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特許7080173内耳支持細胞の拡大および分化ならびにその使用法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】内耳支持細胞の拡大および分化ならびにその使用法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220527BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220527BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20220527BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220527BHJP
   C12Q 1/6897 20180101ALI20220527BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220527BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220527BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20220527BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220527BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12N5/10
A01K67/027
C12Q1/02
C12Q1/6897 Z
A61K45/00
A61P43/00 105
A61P27/16
C12N15/09 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018540010
(86)(22)【出願日】2017-01-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 US2017015379
(87)【国際公開番号】W WO2017132530
(87)【国際公開日】2017-08-03
【審査請求日】2020-01-24
(31)【優先権主張番号】62/288,958
(32)【優先日】2016-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511140770
【氏名又は名称】マサチューセッツ アイ アンド イヤー インファーマリー
(73)【特許権者】
【識別番号】518266037
【氏名又は名称】デシベル セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】エッジ,アルバート
(72)【発明者】
【氏名】ヴェヌティ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】チェコウィクズ,アグニーズカ
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/168149(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/037016(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0232780(US,A1)
【文献】国際公開第2014/145205(WO,A2)
【文献】SCIENTIFIC REPORTS,2015年12月08日,5, 17886,p. 1-11,doi:10.1038/srep17886
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
A01K 67/027
C12Q 1/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内耳有毛細胞の集団を作製する方法であって、
内耳支持細胞の集団を、表Aに明示された1つまたは複数のWntシグナル伝達活性化剤と接触させるステップであって、前記1つまたは複数のWntシグナル伝達活性化剤が、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するステップ、および
前記拡大された内耳支持細胞の集団を表Fに明示された1つまたは複数のHDAC阻害剤と接触させて内耳有毛細胞の集団を得るステップであって、前記1つまたは複数のHDAC阻害剤が、内耳有毛細胞の集団への分化を促進するステップ、を含む、前記方法。
【請求項2】
前記拡大された内耳支持細胞の集団が、拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団が、拡大されたLgr5+蝸牛支持細胞の集団、または拡大されたLgr5+前庭支持細胞の集団である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つまたは複数のWntシグナル伝達活性化剤が、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)阻害剤、Wnt活性化剤、Frizzled受容体活性化剤、リポタンパク質受容体関連タンパク質5/6(LRP5/6)活性化剤、Disheveled(Dvl)活性化剤、アキシン阻害剤、Dickkopf(Dkk)阻害剤、分泌型Frizzled関連タンパク質(sFRP)阻害剤、Groucho阻害剤、および/またはWnt阻害性タンパク質(WIF)阻害剤である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記1つまたは複数のHDAC阻害剤が、HDACクラスI阻害剤、HDACクラスII阻害剤、HDACクラスIII阻害剤、および/または汎HDAC阻害剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記HDACクラスIII阻害剤が、SIRT1阻害剤および/またはSIRT2阻害剤である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記内耳支持細胞の集団が、Lgr5+内耳支持細胞の集団である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記Lgr5+内耳支持細胞の集団が、Lgr5+蝸牛支持細胞の集団、またはLgr5+前庭支持細胞の集団である、請求項7に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権の主張
本出願は、2016年1月29日出願の米国仮出願第62/288,958号明細書の利益を主張する。前出の全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書では、哺乳動物の内耳の感覚上皮からの内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)を拡大し分化させるための方法と、例えば、難聴または平衡感覚障害を処置するための候補治療用化合物を同定するための、拡大された細胞の使用とが記載される。加えて、本明細書で記載される方法は、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖の増大と、その内耳有毛細胞(例えば、Atoh1(atonal homolog 1)+内耳有毛細胞)への分化とから利益を得る、難聴または平衡感覚障害の処置において使用することができる。
【背景技術】
【0003】
聴力機能障害は、WHOにより、世界人口のうちの5%以上(3200万人の小児を含む、3億6000万人)に影響を及ぼすと推定されている、健康面での大きな課題である。音を検出しそれらの信号を聴覚神経を介して脳へと伝送する感覚有毛細胞は、損傷を受けやすい。喪失の後、有毛細胞は、置き換わることがなく1、2、したがって、出生後の生涯の開始においても少ない細胞の数(耳1つ当たり15,000個)は、年齢と共に減少の一途をたどり、細胞の置きかえがなければ、難聴の後天性形態の有病率が高まる。実際、騒音への曝露、耳毒性薬物、ウイルス/細菌感染、および老化により典型的に引き起こされる、有毛細胞および聴覚神経の損傷は、難聴の全症例のうちの80%を超える症例の原因となっている。聴力機能障害に加えて、感覚有毛細胞の損傷または喪失は、平衡感覚機能障害、および平衡感覚機能障害に関連する疾患、例えば良性発作性頭位めまい(BPPV)も引き起こしうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、少なくとも部分的に、哺乳動物の内耳の感覚上皮からの内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞、例えばLgr5+蝸牛支持細胞またはLgr5+前庭支持細胞)を拡大するための方法と、例えば、難聴または平衡感覚障害を処置するための候補治療用化合物を同定するために拡大された細胞の使用との発見に基づく。加えて、本明細書では、スクリーニングした化合物を、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖の増大、および/または内耳有毛細胞(例えば、Atoh1(atonal homolog 1)+内耳有毛細胞)の数の増大から利益を得る、難聴または平衡感覚障害の処置において使用するための方法が記載される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様では、本発明は、拡大された内耳支持細胞の集団を作製する方法を特色とする。方法は、内耳支持細胞の集団を、(a)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(b)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(c)表Bに明示された骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達阻害剤;(d)表Cに明示されたサイクリン依存性キナーゼ(CDK)活性化剤;(e)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(f)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;(g)表Fに明示されたヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;(h)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(i)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および(j)表Iに明示されたcAMP応答エレメント結合性タンパク質(CREB)活性化剤からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤と接触させるステップを含み、この場合、1つまたは複数の薬剤は、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な量で存在する。
【0006】
本発明の第1の態様についての一部の実施形態では、Notchシグナル伝達活性化剤は、Delta様タンパク質活性化剤、Jaggedタンパク質活性化剤、Notch活性化剤、および/またはγ-セクレターゼ活性化剤である。
【0007】
本発明の第1の態様についての一部の実施形態では、1つまたは複数の薬剤は、(a)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(b)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(c)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(d)表Cに明示されたCDK活性化剤;および(e)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤からなる群から選択される。
【0008】
本発明の第1の態様についての一部の実施形態では、拡大された内耳支持細胞の集団は、拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団である。一部の実施形態では、拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団は、拡大されたLgr5+蝸牛支持細胞の集団である。一部の実施形態では、拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団は、拡大されたLgr5+前庭支持細胞の集団である。
【0009】
第2の態様では、本発明は、内耳支持細胞の集団の、内耳有毛細胞の集団への分化を促進する方法を特色とする。方法は、内耳支持細胞の集団を、(a)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(b)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(c)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(d)表Cに明示されたCDK活性化剤;(e)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(f)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(g)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(h)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;(i)表Iに明示されたCREB活性化剤;および(j)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤と接触させるステップを含み、この場合、1つまたは複数の薬剤は、内耳有毛細胞の集団への分化を促進するのに十分な量で存在する。
【0010】
本発明の第2の態様についての一部の実施形態では、1つまたは複数の薬剤は、(a)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(b)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(c)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(d)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;および(e)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される。
【0011】
本発明の第2の態様についての一部の実施形態では、Notchシグナル伝達阻害剤は、Delta様タンパク質阻害剤、Jaggedタンパク質阻害剤、Notch阻害剤、および/またはγ-セクレターゼ阻害剤である。
【0012】
本発明の第2の態様についての一部の実施形態では、内耳有毛細胞の集団は、Atoh1+内耳有毛細胞の集団である。一部の実施形態では、Atoh1+内耳有毛細胞の集団は、Atoh1+蝸牛有毛細胞の集団である。一部の実施形態では、Atoh1+内耳有毛細胞の集団は、Atoh1+前庭有毛細胞の集団である。
【0013】
本発明の第1の態様および第2の態様についての一部の実施形態では、レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤は、表Kに明示されたレチノイン酸受容体(RAR)アゴニスト、および/または表Kに明示されたレチノイドX受容体(RXR)アゴニストである。一部の実施形態では、RARアゴニストは、RARαアゴニスト、RARβアゴニスト、および/またはRARγアゴニストである。一部の実施形態では、RXRアゴニストは、RXRαアゴニスト、RXRβアゴニスト、および/またはRXRγアゴニストである。
【0014】
本発明の第1の態様および第2の態様についての一部の実施形態では、Wntシグナル伝達活性化剤は、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)阻害剤、Wnt活性化剤、Frizzled受容体活性化剤、リポタンパク質受容体関連タンパク質5/6(LRP5/6)活性化剤、Disheveled(Dvl)活性化剤、アキシン阻害剤、Dickkopf(Dkk)阻害剤、分泌型Frizzled関連タンパク質(sFRP)阻害剤、Groucho阻害剤、および/またはWnt阻害性タンパク質(WIF)阻害剤である。
【0015】
本発明の第1の態様および第2の態様についての一部の実施形態では、BMPシグナル伝達阻害剤は、Noggin活性化剤、Chordin活性化剤、BMP受容体阻害剤、SMAD1/5/8阻害剤、SMAD2/3阻害剤、および/またはSMAD4阻害剤である。
【0016】
本発明の第1の態様および第2の態様についての一部の実施形態では、CDK活性化剤は、p27Kip1阻害剤および/または網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)阻害剤である。
【0017】
本発明の第1の態様および第2の態様についての一部の実施形態では、E box依存性転写活性化剤は、Atoh1活性化剤である。
【0018】
本発明の第1の態様および第2の態様についての一部の実施形態では、HDAC阻害剤は、HDACクラスI阻害剤、HDACクラスII阻害剤、HDACクラスIII阻害剤、および/または汎HDAC阻害剤である。一部の実施形態では、HDACクラスIII阻害剤は、SIRT1阻害剤および/またはSIRT2阻害剤である。
【0019】
本発明の第1の態様および第2の態様についての一部の実施形態では、タンパク質分解阻害剤は、プロテアソーム阻害剤またはユビキチンリガーゼ阻害剤である。
【0020】
本発明の第1の態様および第2の態様についての一部の実施形態では、PI3K-Aktシグナル伝達阻害剤は、Akt阻害剤、PI3K阻害剤、PKC阻害剤、および/またはPDK1阻害剤である。
【0021】
本発明の第1の態様および第2の態様についての一部の実施形態では、内耳支持細胞の集団は、Lgr5+内耳支持細胞の集団である。一部の実施形態では、Lgr5+内耳支持細胞の集団は、Lgr5+蝸牛支持細胞の集団である。一部の実施形態では、Lgr5+内耳支持細胞の集団は、Lgr5+前庭支持細胞の集団である。
【0022】
第3の態様では、本発明は、マウスのゲノムへと安定的に組み込まれた、2つ以上の組換え核酸分子を有するトランスジェニックマウスを特色とする。2つ以上の組換え核酸分子は、Lgr5、Sox2、p27、Prox1、FGFR3、Glast、およびLfngからなる群から選択される内耳支持細胞マーカーの調節エレメントの制御下で第1のレポーター遺伝子を含む少なくとも第1の組換え核酸分子、ならびにAtoh1、Myo7a、Cdh23、Pcdh15、Myo6、Myo1c、Tmc1、およびCav1.3からなる群から選択される内耳有毛細胞マーカーの調節エレメントの制御下で第2のレポーター遺伝子を含む第2の組換え核酸分子を含み、この場合、第1のレポーター遺伝子は、第2のレポーター遺伝子と異なる。
【0023】
本発明の第3の態様についての一部の実施形態では、内耳支持細胞マーカーは、Lgr5である。
【0024】
本発明の第3の態様についての一部の実施形態では、内耳有毛細胞マーカーは、Atoh1である。
【0025】
本発明の第3の態様についての一部の実施形態では、内耳支持細胞マーカーは、Lgr5であり、内耳有毛細胞マーカーは、Atoh1である。
【0026】
本発明の第3の態様についての一部の実施形態では、内耳支持細胞マーカーの調節エレメントは、Lgr5プロモーターである。
【0027】
本発明の第3の態様についての一部の実施形態では、内耳有毛細胞マーカーの調節エレメントは、Atoh1エンハンサーである。一部の実施形態では、Atoh1エンハンサーは、プロモーターエレメント、例えば、SV40プロモーターまたはグロビンプロモーターに作動可能に連結される。
【0028】
本発明の第3の態様についての一部の実施形態では、第1のレポーター遺伝子は、第1の蛍光タンパク質をコードし、第2のレポーター遺伝子は、第2の蛍光タンパク質をコードし、第1の蛍光タンパク質は、第2の蛍光タンパク質と異なる。
【0029】
第4の態様では、本発明は、本発明の第3の態様のトランスジェニックマウスから単離された細胞を特色とする。細胞は、第1の組換え核酸分子および第2の組換え核酸分子を含む。
【0030】
本発明の第4の態様についての一部の実施形態では、細胞は、トランスジェニックマウスの内耳から単離される。
【0031】
本発明の第5の態様では、本発明は、蝸牛有毛細胞または前庭有毛細胞の喪失と関連する、難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤を同定するための方法であって、(a)内耳支持細胞の集団を、請求項29から36のいずれか一項に記載のマウスから単離するステップ;(b)内耳支持細胞の集団を、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件下で維持するステップ;(c)被験化合物を、拡大された内耳支持細胞の集団へと投与するステップ;(d)被験化合物の存在下での、拡大された内耳支持細胞の集団内の第1のレポーター遺伝子および第2のレポーター遺伝子の発現レベルを検出するステップ;ならびに(e)難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤として、第1のレポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下における第1のレポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させ、かつ/または第2のレポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下における第2のレポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させる被験化合物を選択するステップを含む方法を特色とする。
【0032】
本発明の第5の態様についての一部の実施形態では、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件は、1つまたは複数の成長因子、例えば、表皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、および/またはインスリン様成長因子(IGF1)の存在下における培地、例えば、DMEMおよびF12培地の混合物、例えば1:1の混合物を含む。一部の実施形態では、内耳支持細胞の集団を、2日間以上の日数、例えば、2日間~10日間の間、例えば、2日間~5日間の間にわたり培養する。
【0033】
本発明の第5の態様についての一部の実施形態では、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件は、(a)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(b)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(c)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(d)表Cに明示されたCDK活性化剤;(e)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(f)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤、または表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤;(g)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(h)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(i)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および(j)表Iに明示されたCREB活性化剤からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤をさらに含む。
【0034】
本発明の第5の態様についての一部の実施形態では、レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤は、表Kに明示されたRARアゴニスト、または表Kに明示されたRXRアゴニストである。
【0035】
本発明の第5の態様についての一部の実施形態では、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件は、表1に明示された、1つまたは複数の薬剤を含む。
【0036】
本発明の第5の態様についての一部の実施形態では、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件は、N2、B27、EGF、bFGF、IGF1、CHIR99021、およびVPAを補充した培地、例えば、DMEMおよびF12の1:1の混合物を含む。
【0037】
本発明の第5の態様についての一部の実施形態では、候補薬剤は、低分子、化合物、核酸、ペプチド、ポリペプチド、成長因子、および後成的修飾剤からなる群から選択される。
【0038】
本発明の第5の態様についての一部の実施形態では、最初にコルチ器を切開するステップと、感覚上皮を単離するステップと、単一細胞の懸濁液を創出するステップとを含む方法により、内耳支持細胞の集団をマウスの蝸牛から単離する。本発明の第5の態様についての一部の実施形態では、内耳支持細胞の集団を、マウスの内耳の前庭から単離する。
【0039】
本発明の第5の態様についての一部の実施形態では、内耳支持細胞の集団は、Lgr5+内耳支持細胞の集団である。
【0040】
本発明の第5の態様についての一部の実施形態では、第1のレポーター遺伝子は、第1の蛍光タンパク質をコードし、第2のレポーター遺伝子は、第2の蛍光タンパク質をコードし、第1の蛍光タンパク質は、第2の蛍光タンパク質と異なる。
【0041】
本発明の第5の態様についての一部の実施形態では、第1のレポーター遺伝子および第2のレポーター遺伝子の発現レベルは、タンパク質の発現レベルである。
【0042】
第6の態様では、本発明は、蝸牛有毛細胞または前庭有毛細胞の喪失と関連する難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤を同定するための方法であって、(a)Lgr5、Sox2、p27、Prox1、FGFR3、Glast、およびLfngからなる群から選択される内耳支持細胞マーカーの調節エレメントの制御下でレポーター遺伝子を含む組換え核酸分子を安定的に組み込んだ内耳支持細胞の集団を用意するステップ;(b)内耳支持細胞の集団を、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件下で維持するステップであり、条件が、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤、(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤、(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤、(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤、(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤、(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤、(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤、(viii)表Gに明示された タンパク質分解阻害剤、(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤、および(x)表Iに明示されたCREB活性化剤からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤を含む、ステップ;(c)被験化合物を、拡大された内耳支持細胞の集団へと投与するステップ;(d)被験化合物の存在下での、拡大された内耳支持細胞の集団内のレポーター遺伝子の発現レベルを検出するステップ;ならびに(e)難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤として、レポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下におけるレポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させる被験化合物を選択するステップを含む方法を特色とする。
【0043】
第7の態様では、本発明は、蝸牛有毛細胞または前庭有毛細胞の喪失と関連する難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤を同定するための方法であって、(a)Atoh1、Myo7a、Cdh23、Pcdh15、Myo6、Myo1c、Tmc1、およびCav1.3からなる群から選択される内耳有毛細胞マーカーの調節エレメントの制御下でレポーター遺伝子を含む組換え核酸分子を安定的に組み込んだ内耳支持細胞の集団を用意するステップ;(b)内耳支持細胞の集団を、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件下で維持するステップであり、条件が、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤、(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤、(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤、(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤、(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤、(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤、(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤、(viii)表Gに明示された タンパク質分解阻害剤、(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤、および(x)表Iに明示されたCREB活性化剤からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤を含む、ステップ;(c)被験化合物を、拡大された内耳支持細胞の集団へと投与するステップ;(d)被験化合物の存在下での、拡大された内耳細胞の集団内のレポーター遺伝子の発現レベルを検出するステップ;ならびに(e)難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤として、レポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下におけるレポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させる被験化合物を選択するステップを含む方法を特色とする。
【0044】
本発明の第6の態様および第7の態様についての一部の実施形態では、レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤は、表Kに明示されたRARアゴニスト、または表Kに明示されたRXRアゴニストである。
【0045】
本発明の第6の態様および第7の態様についての一部の実施形態では、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件は、(a)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(b)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(c)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(d)表Cに明示されたCDK活性化剤;および(e)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤を含む。
【0046】
本発明の第6の態様および第7の態様についての一部の実施形態では、拡大された内耳支持細胞の集団は、拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団である。一部の実施形態では、拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団は、拡大されたLgr5+蝸牛支持細胞の集団である。一部の実施形態では、拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団は、拡大されたLgr5+前庭支持細胞の集団である。
【0047】
本発明の第6の態様および第7の態様についての一部の実施形態では、内耳支持細胞の集団を、ヒトから単離する。一部の実施形態では、内耳支持細胞の集団を、マウスから単離する。
【0048】
本発明の第6の態様および第7の態様についての一部の実施形態では、レポーター遺伝子は、蛍光タンパク質をコードする。
【0049】
第8の態様では、本発明は、難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法であって、それを必要とする対象へと、(a)治療有効量の、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(viii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;および(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つもしくは複数の薬剤;ならびに/または(b)治療有効量の、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(vii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(viii)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;(ix)表Iに明示されたCREB活性化剤;および(x)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つもしくは複数の薬剤のうちの一方または両方を投与するステップを含む方法を特色とする。
【0050】
本発明の第8の態様についての一部の実施形態では、方法は、それを必要とする対象へと、(a)治療有効量の、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;および(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つもしくは複数の薬剤;ならびに/または(b)治療有効量の、(i)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(ii)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(iii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(iv)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;および(v)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つもしくは複数の薬剤のうちの一方または両方を投与するステップを含む。
【0051】
本発明の第8の態様についての一部の実施形態では、1つまたは複数の薬剤を、全身投与する。本発明の第8の態様についての一部の実施形態では、1つまたは複数の薬剤を、例えば対象の耳へと、局所投与する、例えば、対象の中耳へと経鼓膜投与する。
【0052】
本発明の第8の態様についての一部の実施形態では、内耳支持細胞の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤を、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つまたは複数の薬剤の前に投与する。
【0053】
第9の態様では、本発明は、難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法であって、(a)1つまたは複数の内耳支持細胞を、例えばin vitroにおいて、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(viii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および(x)表Iに明示されたCREB活性化剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤と接触させるステップ;(b)任意選択で、拡大された内耳支持細胞の集団を、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(vii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(viii)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;(ix)表Iに明示されたCREB活性化剤および(x)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つまたは複数の薬剤と接触させるステップ;ならびに(c)内耳有毛細胞を、対象の耳(例えば、内耳)へと投与するステップを含む方法を特色とする。
【0054】
第10の態様では、本発明は、難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法であって、(a)1つまたは複数の内耳支持細胞を、例えばin vitroにおいて、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(viii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および(x)表Iに明示されたCREB活性化剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤と接触させるステップ;ならびに(b)拡大された内耳支持細胞の集団を、対象の耳(例えば、内耳)へと、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(vii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(viii)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;(ix)表Iに明示されたCREB活性化剤;および(x)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つまたは複数の薬剤の投与と組み合わせて、例えば、これと同時にまたはこの前に投与するステップを含む方法を特色とする。
【0055】
本発明の第8の態様、第9の態様、および第10の態様についての一部の実施形態では、(a)内耳支持細胞の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤は、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;および(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤からなる群から選択され、(b)内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つまたは複数の薬剤は、(i)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(ii)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(iii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(iv)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;および(v)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される。
【0056】
本発明の第8の態様、第9の態様、および第10の態様についての一部の実施形態では、レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤は、表Kに明示されたRARアゴニスト、または表Kに明示されたRXRアゴニストである。
【0057】
本発明の第8の態様、第9の態様、および第10の態様についての一部の実施形態では、内耳支持細胞は、Lgr5+内耳支持細胞である。
【0058】
本発明の第8の態様、第9の態様、および第10の態様についての一部の実施形態では、内耳有毛細胞は、Atoh1+内耳有毛細胞である。
【0059】
本発明の第8の態様、第9の態様、および第10の態様についての一部の実施形態では、対象は、平衡感覚障害を有する。本発明の第8の態様、第9の態様、および第10の態様についての一部の実施形態では、対象は、難聴(例えば、感覚神経的難聴)を有する。一部の実施形態では、難聴は、遺伝性欠損もしくは先天性欠損、外傷(例えば、物理的外傷または騒音関連の傷害による外傷)、老化、または化学物質誘導性中毒性難聴の結果である。一部の実施形態では、難聴は、感染(例えば、ウイルス感染または細菌感染)の結果である。
【0060】
本発明の第8の態様、第9の態様、および第10の態様についての一部の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0061】
そうでないことが規定されない限りにおいて、本明細書で使用される、全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。本明細書では、本発明における使用のための方法および材料について記載するが、当技術分野では、他の適切な方法および材料も公知であり、これらもまた使用することができる。材料、方法、および例は、例示的なものであるに過ぎず、限定を意図するものではない。本明細書で言及される、全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベース項目、および他の参考文献は、参照によりそれらの全体において組み込まれる。齟齬が生じる場合は、定義を含む本明細書に従う。
【0062】
本発明の他の特色および利点は、以下の詳細な説明および図、ならびに特許請求の範囲から明らかであろう。
【0063】
定義
本明細書で使用される内耳支持細胞の「拡大された集団」という用語は、集団内の内耳支持細胞の数量が、本明細書で記載される1つまたは複数の薬剤(例えば、レチノイド受容体シグナル伝達の活性化、Wntシグナル伝達の活性化、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達の阻害、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性化、E box依存性転写の活性化、Notchシグナル伝達の活性化、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)の阻害、タンパク質分解の阻害、PI3K-Aktシグナル伝達の阻害、およびcAMP応答エレメント結合性タンパク質(CREB)の活性化などの1つまたは複数の活性を呈示する、1つまたは複数の薬剤)を投与する前における内耳支持細胞の数を超える(例えば、少なくとも10%超える、少なくとも20%超える、少なくとも30%超える)ような、少なくとも1を超える内耳支持細胞を含む細胞の集団を指す。
【0064】
本明細書で使用される「内耳支持細胞」という用語は、有毛細胞(例えば、蝸牛支持細胞および前庭支持細胞)間に存在し、有毛細胞が機能することを可能とする上皮内の環境を維持し、音の刺激時および頭部の運動時における感覚器官の構造的完全性を支持することなど、多様な機能のセットを果たす非感覚細胞を指す。
【0065】
本明細書で使用される「内耳有毛細胞」という用語は、内耳の骨迷路の蝸牛または前庭のコルチ器内に存在する感覚細胞を指す。内耳有毛細胞は、音波を、電気信号として、脳へと伝送する一因となる。蝸牛の内耳有毛細胞への損傷は、聴覚感度の低下または難聴を結果としてもたらしうる。前庭の内耳有毛細胞への損傷は、平衡感覚機能障害または平衡感覚障害を結果としてもたらしうる。
【0066】
本明細書で使用される「レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤」とは、1つまたは複数のレチノイド受容体(例えば、RARα、RARβ、RARγ、RXRα、RXRβ、およびRXRγ)に結合し、これを活性化させ、これにより、活性化レチノイド受容体が結合する標的遺伝子の転写活性に影響を及ぼす化合物を指す。レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤は、汎レチノイド受容体活性化剤の場合もあり、1つまたは複数のレチノイド受容体に対する選択性を呈示する場合もある。レチノイド受容体シグナル伝達の活性化剤の例は、表Kに列挙された化合物を含むがこれらに限定されない。
【0067】
本明細書で使用される「Wntシグナル伝達活性化剤」とは、カノニカルのWntシグナル伝達経路のアゴニストを指す。この経路のアゴニストは、Wntタンパク質または哺乳動物細胞の核内のβ-カテニンの濃度の増大を促進するような形で、Frizzledおよびリポタンパク質受容体関連タンパク質5/6(LRP5/6)の共受容体タンパク質(例えば、Frizzled受容体活性化剤、LRP5/6活性化剤)に直接結合する他の化合物をさらに含む。代替的に、β-カテニン/Wnt経路アゴニストは、Wntタンパク質に結合し、これが、内因性Wnt共受容体と相互作用することから隔離する、1つまたは複数の分泌型Frizzled関連タンパク質(sFRP)(例えば、sFRP阻害剤)またはWnt阻害剤性タンパク質(WIF)(例えば、WIF阻害剤)を阻害することにより機能しうる。Wntシグナル伝達活性化剤の例はまた、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)阻害剤、Wnt活性化剤、Disheveled(Dvl)活性化剤、アキシン阻害剤、Dickkopf(Dkk)阻害剤、およびGroucho阻害剤も含むがこれらに限定されない。GSK-3βは、アキシン、APC(大腸腺腫様ポリポーシス)、およびβ-カテニンと複合体を形成して、プロテアソームによる下流の分解のために、β-カテニンを準備するキナーゼである。Disheveled(Dvl)は、活性化Notch受容体から、下流のエフェクターへと、シグナルを受け渡す細胞内タンパク質である。Disheveled(Dvl)は、受容体であるFrizzledにより動員され、β-カテニンの構成的破壊を防止する。Dickkopf(Dkk)は、LRP5/6共受容体タンパク質を隔絶させ、これにより、Wntシグナル伝達を阻害するように作用する分泌型タンパク質である。Grouchoは、核内のTLEと複合体を形成して、遺伝子発現を抑制するタンパク質である。β-カテニンは、核に進入すると、Groucho/TLE複合体を破壊して、遺伝子発現を活性化させる。Wnt活性化剤は、Wntシグナル伝達を活性化させる低分子化合物を指す。
【0068】
β-カテニン/Wnt経路アゴニストの活性を決定するのに使用しうる例示的な方法は、限定されるものではないが、TCF/LEFファミリーの転写因子の制御下で、レポーター遺伝子の発現をモニタリングすることのほか、米国特許出願公開第2014/0044763号明細書に記載されているTOPFlashルシフェラーゼレポーターアッセイを含む。Wntシグナル伝達の活性化剤の例は、表Aに列挙された化合物を含むがこれらに限定されない。
【0069】
本明細書で使用される「骨形成性タンパク質(BMP)シグナル伝達阻害剤」とは、BMPシグナル伝達経路のアンタゴニストを指す。BMPは、リガンドのTGFβスーパーファミリーのメンバーであり、BMPシグナル伝達のモジュレーターを、本発明の方法と共に使用して、例えば、内耳支持細胞を拡大するか、または内耳支持細胞を、内耳有毛細胞へと分化させることができる。BMPシグナル伝達経路の阻害剤は、BMPシグナル伝達経路に関与するタンパク質を阻害する、任意のタンパク質または低分子化合物を含む。BMPシグナル伝達阻害剤の例は、Noggin活性化剤、Chordin活性化剤、BMP受容体阻害剤、SMAD1/5/8阻害剤、SMAD2/3阻害剤、およびSMAD4阻害剤を含むがこれらに限定されない。NogginおよびChordinは、BMPの、BMP受容体への結合を阻害するアンタゴニストである。BMP受容体は、BMPからのシグナルを伝達する。活性化BMP受容体は、転写因子であるSMAD1/5/8を動員し、リン酸化する。リン酸化SMAD1/5/8は、SMAD4と相互作用して、核へと移行して、遺伝子発現を調節する複合体を形成する。BMP受容体は、アクチビンまたはアクチビン様リガンドからのシグナルを伝達する。活性化BMP受容体は、転写因子であるSMAD2/3を動員し、リン酸化する。リン酸化SMAD2/3は、SMAD4と相互作用して、核へと移行して、遺伝子発現を調節する複合体を形成する。BMPシグナル伝達阻害剤の例は、表Bに列挙された化合物を含むがこれらに限定されない。
【0070】
本明細書で使用される「サイクリン依存性キナーゼ(CDK)活性化剤」とは、CDKのアゴニストを指す。CDKは、細胞周期の調節に関与する、セローム/トレオニンキナーゼのファミリーである。CDKは、調節性タンパク質であるサイクリンに結合して、活性化キナーゼを形成する。CDK活性化剤は、CDKと相互作用して、その活性を増大させる、タンパク質または低分子化合物の場合もあり、CDKと相互作用するタンパク質と相互作用して、CDKの活性を間接的に増大させる、タンパク質または低分子化合物の場合もある。CDK活性化剤は、CDK阻害剤(例えば、p27Kip1阻害剤)または網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)阻害剤の阻害剤でありうる。タンパク質であるp27Kip1は、サイクリン-CDK2複合体およびサイクリン-CDK4複合体と相互作用する細胞周期調節性タンパク質であり、細胞周期の進行を、G1で阻害する。Rbは、これもまた、細胞周期の進行を、G1で阻害する、腫瘍抑制タンパク質である。
【0071】
本明細書で使用される「E box依存性転写活性化剤」とは、E boxに結合して、E boxの下流の遺伝子の発現を活性化させる、タンパク質(例えば、転写因子)化合物を指す。E boxとは、遺伝子発現を調節するタンパク質結合性部位として作用するDNA応答エレメントである、エンハンサーboxを指す。転写因子は、E boxに結合して、遺伝子の転写を誘発する。E box依存性転写活性化剤の例は、Atoh1の発現を上方調節するAtoh1活性化剤である。Atoh1は、耳内の神経感覚の発生の調節に関与する、塩基性ヘリックス-ループ-ヘリックス(bHLH)転写因子である。
【0072】
本明細書で使用される「Notchシグナル伝達活性化剤」とは、Notch経路機能の活性化を促進するタンパク質または低分子化合物を指す。本明細書で使用される「Notch経路機能」という用語は、Notchの細胞内ドメインの核移行、RBP-Jκまたはそのショウジョウバエ(Drosophila)属の相同体であるSu(H)(Suppressor of Hairless)の核移行;E(spl)(Enhancer of Split)複合体のbHLH遺伝子、例えば、Mastermindの活性化;HES-1遺伝子またはKBF2(また、CBF1とも称する)遺伝子の活性化;ショウジョウバエ(Drosophila)属の神経芽細胞のセグリゲーションの阻害;およびNotchの、Deltaタンパク質、Jagged/Serrateタンパク質、Fringe、Deltex、もしくはRBP-Jκ/Su(H)(Suppressor of Hairless)、またはこれらの相同体もしくは類似体への結合を含むがこれらに限定されない、Notchシグナル伝達経路により媒介される機能を指す。Notchシグナル伝達によりもたらされる、Notchシグナル伝達のカスケードおよび表現型については、例えば、それらの各々の開示が参照により本明細書に組み込まれる、Kopan et al., Cell 137:216-233 (2009) and Jarriault, et al., Mol. Cell. Biol. 18:7423-7431 (1998)に記載されている。
【0073】
Notchアゴニストの例については、例えば、米国特許出願公開第2014/0369973号明細書、および米国特許第7,399,633号明細書に記載されており、それらの各々の開示は参照により本明細書に組み込まれる。例示的なNotchアゴニストは、限定するものではないが、Notchタンパク質、ならびにその類似体、誘導体、および断片;Notchシグナル伝達経路を伝搬する他のタンパク質、ならびにその類似体、誘導体、および断片;Notch受容体活性を刺激する活性化抗体、およびアゴニスト活性を保持するその抗原結合性断片;Notchシグナル伝達を強化するタンパク質をコードする核酸;ならびに、Notch経路活性を促進するように、Notchタンパク質もしくはNotch経路内の他のタンパク質に結合するか、またはこれらと他の形で相互作用する、これらのタンパク質、誘導体、および類似体を含む。このようなアゴニストは、Notchタンパク質およびNotch細胞内ドメインを含有するその誘導体、前出をコードするNotch核酸、ならびにNotchリガンドのNotch相互作用ドメインに接触するタンパク質(例えば、DeltaまたはSerrateの細胞外ドメイン)を含むがこれらに限定されない。
【0074】
他のNotchアゴニストは、Delta様タンパク質活性化剤、Jaggedタンパク質活性化剤、Notch活性化剤、およびγ-セクレターゼ活性化剤を含むがこれらに限定されない。Delta様タンパク質およびJaggedタンパク質は、隣接細胞上のNotch受容体と相互作用して、Notchシグナル伝達を活性化させる膜貫通タンパク質である。ガンマ-セクレターゼとは、Notch受容体発現細胞の細胞膜の内部小葉内のNotch受容体の一部を切断する酵素である。γ-セクレターゼによる切断は、Notch受容体の細胞内ドメインを放出し、次いで、これが、核へと移行して、遺伝子発現を調節する。Notch活性化剤とは、Notchシグナル伝達を活性化させる低分子化合物を指す。他のNotchアゴニストは、RBPJκ/Su(H)(Suppressor of Hairless)またはDeltexを含むがこれらに限定されない。加えて、Fringeは、例えば、Deltaタンパク質と共に、Notch活性を増強するのに使用されうる。これらのタンパク質、これらの断片、および誘導体を、組換えにより発現させ、単離することもでき、化学合成することもできる。
【0075】
本明細書で使用される「Notchシグナル伝達阻害剤」とは、Notch経路機能を阻害する、タンパク質または低分子化合物を指す。「Notch経路機能」という用語については、上記で記載した。一部の実施形態では、Notchシグナル伝達阻害剤は、Notchシグナル伝達の活性化に関与する、1つまたは複数のタンパク質の活性を阻害しうる。一部の実施形態では、Notchシグナル伝達阻害剤は、Notchシグナル伝達の阻害に関与する、1つまたは複数のタンパク質の活性を活性化させうる。Notchシグナル伝達阻害剤は、Delta様タンパク質阻害剤、Jaggedタンパク質阻害剤、Notch阻害剤、および/またはγ-セクレターゼ阻害剤を含むがこれらに限定されない。Notchシグナル伝達阻害剤の例は、表Jに列挙された化合物を含むがこれらに限定されない。
【0076】
本明細書で使用される「ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤」とは、1つまたは複数のHDACに結合し、これを阻害し、これにより、HDACの酵素活性に影響を及ぼす化合物を指す。HDACとは、ヒストンのN末端におけるリシン残基のε-アミノ基からの、アセチル基の除去を触媒する酵素のファミリーのうちのいずれか1つを指す。文脈によりそうでないことが指し示されない限りにおいて、「ヒストン」という用語は、任意の種に由来する、HI、H2A、H2B、H3、H4、およびH5を含む、任意のヒストンタンパク質を指すことを意図する。ヒトHDACタンパク質は、4つのクラスに分けられる。クラスIは、HDAC1、HDAC2、HDAC3、およびHDAC8を含み;クラスIIは、HDAC4、HDAC5、HDAC7、およびHDAC9を含み;クラスIIIは、SIRT1、SIRT2、SIRT3、SIRT4、SIRT5、SIRT6、およびSIRT7を含み;クラスIVは、HDAC11を含む。HDAC阻害剤は、汎HDAC阻害剤の場合もあり、1つまたは複数のHDACに対する選択性を呈示する場合もある。HDAC阻害剤の例は、表Fに列挙された化合物を含むがこれらに限定されない。
【0077】
本明細書で使用される「タンパク質分解阻害剤」とは、タンパク質分解経路、例えば、ユビキチン-プロテアソーム分解経路を阻害する化合物を指す。タンパク質分解阻害剤は、タンパク質分解経路、例えば、ユビキチン-プロテアソーム分解経路に関与するタンパク質のうちの1つまたは複数の活性を阻害しうる。例えば、タンパク質分解阻害剤は、プロテアソームを阻害する低分子化合物(例えば、プロテアソーム阻害剤)、すなわち、プロテアソームの19Sまたは20Sを阻害する低分子化合物、またはユビキチン活性化酵素(E1)を阻害する低分子化合物、ユビキチンコンジュゲート酵素(E2)を阻害する低分子化合物、および/もしくはユビキチンリガーゼ(E3)を阻害する低分子化合物(例えば、ユビキチンリガーゼ阻害剤)でありうる。ユビキチン-プロテアソーム分解経路では、タンパク質は、共因子であるユビキチンへの連結によって、プロテアソームによる分解のためにマーキングされる。E1はまず、ユビキチンとチオエステル結合を形成する。この反応は、後続の、ユビキチンの、E2への結合を可能とし、E2が、E1に置き換わる。最後に、E3リガーゼが、ユビキチンのカルボキシ末端と、基質タンパク質上のリシン残基との、イソペプチド結合を形成する。多数のE3リガーゼは、各々が、基質タンパク質のサブセットだけを修飾するという意味で、特異性をもたらす。さらなる特異性は、リン酸化を含むがこれに限定されない、基質タンパク質の翻訳後修飾によりにより達成される。タンパク質分解阻害剤の例は、表Gに列挙された化合物を含むがこれらに限定されない。
【0078】
本明細書で使用される「PI3K-Aktシグナル伝達阻害剤」とは、PI3K-Aktシグナル伝達に関与する、1つまたは複数のタンパク質を阻害する化合物を指す。Aktとは、代謝、成長、増殖、生存、転写、およびタンパク質の合成など、多様な細胞の機能を調節するセリン/トレオニンキナーゼ(また、タンパク質キナーゼBまたはPKBとしても公知である)である。Aktシグナル伝達カスケードは、受容体チロシンキナーゼ、インテグリン、B細胞受容体およびT細胞受容体、サイトカイン受容体、Gタンパク質共役受容体、およびホスホイノシチド3-キナーゼ(PI3K)による、ホスファチジルイノシトール(3,4,5)三リン酸(PIP3)の産生を誘導する、他の刺激により活性化する。これらの脂質は、プレクストリン相同(PH)ドメインを擁するタンパク質であって、Aktおよびその上流の活性化剤であるPDK1を含むタンパク質の形質膜ドッキング部位として用いられる。膜では、PDK1は、Aktをリン酸化し、Aktの部分的な活性化をもたらす。AktのmTORC2によるリン酸化は、完全な酵素活性を刺激する。DNA-PKを含む、PI3K関連キナーゼ(PIKK)ファミリーのメンバーもまた、Aktをリン酸化しうる。Aktは、タンパク質ホスファターゼ2A(PP2A)およびPHドメインロイシンリッチリピート含有タンパク質ホスファターゼ(PHLPP1/2)により脱リン酸化される。加えて、腫瘍抑制因子であるPTEN(phosphatase and tensin homolog)は、PIP3を脱リン酸化することにより、Akt活性を阻害する。Aktには、3つの高度に類縁のアイソフォーム(Akt1、Akt2、およびAkt3)が存在し、これらは、コンセンサスのリン酸化モチーフであるRxRxxS/Tを含有する基質をリン酸化する。PI3K-Aktシグナル伝達の阻害剤の例は、Aktを阻害する化合物(すなわち、Aktの活性化を阻害する化合物)、PI3Kを阻害する化合物、PKCを阻害する化合物、およびPDK1を阻害する化合物を含むがこれらに限定されない。PI3K-Aktシグナル伝達阻害剤の例は、表Hに列挙された化合物を含むがこれらに限定されない。
【0079】
本明細書で使用される「cAMP応答エレメント結合性タンパク質(CREB)活性化剤」とは、CREBに結合し、これを活性化させる化合物、またはCREBの活性化に関与するタンパク質に結合し、これを活性化させる化合物を指す。一部の実施形態では、CREB活性化剤は、CREBの濃度を増大させうる。CREBは、DNA結合性タンパク質のロイシンジッパーファミリーの転写因子である。CREBは、ホモ二量体として、cAMP応答性エレメント(CRE)に結合し、これにより、下流の遺伝子の転写を増大または減少させる。CREBの活性化に関与するタンパク質の例は、PKAおよびCa2+/カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼを含むがこれらに限定されない。CREBにより転写が調節される遺伝子は、c-fos、BDNF、チロシンヒドロキシラーゼ、神経ペプチド(例えば、アソマトスタチン、エンケファリン、VGF、コルチコトロピン放出ホルモン)、および哺乳動物の概日時計に関与する遺伝子(例えば、PER1、PER2)を含むがこれらに限定されない。CREBの例は、CREB1、CREB2、CREB3、CREB5、CREB3様タンパク質1(CREB3L1)、CREB3L2、CREB3L3、およびCREB3L4を含むがこれらに限定されない。CREB活性化剤の例は、AC102(表Iを参照されたい)である。
【0080】
本明細書で使用される「平衡感覚障害」という用語は、例えば立位にあるかまたは歩行しているときに、対象に不安定であると感じさせる、対象の前庭系または前庭機能の不足を指す。耳と関連する平衡感覚障害はまた、めまい(クラクラ感)および悪心も引き起こす。平衡感覚障害と類縁の(すなわち、平衡感覚障害により引き起こされるか、または平衡感覚障害を引き起こす)疾患および障害は、良性発作性頭位めまい(BPPV)、迷路炎(例えば、前庭神経炎、蝸牛神経炎)、外傷(すなわち、耳または頭蓋への損傷、耳または頭蓋への手術により引き起こされる損傷)、メニエール病、外リンパ瘻、上半規管裂隙症候群、および両側前庭障害を含むがこれらに限定されない。平衡感覚障害はまた、投薬、ストレス、不安、および老化によっても引き起こされうる。
【0081】
特許または出願のファイルは、有色で作製された少なくとも1つの図面を含有する。有色の図面を伴うこの特許または特許出願公開の写しは、申請し、必要な費用を支払えば、特許庁により交付される。
【図面の簡単な説明】
【0082】
図1】Lgr5+細胞を、増殖に影響を及ぼす薬物についてスクリーニングするための日程表を示す図である。
図2】Lgr5+細胞を、分化に影響を及ぼす薬物についてスクリーニングするための日程表を示す図である。
図3】Lgr5-GFP細胞の増殖に影響を及ぼす薬物についてのスクリーニングに由来する、Lgr5-GFP+細胞のパーセントについて描示するグラフを示す図である。化合物の凡例(WJM=CHIR99021およびバルプロ酸)については、表1を参照されたい。
図4】Lgr5-GFP細胞の増殖に影響を及ぼす薬物についてのスクリーニングに由来する、Lgr5-GFP+細胞の数を描示するグラフを示す図である。化合物の凡例(WJM=CHIR99021およびバルプロ酸)については、表1を参照されたい。
図5】Atoh1-GFP+細胞の分化に影響を及ぼす薬物についてのスクリーニングに由来する、Atoh1-GFP+細胞のパーセントについて描示するグラフを示す図である。化合物の凡例(WJM=CHIR99021およびバルプロ酸)については、表1を参照されたい。
図6】トランスジェニックマウスの作出における使用のためのプラスミドであって、mCherry蛍光タンパク質がAtoh1エンハンサーの制御下にあるプラスミドについての概略的例示を示す図である。
図7】具体的なスクリーニング化合物である、化合物A(国際公開第2009/100438号パンフレットを参照されたい)、化合物B(国際公開第2009/100438号パンフレットを参照されたい)、化合物C(国際公開第2009/100438号パンフレットを参照されたい)、およびBI8622(出典:Peter et al., EMBO Mol Med. 2014 Dec; 6(12): 1525-1541)の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0083】
有毛細胞は、振動に誘導される変位を組み合わせる頂端部不動毛束を介して、音をイオンチャネルの開閉へと変換する。集団の高割合で生じる、蝸牛有毛細胞の損傷および死滅は、有毛細胞の置換機構の欠如による広範な難聴の原因である。そして、前庭有毛細胞の損傷および死滅は、平衡感覚障害または機能障害を結果としてもたらしうる。
【0084】
上皮幹細胞マーカーであるLgr5は近年、有毛細胞を取り囲む、内耳の支持細胞(例えば、蝸牛支持細胞)内で発現することが示されており、Lgr5発現細胞は、通常は有糸分裂後における蝸牛感覚上皮内のWntにより刺激されると、増殖するように誘導されうるであろう。実際、Lgr5を発現させた支持細胞が、繁殖により、新たなLgr5陽性細胞をもたらし、かつ、Lgr5陰性である有毛細胞をもたらしたのに対し、この受容体を発現させなかった支持細胞は、有毛細胞をもたらさなかったことは、前駆細胞の役割と符合する。Wntの上方調節がまた、有毛細胞の分化も増大させることは、有毛細胞の分化の最大の調節因子である、上流の転写因子Atoh1の調節におけるその役割と符合する。Wntシグナル伝達に応答する、この分裂能と、有毛細胞へと分化させる効力との組合せは、Lgr5細胞が、蝸牛上皮の前駆細胞として作用していることを示唆した。Lgr5+細胞は、限定的ながら、損傷の後で、自発的に再生する能力を示したが、Wnt刺激に応答して分裂および分化し、かつ、Notch阻害に応答して、分化形質転換するそれらの能力は、限定的なものであり、新生仔動物だけで観察された。
【0085】
これらのデータは、Lgr5+細胞の、内耳(例えば、蝸牛)前駆細胞としての役割を裏付け、蝸牛核(cochlear sphere)としての繁殖により、ある程度の細胞の拡大を達成しえたが、異質な細胞集団は、他のシグナル伝達経路が、幹細胞の拡大および有毛細胞の分化に関与しうることも示唆した。さらに、自発的な再生能は、生後1週目以後に失われ、これらの前駆細胞の遺伝子発現の変化は、成体マウス蝸牛における、核形成能の喪失を結果としてもたらした。有毛細胞を置きかえる努力を、支持細胞の、有毛細胞への分化形質転換へと集中したが、機能的な蝸牛または前庭の再生は、これらの細胞を分裂させ、かつ、有毛細胞へと分化させる、両方の刺激を要請するであろう。本明細書では、スクリーニングを援用することにより、本発明者らは、内耳支持細胞(例えば、蝸牛または前庭の、Lgr5発現内耳支持細胞)の増殖および/または分化を促進する、経路および低分子を同定した。これらの拡大された内耳細胞は、例えば、哺乳動物における難聴を処置するのに使用しうる化合物を同定するために使用することができる。内耳支持細胞マーカーおよび有毛細胞マーカーについてのレポーター遺伝子(例えば、それぞれ、Lgr5レポーター遺伝子およびAtoh1レポーター遺伝子)を含むトランスジェニック動物から拡大された内耳細胞(例えば、Lgr5+内耳細胞)は、特に、有用である。
【0086】
内耳支持細胞の増殖および/または分化を促進する化合物
内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および拡大を促進する化合物の例は、レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤(例えば、表Kを参照されたい);表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;表Bに明示された骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達阻害剤;表Cに明示されたサイクリン依存性キナーゼ(CDK)活性化剤;表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;表Fに明示されたヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および表Iに明示されたcAMP応答エレメント結合性タンパク質(CREB)活性化剤を含むがこれらに限定されない。
【0087】
内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1(atonal homolog 1)+内耳有毛細胞)への分化を促進する化合物の例は、レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤(例えば、表Kを参照されたい);表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;表Cに明示されたCDK活性化剤;表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;表Fに明示されたHDAC阻害剤;表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;表Iに明示されたCREB活性化剤;および表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤を含むがこれらに限定されない。
【0088】
内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖を支持もしくは促進し、かつ/または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進する多数の化合物を、表1に明示する。
【0089】
本明細書では、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖を支持または促進する多数の化合物が記載され、TTNPB、化合物A、化合物B、化合物C、1-アザケンパウロン、BIO、WAY-316606、LDN-193189、およびアルスターパウロンのうちの1つまたは複数を含む。
【0090】
本明細書では、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進する多数の化合物が記載され、ボリノスタット、化合物A、化合物B、化合物C、1-アザケンパウロン、BIO、WAY-262611、NP031112、MG-132、IM-12、トリコスタチンA、HLY78、およびPF03084014のうちの1つまたは複数を含む。
【0091】
本発明の一部の実施形態では、表A~K中に列挙された化合物の誘導体もまた、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および/もしくは拡大を促進するか、または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進するのに使用することができる。表A~K中に列挙された化合物の誘導体は、親化合物とは構造が異なるが、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および拡大を促進するか、または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進する能力は保持する低分子である。化合物の誘導体は、ある特定の他の分子またはタンパク質とのその相互作用を、親化合物と比べて変化させうる。化合物の誘導体はまた、塩、付加物、または親化合物の他の変異体も含みうる。本発明の一部の実施形態では、本明細書で記載される、任意の化合物の誘導体(例えば、表A~K中に列挙された化合物のうちの、任意の1つの化合物)を、親化合物の代わりに使用することができる。一部の実施形態では、表A~IおよびK中に列挙された化合物の任意の誘導体を、拡大された内耳支持細胞の集団を作製する方法において使用することができる。一部の実施形態では、表A~DおよびF~K中に列挙された化合物の任意の誘導体を、内耳支持細胞の集団の、内耳有毛細胞の集団への分化を促進する方法において使用することができる。
【0092】
【表1-1】
【0093】
【表1-2】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
【表4】
【0097】
【表5】
【0098】
【表6-1】
【0099】
【表6-2】
【0100】
【表6-3】
【0101】
【表7-1】
【0102】
【表7-2】
【0103】
【表8】
【0104】
【表9】
【0105】
【表10-1】
【0106】
【表10-2】
【0107】
【表11-1】
【0108】
【表11-2】
【0109】
【表11-3】
【0110】
一部の実施形態では、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および拡大を促進するか、または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進するのに使用される、1つまたは複数の薬剤は、以下の経路、タンパク質、およびDNA応答エレメント:レチノイド受容体シグナル伝達経路、Wntシグナル伝達経路、BMPシグナル伝達経路、CDKシグナル伝達経路、Notchシグナル伝達経路、タンパク質分解経路、PI3K-Aktシグナル伝達経路、cAMP依存性経路、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)、および/またはE box DNA応答エレメントのうちの2つ以上の(例えば、3つ、4つ、5つ、またはそれ以上の)ものをターゲティングする薬剤の組合せを含む。
【0111】
一部の実施形態では、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および拡大を促進するか、または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進するのに使用される、1つまたは複数の薬剤は、薬剤の組合せ(例えば、各々が、表A~Kに明示された化合物から選択され、互いと異なる、2つの薬剤の組合せ;各々が、表A~Kに明示された化合物から選択され、互いと異なる、3つの薬剤の組合せ;各々が、表A~Kに明示された化合物から選択され、互いと異なる、4つの薬剤の組合せ;および各々が、表A~Kに明示された化合物から選択され、互いと異なる、5つの薬剤の組合せ)を含む。
【0112】
各々が、表A~Kに明示された化合物から選択される、2つの薬剤の組合せを使用して、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および拡大を促進するか、または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進する場合、組み合わされた2つの薬剤は、表Lに列挙された組合せに基づき選択することができる。
【0113】
【表12】
【0114】
代替的に、本発明はまた、レチノイド受容体シグナル伝達経路、Wntシグナル伝達経路、BMPシグナル伝達経路、CDKシグナル伝達経路、Notchシグナル伝達経路、タンパク質分解経路、PI3K-Aktシグナル伝達経路、および/またはcAMP依存性経路に関与する、1つまたは複数のタンパク質を使用して、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および拡大を促進するか、または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進するように、これらの経路を下方調節または上方調節する方法も想定する。
【0115】
方法についての一部の実施形態では、RARおよび/またはRXRを使用して、レチノイド受容体シグナル伝達経路を上方調節することができる。
【0116】
方法についての一部の実施形態では、RSPO、Norrin、Wnt3a、および/またはWnt5aを使用して、Wntシグナル伝達経路を上方調節することができる。
【0117】
方法についての一部の実施形態では、Noggin および/または Chordinを使用して、BMPシグナル伝達経路を下方調節することができる。
【0118】
方法についての一部の実施形態では、CDKおよび/またはサイクリンを使用して、CDKシグナル伝達経路を上方調節することができる。
【0119】
方法についての一部の実施形態では、Delta/Serrate/Lag-2ペプチドおよび/またはNotch受容体を使用して、Notchシグナル伝達経路を上方調節することができる。
【0120】
方法についての一部の実施形態では、ユビキチンのレベルを低下させて、タンパク質分解経路を下方調節することができる。
【0121】
方法についての一部の実施形態では、Akt、PI3-キナーゼ、および/またはPDK1のレベルを低下させて、PI3K-Aktシグナル伝達経路を下方調節することができる。
【0122】
方法についての一部の実施形態では、CREBタンパク質のレベルを上昇させて、cAMP依存性経路を上方調節することができる。
【0123】
方法についての一部の実施形態では、E box DNA応答エレメントに結合する、1つまたは複数の転写因子のレベルを上昇させて、E box依存性転写を上方調節することができる。
【0124】
方法についての一部の実施形態では、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)のレベルを低下させて、HDAC 活性を下方調節することができる。
【0125】
代替的に、本発明はまた、1つまたは複数の成長因子を使用して、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および拡大を促進するか、または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進するために、以下の経路:レチノイド受容体シグナル伝達経路、Wntシグナル伝達経路、BMPシグナル伝達経路、CDKシグナル伝達経路、Notchシグナル伝達経路、タンパク質分解経路、PI3K-Aktシグナル伝達経路、および/またはcAMP依存性経路のうちの1つまたは複数を下方調節または上方調節する方法も想定する。
【0126】
方法についての一部の実施形態では、成長因子は、表皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、および/またはインスリン様成長因子(IGF1)を含むがこれらに限定されない。
【0127】
トランスジェニック動物および使用法
一態様では、本発明は、2つ以上の(例えば、2つ、3つ、もしくは4つ、またはそれ以上の)組換え核酸分子を、それらのゲノムへと安定的に組み込んだ、非ヒトトランスジェニック動物を提供する。2つ以上の組換え核酸分子は、Lgr5、Sox2、p27、Prox1、FGFR3、Glast、およびLfng(例えば、Lgr5)からなる群から選択される内耳支持細胞マーカーの調節エレメントの制御下で第1のレポーター遺伝子(例えば、蛍光マーカー)を含む少なくとも第1の組換え核酸分子、ならびにAtoh1、Myo7a、Cdh23、Pcdh15、Myo6、Myo1c、Tmc1、およびCav1.3(例えば、Atoh1)からなる群から選択される内耳有毛細胞マーカーの調節エレメントの制御下で第2のレポーター遺伝子を含む第2の組換え核酸分子を含み、この場合、第1のレポーター遺伝子は、第2のレポーター遺伝子と異なる。
【0128】
本発明はまた、多様な遺伝子操作技術を使用して、細胞またはトランスジェニック動物において、1つまたは複数のレポーターを発生させることも想定する。一部の実施形態では、多様な遺伝子操作法を使用して、細胞またはトランスジェニック動物において、2つ以上のレポーターを発生させることができる。遺伝子操作法の例は、CRISPR/Cas系を使用する技術、Creリコンビナーゼ-loxP組換え系を使用する技法、Cre-Lox組換え系を使用する技法、Flp-FRT組換え系を使用する技法、およびRMCE(リコンビナーゼ媒介型カセット交換)系を使用する技法を含むがこれらに限定されない。
【0129】
一部の実施形態では、内耳支持細胞マーカーは、Lgr5であり、内耳有毛細胞マーカーは、Atoh1である。一部の実施形態では、内耳支持細胞マーカーの調節エレメントは、Lgr5プロモーターである。一部の実施形態では、内耳有毛細胞マーカーの調節エレメントは、Atoh1エンハンサーである。一部の実施形態では、Atoh1エンハンサーは、SV40プロモーターまたはグロビンプロモーターに作動可能に連結される。
【0130】
一部の実施形態では、第1のレポーター遺伝子は、第1の蛍光タンパク質をコードし、第2のレポーター遺伝子は、第2の蛍光タンパク質をコードし、第1の蛍光タンパク質は、第2の蛍光タンパク質と異なる。
【0131】
一部の実施形態では、Lgr5の発現は、第1の蛍光マーカー(Lgr5レポーターのトランス遺伝子)の発現を結果としてもたらす。一部の実施形態では、Atoh1の発現は、第2の蛍光マーカー(Atoh1レポーターのトランス遺伝子)の発現を結果としてもたらす。好ましい実施形態では、その体細胞および生殖細胞の全てにおいて、Lgr5レポータータンパク質およびAtoh1レポータータンパク質のトランス遺伝子を含有するマウスを得る。第1のマーカーと、第2のマーカーとは、互いから識別可能であるものとする。一部の実施形態では、第1のマーカーおよび第2のマーカーは、細胞内で、緑色蛍光および赤色蛍光を生成する。本明細書では、蛍光マーカーを例示するが、他のマーカー(レポーター遺伝子)もまた、使用することができ、適切な酵素の例は、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、またはアセチルコリンエステラーゼを含み;適切な蛍光材料の例は、ウンベリフェロン、フルオレセイン、イソチオシアン酸フルオレセイン、ローダミン、ジクロロトリアジニルアミンフルオレセイン、ダンシルクロリド、またはフィコエリトリンを含み;生物発光材料の例は、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、およびエクオリンを含む。当技術分野では、他の多数の例も公知である。一部の実施形態では、マーカーのうちの1つは、緑色蛍光タンパク質またはその誘導体、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、シアン蛍光タンパク質(CFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、mCherry、Tag-RFPなど)、発光レポーター(ラネラ(Ranella)属、ホタルなど)であるルシフェラーゼ、色原体(ベータ-Galなど)などである。例えば、Pollock et al., Trends in Cell Biology 9:57 (1999)を参照されたい。有用な蛍光タンパク質はまた、蛍光発光する能力を保持する、これらのタンパク質の突然変異体およびスペクトル変異体も含む。例えば、Shaner et al., Nat. Biotech. 22:1567 (2004), Tag-RFP (Shaner, N. C. et al., 2008 Nature Methods, 5(6), 545-551)を参照されたい。記載される方法で使用しうる他の蛍光のタンパク質は、AcGFP、AcGFP1、AmCyan、copGFP、CyPet、dKeima-Tandem、DsRed、dsRed-Express、DsRed-Monomer、DsRed2、AmCyan1、AQ143、AsRed2、Azami Green、Azurite、BFP、Cerulean、CFP、CGFP、Citrine、dTomato、dTomato-Tandem、EBFP、EBFP2、ECFP、EGFP、Emerald、EosFP、EYFP、GFP、mBanana、mCerulean、mCFP、mCherry、mCitrine、mECFP、mEmerald、mGrape1、mGrape2、mHoneydew、Midori-Ishi Cyan、mKeima、mKO、mOrange、mOrange2、mPlum、mRaspberry、mRFP1、mRuby、mStrawberry、mTagBFP、mTangerine、mTeal、mTomato、mTurquoise、mWasabi、PhiYFP、ReAsH、Sapphire、Superfolder GFP、T-HcRed-Tandem、HcRedl、JRed、Katuska、Kusabira Orange、Kusabira Orange2、mApple、Sapphire、TagCFP、TagGFP、TagRFP、TagRFP-T、TagYFP、tdTomato、Topaz、TurboGFP、Venus、YFP、YPet、ZsGreen、およびZsYellowlを含むがこれらに限定されず、これらの全ては当技術分野で公知であり、例えば、文献に記載されているか、またはそうでなければ市販されている。
【0132】
「トランスジェニック動物」とは、哺乳動物、一般に、ラットまたはマウスなどの齧歯動物などの非ヒト動物であり、動物の細胞のうちの1つまたは複数は、本明細書で記載されるトランス遺伝子を含む。トランスジェニック動物の他の例は、非ヒト霊長動物、ヒツジ、イヌ、ウシ、ヤギ、ニワトリ、両生動物などを含む。「トランス遺伝子」とは、トランスジェニック動物が発生する細胞のゲノムへと組み込まれ、したがって、成熟動物のゲノム内にとどまり、これにより、トランスジェニック動物の、1つまたは複数の細胞型内または組織内でコードされる遺伝子産物の発現を方向付ける外因性DNAである。遺伝子の挿入を含むノックイン動物は、トランスジェニック動物の定義に含まれる。
【0133】
本明細書で使用される「Lgr5レポーターのトランス遺伝子」または「Atoh1レポーターのトランス遺伝子」とは、Lgr5またはAtoh1を発現させる細胞内のレポータータンパク質の発現を結果としてもたらすように、Lgr5プロモーターまたはAtoh1プロモーターの下流に挿入されるレポータータンパク質のコード配列を特色とする構築物を指す。プロモーターは、レポータータンパク質の発現を駆動し、転写は、ポリアデニル化シグナルにより停止させる。トランス遺伝子は一般に、トランスジェニック動物の細胞のゲノムへと組み込まれるか、またはこの中で生じる。したがって、本明細書で記載されるLgr5/Atoh1トランスジェニック動物とは、Lgr5レポーターのトランス遺伝子の、少なくとも1つのコピーと、Atoh1レポーターのトランス遺伝子の、少なくとも1つのコピーとを、動物の細胞、例えば、動物の発生の前における、動物の胚細胞へと導入したトランスジェニック動物である。Lgr5レポーターのトランス遺伝子と、Atoh1レポーターのトランス遺伝子とを、それらの細胞の一部または(好ましくは)全部において保有するトランスジェニック動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、または他の哺乳動物)の系列を作製することができる。このようなトランスジェニック動物を作出するための、当技術分野で公知の方法を、例えば、下記で記載される通りに使用する。
【0134】
トランスジェニック動物を作製するための、当技術分野で公知の方法を使用して、Lgr5レポーターのトランス遺伝子またはAtoh1レポーターのトランス遺伝子を保有する動物、例えば、マウスを作出することができる(例えば、それらの両方が、それらの全体において本明細書に組み込まれる、Barker et al., Nature. 2007 Oct 25;449(7165):1003;およびLumpkin et al., Gene Expr Patterns. 2003 Aug;3(4):389を参照されたい)。このような動物を交配させて、Lgr5レポーターのトランス遺伝子、およびAtoh1レポーターのトランス遺伝子の両方に対してホモ接合性である後代、すなわち、Lgr5レポーターのトランス遺伝子と、Atoh1レポーターのトランス遺伝子とをゲノムへと組み込んだ後代を作製することができる。
【0135】
例えば、一実施形態では、Lgr5レポーターのトランス遺伝子またはAtoh1レポーターのトランス遺伝子をコードする配列を含む、適切なベクターを、細胞、例えば、受精した卵母細胞または胚性幹細胞へと導入する。次いで、このような細胞を使用して、前記配列を、それらのゲノムへと導入した、非ヒトトランスジェニック動物を創出することができる。次いで、これらの動物を、例えば、特異的な細胞内もしくは組織内、または発生の特異的な時点において、レポータータンパク質の発現をオンにする、Lgr5プロモーターまたはAtoh1プロモーターの制御下で、リコンビナーゼを発現させる、他のトランスジェニック動物と交配させることができる。
【0136】
当技術分野では、多能性幹細胞または卵母細胞の胚操作および電気穿孔またはマイクロインジェクションを介して、トランスジェニック動物、特にマウスなどの動物を作出するための方法が公知であり、例えば、米国特許第4,736,866号明細書および同第4,870,009号明細書、米国特許第4,873,191号明細書、米国シリアルナンバー第10/006,611号、”Transgenic Mouse Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology),” Hofker and van Deursen, Editors (Humana Press, Totowa, N.J., 2002)、および“Manipulating the Mouse Embryo,” Nagy et al., Editors (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 2002)に記載されており、これらは、参照によりこれらの全体が本明細書に組み込まれる。トランスジェニックマウスを創出するのに使用される方法と類似の方法は、他のトランスジェニック動物を作製するためにも使用することができる。
【0137】
一般に、本方法では、本明細書で記載されるトランスジェニックマウスを、本明細書で記載された通りに作製されたベクターを、受精させたマウス卵母細胞(例えば、Lgr5レポーター遺伝子をノックインされたマウスに由来する卵母細胞;Barker et al., Nature. 2007 Oct 25;449(7165):1003を参照されたい)の前核へと注入することにより作製し、例えば、“Transgenic Mouse Methods and Protocols (Methods in Molecular Biology),” Hofker and van Deursen, Editors (Humana Press, Totowa, N.J., 2002);米国特許第4,736,866号明細書および同第4,870,009号明細書、米国特許第4,873,191号明細書および同第6,791,006号明細書、ならびにHogan, “Manipulating the Mouse Embryo,” Nagy et al., Editors (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 2002)に記載されているような標準的なトランスジェニック技法を使用して、全ての細胞内でLgr5レポーター遺伝子およびAtoh1レポーターのトランス遺伝子を発現させたトランスジェニックマウスを作出するために使用する。レポーター遺伝子は、全ての細胞内、例えばプラスミド上で、維持および発現させることもでき、標準的な分子技術を使用して、ゲノムへと安定的に組み込むこともできる。
【0138】
Lgr5/Atoh1トランスジェニック創始動物は、そのゲノム内の、Lgr5レポーターのトランス遺伝子、およびAtoh1レポーターのトランス遺伝子の存在に基づき、例えば、動物の組織内または細胞内の、レポーター配列またはタンパク質の存在または発現を検出することにより同定することができる。次いで、トランスジェニック創始動物を使用して、トランス遺伝子を保有するさらなる動物を繁殖させることができる。さらに、Lgr5レポーターのトランス遺伝子と、Atoh1レポーターのトランス遺伝子とを保有するトランスジェニック動物を、他のトランス遺伝子を保有する他のトランスジェニック動物へと、さらに繁殖させることもできる。
【0139】
ベクター
本明細書で記載されるマウスは、ベクター、例えば、本明細書で記載される、Lgr5レポーターのトランス遺伝子またはAtoh1レポーターのトランス遺伝子をコードする核酸を含有する発現ベクターを使用して作製することができる。本明細書で使用される「ベクター」という用語は、それが連結された別の核酸を輸送することが可能な核酸分子を指し、プラスミド、コスミド、またはウイルスベクターを含みうる。ベクターは、自律的な複製が可能な場合もあり、宿主DNAへと組み込まれる場合もある。ウイルスベクターは、例えば、複製欠損性のレトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルスを含む。
【0140】
ベクターは、Lgr5レポータータンパク質またはAtoh1レポータータンパク質をコードする核酸を、宿主細胞内の核酸の発現に適する形態で含みうる。好ましくは、組換え発現ベクターは、発現させる核酸配列へと作動的に連結された1つまたは複数の調節配列を含む。「調節配列」という用語は、プロモーター、エンハンサー、および他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含む。調節配列は、ヌクレオチド配列の構成的発現を方向付ける配列のほか、組織特異的な調節配列および/または誘導配列を含む。発現ベクターのデザインは、形質転換される宿主細胞の選択、所望されるタンパク質の発現レベルなどの因子に依存しうる。本発明の発現ベクターを、宿主細胞へと導入して、これにより、本明細書で記載される核酸によりコードされる、Lgr5レポーターおよびAtoh1レポーターを作製することができる。
【0141】
本明細書で記載される組換え発現ベクターは、原核細胞内または真核細胞内の、Lgr5レポータータンパク質およびAtoh1レポータータンパク質の発現のためにデザインすることができる。例えば、本発明のポリペプチドは、大腸菌(E. coli)内、昆虫細胞(例えば、バキュロウイルス発現ベクターを使用する)内、酵母細胞内、または哺乳動物細胞内で発現させることができる。適切な宿主細胞については、Goeddel, “Gene Expression Technology: Methods in Enzymology 185,” Academic Press, San Diego, CA (1990)において、さらに論じられている。代替的に、組換え発現ベクターは、例えば、T7プロモーター調節配列およびT7ポリメラーゼを使用して、in vitroにおいて転写および翻訳することができる。
【0142】
一部の実施形態では、実施例5で記載されるAtoh1エンハンサーを使用して、レポーター遺伝子の発現を駆動する。
【0143】
細胞
別の態様では、本発明は、本明細書で記載される核酸分子、例えば、組換え発現ベクター内で、Lgr5レポータータンパク質もしくはAtoh1レポータータンパク質をコードする核酸分子、または宿主細胞ゲノムの特異的な部位への相同組換えを可能とする配列を含有する核酸分子を含む単離細胞を提供する。本明細書では、「宿主細胞」および「組換え宿主細胞」という用語を、互換的に使用する。このような用語は、核酸分子(例えば、本明細書で記載されるベクター)と接触させた特定の対象細胞を指すだけではなく、それらもまた核酸分子を含有する、このような細胞の後継または潜在的な後継も指す。ある特定の改変は、突然変異または環境的影響のために、後続の世代においても生じうるため、このような後継は、実際、親細胞と同一ではない場合もあるが、これらもまた、核酸分子を含有する限りにおいて、なお、本明細書で使用される用語の範囲内に含まれる。
【0144】
宿主細胞は、任意の原核細胞または真核細胞でありうる。例えば、細胞は、大腸菌(E. coli)などの細菌細胞、昆虫細胞、酵母細胞、または哺乳動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、HEK、またはCOS細胞など)でありうる。当業者には、他の適切な宿主細胞も公知である。ベクターが、組換え細胞から作製されうるウイルスベクター、例えばレトロウイルスベクターである場合、細胞は、ウイルスベクターを産生する細胞でありうる。
【0145】
ベクターDNAは、従来の形質転換技術またはトランスフェクション法を介して、宿主細胞へと導入することができる。本明細書で使用された、「形質転換」および「トランスフェクション」という用語は、外来核酸(例えば、DNA)を、宿主細胞へと導入するための、当技術分野で認知された様々な技法であって、リン酸カルシウムまたは塩化カルシウム共沈殿、DEAE-デキストラン媒介型トランスフェクション、リポフェクション、または電気穿孔を含む技法を指すことを意図する。一部の実施形態では、単純に、ネイキッドDNAを、細胞へと適用する。ベクターがウイルスベクターである場合、公知の感染プロトコールを使用することができる。
【0146】
例えば、レトロウイルスベクターは、例えばRobertson et al., Nature 323:445-448 (1986)に記載されている通りに使用することができる。レトロウイルスは一般に、フランキング配列の再配列を伴わずに、宿主ゲノムへと組み込まれるが、DNAを、マイクロインジェクションまたは他の方法により導入する場合、常にこれが当てはまるわけではない。
【0147】
本発明の細胞はまた、本明細書で記載されるトランスジェニック動物から得られる細胞、例えば、核酸分子を含有するそれらの動物の組織に由来する細胞も含む。
【0148】
配列の同一性
2つのアミノ酸配列、または2つの核酸配列の同一性パーセントを決定するには、最適な比較を目的として、配列をアライメントする(例えば、最適なアライメントのために、第1のアミノ酸配列または核酸配列および第2のアミノ酸配列または核酸配列の一方または両方に、ギャップを導入することができ、相同でない配列は、比較を目的として無視することができる)。比較を目的としてアライメントされる基準配列の長さは、基準配列の長さの少なくとも80%であり、一部の実施形態では、少なくとも90%、95%、または100%である。次いで、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置におけるアミノ酸残基またはヌクレオチドを比較する。第1の配列内の位置が、第2の配列内の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドにより占有されている場合、分子は、この位置において同一である。2つの配列の間の同一性パーセントとは、2つの配列の最適なアライメントのために導入する必要がある、ギャップの数および各ギャップの長さを考慮に入れるときに、配列により共有される、同一な位置の数の関数である。
【0149】
2つの配列の間の配列の比較、および同一性パーセントの決定は、数学的アルゴリズムを使用して達成することができる。本方法のためには、2つのアミノ酸配列の間の同一性パーセントは、デフォルトのパラメータ、すなわち、ギャップペナルティーを12とし、ギャップ伸長ペナルティーを4とし、フレームシフトギャップペナルティーを5とする、Blossom 62スコアリング行列を使用する、GCGソフトウェアパッケージ(インターネットのgcg.comで入手可能である)内のGAPプログラムへと組み込まれた、Needleman and Wunsch((1970) J. Mol. Biol. 48:444-453)によるアルゴリズムを使用して決定する。
【0150】
当技術分野では、本方法で有用なトランス遺伝子を構築するための方法が公知であり、例えば、Sambrook and Russell, “Molecular Cloning: A Laboratory Manual,” Cold Spring Harbor Laboratory Press; 3rd Labman edition (January 15, 2001); and Ausubel et al., Eds., “Short Protocols in Molecular Biology,”Current Protocols; 5 edition (November 5, 2002)を参照されたい。一部の実施形態では、市販のベクターを、本明細書で記載される核酸分子、例えば、pC4M-Fv2E(Ariad Pharmaceuticals、Cambridge、MAから入手可能である)の構築において使用することができる。
【0151】
スクリーニング法
本明細書には、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、無機高分子もしくは無機低分子または有機高分子もしくは有機低分子である被験化合物(例えば、表A~Kに列挙された化合物)などの被験化合物をスクリーニングするための方法であって、蝸牛有毛細胞(例えば、内耳内の蝸牛有毛細胞)の喪失と関連する難聴の処置において有用な薬剤を同定する方法が含まれる。
【0152】
本開示は、蝸牛有毛細胞または前庭有毛細胞の喪失と関連する難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤を同定するための方法であって、(a)内耳支持細胞の集団(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)を、本明細書で記載されるトランスジェニックマウスから単離するステップ;(b)内耳支持細胞の集団を、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件下で維持するステップ;(c)被験化合物を、拡大された内耳支持細胞の集団へと投与するステップ;(d)被験化合物の存在下での、拡大された内耳支持細胞の集団内の第1のレポーター遺伝子および第2のレポーター遺伝子の発現レベルを検出するステップ;ならびに(e)難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤として、第1のレポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下における第1のレポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させ、かつ/または第2のレポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下における第2のレポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させる被験化合物を選択するステップを含む方法を提示する。
【0153】
一部の実施形態では、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件は、表1に明示された、1つまたは複数の薬剤を含む。
【0154】
本開示はまた、蝸牛有毛細胞または前庭有毛細胞の喪失と関連する難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤を同定するための方法であって、(a)Lgr5、Sox2、p27、Prox1、FGFR3、Glast、およびLfngからなる群から選択される内耳支持細胞マーカーの調節エレメントの制御下でレポーター遺伝子を含む組換え核酸分子を安定的に組み込んだ内耳支持細胞の集団を用意するステップ;(b)内耳支持細胞の集団を、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件下で維持するステップであり、条件が、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤、(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤、(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤、(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤、(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤、(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤、(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤、(viii)表Gに明示された タンパク質分解阻害剤、(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤、および(x)表Iに明示されたCREB活性化剤からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤を含む、ステップ;(c)被験化合物を、拡大された内耳支持細胞の集団へと投与するステップ;(d)被験化合物の存在下での、拡大された内耳支持細胞の集団内のレポーター遺伝子の発現レベルを検出するステップ;ならびに(e)難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤として、レポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下におけるレポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させる被験化合物を選択するステップを含む方法も提示する。
【0155】
本開示はまた、蝸牛有毛細胞または前庭有毛細胞の喪失と関連する難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤を同定するための方法であって、(a)Atoh1、Myo7a、Cdh23、Pcdh15、Myo6、Myo1c、Tmc1、およびCav1.3からなる群から選択される内耳有毛細胞マーカーの調節エレメントの制御下でレポーター遺伝子を含む組換え核酸分子を安定的に組み込んだ内耳支持細胞の集団を用意するステップ;(b)内耳支持細胞の集団を、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件下で維持するステップであり、条件が、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤、(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤、(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤、(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤、(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤、(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤、(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤、(viii)表Gに明示された タンパク質分解阻害剤、(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤、および(x)表Iに明示されたCREB活性化剤からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤を含む、ステップ;(c)被験化合物を、拡大された内耳支持細胞の集団へと投与するステップ;(d)被験化合物の存在下での、拡大された内耳細胞の集団内のレポーター遺伝子の発現レベルを検出するステップ;ならびに(e)難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤として、レポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下におけるレポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させる被験化合物を選択するステップを含む方法も提示する。
【0156】
本開示はまた、有毛細胞を使用して、オトトキシンについてスクリーニングする方法も提示する。本開示はまた、オトトキシンにより引き起こされる有毛細胞の損傷に対する保護特性を呈示する、1つまたは複数の化合物(例えば、表A~Kに列挙された化合物)を同定する方法も提示する。一部の実施形態では、オトトキシンは、抗新生物剤、サリチル酸塩、キニン、およびアミノグリコシド抗生剤を含む治療用薬物、食品中または医薬品中の共雑物、ならびに環境汚染物質または産業汚染物質を含む。本開示はまた、有毛細胞を使用して、シナプス接続を同定する方法も提示する。一部の実施形態では、これらの方法で使用される有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)を、哺乳動物(例えば、マウスまたはヒト)から単離することができる。一部の実施形態では、これらの方法で使用される有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)を、記載される通り、本明細書で提示される方法により、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)から分化させることができる。
【0157】
本明細書で使用される「低分子」とは、分子量約3,000ドルトン未満の有機低分子または無機低分子を指す。一般に、本発明に有用な低分子は、3,000ドルトン(Da)未満の分子量を有する。低分子は、例えば、少なくとも約100Da~約3,000Da(例えば、約100~約3,000Da、約100~約2500Da、約100~約2,000Da、約100~約1,750Da、約100~約1,500Da、約100~約1,250Da、約100~約1,000Da、約100~約750Da、約100~約500Da、約200~約1500、約500~約1000、約300~約1000Da、または約100~約250Daの間)でありうる。
【0158】
被験化合物(例えば、表A~Kおよび表1に列挙された化合物)は、例えば、天然の産物またはコンビナトリアル化学ライブラリーのメンバーでありうる。電荷、芳香族性、水素結合、可撓性、サイズ、側鎖の長さ、疎水性、および剛性など、様々な機能を網羅するように、多様な分子のセットを使用するものとする。当技術分野では、例えば、Obrecht and Villalgordo, Solid-Supported Combinatorial and Parallel Synthesis of Small-Molecular-Weight Compound Libraries, Pergamon-Elsevier Science Limited (1998)により例示されている通り、低分子を合成するのに適するコンビナトリアル技術が公知であり、「スプリットおよびプール」合成法または「パラレル」合成法、固相法および液相法、ならびにコード法(例えば、Czarnik, Curr. Opin. Chem. Bio. 1:60-6 (1997)を参照されたい)などを含む。加えて、多数の低分子ライブラリーも市販されている。多数の適切な低分子被験化合物は、米国特許第6,503,713号明細書において列挙されており、参照によりその全体において本明細書に組み込まれる。
【0159】
本発明の方法を使用してスクリーニングされるライブラリーは、様々な種類の被験化合物(例えば、表A~Kおよび表1に列挙された化合物)を含みうる。所与のライブラリーは、構造的に類縁または非類縁の被験化合物のセットを含みうる。一部の実施形態では、被験化合物は、ペプチドまたはペプチド模倣分子である。一部の実施形態では、被験化合物は、核酸である。
【0160】
一部の実施形態では、被験化合物およびそのライブラリーは、例えば、当技術分野で公知の方法または本明細書で記載される方法を使用して、第1の被験化合物、例えば、標的ポリペプチドの公知の天然結合性パートナーと構造的に類似する第1の被験化合物、または標的ポリペプチドに結合することが可能であるものとして同定されている第1の低分子の構造を体系的に変更し、この構造を、結果として得られる生物学的活性、例えば、構造-活性関係の研究と相関させることにより得ることができる。当業者が察知する通り、このような構造-活性関係を創出するための、様々な標準的な方法が存在する。したがって、ある場合には、作業は、大部分、経験的でありうるが、他の場合には、内因性ポリペプチドまたはその一部についての三次元構造を、1つまたは複数の低分子化合物の合理的なデザインの出発点として使用しうる。例えば、一実施形態では、例えば、本明細書で記載される方法を使用して、一般的な低分子ライブラリーをスクリーニングする。
【0161】
一部の実施形態では、被験化合物(例えば、表A~Kおよび表1に列挙された化合物)を、被験試料、例えば、細胞または生存組織もしくは生存器官、例えば眼へと適用し、被験化合物の1つまたは複数の効果を評価する。例えば、培養細胞内または初代細胞内で、支持細胞マーカー(例えば、Lgr5)および/または有毛細胞マーカー(例えば、Atoh1)の発現を増大させる被験化合物の能力について評価する。
【0162】
一部の実施形態では、被験試料は、本明細書で記載される障害のin vivoモデルであるか、またはこれに由来しうる(例えば、これから採取された試料)。例えば、動物モデル、例えばラットなどの齧歯動物を使用することができる。
【0163】
当技術分野では、これらの効果の各々について評価するための方法が公知である。例えば、タンパク質の発現をモジュレートする能力は、例えば定量的PCR法またはイムノアッセイ法を使用して、遺伝子レベルで評価することもでき、またはタンパク質レベルで評価することもできる。一部の実施形態では、当技術分野では、ハイスループット法、例えば、タンパク質チップまたは遺伝子チップが公知であり(例えば、Ch. 12, Genomics, in Griffiths et al., Eds. Modern genetic Analysis, 1999, W. H. Freeman and Company; Ekins and Chu, Trends in Biotechnology, 1999, 17:217-218; MacBeath and Schreiber, Science 2000, 289(5485):1760-1763; Simpson, Proteins and Proteomics: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press; 2002; Hardiman, Microarrays Methods and Applications: Nuts & Bolts, DNA Press, 2003を参照されたい)、支持細胞マーカー(例えば、Lgr5)および/または有毛細胞マーカー(例えば、Atoh1)の発現に対する効果を検出するのに使用することができる。
【0164】
本明細書で記載される方法によりスクリーニングされ、Lgr5および/またはAtoh1の発現を増大させることが決定された被験化合物(例えば、表A~Kおよび表1に列挙された化合物)は、候補化合物と考えることができる。例えば、障害についてのin vivoモデル、例えば難聴についての動物モデルにおいてスクリーニングされ、障害、例えば障害の1つもしくは複数の症状または有毛細胞の数に対して、望ましい効果を及ぼすことが決定された候補化合物は、候補治療剤と考えることができる。候補治療剤は、臨床状況においてスクリーニングされると、治療剤となる。候補化合物、候補治療剤、および治療剤は、任意選択で、最適化および/または誘導体化し、かつ、生理学的に許容される賦形剤と共に製剤化して、医薬組成物を形成しうる。
【0165】
したがって、第1のスクリーニングにおいて、「ヒット」(例えば、Lgr5および/またはAtoh1の発現を増大させる被験化合物)として同定された被験化合物を選択し、例えば、結合アフィニティー、アビディティー、特異性、または他のパラメータを最適化するように、合理的デザインを使用して、体系的に変更することができる。このような最適化もまた、本明細書で記載される方法を使用してスクリーニングすることができる。したがって、一実施形態では、本発明は、当技術分野で公知の方法、および/または本明細書で記載される方法を使用して、化合物の第1のライブラリーをスクリーニングすることと、このライブラリー内で、1つまたは複数のヒットを同定することと、これらのヒットを、体系的な構造的変更下に置いて、ヒットと構造的に類縁の化合物の第2のライブラリーを創出することと、本明細書で記載される方法を使用して、第2のライブラリーをスクリーニングすることとを含む。
【0166】
ヒットとして同定された被験化合物は、本明細書で記載される蝸牛有毛細胞(例えば、内耳内の蝸牛有毛細胞)の喪失と関連する障害、例えば難聴の処置において有用な、候補治療用化合物と考えることができる。「ヒット」の構造を決定するために有用な様々な技法を、本明細書で記載される方法、例えば、NMR、質量分析計、電子捕捉検出器を装備したガスクロマトグラフィー、蛍光分光法、および吸光分光法において使用することができる。したがって、本発明はまた、本明細書で記載される方法、ならびに本明細書で記載される障害を処置するか、防止するか、またはその発生もしくは進行を遅延させるときに、それらを投与および使用するための方法により「ヒット」として同定される化合物も含む。
【0167】
候補治療用化合物として同定された被験化合物は、本明細書で記載される蝸牛有毛細胞(例えば、内耳内の蝸牛有毛細胞)の喪失と関連する障害についての動物モデルへの投与により、さらにスクリーニングすることもできる。動物を、障害の変化、例えば、障害のパラメータ、例えば臨床転帰と関連するパラメータの改善についてモニタリングすることができる。一部の実施形態では、パラメータは、聴能であり、改善は、聴応答の改善であろう。一部の実施形態では、対象は、ヒト、例えば、難聴を伴うヒトであり、パラメータは、聴力の改善である。
【0168】
処置法
一部の実施形態では、本開示は、それぞれ、蝸牛有毛細胞(例えば、内耳内の蝸牛有毛細胞)または前庭有毛細胞の喪失と関連する難聴または平衡感覚障害(すなわち、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および分化の増大から利益を得る状態)を処置するための、新規の治療戦略を提示する。一部の実施形態では、このような戦略は、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖の増大、および/または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化の増大を促進し、これにより、標的細胞の、内耳の成熟細胞、例えば聴覚有毛細胞への拡大および分化を促進しうる。一部の実施形態では、本明細書で記載される方法および組成物は、実質的な細胞増殖の促進を伴わずに、標的細胞(例えば、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞))の、内耳の成熟細胞、例えば聴覚有毛細胞(例えば、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞))への分化またはそれに向かった分化を促進する。一部の実施形態では、本明細書で記載される方法および組成物は、実質的な細胞増殖の促進を伴わずに、標的細胞(例えば、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞))の増殖を促進する。
【0169】
一部の実施形態では、本発明は、例えば、1つまたは複数の細胞(例えば、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞))の、耳の感覚細胞、例えば有毛細胞(例えば、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞))として機能することが可能な、1つまたは複数の細胞への分化(例えば、完全な分化または部分的な分化)を促進することにより、聴覚機能障害、聴覚消失、および前庭障害など、耳内の細胞の喪失の結果として生じる有毛細胞の喪失および任意の障害を処置するのに使用することができる。
【0170】
一部の実施形態では、難聴は、蝸牛の損傷または機能不全、例えば有毛細胞の喪失を結果としてもたらす、感覚上皮の喪失または感覚上皮への損傷から生じうる感覚神経的難聴である。
【0171】
一部の実施形態では、難聴は、任意の理由による場合もあり、任意の種類の事象の結果としての場合もある。例えば、遺伝性欠損または先天性欠損のため、例えば、ヒト対象は、出生時から耳が不自由である場合もあり、遺伝性欠損または先天性欠損による聴力が徐々に失われた結果として、耳が不自由であるまたは聞こえにくい場合もある。別の例では、難聴は、耳の構造に対する物理的外傷、または突発的な騒音もしくは長時間にわたる騒音への曝露など、外傷性事象の結果でありうる。例えば、長時間にわたるコンサート会場、空港の滑走路、および建築現場への曝露は、内耳損傷および後続の難聴を引き起こしうる。
【0172】
一部の実施形態では、難聴は、化学物質に誘導される中毒性難聴に起因する場合があり、この場合、オトトキシンは、抗新生物剤、サリチル酸塩、キニン、およびアミノグリコシド抗生剤を含む治療用薬物、食品中または医薬品中の共雑物、ならびに環境汚染物質または産業汚染物質を含む。一部の実施形態では、難聴は、老化から生じうる。
【0173】
一部の実施形態では、本開示は、難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法であって、
(a)治療有効量の、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(viii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および(x)表Iに明示されたCREB活性化剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つもしくは複数の薬剤;ならびに/または
(b)治療有効量の、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(vii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(viii)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;(ix)表Iに明示されたCREB活性化剤;および(x)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つもしくは複数の薬剤を、対象、例えば、対象の耳へと投与して、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖、および/または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化(直接的治療)を促進する、
方法を提示する。
【0174】
一部の実施形態では、本開示は、難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法であって、
(a)治療有効量の、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;および(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つもしくは複数の薬剤;ならびに/または
(b)治療有効量の、(i)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(ii)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(iii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(iv)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;および(v)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つもしくは複数の薬剤を、対象、例えば、対象の耳へと投与して、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖、および/または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進する、
方法を提示する。
【0175】
難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法についての一部の実施形態では、1つまたは複数の薬剤を、全身投与するか、または対象の耳へと投与する、例えば、対象の中耳へと経鼓膜投与する。一部の実施形態では、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤を、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進する1つまたは複数の薬剤の前に投与する。
【0176】
本開示はまた、
(a)1つまたは複数の内耳支持細胞を、例えばin vitroにおいて、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(viii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および(x)表Iに明示されたCREB活性化剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤と接触させるステップ;
(b)任意選択で、拡大された内耳支持細胞の集団を、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(vii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(viii)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;(ix)表Iに明示されたCREB活性化剤;および(x)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つまたは複数の薬剤と接触させるステップ;ならびに
(c)内耳有毛細胞を、対象の耳(例えば、内耳)へと投与するステップ
により、難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法も提示する。
【0177】
本開示はまた、
(a)1つまたは複数の内耳支持細胞を、例えばin vitroにおいて、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(viii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および(x)表Iに明示されたCREB活性化剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤と接触させるステップ;ならびに
(b)拡大された内耳支持細胞の集団を、対象の耳(例えば、内耳)へと、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(vi)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(vii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;(viii)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;(ix)表Iに明示されたCREB活性化剤;および(x)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つまたは複数の薬剤の投与と組み合わせて、例えば、これと同時にまたはこの前に投与するステップ
により、難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法も提示する。
【0178】
本明細書で記載される、難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法についての一部の実施形態では、(a)内耳支持細胞の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤は、(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;および(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤からなる群から選択され、(b)内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つまたは複数の薬剤は、(i)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;(ii)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;(iii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;(iv)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;および(v)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤からなる群から選択される。
【0179】
一部の実施形態では、レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤は、表Kに明示されたRARアゴニスト、または表Kに明示されたRXRアゴニストである。一部の実施形態では、内耳支持細胞は、Lgr5+内耳支持細胞である。一部の実施形態では、内耳有毛細胞は、Atoh1+内耳有毛細胞である。
【0180】
本明細書で記載される対象を処置する方法についての一部の実施形態では、対象は、平衡感覚障害を有する。本明細書で記載される対象を処置する方法についての一部の実施形態では、対象は、難聴(例えば、感覚神経的難聴)を有する。一部の実施形態では、難聴は、遺伝性欠損もしくは先天性欠損、外傷、老化、または化学物質誘導性中毒性難聴の結果である。
【0181】
本明細書で記載される対象を処置する方法についての一部の実施形態では、対象は、ヒトである。
【0182】
一般に、本明細書で記載される化合物および方法を使用して、耳内の有毛細胞の成長(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞の成長)をもたらし、かつ/または耳内(例えば、内耳内、中耳内、および/もしくは外耳内)の有毛細胞の数を増大させることができる。例えば、耳内の有毛細胞の数は、処置前の有毛細胞の数と比較して、約2、3、4、6、8、もしくは10倍、またはこれを超えて増大させることができる。この新たな有毛細胞の成長は、対象の聴く能力の、少なくとも部分的な改善を、効果的に回復または確立しうる。例えば、薬剤の投与は、難聴を、約5、10、15、20、40、60、80、100%、またはこれを超えて改善しうる。
【0183】
内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖を支持もしくは促進し、かつ/または内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進する多数の化合物を、表1に明示する。
【0184】
本明細書では、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖を支持または促進する多数の化合物が記載され、TTNPB、化合物A、化合物B、化合物C、1-アザケンパウロン、BIO、WAY-316606、LDN-193189、およびアルスターパウロンのうちの1つまたは複数を含む。
【0185】
本明細書では、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1+内耳有毛細胞)への分化を促進する多数の化合物が記載され、ボリノスタット、化合物A、化合物B、化合物C、1-アザケンパウロン、BIO、WAY-262611、NP031112、MG-132、IM-12、トリコスタチンA、HLY78、およびPF03084014のうちの1つまたは複数を含む。
【0186】
内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および拡大を促進する化合物の他の例は、レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤(例えば、表Kを参照されたい);表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;表Bに明示された骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達阻害剤;表Cに明示されたサイクリン依存性キナーゼ(CDK)活性化剤;表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;表Fに明示されたヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および表Iに明示されたcAMP応答エレメント結合性タンパク質(CREB)活性化剤を含むがこれらに限定されない。
【0187】
内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の、内耳有毛細胞(例えば、Atoh1(atonal homolog 1)+内耳有毛細胞)への分化を促進する化合物の他の例は、レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤(例えば、表Kを参照されたい);表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤表Cに明示されたCDK活性化剤;表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;表Fに明示されたHDAC阻害剤;表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;表Iに明示されたCREB活性化剤;および表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤を含むがこれらに限定されない。
【0188】
適切な場合は、処置の後、ヒトを、内耳障害と関連する聴力または他の症状の改善について試験することができる。聴力を測定するための方法は周知であり、純音聴力検査、気導、および骨伝導試験を含む。これらの検査は、ヒトが聴取可能な音量(強度)および音高(周波数)の限界を測定する。ヒトにおける聴覚試験は、行動観察聴力検査(7カ月までの乳児)、VRA(visual reinforcement orientation audiometry)(7カ月~3歳の小児)、および3歳を超える小児のための遊戯聴力検査を含む。耳音響放射試験を使用して、蝸牛有毛細胞の機能について調べることができ、蝸電図は、蝸牛、および脳への神経経路のうちの第1の部分の機能についての情報をもたらす。一部の実施形態では、処置は、改変を伴うかまたは伴わずに持続することもでき、中止することもできる。
【0189】
医薬組成物
一部の実施形態では、本明細書で記載される、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および/または分化を促進するための1つまたは複数の化合物は、医薬組成物として製剤化することができる。本明細書で記載される1つまたは複数の化合物を含有する医薬組成物は、意図される投与法に従い製剤化することができる。
【0190】
本明細書で記載される、内耳支持細胞(例えば、Lgr5+内耳支持細胞)の増殖および/または分化を促進するための1つまたは複数の化合物は、対象へと直接投与するための医薬組成物として製剤化することができる。1つまたは複数の化合物を含有する医薬組成物は、1つまたは複数の生理学的に許容される担体または賦形剤を使用して、従来の様式で製剤化することができる。例えば、医薬組成物は、局部的投与または全身投与、例えば、滴下剤(例えば、点耳剤)もしくは耳への注射、送気(耳への送気など)による投与、静脈内投与、局所投与、または経口投与のために製剤化することができる。
【0191】
投与についての医薬組成物の性質は、投与方式に依存し、当業者がたやすく決定しうる。一部の実施形態では、医薬組成物は、滅菌または滅菌可能である。本発明で特色とされる治療用組成物は、それらのうちの多くが当業者に公知である、担体または賦形剤を含有しうる。使用しうる賦形剤は、緩衝液(例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、および重炭酸緩衝液)、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、ポリペプチド(例えば、血清アルブミン)、EDTA、塩化ナトリウム、リポソーム、マンニトール、ソルビトール、水、およびグリセロールを含む。本発明で特色とされる核酸、ポリペプチド、低分子、および他のモジュレーター化合物は、任意の標準的な投与経路により投与することができる。例えば、投与は、非経口投与、静脈内投与、皮下投与、または経口投与でありうる。
【0192】
医薬組成物は、対応する投与経路に従い、多様な手法で製剤化することができる。例えば、液体溶液は、耳への滴下による投与、注射、または内服のために作製することができ;ゲルまたは粉末は、内服または局所適用のために作製することができる。このような製剤を作製するための方法は、周知であり、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 22ndEd., Allen, ed., Mack Publishing Co., Easton, Pa., 2012において見出すことができる。
【0193】
化合物のうちの1つまたは複数は、例えば、医薬組成物として、例えば内耳へと、注射によりまたは外科留置を介して、直接的および/または局所的に投与することができる。医薬組成物の量を、有効量として記載することもでき、細胞ベースの組成物の量を、治療有効量として記載することもできる。ある期間にわたる適用が推奨されまたは望ましい場合は、本発明の組成物を、持続放出製剤中または植込み用デバイス(例えば、ポンプ)内に入れることができる。
【0194】
代替的に、または加えて、医薬組成物は、注射による、例えばボーラス注射または持続注入による、全身非経口投与のために製剤化することができる。このような製剤は、保存剤を添加した単位剤形、例えば、アンプルまたは複数回投与用容器により提示することができる。組成物は、油性媒体中または水性媒体中の、懸濁液、溶液、またはエマルジョンなどの形態を取ることができ、懸濁剤、安定化剤、および/または分散剤などの製剤化剤を含有しうる。代替的に、有効成分は、使用の前における、適切な媒体、例えば滅菌発熱物質非含有水による構成のための粉末形態でもありうる。
【0195】
前出で記載した製剤に加えて、組成物はまた、デポ調製物としても製剤化することができる。このような長時間作用型製剤は、植込み(例えば、皮下)により投与することができる。したがって、例えば、組成物は、適切なポリマー性材料もしくは疎水性材料もしくはイオン交換樹脂とともに(例えば、許容可能な油中のエマルジョンとして)、または難溶性誘導体、例えば難溶性塩として、製剤化することができる。
【0196】
全身経口投与のために製剤化された医薬組成物は、従来の手段により、結合剤(例えば、あらかじめゼラチン化されたトウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶質セルロース、またはリン酸水素カルシウム);滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、滑石、またはシリカ);崩壊剤(例えば、バレイショデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または保湿剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)など、薬学的に許容される賦形剤と共に調製された錠剤またはカプセルの形態を取りうる。錠剤は、当技術分野で周知の方法によりコーティングすることができる。経口投与用の液体調製物は、例えば、溶液、シロップ、または懸濁液の形態を取る場合もあり、使用の前に、水または他の適切な媒体による構成のための、乾燥生成物として提示される場合もある。このような液体調製物は、従来の手段により、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体、または水素化食用脂肪);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性媒体(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、または分画植物油);および保存剤(例えば、メチル-p-ヒドロキシ安息香酸もしくはプロピル-p-ヒドロキシ安息香酸またはソルビン酸)など、薬学的に許容される添加剤と共に調製することができる。調製物はまた、適切な場合、緩衝塩、芳香剤、着色剤、および甘味剤も含有しうる。経口投与のための調製物は、活性化合物の制御放出をもたらすように、適切に製剤化することができる。
【0197】
一部の実施形態では、本明細書で記載される医薬組成物は、上記で記載した方法のうちのいずれかに従い製剤化される化合物のうちの1つまたは複数、および本明細書で記載される方法により得られる1つまたは複数の細胞を含みうる。
【実施例
【0198】
本発明を、以下の実施例においてさらに記載するが、これは、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【0199】
[実施例1]
増殖および分化を促進する薬剤についての薬物スクリーニング
2つのマウス株を使用して、Lgr5発現細胞の増殖または分化を促進する薬剤についてのスクリーニングを開発した。各株は、Lgr5発現細胞またはAtoh1発現有毛細胞のいずれかを検出するための蛍光マーカーを含有した。Lgr5-EGFP-IRES-Cre-ERマウスを使用して、Lgr5+細胞の増殖についてモニタリングした(Barker, N. et al. Identification of stem cells in small intestine and colon by marker gene Lgf5. Nature 449, 1003-1007 (2007))。次いで、この株を、Rosa26-td-Tomatoレポーターマウス(Madisen, L. et al. A robust and high-throughput Cre reporting and characterization system for the whole mouse brain. Nat Neurosci 13, 133-140 (2010))と交配させて、分化Lgr5発現細胞から生じた細胞の系統追跡を可能とするマウス系列を創出した。Atoh1-nGFPマウスを使用して、分化有毛細胞を同定した(Lumpkin, E.A. et al. Math1-driven GFP expression in the developing nervous system of transgenic mice. Gene Expr Patterns 3, 389-395 (2003))。
【0200】
Lgr5-GFP+レポーターマウスおよびAtoh1-GFP+レポーターマウスの両方に由来するLgr5+細胞は、以下の通りに得た。新生仔マウス(生後1~3日目)に由来する蝸牛をHBSS中で切り出し、コルチ器を血管条および蝸牛軸から分離した。次いで、コルチ器をCell Recovery Solution(Corning)で1時間にわたり処理して、蝸牛上皮を、基底をなす間葉から分離した。次いで、上皮を回収し、TrypLE(Life Technologies)により、37℃で15~20分間にわたり処理した。機械的破砕により得られた単一細胞を濾過し(40μm)、3D培養のために、Matrigel中に懸濁させた。Matrigelは、細胞外マトリックスタンパク質に富む腫瘍であるエリザベス-ホルム-スワーム(EHS)マウス肉腫から抽出されて再構成された基底膜調製物であり、約60%のラミニン、30%のコラーゲンIV、および8%のエンタクチンである。結果として得られた細胞を、Glutamax(GIBCO)、N2、B27(Invitrogen)、EGF(50ng/mL;Chemicon)、bFGF(50ng/mL;Chemicon)、IGF1(50ng/mL;Chemicon)、ならびにCHIR99021(3μM;LC Labs)、VPA(1mM;Sigma)、pVc(100μg/ml;Sigma)、および616452(2μM;Calbiochem)を含む低分子を補充した、DMEMとF12との、1:1の混合物を使用して、24ウェルプレート内、ウェル1つ当たり蝸牛1つの濃度で、5日間にわたり個別に培養した。培地は、隔日で交換した。
【0201】
次いで、Lgr5+細胞の増殖の程度を評価するために、200μlの細胞解離溶液を、Lgr5-GFP+細胞の各ウェルへと添加し、45分間にわたりインキュベートし、次いで、TrypleEを添加し20分間にわたりインキュベートした。次いで、遠心分離のために、細胞培養物を、15mlのファルコンチューブへと移した。次いで、上清を除去し、細胞培養物を、マトリゲル中に再度再懸濁させた。細胞を、96ウェルプレートへと、ウェル1つ当たりの細胞約5000個で分配した。次いで、Lgr5-GFP+培養物を、ナノモル~マイクロモルの濃度、例えば、0.001、0.005μM、0.01μM、0.1μM、1μM、10μM、50μM、または100μMの候補薬物を含有するDMEM/F12培地で、さらに5日間にわたり処理した(図1を参照されたい)。この時点で、FACSを使用して、Lgr5-GFP+細胞を分取し、蛍光を測定した(図3および4を参照されたい)。
【0202】
Lgr5+細胞の、有毛細胞への分化の程度を評価するために、Atoh1-nGFP細胞を、EGF、bFGF、IGF、pVc、VPA、およびCHIR99021を含有するDMEM/F12培地(上記と同様に、DMEMとF12との1:1の混合物)であって、Glutamax(GIBCO)、N2、B27(Invitrogen)、EGF(50ng/mL;Chemicon)、bFGF(50ng/mL;Chemicon)、IGF1(50ng/mL;Chemicon)、ならびにCHIR99021(3μM)、VPA(1mM)、pVc(100μg/ml)、および616452(2μM)を含む低分子を補充したDMEM/F12培地中で、さらに2日間(合計7日間)にわたり培養した。培地は、隔日で交換した。4-ヒドロキシタモキシフェン(20ng/ml)を、0日目に、系統追跡研究のために、培養物へと添加した(図2を参照されたい)。インキュベーションの7日後、200μlの細胞解離溶液を、各ウェルへと添加し、45分間にわたりインキュベートし、次いで、TrypleEを添加し、20分間にわたりインキュベートした。次いで、遠心分離のために、細胞培養物を、15mlのファルコンチューブへと移した。次いで、上清を除去し、細胞培養物を、マトリゲル中に再度再懸濁させた。細胞を、96ウェルプレートへと、ウェル1つ当たりの細胞約5000個で分配した。次いで、細胞を、候補薬物を含有するDMEM/F12培地で処理した。候補薬物を伴い、10日間にわたりインキュベートした後で、細胞をFACSにより分取し、Atoh1-nGFP細胞の蛍光レベルを測定した(図5を参照されたい)。Wnt経路のGSK-3β阻害剤であるCHIR99021と、Notch経路のγ-セクレターゼ阻害剤であるLY411575とを、このスクリーニングのための陽性対照として使用した(国際特許公開第2014159356号パンフレットおよび図5を参照されたい)。このスクリーニング法を使用して、薬物、化合物、遺伝子、および成長因子をスクリーニングした(表1を参照されたい)。
【0203】
【表13-1】
【0204】
【表13-2】
【0205】
図3~5に示される結果は、スクリーニングされた多数の化合物が、増殖または分化を効果的に誘導することが可能であることを示した。表2および3に、それぞれ、増殖および分化について上位の化合物を列挙する。
【0206】
【表14】
【0207】
【表15】
【0208】
[実施例2]
蝸牛有毛細胞の喪失と関連する難聴の処置のための薬剤についての薬物スクリーニング
マウスのゲノムへと安定的に組み込まれた2つの蛍光レポーターを含有する、新規のトランスジェニックマウス(Lgr5/Atoh1レポーターマウス)を作製する。Lgr5/Atoh1レポーターマウスは、Lgr5プロモーター(Barker et al., supra)の制御下にあるGFPを有するトランスジェニックマウスに由来する卵母細胞から出発し、Atoh1のエンハンサーおよびプロモーター(例えば、SV40プロモーターまたはグロビン最小プロモーター)の制御下にあるmCherryを含むプラスミドを添加することにより作製する(図6を参照されたい)。
【0209】
これらの構築物中で使用されるAtoh1エンハンサーの配列は、以下の通りである。
【0210】
【化1】
【0211】
Atoh1-mCherryプラスミドの配列は、以下の通りである。
【0212】
【化2-1】
【0213】
【化2-2】
【0214】
【化2-3】
【0215】
このマウスに由来する幹細胞を内耳から単離し、マトリゲル中に懸濁させ、24ウェルプレート内の、EFG、bFGF、IGF、pVc、およびVPACHIRを含有するDMEM/F12培地中で、最長5日間にわたり培養した。5日間の後、200μlの細胞解離溶液を各ウェルへと添加し、45分間にわたりインキュベートし、次いで、TrypleEを添加し、20分間にわたりインキュベートした。次いで、細胞培養物を、遠心分離のために15mlのファルコンチューブへと移す。次いで、上清を除去し、細胞培養物をマトリゲル中に再度再懸濁させた。細胞を、96ウェルプレートへと、ウェル1つ当たりの細胞約5000個で分配した。
【0216】
次いで、細胞培養物を、候補薬物を含有するDMEM/F12培地で、さらに5~7日間にわたり処理した。この時点で、細胞をFACSにより分取し、両方のマーカーの蛍光を測定する。トランスジェニックマウス細胞内の両方のマーカーの蛍光を、非処理トランスジェニック対照細胞と比較して増大させる候補薬物を、蝸牛有毛細胞(例えば、内耳内の蝸牛有毛細胞)の喪失と関連する難聴を処置するための候補薬剤として選択する。このスクリーニング法を使用して、薬物、化合物、遺伝子、または成長因子をスクリーニングする。
【0217】
(参考文献)
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7. Shi, F., Cheng, Y.F., Wang, X.L. & Edge, A.S. Beta-catenin up-regulates Atoh1 expression in neural progenitor cells by interaction with an Atoh1 3’ enhancer. J Biol Chem 285, 392-400 (2010).
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10. Bramhall, N.F., Shi, F., Arnold, K., Hochedlinger, K. & Edge, A.S. Lgr5-positive supporting cells generate new hair cells in the postnatal cochlea. Stem Cell Reports 2, 311-322 (2014).
11. Oshima, K. et al. Differential distribution of stem cells in the auditory and vestibular organs of the inner ear. J Assoc Res Otolaryngol 8, 18-31 (2007).
12. Mizutari, K. et al. Notch inhibition induces cochlear hair cell regeneration and recovery of hearing after acoustic trauma. Neuron 77, 58-69 (2013).
【0218】
他の実施形態
本発明について、その詳細な説明と共に説明してきたが、前出の説明は、本発明の範囲を例示することを意図するものであり、これを限定することを意図するものではなく、本発明の範囲は、付属の特許請求の範囲により規定される。他の態様、利点および改変は、以下の特許請求の範囲内にあることを理解されたい。

本発明の様々な実施形態を以下に示す。
1.拡大された内耳支持細胞の集団を作製する方法であって、内耳支持細胞の集団を、
(a)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(b)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(c)表Bに明示された骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達阻害剤;
(d)表Cに明示されたサイクリン依存性キナーゼ(CDK)活性化剤;
(e)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(f)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;
(g)表Fに明示されたヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤;
(h)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;
(i)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および
(j)表Iに明示されたcAMP応答エレメント結合性タンパク質(CREB)活性化剤
からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤と接触させるステップ
を含み、
前記1つまたは複数の薬剤が、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な量で存在する、方法。
2.前記Notchシグナル伝達活性化剤が、Delta様タンパク質活性化剤、Jaggedタンパク質活性化剤、Notch活性化剤、および/またはγ-セクレターゼ活性化剤である、上記1に記載の方法。
3.前記1つまたは複数の薬剤が、
(a)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(b)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(c)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(d)表Cに明示されたCDK活性化剤;および
(e)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤
からなる群から選択される、上記1に記載の方法。
4.前記拡大された内耳支持細胞の集団が、拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団である、上記1から3のいずれかに記載の方法。
5.前記拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団が、拡大されたLgr5+蝸牛支持細胞の集団である、上記4に記載の方法。
6.前記拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団が、拡大されたLgr5+前庭支持細胞の集団である、上記4に記載の方法。
7.内耳支持細胞の集団の、内耳有毛細胞の集団への分化を促進する方法であって、内耳支持細胞の集団を、
(a)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(b)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(c)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(d)表Cに明示されたCDK活性化剤;
(e)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(f)表Fに明示されたHDAC阻害剤;
(g)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;
(h)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;
(i)表Iに明示されたCREB活性化剤;および
(j)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤
からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤と接触させるステップ
を含み、
前記1つまたは複数の薬剤が、内耳有毛細胞の集団への分化を促進するのに十分な量で存在する、方法。
8.前記1つまたは複数の薬剤が、
(a)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(b)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(c)表Fに明示されたHDAC阻害剤;
(d)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;および
(e)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤
からなる群から選択される、上記7に記載の方法。
9.前記Notchシグナル伝達阻害剤が、Delta様タンパク質阻害剤、Jaggedタンパク質阻害剤、Notch阻害剤、および/またはγ-セクレターゼ阻害剤である、上記7または8に記載の方法。
10.前記内耳有毛細胞の集団が、Atoh1(atonal homolog 1)+内耳有毛細胞の集団である、上記7から9のいずれかに記載の方法。
11.前記Atoh1+内耳有毛細胞の集団が、Atoh1+蝸牛有毛細胞の集団である、上記10に記載の方法。
12.前記Atoh1+内耳有毛細胞の集団が、Atoh1+前庭有毛細胞の集団である、上記10に記載の方法。
13.前記レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤が、表Kに明示されたレチノイン酸受容体(RAR)アゴニストまたは表Kに明示されたレチノイドX受容体(RXR)アゴニストである、上記1から7および9から12のいずれかに記載の方法。
14.前記RARアゴニストが、RARαアゴニスト、RARβアゴニスト、および/またはRARγアゴニストである、上記13に記載の方法。
15.前記RXRアゴニストが、RXRαアゴニスト、RXRβアゴニスト、および/またはRXRγアゴニストである、上記13に記載の方法。
16.前記Wntシグナル伝達活性化剤が、グリコーゲンシンターゼキナーゼ-3β(GSK-3β)阻害剤、Wnt活性化剤、Frizzled受容体活性化剤、リポタンパク質受容体関連タンパク質5/6(LRP5/6)活性化剤、Disheveled(Dvl)活性化剤、アキシン阻害剤、Dickkopf(Dkk)阻害剤、分泌型Frizzled関連タンパク質(sFRP)阻害剤、Groucho阻害剤、および/またはWnt阻害性タンパク質(WIF)阻害剤である、上記1から15のいずれかに記載の方法。
17.前記BMPシグナル伝達阻害剤が、Noggin活性化剤、Chordin活性化剤、BMP受容体阻害剤、SMAD1/5/8阻害剤、SMAD2/3阻害剤、および/またはSMAD4阻害剤である、上記1から7および9から16のいずれかに記載の方法。
18.前記CDK活性化剤が、p27Kip1阻害剤および/または網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)阻害剤である、上記1から7および9から17のいずれかに記載の方法。
19.前記E box依存性転写活性化剤が、Atoh1活性化剤である、上記1から18のいずれかに記載の方法。
20.前記HDAC阻害剤が、HDACクラスI阻害剤、HDACクラスII阻害剤、HDACクラスIII阻害剤、および/または汎HDAC阻害剤である、上記1、2、および4から19のいずれかに記載の方法。
21.前記HDACクラスIII阻害剤が、SIRT1阻害剤および/またはSIRT2阻害剤である、上記20に記載の方法。
22.前記タンパク質分解阻害剤が、プロテアソーム阻害剤またはユビキチンリガーゼ阻害剤である、上記1、2、および4から21のいずれかに記載の方法。
23.前記PI3K-Aktシグナル伝達阻害剤が、Akt阻害剤、PI3K阻害剤、PKC阻害剤、および/またはPDK1阻害剤である、上記1、2、4から7、および9から22のいずれかに記載の方法。
24.前記内耳支持細胞の集団が、Lgr5+内耳支持細胞の集団である、上記1から23のいずれかに記載の方法。
25.前記Lgr5+内耳支持細胞の集団が、Lgr5+蝸牛支持細胞の集団である、上記24に記載の方法。
26.前記Lgr5+内耳支持細胞の集団が、Lgr5+前庭支持細胞の集団である、上記24に記載の方法。
27.Lgr5、Sox2、p27、Prox1、FGFR3、Glast、およびLfngからなる群から選択される内耳支持細胞マーカーの調節エレメントの制御下で第1のレポーター遺伝子を含む第1の組換え核酸分子、ならびにAtoh1、Myo7a、Cdh23、Pcdh15、Myo6、Myo1c、Tmc1、およびCav1.3からなる群から選択される内耳有毛細胞マーカーの調節エレメントの制御下で第2のレポーター遺伝子を含む第2の組換え核酸分子を含み、前記第1のレポーター遺伝子が、前記第2のレポーター遺伝子と異なる、ヒト細胞。
28.前記内耳支持細胞マーカーが、Lgr5である、上記27に記載の細胞。
29.前記内耳有毛細胞マーカーが、Atoh1である、上記27に記載の細胞。
30.前記内耳支持細胞マーカーが、Lgr5であり、前記内耳有毛細胞マーカーが、Atoh1である、上記28または29に記載の細胞。
31.内耳支持細胞マーカーの前記調節エレメントが、Lgr5プロモーターである、上記28から30のいずれかに記載の細胞。
32.内耳有毛細胞マーカーの前記調節エレメントが、Atoh1エンハンサーである、上記28から30のいずれかに記載の細胞。
33.前記Atoh1エンハンサーが、SV40プロモーターまたはグロビンプロモーターに作動可能に連結された、上記32に記載の細胞。
34.前記第1のレポーター遺伝子が、第1の蛍光タンパク質をコードし、前記第2のレポーター遺伝子が、第2の蛍光タンパク質をコードし、前記第1の蛍光タンパク質が、前記第2の蛍光タンパク質と異なる、上記27から33のいずれかに記載の細胞。
35.マウスのゲノムへと安定的に組み込まれた2つ以上の組換え核酸分子を有するトランスジェニックマウスであって、Lgr5、Sox2、p27、Prox1、FGFR3、Glast、およびLfngからなる群から選択される内耳支持細胞マーカーの調節エレメントの制御下で第1のレポーター遺伝子を含む少なくとも第1の組換え核酸分子、ならびにAtoh1、Myo7a、Cdh23、Pcdh15、Myo6、Myo1c、Tmc1、およびCav1.3からなる群から選択される内耳有毛細胞マーカーの調節エレメントの制御下で第2のレポーター遺伝子を含む第2の組換え核酸分子を含み、前記第1のレポーター遺伝子が、前記第2のレポーター遺伝子と異なる、トランスジェニックマウス。
36.前記内耳支持細胞マーカーが、Lgr5である、上記35に記載のトランスジェニックマウス。
37.前記内耳有毛細胞マーカーが、Atoh1である、上記35に記載のトランスジェニックマウス。
38.前記内耳支持細胞マーカーが、Lgr5であり、前記内耳有毛細胞マーカーが、Atoh1である、上記36または37に記載のトランスジェニックマウス。
39.内耳支持細胞マーカーの前記調節エレメントが、Lgr5プロモーターである、上記36から38のいずれかに記載のトランスジェニックマウス。
40.内耳有毛細胞マーカーの前記調節エレメントが、Atoh1エンハンサーである、上記36から38のいずれかに記載のトランスジェニックマウス。
41.前記Atoh1エンハンサーが、SV40プロモーターまたはグロビンプロモーターに作動可能に連結された、上記40に記載のトランスジェニックマウス。
42.前記第1のレポーター遺伝子が、第1の蛍光タンパク質をコードし、前記第2のレポーター遺伝子が、第2の蛍光タンパク質をコードし、前記第1の蛍光タンパク質が、前記第2の蛍光タンパク質と異なる、上記35から41のいずれかに記載のトランスジェニックマウス。
43.上記35から42のいずれかに記載のトランスジェニックマウスから単離された細胞であって、前記第1の組換え核酸分子および前記第2の組換え核酸分子を含む細胞。
44.前記トランスジェニックマウスの内耳から単離される、上記43に記載の細胞。
45.蝸牛有毛細胞または前庭有毛細胞の喪失と関連する難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤を同定するための方法であって、
(a)内耳支持細胞の集団を、上記35から42のいずれかに記載のマウスから単離するステップ;
(b)前記内耳支持細胞の集団を、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件下で維持するステップ;
(c)被験化合物を、前記拡大された内耳支持細胞の集団へと投与するステップ;
(d)前記被験化合物の存在下での、前記拡大された内耳支持細胞の集団内の前記第1のレポーター遺伝子および前記第2のレポーター遺伝子の前記発現レベルを検出するステップ;ならびに
(e)難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤として、前記第1のレポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下における前記第1のレポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させ、かつ/または前記第2のレポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下における前記第2のレポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させる被験化合物を選択するステップ
を含む方法。
46.前記拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件が、1つまたは複数の成長因子、好ましくは、表皮成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、および/またはインスリン様成長因子(IGF1)の存在下における培地、好ましくは、DMEMおよびF12培地の混合物、好ましくは1:1の混合物を含む、上記45に記載の方法。
47.前記拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件が、
(a)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(b)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(c)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(d)表Cに明示されたCDK活性化剤;
(e)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(f)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤、または表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤;
(g)表Fに明示されたHDAC阻害剤;
(h)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;
(i)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および
(j)表Iに明示されたCREB活性化剤
からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤をさらに含む、上記45または46に記載の方法。
48.前記レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤が、表Kに明示されたRARアゴニスト、または表Kに明示されたRXRアゴニストである、上記47に記載の方法。
49.前記拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件が、表1に明示された1つまたは複数の薬剤を含む、上記47または48に記載の方法。
50.前記拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件が、N2、B27、EGF、bFGF、IGF1、CHIR99021、およびVPAを補充した培地、好ましくは、DMEMおよびF12の1:1の混合物を含む、上記45から49のいずれかに記載の方法。
51.前記候補薬剤が、低分子、化合物、核酸、ペプチド、ポリペプチド、成長因子、および後成的修飾剤からなる群から選択される、上記45から50のいずれかに記載の方法。
52.最初にコルチ器を切開するステップと、感覚上皮を単離するステップと、単一細胞の懸濁液を創出するステップとを含む方法により、前記内耳支持細胞の集団を前記マウスの蝸牛から単離する、上記45から51のいずれかに記載の方法。
53.前記内耳支持細胞の集団が、Lgr5+内耳支持細胞の集団である、上記45から52のいずれかに記載の方法。
54.前記第1のレポーター遺伝子が、第1の蛍光タンパク質をコードし、前記第2のレポーター遺伝子が、第2の蛍光タンパク質をコードし、前記第1の蛍光タンパク質が、前記第2の蛍光タンパク質と異なる、上記45から53のいずれかに記載の方法。
55.前記第1のレポーター遺伝子および前記第2のレポーター遺伝子の発現レベルが、タンパク質の発現レベルである、上記45から54のいずれかに記載の方法。
56.蝸牛有毛細胞または前庭有毛細胞の喪失と関連する難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤を同定するための方法であって、
(a)Lgr5、Sox2、p27、Prox1、FGFR3、Glast、およびLfngからなる群から選択される内耳支持細胞マーカーの調節エレメントの制御下でレポーター遺伝子を含む組換え核酸分子を安定的に組み込んだ内耳支持細胞の集団を用意するステップ;
(b)前記内耳支持細胞の集団を、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件下で維持するステップであり、前記条件が、
(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤、
(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤、
(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤、
(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤、
(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤、
(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤、
(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤、
(viii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤、
(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤、および
(x)表Iに明示されたCREB活性化剤
からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤を含む、ステップ;
(c)被験化合物を、前記拡大された内耳支持細胞の集団へと投与するステップ;
(d)前記被験化合物の存在下での、前記拡大された内耳支持細胞の集団内の前記レポーター遺伝子の発現レベルを検出するステップ;ならびに
(e)難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤として、前記レポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下における前記レポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させる被験化合物を選択するステップ
を含む方法。
57.蝸牛有毛細胞または前庭有毛細胞の喪失と関連する難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤を同定するための方法であって、
(a)Atoh1、Myo7a、Cdh23、Pcdh15、Myo6、Myo1c、Tmc1、およびCav1.3からなる群から選択される内耳有毛細胞マーカーの調節エレメントの制御下でレポーター遺伝子を含む組換え核酸分子を安定的に組み込んだ内耳支持細胞の集団を用意するステップ;
(b)前記内耳支持細胞の集団を、拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件下で維持するステップであり、前記条件が、
(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤、
(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤、
(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤、
(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤、
(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤、
(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤、
(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤、
(viii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤、
(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤、および
(x)表Iに明示されたCREB活性化剤
からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤を含む、ステップ;
(c)被験化合物を、前記拡大された内耳支持細胞の集団へと投与するステップ;
(d)前記被験化合物の存在下での、前記拡大された内耳細胞の集団内の前記レポーター遺伝子の前記発現レベルを検出するステップ;ならびに
(e)難聴または平衡感覚障害を処置するための候補薬剤として、前記レポーター遺伝子の発現レベルを、その非存在下における前記レポーター遺伝子の発現レベルと比較して上昇させる被験化合物を選択するステップ
を含む方法。
58.前記レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤が、表Kに明示されたRARアゴニスト、または表Kに明示されたRXRアゴニストである、上記56または57に記載の方法。
59.前記拡大された内耳支持細胞の集団を作製するのに十分な条件が、
(a)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(b)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(c)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(d)表Cに明示されたCDK活性化剤;および
(e)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤
からなる群から選択される、1つまたは複数の薬剤を含む、上記56から58のいずれかに記載の方法。
60.前記拡大された内耳支持細胞の集団が、拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団である、上記56から59のいずれかに記載の方法。
61.前記拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団が、拡大されたLgr5+蝸牛支持細胞の集団である、上記60に記載の方法。
62.前記拡大されたLgr5+内耳支持細胞の集団が、拡大されたLgr5+前庭支持細胞の集団である、上記60に記載の方法。
63.前記内耳支持細胞の集団を、ヒトから単離する、上記56から62のいずれかに記載の方法。
64.前記内耳支持細胞の集団を、マウスから単離する、上記56から62のいずれかに記載の方法。
65.前記レポーター遺伝子が、蛍光タンパク質をコードする、上記56から64のいずれかに記載の方法。
66.難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法であって、それを必要とする前記対象へと、
(a)治療有効量の、
(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;
(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;
(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;
(viii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;および
(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤
からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つもしくは複数の薬剤;ならびに/または
(b)治療有効量の、
(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;
(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(vi)表Fに明示されたHDAC阻害剤;
(vii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;
(viii)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および
(ix)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤
からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つもしくは複数の薬剤
のうちの一方または両方を投与するステップを含む方法。
67.それを必要とする前記対象へと、
(a)治療有効量の、
(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;および
(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤
からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つもしくは複数の薬剤;ならびに/または
(b)治療有効量の、
(i)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(ii)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(iii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;
(iv)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;および
(v)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤
からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つもしくは複数の薬剤
のうちの一方または両方を投与するステップを含む、上記66に記載の方法。
68.前記1つまたは複数の薬剤を、全身投与するか、または前記対象の耳へと投与する、好ましくは、前記対象の中耳へと経鼓膜投与する、上記66または67に記載の方法。
69.前記内耳支持細胞の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤を、前記内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つまたは複数の薬剤の前に投与する、上記66から68のいずれかに記載の方法。
70.難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法であって、
(a)1つまたは複数の内耳支持細胞を、任意選択でin vitroにおいて、
(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;
(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;
(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;
(viii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;
(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および
(x)表Iに明示されたCREB活性化剤
からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤と接触させるステップ;
(b)任意選択で、前記拡大された内耳支持細胞の集団を、
(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;
(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(vi)表Fに明示されたHDAC阻害剤;
(vii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;
(viii)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;
(ix)表Iに明示されたCREB活性化剤;および
(x)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤
からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つまたは複数の薬剤と接触させるステップ;ならびに
(c)前記内耳有毛細胞を、前記対象の耳(任意選択で、内耳)へと投与するステップを含む方法。
71.難聴または平衡感覚障害を有する対象を処置する方法であって、
(a)1つまたは複数の内耳支持細胞を、任意選択でin vitroにおいて、
(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;
(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(vi)表Eに明示されたNotchシグナル伝達活性化剤;
(vii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;
(viii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;
(ix)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;および
(x)表Iに明示されたCREB活性化剤
からなる群から選択される、内耳支持細胞の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤と接触させるステップ;ならびに
(b)前記拡大された内耳支持細胞の集団を、前記対象の耳(好ましくは、内耳)へと、
(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;
(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(vi)表Fに明示されたHDAC阻害剤;
(vii)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;
(viii)表Hに明示されたPI3K-Aktシグナル伝達阻害剤;
(ix)表Iに明示されたCREB活性化剤;および
(x)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤
からなる群から選択される、内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つまたは複数の薬剤の投与と組み合わせて、好ましくは、これと同時にまたはこの前に投与するステップ
を含む方法。
72.(a)前記内耳支持細胞の増殖を促進する1つまたは複数の薬剤が、
(i)レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤;
(ii)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(iii)表Bに明示されたBMPシグナル伝達阻害剤;
(iv)表Cに明示されたCDK活性化剤;および
(v)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤
からなる群から選択され;
(b)前記内耳支持細胞の内耳有毛細胞への分化を促進する1つまたは複数の薬剤が、
(i)表Aに明示されたWntシグナル伝達活性化剤;
(ii)表Dに明示されたE box依存性転写活性化剤;
(iii)表Fに明示されたHDAC阻害剤;
(iv)表Gに明示されたタンパク質分解阻害剤;および
(v)表Jに明示されたNotchシグナル伝達阻害剤
からなる群から選択される、上記66から71のいずれかに記載の方法。
73.前記レチノイド受容体シグナル伝達活性化剤が、表Kに明示されたRARアゴニスト、または表Kに明示されたRXRアゴニストである、上記66から72のいずれかに記載の方法。
74.前記内耳支持細胞が、Lgr5+内耳支持細胞である、上記66から73のいずれかに記載の方法。
75.前記内耳有毛細胞が、Atoh1+内耳有毛細胞である、上記66から74のいずれかに記載の方法。
76.前記対象が、平衡感覚障害を有する、上記66から75のいずれかに記載の方法。
77.前記対象が、難聴を有する、上記66から75のいずれかに記載の方法。
78.前記難聴が、感覚神経的難聴である、上記77に記載の方法。
79.前記難聴が、遺伝性欠損もしくは先天性欠損、外傷、老化、または化学物質誘導性中毒性難聴の結果である、上記77または78に記載の方法。
80.前記対象が、ヒトである、上記66から79のいずれかに記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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