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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】幼齢木保護具
(51)【国際特許分類】
   A01M 29/30 20110101AFI20220527BHJP
   A01G 13/10 20060101ALI20220527BHJP
   A01G 13/02 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
A01M29/30
A01G13/10 Z
A01G13/02 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018093261
(22)【出願日】2018-05-14
(65)【公開番号】P2019198247
(43)【公開日】2019-11-21
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002462
【氏名又は名称】積水樹脂株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000104906
【氏名又は名称】クラレプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 則諒
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 清純
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-112940(JP,A)
【文献】特開2003-236962(JP,A)
【文献】特開2001-190165(JP,A)
【文献】特開2014-161302(JP,A)
【文献】特開2019-088267(JP,A)
【文献】特許第3548956(JP,B2)
【文献】特開2010-116933(JP,A)
【文献】特開2008-284717(JP,A)
【文献】特開2001-123372(JP,A)
【文献】特開2011-075136(JP,A)
【文献】特開平07-088312(JP,A)
【文献】特開平05-000489(JP,A)
【文献】特開2007-332475(JP,A)
【文献】特表平08-511309(JP,A)
【文献】特開平11-063638(JP,A)
【文献】特開平11-014128(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 29/30
A01G 13/10
A01G 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植設された幼齢木の周囲を覆うことで害獣による食害から幼齢木を保護する保護具であって、
熱可塑性樹脂製の合成繊維からなる不織布を含む基材からなる筒状で且つその軸方向に伸縮可能な保護具本体と、
この保護具本体に螺旋状に設けられた補強部材と、
前記保護具を固定する支柱部材と、
前記保護具を前記支柱部材に取り付けるクリップと、を備え、
前記支柱部材は、前記保護具が前記クリップにより挟み付けられる被挟持部材と、前記設置面に立設され前記クリップが保持される支柱と、を備えたことを特徴とする幼齢木保護具。
【請求項2】
請求項に記載の幼齢木保護具において、
前記合成繊維は、次の群から選択されるいずれかであることを特徴とする幼齢木保護具。
(a)ポリプロピレンとポリエチレンの混合紡糸繊維あるいは複合紡糸繊維であって、繊維表面にポリエチレンが存在している合成繊維
(b)ポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維の混合物からなる合成繊維
(c)ポリエチレンとポリエステルの混合紡糸繊維あるいは複合紡糸繊維であって、繊維表面にポリエチレンが存在している合成繊維
(d)ポリエチレン繊維とポリエステル繊維の混合物からなる合成繊維
【請求項3】
請求項1または2に記載の幼齢木保護具であって、
前記基材は、不織布に強度保持層が積層されたものであることを特徴とする幼齢木保護具。
【請求項4】
請求項に記載の幼齢木保護具であって、
前記強度保持層は、次の群から選択されるいずれかであることを特徴とする幼齢木保護具。
(a)合成樹脂製のシート又はフィルム又はネット
(b)帯状の合成樹脂製フィルムから編成されてなる布状体
(c)多数本の帯状の合成樹脂製フィルムが並行状態に展開された上に、これと交差して多数本の帯状の合成樹脂製フィルムが並行状態に展開されるとともに、相互の交差部分が接着剤による接着又は熱融着により結合されてなる布状体
【請求項5】
請求項に記載の幼齢木保護具であって、
前記強度保持層は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする幼齢木保護具。
【請求項6】
請求項1からのいずれか一つに記載の幼齢木保護具であって、
前記補強部材は、その螺旋のピッチが20~50mmであることを特徴とする幼齢木保護具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植樹された苗木又は若木の苗などの幼齢木を、野生動物による食害から保護し、幼齢木の生育促進を図るのに適した幼齢木保護具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、公官庁や民間企業などにより国土保全、木材生産などを目的として植樹活動が実施されている。しかし、近年鹿や熊などの野生動物の増加に伴い、それら野生動物が苗木又は若木などの幼齢木を食し、幼齢木の成長を阻害する食害が増大していることが問題となっており、様々な対策が提案されている。
【0003】
野生動物による食害への対策として、保護したい植樹領域の周囲をネットで囲う手法や、野生動物が嫌がる忌避剤の散布、或いは個々の幼齢木を様々な素材の板、筒、ネットなどで覆う手法が試みられている。
【0004】
特に、個々の幼齢木を覆う手法では、施工性や運搬性を改善すべく様々な手法が提案されている。例えば、特許文献1には、保護具本体の両側縁部に係合突起を千鳥状に配置したポリプロピレン又はポリエチレンの樹脂性シートからなり、両端の突起同士をかみ合わせることで組み立てを容易にする技術が開示されている。特許文献2には、生分解性樹脂からなる縦長筒状又は略円錐台状のネット材に内側又は外側から補強部材を螺旋状に固定することで積雪の重みでも苗木に負荷をかけない形状保持性を有し、持ち運びを容易にする技術が開示されている。特許文献3には、ポリエステル,ポリオレフィン繊維の布又は不織布を縫製、融着して筒状とする保護具であり、寒風害を防ぎ、軽量、コンパクト化により施工効率が向上する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許5773428公報
【文献】特開2014-161302公報
【文献】特許第3548956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に所載のもののように本体を硬いシート状にすると、保温性には優れるが、柔軟な部分を有さないために、コンパクトにすることができない。さらに、形状を保持させるためにはリング材を取り付ける必要があることから、施工性が低下するといった問題を有する。また、嵩張る形態であることから一度に数多く持ち運ぶことができないので、急傾斜の山道を何度も往復しなければならず、このため施工する作業員への負担が大きいものであった。
【0007】
特許文献2のように、補強部材のピッチを250mm~400mmに広くすると、圧縮時の製品長はコンパクトにでき、補強部材のある部分は形状保持性に優れるが、隣り合う補強部材間のネット材が長いので、積雪時に雪の重みでネット材が部分的に保護具の内側に折れ曲がり、苗木の損傷や生育を阻害するといった問題があった。
【0008】
特許文献3のように、ポリエステル,ポリオレフィン繊維の布又は不織布を使用すると軽量でコンパクトになるため施工性は向上するが、補強部材がないために積雪時に雪の重みで変形し、幼齢木の損傷を招来したり生育を阻害するといった問題があった。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みなされたもので、形状保持性に優れ、保温性を有し、施工性が良く、幼齢木を野生動物による食害から保護することができる幼齢木保護具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、植設された幼齢木の周囲を覆うことで害獣による食害から幼齢木を保護する保護具であって、熱可塑性樹脂製の合成繊維からなる不織布を含む基材からなる筒状で且つその軸方向に伸縮可能な保護具本体と、 この保護具本体に螺旋状に設けられた補強部材と、前記保護具を固定する支柱部材と、 前記保護具を前記支柱部材に取り付けるクリップと、を備え、前記支柱部材は、前記保護具が前記クリップにより挟み付けられる被挟持部材と、前記設置面に立設され前記クリップが保持される支柱と、を備えたことを特徴とする幼齢木保護具である。
【0011】
この発明特定事項によれば、基材に不織布を含むことで、保護具自体に保温性を付与することが可能となり、凍害から幼齢木を保護することができる。また、不織布は柔軟であることから、上下方向に伸縮可能でコンパクトにすることができ、運搬性を向上させることができる。
【0012】
前記不織布は、熱可塑性樹脂製の合成繊維からなるものであってもよく、その場合、合成繊維は、次の群から選択されるいずれかであると、柔軟性、加工性、成形性の点で優れたものとなる。
【0013】
(a)ポリプロピレンとポリエチレンの混合紡糸繊維あるいは複合紡糸繊維であって、繊維表面にポリエチレンが存在している合成繊維
(b)ポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維の混合物からなる合成繊維
(c)ポリエチレンとポリエステルの混合紡糸繊維あるいは複合紡糸繊維であって、繊維表面にポリエチレンが存在している合成繊維
(d)ポリエチレン繊維とポリエステル繊維の混合物からなる合成繊維
【0014】
また、前記基材は、不織布に強度保持層が積層されたものであってもよい。
【0015】
この場合、1年以上の長期間に亘って使用する際に、紫外線による基材の強度低下に伴う破損を防ぐことができる。
【0016】
前記強度保持層は、次の群から選択されるいずれかであるのが好ましい。
【0017】
(a)合成樹脂製のシート又はフィルム又はネット
(b)帯状の合成樹脂製フィルムから編成されてなる布状体
(c)多数本の帯状の合成樹脂製フィルムが並行状態に展開された上に、これと交差して多数本の帯状の合成樹脂製フィルムが並行状態に展開されるとともに、相互の交差部分が接着剤による接着又は熱融着により結合されてなる布状体
【0018】
なかでも上記(c)を選択した場合は、通気性、透湿性、光透過性、成形性においてより優れたものとなる。
【0019】
また、前記強度保持層は、熱可塑性樹脂であってもよい。
【0020】
この場合、加工性、経済性、及び不織布との積層のし易さの点で優れたものとなる。
【0021】
前記補強部材は、その螺旋のピッチが20~50mmであってもよい。
【0022】
この場合、保護具本体の径方向からの外力に対する形状保持性が良好となり、積雪時の雪の荷重に耐え、幼齢木の損傷を防止することができる
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、形状保持性に優れ、保温性を有し、施工性が良く、幼齢木を野生動物による食害からの保護が可能な幼齢木保護具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る幼齢木保護具の一つの実施形態を示す斜視図である。
図2図1の要部を示す斜視図である。
図3図1に示す幼齢木保護具のうち、保護具を除いた実施形態を示す斜視図である。
図4】(a)は図3に示す左側の支柱部材の要部を示す斜視図、(b)は図3に示す右側の支柱部材の要部を示す斜視図である。
図5図1に示す幼齢木保護具を構成するクリップの実施形態を示す、(a)は一方の斜視図、(b)は(a)の反対側の斜め上方から見た斜視図である。
図6図5に示すクリップの使用状態を示す説明図であって、図4(b)に示す保持具を除いたA-A矢視の断面図である。
図7】本発明に係る幼齢木保護具の別の実施形態を示す斜視図である。
図8図7の要部を示す拡大の斜視図である。
図9図7,8に示す実施形態に用いられている短尺棒状体にクリップを取付ける説明図(斜視図)である。
図10図7,8に示す実施形態に用いられている短尺棒状体とクリップとで保護部材を挟み付ける模式的な説明図(平面視の断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施の形態を示す斜視図である。幼齢木保護具(以下、単に「保護具」ともいう。)2は、植設された幼齢木Tの周囲を覆うことで害獣による食害から幼齢木Tを保護するものであって、不織布を含む基材からなる筒状で且つその軸方向に伸縮可能な保護具本体21と、この保護具本体21に螺旋状に設けられた補強部材22と、を有するものである。この保護具2は、図示のように、設置面Gに立設された支柱部材1に伸長状態で固定される。なお、支柱部材1及びそれへの保護具2との固定手段については後述する。
【0027】
保護具本体21はその基材に不織布を含むことで保護具自体に保温性を付与することが可能となり、凍害から幼齢木Tを保護することができる。また、不織布は柔軟であることから、上下方向に伸縮可能でコンパクトにすることができ、運搬性を向上させることができる。
【0028】
上記基材を構成する不織布としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂から得られる合成繊維から成ることが好ましい。特に、柔軟性、加工性の観点から、(a)ポリプロピレンとポリエチレンの混合紡糸繊維あるいは複合紡糸繊維であって、繊維表面にポリエチレンが存在している繊維からなる不織布、又は、(b)ポリプロピレン繊維とポリエチレン繊維の混合物からなる不織布、或いは、(c)ポリエチレンとポリエステルの混合紡糸繊維あるいは複合紡糸繊維であって、繊維表面にポリエチレンが存在している繊維からなる不織布、もしくは、(d)ポリエチレン繊維とポリエステル繊維の混合物からなる不織布、が保護具本体21の成形性の観点から好ましい。この場合、低融点成分又は低融点繊維が熱融着の際のバインダー繊維として働き、不織布の形状固定、さらには上記不織布を含む基材同士の熱融着性をもたらす。特に、上記ポリエチレン成分を低融点成分として用いた複合紡糸繊維又は混合紡糸繊維のように、低融点成分と高融点成分からなり、低融点成分が繊維表面に存在している芯鞘構造の繊維や低融点成分と高融点成分からなるサイドバイサイド構造の繊維をバインダー繊維として用いるのも好ましい。
【0029】
また、上記不織布は、適度な透湿性、通気性が得られ、日光を遮らないものであれば使用できるが、目付けが10~70g/mであることが好ましく、15~60g/m であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の保護具2を1年以上の長期間に亘って使用する場合には、紫外線による基材の強度低下に伴う保護具本体21の破損を防ぐため、前記基材を不織布と強度保持層の積層体とすることが好ましい。
【0031】
上記強度保持層としては、(a)合成樹脂製のシート又はフィルム又はネット、或いは、(b)帯状の合成樹脂製フィルムから編成されてなる布状体、もしくは、(c)多数本の帯状の合成樹脂製フィルムが並行状態に展開された上に、これと交差して多数本の帯状の合成樹脂製フィルムが並行状態に展開されるとともに、相互の交差部分が接着剤による接着又は熱融着により結合されてなる布状体が挙げられるが、なかでも上記(c)を選択した場合は、通気性、透湿性、光透過性、成形性においてより優れたものとなる。
【0032】
また、上記強度保持層を構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系共重合体、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラートのポリエステル系樹脂など熱可塑性樹脂を用いることができるが、なかでも加工性、経済性、不織布との積層の観点から、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
ここで、上記(c)の布状体を採用する場合、その網目の大きさは、1~5mmであることが好ましく、2~4mmであることがさらに好ましいが、日光を遮らない程度に大きく、野生動物の口が入りにくい程度に狭ければ特に上記の数値範囲に限定されるものではない。さらに、強度保持層には耐候性向上のための紫外線吸収剤や光安定剤を添加してもよい。
【0034】
また、上記(c)の布状体の積層方法としては、公知の手法を使用できる。そのうち接着剤やホットメルト剤などによる接着に拠ってもよいが、不織布の低融点成分による熱接着性を考慮すると、熱ロールを用いた熱圧着による積層が好ましい。
【0035】
次に補強部材22は、保護具本体21に径方向への形状保持性を付与する部材である。補強部材22により形状保持性を有することで、積雪による変形が抑制され、積雪の荷重によって幼齢木Tへかかる負荷を減少させることができる。この補強部材22を構成する材料としては、鋼線やピアノ線などの金属製線材や、ポリプロピレンやポリエステル、ナイロンなどの樹脂製線材が使用できるが、軽量化の観点から樹脂製線材の使用が好ましい。さらに、樹脂製線材の中でも、耐候性と経済性の観点からポリエステルからなる線材を用いることが好ましい。
【0036】
補強部材のピッチ(螺旋方向に1回転したときに軸方向に進む長さ)は20~50mmが好ましく、25~40mmであるとより好ましい。この範囲にあると、保護具本体21の径方向からの外力に対する形状保持性が良好であり、積雪時の雪の荷重に耐え、幼齢木Tの損傷を防止することができる。なお、補強部材22の螺旋の回転方向は右向き(保護具2の上方から見て時計回り)であっても左向き(保護具2の上方から見て反時計回り)であってもよい。
【0037】
次に、支柱部材1及びそれへの保護具2の固定手段について説明する。
【0038】
支柱部材1は、図1に示すように、設置面Gに立設されているとともに保護具2がクリップ3により挟み付けられる被挟持部材である第一支柱4と、その第一支柱4に隣設され設置面Gに立設されている第二支柱5と、を備え、クリップ3は保持部材6を用いて第二支柱5に保持されるようになされている。
【0039】
詳細には、前記クリップ3は、図4乃至図6に示すように、第一支柱4に挟み付けられかつ挟持幅が弾性的に拡大又は縮小可能に構成される挟持部31と、この挟持部31に一体に形成されかつ前記挟持部31の挟持幅を弾性的に拡大させるように操作される一対の摘まみ片32と、前記挟持部31に一体に形成されかつ起立姿勢から傾倒姿勢に折り曲げられて前記一対の摘まみ片32の対向間に楔状に押し込まれたときに当該一対の摘まみ片32を離隔させるように突っ張って前記挟持部31の挟持幅を弾性的に縮小させるための板状のロック片33とを有している。
【0040】
そして、前記クリップ3の挟持部31は、周方向の1ヶ所が分離された筒状部材とされ、前記一対の摘まみ片32は板状部材とされ、かつ前記挟持部31に径方向外向きに延出するように連接されることによってそれらの対向間に側面視でV字形の空間Kを作るようになされ、前記ロック片33は、筒状部材からなる前記挟持部31の周方向の中間領域の中心軸線方向Cにおいて前記一対の摘まみ片32の一方側に、前記挟持部31の径方向外向きに延出するように起立した姿勢で連接されている。
【0041】
そして、前記摘まみ片32のV字形の空間Kに前記第二支柱5が、摘まみ片32が第二支柱5に当接されるようにして配置されている。また、前記クリップ3の一対の摘まみ片32には貫通孔34が設けられ、その貫通孔34に前記保持部材6が挿通されて、第二支柱5にクリップ3が保持されている。詳細には、前記保持部材6は合成樹脂製の帯状体からなり、一対の前記摘まみ片32のそれぞれの貫通孔34に挿通され、第二支柱5に巻き付けられて取付けられて、一対の摘まみ片32が第二支柱5に当接されるようにして配置されている。
【0042】
前記第一支柱4は、パイプ材の外側面に合成樹脂層が被覆され、この合成樹脂層の外側面に長手方向に間隔をおいて節状部41が形成されている。そして、前記クリップ3を用いて保護具2を第一支柱4に取付ける際、クリップ3が節状部41の直上に配置されるように取付けると、節状部41にクリップ3の端部が引っ掛り、保護具2をずれ落ちにくくすることができる。また、前記第一支柱4の上端部と下端部とには栓体が装着され、前記パイプ材内部が密閉されており、前記栓体の外側にも前記合成樹脂層が形成されて、上端部は平坦に、下端部は先細りのテーパー形状(円錐形状)となされている。
【0043】
前記パイプ材は、鉄、ステンレス、アルミニウム合金等の金属、あるいは、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ABS、AAS、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、FRP等の合成樹脂からなる管状体が用いられ、その断面形状は円形、楕円形、多角形等特に限定はされないが、本実施形態に示すように、クリップ3の挟持部31の形状に合致するように、断面が円形状のものが好適に使用されるが、特にこれに限定されるものではない。なお、中実の柱状体が第一支柱4として用いられても良いことは言うまでもない。
【0044】
また、上記パイプ材の外側面を被覆する合成樹脂材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン等のα-オレフィンの重合体を用いてもよく、エチレンにα-オレフィンを共重合させたもの、或いはエチレンに、酢酸ビニル、メタクリル酸又はそのエステル、アクリル酸又はそのエステル等と共重合させたものでもよく、更にはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ABS樹脂、AAS樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂を用いることができ、或いはこれらの樹脂を適宜組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0045】
前記第二支柱5には、円筒形状のいわゆる間伐材が好適に用いられるが、特にこれに限定されるものではなく、形状は角柱状であってもよいし、第一支柱4が用いられても良いし、中実の柱状体が用いられても良い。
【0046】
前記保護具2は、引き伸ばして使用する使用状態において円筒状に形作られるとともに幼齢木Tを覆い囲み保護する保護具本体21と、螺旋状に形成されて保護具本体21の側面に取付けられている補強部材22とを備えている。そして、保護具本体21は合成樹脂製の不織布で形成され、補強部材22は樹脂製線材で形成されている。樹脂製線材としては、前述したように、例えば、ポリプロピレンやポリエステル、ナイロンなどが挙げられるが、耐候性と経済性の観点からポリエステルからなる線材を用いることが好ましい。なお、補強部材22は、上記したような樹脂製線材に限らず、例えば、鋼線やピアノ線といった金属製線材でもよい。このような補強部材22により、保護具本体21はその径方向への形状保持性が付与され、積雪による変形が抑制されることとなり、積雪の荷重によって幼齢木Tへかかる負荷が減少するのである。
【0047】
また、前記クリップ3の挟持部31には、前記補強部材22を収容する収容部35が形成されている。図1~4に示すように、この保護具2においては、保護する幼齢木Tの両脇の設置面Gに第一支柱4を2本対向させて立設し、幼齢木Tと2本の第一支柱4とを覆うように、筒状の保護具2を配置して、その保護具2をクリップ3の挟持部31と第一支柱4の外周面とで挟み付けて保護具2を第一支柱4に取付けるものである。前記クリップ3で保護具2を第一支柱4に取付けた時、前記補強部材22が挟持部31の収容部35に収容されて、前記補強部材22の大きさの分だけクリップ3が第一支柱4から浮き上がるのを防止することができる。なお、保護具2に螺旋状に補強部材22を備えている理由としては、クリップ3を用いて第一支柱4に保護具2を取付ける際、合成樹脂製の不織布で形成されている保護具本体21のみを第一支柱にクリップ3で取付けるよりも、強度の高い補強部材22を一緒にクリップ3で挟み付け取付ける方が、保護具2が破損し難いためである。
【0048】
更に、前記クリップ3の挟持部31の内側には、その使用状態における上下方向に2本の突条36が形成され、その突条36の中央付近が切欠かれ突条36が欠損している欠損部37が設けられている。また、前記挟持部31の分離された先端部の中央付近も切欠かれて切欠部38が設けられている。そして、これら欠損部37と切欠部38とが、前記保護具2の補強部材22を収容する収容部35となっている。
【0049】
図6に示すように、前記クリップ3を第一支柱4に取付ける手順を説明する。
【0050】
前記一対の摘まみ片32を摘まみ、前記挟持部31の分離された先端を拡げて、前記保護具2を挟み付け第一支柱4に取付ける(つまり、図6(a)に示す状態)。そして、起立姿勢で挟持部31に一体に形成されている前記ロック片33を90度折り曲げて傾倒させ、一対の摘まみ片32に対向して設けられている凹み溝39内に楔状に押し込み、一対の摘まみ片32を離隔させるように突っ張るようにする(つまり、図6(b)に示す状態)。こうすることにより、前記ロック片33を一対の摘み片32の対向間に押し込んで、一対の摘まみ片32が近寄らないようにし、クリップ3が外れたりずれたりしにくいようにすることができる。
【0051】
さらに、前記摘まみ片32のV字形の空間Kに前記第二支柱5が配置され、摘まみ片32が第二支柱5の外側面に当接するようにし、加えて、ロック片33も第二支柱5が当接するようにしているので、前記摘まみ片32が離間する方向に第二支柱5が摘まみ片32に押し当たり、クリップ3と第二支柱5とがずれにくいようになされるとともに、ロック片33が起立姿勢に戻らないようになっている。
【0052】
本実施形態において、前記クリップ3の挟持部31は、2本の前記突条36と挟持部31の先端部とが前記保護具本体21と当接し、保護具2を第一支柱4に挟み付けて取付けるようになっているが、特にこれに限定されるものではなく、挟持部31の内壁面全体が保護具本体21に当接する形状にしてもよい。すなわち、前記突条36及び挟持部31の先端部に設けられている突条部40を無くした形状にしてもよい。この場合には、前記保護具2に備えられている螺旋状の補強部材22を収容する収容部35を、前記挟持部31の内壁面に周方向全体にわたって凹みを形成するようにして設ければよい。これにより、前記補強部材22が挟持部31の収容部35に収容されて、前記補強部材22の大きさの分だけクリップ3が第一支柱4から浮き上がるのを防止することができる。
【0053】
前記クリップ3は、例えばポリエチレン、ABS樹脂、AAS樹脂、ASA樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエステル樹脂、エラストマー、ラバー等を素材とするものであって、成形により製作される。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態のみに限定されるものではなく、特許請求の範囲内および当該範囲と均等の範囲内で適宜に変更することが可能である。
【0055】
(1)上記実施形態において、一対の摘まみ片32は指で摘める大きさであれば、その形状は特に限定されないし、また、ロック片33は指で押せる大きさであれば、その形状は特に限定されない。さらに、突条36は、挟持部31の長手方向に複数設けることが可能である。
【0056】
(2)上記実施形態では、ロック片33を挟持部31の中心軸線で一対の摘まみ片32に隣り合うように配置した例を挙げているが、本発明はこれのみに限定されるものではない。例えばロック片33は、図示していないが、一対の摘まみ片32の間に配置することも可能である。
【0057】
図7,8,9,10を用いて、本発明に係る別の実施形態について説明する。
【0058】
図1から図6に示す実施形態では、被挟持部材である第一支柱4と、第二支柱5との2本の支柱を用いているのに対して、図7,8,9,10に示す実施形態では、被挟持部材である前記第一支柱4に替えて、短尺棒状体7を被挟持部材として用いる点で相違し、その他の構成については同一となされているので、その相違点のみを説明することとする。
【0059】
すなわち、図7,8,9,10に示す実施形態は、前記支柱部材1が、前記保護具2がクリップ3により挟み付けられる被挟持部材である前記短尺棒状体7と、その短尺棒状体7に隣設され設置面Gに立設されている第二支柱5と、を備え、前記クリップ3は保持部材6を用いて第二支柱5に保持されるようになされている。
【0060】
前記短尺棒状体7は、湾曲した部分の両側2ヶ所に凹部71が連続して設けられている。そして、図9,10に示すように、前記クリップ3と短尺棒状体7とで保護具2を挟み付けた時、前記短尺棒状体7の凹部71にクリップ3の挟持部31の内側に形成されている突条36が対向されて配置され、前記保護具2がクリップ3と短尺棒状体7とで強固に挟持されるようになっている。
【0061】
また、前記短尺棒状体7はその中央に透孔72が設けられ中空状(筒状)に形成されている。もっとも、この透孔72が設けられず中実状に形成されていてもよい。また本実施形態において、前記短尺棒状体7はクリップ3の高さより高く形成されているが、これに限定されるものではなく、クリップ3の高さと同等或いは低く形成されていてもよい。要は、前記短尺棒状体7とクリップ3とで保護具2を確実に挟み付けることができれば、それらの高さ寸法について制限されるものではない。
【0062】
さらに本実施形態において、前記短尺棒状体7の形状は図示例のものに限定されるものではなく、その平面視において円形状や楕円形状となされていてもよく、要は、前記短尺棒状体7とクリップ3とで保護具2を確実に挟み付けることができれば、それらの平面視における形状について制限されるものではない。
【0063】
<実施例>
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0064】
なお、以下の実施例および比較例において、性能評価は次のようにして行った。
【0065】
[積雪時の形状保持性試験]
積雪の前に植樹したスギの苗木の上から各保護具を施工し、経過観察を行った。積雪量の多い2月に各保護具の形状を目視確認し、以下の通り評価した。
○・・・変形なし
△・・・一部に変形が確認される
×・・・変形している
【0066】
[保温性試験]
隣り合う2室分離型恒温室の各恒温室の間に設けられた貫通部(寸法:(W)600mm×(H)600mm×(D)75mm)に、直径100mmの穴を開けた貫通部と同寸法の市販されているポリスチレンフォームを取り付けて粘着テープを用いて固定した。前記ポリスチレンフォームの開口部中心に熱電対を取り付け、前記ポリスチレンフォームの開口部に150mm×150mmに切り出した各種保護具を貼り付け、さらにその上からポリエステル繊維からなる断熱材を貼り付けた。前記断熱材を貼り付けた側の恒温室の温度を-10℃に設定し、もう一方の恒温室の温度を10℃に設定し、熱電対の示す温度が10℃になるまで温度を調節した。温度調整が終了したら、開放されている側の開口部に前記ポリエステル繊維からなる断熱材を貼り付け、もう一方の開口部に貼り付けた断熱材を外して-10℃の環境に晒すと同時に、熱電対に取り付けたデータロガー(HIOKI製『LR8400』)にて温度データを記録した。記録開始1時間後の到達温度にて保温性を評価した。
【0067】
[施工性評価]
各保護具を施工し、各種工程について、必要であった工程を○、必要でなかった工程を×で評価し、○の数が少ないものほど施工が簡単であると評価した。
【0068】
-実施例1-
45mm幅に裁断されたポリエステル不織布(目付け:60g/m)を、外径が1
55mmの製管機で螺旋状に捲回し、その隣接する側縁同士を1.2φのポリエステル線材を投入しながら350℃の熱風で熱融着することで補強部材のピッチが30mmである保護具を作製した。
【0069】
-実施例2-
45mm幅に裁断されたポリエステル不織布(目付け:15g/m)と、多数本の
帯状のポリエチレン製フィルムが並行状態に展開された上に、これと交差して多数本の帯状のポリエチレン製フィルムが並行状態に展開されるとともに、相互の交差部分が接着剤による接着又は熱融着により結合されてなる布状体(線幅1mm,空壁4mm×4mm)との貼り合せ品を、外径が155mmの製管機で螺旋状に捲回し、その隣接する側縁同士を1.2φのポリエステル線材を投入しながら400℃の熱風で熱融着することで補強部材のピッチが30mmの保護具を作製した。
【0070】
-実施例3-
65mm幅に裁断されたポリエステル不織布(目付け:15g/m)と、実施例2
で用いたのと同じ布状体との貼り合せ品を、外径が155mmの製管機で螺旋状に捲回し、その隣接する側縁同士を1.2φのポリエステル線材を投入しながら400℃の熱風で熱融着することで補強部材のピッチが50mmの保護具を作製した。
【0071】
-比較例1-
115mm幅に裁断されたポリエステル不織布(目付け:15g/m)と、実施例
1,2で用いたのと同じ布状体との貼り合せ品を、外径が155mmの製管機で螺旋状に捲回し、その隣接する側縁同士を1.2φのポリエステル線材を投入しながら400℃の熱風で熱融着することで補強部材のピッチが100mmの保護具を作製した。次に、手作業にてポリエステル不織布を剥離させた。
【0072】
-比較例2-
市販されている側縁部に沿って係合突部を千鳥状に配置された厚さ0.5mmのポリプロピレン製シートを円筒状にし、前記係合突部を相互に組み合わせ、円筒上下両端に円筒形状を保持するためのリングを取り付けてなる保護具を作製した
【0073】
-比較例3-
市販されているポリエチレン製ネット材を台形(上底520mm×下底1020mm×高さ1700mm)に切り出し、半分に折り重ね、斜辺を縫い代10mmで縫製し、上辺500mm、下辺1000mmの円錐状の保護具を作製した。
【0074】
実施例1~3、比較例1~3の試験結果について、以下、表1及び表2に示す。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
実施例1,2,3は、いずれも、基材に不織布が含まれていることで良好な保温性を発揮し、補強部材のピッチが30~50cmと狭いことで積雪時の形状保持性が良好であった。また、施工時に形状を保持するための補強が必要ないので、折り畳まれた状態から伸長して支柱に固定するだけで容易に施工できるため、施工時間を短縮することができた。
【0078】
比較例1は、折り畳まれた状態から伸長して支柱に固定するだけで容易に施工できるが、補強部材のピッチが広いために積雪時の形状保持性が悪く、さらに基材に不織布を含まないために保温性が悪い結果となった。
【0079】
比較例2は、シート材を使用しており、積雪時の形状保持性や保温性には優れるものの、施工時に円筒上下両端に円筒形状を保持するためのリングを取り付けなければならず、このため施工性が悪い結果となった。
【0080】
比較例3は、補強部材のないネット材であり、施工時に補強をしないので容易に施工できるが、基材に不織布を含まないので保温性が悪く、形状保持を担う部分がないため形状保持性が悪い結果となった。
【0081】
このように、本発明の保護具は、形状保持性、保温性、施工性のバランスがよい優れたものである。
【符号の説明】
【0082】
1 支柱部材
2 幼齢木保護具
21 保護具本体
22 補強部材
T 幼齢木
G 設置面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10