(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-26
(45)【発行日】2022-06-03
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/38 20060101AFI20220527BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20220527BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20220527BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220527BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/36 A
H01M4/1397
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020571594
(86)(22)【出願日】2020-02-05
(86)【国際出願番号】 KR2020001639
(87)【国際公開番号】W WO2020166871
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0016495
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】スンフン・ハン
(72)【発明者】
【氏名】ウイ・テ・キム
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108110227(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103956482(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第103227324(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0135961(KR,A)
【文献】韓国登録特許第10-1930395(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/1397
H01M 10/052
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄-炭素複合体;及び
前記硫黄-炭素複合体の表面に位置し、炭素ナノ構造体及び下記化学式1で表されるオキシ水酸化硝酸鉄を含むコーティング層;
を含むリチウム二次電池用正極活物質。
[化学式1]
FeO(NO
3)
x(OH)
1-x(ただし、0<x<1)
【請求項2】
前記炭素ナノ構造体の含量は、硫黄-炭素複合体100重量部に対して1ないし5重量部である請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記オキシ水酸化硝酸鉄の含量は、硫黄-炭素複合体100重量部に対して0.1ないし15重量部である請求項1または2に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記オキシ水酸化硝酸鉄は粒径50ないし200nmの結晶性粒子であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記オキシ水酸化硝酸鉄は、(310)及び(520)面のXRDピークがそれぞれ2θ=35.2±0.2゜及び61.3±0.2゜で表されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記炭素ナノ構造体は、カーボンナノチューブ、炭素ナノ繊維、炭素ナノリボン、炭素ナノベルト、及び炭素ナノロッド、グラフェン、グラフェンオキシド、還元されたグラフェンオキシド、カーボンブラック、活性炭及びメソポーラスカーボンからなる群から選択されるいずれか一つ以上であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記コーティング層の厚さは500nmないし2μmである請求項1から6のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記硫黄-炭素複合体は、硫黄-炭素複合体100重量部に対して70ないし90重量部の硫黄を含む請求項1から7のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項9】
前記硫黄-炭素複合体は、その粒子の大きさが10ないし50μmである請求項1から8のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質、バインダー及び導電材を含むリチウム二次電池用正極。
【請求項11】
請求項10に記載の正極;
負極;及び
前記正極と負極の間に介在された分離膜を含むリチウム二次電池。
【請求項12】
前記リチウム二次電池はリチウム-硫黄電池であることを特徴とする請求項11に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング層を含むリチウム二次電池用正極活物質に関する。
【0002】
本出願は、2019年2月13日付韓国特許出願第10-2019-0016495号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示されている全ての内容を本明細書の一部として含む。
【背景技術】
【0003】
二次電池は1回放電のみ可能な一次電池と違って、持続的に充電及び放電可能な電気貯蔵器具であって、1990年代以後携帯用電子機器の重要電子部品として位置づけられた。特に、リチウムイオン二次電池は1992年日本ソニー(Sony)社によって常用化された以来、スマートフォン、デジカメ、ノートパソコンなどのような携帯用電子機器の核心部品で情報化時代を導いてきた。
【0004】
近年、リチウムイオン二次電池は活用領域をさらに広げながら清掃機、電動工具の電源と電気自転車、電気スクーターのような分野に利用される中型電池から、電気自動車(electric vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle;HEV)、プラグ-インハイブリッド電気自動車(Plug-in hybrid electric vehicle;PHEV)、各種ロボット及び大型電力貯蔵装置(Electric Storage System;ESS)のような分野に使われる大容量電池に至るまで、速い速度で需要を増やしている。
【0005】
しかし、現在まで出ている二次電池の中で最も優れる特性を有するリチウム二次電池も電気自動車、PHEVのような輸送器具に活発に使われるには幾つかの問題点があり、その中で最大の問題点は容量の限界である。
【0006】
リチウム二次電池は基本的に正極、電解質、負極などのような素材で構成され、その中で正極及び負極素材が電池の容量(capacity)を決めるので、リチウムイオン二次電池は正極と負極の物質的限界によって容量に制約を受ける。特に、電気自動車、PHEVのような用途に利用される二次電池は一回充電した後最大限に長く使わなければならないので、二次電池の放電容量がとても重要視される。電気自動車の販売において最大の制約点と指摘されるのは、1回充電後に走行できる距離が一般ガソリンエンジンの自動車より非常に短いという点である。
【0007】
このようなリチウム二次電池の容量の限界は、多くの努力にもかかわらずリチウム二次電池の構造及び材料の制約によって完全に解決することが難しい。よって、リチウム二次電池の容量問題を根本的に解決するためには、既存の二次電池の概念を超える新概念二次電池の開発が要求される。
【0008】
リチウム-硫黄電池は既存のリチウムイオン二次電池の基本原理であるリチウムイオンの層状構造の金属酸化物及び黒鉛へのインターカレーション(intercalation)/デインターカレーション(Deintercalation)反応によって決まる容量限界を超え、遷移金属の代替及び費用節減などをもたらすことができる新しい高容量、安価電池システムである。
【0009】
リチウム-硫黄電池は、正極でリチウムイオンと硫黄の変換(conversion)反応(S8+16Li++16e-→8Li2S)から出る理論容量が1,675mAh/gに至って、負極はリチウム金属(理論容量:3,860mAh/g)を使用して電池システムの超高容量化が可能である。また、放電電圧は約2.2Vなので理論的に正極、負極活物質の量を基準にして2,600Wh/kgのエネルギー密度を示す。これは層状構造の金属酸化物及び黒鉛を使用する常用リチウム二次電池(LiCoO2/graphite)のエネルギー理論的エネルギー密度である400Wh/kgよりも6倍ないし7倍ぐらい高い数値である。
【0010】
リチウム-硫黄電池は2010年頃ナノ複合体の形成を通じて電池性能が画期的に改善されることが知られて以来、新しい高容量、環境にやさしい性質、低価のリチウム二次電池で注目されていて、現在次世代電池システムで世界中で集中的に研究されている。
【0011】
現在まで明らかになったリチウム-硫黄電池の主な問題点の一つは、硫黄の電気伝導度が5.0×10-14S/cmほどで不導体に近いため電極で電気化学反応が容易でなく、非常に大きい過電圧によって実際の放電容量及び電圧が理論に遠く及ばないという点である。初期研究者らは硫黄とカーボンの機械的なボールミリングやカーボンを利用した表面コーティングのような方法で性能を改善しようとしたがさほど効果はなかった。
【0012】
電気伝導度によって電気化学反応が制限される問題を効果的に解決するためには、他の正極活物質の一つであるLiFePO4の例のように(電気伝導度:10-9ないし10-10S/cm)粒子の大きさを数十ナノメートル以下の大きさに減らし、伝導性物質で表面処理する必要があるが、このために様々な化学的(ナノサイズの多孔性炭素ナノ構造体或いは金属酸化物構造体への溶融含浸(melt impregnation))、物理的方法(高エネルギーボールミリング(high energy ball milling))などが報告されている。
【0013】
もう一つのリチウム-硫黄電池に係る主な問題点は、放電途中で生成される硫黄の中間生成体であるリチウムポリスルフィド(lithium polysulfide)の電解質への溶解である。放電が進められるにつれ硫黄(S8)はリチウムイオンと連続的に反応してS8→Li2S8→(Li2S6)→Li2S4→Li2S2→Li2Sなどに相(phase)が連続的に変わるようになるが、その中で硫黄が長く並んだチェーン形態のLi2S8、Li2S4(リチウムポリスルフィド)などはリチウムイオン電池で使われる一般的な電解質で容易に溶解される性質がある。このような反応が発生すれば可逆正極容量が大きく減るだけでなく、溶解されたリチウムポリスルフィドが負極に拡散されて様々な副反応(side reaction)を引き起こすようになる。
【0014】
リチウムポリスルフィドは特に充電過程中にシャトル反応(shuttle reaction)を引き起こし、これによって充電容量がずっと増加するようになって充放電効率が急激に低下する。最近、このような問題を解決するために様々な方法が提示されたが、大きく電解質を改善する方法、負極の表面を改善する方法、正極の特性を改善する方法などに分けることができる。
【0015】
電解質を改善する方法は、新規組成の機能性液体電解質、高分子電解質、イオン性液体(ionic liquid)など新しい電解質を使ってポリスルフィドの電解質への溶解を抑制したり、粘度などの調節を通じて負極への分散速度を制御してシャトル反応を最大限に抑制する方法である。
【0016】
負極表面に形成されるSEIの特性を改善してシャトル反応を制御する研究が活発に行われているが、代表的LiNO3のような電解質添加剤を投入してリチウム負極の表面にLixNOy、LixSOyなどの酸化膜を形成して改善する方法、リチウム金属の表面に厚い機能型SEI層を形成する方法などがある。
【0017】
このように努力されているが、このような方法が多少複雑なだけでなく、活物質である硫黄を入れることができる量に制限があるという問題がある。よって、このような問題を複合的に解決してリチウム-硫黄電池の性能を改善するための新しい技術の開発が必要な実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】韓国公開特許第2015-0135961号公報
【文献】特開2013-077426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
ここで、本発明ではリチウム二次電池の正極側で発生するリチウムポリスルフィドの溶出問題を解消し、電解液との副反応を抑制して硫黄の含量を増やして電池の容量を増加させるために、正極活物質の表面に炭素ナノ構造体及びオキシ水酸化硝酸鉄を含むコーティング層の新しい構造を適用した結果、前記問題を解決してリチウム-硫黄電池の電池性能を向上させることができることを確認して本発明を完成した。
【0020】
よって、本発明の目的は、リチウムポリスルフィドによる問題を解消することができるリチウム二次電池用正極活物質を提供することにある。
【0021】
また、本発明の別の目的は、前記正極を備えて電池性能が向上されたリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記目的を達成するために、本発明は、
硫黄-炭素複合体;及び
前記硫黄-炭素複合体の表面に位置し、炭素ナノ構造体及び下記化学式1で表されるオキシ水酸化硝酸鉄を含むコーティング層;
を含むリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【0023】
[化学式1]
FeO(NO3)x(OH)1-x(ただし、0<x<1)
【0024】
本発明の一具体例は、前記炭素ナノ構造体の含量が硫黄-炭素複合体100重量部に対して1ないし5重量部のものである。
【0025】
本発明の一具体例は、前記オキシ水酸化硝酸鉄の含量が硫黄-炭素複合体100重量部に対して0.1ないし15重量部のものである。
【0026】
本発明の一具体例は、前記オキシ水酸化硝酸鉄が粒径50ないし200nmの結晶性粒子のものである。
【0027】
本発明の一具体例は、前記オキシ水酸化硝酸鉄が(310)及び(520)面のXRDピークがそれぞれ2θ=35.2±0.2゜及び61.3±0.2゜で表されるものである。
【0028】
本発明の一具体例は、前記炭素ナノ構造体がカーボンナノチューブ、炭素ナノ繊維、炭素ナノリボン、炭素ナノベルト、及び炭素ナノロッド、グラフェン、グラフェンオキシド、還元されたグラフェンオキシド、カーボンブラック、活性炭及びメソポーラスカーボンからなる群から選択されるいずれか一つ以上のものである。
【0029】
本発明の一具体例は、前記コーティング層の厚さが500nmないし2μmのものである。
【0030】
本発明の一具体例は、前記硫黄-炭素複合体が硫黄-炭素複合体100重量部に対して70ないし90重量部の硫黄を含むものである。
【0031】
本発明の一具体例は、前記硫黄-炭素複合体の粒子の大きさが10ないし50μmのものである。
【0032】
また本発明は、上述したリチウム二次電池用正極活物質、バインダー及び導電材を含むリチウム二次電池用正極を提供する。
【0033】
また本発明は、上述した正極、負極及び前記の正極と負極の間に介在された分離膜を含むリチウム-硫黄電池を提供する。
【0034】
本発明の一具体例は、前記リチウム二次電池がリチウム-硫黄電池のものである。
【発明の効果】
【0035】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、正極活物質の表面に炭素ナノ構造体及びオキシ水酸化硝酸鉄が含まれたコーティング層を含んでリチウム二次電池の正極で発生するリチウムポリスルフィドによる問題を解消し、電気伝導性を向上させる効果がある。
【0036】
また、前記正極活物質を含む正極が備えられたリチウム-硫黄電池は、硫黄の容量低下が発生せず、高容量電池の具現が可能であり、硫黄を高ローディングで安定的に適用可能なだけでなく、電池のショート、発熱などの問題がないので、電池安定性が向上する。同時に、このようなリチウム二次電池は電池の充放電効率が高くて寿命特性が改善される利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明による正極活物質の製造工程模式図を示す。
【
図2】本発明の比較製造例1による正極活物質の走査電子顕微鏡(SEM)イメージを示す。
【
図3】本発明の比較製造例2による正極活物質の走査電子顕微鏡(SEM)イメージを示す。
【
図4】本発明の製造例による正極活物質の走査電子顕微鏡(SEM)イメージを示す。
【
図5】本発明の準備例によるオキシ水酸化硝酸鉄(FeO(NO
3)
x(OH)
1-x)のX線回折分析(XRD)結果を示す。
【
図6】本発明の実施例及び比較例による正極活物質を含むリチウム-硫黄電池の放電容量測定結果を示す。
【
図7】本発明の実施例及び比較例による正極活物質の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように添付の図面を参照にして詳しく説明する。しかし、本発明は幾つか異なる形態で具現されてもよく、本明細書に限定されない。
【0039】
図面では本発明を明確に説明するために説明と関系ない部分を省略した。また、図面で表示された構成要素の大きさ及び相対的な大きさは実際の縮尺とは無関系であり、説明の明瞭性のために縮小されたり誇張されたものであってもよい。
【0040】
本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味で限定して解釈されてはならず、発明者は自分の発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義することができるという原則に即して本発明の技術的思想に符合する意味と概念で解釈しなければならない。
【0041】
本明細書で使われている用語「複合体(composite)」とは、2つ以上の材料が組み合わせられて物理的、化学的に異なる相(phase)を形成しながら、より有効な機能を発現する物質を意味する。
【0042】
リチウム二次電池用正極活物質
本発明の一実施例による正極活物質は、
硫黄-炭素複合体、前記硫黄-炭素複合体の表面に位置し、炭素ナノ構造体及び下記化学式1で表されるオキシ水酸化硝酸鉄を含むコーティング層を含む。
[化学式1]
FeO(NO3)x(OH)1-x(ただし、0<x<1)
【0043】
リチウム-硫黄電池は既存のリチウム二次電池に比べて遥かに高い放電容量及び理論エネルギー密度を有し、正極活物質で使用される硫黄は埋蔵量が豊かで低価であり、環境にやさしいという長所によって次世代電池として脚光を浴びている。
【0044】
このような長所にもかかわらず、実際の駆動においては理論容量及びエネルギー密度のいずれも具現することができない。これは正極活物質である硫黄の低いリチウムイオン伝導性によって実際に電気化学的酸化還元反応に参加する硫黄の割合が非常に低いためである。リチウム-硫黄電池の容量と効率は正極に伝達されるリチウムイオンの量によって変わることがある。よって、正極のリチウムイオン伝導度を高めることがリチウム-硫黄電池の高容量及び高効率化に重要である。
【0045】
また、硫黄の理論容量を充分に具現するためにリチウム-硫黄電池の正極に硫黄の含量を増加させる場合、硫黄の含量が増加するにつれ電気化学的反応性が減少してリチウム-硫黄電池がまともに駆動されないという問題点もある。
【0046】
これに加え、リチウム-硫黄電池は、充放電反応時に正極で形成されたリチウムポリスルフィドが正極反応領域の外に流失され、正極と負極の間を移動するシャトル現象が発生する。この時、正極から溶出されたリチウムポリスルフィドと負極であるリチウム金属との副反応によってリチウム金属の表面にリチウムスルフィドが固着することによって反応活性度が低くなり、リチウムイオンが不要に消耗されて電池の効率と寿命低下が加速化する問題が発生する。
【0047】
ここで、本発明は従来のリチウム-硫黄電池用正極の短所を補完し、ポリスルフィド(polysulfide)溶解及びシャトル現象による電極の持続的反応性低下問題、硫黄含量の増加による反応性減少及び放電容量減少問題などが改善されたリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【0048】
具体的に、本発明で提供する正極活物質は、硫黄-炭素複合体上にリチウムポリスルフィドを吸着することができる機能を有する炭素ナノ構造体、及び鉄酸化物の一種である前記化学式1で表されるオキシ水酸化硝酸鉄を含むコーティング層を形成して前記のような問題点を解決する。
【0049】
コーティング層内の含まれる炭素ナノ構造体及びオキシ水酸化硝酸鉄によってリチウム二次電池の駆動過程で発生するリチウムポリスルフィドを吸着し、溶出されるリチウムポリスルフィドを再利用可能にして電池の充放電効率を大きく向上させることができる。また、前記炭素ナノ構造体は硫黄-炭素複合体の表面に位置して正極活物質の電気伝導性を大きく向上させることができる長所もある。
【0050】
前記炭素ナノ構造体は、カーボンナノチューブ、炭素ナノ繊維、炭素ナノリボン、炭素ナノベルト、及び炭素ナノロッド、グラフェン、グラフェンオキシド、還元されたグラフェンオキシド、カーボンブラック、活性炭及びメソポーラスカーボンからなる群から選択されるいずれか一つ以上であってもよい。この時、カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、二層カーボンナノチューブ(DWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)、束型カーボンナノチューブ(rope carbon nanotube)、またはこれらの組み合わせであってもよく、前記グラフェン、グラフェンオキシド、還元されたグラフェンオキシドなどのグラフェン系炭素材は、シート(sheet)ないし繊維(fiber)状であってもよいが、これに限定されない。本発明の一実施例による前記カーボンナノチューブは直径が5ないし50nmで、長さが500nmないし10μmであってもよい。前記カーボンナノチューブの平均直径及び長さは、当業者に広く公知された方法で測定されてもよく、例えば、TEM(Transmission electron microscopy)、HR-TEM(high-resolution transmission electron microscope)、SEM、または FE-SEM(Field-emission scanning microscope)写真から測定したり、または/及び動的光散乱法(dynamic Light-scattering)を利用した測定装置を使用して測定することができる。
【0051】
前記コーティング層に含まれた炭素ナノ構造体の含量は、硫黄-炭素複合体100重量部に対して1ないし5重量部であってもよく、好ましくは硫黄-炭素複合体100重量部に対して1ないし3重量部であってもよい。もし、コーティング層に含まれた炭素ナノ構造体の含量が1重量部未満である場合、リチウムポリスルフィドの吸着効果が微々たるものであり、5重量部を超過する場合、コーティング層が抵抗として作用して電池の効率が減少することがあるので、前記範囲で適切に調節する。
【0052】
前記コーティング層に含まれた前記化学式1で表されるオキシ水酸化硝酸鉄の含量は、硫黄-炭素複合体100重量部に対して0.1ないし15重量部であってもよく、好ましくは1ないし12重量部であってもよい。もし、0.1重量部未満の場合、リチウムポリスルフィドの吸着効果が微々たるものであり、15重量部を超過する場合、電極の容量が減って好ましくない。
【0053】
前記オキシ水酸化硝酸鉄は本発明で提示する次のような製造方法によって製造されたオキシ水酸化硝酸鉄を使用することができる。
【0054】
本発明によるオキシ水酸化硝酸鉄は、(1)Fe(NO3)3・9H2Oを水系溶媒及び有機溶媒の混合溶媒に溶解してFe(NO3)3・9H2O溶液を準備する段階;及び(2)前記Fe(NO3)3・9H2O溶液を乾燥して前記化学式1で表される化合物を収得する段階;を経て製造されてもよい。この時、前記Fe(NO3)3・9H2O溶液はオキシ水酸化硝酸鉄の前駆体であるFe(NO3)3・9H2Oを水系溶媒及び有機溶媒の混合溶媒に溶解させて使用することができる。前記水系溶媒は水であってもよく、好ましくは2次蒸留した蒸留水(DW:Distilled Water)、3次蒸留した脱イオン水(DIW:Deionized Water)であってもよい。前記有機溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール及びこの組み合わせからなる群から選択された1種であってもよく、好ましくはエタノールを使用することができる。
【0055】
前記水系溶媒と有機溶媒は30:70ないし70:30の重量比で混合することができ、具体的に40:60ないし60:40の重量比、好ましくは50:50の重量比で混合して使用することができる。もし、水系溶媒の割合が前記範囲を超過する場合、前記化学式1で表されるオキシ水酸化硝酸鉄が生成されないこともあるので、前記水系溶媒及び有機溶媒は前記範囲で適切に混合して使用しなければならない。
【0056】
前記Fe(NO3)3・9H2O溶液の濃度は0.5ないし2.5Mであってもよく、好ましくは1.5ないし2.0Mであってもよい。もし、0.5M未満であれば溶液の蒸発速度が遅くなって製造されるオキシ水酸化硝酸鉄の結晶が大きくなったり製造収率が低くなることがあり、2.5Mを超過すれば、製造されるオキシ水酸化硝酸鉄が集まる可能性があるため、オキシ水酸化硝酸鉄の物性がリチウム-硫黄電池の正極添加剤で適用するに相応しくないこともある。
【0057】
次に、前記段階(1)で製造されたFe(NO3)3・9H2O溶液を乾燥して前記化学式1で表されるオキシ水酸化硝酸鉄を製造することができる。前記「乾燥」は一定温度以上の条件で行われ、「熱処理」などの意味を含むことができる。
【0058】
前記乾燥は70ないし90℃で行われてもよく、好ましくは75ないし85℃で行われてもよい。また、前記乾燥は前記温度範囲で18ないし36時間行われてもよく、好ましくは20ないし30時間行われてもよい。もし、前記温度未満であったり乾燥時間が短い場合、反応物であるFe(NO3)3・9H2Oの水分が過度に残存することがあり、以後、前記水分が乾燥過程を経て不均一に蒸発したり反応残余物が残るようになって、本発明による前記化学式1で表されるオキシ水酸化硝酸鉄が合成されないこともある。
【0059】
また、前記温度を超過したり乾燥時間が長い場合、反応物であるFe(NO3)3・9H2Oの水分が全て蒸発した後、乾燥による酸化反応が一部進められることがある。この場合、乾燥過程を通じて不均一な酸化反応が起こることがあり、生成される粒子の大きさが大きくなって集まる形態で発現され、本発明で望む物性の前記化学式1によるオキシ水酸化硝酸鉄が合成されないこともある。
【0060】
一例として、オキシ水酸化硝酸鉄を製造する時、前記範囲を超過する水系溶媒を使って前記範囲を超過する温度(例えば、140ないし160℃)で乾燥する場合、前記化学式1で表されるオキシ水酸化硝酸鉄の代わりにFexO3(ただし、1.7<x<2.0)が生成されてもよい。また、前記範囲を超過する有機溶媒を使用し、前記範囲を超過する温度(例えば、140ないし160℃)で乾燥する場合、前記化学式1で表されるオキシ水酸化硝酸鉄の代わりにFe2O3が一部生成されることがあるので前記乾燥温度範囲で適切に調節する。
【0061】
前記乾燥前処理段階は、十分な空気が流入される環境でコンベクションオーブンを利用して行うことができる。
【0062】
前記化学式1において、xは乾燥時間及び温度によって様々であり、好ましくはxが0.5≦x<1、より好ましくは0.7≦x<1であってもよい。前記化学式1において、x値が小さくなるほど製造されるオキシ水酸化硝酸鉄の安定性が低くなり、乾燥段階で温度が上昇するほどオキシ水酸化硝酸鉄に含まれた水酸化(OH)官能基が熱分解され水(H2O)に転換されてオキシ水酸化硝酸鉄の構造が崩壊されることがあり、これをリチウム-硫黄電池に適用する場合、水(H2O)が電池の充放電過程中に電気分解されて水素気体(H2(g))が生成されることがあるので好ましくない。
【0063】
前記製造方法によって製造されるオキシ水酸化硝酸鉄は結晶性粒子として粒径は50ないし200nmであってもよく、好ましくは100ないし150nmであってもよい。前記範囲内で粒径が減少するほどリチウム二次電池の正極材として適し、粒径が前記範囲を超過すれば、リチウム二次電池の正極添加剤として適さないこともある。
【0064】
本発明の一具現例において、前記オキシ水酸化硝酸鉄はCuKα線を利用したX線回折分析による(310)及び(520)面のXRDピークがそれぞれ2θ=35.2±0.2゜及び61.3±0.2゜であってもよい。
【0065】
本発明の一具現例による前記コーティング層の厚さは500nmないし2μmであってもよい。前記コーティング層の厚さが500nm未満の場合、リチウムポリスルフィドの吸着効果が微々たるものであって電池の充放電効率及び寿命特性改善効果が少ないことがあり、2μmを超過する場合、これによる抵抗増加によってリチウム二次電池の電気化学的特性の低下をもたらして電池の効率が落ちることがあるので前記範囲で適切に調節する。
【0066】
本発明による一具現例は、前記硫黄-炭素複合体が硫黄-炭素複合体100重量部に対して70ないし90重量部の硫黄を含むものであってもよく、好ましくは75ないし90重量部、より好ましくは80ないし90重量部の硫黄を含むものであってもよい。もし、前記硫黄の含量が前記重量比範囲未満の場合、多孔性炭素材の含量が増加することによって正極スラリーを製造する時に必要なバインダー添加量が増える。このようなバインダー添加量の増加は、結局電極の面抵抗を増加させるようになり、電子移動(electron pass)を阻む絶縁体の役目をするようになってセルの性能を低下することがある。逆に、硫黄の含量が前記重量比の範囲を超過する場合、硫黄の自己凝集現象が発生し、電子収容の問題で電極反応に直接参加しがたくなることがあるので、前記範囲内で適切に調節する。
【0067】
本発明による硫黄-炭素複合体の硫黄は無機硫黄(S8)、Li2Sn(n≧1)、有機硫黄化合物及び炭素-硫黄ポリマー[(C2Sx)n、x=2.5ないし50、n≧2]からなる群から選択された1種以上であってもよい。好ましくは無機硫黄(S8)を使用することができる。
【0068】
また、本発明による硫黄-炭素複合体の炭素は多孔性構造であるか、または比表面積が高いもので、当業界で通常使われるものであればいずれも構わない。例えば、前記多孔性炭素材では、グラファイト(graphite);グラフェン(graphene);デンカブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック;単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)などのカーボンナノチューブ(CNT);グラファイトナノファイバー(GNF)、カーボンナノファイバー(CNF)、活性化炭素ファイバー(ACF)などの炭素繊維;及び活性炭素からなる群から選択された1種以上であってもよいが、これに制限されず、その形態は球形、棒型、針状、板状、チューブ型またはバルク型で、リチウム-硫黄電池に通常使われるものであれば制限されずに使われてもよい。
【0069】
前記硫黄-炭素複合体は、粒子の大きさが10ないし50μmであってもよい。硫黄-炭素複合体の粒子の大きさが10μm未満の場合、粒子間の抵抗が増えてリチウム-硫黄電池の電極に過電圧が発生する問題があり、50μmを超過する場合は単位重量当たりの表面積が小くなって電極内の電解液とのウェッティング(wetting)面積及びリチウムイオンとの反応サイト(site)が減少するようになって、複合体の大きさに対して電子伝達量が少なくなって反応が遅くなる結果、電池の放電容量が減少されることがあるので、前記範囲内で適切に選択する。
【0070】
リチウム二次電池用正極
本発明は、上述した正極活物質を含むリチウム二次電池用正極を提供する。具体的には、本発明によるリチウム二次電池用正極は上述したリチウム二次電池用正極活物質、バインダー及び導電材を含むことができる。
【0071】
前記正極は当分野に知られている通常の方法で製造することができる。例えば、正極活物質に溶媒、必要に応じてバインダー、導電材、分散剤を混合及び撹拌してスラリーを製造した後、これを金属材料の集電体に塗布(コーティング)して圧縮した後、乾燥して正極を製造することができる。
【0072】
具体的に、前記製造された正極活物質にさらに導電性を与えるために、前記正極組成物には導電材が追加されてもよい。前記導電材は電子を正極内で円滑に移動させるための役目をするもので、電池に化学的変化を引き起こさずに導電性に優れて広い表面積を提供できるものであれば特に制限しないが、好ましくは炭素系物質を使用する。
【0073】
前記炭素系物質では、天然黒鉛、人造黒鉛、膨脹黒鉛、グラフェン(Graphene)のような黒鉛(Graphite)系、活性炭(Active carbon)系、チャンネルブラック(Channel black)、ファーネスブラック(Furnace black)、サーマルブラック(Thermal black)、コンタクトブラック(Contact black)、ランプブラック(Lamp black)、アセチレンブラック(Acetylene black)のようなカーボンブラック(Carbon black)系;炭素繊維(Carbon fiber)系、カーボンナノチューブ(Carbon nanotube:CNT)、フラーレン(Fullerene)のような炭素ナノ構造体及びこれらの組み合わせからなる群から選択された1種を使用することができる。
【0074】
前記炭素系物質以外も、目的によって金属メッシュなどの金属性繊維;銅(Cu)、銀(Ag)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)などの金属性粉末;またはポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料も使用することができる。前記導電性材料は単独または混合して使用されてもよい。
【0075】
また、前記正極活物質に集電体に対する付着力を提供するために、前記正極組成物にはバインダーがさらに含まれてもよい。前記バインダーは溶媒によく溶解されるべきであり、正極活物質と導電材との導電ネットワークをよく構成する上、電解液の含浸性も適当に持たなければならない。
【0076】
本発明に適用可能なバインダーは、当該業界で公知された全てのバインダーであってもよく、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(Polyvinylidene fluoride、PVdF)またはポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene、PTFE)を含むフッ素樹脂系バインダー;スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブチジエンゴム、スチレン-イソプレンゴムを含むゴム系バインダー;カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロースを含むセルロース系バインダー;ポリアルコール系バインダー;ポリエチレン、ポリプロピレンを含むポリオレフィン系バインダー;ポリイミド系バインダー、ポリエステル系バインダー、シラン系バインダー;からなる群から選択された1種または2種以上の混合物や共重合体であってもよいが、これに制限されないことは勿論である。
【0077】
前記バインダー樹脂の含量は、前記リチウム-硫黄電池用正極の総重量を基準にして0.5~30重量%であってもよいが、これのみに限定されるものではない。前記バインダー樹脂の含量が0.5重量%未満の場合は、正極の物理的性質が低下されて正極活物質と導電材が脱落することがあり、30重量%を超過する場合は正極で活物質と導電材の割合が相対的に減少され、電池容量が減少されることがある。
【0078】
リチウム二次電池用正極組成物をスラリー状態で製造するための溶媒は、乾燥しやすく、バインダーをよく溶解させ、正極活物質及び導電材は溶解せずに分散状態で維持させることができるものが最も好ましい。溶媒が正極活物質を溶解させる場合は、スラリーで硫黄の比重(D=2.07)が高いため、硫黄がスラリーで沈むようになり、コーティングの際に集電体に硫黄が集まって導電ネットワークに問題が生じて電池作動に問題が発生するきらいがある。
【0079】
前記溶媒では水または有機溶媒が可能で、前記有機溶媒はジメチルホルムアミド、イソプロピルアルコール、アセトニトリル、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン群から選択される1種以上を含む有機溶媒が適用可能である。
【0080】
前記正極組成物の混合は、通常の混合機、例えば、レイトスミキサー、高速せん断ミキサー、ホモミキサーなどを利用して通常の方法で撹拌することができる。
【0081】
前記正極組成物を集電体に塗布し、真空乾燥してリチウム二次電池用正極を形成することができる。前記スラリーは、スラリーの粘度及び形成しようとする正極の厚さによって適切な厚さで集電体にコーティングすることができ、好ましくは10ないし300μm範囲内で適切に選択することができる。
【0082】
この時、前記スラリーをコーティングする方法として制限はなく、例えば、ドクターブレードコーティング(Doctor blade coating)、ディップコーティング(Dip coating)、グラビアコーティング(Gravure coating)、スリットダイコーティング(Slit die coating)、スピンコーティング(Spin coating)、コンマコーティング(Comma coating)、バーコーティング(Bar coating)、リバースロールコーティング(Reverse roll coating)、スクリーンコーティング(Screen coating)、キャップコーティング(Cap coating)方法などを行って製造することができる。
【0083】
前記正極集電体は一般的に3~500μmの厚さで作ることができ、電池に化学的変化を引き起こさずに高い導電性を有するものであれば特に制限しない。例えば、ステンレススチール、アルミニウム、銅、チタンなどの伝導性金属を使用することができ、好ましくはアルミニウム集電体を使用することができる。このような正極集電体は、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体または不織布体など多様な形態が可能である。
【0084】
リチウム二次電池
本発明の一実施例として、リチウム二次電池は上述したリチウム二次電池用正極;負極活物質としてリチウム金属またはリチウム合金を含む負極;前記正極と負極の間に介在される分離膜;及び前記負極、正極及び分離膜に含浸され、リチウム塩と有機溶媒を含む電解質を含むことができる。
【0085】
本発明の一具現例によるリチウム二次電池は、正極活物質で硫黄を含むリチウム-硫黄電池であってもよい。
【0086】
前記負極は負極活物質としてリチウムイオン(Li+)を可逆的にインターカレーション(Intercalation)またはデインターカレーション(Deintercalation)できる物質、リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成できる物質、リチウム金属またはリチウム合金を使用することができる。前記リチウムイオンを可逆的にインターカレーションまたはデインターカレーションできる物質は、例えば結晶質炭素、非晶質炭素またはこれらの混合物であってもよい。前記リチウムイオンと反応して可逆的にリチウム含有化合物を形成できる物質は、例えば、酸化スズ、窒化チタンまたはシリコンであってもよい。前記リチウム合金は、例えば、リチウムとNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Al及びSnからなる群から選択される金属の合金であってもよい。
【0087】
また、リチウム二次電池を充放電する過程で正極活物質で使われる硫黄が不活性物質に変化され、リチウム負極の表面に付着されることがある。このように不活性硫黄(Inactive sulfur)は、硫黄が様々な電気化学的または化学的反応を経て正極の電気化学反応にそれ以上参加できない状態の硫黄を意味し、リチウム負極の表面に形成された非不性硫黄は、リチウム負極の保護膜(Protective layer)としての役目をする長所もある。よって、リチウム金属と、このリチウム金属上に形成された非不性硫黄、例えばリチウムスルフィドを負極で使用することもできる。
【0088】
本発明の負極は前記負極活物質以外にリチウムイオン伝導性物質からなる前処理層及び前記前処理層上に形成されたリチウム金属保護層をさらに含むことができる。
【0089】
前記正極と負極の間に介在される分離膜は、正極と負極を互いに分離または絶縁させ、正極と負極の間にリチウムイオンを輸送させることで多孔性非伝導性または絶縁性物質からなってもよい。このような分離膜は高いイオン透過度及び機械的強度を持つ絶縁体として薄膜またはフィルムのような独立的な部材であってもよく、正極及び/または負極に加えられたコーティング層であってもよい。また、電解質としてポリマーなどの固体電解質が使われる場合は、固体電解質が分離膜を兼ねることもできる。
【0090】
前記分離膜の気孔直径は一般的に0.01~10μmで、厚さは一般的に5~300μmが好ましく、このような分離膜では、ガラス電解質(Glass electrolyte)、高分子電解質またはセラミックス電解質などが使われることができる。例えば、耐化学性及び疎水性ポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマー、ガラス繊維またはポリエチレンなどで作られたシートや不織布、クラフト紙などが使われる。現在市販中の代表的な例は、セルガード系(CelgardR 2400、2300 Hoechest Celanese Corp.製品)、ポリプロピレン分離膜(Ube Industries Ltd.製品またはPall RAI社製品)、ポリエチレン系(TonenまたはEntek)などがある。
【0091】
固体状態の電解質分離膜は、約20重量%未満の非水系有機溶媒を含むこともでき、この場合は有機溶媒の流動性を減らすために適切なゲル形成化合物(Gelling agent)をさらに含むこともできる。このようなゲル形成化合物の代表的な例は、ポリエチレンオキシド、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリルなどを挙げることができる。
【0092】
前記負極、正極及び分離膜に含浸されている電解質はリチウム塩を含む非水系電解質であってリチウム塩と電解液で構成され、電解液としては非水系有機溶媒、有機固体電解質及び無機固体電解質などが使われる。
【0093】
本発明のリチウム塩は非水系有機溶媒に溶解されやすい物質、例えば、LiSCN、LiCl、LiBr、LiI、LiPF6、LiBF4、LiSbF6、LiAsF6、LiB10Cl10、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiClO4、LiAlCl4、Li(Ph)4、LiC(CF3SO2)3、LiN(FSO2)2、LiN(CF3SO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(SFO2)2、LiN(CF3CF2SO2)2、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルホン酸リチウム、4-フェニルホウ酸リチウム、リチウムイミド及びこれらの組み合わせからなる群から一つ以上が含まれてもよい。
【0094】
前記リチウム塩の濃度は、電解質混合物の正確な組成、塩の溶解度、溶解された塩の伝導性、電池の充電及び放電条件、作業温度及びリチウムバッテリー分野に公知された他の要因のような幾つかの要因によって、0.2~2M、具体的に0.6~2M、より具体的に0.7~1.7Mであってもよい。0.2M未満で使用すると電解質の伝導度が低くなって電解質の性能が低下することがあり、2Mを超過して使用すると電解質の粘度が増加してリチウムイオン(Li+)の移動性が減少されることがある。
【0095】
前記非水系有機溶媒はリチウム塩をよく溶解しなければならず、本発明の非水系有機溶媒は、例えば、N-メチル-2-ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ガンマ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロキシフラン(franc)、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキセン、ジエチルエーテル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、ギ酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エーテル、ピロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどの非プロトン性有機溶媒が使われてもよく、前記有機溶媒は一つまたは2つ以上の有機溶媒の混合物であってもよい。
【0096】
前記有機固体電解質は、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキシド誘導体、ポリプロピレンオキシド誘導体、リン酸エステルポリマー、ポリアルギン酸リシン、ポリエステルスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、イオン性解離基を含む重合体などが使われてもよい。
【0097】
前記無機固体電解質では、例えば、Li3N、LiI、Li5NI2、Li3N-LiI-LiOH、LiSiO4、LiSiO4-LiI-LiOH、Li2SiS3、Li4SiO4、Li4SiO4-LiI-LiOH、Li3PO4-Li2S-SiS2などのLiの窒化物、ハロゲン化物、硫酸塩などが使用されてもよい。
【0098】
本発明の電解質には、充・放電特性、難燃性などの改善を目的として、例えば、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール、三塩化アルミニウムなどが添加されてもよい。場合によっては、不燃性を与えるために、四塩化炭素、三フッ化エチレンなどのハロゲン含有溶媒をさらに含ませてもよく、高温保存特性を向上させるために二酸化炭酸ガスをさらに含ませてもよく、フルオロエチレンカーボネート(FEC:Fluoro-ethylene carbonate)、プロペンスルトン(PRS:Propene sultone)、フルオロプロピレンカーボネート(FPC:Fluoro-propylene carbonate)などをさらに含ませてもよい。
【0099】
前記電解質は液状電解質で使用することもでき、固体状態の電解質セパレーターの形態でも使用することができる。液状電解質で使用する場合は、電極を物理的に分離する機能を有する物理的な分離膜として多孔性ガラス、プラスチック、セラミックまたは高分子などからなる分離膜をさらに含む。
【0100】
前述したリチウム二次電池の形態は特に制限されず、例えば、ゼリー-ロール型、スタック型、スタック-フォールディング型(スタック-Z-フォールディング型を含む)、またはラミネーション-スタック型であってもよく、好ましくはスタック-フォールディング型であってもよい。
【0101】
このような前記正極、分離膜、及び負極が順次積層された電極組立体を製造した後、これを電池ケースに入れて、ケース上部に電解液を注入し、キャッププレート及びガスケットで密封して組み立てることでリチウム二次電池を製造する。
【0102】
前記リチウム二次電池は、形態によって円筒状、角形、コイン型、ポーチ型などに分類されてもよく、サイズによってバルクタイプと薄膜タイプに分けることができる。これらの電池の構造と製造方法は、この分野に広く知られているので、詳細な説明は省略する。
【0103】
以下、実施例などを通じて本発明をより詳しく説明するが、以下の実施例などによって本発明の範囲と内容が縮小されたり制限されて解釈することはできない。また、以下の実施例を含む本発明の開示内容に基づくと、具体的に実験結果が提示されていない本発明を通常の技術者が容易に実施できることは自明なことであり、このような変形及び修正が添付の特許請求の範囲に属することも当然である。
【0104】
準備例。オキシ水酸化硝酸鉄の製造
Fe(NO3)3・9H2O(Sigma-Aldrich 社)75gをDIW(deionized water)100gとエタノール100gの混合溶媒に溶解させて1.8M溶液を製造した。前記製造された溶液をガラス浴(glass bath)に入れ、コンベクションオーブンで空気を充分に注入し、80℃、24時間乾燥させて化学式FeO(NO3)x(OH)1-x(ただし、0.5≦x<1)のオキシ水酸化硝酸鉄を製造した。
【0105】
製造例。正極活物質の製造
(1)先ず、硫黄80gとカーボンナノチューブ20gを混合し、155℃で1時間コンベクションオーブンで熱処理して硫黄-炭素複合体を製造した。
【0106】
(2)前記製造された硫黄-炭素複合体88g、炭素ナノ構造体でカーボンナノチューブ2gと前記準備例で製造されたオキシ水酸化硝酸鉄10gをエタノール200gに投入して混合溶液を製造した。前記混合溶液を1,500rpmの速度で1時間ブレードミキシングし、硫黄-炭素複合体の表面にカーボンナノチューブとオキシ水酸化硝酸鉄が含まれたコーティング層を形成した(
図1参照)。ブレードミキシングする間、窒素気体を持続的に投入して前記エタノール溶媒を全て乾燥した。
【0107】
(3)以後、コンベクションオーブンで80℃、18時間乾燥して硫黄-炭素複合体の表面にコーティング層が形成された正極活物質を製造した。
【0108】
比較製造例1。正極活物質の製造
硫黄80gとカーボンナノチューブ20gを混合し、155℃で1時間熱処理して表面にコーティング層が形成されていない硫黄-炭素複合体正極活物質を製造した。
【0109】
比較製造例2。正極活物質の製造
製造例の段階(2)による混合溶液を製造段階で硫黄-炭素複合体を98g投入し、準備例で製造されたオキシ水酸化硝酸鉄を投入しないことを除いては、製造例と同様にして正極活物質を製造した。
【0110】
実施例1。リチウム-硫黄電池の製造
溶媒として蒸留水(de-ionized water;DIW)に前記製造例で製造した正極活物質88重量部、導電材でVGCF(Vapor Grown Carbon Fiber)を5重量部、バインダーでリチウム置換されたポリアクリルアミド(lithiated polyacrylamide、LiPAA)/ポリビニルアルコール(polyvinylalcohol、PVA)(LiPAA/PVA:6.5:0.5)7重量部を投入し、ミキシングして正極活物質用スラリー組成物を製造した。
【0111】
次いで、前記製造されたスラリー組成物を集電体(Al Foil、20μm)上にコーティングし、50℃で12時間乾燥してリチウム-硫黄電池用正極を製造した。この時、ローディング量は3.5mAh/cm2で、電極の孔隙率(porosity)は60%にした。
【0112】
以後、上述の内容にしたがって製造された正極、負極でリチウム金属、分離膜及び電解液を含むリチウム-硫黄電池のコインセルを下記のように製造した。前記電解液で2-メチルテトラヒドロフラン(THF)、ジオキソラン(DOL)及びジメチルエーテル(DME)の体積比が1:1:1の組成を有する非水系有機溶媒に、1.0MのLiN(CF3SO2)2(LiFSI)及びLiNO3 0.1Mを含む混合溶液を使った。具体的に、前記正極は14phi円形電極で打ち抜いて使用し、ポリエチレン(PE)分離膜は19phi、150μmリチウム金属は負極として16phiに打ち抜いて使用した。
【0113】
比較例1。リチウム-硫黄電池の製造
正極活物質で前記比較製造例1で製造されたコーティング層が形成されていない硫黄-炭素複合体88重量部を使用したことを除いては、前記実施例1と同様にしてリチウム-硫黄電池を製造した。
【0114】
比較例2。リチウム-硫黄電池の製造
正極活物質で前記比較製造例2で製造されたコーティング層にオキシ水酸化硝酸鉄が含まれていない硫黄-炭素複合体88重量部を使用したことを除いては、前記実施例1と同様にしてリチウム-硫黄電池を製造した。
【0115】
実験例1。SEM(Scanning Electron Microscope)分析
製造例及び比較製造例1ないし2による正極活物質に対し、倍率をそれぞれ20kにしてSEM分析(Hitachi社のS-4800FE-SEM)を実施した。
【0116】
図2ないし3はそれぞれ比較製造例1ないし2による正極活物質のSEMイメージで、
図4は製造例に対するSEMイメージである。
【0117】
図2の場合、本発明の比較製造例1によるもので、正極活物質にコーティング層が形成されなくて硫黄-炭素複合体の表面が表れたことを確認することができた。
【0118】
図3の場合、本発明の比較製造例2によるもので、カーボンナノチューブのコーティング層が形成されて硫黄-炭素複合体の表面が表れることはなかったが、コーティング層に本発明によるオキシ水酸化硝酸鉄が含まれていないことが分かった。
【0119】
図4の場合、本発明の製造例によるもので、結晶性のオキシ水酸化硝酸鉄粒子及びカーボンナノチューブが含まれたコーティング層が正極活物質の表面に形成されたことが分かった。
【0120】
実験例2。X線回折(XRD:X-ray Diffraction)分析
準備例で製造されたオキシ水酸化硝酸鉄に対してXRD分析(Bruker社のD4Endeavor)を実施した。
【0121】
図5は、準備例で製造されたオキシ水酸化硝酸鉄に対するXRD分析結果を示すグラフである。
【0122】
図5を参照すれば、(310)及び(520)面のXRDピークがそれぞれ2θ=35.2±0.2゜及び61.3±0.2゜で示され、本発明による純粋な相のオキシ水酸化硝酸鉄が製造されたことを確認することができた。
【0123】
実験例3。リチウム-硫黄電池の放電容量比較実験
前記実施例1、比較例1ないし2で製造されたコインセルに対し、充電電流0.1C、電圧1.8から2.5Vまでの放電容量を測定して
図6に示す。
【0124】
図6に示すように、比較例2によるリチウム-硫黄電池はコーティング層が形成されていない正極活物質を含む比較例1による電池に比べて放電容量が向上されたことが分かった。
【0125】
また、実施例1の場合、比較例1ないし2に比べて正極に高ローディングの硫黄が含まれているにもかかわらず(80重量%)、電池の反応性が減少せずに安定的に駆動し、コーティング層にカーボンナノチューブとオキシ水酸化硝酸鉄を含んで充放電過程中に反応に容易に参加できるようになって、比較例2によるリチウム-硫黄電池に比べて過電圧が改善され、放電容量がさらに向上されたことが分かった。