(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】枢着機構
(51)【国際特許分類】
F16C 11/04 20060101AFI20220527BHJP
F16C 11/10 20060101ALI20220527BHJP
F16B 19/10 20060101ALI20220527BHJP
G02C 5/22 20060101ALN20220527BHJP
【FI】
F16C11/04 B
F16C11/10 Z
F16C11/04 L
F16B19/10 B
G02C5/22
(21)【出願番号】P 2019547896
(86)(22)【出願日】2018-02-07
(86)【国際出願番号】 JP2018004256
(87)【国際公開番号】W WO2019073617
(87)【国際公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-01-25
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/039269
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017197611
(32)【優先日】2017-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】511025411
【氏名又は名称】株式会社NejiLaw
(72)【発明者】
【氏名】道脇 裕
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実開昭52-060342(JP,U)
【文献】特開2002-357794(JP,A)
【文献】特開2016-003712(JP,A)
【文献】特開2017-009755(JP,A)
【文献】特開2008-033360(JP,A)
【文献】特開平01-124820(JP,A)
【文献】特開2014-105797(JP,A)
【文献】登録実用新案第3015870(JP,U)
【文献】特表2005-517869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/04
F16C 11/10
F16B 19/10
G02C 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一部材と第二部材とを枢動可能に連結する枢着機構であって、
上記第一部材に穿設される孔、及び、上記第二部材に穿設される孔に挿通可能に構成される軸部と、
上記軸部の軸方向における中間位置において、該軸部の軸を略中心として半径方向に弾性変形し得る弾性部とを備え、
上記弾性部は、上記第一部材及び上記第二部材の内、少なくとも一方に対して所定以上の押圧力で付勢しながら摺接するように構成され
、
上記弾性部は、上記第一部材と上記第二部材との隙間に介在する部分を有することを特徴とする枢着機構。
【請求項2】
第一部材と第二部材とを枢動可能に連結する枢着機構であって、
上記第一部材に穿設される孔、及び、上記第二部材に穿設される孔に挿通可能に構成さ
れる軸部と、
上記軸部の軸方向における中間位置において、該軸部の軸を略中心として半径方向に弾
性変形し得る弾性部とを備え、
上記弾性部は、上記第一部材及び上記第二部材の内、少なくとも一方に対して所定以上
の押圧力で付勢しながら摺接するように構成され、
上記軸部は、上記弾性部に挿通可能で、挿通時に上記弾性部の係止片を係止し得る、係
止部を有し、
上記弾性部は、上記軸部の挿通時に弾性変形して上記軸部の一部を囲繞し、上記係止片
が上記係止部に係止され、上記軸部の脱抜方向の移動を規制し得ることを特徴とする枢着
機構。
【請求項3】
第一部材と第二部材とを枢動可能に連結する枢着機構であって、
上記第一部材に穿設される孔、及び、上記第二部材に穿設される孔に挿通可能に構成さ
れる軸部と、
上記軸部の軸方向における中間位置において、該軸部の軸を略中心として半径方向に弾
性変形し得る弾性部とを備え、
上記弾性部は、上記第一部材及び上記第二部材の内、少なくとも一方に対して所定以上
の押圧力で付勢しながら摺接するように構成され、
上記軸部は、係合部を一つ以上有し、
上記第一部材及び上記第二部材の何れか一方には、上記係合部が相対回転不能に係合さ
れる係合受部が一つ以上設けられることを特徴とする枢着機構。
【請求項4】
第一部材と第二部材とを枢動可能に連結する枢着機構であって、
上記第一部材に穿設される孔、及び、上記第二部材に穿設される孔に挿通可能に構成さ
れる軸部と、
上記軸部の軸方向における中間位置において、該軸部の軸を略中心として半径方向に弾
性変形し得る弾性部とを備え、
上記弾性部は、上記第一部材及び上記第二部材の内、少なくとも一方に対して所定以上
の押圧力で付勢しながら摺接するように構成され、
上記第一部材と上記第二部材との間に、上記弾性部のフランジ部を弾性変形させて嵌入
させ得る嵌入空間を形成することを特徴とする枢着機構。
【請求項12】
第一部材と第二部材とを枢動可能に連結する枢着機構であって、
上記第一部材に穿設される孔、及び、上記第二部材に穿設される孔に挿通可能に構成さ
れる軸部と、
上記軸部の軸方向における中間位置において、該軸部の軸を略中心として半径方向に弾
性変形し得る弾性部とを備え、
上記弾性部は、上記第一部材及び上記第二部材の内、少なくとも一方に対して所定以上
の押圧力で付勢しながら摺接するように構成され、
上記軸部と
上記弾性部とは、該軸部の軸を略中心として互いに相対回転可能に構成され、
上記弾性部の弾性作用によって
上記軸部に対して所定以上の押圧力で付勢しながら摺接するように構成されることを特徴とす
る枢着機構。
【請求項15】
第一部材と第二部材とを枢動可能に連結する枢着機構であって、
上記第一部材に穿設される孔、及び、上記第二部材に穿設される孔に挿通可能に構成さ
れる軸部と、
上記軸部の軸方向における中間位置において、該軸部の軸を略中心として半径方向に弾
性変形し得る弾性部とを備え、
上記弾性部は、上記第一部材及び上記第二部材の内、少なくとも一方に対して所定以上
の押圧力で付勢しながら摺接するように構成され、
上記弾性部は、内周面が
上記軸部に摺接し、
上記第一部材及び
上記第二部材の一方と一体的に回転し、
上記軸部は、
上記第一部材及び
上記第二部材の他方と一体的に回転することを特徴とす
る枢着機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部材への組付けが容易な枢着機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、様々な場面で、一対の部材を回動させるためにヒンジ構造が用いられる。このヒンジ構造は、例えば、メガネのフレームのフロント部とテンプル部を接続する構造として多用されている。ヒンジ構造は、一方のブラケットに雌ねじ孔を形成し、他方のブラケットに貫通孔を形成し、締結用の雄ねじを、他方のブラケットの貫通孔を介して、一方のブラケットの雌ねじ孔に螺合させる。ヒンジ構造の回転軸は、雄ねじ体の軸部における円筒部が担う。
【0003】
ヒンジ構造を繰り返し回動させると、雄ねじ体が緩む場合がある。雄ねじ体の緩みを抑制するために、例えば、雄ねじ体の軸部にワッシャ(座金)を挿入することが行われている。
例えば、ワッシャには、一般的なリング形状の「平ワッシャ」の他、内周や外周に半径方向に延びる突起を有し、被締結部材やねじ締結体と係合して緩みを防止する「舌付きワッシャ」、軸方向に折れ曲がった短い爪が被締結物と係合する「爪付きワッシャ」、弾性変形によってねじ締結体の緩みを防止する「ばねワッシャ」、締結面に食い込ませるための歯を周囲に備えた「歯付きワッシャ」などが存在する(非特許文献1参照)。
【0004】
更にこのワッシャの応用として、ワッシャの外周形状を非正円として、被締結部材の凹部と周方向に係合させ、更に、ワッシャと雄ねじ体の間に、緩み方向の相対回転力が作用しても互いに係合する状態が保持される係合機構を形成する構造が存在する(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
メガネフレームの従来のヒンジ構造は、回動頻度が高く、また使用中の振動や揺動が大きいため、非特許文献1に開示するばね座金では、雄ねじ体の緩み止め効果は殆ど得られない。また雄ねじ体が緩んでしまうと、ヒンジ構造の開閉時にかかる抵抗力、所謂あがき力の低下や、ヒンジのガタ付き等が発生し、メガネをかけていても緩くなって下がってきてしまい、使用者にとっては非常に使用しづらいものとなっていた。
【0008】
また近年のメガネフレームは、デザインの向上や軽量化の要求に対応すべく、フレームが細く構成され、ヒンジ構造も極めてコンパクトに構成することが求められている。従って、スペース上の理由から、特許文献1のワッシャを含む逆回転防止構造を、そのままヒンジ構造に適用することは困難なことがあった。更にメガネフレームのヒンジ構造に使用されるのは、小型のねじであることからブラケットの一方に雌ねじ加工をする必要があって、高コストである上、ヒンジ構造への組付けに細かいねじ込み作業を要し、組み立ての作業性が悪いといった難点があった。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みて本発明者の鋭意研究により成されたものであり、全体のコンパクト化を図りつつも、ブラケットに対する雌ねじの加工を不要とすると共に簡易に組み立て可能な構造で、緩みを発生させること無く、長期間に亘って安定したあがき力を維持可能な枢着機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、第一部材と第二部材とを枢動可能に連結する枢着機構であって、第一部材に穿設される孔、及び、第二部材に穿設される孔に挿通可能に構成される軸部と、軸部の軸方向における中間位置において、軸部の軸を略中心として半径方向に弾性変形し得る弾性部とを備え、弾性部は、第一部材及び第二部材の内、少なくとも一方に対して所定以上の押圧力で付勢しながら摺接するように構成されることを特徴とする。
【0011】
弾性部は、第一部材及び第二部材の内、少なくとも一方の孔内に位置する部分を有し、孔の内周面に対して所定以上の押圧力で付勢しながら摺接するように構成されることを特徴とする。
【0012】
弾性部は、第一部材及び第二部材の隙間に介在する部分を有し、隙間において所定以上の押圧力で付勢しながら第一部材及び/又は第二部材に摺接するように構成されることを特徴とする。
【0013】
軸部を有する軸部材と、弾性部を有する弾性部材とを具え、これら軸部材と弾性部材とが別体として構成されることを特徴とする。
【0014】
軸部は、弾性部に挿通可能で、挿通時に弾性部の係止片を係止し得る、係止部を有し、弾性部は、軸部の挿通時に弾性変形して軸部の一部を囲繞し、係止片が係止部に係止され、軸部の脱抜方向の移動を規制し得ることを特徴とする。
【0015】
軸部は、係合部を一つ以上有し、第一部材及び第二部材の何れか一方には、係合部が相対回転不能に係合される係合受部が一つ以上設けられることを特徴とする。
【0016】
弾性部の係止片は、係止部に係止されることで、軸部に対する相対回転が規制されることを特徴とする。
【0017】
第一部材と第二部材との間に、弾性部のフランジ部を弾性変形させて嵌入させ得る嵌入空間を形成することを特徴とする。
【0018】
軸部は、ねじ山を形成した雄ねじ螺旋溝を有し、第一部材の孔及び/又は第二部材の孔には、雄ねじ螺旋溝と螺合する雌ねじ部が形成されることを特徴とする。
【0019】
軸部と弾性部とは、軸部の軸を略中心として互いに相対回転可能に構成され、弾性部の弾性作用によって軸部に対して所定以上の押圧力で付勢しながら摺接するように構成されることを特徴とする。
【0020】
軸部は、第一部材及び第二部材の一方に対して相対回転不能に係合する軸部側係合部を有し、弾性部は、第一部材及び第二部材の他方に対して相対回転不能に係合する弾性部側係合部を有することを特徴とする。
【0021】
弾性部は、軸方向における二つの異なる位置において、各々が互いに異なる方向に弾性変形し得ることを特徴とする。
弾性部は、内周面が前記軸部に摺接し、軸方向の両端部が第一部材及び第二部材の一方に摺接し、且つ第一部材及び第二部材の他方と一体的に回転し、軸部は、第一部材及び第二部材の一方と一体的に回転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、全体のコンパクト化が可能であって且つ簡易に組み立て可能な構造でありながらも、長期間安定したあがき力を維持することができる。更に従来のねじを利用したヒンジ構造とは異なり、ねじの緩みによるガタ付きが発生し得ないという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第一の実施形態に係る枢着機構を適用したヒンジを示す図である。
【
図2】第一の実施形態に係る枢着機構を適用したヒンジを構成する部品を示す図である。
【
図6】枢着機構を適用したヒンジを示す断面図である。
【
図7】第二の実施形態に係る枢着機構の筒型弾性部を示す斜視図である。
【
図8】第二の実施形態に係る枢着機構の筒型弾性部を示す断面図である。
【
図11】第二の実施形態に係る枢着機構を適用したヒンジを示す断面図である。
【
図12】係止片が第一貫通孔に摺接するのを段階的に示す図である。
【
図13】ピン側座部及び嵌合部に形成される凹凸形状の例を示す図である。
【
図14】テーパ面を形成したピン側座部を示す図である。
【
図18】ピン型の枢着部材の他の例を示す図である。
【
図19】他の構成による枢着機構を示す断面図である。
【
図21】軸方向における中途部分にくびれを有する筒型弾性部を示す図である。
【
図22】くびれを有する筒型弾性部を具える枢着機構を適用したヒンジを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の第一の実施形態に係る枢着機構を図面を参照して説明する。
図1は第一の実施形態に係る枢着機構を適用したヒンジを示したものであり、(A)は斜視図、(B)は平面図である。
図2は第一の実施形態に係る枢着機構を適用したヒンジを構成する部品を示す図である。
【0025】
枢着機構1は、メガネフレーム等で用いられるヒンジ100に適用される。即ち、本実施形態のヒンジ100は、一対のブラケット110、120を具え、第一ブラケット110及び第二ブラケット120が枢着機構1によって枢動可能に連結されている。枢着機構1は、ピン10(軸部)及び筒型弾性部20(弾性部)を有する。
【0026】
図3は枢着機構1のピン10を示す図である。ピン10は、ピン頭部12、ピン軸部14を有して構成される。ピン頭部12は、特に限定されるものではないが、ここでは円形状の外形を有し、ピン軸部14の一端側に位置してピン軸部14よりも径方向に拡張している。なお、ピン頭部12のピン軸部14側、詳細には下部乃至付け根に相当する部位には、ピン側座部15が形成される。
【0027】
ピン軸部14は、円柱状(若しくは円筒状)の円柱部14a、ピン頭部12側における円柱部14aの外周面上に配置された係合部16、円柱部14aに設けられた窪み14b内に形成された凹状係止部18を有する。なお、窪み14bは円柱部14aの中間位置と先端との間において、円柱部14aの全周に亘って形成されている。
【0028】
係合部16は、円柱部14aの外周面から放射状に突出する複数のリブ16aを有し、該リブ16aを周方向に沿って所定の間隔を存して配置することにより構成される。リブ16aは、先端がピン頭部12の外縁部よりも円柱部14a側に位置する。即ちリブ16aは、先端がピン頭部12の外縁部よりも外側に突出しないように形成される。
【0029】
凹状係止部18は、放射状に突出する複数のリブ18aを有し、該リブ18aを周方向に沿って所定の間隔を存して配置することにより構成される。リブ18aは、先端部が窪み14b内に位置するように構成される。即ち、リブ18aは、先端部が円柱部14aの外周面の外側に突出しないように形成される。また凹状係止部18には、円柱部14aの外周面との境界部分に段部19が形成される。
【0030】
図4は枢着機構1の筒型弾性部20を示す斜視図、
図5は枢着機構1の筒型弾性部20を示すものであり、(A)は側面図、(B)は断面図である。筒型弾性部20は、胴部22と、フランジ部24と、胴部22の他端部に形成された係止片26を有する。
【0031】
胴部22は、中空であって外形が中途部分において外側に膨らむ略樽形状に形成されている。また胴部22は、壁面の軸方向(
図5における縦方向)に延在して設けられた縦断部分28を有し、該縦断部分28によって側壁の一部に軸方向全体に延びる間隙が形成される。また胴部22には、軸方向に沿って他端(
図5における下端)から中途位置まで延びるスリット29が複数形成される。縦断部分28及びスリット29は、胴部22の全周に亘って所定の間隔を存して形成され、ここでは周方向に60°の相対位相差をもって等間隔に形成される。なおスリット29の数は、特に限定されるものではなく、単数であってもよい。また縦断部分28とスリット29との間隔は、等間隔に限定されるものではなく、各々の間隔を異ならせてもよい。
【0032】
また、胴部22は、中空部分にピン10が挿通し得、且つピン10が挿通されたとき、縦断部分28の間隙が押し拡げられて外周が拡径するように弾性変形し得るように形成される。即ち、胴部22の中空は、内径の大きさがピン10の外径の大きさよりも小さく且つ胴部22が弾性域で変形し得る大きさに設定されることが好ましい。
【0033】
フランジ部24は、胴部22の一端部(
図5における上端部)の全周に亘って半径方向外向きに突出し、且つ先端側と基端側における軸方向の位置が異なるように形成されている。ここではフランジ部24は、特に限定されるものではないが、先端側が基端側よりも軸方向における下向きに傾斜した形状を成している。
【0034】
フランジ部24は、第一ブラケット110と第二ブラケット120との間に形成される空間内に弾性変形しながら嵌入し得るように形成される。具体的にフランジ部24は、第一ブラケット110の溝部116(
図2参照)に嵌り、連結する第一ブラケット110と第二ブラケット120との間に介在し、第一ブラケット110及び第二ブラケット120に付勢することで第一ブラケット110と第二ブラケット120とのガタ付きを抑制する。そのため、フランジ部24は、第一ブラケット110と第二ブラケット120との隙間の大きさと溝部116の深さとを加えた大きさに、略等しい厚みに形成することが好ましい。
【0035】
係止片26は、先細形状を有し、胴部22の他端部における全周に複数形成される。また係止片26は、基端部よりも先端部が筒型弾性部20の中心軸に近づくように湾曲した形状を有する。また複数の係止片26は、特に限定されるものではないが、ここでは等間隔に並ぶように形成される。
【0036】
次に、
図2に戻って枢着機構1が適用されるヒンジ100の第一ブラケット110及び第二ブラケット120について説明する。第一ブラケット110は、第一スリーブ部112と、これに連続する第一アーム(基部)114を有しており、第一スリーブ部112に穿設された第一貫通孔112Aに、筒型弾性部20が嵌入される。また第一貫通孔112Aの周囲には、フランジ部24が嵌る溝部116が形成される。第一貫通孔112Aは、内周の大きさが弾性変形した胴部22の外周と当接する大きさに形成される。即ち、第一貫通孔112Aは、ピン10によって押し拡げられた胴部22の外周面と摺接するように内周の大きさが設定される。なお、胴部22は、第一貫通孔112Aに挿入する際に弾性変形して縮径するように構成してもよい。
【0037】
第二ブラケット120は、ピン10を挿設し得るように構成され、挿設されたピン10の軸方向に対して所定の間隔を存して配置される一対の第二スリーブ部122、123と、これに連続する第二アーム(基部)124を有する。第二スリーブ部122には、第二貫通孔122Aが穿設され、第二スリーブ123には、第三貫通孔123Aが穿設される。第二貫通孔122A及び第三貫通孔123Aには、ピン10が挿入され、このピン10を回転軸として、第二アーム124が回動する。
【0038】
一対の第二スリーブ部122、123の内、ピン頭部12のピン側座部15が当接する第二スリーブ部122の第二貫通孔122Aの周囲には、ピン頭部12が嵌合する嵌合部126が形成される。
【0039】
第一スリーブ部112は、第二スリーブ部122、123間に配置される。このとき第一貫通孔112Aに嵌入する筒型弾性部20のフランジ部24は、溝部116に嵌るので第一スリーブ部112と第二スリーブ部122との間に挟まれる。
【0040】
また、第二貫通孔122Aの内周面には、スリーブ側係合受部128が形成される。スリーブ側係合受部128は、第二貫通孔122Aの内周面において、軸方向に延びる溝が周方向に沿って複数(リブ16aの数に相当する数)形成されて成る。スリーブ側係合受部128の各溝は、第一係合部16の各リブ16aの軸方向に沿った進入を許容すると共に、リブ16aに対し周方向の移動を規制するように係合する。
【0041】
以下に、ヒンジ100の組立てについて説明する。先ず、第一ブラケット110の第一貫通孔112Aに筒型弾性部20を嵌入し、第一ブラケット110と第二ブラケット120とを組み合わせる。これにより第一貫通孔112A、第二貫通孔122A及び第三貫通孔123Aが同軸になって、且つ第一スリーブ部112が一対の第二スリーブ部122、123間に配置される。このときフランジ部24は、第一ブラケット110と第二ブラケット120との隙間に介在して軸方向に付勢力を発揮して、第一ブラケット110と第二ブラケット120とのガタ付きを抑止する。
【0042】
次に、同軸になった第一貫通孔112A、第二貫通孔122A及び第三貫通孔123Aにピン10を挿通する。ここで第一貫通孔112Aに筒型弾性部20が嵌入しているため、ピン10は、筒型弾性部20を介して第一貫通孔112Aに挿通し、先端部が筒型弾性部20を通過して第三貫通孔123Aに挿嵌する。
【0043】
図6は
図1(B)のA-A線断面図であって、枢着機構1を適用したヒンジ100を示す断面図である。筒型弾性部20の胴部22は、ピン10が挿入されると、ピン10の軸方向における略中間位置に位置し、内周面がピン10からの押圧力を受け、半径方向外向きに拡がるように弾性変形する。従って胴部22は、ピン10の軸を略中心として縦断部分28の間隙が押し拡げられるように弾性変形し、胴部22の外周面が第一貫通孔112Aの内周面を所定以上の押圧力で付勢しながら摺接する。
【0044】
また、ピン10は、先端部が複数の係止片26により囲繞される空間に進入したとき、係止片26を押圧して弾性変形させる。係止片26は、筒型弾性部20の半径方向外向きに撓むように弾性変形し、更にピン10が進入することにより、ピン10の窪み14bに嵌り、凹状係止部18に係合される。
【0045】
係止片26が凹状係止部18に係合しているとき、ピン10を脱抜方向(
図6に示す上方向)に移動させようとすると係止片26が凹状係止部18の段部19に当接する。このとき胴部22には、外側に向かって変形させる外力が印加されるが、第一貫通孔112Aの内周面に接するため変形が規制される。従って係止片26が段部19を乗り越え不可な状態となり、ピン10は筒型弾性部20から抜き取り不可となる。即ちピン10は、筒型弾性部20によって脱抜方向の移動が規制される。
【0046】
また、ピン10の挿入に伴ってピン頭部12は、嵌合部126に嵌合する。また係合部16の各リブ16aは、スリーブ側係合受部128の各溝に進入して、係合部16がスリーブ側係合受部128に係合する。以上によりヒンジ100の組み立てが完了する。
【0047】
上記のように組み立てたヒンジ100によれば、ピン10と第二ブラケット120は、係合部16のリブ16aがスリーブ側係合受部128の溝に嵌ることにより、互いに相対回転不能に係合する。また、ピン10と筒型弾性部20は、凹状係止部18のリブ18a間に係止片26が嵌入することにより、互いの相対回転を規制する。従って、ピン10、筒型弾性部20及び第二ブラケット120は、軸中心に一体的に回転するように組み合わされる。
【0048】
これに対して第一ブラケット110は、筒型弾性部20及び第二ブラケット120に対して摺接する。具体的には、第一ブラケット110は、第一貫通孔112Aの内周面が胴部22から付勢されながら摺接する。またフランジ部24が第一スリーブ部112と第二スリーブ部122の隙間に介在し、第一ブラケット110は、第一スリーブ部112が一対の第二スリーブ部122に対して略隙間無く配置されるため、第二ブラケット120に摺接する。
【0049】
上述したように、枢着機構1は、ピン10と筒型弾性部20によって構成されるので、雌ねじ加工等が不要で製造が容易であり、また容易に小型化を図ることができる。更にこのような枢着機構1を適用すればヒンジ全体のコンパクト化を図ることができる。また第一ブラケット110に対して、常に筒型弾性部20及び第二ブラケット120が摺動することにより、長期間安定したあがき力を維持することができる。
【0050】
また、筒型弾性部20を嵌入させた第一ブラケット110を第二ブラケット120に組み合わせ、ピン10を第一貫通孔112A及び第二貫通孔122Aに挿入するだけでヒンジ100の組み立てが完了するので、細かいねじ込み作業が不要となり組み立てを容易に行うことができる。
【0051】
次に第二の実施形態に係る枢着機構1について説明する。なお上記第一の実施形態と同様の部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
図7は第二の実施形態に係る枢着機構1の筒型弾性部40を示す斜視図、
図8は第二の実施形態に係る枢着機構1の筒型弾性部40を示す断面図である。筒型弾性部40は、第一貫通孔112Aに嵌入され、胴部42、フランジ部44及び係止片26を有する。
【0052】
胴部42は、中空であって、軸方向と平行な外周面を有する略環状の形状を有し、外周面が第一貫通孔112Aの内径よりも大きい外径を有する。また胴部42には、複数(ここでは三つ)のスリット29及び一つの縦断部分48が形成され、縦断部分48は、第一の実施形態における縦断部分28よりも間隙が広く形成される。
【0053】
従って、胴部42は、第一貫通孔112Aに挿入されたとき、第一貫通孔112Aの内周面に押圧されて縮径するように弾性変形する。また、縦断部分48は、第一貫通孔112A内における胴部42の弾性変形を妨げない大きさに設定される。
【0054】
ここで
図9は縮径した筒型弾性部40を示す図であり、本実施形態において筒型弾性部40は、第一貫通孔112Aに嵌入したとき、
図9に示すように縦断部分48の間隙が残るように弾性変形する。なお、縦断部分48は、第一貫通孔112A内で間隙が残るような大きさに限定されるものではなく、第一貫通孔112Aに嵌入したときにちょうど間隙が塞がる、即ち縦断部分48によって形成された二つの端部が付き合わされる大きさに形成してもよい。
【0055】
フランジ部44は、胴部42の半径方向外向きに突出し、且つ先端側と基端側とで軸方向の位置が異なるように形成されている。ここではフランジ部44は、特に限定されるものではないが、先端側が基端側よりも軸方向における上向きに傾斜した形状を成している。これにより、フランジ部44は、第一ブラケット110と第二ブラケット120との間に形成される空間に弾性変形して嵌入し得る。またフランジ部44の厚みは、第一の実施形態のフランジ部24と同様に、第一ブラケット110及び第二ブラケット120の間のガタ付きを抑止し得る厚みに設定される。
【0056】
なお、フランジ部44は、基端側から先端側にかけて湾曲した形状でもよく、またフランジ部44の先端側と基端側との軸方向の位置は、上記位置に限定されるものではなく、先端側が基端側に対して下方に位置してもよい。またフランジ部44は、波状に湾曲した形状、例えば
図10に示すように先端側が基端側に対して上方に位置し且つ中途部分が基端側よりも下方に位置するように波状に湾曲した形状であってもよい。勿論、波の形状は、特に限定されるものではなく、先端側が基端側に対して下方に位置し且つ中途部分が基端側よりも上方に位置するものであってもよい。また波の数は、一つに限定されるものではなく、複数であってもよい。
【0057】
以下に、ヒンジ100の組立てについて説明する。先ず筒型弾性部40を、第一ブラケット110の第一貫通孔112Aに嵌入させる。ここで第一貫通孔112Aの内径よりも胴部42の外径の方が大きいため、胴部42は、縮径するように弾性変形して第一貫通孔112Aの内周面を押圧する。
【0058】
次に、第一ブラケット110を第二ブラケット120に組み合わせる。これにより第一貫通孔112A、第二貫通孔122A及び第三貫通孔123Aが同軸になって、且つ第一スリーブ部112が一対の第二スリーブ部122、123間に配置される。
【0059】
フランジ部44は、第一ブラケット110に第二ブラケット120を押し付ける軸方向の付勢力を与える。即ち、フランジ部44は、第一ブラケット110と一方の第二ブラケット120とに挟持されたとき、一方の第二スリーブ部122によって押圧されて弾性変形し、第一ブラケット110を軸方向に付勢、即ち他方の第二スリーブ123側に付勢する。
【0060】
次に、ピン10を同軸化した第一貫通孔112A、第二貫通孔122A及び第三貫通孔123Aに挿通する。ここで第一貫通孔112Aに筒型弾性部40が嵌入しているため、ピン10は、筒型弾性部40を介して第一貫通孔112Aに挿通され、先端部が筒型弾性部40を通過して第三貫通孔123Aに挿嵌する。
【0061】
図11は、第二の実施形態に係る枢着機構1を適用したヒンジ100を示す断面図である。
図11に示すようにピン10は、先端が筒型弾性部40を通過して第三貫通孔123Aに挿嵌したとき、凹状係合部18が係止片26に係合する。即ち、ピン10の先端部が複数の係止片26により囲繞される空間に進入したとき、係止片26は、ピン10の先端により押圧されて筒型弾性部40の半径方向外向きに撓むように弾性変形する。係止片26は、更なるピン10の進入により、窪み14bに嵌り凹状係止部18に係合される。これによりピン10は、筒型弾性部20によって脱抜方向の移動が規制される。
【0062】
また、ピン10の挿入に伴ってピン頭部12は、嵌合部126に嵌合する。また係合部16の各リブ16aは、スリーブ側係合受部128の各溝に進入して、係合部16がスリーブ側係合受部128に係合する。以上によりヒンジ100の組み立てが完了する。
【0063】
上記のように組み立てたヒンジ100によれば、ピン10と第二ブラケット120は、係合部16のリブ16aがスリーブ側係合受部128の溝に嵌ることにより、互いに相対回転不能に係合する。また、ピン10と筒型弾性部40は、凹状係止部18のリブ18a間に係止片26が嵌入することにより、互いの相対回転を規制する。従って、ピン10、筒型弾性部40及び第二ブラケット120は、軸中心に一体的に回転するように組み合わされる。
【0064】
これに対して第一ブラケット110は、筒型弾性部40及び第二ブラケット120に対して摺接する。具体的には、第一ブラケット110は、第一貫通孔112Aの内周面が胴部42から付勢されながら摺接する。またフランジ部44が第一スリーブ部112と第二スリーブ部122の隙間において弾性変形し介在するので、第一ブラケットは、フランジ部44によって第二ブラケット120を付勢しながら摺接する。
【0065】
また、筒型弾性部40の胴部42は、軸方向に平行な外周面が略全域で第一貫通孔112Aの内周面に摺接するため、第一の実施形態に係る略樽形状の胴部22と比較し、第一貫通孔112Aへの摺動面積が増加し面圧を分散しながら付勢できるので、より長期間安定したあがき力を維持することができる。
【0066】
また、フランジ部44を先端部と基端部とで軸方向における位置を異ならせるように形成したので、フランジ部44が第一ブラケット110と第二ブラケット120との隙間において、弾性変形して嵌入し、第一ブラケット110が第二ブラケット120側に付勢される。結果、第一ブラケット110と第二ブラケット120との接触面に作用する摩擦力が増加し、より長期間あがき力を維持することができる。
【0067】
なお、第二の実施形態においては、第一貫通孔112Aの内周面に筒部42を摺接させているが、更に係止片26を摺接させるようにしてもよい。
図12は係止片が第一貫通孔に摺接するのを段階的に示す図であり、(a)は第一貫通孔112Aに筒型弾性部40が嵌入したときを示し、(b)はピン10の先端部が筒型弾性部40内に進入したときを示し、(c)は係止片26が第一貫通孔112Aの内周面に当接したときを示す。ここでは係止片26を第一貫通孔112Aに摺接させるために窪み14bの深さを第二の実施形態の窪み14bと比較して浅く形成する。また筒型弾性部40は、
図12(a)に示すように予め第一貫通孔112Aに嵌入される。
【0068】
次に同軸化した第一貫通孔112A、第二貫通孔122A及び第三貫通孔123Aにピン10を挿入する。ここでピン10の先端部が係止片26によって囲繞される空間に進入していくと、
図12(b)に示すように係止片26は、ピン10に当接して拡径するように、外向きに弾性変形する。
【0069】
そしてピン10の先端部が第三貫通孔123Aに嵌入したとき、
図12(c)に示すように係止片26は、窪み14bに嵌って、凹状係止部18に係合される。ここで窪み14bが第二の実施形態の窪み14bと比較して浅く形成されるため、係止片26は、第二の実施形態と比較して拡径して凹状係止部18に係合される。従って係止片26が基端部から中途部分にかけて第一貫通孔112Aの内周面に摺接するため、筒型弾性部40の第一貫通孔112Aへの摺動面積が増加し面圧を分散しながら付勢できるので、更に長期間安定したあがき力を維持することができる。
【0070】
また筒型弾性部40は、胴部42においては周方向に弾性変形し得、係止片26においては半径方向に弾性変形し得る。このように筒型弾性部40は、第一貫通孔112A内において、ピン10が嵌入されているとき、軸方向における二つの互いに異なる位置が互いに異なる態様で弾性変形し得る。これによって胴部42は第一貫通孔112Aに摺接する摺接部として機能し得、また係止片26は主としてピン10の軸方向の抜け止め及び筒型弾性部40とピン10とを係合させるように機能しつつ、更に補助的に第一貫通孔112Aに摺接する摺接面としても機能させることが可能となる。
【0071】
なお、上記各実施形態において、ピン10を第二ブラケット120に対して相対回転不能に係合するため、ピン軸部14に係合部16を形成し、第二貫通孔122Aの内周面にスリーブ側係合受部128を形成した場合を例に説明したが、係合部16及びスリーブ側係合受部128を形成する位置は、特に限定されるものではなく、例えば、ピン頭部12の側面に係合部16を形成し、ピン頭部12の側面に接触する嵌合部126の内周面にスリーブ側係合受部128を形成してもよい。またピン10の先端部側に係合部16を形成し、該先端部が挿通する第三貫通孔123Aの内周面にスリーブ側係合受部128を形成してもよい。更にピン10における複数の位置に係合部16を形成し、係合部16が形成された位置に対応する第二貫通孔122A及び/又は第三貫通孔123Aにスリーブ側係合受部128を形成するようにしてもよい。
【0072】
また、ピン頭部12の外形及び嵌合部126の内周の形状を、楕円形状、矩形等の多角形状、ルーローの多角形等の定幅図形等とし、ピン頭部12を嵌合部126に嵌合させることで、ピン10を第二ブラケット120に相対回転不能に係合させてもよい。
【0073】
また、ピン側座部15の表面に軸方向に突出する複数の凹凸を設けると共に、嵌合部126の底面においてもピン側座部15の凹凸が嵌る複数の凹凸を設け、互いの凹凸を嵌合させることでピン10を第二ブラケット120に対して相対回転不能に係合させてもよい。ピン側座部15及び嵌合部126に形成する凹凸の形状は、特に限定されるものではなく、例えば
図13(A)に示すように鋸刃形状や、
図13(B)に示す凹凸が傾斜面になっている山形形状、
図13(C)に示す凹凸が湾曲面になっている波形形状等、何れの形状でもよい。また凹凸を形成する方向は、特に限定されるものではなく、例えば半径方向に凹凸を形成してもよく、渦巻き状(スパイラル状)に凹凸を形成してもよい。また微細凹凸を平面上に複数形成した、所謂エンボス形状としてもよい。
【0074】
また、上述した各実施形態においては、ピン側座部15の座面が軸方向に略直交する方向に延びる面となっているが、これに限定されるものではなく、軸方向に直交する方向に対して傾斜したテーパ面であってもよい。具体的には
図14に示すようにピン側座部15に半径方向に傾斜するテーパ面15aを形成する。テーパ面15aは、中心側が先端部に近づくように傾斜しているので、結果として、先端側に凸の円錐形状となる。この場合には第二ブラケットの嵌合部126の底面をテーパ面15aに当接する傾斜面にすることが好ましい。また、テーパ面15aと嵌合部126とを係合させてピン10を第二ブラケット120に対して相対回転不能に係合させてもよい。例えばテーパ面15aには係合部16が形成され、嵌合部126の底面にはスリーブ側係合受部128が形成されてもよい。
【0075】
なお、筒型弾性部は、胴部と、フランジ部と、複数の係止片とにより構成されるものに限定されるものではなく、少なくとも第一貫通孔112A内で弾性変形し得て第一貫通孔112Aの内周面を付勢する形状であればよい。例えば、
図15(A)に示すように、一端から他端にかけて縮径するように傾斜するテーパ状の外周面52を有する筒型弾性部50でもよい。また
図15(B)に示すように一端から中途部分において軸方向に平行であって、中途部分から下端部が窄まるように徐々に縮径する外周面62を有する筒型弾性部60でもよい。この筒型弾性部50、60には、何れも弾性的に縮径又は拡径し得るように、外周面52、62の一端部に複数の切欠き54が形成される。
【0076】
また筒型弾性部の代わりに、
図16に示すような螺旋状に巻かれた螺旋状板バネ130を用いるようにしてもよい。この場合、第一貫通孔112A内において、ピン10は、螺旋状板バネ130の螺旋の中心部に嵌入される。螺旋状板バネ130は、弾性変形しながら第一貫通孔112Aの内周に摺接する。勿論、螺旋状板バネ130の巻回数は特に限定されるものではない。
【0077】
なお、上記各実施形態においては、ピンと筒型弾性部により枢着機構を構成しているが、一つの部材で枢着機構を構成するようにしてもよい。即ちピン型に形成した枢着機構としての枢着部材を第一貫通孔112A及び第二貫通孔122Aに嵌入させることにより、第一ブラケット110及び第二ブラケット120を枢動可能に連結させてもよい。ここで
図17はピン型の枢着部材70の一例を示し、(A)は斜視図、(B)は断面図である。
図17(A)に示す枢着部材70は、外周面70aにおいて第一貫通孔112Aの内周面に摺接する箇所を膨出させた摺接部72と、他端(
図17(A)に示す向きにおける下端)から該膨出する箇所にかけて延伸するスリット74とを一つ以上形成し、内部において
図17(B)に示すように他端面に形成された開口76から一端部近傍まで延伸する空洞78を形成しても好い。この場合、スリット74の間隙を狭めるように摺接部72が弾性変形し得る。
【0078】
また、ピン型の枢着部材70の形状は、特に限定されるものではなく、例えば
図18に示すような形状であってもよい。即ち、摺接部72の代わりに、他端部側に固定された、他端部側を頂部として外周面70aの軸方向中央部側に向かって逆傘状にひらいた摺接部82を形成し、且つ摺接部82がスリット84を一つ以上有するものであってもよい。この場合、スリット84の間隙を狭めるように摺接部82が弾性変形し得る。
【0079】
上述のような枢着部材70を適用すれば、上述した各実施形態の枢着機構1を適用した場合と同様に、ヒンジ全体のコンパクト化を図ることができ、また第一ブラケット110に摺接部を摺動させることにより、長期間安定したあがき力を維持することができる。また、第一ブラケット110を第二ブラケット120に組み合わせて、枢着部材70を同軸の第一貫通孔112A、第二貫通孔122A及び第三貫通孔123Aに挿入するだけでヒンジ100の組み立てが完了するので、枢着機構1を適用した場合と比較して、更に組み立てを容易に行うことができる。
【0080】
また、筒型弾性部の胴部の形状は、上記に限定されるものではなく、例えば、外形が軸方向に略平行な面を有する形状や、軸方向に沿った中途部分においてくびれを有するように湾曲した形状であってもよい。また胴部は円筒形状に限定されるものではなく、角筒や、楕円筒等の筒形状であってもよい。
【0081】
また枢着機構1を、ねじ山を形成した雄ねじ螺旋溝を有する軸部と、軸部を囲繞するように配置される弾性部とによって構成してもよい。具体的には
図19に示すように軸部90は、頭部92と円筒部94とねじ部96とを有して構成される。
【0082】
頭部92は円筒部94よりも径方向に拡張しており、端面にプラス溝が形成され、プラス工具と係合して回転させることができる。なお、頭部92の外形を多角形等にすることで、外周をスパナと係合させて回転させるようにしても良い。円筒部94は、弾性部98によって囲繞され、且つ弾性部98の内周面に対して密着する。
【0083】
また、頭部92と円筒部94との間には、軸方向に直交する方向に形成された当接面93が形成されており、当接面93は弾性部98を軸方向に沿って押圧し、且つ摺接し得るように面接触する。ねじ部96は、複数のねじ山を形成した雄ねじ螺旋溝を有する。
【0084】
弾性部98は、例えば天然ゴムや合成ゴム等のゴム製の部材又は、胴部22、42等のような弾性変形可能な筒状の部材であり円筒部94を囲繞した状態で第一貫通孔112A内において、第一貫通孔112Aと軸部90との間に介在する。なお、弾性部98が第一貫通孔112Aの内周面に直接摺動することを防止するために、弾性部98の外周面に一体又は別体で適度な摺動具合を発現し得る摺動性を有する摺動表面を設けてもよい。具体的には、弾性部98と一体の摺動表面としては、弾性部98の外周面に耐摩耗性を向上させるためのコーティングを施すようにすることが好ましい。また弾性部98と別体の摺動表面として、略環状のリング部材を弾性部98の外周面に設置するようにしてもよい。このときのリング部材としては、少なくとも弾性部98の弾性変形を妨げない形状、例えばC型リング部材等とするのも好ましい。
【0085】
上記の軸部90と弾性部98を具える枢着機構1を適用する場合、第二貫通孔122Aは、内周の大きさが当接面93及び円筒部94が通過可能な大きさで且つ頭部92の移動を規制する大きさを有する。第三貫通孔123Aは、ねじ部96の雄ねじ螺旋溝と螺合する雌ねじ螺旋条150を有する。
【0086】
上記構成においては、予め弾性部98を第一貫通孔112Aに挿通させ、第一貫通孔112A、第二貫通孔122A及び第三貫通孔123Aを同軸とするように、第一ブラケット110と第二ブラケット120とを組み合わせる。そして
図19に示すように同軸化した第一貫通孔112A、第二貫通孔122A及び第三貫通孔123Aに軸部90を嵌入して回転させることにより、軸部90を第二ブラケット120に締結させると共に、矢印aで示す軸方向下向きの力を弾性部98、第一ブラケット110、第二ブラケット120に付加することができる。このとき弾性部98は、当接面93と第二ブラケット120とに挟まれて圧縮され、矢印bに示す半径方向外向きに弾性変形し、第一貫通孔112Aの内周面を付勢しながら摺接する。
【0087】
なお、弾性部98は、予め軸部90の円筒部94に装着しておいてから、第二貫通孔122Aと第一貫通孔112Aとを同軸化させた孔に挿通してもよい。
【0088】
上記のねじ部96を有する軸部90と弾性部98とを用いても、上述した各実施形態の枢着機構1を適用した場合と同様に、長期間安定したあがき力を維持することができる。また軸部90と弾性部98とが摺接、即ち、相対回転可能に構成することも可能なので、軸部90と弾性部98との間に摩擦を発生させて、これらの間にあがき力を発生させることも可能である。
【0089】
ここで、
図20は他のピン型の枢着部材160を示す図である。枢着部材160は、頭部162と摺接部164と先端部166とを有する。頭部162の外周面には、第二貫通孔122Aの内周面に形成されたスリーブ側係合受部128と係合する頭部側係合部162aが複数形成される。即ち複数の頭部側係合部162aは、頭部162の外周面において、軸方向に延び、且つ周方向に沿って所定間隔を存して配置される。
【0090】
摺接部164は、第一貫通孔112Aに嵌入し得るように構成され、第一貫通孔112Aの内周面に摺接するように形成される。先端部166は、第三貫通孔123Aの内周面に係合する先端側係合部166aを有する。先端側係合部166aは、ローレット形状を有して成るものであるが、これに限定するものではない。例えば、第三貫通孔123Aの内周面が、スリーブ側係合受部128と略同様の軸方向に延びる溝を周方向に沿って複数有する場合、先端側係合部166aは、該溝に係合する複数の凸条から成るもの等、如何なるものであってもよい。
【0091】
また枢着部材160には、軸方向に沿って縦断部分168が形成される。この縦断部分168は、軸方向に沿って複数の山と谷とを交互に並べた刻刻状に形成される。勿論、縦断部分168は、直線状や、山と谷とを交互に並べた波状等に形成してもよい。このように縦断部分を形成することにより、枢着部材160は、縮径又は拡径し得るように弾性変形又は塑性変形することが可能となる。
【0092】
ここでは、枢着部材160は、縮径するように弾性変形、即ち縦断部分168の間隙を狭めるように弾性変形し、第一貫通孔112A、第二貫通孔122A及び第三貫通孔123Aに嵌入するように構成される。このような構成とする方法としては、枢着部材160を略円筒状に形成して構成してもよい。即ち、枢着部材160の展開状態が略平板状を成すように形成しておき、これを筒状を成すように丸めるのである。例えばこのとき頭部162、摺接部164、先端部166を成す領域には互いを画成する厚み差や切欠、スリット等を設けておいてもよい。
【0093】
また枢着部材160は、第一ブラケット110及び第二ブラケット120からの脱抜防止のために、頭部162が第二貫通孔122Aに圧入、及び/又は先端部166が第三貫通孔123Aに圧入されるように構成される。即ち頭部162の外径が第二貫通孔122Aの内径以上、及び/又は先端部166の外径が第三貫通孔123Aの内径以上となるように構成する。
【0094】
図21は、中途部分にくびれを有する筒型弾性部を示す図であり、軸方向における中途部分がくびれるように軸方向に沿って直径が異なる外径及び内径を有する筒型弾性部170を示す。筒型弾性部170は、中空の胴部172と、周方向に沿う回転を規制する回転規制端部174とを有する。
【0095】
胴部172は、外径及び内径が一端部又は両端部において最も大きく、中央部において最も小さくなるようにくびれを有する。即ち筒型弾性部170の外径及び内径は、軸方向の中央部において最も縮径し、当該中央部から軸方向に沿って漸増して一端部又は両端部において最も拡径するように設定される。また胴部172は、壁面を軸方向(縦方向)に切断した縦断部分176を有する。この縦断部分176によって胴部172の壁面の一部には、軸方向全体に延在する間隙が形成される。なお、胴部172のくびれの数は、特に限定されるものではなく、複数あってもよい。
【0096】
回転規制端部174は、周方向に亘る端面全域が波形状を成し、軸方向両端にそれぞれ形成される。即ち回転規制端部174は、胴部172の端面において、周方向に沿って複数の凹凸により成る。また回転規制端部174の先端は、筒型弾性部160の軸方向に対し外側に傾斜する。更に
図20に示す上側の回転規制端部174は、上述のフランジ部44と同様に、第一ブラケット110と第二ブラケット120との間に形成される空間内に弾性変形しながら嵌入し得る。例えば回転規制端部174は、先端が軸方向に直交するよう弾性変形し、第一ブラケット110と第二ブラケット120との間の空間に嵌入する。
【0097】
なお、下側の回転規制端部174は、上側の回転規制端部174のように、先端が軸方向に直交するように弾性変形してもよい。また回転規制端部174の先端は、必ずしも軸方向に直交するように弾性変形しなくてもよい。
【0098】
図22は筒型弾性部170を具える枢着機構を適用したヒンジ100を示す断面図である。筒型弾性部170は、
図21に示す第二スリーブ122、123間に位置するとき、第二スリーブ122、123を軸方向に付勢する押圧力を付与しながら摺接し、各回転規制端部174が第一貫通孔112Aの内周面に当接、好ましくは各回転規制端部174の先端面が第一貫通孔112Aの内周面と略面接触する。各端部174は、複数の凹凸が第一貫通孔112Aの内周面に当接することで、第一ブラケット110に対する相対回転を抑止する回転止めとして機能する。
【0099】
筒型弾性部170は、ピン180が挿通したとき、縦断部分176による間隙が拡がる拡径状態に弾性変形し、ピン180の外周面を押圧する。即ちここでは、筒型弾性部170の最も径が小さい中央部分を押し拡げることが可能な、該中央部分の内径よりも大きい外径のピン180が挿通される。ここでピン180は、上述のピン10に対し、窪み14bの代わりに、外周面の全周に亘って形成された断面凹状の嵌合凹部182を有するものである。なおピン180におけるピン10と同様の構成要素は、同一の符号を付して説明を省略する。
【0100】
嵌合凹部182は、胴部172の中央部分に対向する位置に形成され、当該中央部分が嵌合し得、且つ胴部172の内周面に摺接し得るように形成される。従って筒型弾性部170とピン180は、軸方向において、互いの相対位置が変化しない。
【0101】
筒型弾性部170及びピン180をヒンジ100に適用した場合、筒型弾性部170は、端部174が第一貫通孔112Aの内周面に当接するので、第一ブラケット110に対して相対回転不可となって第一ブラケット110と一体的に回転し得る状態となる。また筒型弾性部170は、軸方向の端部が第二スリーブ122、123に摺接する。
【0102】
一方ピン180は、係合部16がスリーブ側係合受部128に係合し、第二ブラケット120に対して相対回転不可となり、第二ブラケット120と一体的に回転し得る状態となる。
【0103】
従って、筒型弾性部170は、両端部が第二スリーブ122、123に摺接し、中央部分がピン180に摺接し、あがき力を発生させることができる。しかも筒型弾性部170は、ピン180の外周面を押圧しているので、ピン180との摺接で摩耗しても、ピン180を押圧する状態が維持されるので、長期間安定したあがき力を維持することができる。
【0104】
なお、上述した枢着機構1をメガネフレーム等で用いられるヒンジ100に適用する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、他の蝶番を有するもの、例えば扉、ノートパソコン、トランクケース等、いかなるものに適用してもよい。またデスクスタンド等に用いられる多関節アームの関節の回動軸部分に適用してもよい。
【0105】
また、上述の各実施形態において、筒型弾性部が第一貫通孔に挿入されている場合を例に説明したが、筒型弾性部が第二貫通孔又は第三貫通孔に挿通されていてもよい。この場合においてもピンは、連通する第一貫通孔、第二貫通孔及び第三貫通孔に挿嵌される。また筒型弾性部が第一貫通孔と、第二貫通孔及び/又は第三貫通孔に亘る範囲に挿通されていてもよい。この場合、筒型弾性部は、全長を少なくとも第一貫通孔の軸方向の長さよりも長く形成する。そして予め連通させておいた第一貫通孔、第二貫通孔及び第三貫通孔に筒型弾性部を挿通することにより、筒型弾性部を第一貫通孔と、第二貫通孔及び/又は第三貫通孔に亘る範囲に配置可能となる。
【符号の説明】
【0106】
1…枢着機構、10…ピン、12…ピン頭部、14…ピン軸部、14a…円柱部、14b…窪み、15…ピン側座部、16…係合部、18…凹状係止部、16a,18a…リブ、19…段部、20,40…筒型弾性部、22,42…胴部、24,44…フランジ部、26…係止片、28,48…縦断部分、29…スリット、70,80…枢着部材、72,82…摺接部、74,84…スリット、76…開口、78…空洞、90…軸部、92…頭部、94…円筒部、96…ねじ部、98…弾性部、100…ヒンジ、110…第一ブラケット、112…第一スリーブ部、112A…第一貫通孔、114…第一アーム、116…溝部、120…第二ブラケット、122,123…第二スリーブ部、122A…第二貫通孔、123A…第三貫通孔、124…第二アーム、126…嵌合部、128…スリーブ側係合受部