(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】鼠の駆除方法
(51)【国際特許分類】
A01M 25/00 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
A01M25/00 A
(21)【出願番号】P 2018026647
(22)【出願日】2018-02-19
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤村 晃大
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】実公昭37-004097(JP,Y1)
【文献】実開昭51-137487(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 25/00
A01N 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺鼠用毒餌剤
が袋体に収容された殺鼠材を鼠によって巣に持ち帰らせて当該鼠を駆除する鼠の駆除方法であって、
前記殺鼠用毒餌剤を収容する第1収容部及び第2収容部を有する前記袋体の前記第1収容部及び前記第2収容部の間に、当該袋体を折り曲げ可能にする折り曲げ部を設けておき、
前記折り曲げ部を有する前記殺鼠材を前記巣の外に置き、
前記鼠に前記折り曲げ部を咥えさせて前記第1収容部及び前記第2収容部が一体のままの前記殺鼠材を前記巣まで持ち帰らせる鼠の駆除方法。
【請求項2】
請求項1に記載の
鼠の駆除方法において、
前記袋体を前記折り曲げ部で折り曲げない状態とした前記殺鼠材を前記巣の外に置く鼠の駆除方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鼠の駆除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鼠を駆除する方法として、殺鼠用毒餌剤を鼠に喫食させる方法が知られている(例えば、特許文献1~5参照)。特許文献1の殺鼠材は、殺鼠用毒餌剤を内部に収容する袋体を備えており、この袋体が、通気性を有する不織布からなるとともに、鼠が咥えて巣に持ち帰る気にさせる行動誘起部を有している。この行動誘起部は、袋体における接合片で構成されていて、殺鼠材の設置時に上方に突出した形状を維持するようになっている。
【0003】
特許文献2の殺鼠材は、殺鼠用毒餌剤が袋体に自動包装されたものである。袋体には、不織布をシールしたシール部と、シールしていない非シール部とが設けられており、非シール部を、当該袋体の全周の所定範囲以上にしている。これにより、シール部が形成される範囲を少なくして殺鼠用毒餌剤の喫食率の向上を図っている。
【0004】
特許文献3の殺鼠材は、袋体を不織布で構成したものである。この袋体を構成する不織布の坪量を所定範囲とすることにより、鼠が袋体を破りやすくするとともに、殺鼠用毒餌剤から放散される誘引臭を袋体の外部に放出しやすくしている。
【0005】
特許文献4の殺鼠材は、袋体をフィルムで構成している。この袋体を構成するフィルムの酸素透過率と水蒸気透過率を所定範囲にすることで、殺鼠用毒餌剤の経時的な劣化を抑制している。
【0006】
特許文献5の殺鼠材は、ポリエチレンをラミネートした紙で袋体を構成したものである。ポリエチレンの厚みを10μm~30μmとすることで鼠の忌避性の減少を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4294575号公報
【文献】実公昭55-4241号公報
【文献】特開2007-230898号公報
【文献】特表平10-506625号公報
【文献】特開平1-238502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、一般的に、殺鼠用毒餌剤を袋体に収容してなる殺鼠材を使用する場合、殺鼠材は鼠が出てきそうな所に置いておく。鼠は、巣外で殺鼠材を見つけると、巣に持ち帰って殺鼠用毒餌剤を喫食し、さらに巣の内部では他の鼠も殺鼠用毒餌剤を喫食することがあるので、殺鼠材を巣に持ち帰らせることで駆除効果を高めることができる。従って、巣外にある殺鼠材を巣に持ち帰ることが鼠にとって容易でなければ、殺鼠材を鼠が出てきそうな所に置いていたとしても駆除効果はそれほど高まらないと考えられる。
【0009】
一方で殺鼠用毒餌剤は、殺鼠成分が濃すぎると鼠が警戒して喫食しないことがあるため、鼠に警戒心を抱かせないように相当の割合で食餌物質を含むことが好ましく、必然的に体積がかさむ。また殺鼠成分の種類によっては、鼠に数日間に渡って喫食させなければ効果が現れないものがある。この場合、数回に分けて喫食されるように、1つの袋体に収容する殺鼠用毒餌剤の量は所定量以上確保する必要がある。このような理由により、殺鼠用毒餌剤を収容した袋体の大きさが大きくなってしまう。しかしながら、鼠の巣の出入り口は狭くなっているので、所定量以上の殺鼠用毒餌剤が収容された袋体を鼠が巣の出入り口から巣の内部に入れることは容易ではないと考えられる。この点、殺鼠用毒餌剤が収容された袋体を、鼠が巣の内部に入れやすくなるようにする技術は、従来知られていない。
【0010】
すなわち、特許文献1では、殺鼠材の設置時に上方に突出した形状を維持する行動誘起部を袋体の接合片で構成し、この行動誘起部を鼠に咥えさせて殺鼠材を巣に持ち帰らせることを狙っているが、鼠が行動誘起部を咥えて殺鼠材を巣の内部へ引っ張ったとしても、所定量以上の殺鼠用毒餌剤が収容された袋体は大きく、このため袋体が巣の出入り口の周囲に当たって容易には引き込めず、その結果、鼠が引っ張るのをあきらめてしまう恐れがある。
【0011】
また特許文献2では、袋体の非シール部の範囲を広くすることによって殺鼠用毒餌剤の喫食率の向上を図っているが、殺鼠材を巣に持ち帰るのが容易でなければ、結果的に喫食率は向上しにくいものと考えられる。
【0012】
また特許文献3~5では、袋体の材質について開示されているが、袋体の材質がどのようなものであっても、袋体の形状が巣の出入り口から入り易い形状でなければ、結果的に喫食率は向上しにくいものと考えられる。
【0013】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、所定量以上の殺鼠用毒餌剤を袋体に収容した殺鼠材を、巣の出入り口から巣の内部に入れやすくすることで鼠の駆除効果を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明では、鼠が殺鼠材を巣の出入り口から巣の内部に入れようとした際に袋体が容易に折れ曲がるようにした。
【0015】
第1の発明は、殺鼠用毒餌剤と、前記殺鼠用毒餌剤を収容する袋体とを備えた殺鼠材において、前記袋体は、当該袋体を折り曲げ可能にする折り曲げ部を有していることを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、例えば、鼠が袋体を咥えて巣の出入り口から巣の内部に引き込もうとした際、袋体が折り曲げ部を起点として容易に折れ曲がるので、例えば出入り口の寸法よりも長い袋体であっても小さな力で巣の内部に入るようになる。従って、所定量以上の殺鼠用毒餌剤を収容可能な大きな袋体を備えた殺鼠材であっても、鼠が自身の力で巣の出入り口から巣の内部に入れやすくなる。
【0017】
第2の発明は、前記袋体は、前記殺鼠用毒餌剤を収容する第1収容部及び第2収容部を有しており、前記折り曲げ部は、前記第1収容部及び前記第2収容部の間に設けられていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、殺鼠用毒餌剤が第1収容部及び第2収容部に収容された状態で、該第1収容部及び該第2収容部の間の折り曲げ部によって袋体を折り曲げることが可能になる。
【0019】
第3の発明は、前記袋体は、長い形状とされており、前記第1収容部及び前記第2収容部は、前記袋体の長手方向に並ぶように設けられ、前記折り曲げ部は、前記袋体の長手方向中間部に設けられていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、長い形状の袋体として所定量以上の殺鼠用毒餌剤を収容可能にする場合に、袋体の長手方向中間部で当該袋体が折れ曲がるので、殺鼠材が巣の内部に入り易くなる。
【0021】
第4の発明は、前記折り曲げ部は、前記第1収容部と前記第2収容部とを区画する区画部で構成されていることを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、袋体の区画部は第1収容部と第2収容部とを区画するための部分であることから、殺鼠用毒餌剤が存在しない部分となり、折れ曲がりやすくなる。従って、区画部を折り曲げ部とすることで、区画部とは別に折り曲げ部を設ける場合に比べて袋体がコンパクトになるとともに、容易に折れ曲がるようになる。
【0023】
第5の発明は、前記区画部は、前記袋体を構成する部材を接合することによって形成されていることを特徴とする。
【0024】
この構成によれば、区画部が薄肉になるので、袋体がより一層容易に折れ曲がるようになる。また袋体に薄肉な部分ができることで、鼠が袋体を咥えやすくなる。
【0025】
第6の発明は、前記折り曲げ部は、前記袋体の長手方向と直交する方向の一端部から他端部まで連続して形成されていることを特徴とする。
【0026】
この構成によれば、折り曲げ部が連続することで袋体がより一層容易に折れ曲がるようになる。
【0027】
第7の発明は、前記折り曲げ部は、前記袋体の長手方向に所定の幅を有していることを特徴とする。
【0028】
この構成によれば、折り曲げ部が所定の幅を有しているので、第1収容部及び第2収容部の間隔が所定以上確保されることになる。よって、袋体を折り曲げた際に、第1収容部と第2収容部とが相互に干渉しにくくなり、袋体の折り曲げ角度が大きくなる。
【発明の効果】
【0029】
第1の発明によれば、殺鼠用毒餌剤を収容する袋体が折り曲げ部を有しているので、所定量以上の殺鼠用毒餌剤を袋体に収容した殺鼠材を、巣の出入り口から巣の内部に入れやすくすることができる。これにより、鼠が巣の内部で殺鼠用毒餌剤を喫食し易くなり、駆除効果を高めることができる。
【0030】
第2の発明によれば、第1収容部及び第2収容部の間で袋体を折り曲げることができ、折り曲げ後の袋体の長さを十分に短くすることができる。
【0031】
第3の発明によれば、殺鼠材の袋体を長い形状として所定量以上の殺鼠用毒餌剤を収容可能にする場合に、殺鼠材を巣の内部に入れやすくすることができる。
【0032】
第4の発明によれば、第1収容部と第2収容部とを区画するための区画部を折り曲げ部としたので、袋体をコンパクトにすることができるとともに、容易に折れ曲がるようにすることができる。
【0033】
第5の発明によれば、袋体を構成する部材を接合することによって区画部を形成したので、袋体がより一層容易に折れ曲がるようになるとともに、鼠が咥えやすい袋体とすることができる。
【0034】
第6の発明によれば、折り曲げ部が袋体の長手方向と直交する方向の一端部から他端部まで連続しているので、袋体がより一層容易に折れ曲がるようになる。
【0035】
第7の発明によれば、折り曲げ部が袋体の長手方向に所定の幅を有しているので、袋体を折り曲げた際に、第1収容部と第2収容部とが相互に干渉しにくくなり、袋体の折り曲げ角度を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の実施形態1に係る殺鼠材の平面図である。
【
図3】実施形態1の変形例1に係る
図1相当図である。
【
図4】実施形態1の変形例1に係る
図2相当図である。
【
図5】実施形態1の変形例2に係る
図1相当図である。
【
図7】試験用ケージに設ける仕切板の正面図である。
【
図9】出入り口確認用試験器具に設ける仕切板の正面図である。
【
図10】殺鼠材の引き込み力測定器具の斜視図である。
【
図11】鼠が殺鼠材を咥えて持ち上げた様子を示す図である。
【
図12】鼠が殺鼠材を巣の出入り口近傍まで運ぶ途中を示す図である。
【
図13】鼠が殺鼠材を巣の出入り口近傍まで運んだ状態を示す図である。
【
図14】鼠が出入り口から巣に入る様子を示す図である。
【
図15】鼠が殺鼠材を巣の内部に引き込み始めた様子を示す図である。
【
図16】鼠が殺鼠材を巣の内部に引き込む途中を示す図である。
【
図18】殺鼠材が巣の内部に引き込まれた状態を示す
図17相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0038】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る殺鼠材1の平面図であり、
図2は、
図1におけるII-II線断面図である。殺鼠材1は、
図2に示すように、殺鼠用毒餌剤20と、殺鼠用毒餌剤20を収容する袋体10とを備えており、鼠の巣の外に置いておき、鼠によって巣の内部に持ち帰らせることにより、巣の内部で鼠に殺鼠用毒餌剤を喫食させることによって鼠を駆除するためのものである。殺鼠材1は、鼠駆除材や鼠駆除製品と呼ぶこともできる。殺鼠材1は、巣の出入り口である巣穴の近傍に置くことや、巣の出入り口から離れた所に置くことができ、設置場所は特に限定されるものではないが、鼠が通りそうな所や巣の出入り口近傍に置くのが好ましい。
【0039】
(殺鼠用毒餌剤20)
殺鼠用毒餌剤20は、例えば粒状、錠剤型、タブレット型、ペレット型、ブロック状等の任意の形状に成形されたものであり、殺鼠成分と食餌物質とを含んでいる。殺鼠成分としては、例えば、ワルファリン、クマテトラリル、クマリン等のクマリン系化合物や、クロロファシノン(Chlorophacinone)、ジファシノン(Diphacinone)、ピンドン(Pindone)、バロン(Valone)等のインダンジオン系化合物や、ジフェチアロール、ジフェナコン、ブロジファコン、ブロマジオロン、フロクマフェン等のトリアリール置換クマリン系化合物や、シリロシド、ホウ酸、フィプロニル、ヒドラメチルノン等の化合物を挙げることができる。
【0040】
殺鼠成分としては、上記化合物のうち、1種のみまたは任意の2種以上を混合して使用することができる。上記化合物の含有量は、殺鼠効果を発揮することができる程度であればよく、従来から周知の含有量とすることができる。
【0041】
食餌物質としては、加工、人工、天然を問わず、植物質としてトウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモ等の澱粉や澱粉加水分解物、小麦粉、米粉、大豆粉、落花生粉、胡麻粉、野菜粉、フスマ、植物性蛋白質等が挙げられ、動物質としてはサナギ、魚粉、ミルク、動物性蛋白質、飼料用酵母、各種アミノ酸等が挙げられる。炭水化物としては果糖、ブドウ糖、黒砂糖、赤砂糖、三温糖、グラニュー糖、ハチ蜜、サトウキビ果汁などが挙げられる。脂質として各種植物性油脂及び各種動物性油脂例えばゴマ油、ヌカ油、ヤシ油、コーン油、落花生油、バター、卵油、鯨油等が挙げられる。上記食餌物質は自由に又任意に混合且つ配合できる。
【0042】
殺鼠用毒餌剤20はさらに必要に応じて、加工、人工、天然を問わず、誘引物質、摂食促進物質、保水剤、防腐剤(殺菌、防黴を含む)、酸化防止剤、増量剤、誤食防止剤、保存料、香料、色素等の各種添加剤を対象動物の嗜好性に合わせて含有することも可能でありその配合、選択、混合などは特に限定されない。
【0043】
1つの袋体10には、例えば3g~8g程度の殺鼠用毒餌剤20を収容するようにしており、この実施形態では5gの殺鼠用毒餌剤20を収容している。殺鼠用毒餌剤20に含まれる殺鼠成分が、数日に分けて喫食させることによって駆除効果を発揮するものである場合、1日で全てを喫食してしまわないように、1日で食べきることができる量よりも多い量の殺鼠用毒餌剤20を1つの袋体10に収容する。また1匹の鼠が食べきる量よりも多い量の殺鼠用毒餌剤20を1つの袋体10に収容しておくことも可能であり、これにより、巣の内部の複数の鼠を1つの殺鼠材1によって駆除することができる。1つの袋体10に収容する殺鼠用毒餌剤20の量は、殺鼠成分の種類や含有量、食餌物質の種類や含有量等に応じて任意に設定することができる。また1つの袋体10に収容する殺鼠用毒餌剤20の量は、重さによって決定してもよいし、体積によって決定してもよい。ここで、「所定量以上」とは、例えばクマネズミの成獣1匹が1日で全てを喫食できない量のことであり、例えば複数匹(2匹~3匹)が1日で全てを喫食できない量とすることもできる。基準となる鼠は、クマネズミの成獣(雄でも雌でもよい)とすることができるが、これに限られるものではない。「所定量」は試験等によって得ることができる。
【0044】
(袋体10)
袋体10は、通気性を有し、かつ、鼠が歯や爪で引き裂いたり、ちぎったりすることが可能な部材で構成されており、例えば、不織布、紙、織布等を挙げることができる。不織布を構成する繊維は、例えばポリプロピレン(PP)やポリエチレンテレフタレート(PET)等の樹脂製繊維を挙げることができる。不織布は、樹脂製繊維と紙とからなるものであってもよい。袋体10を構成する部材は、熱溶着することが可能な部材とすることができる。袋体10の通気性は、内部に収容されている殺鼠用毒餌剤20から放散される誘引物質を袋体10の外部に放出させることができる程度であれよい。
【0045】
袋体10は長い形状とされている。袋体10には、殺鼠用毒餌剤20を収容する第1収容部11及び第2収容部袋体12が当該袋体10の長手方向に並ぶように設けられるとともに、第1収容部11及び第2収容部12の間に、当該袋体10を折り曲げ可能にする折り曲げ部13が設けられている。折り曲げ部13は、第1収容部11及び第2収容部12の間に設けられることから、当該袋体10の長手方向中間部に設けられることになる。
【0046】
袋体10の長手方向(
図1の左右方向)の寸法(長さ)は、一般的なクマネズミの成獣が生息する巣の出入り口の最小径よりも長く設定されている。一般的なクマネズミの成獣が生息する巣の出入り口の最小径は、詳細については後述するが、例えば25mm~30mm程度である。この実施形態では、袋体10の長手方向の寸法は、例えば70mm以上150mm以下の範囲で設定することができる。袋体10の長手方向の寸法を70mmよりも短くすると1つの袋体10に収容可能な殺鼠用毒餌剤20の量が少なくなってしまう。袋体10の長手方向の寸法を70mmよりも短くした上で所定量の殺鼠用毒餌剤20を収容するためには、袋体10の長手方向と直交する方向の寸法(
図1に示すB)が長くなり、殺鼠材1を巣の出入り口から巣の内部に入れることが困難になり、ひいては殺鼠用毒餌剤20の喫食率が低下するおそれがある。袋体10の長さは、90mm以上120mm以下の範囲で設定するのがより好ましい。
【0047】
一方、袋体10の長手方向の寸法を150mmよりも長くすると、袋体10の寸法Bは短くできるものの、鼠が殺鼠材1を持ち運びにくくなる。さらに殺鼠材1が巣の内部に入りにくくなり、ひいては殺鼠用毒餌剤20の喫食率が低下するおそれがある。
【0048】
袋体10の寸法Bは、20mm以上30mm以下の範囲で設定することができる。袋体10の寸法Bは20mmよりも短いと、1つの袋体10に収容可能な殺鼠用毒餌剤20の量が少なくなってしまい、袋体10の寸法Bを20mmよりも短くした上で所定量の殺鼠用毒餌剤20を収容するためには、袋体10の長さが長くなり、鼠が殺鼠材1を持ち運びにくくなるとともに、殺鼠材1が巣の内部に入りにくくなり、ひいては殺鼠用毒餌剤20の喫食率が低下するおそれがある。袋体10の寸法Bが30mmよりも長いと、一般的なクマネズミの成獣が生息する巣の出入り口の最小径に近い値またはそれを超えることになり、殺鼠材1を巣の出入り口から巣の内部に入れることが困難になり、ひいては殺鼠用毒餌剤20の喫食率が低下するおそれがある。
【0049】
この実施形態では、第1収容部11及び第2収容部12の容量を略同じにしており、1つの袋体10に収容される殺鼠用毒餌剤20の全量の半分の量が第1収容部11に収容され、残りの半分の量が第2収容部12に収容されている。そのため、第1収容部11の長さCと第2収容部の長さDとは略等しく設定されている。寸法C、Dは、例えば30mm以上70mm以下の範囲で設定することができ、好ましいのは40mm以上60mm以下である。殺鼠用毒餌剤20が収容された状態にある第1収容部11及び第2収容部12の厚み(
図2の上下方向の寸法)は、寸法Bよりも短くすることができ、例えば5mm以上20mm以下の範囲で設定することができる。第1収容部11及び第2収容部12の厚みは、8mm以上12mm以下がより好ましい。
【0050】
袋体10の折り曲げ部13は、第1収容部11と第2収容部12とを区画する区画部で構成されている。区画部は、袋体10を構成する部材を接合することによって形成された部分であり、第1収容部11と第2収容部12に比べて薄い板状をなしている。すなわち、袋体10を構成する部材が当該袋体10の長手方向中間部において当該袋体10の厚み方向に溶着されて接合されている。これにより、第1収容部11における第2収容部12側の端部が閉塞されるとともに、第2収容部12における第1収容部11側の端部が閉塞されて、第1収容部11と第2収容部12との連通が遮断される。従って、折り曲げ部13はシール部で構成されていると言うことができ、この折り曲げ部13には殺鼠用毒餌剤20が存在しない。また折り曲げ部13は、第1収容部11及び第2収容部12よりも薄い板状をなす部分(板状部)と言うこともできる。
【0051】
折り曲げ部13は、殺鼠材1に対して曲げ力を作用させた際に、最初に折れ曲がる部分のことであり、折れ曲がり起点部と言うこともできる。この実施形態では、第1収容部11及び第2収容部12にそれぞれ殺鼠用毒餌剤20が収容されているので、殺鼠材1に対して曲げ力を作用させた際に第1収容部11及び第2収容部12が曲がりにくくなっている。一方、折り曲げ部13は区画部であることから内部には殺鼠用毒餌剤20が無く、薄い板状であるため、曲げ力を作用させた際に、第1収容部11及び第2収容部12よりも曲がりやすく、少ない力で曲げることが可能な部分である。
【0052】
折り曲げ部13が第1収容部11及び第2収容部12の間に位置していることから、第1収容部11及び第2収容部12が重なるように、折り曲げ部13が折れ曲がる。これにより、殺鼠材1の長さ方向の寸法が折れ曲がり前に比べて短くなり、約半分になる。
【0053】
折り曲げ部13は、袋体10の長手方向と直交する方向(幅方向)の一端部から他端部まで連続して形成されている。これにより、より小さな力で折り曲げ部13を曲げることができる。
【0054】
さらに、折り曲げ部13は、袋体10の長手方向に所定の幅を有している。具体的には、
図1に示すように、折り曲げ部13の幅Eは、5mm以上20mm以下の範囲で設定することができ、8mm以上15mm以下の範囲で設定するのがより好ましい。折り曲げ部13の幅を所定以上確保することで、折り曲げ部13を折り曲げた際に、第1収容部11と第2収容部12とが相互に干渉しにくくなり、袋体10の折り曲げ角度を大きくすることができる。
【0055】
(変形例)
図3及び
図4は、実施形態1の変形例1に係る殺鼠材1を示すものである。この変形例1では、袋体10の長手方向両端部にそれぞれ第1シール部14と第2シール部15とが設けられている。第1シール部14と第2シール部15は、袋体10の端部を閉塞するための部分であり、折り曲げ部13と同様に、袋体10を構成する部材を熱溶着することによって形成されている。第1シール部14と第2シール部15が薄い板状になるため、例えば鼠が殺鼠材1を運ぶ際に第1シール部14や第2シール部15を咥えることができる。第1シール部14及び第2シール部15の一方または両方を省略することもできる。
【0056】
図5は、実施形態1の変形例2に係る殺鼠材1を示すものである。この変形例2では、折り曲げ部13が袋体10の長手方向中央部から長手方向一側に偏位しており、第1収容部11が第2収容部12よりも小さくなっている。このように、折り曲げ部13は袋体10の長手方向中央部だけでなく、一側に偏位させることもできる。また変形例2では変形例1の第1シール部14及び第2シール部15を設けているが、これに限らず、第1シール部14及び第2シール部15の一方または両方を省略することもできる。
【0057】
なお、折り曲げ部13は、第1収容部11及び第2収容部12よりも曲がりやすければ良いのであって、溶着によるシール部でなくても良い。また、第1収容部11と第2収容部12が折り曲げ部13によって完全に遮断されていなくても良く、ある程度連通していても良い。また上記実施形態および変形例の折り曲げ部13は1箇所であるが、殺鼠材1が2箇所以上で折れ曲がるようにしても良い。
【0058】
(試験)
次に、実施形態1に係る殺鼠材1の試験について説明する。始めに、
図6及び
図7に基づいて試験に使用した試験用ケージについて説明する。試験用ケージ100は、格子状部材で構成されていて、
図6に示す平面視で長方形を有している。試験用ケージ100の短辺方向の寸法Wは23cmとされている。試験用ケージ100の内部には、
図7に示す仕切板101が設けられており、試験用ケージ100の内部は、仕切板101によって巣103と餌置き場104とに仕切られている。巣103には、給水瓶102が置かれている。
図6に示す餌置き場104の寸法L1は38cm、巣103の寸法L2は8cmとされている。
図7に示す仕切板101の高さは17cmとされており、供試動物が仕切板101を超えることができないようになっている。この試験用ケージ100は、供試動物であるクマネズミの成獣(雌)を飼育しているケージである。仕切板103よりも奥側、即ち巣103の周りには板を貼って巣103を薄暗くするとともに、上記給水瓶102を置くことで供試動物が定着しやすい環境にした。供試動物は、全長が25cm前後であり、体重は120g程度のクマネズミである。
【0059】
図7に示すように、仕切板101の下部には、出入り口101aが形成されている。この出入り口101aは巣穴の開口として設けている。出入り口101aの高さH1は3cm、幅W1は3cmとした。出入り口101aの大きさは以下のようにして決定した。
【0060】
まず、
図8に示す出入り口確認用試験器具を用意する。出入り口確認用試験器具は、第1筒状部材301と第2筒状部材302と通路形成部材303と出入り口形成板(仕切板)304とを備えている。
図8は出入り口確認用試験器具の平面図である。第1筒状部材301と第2筒状部材302とは上下方向に延びるように、かつ、それらの間に通路形成部材303が介在するように互いに間隔をあけて配置されている。第1筒状部材301と第2筒状部材302の直径は12cmである。通路形成部材303の長さは25cmである。通路形成部材303の内部には、水平方向に延びる通路303aが形成されており、この通路303aの一端部が第1筒状部材301の内部に連通し、他端部が第2筒状部材302の内部に連通している。通路303aは、直径が4.0cmの円形断面を有する通路である。
【0061】
出入り口形成板304は、通路形成部材303の中間部に上下方向に延びるように配置されている。出入り口形成板304には、
図9に示すように開口部304aが形成されている。この開口部304aが出入り口となる部分である。
図9の左側に示すように、開口部304aが正方形の出入り口形成板304と、
図9の右側に示すように、開口部304aが円形の出入り口形成板304とを用意した。また、開口部304aが正方形の出入り口形成板304については、高さH1が2.5cm、幅W1が2.5cmのものと、高さH1が2.0cm、幅W1が2.0cmのものとを用意した。開口部304aが円形の出入り口形成板304については、直径Aが3.0cmのものと、直径Aが2.5cmのものとを用意した。
【0062】
第1筒状部材301に供試動物としてのクマネズミの成獣(雌)を入れ、この供試動物が通路303aを通って第2筒状部材302まで移動できるか否かを観察した。開口部304aが正方形の出入り口形成板304を取り付けた場合には、高さH1が2.5cm、幅W1が2.5cmのものでは供試動物が通過できたが、高さH1が2.0cm、幅W1が2.0cmのものでは供試動物が通過できなかった。また、開口部304aが円形の出入り口形成板304を取り付けた場合には、直径Aが3.0cmのものでは供試動物が通過できたが、直径Aが2.5cmのものでは供試動物が通過できなかった。この結果より、
図6に示す試験用ケージ100の仕切板101の出入り口101aの大きさを高さH1は3cm、幅W1は3cmとし、クマネズミの成獣(雌)が通過するのに問題とならない大きさにした。実環境下においても、クマネズミの成獣が作る巣穴の大きさはこの程度になると考えられるためである。
【0063】
試験日の夕方、
図6に示す試験用ケージ100の餌置き場104に殺鼠材1を2つ置いた。但し、供試動物の保護のため、殺鼠材1には殺鼠成分を除いた餌を収容した。翌日の朝まで12時間ビデオで撮影し、撮影された映像を見て供試動物が殺鼠材1の袋体10のどの部位を咥えて持ち運んだか確認した。供試動物は、3匹(クマネズミの雌の成獣1匹、クマネズミの雄の成獣2匹)用意し、それぞれについて同じ試験を行った。3匹とも全長は25cm前後であり、体重は120g程度である。
【0064】
殺鼠材1を咥えて移動させた回数は、3匹合計で38回であった。そのうち、折り曲げ部13を咥えた割合は、約80%であり、両端(第1シール部14又は第2シール部15)を咥えた割合は、約5%であった。つまり、殺鼠材1の折り曲げ部13を咥える割合が極めて高いことが分かる。この理由は不明であるが、殺鼠材1を安定して持ち運ぶために重心近傍を咥えようとしているものと考えられる。更に、本実施形態の殺鼠材1の折り曲げ部13は薄い板状であるため、当該折り曲げ部13を鼠が咥えやすいものと考えられる。
【0065】
図10は、餌置き場104にある殺鼠材1を出入り口101aから巣103に引き込むのに要する力を測定する様子を示している。上述したように、鼠は殺鼠材1の折り曲げ部13を咥える割合が極めて高いので、
図10に示すように、殺鼠材1の折り曲げ部13をクリップ200で挟持し、このクリップ200に紐201の一端部を取り付けた。紐201の他端部は、プッシュプルゲージ203に連結した。プッシュプルゲージ203は、KOMURA製 Max Capacity 30kg Readability 0.25kg Model Sを使用した。
【0066】
出入り口101aの大きさは、高さH1が2.5cm、幅W1が2.5cmとした。また実施例として、上述した構成の殺鼠材1を用意し、その殺鼠材1の長さは130mmとし、幅Bは20mmとした。また比較例として、折り曲げ部13が無い殺鼠材を用意し、その殺鼠材の長さは130mmとし、幅Bは20mmとした。実施例の場合は、餌置き場104にある殺鼠材1を出入り口101aから巣103に引き込む際に、折り曲げ部13が容易に折れ曲がるので、プッシュプルゲージ203の指示値は、3回の平均で0.3kgという、小さな値であった。一方、比較例の殺鼠材では、折り曲げ部13が無いので、プッシュプルゲージ203の指示値は、3回の平均で0.54kgであり、実施例の2倍近い値であった。このように、殺鼠材1に折り曲げ部13を設けることにより、当該殺鼠材1を鼠が巣103に引き込むのに要する力を大幅に低減できる。
【0067】
次に、試験用ケージ100内での実際の供試動物の動きについて
図11~
図16に基づいて説明する。
図11~
図16は試験用ケージ100内の供試動物をビデオで撮影した映像を元にして描いた図である。
図11は、供試動物が餌置き場104にある殺鼠材1を咥えて持ち上げた様子を示している。この図に示すように、供試動物は殺鼠材1の長手方向中央部近傍、即ち折り曲げ部13近傍を咥える。その後、
図12、
図13に示すように、供試動物は殺鼠材1を出入り口101a近傍まで運ぶと、一旦、出入り口101aから離れる方向へ移動した後、
図14に示すように頭から出入り口101aに入っていく。供試動物は出入り口101aから巣103に入った後、向きを変え、
図15に示すように、頭を出入り口101aから餌置き場104に出し、殺鼠材1の折り曲げ部13近傍を咥える。供試動物は、
図16に示すように、そのまま後退していく。
【0068】
このとき、殺鼠材1の折り曲げ部13近傍を巣103の内部に向けて引っ張ることになるので、
図17及び
図18に示すように、殺鼠材1の長手方向両側が出入り口101aの縁部に擦れて殺鼠材1に曲げ力が作用する。すると、殺鼠材1の折り曲げ部13が折れ曲がるので、殺鼠材1が小さな力で巣103の内部に入る。
【0069】
折り曲げ部13を有する殺鼠材1の場合、
図11~
図16に示すようにして餌置き場104にある殺鼠材1を出入り口101aから巣103の内部に持ち帰る。
図11から
図16に示す状態となるまでに要する時間は約5秒(2回の平均)であった。
【0070】
一方、折り曲げ部が無い比較例の場合、同じサイズで同じ重さの殺鼠材であっても、餌置き場104にある殺鼠材1を出入り口101aから巣103の内部に持ち帰るのに要する時間は約1分25秒であった。これは、殺鼠材の長さが出入り口101aの寸法よりも長いので、殺鼠材が出入り口101aの縁部に干渉してしまうからである。
【0071】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態に係る殺鼠材1によれば、鼠が袋体10の折り曲げ部13の近傍を咥えて巣103の出入り口101aから巣103の内部に引き込もうとした際、袋体10が折り曲げ部13を起点として容易に折れ曲がるので、出入り口101aの寸法よりも長い袋体10であっても小さな力で巣103の内部に入るようになる。
【0072】
なお前述のように、鼠はほとんどの場合に折り曲げ部13の近傍を咥えるのであるが、殺鼠材1の端部を咥える場合もある。この点、前述のように、袋体10の寸法Bは出入り口101aの幅W1以下となっている。このため、鼠が殺鼠材1の端部を咥えた場合は、そのまま引っ張れば出入り口101aに引っかかることなく巣103の内部に入れることができる。
【0073】
言い換えれば、この実施形態に係る殺鼠材1は、鼠が咥える位置にかかわらず、巣103の内部に入れやすい形状となっている。従って、所定量以上の殺鼠用毒餌剤20を収容可能な大きな袋体10を備えた殺鼠材1であっても、鼠が自身の力で巣103の出入り口101aから巣103の内部に入れやすくなる。よって、鼠の駆除効果を高めることができる。
【0074】
(実施形態2)
図19は、本発明の実施形態2に係る殺鼠材1を示すものである。実施形態2では、第1シール部14と第2シール部15とが設けられているとともに、折り曲げ部13と、第1シール部14及び第2シール部15との延びる方向が相違している点で実施形態1のものと異なっており、他の部分は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と同じ部分には同じ符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。
【0075】
すなわち、実施形態2では、実施形態1の変形例1のように袋体10の長手方向両端部にそれぞれ第1シール部14と第2シール部15とが設けられている。第1シール部14と第2シール部15の延びる方向と、折り曲げ部13が延びる方向とは交差する関係となっており、具体的には、第1シール部14と第2シール部15の延びる方向と、折り曲げ部13が延びる方向とが略直交している。
【0076】
この実施形態2においても実施形態1と同様な作用効果を奏することができる。
【0077】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0078】
また本発明に係る殺鼠材1は、クマネズミ以外の鼠に対しても有効である。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上説明したように、本発明に係る殺鼠材は、例えばクマネズミ等を駆除する場合に適用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 殺鼠材
10 袋体
11 第1収容部
12 第2収容部
13 折り曲げ部
14 第1シール部
15 第2シール部
20 殺鼠用毒餌剤