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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】エンドトキシン吸着剤
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/22 20060101AFI20220527BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20220527BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20220527BHJP
   G01N 30/00 20060101ALI20220527BHJP
   B01J 20/285 20060101ALI20220527BHJP
   G01N 30/96 20060101ALI20220527BHJP
   A61M 1/36 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
B01J20/22 C
B01J20/28 Z
B01D15/00 101Z
G01N30/00 C
B01J20/285 T
G01N30/96 B
A61M1/36 165
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018564564
(86)(22)【出願日】2018-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2018001838
(87)【国際公開番号】W WO2018139415
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2017010966
(32)【優先日】2017-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118382
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 央子
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】中村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】前田 祐希
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-013204(JP,A)
【文献】特開2002-355553(JP,A)
【文献】特開2002-263486(JP,A)
【文献】特開2009-173678(JP,A)
【文献】特開2002-155103(JP,A)
【文献】特開平04-061935(JP,A)
【文献】国際公開第91/04086(WO,A1)
【文献】特開2013-010701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01J 20/281-20/292
B01D 15/00-15/42
G01N 30/00-30/96
A61M 1/00-1/38,60/00-60/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースを備え、窒素原子を含むカチオン性基が、セルロースの水酸基に導入されているか、又はクロロメチルオキシラン、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、ジグリシジルエーテル、エピブロモヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、p-トルエンスルホン酸クロリド、2-フルオロ-1-メチルピリジニウム、クロロアセチルクロリド、ヘキサメチレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、及びトルエン-2,4-ジイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種の活性化剤を介して結晶セルロースに結合している、エンドトキシン吸着剤。
【請求項2】
窒素原子を含むカチオン性基が、多価アミンに由来する官能基、及び/又は第4級アンモニウム基である、請求項1に記載のエンドトキシン吸着剤。
【請求項3】
窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースにおける、窒素原子を含むカチオン性基の含有量が、陰イオン交換容量として、0.05~3meq/dry・gである、請求項1又は2に記載のエンドトキシン吸着剤。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載のエンドトキシン吸着剤が充填されたエンドトキシン除去用カラム。
【請求項5】
請求項1~3の何れかに記載のエンドトキシン吸着剤とエンドトキシン除去対象材料とを接触させる工程を含む、エンドトキシン除去方法。
【請求項6】
請求項1~3の何れかに記載のエンドトキシン吸着剤とエンドトキシン除去対象材料とを接触させる工程を含む、エンドトキシンが除去された材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシン吸着剤、及びそれを用いたエンドトキシンの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシン(endotoxin;ET)(以下、「ET」ということもある)は、毒性物質の1つであり、具体的には、グラム陰性細菌の外膜の成分であるリポ多糖(lipopolysaccharide;LPS)を指す。ETは、多糖とリピドAで構成され、主にリピドAが毒性に寄与する。ETは、注射用溶液等への混入により生体内に取り込まれた場合、発熱やショック反応を引き起こす。そのため、日本薬局方においては、注射用溶液のET濃度を10~100 pg/ml(0.1~1.0 endotoxin unit (EU)/ml)にすることが規定されている。また、例えば、近年、遺伝子組み換え大腸菌等からDNAを分離精製してDNAワクチンとして用いる試みがなされているが、そのようにして得られるDNAには菌体由来のETが残存している。よって、そのようにして得られるDNAをDNAワクチンとして生体に投与するためには、残存しているETを除去する必要がある。従って、医薬品からETを除去する方法の開発が切望されている。また、食品もETを含まないことが必要であり、加工食品の材料からETを除去することも求められている。
【0003】
ETを除去する方法の一つとして、各種ET吸着剤を利用する方法が知られている。例えば、特許文献1は、橋かけ剤を介して塩基性物質が結合した排除限界分子量が6000以下であるET吸着体、具体的には、ポリ(ε-L-リジン)を固定化した球状セルロースからなるET吸着体を開示しており、このET吸着体が高濃度のタンパク質を含む水溶液から選択的にETを吸着できることを教えている。
しかし、特許文献1が教えるET吸着体は、ET除去対象材料に含まれる物質がアミノ基などのカチオン性基を有する場合、中でも分子全体としてカチオン性を帯びている場合は、そのカチオン性基含有物質と、塩基性物質が結合したET吸着体との間でET吸着の競合が起きて、ETを十分に除去することができない。
【0004】
また、ET除去対象材料が水性組成物である場合、ET除去対象材料とET吸着剤との接触を容易にするため、ET吸着剤の基材は親水性であることが望ましい。親水性基材としては、親水性高分子化合物が使い易い。しかし、一般に、親水性高分子化合物を基材とするET吸着剤は、基材と水分子が強く相互作用するため、バッチ法で用いる場合はろ過性が悪く、カラム法で用いる場合は通液に高い圧力を要する。このため、作業効率が悪く、このことは、特に、粘性溶液からETを除去する場合に致命的な問題になる。
これらの背景から、特に、医薬・食品分野の材料を対象とするET吸着剤において、適用可能なET除去対象の範囲の拡大が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-263486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、カチオン性基を有する物質を含むET除去対象材料から十分にETを除去することができ、また、粘性の高い材料からも効率よくETを除去することができるET吸着剤を提供することを主な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討を重ね、窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースは、カチオン性基を有する物質を含む材料から効率よくETを除去できることを見出した。また、窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースは、粘性材料に適用する場合でも、バッチ法ではろ過を速やかに行うことができることを見出した。さらに、窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースは、カラムに高圧をかけなくても速やかに通液でき、カラム法で粘性材料からETを除去できる可能性があることを見出した。
【0008】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の〔1〕~〔25〕を提供する。
〔1〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースを備える、エンドトキシン吸着剤。
〔2〕 窒素原子を含むカチオン性基が、多価アミンに由来する官能基、及び/又は第4級アンモニウム基である、〔1〕に記載のエンドトキシン吸着剤。
〔3〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースにおける、窒素原子を含むカチオン性基の含有量が、陰イオン交換容量として、0.05~3meq/dry・gである、〔1〕又は〔2〕に記載のエンドトキシン吸着剤。
〔4〕 〔1〕~〔3〕の何れかに記載のエンドトキシン吸着剤が充填されたエンドトキシン除去用カラム。
〔5〕 〔1〕~〔3〕の何れかに記載のエンドトキシン吸着剤とエンドトキシン除去対象材料とを接触させる工程を含む、エンドトキシン除去方法。
〔6〕 〔1〕~〔3〕の何れかに記載のエンドトキシン吸着剤とエンドトキシン除去対象材料とを接触させる工程を含む、エンドトキシンが除去された材料の製造方法。
【0009】
〔7〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースを、エンドトキシン吸着剤として使用する方法。
〔8〕 窒素原子を含むカチオン性基が、多価アミンに由来する官能基、及び/又は第4級アンモニウム基である、〔7〕に記載の方法。
〔9〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースにおける、窒素原子を含むカチオン性基の含有量が、陰イオン交換容量として、0.05~3meq/dry・gである、〔7〕又は〔8〕に記載の方法。
〔10〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースが充填されたカラムを、エンドトキシン除去用カラムとして使用する方法。
〔11〕 窒素原子を含むカチオン性基が、多価アミンに由来する官能基、及び/又は第4級アンモニウム基である、〔10〕に記載の方法。
〔12〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースにおける、窒素原子を含むカチオン性基の含有量が、陰イオン交換容量として、0.05~3meq/dry・gである、〔10〕又は〔11〕に記載の方法。
〔13〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースとエンドトキシン除去対象材料とを接触させる工程を含む、エンドトキシン除去方法。
〔14〕 窒素原子を含むカチオン性基が、多価アミンに由来する官能基、及び/又は第4級アンモニウム基である、〔13〕に記載の方法。
〔15〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースにおける、窒素原子を含むカチオン性基の含有量が、陰イオン交換容量として、0.05~3meq/dry・gである、〔13〕又は〔14〕に記載の方法。
〔16〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースとエンドトキシン除去対象材料とを接触させる工程を含む、エンドトキシンが除去された材料の製造方法。
〔17〕 窒素原子を含むカチオン性基が、多価アミンに由来する官能基、及び/又は第4級アンモニウム基である、〔16〕に記載の方法。
〔18〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースにおける、窒素原子を含むカチオン性基の含有量が、陰イオン交換容量として、0.05~3meq/dry・gである、〔16〕又は〔17〕に記載の方法。
【0010】
〔19〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースの、エンドトキシン吸着剤としての使用。
〔20〕 窒素原子を含むカチオン性基が、多価アミンに由来する官能基、及び/又は第4級アンモニウム基である、〔19〕に記載の使用。
〔21〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースにおける、窒素原子を含むカチオン性基の含有量が、陰イオン交換容量として、0.05~3meq/dry・gである、〔19〕又は〔20〕に記載の使用。
〔22〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースが充填されたカラムの、エンドトキシン除去用カラムとしての使用。
〔23〕 窒素原子を含むカチオン性基が、多価アミンに由来する官能基、及び/又は第4級アンモニウム基である、〔22〕に記載の使用。
〔24〕 窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースにおける、窒素原子を含むカチオン性基の含有量が、陰イオン交換容量として、0.05~3meq/dry・gである、〔22〕又は〔23〕に記載の使用。
【0011】
〔25〕 エンドトキシン含有量が20EU/g以下であるグルカン、コラーゲン、又はそれらの溶液。
【発明の効果】
【0012】
リポ多糖であるETは、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミンといったアニオン性ヘテロ糖や、アニオンであるリン酸水素イオンを有する。このため、一般に、カチオン性基を有するET吸着剤を、カチオン性基を有する物質を含む材料からのETの除去に使用すると、ET吸着剤とカチオン性基を有する物質との間でET吸着の競合が起きて、ETを十分に除去することができない。この点、本発明のET吸着剤は、カチオン性基を有しているにも拘わらず、カチオン性基を有する物質を含む材料から十分にETを除去することができる。
【0013】
また、本発明のET吸着剤は、高い親水性を有する結晶セルロースを基材としているため、水性組成物との馴染みが良く、その結果、水性のET除去対象材料から効率よくETを除去することができる。一般に、親水性高分子化合物を基材とするET吸着剤は、基材と水分子が強く相互作用するため、バッチ法で用いる場合はろ過性が悪く、カラム法で用いる場合は通液に高い圧力を要する。
この点、本発明のET吸着剤は、親水性基材を用いているにも拘わらず、水性のET除去対象材料と混合した後にこの水性材料と分離し易い。従って、バッチ法でET除去対象材料と接触させた後は、ETが除去された材料を速やかにろ過分離することができる。また、本発明のET吸着剤をカラムに充填してET除去対象材料を通液する場合は、高圧をかけなくても迅速に通液できる。医薬品や食品材料には、多糖類のような高粘性の材料が多いが、本発明のET吸着剤を用いれば、このような高粘性材料からも速やかにETを除去することができる。
【0014】
また、ET吸着剤に存在する細孔の大きさが均一であると、ET除去対象材料に含まれる成分の中には細孔にトラップされて回収し難いものもある。この点、本発明のET吸着剤は、種々の大きさの細孔を有する結晶セルロースを基材としているため、ET除去対象材料に含まれる成分の回収率が良い。
また、結晶セルロースは、医薬品や食品の賦形剤などとして汎用されており、安全性が確立されている。従って、本発明のET吸着剤は、安全性が高く、医薬品や食品からのET除去に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)エンドトキシン吸着剤
本発明のエンドトキシン吸着剤(ET吸着剤)は、窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースを備えるET吸着剤である。ETは、「リポ多糖(LPS)」ともいう。
【0016】
結晶セルロース
「結晶セルロース」とは、セルロース質物質を酸加水分解、アルカリ酸化分解、酵素分解、及び/又はスチームエクスプロージョン分解などによって解重合した後に精製したセルロースをいう。即ち、「結晶セルロース」は、セルロース質物質の結晶領域を取り出して精製したものである。「結晶セルロース」は、「微結晶セルロース」ともいう。また、セルロース質物質はパルプともいう。
【0017】
セルロース質物質から結晶セルロースを得る具体的な方法としては、例えば、塩酸や硫酸等によって加水分解を行った後に精製する方法(特開平6-316535号公報)、水酸化ナトリウムなどの塩基を用いて酸化分解を行った後に精製する方法(高分子化学 Vol.29, No.329, pp.647-651)、重クロム酸又は次亜塩素酸で酸化分解を行った後に精製する方法(高分子化学 Vol.29, No.329, pp652-656)などが挙げられる。
【0018】
また、結晶セルロースは、市販品を利用することもできる。結晶セルロースの市販品としては、明台化工股▲分▼有限公司のComprecel(登録商標)や、旭化成株式会社のCEOLUS(登録商標)などが挙げられる。
【0019】
窒素原子を含むカチオン性基
本発明に用いる結晶セルロースは窒素原子を含むカチオン性基を有する。窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースは、本来的に窒素原子を含むカチオン性基を有するものであってもよく、窒素原子を含むカチオン性基を結晶セルロースに導入したものであっても良い。
【0020】
窒素原子を含むカチオン性基としては、例えば、アミノ基(1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基)、4級アンモニウム基、イミノ基、アミジン基、グアニジノ基、イミダゾール基、4級イミダゾリウム基、ピリジル基、4級ピリジニウム基などが挙げられる。アミノ基は、アンモニアから水素原子1つを除去した官能基(-NH)、第1級アミンから水素原子1つを除去した官能基(-NHR)、第2級アミンから水素原子1つを除去した官能基(-NRR´)の何れであってもよい。
窒素原子を含むカチオン性基は非環状であってもよく、環状であってもよい。
【0021】
窒素原子を含むカチオン性基は、例えば、セルロースの水酸基に導入することができる。窒素原子を含むカチオン性基を導入する方法としては、セルロースの水酸基を活性化剤で活性化し、次いで、窒素原子を含むカチオン性化合物と反応させる方法が挙げられる。窒素原子を含むカチオン性基がそれ自体反応性基を有する場合は、活性化剤での前処理は必ずしも要さない。
【0022】
活性化剤としては、例えば、クロロメチルオキシラン(エピクロロヒドリン)、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸グリシジル、ジグリシジルエーテル、エピブロモヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテルのようなエポキシ基供与体、p-トルエンスルホン酸クロリド、2-フルオロ-1-メチルピリジニウム、クロロアセチルクロリド、ヘキサメチレンジイソシアネート、m-キシレンジイソシアネート、トルエン-2,4-ジイソシアネートなどが挙げられる。
活性化剤としては、エポキシ基供与体が好ましく、クロロメチルオキシラン(エピクロロヒドリン)がより好ましい。
活性化剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0023】
窒素原子を含むカチオン性基の供与体である、窒素原子を含むカチオン性化合物としては、アンモニア、アミジン、1価アミン、多価アミン、第4級アンモニウム塩、第4級イミダゾリウム塩、第4級ピリジニウム塩などが挙げられる。
1価アミンとしては、脂肪族アミン類、特にアルキルアミン(メチルアミン、エチルアミンのような第1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミンのような第2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンのような第3級アミン);芳香族アミン類(アニリン、トルイジンのような第1級アミンなど);複素環式アミン類(ピロリジン、ピペリジン、モルホリン、イミダゾールのような第2級アミン;ピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン(コリジン)、2,6-ルチジン、キノリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリンのような第3級アミンなど);アルカノールアミン又はアミノアルコール(モノメタノールアミン、モノエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)メタンのような第1級アミン;ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミンのような第2級アミン;トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N-ジメチルアミノエタノール、N-ジエチルアミノエタノールのような第3級アミン)などが挙げられる。
【0024】
多価アミンとしては、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン;4,4′-ジアミノ-3,3′ジメチルジシクロヘキシルメタン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン、シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミンのような脂環族ジアミン;フェニレンジアミン、ジアミノナフタレン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミン;ピペラジンのような複素環式ジアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンペンタミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、トリス(3-アミノプロピル)アミン、グアニジンのような3価以上の脂肪族アミン;メラミンのような3価以上の芳香族アミンなどが挙げられる。
また、多価アミンとしては、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、アミノ酸(中でも、リジン、アルギニン、ヒスチジン、オルニチン、トリプトファンのような塩基性アミノ酸)、アミノ酸の重合体(中でも、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリオルニチン、ポリトリプトファンのような塩基性アミノ酸の重合体)、ポリクレアチニンなどのアミノ基を有するポリマーも挙げられる。ポリマーは、直鎖状、分岐状の何れであってもよい。ポリマーの数平均分子量は、例えば、50以上、100以上、又は150以上であってよく、1,000,000以下、100,000以下、10,000以下、5,000以下、2,000以下、又は1,000以下であってよい。ポリマーの数平均分子量としては、例えば、50~1,000,000、50~100,000、50~10,000、50~5,000、50~2,000、50~1,000、100~1,000,000、100~100,000、100~10,000、100~5,000、100~2,000、100~1,000、150~1,000,000、150~100,000、150~10,000、150~5,000、150~2,000、150~1,000が挙げられる。
【0025】
反応性基を有する第4級アンモニウム塩としては、グリシジルトリメチルアンモニウム塩(塩酸塩、臭化水素酸塩など)などが挙げられる。また、例えば、上記例示した第3級アミンのアルキル化により第4級化した四級アミンも使用できる。
第4級イミダゾリウム塩としては、1-デシル-3-メチルイミダゾリウム塩、1-メチル-3-オクチルイミダゾリウム塩、1-メチル-ベンゾイミダゾリウム塩(塩酸塩、臭化水素酸塩など)などが挙げられる。
第4級ピリジニウム塩としては、ブチルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩(塩酸塩、臭化水素酸塩など)などが挙げられる。
【0026】
窒素原子を含むカチオン性化合物としては、多価アミン、1価アミン、第4級アンモニウム塩が好ましく、多価アミン、第4級アンモニウム塩がより好ましく、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン、アルギニン、ポリエチレンイミン、グリシジルトリメチルアンモニウム、テトラメチルエチレンジアミンがさらにより好ましい。
窒素原子を含むカチオン性化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
2種以上のカチオン性化合物を使用する場合、各カチオン性化合物を導入した結晶セルロースを混合して使用してもよく、或いは、2種以上のカチオン性化合物を導入した結晶セルロースを使用してもよい。
【0027】
また、結晶セルロースを窒素原子を含むカチオン性化合物と反応させた後に、さらに修飾を施すことによってカチオン性を高めることができる。カチオン性を高めるためにアミノ基を第4級化させる化合物としては、例えば、クロロメチルオキシラン(エピクロロヒドリン)、ヨードメタン、ヨードエタンなどが挙げられる。カチオン性を高めるために窒素原子を含むカチオン性基を追加して導入する方法としては、導入したカチオン性基を活性化剤で活性化し、次いで、既に導入したカチオン性基と同じ又はこれとは異なるカチオン性基を有する、窒素原子を含むカチオン性化合物と反応させる方法が挙げられる。活性化剤、窒素原子を含むカチオン性化合物としては上記例示したものを使用できる。
カチオン性を高めるために反応させる化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
結晶セルロース又は活性化結晶セルロースと窒素原子を含むカチオン性化合物との反応は、例えば、約10~100℃で、約0.1~24時間行えばよい。
溶媒としては、通常、水を用いればよいが、メタノール、エタノール、2-プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル(2-メトキシエタノール)のようなアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒も用いることができる。溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0029】
上記のようにして得られる、窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースは、窒素原子を含むカチオン性化合物が結晶セルロースに結合したもの、又は窒素原子を含むカチオン性化合物が橋架け剤を介して結晶セルロースに結合したものであってよい。
【0030】
窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースの特性
窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースにおける、窒素原子を含むカチオン性基の含有量は、陰イオン交換容量(AEC)として、例えば0.05meq/dry・g以上、好ましくは0.2meq/dry・g以上、より好ましくは0.4meq/dry・g以上であればよい。この範囲であれば、ETを十分に吸着し除去することができる。また、例えば10meq/dry・g以下、好ましくは5meq/dry・g以下、より好ましくは3meq/dry・g以下であればよい。この範囲であれば、酸性高分子化合物を含むET除去対象材料から効率よくETを除去することができる。
窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースにおける、窒素原子を含むカチオン性基の含有量の指標となる陰イオン交換容量(AEC)としては、例えば、0.05~10meq/dry・g、0.05~5meq/dry・g、0.05~3meq/dry・g、0.2~10meq/dry・g、0.2~5meq/dry・g、0.2~3meq/dry・g、0.4~10meq/dry・g、0.4~5meq/dry・g、0.4~3meq/dry・gが挙げられる。
【0031】
窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースは、本発明の効果を妨げない範囲で、窒素原子を含むカチオン性基以外のカチオン性基を有することができる。窒素原子を含むカチオン性基以外のカチオン性基の含有量は、陰イオン交換容量(AEC)として、例えば3meq/dry・g以下とすればよい。窒素原子を含むカチオン性基以外の陰イオン交換基は含まないことができる。窒素原子を含むカチオン性基以外のカチオン性基の含有量の指標である陰イオン交換容量(AEC)としては、例えば、0~3meq/dry・gが挙げられる。
また、窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースがアニオン性基を含むと、このアニオン性基へのカチオンの非特異的な吸着が起きるため、窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースは、アニオン性基を含まないことが望ましい。アニオン性基を含む場合もその含有量は、陽イオン交換容量(CEC)として、例えば1meq/dry・g以下とすればよい。アニオン性基の含有量の指標である陽イオン交換容量(CEC)としては、例えば、0~1meq/dry・gが挙げられる。
【0032】
本発明において、イオン交換容量は、pH滴定法で測定した値であり、具体的には、実施例に記載の方法で測定した値である。
【0033】
窒素原子を有するカチオン性基を導入した結晶セルロースは、平均粒子径が約1~1000μmの粒子状のものとすることができる。平均粒子径は、中でも、10μm以上、又は100μm以上とすることができ、500μm以下、又は300μm以下とすることができる。この範囲であれば、カチオン性基を有する物質を含む材料から効率よくETを除去することができ、また、水性のET除去対象材料と分離し易い。窒素原子を有するカチオン性基を導入した結晶セルロースの平均粒子径としては、例えば、1~500μm、1~300μm、10~1000μm、10~500μm、10~300μm、100~1000μm、100~500μm、100~300μmが挙げられる。
本発明において、平均粒子径は、ふるい分け法で測定した値である。
なお、結晶セルロースに窒素原子を含むカチオン性基を導入することにより、結晶セルロースが膨潤し得る。従って、このカチオン性基の導入後の結晶セルロースの平均粒子径は、結晶セルロース自体の平均粒子径よりも大きくなり得る。
【0034】
また、窒素原子を有するカチオン性基を導入した結晶セルロースは、粒度分布が狭いことが好ましく、例えば、D50が40~60μmの粒子について、D10が10~30μm、D90が80~120μmであることが好ましい。この範囲であれば、安定したET吸着能を示す。
本発明において、粒度分布は、ふるい分け法で測定した値である。
【0035】
また、窒素原子を有するカチオン性基を導入した結晶セルロースの平均重合度は、例えば、50以上、100以上、又は150以上とすることができ、また、例えば、100,000以下、10,000以下、又は5,000以下とすることができる。この範囲であれば、カチオン性基を導入する反応を行い易い。窒素原子を有するカチオン性基を導入した結晶セルロースの平均重合度としては、例えば、50~100,000、50~10,000、50~5,000、100~100,000、100~10,000、100~5,000、150~100,000、150~10,000、150~5,000が挙げられる。
本発明において、平均重合度は、粘度法で測定した値である。
【0036】
窒素原子を有するカチオン性基を導入した結晶セルロースのかさ密度は、例えば、0.01以上、0.05以上、又は0.1以上とすることができ、また、例えば、2以下、1以下、又は0.5以下とすることができる。この範囲であれば、カチオン性基を有する物質を含む材料から効率よくETを除去することができ、また、水性のET除去対象材料と分離し易い。窒素原子を有するカチオン性基を導入した結晶セルロースのかさ密度としては、例えば、0.01~2、0.01~1、0.01~0.5、0.05~2、0.05~1、0.05~0.5、0.1~2、0.1~1、0.1~0.5が挙げられる。
本発明において、かさ密度はメスシリンダーを用いて測定した値である。
【0037】
窒素原子を有するカチオン性基を導入した結晶セルロースのET吸着容量は、例えば、1wet-g当り、500μg以上、700μg以上、800μg以上、又は850μg以上であってよい。ET吸着容量の上限は特に制限されるものではないが、通常、1500μg程度である。窒素原子を有するカチオン性基を導入した結晶セルロースのET吸着容量としては、例えば、1wet-g当り、500~1500μg、700~1500μg、800~1500μg、850~1500μgが挙げられる。
また、窒素原子を有するカチオン性基を導入した結晶セルロースの見かけ上のET解離定数は、例えば、2×10-11 M以下、1.7×10-11 M以下、1.5×10-11 M以下、又は1.3×10-11 M以下であってよい。見かけ上のET解離定数の下限は特に制限されるものではないが、通常、1×10-11M程度である。窒素原子を有するカチオン性基を導入した結晶セルロースの見かけ上のET解離定数としては、例えば、1×10-11~2×10-11 M、1×10-11~1.7×10-11 M、1×10-11~1.5×10-11 M、1×10-11~1.3×10-11 Mが挙げられる。
【0038】
ET吸着容量および見かけ上のET解離定数は、ET吸着等温線に基づいて作成したScatchard plotより得られる直線式から算出した値であり、具体的には、以下の方法で測定した値である。
吸着剤0.1wet-gと、種々のET濃度の試料溶液4mLを使用して、バッチ法で吸着を行う。遊離のET濃度(F)に対して吸着したET濃度(B)をプロットした吸着等温線を作成し、この吸着等温線に基づき、吸着したET濃度(B)に対してB/FをプロットしたScatchard plotを作成する。このプロットしたScatchard plotから直線式y=ax+bが得られる。ETの会合分子量を10と仮定すると、解離定数および吸着容量は以下の式で表すことができる。

見かけ上のエンドトキシン解離定数=1/|a|×1012
エンドトキシン吸着容量 (μg/吸着剤量(wet-g))=-(b/a)
【0039】
窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースは、例えば、メタノール、エタノールなどの分散媒に分散して保存することができる。
【0040】
ET吸着剤
窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースは、単独で、或いは他の構成要素と組み合わせて、本発明のET吸着剤として利用できる。即ち、本発明のET吸着剤は、窒素原子を含むカチオン性基を有する結晶セルロースからなるものであってもよく、さらに他の構成要素を備えるものであってもよい。他の構成要素は、所望のET吸着能が得られる限り、特に制限されない。
【0041】
本発明のET吸着剤は、未加工の状態では、通常、粒状であるが、膜状、柱状などの任意の形態に加工して用いることができる。成形は、例えば、製紙プロセスによって行うことができる。
また、本発明のET吸着剤は、カラムに充填して用いることができる。本発明のET吸着剤が充填されたカラムは、ET除去用カラムとして用いることができる。
【0042】
本発明のET吸着剤は、必要に応じて、ETフリー化して利用することができる。ETフリー化は常法により行うことができる。具体的には、ETフリー化は、例えば、洗浄液を用いて本発明のET吸着剤を1回または複数回洗浄することにより行うことができる。洗浄液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム エタノール溶液などが挙げられる。洗浄後、遠心や濾過等の固液分離手段により、本発明のET吸着剤と洗浄液とを分離すればよい。
【0043】
(2)ET除去方法
本発明のET吸着剤と、ET除去対象材料とを接触させることにより、ET除去対象材料中のETがET吸着剤に吸着する。これにより、ETが除去された材料が得られる。その後、ETが除去された材料とETを吸着したET吸着剤とを分離することができる。
即ち、本発明のET除去方法は、本発明のET吸着剤とET除去対象材料とを接触させる工程を含む方法である。また、さらに、ETが除去された材料とETを吸着したET吸着剤を分離する工程、例えば、本発明のET吸着剤とET除去対象材料との混合物から、ETが除去された材料を回収する工程を含むことができる。本発明のET除去方法は、換言すれば、ETが除去された材料の製造方法である。
【0044】
ET除去対象材料は、流動状又は液体状の材料であればよい。また、加熱又は加温により流動状又は液体状とした材料であってもよい。ET除去対象材料は、1種の成分を含むものであってよく、2種以上の成分を含むものであってもよい。また、1種又は2種以上の成分が水やその他の溶媒に溶解又は懸濁したものであってもよい。本発明のET吸着剤は、水性組成物と接触させる場合も、接触後の水性組成物と分離し易いため、ET除去対象材料としては、水を含む材料が好適である。
【0045】
ET除去対象材料としては、例えば、注射用蒸留水、注射用生理食塩水などの医療用水、注射用液、食品製造用水などが挙げられる。
また、前述した通り、本発明のET吸着剤は、カチオン性基を有する物質を含む材料や粘度の高い材料のET除去に好適に使用できる。このようなET除去対象材料として、例えば、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、ヘパリンのようなムコ多糖が挙げられる。ムコ多糖は、医薬品、化粧品などの成分として使用されている。
また、カチオン性基を有する物質を含む材料として、キチン、キトサンのような、グルコサミン等のアミノ糖を構成単位に含む多糖類、ゼラチン、コラーゲン、ポリリジンのような塩基性アミノ酸を含むポリペプチドなどが挙げられる。これらは、医薬品、健康補助食品、化粧品などの成分として、又は増粘剤、ゲル化剤、若しくは糊料として使用されている。
また、粘度の高いET除去対象材料として、ラミナラン、カードラン、セルロースのようなβ-グルカン;プルラン、アミロース、グリコーゲン、アミロペクチン、デキストランのようなα-グルカン;分解コラーゲン水溶液なども挙げられる。これらは、医薬品、健康補助食品、化粧品などの成分や、食品添加物として使用されている。
また、粘度の高いET除去対象材料として、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、カラギーナン、グアーガム、ローカストビーンガム、タマリンドガム、キサンタンガムのような多糖類、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースなども挙げられる。これらは、医薬品又は食品の製造用の増粘剤、ゲル化剤、又は糊料などとして使用されている。
また、これらの材料を、酸、アルカリ、又は酵素で分解した材料も使用できる。
また、粘度の高いET除去対象材料として、人工臓器や人工骨の原料となるモノマーなども挙げられる。
また、これらの材料を水その他の溶媒に溶解又は懸濁させた溶液又は懸濁液もET除去対象材料とすることができる。
その他、ET除去対象材料としては、タンパク質、ペプチド、ビタミン類などの溶液又は懸濁液も挙げられる。
【0046】
本発明のET吸着剤と接触させる際のET除去対象材料のpHは、カチオン性基の種類や、ET除去対象材料のpH安定性などにより異なるが、例えば、約1~14、特に、約3以上、約4以上、約5以上、又は約6以上とすることができ、また、約10以下、約9以下、又は約8以下とすることができる。また、約7以下であってもよい。本発明のET吸着剤と接触させる際のET除去対象材料のpHとしては、例えば、1~10、1~9、1~8、1~7、3~14、3~10、3~9、3~8、3~7、4~14、4~10、4~9、4~8、4~7、5~14、5~10、5~9、5~8、5~7、6~14、6~10、6~9、6~8、6~7が挙げられる。
また、本発明のET吸着剤と接触させる際のET除去対象材料のイオン強度は、カチオン性基の種類や、ET除去対象材料のイオン強度安定性などにより異なるが、例えば、約0.8以下、約0.6以下、又は約0.4以下とすることができる。イオン強度は、ゼロ又は実質的にゼロとすることもできるが、約0.001以上、約0.003以上、又は約0.005以上とすることもできる。本発明のET吸着剤と接触させる際のET除去対象材料のイオン強度としては、例えば、0~0.8、0~0.6、0~0.4、0.001~0.8、0.001~0.6、0.001~0.4、0.003~0.8、0.003~0.6、0.003~0.4、0.005~0.8、0.005~0.6、0.005~0.4が挙げられる。
【0047】
本発明のET吸着剤とET除去対象材料との接触は、例えば、バッチ法により行うことができる。「バッチ法」は、適当な容器内で本発明のET吸着剤とET除去対象材料とを混合することにより、本発明のET吸着剤とET除去対象材料とを接触させる手法である。バッチ法は、静置して実施してもよく、撹拌や振盪して実施してもよい。接触時間は、ET除去対象材料の種類などにより異なるが、例えば、約5分間~120時間、約30分間~24時間、約1~12時間、又は約2~4時間とすることができる。また、接触時の温度は、ET除去対象材料の種類などにより異なるが、例えば、約5~80℃、約15~65℃、又は約25~50℃とすることができる。本発明のET吸着剤にETを吸着させた後に混合物から本発明のET吸着剤を、ろ過又は遠心分離などにより分離することができる。
【0048】
また、本発明のET吸着剤とET除去対象材料との接触は、例えば、流動的分離法により行うことができる。「流動的分離法」とは、本発明のET吸着剤にET除去対象材料を通液することにより、本発明のET吸着剤とET除去対象材料とを接触させる手法である。具体的には、例えば、本発明のET吸着剤をカラムに充填し、このカラムにET含有液を通液することにより、本発明のET吸着剤とET除去対象材料とを接触させることができる。また、例えば、本発明のET吸着剤がフィルター状に成形されている場合は、このフィルターにET除去対象材料を通液することにより、本発明のET吸着剤とET除去対象材料とを接触させることができる。膜としては、メンブランフィルター、中空糸膜、チューブラー膜などの形態が挙げられる。また、本発明のET吸着剤が柱状などに成形されている場合は、この柱状物などにET除去対象材料を通液することにより、本発明のET吸着剤とET除去対象材料とを接触させることができる。柱状物は、例えば、微小な孔を有する連続した多孔体としてモノリスクロマトグラフィーに供することができる。また、ろ紙上に本発明のET吸着剤を載せ、そこにET除去対象材料を通液することにより、本発明のET吸着剤とET除去対象材料とを接触させることができる。
【0049】
本発明のET除去方法によって、ET除去対象材料中のETが除去される。ETの除去の程度は、処理後(本発明のET吸着剤との接触後)のET除去対象材料中のET濃度又は含有量が、処理前(本発明のET吸着剤との接触前)と比較して低下していればよい。
「ETが除去される」とは、例えば、処理後のET除去対象材料中のET濃度又は含有量が、処理前と比較して、50%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、2%以下、又は1%以下に低下することであってよい。「ETが除去される」の指標である、処理前に対する処理後のET除去対象材料中のET濃度又は含有量の比率としては、例えば、0~50%、0~30%、0~20%、0~10%、0~5%、0~2%、0~1%が挙げられる。
【0050】
また、「ETが除去される」とは、例えば、処理後の液体中のET濃度が、10EU/mL以下、7EU/mL以下、5EU/mL以下、1EU/mL以下、0.5EU/mL以下、0.2EU/mL以下、0.1EU/mL以下、0.05EU/mL以下、0.02EU/mL以下、0.01EU/mL以下、0.005EU/mL以下、0.002EU/mL以下、又は0.001EU/mL以下になることであってもよい。「ETが除去される」の指標である処理後の液体中のET濃度としては、例えば、0~10EU/mL、0~7EU/mL、0~5EU/mL、0~1EU/mL、0~0.5EU/mL、0~0.2EU/mL、0~0.1EU/mL、0~0.05EU/mL、0~0.02EU/mL、0~0.01EU/mL、0~0.005EU/mL、0~0.002EU/mL、0~0.001EU/mLが挙げられる。
【0051】
本発明のET除去方法は、ET濃度又は含有量が低いET除去対象材料からもETを除去できるものであってよい。例えば、ET濃度が40EU/mL以下、30EU/mL以下、20EU/mL以下、又は10EU/mL以下(例えば、0~40EU/mL、0~30EU/mL、0~20EU/mL、又は0~10EU/mL)であるET除去対象材料から、ET濃度が7EU/mL以下、5EU/mL以下、1EU/mL以下、0.5EU/mL以下、0.2EU/mL以下、0.1EU/mL以下、0.05EU/mL以下、0.02EU/mL以下、0.01EU/mL以下、0.005EU/mL以下、0.002EU/mL以下、又は0.001EU/mL以下(例えば、0~7EU/mL、0~5EU/mL、0~1EU/mL、0~0.5EU/mL、0~0.2EU/mL、0~0.1EU/mL、0~0.05EU/mL、0~0.02EU/mL、0~0.01EU/mL、0~0.005EU/mL、0~0.002EU/mL、又は0~0.001EU/mL)になるようにETを除去できるものであってよい。
【0052】
本発明は、ET含有量が600EU/g以下、500EU/g以下、100EU/g以下、50EU/g以下、20EU/g以下、10EU/g以下、7EU/g以下、5EU/g以下、1EU/g以下、0.5EU/g以下、又は0.2EU/g以下(例えば、0~600EU/g、0~500EU/g、0~100EU/g、0~50EU/g、0~20EU/g、0~10EU/g、0~7EU/g、0~5EU/g、0~1EU/g、0~0.5EU/g、又は0~0.2EU/g)である、ムコ多糖、塩基性アミノ酸を含むポリペプチド、多糖類、プロピレングリコール、及びカルボキシメチルセルロースなどの材料、並びにこれらの材料の溶液(特に、水溶液)を包含する。ムコ多糖、塩基性アミノ酸を含むポリペプチド、多糖類としては、ET除去対象材料として例示したものが挙げられる。
「EU/g」は、ET除去を行った材料の固形分重量(g)あたりのET含有量(EU)を表す。
【0053】
また、本発明は、ET濃度が6EU/mL以下、5EU/mL以下、1EU/mL以下、0.5EU/mL以下、0.1EU/mL以下、0.05EU/mL以下、0.01EU/mL以下、0.005EU/mL以下、又は0.002EU/mL以下(例えば、0~6EU/mL、0~5EU/mL、0~1EU/mL、0~0.5EU/mL、0~0.1EU/mL、0~0.05EU/mL、0~0.01EU/mL、0~0.005EU/mL、又は0~0.002EU/mL)である、ムコ多糖、塩基性アミノ酸を含むポリペプチド、多糖類、プロピレングリコール、及びカルボキシメチルセルロースなどの材料、並びにこれらの材料の溶液(特に、水溶液)を包含する。
【0054】
中でも、グルカン(特にα-グルカン、特にプルラン)は、天然品のET含有量は高いが、本発明によれば、グルカン(特にα-グルカン、特にプルラン)の固形分1g当たりのET含有量が600EU/g以下、500EU/g以下、100EU/g以下、50EU/g以下、20EU/g以下、10EU/g以下、7EU/g以下、5EU/g以下、1EU/g以下、0.5EU/g以下、又は0.2EU/g以下(例えば、0~500EU/g、0~100EU/g、0~50EU/g、0~20EU/g、0~10EU/g、0~7EU/g、0~5EU/g、0~1EU/g、0~0.5EU/g、又は0~0.2EU/g)である、グルカン(特にα-グルカン、特にプルラン)又はその溶液(特に、水溶液)が提供される。
また、本発明によれば、ET濃度が6EU/mL以下、5EU/mL以下、1EU/mL以下、0.5EU/mL以下、0.1EU/mL以下、0.05EU/mL以下、0.01EU/mL以下、0.005EU/mL以下、又は0.002EU/mL以下(例えば、0~6EU/mL、0~5EU/mL、0~1EU/mL、0~0.5EU/mL、0~0.1EU/mL、0~0.05EU/mL、0~0.01EU/mL、0~0.005EU/mL、又は0~0.002EU/mL)である、グルカン(特にα-グルカン、特にプルラン)又はその溶液(特に、水溶液)も提供される。
【0055】
溶液(特に、水溶液)中のグルカン(特にα-グルカン、特にプルラン)濃度は、1重量%以上、5重量%以上、又は8重量%以上で、20重量%以下、15重量%以下、又は12重量%以下(例えば、1~20重量%、1~15重量%、1~12重量%、5~20重量%、5~15重量%、5~12重量%、8~20重量%、8~15重量%、又は8~12重量%)であり得る。
また、グルカン(特にα-グルカン、特にプルラン)濃度10重量%の場合に、グルカン(特にα-グルカン、特にプルラン)の固形分1g当たりのET含有量が600EU/g以下、500EU/g以下、100EU/g以下、50EU/g以下、20EU/g以下、10EU/g以下、7EU/g以下、5EU/g以下、1EU/g以下、0.5EU/g以下、又は0.2EU/g以下(例えば、0~600EU/g、0~500EU/g、0~100EU/g、0~50EU/g、0~20EU/g、0~10EU/g、0~7EU/g、0~5EU/g、0~1EU/g、0~0.5EU/g、又は0~0.2EU/g)である、グルカン(特にα-グルカン、特にプルラン)又はその溶液(特に、水溶液)も提供される。
また、グルカン(特にα-グルカン、特にプルラン)濃度10重量%の場合に、ET濃度が6EU/mL以下、5EU/mL以下、1EU/mL以下、0.5EU/mL以下、0.1EU/mL以下、0.05EU/mL以下、0.01EU/mL以下、0.005EU/mL以下、又は0.002EU/mL以下(例えば、0~6EU/mL、0~5EU/mL、0~1EU/mL、0~0.5EU/mL、0~0.1EU/mL、0~0.05EU/mL、0~0.01EU/mL、0~0.005EU/mL、又は0~0.002EU/mL)である、グルカン(特にα-グルカン、特にプルラン)又はその溶液(特に、水溶液)も提供される。
【0056】
また、本発明によれば、ゼラチン又はゼラチン分解物の固形分1g当たりのET含有量が600EU/g以下、500EU/g以下、100EU/g以下、50EU/g以下、20EU/g以下、10EU/g以下、7EU/g以下、5EU/g以下、1EU/g以下、0.5EU/g以下、又は0.2EU/g以下(例えば、0~600EU/g、0~500EU/g、0~100EU/g、0~50EU/g、0~20EU/g、0~10EU/g、0~7EU/g、0~5EU/g、0~1EU/g、0~0.5EU/g、又は0~0.2EU/g)である、ゼラチン若しくはゼラチン分解物又はそれらの溶液(特に、水溶液)が提供される。
また、本発明によれば、ET濃度が6EU/mL以下、5EU/mL以下、1EU/mL以下、0.5EU/mL以下、0.1EU/mL以下、0.05EU/mL以下、0.01EU/mL以下、0.005EU/mL以下、又は0.002EU/mL以下(例えば、0~6EU/mL、0~5EU/mL、0~1EU/mL、0~0.5EU/mL、0~0.1EU/mL、0~0.05EU/mL、0~0.01EU/mL、0~0.005EU/mL、又は0~0.002EU/mL)である、ゼラチン若しくはゼラチン分解物又はそれらの溶液(特に、水溶液)も提供される。
【0057】
溶液(特に、水溶液)中のゼラチン又はゼラチン分解物の濃度は、0.1重量%以上、0.5重量%以上、又は0.8重量%以上で、2重量%以下、1.5重量%以下、又は1.2重量%以下(例えば、0.1~2重量%、0.1~1.5重量%、0.1~1.2重量%、0.5~2重量%、0.5~1.5重量%、0.5~1.2重量%、0.8~2重量%、0.8~1.5重量%、又は0.8~1.2重量%)であり得る。
また、ゼラチン又はゼラチン分解物の濃度が1重量%の場合に、ゼラチン又はゼラチン分解物の固形分1g当たりのET含有量が600EU/g以下、500EU/g以下、100EU/g以下、50EU/g以下、20EU/g以下、10EU/g以下、7EU/g以下、5EU/g以下、1EU/g以下、0.5EU/g以下、又は0.2EU/g以下(例えば、0~600EU/g、0~500EU/g、0~100EU/g、0~50EU/g、0~20EU/g、0~10EU/g、0~7EU/g、0~5EU/g、0~1EU/g、0~0.5EU/g、又は0~0.2EU/g)である、ゼラチン若しくはゼラチン分解物又はそれらの溶液(特に、水溶液)も提供される。
また、ゼラチン又はゼラチン分解物の濃度が1重量%の場合にET濃度が6EU/mL以下、5EU/mL以下、1EU/mL以下、0.5EU/mL以下、0.1EU/mL以下、0.05EU/mL以下、0.01EU/mL以下、0.005EU/mL以下、又は0.002EU/mL以下(例えば、0~6EU/mL、0~5EU/mL、0~1EU/mL、0~0.5EU/mL、0~0.1EU/mL、0~0.05EU/mL、0~0.01EU/mL、0~0.005EU/mL、又は0~0.002EU/mL)である、ゼラチン若しくはゼラチン分解物又はそれらの溶液(特に、水溶液)も提供される。
【0058】
また、中でも、本発明によれば、コラーゲンの固形分1g当たりのET含有量が600EU/g以下、500EU/g以下、100EU/g以下、50EU/g以下、20EU/g以下、10EU/g以下、7EU/g以下、5EU/g以下、1EU/g以下、0.5EU/g以下、又は0.2EU/g以下(例えば、0~600EU/g、0~500EU/g、0~100EU/g、0~50EU/g、0~20EU/g、0~10EU/g、0~7EU/g、0~5EU/g、0~1EU/g、0~0.5EU/g、又は0~0.2EU/g)である、コラーゲン又はその溶液(特に、水溶液)が提供される。
また、本発明によれば、ET濃度が6EU/mL以下、5EU/mL以下、1EU/mL以下、0.5EU/mL以下、0.1EU/mL以下、0.05EU/mL以下、0.01EU/mL以下、0.005EU/mL以下、又は0.002EU/mL以下(例えば、0~6EU/mL、0~5EU/mL、0~1EU/mL、0~0.5EU/mL、0~0.1EU/mL、0~0.05EU/mL、0~0.01EU/mL、0~0.005EU/mL、又は0~0.002EU/mL)である、コラーゲン又はその溶液(特に、水溶液)も提供される。
【0059】
溶液(特に、水溶液)中のコラーゲン濃度は、0.01重量%以上、0.05重量%以上、又は0.08重量%以上で、0.2重量%以下、0.15重量%以下、又は0.12重量%以下(例えば、0.01~0.2重量%、0.01~0.15重量%、0.01~0.12重量%、0.05~0.2重量%、0.05~0.15重量%、0.05~0.12重量%、0.08~0.2重量%、0.08~0.15重量%、又は0.08~0.12重量%)であり得る。
また、コラーゲン濃度0.1重量%の場合に、コラーゲンの固形分1g当たりのET含有量が500EU/g以下、100EU/g以下、50EU/g以下、20EU/g以下、10EU/g以下、7EU/g以下、5EU/g以下、1EU/g以下、0.5EU/g以下、又は0.2EU/g以下(例えば、0~500EU/g、0~100EU/g、0~50EU/g、0~20EU/g、0~10EU/g、0~7EU/g、0~5EU/g、0~1EU/g、0~0.5EU/g、又は0~0.2EU/g)である、コラーゲン又はその溶液(特に、水溶液)も提供される。
また、コラーゲン濃度0.1重量%の場合に、ET濃度が6EU/mL以下、5EU/mL以下、1EU/mL以下、0.5EU/mL以下、0.1EU/mL以下、0.05EU/mL以下、0.01EU/mL以下、0.005EU/mL以下、又は0.002EU/mL以下(例えば、0~6EU/mL、0~5EU/mL、0~1EU/mL、0~0.5EU/mL、0~0.1EU/mL、0~0.05EU/mL、0~0.01EU/mL、0~0.005EU/mL、又は0~0.002EU/mL)である、コラーゲン又はその溶液(特に、水溶液)も提供される。
【0060】
また、ET除去対象材料が、ETと分離されるべき特定成分の溶液又は懸濁液である場合、処理後に、その特定成分は除去されない。「ET除去対象材料中の特定成分が除去されない」とは、処理後のET除去対象材料中の特定成分の含有量が、処理前と比較して、90%以上、95%以上、97%以上、又は99%以上維持されることであってよい。処理前と比較した、処理後のET除去対象材料中の特定成分の含有量の比率としては、90~100%、95~100%、97~100%、又は99~100%が挙げられる。
【0061】
ETが除去されたことは、処理後のET除去対象材料中のETを定量することにより確認できる。ETの定量法としては、リムルス試薬を用いたリムルス試験が挙げられる。リムルス試験は、常法により行うことができる。リムルス試験は、例えば、比色法、比濁法、又はゲル化法により行うことができる。
【実施例
【0062】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(1)カチオン化微結晶セルロースの製造
カチオン化結晶セルロースとして、エチレンジアミン(EDA)固定化結晶セルロース、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)固定化結晶セルロース、テトラエチレンペンタミン(TEPA)固定化結晶セルロース、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ジアミノヘキサン(TMDH)固定化結晶セルロース、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)固定化結晶セルロース、アルギニン(Arg)固定化結晶セルロース、ポリエチレンイミン(PEI)固定化結晶セルロース、4級化テトラエチレンペンタミン(Q-TEPA)固定化結晶セルロース、グリシジルトリメチルアンモニウム(GTMA)固定化結晶セルロース、及びエポキシポリマー修飾TMDH固定化微結晶セルロース(Ep-TMDH-MCC)を、以下の手順で合成した。
【0063】
実施例1
500ml四ツ口フラスコに、15gの微結晶セルロース(comprecel 101;株式会社伏見製薬所)と、20%(w/w)水酸化カリウム水溶液(42.4gの水酸化カリウム(一級;和光純薬工業株式会社)を169.6mlの水に溶解させたもの)を入れ、30℃水浴中で1時間撹拌した。次いで、四ツ口フラスコに113mlのクロロメチルオキシラン(特級;和光純薬工業株式会社)を加え、40℃水浴中で2時間撹拌した。反応物をろ布(TF-301B;通気度 10.2cc/cm/sec;東レ株式会社)上で吸引濾過し、固形分(ろ過残渣)としてエポキシ活性化微結晶セルロース(Ep-MCC)を得た。
得られたEp-MCCを500ml四ツ口フラスコに入れ、141.3mlの水に分散させた。その後、50%(w/w)EDA水溶液(20.8mlEDA(特級;和光純薬工業)と20.8ml水の混合液)を滴下し、50℃の水浴中で2時間撹拌した。反応物をろ布上で吸引濾過し、超純水を用いて洗浄した。得られた固形分(ろ過残渣)を500ml四ツ口フラスコにいれ、水200ml中で室温で1時間撹拌した。ろ布上で吸引濾過して超純水及びメタノールで洗浄を行い、EDA固定化微結晶セルロース(以下、「EDA-MCC」ともいう)を得た。
【0064】
実施例2
実施例1と同様にしてEp-MCCを得た後に、500ml四ツ口フラスコにEp-MCCと98mlの水を入れ、撹拌した。その後、50%(w/w)HMDA水溶液(42.5mlHMDA(一級;和光純薬工業)と42.5ml水の混合液)を滴下し、50℃の水浴中で2時間撹拌した。その後は、実施例1と同様にして、HMDA固定化微結晶セルロース(以下、「HMDA-MCC」ともいう)を得た。
【0065】
実施例3
実施例1と同様にしてEp-MCCを得た後に、500ml四ツ口フラスコにEp-MCCと62.8mlの水を入れ、撹拌した。その後、50%(w/w)TEPA水溶液(59.3mlTEPA(東京化成工業株式会社)と59.3ml水の混合液)を滴下し、50℃の水浴中で2時間撹拌した。その後は、実施例1と同様にして、TEPA固定化微結晶セルロース(以下、「TEPA-MCC」ともいう)を得た。
【0066】
実施例4
実施例1と同様にしてEp-MCCを得た後に、500ml四ツ口フラスコにEp-MCCと46.9mlの水を入れ、撹拌した。その後、50%(w/w)TMDH水溶液(68mlTMDH(東京化成工業株式会社)と68ml水の混合液)を滴下し、50℃の水浴中で19時間撹拌した。その後は、実施例1と同様にして、TMDH固定化微結晶セルロース(以下、「TMDH-MCC」ともいう)を得た。
【0067】
実施例5
実施例1と同様にしてEp-MCCを得た後に、500ml四ツ口フラスコにEp-MCCと53mlの水を入れ、撹拌した。その後、50%(w/w)TMEDA水溶液(51mlTMEDA(東京化成工業株式会社)と51ml水の混合液)を滴下し、50℃の水浴中で19時間撹拌した。その後は、実施例1と同様にして、TMEDA固定化微結晶セルロース(以下、「TMEDA-MCC」ともいう)を得た。
【0068】
実施例6
実施例1と同様にしてEp-MCCを得た後に、500ml四ツ口フラスコにEp-MCCとL(+)-アルギニン53.3g(特級;和光純薬工業株式会社)と162mlの水を入れ、50℃の水浴中で2時間撹拌した。その後は、実施例1と同様にして、Arg固定化微結晶セルロース(以下、「Arg-MCC」ともいう)を得た。
【0069】
実施例7
実施例1と同様にしてEp-MCCを得た後に、500ml四ツ口フラスコにEp-MCCと132.4mlの水を入れ、撹拌した。その後、50%(w/w)ポリエチレンイミン水溶液(25.4mlポリエチレンイミン(平均分子量1800;和光純薬工業株式会社)と25.4mlの水の混合液)を滴下し、50℃の水浴中で2時間撹拌した。その後は、実施例1と同様にして、PEI固定化微結晶セルロース(以下、「PEI-MCC」ともいう)を得た。
【0070】
実施例8
50mlスクリュー管に、実施例3で合成したTEPA-MCCを3gと、15mlの水と、3mlのクロロメチルオキシランを加え、50℃水浴中で5時間撹拌した。反応物をろ布上で吸引濾過し、超純水及びメタノールで洗浄し、Q-TEPA固定化微結晶セルロース(Q-TEPA-MCC)を得た。
【0071】
実施例9
300ml四ツ口フラスコに、15gの微結晶セルロースと、37.5%(w/w)水酸化カリウム水溶液(66gの水酸化カリウムを110mlの水に溶解させたもの)を入れ、30℃水浴中で1時間撹拌した。次いで、四ツ口フラスコに32.6gの80%グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド水溶液(東京化成工業株式会社)を加え、40℃水浴中で2時間撹拌した。反応物をろ布上で吸引濾過し、超純水及びメタノールで洗浄を行い、GTMA固定化微結晶セルロース(以下、「GTMA-MCC」ともいう)を得た。
【0072】
実施例10
100ml四ツ口フラスコに、実施例4で合成したTMDH-MCCを5gと、45mlの水と、4.1mlのエチレングリコールグリシジルエーテルを加え、50℃水浴中で1時間撹拌した。その後、6.0mlのTMDHを滴下し、更に2時間撹拌した。反応物をろ布上で吸引濾過し、超純水及びメタノールで洗浄し、エポキシポリマー修飾TMDH-MCC(Ep-TMDH-MCC)を得た。
【0073】
(2)陰イオン交換容量の測定
合成したカチオン化微結晶セルロースの陰イオン交換容量(Anion Exchange Capacity;AEC)を測定することにより、アミノ基やその他のカチオン基の導入量の目安とした。AECは、塩酸を用いた逆滴定法により測定した。手順を以下に示す。
【0074】
各カチオン化結晶セルロースを24時間以上室温で減圧乾燥し、約0.5gをスクリュー管に精密秤量した。ファクター既知の0.1mol/l塩酸20mlを加え、ローラー上で2時間撹拌した。ろ紙を用いて濾過し、ろ液を10ml別のスクリュー管に取った。ファクター既知の0.05mol/l水酸化ナトリウム水溶液でフェノールフタレインを指示薬として滴定を行った。

以下の式によりAECを算出した。
AEC(mEq/dry・g)
=(0.1×fHCl×20-0.05×fNaOH×V×20/10)÷W
HCl : 使用した塩酸のファクター
NaOH : 使用した水酸化ナトリウムのファクター
V : 滴定量(ml)
W : 粒子の乾燥重量(dry・g)
【0075】
その結果、EDA-MCCのAECは0.7011、HMDA-MCCのAECは0.6480、TEPA-MCCのAECは1.345、TMDH-MCCのAECは0.5563、TMEDA-MCCのAECは0.6661、Arg-MCCのAECは0.4909、PEI-MCCのAECは1.902、Q-TEPA-MCCのAECは0.4583、GTMA-MCCのAECは0.6151、Ep-TMDH-MCCのAECは0.3836であった。
【0076】
(3)ET吸着能評価
実施例1、4、及び6で得たEDA-MCC、TMDH-MCC、及びArg-MCCのET吸着能をそれぞれ測定し、既知のET吸着剤であるポリリジン担持球状セルロース(Poly(ε-lysine)-cellulose beads;J. LIQ. CHROM. & REL. TECHNOL., 2002, 25(4): 601-614.)のET吸着能と比較した。ポリリジン担持球状セルロースは、JNC社製のETクリーン(商品名)を使用した。
実施例1、4、及び6で得たEDA-MCC、TMDH-MCC、及びArg-MCCのAECは、上記の通り、それぞれ0.7011、0.5563、及び0.4909であった。また、ポリリジン担持球状セルロースのAECを、「(2)陰イオン交換容量の測定」の項目に記載の方法で測定したところ、0.9394meq/gであった。
ET吸着能の評価はバッチ法により行った。
乾熱滅菌可能な使用器具(コニカルビーカー、ホールピペット、ピペット、ガラスフィルター、薬さじ、リムルス用チューブ、チューブ用キャップ)はよく洗浄した後に250℃で4時間滅菌した。また、シリンジ、メンブランフィルター、チップはあらかじめγ線照射滅菌してあるものを用いた。また、純水としては大塚蒸留水(株式会社大塚製薬工場)を用いた。
ET濃度の測定は、市販のリムルス試薬であるエンドスペシーES-24M(生化学工業株式会社)を用いて行った。
【0077】
各吸着剤(ポリリジン担持球状セルロース、EDA-MCC、TMDH-MCC、Arg-MCC)を、ガラスフィルター上で0.2M NaOH/95% EtOH 25mlで5回洗浄した。次いで、滅菌済みの純水でろ液が中性になるまで洗浄を繰り返した。
【0078】
50mlコニカルビーカーに洗浄済みの吸着剤を秤量し、それに対し、表1に記載のET除去対象材料を10ml加え、バイオシェイカー内で表1に記載の温度にて、200rpmで2時間振とうした。ET除去対象材料としては、10wt%プルラン水溶液、1wt%アルカリ処理ゼラチン水溶液、1wt%酸処理ゼラチン水溶液、及び0.1wt%豚コラーゲン/5mM酢酸溶液を用いた。また、各ET除去対象材料のpH及びイオン強度は、表1に示す通りである。pH及びイオン強度は、各ET除去対象材料と各吸着剤とを混合した後も、ほぼ同じである。
次いで、吸着剤を含む水溶液をシリンジで吸い取り、0.8μmメンブランフィルターでろ過した。ろ液を大塚水で10~1000倍希釈した。希釈液を上記リムルス試薬の入った試験管に0.2mlずつ加え、ボルテックスでよく混合した。試験管をEGリーダー-SV-12(生化学工業株式会社)に設置し、比色時間法によりET残存濃度を決定した。
また、吸着剤と接触させる前の各ET除去対象材料に含まれるET濃度を、上記と同様にして、各ET除去対象材料0.8μmメンブランフィルターでろ過し、大塚水で10~1000倍希釈し、上記リムルス試薬を用いて、比色時間法により決定した。
【0079】
結果を表1に示す。
【表1】
EDA-MCCは、陰イオン交換容量がポリリジン担持球状セルロースの約1.3分の1と低いにも拘らず、LPS吸着率はポリリジン担持球状セルロースの約1.1倍と高かった。TMDH-MCCは、陰イオン交換容量がポリリジン担持球状セルロースの約1.7分の1と低いにも拘らず、LPS吸着率はポリリジン担持球状セルロースの約1.1~1.8倍以上と高かった。Arg-MCCは、陰イオン交換容量がポリリジン担持球状セルロースの約1.9分の1と低いにも拘らず、LPS吸着率はポリリジン担持球状セルロースの約1.1~1.3倍と高かった。
上記ET除去対象材料は、何れも高粘度の材料であり、特に、プルラン水溶液は10wt%という高濃度のプルランを含む材料である。また、ゼラチン、及びコラーゲンは、カチオン性基であるアミノ基を有する。本発明のET吸着剤は、カチオン性基を有する材料や、高粘度材料に対して高いET除去能を有することが明らかとなった。
【0080】
(4)カラム化の検討
実施例6で得たArg-MCCを用いてカラムを作製した。即ち、Arg-MCCを室温で24時間減圧乾燥し、約1ml容量のカラム容器に490~670mg入れた。
【0081】
水の流量を0.5~4.0ml/分にして通水し、負荷圧を計測した。負荷圧は、水流量0.5ml/分の場合のみ通液開始5分後に測定し、他は通液開始1分後に測定した。結果を表2に示す。表2中の負荷圧の単位はkg/cmである。
【0082】
【表2】
約1ml容量のカラムに対して0.5~4.0ml/分という流速で通液したが、0~5kg/cmという低い安定した圧力で通液できた。また、加圧による容器の破損などの問題は発生しなかった。本発明のET吸着剤を充填したカラムは、水性組成物からのET除去に実用できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明のET吸着剤は、カチオン性基を有する物質を含むET除去対象材料から十分にETを除去することができ、また、粘性の高い材料から効率よくETを除去することができる。従って、医薬品、食品、化粧品分野で実用性の高いものである。