IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 宇部興産株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】炭化物の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C10B 53/02 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
C10B53/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018510601
(86)(22)【出願日】2017-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2017014002
(87)【国際公開番号】W WO2017175737
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2016076234
(32)【優先日】2016-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】林 茂也
(72)【発明者】
【氏名】田野 龍海
(72)【発明者】
【氏名】藤本 直秀
(72)【発明者】
【氏名】真木 大輔
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-066485(JP,A)
【文献】特開2004-204045(JP,A)
【文献】特公昭47-015471(JP,B1)
【文献】特公昭40-019024(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 53/02
F25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス成型体を150~400℃で炭化してバイオマス炭化物を得るロータリーキルンと、
前記ロータリーキルンの下流側に設けられ、前記バイオマス炭化物を分級する分級手段と、
前記分級手段の下流側に設けられ、分級された前記バイオマス炭化物を冷却する冷却手段と
を備え、
前記バイオマス成型体は、原料のバイオマスを粉砕した後成型して得られた成型体であって、
前記冷却手段は、散水により前記バイオマス炭化物を冷却することと、
前記炭化は熱分解であることと、
を特徴とする炭化物の製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の炭化物の製造装置において、
前記冷却手段は、振動する平板と、この平板上に散水する散水部と、を有し、
前記平板は金属板または樹脂板であって、振動により前記バイオマス炭化物を搬送すること
を特徴とする炭化物の製造装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の炭化物の製造装置において、
前記ロータリーキルンの出口の温度を計測する温度計を設け、
前記温度計により計測された温度が所定値以下となった場合、前記散水手段を停止する制御手段を設けたこと
を特徴とする炭化物の製造装置。
【請求項4】
請求項3に記載の炭化物の製造装置において、
前記温度計は、前記バイオマス炭化物の温度を直接計測可能であること
を特徴とする炭化物の製造装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の炭化物の製造装置において、
前記分級手段と前記冷却手段とを隔成する隔成部を設けたこと
を特徴とする炭化物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス炭化物の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1にあっては、粉砕されたバイオマスを加熱しながら加圧成形することにより半炭化し、強度に優れたバイオコークスを得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4088933
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記特許文献1にあっては、成形後は加圧状態で冷却され、また大気による自然冷却であるため冷却効率が低いという問題があった。冷却効率向上のため水冷による冷却を行うとしても、加圧状態での水冷は困難であるとともに、バイオコークスは粉砕後成形されたバイオマスであるため一部が粉化してハンドリングが困難になる。とりわけ加熱が行われない非定常状態の場合、成形されたバイオコークスが崩壊して設備が閉塞するおそれがある。あるいは単純化のため炭化(加熱)後に水槽等に入れて冷却する場合、バイオマス固体燃料は比重が軽いため浮いてしまい回収が煩雑となる。
【0005】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、半炭化されたバイオマス成型体の冷却を効率化しつつ、設備閉塞を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、バイオマス成型体を炭化してバイオマス炭化物を得る炭化炉と、前記炭化炉の下流側に設けられ、前記バイオマス炭化物を分級する分級手段と、前記分級手段の下流側に設けられ、分級された前記バイオマス炭化物を冷却する冷却手段とを備え、前記バイオマス成型体は、原料のバイオマスを粉砕した後成型して得られた成型体であって、前記冷却手段は、散水により前記バイオマス炭化物を冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、半炭化されたバイオマス成型体の冷却を効率化しつつ、設備閉塞を低減することにある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】バイオマス固体燃料の固体温度-COD、pHを示す図である。
図2】加熱工程における固体温度と、得られたバイオマス固体燃料の粉砕性、および粉砕速度との相関を示す図である。
図3】粉化試験を行ったバイオマス固体燃料の粒度分布を示す図である。
図4】バイオマス固体燃料の水中浸漬試験結果(固体水分)を示す図である。
図5】水中浸漬前後の固体強度(回転強度)を示す図である。
図6】水中浸漬前後の固体強度(機械的耐久性)を示す図である。
図7】固体燃料のBET比表面積を示す図である。
図8】固体燃料表面の平均細孔直径を示す図である。
図9】固体燃料表面の全細孔容積を示す図である。
図10】バイオマス固体燃料の収率を示す図である。
図11】バイオマス固体燃料の自然発熱性指数(SCI)を示す図である。
図12】例A-2における水中浸漬前の断面写真である。
図13】例A-2における水中浸漬(2秒)後の断面写真である。
図14】例A-2における水中浸漬(20秒)後の断面写真である。
図15】比較例Aにおける水中浸漬前の断面写真である。
図16】比較例Aにおける水中浸漬(2秒)後の断面写真である。
図17】比較例Aにおける水中浸漬(20秒)後の断面写真である。
図18】PBTにおける固架橋発達のメカニズム(推定)を示す図である。
図19】バイオマス固体燃料のペレットの外表面のFT-IR分析の結果を示す図である。
図20】バイオマス固体燃料のペレットの断面中心のFT-IR分析の結果を示す図である。
図21】バイオマス固体燃料のアセトン抽出液のFT-IR分析の結果を示す図である。
図22】バイオマス固体燃料のアセトン抽出後の固体のFT-IR分析の結果を示す図である。
図23】バイオマス固体燃料のアセトン抽出液のGC-MS分析の結果を示す図である。
図24】例Bにおいて生理食塩水に浸漬した後のペレットの形状を示す図である。
図25】例Bにおいて生理食塩水に浸漬する前と後のナトリウムの分布を示す図である。
図26A】バイオマス炭化物の冷却設備を示す概略図である。
図26B】バイオマス炭化物の冷却設備の他の例を示す概略図である
図27】本発明のプロセスフローを示す図である。
図28】制御フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態]
図26Aは本発明の概略図、図27はプロセスフローである。図27の燃料製造工程100によって得られたバイオマス固体燃料は、分級工程200及び冷却工程300を経て製品となる。
【0010】
燃料製造工程100では公知の手法を用いてバイオマス固体燃料が製造される。原料のバイオマスは破砕、粉砕工程110を経た後成型工程120において成型された後、加熱工程130において図26Aのキルン1を用いて加熱される。成型工程120においてはバインダー等の結合剤は添加されず、単にバイオマス粉を圧縮、加圧することで成型される。
【0011】
成型工程120を経た直後の未加熱のバイオマス成型体(White Pellet:以下WPと記載)は、単にバイオマス粉を加圧成型したのみであるため強度が低く、ハンドリング中に粉化しやすい。また吸水により膨張して崩壊してしまう。
【0012】
本発明の燃料製造工程100においては、加熱工程130(キルン1)でバイオマス成型体を150~400℃で加熱(低温炭化)することで、成型体としての形状を保持しつつ、強度及び耐水性を有するバイオマス固体燃料(Pelletizing Before Torrefaction:以下PBTと記載)が製造される。なおこの燃料製造工程100の詳細は後述する。
【0013】
分級工程200及び冷却工程300は図26Aの振動コンベア2を用いて行われる。振動コンベア2は仕切り板24により2つの区画に隔成されており、それぞれ分級部21および冷却部22となる。キルン1から排出されたPBTは、平板22bの振動およびキルン1から順次供給されるPBTに押し出されることで搬送され、分級部21及び冷却部22を経て製品として排出される。なお図26Aの振動コンベア2は傾斜しているが、傾斜しない水平のものであってもよい。
【0014】
分級部21ではPBTを篩21aの上で振動させることで、PBTと微粉との分級(分級工程200)が行われる。篩21aの目の大きさは所望の値に応じて適宜変更してもよい。製造中に崩壊したものや所定の大きさに届かない小さなPBTはこの篩21a下に落下して別途処理される。篩21a上に残ったPBTは冷却部22へ移動する。
【0015】
冷却部22は散水部22aおよび振動する平板22bを有し、散水部22aは平板22b上に散水を行う。この平板22b上のPBTに対し散水することで冷却(冷却工程300)が行われ、製品として排出される。なお冷却は散水だけであってもよいし、散水部22aに加えて空気ノズル等を設け、空気による冷却を併用してもよい。さらに散水ノズルを空気+水の2流体ノズルとしても良い。
【0016】
平板22bは孔や凹凸のない平滑な板であって、金属板または樹脂板が用いられる。平滑な板とすることで冷却部22内のPBTが滑りやすくなり、冷却部22内での移動がスムーズとなる。
【0017】
また、分級部21と冷却部22との間は仕切り板24によって隔成されるため、冷却部22内に散水された水の分級部21への進入が低減される。これにより分級部21内で分級された微粉の吸水が抑制され、分級部21における閉塞を低減することができる。
【0018】
キルン1の出口には温度計11が設けられ、制御部30は測定された温度に基づき散水を実行または停止する。なお温度計11はキルン1の温度が計測可能な位置であれば他の位置でもよい。
【0019】
本発明においてはWPをキルン1で加熱することで初めて強度および耐水性が付与されたPBTが得られるものであるが、キルン1の温度が所定値以下の場合、未加熱のWP、あるいは加熱が不十分なため強度、耐水性が確保されないバイオマス成型体がキルン1から排出されることとなる。それらが振動コンベア2に供給されると、散水部22では耐水性不足のため吸水により膨張・崩壊し、設備閉塞の原因となる。
【0020】
したがって温度計11で測定された温度が所定値を下回った場合、PBT製造に不十分な低温と判断して制御部30は散水部22aの散水を停止する。これによりキルン1の温度が低い際にWPや加熱が不十分なPBTが排出された場合であっても、散水部22における崩壊を抑制して設備閉塞を低減することができる。
【0021】
図28は温度に基づく散水続行/停止のフローチャートであり、制御部30により実行される。ステップS1では温度計11によりキルン1出口温度Tを測定する。ステップS2では計測された温度Tが所定値α以下か否かを判断し、YESであればステップS3において散水を停止し、NOであればステップS4において散水を実行する。
【0022】
とりわけ、キルン1の起動時や非定常時等、温度が低い状況ではキルン1から未加熱のWPまたは加熱が不十分なバイオマス成型体が排出されるため、散水を停止することにより崩壊および設備閉塞を抑制することが可能となる。
【0023】
キルン1が停止して所定値以下の低温となった際にキルン1内におけるWPの搬送をストップすると、キルン1内にWPが残存する。その場合、仮に低温であってもWPの炭化が進行して熱分解ガスが大量に発生し、ガスの別途処理が必要となるため煩雑である。また過度に炭化されたWPは揮発分の残存量が少なく燃料としては不利であり、こちらも別途処理する必要があるため更に工数が増大してしまう。したがってキルン1内での搬送停止は好ましくない。
【0024】
一方低温時にWPの供給を遮断した場合であっても、キルン1内での搬送を継続すると未炭化のWPあるいは加熱が不十分なバイオマス成型体が排出されてしまう。したがって低温時であっても搬送は停止しないことで、熱分解ガスの大量発生や過度な炭化を回避するとともに、排出されたWPへの散水を停止して閉塞を抑制するものである。
【0025】
なお、温度計11はキルン1出口の雰囲気温度ではなく、キルン1出口におけるPBTの温度を直接計測する。本発明ではWPを所定温度以上で炭化することで耐水性及び強度を持つPBT(固体燃料)を得るものであるが、過度な温度上昇は必要以上に炭化を進行させて熱量収率を悪化させるため、燃料特性が劣ることとなる。熱量収率を最大限に確保しつつ耐水性、強度を発現させるためにはシビアな温度管理が必要となるため、PBTの温度を直接計測することで高精度な炭化を行うものである。温度計11はキルン1出口におけるPBTの温度を直接計測可能なものであればよく、接触式温度計であってもよいし、赤外線等の非接触式温度計であってもよい。
【0026】
[効果]
(1)バイオマス成型体を炭化してバイオマス炭化物(PBT)を得るキルン1(炭化炉)と、キルン1の下流側に設けられ、バイオマス炭化物(PBT)を分級する分級部21(分級手段)と、分級部21の下流側に設けられ、分級されたバイオマス炭化物(PBT)を冷却する冷却部22(冷却手段)とを備え、
バイオマス成型体は、原料のバイオマスを粉砕した後成型して得られた成型体であって、冷却部22は、散水によりバイオマス炭化物(PBT)を冷却することとした。
【0027】
バイオマス炭化物を水中浸漬により冷却する場合、バイオマス炭化物が水に浮いて水面に拡散するためハンドリングが困難である。一方散水により冷却する場合であっても、バイオマス成型体は粉砕物を成型しているため再度粉化しやすく、そのまま散水するとバイオマスの粉が吸水し、設備が閉塞するおそれがある。そのため分級した後に散水することで閉塞を回避することができる。散水に加え、空気冷却と散水を併用してもよいし、空気+水の2流体ノズルとしてもよい。
【0028】
(2)冷却部22は、振動する平板22b(平板)と、この平板22b上に散水する散水部22aと、を有し、平板22bは金属板または樹脂板であって、振動によりバイオマス炭化物(PBT)を搬送することとした。
【0029】
バイオマス炭化物(PBT)は搬送中に一部が崩壊するため、分級後も小径のバイオマス炭化物が一定程度残存する。小径であるほど散水により互いに付着しやすく、搬送時のハンドリングが煩雑となりやすい。ここで排水を考慮してバイオマス炭化物を網上で冷却する場合、網の凹凸の抵抗により散水されたバイオマス炭化物が堆積し、搬送が非効率となって閉塞のおそれがある。したがってバイオマス炭化物との摺動抵抗の少ない金属板または樹脂板とすることにより、搬送時の抵抗を低減して効率的な搬送を行うことができる。
【0030】
(3)キルン1の出口温度が所定値以下の場合、散水部22aの散水を停止する制御部30(制御手段)を設けた。起動時、停止時等の非定常状態ではキルン1が所定値以下の低温(PBT製造に不十分な低温)であるため、未炭化のバイオマス成型体(WP)あるいは炭化が不十分で強度や耐水性に劣るバイオマス成型体が排出されるが、これらは散水により膨潤・崩壊し、設備閉塞のおそれがある。そのため散水を停止して閉塞を防止することができる。
【0031】
(4)温度計11は、バイオマス炭化物(PBT)の温度を直接計測可能であることとした。所定温度以上でWPを炭化することで耐水性及び強度を持つPBT(固体燃料)が得られる一方、過度な炭化は熱量収率を悪化させる。そのためPBTの温度を直接計測することにより、高精度な炭化を行うことが可能となり、熱量収率を確保しつつ耐水性、強度を得ることができる。
【0032】
(5)分級部22と冷却部23とを隔成する隔成部24を設けた。これらを隔成することで、分級部22への散水の侵入を低減して分級時の堆積及び閉塞を抑制することができる。
【0033】
上述した態様における振動コンベア2に代えて、図26Bに示すようなシステムを用いて分級工程及び冷却工程を実施するようにしてもよい。このシステム402は、振動篩装置403Aと冷却振動コンベア403Bとを備えている。振動篩装置403Aおよび冷却振動コンベア403Bは別体に構成されており、振動篩装置403AがPBTの搬送方向上流側に、冷却振動コンベア403Bが下流側に配置されている。なお、図26Aの構成と共通する機能や構造に関しては、重複した説明を回避するため、説明を省略するものとする。
【0034】
振動篩装置403Aは、篩421aが設けられた分級部421を有している。篩421a上に対しては、図26Aの構成と同様、ロータリーキルン(図26Bでは不図示)からPBTが供給される。PBTは、篩421aの上で振動させられながら搬送されることによって、PBTと微粉との分級(分級工程)が行われる。なお、図の振動篩装置403Aは傾斜しているが、傾斜しない水平のものであってもよい。
【0035】
篩421aの目の大きさに関し、所望の値に応じて適宜変更してもよいことは上述した実施形態と同様である。製造中に崩壊したものや所定の大きさに届かない小さなPBTはこの篩421a下に落下して別途処理される。篩421a上に残ったPBTは、振動篩装置403Aの排出部421bから排出される。
【0036】
冷却振動コンベア403Bは、散水部422aおよび振動する平板422b等が設けられた冷却部422を有しており、平板422b上に、振動篩装置403AからのPBTが供給される。図示は省略するが、冷却振動コンベア403Bは、図26Aの構成と同様、散水部422a等の動作制御を行う制御部も備えている。平板422bは、一例として、孔や凹凸のない平滑な板であって、金属板または樹脂板が用いられる。平滑な板とすることでPBTが滑りやすくなり移動がスムーズとなる。なお、図の冷却振動コンベア403Bは傾斜しているが、傾斜しない水平のものであってもよい。
【0037】
なお、この例においても、冷却は散水だけであってもよいし、空冷を併用してもよい。散水ノズルを空気+水の2流体ノズルとしても良い。また、上述した態様と同様、キルン1の温度計11(図26A参照)で測定された温度が所定値を下回った場合に、散水部422aによる散水が停止するように制御されることが一形態において好ましい。図26Bとして開示された技術的事項は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、他の態様として開示された内容と組合せ可能であることまたは置換可能であることに留意されたい。
【0038】
なお、上述の燃料製造工程100において製造されるバイオマス固体燃料(PBT)の製造方法について以下のとおり詳述する。
【0039】
[燃料製造工程におけるバイオマス固体燃料(PBT)の製造]
バイオマス固体燃料は、バイオマスを破砕後粉砕し、屑または粉状となったバイオマスを圧縮・成型して塊状物とする成型工程、成型工程後の塊状物を加熱する加熱工程を経て得られた成型済固体物を燃料とするものである(後述のPBTに相当)。このバイオマス固体燃料は、水蒸気爆砕の工程、およびバインダーを要しないため、コストアップを抑制することができる。なお、本明細書においては、成型工程により得られ、加熱工程前の塊状物のことを「未加熱塊状物」とも記載する。この未加熱塊状物とは上述のWPに相当する。
【0040】
原料となるバイオマスは木質系及び草木系であればよく、樹種および部位等は特に限定されないが、例えば、米松、米栂、杉、桧、欧州アカマツ、アーモンド古木、アーモンド殻、アカシア木部、アカシアバーク、胡桃殻、サゴヤシ、EFB(パーム油加工残渣の空果房)、メランティ、ゴムの木等が挙げられ、これらのうち1種であっても2種以上の混合物であってもよい。
【0041】
成型工程では、公知の成型技術を用いて塊状物とする。塊状物はペレットまたはブリケットであることが好ましく、大きさは任意である。加熱工程では、成型された塊状物を加熱する。
【0042】
加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料は、水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)が、3000ppm以下であることが好ましい。また、バイオマス固体燃料は、(加熱工程後のバイオマス固体燃料のCOD/未加熱のバイオマス固体燃料のCOD)で表されるCOD比が、0.98以下であることが好ましい。ここで、バイオマス固体燃料を水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)(単に、「COD」とも記載する)とは、COD測定用浸漬水試料の調製を昭和48年環境庁告示第13号(イ)産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法に従って行い、JIS K0102(2010)-17によって分析したCOD値のことをいう。
【0043】
また、加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料は、JIS M 8801に基づく粉砕性指数(HGI)が、15以上60以下であることが好ましく、より好ましくは20以上60以下である。また、BET比表面積が0.15~0.8m/gであることが好ましく、0.15~0.7m/gであることがより好ましい。また、水中浸漬後の平衡水分が15~65wt%であることが好ましく、15~60wt%であることがより好ましい。
【0044】
バイオマス固体燃料は、燃料比(固定炭素/揮発分)が0.2~0.8、無水ベース高位発熱量が4800~7000(kcal/kg)、酸素Oと炭素Cのモル比O/Cが0.1~0.7、水素Hと炭素Cのモル比H/Cが0.8~1.3にある。バイオマス固体燃料の物性値が該範囲内にあることにより、貯蔵時の排水中のCODを低減しつつ粉化を低減し、貯蔵時のハンドリング性を向上させることができる。バイオマス固体燃料は、例えば、原料として用いるバイオマスの樹種、その部位、加熱工程における加熱温度等を調整することにより得ることができる。なお本明細書における工業分析値、元素分析値、高位発熱量はJIS M 8812、8813、8814に基づく。
【0045】
バイオマス固体燃料の製造方法は、破砕及び粉砕されたバイオマスのバイオマス粉を成型して未加熱塊状物を得る成型工程と、未加熱塊状物を加熱し、加熱済固体物を得る加熱工程とを有し、加熱工程における加熱温度は、150℃~400℃であることが好ましい。加熱工程の温度をこの範囲とすることで、上記の特性を有するバイオマス固体燃料が得られる。この加熱温度は原料となるバイオマスおよび塊状物の形状、大きさによって適宜決定されるが、150~400℃が好ましく200~350℃がより好ましい。さらに好ましくは230~300℃である。250~290℃であればなお好ましい。また、加熱工程における加熱時間は、特に限定されないが、0.2~3時間が好ましい。バイオマス粉の粒径は、特に限定されないが、平均で約100~3000μm、好ましくは平均で400~1000μmである。なお、バイオマス粉の粒径の測定方法は公知の測定方法を用いてよい。後述のとおりバイオマス固体燃料(PBT)においては固架橋によりバイオマス粉同士の接続または接着が維持されるため、成型可能な範囲であればバイオマス粉同士の粒径は特に限定しない。また微粉砕はコストアップ要因となるため、コストと成型性を両立可能な範囲の粒径であれば公知の範囲でよい。
【0046】
加熱工程前の未加熱塊状物の嵩密度をA、加熱工程後の加熱済固体物の嵩密度をBとすると、B/A=0.7~1であることが好ましい。嵩密度Aの値はバイオマス粉を成型して未加熱塊状物を得られる公知の範囲であれば特に限定されない。また原料バイオマスの種類によっても嵩密度は変化するため適宜設定されてよい。また、未加熱塊状物のHGI(JIS M8801のハードグローブ粉砕性指数)をH1、前記加熱済固体物のHGIをH2とすると、H2/H1=1.1~2.5であることが好ましい。B/AとH2/H1のいずれかまたは両方の値がこの範囲となるように加熱を行うことで、貯蔵時の排水中のCODを低減しつつ粉化を低減し、貯蔵時のハンドリング性を向上させたバイオマス固体燃料を得ることができる。
【0047】
なお、バイオマス固体燃料の特性は、原料として用いるバイオマスの樹種によって、好適な範囲を定めてもよい。以下、その一例を記載するが、本発明はこれらの樹種およびその組み合わせに限定されるものではない。以下、本発明で用いたバイオマス原料の種類と得られた固体燃料(後述のPBTに相当)の性状、およびその製造方法について、好ましい範囲をそれぞれ示す。
【0048】
[原料バイオマスの種類と固体燃料の性状]
(米松、米栂、杉、および桧:固体燃料A)
本発明の一態様として、原料が米松、米栂、杉、および桧から選ばれる少なくとも1種を含む場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料Aと記載することがある)の性状は以下のとおりである。
【0049】
CODについては1000ppm以下が好ましく、900ppm以下がより好ましく、800ppm以下がさらに好ましく、COD比は、0.80以下が好ましく、0.70以下がより好ましく、0.68以下がさらに好ましい。
【0050】
水中浸漬後の平衡水分(後述)については15wt%~45wt%であることが好ましく、18wt%~35wt%であることがより好ましく、18wt%~32wt%であることがさらに好ましい。
【0051】
BET比表面積は0.25m/g~0.8m/gであることが好ましく、0.28m/g~0.6m/gであることがより好ましく、0.32m/g~0.5m/gであることがさらに好ましい。
【0052】
HGIについては20~60が好ましく、20~55がより好ましく、22~55がさらに好ましい。発電用のボイラ燃料として好適な石炭(瀝青炭)のHGIが50前後であり、石炭と混合粉砕されることを考慮すると50前後に近接するほど好ましい。HGI比(後述)については1.0~2.5が好ましい。
【0053】
燃料比については0.2~0.8が好ましく、0.2~0.7がより好ましく、0.2~0.65がさらに好ましい。
【0054】
無水ベース高位発熱量は4800~7000kcal/kgが好ましく、4900~7000kcal/kgがより好ましく、4950~7000kcal/kgがさらに好ましい。
【0055】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.1~0.62が好ましく、0.1~0.61がより好ましく、0.1~0.60がさらに好ましい。
【0056】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは0.8~1.3が好ましく、0.85~1.3がより好ましく、0.9~1.3がさらに好ましい。
【0057】
以上、固体燃料Aの性状における好ましい範囲を記載した。
【0058】
また固体燃料Aを製造する際、加熱工程における加熱温度は、200~350℃が好ましく、210~330℃がより好ましく、220~300℃がさらに好ましい。
【0059】
(欧州アカマツ:固体燃料B)
本発明の一態様として、原料が欧州アカマツである場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料Bと記載することがある)の性状は以下のとおりである。
【0060】
CODについては900ppm以下が好ましく、800ppm以下がより好ましく、700ppm以下がさらに好ましく、COD比は、0.75以下が好ましく、0.68以下がより好ましく、0.64以下がさらに好ましい。
【0061】
水中浸漬後の平衡水分については15wt%~45wt%であることが好ましく、18wt%~40wt%であることがより好ましく、18wt%~31wt%であることがさらに好ましい。
【0062】
BET比表面積は0.30m/g~0.7m/gであることが好ましく、0.30m/g~0.6m/gであることがより好ましく、0.30m/g~0.5m/gであることがさらに好ましい。
【0063】
HGIについては25~60が好ましく、30~55がより好ましく、35~55がさらに好ましい。HGI比(後述)については1.0~2.5が好ましい。
【0064】
燃料比については0.2~0.8が好ましく、0.2~0.7がより好ましく、0.2~0.65がさらに好ましい。
【0065】
無水ベース高位発熱量は4950~7000kcal/kgが好ましく、5000~7000kcal/kgがより好ましく、5100~7000kcal/kgがさらに好ましい。
【0066】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.1~0.60が好ましく、0.2~0.60がより好ましく、0.3~0.60がさらに好ましい。
【0067】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは0.8~1.3が好ましく、0.85~1.3がより好ましく、0.9~1.3がさらに好ましい。
【0068】
以上、固体燃料Bの性状における好ましい範囲を記載した。
【0069】
また固体燃料Bを製造する際、加熱工程における加熱温度は、200~350℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、240~290℃がさらに好ましい。
【0070】
(アーモンド古木:固体燃料C)
本発明の一態様として、原料がアーモンド古木である場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料Cと記載することがある)の性状は以下のとおりである。
【0071】
CODについては2100ppm以下が好ましく、2000ppm以下がより好ましく、1500ppm以下がさらに好ましく、COD比は、0.80以下が好ましく、0.75以下がより好ましく、0.55以下がさらに好ましい。
【0072】
水中浸漬後の平衡水分については25wt%~60wt%であることが好ましく、30wt%~50wt%であることがより好ましく、30wt%~45wt%であることがさらに好ましい。
【0073】
BET比表面積は0.20m/g~0.70m/gであることが好ましく、0.22m/g~0.65m/gであることがより好ましく、0.25m/g~0.60m/gであることがさらに好ましい。
【0074】
HGIについては15~60が好ましく、18~55がより好ましく、20~55がさらに好ましい。HGI比(後述)については1.0~2.0が好ましい。
【0075】
燃料比については0.2~0.8が好ましく、0.25~0.7がより好ましく、0.30~0.65がさらに好ましい。
【0076】
無水ベース高位発熱量は4800~7000kcal/kgが好ましく、4800~6500kcal/kgがより好ましく、4900~6500kcal/kgがさらに好ましい。
【0077】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.10~0.70が好ましく、0.20~0.60がより好ましく、0.30~0.60がさらに好ましい。
【0078】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは0.8~1.3が好ましく、0.85~1.3がより好ましく、0.9~1.20がさらに好ましい。
【0079】
以上、固体燃料Cの性状における好ましい範囲を記載した。
【0080】
また固体燃料Cを製造する際、加熱工程における加熱温度は、200~350℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、240~290℃がさらに好ましい。
【0081】
(アーモンド殻とアーモンド古木の混合物:固体燃料D)
本発明の一態様として、原料がアーモンド殻とアーモンド古木の混合物である場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料Dと記載することがある)の性状は以下のとおりである。
【0082】
CODについては2500ppm以下が好ましく、2000ppm以下がより好ましく、1500ppm以下がさらに好ましく、COD比は、0.75以下が好ましく、0.68以下がより好ましく、0.50以下がさらに好ましい。
【0083】
水中浸漬後の平衡水分については15wt%~50wt%であることが好ましく、20wt%~40wt%であることがより好ましく、20wt%~35wt%であることがさらに好ましい。
【0084】
BET比表面積は0.20m/g~0.70m/gであることが好ましく、0.27m/g~0.70m/gであることがより好ましく、0.30m/g~0.60m/gであることがさらに好ましい。
【0085】
HGIについては20~60が好ましく、20~55がより好ましく、23~55がさらに好ましい。HGI比(後述)については1.0~2.0が好ましい。
【0086】
燃料比については0.2~0.8が好ましく、0.30~0.7がより好ましく、0.35~0.65がさらに好ましい。
【0087】
無水ベース高位発熱量は4800~7000kcal/kgが好ましく、4800~6500kcal/kgがより好ましく、4900~6300kcal/kgがさらに好ましい。
【0088】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.10~0.70が好ましく、0.20~0.60がより好ましく、0.30~0.55がさらに好ましい。
【0089】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは0.8~1.3が好ましく、0.8~1.25がより好ましく、0.85~1.20がさらに好ましい。
【0090】
以上、固体燃料Dの性状における好ましい範囲を記載した。
【0091】
また固体燃料Dを製造する際、加熱工程における加熱温度は、200~350℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、240~290℃がさらに好ましい。
【0092】
(アカシア木部:固体燃料E)
本発明の一態様として、原料がアカシア木部である場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料Eと記載することがある)の性状は以下のとおりである。
【0093】
CODについては950ppm以下が好ましく、850ppm以下がより好ましく、800ppm以下がさらに好ましく、COD比は、0.95以下が好ましく、0.85以下がより好ましく、0.80以下がさらに好ましい。
【0094】
水中浸漬後の平衡水分については20wt%~60wt%であることが好ましく、20wt%~55wt%であることがより好ましく、23wt%~53wt%であることがさらに好ましい。
【0095】
BET比表面積は0.40m/g~0.70m/gであることが好ましく、0.50m/g~0.70m/gであることがより好ましく、0.55m/g~0.70m/gであることがさらに好ましい。
【0096】
燃料比については0.2~0.6が好ましく、0.2~0.5がより好ましく、0.2~0.4がさらに好ましい。
【0097】
無水ベース高位発熱量は4800~7000kcal/kgが好ましく、4800~6000kcal/kgがより好ましく、4800~5500kcal/kgがさらに好ましい。
【0098】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.40~0.70が好ましく、0.45~0.70がより好ましく、0.48~0.65がさらに好ましい。
【0099】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは0.8~1.3が好ましく、1.0~1.3がより好ましく、1.1~1.3がさらに好ましい。
【0100】
以上、固体燃料Eの性状における好ましい範囲を記載した。
【0101】
また固体燃料Eを製造する際、加熱工程における加熱温度は、200~350℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、240~290℃がさらに好ましい。
【0102】
(アカシアバーク:固体燃料F)
本発明の一態様として、原料がアカシアバークである場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料Fと記載することがある)の性状は以下のとおりである。
【0103】
CODについては2500ppm以下が好ましく、2000ppm以下がより好ましく、1200ppm以下がさらに好ましく、COD比は、0.30以下が好ましく、0.20以下がより好ましく、0.15以下がさらに好ましい。
【0104】
水中浸漬後の平衡水分については15wt%~50wt%であることが好ましく、20wt%~45wt%であることがより好ましく、25wt%~40wt%であることがさらに好ましい。
【0105】
BET比表面積は0.35m/g~0.55m/gであることが好ましく、0.40m/g~0.55m/gであることがより好ましく、0.40m/g~0.50m/gであることがさらに好ましい。
【0106】
燃料比については0.4~0.8が好ましく、0.42~0.75がより好ましく、0.45~0.75がさらに好ましい。
【0107】
無水ベース高位発熱量は4800~7000kcal/kgが好ましく、5000~7000kcal/kgがより好ましく、5200~6500kcal/kgがさらに好ましい。
【0108】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.25~0.60が好ましく、0.30~0.60がより好ましく、0.30~0.55がさらに好ましい。
【0109】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは0.8~1.3が好ましく、0.8~1.2がより好ましく、0.9~1.2がさらに好ましい。
【0110】
以上、固体燃料Fの性状における好ましい範囲を記載した。
【0111】
また固体燃料Fを製造する際、加熱工程における加熱温度は、200~350℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、240~290℃がさらに好ましい。
【0112】
(アーモンド殻と胡桃殻の混合物:固体燃料G)
本発明の一態様として、原料がアーモンド殻と胡桃殻の混合物である場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料Gと記載することがある)の性状は以下のとおりである。
【0113】
CODについては2500ppm以下が好ましく、2100ppm以下がより好ましく、1500ppm以下がさらに好ましく、COD比は、0.65以下が好ましく、0.55以下がより好ましく、0.45以下がさらに好ましい。
【0114】
水中浸漬後の平衡水分については20wt%~45wt%であることが好ましく、20wt%~40wt%であることがより好ましく、25wt%~35wt%であることがさらに好ましい。
【0115】
BET比表面積は0.15m/g~0.35m/gであることが好ましく、0.19m/g~0.33m/gであることがより好ましく、0.20m/g~0.30m/gであることがさらに好ましい。
【0116】
HGIは18~60が好ましく、20~60であればさらに好ましい。HGI比は1.0以上が好ましい。
【0117】
燃料比については0.2~0.7が好ましく、0.25~0.65がより好ましく、0.28~0.60がさらに好ましい。
【0118】
無水ベース高位発熱量は4800~7000kcal/kgが好ましく、4800~6000kcal/kgがより好ましく、5000~6000kcal/kgがさらに好ましい。
【0119】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.30~0.65が好ましく、0.40~0.70がより好ましく、0.40~0.60がさらに好ましい。
【0120】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは0.8~1.3が好ましく、0.9~1.25がより好ましく、0.9~1.2がさらに好ましい。
【0121】
以上、固体燃料Gの性状における好ましい範囲を記載した。
【0122】
また固体燃料Gを製造する際、加熱工程における加熱温度は、200~350℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、240~290℃がさらに好ましい。
【0123】
(サゴヤシ:固体燃料H)
本発明の一態様として、原料がサゴヤシである場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料Hと記載することがある)の性状は以下のとおりである。
【0124】
CODについては2000ppm以下が好ましく、1600ppm以下がより好ましく、800ppm以下がさらに好ましく、COD比は、0.85以下が好ましく、0.60以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましい。
【0125】
水中浸漬後の平衡水分については20wt%~35wt%であることが好ましく、20wt%~33wt%であることがより好ましく、22wt%~30wt%であることがさらに好ましい。
【0126】
BET比表面積は0.15m/g~0.35m/gであることが好ましく、0.18m/g~0.33m/gであることがより好ましく、0.18m/g~0.30m/gであることがさらに好ましい。
【0127】
HGIは20~60が好ましく、25~55であればさらに好ましく、30~55であればさらに好ましい。HGI比は1.0~2.5が好ましく、1.3~2.3がより好ましく、1.5~2.2がさらに好ましい。
【0128】
燃料比については0.2~0.8が好ましく、0.25~0.8がより好ましく、0.5~0.8がさらに好ましい。
【0129】
無水ベース高位発熱量は4800~7000kcal/kgが好ましく、4900~6500kcal/kgがより好ましく、5000~6000kcal/kgがさらに好ましい。
【0130】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.20~0.65が好ましく、0.20~0.60がより好ましく、0.2~0.55がさらに好ましい。
【0131】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは0.8~1.3が好ましく、0.85~1.3がより好ましく、0.85~1.2がさらに好ましい。
【0132】
以上、固体燃料Hの性状における好ましい範囲を記載した。
【0133】
また固体燃料Hを製造する際、加熱工程における加熱温度は、200~350℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、240~290℃がさらに好ましい。
【0134】
(EFB:固体燃料I)
本発明の一態様として、原料がEFB(パーム油加工残渣の空果房)である場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料Iと記載することがある)の性状は以下のとおりである。
【0135】
CODについては2350ppm以下が好ましく、2300ppm以下がより好ましく、2000ppm以下がさらに好ましく、COD比は、0.98以下が好ましく、0.96以下がより好ましく、0.85以下がさらに好ましい。
【0136】
水中浸漬後の平衡水分については23wt%~45wt%であることが好ましく、20wt%~40wt%であることがより好ましく、20wt%~35wt%であることがさらに好ましい。
【0137】
BET比表面積は0.25m/g~0.65m/gであることが好ましく、0.30m/g~0.60m/gであることがより好ましく、0.35m/g~0.55m/gであることがさらに好ましい。
【0138】
燃料比については0.25~0.8が好ましく、0.30~0.8がより好ましく、0.36~0.8がさらに好ましい。
【0139】
無水ベース高位発熱量は4800~7000kcal/kgが好ましく、4900~7000kcal/kgがより好ましく、5000~7000kcal/kgがさらに好ましい。
【0140】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.15~0.65が好ましく、0.15~0.60がより好ましく、0.15~0.55がさらに好ましい。
【0141】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは0.5~1.3が好ましく、0.55~1.3がより好ましく、0.6~1.2がさらに好ましい。
【0142】
以上、固体燃料Iの性状における好ましい範囲を記載した。
【0143】
また固体燃料Iを製造する際、加熱工程における加熱温度は、200~350℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、240~260℃がさらに好ましい。
【0144】
(メランティ:固体燃料J)
本発明の一態様として、原料がメランティである場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料Jと記載することがある)の性状は以下のとおりである。
【0145】
CODについては330ppm以下が好ましく、320ppm以下がより好ましく、300ppm以下がさらに好ましく、COD比は、0.98以下が好ましく、0.95以下がより好ましく、0.90以下がさらに好ましい。
【0146】
水中浸漬後の平衡水分については15wt%~30wt%であることが好ましく、15wt%~27wt%であることがより好ましく、18wt%~25wt%であることがさらに好ましい。
【0147】
燃料比については0.2~0.6が好ましく、0.2~0.5がより好ましく、0.2~0.45がさらに好ましい。
【0148】
無水ベース高位発熱量は4800~7000kcal/kgが好ましく、4800~6500kcal/kgがより好ましく、4800~6000kcal/kgがさらに好ましい。
【0149】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.3~0.60が好ましく、0.35~0.60がより好ましく、0.40~0.60がさらに好ましい。
【0150】
水素Hと炭素Cのモル比H/Cは0.9~1.2が好ましく、0.95~1.2がより好ましく、1.0~1.2がさらに好ましい。
【0151】
以上、固体燃料Jの性状における好ましい範囲を記載した。
【0152】
また固体燃料Jを製造する際、加熱工程における加熱温度は、200~350℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、230~290℃がさらに好ましい。
【0153】
(ゴムの木:固体燃料K)
本発明の一態様として、原料がゴムの木である場合のバイオマス固体燃料(以下、固体燃料Kと記載することがある)の性状は以下のとおりである。
【0154】
燃料比については0.2~0.8が好ましく、0.2~0.7がより好ましい。無水ベース高位発熱量は4800~7000kcal/kgが好ましい。
【0155】
酸素Oと炭素Cのモル比O/Cは0.1~0.7が好ましい。水素Hと炭素Cのモル比H/Cは0.8~1.3が好ましい。
【0156】
以上、固体燃料Kの性状における好ましい範囲を記載した。
【0157】
また固体燃料Jを製造する際、加熱工程における加熱温度は、200~350℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、230~290℃がさらに好ましい。
【0158】
本発明者らは、バイオマス固体燃料の製造方法において、成型工程の後、未加熱塊状物を加熱する加熱工程を行うという工程の順序により、バインダーを使用することなく原料であるバイオマス由来の成分を用いてバイオマス粉同士の接続または接着が維持され、水中浸漬によっても崩壊することがない耐水性の高いバイオマス固体燃料を製造することができると推察している。本発明者らの解析により、バイオマス固体燃料が耐水性を獲得するメカニズムについて下記の知見が得られた。
【0159】
本発明者らは、製造方法の異なる3種類のバイオマス固体燃料、具体的には、粉砕されたバイオマスを成型した未加熱の固体燃料(White Pellet:以下WPと記載することがある)、および粉砕されたバイオマスを成型した後加熱して得られた固体燃料(Pelletizing Before Torrefaction:以下PBTと記載することがある)について、FT-IR分析、GC-MS分析、SEMによる観察等を行い、バイオマス固体燃料の耐水性のメカニズムについて解析を行った。なおWP、PBTいずれにおいてもバインダーは使用されない。
【0160】
まず、各固体燃料のアセトン抽出物についてFT-IRにより分析したところ、加熱工程を経て得られるPBTは、未加熱のWPに比べて親水性のCOOH基の含有量は少ないが、C=C結合の含有量が多いことから、加熱によりバイオマスを構成する成分の化学構造が変化して疎水性になっているが示唆された。
【0161】
さらに、各固体燃料のアセトン抽出成分についてGC-MS分析を行ったところ、アビエチン酸とその誘導体(以下、「アビエチン酸等」とも呼ぶ)等のテルペン類が加熱により熱分解することが、バイオマス固体燃料の耐水性に関与していることが示唆された。アビエチン酸等は、マツ等に含まれるロジンの主成分である。
【0162】
図18はPBTにおける固架橋発達のメカニズム(推定)を示す図である。PBTの場合は、成型工程後の加熱工程において、温度上昇にしたがいアビエチン酸の溶融による液が粉砕されたバイオマス(以下バイオマス粉と記載することがある)同士の間隙(粉砕後成型により圧密され、隣接するバイオマス粉の間隙)に溶出し、さらにアビエチン酸の蒸発と熱分解がおこり、疎水物が上記バイオマス粉同士の間隙に固着して架橋(固架橋)が発達する。これにより、バインダーを添加することなく、原料であるバイオマス由来のアビエチン酸等によりバイオマス粉同士の接続または接着が維持される。よってバイオマス粉同士が接続または接着されて水の進入を抑制し、耐水性が向上すると考えられる。
【0163】
一方、WPの場合は単にバイオマス粉を成型したに留まるのみで加熱を行わないため、上記PBTのようにバイオマス粉同士の固架橋が存在しない。WPを構成する生のバイオマス粉の表面には上述のとおり親水性のCOOH基等が多く存在するため水の浸入が容易であり、侵入した水がバイオマス粉同士の間隙を大きく広げ、成型したペレット等が崩壊しやすくなってしまう。
【0164】
また、バイオマス粉を加熱した後に成型した固体燃料(Pelletizing After Torrefaction:以下PATと記載することがある)の場合、加熱により個々のバイオマス粉そのものはアビエチン酸等の溶出により表面が疎水性になるが、あくまでも加熱により疎水性になった後に粉砕して成型を行うため、PBTのようにバイオマス粉同士の架橋は形成されないと考えられる。したがって成型前に加熱を行うPATでは、圧密されたバイオマス粉同士の間隙に容易に水が浸入し、PBTに比べて耐水性が劣るものと推察される。
【0165】
アビエチン酸またはその誘導体の融点は約139~142℃であり、沸点は約250℃である。よって、加熱により融点付近でアビエチン酸等が溶融して液架橋がおこり、沸点付近でアビエチン酸等が熱分解して固架橋が発達するものと推察される。
【0166】
なおアビエチン酸を始めとするテルペン類はバイオマス一般に含まれている(北海道立林産試験場月報 171号 1966年4月、公益社団法人日本木材保存協会「木材保存」Vol.34‐2(2008)等)。バイオマスの種類によって若干含有量に差はあるものの(『精油の利用』大平辰朗 日本木材学会第6期研究分科会報告書p72 第1表日本木材学会1999 年 等)、下記<例A>~<例I>ではいずれも230℃以上の加熱により耐水性(水中浸漬後でも崩壊しない、表6参照)の発現がみられるため、バイオマス一般について少なくとも230℃以上~250℃以上の加熱により耐水性が付与されるものと考えられる。
【0167】
図19図22はバイオマス固体燃料のFT-IR分析の結果を示す図である。原料は下記例Bの欧州アカマツであって、粉砕後ペレット状に成型したものを250℃で加熱した固体燃料(PBT)を分析したものである。また同じ原料を粉砕し、成型後未加熱のもの(WP)についても併せて示す。ペレットの外表面(図19)、断面中心(図20)いずれにおいてもCOOH基の量はWP>PBTであり、C=C結合の量はPBT>WPである。またアセトン抽出液(図21)へのCOOH基溶出量はWP>PBTであり、PBTは親水性のCOOH基が少ないことが示される。さらにアセトン抽出後の固体(図22)ではPBTのほうがWPよりもC=C結合が多い。したがってPBTのほうが耐水性に優れることが分かる。
【0168】
図23はアセトン抽出液のGC-MS分析の結果を示す図である。原料は上記図19図22と同様に例Bの欧州アカマツであって、粉砕後ペレット状に成型したものを250℃で加熱した固体燃料(PBT)、および未加熱のもの(WP)を用いた。図23に記載のとおりPBTにおいてはテルペン類の一種であるアビエチン酸等のアセトンへの溶出量がWPよりも少なく、加熱によりアビエチン酸が溶融して液架橋を形成した後、アビエチン酸等の揮発によって固架橋が形成されたことを示すと考えられる。
【0169】
またPBTでは固架橋の発達により固体燃料の強度が向上し、耐水性同様に少なくとも230℃以上~250℃以上の加熱によって、バインダーを添加することなく良好な粉砕性(後述のHGI、粉砕速度)及び良好なハンドリング性(後述の粉化試験)が得られると推察される。さらにPBTでは前述のとおりCODが低減されるが、これは加熱によってバイオマス原料のタール分が揮発すると同時に、PBTの固体燃料表面が固化したアビエチン酸等によって被覆され、さらに固体燃料表面が疎水性となってバイオマス原料内に残存するタール分の溶出が抑制されるためと考えられる。
【実施例
【0170】
<例A>
(例A-1~A-6)
バイオマスを破砕後粉砕し、粉砕されたバイオマスを成型する成型工程およびその後の加熱工程を経てバイオマス固体燃料A(PBT)を得た。いずれの工程においてもバインダーは使用されない。原料のバイオマスとして、米松40重量%、米栂58重量%、杉1重量%、桧1重量%の混合物を用いた。各例の成型工程においては、直径8mmのペレット形状に成型した。各実施例における加熱工程ではφ600mm電気式バッチ炉にそれぞれの原料を4kg投入し、2℃/minの昇温速度で各実施例における目標温度(表1における加熱温度)まで昇温させ、加熱した。以下、目標温度と加熱温度は同一のものを指す。各例A-1~A-6いずれにおいても目標温度(加熱温度)における保持は行っていない(以下の例B~例Kも同様)。例A-1~A-6の加熱工程における加熱温度と、加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料Aの性状を表1に示す。
【0171】
(比較例A)
比較例Aは破砕、粉砕後に成型したのみで加熱工程を経ていない、未加熱のバイオマス固体燃料(WP)である。比較例Aについてもバインダーは不使用である。原料のバイオマスは、例A-1と同様である。比較例Aの固体燃料の性状についても表1に示す。
【0172】
表1において、上記のとおりHGIはJIS M 8801に基づくものであり、高いほど粉砕性が良好であることを示す。また、表1には高位発熱量(無水ベース)、工業分析値(気乾ベース)に基づき算出された燃料比、および元素分析値(気乾ベース)の結果とこれに基づき得られた酸素O、炭素C、水素Hのモル比をそれぞれ示す。
【0173】
【表1】
【0174】
上記実施例および比較例で得られた各バイオマス固体燃料について、さらに下記の分析を行った。
【0175】
[COD]
図1は加熱工程における加熱温度と、得られたバイオマス固体燃料を水中に浸漬した際の浸漬水のCOD(化学的酸素要求量)およびpHの相関を示すものである(pHについては後述)。COD測定用浸漬水試料の調製は、昭和48年環境庁告示第13号(イ)産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法に従い、CODはJIS K0102(2010)-17によって分析した。
【0176】
図1から、比較例A(WP:成型したのみで加熱工程を経ていないバイオマス固体燃料)のCODは約1200ppmと高い値となっている。これに対し、230℃以上で加熱されたバイオマス固体燃料はCODが800ppm以下となり、タール分の溶出が低いことが示された。したがって、例A-1~A-6のバイオマス固体燃料は、屋外貯蔵時においてもタール分の溶出が少なくハンドリング性に優れた燃料であることが示されている。なお、230℃以上で加熱された例A-1~A-6のバイオマス固体燃料のCODは加熱温度が高くなるにつれて減少しているが、これは加熱に伴うタール分等の揮発によってCOD値が減少することを示すと推察されるため、加熱温度が230℃未満の場合、すなわち加熱温度が150℃以上230℃未満であっても比較例Aと比べて低いCOD値となることが推測される。
【0177】
[pH]
例A-1~A-6および比較例Aの固体燃料を固液比1:3で浸漬し、pHを測定した。図1から、例A-2および例A-3については若干値が低くなるものの、全ての例A-1~A-6において概ねpHは6前後であり、加熱前の比較例Aと比べて特に変化はないことが示される。したがって、例A-1~A-6を屋外貯蔵した際に出る排水のpHについては特に問題ないことが示される。
【0178】
[粉砕性]
図2は加熱工程における加熱温度と、得られたバイオマス固体燃料Aの粉砕性(HGI)、および粉砕速度(後述)の相関を、比較例Aおよび例A-1~A-6のバイオマス固体燃料について示す図である。
【0179】
表1および図2から明らかなとおり、例A-1~A-6では加熱により性状が変化し、比較例A(WP:成型後、未加熱のバイオマス固体燃料)よりもHGI(JIS M 8801に基づく)の値が上昇している。一般的な石炭(瀝青炭)のHGIは50前後であり、例A-1~A-6の粉砕特性は、比較例Aよりも石炭に近接した良好なものといえる。
【0180】
また図2における粉砕速度とは、700ccの試料をボールミルで粉砕後に150μm篩を通過したものを粉砕後の試料として重量を測定することで、単位時間当たりの粉砕重量(g/min)を測定したものである。なお、ボールミルはJIS M4002に準拠したものを用い、内径305mm×軸方向長さ305mmの円筒容器にJIS B1501に規定された並級ボールベアリング(Φ36.5mm×43個、Φ30.2mm×67個、Φ24.4mm×10個、Φ19.1mm×71個、Φ15.9mm×94個)を入れて70rpmの速度で回転させて測定した。加熱により粉砕速度が向上し、特に230℃以上での加熱により粉砕速度が急上昇している。加熱に伴うタール等有機成分の溶出・固化により、バイオマス固体燃料Aの粉砕性が上昇し、粉砕速度が向上したものと言える。したがって、加熱工程における加熱温度が150℃以上230℃未満であっても、未加熱の比較例Aと比べてHGIおよび粉砕速度が向上するものと推察される。
【0181】
[粉化試験]
表2は粉化試験を行ったバイオマス固体燃料Aの篩下積算割合、図3はその粒度分布図である。ペレットのハンドリング特性を評価するために、粉化試験を実施した。サンプル1kgを8.6mの高さから樹脂製の袋に入れて20回落下させた後、JIS Z 8841に基づき回転強度試験を行い、粒度分布を測定した。得られた粒度分布を図3に示す。サンプル粒度分布における2mm篩下品が30wt%以下、および0.5mm篩下品が15wt%以下であれば搬送、貯蔵等におけるハンドリングが可能な粒度であるとみなすものとする。表2および図3より、回転強度試験後のサンプル粒度は固体温度が高くなるにつれて細かくなったが、いずれのサンプルにおいても上述の評価基準をクリアしており、問題無くハンドリング可能であることが示唆された。
【0182】
【表2】
【0183】
[水中浸漬]
表3および図4はバイオマス固体燃料Aの水中浸漬試験結果である。各実施例および比較例の固体燃料を水中に浸し、表3および図4に示す所定時間経過後に取り出して水分を拭き取って固体水分を測定した。比較例A(WP)の固体燃料は水中浸漬によって崩壊し、固体水分の測定は不可能であった。これに対し、例A-1の固体燃料では浸漬後約10時間で水分量が平衡に達し、平衡水分量は約27wt%であった。また、例A-2の固体燃料では約100時間経過後に水分量が平衡に達し、平衡水分は約25wt%であった。例A-3~A-5についても約100時間後に水分量約23wt%で平衡となった。例A-6も約100時間経過後にほぼ平衡に達し、平衡水分量は約28wt%であった(例A-3~A-5よりも振れが大きいが、原料のばらつきによるものと考えられる)。これらの結果は、加熱に伴うタール等有機成分の溶出・固化により、バイオマス固体燃料の表面が疎水性に変化したためと考えられ、例A-1~A-6(PBT)は屋外貯蔵されることが多い固体燃料として有利な特性を示している。
【0184】
【表3】
【0185】
[水中浸漬前後の固体強度]
(回転強度)
図5は例A-1~A-6および比較例Aについて、水中浸漬前後の固体強度(JIS Z 8841 回転強度試験方法 に基づく)を測定した結果である。上述のとおり比較例A(WP)については水中浸漬後崩壊したため、浸漬後の回転強度は測定不可能であった。例A-1~A-6(PBT)については、平衡水分に達した固体燃料の表面水分を拭き取った後、恒温乾燥機にて35℃で22時間乾燥させたものを使用した。加熱工程を経た例A-1~A-6(PBT)の強度はほとんど低下しておらず、水中浸漬前の比較例A(WP)と比べても粉化が発生しにくく、ハンドリング性を維持できるものと言える。
【0186】
(機械的耐久性)
図6は水中浸漬前後の機械的耐久性を測定した結果を示す図である。例A-1~A-6、比較例Aの固体燃料について、アメリカ農業工業者規格ASAE S 269.4、およびドイツ工業規格DIN EN 15210-1に準拠して機械的耐久性DUを以下の式に基づいて測定した。式中、m0は回転処理前の試料重量、m1は回転処理後の篩上試料重量であり、篩は円孔径3.15mmの板ふるいを用いた。
【0187】
DU=(m1/m0)×100
回転強度と同様、機械的耐久性についても加熱工程を経た例A-1~A-6(PBT)の強度はほとんど低下しておらず、水中浸漬前の比較例A(WP)と比べても粉化が発生しにくく、ハンドリング性を維持できることが示されている。
【0188】
[自然発火性]
「国連試験および判定基準マニュアル:危険物船舶運送及び貯蔵規則16訂版」の「自然発火性試験」に基づき評価を行った。例A-2のバイオマス固体燃料(加熱温度250℃)1~2cmを1mの高さから無機質断熱板上に落下させ、落下途中又は落下後5分以内に発火するか否かの測定を6回行った。6回の試験いずれも発火せず、例A-2(PBT)は上記国連試験および判定基準マニュアルの容器等級Iに該当しないと判定された。
【0189】
[自己発熱性]
自然発火性と同様、「危険物船舶運送及び貯蔵規則16訂版」の「自己発火性試験」に基づき評価を行った。試料容器(一辺が10cmのステンレス網立方体)に例A-2のバイオマス固体燃料(加熱温度250℃)を充填し、恒温槽内部に吊り下げ、140℃の温度で24時間連続して物質の温度を測定した。発火又は200℃を超える温度上昇の認められた物質は、自己発熱性物質と認め、更に一辺が2.5cmの試料容器を使用し同様の試験を行い、発火又は60℃を超える温度上昇の有無を確認した。試験結果に基づき、例A-2(PBT)は自己発熱性物質に該当しないと判定された。
【0190】
[細孔径分布]
(BET比表面積)
図7は固体燃料AのBET比表面積の測定結果を示す図である。例A-1~A-6および比較例Aの固体燃料につき、自動比表面積/細孔径分布測定装置(日本ベル(株)製BELSORP-min II)を用い、前処理として試料を2~6mmにカットして容器内に充填した後に、100℃で2時間真空脱気してBET比表面積を求めた。なお吸着ガスには窒素ガスを用いた。図7から、加熱温度の上昇に伴ってBET比表面積は増加しており、加熱(熱分解)にともなって細孔が発達していくことが示される。
【0191】
(平均細孔直径、全細孔容積)
図8は固体燃料A表面の平均細孔直径、図9は全細孔容積を示す図である。平均細孔直径、全細孔容積いずれもBET比表面積と同じ装置を用いて測定した。なお、ここでいう「細孔」とは直径2nm~100nmの孔とする。平均細孔直径は例A-2以降で加熱温度の上昇にともなって減少していることから、細かな細孔が多数生成していくことを示している。これはセルロースの分解に起因すると考えられる。
【0192】
[収率]
図10は加熱工程を経た後のバイオマス固体燃料Aの収率(固体収率および熱収率)である。固体収率は加熱前後の重量比、熱収率は加熱前後の発熱量比である。なお上述のとおり各実施例の目標温度(加熱温度)における保持は行っていない(以下の例B~例Kも同様)。
【0193】
以上の例A-1~A-6の結果から、本発明によるとCODの低減、粉砕性向上、吸水低減、固体強度向上、収率向上を図ったバイオマス固体燃料A(PBT)を、低コストで得られることが示された。
【0194】
[自然発熱性]
例A-2の固体燃料につき以下の方法で自然発熱性を測定した。試料1kgを容器に装入し、80℃の恒温槽中に反応器を入れて、試料に空気を流して得られたガスのO2、CO、CO2濃度を測定した。加熱前後の濃度から試料の加熱に基づくO2吸着量、CO発生量、CO2発生量を計算し、以下の式(1)に基づき自然発熱性指数(SCI)を算出する。
【0195】
自然発熱性指数(SCI)
= {O2吸着量*O2吸着熱*(1/100)}+{CO発生量*(CO生成熱+(1/2)*H2O生成熱*H/C)*(1/100)}
+{CO2発生量*(CO2生成熱+ (1/2)*H2O生成熱*H/C)*(1/100)} ・・・式(1)
【0196】
なお、例A-2の固体燃料における吸着量、発生量、H/Cは以下のとおりである。
【0197】
O2吸着量 0.42[ml/kg・min]
CO発生量 0.03[ml/kg・min]
CO2発生量 0.02[ml/kg・min]
H/C(例A-2の固体燃料における水素、炭素のモル比) 1.28[mol/mol](表1参照)
また、式(1)で用いた吸着熱、各生成熱は以下のとおりである。
【0198】
O2吸着熱 253[kJ/mol](石炭へのO2吸着熱と同一値)
CO生成熱 110.5[kJ/mol]
H2O生成熱 285.83[kJ/mol]
CO2生成熱 393.5[kJ/mol]
以上に基づき例A-2にかかる固体燃料のSCIを算出したところ、SCI=1.3であった。なお、バイオマス固体燃料Aは石炭に性状が近接していることから、O2吸着熱は石炭への吸着熱と同一のものを用いた。
【0199】
例A-2におけるSCIの算出と同様の方法を用い、例A-1~A-3、A-6および粉化試験(表2、図3参照)後の例A-2についてもSCIを算出した。算出結果を図11に示す。比較のため、図11では表4の瀝青炭のSCIについても示す。なお図11の横軸は到着ベースの水分であり、図11の瀝青炭のSCIは表4に示す瀝青炭に水分を加えてそれぞれ異なる水分を有する4種のサンプルを用意し、この4種のサンプルについてSCIを算出したものである。
【0200】
式(1)に示すとおりSCIの値が低いほど自然発熱性も低いといえるため、例A-1~A-3、A-6、および粉化試験後の例A-2(表2および図3参照)と瀝青炭を比較した場合、水分量が同程度であれば、本発明バイオマス固体燃料(PBT)はいずれも瀝青炭よりもSCI(自然発熱性)が低くなり、高水分の瀝青炭と同程度のSCI(自然発熱性)となった。これによりバイオマス固体燃料A(PBT)は、ハンドリング時における発火のおそれが低減された良好な燃料といえる。
【0201】
【表4】
【0202】
[表面写真]
図12図14は例A-2における水中浸漬前後の固体燃料(PBT)の断面SEM写真である。図12は浸漬前、図13は2秒浸漬後、図14は20秒浸漬後である。同様に図15図17は比較例A(WP)における水中浸漬前後の断面SEM写真であり、図15は浸漬前、図16は2秒浸漬後、図17は20秒浸漬後である。なお例A-2、比較例Aいずれも、浸漬後の断面とは2秒または20秒浸漬後の固体燃料を切断した断面のことである。また、各写真下に倍率およびスケールを示す。
【0203】
水中浸漬前後の写真を比較すると、比較例A(図15図17)では水中浸漬後に細孔が拡大している。これは上述のとおり比較例A(WP)が粉砕されたバイオマスの成型体であるため、浸水によりバイオマスが吸水して細孔(バイオマス粉同士の間隙)が拡大したものと推察される。よって、拡大した細孔に更に水分が浸入することで粉砕されたバイオマス同士が離間し、固体燃料自身が崩壊するものと考えられる(図4参照)。
【0204】
これに対し例A-2(図12図14)の固体燃料表面は水中浸漬後においても細孔があまり拡大しておらず、浸漬による変化が少ない。例A-2では加熱によってバイオマス粉同士に固架橋が発達し、疎水性が向上して吸水しづらくなっており、浸漬による変化が少ないものと推察される。したがって浸漬後であっても固架橋による粉砕されたバイオマス同士の接続または接着が維持されるため、比較例Aのように崩壊することが少ない。よって、加熱を行った例A-1~A-6(PBT)の固体燃料においては、図4で示されるように、雨水等による崩壊が抑制され屋外貯蔵時のハンドリング性が確保されたバイオマス固体燃料が得られている。
【0205】
<例B>
例B-1~例B-4(PBT)においては、原料のバイオマスとして欧州アカマツを用いた以外は、例Aと同様にして目標温度(表5に記載の加熱温度)まで昇温させ、加熱した。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料B(例B-1~例B-4)の性状を表5及び表6に示す。比較例B(WP)についても同様に示した。なお例Aと同様、例B-1~例B-4、比較例Bいずれもバインダーは不使用である。水中浸漬後の水分は100時間以上浸漬後のものであるため(例Bでは168時間)、実質的に固体燃料B内の水分は平衡に達していると看做す。バイオマス固体燃料の各性状の測定方法は、上記例Aと同様である。なお、表6に記載のボールミル粉砕性は、下記のように測定した。
【0206】
[ボールミル粉砕性]
各バイオマス固体燃料Bの粉砕時間を20分として、20分後の150μm篩下の重量比を粉砕ポイントとした。なお、ボールミルはJIS M4002に準拠したものを用い、内径305mm×軸方向長さ305mmの円筒容器にJIS B1501に規定された並級ボールベアリング(Φ36.5mm×43個、Φ30.2mm×67個、Φ24.4mm×10個、Φ19.1mm×71個、Φ15.9mm×94個)を入れて70rpmの速度で回転させて測定した。数値が高い方が粉砕性は向上していることを示す。加熱温度の上昇にともない、粉砕ポイントは上昇することを確認した。
【0207】
比較例Bは水中浸漬後直ちに崩壊した。これに対し例B-1、例B-3及びB-4については、いずれも水中浸漬後(168時間)であってもバイオマス粉同士の接続または接着が維持され、崩壊することがなかった。これにより浸漬後も固体形状が維持されため水分測定が可能であり、耐水性の発現が確認できた。また比較例Bと比べて粉砕性が向上し、CODも低減されている。耐水性(浸漬後水分)の観点から例B-3が特に優れており、収率の観点から例B-2、例B-3のバイオマス固体燃料が特に優れた物性を示している。
【0208】
また、例B-2についても、固架橋の発達に基づき優れた耐水性及び粉砕性を有し、かつCODが低減された燃料であることが推定される。
【0209】
<例C>
原料のバイオマスとして、アーモンド古木を用いた以外は、例Aと同様にして目標温度(表5に記載の加熱温度)まで昇温させ、加熱した(例C-1~例C-4:PBT)。ボールミル粉砕性については上記例Bと同様の方法で測定した。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料Cの性状を表5及び表6に示す。例Bと同様、水中浸漬後の水分は100時間以上の浸漬後(例Cでは168時間)であるため平衡しているものと看做す。比較例C(WP)についても同様に示した。なお例C-1~例C-4、比較例Cいずれもバインダーは不使用である。
【0210】
比較例Cは水中浸漬後直ちに崩壊した。これに対し例C-1~例C-4はいずれも水中浸漬後もバイオマス粉同士の接続または接着が維持され崩壊することがなく、耐水性が向上している。また粉砕性の向上、およびCODの低減等が示される。CODおよび耐水性(浸漬後水分)の観点からは例C-2、例C-3、例C-4が優れ、熱収率の観点からは例C-1、例C-2、例C-3が優れている。なお例C-1のHGIは比較例Cと比べて低下しているが、これは原料のばらつきや測定誤差によるものと考えられ、少なくとも比較例Cと同等以上のHGIがあるものと推定される。
【0211】
<例D>
原料のバイオマスとして、(30wt%アーモンド殻+70wt%アーモンド古木)を用いた以外は、例Aと同様にして目標温度(表5に記載の加熱温度)まで昇温させ、加熱した(例D-1~例D-4:PBT)。ボールミル粉砕性については上記例Bと同様の方法で測定した。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料Dの性状を表5及び表6に示す。水中浸漬後の水分は100時間以上の浸漬後(例Dでは168時間)であり、平衡しているものと看做す。また比較例D(WP)についても同様に示した。なお例D-1~例D-4、比較例Dいずれもバインダーは不使用である。
【0212】
比較例Dは水中浸漬後直ちに崩壊した。これに対し例D-1~例D-4例はいずれも水中浸漬後であってもバイオマス粉同士の接続または接着が維持されるため崩壊することがなく、耐水性が向上している。また粉砕性の向上、およびCODの低減等が示される。CODの観点からは例D-2、例D-3、例D-4が優れており、熱収率の観点からは例D-1、例D-2、例D-3が特に優れた物性を示した。
【0213】
<例E>
原料のバイオマスとしてアカシア木部を用い、バイオマスをタブレット形状に成型し、加熱装置としてφ70mmの管状炉を用いた以外は、例Aと同様にして目標温度(表5に記載の加熱温度)まで昇温させ、加熱した(例E-1~例E-3:PBT)。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料Eの性状を表5及び表6に示す。水中浸漬後の水分は100時間以上の浸漬後(例Eでは168時間)であり、平衡しているものと看做す。また比較例E(WP)についても同様に示す。なお例E-1~例E-3、比較例Eいずれもバインダーは不使用である。例EにおいてpHの測定は、固体燃料を固液比1:13で浸漬して測定した。ここで、表6における比較例Eの浸漬時間はpHを測定した時間、すなわち比較例Eを浸漬して96時間経過後のpHを測定したことを示す。
【0214】
比較例Eは水中浸漬後直ちに崩壊したが、例E-1~例E-3はバイオマス粉同士の接続または接着が維持され、崩壊することなく耐水性を示した。耐水性(水中浸漬後水分)の観点からは例E-2,例E-3が優れ、熱収率の観点からは例E-1、例E-2が優れている。なお例Eにおいては240~270℃で加熱したPBTについても上述の固架橋が形成されていると推定され、耐水性、COD、粉砕性等が優れていると考えられる。また例E-1の熱収率が100%を超えているが、原料のばらつきや測定誤差によるものである。
【0215】
<例F>
原料のバイオマスとしてアカシアバークを用いた以外は、例Eと同様にして目標温度(表5に記載の加熱温度)まで昇温させ、加熱した(例F-1~例F-4:PBT)。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料Fの性状を表5及び表6に示す。水中浸漬後の水分は100時間以上の浸漬後(例Fでは168時間以上)であり、平衡しているものと看做す。また比較例F(WP)についても同様に示す。なお例F-1~例F-4、比較例Fいずれもバインダーは不使用である。例FにおいてpHの測定は、固体燃料を固液比1:13で浸漬して測定した。ここで、表6における比較例Fの浸漬時間はpHを測定した時間、すなわち比較例Fを浸漬して96時間経過後のpHを測定したことを示す。
【0216】
比較例Fは水中浸漬後1時間で崩壊したが、例F-1~例F-4はバイオマス粉同士の接続または接着が維持され、崩壊することなく耐水性を示した。CODおよび耐水性(水中浸漬後水分)の観点からは例F-2,例F-3、例F-4が優れ、熱収率の観点からは例F-1、例F-2、例F-3が優れている。
【0217】
<例G>
原料のバイオマスとして(70wt%アーモンド殻+30wt%胡桃殻)を用い、加熱装置としてφ70mmの管状炉を用いた以外は、例Aと同様にして目標温度(表5に記載の加熱温度)まで昇温させ、加熱した(例G-1~例G-4:PBT)。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料Gの性状を表5及び表6に示す。水中浸漬後の水分は100時間以上の浸漬後(例Gでは144時間以上)であり、平衡しているものと看做す。比較例G(WP)についても同様に示す。なお例G-1~例G-4、比較例Gいずれもバインダーは不使用である。
【0218】
比較例Gは水中浸漬後直ちに崩壊したが、例G-1~例G-4はバイオマス粉同士の接続または接着が維持され、崩壊することなく耐水性を示した。CODおよび耐水性(水中浸漬後水分)の観点からは例G-2,例G-3、例G-4が優れ、熱収率の観点からは例G-1、例G-2、例G-3が優れている。なお例G-2の熱収率が100%を超えているが、原料のばらつきや測定誤差によるものである。
【0219】
<例H>
原料のバイオマスとしてサゴヤシを用いた以外は、例Aと同様にして目標温度(表5に記載の加熱温度)まで昇温させ、加熱した(例H-1~例H-4:PBT)。ボールミル粉砕性については上記例Bと同様の方法で測定した。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料Hの性状を表5及び表6に示す。水中浸漬後の水分は100時間以上の浸漬後(例Hでは168時間)であり、平衡しているものと看做す。比較例H(WP)についても同様に示す。なお例H-1~例H-4、比較例Hいずれもバインダーは不使用である。表6における比較例Hの浸漬時間はpHを測定した時間、すなわち比較例Hを浸漬して24時間経過後のpHを測定したことを示す。
【0220】
比較例Hは水中浸漬後3時間で崩壊したが、例H-1~例H-4はバイオマス粉同士の接続または接着が維持され、崩壊することなく耐水性を示した。COD、pH(やや低い)および耐水性(水中浸漬後水分)の観点からは例H-2,例H-3、例H-4が優れ、熱収率の観点からは例H-1、例H-2、例H-3が優れている。
【0221】
<例I>
原料のバイオマスとしてEFB(パーム油加工残渣の空果房)を用いた以外は、例Aと同様にして目標温度(表5に記載の加熱温度)まで昇温させ、加熱した(例I-1~例I-4:PBT)。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料Iの性状を表5及び表6に示す。水中浸漬後の水分は100時間以上の浸漬後(例Iでは168時間)であり、平衡しているものと看做す。比較例I(WP)についても同様に示す。なお例I-1~例I-4、比較例Iいずれもバインダーは不使用である。
【0222】
なお、270℃で加熱した例I-3、300℃で加熱した例I-4についての水中浸漬前後の機械的耐久性については、以下の方法により測定した。試料50gを1,000ccのポリプロピレン製容器に充填し、MISUGI製まぜまぜマンSKH-15DTにて、60rpmで30分(計1,800回転)回転させる。回転後のサンプルを円孔径3.15mm篩にて篩分けし、下式:
DU=(m1/m0)×100
により機械的耐久性(DU)を算出した。式中、m0は回転処理前の試料重量、m1は回転処理後の篩上試料重量である。
【0223】
比較例Iは水中浸漬後直ちに崩壊したが、例I-1~例I-4はバイオマス粉同士の接続または接着が維持され、崩壊することなく耐水性を示した。CODおよび耐水性(水中浸漬後水分)の観点からは例I-2,例I-3、例I-4が優れ、熱収率の観点からは例I-1、例I-2、例I-3が優れている。
【0224】
<例J>
原料のバイオマスとしてメランティを用いた以外は、例Aと同様にして目標温度(表5に記載の加熱温度)まで昇温させ、加熱した(例J-1、例J-2:PBT)。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料Jの性状を表5及び表6に示す。水中浸漬後の水分は100時間以上の浸漬後(例Jでは168時間)であり、平衡しているものと看做す。比較例J(WP)についても同様に示す。なお例J-1、例J-2、および比較例Jいずれもバインダーは不使用である。
【0225】
比較例Jは水中浸漬後直ちに崩壊したが、例J-1、例J-2はバイオマス粉同士の接続または接着が維持され、崩壊することなく耐水性を示した。CODについても優れた結果を示した。
【0226】
<例K>
原料のバイオマスとしてゴムの木を用い、加熱装置としてφ70mmの管状炉を用いた以外は、例Aと同様にして目標温度(表5に記載の加熱温度)まで昇温させ、加熱した(例K-1)。加熱工程後に得られたバイオマス固体燃料Kの性状を表5に示す。比較例K(WP)についても同様に示す。いずれもバインダーは不使用である。
【0227】
比較例Kについても、他の例と同様に水中浸漬により崩壊することが予想される。一方、例K-1については、上記固架橋の形成により水中浸漬によっても崩壊することなく、耐水性、粉砕性の向上およびCODの低減等が見込まれる。例K-1は270℃で加熱しているが、上記同様に230~270℃の加熱温度についても同様の効果が推定される。
【0228】
【表5】
【0229】
【表6】
【0230】
<吸水分布>
PATとPBTの耐水性を比較するため、これらバイオマス固体燃料について、食塩水を用いて、吸水後のナトリウムの分布を調べた。PATの試料としては、原料の欧州アカマツを250℃で加熱した後直径6mmのペレットに成型した固体燃料を用いた。PBTの試料としては、原料の欧州アカマツを直径6mmのペレットに成型した後250℃で加熱した固体燃料(固体燃料B)を用いた。PBTとPATを0.9wt%の生理食塩水に5日間浸漬した。その結果、ペレット外観は図24に示したとおり、PBTはペレット形状を保持した(図24の左)が、PATは大きく崩壊した(図24の右)。また、PATおよびPBTを、それぞれ、生理食塩水に浸漬する前と0.9wt%の生理食塩水に5日間浸漬後について、その断面をEPMA(Electron Probe MicroAnalyser)分析にかけ、Na分布を比較した。Na分布は、PBTはペレット表面にとどまり内部に浸透していないのに対し、PATでは内部にまで広く分布していた(図25参照)。これはPBTの方がPATより生理食塩水の浸入が少ないことを意味する。この結果からも、PBTは隣接するバイオマス粉同士の間隙を抽出成分の熱分解物が固架橋し、疎水性になったために水の侵入を防いでいるのに対し、PATでは、バイオマス粉同士の間隙に水が浸入できるため水がペレット内部にまで浸透し、バイオマス粉同士の間隙を押し広げた結果、崩壊に至ったと推察される。
【0231】
[水中浸漬前後の膨張率]
例A-1、A-3の固体燃料につき水中浸漬前後のペレット長さを測定した。ペレット長さについては、浸漬前のペレットを10個選択し、電子ノギス(ミツトヨ製:CD-15CX、繰り返し精度は0.01mmであり小数点2桁の部分を四捨五入した。)により測定するとともに、同じペレットを72時間水中浸漬させた後、再度電子ノギスにより長さを測定した。なお浸漬前後いずれにおいてもペレット端が斜めの場合は最も先端部分までを長さとして計測した。計測結果を表7に示す。表7に示すとおり、例A-1のペレット長さは平均で4.6%、例A-3は平均で0.2%増加した。
【0232】
【表7】
※表7では、同一のサンプルが同一の行に対応していない。
【0233】
また、例A-1~例A-6の固体燃料につき、表7の測定と同様の電子ノギスおよび測定方法により浸漬前後のペレット径を測定した。測定結果を表8に示す。なおペレット径の測定値は、各例A-1~例A-6において無作為に選択した10個の平均値である。
【0234】
【表8】
【0235】
表7、表8から、加熱工程の温度が高くなるほど膨張率が低くなることが示された。加熱に伴う固架橋形成により膨張が抑制されるものと推定される。表7の長さ膨張率よりも表8の径膨張率が高くなっているが、これは表7のほうが浸漬時間が長いこと、また例Aがペレットであるため主として径方向に圧密されており、そのため膨張も径方向が大きくなるためと考えられる。なお表8においては径膨張率が最大の例A-1においても10%以下の膨張率に留まっている。例Aにおいては径および長さ膨張率が10%以下が好ましく、7%以下がより好ましい。体積膨張率は133%以下が好ましく、123%以下がより好ましい。
【0236】
上記表7、表8においては例Aの膨張率を示したが、表6に基づき例B~例Jの膨張率を算出する。例Aと同様に下記式(2)を用いて膨張率を算出した。
【0237】
膨張率={(浸漬後の値-浸漬前の値)/浸漬前の値}×100・・・(2)
【0238】
例Bはペレットであり、式(2)に基づき浸漬前のペレット径(表6における初期寸法)と浸漬後のペレット径(表6における浸漬後の寸法)を用いて算出された径膨張率は15%以下であった(以下例B以降も径膨張率は式(2)を用いる)。例Aと同様にペレットにおいては長さ膨張率<径膨張率と推定されるため、例Bにおける長さ膨張率も最大15%以下と仮定して体積膨張率を算出すると152%以下(浸漬前の体積100%に対する浸漬後の体積。以下例C以降も同様)である。例Bにおいては径膨張率が20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。体積膨張率は173%以下が好ましく、133%以下がより好ましい。
【0239】
例Cもペレットであり、浸漬前後の径膨張率は7.2%以下、長さ膨張率も最大7.2%と仮定して体積膨張率は123%以下である(以下ペレットの例についても同様に体積膨張率を算出する)。例Cにおける径膨張率は13%以下が好ましく、7%以下がより好ましい。体積膨張率は144%以下が好ましく、123%以下がより好ましい。
【0240】
例D(ペレット)については浸漬前後の径膨張率は8.8%以下、それに基づく体積膨張率は129%以下である。例Dにおける径膨張率は10%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。体積膨張率は133%以下が好ましく、126%以下がより好ましい。
【0241】
例Eはタブレット形状であり、径(φ)膨張率は2.5%以下、高さ(H)膨張率は40%以下、体積膨張率は147%以下である。径膨張率は5%以下が好ましく、2.3%以下がより好ましい。高さ膨張率は50%以下が好ましく、20%以下がより好ましい。体積膨張率は165%以下が好ましく、126%以下がより好ましい。
【0242】
例F(タブレット)については径膨張率が4.0%以下、高さ膨張率は15%以下、体積膨張率が124%以下である。なお例F-3の浸漬後高さは測定誤差または個体ばらつきと考えられる。径膨張率は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。高さ膨張率は40%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。体積膨張率は154%以下が好ましく、117%以下がより好ましい。
【0243】
例G(ペレット)については浸漬前後の径膨張率は8.8%以下、それに基づく体積膨張率は129%以下である。径膨張率は10%以下が好ましく、8%以下がより好ましい。体積膨張率は133%以下が好ましく、126%以下がより好ましい。
【0244】
例H(ペレット)については浸漬前後の径膨張率は6.9%以下、それに基づく体積膨張率は122%以下である。径膨張率は10%以下が好ましく、7%以下がより好ましい。体積膨張率は133%以下が好ましく、123%以下がより好ましい。
【0245】
例I(ペレット)については浸漬前後の径膨張率は4.1%以下、それに基づく体積膨張率は113%以下である。径膨張率は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。体積膨張率は133%以下が好ましく、116%以下がより好ましい。
【0246】
例J(ペレット)については浸漬前後の径膨張率は5.4%以下、それに基づく体積膨張率は117%以下である。径膨張率は20%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。体積膨張率は173%以下が好ましく、133%以下がより好ましい。
【0247】
以上のとおり、バイオマスを原料とする本発明の固体燃料(PBT)は、浸漬前後の長さ(径、高さを含む)はいずれも40%以下の膨張率であることが好ましく、体積膨張率は約275%以下であることが好ましい。径、長さの膨張率が30%以下、体積膨張率は約220%以下であればなお好ましい。径、長さの膨張率が20%以下、体積膨張率は約173%以下であればより好ましい。径、長さの膨張率が10%以下、体積膨張率は約133%以下であればさらに好ましい。このように水中浸漬後の膨張率が一定の範囲内にあることで、バイオマス固体燃料(PBT)は浸漬によっても崩壊せず、耐水性を有することが示される。
【0248】
なお、ゴムの木、アカシア、メランティの各原料について別途PBTを作成して試験を行った。試験結果を下記表9、表10に示す。この表9、表10の試験結果においてはゴムの木を例a、アカシアを例b、メランティを例cと記載する。
【0249】
【表9】
【0250】
【表10】
【符号の説明】
【0251】
1 炭化炉
2 振動コンベア
11 温度計
21 分級部(分級手段)
22 冷却部(冷却手段)
22a 散水部(散水手段)
22b 平板
24 隔成部
30 制御部(制御手段)
100 燃料製造工程
110 粉砕工程
120 成型工程
130 加熱工程
200 分級工程
300 冷却工程
402 システム
403A 振動篩装置
403B 冷却振動コンベア
421 分級部
421a 篩
421b 排出部
422 冷却部
422a 散水部
422b 平板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26A
図26B
図27
図28