(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】紙絞りトレーの製造方法
(51)【国際特許分類】
B31B 50/59 20170101AFI20220527BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20220527BHJP
B65D 1/34 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
B31B50/59
B65D1/00 120
B65D1/34
(21)【出願番号】P 2018116432
(22)【出願日】2018-06-19
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】311015126
【氏名又は名称】中澤函株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081673
【氏名又は名称】河野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100141483
【氏名又は名称】河野 生吾
(74)【代理人】
【識別番号】100166659
【氏名又は名称】楠 和也
(72)【発明者】
【氏名】中澤 強
【審査官】▲高▼橋 杏子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-249174(JP,A)
【文献】特開2003-128036(JP,A)
【文献】特開昭63-272652(JP,A)
【文献】特開2006-341911(JP,A)
【文献】特表2009-509800(JP,A)
【文献】特開2005-053554(JP,A)
【文献】特開昭63-067241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B31B 50/00-70/99
B31C 1/00-99/00
B31D 1/00-99/00
B65D 1/00-1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板紙の表裏両面にラミネート加工を施した加工原紙(2)を用いて、外周に円弧状に湾曲した円弧状部(7)を備えた底板(3)と周壁(4)及び周壁(4)の上端に外周方向に突出するフランジ部(6)とからなるトレー(1)をプレス成形する紙絞りトレーの製造方法であって、少なくともトレー(1)の円弧状部(7)における周壁(4)の内面とフランジ部(6)の表面にわたる対応面に外周側に放射状に広がり扇形に分布し連続した多数の凹溝形成用の凸条(A8a)を備えたオス型(A)を用い、加工原紙(2)にひだ、亀裂及び予備的な切込みを形成することなく押圧形成する紙絞りトレーの製造方法。
【請求項2】
フランジ部(6)の裏面、周壁(4)の外周面にわたる対応面に、平面視で外周側に放射状に広がり扇形に分布する連続した多数の凹溝形成用の凸条(B8b)を備えたメス型(B)を用いて押圧形成する請求項
1に記載の紙絞りトレーの製造方法。
【請求項3】
トレー(1)を構成する板材として、複数枚の板紙を一体的に積層した中層材(2a)と、該中層材(2a)の両面をコーティングするラミネート材(2b)からなる加工原紙(2)を用いる請求項
1又は2に記載の紙絞りトレーの製造方法。
【請求項4】
ラミネート材(2b)として貼合せ面に金属箔又は金属微粉末を付着させたものを用いる請求項
1~3のいずれかに記載の紙絞りトレーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は紙絞りトレーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主としてケーキ類やパーティー会場における簡単な料理等を収容する周壁や周壁上端周縁にフランジ部を有する紙絞りトレーは、製造コストや環境配慮、一定の強度保持や装飾性の配慮等から、プラスチック製のトレーに代わるものとして広く使用されている(特許文献1,同2参照)。
【0003】
これらの紙絞りトレーには強度維持や成形性、コスト等の面を考慮して伸展性の乏しい板紙が用いられるため、湾曲部分や折り曲げ部分に予め変形を容易にするために特許文献1,2に示すように予め当該部分に多数の切込線やミシン目等を付すか、曲げ方向と交差する多数のひだを形成させて加工するのが一般的である。特に一定の深さ(周壁の高さ)を確保しようとすると事前の切込線加工やひだの発生は避けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-57068号公報
【文献】特開2007-161255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献のトレーのように、予めミシン目を含む切込線を形成することは、プレス金型の他に切込加工用の工具や製造又はこれらの作業を必要とするため、労力やコスト面での負担を伴い、トレー成形はこれらの切込みを通じて食品等の収容物の水分や油成分が板紙材に染み込む欠点がある。
【0006】
そしてこれを防止するためには、成形後に改めて防水(油)コーティングをする必要がある。また周壁に沿って上下方向に伸びる切込線やひだを伝わって、毛細管現象による上方への液体成分の浸出が生じるという問題もある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明のトレーの製造方法は、第1に、板紙の表裏両面にラミネート加工を施した加工原紙2を用いて、外周に円弧状に湾曲した円弧状部7を備えた底板3と周壁4及び周壁4の上端に外周方向に突出するフランジ部6とからなるトレー1をプレス成形する紙絞りトレーの製造方法であって、少なくともトレー1の円弧状部7における周壁4の内面とフランジ部6の表面にわたる対応面に外周側に放射状に広がり扇形に分布し連続した多数の凹溝形成用の凸条A8aを備えたオス型Aを用い、加工原紙2にひだ、亀裂及び予備的な切込みを形成することなく押圧形成することを特徴としている。
【0008】
第2に、フランジ部6の裏面、周壁4の外周面にわたる対応面に、平面視で外周側に放射状に広がり扇形に分布する連続した多数の凹溝形成用の凸条B8bを備えたメス型Bを用いて押圧形成することを特徴としている。
【0009】
第3に、トレー1を構成する板材として、複数枚の板紙を一体的に積層した中層材2aと、該中層材2aの両面をコーティングするラミネート材2bからなる加工原紙2を用いることを特徴としている。
【0010】
第4に、ラミネート材2bとして貼合せ面に金属箔又は金属微粉末を付着させたものを用いることを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
以上のように構成される本発明によれば、加工原紙の絞り加工に際し、事前に切込線を入れる等の予備的な加工が不要で、切込線による水分や油成分のトレー断面内への染み込みもなく、そのための防水コーティング等の対策も必要がない。
【0012】
さらに切込線やひだの発生による周壁を伝わる液体成分の外部への浸出も生じないという利点があるほか、低コストで、外観的にも見映えの良い紙絞りトレーが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】本発明によるトレーに用いるカット済の加工原紙の平面図である。
【
図4】(A)は本発明に係るトレーの円弧状部(コーナー部)の拡大平面図、(B)は同じく円弧状部の拡大周面図、(C)は円弧状部の拡大底面図である。
【
図5】本発明によるトレーの円弧状部及び製造方法に使用するオス型とメス型の円弧状部対応部分の拡大断面図である。
【
図6】オス型とメス型の円弧状部対応部分の凹部形成用凸条の形状を示す拡大断面図である。
【
図7】(A)~(D)は本発明により絞り加工したトレーの仕上り状態を示す写真による正面図,側面図,平面図,底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下図示する本発明の実施形態につき詳述すると、
図1は本発明に係る紙絞りトレーの一部断面斜視図で、トレー1は、
図2に示すように予め所定形状にカットされた加工原紙2を後述するようにプレス型により絞り加工したものである。この実施形態では仕上り寸法が平面視で横幅103mm,縦幅203mmの長方形で、四隅は23Rの円弧状に形成され、高さ約7mm,板厚1.3mmに形成されている。
【0015】
上記トレー1の底部3は、外周形状と相似形の四隅がアールに形成された長方形で、その外周には外向きに上昇方向に傾斜した周壁4と、該周壁4の上端に外向きに突出させて連設される額縁状のフランジ部6とを備えている。平面視で上記周壁4とフランジ部6は四隅の円弧状部分である角部7を含めてそれぞれ約5mmと4mmの均一幅に形成されており、容器深さは約7.3mmに形成されている。上記底部3,周壁4,フランジ部6の境界部の折目は、後述するオス型とメス型により僅かなアールを形成して湾曲形成されている。
【0016】
前記角部7は、
図1,
図4に示すようにトレー1の外形線とフランジ部6,周壁部4,底部3と各境界部が同心円状の円弧状部として、約90°の角度範囲で形成されており、この部分のトレー内面(表面)及び裏面(外周面)にはそれぞれ全体で扇状(放射状,湾曲短冊状)に外側に向って広がる多数(本例では13本と14本)の凹溝8a,8bが押圧形成されている。
【0017】
この凹溝8a,8bは、前記円弧状部7の円弧の中心点に収束して等角度間隔で表裏で交互に1/2ピッチずつずらされて形成され、表面側ではその基端部が底部に掛って円弧状に揃えられ(
図4(A)及び
図7(C)参照)、裏面側では周壁上端側で円弧状に揃えられて止められている(
図4(C)参照)。さらに表面側の凹溝8aが裏面側の凹溝8bに対し、僅かに太く且つ深く形成される(
図4(B)参照)ほか、両凹溝8a,8b共に加工原紙2の表面と裏面の押圧変形により、亀裂その他の損傷は防止されている(表面側に関し
図7(C)参照)。
【0018】
また凹溝8a,8bはトレー1のデザイン上のアクセントとしての模様でもあるが、後述するように絞り成形時に、加工原紙2のこの部分に予備的に施す湾曲形成のための切込線やミシン目を必要とすることなく、且つ板紙の絞り加工にもかかわらず加工原紙2の破れや亀裂等の損傷の発生を防止する機能を備えている。
【0019】
前記加工原紙2の外形サイズは絞り加工の前後で略同一であるが、
図3に示すように0.5mmの板紙3枚を重ねて積層した中層材2aの表裏両面に、0.5mm厚のラミネート材(樹脂フィルム)2bを重ね合わせて積層し、全体を一体的に押圧接着したものを用いており、この押圧接着により加工原紙2の板厚は約1.5~1.7mm程度に圧縮され、既述のように絞り加工により約1.3mm程度の板厚になる。
【0020】
上記ラミネート材2bは公知の樹脂フィルムの使用が可能であるが、廃棄後の資源の再利用や環境問題を考慮すると生分解性樹脂が望ましく、樹脂フィルムの貼り合せ面には任意の顔料をコーティングし又は着色されたフィルムの使用が可能である。その他樹脂フィルムの貼り合せ面側に金属微粉末を電着したもの又は金属箔を貼着させたもの等の使用が可能であり、この場合は後述する絞り加工や絞り加工時の凹溝8a,8bの形成が容易になる。
【0021】
上記のように加工原紙2の表面をラミネート加工しておくことにより、またラミネート材2b,2b間の中層材2aとして複数枚の板紙を積層したものを用いることにより、加工原紙2を絞り加工する際の切目やミシン目等の予備的な処理の不要化,ひだの発生防止等に資することができる。
【0022】
上記のように、従来の紙絞りトレーは湾曲部や伸展部に予備的なミシン目を含む切込線の付与加工や絞り加工後のひだや皺の発生なくしては製造できなかった処を、本発明ではこれらの加工や不都合の発生を避けて製造できるもので、実際に絞り加工をした現物の仕上り状態を
図7(A)~(D)に示す。
【0023】
図5,
図6は本発明の方法に用いる絞り金型の、特にトレー1の角部(円弧状部)7を成形するための部分構造を示す拡大断面図で、
図5は円弧の法線方向の、
図6は円弧方向の断面をそれぞれ示している。
【0024】
金型は、トレー1の角部7の内面(表面)と底面(裏面)及び断面形状に対応した凹凸形状を備えたオス型(ポンチ)Aとメス型(ダイ)Bからなり、オス型Aのフランジ部対応部A6から周壁対応部A4,底部対応部A3の外周縁に至る範囲には、トレー1の表面側の凹溝8aに対応する多数の線状の凸条部A8aが扇形に形成されている。またメス型Bのフランジ部対応部B6から周壁対応部B4の上端部に至る部分には、トレー1の裏面側の凹溝8bに対応する多数の線状の凸条部B8bが扇形に形成されている。
【0025】
上記両金型の三角形の山形断面の凸条部A8a,B8bのうち、オス型Aの凸条部A8aはメス型Bの凸条部B8bより僅かに高く且つ幅広に形成されており、いずれも絞り加工時に加工原紙2の表面に切れ込んで表面を損傷しないように、各凸条の頂点部や基端コーナー部は、
図6に示すように可能な限りアールに形成されることが望ましい。またオス型Aの凸条部A8aとメス型Bの凸条部B8bとは、互に隣接凸条の中間位置に来るように交互に1/2ピッチずつずらされている。
【0026】
上記のようなオス型Aとメス型B間に、加工原紙2を定置してプレス加工することにより、上下の凸条部A8a,B8bに押圧される加工原紙2は、表裏面において互に1/2ピッチずつずれた位置において、隣接する凸条部A8a,A8a間,凸条部B8b,B8b間で、
図4(A)の矢印a
1で示すように押開かれる方向に、また全体としても矢印a
2で示すように左右に押開かれる方向に力が作用するが、これらの押開きの作用は上下共に隣接する凸条間で均一に分割されてその範囲を越えた押広げ(伸展)作用や不均一で集中的な押広げ作用が規制され、加工原紙2の断面内や表面に亀裂や破れを生じることなく、スムースに伸展変形する。
【0027】
さらに周壁4で上向きに、フランジ部6で外向きに伸展しようとする加工原紙2内で作用する力は、上向き又は外向きに末広がりに傾斜した凸条に規制されながら且つ均一に分散されて作用しながら外向きに亀裂等を生じることなく、円滑に伸展変形する。
【0028】
そして上記のように規制されながら伸展変形しながらオス型Aとメス型Bとによって上下から圧縮されるため、角部7における絞り加工では(凸条による表面への切れ込みがない限り)、加工原紙2が亀裂やひだを生じることなく、伸展変形する。
【0029】
凸条部A8a,B8bによるこれらの作用がスムースに行われるためには、加工原紙2の表面のラミネート材2bの滑りや伸展作用が必要と考えられ、さらに内部の亀裂やひだの発生防止には、加工原紙2の断面内が複数の板紙を積層した中層材2aであることが効果的である。
【0030】
なお、上記実施形態では平面視長方形のトレーの四隅をアール(円弧状部)に形成したものを示したが、例えば三角形,五角形以上の多角形の各角部円弧状部とすることで、各種多角形の紙絞りトレーの製造が可能であるほか、全周を円弧状部とした円形のトレーも、全周の円弧に沿った凹溝を形成することにより製造可能である。尚、多角形状の加工原紙の角部(コーナー)を円弧状部として形成する場合の扇形の収束角度は、角部の隣接辺の交差角の範囲で足り、それ以上は必要ない。
【符号の説明】
【0031】
1 トレー
2 加工原紙
2a 中層材
2b ラミネート材
3 底部
4 周壁
6 フランジ部
7 円弧状部(角部)
8a,8b 凹溝
A オス型(ポンチ)
B メス型(ダイ)
A8a,B8b 凸条部