(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】防振グロメット
(51)【国際特許分類】
F16F 15/08 20060101AFI20220527BHJP
F16F 1/36 20060101ALI20220527BHJP
F16F 1/373 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
F16F15/08 E
F16F1/36 K
F16F1/373
(21)【出願番号】P 2018162300
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179970
【氏名又は名称】桐山 大
(74)【代理人】
【識別番号】100071205
【氏名又は名称】野本 陽一
(72)【発明者】
【氏名】森口 聖史
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2004-0077234(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0055091(KR,A)
【文献】実開昭56-43676(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/08
F16F 1/36
F16F 1/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム状弾性材料で生成された円柱状の弾性体と、
前記弾性体の軸に沿う軸孔を設ける孔部と、
前記弾性体の外周面に円周上に沿って設けられた装着溝と、
前記弾性体の端面中、内周側よりも外周側に近い位置に複数個突出して設けられ、相手部材に押し付けられたときの変形によって前記端面と同一平面内に位置づけられる突部と、
を備えることを特徴とする防振グロメット。
【請求項2】
前記突部は、前記弾性体の同心円上に等間隔で配列されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の防振グロメット。
【請求項3】
前記突部は、前記弾性体の二つの端面に設けられている、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の防振グロメット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振グロメットに関する。
【背景技術】
【0002】
防振グロメットは、支持側の部材に被支持側の部材を取り付けるマウント部に配置され、両部材間での振動の伝達を抑制する。
【0003】
例えば自動車の分野では、ECU(Engine Control Unit)などの電装ユニット、ABS(Antilock Brake System)、電動ウォーターポンプといった各種の部品を車両に固定するマウント部に防振グロメットが利用されている。防振グロメットが利用されるその他の分野としては、例えばエアコンや冷蔵庫などの家電製品に内蔵されているコンプレッサや送風ファン、事務機器やパソコンに装着されているHDDユニットなどのマウント部を挙げることができる。
【0004】
図5は、使用状態にある防振グロメットの従来の一例を示す斜視図である。防振グロメット1が用いられる支持側の部材は、例えば自動車のボディ2であり、被支持側の部材は、例えば電装ユニットのハウジング3である。防振グロメット1は、ボルト4によってボディ2に固定され、ハウジング3を支持している。
【0005】
図6に示すように、防振グロメット1は、ゴム状弾性材料によって一体に成形された円柱形状を有する弾性体11を備えている。弾性体11は、軸に沿って軸孔12を貫通させ、外周面の中央部分に装着溝13を設けている。したがって装着溝13を挟み、軸方向にフランジのような形状を有する一対の撓み体14が形成されている。
【0006】
ボディ2に対するハウジング3のマウント部に防振グロメット1を装着するには、まず、ハウジング3に設けた取付孔3aに防振グロメット1を挿入し、装着溝13に取付孔3aを嵌め込む。これに前後して、カラー21を防振グロメット1に取り付ける。カラー21は、断面がT字形状をなすパイプ状の部材であり、パイプ21aの部分を防振グロメット1の軸孔12に挿入して使用される。カラー21の挿入方向は、フランジ21bの部分をボディ2の側に向けた方向である。
【0007】
その後、カラー21のフランジ21bを介してボディ2に防振グロメット1を接触させ、ボディ2に設けたネジ孔2aと防振グロメット1の軸孔12とを位置合わせする。そしてワッシャ22に通したボルト4を軸孔12に挿入し、ボルト4のネジ部4aをネジ孔2aにねじ込んで締め付ける。
【0008】
このときボルト4は、軸孔12に挿入されたカラー21のパイプ21aに挿入されるので、カラー21の長さにワッシャ22の厚みを加えた寸法分の距離だけ、ボディ2から突出する。この突出量は、防振グロメット1の軸方向の圧縮量を規定する。
【0009】
このような構造の防振グロメット1は、自動車のボディ2と電装ユニットのハウジング3との間に振動が生じたとき、撓み体14が撓んで振動を吸収し、ボディ2とハウジング3との間の振動の伝達を緩和する。
【0010】
例えば
図7に示すように、走行中の自動車が沈み込むことによってボディ2に矢印方向の入力が加わると、上方に位置する撓み体14が軸方向に撓み、電装ユニットのハウジング3に伝わる振動を吸収する。
【0011】
以上紹介した防振グロメット1と同様の構成を有する防振グロメットは、例えば特許文献1、2にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開昭61-142961号公報
【文献】特開平10-109551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
自動車の分野では、防振グロメットが設けられている各種部品のマウント部に対して、車両から絶えず振動が伝達される。このため防振グロメットには、高い耐久性が求められる。
【0014】
前述したとおり、防振グロメットは支持側の部品、例えば自動車のボディにボルトで固定され、装着溝に嵌め込まれた被支持側の部品、例えばECU、ABS、電動ウォーターポンプなどを支持する。このような構造上、車両からの振動を受け続ける防振グロメットは相手部材、つまりボディ及びボルト、あるいはボディ及びボルトとの間に介在するフランジ及びワッシャに対して接触したり離れたりする動作を繰り返す。このため防振グロメットの弾性体は、相手部材との間の摩擦によって徐々に劣化し、いずれ破損してしまうことがあることから、改善が求められる。
【0015】
本発明の課題は、防振グロメットの耐久性を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の防振グロメットは、ゴム状弾性材料で生成された円柱状の弾性体と、前記弾性体の軸に沿う軸孔を設ける孔部と、前記弾性体の外周面に円周上に沿って設けられた装着溝と、前記弾性体の端面中、内周側よりも外周側に近い位置に複数個突出して設けられ、相手部材に押し付けられたときの変形によって前記端面と同一平面内に位置づけられる突部とを備える。
【発明の効果】
【0017】
突部は相手部材に常に接触するので、弾性体の劣化や破損を防止して防振グロメットの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の一形態として、使用状態にある防振グロメットを示す垂直断面図。
【
図4】ボルトを省略して使用状態にある防振グロメットを示す垂直断面図。
【
図5】従来の一例として、使用状態にある防振グロメットを示す垂直断面図。
【
図7】
図5に示す防振グロメットが変形したときの状態を示す垂直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
【0020】
本実施の形態は、自動車のボディに対して電装ユニットを取り付けるマウント部に用いる防振グロメットの一例である。防振グロメット101は、ボディから振動が伝達されても、マウント部に位置する相手部材に対する接触状態を維持し得る構造を備えている。この構造によって防振グロメット101は、相手部材に接触したり離れたりする動作を繰り返すことによる劣化や損傷を受けにくくなり、高い耐久性を獲得する。
【0021】
図1は、使用状態にある防振グロメット101を示す垂直断面図である。
図1中、支持側の部材は自動車のボディ201であり、被支持側の部材は電装ユニットのハウジング301である。
【0022】
もっともこれは一つの例にすぎず、本実施の形態の防振グロメット101は、例えば自動車に搭載されているABS、電動ウォーターポンプ、小型モータ、エアコンや冷蔵庫などの家電製品に内蔵されているコンプレッサや送風ファン、事務機器やパソコンに装着されているHDDユニットなど(すべて図示せず)、支持側の部材に被支持側の部材を取り付ける各種のマウント部に適用可能である。何を支持側の部材として何を被支持側の部材とするのかは、防振グロメット101が用いられるマウント部の種類に応じて適宜決定される。
【0023】
図1に示すように、防振グロメット101は、弾性体111を基体として備え、ボルト151によってボディ201に固定され、弾性体111の中央部分で電装ユニットのハウジング301を支持している。弾性体111はゴム状弾性材料によって成形されている。
【0024】
弾性体111は円柱形状を有しており、軸心に沿って円形の軸孔112を貫通させる孔部113を備えている。弾性体111の外周面には、中央部分に円周上に沿って装着溝114が設けられている。そこで弾性体111は、装着溝114を挟み、軸方向に一対の撓み体115を配列した形状を有している。これらの撓み体115は、互いに同一形状で同一の大きさを有しており、弾性体111の軸心に中心軸を一致させて上下に配列されている。
【0025】
図2及び
図3に示すように、弾性体111の二つの端面111aには、複数個の突部116が設けられている。これらの突部116は、弾性体111の端面111a中、内周側よりも外周側に近い位置に複数個突出して設けられている。より詳しくは、複数個の突部116は、弾性体111の外周面111bを含む仮想的な面から僅かに内周側に寄せて、弾性体111と同心上に配列された弧状形状を有している。弾性体111の二つの端面111aには、それぞれ六個ずつの突部116が等間隔で配列されている。これらの突部116は、断面円弧状の先端形状を有している。
【0026】
前述したとおり、防振グロメット101は、弾性体111をゴム状弾性材料によって成形している。このため一対の撓み体115は、二つの端面111aを相手部材(本例では
図1及び
図2に示す後述するカラー401のフランジ401bとワッシャ402)で挟み込むようにして軸方向の力を受けたとき、弾性変形して軸方向に撓む。このとき突部116は相手部材に押し付けられ、押し潰されるように変形する。変形した突部116は、端面111aと同一平面内に位置づけられる。換言すると、突部116は、一対の相手部材の間に挟まれて押し潰されたとき、端面111aと同一平面内に位置づけられて端面111aを相手部材に密接させるように構成されている。このような突部116の構成は、端面111aからの突出量、個々の突部116の体積、材料であるゴム状弾性材料の組成などによって実現可能である。
【0027】
図1及び
図4に示すように、防振グロメット101は、カラー401とワッシャ402とが取り付けられた状態で、ボディ201に対するハウジング301のマウント部に装着される。カラー401は、防振グロメット101の軸孔112に挿入されてボルト151のネジ部151aを挿入させ得るパイプ401aと、このパイプ401aの端部に固定されたフランジ401bとを有する断面T字形状をしたパイプ状の部材である。ワッシャ402は、ボルト151のネジ部151aを挿入させ、なおかつカラー401のパイプ401aの端面に突き当てられる孔径をもった平ワッシャである。
【0028】
防振グロメット101は、ボディ201に設けられたネジ孔201aにネジ部151aがねじ込まれたボルト151の締め付けによって、ボディ201に対するハウジング301のマウント部に装着される。このとき防振グロメット101は、カラー401のフランジ401bとワッシャ402との間で、一対の撓み体115を軸方向に圧縮されて取り付けられる。一対の撓み体115の圧縮量は、カラー401のパイプ401aの長さ、つまりフランジ401bとワッシャ402との間の距離によって決定される。
【0029】
こうして決定される一対の撓み体115の圧縮量は、弾性体111を軸方向に圧縮する圧力を規定の圧力として決定づける。弾性体111が規定の圧力で軸方向に圧縮されたとき、一対の相手部材(カラー401のフランジ401bとワッシャ402)に押し潰された突部116は、端面111aと同一平面内に位置づけられて端面111aを相手部材に密接させる。
【0030】
このような構成において、自動車のボディ201に対する伝送ユニットのハウジング301のマウント部に防振グロメット101を装着するには、まず、ハウジング301に設けた取付孔301aに防振グロメット101を挿入し、装着溝114に取付孔301aを嵌め込む。これと前後して、カラー401を防振グロメット101に取り付ける。このときのカラー401の挿入方向は、フランジ401bをボディ201の側に向けた方向である。
【0031】
その後、カラー401のフランジ401bを介してボディ201に防振グロメット101を接触させ、ボディ201に設けたネジ孔201aと防振グロメット101の軸孔112とを位置合わせする。そしてワッシャ402を通したボルト151を軸孔112に挿入し、ボルト151のネジ部151aをネジ孔201aにねじ込んで締め付ける。こうして自動車のボディ201に対して、伝送ユニットのハウジング301が防振グロメット101を介して装着される。
【0032】
自動車のボディ201と電装ユニットのハウジング301との間に振動が生じたとき、防振グロメット101の撓み体115が撓んで振動を吸収し、ボディ201とハウジング301との間の振動の伝達を緩和する。例えばボディ201が沈み込んだ場合には、ハウジング301に対してボディ201が離反する方向に変位するため、上方に位置する撓み体115が軸方向に撓んで振動を吸収する。反対にボディ201が突き上げられた場合には、ハウジング301に対してボディ201が近接する方向に変位するため、下方に位置する撓み体115が軸方向に撓んで振動を吸収する。
【0033】
防振グロメット101の弾性体111は、二つの端面111aを全体的に相手部材(カラー401のフランジ401bとワッシャ402)に密接させている。ボルト151の締め付けによって突部116は押し潰され、端面111aと同一平面内に位置づけられているからである。その結果防振グロメット101の姿勢が安定し、自動車のボディ201から電装ユニットに伝達される振動の吸収に際して、一対の撓み体115を撓ませての良好な振動吸収作用が発揮される。
【0034】
従来の防振グロメットにおいて問題となるのは、車両からの振動を受け、弾性体の端面が相手部材に対して接触したり離れたりする動作を繰り返すことである。この動作の繰り返しによって弾性体の端面は、相手部材との間の摩擦によって徐々に劣化し、いずれ破損してしまうことがある。
【0035】
本実施の形態の防振グロメット101は、自動車のボディ201から振動を受け、弾性体111の端面111aが相手部材から離れたとしても、押し潰されて弾性的に変形していた突部116はその形状を復元し、相手部材から離れない。このため相手部材から一旦は離れた弾性体111の端面111aが再び相手部材に接触する際、両者間に摺動が発生しない。その結果弾性体111は、相手部材との間の摩擦による劣化を生じず、摩耗による劣化を原因とする破損を免れる。よって本実施の形態によれば、防振グロメット101の耐久性を向上させることができる。
【0036】
弾性体111の端面111aに設けられた突部116は、周方向の全周にわたって設けられてはおらず、複数個に分割されている。このため突部116の個数、周長などを適宜設定することで、防振グロメット101全体の圧縮力とばね特性とを調整することが可能である。
【0037】
本実施の形態によれば、突部116は、弾性体111の同心円上に等間隔で配列されている。このため相手部材に対する安定した密接状態を維持することができ、相手部材から一旦は離れた弾性体111の端面111aが再び相手部材に接触する際、両者間の摺動をより確実に阻止することができる。
【0038】
本実施の形態によれば、突部116は、弾性体111の二つの端面111aに設けられている。このため二つの撓み体115にそれぞれ振動吸収作用を生じさせるマウント部、例えば本実施の形態のようなマウント部に使用することで、二つの端面111aのいずれについても相手部材との間の摩擦による劣化を防止し、摩耗による劣化を原因とする破損から防振グロメット101を保護することができる。
【0039】
実施に際しては、各種の変形や変更が許容される。
【0040】
例えば本実施の形態では、弾性体111の二つの端面111aにそれぞれ突部116を設けた一例を示したが、これは必須というわけではなく、弾性体111の一方の端面111a側にのみ突部116を設けるようにしてもよい。特に振動を吸収すべき方向が一方のみである場合には、弾性体111の一方の端面111a側にのみ突部116を設ければ足りる。
【0041】
本実施の形態では、一つの端面111aについて六つの突部116を設けた一例を示したが、突部116の数は六つに限らず、それよりも少なくても多くてもよい。
【0042】
突部116の配置位置、突出量、形状、体積等についても本実施の形態に限られない。突部116は弾性体111の内周側よりも外周側に近い位置に配置されていればよく、相手部材に押し付けられたときの変形によって端面111aと同一平面内に位置づけられる限り、実施の形態とは異なる各種の突出量、様々な形状、特有の体積等を突部116に持たせることが可能である。
【0043】
本実施の形態では、カラー401のフランジ401bとワッシャ402とが相手部材である一例を示したが、実施に際してはこれも限定されない。防振グロメット101の端面111aが密接する相手部材は、自動車のボディ201、ボルト151のヘッドなどで合ってもよい。
【0044】
その他、あらゆる変形や変更が許容される。
【符号の説明】
【0045】
101 防振グロメット
111 弾性体
111a 端面
111b 外周面
112 軸孔
113 孔部
114 装着溝
115 撓み体
116 突部
151 ボルト
151a ネジ部
201 ボディ
201a ネジ孔
301 ハウジング
301a 取付孔
401 カラー
401a パイプ
401b フランジ
402 ワッシャ