)に加えて、水および他の成分を含んでもよい。たとえば、除染剤を所望の色に着色する目的で、各種色剤を含有してもよい。
【0020】
本実施形態にかかる除染剤を用いて放射性物質が付着した建物等の除染を行うには、放射性物質が付着した建物等の表面に本実施形態にかかるゲル状の除染剤を、ブラシ、ローラー、シャワーあるいは噴霧によって塗布または散布し、次いで、放射性物質を内含したゲル状の除染剤を建物等の構造物の表面から剥離し、除去すればよい。このように、1回の除染剤の塗布または散布で済むので、除染に要する手間と労力を低減することができる。なお、建物等の表面に沿ってゲル状の除染剤の塊を転がし、これにより建物等の表面に付着した放射性物質を除染剤の塊に内含させてもよい。
【0021】
また、本実施形態にかかる除染剤は再利用も可能である。具体的には、ゲル状の使用済み除染剤を液状化し、液状化した使用済み除染剤から放射性物質を分離手段により分離、除去し、この後、液状化した使用済み除染剤を再度ゲル化することで再利用が可能である。このように、本実施形態にかかる除染剤は、ゲル状→液状→ゲル状・・・を繰り返すことで再利用が可能であるため、除染コストの低減を図ることができる。
【0022】
具体的には、たとえば、ホウ酸水溶液と果糖水溶液とを作製し、ゲル状の使用済み除染剤にホウ酸水溶液を加えて撹拌し、この後、果糖水溶液を加えて撹拌することでゲル状の除染剤を液状化することができる。
【0023】
また、ホウ酸水溶液に果糖を加えた混合水溶液を作製し、この混合水溶液をゲル状の使用済み除染剤に加えて撹拌することでも、ゲル状の除染剤を液状化することができる。
【0024】
さらには、クエン酸水溶液を作製し、このクエン酸水溶液をゲル状の使用済み除染剤に加えて撹拌することでも、ゲル状除染剤を液状化することができる。
【0025】
一方で、水酸化ナトリウムまたは水酸化リチウムを液状化した除染剤に加えることで、除染剤を再度ゲル化することができる。
【実施例
【0026】
以下に本実施形態にかかる除染剤について、実施例と比較例を挙げて説明する。
【0027】
(実施例1)
(1)下記コップに50mLの水を入れ、前記水の中にグアガム0.75g(除染剤全体の質量に対して1.5質量%に相当)と、2000ppmの塩化コバルト六水和物0.1g(除染剤全体の質量に対して0.2質量%に相当)を入れた。
(2)次いで、前記(1)のグアガム水溶液にとろみがつく、つまりグアガムが水に膨潤するまでプラスチックスプーンで混ぜた。
(3)注射筒を用いてホウ砂糖液を5mL量り、前記(2)のグアガム水溶液に入れ、スプーンにグアガム水溶液が付かなくなるまで混ぜた。なお、ホウ砂糖液とは、ホウ砂と還元性単糖・少糖からなる水溶液である。この実施例におけるホウ砂糖液には、ホウ砂0.5gと果糖0.68gとが含まれている。
(4)以上により、本発明の実施例1にかかる除染剤を得た。
【0028】
(比較例1)
前記(1)において使用された塩化コバルト六水和物に変えてデヒドロ酢酸ナトリウムを使用したことを除き、すべて実施例1と同じ条件にて、比較例1にかかる除染剤を得た。
【0029】
(比較例2)
前記(1)において塩化コバルト六水和物を使用しなかったことを除き、すべて実施例1と同じ条件にて、比較例2にかかる除染剤を得た。
【0030】
(保存試験)
実施例1および比較例1~2の除染剤をそれぞれディスポシャーレに入れて、1ヶ月間室温状態で保存した。
【0031】
(結果)
前記保存試験の結果、塩化コバルト(II)を含む実施例1の除染剤は、カビの繁殖は確認されず、液状化(軟化)もしなかった。一方で、デヒドロ酢酸ナトリウムを含む比較例1の除染剤は、約一週間でカビの繁殖が確認され、約2週間半で液状化した。また、比較例2の除染剤は、1日でカビの繁殖が確認され、約1週間半で液状化した。
【0032】
上記の結果からも、本発明の除染剤は、カビの繁殖が抑制できることが明らかとなった。