(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】植物栽培システム
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20220527BHJP
A01G 9/24 20060101ALI20220527BHJP
A01G 9/22 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
A01G7/00 601Z
A01G9/24 X
A01G9/24 M
A01G9/24 R
A01G9/22
(21)【出願番号】P 2021198884
(22)【出願日】2021-12-07
【審査請求日】2021-12-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517358133
【氏名又は名称】有限会社本郷工業
(73)【特許権者】
【識別番号】506203165
【氏名又は名称】有限会社豊川温室
(74)【代理人】
【識別番号】100185454
【氏名又は名称】三雲 悟志
(74)【代理人】
【識別番号】100121337
【氏名又は名称】藤河 恒生
(72)【発明者】
【氏名】本郷 智也
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 和巳
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022356(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3161980(JP,U)
【文献】特開2016-149977(JP,A)
【文献】特開平05-227661(JP,A)
【文献】特開2013-118842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 9/24
A01G 9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物を栽培する植物栽培システムであって、
上部を構成する太陽電池モジュールと、
前記太陽電池モジュールの下方に配置された照明装置と、
側部に配置され、光を透過かつ散乱させる第1シートと、
前記第1シートよりも内方に配置され、光を透過かつ散乱させる第2シートと、
前記植物栽培システムの室内空間の温度および湿度を調節する空気調和装置と、
前記第1シートおよび第2シートを上げるまたは下げることで室内空間を外部に対して開閉する開閉装置と、
前記植物に水を与える潅水装置と、
前記太陽電池モジュールで発電された電力を蓄電する蓄電池と、
前記蓄電池または送電系統から前記照明装置、空気調和装置および潅水装置を含む負荷への電力供給を制御する手段と、
を備え
、
前記制御する手段は、
日時を発信する時計部と、
日の出および日の入りの時刻を記憶したカレンダー部と、
前記時計部で発信される日時およびカレンダー部に記憶された日の出および日の入りの時刻を用いて、日の入りまでの太陽電池モジュールの発電可能量と日の出までの負荷の使用電力を計算する電力計算部と、
前記蓄電池の放電可能量を検知する検知部と、
前記電力計算部の計算結果および検知部が検知した放電可能量に基づいて、蓄電池の充放電、および前記負荷へ電力供給するための前記蓄電池と送電系統の切り替えを制御する制御部と、
を備えた植物栽培システム。
【請求項2】
前記電力計算部で計算された使用電力が発電可能量よりも少ないときに、制御部は不足する使用電力のみを送電系統から負荷に電力供給、蓄電池への蓄電、またはその両方を制御する請求項
1の植物栽培システム。
【請求項3】
前記第1シートと第2シートの少なくとも1つは、2枚のシートで構成され、該2枚のシートの一部が互いに固定されている請求項1
または2の植物栽培システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を栽培するための植物栽培システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
天候に左右されずに植物を栽培するために植物栽培システムが開発されている。植物栽培システムは照明装置および空気調和装置(エアーコンディショナー)などを利用するため、電力を必要とする。そのため、下記の特許文献1のように太陽電池モジュールを利用し、環境負荷を低減することが考えられている。
【0003】
しかし、単純に太陽電池モジュールで発電し、照明装置を発光させたり、空気調和装置で温度管理したりしても最適な植物生育環境になるとは限らない。さらに、照明装置と空気調和装置で必要以上に電気エネルギーが消費され、環境負荷を低減できないおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は最適なエネルギー消費で植物栽培に適した環境を作りやすい植物栽培システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の植物栽培システムは、植物を栽培するために、上部を構成する太陽電池モジュールと、前記太陽電池モジュールの下方に配置された照明装置と、側部に配置され、光を透過かつ散乱させる第1シートと、前記第1シートよりも内方に配置され、光を透過かつ散乱させる第2シートと、前記植物栽培システムの室内空間の温度および湿度を調節する空気調和装置と、前記第1シートおよび第2シートを上げるまたは下げることで室内空間を外部に対して開閉する開閉装置と、前記植物に水を与える潅水装置と、前記太陽電池モジュールで発電された電力を蓄電する蓄電池と、前記蓄電池または送電系統から前記照明装置、空気調和装置、開閉装置および潅水装置を含む負荷への電力供給を制御する手段と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、第1シートと第2シートによって光を散乱させることで室内空間の光を均一にしやすく、植物栽培に適した光にしやすい。必要以上に電力消費をすることはないように構成されており、環境負荷が小さい。すなわち、本発明は環境負荷を小さくして、植物にとって最適な生育環境を作り出しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図1のA-A線の断面から植物栽培システムの室内空間を見た図である。
【
図4】植物栽培システムの電力系統の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本願の植物栽培システムについて図面を用いて説明する。植物栽培システムで栽培される植物は特に限定されない。たとえば栽培される植物はレタス、トマト、クレソンおよびルッコラなどの野菜、オリーブおよびコーヒーなどの樹木を含む。植物は地面に直接植えられてもよいし、地面、床または棚に載置された植物栽培用の容器に入れられて栽培されてもよい。
【0010】
図1および
図2に示す植物栽培システム10は、上部(屋根)を太陽電池モジュール12、側部をシート14、16で構成されている。太陽電池モジュール12およびシート14、16が配置されるために、複数の支柱18が上部および側部に設置されている。植物栽培システム10の下部は地面であってもよいし、コンクリートを打ってもよいし、床が設置されてもよい。植物栽培システム10は上部、側部および下部によって室内空間20を形成する。その室内空間20は植物を栽培するために最適な環境になるように制御される。
【0011】
上部は複数枚の太陽電池モジュール12を並べて構成されている。太陽電池モジュール12に太陽光が照射されやすいように、太陽電池モジュール12の平面が南を向きながら水平面に対して傾斜されている。太陽電池モジュール12は上部に設けられた屋根板22の上に固定されている。太陽電池モジュール12で発電された電力は植物栽培システム10で利用される。上部へ照射される太陽光は室内空間20へは入射されず、電気エネルギーに変換される。
【0012】
太陽電池モジュール12の下方にシート24などを配置してもよい。太陽電池モジュール12とシート24との間に空間が形成され、室内空間20の断熱効果が高められる。
【0013】
側部の一部または全部がシート14、16によって構成されている。シート14、16は柔軟性を有する樹脂製である。
【0014】
シートは第1シート14と第2シート16を含む。第1シート14が側部の外側部分、第2シート16が側部の内側部分を構成する(
図2)。たとえば、立てられた支柱18の外側に第1シート14、内側に第2シート16が配置される。第1シート14と第2シート16の間に空間が形成されている。第1シート14と第2シート16の間に空間が形成できれば、空間の幅は限定されない。その空間によって室内空間20の断熱性能が高められている。
【0015】
なお、側部は少なくとも4方向に配置されるが、第1および第2シート14、16で構成される側部は少なくとも1方向の側部であり、他の側部は他のシートまたは建材で構成されてもよい。また、その少なくとも1方向の側部は全てが第1および第2シート14、16で構成されてもよいし、他のシートまたは建材を含めて構成されてもよい。
【0016】
第1シート14および第2シート16は光を透過させる素材で構成されている。第1シート14および第2シート16を通して植物栽培システム10の外方から室内空間20に太陽光を入射させることができる。
【0017】
第1シート14および第2シート16の表面全体に微小な凹凸が形成されている。微小な凹凸の形状は不規則であり、この微細な凹凸によって第1シート14および第2シート16は光を散乱させることができる。第1シート14および第2シート16によって太陽光が任意の方向に散乱しながら室内空間20に入射される。2枚のシート14、16で光を散乱させることで室内空間20のどの場所でも光が均一に届きやすい。上部に遮光された箇所にも光が届きやすい。また、室内空間20にあるどの植物に対しても均等に光を当てやすく、植物を均等に成長させやすくなる。
【0018】
第1シート14および第2シート16は2枚のシートで構成されている。その2枚のシートの間は空気層が形成されている。その空気層によって、第1シート14および第2シート16のそれぞれにおいて断熱性能を有する。
【0019】
第1シート14および第2シート16のそれぞれを構成する2枚のシートは、互いに一部が接着または溶着などの方法によって固定されている。たとえば、
図3に示すように、固定部分26が複数あり、一の固定部分26が他の固定部分26と接続されないようになっている。このため、2枚のシートの間の空気層は1つになってつながっている。第1シート14および第2シート16の端から必ず2枚のシートの間の全体に空気が入るようになっている。
【0020】
第1シート14および第2シート16のそれぞれを構成する2枚のシートは、互いを固定する際に位置をずらされて固定されている。たとえば、2枚のシートの内の一のシートが一方向にずらされながら他のシートに固定されている。すなわち、2枚のシートを固定する前に張力をかけられた状態で対向していた位置が固定時にずらされ、固定後には対向していない。対向する位置がずれることで空気層が形成されやすくなっている。複雑な構造にしなくても簡単な構造で空気層を形成し、断熱性能を高めている。
【0021】
側部において、第1シート14と第2シート16以外の部分もそれらのシート14、16と同じシートを用いてもよい。側部全体で光を散乱させたり、断熱性能を高めたりする。
【0022】
室内空間20が外部に対して開閉されるための開閉装置28を備える。開閉装置28は、各シート14、16に取り付けられて水平方向を向いた第1支柱30、地面または床などの下部に固定されて鉛直方向を向いた第2支柱32、第1支柱30を回転させながら第2支柱32に沿って移動する回転移動装置34を備える。
【0023】
回転移動装置34が第1支柱30の中心軸を中心にして回転させることで第1シート14または第2シート16が第1支柱30に巻かれたり広げられたりする。その回転に同期して回転移動装置34が第2支柱32に沿って移動することで、第1シート14または第2シート16が巻かれながら上げられたり、広げられながら下げられたりする。第1シート14と第2シート16が巻き上げられることで室内空間20が外部に開放され、巻き下げられることで室内空間20が外部から遮断される。
【0024】
第1シート14と第2シート16の間にネットを配置してもよい。各シート14、16を巻き上げたときに鳥などが室内空間20に入ってこないようにすることができる。
【0025】
植物栽培システム10は照明装置36、空気調和装置(エアーコンディショナー)38および潅水装置40、CO
2発生装置41を備え、それらを制御するための構成を
図4に示す。これらの装置36、38、40、41を利用して植物を栽培するための環境を整える。また、上記した開閉装置28もそれらの装置36、38、40、41と共に駆動し、植物を栽培するための環境を整える。
【0026】
照明装置36は室内空間20の太陽電池モジュール12の下方に備えられる。照明装置36はLED(発光ダイオード)およびその駆動回路を含む。LEDは植物の成長にとって最適な波長の光を発光するものを利用する。たとえば、白色(可視光全ての波長)、青色および赤色の波長の光を適宜利用する。側部を透過する光とLEDの光が植物に照射される。
【0027】
空気調和装置38は室内空間20の気温および湿度を制御するものである。空気調和装置38に加えて換気扇が備えられてもよいし、空気調和装置38に換気機能が備えられてもよい。
【0028】
潅水装置40は水を流すパイプ、水をパイプに送り出すポンプ、水の流れを制御するバルブを備える。パイプに小穴が開けてあり、その小穴から水が排水される。排水された水は植物に与えられる。植物に水を与えることで、室内空間20の湿度を制御することもできる。
【0029】
CO2発生装置41は室内空間20のCO2濃度を制御するものである。CO2発生装置41はCO2を任意の濃度にすることができる。CO2発生装置41は回転移動装置34と連動しておりCO2発生装置41が動作している間は第1シート14と第2シート16を巻き下げられることにより外部と遮断される。閉じた室内空間20にCO2が供給され、CO2濃度が調整される。
【0030】
植物栽培システム10は植物を栽培するための光、温度および湿度を管理するために、光センサ42、温度センサ44、湿度センサ46およびCO2センサ48を備える。
【0031】
光センサ42は、室内空間20の中に複数配置される。光センサ42によって光の強度等を検知し、LEDの発光を制御することで植物にとって最適な光の強度になるようにする。また、室内空間20の外にも光センサ42を配置し、光センサ42の受光量によって太陽電池モジュール12の発電量を予測することも可能である。
【0032】
温度センサ44は室内空間20の中の気温を測定する。室内空間20の中の気温を測定することで、室内空間20の中の気温が最適になるようにする。室内空間20の外にも温度センサ44が配置される。第1シート14および第2シート16の開閉することで、空気調和装置38を利用せずに気温調整することも可能であり、そのために室内空間20の内外の気温の違いを測定する。
【0033】
湿度センサ46は室内空間20の中の湿度を測定する。湿度に応じて空気調和装置38および潅水装置40の少なくとも1つを制御し、室内空間20の中の湿度が最適になるようにする。室内空間20の外にも湿度センサ46が配置される。開閉装置28を制御して第1シート14および第2シート16を開閉することで、空気調和装置38および潅水装置40を利用せずに湿度調整することも可能である。
【0034】
CO2センサ48は室内空間20の中のCO2濃度を測定する。CO2濃度に応じてCO2発生装置41および開閉装置40の少なくとも1つが制御され、室内空間20の中のCO2濃度が植物栽培に適した濃度に維持される。
【0035】
植物栽培システム10は電力を蓄電する蓄電池50を備える。太陽電池モジュール12で発電された電力、送電系統(グリッド)52から送電されてくる電力、またはその両方が蓄電池50に蓄電される。蓄電された電力は照明装置36、空気調和装置38、潅水装置40およびCO2発生装置41を含む負荷54で利用される。また、開閉装置28も負荷54として電力利用される。
【0036】
蓄電池50に充電をおこなうために、充電回路56を備える。太陽電池モジュール12で発電された電力または送電系統52から送電されてきた電力を充電回路56によって充電する。蓄電池50が過充電にならないように制御される。
【0037】
太陽電池モジュール12、蓄電池50または送電系統52から負荷54に電力を供給するための電力変換装置58を備える。電力変換装置58は負荷54に適合する電力に変換する。蓄電池50は過放電にならないように制御される。
図4において蓄電池50と電力変換装置58が充電回路56を介して接続されているが、直接接続されていてもよい。
【0038】
植物栽培システム10は負荷54への電力供給を制御する手段を備える。負荷54としては、照明装置36、空気調和装置38、潅水装置40を含む。また、開閉装置28も負荷54の中に含まれ、後述する制御部で制御される。
【0039】
電力供給を制御する手段は、時計部60、カレンダー部62、電力計算部64、検知部66および制御部68を含む。各部は後述するような動作をするハードウェア、ソフトウェア、またはその両方によって構成される。
【0040】
時計部60は日時を発信する手段である。制御部68は時計部60が発信する日時を利用して後述するような演算等をおこなう。
【0041】
カレンダー部62は記憶装置に記憶されたデータであり、記憶されたデータは植物栽培システム10が設置されている場所の日ごとの日の出および日の入り時刻である。時計部60が発信する日時と日の出および日の入り時刻によって、ある日のある時刻における太陽電池モジュール12が発電できる残り時間およびその次の日に太陽電池モジュール12が発電を開始するまでの時間を求めることができる。
【0042】
電力計算部64は、上記のように太陽電池モジュール12が発電できる残り時間および次の日に太陽電池モジュール12が発電を開始するまでの時間を求め、日の入りまでの太陽電池モジュール12での発電量可能量および日の出までの負荷54の使用電力を計算する。
【0043】
ある日のある時刻における日の入りまでの太陽電池モジュール12の発電可能量は、その時の太陽電池モジュール12の発電量、日の入りまでの時間によって求めることができる。次の日の日の出までの負荷54の使用電力は、日の出までの時間およびその時間以降の負荷54の使用状況によって求めることができる。負荷54の使用状況は光量、温度および湿度によって変わり、時間ごとに変化する。光量などの変化を予測し、照明装置36、空気調和装置38、潅水装置40の使用状況を予測し、その予測に基づいて日の出までの負荷54の使用電力を計算する。予測するために、記憶装置70に光量、温度および湿度に応じた照明装置36、空気調和装置38および潅水装置40の使用電力を記憶しておいてもよい。制御部68は記憶されたデータから光量、温度および湿度の変化を予測してもよい。また、制御部68はCO2濃度も記憶してCO2濃度の変化も予測してもよい。
【0044】
検知部66は蓄電池50の放電可能量を検知するための手段である。検知部66は蓄電池50の端子電圧を測定して放電可能量を求める方式、蓄電池50の充放電時の電流値を測定して放電可能量を求める方式、上記方式に温度特性や放電特性を加味する方式など、種々の方式を利用する手段を利用できる。
【0045】
制御部68は電力計算部64での計算結果および検知部66での蓄電池50の放電可能量から、蓄電池50の充放電、および負荷54へ電力供給するための蓄電池50と送電系統52の切り替えを制御する。このように制御するために制御部68は充電回路56および電力変換装置58を制御する。この切り替えによって後述するような負荷54への電力供給ができる。
【0046】
制御部68は蓄電池50に必要以上に充電をおこなわないように制御する。たとえば、次の日の日の出までの蓄電池50の放電可能量が負荷54の使用量よりも多ければ、次の日に太陽電池モジュール12が発電するまで充電は行わない。すなわち、深夜電力等を利用して充電を行わない。蓄電池50の放電可能量が負荷54の使用量よりも少なければ、必要な量だけ充電を行う。太陽電池モジュール12が発電していれば、太陽電池モジュール12の発電電力を利用して充電し、太陽電池モジュール12が発電していなければ送電系統52からの電力を利用して充電する。充電しているとき、蓄電池50の放電可能量が負荷54の使用量よりも多くなれば、その時点で充電は停止する。
【0047】
すなわち、本願は次の日の日の出までに使用する負荷54の使用電力と蓄電池50の放電可能量を用いて、必要以上に充電しないように制御する。深夜の余剰電力であっても、必要以上に充電することは必要以上に環境に負荷をかけていることになる。次の日に太陽電池モジュール12が発電するまでの電力を確保できれば十分であり、環境負荷をできるだけ小さくしている。
【0048】
上記のように、第1シート14および第2シート16によって散乱された太陽光が室内空間20の中に入り、植物に照射される。側部から入った光は散乱され、室内空間20の中のどの位置でも均質になっている。そこに照明装置36の光を追加し、植物が成長するために必要な光を作り出す。植物に多方向から光を照射することができ、植物の生長を促すことができる。
【0049】
太陽光に照明装置36の光を追加するために、光センサ42の値を利用する。室内空間20の中で光センサ42が光の強度を測定する。制御部68は不足する光の強度を求め、照明装置36を駆動させる。照明装置36にLEDが利用されているため、その駆動回路を制御することで、LEDに流れる電流を制御し、LEDの発光強度を制御する。たとえば、LEDに流れる電流をパルス電流にし、そのパルス電流のパルス幅を制御することで、LEDを制御する。光センサ42で受光された光が一定強度になるようにLEDの発光を制御する。太陽光の光の強度は調整できないので、LEDに流れる電流を制御することで、室内空間20の光の強度を一定にすることができる。
【0050】
植物の成長は光の強度が一定以上になると飽和するため、LEDの光の強度によって植物にとって最適な光に調整することができる。一定強度以上の光を照射しないことで、植物が葉焼けしたりすることを防止できる。主に側部から入射される太陽光を利用するため、必要以上に電気エネルギーを必要とせず、環境負荷が小さい。
【0051】
また、温度センサ44は室内空間20とその外周近辺に配置され、温度を計測する。計測された温度の値は制御部68に入力される。制御部68は温度に応じて空気調和装置38および開閉装置28を駆動させる。たとえば、室内空間20の温度が所定値よりも高くなった時、外気温が所定値よりも低ければ各シート14、16を巻き上げて外気を室内に取り込むようにする。室内空間20の温度および外気温が所定値よりも高い場合、各シート14、16を下げたまま、空気調和装置38によって室温を下げる。室温が所定値よりも低く、外気温が所定値よりも高い場合、各シート14、16を巻き上げて外気を室内に取り込んで室温を上げる。室温が所定値よりも低く、外気温も所定値よりも低い場合、シート14、16を下ろしたまま、空気調和装置38によって温度を上げる。
【0052】
空気調和装置28が常に室温調整することではないため、植物に最適な温度にするために必要以上に電力を消費することはない。
【0053】
さらに、湿度センサ46も室内空間20とその外周近辺に配置され、湿度を計測する。計測された湿度の値は制御部68に入力される。制御部68は湿度に応じて空気調和装置38、潅水装置40および開閉装置28を駆動させる。室内空間20の湿度が所定値よりも高くなった時、外部の湿度が所定値よりも低ければ各シート14、16を巻き上げて外気を室内空間20に取り込むようにする。室内空間20の湿度および外部の湿度が所定値よりも高い場合、各シート14、16を下げたまま、空気調和装置38によって湿度を下げる。室内空間20の湿度が所定値よりも低く、外部の湿度が所定値よりも高い場合、各シート14、16を巻き上げて外気を室内空間20に取り込んで湿度を上げる。室内空間20の湿度が所定値よりも低く、外部の湿度も低い場合、シート14、16を下ろしたまま、潅水装置40が散水することで湿度を上げる。
【0054】
室内空間20の温度と湿度は空気調和装置38、潅水装置40および開閉装置28によってコントロールされる。温度または湿度のいずれかを優先して制御してもよい。開閉装置28によってシート14、16を上下させることで、室内空間20への光強度が変化する。温度、湿度さらに光強度のそれぞれに優先順位をつけて制御してもよい。
【0055】
空気調和装置38と潅水装置40は常に駆動されるのではなく、シート14、16の上げ下げによって室内空間20を開閉することでも温度および湿度を調節することが可能である。空気調和装置38と潅水装置40で消費される電力を削減することが可能になる。
【0056】
また、CO2センサ48も室内空間20とその外周近辺に配置され、CO2濃度を計測する。計測されたCO2濃度の値は制御部68に入力される。制御部68はCO2濃度に応じてCO2発生装置41および開閉装置28を駆動させる。室内空間20のCO2濃度が所定値よりも高くなった時、外部のCO2濃度が所定値よりも低ければ各シート14、16を巻き上げて外気を室内空間20に取り込むようにする。室内空間20のCO2濃度および外部のCO2濃度が所定値よりも高い場合、各シート14、16を下げたまま、植物の光合成によってCO2濃度を下げる。室内空間20のCO2濃度が所定値よりも低く、外部のCO2濃度が所定値よりも高い場合、各シート14、16を巻き上げて外気を室内空間20に取り込んでCO2濃度を上げる。室内空間20のCO2濃度が所定値よりも低く、外部のCO2濃度も低い場合、シート14、16を下ろしたまま、CO2発生装置41がCO2を発生することでCO2濃度を上げる。
【0057】
上記のように温度、湿度および光強度に優先順位をつけて制御するが、さらにCO2濃度もそれらの優先順位の中に入れてもよい。
【0058】
以上のように、本発明は太陽光を拡散させることで植物に照射する光を均一にしてやわらげ、植物にとって最適な光を作り出しやすい。また、必要以上に電力消費をすることはないように構成されており、環境負荷が小さい。すなわち、本発明は環境負荷を小さくして、植物にとって最適な生育環境を作り出しやすい。
【0059】
本発明について一実施形態を説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。たとえば、第1シート14と第2シート16の両方を一緒に開閉することはせず、一方のみを開閉させてもよい。断熱効果を小さくすることで、室内を温度調整する。室内の温度を急激に変化させるのではなく、徐々に変化させることが可能であり、植物に対して急激な温度変化による悪影響を避けることができる。
【0060】
また、いずれか一方のシート14、16を巻き上げた後、所定時間経過後に他のシート14、16を巻き上げて室内空間20を開放してもよい。断熱効果を小さくし、室内空間20の中の気温と外の気温差が一定温度よりも小さくなれば、室内空間20を開放する。反対に一方のシート14、16を下げた後、所定時間経過後に他のシート14、16を下げて室内空間20を閉じてもよい。断熱効果を小さくし、室内空間20の中の気温と外の気温差が一定温度よりも大きくなれば、室内空間20を閉じる。いずれであっても、室内空間20の急激な温度変化を避けながらシート14、16が開閉される。
【0061】
LEDは植物の上方に配置されることに限定されない。必要に応じて植物に対して種々の方向から光を照射できるようにLEDを配置する。第1シート14と第2シート16によって太陽光が散乱して均一になっており、照明装置36が発する光も種々の方向に発光するようにして、光を均一にしてもよい。
【0062】
LEDは複数設けられ、LEDごとに発光強度を制御して室内空間20の光を均一にしてもよい。また、上記のように第1シート14と第2シート16によって室内空間20の光が均一になっており、LEDを個別に制御しないことも可能である。
【0063】
北側の側部を構成するシートは、光の透過率よりも反射率の高いシートを用いてもよい。散乱された光が北側の側部から透過しようとしたとき、室内空間20に反射される。室内空間20に入射された光を有効利用できる。
【0064】
制御部68は、負荷54への電力供給を一時的に下げたり、停止したりしてもよい。たとえば、蓄電池50の放電可能量が負荷54の使用量よりも少なければ、蓄電池50に必要な量だけ充電を行うことを上述したが、その際に、負荷54への電力供給を一時的に下げたり、停止したりする。負荷54の電力使用量が減り、蓄電池50への充電量が小さくなる。負荷54の使用量を下げたり、停止する具体的な方法としては、たとえば、夜間であれば照明装置36を停止したり、LEDに流れる電流を制御して光の強度を下げる。また、2枚のシート14、16の両方または一方の開閉によって室内空間20の温度調節をし、空気調和装置38を停止させることもできる。
【0065】
また、負荷54への電力供給を一時的に下げたり、停止したりするために、各センサ42、44、46、48の変化から光強度、温度および湿度の変化を予測し、制御部68が負荷54を制御してもよい。たとえば、ある時間における室内空間20の気温が所定値よりも高くても、下がることが予測できれば空気調和装置38および開閉装置28の制御をおこなわずに放置する。反対に気温が所定値よりも低くても、上がることが予測できれば空気調和装置38および開閉装置28の制御をおこなわない。湿度についても同様である。すなわち、室内空間20の気温および湿度が所定値と異なっていても、一定時間以内に所定値に向けて変化することが予測できれば、制御部68は空気調和装置38および開閉装置28の制御をおこなわず、電力消費を抑える。予測方法は、上記のように記憶装置70に記憶されたデータの変化と同じように制御部68が予測してもよい。
【0066】
室内空間20のCO2濃度が所定値よりも高くなったとき、シート14、16を上げないように制御してもよい。たとえば夜間に照明装置36を停止して植物の呼吸によってCO2濃度が高まっても、日の出までの時間が短ければ、日の出後の植物の光合成によって室内空間20のCO2濃度を下げるようにしてもよい。
【0067】
また、開閉装置28の制御に合わせてCO2発生装置41を制御する。CO2の濃度が低くても、気温または湿度調整のためにシート14、16が上げられて外部の空気が入ってCO2濃度が高められるのであれば、CO2発生装置41は稼働させない。また、シート14、16が閉じたままの状態が続くことが予想される場合、CO2濃度が下がればCO2発生装置41を稼働させる。CO2発生装置41が開閉装置28の制御に合わせて稼働されることで、CO2発生装置41の稼働時間を削減し、省電力化しやすい。
【0068】
制御部68はインターネットなどの通信網に接続されていてもよい。制御部68による各負荷54への制御情報をサーバーなどの装置に送信する。サーバーなどに制御情報を蓄積し、参考情報にする。また、制御部68から植物栽培システム10の所有するモバイル機器に制御情報を送信してもよい。植物栽培システム10の所有者が制御部の制御状況を遠隔で把握することができる。
【0069】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【符号の説明】
【0070】
10:植物栽培システム
12:太陽電池モジュール
14、16:シート
20:室内空間
26:固定部分
28:開閉装置
36:照明装置
38:空気調和装置
40:潅水装置
41:CO2発生装置
42:光センサ
44:温度センサ
46:湿度センサ
48:CO2センサ
50:蓄電池
52:電力系統(グリッド)
54:負荷
56:充電回路
58:電力変換装置
60:時計部
62:カレンダー部
64:電力計算部
66:検知部
68:制御部
【要約】
【課題】最適なエネルギー消費で植物栽培に適した環境を作りやすい植物栽培システムを提供する。
【解決手段】植物栽培システム10は太陽電池モジュール12と、照明装置38と、側部に配置され、光を透過かつ散乱させる第1シート14と、その第1シート14よりも内方に配置され、光を透過かつ散乱させる第2シート16と、室内空間20の温度および湿度を調節する空気調和装置38と、第1シート14および第2シート16を巻き上げまたは下げる開閉装置28と、植物に水を与える潅水装40置と、太陽電池モジュール12で発電された電力を蓄電する蓄電池50と、蓄電池50または送電系統52から照明装置36、空気調和装置38および潅水装置40を含む負荷54への電力供給を制御する手段と、を備える。
【選択図】
図1