(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】車輪用軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20220527BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20220527BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20220527BHJP
B60B 35/18 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
F16C33/78 D
F16C19/18
F16J15/3204 201
B60B35/18 B
(21)【出願番号】P 2017059182
(22)【出願日】2017-03-24
【審査請求日】2020-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鯉住 荘太
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 司
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-202523(JP,A)
【文献】特開2010-106925(JP,A)
【文献】特開2014-126180(JP,A)
【文献】特開2004-169849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/78,19/18
F16J 15/3204
B60B 35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、
外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪を有し、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、
前記外方部材と前記内方部材とのそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、
異物の入り込みを防止するダストリップと、潤滑材の漏れを防止するグリースリップとを有し、前記外方部材と前記内方部材との間をシールするアウター側のシール部材と、を備えた車輪用軸受装置において、
前記グリースリップが、グリースリップ基部よりも車輪用軸受装置の軸方向外側にリップ先端が配置されている負圧対策用のグリースリップであり、
前記負圧対策用のグリースリップのグリースリップ基部よりも車輪用軸受装置の軸方向内側にリップ先端が配置されている正圧対策用のグリースリップを有し、
前記負圧対策用のグリースリップが、前記正圧対策用のグリースリップのグリースリップ基部に設けられて
おり、
前記正圧対策用のグリースリップのグリースリップ基部は、車輪用軸受装置の軸方向内側の側面が所定の突出量で突出して前記正圧対策用のグリースリップと一体的に形成され、
前記所定の突出量は、前記負圧対策用のグリースリップの前記ハブ輪側の稜線と前記正圧対策用のグリースリップの前記ハブ輪側の稜線との交点を基準とし、前記交点から前記正圧対策用のグリースリップのリップ先端までの長さの1/4である所定長さが前記グリースリップ基部に包含されるように設定される車輪用軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車輪用軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の懸架装置において車輪を回転自在に支持する車輪用軸受装置が知られている。車輪用軸受装置は、車輪に接続される内方部材であるハブ輪が転動体を介して回転自在に支持されている。車輪用軸受装置は、外方部材と内方部材の内部に封入されたグリースが漏出したり、内部に泥水等が入り込むことで錆が発生したりすることで転動体や軌道面が損傷し軸受寿命が短くなる。このため、車輪用軸受装置には、外方部材と内方部材との隙間から内部に封入されているグリースの漏出を防止するとともに外部から泥水等の入り込みを防止するシール部材が設けられている。
【0003】
このような車輪用軸受装置において、軸受寿命を長くするために、シール部材に複数のシールリップを設けてシール性を向上させているものがある。例えば、車輪用軸受装置を車体に取り付けた際、車輪側であるアウター側のシール部材には、外部からの泥水等の入り込みを防止する複数のダストリップと、内部からのグリースの漏れを防止するグリースリップとが設けられている。ダストリップは、シール部材の芯金から車輪用軸受装置の外側(アウター側)に向かって延びるように配置されている。また、グリースリップは、シール部材の芯金から車輪用軸受装置の内側(車輪用軸受装置を車体に取り付けた際、車体側であるインナー側)に向かって延びるように配置されている。このように構成することで、車輪用軸受装置は、ダストリップによって外部からの泥水等の入り込みを効果的に防止し、グリースリップによって内部からのグリースの漏れを効果的に防止することができる。例えば、特許文献1に記載の如くである。
【0004】
SUVやクロスカントリー等のオフロード車に用いられる車輪用軸受装置は、オフロード走行時等において、高頻度の急加速、急減速や高出力状態の維持による高温状態での使用と、水溜りへの進入、積雪路の走行等による低温状態での使用とが連続的に繰り返され、急激な温度変化が生じる場合がある。車輪用軸受装置は、温度上昇によって内部の気体が膨張し、温度低下によって内部の気体が収縮する。外輪のインナー側がカバーで密閉されている車輪用軸受装置では、温度上昇によって膨張した内部の気体がカバーと外輪との嵌合部の隙間から外部に流出する。また、車輪用軸受装置は、温度低下によって内部の気体が収縮することにより内圧が負圧になり、カバーが大気圧によって外輪に引きつけられ、カバーと外輪との隙間が詰まる。これにより、車輪用軸受装置は、外部から空気が流入し難くなり内部の負圧状態が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のダストリップとグリースリップとを有するシール部材によってシールされている車輪用軸受装置は、内圧が負圧になることによってダストリップとグリースリップとが内側に引き込まれる。これにより、車輪用軸受装置の外側に向かって延びているダストリップは、外部と内部との圧力差によって摺動面に押し付けられて摩耗が促進する。また、車輪用軸受装置の内側に向かって延びているグリーススリップは、摺動面から離間して隙間が生じる。従って、車輪用軸受装置は、内圧が負圧になることでシール性能が低下する場合があった。
【0007】
本発明は以上の如き状況に鑑みてなされたものであり、内圧が負圧になってもシール性能を維持することができる車輪用軸受装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に軸方向に延びる小径段部が形成されたハブ輪、および前記ハブ輪の小径段部に圧入された少なくとも一つの内輪を有し、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、前記外方部材と前記内方部材とのそれぞれの転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、異物の入り込みを防止するダストリップと、潤滑材の漏れを防止するグリースリップとを有し、前記外方部材と前記内方部材との間をシールするアウター側のシール部材と、を備えた車輪用軸受装置において、前記グリースリップが、リップ摺動面に対して車輪用軸受装置の内部に向かう力が加わる状態で前記リップ摺動面に接触している負圧対策用のグリースリップであるものである。
【0009】
車輪用軸受装置においては、前記負圧対策用のグリースリップのグリースリップ基部よりも車輪用軸受装置の軸方向内側にリップ先端が配置されている正圧対策用のグリースリップを更に有するものである。
【0010】
車輪用軸受装置においては、前記負圧対策用のグリースリップが、前記正圧対策用のグリースリップのグリースリップ基部に設けられているものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0012】
即ち、本発明によれば、グリースリップのリップ先端が車輪用軸受装置の外部に向いた状態でリップ摺動面に支持されている。これにより、内圧が負圧になってもシール性能を維持することができる。
【0013】
本発明によれば、車輪用軸受装置の内部に引き込まれた際、リップ先端がリップ摺動面に押し付けられる。これにより、内圧が負圧になってもシール性能を維持することができる。
【0014】
また、更に正圧対策用のグリースリップを有することで、車輪用軸受装置の内圧が正圧でも潤滑剤が漏れ出さない。これにより、内圧が負圧になってもシール性能を維持することができる。
【0015】
負圧対策用のグリースリップを正圧対策用のグリースリップのグリースリップ基部に設けることで、車輪用軸受装置の内圧が負圧になっても正圧対策用のグリースリップがリップ摺動面から離間し難い。これにより、内圧が負圧になってもシール性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る車輪用軸受装置の各実施形態における全体構成を示す斜視図。
【
図2】本発明に係る車輪用軸受装置の第一実施形態における全体構成を示す断面図。
【
図3】本発明に係る車輪用軸受装置の第一実施形態におけるアウター側シール部材の構成を示す部分拡大断面図。
【
図4】(a)本発明に係る車輪用軸受装置の第一実施形態におけるアウター側シール部材が正圧状態の車輪用軸受装置をシールしている状態を示す部分拡大断面図、(b)同じくアウター側シール部材が負圧状態の車輪用軸受装置をシールしている状態を示す部分拡大断面図。
【
図5】本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態におけるアウター側シール部材の構成を示す部分拡大断面図。
【
図6】(a)本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態におけるアウター側シール部材が正圧状態の車輪用軸受装置をシールしている状態を示す部分拡大断面図、(b)同じくアウター側シール部材が負圧状態の車輪用軸受装置をシールしている状態を示す部分拡大断面図。
【
図7】本発明に係る車輪用軸受装置の第三実施形態におけるアウター側シール部材の構成を示す部分拡大断面図。
【
図8】本発明に係る車輪用軸受装置の第三実施形態におけるアウター側シール部材が負圧状態の車輪用軸受装置をシールしている状態を示す部分拡大断面図。
【
図9】本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態におけるアウター側シール部材の正圧対策グリースリップが非接触シールである構成を示す部分拡大断面図。
【
図10】本発明に係る車輪用軸受装置の第四実施形態におけるアウター側シール部材の構成を示す部分拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、
図1から
図3を用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第一実施形態である車輪用軸受装置1について説明する。
【0018】
図1と
図2とに示すように、車輪用軸受装置1は、自動車等の車両の懸架装置において車輪を回転自在に支持するものである。車輪用軸受装置1は、外方部材である外輪2、内方部材であるハブ輪3、内輪4、転動列である二列のインナー側ボール列5a、アウター側ボール列5b、磁気エンコーダ6、カバー8、シール部材であるアウター側シール部材9を具備する。ここで、インナー側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車体側を表し、アウター側とは、車体に取り付けた際の車輪用軸受装置1の車輪側を表す。軸方向とは、車輪用軸受装置1の回転軸に沿った方向を表す。
【0019】
図2に示すように、外方部材である外輪2は、ハブ輪3と内輪4とを支持するものである。外輪2は、略円筒状に形成されている。外輪2のインナー側端部には、カバー8が嵌合可能なインナー側開口部2aが形成されている。外輪2のアウター側端部には、アウター側シール部材9が嵌合可能なアウター側開口部2bが形成されている。
【0020】
外輪2の内周面には、環状に形成されているインナー側の外側転走面2cと、アウター側の外側転走面2dとが周方向に互いに平行になるように形成されている。外輪2の外周面には、図示しない車体側の部材に取り付けるための車体取り付けフランジ2eが一体に形成されている。
【0021】
内方部材を構成するハブ輪3は、図示しない車両の車輪を回転自在に支持するものである。ハブ輪3は、有底円筒状に形成されている。ハブ輪3のインナー側端部には、外周面に縮径された小径段部3aが形成されている。ハブ輪3のアウター側端部には、車輪を取り付けるための車輪取り付けフランジ3bが一体的に形成されている。車輪取り付けフランジ3bには、円周等配位置にハブボルト3eが設けられている。ハブ輪3には、外輪2のアウター側の外側転走面2dに対向するようにアウター側の内側転走面3cが形成されている。また、ハブ輪3には、車輪取り付けフランジ3bの基部側にアウター側シール部材9のリップ摺動面3dが形成されている。ハブ輪3には、小径段部3aに内輪4が設けられている。
【0022】
内輪4は、円筒状に形成されている。内輪4の外周面には、周方向に環状の内側転走面4aが形成されている。内輪4は、圧入により、ハブ輪3のインナー側端部に固定されている。つまり、ハブ輪3のインナー側には、内輪4によって内側転走面4aが構成されている。ハブ輪3は、インナー側端部の内輪4の内側転走面4aが外輪2のインナー側の外側転走面2cに対向し、アウター側の内側転走面3cが外輪2のアウター側の外側転走面2dに対向するように配置されている。
【0023】
転動列であるインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、ハブ輪3を回転自在に支持するものである。インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、転動体である複数のボールが保持器によって環状に保持されている。インナー側ボール列5aは、内輪4の内側転走面4aと、外輪2のインナー側の外側転走面2cとの間に転動自在に挟まれている。アウター側ボール列5bは、ハブ輪3の内側転走面3cと、外輪2のアウター側の外側転走面2dとの間に転動自在に挟まれている。つまり、インナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとは、外輪2に対してハブ輪3と内輪4とを回転自在に支持している。
【0024】
車輪用軸受装置1は、外輪2とハブ輪3と内輪4とインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとから複列アンギュラ玉軸受が構成されている。なお、本実施形態において、車輪用軸受装置1には、複列アンギュラ玉軸受が構成されているが、複列円錐ころ軸受等の軸受で構成されていてもよい。
【0025】
磁気エンコーダ6は、固定側である外方部材(外輪2)に対する内方部材(ハブ輪3と内輪4)の回転速度を検出するために用いられる。磁気エンコーダ6は、図示しない磁気センサとの組み合わせによって回転速度検出装置を構成している。磁気エンコーダ6は、一側端部に鍔を有する円筒状の支持部材7の鍔部分に、例えば加硫接着によって、一体に設けられている。支持部材7は、円筒部9aが内輪4に嵌合されている。すなわち、磁気エンコーダ6は、外輪2のインナー側開口部2aに配置されている。
【0026】
カバー8は、外輪2のインナー側開口部2aを塞いで磁気エンコーダ6を保護するものである。カバー8は、有底円筒状に形成されている。カバー8は、円筒状の側部8aと円盤状の底部8bとが一体的に連結されている。カバー8は、外輪2のインナー側開口部2aに側部8aが嵌合されている。これにより、カバー8は、外輪2に固定され、外輪2のインナー側開口部2aを塞ぎ、インナー側開口部2a近傍に配置されている磁気エンコーダ6を保護している。
【0027】
このように構成される車輪用軸受装置1は、外輪2とハブ輪3と内輪4と二列のボール列5a・5bとから複列アンギュラ玉軸受が構成され、ハブ輪3が二列のボール列5a・5bを介して外輪2に回転自在に支持されている。また、車輪用軸受装置1は、回転速度検出装置の磁気エンコーダ6が内輪4に固定され、カバー8によって保護されている。車輪用軸受装置1は、内輪4と一体的に回転する磁気エンコーダ6の磁性の変化を外部に固定されている図示しない磁気センサにより検出する。
【0028】
図3に示すように、アウター側シール部材9は、外輪2のアウター側開口部2bとハブ輪3との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材9は、複数のシールリップとシールリップが加硫接着された略円筒状の芯金とから構成されている。
【0029】
芯金は、例えば、フェライト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS430系等)やオーステナイト系ステンレス鋼板(JIS規格のSUS304系等)、あるいは、防錆処理された冷間圧延鋼板(JIS規格のSPCC系等)によって構成されている。芯金は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、円筒部9aと円環状の円板部9bとが形成されている。円筒部9aは、外輪2のアウター側開口部2bに嵌合可能な円筒状に形成されている。円板部9bは、円筒部9aのアウター側端から径方向内側に向かって延びる円環状に形成されている。
【0030】
芯金の円板部9bの板面には、それぞれ円環状に形成されているラジアルリップである負圧対策グリースリップ9d、アキシアルリップである内側ダストリップ9eおよび外側ダストリップ9fが一体に加硫接着されている。負圧対策グリースリップ9d、内側ダストリップ9e、外側ダストリップ9fは、例えば、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、耐熱性に優れたHNBR(水素化アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、EPDM(エチレンプロピレンゴム)、耐熱性、耐薬品性に優れたACM(ポリアクリルゴム)、FKM(フッ素ゴム)、あるいはシリコンゴム等の合成ゴムから構成されている。
【0031】
アウター側シール部材9は、芯金の円板部9bに設けられている内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとをアウター側に向けて、外輪2のアウター側端部に設けられている。具体的には、アウター側シール部材9は、内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとをハブ輪3のリップ摺動面3dに向けて、円筒部9aが外輪2のアウター側開口部2bに嵌合されている。なお、本実施形態において、アウター側シール部材9は、芯金の円筒部9aが外輪2の内周に嵌合(内径嵌合)されているが、外輪2の外周に嵌合(外径嵌合)されていてもよい。
【0032】
負圧対策グリースリップ9dは、潤滑材であるグリースの油膜を介してハブ輪3のリップ摺動面3dに接触し、車輪用軸受装置1の内部に充填されているグリースの外部への漏れを防止している。内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとは、潤滑材であるグリースの油膜を介してハブ輪3のリップ摺動面3dに接触し、車輪用軸受装置1の内部に泥水や粉塵等の外部からの入り込みを防止している。このように、アウター側シール部材9は、負圧対策グリースリップ9d、内側ダストリップ9eおよび外側ダストリップ9fがグリースの油膜を介してリップ摺動面3dに接触することでリップ摺動面3dと各シールリップとの良好な摺動状態を確保し、外輪2のアウター側開口部2bから内部のグリースの漏れおよび外部からの雨水や粉塵等の入り込みを防止している。
【0033】
このように構成される車輪用軸受装置1には、ハブ輪3と内輪4とがインナー側ボール列5aとアウター側ボール列5bとを介して外輪2に回転自在に支持されている。また、車輪用軸受装置1は、外輪2のインナー側開口部2aと内輪4との隙間をカバー8で塞がれ、外輪2のアウター側開口部2bとハブ輪3との隙間をアウター側シール部材9で塞がれている。これにより、車輪用軸受装置1は、内部からの潤滑グリースの漏れおよび外部からの雨水や粉塵等の入り込みを防止しつつ外輪2に支持されているハブ輪3と内輪4とが回転する。なお、本実施形態において、外輪2のインナー側開口部2aと内輪4との隙間をカバー8で塞がれているが、シール部材のみ、もしくはシール部材とカバーの両方で塞がれていてもよい。
【0034】
次に、
図3と
図4とを用いて、アウター側シール部材9の負圧対策グリースリップ9d、内側ダストリップ9eおよび外側ダストリップ9fの構成と働きについて具体的に説明する。
【0035】
図3に示すように、負圧対策グリースリップ9dは、車輪用軸受装置1の内圧が正圧である場合にグリースの外部への漏れを防止するだけでなく、車輪用軸受装置1の内圧が負圧になった場合のグリースの外部への漏れを防止する負圧対策用のグリースリップである。負圧対策グリースリップ9dは、芯金の円板部9bの最も径方向内側である内縁に形成されている。負圧対策グリースリップ9dは、円板部9bの内縁にグリースリップ基部9cが加硫接着により形成されている。負圧対策グリースリップ9dは、グリースリップ基部9cから径方向内側であって車輪用軸受装置1のアウター側である軸方向外側に向かって延びるように形成されている。つまり、負圧対策グリースリップ9dは、グリースリップ基部9cよりも車輪用軸受装置1の軸方向外側にリップ先端が配置されている。
【0036】
負圧対策グリースリップ9dの内径は、ハブ輪3のリップ摺動面3dにおいてリップ先端が接触する位置でのハブ輪3の外径よりも小さく形成されている。従って、負圧対策グリースリップ9dは、アウター側シール部材9にハブ輪3が挿入されることで、内径のリップ先端が径方向外側に押し広げられた状態でリップ摺動面3dに接触する。負圧対策グリースリップ9dには、ハブ輪3による弾性変形の反力としてリップ摺動面3dを全周に渡って押圧する緊迫力が生じている。この際、負圧対策グリースリップ9dは、リップ先端のうち車輪用軸受装置1の軸方向内側の先端がリップ摺動面3dに接触している。これにより、負圧対策グリースリップ9dは、その弾性変形の状態から、軸心に向かう力と車輪用軸受装置1の軸方向内側に向かう力(矢印参照)の合力として車輪用軸受装置1の外部から内部に向かう力(白塗矢印参照)をリップ摺動面3dに加えた状態で接触している。つまり、負圧対策グリースリップ9dは、リップ摺動面3dによって支持され、その弾性変形された状態が維持されている。
【0037】
内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとは、負圧対策グリースリップ9dよりも車輪用軸受装置1の軸方向外側で、負圧対策グリースリップ9dよりも径方向外側に形成されている。内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとは、径方向に並ぶようにして配置されている。さらに、内側ダストリップ9eが内輪4側に配置され、外側ダストリップ9fが外輪2側に配置されている。つまり、円板部9bには、径方向内側に内側ダストリップ9eが配置され、径方向外側に外側ダストリップ9fが配置されている。
【0038】
内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとは、円板部9bの内縁から径方向外側であって車輪用軸受装置1のアウター側の軸方向外側に向かって延びるように形成されている。内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとの内径は、ハブ輪3のリップ摺動面3dにおいてリップ先端が接触する位置でのハブ輪3の外径よりも小さく形成されている。従って、内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとは、アウター側シール部材9にハブ輪3が挿入されることで、内径のリップ先端が径方向外側に押し広げられた状態でリップ摺動面3dに接触する。内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとには、ハブ輪3による弾性変形の反力としてリップ摺動面3dを全周に渡って押圧する緊迫力が生じている。つまり、内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとは、リップ摺動面3d沿うようにして車輪用軸受装置1の外部から内部に向かって変形しようとする力がリップ先端を介してリップ摺動面3dによって受け止められ、その弾性変形状態が維持されている。
【0039】
図4(a)に示すように、車輪用軸受装置1の温度上昇等によって車輪用軸受装置1の内部の空気が膨張した場合、車輪用軸受装置1の内圧が正圧状態になる。アウター側シール部材9の負圧対策グリースリップ9dには、車輪用軸受装置1の内部から外部に向かって内圧に応じた押出し力が加わる(黒塗矢印参照)。負圧対策グリースリップ9dは、リップ先端の緊迫力(白塗矢印参照)を超える大きさの押出し力が加わるまで、リップ先端がリップ摺動面3dに接触した状態が維持される。つまり、負圧対策グリースリップ9dは、車輪用軸受装置1の内圧が所定の正圧に到達するまでグリースの漏れを防止することができる。内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとは、内圧が所定の正圧に到達するまで、内圧の影響をうけない。この際、カバー8が外輪2のインナー側開口部2aに嵌合されている車輪用軸受装置1では(
図2参照)、温度上昇によって膨張した内部の空気がカバー8の嵌合部の隙間から外部に流出する。
【0040】
図4(b)に示すように、車輪用軸受装置1の急激な温度低下等によって車輪用軸受装置1の内部の空気が収縮した場合、カバー8が大気圧で外輪2に押し付けられることで空気の流入が難しくなり、車輪用軸受装置1の内部が負圧状態になる。アウター側シール部材9の負圧対策グリースリップ9dには、車輪用軸受装置1の外部から内部に向かって内圧に応じた引き込み力(大気圧による押し込み力)が加わる(黒塗矢印参照)。引き込み力は、負圧対策グリースリップ9dのリップ先端がリップ摺動面3dに加えている力を増大させる方向に作用する(白塗矢印参照)。負圧対策グリースリップ9dは、引き込み力の作用によって、リップ摺動面3dに接触しているリップ先端がリップ摺動面3dに押し付けられる。つまり、負圧対策グリースリップ9dは、引き込み力によって、リップ先端の側面とリップ摺動面3dとの摩擦力が増大し、車輪用軸受装置1の軸方向内側に向かって変形し難くなる。これにより、負圧対策グリースリップ9dは、負圧による引き込み力が生じてもリップ先端とリップ摺動面3dとが離間しないのでグリースの漏れを防止することができる。
【0041】
また、負圧対策グリースリップ9dは、引き込み力によって、リップ先端がリップ摺動面3dに密着されることで負圧対策グリースリップ9dよりも車輪用軸受装置1の軸方向外側への圧力の変動を遮断する。すなわち、アウター側シール部材9は、負圧対策グリースリップ9dの作用によって内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとに引き込み力が作用しない。これにより、内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとは、リップ摺動面3dにべた当りにすることにより接触面圧が低下することがない。すなわち、内側ダストリップ9eと外側ダストリップ9fとは、リップ摺動面3dとの適切な接触状態が維持されるので、泥水等の浸入を防止することができる。
【0042】
次に、
図5と
図6とを用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第二実施形態である車輪用軸受装置10について説明する。なお、以下の各実施形態に係る車輪用軸受装置は、
図1から
図4に示す車輪用軸受装置1において、車輪用軸受装置1に替えて適用されるものとして、その説明で用いた名称、図番、符号を用いることで、同じものを指すこととし、以下の実施形態において、既に説明した実施形態と同様の点に関してはその具体的説明を省略し、相違する部分を中心に説明する。
【0043】
図5に示すように、車輪用軸受装置10のアウター側シール部材11は、外輪2のアウター側開口部2bとハブ輪3との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材11は、複数のシールリップと、シールリップが加硫接着された略円筒状の芯金とから構成されている。芯金は、円筒部11aおよび円板部11bが形成されている。芯金の円板部11bの板面には、それぞれ円環状に形成されている負圧対策グリースリップ11d、内側ダストリップ11e、外側ダストリップ11fおよび正圧対策グリースリップ11g、が一体に加硫接着されている。
【0044】
正圧対策グリースリップ11gは、車輪用軸受装置10の内圧が正圧である場合のグリースの外部への漏れを防止する正圧対策用のグリースリップである。正圧対策グリースリップ11gは、芯金の円板部11bの最も径方向内側である内縁であって、負圧対策グリースリップ11dよりも車輪用軸受装置10の軸方向内側に形成されている。正圧対策グリースリップ11gは、負圧対策グリースリップ11dのグリースリップ基部11cから円板部11bの径方向内側であって車輪用軸受装置10のインナー側である軸方向内側に向かって延びるように形成されている。つまり、負圧対策グリースリップ11dと正圧対策グリースリップ11gとは、共通のグリースリップ基部11cに形成されている。これにより、正圧対策グリースリップ11gのグリースリップ基部11cは、負圧対策グリースリップ11dを介してリップ摺動面3dに支持されている。正圧対策グリースリップ11gは、グリースリップ基部11cよりも車輪用軸受装置10の軸方向内側にリップ先端が配置されている。
【0045】
正圧対策グリースリップ11gの内径は、ハブ輪3のリップ摺動面3dにおいてリップ先端が接触する位置でのハブ輪3の外径よりも小さく形成されている。従って、負圧対策グリースリップ11dは、アウター側シール部材11にハブ輪3が挿入されることで、リップ先端が径方向外側に押し広げられた状態でリップ摺動面3dに接触する。正圧対策グリースリップ11gには、ハブ輪3による弾性変形の反力としてリップ摺動面3dを全周に渡って押圧する緊迫力が生じている。この際、正圧対策グリースリップ11gは、リップ先端のうち車輪用軸受装置10の軸方向外側の先端がリップ摺動面3dに接触している。これにより、正圧対策グリースリップ11gは、その弾性変形の状態から、軸心に向かう力と車輪用軸受装置1の軸方向外側に向かう力(矢印参照)の合力として車輪用軸受装置1の内部から外部に向かう力(白塗矢印参照)をリップ摺動面3dに加えた状態で接触している。つまり、正圧対策グリースリップ11gは、リップ先端を介してリップ摺動面3dによって支持され、その弾性変形状態が維持されている。
【0046】
図6(a)に示すように、車輪用軸受装置10の内圧が正圧である場合、アウター側シール部材11の正圧対策グリースリップ11gには、車輪用軸受装置1の内部から外部に向かって内圧に応じた押出し力が加わる(黒塗矢印参照)。押出し力は、正圧対策グリースリップ11gのリップ先端がリップ摺動面3dに加えている力を増大させる方向に作用する(白塗矢印参照)。正圧対策グリースリップ11gは、押出し力の作用によって、リップ摺動面3dに接触しているリップ先端がリップ摺動面3dに押し付けられる。つまり、正圧対策グリースリップ11gは、押出し力によって、リップ先端の側面とリップ摺動面3dとの摩擦力が増大し、車輪用軸受装置10の軸方向外側に向かって変形し難くなる。これにより、正圧対策グリースリップ11gは、正圧による押出し力が生じてもリップ先端とリップ摺動面3dとが離間しないのでグリースの漏れを防止することができる。内側ダストリップ11eと外側ダストリップ11fとは、内圧が所定の正圧に到達するまで、内圧の影響をうけない。
【0047】
図6(b)に示すように、車輪用軸受装置10の内圧が負圧になった場合、アウター側シール部材11の正圧対策グリースリップ11gには、車輪用軸受装置1の外部から内部に向かって内圧に応じた引き込み力が加わる(黒塗矢印参照)。引き込み力は、正圧対策グリースリップ11gのリップ先端がリップ摺動面3dに加えている力を打ち消す方向に作用する。正圧対策グリースリップ11gは、引き込み力の作用によって、リップ摺動面3dに接触しているリップ先端がリップ摺動面3dに押し付けられなくなる。
【0048】
正圧対策グリースリップ11gのグリースリップ基部11cには、負圧対策グリースリップ11dの弾性変形によってグリースリップ基部11cの変形を抑制する力が加わっている。グリースリップ基部11cの変形を抑制する力は、リップ先端がリップ摺動面3dに加えている力を増大させる方向に作用している。負圧対策グリースリップ11dは、グリースリップ基部11cの変形を抑制する力の作用によって、リップ摺動面3dに接触しているリップ先端がリップ摺動面3dに押し付けられている。つまり、正圧対策グリースリップ11gは、グリースリップ基部11cの変形を抑制する力によって、リップ先端の側面とリップ摺動面3dとが離間し難くなる。正圧対策グリースリップ11gは、リップ先端の緊迫力を超える大きさの引き込み力が加わるまで、リップ先端がリップ摺動面3dに接触した状態が維持される。これにより、正圧対策グリースリップ11gは、負圧による引き込み力が生じてもリップ先端とリップ摺動面3dとが離間し難いのでグリースの漏れを抑制することができる。
【0049】
正圧対策グリースリップ11gは、車輪用軸受装置10の内圧が所定の負圧に到達するとリップ先端がリップ摺動面3dから離間する(小さい白塗矢印参照)。正圧対策グリースリップ11gがリップ摺動面3dから離間すると、アウター側シール部材11の負圧対策グリースリップ11dには、車輪用軸受装置1の内圧に応じた引き込み力が加わる。負圧対策グリースリップ11dは、引き込み力によって、リップ先端の側面とリップ摺動面3dとの摩擦力が増大し、車輪用軸受装置10の軸方向内側に向かって変形し難くなる(白塗矢印参照)。これにより、負圧対策グリースリップ11dは、負圧による引き込み力が生じてもリップ先端とリップ摺動面3dとが離間しないのでグリースの漏れを防止することができる。また、アウター側シール部材11は、負圧対策グリースリップ11dの作用によって内側ダストリップ11eと外側ダストリップ11fとに引き込み力が作用しない。これにより、内側ダストリップ11eと外側ダストリップ11fとは、リップ摺動面3dとの適切な接触状態が維持されるので、泥水等の浸入を防止することができる。
【0050】
次に、
図7と
図8とを用いて、本発明に係る車輪用軸受装置の第三実施形態である車輪用軸受装置12について説明する。本実施形態に係る車輪用軸受装置12は、第二実施形態に係る車輪用軸受装置10のシールリップの数および位置は同一であり、正圧対策グリースリップ13gの形状が異なるものである。
【0051】
図7に示すように、車輪用軸受装置12のアウター側シール部材13は、外輪2のアウター側開口部2bとハブ輪3との隙間を塞ぐものである。アウター側シール部材13は、複数のシールリップと、シールリップが加硫接着された略円筒状の芯金とから構成されている。芯金は、円筒部13aおよび円板部13bが形成されている。芯金の円板部13bの板面には、それぞれ円環状に形成されている負圧対策グリースリップ13d、正圧対策グリースリップ13g、内側ダストリップ13e、外側ダストリップ13fおよび正圧対策グリースリップ13gが一体に加硫接着されている。
【0052】
正圧対策グリースリップ13gのグリースリップ基部13cは、車輪用軸受装置12の軸方向内側の側面が突出するように形成されている。さらに、グリースリップ基部13cの突出部分は、径方向内側に延びて正圧対策グリースリップ13gと一体的に形成されている。つまり、グリースリップ基部13cは、車輪用軸受装置12の軸方向内側に延びている正圧対策グリースリップ13gを径方向から支持している。これにより、正圧対策グリースリップ13gは、グリースリップ基部13cを突出させていない場合に比べてリップ長さが短くなるので、外力によってリップ摺動面3dから離間する方向に弾性変形し難くなる。グリースリップ基部13cの突出量Sは、負圧対策グリースリップ13dのハブ輪3側の稜線と正圧対策グリースリップ13gのハブ輪3側の稜線との交点を基準として正圧対策グリースリップ13gのリップ先端までの稜線の長さL1の所定の割合の所定長さL2(例えば、交点からリップ先端までの稜線の長さの1/4である所定長さL2)がグリースリップ基部13cに包含されるように設定される。
【0053】
図8に示すように、車輪用軸受装置12の内圧が負圧になった場合、アウター側シール部材13の正圧対策グリースリップ13gには、車輪用軸受装置12の外部から内部に向かって内圧に応じた引き込み力が加わる(黒塗矢印参照)。引き込み力は、正圧対策グリースリップ13gのリップ先端がリップ摺動面3dに加えている力を打ち消す方向に作用する。正圧対策グリースリップ13gは、引き込み力の作用によって、リップ摺動面3dに接触しているリップ先端がリップ摺動面3dに押し付けられなくなる。
【0054】
正圧対策グリースリップ13gのグリースリップ基部13cには、負圧対策グリースリップ13dの弾性変形によってグリースリップ基部13cの変形を抑制する力が加わっている。また、グリースリップ基部13cは、正圧対策グリースリップ13gの弾性変形を抑制するように正圧対策グリースリップ13gを支持している。つまり、正圧対策グリースリップ13gは、グリースリップ基部13cの変形を抑制する力とグリースリップ基部13cによる支持とによって、リップ先端とリップ摺動面3dとが離間し難くなる(白塗矢印参照)。正圧対策グリースリップ13gは、負圧による引き込み力が生じてもグリースの漏れを抑制することができる。これにより、車輪用軸受装置12は、内圧が負圧になってもシール性能を維持することができる。
【0055】
上述した第二実施形態に係る車輪用軸受装置10と第三実施形態に係る車輪用軸受装置12において、正圧対策グリースリップ11g・13gは、ハブ輪3のリップ摺動面3dに接触した状態でグリースをシールしているが、リップ摺動面3dに接触していなくてもよい。例えば、
図9に示すように、アウター用シール部材11は、リップ先端がリップ摺動面3dに接触していない正圧対策グリースリップ11hを有している。アウター用シール部材11は、リップ摺動面3dと正圧対策グリースリップ11hとの間に微細な隙間Gを設けることでラビリンスが構成されている。これにより、車輪用軸受装置10は、正圧対策グリースリップ11hのシール性能を維持しつつ、アウター側シール部材11の摺動抵抗を抑制することができる。
【0056】
上述した本発明に係る車輪用軸受装置の第一実施形態から第三実施形態における車輪用軸受装置1・10・12において、アウター側シール部材9・11・13は、全ての部分が外輪2に内部に配置されているが、アウター側シール部材9・11・13の一部が堰部等として外輪2の外部に配置されているアウター側シール部材に本発明を適用してもよい。
【0057】
図10に示すように、第二実施形態の変形例である第四実施形態の車輪用軸受装置14において、アウター側シール部材15の芯金は、円環状の鋼板がプレス加工によって屈曲され、円筒部15aと円板部15bと鍔部15hが形成されている。円筒部15aは、外方部材である外輪2のアウター側開口部2bに嵌合可能な円筒状に形成されている。円板部15bは、円筒部15aのインナー側端から径方向内側に向かって延びる円環状に形成されている。鍔部15hは、円筒部15aのアウター側端から径方向外側に向かって延びる円環状に形成されている。
【0058】
芯金の円板部15bの板面には、それぞれ円環状に形成されているラジアルリップである負圧対策グリースリップ15d、アキシアルリップである内側ダストリップ15e、外側ダストリップ15fおよび正圧対策グリースリップ15gが一体に加硫接着されている。芯金の鍔部15hの外縁には、それぞれ円環状に形成されている堰部15iが一体に加硫接着されている。堰部15iは、芯金の鍔部15hの屈曲された外縁部分を覆う円環状に形成されている。堰部15iには、外輪2のアウター側端部が圧入嵌合されている。つまり、堰部15iは、内周面が外輪2の外周面に密接されることで、車輪用軸受装置14の外部から泥水や粉塵等の内部への入り込みを防止している。
【0059】
このように、上述した各実施形態におけるアウター側シール部材9は、負圧対策グリースリップ9d、内側ダストリップ9eおよび外側ダストリップ9fからなる構成であるがこれ以外の構成からなるアウター側シール部材でもよい。また、アウター側シール部材9は、芯金の円筒部9aおよび円板部9bに加硫接着されているがそれ以外の接着方法でもよい。アウター側シール部材9・11・13・15についても同様である。
【0060】
本願における車輪用軸受装置1・10・12・14は、一つの内輪4が嵌合されたハブ輪3を備え、取付フランジを有している外輪2と内輪4とハブ輪3の嵌合体で構成された内輪回転仕様の第3世代構造としているが、内方部材として一つの内輪4が嵌合された取付フランジを有している支持軸を備え、外方部材である外輪2がハブ輪3として形成されており、このハブ輪3と内方部材である内輪4と支持軸の嵌合体とで構成された外輪回転仕様の第3世代構造であってもよい。更に、内方部材としてハブ輪3と自在継手とが連結されており、取付フランジを有している外方部材である外輪2と内方部材であるハブ輪3と自在継手の嵌合体とで構成された第4世代構造であってもよい。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について説明を行ったが、本発明はこうした実施の形態に何等限定されるものではなく、あくまで例示であって、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことであり、本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0062】
1、10、12、14 車輪用軸受装置
2 外輪
2a インナー側開口部
3 ハブ輪
4 内輪
5a インナー側ボール列
5b アウター側ボール列
6 磁気エンコーダ
9、11、13、15 アウター側シール部材
9d、11d、13d、15d 負圧対策グリースリップ
9e、11e、13e、15e 内側ダストリップ
9f、11f、13f、15f 外側ダストリップ