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特許7080310ピンシームプレスフェルトおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】ピンシームプレスフェルトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21F 7/10 20060101AFI20220527BHJP
【FI】
D21F7/10
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020515838
(86)(22)【出願日】2018-05-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 US2018034996
(87)【国際公開番号】W WO2018222633
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2019-11-27
(31)【優先権主張番号】62/512,874
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512227041
【氏名又は名称】ハイク・ライセンスコ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ポストル,フリードリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ハイデン,クラウス
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-019598(JP,U)
【文献】特開2000-256984(JP,A)
【文献】特表2002-511534(JP,A)
【文献】特開2009-041161(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0037573(US,A1)
【文献】実開平01-102198(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21F 7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の繰返し単位を備えるプレスフェルト用の布であって、前記繰返し単位の各々は、複数のマシン横断方向(CMD)糸と、前記複数のCMD糸と織り合わされた複数のマシン方向(MD)糸とを備え、前記複数のMD糸は、第1の組のMD糸と第2の組のMD糸とを備え、前記第1の組のMD糸はその端部に第1のピントルに掛かる継ぎ目ループを含み、前記第2の組のMD糸は、その端部に、前記第1のピントルの上方に配置される第2のピントルに掛かる継ぎ目ループを含み、前記第1の組のMD糸と前記第2の組のMD糸とが交互配列されている、布。
【請求項2】
前記第1の組のMD糸がモノフィラメント糸を含む、請求項1に記載の布。
【請求項3】
前記第2の組のMD糸がケーブル糸を含む、請求項2に記載の布。
【請求項4】
前記CMD糸がケーブル糸を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の布。
【請求項5】
前記第1の組のMD糸と前記第2の組のMD糸とは種類が異なる、請求項1~4のいずれか1項に記載の布。
【請求項6】
抄紙機用のプレスフェルト用の布の製造方法であって、
(a)複数の繰返し単位を備える布を形成するステップであって、
前記繰返し単位の各々は、複数のマシン横断方向(CMD)糸と、前記複数のCMD糸と織り合わされた複数のマシン方向(MD)糸とを備え、前記複数のMD糸は、第1の組のMD糸と第2の組のMD糸とを含み、かつ、
前記繰返し単位の各々は、複数のマシン横断方向(CMD)ケーブル糸と、前記複数のCMD糸と織り合わされた複数のマシン方向(MD)糸とを備え、前記複数のMD糸は、第1の組のMD糸と第2の組のMD糸とを含み、前記第1の組のMD糸はその端部に第1のピントルに掛かる継ぎ目ループを含み、前記第2の組のMD糸はその端部に前記第1のピントルの上方に配置される第2のピントルに掛かる継ぎ目ループを含む、ステップと、
(b)前記第2の組のMD糸の前記端部から前記第2のピントルを取り外すステップと、
(c)前記第2の組のMD糸の前記端部の各々その反対方向から継ぎ目に近づく前記第1の組のMD糸の前記端部との間の隙間が約0.3mm以下になるように、前記布に張力を加えるステップと、を含む方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で製造された前記布に重ね合うようにバット層を取り付けるステップを含む、抄紙機用のプレスフェルトの製造方法
【請求項8】
前記第1の組のMD糸がモノフィラメント糸を含む、請求項記載の方法。
【請求項9】
前記第2の組のMD糸がケーブル糸を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記CMD糸がケーブル糸を含む、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記第1の組のMD糸と前記第2の組のMD糸とが交互配列されている、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の組のMD糸と前記第2の組のMD糸とは種類が異なる、請求項6に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の組のMD糸の前記端部の少なくとも一部がそれぞれ、その反対方向から前記継ぎ目に近づく前記第1の組のMD糸の前記端部と接触する、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記ステップ(c)が、前記布の熱処理の間に行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
抄紙機用のプレスフェルト用の布の製造方法であって、
(a)複数の繰返し単位を備える布を形成するステップであって、
前記繰返し単位の各々は、複数のマシン横断方向(CMD)糸と、前記複数のCMD糸と織り合わされた複数のマシン方向(MD)糸とを備え、前記複数のMD糸は、第1の組のMD糸と第2の組のMD糸とを含み、かつ、
前記繰返し単位の各々は、複数のマシン横断方向(CMD)ケーブル糸と、前記複数のCMD糸と織り合わされた複数のマシン方向(MD)糸とを備え、前記複数のMD糸は、第1の組のMD糸と第2の組のMD糸とを含み、前記第1の組のMD糸はその端部に第1のピントルに掛かる継ぎ目ループを含み、前記第2の組のMD糸はその端部に前記第1のピントルの上方に配置される第2のピントルに掛かる継ぎ目ループを含む、ステップと、
(b)前記第2の組のMD糸の前記端部から前記第2のピントルを取り外すステップと、
(c)前記第2の組のMD糸の前記端部の各々が、その反対方向から継ぎ目に近づく前記第1の組のMD糸の前記端部に僅かに重なるように、前記布に張力を加えるステップと、
(d)前記第1のピントルを取り外すステップと、
(e)前記第1の組のMD糸の前記継ぎ目ループに第3のピントルを挿入するステップと、
を含む方法。
【請求項16】
前記ステップ(c)が、前記布の熱処理の間に行われる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第3のピントルは、前記第1のピントルよりも小径であり、前記第1の組のMD糸の前記端部の重なりが解消され、前記第1の組のMD糸の前記端部の各々と、それに隣接する前記第2の組のMD糸の前記端部の間の隙間が約0.3mm未満である、請求項15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願]
本出願は、2017年5月31日に出願された米国仮特許出願第62/512874号の優先権および利益を主張するものであり、そのすべての開示内容は、参照することによって本明細書の一部をなすものとする。
【0002】
本発明は、一般的には紙の製造(抄造)に関し、より具体的には抄造に用いられる布に関する。
【背景技術】
【0003】
従来の長網抄紙法では、(「紙料(paper stock)」として知られる)セルロース繊維と水の懸濁液(スラリーまたはサスペンション)が、2つ以上のローラ間を走行する無端ベルト(endless belt)の上側走行部の上に送給される。無端ベルトは、金網と合成素材の少なくともいずれかから成り、「フォーミングファブリック(forming fabric)」と呼ばれることも多い。この無端ベルトの上部走行部の上面が、紙料のセルロース繊維を水系媒体から分離させて湿紙ウェブを作るためのフィルタとして機能する抄紙面となる。このとき、重力のみによって、あるいはフォーミングファブリックの上側走行部の下面(すなわち「マシン側」)に配置される1つ以上のサクションボックスの補助を受けて、脱水穴(drainage holes)として知られるフォーミングファブリックの網目から、水系媒体を排出させる。
【0004】
そして、紙ウェブは、抄紙機のフォーミングセクション(forming section)からプレスセクション(press section)に送られ、そこで、一般に「プレスフェルト(press felt)」と呼ばれる別の布で被覆された1対以上の加圧ローラ間のニップを通過する。このとき、ローラから受ける圧力によって、紙ウェブからさらに水分が除去される。多くの場合、プレスフェルトには「バット(batt)」層が含まれ、このバット層によって水分除去性が高められている。その後、紙はドライヤーセクション(dryer section)に搬送され、そこでさらに水分が除去される。ここでの乾燥を終えると、紙はその後の二次加工や出荷梱包に移ることのできる状態となる。
【0005】
通常、プレスフェルトは1以上の基布層を備えている。この基布層は「平織り(flat-woven)」で製織して無端ベルト状に加工してもよく、あるいは無端状に製織してもよい。
【0006】
なお当然ながら、基布層となる布の製織時に、該布を接合して無端ベルトに加工するための措置を予め講じておくことが必要となる。ただし、このような接合部の構成は、プレスフェルトが受ける過酷な負荷条件や、温度条件、摩耗条件に耐え得る十分な強度を有しながら、継ぎ目上のプレスフェルト面が紙に必要以上の跡を付けてしまうことがないものとする必要がある。ここで、一般的なプレスフェルトの基布の接合方法の1つに、基布の両端でマシン方向糸のループを作るという方法がある。多くの場合、これら複数のループは、製織工程時にピンまたは「ピントル(pintle)」に巻き付けるように作られる。そして、基布を無端ベルトに加工するため、基布の一端の各ループが他端の2つのループの間に噛み合うように位置合わせした状態で両端を互いに隣接させるようにセットする。次に、(通常、1本のモノフィラメント糸または複数本のモノフィラメント糸を撚ったものから形成される)「ピン(pin)」をこれらすべてのループに挿入することによって、両端を接合する。そして、ニードリング加工などの方法で、1以上のバット層を基布層に取り付けた後、バット層を継ぎ目位置で裁断し、ピンを取り外して、プレスフェルトが完成し、製紙工場に出荷される。製紙工場では、プレスフェルトを抄紙機にセットして、ループに別の(通常は、より可撓性の高い)モノフィラメント糸のピンまたはピントルを挿入することにより、プレスフェルトを取り付けることができる。このタイプの継ぎ目の例については、Gulyaによる米国特許第4764417号明細書および米国特許第4737241号明細書や、Lilja等による米国特許第4601785号明細書、Rydinによる米国特許第5476123号明細書、Gstreinによる米国特許第7135093号明細書に記載されており、これら文献のすべての開示内容は、参照することによって本明細書の一部をなすものとする。
【0007】
プレスフェルトの基布の構成としては、様々なものがある。ある構成では、1枚の基布が実質的には2枚の別体の布で構成され、2枚の布で合計3層を形成している。下側の布が2層織物で、継ぎ目ループを有している。上側の布は単層織物で、製織して下側の布と組合わせ、バット層と重ね合わせてニードリング加工を施した後に、裁断される。この構成を有するプレスフェルトの例については、国際特許出願WO0017433号に示されており、そのすべての開示内容は、参照することによって本明細書の一部をなすものとする。この構成を有する基布の明らかな欠点の1つに、上側の布層の裁断を要する点が挙げられる。これにより、上側の布層の両端が切りっぱなしとなるため、この上側の布層に重ね合わされるバットと基布との重なりに影響を与えるおそれがある。基布が単層であればこの欠点を持つことはない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様によれば、本発明の実施形態は、抄紙機用のプレスフェルトに関する。このプレスフェルトは、
(a)複数の繰返し単位を備える基布であって、前記繰返し単位の各々は、複数のマシン横断方向(CMD)糸と、前記複数のCMD糸と織り合わされた複数のマシン方向(MD)糸とを備え、前記複数のMD糸は、第1の組のMD糸と第2の組のMD糸とを備え、前記第1の組のMD糸はその端部に継ぎ目ループを含み、前記第2の組のMD糸はその端部に継ぎ目ループを含まない、基布と、
(b)前記基布に重ね合わされる少なくとも1つのバット層と、を備え、
前記第2の組のMD糸の前記端部の各々は、その反対方向から継ぎ目に近づく前記第1の組のMD糸の前記端部との間に約0.3mm以下の隙間を形成する。
【0009】
第2の態様によれば、本発明の実施形態は、プレスフェルト用の布に関する。この布は、複数の繰返し単位を備え、前記繰返し単位の各々は、複数のマシン横断方向(CMD)糸と、前記複数のCMD糸と織り合わされた複数のマシン方向(MD)糸とを備え、前記複数のMD糸は、第1の組のMD糸と第2の組のMD糸とを備え、前記第1の組のMD糸はその端部に第1のピントルに掛かる継ぎ目ループを含み、前記第2の組のMD糸は、その端部に、前記第1のピントルの上方に配置される第2のピントルに掛かる継ぎ目ループを含む。
【0010】
第3の態様によれば、本発明の実施形態は、抄紙機用のプレスフェルト用の布の製造方法に関する。この方法は、
(a)複数の繰返し単位を備える布を形成するステップであって、
前記繰返し単位の各々は、複数のマシン横断方向(CMD)糸と、前記複数のCMD糸と織り合わされた複数のマシン方向(MD)糸とを備え、前記複数のMD糸は、第1の組のMD糸と第2の組のMD糸とを含み、かつ、
前記繰返し単位の各々は、複数のマシン横断方向(CMD)ケーブル糸と、前記複数のCMD糸と織り合わされた複数のマシン方向(MD)糸とを備え、前記複数のMD糸は、第1の組のMD糸と第2の組のMD糸とを含み、前記第1の組のMD糸はその端部に第1のピントルに掛かる継ぎ目ループを含み、前記第2の組のMD糸はその端部に前記第1のピントルの上方に配置される第2のピントルに掛かる継ぎ目ループを含む、ステップと、
(b)前記第2の組のMD糸の前記端部から前記第2のピントルを取り外すステップと、
(c)前記第2の組のMD糸の前記端部の各々が、その反対方向から継ぎ目に近づく前記第1の組のMD糸の前記端部との間に約0.3mm以下の隙間を形成するように、前記布に張力を加えるステップと、を含む。
【0011】
第4の態様によれば、本発明の実施形態は、抄紙機用のプレスフェルト用の布の製造方法に関する。この方法は、
(a)複数の繰返し単位を備える布を形成するステップであって、
前記繰返し単位の各々は、複数のマシン横断方向(CMD)糸と、前記複数のCMD糸と織り合わされた複数のマシン方向(MD)糸とを備え、前記複数のMD糸は、第1の組のMD糸と第2の組のMD糸とを含み、かつ、
前記繰返し単位の各々は、複数のマシン横断方向(CMD)ケーブル糸と、前記複数のCMD糸と織り合わされた複数のマシン方向(MD)糸とを備え、前記複数のMD糸は、第1の組のMD糸と第2の組のMD糸とを含み、前記第1の組のMD糸はその端部に第1のピントルに掛かる継ぎ目ループを含み、前記第2の組のMD糸はその端部に前記第1のピントルの上方に配置される第2のピントルに掛かる継ぎ目ループを含む、ステップと、
(b)前記第2の組のMD糸の前記端部から前記第2のピントルを取り外すステップと、
(c)前記第2の組のMD糸の前記端部の各々が、その反対方向から継ぎ目に近づく前記第1の組のMD糸の前記端部に僅かに重なるように、前記布に張力を加えるステップと、
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態によるプレスフェルトを使用可能な抄紙機のプレスセクションを示す概略図である。
図2図1のプレスセクションで使用可能な従来のプレスフェルトの一部を示す拡大側面斜視切欠図であり、プレスフェルトの基布のピン継ぎ目を示す。
図3】本発明の実施形態によるプレスフェルトの基布の継ぎ目領域の側面図であり、製織時に2本のピントルを使用している状態を示す。
図4図3の継ぎ目領域の側面図であり、補助ピントルを取り外し、仕上げ処理を施した後の基布を示す。
図5図4の継ぎ目領域の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を示しながら、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、異なる形態でも実施可能であり、よって本明細書に記載の実施形態に限定されるものと理解すべきではない。むしろ、以下の実施形態は、本明細書の記載を詳細かつ完全なものとし、本発明の範囲を当業者に十分に伝える目的のために提供されるものである。図面全体を通して、同様の要素は同様の番号で示している。また、分かりやすくするため、一部の構成要素について、厚さや寸法を拡大して図示している場合がある。
【0014】
さらに、本明細書では、「~の下(under)」、「~の下方(below)」、「下(lower)」、「~の上方(over)」、「上(upper)」などの空間的に相対的な用語を、ある要素または特徴と他の1つ以上の要素または特徴との間にある図示の関係の説明を簡単に行うために用いる場合がある。これらの空間的に相対的な用語が、図示の向きに加えて、これとは異なる使用中または動作中のデバイスの様々な向きも包含することを意図したものであることが理解されよう。例えば、図示のデバイスにおいて、ある要素または特徴が他の要素または特徴の「下(under,beneath)」にあるように示されている場合、そのデバイスを裏返すとそのある要素または特徴は、当該他の要素または特徴の「上(over)」に向けられることになる。したがって、例えば、「下(under)」という用語は、上の向きと下の向きの両方を包含し得るものである。また図示のデバイスをさらに他の向きに向ける(90°などの向きに回転させる)場合もあり得る。その場合も、本明細書に用いられる空間的に相対的な記載をその向きに応じて解釈することができる。
【0015】
また、説明を簡潔、明解なものとするために、公知の機能または構造についての詳細な説明を省略する場合がある。
【0016】
本明細書において、「マシン方向(machine direction)」(MD)という用語は、抄紙機における抄紙布の走行方向に沿う方向を指し、「マシン横断方向(cross machine direction)」(CMD)という用語は、抄紙布面と平行かつ該走行方向に垂直な方向を指す。また、上述の平織りおよび無端織りの製織法は、いずれも当技術分野において公知であり、本明細書において、「エンドレスベルト」という用語は、このいずれかの方法で製織されたベルトを指す。
【0017】
ここで図面を参照すると、図1は、抄紙機のプレスセクションを示している。このプレスセクションを、総体的に参照番号「10」で示す。プレスセクション10は、一組のローラ12に取り付けられて一組のローラ12によって搬送されるプレスフェルト100を備えている。フェルト100は、走行中にプレスロール15上を通過する。また、これに対向するプレスロール17も設けられており、フェルト100およびプレスロール15と共に、両プレスロール15,17間にニップNを形成するように配置されている。
【0018】
稼働時には、フォーミングセクション16から搬送された紙ウェブPが、プレスローラ15,17が形成するニップNを通過し、ここでプレスロール15,17から圧力を加えられる。この圧力によって紙ウェブPから水分が押し出され、フェルト100で吸収される。そして、フェルト100が一組のローラ12の周囲を回って搬送される間に、フェルト100から水分が除去され、さらに1つ以上のサクションボックス20によってフェルト100の状態が適切に整えられる。
【0019】
図2は、従来のフェルト100における基布110の継ぎ目領域を示す図である。図2には、フェルト100の継ぎ目102の一部が示されている。基布110は、ケーブルCMD糸112と2種類のMD糸とを織り合わせたものである。より具体的には、MD糸114がモノフィラメント糸であり、MD糸116はケーブル糸である。モノフィラメントMD糸114とMDケーブル糸116とは1:1の交互配列パターンで、CMD糸112と織り合わされる。MD糸114,116とCMD糸112とによる製織パターンとしては、プレスフェルトの基布に適していると当業者に周知されている任意の製織パターンとすることができ、本明細書において詳細な説明を要するものではない。
【0020】
図2に見られるように、モノフィラメントMD糸114は、一本ずつ「折り返し(double back)」により継ぎ目ループ114aを形成するようにCMD糸112と織り合わされる。そして、継ぎ目ループ114aが、継ぎ目102内のピントル118などの継合部材に掛かる。図2に見られるように、基布110の一端に形成された継ぎ目ループ114aが、基布110の他端の継ぎ目ループ114aと交互に噛み合って形成された空間の中に、ピントル118を挿入して継ぎ目102を形成することができる。
【0021】
なお、図2に見られるように、MDケーブル糸116がCMD糸112と織り合わされる際に作られる「折り返し」によって継ぎ目ループが形成されることはない。ケーブル糸116の「折り返し」によって形成されるのは、継ぎ目102に最も近いCMD糸112に巻き付くループである。つまり、MDケーブル糸116の端部116aは継ぎ目102の手前までしか配糸されず、よって継ぎ目ループを有していない。これらの各端部116aが、継ぎ目102の向こう側から継ぎ目102まで配糸されるモノフィラメントMD糸114の継ぎ目ループ114aと、継ぎ目102を挟んで位置合わせされていることが認められるであろう。
【0022】
引き続き図2を参照すると、プレスフェルト100は、マシン側バット層120と、紙側バット層122の2つのバット層を含んでいる。例示的には、これらのバット層120,122は、ニードリング加工によって基布層110に取り付けられるが、熱接合や接着剤接合などの他の取り付け技術も本発明において使用することができる。マシン側バット層120および紙側バット層122は、基布層110からの水分の吸い取りを支援する材料で形成する必要があり、例えば、アクリル、アラミド、ポリエステル、ナイロンなどの合成繊維やウールなどの天然繊維で形成することができる。例えば、バット層120,122の材料として、ポリアミド、ポリエステル、およびそれらの任意の混合素材が挙げられる。バット層120,122の坪量および厚さは種々の値をとり得るが、基布坪量に対するバット坪量の比は、通常、約0.5~2.0であり、より一般的には1.0である。また、いくつかの実施形態では、バット層をさらに追加することが望ましい場合があり、あるいはバット層120,122のいずれかまたは両方を省略することが望ましい場合がある。
【0023】
基布110については、2016年8月4日に出願された米国特許出願公開第2017/0037573号明細書に詳細に記載されているが、フェルト100の性能をより優位にできるものである。なお、同文献のすべての開示内容は、参照することによって本明細書の一部をなすものとする。モノフィラメントMD糸114を使用することにより、滑らかで安定した継ぎ目が得られ、MDケーブル糸116を含むことにより、バット繊維をより良好に固着させることができる。ケーブル糸の構造は、交互に噛み合わせたりピントルを中に入れたりすることが容易な継ぎ目ループの形成に資するものではないため、MDケーブル糸を含有する従来のプレスフェルトは、通常、継ぎ目ループを備えていない。しかし、ケーブル糸と組み合わせて継ぎ目ループ用にモノフィラメントMD糸を使用することにより、許容可能な繊維の固着性と簡便な取り付け性を兼ね備えたフェルトを実現することができる。
【0024】
ただし、基布110は上述のような望ましい利点を有しているものの、フェルト100を抄紙機に設置する際など、基布110とフェルト100の少なくとも一方に張力が加わるときに顕在化するおそれのある潜在的な欠点も有している。張力が加わると、糸116の端部116aによって、継ぎ目102に最も近いCMD糸112(図2において112’を付した糸)が継ぎ目102から「後退(pull back)」してしまう可能性がある。その結果、端部116aと継ぎ目102との間に開口領域が形成されて、継ぎ目に凹凸や不均一性が生じるおそれがある。
【0025】
この欠点は、図3~5に示す本発明の実施形態による基布210によって対処することができる。基布210は、上述の基布110と同様の製織パターンで、モノフィラメントMD糸214およびMDケーブル糸216とCMD糸212とを織り合わせたものである。ただし、図3に示すように、モノフィラメントMD糸214が、その端部214aで主ピントル218に巻き付くループを形成するように製織されるとともに、MDケーブル糸216が、その端部216aで、主ピントル218の上方に位置する補助ピントル230に巻き付くループを形成するように製織される。したがって、MDケーブル糸216の端部216aは、継ぎ目202に最も近いCMD糸212から若干離間した位置に配置される。
【0026】
製織後、補助ピントル230は取り外される。補助ピントル230を取り外すことにより、MDケーブル糸216の端部216aは、主ピントル218に巻き付くループを形成しているモノフィラメントMD糸214の端部214aの上方に配置された状態で残される。
【0027】
その後、基布210に熱処理が施される。いくつかの実施形態では、この熱処理工程が、基布210にある程度の張力を加える工程を含む。この張力によって、MDケーブル糸216の端部216aが継ぎ目202から若干離間し、継ぎ目202の向こう側から継ぎ目202に接近するモノフィラメントMD糸214の端部214aに隣接する位置、場合によっては接触して若干重なる位置、まで端部216aが引き戻される傾向がある。例えば、図5において、図の左側から継ぎ目202に接近する端部216a’が、図の右側から継ぎ目202に接近する端部214a’に隣接していることが分かる。その結果、上述の米国特許出願公開第2017/0037573号明細書に関連して説明したような、MDケーブル糸の端部と継ぎ目との間に形成されるおそれのある隙間gを、MDケーブル糸216の端部216aで部分的または完全に塞ぐことができる。
【0028】
通常、端部216aとその反対方向に延びる隣接端部214aとの間の隙間は、熱処理後、約-0.3mm~0.3mmとなる(隙間gが負の値をとる場合、端部216aがその隣接端部214aに若干重なる状態を表す)。通常の基布の場合、使用時に、主ピントル218が取り外されて、より小径のピントルまたはケーブルに交換される。端部216aがその隣接端部214aに重なっている場合、より小径のピントルを使用する(例えば、1.0~1.2mm径の主ピントル218を0.35~0.40mm径のピントルと交換する)ことにより、端部216aと端部214aとの重なりが解消されて、端部216aは端部214aと同一平面上の位置まで落下する。
【0029】
なお、図示または上述した実施形態のいずれに関しても、本発明のプレスフェルトは、フェルト100および基布110に関連して上述したバット層を1つ以上含んでよい。
【0030】
また、MD糸216を、複数のモノフィラメント糸から成るケーブル糸として図示、説明してきたが、いくつかの実施形態では、MD糸216を、モノフィラメント糸とマルチフィラメント糸との組み合わせ、モノフィラメント糸とカード糸の組み合わせ、あるいはさらにそれらの組み合わせから成るケーブル糸または撚糸とすることもできる。また、MD糸214を、モノフィラメント糸として図示、説明してきたが、いくつかの実施形態では、MD糸214を、モノフィラメント糸とマルチフィラメント糸との組み合わせ、モノフィラメント糸とカード糸の組み合わせ、あるいはさらにそれらの組み合わせから成るケーブル糸または撚糸とすることもできる。さらに、CMD糸212を、複数のモノフィラメント糸から成るケーブル糸として図示、説明してきたが、いくつかの実施形態では、ケーブル糸に加工していないモノフィラメント糸とすることもできる。また、他の種類の糸も使用することができる。
【0031】
糸のサイズや構成は、所望のプレスフェルト特性に合わせて変化させることができる。通常のモノフィラメントMD糸214の糸径として、約0.2mm~0.6mmを挙げることができる。MDケーブル糸216は、通常、2~3本の糸から成るケーブル糸で作られ、(ケーブル糸に加工する前の)各糸の径は、通常、0.10mm~0.40mmである。同様に、CMD糸212も、通常、2~3本のモノフィラメント糸から成るケーブル糸で作られ、各モノフィラメント糸の径は、通常、0.10mm~0.40mmである。
【0032】
特定的な一実施形態では、基布210は以下の糸を含む。
【0033】
【表1】
【0034】
また、図では、モノフィラメントMD糸214およびMDケーブル糸216が1:1の交互配列パターンで示されているが、当業者であれば、これらの糸を他の比率で含んでもよいことを理解するであろう。例えば、MDケーブル糸2本または3本に対してモノフィラメントMD糸1本の比率、MDケーブル糸1本に対してモノフィラメントMD糸2本または3本の比率、MDケーブル糸2本に対してモノフィラメントMD糸3本の比率、MDケーブル糸3本に対してモノフィラメントMD糸2本の比率などが可能である。
【0035】
なお、いくつかの実施形態では、基布210は無端織りで製織される。
【0036】
上述の記載は本発明を例示するものであり、本発明を限定するものと理解されるべきではない。以上、本発明の例示的な実施形態を説明してきたが、当業者であれば、新規性を有する本発明の教示および利点から実質的に逸脱することなく、これら例示的な実施形態を多くの点で変形することが可能であることを容易に理解するであろう。したがって、このような変形のすべてが、特許請求の範囲に記載の本発明の範囲に含まれることが意図されている。本発明は、特許請求の範囲によって定義されると共に、特許請求の範囲の均等物も含むものである。
図1
図2
図3
図4
図5