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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】硯装置
(51)【国際特許分類】
   B43M 99/00 20100101AFI20220527BHJP
【FI】
B43M99/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018081922
(22)【出願日】2018-04-21
(65)【公開番号】P2019188654
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-12
(73)【特許権者】
【識別番号】514257000
【氏名又は名称】三洋展創工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126675
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 将彦
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 義紘
【審査官】小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】実公昭48-018261(JP,Y1)
【文献】実開昭61-022697(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硯材を上面の少なくとも一部の領域に有する硯基材と、
前記領域の少なくとも一部が露出する開口部を内側に有し、当該開口部を囲むように、前記硯基材の上面を覆う、非透水性の弾性部材と、
前記弾性部材の上に配置される押さえ部材と、
前記押さえ部材が前記弾性部材を前記硯基材に押さえ、それにより前記弾性部材が前記硯基材の上面を水密に覆うように、前記押さえ部材と前記硯基材とを、前記弾性部材を挟んで着脱可能に締結する締結部材と、を備える硯装置。
【請求項2】
前記開口部が複数の単位開口部に分割されている、請求項1に記載の硯装置。
【請求項3】
硯材を上面の少なくとも一部の領域に有する板状の硯基材と、
内周に沿って全周にわたる溝が形成され、当該溝に前記硯基材の辺縁部が水密に嵌め込まれた非透水性かつ環状の弾性部材と、を備える硯装置。
【請求項4】
前記硯基材は、前記硯材を含む上部基材と、当該上部基材とは別体であり、当該上部基材の下方にあって、当該上部基材よりも、曲げ変形が小さくかつ曲げ強度が高く、それにより前記上部基材を補強する下部基材と、を含む、請求項1から3のいずれかに記載の硯装置。
【請求項5】
前記硯材は、砥粒を含有する、熱硬化性樹脂またはゴムである、請求項1から4のいずれかに記載の硯装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色の墨あるいは彩墨等の墨を擦るための硯装置に関する。
【背景技術】
【0002】
伝統的な硯は、その全体が硯石により形成されており、墨汁が周囲に漏れ落ちないように、墨を擦る面よりも高い壁を四周に設けるなど、加工が施されている。そのために、重量が大きく、かつ高価であるという問題点があった。また、使用を続けるのに伴い、墨を擦る面が摩耗すると、高価な硯全体を新調する必要があった。
【0003】
かかる問題を解決することを目指すものして、特許文献1~4に開示される硯が提案されている。特許文献1に開示される硯は、伝統的な硯の形状をした合成樹脂製の本体と、その上面を覆うように配設される薄板状の硯材とを有している。硯材は、表面に硬質陽極酸化被膜が施されたアルミニウム又はアルミニウム合金の薄板材である。特許文献2に開示される硯は、平底(ひらぞこ)の容器に平坦な板状の硯石が装填され、この硯石が容器底部に接着された構造を成している。特許文献3に開示される硯は、伝統的な硯の形状をしたガラス製の硯であり、墨を擦る面にはブラスト加工による粗面が形成されている。特許文献4に開示される硯は、合成樹脂製の平底の容器に、合成樹脂製の平板と、くさび板状の硯材とが重ねて収容された構造を成している。平板と硯材とは、容器内において一定程度、横滑りに移動できるように、容器の広さに対して、余裕のある幾分小さい寸法に設定される。
【0004】
しかし、特許文献1に開示される硯は、簡単な形状とは言えない伝統的な硯の形状をした本体を要するのに加え、薄板状の硯材は、本体の溝に嵌合することにより本体の上に配置されるものであることから、硯材の着脱が容易でない、という問題を有している。墨汁は硯材と本体との間に回り込むために、使用後には硯材を本体から取外して洗浄することが望まれるが、それを容易に行うことができない。また、摩耗に伴う硯材の交換も容易ではない。
【0005】
特許文献2に開示される硯は、板状の硯石が容器底部に接着されており、硯石の着脱はできない構造となっている。容器と板状の硯石との間には、墨汁が浸入することから、使用後には硯石を容器から取外して洗浄することが望まれるが、それを行うことができない。また、摩耗に伴う硯材の交換も不可能である。
【0006】
特許文献3に開示される硯は、ガラス製であることから、硯石を材料とする伝統的な硯よりは安価に製造することが可能であろうが、それでもなお、簡単とは言えない伝統的な硯の形状を成すので、相当の製造コストを要する。また、墨を擦るための粗面が、使用に伴って摩耗しても、硯全体の交換を要する点も、伝統的な硯と変わりがない。
【0007】
特許文献4に開示される硯は、容器に収容される平板と硯材とが、容器に固定されず、かつ容器の広さに対して余裕のある寸法であるので、平板と硯材とを容器に容易に出し入れすることができる。このため、使用後には、平板と硯材とを容器から取り出して、容器と共に洗浄することができる。また、使用に伴って硯材が摩耗したときに、硯材のみを交換することも容易である。しかし、容器、平板、硯材の3つの部材が、互いに固定されていないので、持ち運びに不便である、という問題がある。
【0008】
なお、特許文献5及び6には、着脱可能で、両端部が平坦なリベットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】実開昭48-83039号公報
【文献】実開昭53-73032号公報
【文献】実開平6-16094号公報
【文献】実開平6-34997号公報
【文献】特許第5840725号公報
【文献】特開2018-31422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、硯石のみからなる伝統的な硯よりも軽量かつ安価であり、使用後の洗浄が容易であり、墨を擦るための硯材の交換が容易で、かつ持ち運びに便宜な硯装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し上記目的を達成するために、本発明のうち第1の態様によるものは、硯装置であって、硯基材と、弾性部材と、押さえ部材と、締結部材と、を備えている。硯基材は、硯材を上面の少なくとも一部の領域に有している。弾性部材は、前記領域の少なくとも一部が露出する開口部を内側に有し、当該開口部を囲むように、前記硯基材の上面を覆う、非透水性の構成要素である。押さえ部材は、前記弾性部材の上に配置される。締結部材は、前記押さえ部材が前記弾性部材を前記硯基材に押さえ、それにより前記弾性部材が前記硯基材の上面を水密に覆うように、前記押さえ部材と前記硯基材とを、前記弾性部材を挟んで着脱可能に締結する。
【0012】
この構成による硯装置は、締結部材を締結することにより使用に供される。開口部を有する弾性部材が、開口部を囲むように硯基材の上面を水密に覆うので、この開口部に水を注入し、注入した水を保持することができる。開口部には、硯材が露出するので、この開口部に墨を挿入し、硯材の上面で擦ることができる。それにより、注水された水が墨汁に変わる。開口部に溜められた墨汁を、書画の作成等に使用することができる。使用後には、締結部材を取外すことなく、開口部を水洗いするのみで、墨汁を洗い流すことができる。硯材が摩耗すれば、締結部材を取外すことにより、硯基材のうち硯材を含む一部、又は硯基材を交換することができる。このように、本構成による硯装置は、硯として使用することができ、使用後の洗浄が容易であり、また硯材の交換が容易である。しかも、本構成による硯装置は、締結部材を外さない通常時には、硯基材、弾性部材、及び押さえ部材が互いに分離せず、締結されているので、持ち運びに便宜である。さらに、本構成による硯装置は、硯材として硯石を使用する場合でも、硯基材の上面部のみを硯石とすれば足りるので、硯石のみからなる伝統的な硯よりも、軽量かつ安価に構成可能である。
【0013】
本発明のうち第2の態様によるものは、第1の態様による硯装置であって、前記開口部が複数の単位開口部に分割されている。
【0014】
この構成によれば、複数の開口部の間は、弾性部材により水密に保たれるので、各開口部で、色や濃さの異なる墨汁を作り、溜めることができる。
【0015】
本発明のうち第3の態様によるものは、硯装置であって、硯材を上面の少なくとも一部の領域に有する板状の硯基材と、内周に沿って溝が形成され、当該溝に前記硯基材の辺縁部が水密に嵌め込まれた非透水性かつ環状の弾性部材と、を備えている。
【0016】
この構成による硯装置は、非透水性で環状の弾性部材の内周に沿って溝が形成され、この溝に、板状の硯基材の辺縁部が水密に嵌め込まれているので、弾性部材に囲まれた硯基材の上面に、水を注入し、注入した水を保持することができる。硯基材の上面の少なくとも一部の領域には、硯材が存するので、当該領域で墨を擦ることができる。それにより、注水された水が墨汁に変わる。弾性部材に囲まれた硯基材の上面に溜められた墨汁を、書画の作成等に使用することができる。使用後には、開口部を水洗いするのみで、墨汁を洗い流すことができる。弾性部材を弾性的に変形させることにより、当該弾性部材から硯基材を取外すことができるので、硯材が摩耗すれば、硯基材のうち硯材を含む一部、又は硯基材を交換することができる。このように、本構成による硯装置は、硯として使用することができ、使用後の洗浄が容易であり、また硯材の交換が容易である。しかも、本構成による硯装置は、硯基材及び弾性部材が互いに分離せず、一方が他方に嵌め込まれているので、持ち運びに便宜である。さらに、本構成による硯装置は、硯材として硯石を使用する場合でも、硯基材の上面部のみを硯石とすれば足りるので、硯石のみからなる伝統的な硯よりも、軽量かつ安価に構成可能である。
【0017】
本発明のうち第4の態様によるものは、第1から第3のいずれかの態様による硯装置であって、前記硯基材は、前記硯材を含む上部基材と、当該上部基材とは別体であり、当該上部基材の下方にあって、当該上部基材よりも、曲げ変形が小さくかつ曲げ強度が高く、それにより前記上部基材を補強する下部基材と、を含んでいる。
【0018】
この構成によれば、硯材を含む基材部分である上部基材が、補強のための基材部分である下部基材とは別体であり、かつ下部基材よりも曲げ変形が大きく、曲げ強度が低くて足りるので、硯材を含む上部基材を低コストで容易に製造することができる。また、硯材を交換するときには、上部基材のみを交換すれば足りる。
【0019】
本発明のうち第5の態様によるものは、第1から第4のいずれかの態様による硯装置であって、前記硯材は、砥粒を含有する、熱硬化性樹脂またはゴムである。
【0020】
この構成によれば、硯材の材料が伝統的な硯石に比べて低廉であるので、硯材の製造コストが節減される。
【発明の効果】
【0021】
以上のように本発明によれば、硯石のみからなる伝統的な硯よりも軽量かつ安価であり、使用後の洗浄が容易であり、墨を擦るための硯材の交換が容易で、かつ持ち運びに便宜な硯装置が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施の形態による硯装置の構成を例示する斜視断面図である。
図2図1の硯装置の硯基材の様々な変形形態を例示する断面図である。
図3】本発明の別の実施の形態による硯装置の構成を例示する図であり、(a)は斜視図であり、(b)は正面図である。
図4】本発明のさらに別の実施の形態による硯装置の構成を例示する図であり、(a)は斜視断面図であり、(b)及び(c)は、一部部材の断面形状を例示する正面断面図である。
図5】本発明のさらに別の実施の形態による硯装置の一部の構成を例示する斜視断面図である。
図6図1の硯装置を適用した回転式墨擦機の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の一実施の形態による硯装置の構成を例示する斜視断面図である。この硯装置101は、硯基材1、弾性部材3、押さえ部材5、及び締結部材7を有している。硯基材1は、墨を擦る硯材を含む上部基材11と、上部基材11の下方にあって、上部基材11を補強する下部基材13とを有している。図示の例では、上部基材11は、円形の薄板状であり、その全体が硯材により形成されている。
【0024】
硯材は、伝統的な硯石であってもよく、墨を擦ることのできる他の材料であってもよい。人工の硯材として、砥粒を含有する熱硬化性樹脂、あるいは砥粒を含有するゴムが望ましい。これらは、伝統的な硯石よりも低廉であり、かつ様々な形状に形成することが可能であり、薄板状あるいはシート状に形成することも可能である。熱硬化性樹脂は、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、及びウレタン樹脂である。ゴムは、例えばクロロプレンゴムである。中でも、エポキシ樹脂は、色彩を様々に設定することができるので、彩墨用に適している。砥粒は、例えば珪砂、アルミナ、シリカ、炭化ケイ素、人工ダイヤモンドである。
【0025】
下部基材13は、墨を擦るための圧力に対する上部基材11の耐性を高めるように、上部基材11を補強する役割を果たす。このため下部基材13は、上部基材11よりも、曲げ変形が小さくかつ曲げ強度が高くなるように、材料及び形状が設定される。例えば、下部基材13は、上部基材11よりも厚く形成され、その材料には、合成樹脂あるいは金属が選ばれる。図示の例では、下部基材13は、円形の厚板状である。上部基材11は下部基材13とは別体であり、下部基材13の上に重ねられている。
【0026】
弾性部材3は、環状であり、硯基材1の円環状の周縁領域を覆うように、硯基材1の上に配置されている。弾性部材3は、非透水性であり、一例としてゴム製である。図示の例では、弾性部材3は、断面が矩形であり、硯基材1の上面に面接触している。
【0027】
押さえ部材5は、環状であり、弾性部材3の上に配置されている。図示の例では、押さえ部材5は、弾性部材3と径方向の幅が同一であり、かつ断面が矩形であり、弾性部材3の上面に面接触している。押さえ部材5の材料は、例えば合成樹脂、金属である。押さえ部材5の上面には、筆先を揃えるための凹凸を形成してもよい。
【0028】
硯基材1の円環状の周縁領域には、上面から下面まで貫通する複数の貫通孔15が、周方向に沿って配置されている。図示の例では、4個の貫通孔15が、互いに等間隔に配置されている。弾性部材3及び押さえ部材5にも、硯基材1の貫通孔15に対応する部位に、貫通孔17,19がそれぞれ形成されている。
【0029】
締結部材7は、一例として、ボルトとナットの組である。締結部材7を構成するボルトが、貫通孔15,17,19に挿通され、ボルトの先端部に形成された雄ねじに、ナットを螺合させ、締めることにより、硯基材1と押さえ部材5とが、弾性部材3を挟んで着脱可能に締結される。このとき、弾性部材3は、硯基材1と押さえ部材5とから、押圧力を受け、幾分かの弾性変形を被る。このため、弾性部材3は硯基材1を水密に覆うこととなる。
【0030】
環状の弾性部材3及び押さえ部材5の内側の開口部21に水を注入すると、注入された水は、硯基材1を水密に覆う弾性部材3により、開口部21内の硯基材1の上に、漏れることなく保持される。硯基材1の上面には、硯材が形成されているので、開口部21に墨を挿入し、硯材の上面で擦ることができる。それにより、注水された水が墨汁に変わる。開口部21に溜められた墨汁を、書画の作成等に使用することができる。使用後には、締結部材7を取外すことなく、開口部21を水洗いするのみで、墨汁を洗い流すことができる。硯材が摩耗すれば、締結部材7を取外すことにより、上部基材11を交換することができる。
【0031】
図2は、硯基材1の様々な変形形態を例示する断面図である。図2(a)~(c)に例示する硯基材1は、いずれも、互いに別体の上部基材11と下部基材13とに分離されておらず、いわば、上部基材11と下部基材13とが一体に形成された構造を有している。図2(a)に例示する硯基材1は、基材本体23の上面に硯材25が形成されている。この硯基材1は、例えば、板状の基材本体23の上面に、硯材25として、砥粒を含むエポキシ樹脂の層を形成することにより、形成することができる。基材本体23の材料は、例えば、下部基材13(図1)の材料と同じである。貫通孔15は、例えば、基材本体23の上面に硯材25を形成した後に、孔明加工することにより形成することができる。図2(b)に例示する硯基材1は、基材本体23の上面のうち、周縁領域を除く領域に硯材25が形成されている。この硯基材1は、例えば、基材本体23の上面のうち、周縁領域を除く領域に、平坦で浅い後退面を形成し、この後退面の上に、硯材25として、砥粒を含むエポキシ樹脂の層を形成することにより、形成することが可能である。
【0032】
図2(c)に例示する硯基材1は、図2(b)に例示した硯基材1の上面の一部に、水あるいは墨を擦った後の墨汁を溜める凹陥部27が形成された構造を有している。この硯基材1は、例えば、基材本体23の上面のうち、周縁領域を除く領域に、平坦で浅い後退面を形成し、さらに、この後退面の一部に凹陥部を形成し、これらの後退面と凹陥部の上に、硯材25として、砥粒を含むエポキシ樹脂の層を形成することにより、形成することが可能である。この場合には、図2(c)に例示するように、凹陥部27の表面は硯材25の層により覆われる。これとは異なり、図2(b)の硯基材1を形成した後に、凹陥部27を形成してもよい。この場合には、凹陥部27は硯材25に覆われないこととなる。硯材25は、硯基材1の上面のうち、墨を擦る領域に形成されておれば足り、凹陥部27は、墨を擦るには必要としない領域であるので、凹陥部27に硯材25が形成されていなくても、支障はない。
【0033】
図3は、本発明の別の実施の形態による硯装置の構成を例示する図であり、(a)は斜視図であり、(b)は正面図である。この硯装置102は、弾性部材3と押さえ部材5とが、互いに分離された2つの開口部31,33を有している点で、硯装置101とは異なっている。このため、1つの硯装置102を用いて、例えば、二色の彩墨を、互いに墨汁が混じり合うこと無く、擦ることができる。
【0034】
また、硯装置102では締結部材7として、ボルトとナットの組み合わせに代えて、リベットが用いられている。図示の例では、締結部材7は、特許文献5又は特許文献6に開示されるリベットであって、着脱可能であり、両端部が平坦である。着脱可能であるので、上部基材11のみの交換が可能である。また、押さえ部材5の側(すなわち上面側)に突出するリベットの端部が平坦であるので、筆先を開口部31,33に入れたり、開口部31,33から出したりするときに、筆先がリベットの突出する端部に触れることを回避できる。また、硯基材1の側(すなわち底面側)に突出するリベットの端部も平坦であるので、硯装置102を机上などに置いたときに、硯基材1が机上から高く浮き上がらず、見栄えが良い。
【0035】
硯装置102に使用されるリベットは、硯装置101にも使用可能である。また、図2の例では、硯装置102は、平面輪郭形状が矩形である。一般に、硯装置101,102は、円形、矩形だけでなく、様々な平面輪郭形状を採ることが可能である。さらに、開口部31,33は、2個に限定されず、3個以上であっても良い。
【0036】
図4は、本発明のさらに別の実施の形態による硯装置の構成を例示する図であり、(a)は斜視断面図であり、(b)及び(c)は、一部部材の断面形状を例示する正面断面図である。図4(a)に例示する硯装置103は、硯基材1と弾性部材35とを有している。図示の例では、硯基材1は、硯装置101(図1参照)の硯基材1と同一に構成される。弾性部材35は、弾性部材3と同様に非透水性の環状部材であり、一例としてゴム製である。弾性部材35には、その内周に沿って溝37が形成されており、この溝37に硯基材1の辺縁部が水密に嵌め込まれている。
【0037】
溝37の断面形状は、図4(b)に例示するように、アリ溝(dovetail)の形状で、かつ開口幅が硯基材1の厚さよりも幾分小さく設定されるのが望ましい。それにより、硯基材1の辺縁部が溝37に嵌入されたときに、弾性部材35が弾性変形し、硯基材1の上面及び下面に面接触し、かつこれらの面を弾性復元力により押圧する。その結果、弾性部材35と硯基材1との間の水密性が、より効果的に保持される。
【0038】
溝37の断面形状は、図4(c)に例示されるように、奥側が狭く開口側が広い、「ハ」字型に開いた形状であっても良い。この場合、奥側の幅は硯基材1の厚さよりも小さく、開口側の幅は硯基材1の厚さよりも大きく設定される。環状をなす弾性部材35の径は、硯基材1の辺縁部が溝37に嵌入されたときに、溝37の壁面によって、硯基材1の辺縁部の端部が押圧される大きさに設定される。それにより、弾性部材35と硯基材1との間の水密性が保持される。
【0039】
環状の弾性部材35の内側の開口部39に水を注入すると、注入された水は、硯基材1の辺縁部に水密に密着する弾性部材35により、開口部39内の硯基材1の上に、漏れることなく保持される。硯基材1の上面には、硯材が形成されているので、開口部39に墨を挿入し、硯材の上面で擦ることができる。それにより、注水された水が墨汁に変わる。開口部39に溜められた墨汁を、書画の作成等に使用することができる。使用後には、開口部39を水洗いするのみで、墨汁を洗い流すことができる。硯材が摩耗すれば、環状である弾性部材35を弾性的に伸ばすことにより、硯基材1を取外し、上部基材11を新品に交換した上で、硯基材1を弾性部材35に再装着することができる。
【0040】
図5は、本発明のさらに別の実施の形態による硯装置の一部の構成を例示する斜視断面図である。この硯装置104は、硯基材1と弾性部材41とを有している。図示の例では、硯基材1は、硯装置101(図1参照)の硯基材1と同一に構成される。弾性部材41は、オイルシールとして市販される環状部材である。オイルシールである弾性部材41には、ゴム製の環状の弾性部材本体部42に、金属製の環状の補強材43が埋め込まれており、さらに金属製の環状の補強材45が嵌め込まれている。環状である弾性部材本体42には、その内周に沿って溝47が形成されており、この溝47に硯基材1の辺縁部が水密に嵌め込まれている。溝47の断面形状は、奥側が狭く開口側が広い、「V」字型に開いた形状である。開口側の幅は硯基材1の厚さよりも大きく、環状をなす弾性部材41の径は、硯基材1の辺縁部が溝47に嵌入されたときに、溝47の壁面によって、硯基材1の辺縁部の端部が押圧される大きさとなるように選ばれる。それにより、弾性部材41と硯基材1との間の水密性が保持される。硯基材1は、補強材45を弾性部材本体42から外すことにより、弾性部材41に着脱可能である。補強材45を外された弾性部材41に硯基材1を再装着した後に、補強材45を弾性部材本体42に再装着することができる。以上のように、市販のオイルシールを利用することにより、硯装置104を構成することが可能である。
【0041】
図6は、硯装置101を適用した回転式墨擦機の概略斜視図である。この墨擦機51には回転台53が設けられている。スイッチ52を操作することにより、回転台53は電動により回転する。回転台53の上には、硯装置101が載置される。回転台53には、その外周に沿って、外周端面から内側に向かう切れ込み54が形成されている。硯装置101の締結部材7の下端部を、切れ込み54に位置合わせすることにより、硯装置101は回転台53に安定して保持され、かつ回転駆動される。
【0042】
墨擦機51には更に、アーム55が設けられている。アーム55の先端部には、墨57が着脱可能に保持される。墨57は、黒色の墨であっても、彩墨であっても良い。アーム55は、例えば上下に伸縮可能であり、弾性力あるいは重力により、下方に付勢することも可能である。このため、回転台53の上に硯装置101を載置した後に、アーム55を下ろし、さらに墨57の下端面が硯装置101の硯基材1の上面を押圧するように、アーム55を下方に付勢することができる。この状態で、硯基材1の上面に水を供給し、スイッチ52を操作することにより、自動で墨57を擦ることができる。墨57が擦り終わると、スイッチ52を停止させ、アーム55を上方に引き上げ、硯装置101を回転台53から取り外して、使用に供することができる。硯装置101は、回転台53に載せたままで、使用に供することも可能である。
【0043】
このように、硯装置101は、墨擦機51の利用にも適している。硯基材1は、図1に例示した構造であるだけでなく、図2に例示した構造であっても、硯装置101を墨擦機51に適用することができる。硯基材1が図2(c)に例示する構造である場合には、凹陥部27を、墨57の経路から外れるように、例えば硯基材1の中央部に設けると良い。また、締結部材7が図3に例示したように、端部が平坦なリベットであっても、リベットの平坦な下端部を回転台53の切れ込み54に位置合わせすることにより、硯装置101を墨擦機51に適用することができる。
【0044】
(その他の実施の形態)
図1の例では、上部基材11は、その全体が硯材により形成されていた。これに対して、上部基材11を、図2に例示する硯基材1と同様の構造に形成してもよい。下部基材13が補強材として機能するので、この場合においても、上部基材11は、強度の低い薄板として形成することができる。
【0045】
図1及び図3では、押さえ部材5は、弾性部材3と平面形状が同じであり、開口部21、31、33は、押さえ部材5と弾性部材3との間で互いに重なり合っていた。しかし、押さえ部材5は、弾性部材3と平面形状が必ずしも同一であることを要しない。例えば、平面形状において、押さえ部材5は、弾性部材3よりも幅が狭くても良く、逆に広くても良い。押さえ部材5の開口部は、弾性部材3の開口部よりも、広くても狭くても良い。押さえ部材5は、弾性部材3の上に配置されることにより、弾性部材3と硯基材1との間を水密に保つように、弾性部材3を硯基材1に押圧する形状であるとともに、墨を硯基材1の上面で擦ったり、擦られた墨汁に筆先を漬けたりする、といった硯装置101,102の目的を達成する範囲で、弾性部材3の開口部21、31、33の各々の少なくとも一部が覆われない形状であれば足りる。
【符号の説明】
【0046】
1 硯基材、 3 弾性部材、 5 押さえ部材、 7 締結部材、 11 上部基材、 13 下部基材、 15,17,19 貫通孔、 21 開口部、 23 基材本体、 25 硯材、 27 凹陥部、 31,33,35 開口部、 37 溝、 39 開口部、 104 硯装置、 41 弾性部材、 42 弾性部材本体、 43,45,47 補強材、 51 墨擦機、 53 回転台、 52 スイッチ、 54 切れ込み、 55 アーム、 57 墨、 101,102,103,104 硯装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6