(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】X線検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/04 20180101AFI20220527BHJP
G01N 23/06 20180101ALI20220527BHJP
G01N 23/087 20060101ALI20220527BHJP
G01N 23/18 20180101ALI20220527BHJP
【FI】
G01N23/04
G01N23/06
G01N23/087
G01N23/18
(21)【出願番号】P 2018048403
(22)【出願日】2018-03-15
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017052934
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000147833
【氏名又は名称】株式会社イシダ
(72)【発明者】
【氏名】久保 拓右
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-008460(JP,A)
【文献】特開平10-318943(JP,A)
【文献】特開2012-073056(JP,A)
【文献】特開2006-071423(JP,A)
【文献】米国特許第06246747(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
A61B 6/00-A61B 6/14
G01T 1/00-G01T 1/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査物にX線を照射するX線源と、
被検査物の透過X線に含まれる
少なくとも三種類以上のエネルギー帯のX線を検出して画素ごとのエネルギースペクトルを出力するマルチエナジーセンサと、
前記
少なくとも三種類以上のエネルギー帯の中から異物検出に適する二種類のエネルギー帯を選び出し、
選び出した二種類のエネルギー帯に対応する画像から、エネルギーサブトラクションによって異物を検出する画像処理部と、を備えたX線検査装置。
【請求項2】
前記画像処理部は、複数のエネルギー帯の中から異物検出に適する二種類のエネルギー帯の画像を選び出す処理を、事前セットアップにおいて実行することを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項3】
前記画像処理部は、さらに、画像のコントラストの差が最大となる二種類のエネルギー帯を選び出すことを特徴とする請求項2に記載のX線検査装置。
【請求項4】
前記画像処理部は、キャリブレーションによって、すべてのエネルギー帯について均一な値が得られるように事前処理することを特徴とする請求項1又は2に記載のX線検査装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかのX線検査装置において、前記被検査物をX線の照射領域に搬入搬出する搬送部を備えたX線検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物にX線を照射することによって被検査物内に含まれる異物の検出を行うX線検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鶏肉中の骨の検出や、シリアル内の異物の検出など、難検出異物のニーズが非常に高まっている。
【0003】
従来の異物検出装置としては、X線の透過画像を用いたインライン検査装置が知られているが、被検査物と異物との差が少なく、高度な画像処理を用いても安定した検出が困難となっている。
【0004】
そこで、デュアルエナジーセンサを用いて、難検出異物を検出可能にする取り組みがなされている(たとえば、特許文献1参照)。このセンサは、2種のエネルギー特性の異なるセンサを用いて、同時に検査物を撮像するもので、コントラストの異なる2枚の画像を得ることができる。この2枚の画像を差分処理することにより、被検査物の影響を排除し、異物のみを抽出する技術をエネルギーサブトラクションと呼んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のエネルギーサブトラクション技術を用いても、たとえば鶏肉の中の骨(特に、三角骨などの柔らかい骨)は検出が困難である。その理由は、骨のエネルギー吸収特性が被検査物と似ているために、サブトラクションするといずれも同時に消し去られてしまう事による。
【0007】
これをサブトラクション技術によって、骨を抽出できるようにするためには、鶏肉に敏感なエネルギー帯を持つ画像と、骨に敏感なエネルギー帯を持つ画像を用いてサブトラクションを行うことが必要となる。
【0008】
通常は、低エネルギーのX線に感度の高いセンサ(Sセンサ)と、高エネルギーのX線に感度の高いセンサ(Hセンサ)の2種を使用して、X線透過の濃淡値画像を得るが、サブトラクションで骨を抽出できるほど、鶏肉または骨に適したエネルギー帯を持っていないので、サブトラクションを行っても骨の抽出は困難になっている。
【0009】
また、SセンサとHセンサはハードウェアとしてエネルギー帯が固定されているので、もし鶏肉の骨の抽出が成功したとしても、他の検査物に対しては有効なエネルギー帯でないことがあり、汎用性に乏しいという問題もある。
【0010】
以上により、本発明は、どのような被検査物であっても、そこに含まれる異物を際立たせることのできる汎用性の高いX線検査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るX線検査装置は、
被検査物にX線を照射するX線源と、
被検査物の透過X線に含まれる複数のエネルギー帯のX線を検出して画素ごとのエネルギースペクトルを出力するマルチエナジーセンサと、
前記複数のエネルギー帯の中から異物検出に適する二種類のエネルギー帯を選び出し、選び出した二種類のエネルギー帯に対応する画像から、エネルギーサブトラクションによって異物を検出する画像処理部と、を備えたものである。
【0012】
従来のエネルギーサブトラクションでは、2種の固定されたエネルギー特性を持つセンサを利用していたため、被検査物に応じて適切なエネルギー帯を選べなかったが、マルチエナジーセンサでは、複数のエネルギー帯の画像を得ることができるので、撮像後に、適切なエネルギー帯の画像を選んで処理することができる。つまり、組成の異なる被検査物と異物では、それぞれのX線吸収率が異なるので、それぞれに特徴的なエネルギー帯を事前に求め、撮像後に、求めたエネルギー帯の画像を使ってエネルギーサブトラクションを行う事により、異物を検出するのである。
【0013】
たとえば、鶏肉の中の骨の検査ならば40keVと60keVの2種のエネルギー帯を用いることによって、効率的なサブトラクションが実施できる。どのエネルギー帯を選ぶことが最も効率的に異物を検出できるかは、事前に被検査物と異物のサンプルを用いて選択しておくことで可能となる。
【0014】
例えば、事前のセットアップとして、鶏肉およびその内部またはその表面に検出したい骨のサンプルを取り付けて、鶏肉のマルチエナジー画像を取得し、その中からある2種のエネルギー帯のみを取り出した画像を生成する。これらのエネルギー帯をE1={ε|εi1<ε<εj1}, E2={ε|εi2<ε<εj2}、E1の画像をP1、E2の画像をP2とする。また、ある画素(x, y)における、P1とP2の濃淡値をそれぞれp1(x, y),p2(x, y)とする。
【0015】
そして、エネルギーサブトラクションを実施した画像のコントラストをc(x, y)とすると、c(x, y)=|p1(x, y)-αp2(x, y)|, 0≦α≦1で与えられ、これをコントラスト画像と呼ぶことにする。αは後に決定されるパラメータである。
【0016】
いまは事前のセットアップを行っている段階であるので、鶏肉のみの画素と、骨の取り付けられた画素は判明しており、それぞれの画素を(xA, yA), (xB, yB)として、サブトラクションの結果、鶏肉と骨のコントラストの差が最も大きくなるように、つまり、|c(xA, yA)-c(xB, yB)|の最大値を与えるように、パラメータ(εi1, εj1, εi2, εj2,α)を設定すればよい。
【0017】
その設定には、例えばパラメータ(εi1, εj1, εi2, εj2,α)をスイープして最大値を与えるものを選択すればよい。異物を検出する際には、上記の事前セットアップにて決定したパラメータ(εi1, εj1, εi2, εj2,α)を用いて、画像のc(x, y)を計算して画像化すれば、骨のみが抽出された画像を得ることができる。
【0018】
なお、ここでは説明の簡単化のために(xA, yA), (xB, yB)という点で表したが、これらは領域を持った範囲に拡張し、平均化された濃淡値を用いてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、マルチエナジーセンサの使用によって複数のエネルギー帯の画像を得ることができ、その中から異物検出に適する二種類のエネルギー帯の画像を使ってエネルギーサブトラクションを行うので、種々の被検査物であっても、それぞれに含まれる異物を際立たせることができる。したがって、汎用性の高いX線検査装置を市場に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第1および第2実施形態に係るX線検出装置の外観図。
【
図2】本発明の第1実施形態に係るX線検査装置の筐体内部の模式図。
【
図4】ラインセンサユニットによって撮像された検査物の画像。
【
図8】ラインセンサユニットのキャリブレーション後のデータ。
【
図9】鶏肉と骨について、画素ごとに全エネルギーのデータの和を撮った画像。
【
図11】十分に鶏肉と骨が分離できていない画像の例。
【
図12】最適なパラメータを確定する事前セットアップのフローチャート。
【
図14】鶏肉と骨を分離したうえで2値化した画像の例。
【
図15】本発明の第2実施形態に係るX線検査装置の筐体内部の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態に係るX線検査装置100について図面を参照しながら説明する。
【0022】
本実施形態に係るX線検査装置100は、
図1及び
図2に示すように、食品等(例えば鶏肉や袋入りの複数のソーセージ等)の被検査物600の検査を行うX線検査装置であって、主として、被検査物600を搬送する搬送部500と、被検査物600にX線を照射するX線源200と、X線源200から照射されるX線を検知するセンサユニット300と、
図5の画像処理部400とを備えている。
図5にはX線検査装置の構成図を示す。
【0023】
上記のX線検査装置100は、主として食品の内部に混入した異物を検出するために用いられる。食品の生産現場などに設置され、X線による透視画像を用いて食品の内部を観察し、X線画像を目視検査、又は解析することによって、混入した異物を検出する仕組みである。
【0024】
このX線検査装置100では、筐体Mの内部において、搬送部500で被検査物600を搬送しながらX線を照射し、被検査物600を透過したX線を逐次ラインセンサユニット300で受光する。受光したデータは、ラインセンサユニット300内部の電子基板(図示しない)によってデジタルデータに変換され、画像処理部400に転送される。画像処理部400では、二次元の透過X線画像を生成して被検査物600に異物があるかどうかを解析して判断する。結果は、
図1のディスプレイMTに表示され、操作者が異物の有無を知ることができる。また、同時に被検査物のX線画像上に異物混入の場所が示される。
【0025】
(搬送部)
搬送部500は、被検査物600を検査室内に搬送するために設けられている。この搬送部500は、ベルトコンベア、トップチェーンコンベア、回転テーブルなど様々な搬送機構を使用することが可能である。最も一般的なものは、ベルトコンベヤ方式のもので、搬送部500の前後のプーリー間に樹脂製の搬送ベルト510が取り付けられている。
図1の検査室の出入口には、X線が漏洩するのを防ぐために、重金属を配合した樹脂製の短冊状のカーテン550が取り付けられている。
【0026】
(X線源)
X線源200は、搬送部500により検査位置まで搬送される被検査物600にX線を照射する。このX線源200から照射されるX線には、低エネルギー(長波長)から高エネルギー(短波長)までの様々なエネルギー帯のX線が含まれている。なお、低エネルギーおよび高エネルギーと記載したが、この「高」および「低」は、X線源200から照射される複数のエネルギー帯の中で相対的に「高い」および「低い」のであって、特定の範囲を示すものではない。以下、同様である。
【0027】
(マルチエナジーセンサユニット)
図2のX線源200から照射されるX線には、高エネルギー帯のX線から低エネルギー帯のX線まで幅広く含まれている。マルチエナジーセンサユニット300は、エネルギー分解能の高いセンサである。また、このセンサユニット300は、画素が1列に並んだラインセンサタイプで、
図4に示すように搬送部500で搬送される被検査物600をライン毎に撮像し、これらは後述の制御装置に入力されて2次元画像に合成される。さらにこのセンサユニット300は、
図6に示すように、受光部350と制御部360を備え、外部から制御することが可能な外部入力インターフェース370と、データの出力等に使用される外部出力インターフェース380を備えている。受光部350で検出した複数のエネルギー帯のX線を制御部360が分析することによって、画素ごとのエネルギースペクトルを出力するようになっている。
【0028】
(制御装置)
制御装置は、X線源200、搬送部500、センサユニット300やその他の機器を含む、X線検査装置100全体を制御するとともに、センサユニット300から得られたデータも演算処理する画像処理部400を備えている。この画像処理部400は、コンピュータで構成され、内蔵のプログラムを実行することにより、センサユニット300から送られてきたデータを処理して、画素ごとにエネルギースペクトルを持ったマルチエナジー画像を生成する。また、このマルチエナジー画像を演算処理することによって、被検査物の中に入っている異物を検出し、ディスプレイ910に表示したり、ブザー920による警告を発したりして、操作者に異物の検出を伝える。
【0029】
(マルチエナジーセンサによる画像の生成)
次に画像処理部400による処理を具体的に示す。
【0030】
(撮像設定)
X線を照射し被検査物600を搬送部500にて搬送し、ラインセンサユニット300(
図6)で撮像する際には、被検査物600の1画素の移動に要する時間ごとにシャッターを切り、
図3のように被検査物600を短冊状に撮像していく。そしてライン上の画像をデータとして制御装置に転送する。例えば、搬送方向の長さが1mmの画素であり、搬送速度が30m/分であればシャッター時間は、下記数式1となる。
【0031】
【0032】
(事前の準備)
次にマルチエナジーセンサ300で撮像するための事前準備として、被検査物600が何もない場合に均一なデータが正しく得られるようキャリブレーションを行う。例えば、ベルトコンベヤの搬送ベルト510や、ラインセンサユニット300のカバー370等、被検査物が無かったとしても何らかのX線吸収体が存在するので、これらの影響を調べておくためである。また、ラインセンサ自体にも画素によって感度のばらつきがあるので、これらも同時に測定しておく意味もある。
【0033】
(マルチエナジーセンサのダイナミックレンジの設定)
通常のラインセンサにおける、上記のバックグラウンド補正では、画素ごとに明るさを調整するのみであるが、マルチエナジーセンサ300では、画素ごとにスペクトルを収集するため、スペクトルの補正も必要となる。この方法について、以下で具体的に述べる。
【0034】
たとえば管電圧V(kV)のX線を照射する場合を考える。被検査物が無く、X線が照射されていない状態における画素zのエネルギー帯ε~ε+ΔεのラインセンサユニットからのデータをID(V, z, ε)とする。一方、被検査物が無く、X線が照射された状態における、画素zのエネルギー帯ε~ε+Δεのラインセンサユニット300からのデータをIB(V, z, ε)とする。大前提として、センサの受光容量がオーバーフローしてしまうと計測ができなくなるので、IB(V, z, ε)がラインセンサユニット300の規定の値を超えないように、管電流の値を調整する必要がある。例えば、IB(V, z, ε)の最大値がラインセンサユニットの計測容量の90%となるように、管電流の値を小さくする。
【0035】
マルチエナジーセンサ300では、X線源200からのエネルギーもスペクトル化するが、X線源200から各画素に到達する全エネルギーは一定と考えられ、I
B(V, z, ε)のεに対する総和は一定と考えられるのでI
B(V, z)=Σ
εI
B(V, z, ε)について均一化を図る。するとラインセンサユニット300の位置関係や画素ごとのバラツキなどにより、出力が
図7のように得られる。
【0036】
このように画素ごとにばらつきがある状態では、後の処理が煩雑になるため均一になるようにキャリブレーションを実施する。つまり、どの画素をとってもI
B(V, z)とI
D(V, z)が
図8のように一定にする。
図7の横軸をξとして表す直線である数式2が、
図8を表す直線の数式3に、ξにたいして恒等的に一致するような変換I'(V, z)=aI(V, z)+bを求めればよく、数式4、および数式5となる。
【0037】
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
このようにしてキャリブレーションパラメータa, bが求まれば、以降はラインセンサユニット300からの生データをI'(V, z)=aI(V, z)+bで変換して使用することとする。このダイナミックレンジの設定は、ある管電圧V(kV)に対して有効なものであって、管電圧がV‘(kV)に変更されると、再度キャリブレーションを設定直す必要がある。
【0042】
このキャリブレーションによる変換は、電子回路的にゲイン回路・オフセット回路によって設定してもよく、あるいはデジタル化されたデータを制御装置によってデジタル演算してもよい。このラインセンサユニットのダイナミックレンジは、例えば12ビットであれば余裕をもってID0=500、IB0=3500のように決定される。
【0043】
(被検査物の撮像)
ラインセンサユニット300から転送されたデータは、制御装置内部のメモリによって逐次格納されていき、被検査物600が通り過ぎた後、すなわち、この撮像はあらかじめ設定された撮像長さLに達するまで継続する。長さLは、被検査物600のバラツキや、撮像処理上のバッファの大きさなどに応じて、余裕をもって被検査物600より長めに設定される。このようにしてメモリに蓄えられたデータをつなぎ合わせて被検査物600の画像が生成される。
【0044】
(検査画像の表示)
マルチエナジーセンサ300のデータは、画素ごとにスペクトルを持っているので、上記の撮像結果は、例えば、画素ごとに全スペクトルを足し合わせたものを表示し、操作者に被検査物の画像を認識しやすくしてから、ディスプレイ910に表示する。これは操作者が分かりやすいように表示するためのものであって、実際には各画素がエネルギースペクトルを保持しており、スペクトルデータはメモリに格納されている。
【0045】
図9では、この繋ぎ合わされた画像で、画素ごとに全エネルギーについて和を取ったものを示す。なお、バックグラウンドはあらかじめ測定されたデータを利用して、均一になるように画素ごとにエネルギーごとにダイナミックレンジを調整している。
【0046】
例えば、マルチエナジーセンサ300の性能が、20keVから148keVまでの2keVごとにエネルギー帯を64段階に区切ってデータ収集できるならば、64枚のエネルギースライス画像ができることになる。
図10では、64枚のエネルギースライス画像が示されており、各画像がそれぞれのエネルギー帯ε
k(k=0, 1 , 2 ,…,63)に相当している。図では左上から右に向かってk=0, 1 , 2 ,…の順で並んでいる。なお、あらかじめ上記に示した、キャリブレーションが実施されている。
【0047】
(適切な2枚の画像を選ぶ方法)
次にエネルギーサブトラクションに適した2枚の画像を選ぶ方法を、具体的な例を用いて示す。
【0048】
事前セットアップとして、
図9の管電圧100kVの設定にて、鶏肉に骨のサンプルを取り付けて撮像を行い、。得られた画像を例として説明する。
【0049】
図10に示されたエネルギー帯毎のスライス画像において、E
1の画像P
1とE
2の画像P
2を求める。これは、
図10の64枚のスライス画像からE
1の範囲のスライス画像を選び出して、画素ごとに平均化した画像を生成することで画像P
1が得られる。画像P
2についても同様である。たとえば、ε
i1=26keV, ε
j1=32keV, ε
i2=48keV, ε
j2=86keV, α=0.71において、画素ごとにc(x, y)=|p
1(x, y)-αp
2(x, y)|を求めたコントラスト画像を
図11に示す。すると鶏肉と骨が十分に分離できていないことが分かり、鶏肉のみの画素(または領域)を(x
A, y
A)、骨の写っている画素(または領域)を(x
B, y
B)として、|c(x
A, y
A)-c(x
B, y
B)|が最大となっていないことが分かる。
【0050】
図12のフローチャートに例示するように、パラメータε
i1, ε
j1, ε
i2, ε
j2, αをスイープして|c(x
A, y
A)-c(x
B, y
B)|が最大となるパラメータを求める。ここで、ε
i1, ε
j1, ε
i2, ε
j2はセンサのエネルギー分割性能である2keVごとにスイープするが、αはたとえば0.01ごとにスイープすれば十分な結果が得られる。このようにして求めたパラメータε
i1=22keV, ε
j1=52keV, ε
i2=28keV, ε
j2=58keV, α=0.40を使用して画像化した結果を
図13に示す。この画像では、鶏肉と骨が分離できていることが分かる。
【0051】
より明確にするために、この画像に二値化処理を行ったものが
図14で、鶏肉が除去され骨のみがはっきりと抽出されていることが分かる。二値化処理とは、ある一定の閾値を設けて、それ以上に明るい画素は白色、それ未満の明るさの画素は黒色に塗りつぶす処理のことで、この処理を行う事によって異物のみをより鮮明に表示することが可能となり、また、コンピュータの演算装置によって異物の位置を自動検出するのも容易となる。
【0052】
インラインで実際に検査を行う際には、被検査物600が撮像されるごとに、決定したパラメータを用いてコントラスト画像を生成し、二値化処理を行い、骨だけが検出されるように閾値を適切に設定する。
【0053】
なお、これらの画像では、被検査物600以外の領域の部分にランダムノイズが乗っているが、これは撮像の直後に被検査物600の有無を検出するマスキング処理によって排除可能である。具体的には、マスクをする閾値を設定しておき、ある一定の明るさ以上の領域は、被検査物600が無いと判定して演算に参加させないようにする。このマスキングによって演算処理も省くことができるので、より高速な異物検出を実施可能になるというメリットもある。
【0054】
(最適な管電圧の設定)
上記の方法による異物検出は、X線源の管電圧を最適に設定することによって、更に異物検出の効果を高めることができる。逆に適切でない管電圧設定では、十分な効果が得られないこともある。
【0055】
上記の方法をX線源が照射可能な管電圧について、スイープすることによって、最も異物のみを検出しやすい管電圧を求めることが可能となる。
【0056】
[第2実施形態]
以下、本発明の第2実施形態に係るX線検査装置101について図面を参照しながら説明する。
【0057】
一般に、X線は、物質を透過すると減衰する。したがって、被検査物を透過したX線と被検査物を透過していないX線とは、エネルギースペクトルの分布が異なる。そのため、被検査物が無い状態における各画素の感度の均一化を図るのとは別に、X線が照射されていない状態での検出値と、被検査物(後述するサンプル600)が有り、X線が照射されている状態での検出値とを用いて、被検査物(サンプル600)がある状態における各画素の感度の均一化を図ることが望ましい。これにより、被検査物を透過していないX線のエネルギースペクトル分布に対するキャリブレーションとは別に、被検査物を透過したX線のエネルギースペクトル分布に対するキャリブレーションを行うことができる。
【0058】
ここで、第2実施形態のX線検査装置101は、事前の準備の際に、被検査物とほぼ同等のX線透過(吸収)を行うサンプル610に対してX線を照射することにより、被検査物が有る状態におけるキャリブレーションを行うことができるように構成されている。なお、上記第1実施形態と同一の構成については、同じ符号を付してその説明を省略する。
【0059】
(サンプル)
X線検査装置101は、筐体M内かつ搬送面510の上方に、
図15に示すように、サンプル610(サンプル610aおよびサンプル610b)を備えている。サンプル610(サンプル610aおよびサンプル610b)は、図示しない駆動機構(アクチュエーター)により、少なくともX線源200から照射され受光部350に到達するX線の全てが通過しない(上記受光部350に到達するX線の全てに干渉しない)位置である退避位置と、少なくともX線源200から照射され受光部350に到達するX線の全てが通過する位置である進出位置との間を移動するように構成されている。具体的には、
図15に示すサンプル610aにおいて、退避位置は点線で示された位置であり、進出位置は実線で示された位置である。サンプル610bについても、同様の移動が可能である。なお、サンプル610(サンプル610aおよびサンプル610b)は、少なくとも退避位置において搬送される被検査物600に干渉しない位置に配置される。また、サンプル610(サンプル610aおよびサンプル610b)は、各画素に入射するX線の条件を揃えるために、少なくともX線の通過を受ける部分において、厚さ(搬送面に垂直な方向における長さ、又は、各部分とX線源の中心とをそれぞれ結ぶ方向における長さ)および組成が均一となるように構成されている。
【0060】
サンプル610の移動は、たとえば、(後述する)事前の準備においてキャリブレーションの設定を立ち上げた際に制御部361により自動的に進出位置まで進出させるように構成されている。また、作業者による(搬送面510上に載置物がないか等を確認してからの)操作入力に基づいて、サンプル610が進出位置まで進出させられるように構成してもよい。また、この際に、サンプル610aまたはサンプル610bのうち、被検査物600に応じた適切な一方が選択され(進出し)、キャリブレーションに用いられる。
【0061】
(事前の準備)
第2実施形態では、X線が照射されていない状態における画素zのエネルギー帯ε~ε+ΔεのラインセンサユニットからのデータであるID(V, z, ε)と、(被検査物が無く、)サンプル610が進出位置に有り、X線が照射された状態(すなわち、受光部350に入射するX線の全てがサンプル610を通過している状態)における、画素zのエネルギー帯ε~ε+Δεのラインセンサユニット300からのデータであるIB(V, z, ε)とに基づいてキャリブレーションが行われる。キャリブレーション(および、ダイナミックレンジの設定等)のその後の処理手順については、第1実施形態と同様である。なお、第1実施形態と同様に、サンプル600(および被検査物)が無い場合のキャリブレーションについても別途実施し、X線のサンプル600の通過がある(サンプル600が通過位置に有る)場合および通過が無い(サンプル600が退避位置に有る)場合のキャリブレーションの設定値を各々記憶し、必要に応じて使い分けられるように構成してもよい。
【0062】
なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0063】
[変形例]
なお、上記第1実施形態では説明の簡単化のために(xA, yA),(xB, yB)という点(画素)を対象とする例を示したが、領域を持った範囲(複数画素の占める領域)に拡張し、平均化された濃淡値や、領域内の濃淡値の最大値あるいは最小値、もしくは中央値などを用いてもよい。
【0064】
また、上記第2実施形態では、サンプル610をX線検査装置の搬送部500の上方に配置する例を示したが、搬送部500の下方に配置してもよい。サンプル610は、受光部350に入射するX線の全てが通過する位置であれば、どのように配置されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
100 X線検査装置
200 X線源
300 ラインセンサユニット
350 ラインセンサユニットの受光部
400 X線検査装置の制御装置の画像処理部
500 X線検査装置の搬送部
600 被検査物