(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】波長変換方法、波長変換装置及びレーザ光源装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/37 20060101AFI20220527BHJP
H01S 3/10 20060101ALI20220527BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20220527BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20220527BHJP
【FI】
G02F1/37
H01S3/10 Z
H01S3/10 D
H01S3/067
B23K26/064 Z
(21)【出願番号】P 2017058457
(22)【出願日】2017-03-24
【審査請求日】2020-03-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高輝度・高効率次世代レーザー技術開発」委託研究、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】506161131
【氏名又は名称】スペクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(72)【発明者】
【氏名】岡田 穣治
(72)【発明者】
【氏名】折井 庸亮
【審査官】井部 紗代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-052082(JP,A)
【文献】特開2014-191274(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125635(WO,A2)
【文献】特開2007-298934(JP,A)
【文献】特開平08-095102(JP,A)
【文献】特開2007-003948(JP,A)
【文献】特開2005-292201(JP,A)
【文献】特開平04-195027(JP,A)
【文献】特開2015-155933(JP,A)
【文献】特開2001-042371(JP,A)
【文献】特開2008-152020(JP,A)
【文献】特開2003-050412(JP,A)
【文献】米国特許第05867303(US,A)
【文献】国際公開第2009/119284(WO,A1)
【文献】特開2013-044862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 - 1/125
G02F 1/21 - 7/00
H01S 3/00 - 3/02
H01S 3/04 - 3/0959
H01S 3/098- 3/102
H01S 3/105- 3/131
H01S 3/136- 3/213
H01S 3/23 - 4/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調温素子を用いて非線形光学素子を調温する第1調温ステップと、
所定温度に調温された前記非線形光学素子の作用領域に特定波長のレーザ光を入射して高調波発生法または光混合法により所望の波長のレーザ光に波長変換する波長変換ステップと、を備えて構成される波長変換方法であって、
第1補助光源から波長変換に寄与しない波長域の補助光を前記作用領域に照射して前記非線形光学素子に給熱する第2調温ステップと、
前記第1調温ステップによる前記非線形光学素子への給熱量と、前記第2調温ステップによる前記非線形光学素子への給熱量に基づいて、前記非線形光学素子の温度を目標温度に調温する温度制御ステップと、
を備え、
前記作用領域は、前記非線形光学素子の入力端から出力端にかけて波長変換作用を受ける領域で前記特定波長のレーザの光軸周りの筒状領域であり、
前記温度制御ステップは、前記波長変換ステップの実行前に、前記第1調温ステップにより、前記非線形光学素子を波長変換効率が最大となる第1温度より低い第2温度に調節した状態で、前記第2調温ステップにより、
前記第1補助光源からの補助光を波長変換光の出力側端面から前記特定波長のレーザの光軸に沿って前記作用領域に照射することで、前記非線形光学素子が前記第1温度となるように前記第1補助光源からの給熱量を調節し、前記波長変換ステップの実行後の波長変換過程で、前記第2調温ステップにより、前記特定波長のレーザ光からの給熱による前記非線形光学素子の温度変動を抑制して前記第1温度に維持するように前記第1補助光源からの給熱量を調節する波長変換方法。
【請求項2】
前記第2調温ステップは、第2補助光源から波長変換に寄与しない波長域の補助光を前記特定波長のレーザ光の入力側
端面から前記特定波長のレーザの光軸に沿って前記非線形光学素子の前記作用領域に照射するステップを含む請求項
1記載の波長変換方法。
【請求項3】
作用領域に入射された特定波長のレーザ光から高調波発生法または光混合法により所望の波長のレーザ光に波長変換する非線形光学素子と、調温素子により前記非線形光学素子を調温する第1調温機構とを備えて構成される波長変換装置であって、
第1補助光源から出力される波長変換に寄与しない波長域の補助光を前記作用領域に照射する第2調温機構と、
前記第1調温機構からの給熱量と、前記第2調温機構からの給熱量に基づいて、前記非線形光学素子の温度を目標温度に調温する温度制御部と、
を備え、
前記作用領域は、前記非線形光学素子の入力端から出力端にかけて波長変換作用を受ける領域で前記特定波長のレーザの光軸周りの筒状領域で構成され、
前記温度制御部は、前記非線形光学素子による波長変換の前に、前記第1調温機構により、前記非線形光学素子を波長変換効率が最大となる第1温度より低い第2温度に調節した状態で、前記第2調温機構により、
前記第1補助光源からの補助光を波長変換光の出力側端面から前記特定波長のレーザの光軸に沿って前記作用領域に照射することで、前記非線形光学素子が前記第1温度となるように前記第1補助光源からの給熱量を調節し、前記非線形光学素子による前記波長変換の過程で、前記第2調温
機構により、前記特定波長のレーザ光からの給熱による前記非線形光学素子の温度変動を抑制して前記第1温度に維持するように前記第1補助光源からの給熱量を調節する波長変換装置。
【請求項4】
前記第2調温機構は、波長変換に寄与しない波長域の補助光を前記特定波長のレーザ光の入力側
端面から前記特定波長のレーザの光軸に沿って前記非線形光学素子の前記作用領域に照射する第2の補助光源を備えている請求項
3記載の波長変換装置。
【請求項5】
前記補助光の波長は、前記非線形光学素子が光吸収特性を示す1~11μmの範囲である請求項
3または4記載の波長変換装置。
【請求項6】
ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源と、前記種光源から出力されるパルス光を増幅するファイバ増幅器と、前記ファイバ増幅器から出力されるパルス光を増幅する固体増幅器と、前記固体増幅器から出力されるパルス光を波長変換して出力する請求項
3から5の何れかの波長変換装置と、を備えているレーザ光源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換方法、波長変換装置及びレーザ光源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、レーザ光は様々な加工に用いられている。波長が532nmから1064nm付近のレーザ光はエネルギー強度が大きく、金属やガラス等の切断または溶接等の各種の加工に好適に用いられている。また、波長が200nmから350nm付近の深紫外領域のレーザ光は電子材料や複合材料の加工に用いられている。
【0003】
近赤外領域よりも短い波長のレーザ光を出力するレーザ光源装置は、近赤外領域の波長のレーザ光を出力する種光源と、種光源から出力されるレーザ光を増幅する光増幅器と、光増幅器で増幅されたレーザ光の波長を第2高調波発生法や和周波発生法を用いて目的とする波長に変換する非線形光学素子を備えて構成されている。
【0004】
このような非線形光学素子として、例えば種光源から出力された波長1064nmのレーザパルス光を波長532nmに波長変換するLBO結晶(LiB3O5)や、波長532nmのパルス光を波長266nmに波長変換するCLBO結晶(CsLiB6O10)等が用いられる。
【0005】
特許文献1,2には、非線形光学結晶を用いて、安定的に高変換効率を達成し、実用化に耐える全固体紫外レーザ発振器を実現可能な光波長変換システムが開示されている。
【0006】
当該光波長変換システムは、固有の波長λのコヒーレント光を発振するレーザ発振器と、このレーザ発振器からの光を入射光として、1/2λの波長の光を出射させる非線形光学結晶と、この非線形光学結晶を200~600℃に加熱保持する加熱手段とを備えている。200℃以上に加熱保持することにより2光子吸収による影響が軽減されて変換効率の低下が解消され、安定して1~2W程度のパワーを得ることができる。
【0007】
特許文献3には、四ホウ酸リチウム単結晶で生じる2光子吸収に起因する発熱によって屈折率が変化して位相整合性が崩れ、その結果、出力のロスや不安定化が生じたりビーム品質が劣化したりするという問題を解決して、精密加工に適した紫外レーザを得ることを目的とする波長変換装置が開示されている。
【0008】
当該波長変換装置は、波長変換素子の入射端面と出射端面を除く外表面を覆い、ヒータにて波長変換素子を外側より加熱する加熱ブロックと、加熱ブロックの温度を検出する温度センサと、当該温度センサの検出温度に基づき、加熱ブロックを一定温度に制御する温度制御部を有し、波長変換素子の長さをLとした時、当該波長変換素子の縦と横の幅をL/4以下とし、且つ、加熱ブロックを、波長変換素子の入射端面および出射端面より長さ方向にL/3以上突出させたことを特徴とする。
【0009】
特許文献4には、潮解性を有する波長変換光学素子による波長変換を、簡便な構成により高い変換効率で長期安定して行うことが可能な構成の波長変換装置が開示されている。
【0010】
当該波長変換装置は、波長変換光学素子を加熱するヒータと、波長変換光学素子の温度を検出する温度検出部と、温度検出部による検出温度に基づいてヒータの駆動を制御して、波長変換光学素子の温度が所定温度範囲内に維持されるように調節する温度制御部と、波長変換光学素子の受光位置を所定量シフトさせるシフト機構とを備え、波長変換光学素子の受光位置をシフトさせたときに、温度制御部が、波長変換光学素子の温度を所定温度範囲内において波長変換されたレーザ光の出力強度が最大である最適温度となるように、ヒータの駆動を制御するように構成されている。
【0011】
上述した何れの波長変換装置も、波長変換光学素子を調温するためにヒータやペルチェ素子等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2003-50412号公報
【文献】特開2008-181151号公報
【文献】特開2004-191963号公報
【文献】特開2011-59324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、非線形光学素子を用いて得られる従来の紫外光のパワーよりも十分に大きな例えば200W~400W程度のパワーの紫外光を得るために、非線形光学素子への入射光のパワーを上昇させると、波長変換過程で生じる2光子吸収等に起因する非線形光学素子の発熱によって、非線形光学素子の温度が、波長変換効率が最大となる温度域からずれるため、波長変換光の立上り特性が低下し、波長変換効率が低下するという問題が生じる。
【0014】
そこで、非線形光学素子を調温するために用いられているヒータやペルチェ素子により温度変動を抑制することが考えられるが、一般的に非線形光学素子は熱伝達に時間を要するため、波長変換過程で生じる温度変動をヒータやペルチェ素子で抑制することは困難であった。
【0015】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、被波長変換光のパワーに起因する非線形光学素子の温度変動に対処して、安定して大きなパワーの波長変更を得ることができる波長変換方法、波長変換装置及びレーザ光源装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述の目的を達成するため、本発明による波長変換方法の第一特徴構成は、調温素子を用いて非線形光学素子を調温する第1調温ステップと、所定温度に調温された前記非線形光学素子の作用領域に特定波長のレーザ光を入射して高調波発生法または光混合法により所望の波長のレーザ光に波長変換する波長変換ステップと、を備えて構成される波長変換方法であって、第1補助光源から波長変換に寄与しない波長域の補助光を前記作用領域に照射して前記非線形光学素子に給熱する第2調温ステップと、前記第1調温ステップによる前記非線形光学素子への給熱量と、前記第2調温ステップによる前記非線形光学素子への給熱量に基づいて、前記非線形光学素子の温度を目標温度に調温する温度制御ステップと、を備え、前記作用領域は、前記非線形光学素子の入力端から出力端にかけて波長変換作用を受ける領域で前記特定波長のレーザの光軸周りの筒状領域であり、前記温度制御ステップは、前記波長変換ステップの実行前に、前記第1調温ステップにより、前記非線形光学素子を波長変換効率が最大となる第1温度より低い第2温度に調節した状態で、前記第2調温ステップにより、前記第1補助光源からの補助光を波長変換光の出力側端面から前記特定波長のレーザの光軸に沿って前記作用領域に照射することで、前記非線形光学素子が前記第1温度となるように前記第1補助光源からの給熱量を調節し、前記波長変換ステップの実行後の波長変換過程で、前記第2調温ステップにより、前記特定波長のレーザ光からの給熱による前記非線形光学素子の温度変動を抑制して前記第1温度に維持するように前記第1補助光源からの給熱量を調節する点にある。
【0017】
非線形光学素子を目標温度に調温するために、調温素子を用いた第1調温ステップによる給熱量と、波長変換に寄与しない波長域の補助光を出力する第1補助光源を用いた第2調温ステップによる給熱量が調整される。第1調温ステップでは、発熱源である調温素子から熱時定数が大きな非線形光学素子に熱伝導により給熱されるのに対して、第2調温ステップでは、第1補助光源から出力される補助光により非線形光学素子を構成する原子や電子の状態がより高いエネルギー準位に遷移することにより給熱される。従って、第1調温ステップでは非線形光学素子が静的に温度調整され、第2調温ステップでは非線形光学素子が動的に温度調整されるようになり、非線形光学素子の緩やかな温度変動のみならず急激な温度変動も効果的に抑制することができるようになる。
【0018】
非線形光学素子に入射される特定波長のレーザ光つまり被波長変換光が、高調波発生法または光混合法によって波長変換される過程で、2光子吸収等によって非線形光学素子の温度が上昇して波長変換効率が低下するような場合でも、第1補助光源から作用領域に照射される補助光のエネルギーを調整して、非線形光学素子の温度上昇を抑制することにより、波長変換効率の低下を抑制することができるようになる。
【0019】
非線形光学素子の入射端面から出射端面に到る作用領域のうち、波長変換過程で生じる発熱分布は長手方向中央部から出射端面側にかけて次第に高くなる傾向を示す。第1補助光源からの補助光を波長変換光の出力側から非線形光学素子に照射することにより、波長変換過程で生じる発熱分布に合わせた温度分布を波長変換前に実現することができ、その結果、波長変換過程で生じる発熱分布に対応した温度分布を維持するように第1補助光源からの補助光のエネルギーを調整すれば、常に良好な波長変換効率での波長変換が実現できる。
【0020】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記第2調温ステップは、第2補助光源から波長変換に寄与しない波長域の補助光を前記特定波長のレーザ光の入力側端面から前記特定波長のレーザの光軸に沿って前記非線形光学素子の前記作用領域に照射するステップを含む点にある。
【0021】
第2補助光源からの補助光を非線形光学素子の入力側から照射することにより、波長変換過程で然程昇温しない入力側端面から長手方向中央部にいたる作用領域の温度を波長変換効率のよい温度に調温することで、全体として波長変換効率を向上させることができるようになる。
【0022】
本発明による波長変換装置の第一の特徴構成は、作用領域に入射された特定波長のレーザ光から高調波発生法または光混合法により所望の波長のレーザ光に波長変換する非線形光学素子と、調温素子により前記非線形光学素子を調温する第1調温機構とを備えて構成される波長変換装置であって、第1補助光源から出力される波長変換に寄与しない波長域の補助光を前記作用領域に照射する第2調温機構と、前記第1調温機構からの給熱量と、前記第2調温機構からの給熱量に基づいて、前記非線形光学素子の温度を目標温度に調温する温度制御部と、を備え、前記作用領域は、前記非線形光学素子の入力端から出力端にかけて波長変換作用を受ける領域で前記特定波長のレーザの光軸周りの筒状領域で構成され、前記温度制御部は、前記非線形光学素子による波長変換の前に、前記第1調温機構により、前記非線形光学素子を波長変換効率が最大となる第1温度より低い第2温度に調節した状態で、前記第2調温機構により、前記第1補助光源からの補助光を波長変換光の出力側端面から前記特定波長のレーザの光軸に沿って前記作用領域に照射することで、前記非線形光学素子が前記第1温度となるように前記第1補助光源からの給熱量を調節し、前記非線形光学素子による前記波長変換の過程で、前記第2調温機構により、前記特定波長のレーザ光からの給熱による前記非線形光学素子の温度変動を抑制して前記第1温度に維持するように前記第1補助光源からの給熱量を調節する点にある。
【0023】
同第二の特徴構成は、上述の第一の特徴構成に加えて、前記第2調温機構は、波長変換に寄与しない波長域の補助光を前記特定波長のレーザ光の入力側端面から前記特定波長のレーザの光軸に沿って前記非線形光学素子の前記作用領域に照射する第2の補助光源を備えている点にある。
【0024】
同第三の特徴構成は、上述の第一または第二の特徴構成に加えて、前記第2調温機構に備えた補助光源から出力される補助光の波長は1~11μmの範囲である点にある。
【0025】
本発明によるレーザ光源装置の特徴構成は、ゲインスイッチング法でパルス光を出力する種光源と、前記種光源から出力されるパルス光を増幅するファイバ増幅器と、前記ファイバ増幅器から出力されるパルス光を増幅する固体増幅器と、前記固体増幅器から出力されるパルス光を波長変換して出力する上述した第一から第三の何れかの特徴構成を備えた波長変換装置と、を備えている点にある。
【発明の効果】
【0026】
以上説明した通り、本発明によれば、被波長変換光のパワーに起因する非線形光学素子の温度変動に対処して、安定して大きなパワーの波長変更を得ることができる波長変換方法、波長変換装置及びレーザ光源装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明による波長変換装置が組み込まれたレーザ光源装置のブロック構成図
【
図2】(a)は最適温度に維持された状態で波長変換処理が開始された後の非線形光学素子の温度変化の説明図、(b)は最適温度より低い温度に維持された状態で波長変換処理が開始された後の非線形光学素子の温度変化の説明図
【
図5】(a)は周波数ω1とω2のパルス光が非線形光学素子に入射され、和周波により周波数ω3のパルス光が出射されるとともに、周波数ω4の加熱用のレーザ光が波長変換光の出射側から入射される状態の説明図、(b)はt=t1以降に一定パワーの波長変換光が出力される状態の説明図、(c)は調温素子によりT0に調温された状態で、t=t0で加熱用レーザ光が照射された後の非線形光学素子の温度変動の説明図、(d)は加熱用レーザ光の強度の変化状態の説明図。
【
図6】(a)は光軸に沿う方向(z)への長さがLcの非線形光学素子に周波数ω1とω2のパルス光が入射され、和周波により周波数ω3のパルス光が出射されるとともに、周波数ω4の加熱用のレーザ光が波長変換光の出射側から入射される状態の説明図、(b)は非線形光学素子の光軸に沿う方向(z)の波長変換パワーの分布の説明図、(c)は波長変換を伴わずに加熱用レーザ光を照射した場合の非線形光学素子の光軸に沿う方向(z)の温度分布の説明図、(d)は加熱用レーザ光を照射することなく波長変換した場合の非線形光学素子の光軸に沿う方向(z)の温度分布の説明図
【
図7】(a)は光軸に沿う方向(z)への長さがLcの非線形光学素子に周波数ω1とω2のパルス光が入射され、和周波により周波数ω3のパルス光が出射されるとともに、周波数ω4の加熱用のレーザ光が波長変換光の出射側から入射され、さらに周波数ω5の加熱用のレーザ光がパルス光の入射側から入力される状態の説明図、(b)は非線形光学素子の光軸に沿う方向(z)の波長変換パワーの分布の説明図、(c)は波長変換を伴わずに双方の加熱用レーザ光を照射した場合の非線形光学素子の光軸に沿う方向(z)の温度分布の説明図、(d)は出射側の加熱用レーザ光を照射することなく波長変換した場合の非線形光学素子の光軸に沿う方向(z)の温度分布の説明図
【
図8】(a)は非線形光学素子への補助光の入射経路の説明図、(b)は別の態様の非線形光学素子への補助光の入射経路の説明図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明による波長変換方法、波長変換装置及びレーザ光源装置の実施形態を説明する。
図1には、レーザ光源装置1の一例となる構成が示されている。レーザ光源装置1は、光源部1Aと、ファイバ増幅部1Bと、固体増幅部1Cと、波長変換部1Dとが光軸Lに沿って配置され、さらに光源部1Aや波長変換部1D等を制御する制御部100を備えて構成されている。
【0029】
光源部1Aには、種光源10と、種光源用のドライバD1と、光アイソレータISL1等を備えている。ファイバ増幅部1Bには、それぞれレーザダイオードで構成される励起用光源21,31及び合波器22,32を備えた二段のファイバ増幅器20,30と、光アイソレータISL2,ISL3と、光スイッチ素子40等を備えている。また、ファイバ増幅器20の後段にはバンドパスフィルタBPF1を備えている。
【0030】
固体増幅部1Cには、固体増幅器50と、反射ミラーM1,M2,M3と、レンズL1,コリメータCL2等を備えている。波長変換部1Dは、第1波長変換部1E及び第2波長変換部1Fで構成され、それぞれに非線形光学素子60,70を備え、高調波発生法により所望の波長に変換可能に構成されている。第2波長変換部1Fが本発明による波長変換装置となる。
【0031】
光源部1Aとファイバ増幅部1Bと固体増幅部1Cとがアルミニウム等で構成される一つの金属ケースに収容され、波長変換部1Dが別の金属ケースに収容され、さらに波長変換部1Dの金属ケースに第2波長変換部1Fがさらに別の金属ケースに収容されている。尚、各ケースに収容される機能ブロック1A~1Dの区分けは特に制限されることはないが、第2波長変換部1Fは内部に収容される非線形光学素子の特性等によりパージガスによりパージ可能な金属ケースに収容されている。
【0032】
種光源10から出力された波長1064nmのレーザパルス光(以下、単に「パルス光」とも記す。)が二段のファイバ増幅器20,30で増幅され、さらに一段の固体増幅器50で所望のレベルまで増幅される。固体増幅器50で増幅されたパルス光は非線形光学素子60で波長532nmに波長変換され、さらに非線形光学素子70で波長266nmに波長変換されて出力される。
【0033】
種光源10として単一縦モードのレーザ光を出力する分布帰還型レーザダイオード(以下、「DFBレーザ」と記す。)が用いられ、ゲインスイッチング法を適用する制御部100から出力される制御信号によって、DFBレーザから単発または数メガヘルツ以下の所望の周波数で、数百ピコ秒以下の所望のパルス幅のパルス光が出力される。
【0034】
種光源10から出力された数ピコジュールから数百ピコジュールのパルスエネルギーのパルス光が、ファイバ増幅器20,30及び固体増幅器50によって最終的に数十マイクロジュールから数十ミリジュールのパルスエネルギーのパルス光に増幅された後に、二段の非線形光学素子60,70に入力されることによって波長266nmの深紫外線に波長変換される。
【0035】
種光源10から出力されたパルス光は、光アイソレータISL1を介して、初段のファイバ増幅器20で増幅される。ファイバ増幅器20,30として、所定波長(例えば975nm)の励起用光源21で励起されるイッテルビウム(Yb)添加ファイバ増幅器等の希土類添加光ファイバが用いられる。このようなファイバ増幅器20の反転分布の寿命はミリ秒の位数であるため、励起用光源21で励起されたエネルギーは1キロヘルツ以上の周波数のパルス光に効率的に転移されるようになる。
【0036】
初段のファイバ増幅器20で約30デシベル増幅されたパルス光は、光アイソレータISL2を介して後段のファイバ増幅器30に入力されて約25デシベル増幅される。後段のファイバ増幅器30で増幅されたパルス光は、コリメータCL1によってビーム成形され、光アイソレータISL3,ISL4を通過した後に固体増幅器50に導かれて約25デシベル増幅される。
【0037】
コリメータCL1と固体増幅器50との間には、音響光学素子が組み込まれ光スイッチ素子40として機能する音響光学変調器AOM(Acousto-Optic Modulator)、一対の反射ミラーM1,M2が配置され、反射ミラーM1,M2間には固体増幅器50で増幅されたパルス光を非線形光学素子60に導く光アイソレータISL4が配置されている。
【0038】
尚、上述の光アイソレータISL1~ISL4は、何れも磁気光学効果を利用して順方向と逆方向で偏光面を逆方向に回転させることで戻り光を遮断する偏光依存型の光アイソレータであり、光軸に沿って上流側に配置された各光学素子が、高強度の戻り光によって熱破壊されることを回避する等のために設けられている。
【0039】
固体増幅器50としてNd:YVO4結晶やNd:YAG結晶等の固体レーザ媒体が好適に用いられる。発光波長808nmまたは888nmのレーザダイオードで構成される励起用光源51から出力され、コリメータCL2によってビーム成形された励起光によって固体レーザ媒体が励起されるように構成されている。
【0040】
光スイッチ素子40を通過したパルス光は、反射ミラーM1,M2を経由して固体増幅器50に入射して増幅された後に、さらに反射ミラーM3で反射されて固体増幅器50に再入射して再度増幅される。つまり、固体増幅器50の往路及び復路でそれぞれ増幅されるように構成されている。尚、レンズL1はビーム整形用である。
【0041】
固体増幅器50で増幅されたパルス光は反射ミラーM2、光アイソレータISL4で反射されて波長変換部1Dの非線形光学素子60,70に入射して高調波発生法により所望の波長に変換された後に出力される。
【0042】
第1波長変換部1Eには非線形光学素子60であるLBO結晶(LiB3O5)が組み込まれ、第2波長変換部1Fには非線形光学素子70であるCLBO結晶(CsLiB6O10)が組み込まれている。種光源10から出力された波長1064nmのパルス光が非線形光学素子60で波長532nmに波長変換され、さらに非線形光学素子70で波長266nmに波長変換される。
【0043】
反射ミラーM4,M8は非線形光学素子60から出力される波長1064nmのパルス光を分離するためのフィルタとして機能し、反射ミラーM6は非線形光学素子70から出力される波長532nmのパルス光を分離するためのフィルタとして機能し、分離されたパルス光はそれぞれ光ダンパで減衰される。
【0044】
第2波長変換部1FにはCLBO結晶(CsLiB6O10)を光軸と直交する面内で移動させる走査機構であるステージ71が設けられている。紫外線が長時間同一箇所に照射されるとCLBO結晶(CsLiB6O10)に光学損傷が生じて強度分布の劣化と波長変換出力の低下を招くため、所定時期にCLBO結晶(CsLiB6O10)へのパルス光の照射位置をシフトするためである。
【0045】
ステージ71には非線形光学素子70を調温する調温素子が設けられ、非線形光学素子70の温度が所定の温度に維持されるように調温素子を制御する第1調温機構が制御部100に組み込まれている。調温素子としてヒータやペルチェ素子が好適に用いられる。
【0046】
制御部100はFPGA(Field Programmable Gate Array)及び周辺回路等を備えた回路ブロックで構成され、予めFPGA内の記憶部に記憶したプログラムに基づいて複数の論理素子を駆動することにより、レーザ光源装置1を構成する各ブロックが例えばシーケンシャルに制御される。また、制御部100には、後述する位相整合方法を実行するために必要な記憶部が接続されている。
【0047】
尚、制御部100はFPGAで構成される以外に、マイクロコンピュータと記憶部及びIO等の周辺回路で構成されていてもよいし、プログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC)等で構成されていてもよい。
【0048】
具体的に、制御部100はゲインスイッチング法を用いて種光源10を発光させるべく、種光源10であるDFBレーザのドライバD1に所定パルス幅のトリガ信号を出力する。当該駆動回路からDFBレーザにトリガ信号に応じたパルス電流が印加されると緩和振動が発生し、緩和振動による発光開始直後の最も発光強度が大きな第1波のみからなり第2波以降のサブパルスを含まないパルス状のレーザ光が出力される。ゲインスイッチング法とは、このような緩和振動を利用した短いパルス幅でピークパワーが大きいパルス光を発生させる方法をいう。
【0049】
また、制御部100は光スイッチ素子40である音響光学変調器AOMを駆動するRFドライバD2にゲート信号を出力する。RFドライバD2から高周波信号が印加されたトランスジューサ(ピエゾ変換素子)によって音響光学素子を構成する結晶に回折格子が生成され、音響光学素子に入射するパルス光の回折光が反射ミラーM1に入射する。RFドライバD2が停止すると音響光学素子に入射したパルス光は回折せずにそのまま通過し、反射ミラーM1に入射することはない。尚、RFドライバD2の停止時に音響光学素子を通過した光は光ダンパによって減衰されるように構成されている。
【0050】
ゲート信号によって光スイッチ素子40がオンすると回折された光がファイバ増幅器30から固体増幅器50へ伝播し、ゲート信号によって光スイッチ素子40がオフするとファイバ増幅器30から固体増幅器50へ光の伝播が阻止される。
【0051】
さらに、制御部100は所定時期にCLBO結晶(CsLiB6O10)へのパルス光の照射位置をシフトするためにステージ71を制御してステップ的に移動させる。例えば、制御部100は、波長変換された紫外線の強度をモニタし、モニタした強度の履歴が所定のパターンに一致するとステージ71を移動させてCLBO結晶(CsLiB6O10)へのパルス光の照射位置をシフトする。
【0052】
パルス光の光軸に直交するX-Y平面でステージ71が移動可能となるように、ステージ71は制御部100によりモータドライバD3を介して制御されるX方向移動モータ及び/またはY方向移動モータに駆動連結されている。
【0053】
種光源10から出力された中心波長1064nmの狭帯域のパルス光がファイバ増幅器20に導かれて増幅される過程で自己位相変調やラマン散乱等によって不必要にスペクトル幅が広がり、さらに自然放出光ノイズ(以下、「ASEノイズ(amplified spontaneous emission noise)」と記す。)が発生して光パルスのS/N比が低下する。そのようなパルス光が後段のファイバ増幅器30に導かれて増幅される過程でさらに広帯域化され、ASEノイズレベルが増大する。
【0054】
波長変換部1Dで波長変換可能な波長範囲のパルス光を効率的に増幅して、所望の強度の深紫外のパルス光を得るために光スイッチ素子40が設けられている。制御部100は、種光源10からのパルス光の出力期間に光の伝播を許容し、種光源10からのパルス光の出力期間と異なる期間に光の伝播を阻止するように光スイッチ素子40を制御するように構成されている。
【0055】
制御部100によって種光源10からのパルス光の出力期間と異なる期間に光スイッチ素子40がオフされると、その間は、後段の固体増幅器50へのASEノイズの伝播が阻止されるようになり、固体増幅器50の活性領域のエネルギーが無駄に消費されることが回避されるようになる。
【0056】
光スイッチ素子40として、EO変調の強度変調を利用して電界により光をオンオフする電気光学素子を用いてもよく、マイクロマシーニング技術で製作した微少な搖動ミラー(MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)で構成されたミラー)を用いて、ファイバ増幅器30の出力が固体増幅器50に伝播するか否かを微少な搖動ミラーの搖動角度によって切り替えるように構成してもよい。また、偏光状態を動的に切替えて光の透過と遮断を制御可能な偏光デバイスを用いてもよい。つまり、光スイッチ素子は動的光学素子で構成されていればよい。
【0057】
固体増幅器50で増幅されたパルス光は、光アイソレータISL4の入力側のエスケープポートから第1波長変換部1Eの非線形光学素子60であるLBO結晶に入射して波長532nmのパルス光に波長変換される。
【0058】
さらに、パルス光はレンズL2,L3によって0.2~0.3mmのビーム径が2~3mm程度に拡径された後に、第2波長変換部1Fの非線形光学素子70であるCLBO結晶に入射して波長266nmのパルス光に波長変換され、複数の光学レンズを介して真円にビーム整形された後に出力される。尚、レンズL2,L3で拡径されたパルス光は、レーザ光源装置1の後段に配置された光学系で縮径され、単位面積当たりのパワーを増大した後に照射対象に照射される。
【0059】
非線形光学素子70で波長変換された後、波長266nmのパルス光が反射ミラーM6で反射され、さらに反射ミラーM5で反射されて出射窓から出力される。非線形光学素子70から出力された波長532nmのパルス光は反射ミラーM6を透過して光ダンパで減衰される。
【0060】
反射ミラーM5と出射窓との間にサンプラーとなる反射ミラーM10が配置され、波長266nmのパルス光のごく一部(0.5%程度)が反射されるように構成されている。反射ミラーM10からの反射光はさらに反射ミラーM9で反射されて受光素子PS1に入射する。受光素子PS1によってそのパワーが検出される。受光素子PS1で検出されたパワーは制御部100に入力され、その値に基づいて非線形光学素子70の位相整合条件等が調整される。
【0061】
図2(a)上段には、上述した第1調温機構により目標温度Toが最適温度Toptに維持された状態で、時刻t0に波長532nmのパルス光が入射され、波長変換処理が開始された状態が示されている。最適温度Toptとは、波長変換効率が最も高い温度域の温度である。
【0062】
図2(a)下段には、非線形光学素子70の作用領域、つまり非線形光学素子70の入力端から出力端にかけて波長変換作用を受ける領域で入射したパルス光の光軸周りの筒状領域に、波長532nmのエネルギー強度の高いパルス光が入射すると、当該作用領域の温度が次第に上昇して最適温度ToptからΔTの温度上昇を招く様子が示されている。
【0063】
図2(a)中段には、非線形光学素子70の作用領域の温度上昇に伴い波長変換効率が低下する様子が示されている。その結果、波長266nmの深紫外光のパワーが次第に低下して安定するようになる。
【0064】
図2(b)上段には、上述した第1調温機構により目標温度Toが最適温度Toptより低い温度に維持された状態で、時刻t0に波長532nmのパルス光が入射され、波長変換処理が開始された状態が示されている。
【0065】
図2(b)下段には、非線形光学素子70の作用領域に、波長532nmのエネルギー強度の高いパルス光が入射すると、当該作用領域の温度が次第に上昇して最適温度ToからΔTの温度上昇を招き最適温度Toptで安定する様子が示されている。
【0066】
図2(b)中段には、非線形光学素子70の作用領域の温度上昇に伴い波長変換効率が次第に上昇し、最適温度Toptで波長変換効率が最大となる様子が示されている。
【0067】
図2(a)の場合は最大の波長変換効率で波長変換される状態から次第に波長変換効率が低下するという問題があり、
図2(b)の場合は最大の波長変換効率で波長変換されるまでに時間を要するという問題がある。この様な場合に、発熱源である調温素子により熱時定数が大きな非線形光学素子70を調温すると、最適温度Toptに調温するのに非常に時間がかかり、早期に最適温度Toptに調温するのが困難である。そこで、本発明では、第1補助光源から出力される波長変換に寄与しない波長域の補助光を作用領域に照射する第2調温機構を備えている。
【0068】
図3に示すように、第2波長変換部1Fには、作用領域Rに入射した特定波長(本実施形態では532nm)のレーザ光から高調波発生法または光混合法により所望の波長(本実施形態では266nm)のレーザ光に波長変換する非線形光学素子70と、調温素子72により非線形光学素子70を調温する第1調温機構73と、第1補助光源74から出力される波長変換に寄与しない波長域の補助光を作用領域Rに照射する第2調温機構75と、第1調温機構73からの給熱量と、第2調温機構75からの給熱量に基づいて、非線形光学素子70の温度を目標温度に調温する温度制御部78が設けられている。温度制御部78は制御部100に組み込まれている。なお、符号77は温度センサである。第1調温機構73は例えばヒータ制御回路で構成され、第2調温機構75は半導体レーザ駆動回路で構成されている。
【0069】
温度制御部78は、特定波長のレーザ光に対する波長変換過程で生じる非線形光学素子70の温度変動を抑制するように第2調温機構75から非線形光学素子70への給熱量を制御するように構成されている。
【0070】
第2調温機構75は、第1補助光源74からの補助光を波長変換光の出力端側から非線形光学素子70の作用領域Rに照射するように構成されていることが好ましい。非線形光学素子70の入射端面から出射端面に到る作用領域Rのうち、波長変換過程で生じる発熱分布は出射端面側で高くなる傾向を示す。
【0071】
第1補助光源74からの補助光を波長変換光の出力側から非線形光学素子に照射することにより、波長変換過程で生じる発熱分布に合わせた温度分布を波長変換前に実現することができ、その結果、波長変換過程で生じる発熱分布に対応した温度分布を維持するように第1補助光源74からの補助光のエネルギーを調整すれば、常に良好な波長変換効率での波長変換が実現できる。
【0072】
また、第2調温機構75は、特定波長のレーザ光の入力端面側から非線形光学素子70の作用領域Rに補助光を照射する第2の補助光源76を備えていることがさらに好ましい。第2補助光源76からの補助光を非線形光学素子70の入力端面側から照射することにより、波長変換過程で然程昇温しない作用領域の温度を波長変換効率のよい温度に調温することで、全体として波長変換効率を向上させることができるようになる。
【0073】
第1補助光源74及び第2補助光源76として、近赤外から遠赤外にわたる波長1μmから11μmの範囲、好ましくは波長1μmから3μmの範囲の補助光を出力可能な光源が好適に用いられる。コヒーレント光を出力する半導体レーザ等のレーザ光源が好適に用いられ、LEDやランプ等のインコヒーレント光を出力する光源を用いることも可能である。
【0074】
第1補助光源74及び第2補助光源76から出力される波長の補助光は波長変換に寄与することがなく、非線形光学素子70に給熱するために用いられる。第1補助光源74からの補助光を作用領域Rに照射することにより作用領域Rが効率的に昇温され、照射を停止することにより効率的に降温させることができる。
【0075】
図4には非線形光学素子70として用いられるCLBO結晶(CsLiB
6O
10)の光透過特性が示されている。波長変換が行なわれているCLBO結晶に適度な吸収を持つ電磁波を照射することにより、内部または表面が直接加熱される。
図4に基づけば、波長1μmから11μmの範囲の光であれば補助光として有効に用いることができ、特に波長1μmから3μmの範囲の光であれば結晶内部でも調温用の補助光として有効に機能することが判る。本実施形態では、第1補助光源74及び第2補助光源76として半導体レーザを用いているので、以下では「補助光」を「レーザ光」と表現する場合もある。
【0076】
図5(a)には、光混合法により所望の波長のレーザ光に波長変換する例が示されている。光混合法の一例である和周波発生法により、波長ω1と波長ω2のパルス光を非線形光学素子70に入射し、波長ω3の波長を得る例である。得られる波長変換光の波長ω3は、ω3=1/{(1/ω1)+(1/ω2)}となる。さらに、非線形光学素子70の出力端面側から第1補助光源74により波長ω4のレーザ光を照射するように構成されている。
【0077】
図5(c)に示すように、初期に第1調温機構73からの給熱量により非線形光学素子70の温度がToに調温された状態で、時刻t0から第1補助光源74である加熱用レーザが駆動され(
図5(d)参照。)、そのエネルギーにより非線形光学素子70の温度が最大の波長変換効率が得られる温度Toptに制御される。
【0078】
図5(b)に示すように、その後時刻t1で波長変換のために波長ω1と波長ω2のパルス光が入力されて、和周波発生法により波長ω3のパルス光が出力されると、当該波長変換過程で非線形光学素子70の作用領域で温度上昇が発生する。
【0079】
図5(d)に示すように、時刻t1以降に、第1補助光源74から照射される波長ω4のレーザ光の強度を低下させることにより、波長変換過程で生じる温度上昇が相殺されて、非線形光学素子70の作用領域の温度が最大の波長変換効率が得られる温度Toptに維持される。
【0080】
図6(a)には、長さLcの非線形光学素子70の左側端面から波長ω1,ω2のパルス光が入射され、右側端面から波長ω3のパルス光が出力されるとともに、右側端面から第1補助光源74により波長ω4のレーザ光が照射されるように構成された波長変換装置の例が示されている。
図6(b),(c),(d)には、波長ω1,ω2のパルス光の光軸に沿った非線形光学素子70の長手方向に沿った波長変換パワー分布または温度分布が示されている。
【0081】
図6(b)には、波長変換過程で生じる非線形光学素子70の長手方向に沿った波長変換パワーの分布が示されている。長手方向に沿う作用領域のうち中央部から出力端側にかけて発熱の原因となる波長変換パワーが次第に大きくなる。
図6(c)には、波長変換を行なわずに第1補助光源74から波長ω4のレーザ光が照射された場合に生じる非線形光学素子70の長手方向に沿った温度分布が示されている。
図6(d)には、第1補助光源74をオフした状態で波長変換した場合の非線形光学素子70の長手方向に沿って生じる温度分布が示されている。
【0082】
波長変換過程で生じる発熱分布を示す
図6(d)と、第1補助光源74からの光の照射で生じる発熱分布を示す
図6(c)が一致するように、第1補助光源74から出力される光の波長ω4を近赤外の1μmから中赤外の3μmの範囲で選択することにより、初期から効率的に波長変換処理を行うことができる。
【0083】
図7(a)には、長さLcの非線形光学素子70の左側端面から波長ω1,ω2のパルス光が入射され、右側端面から波長ω3のパルス光が出力されるとともに、右側端面から第1補助光源74により波長ω4のレーザ光が照射され、左側端面から第2補助光源76により波長ω5のレーザ光が照射されるように構成された波長変換装置の例が示されている。
図7(b),(c),(d)には、波長ω1,ω2のパルス光の光軸に沿った非線形光学素子70の長手方向に沿った波長変換パワー分布または温度分布が示されている。
【0084】
図7(b)には、波長変換過程で生じる非線形光学素子70の長手方向に沿った波長変換パワーの分布が示されている。長手方向に沿う作用領域のうち中央部から出力端側にかけて発熱の原因となる波長変換パワーが次第に大きくなる。
図7(c)には、波長変換を行なわずに第1補助光源74から波長ω4のレーザ光が照射され、第2補助光源76から波長ω5のレーザ光が照射された場合に生じる非線形光学素子70の長手方向に沿った温度分布が示されている。
図7(d)には、第1補助光源74をオフし第2補助光源76をオンした状態で波長変換した場合の非線形光学素子70の長手方向に沿って生じる温度分布が示されている。
【0085】
第2補助光源76により非線形光学素子70の入射端面から長手方向中央部にいたる領域をも波長変換効率の高い最適温度Toptに調整することができ、波長変換効率を一層良好にすることができる。
【0086】
補助光源74として、例えば非線形光学素子70の吸収率が低い波長1μmから3μmのレーザ光を出力する半導体レーザを用いる場合には、非線形光学素子70の内部を適正に調温できるように、波長変換光の光軸に沿うようにレーザ光を照射することが好ましい。
【0087】
この様な構成が
図8(a)に示されている。
図8(a)では、非線形光学素子70から出力される波長変換光の光軸が半透過ミラー79で下方に偏向されるとともに、光軸に沿うように補助光源74からのレーザ光が半透過ミラー79を透過して非線形光学素子70に入射されるように構成されている。尚、補助光源74からの出力光を平行光に整形し、或いは非線形光学素子70の入射面に向けて集光する光学系を備えていてもよい。
【0088】
補助光源74として、例えば波長10.6μmのレーザ光を出力するCO2ガスレーザを用いる場合には、非線形光学素子70の吸収率が非常に高く、ほぼ表面のみで吸収されるようになるので、非線形光学素子70の出射端面に向けて照射することで、少なくとも第1調温機構73を用いる場合よりも速やかに所望の温度勾配を得ることができるようになる。
【0089】
この様な構成が
図8(b)に示されている。
図8(b)では、非線形光学素子70から出力される波長変換光の光軸を偏向する半透過ミラー79とは無関係に、補助光源74からのレーザ光を任意の角度で非線形光学素子70の出射端面に向けて照射することができる。
【0090】
以上説明したように、温度制御部78により、調温素子72を用いて非線形光学素子70を調温する第1調温ステップと、所定温度に調温された非線形光学素子70の作用領域に特定波長のレーザ光を入射して高調波発生法または光混合法により所望の波長のレーザ光に波長変換する波長変換ステップと、を備えて構成される波長変換方法が実行される。
【0091】
詳述すると、当該波長変換方法では、第1補助光源74から波長変換に寄与しない波長域のレーザ光を作用領域Rに照射して非線形光学素子70に給熱する第2調温ステップと、第1調温ステップによる非線形光学素子70への給熱量と、第2調温ステップによる非線形光学素子70への給熱量に基づいて、非線形光学素子70の温度を目標温度に調温する温度制御ステップが実行される。
【0092】
また、温度制御ステップは、特定波長のレーザ光に対する波長変換過程で生じる非線形光学素子70の温度変動を抑制するように第2調温ステップにおける第1補助光源74からの給熱量を制御するように構成されている。
【0093】
そして、第2調温ステップは、特定波長のレーザ光に対する波長変換過程で生じる非線形光学素子70の発熱分布と一致するように、第1補助光源74からのレーザ光を波長変換光の出力側から非線形光学素子70に照射するように構成されている。
【0094】
さらに、第2調温ステップは、第2補助光源76から波長変換に寄与しない波長域のレーザ光を特定波長のレーザ光の入力側から非線形光学素子70に照射するステップを含む。第2補助光源76からのレーザ光を非線形光学素子70の入力側から照射することにより、波長変換過程で然程昇温しない作用領域の温度を波長変換効率のよい温度に調温することで、全体として波長変換効率を向上させることができるようになる。
【0095】
本発明による波長変換装置が組み込まれるレーザ光源装置は、発振波長が1064nmとなる種光源に限定されるものでもなく、例えば、1030nm、1550nm、976nm等、用途によって適宜異なる波長の種光源を選択することが可能である。さらに、非線形光学素子を介してこれらの波長を基本波とする高調波、和周波、差周波を発生させることも可能である。非線形光学素子として、上述以外の非線形光学素子を用いることも可能である。例えば、CLBO結晶に代えて、BBO結晶、KBBF結晶、SBBO結晶、KABO結晶、BABO結晶等を用いることができる。
【0096】
上述した複数の実施形態は、何れも本発明の一実施態様の説明であり、該記載により本発明の範囲が限定されるものではない。また、各部の具体的な回路構成や回路に使用する光学素子は、本発明の作用効果が奏される範囲で適宜選択し、或いは変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0097】
1:レーザ光源装置
1F:波長変換装置
10:種光源
20,30:ファイバ増幅器
40:光スイッチ素子
50:固体増幅器
60:非線形光学素子(LBO結晶)
70:非線形光学素子(CLBO結晶)
71:ステージ
72:調温素子
73:第1調温機構
74:第1補助光源
75:第2調温機構
76:第2補助光源
77:温度センサ
78:温度制御部
R:作用領域