(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-05-27
(45)【発行日】2022-06-06
(54)【発明の名称】サーマルヘッド用基板
(51)【国際特許分類】
B41J 2/335 20060101AFI20220530BHJP
【FI】
B41J2/335 101C
B41J2/335 101Z
(21)【出願番号】P 2020161968
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2022-01-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】720005655
【氏名又は名称】八木野 正典
(72)【発明者】
【氏名】八木野正典
【審査官】上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-272153(JP,A)
【文献】特開平09-207364(JP,A)
【文献】国際公開第2016/114289(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0074907(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/335
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に順に配置された、第1領域、第2領域、及び第3領域を有する基板と、
前記基板の主面上に設けられた発熱体と、
前記基板の主面上に設けられ、前記発熱体を駆動するための駆動回路と、
前記基板の主面上に設けられ、前記発熱体と前記駆動回路
とを電気的に接続する配線と、
前記基板の裏面に、接着剤を介して接着固定された放熱板と、を備え、
前記基板は、ガラス、石英、又はシリコンから成り、
前記発熱体、前記配線、及び前記駆動回路は、それぞれ、前記第1領域、前記第2領域、及び第3領域に設けられており、
前記基板の前記第2領域の裏面に第1の凹部を有
し、
前記第1の凹部に前記接着剤が充填されて、前記基板の裏面と放熱板とが接着固定されており、
前記第1の凹部は、前記第2領域から前記第3領域まで延伸していることを特徴とすることを特徴とするサーマルヘッド用基板。
【請求項2】
前記基板の裏面であって、前記第1領域を挟んで前記第1の凹部と反対側に第2の凹部を有することを特徴とする請求項1に記載のサーマルヘッド用基板。
【請求項3】
前記駆動回路は、薄膜トランジスタ―を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のサーマルヘッド用基板。
【請求項4】
前記基板は、前記第1領域に凸部領域を有し、
前記発熱体が、前記凸部領域に形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のサーマルヘッド用基板。
【請求項5】
前記第1の凹部の前記第1の方向の長さが、前記第1の凹部が形成された前記基板の厚さ以上の値を有する
と共に、前記第2領域の前記第1の方向の長さ以下であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のサーマルヘッド用基板。
【請求項6】
前記第1の凹部に、前記接着剤が充填されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のサーマルヘッド用基板。
【請求項7】
前記放熱板は、前記第1の凹部に
嵌合する凸部領域を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のサーマルヘッド用基板
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーマルヘッド用基板に関する。さらに詳しくは、ファクシミリ、カラープリンター、バーコードプリンター等に用いられるサーマルヘッド用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
発熱体と駆動回路が一体に形成されたサーマルヘッドが知られている。
【0003】
特許文献1は、薄膜トランジスタ―を駆動回路に用いたサーマルヘッドを開示する。特許文献1に於いて、発熱抵抗体や駆動回路が形成された基板の厚さを10~800μmと変化させて放熱板に接着し、基板の熱抵抗を変化させることで、放熱量を制御して蓄熱による印字品質を改善するが記載されている。
【0004】
特許文献2は、ファクシミリ、ワープロ等のサーマルプリンターヘッドを開示する。特許文献2に於いて、薄膜トランジスタ―を駆動回路に用い、駆動回路の温度上昇や発熱抵抗体形成領域の蓄熱を改善するため、発熱抵抗体の近傍と駆動回路と発熱抵抗体形成領域間に、発熱抵抗体からの熱伝搬が金属パターンを介在させることで防止することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭62-242552号公報
【文献】特開平4-140152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の発熱体と駆動回路が一体に形成されたサーマルヘッドは、ガラスや石英等の比較的熱伝導が悪く、脆い、厚い基板で提供される。それ故、サーマルヘッドの小型化を阻む発熱体からの熱伝搬による、駆動回路の温度上昇による、誤動作や故障の改善と基板の蓄熱による印字品質の改善と、基板強度の改善、が課題である。
【0007】
特許文献1に於いて、一様な厚さの蓄熱層上に発熱体と駆動回路の両方を形成しているので発熱体と駆動回路を個別に蓄熱量を制御できない。これまでは、発熱体の蓄熱量制御にのみ蓄熱層を使っていた。つまり、低速印字用途の場合、発熱体のオン、オフ周期が長くなる。そのために、熱時定数を大きくするため、熱容量を大きくする。つまり、蓄熱層の厚さを大きくする。一方、高速印字の場合、熱時定数を小さくする。そのために蓄熱層を薄くする。
【0008】
ところが、蓄熱層の厚さを大きくすると、駆動回路形成領域方向の熱伝搬が増え、駆動回路の温度上昇を招き、誤動作や誤動作による故障が無視できなくなる。蓄熱層の厚さ以上の、一定距離を離すことが必要になり、基板の小型化が困難になる。また、蓄熱層を一様に薄くすると基板強度が弱くなり、組立時の取り扱いが困難になる。低速及び高速印字用の用途によらず小型化が可能で基板強度が強く、組立の容易な薄膜トランジスタ―を駆動回路に用いたサーマルヘッドを提供することが課題である。
【0009】
また、特許文献2において、発熱体と駆動回路との間に放熱用金属パターンを配置し蓄熱と駆動回路の温度上昇による誤動作を改善する提案がされている。しかし、放熱用金属パターンが介在することで発熱体と駆動回路間の距離が長くなり小型化が困難である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るサーマルヘッド用基板は、第1の方向に順に配置された、第1領域、第2領域、及び第3領域を有する基板と、前記基板の主面上に設けられた発熱体と、前記基板の主面上に設けられ、前記発熱体を駆動するための駆動回路と、前記基板の主面上に設けられ、前記発熱体と前記駆動回路に電気的に接続する配線と、前記基板の裏面に、接着剤を介して接着固定された放熱板と、を備える。前記発熱体、前記配線、及び前記駆動回路は、それぞれ、前記第1領域、前記第2領域、及び前記第3領域に設けられており、前記基板の前記第2領域の裏面に第1の凹部を有することを特徴とする。
【0011】
本発明に係るサーマルヘッド用基板では、第2領域の基板の裏面に第1の凹部を有するので、第1領域の基板の主面上に設けられた発熱体から、第3領域の基板の主面上に設けられた発熱体を駆動するための駆動回路への熱伝搬を防止することができる。
【0012】
また、本発明に係るサーマルヘッド用基板は、前記基板の裏面であって、前記第1領域を挟んで前記第1の凹部と反対側に第2の凹部を有することを特徴としてもよい。第2の凹部は、第1領域を挟んで第1の凹部と反対側に設けられているので、発熱温度分布が改善され、印字品質を向上させることができる。
【0013】
また、本発明に係るサーマルヘッド用基板は、前記第1の凹部は、前記第2の領域から前記第3の領域まで延伸していることを特徴としてもよい。第1の凹部は、第2の領域から第3の領域まで延伸しているので、第3の領域に設けられている駆動回路領域の放熱性を高めることができる。
【0014】
また、本発明に係るサーマルヘッド用基板は、前記第1の領域に凸部領域を有し、前記発熱体が、前記凸部領域に形成されていることを特徴としてもよい。第1の領域に凸部領域を有し、凸部上に発熱体が形成されているので、感熱媒体との密着性を高め、印字品質を向上させることができる。
【0015】
また、本発明に係るサーマルヘッド用基板は、前記第1の凹部の前記第1の方向の長さが、前記第1の凹部が形成された前記基板の厚さ以上の値を有することを特徴としてもよい。第1の凹部の第1の方向の長さが、第1の凹部が形成された前記基板の厚さ以上の値を有することで、第1領域の基板の主面上に設けられた発熱体から、第3領域の基板の主面上に設けられた発熱体を駆動するための駆動回路への熱伝搬を防止することができる。
【0016】
また、本発明に係るサーマルヘッド用基板は、前記第1の凹部に、前記接着剤が充填されていることを特徴としてもよい。第1の凹部に、接着剤が充填されていることにより放熱板への放熱性を向上させることができる。
【0017】
また、本発明に係るサーマルヘッド用基板は、前記放熱板は、前記第1の凹部に勘合する凸部領域を有することを特徴としてもよい。放熱板は、第1の凹部に勘合する凸部領域を有することで、接着層が薄くできるので、放熱板への放熱性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
一様な厚さの蓄熱層を持つ、全薄膜型サーマルヘッドより小型な全薄膜型サーマルヘッド用基板を提供できる。また、発熱温度分布の裾野のダレが改善されて鮮明な画素が得られる。
また、基板の厚さが異なる、凹部(穴部又は、溝部)を局所的に有するので、一様厚さの蓄熱層を持つ全薄膜型サーマルヘッドより基板強度を増すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1(a)及び(b)は、本実施形態に係る全薄膜型サーマルヘッド用基板を模式的に示す平面図、及び断面図である。
【
図2】
図2(a)及び(b)は、本実施形態に係る全薄膜型サーマルヘッド用基板を模式的に示す平面図、及び断面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る全薄膜型サーマルヘッド用基板の構成を模式的に示す図である。
図3(a)は、全薄膜型サーマルヘッド用基板の基板主面上の耐摩耗層、発熱抵抗体、駆動回路、共通電極、分岐電極及び端末電極の配置を示す図である。
図3(b)は、
図3(a)のA部拡大図、
図3(c)は、X3-X3線部の断面拡大図を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る、全薄膜型サーマルヘッド用基板の回路図を示す。また、基板主面に於ける、回路素子の配置領域を表す記号を説明する図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る、全薄膜型サーマルヘッド用基板の目的と効果を説明する図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る、全薄膜型サーマルヘッド用基板の他の実施例の構成を説明する図である。
【
図7】
図7は、本実施形態に係る、全薄膜型サーマルヘッド用基板の他の実施例の構成を説明する図である。
【
図8】
図8は、本実施形態に係る、全薄膜型サーマルヘッド用基板の他の実施例の構成を説明する図である。
【
図9】
図9は、発熱体形成領域上の発熱温度分布を、各実施例と比較した模式図を示す図である。
【
図10】
図10は、本実施形態に係る、全薄膜型サーマルヘッド用基板の製造工程を説明する為の図である。
【
図11】
図11は、本実施形態に係る、全薄膜型サーマルヘッド用基板の他の実施例の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施する為の形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
本実施形態に係る、サーマルヘッド基板は、発熱体と駆動回路が一体に形成された基板と、当該基板に放熱板が接着剤で固定されて構成されている。このような発熱体と駆動回路が一体に形成された基板と、放熱板が接着剤で固定されたサーマルヘッド基板を以下、全薄膜型サーマルヘッド用基板と呼ぶ。
【0022】
図1及び
図2に、本実施形態に係る全薄膜型サーマルヘッド用基板の平面図、及び断面図を示す。
図3に、本実施形態に係る全薄膜型サーマルヘッド用基板の構成を模式的に示す。
図3(a)は、全薄膜型サーマルヘッド用基板の基板主面上の耐摩耗層、発熱抵抗体、駆動回路、共通電極、分岐電極及び端末電極の配置を示す図である。
図3(b)は、
図3(a)のA部拡大図、
図3(c)は、X3-X3線部の断面拡大図を示す図である。
図4は、本実施形態に係る全薄膜型サーマルヘッド用基板の回路図を示す。
【0023】
以下、耐摩耗層や電極等は、図面によっては、省略している。本発明に係る発熱体形成領域と駆動回路形成領域のみを表示している。また、以下の実施例に於いては、基板の主面に形成される、発熱体や駆動回路等の構成は、
図3(a)や(b)及び(c)と同じであることを前提にしている。
図1(a)は、本実施形態に係る全薄膜型サーマルヘッド用基板1の構成を説明する為の平面図である。
図1(b)は、
図1(a)のX1-X1線部の断面図である。基板3の裏面に凹部8を形成した全薄膜型サーマルヘッド用基板1である。
図1(a)は、基板の主面上から見た、各領域の位置関係を示す為、基板裏面の凹部や積層された膜の位置等各領域を透視した形で示してある。
【0024】
まず、構成から説明する。基板3は、放熱板4と接着剤5で固定されている。基板の外形は、放熱板の外形より小さい。基板の主面には、
図3(a)のパターンが形成されている。
図1(a)に於いて、主面上の第1領域3a、には、発熱体と接合部の電極が形成されている。その形成領域を3Aで示す。同様の第2領域3cには、分岐電極が形成されている。配線形成領域を3Cで示す。同様の第3領域3bには、駆動素子や論理回路を含む駆動回路が形成されている。駆動回路形成領域を3Bで示す。また、各パターン例と各領域は
図3(b)に示したものである。
【0025】
また、
図1(a)及び(b)に於いて、第1領域3a、第2領域3c、から第3領域3b、は、隣接して第一の方向に連続している。基板の第2領域の裏面に第1の凹部8が形成されている。
図1(a)に於いては、第1の凹部8の位置を破線で示している。両図に於いて、各領域部を、各破線で示している。
図1(a)及び(b)に於いて、各破線は、便宜上分離して表しているが、第一の方向に連続して形成することができる。以下の図面に於いても同様である。第1の凹部の長さ「L2」は、印字幅「L1」より同等若しくは、長く、基板の全幅の「L」、以内に形成することができる。
【0026】
図1(b)に於いては、第1の凹部に接着剤5が充填され、その幅「Wb」を示している。また、凹部の基板厚みは、「t1」で示している。「t1」と同等の値以上に幅「Wb」を設定することができる。また、第1の凹部8は、基板の主面上から見て、第2領域と第3領域の境界の第2領域の中に形成される。また、
図1(b)の断面構成に於いては、第1領域は、発熱体形成領域3Aと基板3と接着剤5と放熱板4で構成される。第2領域は、配線形成領域3Cと第1の凹部8を含む基板と接着剤と放熱板で構成される。第3領域は、駆動回路形成領域3Bと基板3と接着剤と放熱板で構成される。
【0027】
まず、基板の主面上の各領域について説明する。第1領域3aは、
図1(a)に於いて、破線3aがその領域を示している。主面上に複数の発熱体が形成された領域3Aを含んでいる。第1領域は、主面上の発熱体部と電極接合部を含む領域である。発熱体は、列状に一定ピッチで形成され発熱部と電極部で構成される。発熱部のパターンは、角型やミアンダ型等があり、感熱媒体に印字画素を形成する。発熱体の材質は、ポリシリコンやTaSiO2やTaNなどである。また、発熱体と低抵抗で接合する電極の接合部を有する。電極材は、例えば金やアルミニウムや銅などである。第1領域の断面は、
図1(b)に於いて、破線3a、の領域である。基板3と接着層5と放熱板4で構成される。基板材料は、ガラスや石英やシリコン等を用いることができる。接着剤は、有機や無機系の接着剤を用いることができる。
【0028】
また、金属粒子や無機粒子を混合した接着剤を用いることができる。放熱板は、鉄やアルミニウム、42合金、アンバー等の金属を用いることができる。特に、印字長の大きな全薄膜型サーマルヘッド用基板では、基板材との熱膨張率をほぼ同等にする必要がある。全薄膜型サーマルヘッド用基板の印字時の発熱による、全薄膜型サーマルヘッド用基板の反りを小さくするためである。反りが発生すると感熱媒体との接触性が悪化して、発色濃度ムラが発生し、印字品質が低下する。また、42合金は、ガラスと熱膨張率が同等になるように開発された金属である。また、放熱板の外形は、基板の外形よりわずかに大きくして、基板端部が他の物質との接触による外力で基板のワレ、欠け、等を防ぐことができることは、勿論である。また、断面構成は、第1領域~第3領域まで同じ材料構成である。
【0029】
次に、第2領域3c、は、
図1(a)に於いて、基板の主面上に形成される配線領域3C、を含んでいる。また、第2領域の主面上の配線パターンは、2種類有るとすることができる。一つは、発熱体の一端と駆動素子を結線する配線である。もう一つは、複数の発熱体をまとめて結線して電源に結線する共通電極の配線である。駆動素子は、駆動回路形成領域内3B、に形成される。例えば、駆動素子は、スイッチング素子でFET等を用いることができる。前記の一つは、FETのドレインと発熱体の一端を結線する配線である。前記の他の一つは、発熱体の他端をまとめて電源に結線される共通電極である。
【0030】
第2領域は、構成上は、配線部であり発熱体の他の一端と結線する電極(共通電極)も配線部ということができる。従って、第一の方向に第2領域3c、第1領域3a、第2領域3c、第3領域3bと連続していると言うこともできる。
【0031】
次に、第3領域3bは、基板の主面上に駆動回路3Bが形成された領域である。駆動回路3Bとは、駆動素子やシフトレジスタ等の論理回路や電源配線等を含むものである。発熱体に電流を短時間流したり、止めたりする。その回路を構成するトランジスター(FET)は、特に温度に敏感な素子である。特に発熱体を駆動する素子のFETは、比較的大電流が流れるので自己発熱をする。更に、発熱体からの熱伝搬も加わり放熱対策が必要になる。また、論理回路を構成するFETも動作保証温度範囲を持ち、その範囲を維持し、より室温に近く維持されることが望ましい。このように、駆動回路部の温度上昇による誤動作により、印字品質の低下や故障等の原因になる。
【0032】
さて、基板の小型化を図るためには、駆動回路の自己発熱や発熱体からの熱伝搬による発熱による、誤動作を防ぎながら、発熱体パターンと駆動回路内にある、駆動素子パターンとの配置距離を小さくしなければならない。つまり、第一領域と第3領域に挟まれた第2領域の幅「W1」(第1の方向の長さ)を小さくすることが目的の一つである。従来の、ハイブリッド構成のサーマルヘッド用基板では、発熱体形成領域の熱時定数(熱抵抗と熱容量の積)のみを考慮して、低速印字や高速印字等の用途によって蓄熱層の厚さを設定していた。
【0033】
何故なら、基板主面に形成された発熱体と凸部を持つ駆動IC実装領域は、プラテンローラーとの接触を考慮して配置されるので、例えば数ミリメートルと十分な距離を離れているから発熱体からの熱伝搬で駆動回路の温度上昇による誤動作を考慮しなくても良かったのである。本発明に係るサーマルヘッド用基板に於いては、配線領域である第1と第3領域に挟まれた第2領域の裏面に第1の凹部8を設け、凹部の厚さ「t1」と、凹部の幅「Wb」で熱抵抗と熱容量を下げ、放熱板4へ放熱し、発熱体から駆動回路の駆動素子への熱伝搬を防止して、第2領域の幅「W1」を小さくして小型化を実現するものである。
【0034】
全薄膜型サーマルヘッドでは、蓄熱層に該当する、第1領域~第3領域の基板厚さ「t」は、同じである。発熱体からの熱伝搬で駆動回路形成領域の温度が上昇する。駆動回路形成領域の温度を放熱板温度まで下げる為には、発熱体と放熱板までの距離と同じ、基板の厚さ「t」と同じ値以上の距離を離さないといけない。その理由は、熱伝搬は、等方的に伝搬するからである。つまり。第1と第3領域に挟まれた、第2領域の幅(第1の方向の長さ)は、基板の厚さと同じ値「t」以上の距離を離さなければならない。例えば、特許文献1の全薄膜型サーマルヘッドでは、10~800μmと厚さを変える提案がある。これは、発熱体と駆動回路形成端との間隔を10~800μmと変えることになる。しかし、この全薄膜型サーマルヘッド用基板に於いては、この第2領域の基板の裏面に第1の凹部8を設けることで、第2領域の凹部を除く、基板の厚さ「t」とは、関係なく、第2領域の幅を小さくして全薄膜型サーマルヘッド用基板の小型化を可能にするものである。
【0035】
更に説明すれば、例えば、前記間隔、10~800μmは第2領域の寸法「W1」に該当する。低速印字用途では、熱時定数を大きくするため蓄熱層の熱容量を大きくする。その為に基板の厚さを厚くする。第2領域の第一の方向の長さを、基板の厚さ以上離さないと、駆動回路の形成してある第3領域の温度を放熱板温度に保つことができない。その為、第2領域の幅が大きくなり、基板全体の小型化が計れない。
【0036】
また、第2領域の基板の裏面に凹部を設け、凹部から放熱板に放熱することで、駆動回路が形成してある第3領域への熱伝搬を防止するものである。例えば、第2領域の凹部の厚さが10μmであれば凹部の幅は、10μm以上にする。この凹部で放熱板温度まで低下するので基板の主面上で10μm以上離れた位置に駆動素子のパターンを配置することができる。凹部が第2領域内に形成され、凹部の端部が隣接する第3領域に接しているからである。
また、
図2に於いては、発熱体形成領域3A、を挟んで第2領域3c,及び3ca、を構成した例を示すことができる。基板主面に形成された、発熱体パターンの両端から寸法「W1a」の位置の、基板3の裏面に、凹部2箇所形成した例である。寸法「W1a」は、第2領域の幅W1から第1の凹部の幅Wb1を引いた寸法に等しくすることができる。第2領域3ca、(配線部領域3Ca)については、基板の主面上には、共通電極106を形成することができる。
【0037】
さて、
図3及び
図4を参照しながら、基板の主面上の第1~第3領域と断面構造からみた第1~第3領域にどのような回路及びそのパターンが配置され、且つどのような材料で構成されているかについて説明する。
【0038】
図4に示すように、第1領域の基板の主面には、破線で囲んだ3A部分の回路が形成されている。列状に一定ピッチで並んだ複数の発熱体29を囲む領域が発熱体形成領域3Aである。発熱体は、発熱部と電極(接合部)から構成される。また、第2領域の基板の主面には、一つは、破線で囲んだ3C部分の回路が形成されている。発熱体と駆動素子(スイッチング素子)28を結線する配線部3C(分岐電極109a)である。もう一つは、発熱体の他端を共通に結線した共通電極106、の配線部である。破線で囲んだ3Caである。また、第3領域主面には、破線で囲んだ3B部分の回路が形成されている。駆動素子28を含む駆動回路形成領域3Bである。
【0039】
更に詳細に説明すると、個々の発熱体の他の一端は、分岐電極109aを通り、個々のスイッチング素子28、に結線させることができる。他の一端は、共通電極106にまとめて結線させることができる。そして、スイッチング素子28で電流のオン・オフとその時間を制御する論理回路に結線させることができる。論理回路は、シリアルイン、パラレルアウトのシフトレジスタ―、22と分割印字をするゲート回路、27とデータ保持のラッチ回路、25と回路用電源(図示せず)から構成させることができる。駆動回路形成領域内の発熱体に近い端部領域には、スイッチング素子28を配置させることができる。
【0040】
また、信号の種類としては、分割印字に用いるストローブ26、データを保持するラッチ24、データ21、クロック23、の各信号端子を導出させることができる。108、108aは、端子電極群で各種信号と電源端子群示す。また、様々な応用回路があり上記回路は、限定されたものではないことは、勿論である。
【0041】
さて、
図3は、
図4の回路図の素子や配線が全薄膜型サーマルヘッド用基板の基板3の主面に形成される配置位置やパターンの例を説明する図である。更に主面上の各回路パターン形成領域と第1~第3領域との関係を説明する。
図3(a)は、全薄膜型サーマルヘッド用基板の基板3の主面に配置された基板全体の回路素子のパターン配置図例を示す図である。例えば、複数の発熱体29群は基板の主面の3A領域に配置される。また、記号106は、
図4の回路図の共通電極を表し、その配置領域を3Ca、で示している。また、分岐電極109は、その配置領域3C、を示している。また、耐摩耗層の形成領域は記号9、で示している。
図3(b)は、
図3(a)のA部の拡大平面図を示している。発熱体2個分のパターンと、分岐電極、109aとFET、28を示している。基板主面上の第2領域の幅は「W1」である。また、例えば、記号3A(3a)は基板主面上の発熱体形成領域3A、が第1領域3a、に含まれることを表している。このように、第1~第3領域のパターンと領域の位置関係を説明している。
【0042】
図3(c)は、
図3(a)のX3-X3線部の断面図である。TFTと耐摩耗層9の積層構造を示している。各々基板の断面に於いて、第1領域を3a、第2領域を3c、第3領域を3bと表している。また、
図3(b)及び(c)のTFT部分等の記号の説明は、後述する製造工程で説明する。
【0043】
更に詳細に説明すれば、基板の主面上に於いて、発熱体形成領域3A、を含む、第一領域3aは、同じ幅の領域とすることができる。配線領域(分岐電極109a)3C、を含む、第2領域3cは、同じ幅の領域とすることができる。駆動回路形成領域3B、を含む、第3領域3bは、同じ幅の領域とすることができる。
図3(a)に於いて、発熱体を含む、発熱体形成領域3A(主面上の第1領域3a)とその一端を共通電極106(
図4のVh)に結線され、他の一端は、分岐電極109a(主面上の第2領域3c、
図4の3C)を経由して駆動回路形成領域3B(主面上の第3領域3b、
図4の3B)に結線されている。駆動素子28を経て分岐電極は、電極109(
図4のGh)で結線されている。
【0044】
また、各種信号や電源端子がまとめて記号108に配置されている。最上層は、耐摩耗層9を形成させることができる。また、基板の長さを「L」、基板の奥行幅を「W」、印字長さを「L1」、で示している。
【0045】
図3(b)は、平面拡大図で、発熱体の幅をRW、長さをRLと表している。第一の方向とは、印字時に感熱媒体が走行する方向である。発熱体に流れる電流のスイッチング素子(駆動素子)は、FETで構成されてソース電極203、ゲート205、ドレイン電極207で構成されている。
図3(b)は、
図3(a)のA部の断面拡大図である。領域3Aには、複数の発熱体が列状に並び(ここでは、2個)、領域3Cには、分岐電極109aが形成されている。「W1」は、3C領域の幅寸法である。駆動素子28は、発熱体と結線するため、駆動回路形成領域端部に配置される。駆動回路形成領域の主面上の第1領域は、3A領域と同じ幅である。発熱体とは、発熱部と電極との接合部(図中のX部)含んだ領域である。主面上の第2領域は、
図3(b)に於ける、配線部領域3C及び3Caである。
【0046】
この例では、配線部領域3Cの幅「W1」は、分岐電極109aの長さに等しい。この3C領域の幅「W1」を小さくして基板「W」の小型化を図ることが目的の一つである。次に、寸法「W1」、の定義である。
図3(b)に示す様に、発熱体の接合部から駆動素子の接合部までの距離である。スイッチング素子(駆動素子)は、FETの接合部分(図中のX部)は、3C領域に含まない。また、断面構成を示す
図3(c)に於いては、最上層は、耐摩耗層9、次が保護膜206、電極、絶縁膜204、活性層10a(発熱体層29と同じ)と基板3から構成されていることを示す図である。また、上記は、ガラス基板3、上にTFTで構成された駆動回路と発熱体を説明したが所謂、シリコン基板に半導体技術等で駆動回路や発熱体等を形成してもよいことは勿論である。
【0047】
また、全薄膜型サーマルヘッドでは、ハイブリッド型のサーマルヘッドに存在する、駆動ICチップ実装領域の凸部が形成されず、ほぼ平坦な表面を有することができる。プラテンローラー等との接触が発生しないので発熱体と駆動回路との距離を小さくすることで、小型化が可能となる。しかし、全薄膜型サーマルヘッドでは、発熱体と駆動回路との距離を小さくし、近づけると、発熱体からの熱伝搬と駆動素子自身の温度上昇もあり、動作保証温度範囲を短時間で超えて動作不良を生じるという課題が生じることが明らかになっている。
【0048】
さて、本発明に係る、目的と効果を説明する為の図が
図5である。全薄膜型サーマルヘッド用基板の構成は、全薄膜型サーマルヘッドに比べて、発熱体の端部と駆動回路形成領域端の距離が短縮でき、小型化を図れることを説明する。また、発熱体の温度上昇、下降時間を決める熱時定数の考え方を説明する。そして、その制御方法を本発明に係る、全薄膜型サーマルヘッド用基板に適用した構造例で説明する。
【0049】
図5(a)は、一様な150μmの厚さ「t」の基板3(蓄熱層として機能する)を持つ全薄膜型サーマルヘッドの構成を示す断面図である。基板3は、放熱板4に接着固定されている。(接着層は、図示せず)発熱体(長さRL)と駆動回路形成領域3Bと耐摩耗層9が基板の主面に形成された断面図である。発熱体端から駆動回路形成領域端間距離「W1」、は150μmである。この構造で発熱した場合の蓄熱層内の熱伝搬を表す等温度曲線をT0~T3に示している。
【0050】
曲線T0は、発熱開始から時間T0時後に於ける、等温度曲線である。T0~T3時間の間の温度伝搬を示している。時間は、T0~T3と長くなり、温度は、T0~T3と低下する。等方的熱伝搬とは、半径「r」の150μmの円上T3、の半円部分の線上(蓄熱層領域部分)では、同温度になることである。つまり、放熱板温度(室温)に低下する基板主面の発熱体からの距離「W1」は、150μmであることを示している。
【0051】
次に、
図5(b)の構造の場合を考察する。
図5(a)との違いは、基板3の裏面に凹部8を設け、その幅「Wb」は、10μmで、凹部の厚さ「t1」、も10μmである。放熱板4の突起部4a、が挿入固定されている。寸法「W1」は、60μmである。ここでポイントは、基板裏面の凹部8に対応した位置での、主面上の温度分布である。曲線T3は、発熱後T3時間経過後の等温度曲線である。放熱板に接しておりT3線上は、放熱板温度である。つまり、凹部8の幅(10μm)に対応した、主面上の位置では、放熱板温度まで低下している。これは、
図5(a)の「t」、が10μmで、「W1」が10μmの構造と同じ考え方ができる。このように、基板の発熱体と駆動回路形成領域間の裏面に極薄部の凹部を設け、対応した主面の温度を下げ、熱伝搬を防止しようとするものである。放熱板温度は室温にほぼ等しくすることができる。
【0052】
さて、以上の様に、凹部8で駆動回路形成領域への熱伝搬を防止させることができるが問題は、
図5(b)の等温度曲線T0~T3の曲線の分布の変形である。基板内の等温度曲線の粗密の形がゆがんでいる。そこで、解決策として考案した構造例が
図5(c)である。つまり、発熱体を挟んで等距離に凹部8a設けた構造である。熱伝搬は、領域3aaに閉じ込められる。この二つの凹部8,8aによって発熱温度分布の変形を解決することができる。
【0053】
さて、ここで、蓄熱層の機能について説明する。
図5(a)の構成の全薄膜型サーマルヘッドに於いて、過渡的熱応答を等価電気回路で考える。発熱体近傍の熱抵抗R、熱容量C、放熱板(アース端)とすると発熱体部の温度変化は、R(抵抗)、C(コンデンサー)、の直列回路に電圧Eをオン、オフ、した場合に流れる充放電電流の過渡応答波形に近似すると考える。記号τは、時定数でτ=C*Rで表せる。τは、熱回路では、昇温、降温、の速さを示す。τが小さいと短時間で昇温、降温、を繰り返す高速印字用途にすることができる。τが大きいと長時間で昇温、降温、を繰り返す低速印字用途にすることができる。
【0054】
また、R(抵抗)は、熱伝導率や表面積に相関し、C(コンデンサー)は、質量、比熱に相関する。故に、高速印字用途のサーマルヘッドの蓄熱層は、薄く(質量を小さく)、低速印字用途のサーマルヘッドは、厚い(質量を大きく)蓄熱層が形成することができる。ちなみに、材質は、ガラスが用いられる。経験的には、構造によって異なるが、高速印字用途(バーコードやラベルプリンター等)のサーマルヘッドの蓄熱層の厚さは、40~60μm程度で、低速印字用途(諧調印字(写真)プリンター等)のサーマルヘッドの蓄熱層の厚さは、100~500μm程度である。
【0055】
さて、
図5(c)は、発熱体の熱時定数τ、を調整できる構成を示した図でもある。つまり、
図5(a)の半径「r」の円の面積の半円部の面積と、
図5(c)の破線長方形部「3aa」の面積と熱容量は、相関関係になるので、例えば
図5(a)の半径「r」の円の面積の半円部の面積と同等面積にすることを考えると、基板3の厚さは、標記した数値をもとに計算すると、約176μmと計算できる。これにより、
図5(a)と(c)の発熱体の熱時定数は、同じになり、同等の昇温、降温特性を持つと考察できる。発熱体上の発熱温度分布については、後述する
図9で説明する。実際は、実施例で後述するように、接着剤層が介在するので接着剤層の熱抵抗と熱容量も影響する。実際の構成の最適値は、試作を通じて決めることができる。
【0056】
また、同様に、基板裏面の凹部8の厚さ(10μm)と幅(10μm)で決まる面積3ccは、発熱体からの熱伝搬を防止する熱時定数を決めている。駆動回路形成領域の断面面積3bbも同様に駆動回路形成領域の熱時定数を決めている。例えば、凹部8を駆動回路形成領域下まで延伸すれば、駆動回路形成領域の熱時定数は、小さくなり放熱性を高めることができる。駆動素子自身の発熱が無視できない場合は、有効になる。
【0057】
また、以上の例で基板の厚さを約176μmと厚くした場合、隣接する発熱体方向の温度が下がらず発色画素の分離が不十分になりやすい。その場合は、3aa面と平行に発熱体ピッチに対応した隣接発熱体間の、基板と放熱板の接着面、つまり、基板裏面にレーザー等で隣接発熱間に溝を入れると改善できる。実用的には、基板の厚さは、熱時定数と発色画素の分離状態を考慮して設計し、隣接発熱体間の反対面の基板裏面に溝を入れることなく設定することができる。また、
図5(b)及び(c)中の寸法は説明の為の例を示したもので限定されるものではないことは勿論である。
【0058】
本実施形態に係る、全薄膜型サーマルヘッド用基板では、基板の厚さを変化させた複数の蓄熱領域と、その蓄熱領域を放熱板に接着した構成を備えると言い換えることもできる。発熱体と駆動回路との距離「W1」を小さく、基板厚さ「t」、を変化させて高速印字用途や低速印字用途でも印字品質の劣化が生じない全薄膜型サーマルヘッドを提供することができる。更に、発熱体と駆動回路形成領域との距離を用途によらず一定にすることもできるので、全薄膜型サーマルヘッド用基板のパターン距離「W1」も一定にでき全薄膜型サーマルヘッド用基板のパターン品種数の増加を防ぐことができる。この様に、蓄熱層の厚さが一様な全薄膜型サーマルヘッドより、全薄膜型サーマルヘッド用基板では、発熱体と駆動回路形成領域との距離を短縮して基板の奥行寸法「W」、の小型化が達成することができる。
【0059】
次に、発熱温度分布の改善について説明する。
図2に示した、二つの凹部を形成した構造にすることによって、発熱体面及びその近傍の温度分布が改善され、発色画素のボケ、尾曳、が減少し、鮮明な印字画素が得られる。また、発熱体の長さRL、に近い画素が得られ精細な画素が得られる。
図9は、一つの発熱体上の
図3(b)X3a-X3a線に沿った、発熱体上を中心にした発熱温度分布の比較を示した模式図である。縦軸は、発熱温度を表し、同軸の破線は、感熱媒体の発色温度を示している。発色温度より高い温度で例えば黒の発色をする。横軸は、第一の方向の位置を示し、発熱体の長さをRL、で表している。曲線Cは、第2領域の幅を「W1」で表している。発熱体の長さ「RL」の中央で温度のピークがあることを示している。
【0060】
さて、発熱体下面が一様な厚さの蓄熱層の上に発熱体を形成した場合(
図5(a)の断面構成)の発熱温度分布曲線A、と発熱体下面に局所的な凹部8を形成した場合(
図5(b)の断面構成)の発熱温度分布曲線B、と発熱体列の両側の基板裏面に凹部8,8aを形成した場合(
図5(c)の断面構成)の発熱温度分布曲線C、とを比較した図である。
【0061】
また、Wx1は、曲線Aの
図5(a)の構造の発色画素の長さを示す。また、Wx2は、曲線Bの
図5(b)の構造の発色画素の長さと位置を示す。また、Wx3は、曲線Cの
図5(c)の構造の発色画素の長さを示す。これらから、Wx2は発色部の中心が発熱体の長さRL、の中心からずれていることが分かる。また、曲線Cは発熱体を中心に距離「W1」の距離で急峻に温度が低下していることが分かる。更に、発色画素の長さWx3も発熱体長RLと近くなっていることが分かる。
【0062】
これらのことを考察すると、曲線Cは発色画素のにじみが少ない鮮明な画素が得られることを示している。一方、曲線Bは、基板裏面に第一の凹部のみを形成したことで発熱体を中心に非対称な曲線である。画素位置が発熱体位置より多少ずれることを示している。用途によっては、問題無く使用できるが使い分ける必要があることを示している。
【0063】
次に、
図10を用いて、全薄膜型サーマルヘッド用基板の製造工程について説明する。図は、全て断面図である。
図1に示した構造の製造工程の例を示すが他の実施例の製造工程も下記工程の組み合わせで達成できるので他の実施例構成の製造工程は省略している。
[薄膜形成工程]
【0064】
まず、
図10(a)を参照しながら、薄膜形成工程について説明する。基板3の主面の発熱体形成領域3Aに発熱体29を形成する。また、駆動回路形成領域3Bに発熱体に流す電流を制御するための駆動回路を形成する。ガラス基板3上に薄膜工程で形成する素子構成及び配置は、
図3(b)と(c)に示した通りである。基板の厚さは、0.3~0.6mm程度の液晶用の無アルカリガラス基板等が使うことができる。大判基板(以後、マザーガラス基板と言う)が可能で1m角程度の基板が入手できる。まず、LPCVD法(low-pressure chemical-vapor deposition法)を用いて、ガラス基板3上にポリシリコン層29を堆積した。ポリシリコン層29の厚みは、約1000Å程度である。
【0065】
次に、ポリシリコン層29上にフォトレジストを塗布し、フォトリソグラフィ技術を用いて、発熱体形成領域3A及び駆動回路形成領域3Bとなる領域に、発熱体及び薄膜トランジスタ(TFT)の活性領域10aを含む駆動回路のためのパターンを形成した。次に、ゲート絶縁膜206(厚み約750Å程度)を形成した後、再びポリシリコン層(厚み約3000Å程度)を堆積した。次に、薄膜トランジスタのゲート電極となる部分205を、フォトリソグラフィ技術を用いてエッチングし、ゲート電極パターンを形成した。
【0066】
その後、イオン注入法を用いて、リン(P)、及びボロン(B)をポリシリコン層に順次、イオン注入することにより、駆動回路を構成する薄膜トランジスタ(TFT)のソース領域203a、及びドレイン領域207aを形成した。同時に、発熱体領域29を形成した。イオン注入の工程では、薄膜トランジスタ(TFT)のソース領域203a、及びドレイン領域207aの不純物濃度、及び発熱体領域29の抵抗値が所望の値となるように、注入する不純物(リン(P)、又は、ボロン(B)のドーズ量及びイオン注入の深さ(イオン加速エネルギーなど)を制御し、調整した。
【0067】
次に、LPCVD法を用いて、層間絶縁膜204を形成する。層間絶縁膜204は、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)から成り、厚みは、約500nm程度とすることができる。次に、フォトリソグラフィ技術を用いて電極形成領域の層間絶縁膜204をエッチングし、コンタクトホールを開け、多層電極金属(Ti/Al/Ti)をスパッター法により形成した後、リフトオフ法を用いて、配線106、104、及び109を形成した。多層電極金属(Ti/Al/Ti)の各金属層の厚みは、例えば、(Ti膜100nm/Al膜800nm/Ti膜100nm)とすることができる。
【0068】
最後に、ガラス基板3の最上層に保護層209を形成した。保護層209は、例えば、窒化ケイ素(SiNx)などのシリコン系無機絶縁膜を用いることができ、厚みは、約1000Å程度とすることができる。以上の工程により、ガラス基板3上に発熱体(抵抗体)と駆動回路とを形成した。本実施形態では、発熱体(抵抗体)と駆動回路とは、ポリシリコン層10aから成り、同時に形成される。また、液晶表示素子のアレイ基板の製造プロセスを適用することができるので、量産効果が大きい。
【0069】
また、発熱体を構成する抵抗体材料としては、ポリシリコン層以外に、Ti金属層を用いることもできる。また、発熱体としてTaSiO2、NiCr、TaN等の別材料を成膜してパターン形成後上記薄膜形成工程でTFTの駆動回路を作成することもできることは、勿論である。基板は、例えば石英(SiO2)、シリコン(Si)、又は、無アルカリガラスや結晶化ガラスなどのガラスからなることができる。
[耐摩耗層形成工程]
【0070】
次に、
図10(b)を参照しながら、耐摩耗層を形成するための工程を説明する。耐摩耗層は、少なくても感熱媒体がプラテンローラーで加圧されながら摺動する面に形成される。
図10(b)に示すように、ガラス基板3の主面上の少なくても、発熱体形成領域3Aと駆動回路形成領域3Bを覆うように耐摩耗層9を形成する。また、耐摩耗層9は、
図3(a)に示す端末電極端子108以外の領域に保護膜として全面に形成することもできる。
【0071】
耐摩耗層の材質は、SiC、Ta2O5、Si3N4等の固く耐熱性があり摩耗しにくい物質が用いられる。形成方法は、蒸着法でも可能であるが主にマスクスパッター法で形成される。厚さは、バーコード用途では、比較的厚く、写真印刷等の用途では、比較的薄い。一般に厚さは、2~10μm程度である。密着性を上げるため数百度程度の基板加熱を加えたり、逆スパッターを加えたりする場合が多い。
[凹部形成工程]
【0072】
次に、
図10(c)を参照しながら、第1の凹部形成工程を説明する。第1の凹部は、溝又は穴形状である。発熱体からの熱伝搬を防止する機能を有する。
図1(b)に示す、凹部の幅「Wb」、は、10~50μm程度であり、厚さ「t1」も10~50μm程度である。マザー基板の厚さ「t0」は、0.3~0.6mm程度である。加工方法は、あらかじめゴム系の感光性レジストを用いて加工すべき部分を露出させたパターンを作り、サンドブラスト法で加工することができる。
【0073】
また、ダイサー(シリコンウエハーのチップ分割装置)と呼ばれる装置を用い、高速回転する外周刃を用いても形成できる。加工位置は、ガラス基板の裏面から主面のパターンが確認できるので位置合わせが可能である。重要なことは、加工歪の除去である。加工後、フッ酸等のエッチング液で軽くエッチングして加工歪を除去することである。
【0074】
但し、次の基板薄型化工程でフッ酸等のエッチング処理をすればこの処理は、この工程では、不要になる。また、凹部の厚さ「t1」が10μm程度と薄い場合は、基板主面に仮保護板を仮接着して加工することで基板の加工時のワレ等を防ぐことができる。また、この仮保護板は、後工程の放熱板接着工程後に剥して極薄部の凹部のワレ等を防ぐことができる。また、凹部の幅が大きく、エッチファクター(サイドエッチング寸法と深さ寸法の比)が小さい場合の凹部形成には、量産性の高いフォトエッチング技術が使用できる。
以上の方法は、第2の凹部等他の凹部形成の全てに適用することができる。
[基板薄型化工程]
【0075】
次に、
図10(d)を参照しながら、基板薄型化工程について説明する。まず、主面を全面保護レジストで覆い、裏面をフッ酸等のエッチング液でエッチングする。この工程は、第1領域と第2領域の凹部以外の領域の基板の厚さ「t」を決める工程である。用途によって異なる発熱体の昇温、降温時間(熱時定数)を決める値である。厚さ「t1」は40~200μm程度の範囲となる。エッチング時間は数十時間とすることができる。また、ガラス基板3の主面に塗布する保護レジストとして、感光性レジスト以外に、フィルムレジスト等を用いることができる。レジストの塗布法は、浸漬塗布、スプレー塗布、スクリーン印刷等を用いることができる。なを、凹部の厚さは、この工程で更にエッチングされるので、前工程であらかじめ厚めに設定することができる。
[個片分割工程]
【0076】
次に、全薄膜型サーマルヘッド用基板の個片分割工程(図示せず)について説明する。
図3(a)に示す全薄膜型サーマルヘッド用基板パターンは、マザーガラス基板に多面付けして製造される。個片分割とは、多面付けされた全薄膜型サーマルヘッド用基板を個片に分割する工程である。マザーガラス基板の個別分割装置は先に説明したウエハー分割用装置を用いることができる。
【0077】
また、方法は、以下の2つの方法を採用することができる。
まず、マザーガラス基板を分割し、個片化した後、放熱板と接着する方法とマザーガラス基板に多数面付けされた状態で放熱板を個々にマザーガラス基板上の全薄膜型サーマルヘッド用基板に接着して後、マザーガラス基板と一体接着された放熱板を分割する方法である。後者の場合は、放熱板の外形は周辺に鍔部を形成し、放熱板周辺に切断刃の逃げを作り、全薄膜型サーマルヘッド用基板外形より大きくして、マザーガラス基板上のスクライブラインに沿って、X-Y方向にスクライブして、個片化する。後者の方法は、コスト面で有利である。
[放熱板接着工程]
【0078】
次に、
図10(e)を参照しながら、放熱板接着工程について説明する。ここでは、マザーガラス基板を分割し、個片化した後、放熱板と接着する方法である。個片化されたガラス基板とあらかじめ成形された放熱板を接着剤で接着する。まず、あらかじめデイスペンサー等を用いて放熱板の接着面に、接着剤5を塗布しておく。本実施形態では、接着剤をスクリーン印刷やデイスペンサーで塗布する。
【0079】
次に、接着剤は、例えば、アルミナ粒子を混合したエポキシ接着剤を用いることができる。接着剤が塗布された接着面に個片化したガラス基板を圧接し、そのままの状態で、150度Cの温度で10分間加熱し、接着剤を硬化させ接着した。放熱板は、例えばアルミニウムから成り、厚さは、例えば約1.0mm程度とすることができる。放熱板を接着した後の接着材の厚さは、約10μm程度であり薄い程好ましい。また、接着剤は、例えば、熱伝導率が高い、液状アンダーフィル材として用いられるエポキシ接着剤を用いることもできる。また、本実施形態では、接着剤として、150度C程度の比較的耐熱温度の低い接着剤を用いることができる。また、熱伝導率は、今回の実施例で用いたエポキシ接着剤は、2.0w/m2kである。ガラスは、1.1w/m2kである。また、無機系の接着剤を用いることができることは、勿論である。
[端末ケーブル結線工程]
【0080】
次に、
図10(f)を参照しながら、端末ケーブル結線工程を説明する。
図3(a)に示した端子電極形成領域108、108a、部分と端末ケーブルと結線する工程である。端末ケーブルとしてFPCをACF(異方導電膜)(図示せず)で熱圧着する。FPCは、例えば、ポリイミドシート(厚み50μm)にフラッシュ金メッキ付き銅厚18μmを配線として形成されたものを用いることができる。ACFは、180℃、5秒、圧力3MPs圧着、加熱硬化させることができる。以上の工程により全薄膜型サーマルヘッド用基板を用いたサーマルヘッドが完成する。
【0081】
次に実施例を説明する。以下の実施例の説明では、耐摩耗層は、表示していない。また、基板の主面上の発熱体形成領域や駆動回路形成領域等のパターン配置や構成は、
図3(a)と(b)及び(c)と全て同じである。
【0082】
[実施例1]
図1(a)及び
図1(b)は、本実施形態に係る、全薄膜型サーマルヘッド用基板1、の構成を説明する為の平面図、及び断面図である。
図1(a)は、各領域の位置関係を示す為、各領域を透視した形で示してある。
図1(b)は、
図1(a)のX1-X1線部の断面図である。
【0083】
構成を説明する。基板3は、放熱板4と接着剤5で固定されている。基板の外形は、放熱板4の外形より小さい。
図1(a)に於いて、主面上の第1領域3a、には、発熱体と接合部の電極が形成されている。その形成領域を3Aで示す。同様の第2領域3cには、分岐電極が形成されている。その形成領域を3Cで示す。同様の第3領域3bには、駆動素子や論理回路を含む駆動回路3B、が形成されている。その形成領域を3b、で示す。(各図に於いて、各領域を示す破線の囲みが分離して見えるが実際は連続しているものである)
【0084】
第1領域から第3領域は、隣接して、第1の方向に連続している。基板の第2領域の裏面に第1の凹部8が形成されている。平面図の
図1(a)においては、第1の凹部8の位置を透視した破線で示している。第1の凹部は、印字幅「L1」と同等若しくは、それ以上長く、「L2」の長さに形成する。第1の凹部の長さ「L2」は、基板長さ「L」以内の長さである。
図1(b)においては、第1の凹部にも接着剤5が充填され、「Wb」は、凹部の幅を示している。また、凹部の基板厚みは、「t1」で示している。第一の凹部の幅「Wb」は、基板厚み「t1」と同等の値以上に設定する。また、第一の凹部は、主面上から見て、第2領域と第3領域の境界側に位置し、第2領域の中に形成される。「W1」は第2領域3c、の幅を示し、基板3の主面では配線領域3Cの幅を示す。
【0085】
[実施例2]
基板の裏面に第2の凹部302、を形成した全薄膜型サーマルヘッド用基板301、を構成した平面図と断面図を
図2(a)及び(b)に示す。
図2(b)に於いて、断面構成は、第1領域3a、を2つの第2領域3c、3caで挟んだ構造である。但し、第1領域3aと第3領域3bに挟まれた第2領域3cの主面には、分岐電極109aの配線部が存在するが、この第2領域3caの基板主面には、配線部は、共通電極106の配線部が存在する。
【0086】
さて、第2領域の基板の裏面に凹部8を設け発熱体29からの駆動回路側への熱伝搬を防止すると、第1領域の発熱体表面の発熱温度分布を第一の方向で測定すると、正規分布ではないことが判明し、印字画素の形状が変化することが判明した。そこで、前記第1領域を挟んで、前記第1の凹部8と反対側に第2の凹部302を設けることで前記温度分布が正規分布のピーク温度を中心にした左右対称の発熱分布を得た。断面構造で見ると、第1の凹部端部と第2の凹部端部の中間に、第1領域を形成し、第1領域を挟み、対称の位置に形成することができる。つまり、寸法「W1a」は「W1」-「Wb」に等しい。発熱体両端から寸法「W1a」の位置に凹部302、と8、を形成する。また、この構成では、発熱温度の分布が正規分布の裾の部分が短くなり、つまり、温度変化が裾部分で急峻になり、印字画素のボケ部が減少する等の効果があるとすることができる。
【0087】
また、第1の凹部8と第2の凹部302に挟まれた領域の基板部は、発熱体の熱時定数を決める領域である。この領域の熱抵抗と熱容量で昇温、降温の時間が決められる。つまり、この領域の基板の厚さ「t1」を変化することで低速及び高速印字用途の全薄膜型サーマルヘッド用基板とすることができる。低速用途は、厚くし、高速用途は、薄くする。また、他の効果として、発色画素が鮮明になり印字品質が向上する。また、各凹部の幅「Wb」及び「Wb1」は、同じにする必要は無い。「Wb1」寸法の制約はなく、領域外に形成することもできる。
【0088】
[実施例3]
基板の第2領域3c、の裏面に形成した第1の凹部を、第3領域まで延伸した凹部402、を形成した全薄膜型サーマルヘッド用基板401、の平面図と断面図を
図6(a)及び(b)に示す。基板主面の平面図を示す、
図6(a)に於いて、破線領域402は、凹部402領域の位置を示す破線である。駆動回路形成領域の裏面に、駆動回路形成領域3Bに対応した全面を含む領域に形成されていることを示す。
【0089】
この例では、凹部402領域の形状は、一つの穴形状である。しかし、駆動回路が数十個単位の発熱体を駆動するブロックで集約された、一定間隔を置いて配置されている場合は、そのブロックに対応した複数の穴形状で形成することもできる。また、第2の凹部302の幅「Wb1」と、第一の凹部402の幅「Wb」も前記実施例より大きくできるのでエッチファクターが1.0程度の量産性の高い、フォトエッチング技術を用いて加工することができる。例えば、「Wb1」は数十μm以上、「Wb」は数百μm以上と大きくできる。また、放熱性を高める為に、基板裏面の凹部と篏合する凸部を放熱板に形成して接着することもできることは勿論である。
【0090】
また、主面上の配線部を含む第2領域の幅(第1の方向の長さ)は、小さい程良い。例えば幅「W1」が100μm前後の場合、第1の凹部は、その範囲内に形成されなければならないのでその幅「Wb」は、10μm程度と極めて狭い凹部とすることができる。製造上で高精度な加工が必要である。そこで、延伸によって、凹部の幅が広がり、製造が容易になる。また、第1の凹部や第2の凹部と篏合する凸部4aを放熱板に形成する時も、凸部の幅が広がり、製造が容易になる。また、駆動回路形成領域の熱抵抗を更に小さくできるので駆動素子自身の発熱による温度上昇も防ぐことができる。
【0091】
[実施例4]
基板の裏面に第2の凹部と第1の凹部で発熱体形成領域3Aの周囲を囲む形状の凹部を持ち、且つ、第1の凹部が第3領域まで延伸した凹部と一体になった凹部502を形成した全薄膜型サーマルヘッド用基板501、の平面図と断面図を
図7(a)及び(b)に示す。凹部502は、量産性の高い、フォトエッチング技術を用いて加工することができる。
【0092】
[実施例5]
基板の裏面に第2の凹部と第1の凹部を持つ基板で且つ、基板の主面の発熱体形成領域3Aがあらかじめ凸形状602に加工された、頂部上に、形成されている全薄膜型サーマルヘッド用基板601、の平面図と断面図を
図8(a)及び(b)に示す。
【0093】
凸部602の形状は、媒体がスムーズに摺動する為に、断面が半円状に近い形状が好ましい。また、長さは、印字幅「L1」以上で基板の幅「L」、まで形成することができる。凸部602の製造方法は、所謂、フォトエッチング技術を用いることができる。感光性レジストの密着性を加熱温度で制御して、アンダーエッチを大きくすることで凸部の肩をなだらかにして、形成薄膜の断切れ等の不良が起きないようにすることができる。また、凸部の段差「t3」は、感光性レジスト塗布に工夫が必要である。ロールコーターやスプレー塗布法を用いることができる。凸部の段差は、一般に、露光工程に於ける段差限界で限界がある。例えば、投影露光法を用いることで数十μm程度の高さ「t3」まで微細パターンを現像することができる。高さ「t1」は、数μm~100μm程度とすることができる。
【0094】
このように、あらかじめ凸部を形成した基板を前記に説明した製造工程で処理して全薄膜型サーマルヘッド用基板を用いたサーマルヘッドが完成する。
また、高さ「t3」は、高い程、感熱媒体との接触性が高まり印字品質が向上する。
凸部602を持つ基板は、前記実施例、全てに適用できることは勿論である。
【0095】
ところで、発熱体が凸部上に形成された部分グレーズ型サーマルヘッドがある。基板がアルミナで、その表面に、薄くガラス層が形成され、更に発熱体形成領域に山形に厚く形成されたガラス層が形成され、その頂上部に発熱体が形成され、駆動回路ICの実装領域は、薄い平坦なガラス層の上に形成されたものである。しかし、この型の目的は、感熱媒体との接触性を向上させることのみが目的である。全薄膜型サーマルヘッド用基板601の目的は、基板の小型化を目的のひとつ、としたものである。基板の主面上から見た第1と第3領域に挟まれた第2領域の幅「W1」(第1の凹部の第1の方向の長さ)を狭くすることを目的のひとつ、としたものである。更に、基板材料や構成が部分グレーズ型サーマルヘッドとは、異なるものである。
【0096】
また、突起部の効果は、山形の突起部に蓄熱した熱が感熱媒体と接触することにより、接触面積が増え、放熱され、駆動回路形成領域方向への熱伝搬が減少する効果がある。また、発熱体から駆動素子までの沿面距離が長くなるので、駆動素子へ伝搬する温度も低下する。従って、基板の主面上から見た第2領域の幅を狭くすることができるので小型化が達成できるものである。基板の山形の突起部は、研削法やエッチング法やサンドブラスト加工等で形成できる。突起部の高さは、数ミクロン程度から100μm程度とすることができる。
【0097】
[実施例6]
マザーガラス基板の厚さ702(t0)を残し、第1の凹部8と第2の凹部302に挟まれた基板の厚さを薄くして発熱体部の熱時定数を厚さ「t」で調整し、第1の凹部を第3領域まで延伸させた全薄膜型サーマルヘッド用基板701、の実施例を示す平面図と断面図を
図11(a)及び(b)に示す。基板を横断した第2の凹部(溝)8、及び第1の凹部(溝)8a、を形成し、主面上の発熱体形成領域3Aを挟んでいる。第1の凹部(溝)、は、駆動回路形成領域3B含む裏面まで延伸している。第1と第2の凹部が挟んだ領域の基板の厚さが「t」で熱時定数を調整することができる。凹部の厚さは、「t1」である。また、接着層5の厚さが厚くなり、熱抵抗が増し、放熱性が悪化するので、放熱板4は、基板凹部8,8a,に篏合する凸部4aを形成し接着剤5で固定されている。
【0098】
例えば、マザーガラス基板の厚さ702(t)は、0.5mm、第1と第2の凹部が挟んだ領域の基板の厚さ「t」は、0.1mm、第1と第2の凹部が挟んだ領域の基板の厚さ「t」は、30μmとすることができる。凹部の加工法は、研削または、フォトエッチング法で加工される。研削の場合は外周刃の研削面を凹部の形状に加工した倣い砥石を使うと一度のパスで加工することができる。また、基板の厚さが厚くなり、強度が増すことができる。
【0099】
以上のように、全薄膜型サーマルヘッド用基板は、一様な厚さで形成された蓄熱層を持つ構成の全薄膜型サーマルヘッドより、発熱体端と駆動回路形成領域端に形成される配線距離を小さくでき、小型化が達成できる。更に配線距離が短くなるので配線抵抗も下がり、電力効率も向上することができる。また、熱伝搬を基板の第1の凹部と第2の凹部の間の領域に閉じ込めることができるので、発熱温度分布の裾が小さくなり、発色画素の、にじみや尾曳の少ない画素(発色ドット)が得られ、印字品質が向上する。また、基板の第一の凹部と第二の凹部の間の領域は、発熱体の熱時定数を決定するのでその領域の厚さを可変して熱時定数を制御することができる。よって、低速から高速印字用途の全薄膜型サーマルヘッド用基板が提供することができる。
【0100】
また、本発明に係る全薄膜型サーマルヘッド用基板に於いては、第1又は、第2の凹部は、基板裏面に局部的に溝や穴部を形成しているので、一様厚さの基板より、基板強度を増し、製造組立時や加工時及び印字時の外部応力に対する耐久性が向上する。
【符号の説明】
【0101】
1,301,401,501,601,701 全薄膜型サーマルヘッド用基板
3 基板
3a 第1領域
3c 第2領域
3b 第3領域
3A 発熱体形成領域
3B 駆動回路形成領域
3C 配線形成領域
4 放熱板
5 接着層
8 第1の凹部
L 全薄膜型サーマルヘッド用基板の全幅
L1 有効印字長
L2 第1の凹部の長さ
t1 第1の凹部の厚さ
Wb 第1の凹部の幅