(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】ホイップクリーム用乳化組成物、ホイップクリーム及び菓子
(51)【国際特許分類】
A23L 9/20 20160101AFI20220527BHJP
A23D 7/00 20060101ALI20220527BHJP
A23C 11/06 20060101ALI20220527BHJP
A23G 3/40 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
A23L9/20
A23D7/00 508
A23C11/06
A23G3/40
(21)【出願番号】P 2021025654
(22)【出願日】2021-02-19
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2020027587
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】592218300
【氏名又は名称】学校法人神奈川大学
(73)【特許権者】
【識別番号】593141078
【氏名又は名称】株式会社アルソア慧央グループ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 和夫
(72)【発明者】
【氏名】今井 洋子
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 佳那
(72)【発明者】
【氏名】新上 正信
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 楓
(72)【発明者】
【氏名】原 浩行
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-033349(JP,A)
【文献】特開昭60-153757(JP,A)
【文献】特開2011-083205(JP,A)
【文献】特開2018-088912(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 9/00-9/20
A23D 7/00-7/06
FSTA/CAplus/AGRICOLA/BIOSIS/
MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性ミルクに由来する水性成分を外相とするO/W型エマルションであり、
水酸基を有する重縮合ポリマー粒子及び前記植物性ミルクに由来するミルクエマルション粒子のいずれも
が同一の油性剤を囲んで形成される複合エマルション粒子を含
み、前記重縮合ポリマー粒子及び前記ミルクエマルション粒子のいずれもが前記同一の油性剤と前記水性成分との界面に混在して介在する、
ホイップクリーム用乳化組成物。
【請求項2】
前記重縮合ポリマー
粒子の平均粒子径が8nm以上400nm以下である
請求項1に記載のホイップクリーム用乳化組成物。
【請求項3】
前記乳化組成物中に含まれる分散物質の平均粒子径が、500nm以上300μm以下である
請求項1又は2に記載のホイップクリーム用乳化組成物。
【請求項4】
前記油性剤の含有量が、前記ホイップクリーム用乳化組成物の総量に対して、15質量%以上65質量%以下である
請求項1~3のいずれか1項に記載のホイップクリーム用乳化組成物。
【請求項5】
前記重縮合ポリマー粒子の含有量が、前記ホイップクリーム用乳化組成物の総量に対して、0.001質量%以上5質量%以下である
請求項1~4のいずれか1項に記載のホイップクリーム用乳化組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のホイップクリーム用乳化組成物から構成される
ホイップクリーム。
【請求項7】
空気含有率が4%以上45%以下である
請求項6に記載のホイップクリーム。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のホイップクリームを含む
菓子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイップクリーム用乳化組成物、ホイップクリーム及び菓子に関し、より詳しくは、コクをより低減してさっぱり感が強いホイップクリーム用乳化組成物、ホイップクリーム及び菓子に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップクリームは、製菓・製パン業界において、フィリング用、サンド用、トッピング用、織り込み用等として広く使用されている。現在、ホイップクリームとしては、生乳、牛乳等の乳製品が主に用いられている。
【0003】
近年、健康志向の高まりに伴い、ホイップクリームの原料に用いる乳製品の代替として豆乳に注目が集まっている。例えば、特許文献1には、豆乳と、ヤシ油及びパーム油を含み且つ25~35℃の融点を有する油脂類を含むホイップクリームは、コク及び風味に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特に女性、子供、老人等を中心として、コクが少なくさっぱり感の強いホイップクリームに一定の需要がある。豆乳を原料とするホイップクリームは、乳製品を原料とするホイップクリームと比較して、通常、コクは少ないが、女性、子供、老人等ではよりコクが少なくさっぱりしたホイップクリームが求められることもある。したがって、ホイップクリームにおいて、コクをより低減してさっぱり感が強いものとするために、なお改良の余地があった。
【0006】
本発明は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、時間が経過してもホイップクリームの形状を維持することができ、ホイップクリーム特有の滑らかな外観を有しながら、コクがより低減されさっぱり感の強いホイップクリームを得るための乳化組成物、その乳化組成物により得られるホイップクリーム及びそのホイップクリームを利用した菓子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく、鋭意検討を重ねた。その結果、植物性ミルクに由来する水性成分を外相とするO/W型エマルションにおいて、油性剤を内相としてさらに含むとともに、水酸基を有する重縮合ポリマー粒子及び植物性ミルクに由来するミルクエマルション粒子がいずれもが同一の油性剤を囲んで形成されている複合エマルション粒子を含む乳化組成物によれば、これを用いて得られるホイップクリームでは、時間が経過してもホイップクリームの形状を維持することができ、ホイップクリーム特有の滑らかな外観を有しながら、コクがより低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
(1)植物性ミルクに由来する水性成分を外相とするO/W型エマルションであり、水酸基を有する重縮合ポリマー粒子及び前記植物性ミルクに由来するミルクエマルション粒子のいずれもが、同一の油性剤を囲んで形成される複合エマルション粒子を含む、ホイップクリーム用乳化組成物。
【0009】
(2)前記重縮合ポリマーの平均粒子径が8nm以上400nm以下である(1)に記載のホイップクリーム用乳化組成物。
【0010】
(3)前記乳化組成物中に含まれる分散物質の平均粒子径が、500nm以上300μm以下である(1)又は(2)に記載のホイップクリーム用乳化組成物。
【0011】
(4)前記油性剤の含有量が、前記ホイップクリーム用乳化組成物の総量に対して、15質量%以上65質量%以下である(1)~(3)のいずれかに記載のホイップクリーム用乳化組成物。
【0012】
(5)前記重縮合ポリマー粒子の含有量が、前記ホイップクリーム用乳化組成物の総量に対して、0.001質量%以上5質量%以下である(1)~(4)のいずれかに記載のホイップクリーム用乳化組成物。
【0013】
(6)(1)~(5)のいずれかに記載のホイップクリーム用乳化組成物から構成されるホイップクリーム。
【0014】
(7)空気含有率が4%以上45%以下である(6)に記載のホイップクリーム。
【0015】
(8)(6)又は(7)に記載のホイップクリームを含む菓子。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、時間が経過してもホイップクリームの形状を維持することができ、ホイップクリーム特有の滑らかな外観を有しながら、コクがより低減されさっぱり感の強いホイップクリームを得るための乳化組成物、その乳化組成物により得られるホイップクリーム及びそのホイップクリームを利用した菓子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態について何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
なお、本明細書において、各成分の含有量は、ホイップクリーム用乳化組成物に対する量を記載しているが、この基準となるホイップクリーム用乳化組成物の量は、甘味料(砂糖等)を含まないものとする。
【0020】
≪ホイップクリーム用乳化組成物≫
本実施形態に係るホイップクリーム用乳化組成物は、植物性ミルクに由来する水性成分を外相とするO/W型エマルションであり、水酸基を有する重縮合ポリマー粒子及び植物性ミルクに由来するミルクエマルション粒子のいずれもが、同一の油性剤を囲んで形成される複合エマルション粒子を含むものである。
【0021】
このようなホイップクリーム用乳化組成物を用いて得られるホイップクリームにおいては、従来より三相乳化による乳化剤として知られる重縮合ポリマー粒子と、植物性ミルクに由来するミルクエマルション粒子とをともに乳化処理に付すことで、重縮合ポリマー粒子及びミルクエマルション粒子のいずれもが同一の油性剤と水性成分との界面に混在して介在し、ファンデルワールス力により内相を構成する油性剤に付着することで乳化させる。
【0022】
植物性ミルク中には、タンパク質や食物繊維、ポリフェノール等の多くの不溶性夾雑物が含まれる。このような不溶性夾雑物が分散している水相中で、重縮合ポリマー粒子が、その乳化作用を示すか否か明らかではなかった。重縮合ポリマーはファンデルワールス力によって有機物に積極的に付着する性質を有しており、不溶性夾雑物に付着し、油性剤への付着を阻害するものと思われた。しかしながら、本発明者らは、意外にも不溶性夾雑物が分散している水相中で、植物性ミルクに由来するミルクエマルション粒子が、重縮合ポリマー粒子の乳化作用を阻害するのではなく、重縮合ポリマー粒子とともに乳化作用に寄与することを見出した。
【0023】
このようにして、ミルクエマルション粒子が油分の周囲に存在すると、舌への接触機会が増加する。このミルクエマルション粒子は、もともとさっぱり感を示すものであり、舌へ接触して、さっぱり感を高める。
【0024】
また、このようにして水分を多く抱え込む重縮合ポリマー粒子及びミルクエマルション粒子が気泡に付着し、気泡を保持するための液膜を維持することにより、空気含有率が高くなる。また、油性剤を内相として含むことにより、この油性剤が骨格となり、さらに空気含有率が高い状態を維持する。このようにして、ホイップクリームが高い空気含有率を維持することにより、ホリップクリームが舌や口内へ接触する油分量を低減する。これによってホイップクリームのコクが低減される。
【0025】
そして、これらの効果と、植物性ミルクに由来するさっぱり感が相まってコクが低減され、さっぱり感の強いホイップクリームが得られる。
【0026】
通常、コクや油っぽさを低減してさっぱり感を強めるためには添加する油性剤を減らさなければならない。しかし、添加する油性剤量を減らすとホイップ状態を形成することが出来ないため、さっぱりとしたホイップクリームを調製するのは困難である。一方、このように、重縮合ポリマー粒子及びミルクエマルション粒子を用いて複合エマルション粒子を形成することにより、油性剤を減らすことなくホイップクリームにコクを低減してさっぱり感を与えることが出来る。
【0027】
また、三相乳化による乳化組成物は、通常の界面活性剤による乳化組成物に比べて乳化物の安定性が高いため、時間が経過してもホイップクリームの形状を維持することができ、ホイップクリーム特有の滑らかな外観を有している。
【0028】
なお、三相乳化のための乳化剤としては、両親媒性物質により形成されるベシクル(閉鎖小胞体)も用いられているが、重縮合ポリマー粒子を用いる場合に比べて、ミルクエマルションの付着率が低く、また、ベシクルは水分保持力も低く、気泡の液膜を保持しにくいため、空気含有率が高くならずに、コクが低減されたさっぱり感の強いホイップクリームは得られない。
【0029】
<植物性ミルク>
植物性ミルクは、植物の種子(例えば豆乳の場合、大豆)を水に浸して磨砕し、その種子中の成分を抽出して得られるものである。植物性ミルク中には、植物性ミルクに由来するエマルション(ミルクエマルション)とタンパク質等が水中に分散されている。
【0030】
植物性ミルクとしては、植物に由来するミルクであれば特に限定されないが、例えば、豆乳、ライスミルク、玄米ミルク、ココナッツミルク、アーモンドミルク、ピーナッツミルク、ピーミルク、カシューナッツミルク、くるみミルク、ヘンプミルク等が挙げられる。これらは、いずれもミルクエマルションとタンパク質等が水中に分散されたものである。
【0031】
本実施形態に係るホイップクリーム用乳化組成物においては、植物性ミルクの水性成分を外相(水相)とし、植物性ミルクに含まれるミルクエマルションを重縮合ポリマー粒子とともに乳化剤として用いる。ミルクエマルションとは、例えば豆乳の場合、豆乳中に分散する大豆エマルションをいう。
【0032】
植物性ミルクの含有量(水性成分及びミルクエマルションを含む総量)としては、特に限定されず、ホイップクリーム用乳化組成物の総量(甘味料を除く)に対し、例えば10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましく、35質量%以上であることが特に好ましく、40質量%以上であることが特に好ましい。また、植物性ミルクの含有量としては、ホイップクリーム用乳化組成物の総量(甘味料を除く)に対し、70質量%以下、65質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、55質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
<複合エマルション粒子>
複合エマルション粒子は、水酸基を有する重縮合ポリマー粒子及び植物性ミルクに由来するミルクエマルション粒子のいずれもが、同一の油性剤を囲んで構成される、油性剤と重縮合ポリマー粒子とミルクエマルション粒子とが複合されたエマルション粒子である。すなわち、複合エマルション粒子は、例えば特許3855203号に示される、いわゆる「三相乳化」された粒子であり、三相乳化による乳化物のO/W型エマルションの油相(O,内相)を構成する粒子である。
【0034】
この複合粒子は、植物性ミルクを水相、油滴である油性剤を油相とし、例えば特許3855203号に示される方法にしたがい、後述する重縮合ポリマーを用いて乳化して得ることができる。
【0035】
複合エマルション粒子の平均粒径としては、特に限定されないが、例えば300μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。ただし、複合エマルション粒子の平均粒径は300μm超であってもよい。一方、複合エマルション粒子の平均粒径としては、例えば1μm以上であることが好ましく、2μm以上であることがより好ましい。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、水分散液(複合エマルション粒子の平均粒径を測定する場合には、O/W型エマルション)について粒度分布測定装置FPAR(大塚電子(株)社製)を用いて動的光散乱法により測定し、Contin解析により求めた個数分布の値を3回測定して平均した値である。
【0036】
(油性剤)
油性剤は、O/W型エマルションの内相を構成するものであり、上述した複合エマルション粒子の構成成分である。
【0037】
油性剤としては、15℃で固体状または液体状の食用油であれば特に限定されない。
【0038】
固体状の食用油としては、例えば、ココナッツオイル、水添パーム油、硬化ヤシ油、カカオバター、ピーナッツバター等が挙げられる。
【0039】
また、液体状の食用油としては、例えば、植物油(オリーブオイル、アボカド油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、月見草油、ホホバ油、ナタネ油、ゴマ油、ヒマシ油、サンフラワー油、綿実油、大豆油、茶実油、米糠油、小麦胚芽油、胚芽油、落花生油、ヒマワリ油、アーモンド油、トウモロコシ油、パーシック油、サザンカ油、亜麻仁油、エノ油、カヤ油等)等が挙げられる。
【0040】
なお、液状油を用いる場合、O/W型エマルションに、塩や酸(果汁を含む)を含ませることが好ましい。ホイップクリーム中の骨格をより強く形成し、空気含有率を高めることができる。
【0041】
油性剤の含有量としては、特に限定されないが、ホイップクリーム用組成物の総量(甘味料を除く)に対し、例えば15質量%以上、20質量%以上、25質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上であることがさらに好ましい。一方で、油性剤の総量としては、ホイップクリーム用組成物の総量(甘味料を除く)に対し、65質量%以下、60質量%以下、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
<重縮合ポリマー粒子>
重縮合ポリマー粒子は、後述するミルクエマルションとともに油相と水相の界面に介在し、ファンデルワールス力を介して乳化状態を構成することから、水相及び油性剤の化学組成や表面状態等にかかわらず、良好な乳化組成物を構成することができる。
【0043】
水酸基を有する重縮合ポリマーは、天然高分子、合成高分子又は半合成高分子のいずれであってもよく、乳化剤の用途に応じて適宜選択されてよい。ただし、安全性に優れ、一般的に安価である点で、天然高分子が好ましく、乳化機能に優れる点で以下に述べる糖ポリマーがより好ましい。なお、粒子とは、重縮合ポリマーが単粒子化したもの、又はその単粒子同士が連なったもののいずれも包含する一方、単粒子化される前の凝集体(網目構造を有する)は包含しない。
【0044】
具体的に、重縮合ポリマーは、セルロース、デンプン等のグルコシド構造を有するポリマーである。例えば、リボース、キシロース、ラムノース、フコース、グルコース、マンノース、グルクロン酸、グルコン酸等の単糖類の中からいくつかの糖を構成要素として微生物が産生するもの、キサンタンガム、アラビアゴム、グアーガム、カラヤガム、カラギーナン、ペクチン、フコイダン、クインシードガム、トラントガム、ローカストビーンガム、ガラクトマンナン、カードラン、ジェランガム、フコゲル、カゼイン、ゼラチン、馬鈴薯デンプン、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦粉デンプン、米デンプン、ワキシー米デンプン、タピオカデンプン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸誘導体、シロキクラゲ多糖体等の天然高分子、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、酢酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム等のエステル化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、セルロース結晶体等が挙げられる。
【0045】
重縮合ポリマー粒子の含有量としては、特に限定されないが、ホイップクリーム用組成物の総量(甘味料を除く)に対し、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましく、0.02質量%以上であることが特に好ましい。一方で、重縮合ポリマー粒子の総量としては、ホイップクリーム用組成物の総量(甘味料を除く)に対し、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが特に好ましく、0.2質量%以下であることが最も好ましい。
【0046】
重縮合ポリマー粒子の平均粒子径は、エマルション(油性剤が水に分散している状態)形成前では8nm以上800nm以下程度であり、O/W型エマルション構造においては8nm以上400nm以下程度である。
【0047】
重縮合ポリマー粒子は、例えば特許3855203号に示される方法により得ることができる。
【0048】
また、このホイップクリーム用乳化組成物中に含まれる分散物質の平均粒子径は、500nm以上300μm以下であることが好ましい。
【0049】
その他、本実施形態のホイップクリーム用乳化組成物は、これを用いて製造するホイップクリームの用途等に応じて、他の成分を適宜添加してもよい。例えば、甘味料、増粘剤、pH調整剤、タンパク質変性防止剤、膨張剤、安定剤、保存料、ビタミン類、消泡剤、着色料、香料、酸化防止剤、醸造用剤、調味料、塩、酸(果汁を含む)、ハーブ、果物、野菜、又はハーブ、果物若しくは野菜のエキス、パウダー若しくはペースト等が挙げられる。
【0050】
≪ホイップクリーム≫
以上のようなホイップクリーム用乳化組成物は、泡立て器やハンドミキサーなどによって従来用いられるホイップクリームの泡立ての方法と同様にして泡立てることで、ホイップクリームを構成することができる。
【0051】
ホイップクリーム中の空気含有率としては、特に限定されないが、4%以上45%以下であることが好ましい。空気含有率がこのような範囲にあることにより、ホイップクリームとしての骨格を維持しながらも、舌や口内へ接触する油分量を低減して、コクを低減させてさっぱり感を強めることができる。
【0052】
ホイップクリームの形状を維持するために、油性剤の添加量を過剰に増やすと、さっぱり感が低下することに加えて、ホイップクリームが固くなる。ホイップクリームが固くなると、ホイップクリームを絞ることが容易ではなく、ホイップクリーム特有の滑らかな外観が低下し、舌触りが悪くなる。ホイップクリームを柔らかくすると、ホイップクリームを絞ることが容易になり、ホイップクリーム特有の滑らかな外観が向上し、舌触りが良好になる。
【0053】
そして、このようにして得られるホイップクリームは、各種の食品や飲料に用いることができる。食品としては、ケーキ、クッキー、アイスクリーム、プリン、ワッフル、ゼリー、シュークリーム、パン等の菓子や、果物のトッピングが挙げられる。飲料としては、コーヒー、ココア、ホットチョコレート等が挙げられる。
【0054】
本発明のホイップクリーム用乳化組成物、ホイップクリーム及び菓子は、以上の具体的な実施形態に何ら限定されることなく、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、適宜変更を加えることができる。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
<乳化安定性の評価>
〔原料〕
・豆乳:おとふけ豆乳,(株)ビオクラ食養本社製
・てんさい糖:ビート糖 粉末タイプ,山口製糖(株)製
・ココナッツオイル:プレミアムココナッツオイル,(株)ココウェル製
・カカオバター:ブール・ド・カカオ,(株)富澤商店製
・オリーブオイル:BOSCOエキストラバージンオリーブオイル,日清オイリオグループ(株)製
・寒天:伊那寒天 柔,伊那食品工業(株)製
・こんにゃく:こんにゃくベース500NT,大石化成(株)製
・ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC):メトローズSFE-4000,信越化学工業(株)製
・レシチン:SLP-ホワイト,辻製油(株)製
・ショ糖脂肪酸エステル:サーフホープSE COSME C-1811,三菱化学フーズ(株)製
【0057】
〔試料の調製〕
(実施例1~6)
ビーカーの中で水を加熱攪拌しながら糖ポリマーを添加し、30分間攪拌して、糖ポリマー分散液を得た。次いで得られた糖ポリマー分散液と油性剤以外の原料をミルサー(岩谷産業(株)製)に投入し混合後、下記表1に示す油性剤を投入し、攪拌して実施例1~6のホイップクリーム用乳化組成物試料を得た。各成分の量は下記表1に示す割合(質量%)となるように調製した。
【0058】
(比較例1、4)
ミルサー(岩谷産業(株)製)に油性剤以外の原料を投入し混合後、油性剤を投入し、攪拌して比較例1、4のホイップクリーム用乳化組成物試料を得た。各成分の量は下記表1に示す割合(質量%)となるように調製した。
【0059】
(比較例2、3)
ビーカーの中で水を加熱攪拌しながら閉鎖小胞体を形成する両親媒性物質を添加し、30分間攪拌して、閉鎖小胞体分散液を得た。次いで得られた閉鎖小胞体分散液と油性剤以外の原料をミルサー(岩谷産業(株)製)に投入し混合後、油性剤を投入し、攪拌して比較例2、3のホイップクリーム用乳化組成物試料を得た。各成分の量は下記表1に示す割合(質量%)となるように調製した。
【0060】
〔試料の物性等の評価〕
(光学顕微鏡観察)
実施例1のホイップクリーム用乳化組成物試料について光学顕微鏡観察を行った。
図1は、実施例1の試料の光学顕微鏡写真図である。
図1より、油滴表面に約1μmの粒子が隙間をあけて付着していることが確認された。この約1μmの粒子は大豆エマルション粒子であると考えられる。
【0061】
また、油滴表面上の大豆エマルション粒子間には大きな隙間が存在しているにも関わらず、後述する評価によれば、実施例1は安定化されていることから、寒天ナノ粒子は、油滴表面上にある隙間に付着して、ホイップクリーム用乳化組成物試料の安定化に寄与していることがわかる。なお、寒天ナノ粒子が
図1で観察できないのは、寒天ナノ粒子の粒子径が約100nmであり、光学顕微鏡の倍率限界のためである。
【0062】
このように、
図1に示す光学顕微鏡写真図から、実施例1のホイップクリーム用乳化組成物試料は、油滴表面に大豆エマルション粒子と寒天ナノ粒子とが共に付着して安定化している複合エマルション粒子であることを示している。
【0063】
(粘度の測定)
50mlチューブに充填したホイップクリーム用乳化組成物(約25℃)を、粘度計(東機産業(株)製 B型粘度計)で測定した。粘度測定の条件は、4号ローターを用い、回転速度60回転、回転時間30秒で測定を行った。
【0064】
(静的粘弾性の測定)
ホイップクリーム用乳化組成物をホイップし、隙間がないようシャーレにスリキリで充填した後、冷蔵保管した。測定時に取り出し、1分30秒後に静的粘弾性の測定を開始した。静的粘弾性の測定には、sunRHEO METER CR-3000EX(サン科学製レオメーター)を使用した。
【0065】
図2は、実施例1の試料の荷重変位曲線であり、
図3は、比較例4の試料の荷重変位曲線である。
図2及び
図3からも、実施例1の試料は、比較例4の試料よりも柔らかいことが分かった。
【0066】
(空気含有率の測定)
比重カップの重さを測定し、ブランク値とする。次いでホイップクリーム用乳化組成物(約25℃)、ホイップ直後のホイップクリームをそれぞれ充填し重さを測定する。得られた数値から、以下の式(1)により空気含有率を算出した。
【数1】
【0067】
(デコレーション形状の評価)
市販のしぼり器(口金タイプ:星型)に試料を充填した。試料を皿の上にしぼり(n=3)、10分間静置した後の形を、しぼった直後の離水の有無とツノの立ち方により評価した。評価の基準は以下の通りである。
◎:離水がなくツノが立つ
〇:離水がなくややツノが立つ
【0068】
(デコレーション維持能の評価)
また、維持時間については、しぼった後、状態やツノの立ち方が10分間維持されているかで維持時間を評価した。評価の基準は以下の通りである。
◎:維持されている
〇:ややツノがなくなる
△:やや離水が出るが、試料を傾けても垂れない
【0069】
【0070】
表1に示すように、実施例1~6では、ホイップクリームの形状を有効に維持することができた。また、油性剤の総量や油性剤の種類を変えても、ホイップクリームの形状の維持が良好であった。油性剤、豆乳が同組成の実施例1~3と比較例1とを比較すると、比較例1はデコレーションから10分後に一部離水することが分かった。閉鎖小胞体を添加した比較例2及び比較例3は、デコレーションから10分後に一部離水し、また空気含有率が低いことが分かった。油性剤、豆乳を増加した比較例4では、デコレーションから10分後の離水を防止することができたが、空気含有率は低くなり、さらに最大荷重が高く固いホイップクリームとなった。
【0071】
〔試料の官能評価〕
上述した実験結果よりホイップクリームの形状を有効に維持することが分かった実施例1及び比較例4の試料について、それぞれホイップクリームを製造し、20~50代のパネラー20名(うち、男性7名、女性13名)が試食し、「軽さ」、「口溶け」、「固さ」及び「コク」の各項目を、1~5の5段階(評価項目に示す感覚をより強く知覚する場合、数値がより大きくなる)で評価を行った。また、各パネラーが実施例1及び比較例4の試料について、どちらの試料が、嗜好性が高いと知覚するか評価を行った(下記表2の「嗜好」欄)。
【0072】
下記表2に結果を示す。実施例1の試料は、比較例4の試料に比べて軽く、柔らかく、コクが少ないことが分かった。また、実施例1の試料は、比較例4の試料に比べて、特に女性に人気があることが分かった。
【0073】