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  • 特許-リチウムイオン二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20220527BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220527BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20220527BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220527BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20220527BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220527BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20220527BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20220527BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/36 E
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/587
H01M10/052
H01M10/0566
H01M10/0585
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017243761
(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公開番号】P2019110087
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社エンビジョンAESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田村 秀利
(72)【発明者】
【氏名】丹上 雄児
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/013718(WO,A1)
【文献】特表2015-523543(JP,A)
【文献】特開2001-202962(JP,A)
【文献】国際公開第2004/105162(WO,A1)
【文献】KOBAYASHI, Takeshi et al.,Journal of Power Sources,2014年,245,1-6
【文献】ZHANG, Jicheng et al.,ACS Applied Materials & Interfaces,2017年,9,29794-29803
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01M 4/36
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/587
H01M 10/052
H01M 10/0566
H01M 10/0585
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体の少なくとも一面に正極活物質を含む正極活物質層が設けられたリチウムイオン二次電池用正極であって、
該正極活物質が、スピネル構造を有する第1のリチウム化合物と、層状構造を有する第2のリチウム化合物とを含有し、
該第1のリチウム化合物が、以下の式(1):
[化1]
Li x1 Mn y1 1z1 (1)
(ここでM は、Mg、B、Al、V、Cr、Fe、Co、NiおよびWからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、1≦x1<1.1であり、1.8≦y1<1.86、1.91<y1+z1+(x1-1)<2.0である。)で表され、
該第2のリチウム化合物が、以下の式(2):
[化2]
LiNi (1-y2) 2y2 (2)
(ここでM は、Mg、B、Al、Ti、V、CoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、0<y2≦0.4である。)で表され、
該第1のリチウム化合物と、該第2のリチウム化合物との含有質量比a:bが、15≦a≦85、15≦b≦85(但しa+b=100である。)であり、
リチウムを基準として3V~4.25Vの範囲の電圧領域で得られる該正極のdQ/dV曲線において、該第1のリチウム化合物のピーク電位と、該第2のリチウム化合物のピーク電位との差が、0.48V以下である、前記リチウムイオン二次電池用正極と、
負極集電体の少なくとも一面に黒鉛を含む負極活物質を含む負極活物質層が設けられたリチウムイオン二次電池用負極と、
セパレータと、
電解液と、
を含む発電要素を、外装体内部に含む、リチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記正極、負極およびセパレータが矩形であり、1以上の該正極と1以上の該負極とが該セパレータを介して互いに積層された電極積層体を構成し、該電極積層体が該電解液に浸漬された該発電要素を構成している、請求項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池、特にリチウムイオン二次電池に使用する正極に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車等を含む自動車用電池として実用化されている。このような車載電源用電池としてリチウムイオン二次電池が使用されている。リチウムイオン二次電池は、出力特性、エネルギー密度、容量、寿命、高温安定性等の種々の特性を併せ持つことが要求されている。
【0003】
特に、リチウムイオン源となる正極材料は、安定してリチウムイオンを挿脱することができる材料の探索が常に行われている。電池の放電特性、容量、および安全性を維持するために、これらの性能のバランスが良好な正極材料の開発が望まれている。電池の性能のバランスを向上させるための手段として、たとえば、所定の結晶構造を有する正極活物質を用いる、あるいは複数の正極活物質を混合して用いる等の方法が種々提案されている。
【0004】
特許文献1は、X線回折図形、放電曲線およびdQ/dV曲線のうちのいずれかの形状を特定したリチウムニッケルマンガン系複合酸化物を正極として用いることにより、高温環境下での電解液の分解を抑制することができることを提案している。特許文献1で使用されているリチウムマンガンニッケル複合酸化物は、リチウム基準で4.5V以上にまで充電することを前提とし、その範囲でのdQ/dV曲線に関し言及されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/174225号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン二次電池の充電時には、リチウムイオンが正極から負極へ向かって移動する。正極材料として用いるリチウム化合物の種類によってリチウムイオンの移動速度は異なり、またリチウムイオンの移動速度は電池の電圧に応じて変化することが知られている。用いるリチウム化合物の種類が異なると正極の構造には違いが見られ、これにより、リチウムイオンの移動速度が急増する電池電圧も異なることになる。電池の充電を行ったときに、電池電圧Vの変化量(dV)に対する電池容量Qの変化量(dQ)の割合であるdQ/dVを縦軸とし、電池電圧Vを横軸として各点をプロットすると、正極から移動するリチウムイオンの移動速度が不連続に大きくなる時点がピークとして観測される。上述の通り、リチウム化合物の種類が異なると、リチウムイオンの移動速度が急増する電池電圧も異なるため、dQ/dVをプロットした曲線(dQ/dV曲線)では各々異なる位置にピークが観測されることになる。
【0007】
電池性能の向上等を目的として、たとえば、正極活物質として2種類のリチウム化合物を混合して用いた場合、dQ/dV曲線のピークはこれらの化合物に応じて観察される。このような正極を用いた電池を効率よく利用するためには、これらのピークが観察される電位を含む電圧範囲で電池を作動させる必要がある。しかしながら、高電圧側にピークを有するリチウム化合物にあわせて、高電圧まで電池を充電すると、問題が生じうる。すなわち、低い電圧側にピークを有するリチウム化合物から相当な数のリチウムイオンが脱離した後にも、なおもリチウムイオンが脱離し続けることになり、このリチウム化合物の構造が大きく崩れ、これがリチウムイオン二次電池正極全体の構造の崩壊につながるおそれがある。この現象は、電池の作動温度を高くしたときに顕著に観察されることが知られている。
【0008】
そこで本発明は、電池の充放電中に起こりうる正極活物質層の変形の度合いを低くすることで、容量とサイクル特性とを維持したリチウムイオン二次電池を構成することができるリチウムイオン電池用正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態におけるリチウムイオン二次電池用正極は、正極集電体の少なくとも一面に正極活物質を含む正極活物質層が設けられたリチウムイオン二次電池用正極である。ここで正極活物質は、スピネル構造を有する第1のリチウム化合物と、層状構造を有する第2のリチウム化合物とを含有し、リチウムを基準として3V~4.25Vの範囲の電圧領域で得られる正極のdQ/dV曲線において、第1のリチウム化合物のピーク電位と、第2のリチウム化合物のピーク電位との差が、0.48V以下であることを特徴とする。
さらに本発明の他の実施形態は、リチウムイオン二次電池用正極と、負極集電体の少なくとも一面に負極活物質を含む負極活物質層が設けられたリチウムイオン二次電池用負極と、セパレータと、電解液と、を含む発電要素を、外装体内部に含む、リチウムイオン二次電池である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、高温下において高電圧まで充電しても膨張および収縮等の構造変化が起こりにくく、寿命が長い。また本発明のリチウムイオン二次電池用正極は、高容量で放電特性に優れるため、性能の高いリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、第1のリチウム化合物と第2のリチウム化合物とを混合した正極の、リチウムを基準として3V~4.25Vの範囲の電圧領域で得られるdQ/dV曲線の例である。
図2図2は、第1のリチウム化合物、第2のリチウム化合物を用いた各正極の、リチウムを基準として3V~4.25Vの範囲の電圧領域で得られるdQ/dV曲線の例である。
図3図3は、本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池表す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を以下に説明する。リチウムイオン二次電池とは、正極と、負極と、セパレータと、電解液と、を含む発電要素を、外装体内部に含むリチウムイオン二次電池である。ここで正極とは、正極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を金属箔等の正極集電体に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。負極とは、負極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を負極集電体に塗布して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。セパレータとは、正極と負極とを隔離して負極・正極間のリチウムイオンの伝導性を確保するための膜状の電池部材である。電解液とは、イオン性物質を溶媒に溶解させた電気伝導性のある溶液のことであり、本実施形態においては特に非水電解液を用いることができる。正極と負極とセパレータと電解液とを含む発電要素とは、電池の主構成部材の一単位であり、通常、正極と負極とがセパレータを介して重ねられて(積層されて)、この積層物が電解液に浸漬されている。
【0013】
リチウムイオン二次電池は、外装体の内部に該発電要素が含まれて成り、好ましくは、発電要素は該外装体内部に封止されている。封止されているとは、発電要素が外気に触れないように、後述する外装体材料により包まれていることを意味する。外装体は、発電要素をその内部に封止することが可能な筐体か、あるいは柔軟な材料から構成される袋形状のものである。リチウムイオン二次電池は、コイン型電池、ラミネート型電池、巻回型電池など、種々の形態であってよい。
【0014】
実施形態のリチウムイオン二次電池において正極とは、正極活物質と、バインダと、導電助剤との混合物を金属箔等の正極集電体に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。好ましくは、正極は、正極活物質、バインダおよび導電助剤の混合物をアルミニウム箔などの金属箔からなる正極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た正極活物質層を有している。
【0015】
正極活物質は、スピネル構造を有する第1のリチウム化合物と、層状構造を有する第2のリチウム化合物とを含有する。スピネル構造を有する第1のリチウム化合物として、マンガンが格子状に配置されたリチウム・マンガン系複合酸化物を用いることができる。第1のリチウム化合物は、以下の式(1):
[化1]
Lix1Mny11z1 (1)
(ここでMは、Mg、B、Al、V、Cr、Fe、Co、NiおよびWからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、1≦x1<1.1であり、1.8≦y1<1.86、1.91<y1+z1+(x1-1)<2.0である。)で表されることが好ましい。上記式(1)中、MがAl(アルミニウム)であるリチウム・マンガン系複合酸化物であるリチウム・マンガン・アルミニウム複合酸化物、およびMがAl(アルミニウム)とMg(マグネシウム)であるリチウム・マンガン系複合酸化物であるリチウム・マンガン・アルミニウム・マグネシウム複合酸化物を正極活物質の成分として用いることが好ましい。
【0016】
一方、層状構造を有する第2のリチウム化合物として、リチウム・ニッケル系複合酸化物を用いることができる。第2のリチウム化合物は、以下の式(2):
[化2]
LiNi(1-y2)2y2 (2)
(ここでMは、Mg、B、Al、Ti、V、CoおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種の元素であり、0<y2≦0.4である。)で表されることが好ましい。上記式(2)中、MがCo(コバルト)とMn(マンガン)であるリチウム・ニッケル系複合酸化物であるリチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(以下「NCM」と称することがある。)、およびMがCo(コバルト)とAl(アルミニウム)であるリチウム・ニッケル系複合酸化物であるリチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物(以下「NCA」と称することがある。)を正極活物質の成分として用いることが好ましい。
【0017】
実施形態において、第1のリチウム化合物と、第2のリチウム化合物と含有質量比a:bは、15≦a≦85、15≦b≦85(但しa+b=100である。)であることが好ましい。これらの範囲で第1のリチウム化合物と第2のリチウム化合物とを混合することで、電池の長時間の使用後の、急速充電の際の内部インピーダンスの増加を抑制できる。これら2種のリチウム化合物を混合して正極活物質とすることによる効果は、以下の通りと考えられる:第1のリチウム化合物のみを正極活物質として用いた場合、電池内の電解質溶液中に僅かに存在する水(HO)と電解質塩とが反応して水素イオン(H)が生成し、これによりLiMnからマンガンイオン(Mn2+)の溶出が生じることが知られている。一方、第2のリチウム化合物は、電解質溶液中に含まれる僅かな水分と反応し、以下の化学式に従ってHO中のHを捕捉し、OHを遊離させる効果を生じるものと推測される。
[化3]
LiNiO+HO→β-NiOOH+Li+OH
(ここでβ-NiOOHはβ型のオキシ水酸化ニッケルである。)すなわち、第1のリチウム化合物と第2のリチウム化合物とを混合して用いることにより、電解液中の僅かな水分をLiNiOが捕捉することができ、これによりLiMnからのMn2+の溶出を抑制することができる。以上の効果は、特に急速充電時の内部インピーダンスの低減として表れることとなる。第1のリチウム化合物と、第2のリチウム化合物と含有質量比a:bは、40≦a≦78、22≦b≦60(但しa+b=100である。)であることがさらに好ましく、40≦a≦60、40≦b≦60(但しa+b=100である。)であることが最も好ましい。
【0018】
リチウムイオン二次電池用正極材料として用いられたリチウム化合物は、リチウムイオン二次電池のリチウムイオン源として機能する。リチウムイオン二次電池は、リチウム化合物からリチウムイオンが脱離して電解液中を移動し、これが負極に挿入されることで充電される。リチウム化合物の種類によって、リチウムイオンが脱離しやすい電位が異なるため、異なる2種類のリチウム化合物を使用した正極材料からは、異なる電位でリチウムイオンが脱離してくる。電池の充電を行ったときに、電池電圧Vの変化量(dV)に対する電池容量Qの変化量(dQ)の割合であるdQ/dVを縦軸とし、電池電圧Vを横軸として各点をプロットすると、正極から移動するリチウムイオンの移動速度が不連続に大きくなる時点がピークとして観測される。上述の通り、リチウム化合物の種類が異なると、リチウムイオンの移動速度が急増する電池電圧も異なるため、dQ/dVをプロットした曲線(dQ/dV曲線)では第1のリチウム化合物と第2のリチウム化合物とで各々異なる位置にピークが観測されることになる。
【0019】
図1および図2を用いてdQ/dV曲線を説明する。図1および図2は、リチウムを基準として3V~4.25Vの範囲の電圧領域で得られる実施形態の正極のdQ/dV曲線である。図1は、2種のリチウム化合物を混合して正極活物質として用いた正極のdQ/dV曲線である。そして図2中、実線は、ある1種のリチウム化合物を正極活物質として用いた正極のdQ/dV曲線であり、点線は、別の1種のリチウム化合物を正極活物質として用いた正極のdQ/dV曲線の例である。図1および図2中、縦軸は電池電圧Vの変化量(dV)に対する電池容量Qの変化量(dQ)の割合であるdQ/dV、横軸は電池電圧Vである。今、リチウム化合物を含む正極と、金属リチウムを含む負極とを組み合わせた電池を作成し、これを充電することを考える。電池の充電を開始すると、正極からリチウムイオンが脱離してリチウム負極に移動していく。このとき、負極のリチウムに対して正極の電位Vが上昇し、電池容量Qも増加する。正極から脱離するリチウムイオンの量は、電位Vに対して線形ではなく、特定の電位においてリチウムイオンの脱離量が急増する。電池電圧Vの変化量(dV)に対する電池容量Qの変化量(dQ)の割合であるdQ/dVを電池電圧(V)に対してプロットすると、リチウムイオンの脱離量が不連続に急増する点がピークが観測される。図1において、電位Vの部分に見られるピークが、あるリチウム化合物を正極活物質として用いた正極のピークであり、電位Vの部分に見られるピークが、別のリチウム化合物を正極活物質として用いた正極のピークである。図2に見られるように、異なるリチウム化合物は、それぞれ異なるdQ/dV曲線ピーク電位を有している。異なるリチウム化合物を混合した、混合リチウム化合物を正極活物質として用いた正極のdQ/dV曲線を描くと、おおむね、各リチウム化合物を正極活物質として用いた正極のdQ/dV曲線を重ね合わせた形状の曲線が得られる。すなわち、混合リチウム化合物を正極活物質として用いた正極のdQ/dV曲線には、各リチウム化合物を正極活物質として用いた正極のdQ/dV曲線に見られるピークがそれぞれ現れる(図1)。
【0020】
リチウムを基準として3V~4.25Vの範囲の電圧領域で得られる実施形態の正極のdQ/dV曲線において、第1のリチウム化合物のピーク電位と、第2のリチウム化合物のピーク電位との差が、0.48V以下であることが好ましい。第1のリチウム化合物のピーク電位と、第2のリチウム化合物のピーク電位との差が、0.48V以下であるとは、図1において、ピーク電位Vと、ピーク電位Vとの差が0.48V以下である、すなわち、図1ではVの値がVの値よりも大きいので、V-Vの値が0.48V以下であることを意味する。この値が0.48V以下であることは、第1のリチウム化合物のピーク電位と、第2のリチウム化合物のピーク電位との差がほぼないことを意味する。
【0021】
ピーク電位の低いリチウム化合物のリチウムイオンは、ピーク電位の高いリチウム化合物のリチウムイオンよりも、充電時には先に脱離し始める。リチウム化合物中のリチウムイオンの多くが脱離して負極側に移動してもなお充電を続けると、リチウム化合物の構造が大きく変化し、場合によっては構造が崩壊することがある。このように、ピーク電位の高いリチウム化合物に合わせて高い電位になるまで充電を続けると、ピーク電位の低いリチウム化合物の構造が崩壊することがあり得る。これに対し、dQ/dV曲線において、互いのピーク電位が近い第1のリチウム化合物と第2のリチウム化合物とを用いると、ピーク電位の低いリチウム化合物を必要以上に高い電位まで充電する必要がなくなるため、正極の崩壊を防ぐことができる。一方、ピーク電位の高いリチウム化合物のピーク電位まで充分に電位を高めることができるため、ピーク電位の高いリチウム化合物のリチウムイオンも充分に活用して充電に寄与させることができる。
【0022】
リチウムを基準として3V~4.25Vの範囲の電圧領域で得られる正極のdQ/dV曲線において、第1のリチウム化合物のピーク電位と、第2のリチウム化合物のピーク電位との差が、0.385~0.468Vであることがさらに好ましく、0.385~0.440Vであることが最も好ましい。
【0023】
正極活物質層は、さらに導電助剤を含む。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、正極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。導電助剤は、正極活物質層の重量を基準として1~5%の範囲で含まれていることが好ましい。正極活物質層が膨張・収縮して変形した場合であっても、正極活物質層中に導電助剤が1~5重量%含まれていれば、正極活物質層中の導電パスが確保されうる。
【0024】
正極活物質層は、さらにバインダを含む。正極活物質層に含まれるバインダは、正極活物質であるリチウム化合物の粒子同士や、正極活物質層と金属箔とを接着する役割を果たす。バインダとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。バインダは、正極活物質層の変形を防ぐことができる粘弾性体であることが特に好ましい。したがって実施形態で好適に用いられるバインダは、SBR、BR、CR、IR、NBR等の合成ゴム類か、あるいはCMC等の多糖類である。バインダは、正極活物質層の重量を基準として1~5重量%含まれていることが好ましい。バインダを1~5重量%含むことで、正極活物質の変形が緩和され、正極活物質層の耐久性が向上する。その他、正極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0025】
実施形態において正極活物質層は、上記の正極活物質、導電助剤、およびバインダを溶媒(N-メチルピロリドン(NMP)、水等)に適切な割合で混合してスラリーを形成し、これを金属箔(アルミニウム箔等)からなる正極集電体に塗布または圧延し、加熱して溶媒を蒸発させることにより形成することができる。正極活物質層は、正極集電体の少なくとも1の面に設けられていればよい。正極活物質層を正極集電体の他の面にも設けることもできる。このように作製された正極の形状に特に制限はないが、好ましくは矩形である。
【0026】
実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と共に用いられ、リチウムイオン二次電池を構成する負極とは、負極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を金属箔等の負極集電体に塗布または圧延および乾燥して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。
【0027】
負極活物質と、バインダと、必要な場合導電助剤との混合物を負極集電体に塗布または圧延および乾燥して負極活物質層を形成した負極を用いる場合、負極活物質として、炭素材料を用いることが好ましい。ここで炭素材料は、黒鉛を含む。特に負極活物質層に黒鉛が含まれると、電池の残容量(SOC)が低いときにも電池の出力を向上させることができるというメリットがある。黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形態であることが好ましい。
【0028】
黒鉛には、天然黒鉛と人造黒鉛がある。天然黒鉛は安価に大量に入手することができ、構造が安定し耐久性に優れている。人造黒鉛とは人工的に生産された黒鉛のことであり、純度が高い(同素体などの不純物がほとんど含まれていない)ため電気抵抗が小さい。実施形態における炭素材料として、天然黒鉛、人造黒鉛とも好適に用いることができる。
【0029】
人造黒鉛を用いる場合、層間距離d値(d002)が0.337nm以上のものであることが好ましい。人造黒鉛の結晶の構造は、一般的に天然黒鉛よりも薄い。人造黒鉛をリチウムイオン二次電池用負極活物質として用いる場合は、リチウムイオンが挿入可能な層間距離を有していることが条件となる。リチウムイオンの挿脱が可能な層間距離はd値(d002)で見積もることができ、d値が0.337nm以上であれば問題なくリチウムイオンの挿脱が行われる。
【0030】
炭素材料として非晶質炭素を用いることもできる。非晶質炭素とは、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことである。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛粒子、または非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を負極活物質の炭素材料として用いることができる。非晶質炭素による被覆を有する天然黒鉛、あるいは非晶質炭素による被覆を有する人造黒鉛を用いると、電解液の分解が抑制され、負極の耐久性が向上する。
【0031】
負極活物質層に含まれるバインダは、負極活物質である炭素材料の粒子同士や、負極活物質層と金属箔とを接着する役割を果たす。たとえばPVDFをバインダとして用いると、水ではなくN-メチルピロリドン(NMP)を溶剤として使用することができるので、残留水分に起因するガスの発生を防ぐことができる。特に負極活物質層全体の重量を基準としてバインダの含有量が4~7重量%であることが好ましい。バインダの含有量を当該範囲とすると、負極材料の結着力を確保し、かつ負極の抵抗を低く保つことができる。バインダとして、PVDFのほか、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマーのほか、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類等の水溶性バインダを用いることもできる。
【0032】
負極活物質層には場合により導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、負極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる電極添加剤を適宜使用することができる。
【0033】
負極活物質層は、負極活物質である炭素材料、バインダ、および導電助剤を溶媒(N-メチルピロリドン(NMP)、水等)に適切な割合で混合してスラリーを形成し、これを金属箔(銅箔等)からなる負極集電体に塗布または圧延し、加熱して溶媒を蒸発させることにより形成することができる。負極活物質層は、負極集電体の少なくとも1の面に設けられていればよい。負極活物質層を負極集電体の他の面にも設けることもできる。このように作製された負極の形状に特に制限はないが、好ましくは矩形である。
【0034】
なお、リチウムに対する正極電位を測定する場合は、負極として金属リチウム箔を用いることが好ましい。
【0035】
実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と共に用いられ、リチウムイオン二次電池を構成するセパレータとは、正極と負極とを隔離して負極・正極間のリチウムイオンの伝導性を確保するための膜状の電池部材である。セパレータは、オレフィン系樹脂層から構成される。オレフィン系樹脂層は、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセンなどのα-オレフィンを重合または共重合させたポリオレフィンから構成される層である。実施形態において、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンから構成される層であることが好ましい。オレフィン系樹脂層がこのような構造を有していることにより、万一電池温度が上昇しても、セパレータが閉塞して(シャットダウンして)、イオン流を寸断することができる。シャットダウン効果を発揮するためには、多孔質のポリエチレン膜を用いることが非常に好ましい。セパレータは、場合により耐熱性微粒子層を有していてよい。この際、電池の異常発熱を防止するために設けられた耐熱性微粒子層は、耐熱温度が150℃以上の耐熱性を有し、電気化学反応に安定な無機微粒子から構成される。このような無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α-アルミナ、β-アルミナ、θ-アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライトなどの鉱物を挙げることができる。このように、耐熱性樹脂層を有するセラミックセパレータを用いることもできる。セパレータの形状は特に制限はないが、矩形であることが好ましい。
【0036】
実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と共に用いられ、リチウムイオン二次電池を構成する電解液とは、イオン性物質を溶媒に溶解させた電気伝導性のある溶液のことである。特に非水電解液を用いることができる。正極と負極とセパレータと電解液とを含む発電要素とは、電池の主構成部材の一単位であり、通常、正極と負極とがセパレータを介して積層されて、この積層物が電解液に浸漬されている。
【0037】
電解液は、非水電解液であって、ジメチルカーボネート(以下「DMC」と称する。)、ジエチルカーボネート(以下「DEC」と称する。)、エチルメチルカーボネート(以下「EMC」と称する。)、ジ-n-プロピルカーボネート、ジ-t-プロピルカーボネート、ジ-n-ブチルカーボネート、ジ-イソブチルカーボネート、またはジ-t-ブチルカーボネート等の鎖状カーボネートと、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(以下「EC」と称する。)等の環状カーボネートとを含む混合物であることが好ましい。電解液は、このようなカーボネート混合物に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)等のリチウム塩を溶解させたものである。
【0038】
電解液は、環状カーボネートであるPCおよび/またはECと、鎖状カーボネートであるDMCおよび/またはEMCとを適宜組み合わせて含むことが好ましい。PCは、凝固点が低い溶媒であり、電池の低温時の出力の向上のために用いられる。ただしPCは負極として用いられる黒鉛との相性がやや低いことが知られている。ECは極性が高く誘電率が高い溶媒であり、リチウムイオン二次電池用電解液の構成成分として用いられる。ただしECは融点(凝固点)が高く、室温で固体であるため、これを混合溶媒にしても、低温下では凝固および析出するおそれがある。DMCは拡散係数が大きく粘度が低い溶媒である。ただしDMCは融点(凝固点)が高いため、電解液が低温下で凝固するおそれがある。EMCもDMCと同様拡散係数が大きく粘度が低い溶媒である。このように、電解液の構成成分はそれぞれに異なる特性を有しており、たとえば電池の低温時の出力を向上させるためにはこれらのバランスを考慮することが重要である。環状カーボネートと鎖状カーボネートとの含有割合を調整することにより、常温での粘度が低く、低温下においても性能を失わない電解液を得ることができる。
【0039】
電解液は、このほか、添加剤として環状カーボネート化合物を含んでいてもよい。添加剤として用いられる環状カーボネートとしてビニレンカーボネート(以下「VC」と称する。)が挙げられる。また、添加剤としてハロゲンを有する環状カーボネート化合物を用いてもよい。これらの環状カーボネートも、電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成する化合物である。特に、上記のジスルホン酸化合物またはジスルホン酸エステル化合物のような硫黄を含む化合物による、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有する正極活物質への攻撃を防ぐことができる化合物である。ハロゲンを有する環状カーボネート化合物として、フルオロエチレンカーボネート(以下「FEC」と称する。)、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネート等を挙げることができる。ハロゲンを有する環状カーボネート化合物であるフルオロエチレンカーボネートは特に好ましく用いられる。
【0040】
また、電解液は、添加剤としてジスルホン酸化合物をさらに含んでいてもよい。ジスルホン酸化合物とは、一分子内にスルホ基を2つ有する化合物であり、スルホ基が金属イオンと共に塩を形成したジスルホン酸塩化合物、あるいはスルホ基がエステルを形成したジスルホン酸エステル化合物を包含する。ジスルホン酸化合物のスルホ基の1つまたは2つは、金属イオンと共に塩を形成していてもよく、アニオンの状態であってもよい。ジスルホン酸化合物の例として、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、ビフェニルジスルホン酸、およびこれらの塩(メタンジスルホン酸リチウム、1,3-エタンジスルホン酸リチウム等)、およびこれらのアニオン(メタンジスルホン酸アニオン、1,3-エタンジスルホン酸アニオン等)が挙げられる。またジスルホン酸化合物としてはジスルホン酸エステル化合物が挙げられ、メタンジスルホン酸、1,2-エタンジスルホン酸、1,3-プロパンジスルホン酸、1,4-ブタンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、またはビフェニルジスルホン酸のアルキルジエステルまたはアリールジエステル等の鎖状ジスルホン酸エステル;ならびにメチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル等の環状ジスルホン酸エステルが好ましく用いられる。メチレンメタンジスルホン酸エステル(以下「MMDS」と称する。)は特に好ましく用いられる。
【0041】
実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と共に用いられ、リチウムイオン二次電池を構成する外装体は、金属材料で作製された筐体であることができる。あるいは外装体は、ナイロン層、ポリエチレンテレフタレート層等コーティング層と、金属基材と、酸変性ポリプロピレン層と、ポリプロピレン層とが積層された積層体から構成された袋形状のものでもよい。ここで外装体の材料として用いられる金属材料は、アルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレス、スズ等であるとよい。また積層体を構成する金属基材は、電池の外装フィルムとして好適に使われる基材、好ましくは金属箔であり、たとえばアルミニウム、ニッケル、鉄、銅、ステンレス、スズの箔である。外装体は、外装体内部の非水電解液を封止する機能を有する。金属製の筐体である外装体内部に正極、負極、セパレータおよび電解液から構成される発電要素を封止することができる。あるいは積層体を折り曲げて折り曲げ部以外の三辺を熱融着するか、2枚の積層体を重ねて四辺を熱融着するかして外装体を形成し、この内部に、正極、負極、セパレータおよび電解液から構成される発電要素を封止する。
【0042】
ここで、実施形態の正極活物質を用いて作製したリチウムイオン二次電池の構成例を、図面を用いて説明する。図3はリチウムイオン二次電池の断面図の一例を表す。リチウムイオン二次電池10は、主な構成要素として、負極集電体11、負極活物質層13、セパレータ17、正極集電体12、正極活物質層15を含む。図3では、負極集電体11の両面に負極活物質層13が設けられ、正極集電体12の両面に正極活物質層15が設けられているが、各々の集電体の片面上のみに活物質層を形成することもできる。負極集電体11、正極集電体12、負極活物質層13、正極活物質層15、及びセパレータ17が一つの電池の構成単位、すなわち発電要素である(図中、単電池19)。図3では、発電要素を構成する各部材の形状は矩形であるが、所望の二次電池の形状に応じていかなる形状の部材を用いてもよい。セパレータ17は、耐熱性微粒子層と、オレフィン系樹脂膜とから構成されていてよい(いずれも図示せず)。このような単電池19を、セパレータ17を介して複数積層する。各負極集電体11から延びる延出部を負極リード25上に一括して接合し、各正極集電体12から延びる延出部を正極リード27上に一括して接合してある。なお正極リードとしてアルミニウム板、負極リードとして銅板が好ましく用いられ、場合により他の金属(たとえばニッケル、スズ、はんだ)または高分子材料による部分コーティングを有していてもよい。正極リードおよび負極リードはそれぞれ正極および負極に溶接される。このように複数の単電池を積層してできた電池は、溶接された負極リード25および正極リード27を外側に引き出す形で、外装体29により包装される。図3では、外装体29として積層体(ラミネート)を用いている。外装体29の内部には電解液31が注入されている。外装体29は、2枚の積層体を重ね合わせ、周縁部を熱融着した形状をしている。なお図3では、負極リード25と正極リード27は、外装体29の対向する辺にそれぞれ設けられている(「両タブ型」という。)が、負極リード25と正極リード27とを外装体29の一の辺に設ける(すなわち負極リード25と正極リード27とを外装体29の一の辺から外側に引き出す。「片タブ型」という。)こともまた可能である。
【0043】
実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、高容量で、かつ放電特性に優れる。電池充放電時の正極の膨張・収縮現象が抑制されているため、正極寿命が長く、よって電池自体の寿命も長い。このようなリチウムイオン二次電池は、特に車両積載用電池、あるいは定置型電池として都合よく用いられる。
【実施例
【0044】
<正極の作製>
正極活物質として、表1に記載の第1のリチウム化合物と、第2のリチウム化合物とをそれぞれ用意した。第1のリチウム化合物はスピネル構造を有するリチウム化合物であり、第2のリチウム化合物は層状構造を有するリチウム化合物である。第1のリチウム化合物と第2のリチウム化合物とを表1に記載された質量比にて混合して、正極活物質とした。表1中、第1のリチウム化合物の質量比をa、第2のリチウム化合物の質量比をbと記載した。これらの正極活物質と、導電助剤としてBET比表面積62m/gのカーボンブラック(CB)(TIMCAL製、SC65)と、黒鉛(GR)TIMCAL製、KS6L)と、バインダ樹脂としてPVDF(クレハ製、#7200)とを、正極活物質:CB:GR:PVDF=93:3:1:3の固形分質量比で混合し、溶媒であるNMPに添加した。さらに、この混合物に有機系水分捕捉剤として無水シュウ酸(分子量90)を、上記混合物からNMPを除いた固形分100質量部に対して0.03質量部添加した上で遊星方式の分散混合を30分間実施することで、これらの材料を均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、正極集電体となる厚み20μmのアルミニウム箔上に乾燥後重量が片面あたり21.4±0.3mg/cmとなるように塗布した。次いで、125℃にて10分間、電極を加熱し、NMPを蒸発させることにより正極活物質層を形成した。さらに、正極を3.5N/cmでプレスして、正極集電体の片面上に正極活物質層を塗布した正極を作製した。
【0045】
<正極のdQ/dV曲線の測定>
上記のように用意した各正極について、リチウムを基準として3V~4.25Vの範囲の電圧領域で得られるdQ/dV曲線を以下の方法にて測定した:表1に記載した正極と、金属リチウムを対極としたコインセルを作製した。各コイン電池について、0.1Cでの定電流定電圧(CCCV)充電(4.25Vまで、0.01Cでカット)、および0.1Cでの定電流(CC)放電で充放電を行った。3mVごとにデータをサンプリングし、得られたサンプリング間隔間の容量dQとサンプリング間隔dV(0.03V)より各電池のdQ/dV曲線を得た。各正極のピーク電位差を表1に示す。
【0046】
<負極の作製>
上記のように用意した各正極を用いたリチウムイオン二次電池の容量維持率を測定するために、以下のように負極を作製した。負極活物質として、天然黒鉛粉末を用いた。この炭素材料粉末と、バインダ樹脂であるスチレンブタジエンラバー(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)と、導電助剤としてカーボンブラック粉末(CB)とを、黒鉛粉末:SBR:CMC:CB=96:2:1:1の割合となるように均一に混合し、溶媒である純水に添加してスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電体となる厚さ10μmの矩形の銅箔の両面上に乾燥後重量が片面あたり11mg±0.2/cmとなるようにドクターブレード法にて塗布した。次いで、100℃にて乾燥し、得られた電極をロールプレスして、負極活物質層を設けた。
【0047】
<セパレータ>
上記のように用意した各正極を用いたリチウムイオン二次電池の容量維持率を測定するために、以下のセパレータを用意した。セパレータとして、ポリプロピレンからなる厚さ25μmのセパレータ(Celgard2500)を使用した。
【0048】
<電解液>
上記のように用意した各正極を用いたリチウムイオン二次電池の容量維持率を測定するために、以下の電解液を用いた。エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)を、25:5:70(体積比)で混合した混合非水溶媒に電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度が0.9mol/Lとなるように溶解させ、次いで、添加剤としてMMDSを1.2重量%となるように溶解させた。これらの非水混合溶媒を電解液として各々用いた。
【0049】
<外装体>
上記のように用意した各正極を用いたリチウムイオン二次電池の容量維持率を測定するために、以下の外装体を用いた。外装体用ラミネートフィルムとして、厚さ25μmのナイロン、厚さ40μmの軟質アルミニウム、厚さ40μmのポリプロピレンを積層した積層フィルムを用いた。
【0050】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記のように作製した各正極および負極を所定のサイズの矩形に切り出した。正極端子を接続するための未塗布部にアルミニウム製の正極リード端子を超音波溶接した。同様に負極端子を接続するための未塗布部にニッケル製の負極リード端子を超音波溶接した。ポリプロピレン多孔質セパレータの両面に上記負極板と正極板とを両活物質層がセパレータを隔てて重なるように配置して電極積層体を得た。この電極積層体を2枚の外装体で包み、長辺の一方を除いて三辺を熱融着により接着した。電解液を電極積層体とセパレータの空孔に対して150%の液量となるように注液して真空含浸させた後、減圧下にて開口部を熱融着により封止することによって、積層型リチウムイオン電池を作成した。この積層型リチウムイオン電池の初充電を行った後、45℃でエージングを数日間行い、積層型リチウムイオン二次電池を得た。
【0051】
<初回充放電>
上記の通り作製した積層型リチウムイオン二次電池を用いて初回充放電を行った。初回充放電は、まず雰囲気温度25℃で、10mA電流、上限電圧4.2Vでの定電流定電圧(CC-CV)充電を行い、その後、45℃で数日間エージングを行った。その後、2.5Vまで20mA電流での定電流放電を行った。
【0052】
<サイクル特性試験>
上記の通り初回充放電を実施した積層型リチウムイオン二次電池を用いて、サイクル特性試験を実施した。サイクル条件は、温度25℃環境下で、充電:100mA、上限電圧4.15V、終止電流1mAでの定電流定電圧充電、放電:100mA、下限電圧2.5V終止で定電流放電の充放電を1サイクルとして500サイクル(500回)繰り返した。このとき測定した1サイクル目の放電容量と、500サイクル目の放電容量を用い、1サイクル目の放電容量に対する500サイクル目の放電容量の維持率(%)(=500サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量×100(%))を算出し、これを電池の耐久性の目安とした。
【0053】
【表1】
【0054】
第1のリチウム化合物と第2のリチウム化合物との組み合わせを変えて、リチウムを基準として3V~4.25Vの範囲の電圧領域で得られる正極のdQ/dV曲線において、該第1のリチウム化合物のピーク電位と、該第2のリチウム化合物のピーク電位との差を種々変えることができる。適切なピーク電位差を有する正極を用いたリチウムイオン二次電池は、500サイクル後の容量維持率が高く、長寿命であることがわかる。適切なピーク電位差を有する正極は、充電時に正極からリチウムイオンが脱離しても構造変化を起こしにくいため、放電時には負極から正極へリチウムイオンが戻ることができるからであると推察される。
【0055】
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例は本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を特定の実施形態あるいは具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0056】
10 リチウムイオン二次電池
11 負極集電体
12 正極集電体
13 負極活物質層
15 正極活物質層
17 セパレータ
25 負極リード
27 正極リード
29 外装体
31 電解液
図1
図2
図3