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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】容器詰水素含有飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/54 20060101AFI20220527BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20220527BHJP
   A23L 2/42 20060101ALI20220527BHJP
【FI】
A23L2/54
A23L2/00 V
A23L2/00 N
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020080132
(22)【出願日】2020-04-30
(62)【分割の表示】P 2016148425の分割
【原出願日】2016-07-28
(65)【公開番号】P2020114259
(43)【公開日】2020-07-30
【審査請求日】2020-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】瀧原 孝宣
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 光
(72)【発明者】
【氏名】越智 貴之
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】特許第6700136(JP,B2)
【文献】特開2008-280057(JP,A)
【文献】特開2014-024606(JP,A)
【文献】特開2013-252059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器詰水素含有飲料であって、
前記容器に封入された水素含有飲料の内容量をVL(mL)、前記容器中のヘッドスペースの体積をHv(mL)、及び前記ヘッドスペースの内圧をHp(MPa)とした場合、
前記ヘッドスペースの内圧Hpが0.060~0.130MPaであり、かつ、
下記式1を満たすことを特徴とする容器詰水素含有飲料。
0.0020≦(Hv/VL)×Hp≦0.0070 ・・・(1)
(ただし、前記容器がガラス瓶、又は金属積層フィルムを用いたパウチ形態の容器である。)
【請求項2】
前記ヘッドスペースの体積Hvが10.0~20.0mLであることを特徴とする請求項1に記載の容器詰水素含有飲料。
【請求項3】
前記水素含有飲料の充填時における水素濃度(ppm)が1.5~3.0ppmであることを特徴とする請求項1または2に記載の容器詰水素含有飲料。
【請求項4】
容器詰水素含有飲料の製造方法であって、
前記容器に封入された水素含有飲料の内容量をVL(mL)、前記容器中のヘッドスペースの体積をHv(mL)、及び前記ヘッドスペースの内圧をHp(MPa)とした場合、
前記ヘッドスペースの内圧Hpが0.060~0.130MPaとなるように調整し、かつ、
VL(mL)、Hv(mL)及びHp(MPa)を、下記式1を満たすように調整することを特徴とする容器詰水素含有飲料の製造方法。
0.0020≦(Hv/VL)×Hp≦0.0070 ・・・(1)
(ただし、前記容器がガラス瓶、又は金属積層フィルムを用いたパウチ形態の容器である。)
【請求項5】
前記ヘッドスペースの体積Hvが10.0~20.0mLとなるように、前記ヘッドスペースの体積Hvを調整することを特徴とする請求項4に記載の容器詰水素含有飲料の製造方法。
【請求項6】
容器詰水素含有飲料における水素濃度保持方法であって、
前記容器に封入された水素含有飲料の内容量をVL(mL)、前記容器中のヘッドスペースの体積をHv(mL)、及び前記ヘッドスペースの内圧をHp(MPa)とした場合、
前記ヘッドスペースの内圧Hpが0.060~0.130MPaとなるように調整し、かつ、
VL(mL)、Hv(mL)及びHp(MPa)を、下記式1を満たすように調整することを特徴とする容器詰水素含有飲料の水素濃度保持方法。
0.0020≦(Hv/VL)×Hp≦0.0070 ・・・(1)
(ただし、前記容器がガラス瓶、又は金属積層フィルムを用いたパウチ形態の容器である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素含有飲料が容器に充填され当該容器が密封されてなる容器詰水素含有飲料に関するものであり、特に、容器充填後の加熱殺菌、その後の保管においても、水素濃度の保持率の高い状態で維持し得る容器詰水素含有飲料に関するものである。また、本発明は、前記容器詰水素含有飲料の製造方法及び水素濃度保持方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
我国における飲料製品は、生活スタイルの変化や飲食に対する嗜好の多様化に応えるため、その種類は年々増加し続けている。特に、所定の容器中に封入され、そのままの状態で飲用可能な所謂RTD(Ready to Drink)形態の容器詰飲料が飲料製品全体でも主流となっている。更に、RTD形態の容器詰飲料は、紙製容器等が用いられ冷蔵保管が必要な所謂チルド製品と、缶やペットボトルといった常温で長期間の保存が可能な所謂ドライ製品とに分類されるが、ドライ製品がより大きな市場規模を有している。
【0003】
ドライ製品に分類される容器詰飲料としては、ミネラルウォーター、コーヒー飲料、紅茶や緑茶といった茶系飲料、野菜果汁飲料、機能性飲料など非常に多種多様であり、一般的に数ヶ月間という長期の保存を可能とするため、容器充填後に加熱殺菌処理が行われている。
一方で、上記加熱殺菌処理によって、いずれの飲料カテゴリにおいても、高温での加熱による、風味や呈味の劣化抑制という課題を常に有していた。
【0004】
また、昨今の食と健康に対する意識の高まりもあって、身体に対する生理活性機能を備えた、所謂機能性飲食品に注目が集まっている。飲料製品もこの例外ではなく、昨今では、健康増進法等に定められた上記の特定保健用食品(トクホ)や、栄養機能食品の対象とは別に、一定の要件を備えることで食品への機能性表示が認められるという、新たな機能性飲料の制度にも期待が寄せられており、生理活性機能を有する可能性がある新規の成分についても鋭意研究が進められている。
【0005】
生理活性機能を発揮する可能性がある成分として、近年注目されている物質の一つに水素がある。水素を高濃度で水に溶解させた、所謂「水素水」は、溶存水素の身体に対する具体的な挙動や、作用メカニズムの詳細については現状不明であるものの、分子状の水素が体内の活性酸素(酸素ラジカル)を除去する効果があるとされ、これによってさまざまな健康増進作用を促進するものとして期待されている。水素を含有する水素水は、缶やパウチ形態等の容器に封入された水素水製品として広く流通している。
【0006】
水素水に関する先行技術として、水素以外の原料の生理活性機能に着目した飲料、例えば、茶類、果実・野菜類等からなる機能性原料を水素水に配合した水素含有飲料に係る発明が提案されている(特許文献1参照)。また、飲料用水素水の製造方法として、ガス透過膜を介して原料水に所定圧に加圧した水素を溶解させる工程と、溶解後の水素水の水素濃度を測定する工程と、水素濃度が所定範囲になるように、加圧水素の圧力を調整する工程を備えた飲料用水素含有水の製造方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
水素の水への溶解度は溶解させる際に接触させる水素の圧力に比例することから、溶解度を単純に上げるためには、高圧下で溶解させればよい。しかしながら、このような水素含有飲料においては、常圧における水素の水への溶解度は極めて低い(約1.6ppm)ため、高圧下で過飽和状態に溶解させた場合であっても、容器詰の形態で長期間保管すると、容器中の水と容器との間に生じる空間部(所謂ヘッドスペース)に溶解した水素が放出され、水中の水素濃度が減少してしまうという問題があった。この問題に関し、水素水を充填した缶容器に缶蓋部を取り付ける工程において、水素水を缶体から溢水させる二次オーバーフローを生じさせ、水素水を金属缶体に満注、即ち上記ヘッドスペースを生じることなく充填するようにした水素水の充填製品の製造方法が提案されている(特許文献3参照)。また、容器のキャップの内側に突起部を有し、上記突起部の体積と、充填した水素含有液体の体積の和が、ボトル缶本体の満注量である体積と等しくなるようにすることで、ヘッドスペースを生じないようにした水素含有液体充填容器、及び当該容器を使用して、水素含有液体を充填する水素含有液体の充填方法が提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-169153号公報
【文献】特許第4573904号公報
【文献】特開2014-024606号公報
【文献】特開2016-043955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3及び4の方法はいずれも、水素含有飲料において水素濃度が減少する理由が、ヘッドスペースに水素が放出されてしまうことにあると考え、容器内に水素含有飲料を満注充填しヘッドスペースを生じさせないようにしたものである。
【0010】
しかし、ボトル缶等の容器詰飲料がヘッドスペースを有しない場合、搬送時等における衝撃に弱く、開栓時に内容物(飲料)が噴出する虞があるといった容器強度的な問題が生じ、商品形態として適切でないという問題があった。
また、発明者らがヘッドスペースの体積と水素濃度の保持率(液体充填直後からの水素濃度の減少率)との関係を検証したところ、単純にヘッドスペースを小さくすれば水素濃度の保持率が向上するという関係は成立しないことが判明した。
従って、上記の容器強度についての問題を解決しつつも水素濃度の保持率を高い状態で確保するためのヘッドペースに関する最適な要件、及びこの要件を満たす容器詰水素含有飲料については、当業者においても知られていなかった。
【0011】
本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであって、容器強度を十分に確保しつつも、容器充填後から水素濃度が低下しにくい容器詰水素含有飲料、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を達成するために本発明者らが鋭意研究した結果、封入された水素含有飲料の内容量に対するヘッドスペースの体積の割合と、ヘッドスペースの内圧とのバランスを所定範囲に調整することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
(1)容器詰水素含有飲料であって、前記容器に封入された水素含有飲料の内容量をVL(mL)、前記容器中のヘッドスペースの体積をHv(mL)、及び前記ヘッドスペースの内圧をHp(MPa)とした場合、下記式1を満たすことを特徴とする容器詰水素含有飲料。
0.0020≦(Hv/VL)×Hp≦0.0070 ・・・(1)
(2)前記ヘッドスペースの体積Hvが10.0~20.0mLであることを特徴とする(1)に記載の容器詰水素含有飲料。
(3)前記ヘッドスペースの内圧Hpが0.060~0.130MPaであることを特徴とする(1)または(2)に記載の容器詰水素含有飲料。
(4)前記容器詰水素含有飲料の内容量VLに対する前記ヘッドスペースの容積Hvの比Hv/VLが0.020~0.050であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の容器詰水素含有飲料。
(5)前記水素含有飲料の充填時における水素濃度(ppm)が1.5~3.0ppmであることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の容器詰水素含有飲料。
(6)前記容器が金属缶であることを特徴とする(1)~(5)のいずれかに記載の容器詰水素含有飲料。
(7)容器詰水素含有飲料の製造方法であって、前記容器に封入された水素含有飲料の内容量をVL(mL)、前記容器中のヘッドスペースの体積をHv(mL)、及び前記ヘッドスペースの内圧をHp(MPa)とした場合、VL(mL)、Hv(mL)及びHp(MPa)を、下記式1を満たすように調整することを特徴とする容器詰水素含有飲料の製造方法。
0.0020≦(Hv/VL)×Hp≦0.0070 ・・・(1)
(8)前記ヘッドスペースの体積Hvが10.0~20.0mLとなるように、前記ヘッドスペースの体積Hvを調整することを特徴とする(7)に記載の容器詰水素含有飲料の製造方法。
(9)容器詰水素含有飲料における水素濃度保持方法であって、前記容器に封入された水素含有飲料の内容量をVL(mL)、前記容器中のヘッドスペースの体積をHv(mL)、及び前記ヘッドスペースの内圧をHp(MPa)とした場合、VL(mL)、Hv(mL)及びHp(MPa)を、下記式1を満たすように調整することを特徴とする容器詰水素含有飲料の水素濃度保持方法。
0.0020≦(Hv/VL)×Hp≦0.0070 ・・・(1)
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る容器詰水素含有飲料は、充填後においても高い水素濃度の保持率を確保しつつも、上述した容器強度に関する諸問題をも解決しうる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
1.容器詰水素含有飲料
(ヘッドスペース割合とヘッドスペース内圧との関係)
本発明の実施形態に係る容器詰水素含有飲料は、所定のヘッドスペースを有するように水素含有飲料が容器に封入されてなるものである。
本実施形態に係る容器詰水素含有飲料は、水素含有飲料の内容量VL(mL)と、ヘッドスペースの体積Hv(mL)と、ヘッドスペースの内圧Hp(MPa)との関係が、下記式1を満たすことを要する。
0.0020≦(Hv/VL)×Hp≦0.0070 ・・・(1)
【0016】
ここで、ヘッドスペースの体積Hvを水素含有飲料の内容量VLで除した値Hv/VLは、水素含有飲料に対するヘッドスペースの割合と言い得るものである。
本発明者らは、容器詰水素含有飲料において、水素含有飲料に対するヘッドスペースの割合Hv/VLとヘッドスペースの内圧Hpとの関係が上記式1の要件を満たすことによって、搬送時等の耐衝撃性に優れるとともに開栓時の噴きこぼれが抑制され、かつ、経時による水素濃度の保持率が改善されることを見出した。すなわち、(Hv/VL)×Hpが0.0020~0.0070であることにより、水素濃度の保持率を向上させると共に容器強度等を確保することができる。特に、(Hv/VL)×Hpが0.0020以上であることで、より水素濃度の保持率を高く維持しつつも、容器強度等を確保することができる。一方、(Hv/VL)×Hpが0.0070以下であると、水素濃度の保持率が特に優れたものとなる。
(Hv/VL)×Hpの上限値は、0.0070以下であり、0.0055以下であることが好ましく、0.0050以下であることがより好ましく、0.0048であることがさらに好ましく、0.0035以下であることが特に好ましい。一方、(Hv/VL)×Hpの下限値は、0.0020以上であり、0.0022以上であることが好ましく、0.0023以上であることが特に好ましい。
【0017】
(ヘッドスペース割合)
水素含有飲料に対するヘッドスペースの割合Hv/VLは、0.020~0.050であることが好ましく、0.025~0.040であることがより好ましく、0.030~0.040であることが更に好ましい。Hv/VLが0.020以上であると、搬送時等の耐衝撃性にさらに優れるとともに開栓時の噴きこぼれが抑制され、一方Hv/VLが0.050以下であると、経時による水素濃度の保持率がより優れたものとなる。
【0018】
(ヘッドスペース体積)
ヘッドスペースの体積Hv(mL)は、容器強度、及び開封時の噴出し防止等を鑑み、10.0mL~20.0mLであることが好ましく、10.0mL~15.0mLであることがより好ましい。ヘッドスペースの体積Hvが10.0mL以上であると、搬送時等の耐衝撃性にさらに優れるとともに開栓時の噴きこぼれが抑制され、一方ヘッドスペース体積Hvが20.0mL以下であると、上記効果に加え、経時による水素濃度の保持率がより優れたものとなる。
【0019】
ここで、水素含有飲料の内容量VLは、水素含有飲料を充填する前の空容器の質量と、充填後の容器詰水素含有飲料の質量とを測定し、その差分として得られる水素含有飲料の充填質量(g)を、比重1.00にて体積(mL)換算した値である。また、ヘッドスペース体積Hvは、開栓前の容器詰水素含有飲料の質量を測定した後、開栓して比重1.00の水を満注して合計質量を測定し、その増分であるヘッドスペース体積に相当する水の質量(g)を、比重1.00にて体積(mL)換算した値である。水素含有飲料の内容量VL及びヘッドスペース体積Hvの測定方法の詳細は、後述する実施例にて示す。
なお、水素含有飲料の内容量VL及びヘッドスペースの体積Hvは、所定の容量を備える容器を用い、また、当該容器への水素含有飲料の充填量を調整することで、所望の値に制御することができる。
【0020】
(ヘッドスペースの内圧)
本実施形態に係る容器詰水素含有飲料において、ヘッドスペースの内圧Hpは、0.060~0.130MPaであることが好ましく、0.060~0.120MPaであることが特に好ましく、0.070~0.100MPaであることが更に好ましい。ヘッドスペースの内圧Hpが0.060MPa以上であると、搬送時等の耐衝撃性にさらに優れるとともに開栓時の噴きこぼれが抑制され、一方ヘッドスペースの内圧Hpが0.130MPa以下であると、経時による水素濃度の保持率がより優れたものとなる。
【0021】
ここで、本実施形態においては、ヘッドスペースを構成している気体は、例えば窒素ガスであって、ヘッドスペースの内圧は、飲料液を容器に充填した後、液体窒素等を滴下することでヘッドスペースから空気等を追い出した後に巻締め(密封)するにあたり、液体窒素の滴下量を調整することにより、調整することができる。
また、ヘッドスペースの内圧Hp(MPa)は、一般的に缶テスターと称される、真空検缶機等を使用して測定することが可能である。なお、本実施形態の容器詰水素含有飲料が、容器を密封した後にさらに加熱殺菌されるものである場合、上記ヘッドスペース内圧は、容器を密封しさらに加熱殺菌した後に測定するものとする。
【0022】
(充填時水素濃度)
容器詰水素含有飲料にあっては、容器充填時における水素濃度が最も高いことから、充填時水素濃度を表示して謳うことが一般的である。
本実施形態の容器詰水素含有飲料においては、充填される水素含有飲料の充填時における水素濃度(ppm)が0.8ppm以上であることが好ましく、1.0ppm以上であることがより好ましく、1.5ppm以上であることが更に好ましく、1.8ppm以上であることが殊更好ましく、2.0ppm以上であることが最も好ましい。充填時水素濃度が上記下限値以上であると、容器詰水素含有飲料の飲用時(開栓時)においても水素濃度が高い値に維持され易く、水素による好ましい生理活性が期待できる。さらに、充填時水素濃度が上記下限値以上であると、充填時水素濃度がより低い場合と比べて、単純に水素濃度が高く維持されるのみならず、水素濃度の保持率が高くなる傾向があるため、特に好ましい。
一方、充填時水素濃度の上限値は特に制限されないが、充填時の安全性、製造コスト等を鑑みれば、3.0ppm以下であってよく、さらには2.5ppm以下であってよい。
【0023】
充填時水素濃度は、容器に充填される水素含有飲料を製造する際に、水素濃度が所望の値となるよう調整すればよい。
なお、充填時水素濃度の測定は、既存の測定機器から選択することができる。本実施形態においては、充填直前における飲料液の水素濃度を後述する充填時水素濃度とした。
【0024】
2.容器詰水素含有飲料の原材料
本実施形態に係る容器詰水素含有飲料は、前述した(Hv/VL)×Hpが式1の要件を満たすように水素含有飲料を容器に充填すればよい。本実施形態にあっては、水素含有飲料の溶媒は、水であることが好ましい。
【0025】
(溶媒である水の種類)
液体溶媒が水である場合、飲用に適していればその種類は限定されず、例えば、イオン交換水、井水、市水、地下水、蒸留水、天然水、海水、海洋深層水などを原水として用いることができる。また、硬水、軟水の種類は問わないが、飲用に好適であるという点等を考慮すると、硬度(カルシウム濃度(mg/L)×2.5+マグネシウム濃度(mg/L)×4.5の算出値)が120未満である水を使用することが望ましい。
【0026】
(脱気処理・脱イオン処理)
本実施形態にあっては、水素含有ガスによる作用をより効果的に発揮させる観点から、液体溶媒として予め脱気処理された脱気水を用いることが望ましい。
また、水に対する脱イオン処理とは、水に含まれる水素イオンと水酸化物イオン以外の陽イオン、陰イオンを除去することを意味する。脱イオン処理により得られた水は一般的に純水と称され、特に理論上の水のイオン積(水素イオン濃度×水酸化物イオン濃度=1.0×10-14)、導電率5.5×10-8S/cmに近いものは超純水とも称する。本実施形態にあっては、特に脱イオン処理は必要としないが、脱イオン水を用いることを制限するものではない。
【0027】
水素含有飲料は、前述した水(所望により脱気処理・脱イオン処理など済)に、水素を含有させて得られるものである。
水素含有飲料または水素水は、水素を含有する飲料または水を指し、明確な定義はないが、学術研究会である「分子状水素医学シンポジウム(事務局:日本医科大学大学院加齢科学専攻細胞生物学分野研究室)」において、「水素水」とは、水素水関連消費者が開封したときに分子状水素の濃度が40μM以上存在している溶液。飽和水素濃度の5%にあたり、80μg/L(0.08 ppm)を意味するとされている。
【0028】
ここで、溶媒である水に水素を含有させる方法は特に限定されないが、標準大気圧以上の水素ガス若しくは水素ガスを含有する気体を細かい気泡の状態で溶媒中に吹き込む方法(所謂バブリング)、または、以下に具体例を示すとおり、例えば特許5746411号に記載された気体透過膜を介して、液体溶媒中に水素を高圧で注入する方法を選択することができるが、他の溶解方法を採用しても本実施形態の効果は同様である。
【0029】
(気体透過膜)
気体透過膜を介して水素を注入する方法を採用する場合、気体透過膜は、従来から気体成分の分離に用いられていた所謂均質膜を採用することができる。
透過膜の具体的な種類は特に限定されないが、加圧に対する強度を保持する為、その膜厚は20~60μmであることが望ましく、30~60μmがより望ましく、30~50μmが更に望ましい。
また、気体透過膜の素材としては、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、シリコーンゴムから選択できるが、シリコーンゴムから形成された気体透過膜が最も好適である。なお、シリコーンゴムはポリジメチルシロキサンから形成されていることが望ましい。
【0030】
(気体透過の性能)
上記気体透過膜を使用する場合、気体透過膜の気体透過性能は、気体透過量比Ar(アルゴン)/N(窒素)が2以上のものを用いることがより望ましい。上記気体透過量比は、アルゴン、及び窒素を、それぞれ透過膜に接する面における圧力を1.0kgf/cmに保った時の気体透過量を測定しその比率を算出したものである。
【0031】
(気体透過膜の形態)
また、上記気体透過膜を用いる場合、透過膜の形態を特に限定するものではないが、中空糸膜状の形態であることが望ましい。
中空糸膜とは気体透過膜の一利用形態であって、細いストロー状の細管に形成された膜体をいう。上記中空糸膜を多数本束ねた中空糸膜束からなる中空糸膜モジュールは、塩化ビニルの合成樹脂、若しくはアルミ等の金属で形成されたハウジング容器に密閉状態で格納されている。一般的に個々の中空糸膜1本当たりの直径(内径)は、数mm~100μm程度である。
【0032】
(そのほかの成分)
本実施形態に係る容器詰水素含有飲料は、このほか、本実施形態による効果を損なわない範囲で、他の成分を含んでいてもよい。かかる他の成分としては、例えば、植物汁、植物抽出液、旨味成分、ミネラル、甘味付与剤、香料、酸味料等が挙げられる。また、さらに本実施形態の効果を損なわない範囲において、ビタミン類、酸化防止剤、乳化剤、糊料、pH調整剤、着色料(色素)、油、品質安定剤等を含有してもよい。ただし、水素濃度の保持率を優れたものとする観点からは、少なくとも糖分、脂質、タンパク質については実質的に含有せず、その他の成分についても溶媒である水に由来する成分(例えば、ミネラル)以外の成分を含まないことが好ましい。
【0033】
(pH)
本実施形態に係る容器詰水素含有飲料のpHは、特に制限されるものではないが、飲料が所謂ミネラルウォーターの場合は、pHは中性域を中心とした5.0~9.5が好ましく、5.5~9.0がより好ましく6.0~8.5が更に望ましく、6.2~8.0が最も好ましい。
また、本実施形態に係る容器詰水素含有飲料が所謂酸性飲料の場合は、pHは酸性域を中心とした2.8~5.0が好ましく、3.0~4.5がより好ましく、3.2~4.2が更に望ましく、3.4~3.9が最も好ましい。
【0034】
(容器)
本実施形態に係る容器詰水素含有飲料は、容器に充填されて提供される。かかる容器としては、PETボトル、缶(アルミニウム、スチール)、紙、プラスチック、レトルトパウチ、瓶(ガラス)等が挙げられる。本実施形態においては、水素濃度の保持率を優れたものとする観点から、水素のバリア性が要求に優れるガラス瓶、金属缶、又は金属積層フィルムを用いた所謂パウチ形態の容器を用いることが好ましく、中でも製造時や搬送時等の取扱いが容易であることから、金属缶を用いることが好ましく、アルミニウム缶を用いることが特に好ましい。
また、容器が金属缶、特にアルミニウム缶の場合、その容器形状は、ボトル(ビン)の形をしており、スクリュー式のキャップの蓋によりリシールが可能である、所謂ボトル缶形状のものが好ましい。
ボトル缶形状の容器は水素保持、リシール性の観点から優れているものの、ペットボトルと比較すると凹み等の変形が生じると元に戻らない為、例えばホットパック充填されたペットボトル飲料のように、ヘッドスペースを無くす、又は小さくすることは耐衝撃性の観点から困難である。
従って、本実施形態の知見に因らない場合、水素保持機能と耐衝撃性能を共に確保することは、非常に難しい。
【0035】
また、容器の容量は本実施形態の要件満たす範囲であれば、特に制限されるものではないが、300~550mLであることが好ましい。容器の容量がかかる範囲にあると、十分量の水素含有飲料が充填されても前述したヘッドスペース体積やヘッドスペース割合を確保することが容易となり、水素濃度の保持率を良好なものとすることができる。
【0036】
3.製造方法
上記実施形態に係る容器詰水素含有飲料は、ヘッドスペース割合とヘッドスペース内圧との積が所望の値となるように、容器に封入される水素含有飲料の内容量VL、ヘッドスペースの体積Hv、及びヘッドスペース内圧Hpを調整する以外は、従来公知の方法により製造することができる。
【0037】
例えば、所望により脱気処理等を施した水に、気体透過膜を介して水素を注入し、所定の水素濃度を有する水素含有飲料を調製する。かかる水素含有飲料を金属缶に充填し、密封後(さらに加熱殺菌後)の容器内圧を調整すべく所望量の液体窒素を滴下してヘッドスペースの空気を追い出した後、密封(巻締め)する。なお、ホットパック充填する場合は、この密封の後に加熱殺菌(後殺菌)を行う。
【0038】
(殺菌)
本実施形態に係る容器詰水素含有飲料は、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で製造できる。殺菌の条件は食品衛生法に定められた条件と同等の効果が得られる方法を選択すればよいが、水素濃度を可能な限り保持するという観点から、殺菌は容器封入後、容器ごと殺菌する方法が好ましい。殺菌方法としては、レトルト殺菌等があるが、容器ごと殺菌する方法であれば、高温の水を容器外部から浴びさせる方法等を選択することができる。
【0039】
以上説明した実施形態に係る容器詰水素含有飲料は、水素含有飲料の内容量に対するヘッドスペース体積の割合Hv/VLとヘッドスペースの内圧Hpとの関係が所定の要件を満たしているため、ヘッドスペースを有しながらも水素濃度が低下しにくいものとなる。
【0040】
また、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【実施例
【0041】
以下、製造例・試験例等を示すことにより本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の試験例等に何ら限定されるものではない。
【0042】
〔容器詰水素含有飲料の製造〕
天然水を-0.08MPaの負圧環境で溶存気体の脱気を行い、その後126℃で30秒間殺菌した後、25℃まで冷却したものを使用した。かかる水は無菌条件下にて、気体透過膜を介して水素を注入し、充填時の水素濃度が表1に示す値となる水素含有飲料を調製した。得られた水素含有飲料を、表1に示す内容量となるよう、洗浄殺菌済みのアルミ缶に充填し、充填開口部より液体窒素を滴下してヘッドスペースの空気を追い出した後、キャップを巻き締めて密封し、81℃5分相当の後殺菌を行い、容器詰水素含有飲料を得た(実施例1)。
【0043】
また、アルミ缶を変更し、さらに、水素含有飲料の充填量、充填時水素濃度、および液体窒素の滴下量を変更した以外は、実施例1と同様に製造し、容器詰水素含有飲料を得た(実施例2~12,比較例1~7)。それぞれの実施例及び比較例においては、同一条件にて複数の容器詰水素含有飲料をそれぞれ製造し、下記試験例に供した。
【0044】
<試験例1>内容量及びヘッドスペース体積の測定
実施例および比較例の各容器詰水素含有飲料において、水素含有飲料を充填する前の空容器の質量をそれぞれ測定した。次に、水素含有飲料を充填した後の容器詰水素含有飲料の質量を測定し、充填前後の差分を水素含有飲料の充填質量(g)とした。得られた充填質量を比重1.00にて体積(mL)に換算し、水素含有飲料の内容量(mL)を算出した。結果を表1に示す。
【0045】
また、実施例および比較例の各容器詰水素含有飲料について、開栓前の質量を測定した後、開栓して比重1.00の水を満注して合計質量を測定した。開栓前後の質量の増分は、ヘッドスペースに充填された水の質量(g)に相当する。得られたヘッドスペース体積相当の水の質量(g)を、比重1.00にて体積(mL)に換算し、ヘッドスペース体積(mL)を算出した。結果を表1に示す。
【0046】
<試験例2>ヘッドスペース内圧の測定
実施例および比較例の各容器詰水素含有飲料について、真空検缶機(横山計器社製)を用い、後殺菌後のヘッドスペース内圧(単位:MPa)を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
<試験例3>水素濃度の測定
実施例および比較例の各容器詰水素含有飲料において、ニードル型水素濃度測定器(ユニセンス社製)を用い、容器に充填する直前の水素含有飲料の水素濃度(単位:ppm)を測定した。また、各容器詰水素含有飲料を25℃にて2週間保管した後、水素濃度を測定した。これらの結果に基づき、下記式にて水素濃度の保持率を算出した。
水素濃度保持率(%)=(25℃2週間後の水素濃度)/(充填時の水素濃度)×100
結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示すように、本発明の要件を満たす試料は、25℃2週間後の水素濃度の保持率に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る容器詰水素含有飲料は、水素濃度が低下しにくく、特に常温保管においても水素濃度が低下しにくいため、常温流通が可能である。また、本発明に係る容器詰水素含有飲料は、ヘッドスペースを有しているため、搬送時等の流通時においても耐衝撃性に優れ、また、開栓時に内容物(水素含有飲料)が噴出するおそれもない。そのため、本発明に係る容器詰水素含有飲料は、様々な飲用シーンに適用が可能である点において特に好適である。